(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-06-05
(45)【発行日】2025-06-13
(54)【発明の名称】インクジェット記録システム及びインクジェット記録方法
(51)【国際特許分類】
B41J 2/01 20060101AFI20250606BHJP
B41J 2/21 20060101ALI20250606BHJP
【FI】
B41J2/01 203
B41J2/01 501
B41J2/01 213
B41J2/21
(21)【出願番号】P 2025502229
(86)(22)【出願日】2024-02-02
(86)【国際出願番号】 JP2024003583
(87)【国際公開番号】W WO2024176788
(87)【国際公開日】2024-08-29
【審査請求日】2025-04-11
(31)【優先権主張番号】P 2023024627
(32)【優先日】2023-02-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006633
【氏名又は名称】京セラ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110004303
【氏名又は名称】弁理士法人三協国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】六尾 敏明
【審査官】佐藤 孝幸
(56)【参考文献】
【文献】特開2021-30647(JP,A)
【文献】特開2019-171643(JP,A)
【文献】特開2011-79331(JP,A)
【文献】特開2009-119806(JP,A)
【文献】特開2007-268825(JP,A)
【文献】特開平11-70645(JP,A)
【文献】特開2002-67394(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/0255858(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41J 2/01
B41J 2/21
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
主走査方向に移動可能に設けられ、記録材に対してインクを吐出することが可能なインクヘッドと、
前記主走査方向に直交する副走査方向に前記記録材を搬送することが可能な搬送部と、
前記インクヘッドを前記主走査方向に移動させつつ前記インクヘッドから前記インクを吐出させることで複数のインクドットを前記記録材上に形成させるパス動作と、前記搬送部による前記副走査方向への前記記録材の搬送動作と、を繰り返し行わせることにより、少なくとも1回の前記パス動作に応じた複数の前記インクドットからなる単位画像を前記記録材上において前記副走査方向に複数形成させる画像形成処理を行う制御部と、
複数の前記単位画像の各々を前記記録材上に形成するための複数の前記インクドットのパターンのデータを示すインクドットデータを、1回の前記パス動作ごとに作成するインクデータ作成処理を行うドットデータ作成部と、を備え、
前記制御部は、前記画像形成処理において、前記副走査方向に隣接する前記単位画像同士の一部が前記副走査方向に重なって前記主走査方向に延在する境界領域が前記記録材上に形成されるように、前記パス動作及び前記搬送動作を行わせ、
前記ドットデータ作成部は、前記インクデータ作成処理において、1回の前記パス動作ごとの各前記インクドットデータに含まれる複数の前記インクドットにおいて、前記境界領域を形成するための境界領域形成ドットのうち、前記記録材上において前記副走査方向に隣接する前記単位画像同士の前記副走査方向の境界を規定する、前記主走査方向に並ぶ複数の境界端部ドットの各々の前記副走査方向の位置を、前記主走査方向に対応した波長と前記副走査方向に対応した振幅とを有し位相の異なる複数のパターン波形に応じた位置に設定する、インクジェット記録システム。
【請求項2】
前記ドットデータ作成部は、前記複数の境界端部ドットにおいて、前記主走査方向に隣接する前記境界端部ドット同士の前記副走査方向の位置が、異なる前記パターン波形に応じた位置となるように、前記複数の境界端部ドットの各々の前記副走査方向の位置を設定する、請求項1に記載のインクジェット記録システム。
【請求項3】
前記ドットデータ作成部は、
前記複数の境界端部ドットの各々の前記主走査方向の位置を規定する主走査座標の座標群を、前記複数のパターン波形の数の座標を含む複数の領域に区分し、
前記複数の領域の各々に属する各前記境界端部ドットの前記副走査方向の位置が、異なる前記パターン波形に応じた位置となるように、前記複数の境界端部ドットの各々の前記副走査方向の位置を設定する、請求項1に記載のインクジェット記録システム。
【請求項4】
前記複数のパターン波形はそれぞれ、前記波長が同一であるとともに、前記振幅が同一である、請求項1に記載のインクジェット記録システム。
【請求項5】
前記インクヘッドは、複数色の前記インクのそれぞれを吐出することが可能な複数の個別ヘッドを含み、
前記ドットデータ作成部は、前記インクデータ作成処理において、
前記複数の個別ヘッドの各々に対応して各色の前記インクドットデータを1回の前記パス動作ごとに作成し、
前記各色の前記インクドットデータにおける前記複数の境界端部ドットの前記副走査方向の位置を、前記複数のパターン波形に応じた位置に設定する場合、前記複数のパターン波形における前記位相及び前記波長の少なくともいずれか一方を、前記各色の前記インクドットデータごとに変更する、請求項1に記載のインクジェット記録システム。
【請求項6】
前記ドットデータ作成部は、前記インクデータ作成処理において、前記各色の前記インクドットデータにおける前記複数の境界端部ドットの前記副走査方向の位置を、前記複数のパターン波形に応じた位置に設定する場合、前記複数のパターン波形における前記位相及び前記波長の少なくともいずれか一方を、前記各色を色相環上に並べたときに隣り合う色相で異なるように、前記各色の前記インクドットデータごとに変更する、請求項5に記載のインクジェット記録システム。
【請求項7】
前記記録材は、布生地からなる布部材である、請求項1~6のいずれか1項に記載のインクジェット記録システム。
【請求項8】
主走査方向に移動可能なインクヘッドを用いて記録材に画像を記録するインクジェット記録方法であって、
前記インクヘッドを前記主走査方向に移動させつつ前記インクヘッドからインクを吐出させることで複数のインクドットを前記記録材上に形成させるパス動作と、前記主走査方向に直交する副走査方向に前記記録材を搬送させる搬送動作と、を繰り返し行わせることにより、少なくとも1回の前記パス動作に応じた複数の前記インクドットからなる単位画像を前記記録材上において前記副走査方向に複数形成させる画像形成工程と、
複数の前記単位画像の各々を前記記録材上に形成するための複数の前記インクドットのパターンのデータを示すインクドットデータを、1回の前記パス動作ごとに作成するインクデータ作成工程と、を含み、
前記画像形成工程では、前記副走査方向に隣接する前記単位画像同士の一部が前記副走査方向に重なって前記主走査方向に延在する境界領域が前記記録材上に形成されるように、前記パス動作及び前記搬送動作を行わせ、
前記インクデータ作成工程では、1回の前記パス動作ごとの各前記インクドットデータに含まれる複数の前記インクドットにおいて、前記境界領域を形成するための境界領域形成ドットのうち、前記記録材上において前記副走査方向に隣接する前記単位画像同士の前記副走査方向の境界を規定する、前記主走査方向に並ぶ複数の境界端部ドットの各々の前記副走査方向の位置を、前記主走査方向に対応した波長と前記副走査方向に対応した振幅とを有し位相の異なる複数のパターン波形に応じた位置に設定する、インクジェット記録方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット記録システム及びインクジェット記録方法に関する。
【背景技術】
【0002】
シリアル印刷方式で記録材に対して印刷処理を行うインクジェットプリンタが知られている。シリアル印刷方式のインクジェットプリンタでは、インクヘッドを主走査方向に移動させつつインクヘッドからインクを吐出させることで主走査方向に延びる帯状の単位画像を記録材上に形成させるパス動作と、主走査方向に直交する副走査方向に記録材を搬送させる搬送動作とが交互に繰り返し行われる。
【0003】
シリアル印刷方式で画像を形成する場合、記録材上において副走査方向に隣接するパス動作ごとの単位画像同士の境界領域に、主走査方向に延びるスジ状の濃度ムラなどが発生し、画像の品質が低下する場合がある。このような問題を解決するための技術が、例えば特許文献1に開示されている。特許文献1に開示される技術では、単位画像を形成するためのインクドットのパターンのデータとして、単位画像同士の境界を規定する副走査方向の端部ドットが凹凸部を形成するようなパターンのデータが作成される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【0005】
本発明の一の局面に係るインクジェット記録システムは、主走査方向に移動可能に設けられ、記録材に対してインクを吐出することが可能なインクヘッドと、前記主走査方向に直交する副走査方向に前記記録材を搬送することが可能な搬送部と、前記インクヘッドを前記主走査方向に移動させつつ前記インクヘッドから前記インクを吐出させることで複数のインクドットを前記記録材上に形成させるパス動作と、前記搬送部による前記副走査方向への前記記録材の搬送動作と、を繰り返し行わせることにより、少なくとも1回の前記パス動作に応じた複数の前記インクドットからなる単位画像を前記記録材上において前記副走査方向に複数形成させる画像形成処理を行う制御部と、複数の前記単位画像の各々を前記記録材上に形成するための複数の前記インクドットのパターンのデータを示すインクドットデータを、1回の前記パス動作ごとに作成するインクデータ作成処理を行うドットデータ作成部と、を備える。前記制御部は、前記画像形成処理において、前記副走査方向に隣接する前記単位画像同士の一部が前記副走査方向に重なって前記主走査方向に延在する境界領域が前記記録材上に形成されるように、前記パス動作及び前記搬送動作を行わせる。前記ドットデータ作成部は、前記インクデータ作成処理において、1回の前記パス動作ごとの各前記インクドットデータに含まれる複数の前記インクドットにおいて、前記境界領域を形成するための境界領域形成ドットのうち、前記記録材上において前記副走査方向に隣接する前記単位画像同士の前記副走査方向の境界を規定する、前記主走査方向に並ぶ複数の境界端部ドットの各々の前記副走査方向の位置を、前記主走査方向に対応した波長と前記副走査方向に対応した振幅とを有し位相の異なる複数のパターン波形に応じた位置に設定する。このような本発明の一の局面に係るインクジェット記録システムによれば、記録材に形成される画像の品質の低下を抑制することが可能となる。
【0006】
本発明の他の局面に係るインクジェット記録方法は、主走査方向に移動可能なインクヘッドを用いて記録材に画像を記録する方法である。このインクジェット記録方法は、前記インクヘッドを前記主走査方向に移動させつつ前記インクヘッドからインクを吐出させることで複数のインクドットを前記記録材上に形成させるパス動作と、前記主走査方向に直交する副走査方向に前記記録材を搬送させる搬送動作と、を繰り返し行わせることにより、少なくとも1回の前記パス動作に応じた複数の前記インクドットからなる単位画像を前記記録材上において前記副走査方向に複数形成させる画像形成工程と、複数の前記単位画像の各々を前記記録材上に形成するための複数の前記インクドットのパターンのデータを示すインクドットデータを、1回の前記パス動作ごとに作成するインクデータ作成工程と、を含む。前記画像形成工程では、前記副走査方向に隣接する前記単位画像同士の一部が前記副走査方向に重なって前記主走査方向に延在する境界領域が前記記録材上に形成されるように、前記パス動作及び前記搬送動作を行わせる。前記インクデータ作成工程では、1回の前記パス動作ごとの各前記インクドットデータに含まれる複数の前記インクドットにおいて、前記境界領域を形成するための境界領域形成ドットのうち、前記記録材上において前記副走査方向に隣接する前記単位画像同士の前記副走査方向の境界を規定する、前記主走査方向に並ぶ複数の境界端部ドットの各々の前記副走査方向の位置を、前記主走査方向に対応した波長と前記副走査方向に対応した振幅とを有し位相の異なる複数のパターン波形に応じた位置に設定する。このような本発明の他の局面に係るインクジェット記録方法によれば、記録材に形成される画像の品質の低下を抑制することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】
図1は、本発明の実施形態に係るインクジェット記録システムの全体構成を示す図である。
【
図2】
図2は、インクジェット記録システムにおける画像形成動作を説明するための図である。
【
図3】
図3は、インクジェット記録方法の処理フローを示すフローチャートである。
【
図4】
図4は、インクジェット記録システムにおいてインクドットデータを作成する際の処理を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
上述した特許文献1に開示される技術では、副走査方向の端部ドットが主走査方向に沿った直線状に並ぶことが規制されるので、主走査方向に沿った直線状の濃度ムラの発生を抑制できると考えられる。しかしながら、副走査方向の端部ドットが凹凸部を有する単一の波形に沿って並ぶことになるので、単位画像同士の境界領域に、単一の波形に沿ったスジ状の濃度ムラが発生する虞がある。
【0009】
そのため、記録材に形成される画像の品質の低下を抑制することが可能なインクジェット記録システム及びインクジェット記録方法が求められる。
【0010】
以下、図面を参照しつつ、本発明の実施形態に係るインクジェット記録システムについて説明する。以下の実施形態では、インクジェット記録システムの具体例として、広幅で長尺の記録材に画像形成用のインクを吐出することが可能なインクヘッドを有するインクジェットプリンタを備えたシステムを例示する。インクジェットプリンタは、織物や編物等の布生地からなる布部材である記録材に、文字類や模様等の画像をインクジェット方式で印刷(記録)するデジタル捺染印刷に好適である。もちろん、本発明に係るインクジェット記録システムに適用されるインクジェットプリンタは、紙シートや樹脂シート等の記録材に各種の画像を印刷する用途にも用いることができる。
【0011】
図1に示されるように、インクジェット記録システム1は、インクジェットプリンタ2と、当該インクジェットプリンタ2とデータ通信可能に接続されたコンピュータ6と、を備える。
図1では、上方から平面視した状態のインクジェットプリンタ2の概略構成が示されている。インクジェット記録システム1では、コンピュータ6は、記録材であるメディアWに印刷する画像の画像データDGに基づいてインクドットデータDIDを作成するとともに、処理液ドットデータDRDを作成するドットデータ作成部としての機能を有する。インクジェットプリンタ2は、コンピュータ6により作成されたインクドットデータDID及び処理液ドットデータDRDに基づいて、インクジェット方式でメディアWに対して画像を印刷する。なお、インクジェット記録システム1では、コンピュータ6がインクジェットプリンタ2に組み込まれていてもよい。すなわち、インクジェットプリンタ2は、インクジェット方式でメディアWに対して画像を印刷する機能に加えて、ドットデータ作成部としての機能を有していてもよい。
【0012】
インクジェットプリンタ2は、広幅且つ長尺のメディアWにインクジェット方式で画像を印刷するプリンタであって、インクヘッド3及び処理液ヘッド4を含むインクジェットヘッド20と、メディアWを搬送方向Fに搬送することが可能な搬送部21と、インクジェットヘッド20が搭載されたキャリッジ22と、を備える。
【0013】
インクジェットプリンタ2は、シリアル印刷方式でメディアWに対して印刷処理を行う、いわゆるシリアルプリンタである。シリアル印刷方式のインクジェットプリンタ2では、
図2に示されるように、主走査方向H1にキャリッジ22を往復移動させつつインクヘッド3からインクを吐出させることで、複数のインクドットIDをメディアW上に形成させるパス動作と、水平面上において主走査方向H1と直交する副走査方向H2に平行な搬送方向FにメディアWを搬送させる搬送動作と、が繰り返し行われる。これにより、少なくとも1回のパス動作に応じた複数のインクドットIDからなる、主走査方向H1に延びる帯状の単位画像GAが、メディアW上において副走査方向H2に複数形成される。パス動作において、処理液ヘッド4から処理液を吐出させてもよい。搬送動作は、搬送部21によって行われる。また、パス動作と搬送動作とは、交互に繰り返し行われてもよいし、一回ずつ順に繰り返し行われてもよい。
【0014】
搬送部21は、印刷前のメディアWを繰り出す送出ローラ211と、印刷後のメディアWを巻き取る巻取ローラ212とを含む。送出ローラ211は、搬送方向Fの上流端に配置され、印刷前のメディアWの巻回体であるロールを支持する軸である。巻取ローラ212は、搬送方向Fの下流端に配置され、印刷後のメディアWの巻回体であるロールを支持する軸である。巻取ローラ212には、当該巻取ローラ212を軸回りに回転駆動し、メディアWの巻取動作を実行させるモータ等の駆動源が付設されている。搬送部21は、巻取ローラ212の回転駆動に応じて送出ローラ211が従動回転することにより、メディアWを搬送方向Fに搬送する。
【0015】
キャリッジ22は、インクジェットヘッド20に含まれるインクヘッド3と処理液ヘッド4とを搭載し、搬送方向Fと直交する主走査方向H1に往復移動することが可能である。キャリッジ22は、主走査方向H1に延びる平板状のキャリッジガイド23に対して周回移動が可能に組み付けられたタイミングベルト24に固定されている。タイミングベルト24は、無端ベルトであって、キャリッジガイド23に組み付けられた状態において、主走査方向H1に周回移動するように駆動される。キャリッジ22は、タイミングベルト24の主走査方向H1の周回移動に伴って、キャリッジガイド23に沿って主走査方向H1に往復移動する。
【0016】
キャリッジ22に搭載されたインクヘッド3及び処理液ヘッド4の各々は、搬送部21によりメディアWが搬送方向Fに搬送されるとともにキャリッジ22が主走査方向H1に往復移動することにより、メディアWに対して主走査方向H1及び副走査方向H2に相対移動が可能である。
【0017】
本実施形態では、インクヘッド3は、複数色のインクのそれぞれを吐出することが可能な複数の個別ヘッド31を含み、これら複数の個別ヘッド31がキャリッジ22に搭載されている。複数の個別ヘッド31の各々は、例えばピエゾ素子を用いたピエゾ方式、加熱素子を用いたサーマル方式等の吐出方式でインク滴を吐出する多数のノズルと、このノズルにインクを導くインク流路と、インクの吐出動作を制御するための配線基板と、を備える。インクとしては、例えば、水系の溶媒、顔料及び結着樹脂を含む水系顔料インクを用いることができる。複数の個別ヘッド31は、主走査方向H1に二列で並ぶように、キャリッジ22に搭載されている。各色の個別ヘッド31は、それぞれ2個のヘッドを有している。同じ色のインクを吐出する2個の個別ヘッド31は、主走査方向H1及び副走査方向H2において相互にずれた位置に配置されるように、キャリッジ22に搭載される。他の実施形態としては、1個のインクヘッド3がキャリッジ22に搭載された構成が挙げられる。
【0018】
本実施形態では、処理液ヘッド4として、前処理液ヘッド41と後処理液ヘッド42とがそれぞれキャリッジ22に搭載されている。前処理液ヘッド41及び後処理液ヘッド42は、副走査方向H2に平行な搬送方向Fにおいてインクヘッド3とは異なる位置に配置されるように、キャリッジ22に搭載される。前処理液ヘッド41は、搬送方向Fにおいてインクヘッド3の上流側に配置されるようにキャリッジ22に搭載される。
図1では、1個の前処理液ヘッド41がインクヘッド3における複数の個別ヘッド31の配列体の主走査方向H1の一端部付近に配置されている例が示されている。後処理液ヘッド42は、搬送方向Fにおいてインクヘッド3の下流側に配置されるようにキャリッジ22に搭載される。
図1では、1個の後処理液ヘッド42がインクヘッド3における複数の個別ヘッド31の配列体の主走査方向H1の他端部付近に配置されている例が示されている。他の実施形態としては、前処理液ヘッド41及び後処理液ヘッド42のいずれか一方のヘッドが処理液ヘッド4としてキャリッジ22に搭載された構成が挙げられる。
【0019】
前処理液ヘッド41は、例えばピエゾ素子を用いたピエゾ方式、加熱素子を用いたサーマル方式等の吐出方式で前処理液滴を吐出する多数のノズルと、このノズルに前処理液を導く前処理液流路と、前処理液の吐出動作を制御するための配線基板と、を備える。前処理液ヘッド41は、メディアWにおける、インクヘッド3によりインクが吐出される前の位置に、前処理液を吐出する。前処理液は、メディアWに対してインクの前に付着される処理液である。前処理液は、メディアW上において乾燥していない状態でインクと接触する処理液であって、メディアWに付着しても発色しない非発色性の処理液である。前処理液は、メディアW上におけるインクの滲みの発生を防ぐ機能を有する。このような前処理液としては、溶媒に結着性樹脂を配合した処理液、或いは、溶媒にプラス帯電するカチオン樹脂を配合した処理液等を用いることができる。
【0020】
後処理液ヘッド42は、例えばピエゾ素子を用いたピエゾ方式、加熱素子を用いたサーマル方式等の吐出方式で後処理液滴を吐出する多数のノズルと、このノズルに後処理液を導く後処理液流路と、後処理液の吐出動作を制御するための配線基板と、を備える。後処理液ヘッド42は、メディアWにおける、インクヘッド3によりインクが吐出された後の位置に、後処理液を吐出する。後処理液は、メディアWに対してインクの後に付着される処理液である。後処理液は、メディアW上において乾燥していない状態でインクと接触する処理液であって、メディアWに付着しても発色しない非発色性の処理液である。後処理液は、メディアW上におけるインクの定着性を高める機能を有する。このような後処理液としては、シリコーン系の処理液等を用いることができる。なお、前処理液と後処理液とは異なる処理液である。具体的には、前処理液と後処理液とでは、含まれる成分が異なる。
【0021】
ここで、非発色性の処理液とは、メディアWに単独で印刷した場合に、人に肉眼では発色したと認識されないものを表す。ここでの色とは、黒、白及び灰色などの彩度が0(ゼロ)のものも含める。非発色性の処理液は、基本的には無色透明な液体であるが、完全に無色透明ではなく、わずかに白色などに見えることもある。そのような色は、非常に薄いので、メディアWに単独で印刷した場合に、人が肉眼で発色したとは認識できない。なお、処理液の種類によっては、メディアWに単独で印刷した場合に、メディアWに光沢が生じるなどの変化があることもあるが、そのような状態は、発色ではない。
【0022】
図1に示されるように、インクジェットプリンタ2は、プリンタ制御部5を更に備える。プリンタ制御部5は、キャリッジ22に搭載されたインクヘッド3及び処理液ヘッド4を含むインクジェットヘッド20によるパス動作と、搬送部21によるメディアWの搬送動作とを制御する制御部である。プリンタ制御部5は、後記のコンピュータ6により作成されたデータに基づいて、キャリッジ22を主走査方向H1に移動させつつインクヘッド3からインクを吐出させるとともに処理液ヘッド4から処理液を吐出させるパス動作と、搬送部21による副走査方向H2に平行な搬送方向FへのメディアWの搬送動作と、を繰り返し行わせる画像形成処理を行う。これにより、プリンタ制御部5は、
図2に示されるように、少なくとも1回のパス動作に応じた複数のインクドットIDからなる単位画像GAをメディアW上において副走査方向H2に複数形成させる。この画像形成処理において、プリンタ制御部5は、副走査方向H2に隣接する単位画像GA同士の一部が副走査方向H2に重なって主走査方向H1に延在する境界領域BAがメディアW上に形成されるように、パス動作及び搬送動作を行わせる。副走査方向H2に隣接する単位画像GA同士の境界領域BAは、各単位画像GAをそれぞれ形成するためのインクドットIDのうちの、境界領域BAを形成するためのインクドットIDである境界領域形成ドットIDSが主走査方向H1に沿って混在する領域となる。このような境界領域BAがメディアW上に形成されることにより、副走査方向H2に隣接する単位画像GA同士の隙間に由来するスジなどの発生が抑制される。
【0023】
プリンタ制御部5は、搬送部21による搬送動作におけるパス動作ごとのメディアWの搬送長さを、インクヘッド3の有効画素幅と境界領域BAの境界領域幅との差分を単位画像GAを形成させるパス動作の回数で除した値に相当する長さに設定する。インクヘッド3の有効画素幅は、インクヘッド3に設けられた複数のノズルにおいて、副走査方向H2に並ぶノズルの数に対応したドット数で表される。境界領域BAの境界領域幅は、境界領域BAの副走査方向H2の幅を示し、境界領域BA内において副走査方向H2に並ぶ境界領域形成ドットIDSのドット数で表される。
【0024】
例えば、1回のパス動作で単位画像GAを形成させる場合、プリンタ制御部5は、搬送部21による搬送動作におけるパス動作ごとのメディアWの搬送長さを、インクヘッド3の有効画素幅と境界領域BAの境界領域幅との差分を単位画像GAを形成させるパス動作の回数の「1」で除した値に相当する長さに設定する。この場合、メディアW上で副走査方向H2に連続する複数の単位画像GAにおける、隣接する単位画像GA同士の境界領域BAを形成するためのパス動作の組み合わせは、1回目のパス動作と2回目のパス動作、2回目のパス動作と3回目のパス動作、以下同様のパス動作の組み合わせとなる。
【0025】
2回のパス動作で単位画像GAを形成させる場合、プリンタ制御部5は、搬送部21による搬送動作におけるパス動作ごとのメディアWの搬送長さを、インクヘッド3の有効画素幅と境界領域BAの境界領域幅との差分を単位画像GAを形成させるパス動作の回数の「2」で除した値に相当する長さに設定する。この場合、メディアW上で副走査方向H2に連続する複数の単位画像GAにおける、隣接する単位画像GA同士の境界領域BAを形成するためのパス動作の組み合わせは、1回目のパス動作と3回目のパス動作、2回目のパス動作と4回目のパス動作、以下同様のパス動作の組み合わせとなる。
【0026】
4回のパス動作で単位画像GAを形成させる場合、プリンタ制御部5は、搬送部21による搬送動作におけるパス動作ごとのメディアWの搬送長さを、インクヘッド3の有効画素幅と境界領域BAの境界領域幅との差分を単位画像GAを形成させるパス動作の回数の「4」で除した値に相当する長さに設定する。この場合、メディアW上で副走査方向H2に連続する複数の単位画像GAにおける、隣接する単位画像GA同士の境界領域BAを形成するためのパス動作の組み合わせは、1回目のパス動作と5回目のパス動作、2回目のパス動作と6回目のパス動作、3回目のパス動作と7回目のパス動作、4回目のパス動作と8回目のパス動作、以下同様のパス動作の組み合わせとなる。
【0027】
上記の通り、メディアW上において副走査方向H2に隣接する単位画像GA同士の境界領域BAを形成するためのパス動作の組み合わせは、単位画像GAを形成させるパス動作の回数に応じて一義的に決まる。
【0028】
コンピュータ6は、CPU(Central Processing Unit)、処理プログラムを記憶するHDD(Hard Disk Drive)やフラッシュメモリなどの記憶領域、CPUの作業領域として使用されるRAM(Random Access Memory)等を有したパーソナルコンピュータである。コンピュータ6は、CPUがHDDやフラッシュメモリに記憶された処理プログラムを実行することにより、インクドットデータDIDを作成するインクデータ作成処理を行うとともに、前処理液ドットデータDRD1及び後処理液ドットデータDRD2を含む処理液ドットデータDRDを作成する処理液データ作成処理を行うドットデータ作成部としての機能を有する。
【0029】
コンピュータ6は、プリンタ制御部5による1回のパス動作ごとのインクヘッド3からのインク吐出の制御に用いられるデータとしてインクドットデータDIDを作成するインクデータ作成処理を行い、プリンタ制御部5による1回のパス動作ごとの処理液ヘッド4からの処理液吐出の制御に用いられるデータとして処理液ドットデータDRDを作成する処理液データ作成処理を行う。
【0030】
本実施形態に係るインクジェット記録システム1においては、プリンタ制御部5とコンピュータ6とが、インクジェット記録方法の各工程の処理を実行する。プリンタ制御部5とコンピュータ6とが実行するインクジェット記録方法の各工程の処理について、
図2~
図4を参照しながら詳細に説明する。
【0031】
プリンタ制御部5の制御に基づいて、
図2に示されるシリアル印刷方式でメディアW上に画像を形成する場合、メディアW上において副走査方向H2に隣接する単位画像GA同士の境界領域BAに、主走査方向H1に延びるスジ状の濃度ムラなどが発生し、画像の品質が低下する場合がある。本実施形態に係るインクジェット記録システム1では、コンピュータ6は、単位画像GA同士の境界領域BA内にスジ状の濃度ムラの発生が抑制可能となるようなインクドットデータDIDを作成する。
【0032】
具体的には、コンピュータ6は、メディアWに印刷する画像の画像データDGを取得する(画像データ取得工程s1)。画像データDGを取得すると、コンピュータ6は、当該画像データDGに基づいて、インクヘッド3によるインクの吐出に応じて複数の単位画像GAの各々をメディアW上に形成するための複数のインクドットIDのパターンのデータを示すインクドットデータDIDを、1回のパス動作ごとに作成するインクデータ作成処理を行う(インクデータ作成工程s2)。コンピュータ6は、画像データDGに対してディザ処理等のハーフトーン処理を施すことにより、画像データDGを、インクジェットプリンタ2がメディアWに印刷可能なハーフトーン画像データに変換する。これにより、コンピュータ6は、インクジェットプリンタ2により印刷可能な解像度のインクドットデータDIDを作成する。
【0033】
1回のパス動作ごとのインクドットデータDIDを作成する場合、
図4に示されるように、コンピュータ6は、1回のパス動作ごとの各インクドットデータDIDに含まれる複数のインクドットIDにおいて、副走査方向H2に隣接する単位画像GA同士の境界領域BAを形成するための境界領域形成ドットIDSのうち、主走査方向H1に並ぶ複数の境界端部ドットIDS1の各々の副走査方向H2の位置を、位相の異なる複数のパターン波形SW1,SW2,SW3,SW4に応じた位置に設定する。境界領域BAを形成するための境界領域形成ドットIDSのうちの主走査方向H1に並ぶ複数の境界端部ドットIDS1は、メディアW上において副走査方向H2に隣接する単位画像GA同士の副走査方向H2の境界Bを規定するドットである。
【0034】
図4では、1回のパス動作ごとの各インクドットデータDIDに含まれる複数のインクドットIDについて、副走査方向H2に隣接する単位画像GA同士の境界領域BAを形成するための境界領域形成ドットIDSが示されている。具体的には、
図4では、第1単位画像GAと、当該第1単位画像GAに対して搬送方向Fの上流側に隣接する第2単位画像GAとの境界領域BAを形成するための境界領域形成ドットIDSが示されている。境界領域BAは、第1単位画像GAに対応した境界領域形成ドットIDSと、第2単位画像GAに対応した境界領域形成ドットIDSとが主走査方向H1に沿って混在する領域となる。また、既述の通り、第1単位画像GAと第2単位画像GAとの境界領域BAを形成するためのパス動作の組み合わせは、単位画像GAを形成させるパス動作の回数に応じて一義的に決まる。第1単位画像GAの境界領域形成ドットIDSについては複数の斜線で網掛けされたドットで示され、第2単位画像GAの境界領域形成ドットIDSについては複数の点で網掛けされたドットで示されている。また、第1単位画像GAの境界領域形成ドットIDSにおいて、第1単位画像GAと第2単位画像GAとの副走査方向H2の境界Bを規定する主走査方向H1に並ぶ複数の境界端部ドットIDS1のうち、境界領域BA内に位置する境界端部ドットIDS1については複数の斜線で網掛けされるとともに太い実線の枠で囲まれたドットで示され、境界領域BA外に位置する境界端部ドットIDS1については複数の斜線で網掛けされるとともに太い破線の枠で囲まれたドットで示されている。同様に、第2単位画像GAの境界領域形成ドットIDSにおいて、第1単位画像GAと第2単位画像GAとの副走査方向H2の境界Bを規定する主走査方向H1に並ぶ複数の境界端部ドットIDS1のうち、境界領域BA内に位置する境界端部ドットIDS1については複数の点で網掛けされるとともに太い実線の枠で囲まれたドットで示され、境界領域BA外に位置する境界端部ドットIDS1については複数の点で網掛けされるとともに太い破線の枠で囲まれたドットで示されている。
【0035】
メディアW上において副走査方向H2に隣接する第1単位画像GAと第2単位画像GAとの副走査方向H2の境界Bは、第1単位画像GAに対応した境界領域形成ドットIDSにおいて主走査方向H1の各位置で搬送方向Fの最上流に位置する境界端部ドットIDS1と、第2単位画像GAに対応した境界領域形成ドットIDSにおいて主走査方向H1の各位置で搬送方向Fの最下流に位置する境界端部ドットIDS1と、によって規定される。
【0036】
主走査方向H1に並ぶ複数の境界端部ドットIDS1の各々の主走査方向H1の位置は、主走査方向H1に平行な座標軸上の座標を示す主走査座標Jによって規定される。
図4の例では、「0,1,2,・・・,29,30,31」の合計32の座標群からなる主走査座標Jが示されている。同様に、複数の境界端部ドットIDS1の各々の副走査方向H2の位置は、副走査方向H2に平行な座標軸上の座標を示す副走査座標Iによって規定される。
図4の例では、メディアW上における単位画像GA同士の境界領域BAの副走査方向H2の幅を示す境界領域幅BAWの範囲内において、「0,1,2,・・・,7,8,9」の合計10の座標群からなる副走査座標Iが示されている。
【0037】
コンピュータ6が主走査方向H1に並ぶ複数の境界端部ドットIDS1の各々の副走査方向H2の位置を設定する場合に用いる、位相の異なる複数のパターン波形SW1,SW2,SW3,SW4は、主走査方向H1に対応した波長λと副走査方向H2に対応した振幅Aとを有して周期的に変化する波動のパターンで示される波形である。複数のパターン波形SW1,SW2,SW3,SW4の波形を示す波動としては、例えば、正弦波、矩形波、三角波、のこぎり波などを挙げることができる。複数のパターン波形SW1,SW2,SW3,SW4の各々において、その波形を示す波動は、複数の波動が混在していても構わないが、同一の波動であってもよい。また、複数のパターン波形SW1,SW2,SW3,SW4の数は、「2」以上であれば特に限定されない。
図4の例では、コンピュータ6は、1回のパス動作ごとの各インクドットデータDIDに含まれる複数のインクドットIDにおいて、境界領域BAを形成するための境界領域形成ドットIDSのうち、主走査方向H1に並ぶ複数の境界端部ドットIDS1の各々の副走査方向H2の位置を、下記式(1)の正弦波で示される位相αの異なる4つのパターン波形SW1,SW2,SW3,SW4に応じた位置に設定する。
【0038】
【0039】
複数のパターン波形SW1,SW2,SW3,SW4の波動を示す正弦波に関する式(1)において、「A」は振幅を示し、「ω」は角周波数を示し、「α」は位相を示す。
【0040】
複数のパターン波形SW1,SW2,SW3,SW4の波長λは、例えば、キャリッジ22の単位時間当たりの主走査方向H1に沿った移動距離MDに相当する値に設定される。キャリッジ22の単位時間当たりの移動距離MDは、主走査方向H1に並ぶ境界領域形成ドットIDSのドット数で表される。
図4の例では、キャリッジ22の単位時間当たりの移動距離MDは、主走査方向H1に並ぶ境界領域形成ドットIDSのドット数の「32」で表される。このため、複数のパターン波形SW1,SW2,SW3,SW4の波長λは、主走査方向H1に並ぶ境界領域形成ドットIDSのドット数の「32」で表される。また、複数のパターン波形SW1,SW2,SW3,SW4の波長λは、複数のパターン波形SW1,SW2,SW3,SW4の数の倍数に設定される。例えば、複数のパターン波形SW1,SW2,SW3,SW4の数が「4」である場合、複数のパターン波形SW1,SW2,SW3,SW4の波長λは、「4」の倍数の「32」に設定される。
【0041】
複数のパターン波形SW1,SW2,SW3,SW4の振幅Aは、例えば、メディアW上における単位画像GA同士の境界領域BAの副走査方向H2の幅を示す境界領域幅BAWの半分に相当する値に設定される。境界領域幅BAWは、境界領域BA内において副走査方向H2に並ぶ境界領域形成ドットIDSのドット数で表される。
図4の例では、境界領域幅BAWは、境界領域BA内において副走査方向H2に並ぶ境界領域形成ドットIDSのドット数の「10」で表される。このため、複数のパターン波形SW1,SW2,SW3,SW4の振幅Aは、境界領域BA内において副走査方向H2に並ぶ境界領域形成ドットIDSのドット数の「10」の半分に相当する「5」で表される。
【0042】
複数のパターン波形SW1,SW2,SW3,SW4における位相αの位相差は、複数のパターン波形SW1,SW2,SW3,SW4の数で2πを除した値に設定される。例えば、複数のパターン波形SW1,SW2,SW3,SW4の数が「4」である場合、複数のパターン波形SW1,SW2,SW3,SW4における位相αの位相差は、「2π/4」となる。
【0043】
既述の通り、コンピュータ6は、1回のパス動作ごとの各インクドットデータDIDに含まれる複数のインクドットIDにおいて、境界領域BAを形成するための境界領域形成ドットIDSのうち、主走査方向H1に並ぶ複数の境界端部ドットIDS1の各々の副走査方向H2の位置を、位相αの異なる複数のパターン波形SW1,SW2,SW3,SW4に応じた位置に設定する。これにより、1回のパス動作ごとの各インクドットデータDIDに含まれる複数のインクドットIDのうち、メディアW上において副走査方向H2に隣接する単位画像GA同士の副走査方向H2の境界Bを規定する複数の境界端部ドットIDS1は、主走査方向H1に隣接するドット同士が主走査方向H1に沿った直線状に並ぶことが規制されるとともに、単一の波形に沿って並ぶことが規制される。このため、複数の境界端部ドットIDS1を副走査方向H2に不規則に分散させることができる。この結果、メディアW上における単位画像GA同士の境界領域BAに、複数の境界端部ドットIDS1に由来するスジ状の濃度ムラなどが発生することを抑制できるので、メディアWに形成される画像の品質の低下を抑制することが可能となる。
【0044】
位相αの異なる複数のパターン波形SW1,SW2,SW3,SW4は、それぞれ、波長λが同一であるとともに、振幅Aが同一であるように設定してもよい。複数のパターン波形SW1,SW2,SW3,SW4において波長λが同一である場合、周期も同一となる。このような波長λ、振幅A、及び周期が同一であって、位相αの異なる複数のパターン波形SW1,SW2,SW3,SW4に応じた位置に、複数の境界端部ドットIDS1の各々の副走査方向H2の位置が設定されることにより、メディアW上における単位画像GA同士の境界領域BAに干渉縞が発生することを抑制できる。
【0045】
複数の境界端部ドットIDS1の各々の副走査方向H2の位置を、複数のパターン波形SW1,SW2,SW3,SW4に応じた位置に設定する際のコンピュータ6の処理について、
図4を参照しながら、より詳細に説明する。以下の説明では、複数のパターン波形SW1,SW2,SW3,SW4を区別するときには、第1パターン波形SW1、第2パターン波形SW2、第3パターン波形SW3、第4パターン波形SW4と称する。
【0046】
コンピュータ6は、メディアW上において副走査方向H2に隣接する単位画像GA同士の副走査方向H2の境界Bを規定する複数の境界端部ドットIDS1が単一の波形に沿って並ぶことが規制されるように、複数の境界端部ドットIDS1の各々の副走査方向H2の位置を、位相αの異なる複数のパターン波形SW1,SW2,SW3,SW4に応じた位置に設定する。この場合、主走査方向H1に隣接する境界端部ドットIDS1同士の全ての組み合わせにおいて、主走査方向H1に隣接する境界端部ドットIDS1同士の副走査方向H2の位置は、必ずしも、異なるパターン波形SW1,SW2,SW3,SW4に応じた位置となっていなくてもよい。すなわち、複数の境界端部ドットIDS1の各々の副走査方向H2の位置を複数のパターン波形SW1,SW2,SW3,SW4に応じた位置に設定する場合、コンピュータ6は、主走査方向H1の一部の領域において、主走査方向H1に隣接する境界端部ドットIDS1同士の副走査方向H2の位置が同一のパターン波形に応じた位置となることを許容してもよい。
【0047】
本実施形態では、コンピュータ6は、複数の境界端部ドットIDS1において、主走査方向H1に隣接する境界端部ドットIDS1同士の副走査方向H2の位置が、異なるパターン波形SW1,SW2,SW3,SW4に応じた位置となるように、複数の境界端部ドットIDS1の各々の副走査方向H2の位置を設定してもよい。例えば、コンピュータ6は、第1単位画像GAに対応した複数の境界端部ドットIDS1について、主走査座標Jが「0」の境界端部ドットIDS1の副走査方向H2の位置を規定する副走査座標Iについては、第1パターン波形SW1に応じた「5」に設定する。コンピュータ6は、主走査座標Jが「0」に隣接する「1」の境界端部ドットIDS1の副走査座標Iについては、第1パターン波形SW1とは位相αの異なる第2パターン波形SW2に応じた「9」以降の「10」に設定する。同様に、コンピュータ6は、第2単位画像GAに対応した複数の境界端部ドットIDS1について、主走査座標Jが「0」の境界端部ドットIDS1の副走査方向H2の位置を規定する副走査座標Iについては、第1パターン波形SW1に応じた「4」に設定する。コンピュータ6は、主走査座標Jが「0」に隣接する「1」の境界端部ドットIDS1の副走査座標Iについては、第1パターン波形SW1とは位相αの異なる第2パターン波形SW2に応じた「9」に設定する。コンピュータ6は、第1及び第2単位画像GAのそれぞれに対応した複数の境界端部ドットIDS1について、主走査方向H1に隣接する境界端部ドットIDS1同士の副走査方向H2の位置が、異なるパターン波形SW1,SW2,SW3,SW4に応じた位置となるように、上記の処理を繰り返し行うことによって、複数の境界端部ドットIDS1の各々の副走査方向H2の位置を設定する。これにより、複数の境界端部ドットIDS1を、より確実に、副走査方向H2に不規則に分散させることができる。このため、メディアW上における単位画像GA同士の境界領域BAに、複数の境界端部ドットIDS1に由来するスジ状の濃度ムラなどが発生することを、より確実に抑制できる。
【0048】
また、コンピュータ6は、複数の境界端部ドットIDS1の各々の主走査方向H1の位置を規定する主走査座標Jの座標群を、複数のパターン波形SW1,SW2,SW3,SW4の数の座標を含む複数の領域に区分してもよい。
図4の例では、コンピュータ6は、主走査座標Jにおける「0,1,2,・・・,29,30,31」の合計32の座標群を、「8」個の領域に区分する。「8」個の各領域には、複数のパターン波形SW1,SW2,SW3,SW4の数に相当する「4」個の座標が含まれる。この場合、コンピュータ6は、主走査座標Jに対応して、「8」個の領域ごとの「4」個ずつの座標を示す領域座標Kを設定する。領域座標Kにおいて、「8」個の領域の各々は、「0,1,2,3」の合計4個の座標を含む。すなわち、主走査座標Jに対応した領域座標Kは、「0,1,2,3,・・・,0,1,2,3」となって、「0,1,2,3」の座標が、区分した領域の数だけ繰り返される。
【0049】
コンピュータ6は、主走査座標Jの座標群を複数の領域に区分することにより領域座標Kを設定した場合、複数の領域の各々に属する各境界端部ドットIDS1の副走査方向H2の位置が、異なるパターン波形SW1,SW2,SW3,SW4に応じた位置となるように、複数の境界端部ドットIDS1の各々の副走査方向H2の位置を設定する。
【0050】
具体的には、コンピュータ6は、主走査座標Jに対応した領域座標Kが「0」の境界端部ドットIDS1の副走査方向H2の位置を規定する副走査座標Iについては、第1パターン波形SW1に応じて設定する。コンピュータ6は、主走査座標Jに対応した領域座標Kが「0」に隣接する「1」の境界端部ドットIDS1の副走査方向H2の位置を規定する副走査座標Iについては、第1パターン波形SW1とは位相αの異なる第2パターン波形SW2に応じて設定する。コンピュータ6は、主走査座標Jに対応した領域座標Kが「1」に隣接する「2」の境界端部ドットIDS1の副走査方向H2の位置を規定する副走査座標Iについては、第1パターン波形SW1及び第2パターン波形SW2とは位相αの異なる第3パターン波形SW3に応じて設定する。コンピュータ6は、主走査座標Jに対応した領域座標Kが「2」に隣接する「3」の境界端部ドットIDS1の副走査方向H2の位置を規定する副走査座標Iについては、第1パターン波形SW1、第2パターン波形SW2及び第3パターン波形SW3とは位相αの異なる第4パターン波形SW4に応じて設定する。
【0051】
複数のパターン波形SW1,SW2,SW3,SW4が正弦波の波形である場合、コンピュータ6は、下記式(2)に従って複数の境界端部ドットIDS1の各々の副走査方向H2の位置を設定する。
【0052】
【0053】
式(2)中、「I」は副走査座標Iを示し、「J」は主走査座標Jを示し、「K」は領域座標Kを示し、「SWN」は複数のパターン波形SW1,SW2,SW3,SW4の数を示し、「λ」は複数のパターン波形SW1,SW2,SW3,SW4の波長λを示し、「A」は複数のパターン波形SW1,SW2,SW3,SW4の振幅Aを示す。また、式(2)中、「round」は、小数点以下を四捨五入することを示す。
【0054】
複数のパターン波形SW1,SW2,SW3,SW4の数SWNが「4」、波長λが「32」、振幅Aが「5」の場合を想定する。この場合、コンピュータ6は、主走査座標Jが「0」であり且つ領域座標Kが「0」の境界端部ドットIDS1の副走査方向H2の位置を規定する副走査座標Iについて、第1単位画像GAに対応した境界端部ドットIDS1については上記式(2)に従って第1パターン波形SW1に応じた「5」に設定し、第2単位画像GAに対応した境界端部ドットIDS1については「5」に対して副走査方向H2に隣接する「4」に設定する。同様に、コンピュータ6は、主走査座標Jが「0」に隣接する「1」であり且つ領域座標Kが「0」に隣接する「1」の境界端部ドットIDS1の副走査座標Iについて、第1単位画像GAに対応した境界端部ドットIDS1については上記式(2)に従って第2パターン波形SW2に応じた「10」に設定し、第2単位画像GAに対応した境界端部ドットIDS1については「10」に対して副走査方向H2に隣接する「9」に設定する。また、コンピュータ6は、主走査座標Jが「1」に隣接する「2」であり且つ領域座標Kが「1」に隣接する「2」の境界端部ドットIDS1の副走査座標Iについて、第1単位画像GAに対応した境界端部ドットIDS1については上記式(2)に従って第3パターン波形SW3に応じた「3」に設定し、第2単位画像GAに対応した境界端部ドットIDS1については「3」に対して副走査方向H2に隣接する「2」に設定する。更に、コンピュータ6は、主走査座標Jが「2」に隣接する「3」であり且つ領域座標Kが「2」に隣接する「3」の境界端部ドットIDS1の副走査座標Iについて、第1単位画像GAに対応した境界端部ドットIDS1については上記式(2)に従って第4パターン波形SW4に応じた「1」に設定し、第2単位画像GAに対応した境界端部ドットIDS1については「1」に対して副走査方向H2に隣接する「0」に設定する。
【0055】
コンピュータ6は、主走査座標Jの座標群を複数の領域に区分することにより領域座標Kを設定した場合、第1及び第2単位画像GAのそれぞれに対応した複数の境界端部ドットIDS1について、複数の領域の各々に属する各境界端部ドットIDS1の副走査方向H2の位置が、異なるパターン波形SW1,SW2,SW3,SW4に応じた位置となるように、上記の式(2)に従った処理を領域ごとに繰り返し行うことによって、複数の境界端部ドットIDS1の各々の副走査方向H2の位置を設定する。これにより、複数の境界端部ドットIDS1を、より確実に、副走査方向H2に不規則に分散させることができる。このため、メディアW上における単位画像GA同士の境界領域BAに、複数の境界端部ドットIDS1に由来するスジ状の濃度ムラなどが発生することを、より確実に抑制できる。
【0056】
インクジェットプリンタ2におけるインクヘッド3が複数色のインクのそれぞれを吐出することが可能な複数の個別ヘッド31を備える場合には、コンピュータ6は、複数の個別ヘッド31の各々に対応して各色のインクドットデータDIDをパス動作ごとに作成する。コンピュータ6は、各色のインクドットデータDIDにおける複数の境界端部ドットIDS1の副走査方向H2の位置を、複数のパターン波形SW1,SW2,SW3,SW4に応じた位置に設定する。この場合、コンピュータ6は、複数のパターン波形SW1,SW2,SW3,SW4における位相α及び波長λの少なくともいずれか一方を、各色のインクドットデータDIDごとに変更する。これにより、メディアW上に複数色の画像を形成する場合において、メディアW上における単位画像GA同士の境界領域BAに、複数の境界端部ドットIDS1に由来するスジ状の濃度ムラなどが発生することを抑制できる。
【0057】
各色のインクドットデータDIDにおける複数の境界端部ドットIDS1の副走査方向H2の位置を、複数のパターン波形SW1,SW2,SW3,SW4に応じた位置に設定する場合、コンピュータ6は、複数のパターン波形SW1,SW2,SW3,SW4における位相α及び波長λの少なくともいずれか一方を、各色を色相環上に並べたときに隣り合う色相で異なるように、各色のインクドットデータDIDごとに変更する。ここで、黒色、白色、及び中間色である灰色は、色の3属性の明度、色相及び彩度のうち、色相と彩度を持たない無彩色である。このため、無彩色は、通常、色相環に含まれない。したがって、コンピュータ6が色相環を用いる場合に対象とする色は、無彩色以外の有彩色である。
【0058】
図3に示されるように、インクデータ作成工程s2において1回のパス動作ごとのインクドットデータDIDを作成すると、コンピュータ6は、インクドットデータDIDに基づいて、処理液ヘッド4による処理液の吐出に応じてメディアW上に形成させる処理液ドットのパターンのデータを示す処理液ドットデータDRDを、1回のパス動作ごとに作成する処理液データ作成処理を行う(処理液データ作成工程s3)。コンピュータ6は、処理液ドットデータDRDとして、前処理液ヘッド41による前処理液の吐出に応じてメディアW上に形成させる前処理液ドットのパターンのデータを示す前処理液ドットデータDRD1を作成する。同様に、コンピュータ6は、処理液ドットデータDRDとして、後処理液ヘッド42による後処理液の吐出に応じてメディアW上に形成させる後処理液ドットのパターンのデータを示す後処理液ドットデータDRD2を作成する。本実施形態では、コンピュータ6は、前処理液ドットデータDRD1と後処理液ドットデータDRD2とに共通の処理液ドットデータDRDを作成する。
【0059】
コンピュータ6は、処理液ドットデータDRDにおける各処理液ドットとして、インクドットデータDIDにおける各インクドットIDと同じ位置のドットが少なくとも含まれるように、処理液ドットデータDRDを作成する。インクジェットプリンタ2におけるインクヘッド3が複数色のインクのそれぞれを吐出することが可能な複数の個別ヘッド31を備える場合には、コンピュータ6は、各色のインクドットデータDIDの論理和を取った論理和データに基づいて、処理液ドットデータDRDを作成する。この場合、コンピュータ6は、処理液ドットデータDRDにおける各処理液ドットとして、論理和データにおける各インクドットIDと同じ位置のドットが少なくとも含まれるように、処理液ドットデータDRDを作成する。なお、コンピュータ6は、画像データDGに基づいて、処理液ドットデータDRDを作成してもよい。
【0060】
コンピュータ6は、インクドットデータDIDにおける各インクドットIDと同じ位置に処理液ドットが配置されるとともに、各インクドットIDの周囲の領域にも処理液ドットが配置された処理液ドットデータDRDを作成する。この場合、コンピュータ6は、インクドットデータDIDの場合と同様に、処理液ドットデータDRDに含まれる複数の処理液ドットのうち、インクドットデータDIDにおける複数の境界端部ドットIDS1に対応した各処理液ドットの副走査方向H2の位置を、複数のパターン波形SW1,SW2,SW3,SW4に応じた位置に設定してもよい。
【0061】
1回のパス動作ごとのインクドットデータDID及び処理液ドットデータDRDを作成すると、コンピュータ6は、その作成したインクドットデータDID及び処理液ドットデータDRDをインクジェットプリンタ2に向けて送信する(データ送信工程s4)。
【0062】
インクジェットプリンタ2においてインクドットデータDID及び処理液ドットデータDRDが受信されると(データ受信工程s5)、プリンタ制御部5は、キャリッジ22に搭載されたインクヘッド3及び処理液ヘッド4を含むインクジェットヘッド20によるパス動作を実行させるパス動作工程s6と、搬送部21によるメディアWの搬送動作を実行させる搬送工程s7と、を繰り返し行う。これにより、プリンタ制御部5は、少なくとも1回のパス動作に応じた複数のインクドットIDからなる単位画像GAをメディアW上において副走査方向H2に複数形成させる画像形成工程の画像形成処理を行う。プリンタ制御部5は、メディアWに対する画像の形成が終了したか否かを判定し(判定工程s8)、画像の形成が終了するまでパス動作工程s6と搬送工程s7とを繰り返し行う。
【0063】
パス動作工程s6において、プリンタ制御部5は、インクドットデータDID及び処理液ドットデータDRDに基づいて、キャリッジ22を主走査方向H1に移動させつつ、前処理液ヘッド41から前処理液を吐出させ(ステップs61)、インクヘッド3からインクを吐出させ(ステップs62)、後処理液ヘッド42から後処理液を吐出させる(ステップs63)。
【0064】
既述の通り、1回のパス動作ごとの各インクドットデータDIDに含まれる複数のインクドットIDにおいて、境界領域BAを形成するための境界領域形成ドットIDSのうち、メディアW上において副走査方向H2に隣接する単位画像GA同士の副走査方向H2の境界Bを規定する複数の境界端部ドットIDS1は、主走査方向H1に沿った直線状に並ぶことが規制されるとともに、単一の波形に沿って並ぶことが規制される。このため、複数の境界端部ドットIDS1を副走査方向H2に不規則に分散させることができる。この結果、メディアW上における単位画像GA同士の境界領域BAに、複数の境界端部ドットIDS1に由来するスジ状の濃度ムラなどが発生することを抑制できる。これにより、メディアWに形成される画像の品質の低下を抑制できる。
【符号の説明】
【0065】
1 インクジェット記録システム
2 インクジェットプリンタ
3 インクヘッド
31 個別ヘッド
5 プリンタ制御部(制御部)
6 コンピュータ(ドットデータ作成部)
DID インクドットデータ
GA 単位画像
H1 主走査方向
H2 副走査方向
ID インクドット
IDS 境界領域形成ドット
IDS1 境界端部ドット
W メディア(記録材)