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特許7692567イヌ科動物の膵炎を診断する方法及び試薬キット並びにイヌ科動物の膵炎の診断におけるアシルカルニチンの使用
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-06-06
(45)【発行日】2025-06-16
(54)【発明の名称】イヌ科動物の膵炎を診断する方法及び試薬キット並びにイヌ科動物の膵炎の診断におけるアシルカルニチンの使用
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/50 20060101AFI20250609BHJP
【FI】
G01N33/50 D
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2024219500
(22)【出願日】2024-12-14
【審査請求日】2024-12-14
(31)【優先権主張番号】112149334
(32)【優先日】2023-12-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】TW
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】519192784
【氏名又は名称】安益藥業股▲ふん▼有限公司
【住所又は居所原語表記】4F.,No.6,Zhiyuan 3rd Rd.,Beitou Dist.,Taipei City 112025,Taiwan
(74)【代理人】
【識別番号】110004439
【氏名又は名称】AIPPAY弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】▲呉▼青芬
(72)【発明者】
【氏名】林雲蓮
(72)【発明者】
【氏名】汪怡岳
(72)【発明者】
【氏名】郭鴻志
(72)【発明者】
【氏名】▲ゼン▼昆衛
【審査官】倉持 俊輔
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-049016(JP,A)
【文献】韓国公開特許第2021-0033347(KR,A)
【文献】国際公開第15/091962(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2016/0068906(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/50
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
イヌ科動物の検体を提供する工程と、前記検体中のバイオマーカーの濃度を検出し、前記濃度が所定値よりも高い場合、前記イヌ科動物は膵炎のリスクが高いと判定する工程と、を含み、前記所定値は、健康なイヌ科動物のバイオマーカーの濃度に関し、且つ前記バイオマーカーは、中鎖アシルカルニチン、長鎖アシルカルニチン又はそれらの組み合わせを指し、中鎖アシルは、炭素数6~12の鎖長を有するものを指し、長鎖アシルは、炭素数12を超える鎖長を有するものを指し、
前記検体が血清である場合、前記バイオマーカーの前記濃度、前記所定値の2倍以上である場合に膵炎のリスクが高いと判定し、
前記検体が尿液である場合、前記バイオマーカーの前記濃度、前記所定値の20倍以上である場合に膵炎のリスクが高いと判定する、イヌ科動物の膵炎を診断する方法。
【請求項2】
前記バイオマーカーが指す中鎖アシルカルニチンは、デカノイル‐L‐カルニチン、ドデカノイル-L-カルニチン、又はドデセノイル‐L‐カルニチンを指し、且つ前記検体は、尿液又は血液を含む、請求項1に記載のイヌ科動物の膵炎を診断する方法。
【請求項3】
前記バイオマーカーが指す長鎖アシルカルニチンは、テトラデカジエノイル‐L‐カルニチンを指し、前記検体は、尿液又は血液を含む、請求項1に記載のイヌ科動物の膵炎を診断する方法。
【請求項4】
検出試薬を含み、前記検出試薬は、イヌ科動物の検体と混合した後、検体中のバイオマーカーの濃度を検出することに用いることができ、前記バイオマーカーは、中鎖アシルカルニチン、長鎖アシルカルニチン又はそれらの組み合わせを指し、中鎖アシルは、炭素数6~12の鎖長を有するものを指し、長鎖アシルは、炭素数12を超える鎖長を有するものを指す、イヌ科動物の膵炎を診断する試薬キット。
【請求項5】
前記バイオマーカーが指す中鎖アシルカルニチンは、デカノイル‐L‐カルニチン、ドデカノイル-L-カルニチン、又はドデセノイル‐L‐カルニチンを指し、且つ前記検体は、尿液又は血液を含む、請求項4に記載のイヌ科動物の膵炎を診断する試薬キット。
【請求項6】
前記バイオマーカーが指す長鎖アシルカルニチンは、テトラデカジエノイル‐L‐カルニチンを指し、前記検体は、尿液又は血液を含む、請求項4に記載のイヌ科動物の膵炎を診断する試薬キット。
【請求項7】
イヌ科動物の膵炎の診断における中鎖アシルカルニチン、長鎖アシルカルニチン又はそれらの組み合わせのバイオマーカーとしての使用であって、中鎖アシルは、炭素数6~12の鎖長を有するものを指し、長鎖アシルは、炭素数12を超える鎖長を有するものを指し、前記診断は、イヌ科動物の尿液又は血液を検体とする、使用。
【請求項8】
イヌ科動物の膵炎の診断におけるデカノイル‐L‐カルニチン、ドデカノイル-L-カルニチン、又はドデセノイル‐L‐カルニチンの使用を指す、請求項7に記載の使用。
【請求項9】
イヌ科動物の膵炎の診断におけるテトラデカジエノイル‐L‐カルニチンの使用を指す、請求項7に記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イヌ科動物の膵炎を診断する方法及びイヌ科動物の膵炎を診断する試薬キットに関し、特に、特殊なバイオマーカーを用いてイヌ科動物の膵炎を診断する方法又は試薬キットに関する。
【背景技術】
【0002】
急性膵炎は、膵腺内のトリプシノーゲン(Trypsinogen)の異常な活性化によって膵腺房細胞内のトリプシン阻害が効果的に機能しなくなり、自己消化を誘発して炎症を引き起こすものであって、イヌの消化器の最も重篤な疾病の1つである。軽微な膵炎は、通常、軽度から中度の食欲不振、腹痛及び嘔吐などの臨床症状を伴い、適切な対症療法で完全回復可能であるが、重度の急性膵炎は明らかな膵臓壊死を伴い、通常、重度の全身性の炎症反応や多臓器機能障害を伴い、致死率は50%近くになり得る。
【0003】
現在、イヌの急性膵炎の臨床診断、特に、重度の判断は、依然として困難である。現在一般的に使用されている診断指標は血清イヌ膵臓特異的リパーゼ(canine pancreatic-specific lipase, cPL)であるが、その特異性と感度にはまだ改善の余地があり、急性膵炎の重症度を明確に区別することはできず、実際の診断には、依然として病歴、臨床症状及び腹部の超音波の結果を含める必要がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、特殊なバイオマーカーの検体中の濃度を検出することによって、イヌ科動物の膵炎の可能性の診断を迅速に支援する、又はイヌ科動物の急性膵炎の重症度の判別を支援することができるイヌ科動物の膵炎を診断又は検出する方法及びイヌ科動物の膵炎を診断又は検出する試薬キットを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の一実施例に基づき、本発明は、イヌ科動物の膵炎を診断する方法を提供する。まず、イヌ科動物の検体を提供する。その後、前記検体中のバイオマーカー(biomarker)の濃度を検出し、前記濃度が所定値よりも高い場合、前記イヌ科動物は膵炎のリスクが高いと判定し、且つ前記バイオマーカーは、中鎖アシルカルニチン(acylcarnitine)、長鎖アシルカルニチン又はそれらの組み合わせを指し、中鎖アシルは、炭素数6~12の鎖長を有するものを指し、長鎖アシルは、炭素数12を超える鎖長を有するものを指す。
【0006】
本発明の一実施例に基づき、本発明は、イヌ科動物の膵炎を診断する試薬キット(kit)を提供する。前記検出試薬を含み、前記検出試薬は、イヌ科動物の検体と混合した後、前記検体中のバイオマーカーの濃度を検出することに用いることができ、前記バイオマーカーは、中鎖アシルカルニチン(acylcarnitine)、長鎖アシルカルニチン又はそれらの組み合わせを指し、中鎖アシルは、炭素数6~12の鎖長を有するものを指し、長鎖アシルは、炭素数12を超える鎖長を有するものを指す。
【0007】
本発明の別の実施例に基づき、本発明は、中鎖アシルは、炭素数6~12の鎖長を有するものを指し、長鎖アシルは、炭素数12を超える鎖長を有するものを指す、イヌ科動物の膵炎の診断における中鎖アシルカルニチン、長鎖アシルカルニチン又はそれらの組み合わせの使用を提供する。
【0008】
本発明の一実施例では、前記バイオマーカーが指す中鎖アシルカルニチンは、デカノイル‐L‐カルニチン(Decanoyl- L -carnitine, C10)、ドデカノイル(またはラウリル)-L-カルニチン(Dodecanoyl- L -carnitine, C12)、又はドデセノイル‐L‐カルニチン(Dodecenoyl- L -carnitine, C12:1)を指し、且つ前記検体は、尿液又は血液を含む。
【0009】
本発明の一実施例では、前記バイオマーカーが指す長鎖カルニチンは、テトラデカジエノイル‐L‐カルニチン(Tetradecadienoyl- L -carnitine, C14:2)を指し、前記検体は、尿液又は血液を含む。
【発明の効果】
【0010】
本発明によって提供される特殊なバイオマーカー、即ち中鎖アシルカルニチン、長鎖アシルカルニチン又はそれらの組み合わせを検出することによって、イヌ科動物の膵炎を発症するかの診断を補助することができ、イヌ科動物が高い膵炎の可能性を有することが発見されると、すぐに治療を行うことができ、大幅に生存率を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の健康なイヌ及び膵炎のイヌの血清中の異なる炭素長を有する15組のアシルカルニチンの相対含有量を分析した棒グラフである。
図2】本発明の健康なイヌ及び膵炎のイヌの尿液中の異なる炭素長を有する13組のアシルカルニチンの相対含有量を分析した棒グラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
当業者が本発明を更に理解できるようにするため、以下では、本発明の好適実施例を挙げ、図面を合わせ、本発明の構成内容及び実現しようとする効果を詳細に説明する。
【0013】
現在、急性膵炎の主な原因は明らかではないが、一般的に考えられる原因は、高脂肪な飲食、不適切な飲食、肥満、薬物及び毒素、内分泌疾患、及び遺伝である。イヌを例にとると、膵炎は、中高齢のイヌに多く発生し、少数であるが、ミニチュアシュナウザーなどのイヌ種で発生する。アシルカルニチンは、脂肪酸代謝の中間生成物の1つであり、脂肪酸とL‐カルニチン(L-carnitine)のエステル化によって生成されるため、脂肪酸代謝の調節によりアシルカルニチンの含有量が変化する。そのため、アシルカルニチンは、脂肪酸酸化障害及び代謝障害に関連する疾病を反映し得るものであり、脂肪酸のβ酸化経路が影響を受けると、アシルカルニチンが大幅に上昇する。アシルカルニチンは、脂肪酸代謝経路の産物として、血清や尿液などの体液中に存在すると同時に、炎症反応関連の情報伝達を活性化する能力があり、含有量が高い場合、細胞の正常な生理機能に直接影響を及ぼし得る。
【0014】
従来技術においてイヌ科動物の膵炎を検出するための良好なバイオマーカーが欠如していることに対処するために、本発明は、イヌ科動物の膵炎を診断する方法を提供する。まず、イヌ科動物の検体を提供する。本発明の一実施例では、イヌ科動物は、例えば、イヌ、オオカミ、ジャッカル又はキツネ等であるが、これらに限定されない。好適実施例では、イヌ科とはイヌを指す。一方、検体は、様々な方法でイヌ科動物から得ることができるため、前記検体をイヌ科動物から分離して、イヌ科動物とは独立して検出の対象とすることができる。一実施例では、検体は、さまざまな組織液又は体液であってよい。好適実施例では、検体は、血液を指し、特には、例えば採血によって得ることができる血清を指す。別の好適実施例では、検体は、尿液であり、イヌ科動物の自己排尿、又はカテーテル法又は膀胱穿刺などの他の侵入方法によって得ることができる。
【0015】
それから、前記検体中のバイオマーカーの濃度を検出し、その濃度が所定値よりも高ければ、そのイヌ科動物は、膵炎のリスクが高いと判定される。本発明の一実施例では、バイオマーカーは、中鎖アシルカルニチン(acylcarnitine)、長鎖アシルカルニチン又はそれらの組み合わせを指し、中鎖アシルとは、炭素数6~12の鎖長を有するものを指し、長鎖アシルとは、炭素数12を超える鎖長を有するものを指す。本発明の好適実施例では、バイオマーカーは、中鎖アシルカルニチンを指し、検体が血液及び尿液を同時に検査する場合、バイオマーカーは、デカノイル‐L‐カルニチン(Decanoyl- L -carnitine, C10)、ドデカノイル(またはラウリル)-L-カルニチン(Dodecanoyl- L -carnitine, C12)、又はドデセノイル‐L‐カルニチン(Dodecenoyl- L -carnitine, C12:1)を指す。別の最適な実施例では、バイオマーカーは、長鎖アシルカルニチンを指し、検体が血液及び尿液を同時に検査する場合、バイオマーカーは、テトラデカジエノイル‐L‐カルニチン(Tetradecadienoyl- L -carnitine, C14:2)を指す。
【0016】
一方、上述したバイオマーカーの濃度の検出は、液相クロマトグラフィー質量分析計(LC/MS)を用いて行われる。この場合、その濃度が所定値よりも高ければ、そのイヌ科動物は、膵炎のリスクが高いと考えられる。前述の所定値は、健康なイヌの検体中のバイオマーカーの濃度を指し、理論的には、同じイヌ科動物の場合、前記所定値は、固定(所定)されるはずである。この所定値は、次の方法で取得される。まず、健康なイヌ科動物を用意し、前記健康なイヌ科動物と検出対象の疾病を有するイヌ科動物とは、同種の生物(例えば、同じ飼い犬)であり、次に、健康なイヌ科動物の健康な検体、例えば、血液中の血清又は尿液を採集し、計器を使用して前記健康な検体中の同じバイオマーカー(例えば、ドデカノイルカルニチン)の濃度を測定する。最後に、健康な検体中のバイオマーカーの濃度と検査対象の検体中のバイオマーカーの濃度を比較し、検査対象の検体中のバイオマーカーの濃度が健康な検体中のバイオマーカーの濃度よりも一定割合大きい(即ち、前記所定値よりも大きい)場合、検査対象のイヌ科動物は、膵炎のリスクが高いと考えられる。本発明の一実施例では、検体が血清であり、検査対象の検体中のバイオマーカーの濃度が健康な検体中のバイオマーカーの濃度の2倍以上である場合、検査対象のイヌ科動物は、膵炎のリスクが高いと考えられる。本発明の一実施例では、検体が尿液であり、検査対象の検体中のバイオマーカーの濃度が健康な検体中のバイオマーカーの濃度の20倍以上である場合、検査対象のイヌ科動物は、膵炎のリスクが高いと考えられる。所定値と比較することにより、イヌ科動物が膵炎のリスクが高いかどうかを判定することができる。また、本発明が指す膵炎のリスクが高いとは、イヌ科動物が従来の診断方法に従って膵炎と診断できることを指し、例えば、臨床症状には、嘔吐、下痢、食欲不振、腹痛(症状が少なくともそのうち2項を満たす)、イヌ特異性リパーゼ(cPL)値:>200μg/L、又は腹部全体の超音波検査:低エコー膵臓実質、膵腺肥厚、膵臓縁のぼやけ、周囲の高エコー脂肪組織及び膵管/胆管拡張及び腹水などのその他の異常が挙げられるが、これらに限定されるものではなく、膵炎を患っていること表すのに十分な他の診断指標も含まれる。
【0017】
本発明の別の実施例では、本発明は、イヌ科動物の膵炎を診断する試薬キット(kit)を提供する。前記試薬キットは、検出試薬を含む。検出試薬は、イヌ科動物の検体と混合した後、バイオマーカーの濃度の検出に用いることができ、前記バイオマーカーは、中鎖アシルカルニチン、長鎖アシルカルニチン又はそれらの組み合わせを指し、中鎖アシルとは、炭素数6~12の鎖長を有するものを指し、長鎖アシルとは、炭素数12を超える鎖長を有するものを指す。検出試薬は、中鎖/長鎖アシルカルニチンの濃度を検出するために必要な内部標準を含む。中鎖/長鎖アシルカルニチンの濃度の測定は、例えば、液相クロマトグラフィー質量分析法又は高速液相クロマトグラフィーによる内部バイオマーカーの濃度の検出など、当技術分野で知られている様々な方法によって行うことができる。一実施例では、本発明の試薬キットは、酵素免疫測定法(ELISA)、アフィニティークロマトグラフィーカラム精製方法、又は改良された試験管結合分析法等を使用して、中鎖/長鎖を非侵襲的に診断することもできる。例えば、本発明は、ELISA法を使用してイヌ科動物の膵炎を検出している。まず、ビオチン(Biotin)、Hisタグ、蛍光物質(Cy3又はCy5)又はDig(Digoxigenin)などを含むがこれらに限定されない校正物質に本発明の中鎖/長鎖アシルカルニチンを接続し、吸光値又は蛍光強度を検出することにより、サンプル中の中鎖/長鎖アシルカルニチンの量を分析し、例えば、イヌ科動物の膵炎のリスクがあるかどうかを判定する。本実施例の関連実施方法の前述の実施例と同じところ、例えば、イヌ科動物、検体、バイオマーカーなどは、ここでは再度説明しない。
【0018】
本発明の別の実施例では、イヌ科動物の膵炎の診断における中鎖アシルカルニチン、長鎖アシルカルニチン、又はそれらの組み合わせの使用を提供し、中鎖アシルとは、炭素数6~12の鎖長を有するものを指し、長鎖アシルとは、炭素数12を超える鎖長を有するものを指す。本実施例の関連する実施方法の前述の実施例と同じところ、例えば、イヌ科動物、検体、バイオマーカーなどは、ここでは再度説明しない。
【0019】
本発明の実施方法及び効果を明確に説明するために、以下では、実施例及び関連実験を挙げ、その詳細な工程を説明する。
【実施例
【0020】
本実施例の実験プロセスは、次のとおりである。
(一)本研究は、国立嘉義大学(台湾)の実験動物管理使用委員会によって審査され、承認され、同意番号111026である。
(二)病例集
(1)疾病のイヌの参加条件(Inclusion criteria)
A.臨床症状:嘔吐、下痢、食欲不振、腹痛を含む(症状が少なくともこれらのうち2つを満たす)
B.イヌ膵臓特異性リパーゼ(cPL)値:>200μg/L
C.腹部全体の超音波検査:低エコーの膵臓実質、膵腺肥厚、膵臓縁のぼやけ、周囲の高エコーの脂肪組織及び膵管/胆管の拡張や腹水などのその他の異常
(2)疾病のイヌの除外条件(Exclusion criteria)
A.胃腸、肝胆及び泌尿器系の原発性疾病の既往
B.膵臓超音波検査では明らかな異常がない、及び超音波検査で膵臓画像が鮮明に観察できない
C.臨床症状が7日以上持続する
(3)健康なイヌの参加条件
異常な臨床症状がなく、血液検査、腹部超音波検査及びcPL値が正常である。
(三)血液及び尿液の収集
(1)健康なイヌ:健康診断診療にて橈側静脈より採血し、自然排尿により尿液を採集し、各1回採集する。
(2)病気のイヌ:診療中に橈側静脈から採血し、自然排尿ができない場合は、膀胱穿刺を使用して尿液を採集し、必要に応じて鎮静剤(Alfaxalone、0.3mL/kg)を使用する。
(四)サンプル試験
血液及び尿液の代謝物及びリポソーム分析は、Agilent1290UPLCと6540‐QTOFの組み合わせの質量分析計(Agilent 1290 UHPLC coupled with 6540-QTOF(UHPLC-QTOF))(Agilent Technologies,Santa Clara, CA)を使用し、公開されている方法に従って、分析した[1]。分析の品質を管理するために、バッチごとの開始及び5つのサンプルごとにブランクサンプル及び混合した分析品質管理サンプルを挿入して分析校正を行い、分析品質を確保した。同時に各分析の開始時に、40種の合成標準品を使用して計器の性能をテストした。各サンプルを3回分析し、トータルイオンクロマトグラムを手動で検査した。分析データは、MZmine3[2]とADAP演算法[3]を使用し、スペクトルピークの検出を行った。スペクトルピークの確認は、独自に構築した代謝物データベース[4]と照合することで確認した。照合によって選択された潜在的な代謝物の特徴は、50%を超える欠損値を有するものを除去するように前処理され、残りの特徴は元のデータの最小の正の値の半分として取得された。前処理されたデータに対してMetaboAnalyst統計分析を実行する前に、総ピーク面積の合計を標準化し、対数変換(log transform)及び自動スケーリング後、MetaboAnalyst5.0で分析した[5]。この段落で引用されている方法については、以下の文献を参照することができる。
1.Liu CT, Raghu R, Lin SH, Wang SY, Kuo CH, Tseng Y, Sheen LY. Metabolomics of Ginger Essential Oil against Alcoholic Fatty Liver in Mice. J. Agric. Food Chem. 2013; 61:11231-11240.
2.Schmid, R., Heuckeroth, S., Korf, A. et al. “Integrative analysis of multimodal mass spectrometry data in MZmine 3.” Nature Biotechnology (2023); https://mzmine.github.io/.
3.https://mzmine.github.io/mzmine_documentation/module_docs/lc-ms_featdet/featdet_adap_chromatogram_builder/adap-chromatogram-builder.html
4.In-house database: the National Taiwan University MetaCore Metabolomics Chemical Standard Library.
5.https://www.metaboanalyst.ca/docs/About.xhtml
【0021】
<実験1:イヌ科動物の血清の検出>
健康なイヌ科動物と膵炎を患っているイヌ科動物の血清を比較し、異なる炭素長の15組のアシルカルニチンの血清中の含有量を検出した。図1を参照し、図1に示すのは、本発明の健康なイヌと膵炎を患っているイヌの血清中の異なる炭素長の15組のアシルカルニチンの相対含有量を示す棒グラフであり、当該15組の炭素長のアシルカルニチンは、それぞれ次のとおりである。ヘキサノイル‐L‐カルニチン(Hexanoyl L-carnitine, C6)、オクテノイル‐L‐カルニチン(Octenoyl- L -carnitine, C8:1)、オクタノイル‐L‐カルニチン(Octanoyl- L -carnitine, C8)、デカノイル‐L‐カルニチン(Decanoyl- L -carnitine, C10)、ドデセノイル‐L‐カルニチン(Dodecenoyl - L-carnitine, C12:1)、ドデカノイル(又はラウリル)‐L‐カルニチン(Dodecanoyl- L -carnitine, C12)、テトラデカジエノイル‐L‐カルニチン(Tetradecadienoyl- L -carnitine, C14:2)、テトラデセノイル‐L‐カルニチン(Tetradecenoyl- L -carnitine, C14:1)、テトラデカノイル‐L‐カルニチン(Tetradecanoyl- L -carnitine, C14)、ヘキサデセノイル‐L‐カルニチン(Hexadecenoyl- L -carnitine, C16:1)、ヘキサデカノイル‐L‐カルニチン(Hexadecanoyl- L -carnitine, C16)、オクタデカジエニル(又はリノレイル)‐L‐カルニチン(Linoleyl- L -carnitine, C18:2)、オレイル‐L‐カルニチン(Oleyl- L -carnitine, C18:1)、オクタデカニル(又はステアロイル)‐L‐カルニチン(Stearoyl- L -carnitine, C18)、エイコサノイル‐L‐カルニチン(Eicosanoyl- L-carnitine, C20)。図1に示すように、膵炎を患っているイヌの血清では、健康なイヌと比較して、上記の異なる炭素長の組別のアシルカルニチンがいずれも増加する傾向にあることが分かる。その中でも、C6の組では、膵炎を患っているイヌが健康なイヌの2.04倍であった。C8:1の組では、膵炎を患っているイヌが健康なイヌの1.42倍であった。C8の組では、膵炎を患っているイヌが健康なイヌの3.89倍であった。C10の組では、膵炎を患っているイヌが健康なイヌの2.29倍であった。C12:1の組では、膵炎を患っているイヌが健康なイヌの2.85倍であった。C12の組では、膵炎を患っているイヌが健康なイヌの2.07倍であった。C14:2の組では、膵炎を患っているイヌが健康なイヌの2.11倍であった。C14:1の組では、膵炎を患っているイヌが健康なイヌの1.83倍であった。C14の組では、膵炎を患っているイヌが健康なイヌの1.94倍であった。C16:1の組では、膵炎を患っているイヌが健康なイヌの2.57倍であった。C16の組では、膵炎を患っているイヌが健康なイヌの1.53倍であった。C18:2の組では、膵炎を患っているイヌが健康なイヌの1.72倍であった。C18:1の組では、膵炎を患っているイヌが健康なイヌの1.73倍であった。C18の組では、膵炎を患っているイヌが健康なイヌの1.79倍であった。C20の組では、膵炎を患っているイヌが健康なイヌの1.42倍であった。実験1のデータは、中鎖アシルカルニチン(炭素数6~12)と長鎖アシルカルニチン(炭素数が12よりも大きい)の両方が健康なイヌと膵炎を患っているイヌを効果的に区別でき、したがって、アシルカルニチンが膵炎を患っているイヌのバイオマーカーとして使用できることが推定される。
【0022】
<実験2:イヌ科動物の尿液の検出>
健康なイヌ科動物と膵炎を患っているイヌ科動物の尿液を比較し、異なる炭素長の13組のアシルカルニチンの尿液中の含有量を検出した。図2を参照し、図2が示すのは、本発明の健康なイヌと膵炎を患っているイヌの尿液中の異なる炭素長の13組のアシルカルニチンの棒グラフであり、当該13組の炭素長のアシルカルニチンは、それぞれ次のとおりである。ヘキサノイル‐L‐カルニチン(Hexanoyl - L-carnitine, C6)、オクテノイル‐L‐カルニチン(Octenoyl- L -carnitine, C8:1)、オクタノイル‐L‐カルニチン(Octanoyl- L -carnitine, C8)、デセノイル‐L‐カルニチン(Decenoyl- L -carnitine, C10:1)、デカノイル‐L‐カルニチン(Decanoyl- L -carnitine, C10)、ドデセノイル‐L‐カルニチン(Dodecenoyl- L-carnitine, C12:1)、ドデカノイル‐L‐カルニチン(Dodecanoyl- L -carnitine, C12)、テトラデカジエノイル‐L‐カルニチン(Tetradecadienoyl- L -carnitine, C14:2)、テトラデセノイル‐L‐カルニチン(Tetradecenoyl- L -carnitine, C14:1)、テトラデカノイル‐L‐カルニチン(Tetradecanoyl- L -carnitine, C14)、ヘキサデカノイル‐L‐カルニチン(Hexadecanoyl- L -carnitine, C16)、ヘキサデセノイル‐L‐カルニチン(Hexadecenoyl- L -carnitine, C16:1)、ヘキサデカノイル‐L‐カルニチン(Hexadecanoyl- L -carnitine, C16)、オクタデカジエニル(又はリノレイル)‐L‐カルニチン(Linoleyl- L -carnitine, C18:2)。図2に示すように、健康なイヌに比べ、膵炎を患っているイヌの尿液にはアシルカルニチンが増加する傾向があることが分かり、C10、C12:1、C12、及びC14:2の組別のアシルカルニチンが有意に増加した(p<0.05)。各組の具体的なデータは、次のとおりである。C6の組では、膵炎を患っているイヌは、健康なイヌの6.08倍であった。C8:1の組では、膵炎を患っているイヌが健康なイヌの9.40倍であった。C8の組では、膵炎を患っているイヌは、健康なイヌの14.19倍であった。C10:1の組では、膵炎を患っているイヌが健康なイヌの8.28倍であった。C10の組では、膵炎を患っているイヌが健康なイヌの23.35倍であった。C12:1の組では、膵炎を患っているイヌが健康なイヌの24.38倍であった。C12の組では、膵炎を患っているイヌが健康なイヌの23.61倍であった。C14:2の組では、膵炎を患っているイヌが健康なイヌの75.23倍であった。C14:1の組では、膵炎を患っているイヌが健康なイヌの120.14倍であった。C14の組では、膵炎を患っているイヌが健康なイヌの2086.68倍であった。C16の組では、膵炎を患っているイヌが健康なイヌの7.30倍であった。C16:1の組では、膵炎を患っているイヌが健康なイヌの114.01倍であった。C18:2の組では、膵炎を患っているイヌは健康なイヌの4.08倍であった。中鎖アシルカルニチン(炭素数6~12)であるか、長鎖アシルカルニチン(炭素数が12よりも大きい)であるかに関わらず、いずれも健康なイヌと膵炎を患っているイヌを効果的に区別できることが示され、尿液においては、膵炎を患っているイヌの中鎖/長鎖アシルカルニチンの濃度は、健康なイヌの少なくとも約20倍以上であったため、確かにイヌの膵炎のバイオマーカーとして使用できる。
【0023】
上述の実験1及び実験2によれば、中鎖カルニチンは、健康なイヌと膵炎を患っているイヌにおける血清及び尿液における濃度に顕著な差異があることが分かり、特に、デカノイル‐L‐カルニチン(Decanoyl- L -carnitine, C10)、ドデセノイル‐L‐カルニチン(Dodecenoyl- L -carnitine, C12:1)及びドデカノイル(またはラウリル)-L-カルニチン(Dodecanoyl- L -carnitine, C12)は、尿液及び血清を検出する指標とすることができるため、イヌの膵炎を診断するためのバイオマーカーとして最適である。別の実施例では、長鎖アシルカルニチン中のテトラデカジエノイル‐L‐カルニチン(Tetradecadienoyl- L -carnitine, C14:2)も尿液及び血液のスクリーニングマーカーとして適している。また、尿液は、血液よりも生体から容易に取得することができ、侵襲的な方法で血液を取得する必要がない。したがって、試薬キットとしては、より便利に自宅で操作することができて医療採取機関に行く必要がなく、採血を必要とする従来のcPL測定技術に比べ、本発明が提供する測定方法又は試薬キットは、自宅段階に適しており、予め操作することができる。
【0024】
まとめると、本発明は、特殊なバイオマーカーを提供し、中鎖アシルカルニチン、長鎖アシルカルニチン又はそれらの組み合わせにより、イヌ科動物、例えば、イヌ科における膵炎発生の確率を正確に診断することができる。
【要約】
【課題】特殊なバイオマーカーの検体中の濃度を検出することによって、イヌ科動物の膵炎の可能性の診断を迅速に支援する、又はイヌ科動物の急性膵炎の重症度の判別を支援することができるイヌ科動物の膵炎を診断する方法及び試薬キット並びにイヌ科動物の膵炎の診断におけるアシルカルニチンの使用を提供する。
【解決手段】
まず、イヌ科動物の検体を提供する。その後、前記検体中のバイオマーカーの濃度を検出し、前記濃度が所定値よりも高い場合、前記イヌ科動物は、膵炎のリスクが高いと判定し、且つ前記バイオマーカーは、中鎖アシルカルニチン、長鎖アシルカルニチン又はそれらの組み合わせを指し、中鎖アシルは、炭素数6~12の鎖長を有するものを指し、長鎖アシルは、炭素数12を超える鎖長を有するものを指す。
【選択図】図2
図1
図2