(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-06-06
(45)【発行日】2025-06-16
(54)【発明の名称】電力需給計画作成装置及び方法
(51)【国際特許分類】
H02J 3/00 20060101AFI20250609BHJP
H02J 3/46 20060101ALI20250609BHJP
H02J 13/00 20060101ALI20250609BHJP
【FI】
H02J3/00 170
H02J3/46
H02J13/00 311R
(21)【出願番号】P 2021095394
(22)【出願日】2021-06-07
【審査請求日】2024-02-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000005108
【氏名又は名称】株式会社日立製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110002365
【氏名又は名称】弁理士法人サンネクスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】木下 喜仁
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 雅浩
(72)【発明者】
【氏名】加藤 大地
【審査官】佐藤 匡
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-346439(JP,A)
【文献】特開2020-031481(JP,A)
【文献】特開平07-015876(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02J 3/00
H02J 3/46
H02J 13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象とする電力系統における電力の需給計画を作成する電力需給計画作成装置において、
各時刻の各想定事故に対する前記電力系統の安定性を評価する系統安定性評価部と、
前記系統安定性評価部により不安定と評価された前記時刻及び前記想定事故の組合せでなる各不安定ケースについて、前記電力系統を安定化させる安定化対策を作成する系統安定化条件抽出部と、
前記系統安定化条件抽出部により作成された前記不安定ケースごとの前記安定化対策を、それぞれ安定化運用制約式に近似する近似制約条件作成部と、
前記近似制約条件作成部により近似された前記不安定ケースごとの前記安定化運用制約式をすべて満たすように前記需給計画を作成する需給計画作成部と
を備えることを特徴とする電力需給計画作成装置。
【請求項2】
前記需給計画作成部により作成された前記需給計画は前記系統安定性評価部に与えられ、
前記系統安定性評価部は、
前記需給計画作成部から与えられた前記需給計画における
各機器の運用状況に基づいて、各時刻の各前記想定事故に対する前記電力系統の安定性を評価し、
前記不安定ケースがなくなるまで前記系統安定化条件抽出部、前記近似制約条件作成部、前記需給計画作成部及び前記系統安定性評価部による処理が繰り返され、
前記需給計画作成部は、
前記系統安定化条件抽出部、前記近似制約条件作成部、前記需給計画作成部及び前記系統安定性評価部による処理が繰り返されるごとに前記近似制約条件作成部により累積的に作成されたすべての前記安定化運用制約式を満たすように前記需給計画を作成する
ことを特徴とする請求項1に記載の電力需給計画作成装置。
【請求項3】
前記系統安定化条件抽出部は、
前記不安定ケースごとに、特定
の機器を指定した前記安定化対策を作成し、
前記安定化対策に基づいて、任意の機器で前記電力系統の安定性に関する条件を制約する前記安定化運用制約式を作成する
近似制約作成部をさらに備える
ことを特徴とする請求項1に記載の電力需給計画作成装置。
【請求項4】
前記安定化運用制約式に含まれる閾値を、対応する前記安定化対策を適用後の前記電力系統の運用条件から算出する
近似制約作成部をさらに備える
ことを特徴とする請求項1に記載の電力需給計画作成装置。
【請求項5】
前記需給計画の変更点と、安定化確保のための変更理由とを表示する画面表示部を備える
ことを特徴とする請求項1に記載の電力需給計画作成装置。
【請求項6】
各時刻に想定される気象変化に応じた機器の出力変化又はインバランス量を想定外乱として、時刻ごと及び当該時刻の前記想定外乱ごとの前記電力系統の解析モデルをそれぞれ構築する想定外乱追加作成部を備え、
前記系統安定性評価部は、
前記想定外乱追加作成部により構築された各前記解析モデルも利用して各時刻の各想定事故に対する前記電力系統の安定性を評価する
ことを特徴とする請求項1に記載の電力需給計画作成装置。
【請求項7】
対象とする電力系統における電力の需給計画を作成する電力需給計画作成装置により実行される電力需給計画作成方法であって、
各時刻の各想定事故に対する前記電力系統の安定性を評価する第1のステップと、
不安定と評価した前記時刻及び前記想定事故の組合せでなる各不安定ケースについて、前記電力系統を安定化させる安定化対策を作成する第2のステップと、
作成した前記不安定ケースごとの前記安定化対策を、それぞれ安定化運用制約式に近似する第3のステップと、
近似した前記不安定ケースごとの前記安定化運用制約式をすべて満たすように前記需給計画を作成する第4のステップと
を備えることを特徴とする電力需給計画作成方法。
【請求項8】
作成した前記需給計画に基づいて各時刻の各想定事故に対する前記電力系統の安定性を評価する第5のステップをさらに備え、
前記不安定ケースがなくなるまで前記第2乃至第5のステップの処理が繰り返され、
前記第4のステップでは、
前記第2乃至第5のステップの処理が繰り返されるごとに前記第3のステップで累積的に作成されたすべての前記安定化運用制約式を満たすように前記需給計画を作成する
ことを特徴とする請求項7に記載の電力需給計画作成方法。
【請求項9】
前記第2のステップでは、
前記不安定ケースごとに、特定
の機器を指定した前記安定化対策を作成し、
前記第3のステップでは、
作成した前記安定化対策に基づいて、任意の機器で前記電力系統の安定性に関する条件を制約する前記安定化運用制約式を作成する
ことを特徴とする請求項7に記載の電力需給計画作成方法。
【請求項10】
前記第3のステップでは、
前記安定化運用制約式に含まれる閾値を、対応する前記安定化対策を適用後の前記電力系統の運用条件から算出する
ことを特徴とする請求項7に記載の電力需給計画作成方法。
【請求項11】
前記需給計画の変更点と、安定化確保のための変更理由とを表示する
ことを特徴とする請求項7に記載の電力需給計画作成方法。
【請求項12】
前記第2のステップでは、
各時刻に想定される気象変化に応じた機器の出力変化又はインバランス量を想定外乱として、時刻ごと及び当該時刻の前記想定外乱ごとの前記電力系統の解析モデルをそれぞれ構築し、
構築した各前記解析モデルも利用して各時刻の各想定事故に対する前記電力系統の安定性を評価する
ことを特徴とする請求項7に記載の電力需給計画作成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は電力需給計画作成装置及び方法に関し、特に、電力の需給計画を作成する電力需給計画作成装置に適用して好適なものである。
【背景技術】
【0002】
従来、電力の需給計画は、計画期間の各時刻における電力需要予測値に基づいて、各発電機や電力系統の運用上の制約を充足するように、電力需要に合わせた各発電機の運転・停止や発電機の出力を決定するようにして作成される。例えば、非特許文献1及び2には、このような需給計画の作成方法が開示されている。
【0003】
非特許文献1及び2に開示されているように、かかる需給計画は、電力の需要と供給が一致するという需給バランスや、起動時や停止後の発電機の状態を一定時間保持するという最小連続起動時間や最小停止時間など、各発電機や電力系統の運用上の制約を満たしながら、総発電コストが最小となるように算出される。
【0004】
この場合、例えば発電機が1台しかない場合であっても、発電機の起動及び停止という2つの状態を需給計画の時間断面数(n個とする)のすべてについて考慮するためには、2n通りの膨大な組合せの需給計画が考えられる。このため、かかる需給計画を算出するに際しては、膨大な需給計画の中から総発電コストを最小化する需給計画を短時間で決定可能な最適化手法が必須となる。
【0005】
一方、近年においては、出力が天候に依存する太陽光発電などの再生可能エネルギーを生成する大規模発電施設が電力系統に連系されている。この場合において、再生可能エネルギーの発電量が増加するほど、火力発電機などの既存電源の出力や起動台数を減らすこととなるが、電力系統を安定に運用するための既存の系統安定化システムは既存電源を調整対象とするため、既存電源の台数が少なくなるほど電力系統の安定化(系統安定化)が困難になる。
【0006】
系統安定化に関しては、送電線の地絡などの系統事故の擾乱後にも電力系統の安定性を維持する過渡安定性、需要や再生可能エネルギーの出力変動に伴う系統周波数の変動、系統電圧の変動や電圧管理幅内への維持などの問題が考えられるが、既存電源の起動台数の減少に伴い、これらの問題が顕著に発生する可能性がある。
【0007】
電力系統の安定性を考慮せずに需給計画を作成した場合には、上述の系統安定性が確保されておらず運用できないことが考えられるため、安定的な系統運用のため、需給計画においても系統安定性を考慮する必要がある。
【0008】
系統安定性を考慮した文献として非特許文献3があるが、この非特許文献3に開示された技術は特定時刻の一時点のみの発電機の出力調整等を対象としており、需給計画のように特定期間内の複数時点の発電機の起動状態(起動又は停止)や出力電力量については考慮されていない。
【0009】
この場合において、既存の需給計画である非特許文献1や非特許文献2に開示された技術と、非特許文献3に開示された技術とを組み合わせることにより、かかる考慮を行うことができるようになると考えられるが、考慮すべき事項の規模が膨大となり多大な演算時間を要する問題がある。
【0010】
また発電機の制御装置には出力飽和などの非線形特性が多く含まれているが、これらの文献では、電力系統を簡易化して考慮するため、電力系統の過渡的な特性を詳細に考えておらず、系統安定化を考慮するにあたり精度が劣化する懸念がある。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0011】
【文献】吉川元庸、澤敏之、中島宏、木下光夫、榑林芳之、中田祐司:「火力・揚水発電所の運用計画作成手法」,電学論B,114巻,12号(1994)
【文献】澤敏之、佐藤康生、鶴貝満男、大西司「潮流制約を考慮した火力、揚水、水力および融通の統合翌日運用計画作成」, IEEJ Trans.PE, Vol.128,No.10(2008)
【文献】Yan Xu, et al., ”Power system Transient Stability-ConstraintedOptimal Power Flow: A Comprehensive Revie”, IEEE Power and Energy SocietyGeneral Meeting, July, 2012
【文献】安齋邦顕、下村公彦、吉山総志、田中広幸、武石勝、佐々木孝志:「長距離大電力送電系統に適用したオンライン統合型系統安定化システム(ISC)の開発」,電気学会論文誌B(電力・エネルギー部門誌),VOl133,No.4 pp.313-323 (2013)
【文献】Alejandro Pizano-Martinez, et al., ”Global TransientStability-Constrained Optimal Power Flow Using an OMIB Rererence Trajectory”,IEEE TRANSACTIONS ON POWER SYSTEMS, VOL.25, NO.1, FEBRUARY, (2010)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
上述のように、電力系統に連結される再生可能エネルギーの増加に伴い、より重要となる電力系統の安定性を確保して安定的な電力運用を実現できる需給計画を作成する必要がある。一方で、既存の需給計画の作成手法で電力系統の安定性も考慮する場合には、電力系統の安定性の評価精度が低く、実用的でない膨大な演算時間を要するという問題がある。
【0013】
本発明は以上の点を考慮してなされたもので、電力系統の安定性を確保した上で演算時間が実用的な需給計画を作成し得る電力需給計画作成装置及び方法を提案しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
かかる課題を解決するため本発明においては、対象とする電力系統における電力の需給計画を作成する電力需給計画作成装置において、各時刻の各想定事故に対する前記電力系統の安定性を評価する系統安定性評価部と、前記系統安定性評価部により不安定と評価された前記時刻及び前記想定事故の組合せでなる各不安定ケースについて、前記電力系統を安定化させる安定化対策を作成する系統安定化条件抽出部と、前記系統安定化条件抽出部により作成された前記不安定ケースごとの前記安定化対策を、それぞれ安定化運用制約式に近似する近似制約条件作成部と、前記近似制約条件作成部により近似された前記不安定ケースごとの前記安定化運用制約式をすべて満たすように前記需給計画を作成する需給計画作成部とを設けるようにした。
【0015】
また本発明においては、対象とする電力系統における電力の需給計画を作成する電力需給計画作成装置により実行される電力需給計画作成方法であって、各時刻の各想定事故に対する前記電力系統の安定性を評価する第1のステップと、不安定と評価した前記時刻及び前記想定事故の組合せでなる各不安定ケースについて、前記電力系統を安定化させる安定化対策を作成する第2のステップと、作成した前記不安定ケースごとの前記安定化対策を、それぞれ安定化運用制約式に近似する第3のステップと、近似した前記不安定ケースごとの前記安定化運用制約式をすべて満たすように前記需給計画を作成する第4のステップとを設けるようにした。
【0016】
本発明の電力需給計画作成装置及び方法によれば、複雑な演算が必要な電力系統の特性を需給計画の演算時に考慮する必要がなくなり、実用的な演算時間で電力系統の安定性を確保した需給計画を作成することができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、電力系統の安定性を確保した上で演算時間が実用的な需給計画を作成し得る電力需給計画作成装置及び方法を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】第1の実施の形態による電力需給計画作成装置及び電力系統の構成例を示すブロック図である。
【
図2】各データベース及び各機能部の関連を示すブロック図である。
【
図3】第1の実施の形態による需給計画算出処理の処理手順を示すフローチャートである。
【
図4】安定化制約式算出処理の処理手順を示すフローチャートである。
【
図5】安定化運用制約条件情報の説明に供する図表である。
【
図6】需給計画の運用制約条件の具体的な一例を示す図である。
【
図7】第2の実施の形態による電力需給計画作成装置及び電力系統の構成例を示すブロック図である。
【
図8】第2の実施の形態による需給計画算出処理の処理手順を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下図面について、本発明の一実施の形態を詳述する。なお、以下に説明する実施の形態はあくまでも一例に過ぎず、具体的内容に発明自体が限定されることを意図するものではない。
【0020】
また、以下の説明において、同一又は類似の要素及び処理に同一の符号を付し、重複説明を省略する。また、後出の実施の形態では、既出の実施の形態との差異のみを説明し、重複説明を省略する。
【0021】
また、以下の実施の形態の説明及び各図で示す構成及び処理は、本発明の理解及び実施に必要な程度で実施の形態の概要を示すものであり、本発明に係る実施の態様を限定することを意図する趣旨ではない。また、各実施例の形態及び各変形例は、本発明の趣旨を逸脱せず、互いに整合する範囲内で、一部又は全部を組合せることができる。
【0022】
(1)第1の実施の形態
(1-1)本実施の形態の電力需給計画作成装置の構成
図1において、1は全体として本実施の形態による電力需給計画作成装置を示す。この電力需給計画作成装置1は、予め与えられた電力系統2に関する各種情報と、電力系統2から取得した各種計測情報とに基づいて電力系統2における電力の需給計画を作成する機能を有する装置である。
【0023】
電力系統2は、複数の発電機10及び負荷11が母線(ノード)12、変圧器13及び送電線路14等を介して相互に連系されたシステムである。母線12には、電力系統2の保護、制御及び監視の目的で各種の計測器(図示せず)が設置されており、これら計測器の計測結果が通信ネットワーク3を介して電力需給計画作成装置1に送信される。
【0024】
電力需給計画作成装置1は、内部バス20を介して相互に接続されたCPU(Central Processing Unit)21、メモリ22、記憶装置23、通信装置24、入力装置25及び表示装置26を備えた汎用のコンピュータ装置から構成される。
【0025】
CPU21は、電力需給計画作成装置1の動作を統括的に制御するプロセッサである。またメモリ22は、ROM(Read Only Memory)及びRAM(Random Access Memory)などの半導体メモリなどから構成され、CPU21のワーキングメモリとして利用される。
【0026】
記憶装置23は、例えばハードディスク装置やSSD(Solid State Drive)などの大容量の不揮発性の記憶装置から構成され、各種プログラムや長期的に保持すべきデータなどが格納される。記憶装置23に格納されたプログラムが電力需給計画作成装置1の起動時や必要時にメモリ22にロードされ、このプログラムをCPU21が実行することにより後述のような電力需給計画作成装置1全体としての各種処理が実行される。
【0027】
通信装置24は、例えばNIC(Network Interface Card)などから構成され、電力系統2内の各種計測器から送信されてきた計測結果を受信する受信処理を実行する。なお通信装置24は、かかる各種計測器のほか、気象庁又は気象情報提供会社などが保有する気象システムや、電力取引市場で電力取引を行うための電力市場システム、及び、VPP(Virtual Power Plant)のような複数の分散電源及び需要家を監視制御するアグリゲータのコンピュータ装置との通信も行う。
【0028】
入力装置25は、キーボードやマウスなどから構成され、ユーザが電力需給計画作成装置1に指示や情報を入力するために利用される。また表示装置26は、液晶ディスプレイや有機EL(Electro-Luminescence)ディスプレイから構成され、必要な各種情報を表示するために利用される。なお入力装置25及び表示装置26は、これらの機能が一体化したタッチパネルから構成されていてもよい。
【0029】
(1-2)本実施の形態による電力需給計画作成機能
次に、電力需給計画作成装置1に搭載された本実施の形態による電力需給計画作成機能について説明する。
【0030】
この電力需給計画作成機能は、対象とする電力系統2における各機器の運用状況に基づいて各時刻の各想定事故に対する電力系統の安定性をそれぞれ評価し、不安定と評価された時刻における電力系統2の運用条件と、想定事故との組合せ(以下、これを不安定ケースと呼ぶ)に対してそれぞれ電力系統2を安定化させるための安定化対策を作成し、作成した安定化対策ごとに当該安定化対策を近似した安定化運用制約式を作成し、作成した安定化運用制約式をすべて満たすように、数理最適化技術等を活用して需給計画を作成する機能である。
【0031】
このような電力需給計画作成機能により、複雑な演算が必要な電力系統2の特性を需給計画の演算時に考慮する必要がなくなり、実用的な演算時間で電力系統の安定性を確保した需給計画を作成することが可能となる。
【0032】
以上のような本実施の形態の電力需給計画作成機能を実現するための手段として、
図1及び
図2に示すように、本電力需給計画作成装置1の記憶装置23には、系統情報データベース30及び需給計画データベース40が格納され、メモリ22には、系統安定化需給計画部56を構成する初期需要計画作成部50、系統安定性評価部51、系統安定化条件抽出部52、近似制約条件作成部53、需給計画作成部54及び画面表示・結果保存部55が格納されている。
【0033】
そして系統情報データベース30には、電力系統2の構成や連系線の最大送電容量などの系統情報31と、電力系統2に想定される各種の系統事故(以下、これらを想定事故と呼ぶ)が発生した場合における電力系統2の安定性を評価するための各種系統擾乱ケースの情報である想定事故情報32とが格納されている。
【0034】
また需給計画データベース40には、発電機器情報41、定期点検情報42、需給情報43、調整力情報44、再生可能エネルギー情報45、初期需給計画情報46及び安定化運用制約条件情報47が格納されている。
【0035】
発電機器情報41は、電力系統2内に存在する各発電機の特性を表す情報であり、定期点検情報42は、発電機の定期点検に関する各種情報である。また需給情報43は、電力系統2に必要となる時刻ごとの発電量などの情報であり、調整力情報44は、想定状態からの変動を調整するための調整力に関する情報である。
【0036】
さらに再生可能エネルギー情報45は、電力系統2内の再生可能エネルギーの発電量や特性などの情報であり、初期需給計画情報46は、自他業者により事前に作成された需給計画の情報である。なお、初期需給計画情報46が需給計画データベース40に格納されていない場合もある。さらに安定化運用制約条件情報47は、安定化対策及び安定化運用制約式間の対応関係などを表す情報である。
【0037】
一方、初期需給計画作成部50は、記憶装置23に初期需給計画情報46が格納されている場合には、その初期需給計画情報46を読み出して系統安定性評価部51に提供し、記憶装置23に初期需給計画情報46が格納されていない場合には、電力系統2の安定性を考慮せずに初期の需給計画(以下、これを初期需給計画と呼ぶ)を作成してその情報を初期需給計画情報として系統安定性評価部51に提供する機能を有するプログラムである。
【0038】
また系統安定性評価部51は、記憶装置23に格納されている想定事故情報32に基づいて、電力系統2に想定事故が発生した場合における電力系統2の安定性を評価する機能を有するプログラムである。
【0039】
実際上、系統安定性評価部51は、初期需給計画作成部50から提供された初期需給計画情報46(初回のみ)や、後述する需給計画作成部54から提供された需給計画情報から各時刻における発電機の起動状態(起動又は停止)や出力電力量を抽出する。また系統安定性評価部51は、抽出したこれらの情報と、記憶装置23に格納されている系統情報31及び発電機器情報41とに基づいて、かかる各時刻の電力系統2の解析モデルをそれぞれ構築する。そして系統安定性評価部51は、構築した各時刻の解析モデルを用いて、電力系統2に想定事故が発生した場合の電力系統2の安定性を想定事故ごと及び時刻ごとにそれぞれ評価し、評価結果を系統安定化条件抽出部52に通知する。
【0040】
系統安定化条件抽出部52は、系統安定性評価部51により不安定と評価された不安定ケースごとの安定化対策をそれぞれ算出する機能を有するプログラムである。系統安定化条件抽出部52は、算出した不安定ケースごとの安定化対策を近似制約条件作成部53に通知する。
【0041】
近似制約条件作成部53は、系統安定化条件抽出部52から通知された不安定ケースごとの安定化対策を、後述のように需給計画作成部54が電力系統2の安定化を考慮した需給計画を作成する際に利用可能な安定化運用制約式にそれぞれ近似する機能を有するプログラムである。近似制約条件作成部53は、近似した不安定ケースごとの安定化運用制約式を需給計画作成部54に通知する。
【0042】
需給計画作成部54は、それまでに近似制約条件作成部53から通知されたすべての安定化運用制約式を満たすように需給計画を作成する機能を有するプログラムである。需給計画作成部54が作成した需給計画は系統安定性評価部51に通知され、この後、系統安定性評価部51、系統安定化条件抽出部52、近似制約条件作成部53及び需給計画作成部54において、すべての時刻のすべての想定事故について電力系統2が安定性を維持できる需給計画が作成されるまで、上述と同様の処理が繰り返される。
【0043】
画面表示・結果保存部55は、上述の系統安定性評価部51、系統安定化条件抽出部52、近似制約条件作成部53及び需給計画作成部54による繰返し処理により、すべての時刻のすべての想定事故について電力系統2が安定性を維持できる需給計画が作成された場合に、その需給計画を記憶装置23に保存したり、表示装置26に表示する機能を有するプログラムである。
【0044】
(1-3)本実施の形態の電力需給計画作成機能に関する処理の流れ
図3は、かかる電力需給計画作成機能に関連して電力需給計画作成装置1において実行される需給計画作成処理の具体的な流れを示す。この需給計画作成処理は、ユーザにより入力装置25(
図1)を介して需給計画作成処理の実行命令(以下、これを需給計画作成処理実行命令と呼ぶ)が入力されたことをトリガとして開始される。
【0045】
実際上、かかる需給計画作成処理実行命令が電力需給計画作成装置1に入力されると、まず、初期需給計画作成部50が、記憶装置23に格納されている系統情報31、発電機器情報41及び需給情報43に基づいて、電力系統2の安定性を考慮せずに初期需給計画を作成し、作成した初期需給計画の情報(初期需給計画情報)を系統安定性評価部51に出力する(S1)。ただし、上述のように事前に初期需給計画情報46が記憶装置23に格納されている場合には、初期需給計画作成部50は、この初期需給計画情報46を読み出して系統安定性評価部51に通知する。
【0046】
続いて、系統安定性評価部51が、初期需給計画作成部50から通知された初期需給計画情報に基づいて、電力系統2の各時刻の解析モデルを構築する(S2)。
【0047】
具体的に、系統安定性評価部51は、記憶装置23に格納されている系統情報31から送電線等のインピーダンスや接続関係などの電力系統の電気回路情報を抽出する。また系統安定性評価部51は、ステップS1で初期需給計画作成部50から与えられた初期需給計画情報、又は、後述のステップS9で需給計画作成部54より与えられた需給計画情報と、記憶装置23に格納されている定期点検情報42とに基づいて、各時刻に起動している各発電機及びその出力電力量を取得すると共に、これら起動している各発電機の動特性などの必要な情報を記憶装置23に格納されている発電機器情報41から抽出する。
【0048】
さらに系統安定性評価部51は、電力系統2内のすべての再生可能エネルギー発電施設に関する必要な情報を再生可能エネルギー情報45から取得すると共に、電力系統2内の各場所での需要家等の負荷に関する需給情報43と、電力系統2の調整力に関する調整力情報44とを記憶装置23から読み出す。
【0049】
そして系統安定性評価部51は、このようにして取得した各種情報に基づいて、時刻ごとのその時刻における運用状況に応じた電力系統2の解析モデルをそれぞれ構築する。
【0050】
次いで、系統安定性評価部51は、ステップS2で作成した各時刻の電力系統2の解析モデルを利用して各想定事故に対する電力系統2の安定性をそれぞれ評価する(S3)。具体的に、系統安定性評価部51は、記憶装置23から想定事故情報32を読み出し、ステップS2で構築した時刻ごとの電力系統2の解析モデルでその時刻の想定事故を発生させて、各時刻の電力系統2の運用状況に対して想定事故が発生した場合の電力系統2の過渡応答などを、かかる想定事故に対する電力系統2の安定性の評価結果として算出する。
【0051】
この後、系統安定性評価部51は、ステップS3で算出した各時刻における各想定事故に対する電力系統2の安定性の評価結果に基づいて、すべての時刻においてすべての想定事故で予め設定された系統安定性の基準(以下、これを系統安定性基準と呼ぶ)を満たしているか否か、つまりすべての時刻及びすべての想定事故発生後でも電力系統2が安定しているか否かを判断する(S4)。
【0052】
なお、かかる解析モデルを用いた想定事故に対する電力系統2の安定性の評価では、例えば非特許文献4に開示された既存の安定化システムを解析モデル上に模擬し、既存の安定化システムで安定化できない場合や、対策に多大なコストを要するなど望まれない動作になる場合も電力系統2が不安定であると判断するようにしてもよい。
【0053】
そして系統安定性評価部51は、ステップS4の判断で否定結果を得た場合には、電力系統2が不安定になった各ケース(不安定ケース)について、ステップS3で得られた系統安定性の評価結果を系統安定化条件抽出部52に通知する。
【0054】
系統安定化条件抽出部52は、系統安定性評価部51から系統安定性の評価結果が通知された各不安定ケースの中からステップS6以降が未処理の1つの不安定ケースを選択する(S5)。
【0055】
また系統安定化条件抽出部52は、ステップS5で選択した不安定ケース(以下、これを選択不安定ケースと呼ぶ)について、特定機器の出力や起動状態(起動又は停止)を調整するなどして電力系統2の状態を不安定な状態から安定な状態にするための安定化対策を算出する(S6)。この際、連続起動時間制約や出力変化速度などの複数時刻に影響する機器制約は後述するステップS9で考慮するものとし、このステップS6では考慮せず、各不安定ケースの安定化対策をそれぞれ独立して演算する。
【0056】
なお、かかる安定化対策の算出方法の例として非特許文献3や非特許文献5に開示された方法がある。これらの方法のように、電力系統2の動特性を微分方程式や差分方程式を示し、想定事故等の過渡応答が規定範囲内に収まるように、数理最適化技術を活用することにより、電力系統2の動特性を考慮しながら経済的な安定化対策を算出するようにしてもよい。
【0057】
また各機器の起動/停止まで調整する場合には、起動/停止の可否である0:停止、1:起動を示す離散変数uitを導入してuit=1の場合のみ出力Pitを有効とするPmaxuit≧Pitの制約条件を追加すればよい。また調整対象は同期発電機に限らずに、再生可能エネルギー設備などの分散電源の停止や出力抑制を含めてもよい。
【0058】
各機器の起動/停止まで調整した場合には、調整した対象時刻の機器運用対象想定事故で安定性を維持する最適な機器運用を算出することが可能となる。一方で、安定化対策における対策順位や方法が既に運用ルールとして決定している場合には、これらルールに基づいて安定化するまで対策を適用するようにしてもよい。これら安定化対策の抽出をステップSで不安定と評価された時刻の運用条件と系統事故とのそれぞれに実施する。
【0059】
なお、以上までの処理では、各時刻の運用条件において不安定となった想定事故ごとに安定化対策が算出されるため、それぞれの安定化対策で調整対象及び調整量などの内容が異なることや、対策前後の時刻間における出力や起動状態の連続的な運用制約条件も考慮できていない。
【0060】
このため次ステップ以降では、複数の特定した発電機器を調整対象とした各安定化対策を、指定エリアの慣性力や短絡容量が閾値以上など、特定機器ではなく任意の複数の発電機器で安定化の条件を満たすように、近似的な安定化運用制約式を作成する。これら近似的な安定化運用制約式を需給計画で考慮することで、上述のような連続的な運用制約も満たすとする。
【0061】
続いて、近似制約条件作成部53が、ステップS6で系統安定化条件抽出部52により算出された安定化対策を、電力系統2を安定的に運用するための上述の安定化運用制約式に近似する(S7)。
【0062】
図4は、このステップS7における近似制約条件作成部53の具体的な処理内容を示している。近似制約条件作成部53は、この
図4に示す処理手順に従って、まず、選択不安定ケースにおける不安定現象の種類を予め定められた幾つかの種類のうちのいずれかに分類する(S20)。
【0063】
このような不安定現象の種類としては、「過渡安定性」の劣化、「電圧安定性」の劣化、及び、「周波数安定性」の劣化などがある。「過渡安定性」については、発電機の内部位相差や脱調の有無などから判定され、「電圧安定性」については、電圧低下量や地点間の電圧位相差などに基づいて判定される。また「周波数安定性」については、電圧系統の周波数の変動量に基づいて判定される。
【0064】
続いて、近似制約条件作成部53は、需給計画算出処理のステップS6で算出された選択不安定ケースに対する安定化対策の適用の前後での運用条件の変化量の大きさ、つまり安定化のために調整された機器に対する変更点を抽出する(S21)。なお、かかる変更点としては、機器の起動又は停止、出力の変化、機器が送電線であれば潮流変化などが考えられる。機器により調整内容とその尺度が異なるため、調整された機器の調整内容により優先順位を設定し、優先順位が低い機器については無視するようにしてもよい。
【0065】
次いで、近似制約条件作成部53は、ステップS20での分類結果と、ステップS21で抽出した変更点(調整された機器及びその調整内容)とに基づき、記憶装置23に格納されている例えば
図5に示す構成の安定化運用制約条件情報47を参照して、安定化対策の分類を判定する(S22)。
【0066】
なお、この安定化運用制約条件情報47は、不安定現象の種類と、その不安定現象に対して算出された安定化対策と、その安定化対策の分類と、対応する安定化対策を近似した安定化運用制約式との対応関係を表す情報であり、ユーザ等により事前に作成される。
【0067】
図5の例の場合、例えば、不安定現象の種類が「過渡安定性」であり、その不安定現象に対して系統安定化条件抽出部52により算出された安定化対策が「不安定発電機の事前出力抑制(出力が不安定な発電機の出力を事前に抑制する)」であった場合、その安定化対策は「不安定発電機の事前出力抑制」というカテゴリに分類され、その安定化対策を近似した安定化運用制約式が「P
it≦P
it閾値(発電機(機器i)の有効電力出力P
itを既定の閾値P
it閾値以下に抑制する)」であることが示されている。
【0068】
なお
図5において、P
itは機器iの時刻tの有効電力出力を表し、P
it閾値は予め設定されたP
itの閾値を表す。またP
flow閾値は、対応する送電線の潮流に対して予め設定された閾値を表す。さらにMiは機器iの慣性定数を表し、u
itは、機器iの時刻tの起動の有無を表す「0(機器iが起動中)」又は「1(機器iが停止中)」の値をとる離散変数である。またM閾値は予め設定された対応するエリアの慣性力の閾値である。
【0069】
Yiは、発電機である機器iの背後インピーダンスを含み短絡電流を算出するアドミッタンスの係数ベクトルを表し、Vit refはその発電機の目標電圧、I閾値は対象とするエリアの短絡電流の閾値を表す。さらにFPTDFiは、機器iの出力から送電線潮流を算出する際の係数ベクトルを表す。
【0070】
Q事故後iは、機器iが事故後に制御応答性も考慮して供給可能な無効電力量を表す。この無効電力量は、分散電源等のインバータ機器は既存発電機と比べて小さい。またQ閾値は、対応する機器iに設定されている、かかる無効電力量の閾値を表す。さらにPbalance(Pit)は、出力に応じて機器iである発電機により時刻tに確保される周波数調整力の関数を表し、Pbalance閾値は、かかる周波数調整力に対して予め設定されている閾値を表す。
【0071】
因みに、ここでの安定化対策の分類及び次のステップS23で抽出する安定化運用制約式は、上述のステップS6やステップS21のように特定機器の調整ではなく、任意の複数の機器で安定化条件の制約式を満たすような安定化対策の分類と安定化運用制約式とする。
【0072】
続いて、近似制約条件作成部53は、ステップS22で判定した安定化対策の分類の判定結果に基づいて、その安定化対策に対する近似的な安定化運用制約式を安定化運用制約条件情報47から抽出する(S23)。
【0073】
なおステップS23で抽出される安定化運用制約式には、閾値が含まれる。このため近似制約条件作成部53は、ステップS23で抽出した安定化運用制約式に含まれる閾値を、選択不安定ケースについてステップS6での系統安定化条件抽出部52が算出した安定化対策を適用した後の運用条件から算出する(S24)。
【0074】
例えば、近似制約条件作成部53は、安定化対策の分類が「特定エリアの短絡容量が閾値以上」である場合には、安定化対策を適用後の運用条件を想定した電力系統2の解析モデルを構築し、構築した解析モデルを用いた解析結果から短絡容量を算出して、これを閾値(
図6の例ではI
閾値)として設定する。
【0075】
ここまでの処理によりすべての不完全ケースが完了していない場合には(S8:NO)、処理がステップS5に戻って、これ以降ステップS7で肯定結果が得られるまで、ステップS5~ステップS8の処理が繰り返される。
【0076】
そして、やがてすべての不完全ケースについての安定化対策が安定化運用制約式に近似され終えると(S8:YES)、需給計画作成部54が、それまでに得られた各不安定ケースの安定化運用制約式をすべて適用して需給計画を作成する(S9)。
【0077】
本実施の形態の場合、需給計画の作成は、各不安定ケースの安定化運用制約式をすべて満たしながら、発電コストなどの経済性指標(計画時間内におけるすべての発電機の発電コスト及び起動費)を表す次式
【数1】
で与えられる目的関数F(P,u)を最小化する各発電機の起動状態(起動又は停止)や発電出力を求める最適化問題を解くことにより行う。
【0078】
なお、(1)式において、Tendは需給計画の終端時刻、Ngenは発電機の台数、ai,bi,ciはi番目の発電機の発電コスト係数、Pitはi番目の発電機の時刻tの発電出力、uitは時刻tにおけるi番目の発電機の起動状態を表す「0」又は「1」の離散変数(起動は「1」、停止は「0」)、Δuitは時刻tにおけるi番目の発電機の起動開始時点を1、その他を0とする離散変数、SUCiはi番目の発電機の起動コストをそれぞれ表す。
【0079】
かかる最適化問題の運用制約条件として、
図6に示す運用制約条件に加えて、ここまでに得られたすべての安定化運用制約式を追加することで、電力系統2の安定性の改善や発電機器の運用を満たした上で発電コストを最小とする機器出力や起動状態となる需給計画を算出することができる。
【0080】
なお、(1)式の最適化問題は、「0」及び「1」の離散変数と、連続変数と、二次又は線形項とで構成されており数理最適化における混合整数計画問題と呼称される問題となっている。この混合整数計画問題は、非特許文献1及び非特許文献2に開示された手法や、商用の数理最適化ソルバーなど数理最適化手法を活用することで解くことができる。
【0081】
混合整数計画問題ではなく、最適化問題に複雑な関数が含まれる場合には、数理最適化手法の適用が困難であり、適用できた場合にも膨大な演算時間となる。電力系統2の安定化を考慮するにあたり、電力系統2における発電機などの動特性においては、伝達関数だけでなく出力飽和、三角関数、ことなる変数の積や除など非線形要素が強く複雑な関数を含むため、これら電力系統2の特性を数理最適化に適用することはできない。そこで本実施の形態においては、ステップS1~ステップS6の過程で電力系統2の動特性や安定性を評価し、電力系統2の安定性を近似した安定化運用制約式により最適化問題で考えることにより、電力系統2の安定化に要する複雑な演算を最適化問題で必要とせず、実用的な演算時間で系統安定性を満たす需給計画を作成することが可能となる。
【0082】
ステップS9で近似的な安定化運用制約式を追加して需給計画を算出した後は、算出した需給計画に基づいてステップS2及びステップS3を上述のように実行することにより、各時刻の解析モデルを構築し、すべての時刻においてすべての想定事故で予め設定された系統安定性基準を満たしているか否かを判断する。
【0083】
そして、満たしていなければステップS5~ステップS9を上述と同様に実行すると共に、この後、ステップS4で肯定結果を得るまでステップS2~ステップS9の処理を繰り返す。この際、近似制約条件作成部53がステップS7で算出した安定化運用制約式が累積的に順次追加されて需給計画が作成され、これにより前回の需給計画に比べて電力系統2の安全性が改善される。
【0084】
やがて、すべての時刻においてすべての想定事故で系統安定性基準を満たす需給計画が作成されることによりステップS4で肯定結果が得られた場合、画面表示・結果保存部55が、その需給計画を表示装置26(
図1)に表示すると共に、その情報を需給計画情報として記憶装置23(
図1)に格納する。また画面表示・結果保存部55は、かかる需給計画と初期需給計画との差異や、その差異がある時刻に該当する安定化運用制約式又は安定化対策の分類を表示装置26に表示することにより、需給計画の変更点と、安定化確保のための変更理由とをユーザに報告する(S10)。以上により、この需給計画算出処理が終了する。
【0085】
(1-4)本実施の形態の効果
以上のように本実施の形態の電力需給計画作成装置1では、時刻ごとの各想定事故に対する電力系統2の安定性をそれぞれ評価して不安定ケースを抽出し、抽出した不安定ケースごとの安定化対策をそれぞれ算出し、算出した安全化対策ごとにその安全化対策を近似した安定化運用制約式を算出し、算出した安定化運用制約式を利用し数理最適化技術等を活用して需給計画を作成する。
【0086】
よって、本電力需給計画作成装置1によれば、複雑な演算が必要な電力系統の非線形特性を需給計画の演算時に考慮する必要がなくなり、実用的な演算時間で電力系統2の安定性を確保した需給計画を作成することができる。
【0087】
また本電力需給計画作成装置1では、このような一連の処理を不安定ケースがなくなるまで繰り返すが、繰返しごとに不安定ケースの安定化運用制約式が追加されて不安定領域が除外され限定された領域の中から最適解を抽出する。一部の計画を修正しながら安定性のある需給計画を作成するよりも最適性の改善ができ、経済性も向上させることができると共に、繰返しにより安定性の精度を確保することができる。
【0088】
さらに本電力需給計画作成装置1によれば、初期の発電機運用制約と経済性のみを考慮した需給計画に対して、繰返しごとに特定される不安定現象及びその安定化対策の分類によりどのような観点で安定性を確保した需給計画が作成されたが示されるため、需給計画における説明性を得ることもできる。
【0089】
(2)第2の実施の形態
図1との対応部分に同一符号を付して示す
図7は、第2の実施の形態による電力需給計画作成装置60を示す。この電力需給計画作成装置60は、プログラムとして想定外乱追加作成部61が追加されている点と、これに伴って系統安定性評価部62及び画面表示・結果保存部63の一部機能がそれぞれ異なる点とを除いて第1の実施の形態による電力需給計画作成装置1と同様に構成されている。
【0090】
想定外乱追加作成部61は、初期需給計画作成部50により作成された初期需給計画又は需給計画作成部54により作成された需給計画と、各時刻に想定される気象変化に応じた機器の出力変化又はインバランス量を想定外乱として、時刻ごと及び想定外乱ごとの電力系統2の解析モデルをそれぞれ構築して系統安定性評価部62に出力する機能を有するプログラムである。
【0091】
そして系統安定性評価部62は、想定外乱追加作成部61から与えられた時刻ごと及び想定外乱ごとの電力系統2の解析モデルと、初期需給計画作成部50により作成された初期需給計画又は需給計画作成部54により作成された需給計画に基づいて構築した時刻ごと及び想定事故ごとの解析モデルとに基づいて、時刻、想定事故及び想定外乱の組合せごとの電力系統2の安定性を評価する。また画面表示・結果保存部63は、想定外乱追加作成部61により追加された想定外乱を追加したケースも含めて結果を表示装置26に表示したり、記憶装置23に保存する。
【0092】
図8は、以上のような機能(電力需給計画作成機能)に関連して本実施の形態の電力需給計画作成装置60において実行される需給計画作成処理の具体的な流れを示す。この需給計画作成処理は、ユーザにより入力装置25を介して需給計画作成処理の実行命令(需給計画作成処理実行命令)が入力されたことをトリガとして開始される。
【0093】
実際上、かかる需給計画作成処理実行命令が電力需給計画作成装置60に入力されると、まず、初期需給計画作成部50が、記憶装置23に格納されている系統情報31、発電機器情報41及び需給情報43に基づいて、電力系統2の安定性を考慮せずに初期需給計画を作成し、作成した初期需給計画の情報(初期需給計画情報)を系統安定性評価部51及び想定外乱追加作成部61に出力する(S30)。ただし、上述のように事前に初期需給計画情報46が記憶装置23に格納されている場合には、初期需給計画作成部50は、この初期需給計画情報46を読み出して系統安定性評価部51及び想定外乱追加作成部61に通知する。
【0094】
続いて、系統安定性評価部62及び想定外乱追加作成部61が、時刻ごとの電力系統2の解析モデルをそれぞれ構築する(S31)。
【0095】
実際上、系統安定性評価部62は、
図3のステップS2と同様にして、初期需給計画作成部50から通知された初期需給計画情報に基づいて、電力系統2の各時刻の解析モデルを構築する(S31A)。
【0096】
またこれと並行して、想定外乱追加作成部61は、需給計画で起動予定の機器に関して、天候や温度変化などの種々パターンの状況変化に対応させて、これら状況変化ごとのその状況変化が発生した場合における電力系統2の各時刻の解析モデルをそれぞれ構築し、構築した各時刻の各解析モデルを系統安定性評価部62に出力する(S31B)。
【0097】
具体的に、ステップS30又は後述のステップS38で作成される需給計画には、太陽光発電システムや風力発電装置などの気象の影響を受けて発電量が変化する機器が存在するため、想定外乱追加作成部61は、まず、気象変化に基づき出力が変化する機器の起動期間をその需給計画から抽出する。
【0098】
次に、想定外乱追加作成部61は、抽出した気象情報での降水確率などの確率要素に基づいて、上述の起動期間において、気象(天候及び気候)が変化した場合における気象の影響を受けて発電量が変化する各機器の出力をそれぞれ算出する。
【0099】
なお、天候や気候の変化を想定する手法としては、予め各時刻における気象変化の確率分布を予測手法により算出しておき、確率に基づいて天候の変化のシナリオを作成するモンテカルロ・シミュレーションを適用すればよい。
【0100】
太陽光発電システムや風力発電装置などの再生可能エネルギー発電機器においては、天候に応じて最大限発電する最大電力追従(MPPT:Maximum Power Point Tracking)制御が適用されるため、ステップS30やステップS38での出力がMPPT制御による出力よりも大きければ出力を各天候シナリオに応じたMPPT制御による出力とすればよい。
【0101】
一方で、蓄電池と再生可能エネルギー発電機器などの複数の機器で構成されている電源においては、これら電源の解析モデルを構築し、上述の気象シナリオごとに解析モデルを通じて出力を算出するようにしてもよい。なお、簡易的な解析モデルは、電力市場価格の安い時刻はMPPT制御に応じた再生可能エネルギー発電機器の発電出力で蓄電池を充電し、電力市場価格の高い時刻は再生可能エネルギー発電機器の発電出力及び蓄電池の放電を行うものとして構築すればよい。これらの出力の算出は、再生可能エネルギー発電機器の特性が既知として、気象シナリオに応じた機器の出力を算出している。
【0102】
これに対して、かかる再生可能エネルギー発電機器の特性が不明である場合には、過去の気象情報とそのときにおける計画出力と実出力との誤差であるインバランス量の関係性を重回帰分析や深層学習などの手法を活用して学習した学習モデルを作成し、気象シナリオに応じたインバランス量を学習モデルで算出すればよい。このインバランス量を算出した場合には、ステップS30やステップS38での出力に対してインバランス量だけ増減した出力とすればよい。
【0103】
そして、この気象シナリオに応じた機器出力について、第1の実施の形態と同様に、需給運用条件を満たすように他の機器をも含めて出力の再調整、時刻ごとの運用状況に応じた電力系統2のそれぞれ解析モデルを構築する。
【0104】
続いて、系統安定性評価部62が、ステップS31Aで作成した各時刻における電力系統2の解析モデルと、ステップS31Bで作成した時刻ごとの運用状況に応じた電力系統2の各解析モデルとを利用して、各想定事故に対する電力系統2の安定性をそれぞれ評価する(S32)。
【0105】
具体的に、系統安定性評価部62は、記憶装置23から想定事故情報32を読み出し、ステップS31Aで作成した時刻ごとの電力系統2の解析モデルと、ステップS31Bで作成した時刻ごとの電力系統2の解析モデルとのそれぞれで想定事故を発生させて、各時刻の電力系統2の運用状況に対して想定事故が発生した場合の電力系統2の過渡応答などを、かかる想定事故に対する電力系統2の安定性の評価結果として算出する。
【0106】
この後、
図3について上述した第1の実施の形態の需給計画算出処理のステップS4~ステップS9と同様にステップS33~ステップS38が実行されて需給計画が作成され、その後、作成した需給計画に基づいてステップS31及びステップS32を上述のように実行することにより、各時刻の解析モデルを構築し、すべての時刻においてすべての想定事故で予め設定された系統安定性基準を満たしているか否かを判断する(S33)。
【0107】
そして、満たしていなければステップS34~ステップS38を上述と同様に実行すると共に、この後、ステップS33で肯定結果を得るまでステップS31~ステップS38の処理を繰り返す。この際、近似制約条件作成部53がステップS36で算出した安定化運用制約式が順次追加されて需給計画が作成され、これにより前回の需給計画に比べて電力系統2の安全性が改善される。
【0108】
そして、やがて、すべての時刻においてすべての想定事故で系統安定性基準を満たす需給計画が作成されることによりステップS33で肯定結果が得られた場合、画面表示・結果保存部55が、その需給計画を表示装置26(
図7)に表示すると共に、その情報を需給計画情報として記憶装置23(
図7)に格納する。また画面表示・結果保存部55は、かかる需給計画と初期需給計画との差異や、その差異がある時刻に該当する安定化運用制約式又は安定化対策の分類を表示装置26に表示することにより、需給計画の変更点と、安定化確保のための変更理由をユーザに報告する(S39)。以上により、この需給計画算出処理が終了する。
【0109】
以上の本実施の形態の電力需給計画作成装置60によれば、気象状況に応じて変化する各機器の出力又はインバランス量をも考慮しながら、電力系統の安定性を考慮した需給計画を作成することができる。この場合において、天候に応じた機器出力やインバランス量の算出には、重回帰分析や深層学習などの非線形要素を含む手法を活用するが、需給計画作成時に活用される数理最適化でこれら非線形要素を考慮することは困難である。この点について、本実施の形態の電力需給計画作成装置60によれば、第1の実施の形態により得られる効果に加えて、需給計画の機器運用に応じた想定外乱を考慮できるという効果をも得ることができる。
【0110】
(3)他の実施の形態
なお上述の第1及び第2の実施の形態においては、電力需給計画作成装置1,60を1つのコンピュータ装置により構成するようにした場合について述べたが、本発明はこれに限らず、かかる電力需給計画作成装置1,60の機能を、分散コンピューティングシステムを構成する複数のコンピュータ装置に分散して搭載するようにしてもよい。
【0111】
また上述の第1及び第2の実施の形態においては、
図3について上述した第1の実施の形態の需給計画算出処理のステップS3~ステップS7の処理や、
図8について上述した第2の実施の形態の需給計画算出処理のステップS32~ステップS36の処理を1台の電力需給計画作成装置1,60により実行するようにした場合について述べたが、本発明はこれに限らず、ステップS2やステップS31で作成した各時刻の解析モデルを用いた時刻ごと及び想定事故ごとの電力系統2の安定性の評価は、各評価で独立した処理であるため、複数のコンピュータ装置により並列的に実行するようにしてもよい。このようにすることによって、より演算時間の短縮化を図ることができる。
【産業上の利用可能性】
【0112】
本発明は、対象とする電力系統における電力の需給計画を作成する種々の構成の電力需給計画作成装置に広く適用することができる。
【符号の説明】
【0113】
1,60……電力需給計画作成装置、2……電力系統、21……CPU、31……系統情報、32……想定事故情報、41……発電機器情報、42……定期点検情報、43……需給情報、44……調整力情報、45……再生可能エネルギー情報、46……初期需給計画情報、47……安定化運用制約条件情報、50……初期需給計画作成部、51,62……系統安定性評価部、52……系統安定化条件抽出部、53……近似制約条件作成部、54……需給計画作成部、55,63……画面表示・結果保存部、61……想定外乱追加作成部。