(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-06-06
(45)【発行日】2025-06-16
(54)【発明の名称】熱電変換用n型材料及びその製造方法、ドーパント並びに熱電変換素子
(51)【国際特許分類】
H10N 10/855 20230101AFI20250609BHJP
H10N 10/856 20230101ALI20250609BHJP
H10N 10/857 20230101ALI20250609BHJP
H10N 10/01 20230101ALI20250609BHJP
【FI】
H10N10/855
H10N10/856
H10N10/857
H10N10/01
(21)【出願番号】P 2022524541
(86)(22)【出願日】2021-05-20
(86)【国際出願番号】 JP2021019217
(87)【国際公開番号】W WO2021235526
(87)【国際公開日】2021-11-25
【審査請求日】2023-06-13
(31)【優先権主張番号】P 2020088730
(32)【優先日】2020-05-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003296
【氏名又は名称】デンカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100185591
【氏名又は名称】中塚 岳
(72)【発明者】
【氏名】櫻井 康成
(72)【発明者】
【氏名】山田 雅英
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 淳
【審査官】加藤 俊哉
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-157942(JP,A)
【文献】特開2015-115447(JP,A)
【文献】国際公開第2018/012372(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/155046(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/208753(WO,A1)
【文献】特開2019-204927(JP,A)
【文献】特開2018-137399(JP,A)
【文献】国際公開第2015/198980(WO,A1)
【文献】国際公開第2014/178284(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H10N 10/855
H10N 10/856
H10N 10/857
H10N 10/01
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
カーボンナノチューブ及び導電性樹脂を含有する熱電変換用p型材料にドーパントをドープしてなる熱電変換用n型材料であって、
前記ドーパントが、
鉄原子を含む錯イオンであるアニオンと、アルカリ金属カチオンと、カチオン捕捉剤とを含有する、熱電変換用n型材料。
【請求項2】
前記アニオンが、フェロシアン化物イオン、フェリシアン化物イオン、テトラクロロ鉄(III)酸イオン及びテトラクロロ鉄(II)酸イオンからなる群より選択される、請求項1に記載の熱電変換用n型材料。
【請求項3】
前記熱電変換用n型材料中の前記鉄原子の含有量が0.001質量%~15質量%である、請求項1又は2に記載の熱電変換用n型材料。
【請求項4】
前記カチオン捕捉剤が、クラウンエーテル系化合物である、請求項1~3のいずれか一項に記載の熱電変換用n型材料。
【請求項5】
前記カチオン捕捉剤が、分子内にベンゼン環を有するクラウンエーテル系化合物である、請求項1~4のいずれか一項に記載の熱電変換用n型材料。
【請求項6】
前記導電性樹脂が、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)と電子受容体とから構成されている、請求項1~5のいずれか一項に記載の熱電変換用n型材料。
【請求項7】
カーボンナノチューブ及び導電性樹脂を含有する熱電変換用p型材料にドープされ、前記熱電変換用p型材料をn型化するドーパントであって、
鉄原子を含む錯イオンであるアニオンと、アルカリ金属カチオンと、カチオン捕捉剤とを含有する、ドーパント。
【請求項8】
カーボンナノチューブ及び導電性樹脂を含有する熱電変換用p型材料にドーパントをドープする工程を含み、
前記ドーパントが、
鉄原子を含む錯イオンであるアニオンと、アルカリ金属カチオンと、カチオン捕捉剤とを含有する、熱電変換用n型材料の製造方法。
【請求項9】
前記工程が、
前記熱電変換用p型材料の少なくとも一部に、前記ドーパント及び溶剤を含有するドーパント溶液を含浸させる含浸工程と、
前記溶剤を除去する溶剤除去工程と、
を含む、請求項8に記載の熱電変換用n型材料の製造方法。
【請求項10】
前記工程が、
前記熱電変換用p型材料を含有する樹脂層の一部に、前記ドーパント及び溶剤を含有するドーパント溶液を含浸させる含浸工程と、
前記溶剤を除去して、前記熱電変換用p型材料と熱電変換用n型材料とを含有する熱電変換層を得る溶剤除去工程と、
を含む、請求項8に記載の熱電変換用n型材料の製造方法。
【請求項11】
請求項1~6のいずれか一項に記載の熱電変換用n型材料を含む、熱電変換素子。
【請求項12】
前記熱電変換用p型材料を更に含む、請求項11に記載の熱電変換素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱電変換用n型材料及びその製造方法、ドーパント並びに熱電変換素子に関する。
【背景技術】
【0002】
熱電変換はゼーベック効果を利用して熱を直接電気に変換する技術であり、化石燃料を使用した際に生じる廃熱等を電気に変換するエネルギー回収技術として注目されている。
【0003】
上記分野で用いられる熱電変換素子は、p型導電性を示す材料およびn型導電性を示す材料の両方を備えた双極型の素子であることが好ましいが、ナノ材料にはp型導電性を示すものが多い。そのため、p型導電性を示すナノ材料を、n型導電性を示すナノ材料に変換する技術が求められている。
【0004】
例えば、特許文献1には、p型導電性を示すナノ材料をn型導電性を示すナノ材料へと変換するn型ドーパントが開示されている。
【0005】
なお、ナノ材料がp型導電性を示すかn型導電性を示すかは、ゼーベック係数の正負により判別することができる(ゼーベック係数が正のとき、ナノ材料はp型導電性を示し、ゼーベック係数が負のとき、ナノ材料はn型導電性を示す)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、優れた熱電変換性能を有する熱電変換素子及びそれを実現可能な熱電変換用n型材料を提供することを目的とする。また、本発明は、上記熱電変換用n型材料を形成可能な新規ドーパント及び上記熱電変換用n型材料の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一側面は、カーボンナノチューブ及び導電性樹脂を含有する熱電変換用p型材料にドーパントをドープしてなる熱電変換用n型材料であって、上記ドーパントが、錯イオンであるアニオンと、アルカリ金属カチオンと、カチオン捕捉剤とを含有する、熱電変換用n型材料に関する。
【0009】
一態様において、上記アニオンは、フェロシアン化物イオン、フェリシアン化物イオン、テトラクロロ鉄(III)酸イオン及びテトラクロロ鉄(II)酸イオンからなる群より選択されてよい。
【0010】
一態様において、上記アニオンは鉄原子を含んでいてよく、上記熱電変換用n型材料中の上記鉄原子の含有量は0.001質量%~15質量%であってよい。
【0011】
一態様において、上記カチオン捕捉剤は、クラウンエーテル系化合物であってよい。
【0012】
一態様において、上記カチオン捕捉剤は、分子内にベンゼン環を有するクラウンエーテル系化合物であってよい。
【0013】
一態様において、上記導電性樹脂は、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)と電子受容体とから構成されていてよい。
【0014】
本発明の他の一側面は、カーボンナノチューブ及び導電性樹脂を含有する熱電変換用p型材料にドープされ、上記熱電変換用p型材料をn型化するドーパントであって、錯イオンであるアニオンと、アルカリ金属カチオンと、カチオン捕捉剤とを含有する、ドーパントに関する。
【0015】
本発明の更に他の一側面は、カーボンナノチューブ及び導電性樹脂を含有する熱電変換用p型材料にドーパントをドープする工程を含み、上記ドーパントが、錯イオンであるアニオンと、アルカリ金属カチオンと、カチオン捕捉剤とを含有する、熱電変換用n型材料の製造方法に関する。
【0016】
一態様において、上記工程は、上記熱電変換用p型材料の少なくとも一部に、上記ドーパント及び溶剤を含有するドーパント溶液を含浸させる含浸工程と、上記溶剤を除去する溶剤除去工程と、を含んでいてよい。
【0017】
一態様において、熱電変換用p型材料にドーパントをドープする工程は、上記熱電変換用p型材料を含有する樹脂層の一部に、上記ドーパント及び溶剤を含有するドーパント溶液を含浸させる含浸工程と、上記溶剤を除去して、上記熱電変換用p型材料と熱電変換用n型材料とを含有する熱電変換層を得る溶剤除去工程と、を含んでいてよい。
【0018】
本発明の更に他の一側面は、上記熱電変換用n型材料を含む、熱電変換素子に関する。
【0019】
一態様において、上記熱電変換素子は、上記熱電変換用p型材料を更に含んでいてよい。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、優れた熱電変換性能を有する熱電変換素子及びそれを実現可能な熱電変換用n型材料を提供することができる。また、本発明によれば、上記熱電変換用n型材料を形成可能な新規ドーパント及び上記熱電変換用n型材料の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。
【0022】
<熱電変換用n型材料>
本実施形態の熱電変換用n型材料は、熱電変換用p型材料にドーパントをドープしてなる。
【0023】
(熱電変換用p型材料)
熱電変換用p型材料は、カーボンナノチューブ及び導電性樹脂を含有する。
【0024】
カーボンナノチューブは、単層、二層及び多層のいずれであってもよく、熱電変換材料の電気伝導率が一層向上する観点からは、単層が好ましい。
【0025】
カーボンナノチューブは単層カーボンナノチューブを含むことが好ましい。カーボンナノチューブの全量に対する単層カーボンナノチューブの含有割合は、例えば25質量%以上が好ましく、50質量%以上がより好ましく、100質量%であってもよい。すなわち、カーボンナノチューブの全量に対する単層カーボンナノチューブの含有割合は、例えば、25~100質量%又は50~100質量%であってよい。
【0026】
単層カーボンナノチューブの直径は特に限定されないが、例えば20nm以下であってよく、好ましくは10nm以下、より好ましくは3nm以下である。なお、単層カーボンナノチューブの直径の下限に特に制限はなく、例えば0.4nm以上であってよく、0.5nm以上であってもよい。すなわち、単層カーボンナノチューブの直径は、例えば0.4~20nm、0.4~10nm、0.4~3nm、0.5~20nm、0.5~10nm又は0.5~3nmであってよい。
【0027】
本明細書中、単層カーボンナノチューブの直径は、ラマン分光によって100~300cm-1に現れるピークの波数(ω(cm-1))から、直径(nm)=248/ωの式で求めることができる。
【0028】
単層カーボンナノチューブの評価方法として、レーザーラマン分光におけるG/D比が知られている。本実施形態において、単層カーボンナノチューブは、波長532nmのレーザーラマン分光におけるG/D比が10以上であることが好ましく、20以上であることがより好ましい。このような単層カーボンナノチューブを用いることで、電気伝導率に一層優れる熱電変換材料が得られる傾向がある。なお、上記G/D比の上限は特に限定されず、例えば500以下であってよく、300以下であってもよい。すなわち、上記G/D比は、例えば10~500、10~300又は20~500、20~300であってよい。
【0029】
カーボンナノチューブの含有量は、熱電変換用p型材料100質量部に対して、例えば20質量部以上であってよく、好ましくは30質量部以上であり、より好ましくは40質量部以上である。
【0030】
また、カーボンナノチューブの含有量は、熱電変換用p型材料100質量部に対して、例えば99質量部以下であってよく、好ましくは95質量部以下であり、より好ましくは90質量部以下である。すなわち、カーボンナノチューブの含有量は、熱電変換用p型材料100質量部に対して、例えば20~99質量部、20~95質量部、20~90質量部、30~99質量部、30~95質量部、30~90質量部、40~99質量部、40~95質量部又は40~90質量部であってよい。
【0031】
本実施形態の導電性樹脂は、特に限定されず、熱電変換用p型材料に使用される公知の導電性樹脂を特に制限なく使用できる。導電性樹脂としては、例えば、ポリアニリン系導電性高分子、ポリチオフェン系導電性高分子、ポリピロール系導電性高分子、ポリアセチレン系導電性高分子、ポリフェニレン系導電性高分子、ポリフェニレンビニレン系導電性高分子等を含むものが挙げられる。ポリチオフェン系導電性高分子としては、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)が例示できる。
【0032】
本実施形態の導電性樹脂としては、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)(以下、PEDOTと表す場合がある。)と電子受容体とから構成された導電性樹脂が好ましい。このような導電性樹脂であると、熱電変換材料の電気伝導率がより高くなる傾向がある。
【0033】
電子受容体としては、ポリスチレンスルホン酸、ポリビニルスルホン酸、ポリ(メタ)アクリル酸、ポリビニルスルホン酸、トルエンスルホン酸、ドデシルベンゼンスルホン酸、カンファースルホン酸、スルホコハク酸ビス(2-エチルヘキシル)、塩素、臭素、ヨウ素、5フッ化リン、5フッ化ヒ素、3フッ化ホウ素、塩化水素、硫酸、硝酸、テトラフルオロホウ酸、過塩素酸、塩化鉄(III)、テトラシアノキノジメタン等が挙げられる。熱電変換材料の電気伝導率がより向上する観点から、電子受容体としては、ポリスチレンスルホン酸(以下、PSSと表す場合がある。)が好ましい。
【0034】
(ドーパント)
本明細書において、ドーパントとは、当該ドーパントがドープされる対象となる材料のゼーベック係数を変化させる物質を意図している。
【0035】
本明細書において、「ゼーベック係数を変化させる」とは、ゼーベック係数の値を減少させること、又は、ゼーベック係数の値を正の値から負の値へと変化させることを意図する。ゼーベック係数が正の値を示す熱電変換材料はp型導電性を有し、ゼーベック係数が負の値を示す熱電変換材料はn型材料を有している。ゼーベック係数は、例えば、後述する実施例における測定方法で測定でき、その測定値の正負から、熱電変換材料の極性を判断できる。
【0036】
本実施形態のドーパントは、錯イオンであるアニオン(以下、単に「アニオン」ともいう。)と、アルカリ金属カチオン(以下、単に「カチオン」ともいう。)と、カチオン捕捉剤(以下、単に「捕捉剤」ともいう。)とを含有する。上記ドーパントをp型導電性を示すカーボンナノチューブにドープすることによって、当該カーボンナノチューブのゼーベック係数を変化させ、n型導電性を示すカーボンナノチューブを得ることができる。
【0037】
上述の効果が奏される理由は特に限定されないが、ドーパントに含まれる捕捉剤がカチオンを捕捉することによりアニオンを解離させ、当該アニオンが、カーボンナノチューブのキャリアを正孔から電子へと変化させることが一因と考えられる。このとき、本実施形態では、アニオンが中心に金属原子を有する錯イオンであるため、当該金属原子とカーボンナノチューブとの相互作用によって顕著にn型化すると考えられる、また、錯イオンはイオンサイズが大きいため、捕捉剤に捕捉されたカチオンとの解離性が良好であることも上記効果が奏される一因とも考えられる。
【0038】
また、本実施形態のドーパントはアニオンが錯イオンであるため、熱電変換用n型材料に錯イオンに由来する金属原子が残存する。このため、本実施形態では、熱電変換用n型材料中に残存した金属原子が酸化防止剤として機能し、時間経過による物性変化が抑制され、保管安定性が向上するという効果も奏される。
【0039】
錯イオンであるアニオンとしては、フェロシアン化物イオン、フェリシアン化物イオン、テトラクロロ鉄(III)酸イオン、テトラクロロ鉄(II)酸イオン、テトラシアノニッケル酸(II)イオン、テトラクロロニッケル酸(II)イオン、テトラシアノコバルト(II)酸イオン、テトラクロロコバルト酸(II)イオン、テトラシアノ銅(I)酸イオン、テトラクロロ銅(II)酸イオン、ヘキサシアノクロム(III)イオン、テトラヒドロキシド亜鉛(II)酸イオン及びテトラヒドロキシドアルミン(III)酸イオンからなる群より選択されるアニオンであってよい。これらの中では、フェロシアン化物イオンが好ましい。上記アニオンがフェロシアン化物イオンであると、より良好な特性を有する熱電変換用n型材料が得られる。また、アニオンがフェロシアン化物イオンであると、熱電変換用n型材料に残存する鉄原子が酸化防止剤として好適に機能し、時間経過による物性変化がより抑制され、保管安定性がより向上する傾向がある。
【0040】
錯イオンであるアニオンは、鉄原子を含んでいてよく、例えばフェロシアン化物イオン、フェリシアン化物イオン、テトラクロロ鉄(III)酸イオン及びテトラクロロ鉄(II)酸イオンからなる群より選択されることが好ましい。より良好な特性を有する熱電変換用n型材料が得られることから、鉄原子を含む上記アニオンはフェロシアン化物イオンであることが好ましい。また、熱電変換用n型材料中の上記鉄原子の含有量は、酸化防止効果の観点から、0.001質量%~15質量%が好ましく、0.005質量%~12質量%がより好ましく、0.01質量%~10質量%が更に好ましい。熱電変換用n型材料中の上記鉄原子の含有量は、例えば0.001~12質量%、0.001~10質量%、0.005~15質量%、0.005~10質量%、0.01~15質量%又は0.01~12質量%であってよい。なお、本明細書中、鉄原子の含有量は、走査型電子顕微鏡(SEM)-エネルギー分散型X線分光(EDS)で測定される値を示す。
【0041】
アニオンは、錯塩がドーパント溶液中で解離して生じるアニオンであってよい。錯塩としては、フェロシアン化カリウム、フェロシアン化ナトリウム、フェリシアン化カリウム、フェリシアン化ナトリウム、テトラクロロ鉄(III)酸カリウム、テトラクロロ鉄(III)酸ナトリウム、テトラクロロ鉄(II)酸カリウム、テトラクロロ鉄(II)酸ナトリウム等が挙げられる。錯塩は、水和物であってもよい。
【0042】
アルカリ金属カチオンとしては、ナトリウムイオン、カリウムイオン、及びリチウムイオン等が挙げられる。
【0043】
カチオン捕捉剤は、カチオンを取り込む能力を有する物質であれば特に限定されない。例えば、クラウンエーテル系化合物、シクロデキストリン、カリックスアレーン、エチレンジアミン四酢酸、ポルフィリン、フタロシアニンおよびそれらの誘導体等が挙げられる。有機溶媒中においては、クラウンエーテル系化合物を用いることが好ましい。
【0044】
クラウンエーテル系化合物としては、15-クラウン-5-エーテル、18-クラウン-6-エーテル、12-クラウン-4-エーテル、ベンゾ-18-クラウン-6-エーテル、ベンゾ-15-クラウン-5-エーテル、ベンゾ-12-クラウン-4-エーテル等が挙げられる。捕捉剤として使用するクラウンエーテルは、取り込む対象となる金属イオンのサイズに合わせて、環のサイズを選択すればよい。例えば金属イオンがカリウムイオンである場合は、18員環のクラウンエーテルが好ましく、金属イオンがナトリウムイオンである場合は、15員環のクラウンエーテルが好ましく、金属イオンがリチウムイオンである場合は、12員環のクラウンエーテルが好ましい。
【0045】
クラウンエーテル系化合物は、分子内にベンゼン環を有するものであることが好ましい。このようなクラウンエーテル系化合物を用いることで、酸化によるp型化が抑制されて、保管安定性がより向上する傾向がある。ベンゼン環を有するクラウンエーテル系化合物としては、ベンゾ-18-クラウン-6-エーテル、ベンゾ-15-クラウン-5-エーテル、ベンゾ-12-クラウン-4-エーテル等が挙げられる。
【0046】
カチオンの含有量C1に対する捕捉剤の含有量C2のモル比(C2/C1)は、例えば0.1~5であってよく、好ましくは0.3~3、より好ましくは0.5~2である。上記モル比(C2/C1)は、例えば0.1~3、0.1~2、0.3~5、0.3~2、0.5~5又は0.5~3であってもよい。
【0047】
本実施形態のドーパントには、必要に応じて、上述したアニオン、カチオン、及び捕捉剤以外の物質が含まれていてもよい。このような物質としては、ドーパントの働きを阻害しないものであれば特に限定されないが、例えば、水、有機溶媒等が挙げられる。
【0048】
本実施形態のドーパントは、アニオン、カチオン、及び捕捉剤が、それぞれ複数種含まれていてもよい。
【0049】
本実施形態の熱電変換材料の製造方法は特に限定されないが、例えば、以下の方法によって製造することができる。
【0050】
<熱電変換用n型材料の製造方法>
本実施形態の製造方法は、カーボンナノチューブ及び導電性樹脂を含有する熱電変換用p型材料にドーパントをドープする工程を含む。上記工程をn型化工程ともいう。
【0051】
n型化工程で熱電変換用p型材料にドーパントをドープする方法は特に限定されず、例えば、熱電変換用p型材料にドーパントを含有するドーパント溶液を接触させる方法が挙げられる。
【0052】
好適な一態様において、n型化工程は、熱電変換用p型材料の少なくとも一部に、ドーパント及び溶剤を含有するドーパント溶液を含浸させる含浸工程と、ドーパント溶液含浸後の材料から溶剤を除去する溶剤除去工程と、を含んでいてよい。
【0053】
溶剤の沸点は、70℃以上であることが好ましく、90℃以上であることがより好ましく、110℃以上であることが更に好ましく、150℃以上であってもよい。後述の溶剤除去工程で加熱処理を行う場合、溶剤の沸点が低いと加熱処理の初期段階で溶剤の大半が除去されてしまい、加熱処理の効果が十分に発揮されない場合がある。上述の好適な沸点範囲を有する溶剤を用いることで、加熱処理の効果がより顕著に奏される。溶剤の沸点の上限は特に限定されない。溶剤の沸点は、例えば300℃以下であってよく、250℃以下であってもよい。すなわち、溶剤の沸点は、例えば70~300℃、70~250℃、90~300℃、90~250℃、110~300℃、110~250℃、150~300℃又は150~250℃であってよい。
【0054】
溶剤としては、例えば、水、アセトニトリル、エタノール、エチレングリコール、ジメチルスルホキシド(DMSO)、N-メチルピロリドン、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド等が挙げられる。なお、溶剤は一種を単独で用いてよく、二種以上を混合してもよい。
【0055】
本実施形態のドーパント溶液は、ドーパントと溶剤以外に、本発明の効果を損なわない範囲で他の成分を含んでいてよい。他の成分としては、例えばバインダー樹脂、酸化防止剤、増粘剤、界面活性剤等が挙げられる。
【0056】
熱電変換用p型材料にドーパント溶液を含浸させる方法は特に限定されず、例えば、ドーパント溶液中に熱電変換用p型材料を浸漬する、ドーパント溶液を熱電変換用p型材料に塗布する等の方法が挙げられる。これらのうち、熱電変換用p型材料の形状を維持したまま容易にドーパント溶液に曝すことができる観点からは、ドーパント溶液中に熱電変換用p型材料を浸漬する方法が好ましい。
【0057】
本実施形態のドーパントは、ドーピング効率に優れるため、短時間でドープを完了できる。熱電変換用p型材料にドーパント溶液を含浸させる時間は、例えば10分~72時間でよく、30分~24時間であってもよい。ドーパント溶液を含浸させる時間が上記の範囲内にあると、熱電変換用n型材料の生産性に優れる。
【0058】
ここで、本実施形態において、導電性樹脂は優れた熱電変換用p型材料を得るために含まれているが、一方で、ドーパントがカーボンナノチューブに接触することを導電性樹脂が妨げてしまうことが懸念されていた。また、それに伴い、熱電変換用p型材料を長時間ドーピング処理したり、熱電変換用p型材料をドーパント処理液中にせん断分散したりする等の手間が必要であった。本発明のドーパントは、係る手間を解消し、10分程度の短い含浸時間で、優れた熱電変換性能を有するn型材料を提供できる。
【0059】
含浸工程では、ドーパント溶液が含浸した材料が得られ、この材料が溶剤除去工程に供される。なお、含浸工程で使用した溶剤のうち、材料に含浸又は付着したもの以外は、含浸工程の最後に除去されてよい。例えば、含浸工程でドーパント溶液中に熱電変換用p型材料を浸漬した場合は、ドーパント溶液中から材料を取り出して、溶剤除去工程に供してよい。
【0060】
溶剤除去工程では、上述のドーパント溶液含浸後の材料から、溶剤の少なくとも一部を除去する。溶剤除去工程では、必ずしも溶剤の全てを除去する必要はなく、熱電変換用n型材料として十分に機能する範囲で溶剤が残存していてもよい。
【0061】
溶剤除去工程は、例えば、自然乾燥により溶剤を除去する工程であってよく、加熱処理、減圧処理等を行って、溶剤を除去する工程であってもよい。
【0062】
好適な一態様において、溶剤除去工程は、溶剤が含浸した熱電変換材料を加熱処理する工程を含んでいてよい。本態様では、加熱によって導電性樹脂との相溶性が向上した溶剤が、材料中の導電性樹脂を流動させることで、カーボンナノチューブ間の空隙が充填されてより緻密な構造が形成されると考えられる。このため、本態様では、熱電変換特性がより顕著に向上する傾向がある。
【0063】
本態様において、加熱処理の温度は特に限定されず、例えば40℃以上であってよく、50℃以上であることが好ましく、60℃以上であることがより好ましい。加熱処理の温度を上げることで、熱電変換材料のゼーベック係数が向上する傾向がある。また、加熱処理の温度は、例えば250℃以下であってよく、225℃以下であることが好ましく、200℃以下であることがより好ましい。加熱処理の温度を下げることで、熱電変換材料の電気伝導率が向上する傾向がある。本態様では、加熱処理の温度によって、ゼーベック係数及び電気伝導率が変動する傾向がある。このため、加熱処理の温度は、例えば上述の範囲内で、ゼーベック係数及び電気伝導率の数値のバランスを見て、適宜選択してよい。加熱処理の温度は、例えば40~250℃、40~220℃、40~200℃、50~250℃、50~220℃、50~200℃、60~250℃、60~220℃又は60~200℃であってよい。
【0064】
本態様において、加熱処理の時間は特に限定されない。加熱処理の時間は、例えば1分以上であってよく、好ましくは10分以上であり、12時間以下であってよく、好ましくは6時間以下である。すなわち、加熱処理の時間は、例えば1分~12時間、1分~6時間、10分~12時間又は10分~6時間であってよい。
【0065】
なお、本態様における加熱処理は、必ずしも溶剤の除去を目的とする必要はなく、本態様に係る溶剤除去工程は、加熱処理の後に、溶剤を除去する処理を更に行う工程であってもよい。
【0066】
本実施形態では、熱電変換用p型材料のうち、ドーパントでドープされた部分が、熱電変換用n型材料となる。本実施形態では、熱電変換用p型材料の全てをドーパントでドープして熱電変換用n型材料としてもよく、熱電変換用p型材料の一部をドーパントでドープして熱電変換用p型材料と熱電変換用n型材料との複合体を形成してもよい。
【0067】
好適な一態様において、含浸工程は、熱電変換用p型材料を含有する樹脂層の一部に、ドーパント及び溶剤を含有するドーパント溶液を含浸させる工程であってよく、溶剤除去工程は、ドーパント溶液含浸後の樹脂層から溶剤を除去して、熱電変換用p型材料と熱電変換用n型材料とを含有する熱電変換層を得る工程であってもよい。このような態様によれば、p型材料及びn型材料を含む熱電変換層を容易に得ることができる。また、このような態様では、含浸工程でドーパント溶液を含浸させる範囲を適宜設定することで、所望のp/n構成を有する熱電変換層を容易に得ることができる。
【0068】
熱電変換用n型材料の形状は特に限定されない。例えば、熱電変換用p型材料を支持体上に製膜した複合材料に対しドーピング処理を行って、支持体に支持された膜として熱電変換用n型材料を得てよい。
【0069】
支持体としては、ポリイミド、ポリエチレンテレフタラート、ポリエチレンナフタレート、ポリエチレンイソフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリカーボネート、ポリエーテルエーテルケトン、ポリフェニルスルフィド、ポリスルホン、ガラス、銅、銀、金、アルミニウム等が挙げられる。これらの中では、得られた熱電変換材料が良好な柔軟性を示すことから、ポリイミド、ポリエチレンテレフタラート及びポリエチレンナフタレートからなる群より選択されることが好ましい。
【0070】
熱電変換用n型材料の膜厚は、適度な電気抵抗、及び、優れた可撓性が得られる観点から、100nm~1mmが好ましく、200nm~800μmがより好ましく、300nm~600μmが更に好ましい。すなわち、熱電変換用n型材料の膜厚は、例えば100nm~1mm、100nm~800μm、100nm~600μm、200nm~1mm、200nm~800μm、200nm~600μm、300nm~1mm、300nm~800μm又は300nm~600μmであってよい。
【0071】
本実施形態に係る熱電変換材料は、熱電変換素子用の熱電変換材料として好適に用いることができる。また、本実施形態に係る熱電変換材料は、ペルチェ素子、温度センサー等の用途にも好適に用いることができる。
【0072】
<熱電変換素子>
本実施形態に係る熱電変換素子は、2つの導電性基板と、当該導電性基板の間に配置され、上記熱電変換材料を含む熱電変換層と、を備える。このような熱電変換素子は、上述の製造方法で得られる熱電変換材料を用いているため、熱電変換特性に優れる。
【0073】
2つの導電性基板は、それぞれ第一の電極及び第二の電極ということもできる。
【0074】
本実施形態に係る熱電変換素子は、例えば、熱電変換材料を2つの導電性基板の間に配置する積層工程を備える製造方法によって、製造されたものであってよい。
【0075】
積層工程は、例えば、一方の導電性基板上に熱電変換材料の層(熱電変換層)を形成し、形成された熱電変換層上に、他方の導電性基板を積層することで実施してよい。また、積層工程は、例えば、膜状の熱電変換材料を準備し、その両面に2つの導電性基板を貼付することによって実施してもよい。
【0076】
熱電変換素子は、上記以外の構成を更に備えていてよい。例えば、熱電変換素子は、熱電変換材料を封止するための封止材や、熱電変換素子同士を電気的に接続するため又は外部の回路に電力を取り出すための配線や、熱電変換素子の熱伝導性を制御するための断熱材又は熱伝導性材料などを更に備えていてよい。
【0077】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。
【実施例】
【0078】
実施例1
(混合液の調製)
以下、特記しない限り27℃で行った。Heraeus製「Clevious PH1000」(PEDOT/PSS水分散液、固形分濃度:1.2質量%)0.28gと名城ナノカーボン製「EC-DH」(単層カーボンナノチューブ水分散液、単層CNT濃度0.2質量%、単層CNTの直径は1.4nm、G/D比は100)5gを、自転公転式ミキサー(シンキー社製「あわとり練太郎 ARE-310」)で撹拌・混合して、PEDOT/PSS及び単層CNTの合計量に対する単層CNTの含有量が75質量%の混合液を調製した。「PEDOT/PSS」とは、PEDOT及びPSSからなる導電性高分子をいう。
【0079】
(複合材料の作製)
アセトンで洗浄したポリイミドフィルム(厚み100μm)上に、混合液を約1.5mL滴下し、ギャップ2mmのドクターブレードを用いて塗工し、60℃で3時間乾燥させて、厚み25μmの複合材料を作製した。
【0080】
(溶剤処理及び溶剤除去)
上記の複合体をジメチルスルホキシド(DMSO、沸点189℃)に室温で5分間、浸漬処理した。その後、60℃で30分加熱処理して、厚み5μmの熱電変換用p型材料を作製した。得られた熱電変換用p型材料のゼーベック係数は、24.8μV/Kであった。
【0081】
(熱電変換用n型材料の作製)
超純水3mLにフェロシアン化カリウム三水和物0.032gとベンゾ-18-クラウン-6-エーテル0.094gを溶解させ(カリウムイオンとベンゾ-18-クラウン-6-エーテルの濃度がそれぞれ0.1M、C2/C1=1)、ドーパント溶液とした。得られた熱電変換材料を15mm×15mmに切り出し、ドーパント溶液に室温で10分間浸漬処理した。その後、ドーパント溶液中から熱電変換材料を引き上げ、60℃で30分加熱処理して、ドーピング処理された熱電変換材料を作製した。
【0082】
得られたドーピング処理された熱電変換材料のゼーベック係数は-17.4μV/Kであった。
【0083】
(ゼーベック係数の算出)
ドーピング処理した熱電変換材料が塗工されたポリイミド板を20mm×10mmに切り出して、試験片の長辺の一端を冷却(5℃)し、試験片の長辺のもう一端を加熱(5℃)し、両端に生じる温度差と電圧をアルメル-クロメル熱電対で計測し、温度差と電圧の傾きからゼーベック係数を算出した。ドーピング処理前の熱電変換材料が塗工されたポリイミド板についても、同様の方法でセーベック係数を算出した。
【0084】
実施例2
フェロシアン化カリウム三水和物の代わりにフェロシアン化ナトリウム三水和物を用い、ベンゾ-18-クラウン-6-エーテルの代わりにベンゾ-15-クラウン-5-エーテルを用いたこと以外は、実施例1と同様に熱電変換用n型材料を得た。
【0085】
比較例1
フェロシアン化カリウム三水和物の代わりに炭酸カリウムを用いたこと以外は、実施例1と同様に熱電変換用p型材料にドーパントをドープした。
【0086】
比較例2
フェロシアン化ナトリウム三水和物の代わりに炭酸水素ナトリウムを用いたこと以外は、実施例2と同様に熱電変換用p型材料にドーパントをドープした。
【0087】
比較例3
フェロシアン化ナトリウム三水和物の代わりに炭酸ナトリウムを用いたこと以外は、実施例2と同様に熱電変換用p型材料にドーパントをドープした。
【0088】
表1に、ドーピング処理の前後におけるゼーベック係数の値を示す。実施例1~2は、ドーピング処理後に負のゼーベック係数を示し、熱電変換用n型材料としての性能を示す。比較例1~3は、ドーピング処理後に正のゼーベック係数を示し、熱電変換用n型材料としての性能を示さない。
【0089】