(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-06-06
(45)【発行日】2025-06-16
(54)【発明の名称】発光性の双性イオンポリマーナノ粒子
(51)【国際特許分類】
G01N 33/545 20060101AFI20250609BHJP
G01N 33/543 20060101ALI20250609BHJP
C08F 20/00 20060101ALI20250609BHJP
【FI】
G01N33/545 A
G01N33/543 575
C08F20/00
(21)【出願番号】P 2022533554
(86)(22)【出願日】2020-12-02
(86)【国際出願番号】 EP2020084247
(87)【国際公開番号】W WO2021110735
(87)【国際公開日】2021-06-10
【審査請求日】2023-12-01
(32)【優先日】2019-12-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】500262120
【氏名又は名称】ユニヴェルシテ・ドゥ・ストラスブール
【氏名又は名称原語表記】UNIVERSITE DE STRASBOURG
(73)【特許権者】
【識別番号】509025832
【氏名又は名称】サントル ナシオナル ドゥ ラ ルシェルシェ シアンティフィク
【氏名又は名称原語表記】CENTRE NATIONAL DE LA RECHERCHE SCIENTIFIQUE
(74)【代理人】
【識別番号】100139594
【氏名又は名称】山口 健次郎
(72)【発明者】
【氏名】クリムチェンコ,アンドレイ
(72)【発明者】
【氏名】レイシュ,アンドレア
(72)【発明者】
【氏名】ランセル,アンヌ
(72)【発明者】
【氏名】デュジャルダン,ドニ
【審査官】三木 隆
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/015150(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2015/0183939(US,A1)
【文献】国際公開第2018/234431(WO,A1)
【文献】特表2014-505657(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0058056(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2014/0051883(US,A1)
【文献】国際公開第2019/220088(WO,A1)
【文献】欧州特許出願公開第02672269(EP,A1)
【文献】国際公開第2019/191650(WO,A1)
【文献】特表2013-515099(JP,A)
【文献】国際公開第2011/075185(WO,A1)
【文献】特開2018-151396(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/545
G01N 33/543
C08F 20/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つの発光性色素及び少なくとも1つのランダムコポリマーを含んでいる双性イオンの発光性ポリマーナノ粒子であって、前記ランダムコポリマーは、
― ホスホネート、スルホネート及びカルボキシレートから選択された負の荷電基であるペンダント基を有する、0.5~20mol%の繰返し単位、
― 双性イオン基であるペンダント基を有する、3~30mol
%の繰返し単位、
― 天然又は合成の生物学的に興味深い分子によって機能化されるのに適した反応性基であるペンダント基を有する、0~5mol%の繰返し単位、
― 疎水基であるペンダント基を有する、60~95mol%の繰返し単位
を含んでいる、双性イオンの発光性ポリマーナノ粒子。
【請求項2】
前記ランダムコポリマーは、(C
1‐C
6)アルキルメタクリラート系ポリマー、(C
1‐C
6)アルキルアクリラート系ポリマー、アクリルアミド系ポリマー、ポリエステル系ポリマー、ポリアミド(
ポリペプチド)系ポリマー、スチレン系ポリマー及びこれらのコポリマーから選択される、請求項1に記載の双性イオンの発光性ポリマーナノ粒子。
【請求項3】
双性イオン基は、アンモニオホスフェート、アンモニオホスホネート、アンモニオホスフィネート、アンモニオスルホネート、アンモニオサルフェート、アンモニオカルボキシレート、アンモニオスルホンアミド、アンモニ-スルホン-イミド、グアニジニオカルボキシレート、ピリジニオカルボキシレート、ピリジニオスルホネート、アンモニオ(アルコキシ)ジシアノエテノレート、アンモニオボロネート、スルホニオカルボキシレート、ホスホニオスルホネート、ホスホニオカルボキシレートから選択される、請求項1又は2に記載の双性イオンの発光性ポリマーナノ粒子。
【請求項4】
前記ランダムコポリマーは(C
1‐C
6)アルキルメタクリラート系ポリマーであり、かつ
― ホスホネート、スルホネート及びカルボキシレートから選択された負の荷電基であるペンダント基を有する、0.5~20mol%の繰返し単位、
― 双性イオン基であるペンダント基を有する、3~30mol
%の繰返し単位、
― 天然又は合成の生物学的に興味深い分子によって機能化されるのに適した反応性基であるペンダント基を有する、0~5mol%の繰返し単位、
― (C
1‐C
6)アルキルであるペンダント基を有する、60~95mol%の繰返し単位
を含んでいる、請求項1~3のいずれか1項に記載の双性イオンの発光性ポリマーナノ粒子。
【請求項5】
ナノ粒子は
、ナノ粒子の内部にカプセル化されている蛍光性色素を含
むか、又は、ナノ粒子は、蛍光性色素をその対イオンと共に含み、前記色素及び前記対イオンはナノ粒子の内部にカプセル化されている、請求項1~4のいずれか1項に記載の双性イオンの発光性ポリマーナノ粒子。
【請求項6】
蛍光性色素はローダミン誘導体又はシアニン誘導体から選択される、請求項1~5のいずれか1項に記載の双性イオンの発光性ポリマーナノ粒子。
【請求項7】
ナノ粒子の直径は、5nm~200n
mである、請求項1~6のいずれか1項に記載の双性イオンの発光性ポリマーナノ粒子。
【請求項8】
少なくとも1つのランダムコポリマーを含んでいる機能化された双性イオンの発光性ポリマーナノ粒子であって、前記ランダムコポリマーは、
― ホスホネート、スルホネート及びカルボキシレートから選択された負の荷電基であるペンダント基を有する、0.5~20mol%の繰返し単位、
― 双性イオン基であるペンダント基を有する、3~30mol
%の繰返し単位、
― 前記
コポリマーの鎖に共有結合している、天然又は合成の生物学的に興味深い分子であるペンダント基を有する、0より多いが5mol%以下の繰返し単位
― 疎水基であるペンダント基を有する、60~95mol%の繰返し単位
を含んでいる、機能化された双性イオンの発光性ポリマーナノ粒子。
【請求項9】
前記天然又は合成の生物学的に興味深い分子は、抗体、抗体のフラグメント、ペプチド、アプタマー、オリゴヌクレオチド、毒素又は化学薬品から選択される、請求項8に記載の機能化された双性イオンの発光性ポリマーナノ粒子。
【請求項10】
コントラスト剤、診断用薬又は医用造影剤として使用するための、請求項8又は9に記載の機能化された双性イオンの発光性ポリマーナノ粒子。
【請求項11】
請求項8又は9に記載の双性イオンの機能化された蛍光色素を搭載したポリマーナノ粒子によって、標的生体分子をin vitro又はin vivoで検出又はトラッキングするための方法。
【請求項12】
試料中の標的生体分
子を、in vitroで検出又はトラッキングするための、請求項11に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発光性の双性イオンポリマーナノ粒子、その調製方法、並びに医療分野及び生物学的研究分野におけるこれらのナノ粒子の使用に関する。
【0002】
単一分子かつ超解像の蛍光顕微鏡法の出現は、生細胞内において分子レベルで生体内作用を視覚化することが見込まれる、新しい画像化の分野を切りひらいてきた。細胞質中の単一の生体分子をトラッキング又は視覚化するためには、蛍光発光体は極めて明るい必要がある。確かに、時空間的解像度は収集された光子の数に直接結び付いている。近年、色素搭載型のポリマーナノ粒子が、ナノ粒子の中に大量の蛍光色素をカプセル化することにより極めて高い輝度を達成した(Reisch, A.; Klymchenko, A. S. “Fluorescent Polymer Nanoparticles Based on Dyes: Seeking Brighter Tools for Bioimaging.” Small, (独) , 2016, vol.12, no.15, p.1968-1992)。凝集誘起発光性を備えた蛍光性の有機ドット1、又はフルオロフォアと嵩高い疎水性対イオンとの塩の使用2のような、いくつかの新しい戦略が、極めて高い濃度でカプセル化されたフルオロフォアの凝集起因消光を克服するために使用されてきた。
【0003】
しかしながら生物学的環境で使用するためには、単一分子の画像化は、高輝度のナノ粒子のみならず、プローブの大きさが小さいこと、及び生物学的環境との非特異的相互作用が無いことも必要である3。第1に、局在化の精度を高めるために、粒子径はその粒子が標識するように意図される生体分子(例えばタンパク質)の大きさ程度である必要がある。第2に、ナノ粒子の大きさ及び表面コーティングは該ナノ粒子の細胞内での挙動を規定するのに重要な役割を果たすが、該ナノ粒子による標識生体分子の挙動に対する影響は限定されるべきである4、5。細胞内のような生物学的環境におけるナノ粒子の拡散は、構造上の制約及び細胞内部の巨大分子混み合い効果により制限される可能性がある6。Etocらは、≦50nmの粒子が細胞質ゾル内でブラウン拡散することができることを測定した4。本発明者らも過去に、NPが細胞質ゾルのほぼ全ての領域に到達することができる限界のコアサイズが約23nmであることを示した5。同時に、表面化学も生体系におけるナノ粒子の挙動に対して大きな影響を及ぼし7、かつ細胞質ゾル中のNPの拡散及び運動に影響を与える可能性がある4。この理由の1つは、表面化学がタンパク質との相互作用を決定するであろうということである。特に、タンパク質コロナの形成をもたらすタンパク質の吸着は、細胞内取込みから分解までNPの挙動の全局面に影響を与え8、またタンパク質とNP表面との間に強い相互作用がある限り、ナノ粒子は細胞質ゾルの中で自由に移動することはできない4。したがって、タンパク質の吸着を低減(抑制)するための表面特性の制御が不可欠である。
【0004】
これまでのところ、ポリエチレングリコール(PEG)の導入が、ナノ粒子上へのタンパク質吸着を抑制するための最もよく知られた戦略である9。しかしながら、PEG化は生体分子(例えばタンパク質)の大きさに似た大きさのナノ粒子を生産するのに十分には適していない、というのもタンパク質との相互作用を効果的に抑制するのに必要なPEG鎖は、粒子径も数ナノメートル及び多くの場合は約10nm、増大させてしまうからである10、11。
【0005】
例えば、国際公開第2018/044688号には、1以上の両親媒性ポリマーの中にカプセル化された1以上の疎水性ポリマーの混合物を含んでいる水分散性の蛍光性粒子について記載されている。前記両親媒性ポリマーは、PS‐b‐PEGのような、少なくとも1つの疎水性セグメント及び少なくとも1つの親水性セグメントを含んでいる「ブロック」コポリマーである。
【0006】
他の方法は、細胞膜の外側表面を模倣する双性イオン(ZI)基の使用である12。双性イオンの場合のタンパク質吸着の抑制メカニズムは、PEGの場合のような立体反発力ではなく、双性イオンの高い親水性及び双性イオンが自身の対イオンを内包しているという事実に関係している11、12。したがって、PEGコーティングとは異なり、双性イオンコーティングは、非常に薄くして粒子径の増大を制限することができる。NP表面上に双性イオン基、特にカルボキシベタイン、スルホベタイン及びホスホリルコリン基を実装するための、いくつかの手法が開発されている。しかしながら、過去に開発されたほとんどの双性イオンナノ粒子は、量子ドット(QD)13、シリカNP11、又はAuのNP14のような無機ナノ粒子である。
【0007】
これまでのところ、ポリマーナノ粒子の場合には、双性イオンポリマー粒子は主に双性イオンブロック及び疎水性ブロックを有する「ブロック」コポリマーから得られている。
この手法の欠点は、これらのNPの直径が満足なものではなく、in vivo環境での該NPの使用が制限されることである。なお、その合成方法は多くの場合非常に複雑である。
【0008】
よって、標的とする生体分子のin vitro若しくはin vivoでの検出又はトラッキングを改善するために、高輝度であり、大きさが制御可能で小型であり、かつタンパク質表面相互作用が限定的である、新たな双性イオンポリマーナノ粒子群を提供することが必要である。
【0009】
上記の要件を満たすために、本発明の発明者らは、無極性基、荷電基、双性イオン基及びバイオコンジュゲーション用の反応性基を有している特殊な設計のランダム疎水性ポリマーを基にした、新規な発光性の双性イオンナノ粒子を開発した。
【0010】
双性イオンブロック及び疎水性ブロックが分離されてポリマー鎖の両端に局在している先行技術において既知のブロック双性イオンコポリマーとは対照的に、本発明のナノ粒子を形成している双性イオンコポリマーは、負の荷電基及び双性イオン基の両方を、コポリマーの疎水性ペンダント基に混じってポリマー主鎖上に不規則に配置構成された状態で有している。
【0011】
あらゆる予想を覆して、この少量の双性イオン基及び負の荷電基のランダムな配置構成が、同時にナノ粒子の大きさをさらに縮小してナノ粒子表面へのタンパク質吸着を効果的に抑制しつつ高い発光輝度を維持することも可能である、ということは驚くべきことである。
【0012】
本発明のナノ粒子の直径はわずか7~20nmとすることが可能であるが、これは生きた細胞及び組織並びに固定された細胞及び組織の細胞質中において単一粒子レベルで直接モニタリングするのに特に適している。
【0013】
本発明の第1の態様は、双性イオンの発光性ポリマーナノ粒子を提供することであり、前記ナノ粒子は少なくとも1つの発光性色素及び少なくとも1つのランダムコポリマーを含んでおり、前記ランダムコポリマーは、
― ホスホネート、スルホネート及びカルボキシレートから選択された負の荷電基であるペンダント基を有する、0.5~20mol%の繰返し単位、
― 双性イオン基であるペンダント基を有する、3~30mol%、特に5~20mol%、より特定すれば7~17mol%の繰返し単位、
― 天然又は合成の生物学的に興味深い分子によって機能化されるのに適した反応性基であるペンダント基を有する、0~5mol%の繰返し単位、
― 疎水基であるペンダント基を有する、60~95mol%の繰返し単位
を含んでいる。
【0014】
いかなる理論によっても拘束されるものではないが、本発明のナノ粒子は恐らく、主にコポリマーの疎水性部分及び色素塩から構成された疎水性コアを有する。他方、タンパク質吸着に対する優れた抵抗性、及び細胞質ゾルにおける粒子の高い移動性は、高密度の双性イオン基を備えた高親水性の表面を示唆している。よって、本発明のナノ粒子は、両親媒性ポリマーの疎水性部分がコアにおいて顕著に高濃度であって発光性色素のカプセル化を担い、荷電部分及び双性イオン部分がシェルにおいて豊富であって相互作用の制御を担う、コア‐シェル構造を有するものと予想される。
【0015】
所与の大きさの粒子コアについて、本発明のナノ粒子は、同一の主要モノマーを基にしたPEG化ナノ粒子に対してナノ粒子全体の大きさを2分の1に縮小することを可能にする。これは、双性イオンの粒子の場合の粒子シェルの大きさが対応するPEG化物と比較して小さいことによる。粒子の輝度は、該粒子のコア内にカプセル化された色素の数に依存し、かつその結果として、全体の大きさを所与とすれば、コア直径と粒子全体(コア及びシェル)の直径の比に依存する。従って、粒子全体の直径が同一である場合、シェルが非常に薄いためほぼ2倍の大きなコア径を有する本発明の粒子の輝度は、ほぼ8倍に高めることができる。本発明の粒子の高い搭載量(>20重量%)及び量子収率(>30%)が確認されている。このことは、本発明のナノ粒子が非双性イオンのナノ粒子と比較して極めて明るいことを意味している。
【0016】
よって、本発明のナノ粒子は、一方では粒子の高い輝度をもたらす効率的な色素のカプセル化及び高い量子収率と、他方では優れた安定性及びタンパク質吸着抵抗性とを、兼ね備えたものである。
【0017】
本明細書中で使用されるように、用語「ランダムコポリマー」は、特定の配列ではなく重合した2種類以上のモノマーを有するコポリマーを意味する。ランダムコポリマーにおいて、個々の繰返し単位はそのコポリマーの主鎖に沿って無作為に分布している。
【0018】
用語「繰返し単位」は、単位であって該単位を繰り返せばポリマー鎖に沿って繰返し単位を連続的に繋ぎ合わせることによる完全なポリマー鎖が生じることになる、単位を意味する。
本明細書中で使用されるように、ポリマーに関する用語「ペンダント基」は、ポリマーの主鎖に取り付けられた一群の分子を意味する。
【0019】
結果として、主要モノマーのペンダント基は、その主要モノマーを用いて重合されたランダムコポリマーの主要なペンダント基でもある。
ポリマーの「主鎖」という用語は、ポリマーの線状鎖であって、他の全ての長鎖若しくは短鎖又はその両方が該線状鎖に垂下していると考えることができるものを指す。
【0020】
本明細書中で使用されるように、「天然又は合成の生物学的に興味深い分子によって機能化するのに適した反応性基」という表現は、バイオコンジュゲーション用の任意の反応性基、すなわち、特に細胞、組織又は生体液の中で標的の生体分子を認識する分子、例えば抗体、抗体のフラグメント、リガンド、天然の生体分子のアゴニスト若しくはアンタゴニスト、ペプチド、アプタマー、オリゴヌクレオチド、毒素又は化学薬品などの分子の対応する反応性官能基と、例えば共有結合によって化学反応することができる任意の反応性基、を意味している。
【0021】
本発明によれば、前記ランダムコポリマーは、(C1‐C6)アルキルメタクリラート系ポリマー、(C1‐C6)アルキルアクリラート系ポリマー、アクリルアミド系ポリマー、ポリエステル系ポリマー、ポリアミド(ポリペプチド)系ポリマー、スチレン系ポリマー及びこれらのコポリマーであってよい。
【0022】
本発明との関連において用語「(C1‐C6)アルキルメタクリラート系ポリマー」は、主要モノマーとしての(C1‐C6)アルキルメタクリラートとその他の微量モノマーとによって形成されたコポリマーとして理解されることになる。
【0023】
本発明との関連において、用語「(C1‐C6)アルキルアクリラート系ポリマー」、「アクリルアミド系ポリマー」「ポリエステル系ポリマー」、「ポリアミド系ポリマー」、「スチレン系ポリマー」も同様に解釈されるべきである。
【0024】
(C1‐C6)アルキルメタクリラート系ポリマーの例は、メチルメタクリラート系コポリマー、エチルメタクリラート系コポリマー、プロピルメタクリラート系コポリマー、イソプロピルメタクリラート系コポリマー、又はブチルメタクリラート系コポリマーであってよい。
【0025】
ポリエステル系ポリマーの例には、限定するものではないが、ポリグリコール酸(PGA)系コポリマー、ポリ(ラクチド‐コ‐グリコリド)(PLGA)系コポリマー、ポリ乳酸(PLA)系コポリマー、又はポリカプロラクトン(PCL)系コポリマーを挙げることができる。
【0026】
本発明のナノ粒子に含まれるランダムコポリマーの実施形態は、以下の式I:
【化1】
によって表わされ、上記式中、
― mは0又は1であり、
― nは1~6から選択された整数であり、
― R
1は双性イオン基であり、
― R
2は負の荷電基であり、
― R
3は天然又は合成の生物学的に興味深い分子によって機能化するのに適した反応性基であり、
― xは0.5~20mol%の範囲にあり、
― yは3~30mol%、特に5~20mol%、より特定すれば7~17mol%の範囲にあり、
― zは0~5mol%の範囲にある。
【0027】
本発明のナノ粒子に含まれるランダムコポリマーのより具体的な実施形態は、以下の式Ia:
【化2】
によって表わすことが可能であり、上記式中、
― mは0又は1であり、
― nは1~6から選択された整数であり、
― xは0.5~20mol%の範囲にあり、
― yは3~30mol%、特に5~20mol%、より特定すれば7~17mol%の範囲にあり、
― zは0~5mol%の範囲にあり、
― R
2は負の荷電基、例えばO
-又は‐(O‐(CH
2)
3‐SO
3
‐
であり、
― R
3は天然又は合成の生物学的に興味深い分子によって機能化するのに適した反応性基である。
【0028】
本発明のナノ粒子に含まれるランダムコポリマーの別の実施形態は、以下の式II:
【化3】
によって表わされ、上記式中、
― R
1は双性イオン基であり、
― R
2は負の荷電基であり、
― R
3は天然又は合成の生物学的に興味深い分子によって機能化するのに適した反応性基であり、
― xは0.5~20mol%の範囲にあり、
― yは3~30mol%、特に5~20mol%、より特定すれば7~17mol%の範囲にあり、
― zは0~5mol%の範囲にある。
【0029】
特定の実施形態によれば、本発明の双性イオンの発光性ポリマーナノ粒子は、(C1‐C6)アルキルメタクリラート系ポリマーであるランダムコポリマーを含み、前記ランダムコポリマーは、
― ホスホネート、スルホネート及びカルボキシレートから選択された負の荷電基であるペンダント基を有する、0.5~20mol%の繰返し単位、
― 双性イオン基であるペンダント基を有する、3~30mol%、特に5~20mol%、より具体的には7~17mol%の繰返し単位、
― 天然又は合成の生物学的に興味深い分子によって機能化するのに適した反応性基であるペンダント基を有する、0~5mol%の繰返し単位、
― (C1‐C6)アルキルであるペンダント基を有する、70~95mol%の繰返し単位
を含んでいる。
【0030】
本発明のランダムポリマーに含まれる微量のペンダント基のうち1つの種類は、ホスホネート、スルホネート及びカルボキシレートから選択された負の荷電基である。
本発明のナノ粒子に含まれるランダムコポリマーは、ペンダント基として負の荷電基を有する0.5~20%の繰返し単位を有している。
【0031】
本発明のランダムポリマーに含まれる微量のペンダント基のうち別の種類は、双性イオン基である。
【0032】
「双性イオン基」という用語は、正電荷を有する部分と、負電荷を有する別の隣接していない部分とを同時に含有する化学基を指す。上記のランダムコポリマーに含まれることが可能な双性イオン基の例は、アンモニオホスフェート(ammoniophosphates)、アンモニオホスホネート(ammoniophosphonates)、アンモニオホスフィネート(ammoniophosphinates)、アンモニオスルホネート(ammoniosulfonates)、アンモニオサルフェート(ammoniosulfates)、アンモニオカルボキシレート(ammoniocarboxylates)、アンモニオスルホンアミド(ammoniosulfonamides)、アンモニ-スルホン-イミド(ammoni-sulfon-imides)、グアニジニオカルボキシレート(guanidiniocarboxylates)、ピリジニオカルボキシレート(pyridiniocarboxylates)、ピリジニオスルホネート(pyridiniosulfonates)、アンモニオ(アルコキシ)ジシアノエテノレート(ammonio(alkoxy)dicyanoethenolates)、アンモニオボロネート(ammonioboronates)、スルホニオカルボキシレート(sulfoniocarboxylates)、ホスホニオスルホネート(phophoniosulfonates)、ホスホニオカルボキシレート(phosphoniocarboxylates)から選択することができる。
【0033】
本発明のナノ粒子に含まれるランダムコポリマーは、ペンダント基として双性イオン基を有する繰返し単位を、3~30%、特に5~20%、より特定すれば7~17%有している。
前記ランダムコポリマーに高親水性の双性イオン基が存在することにより、コポリマーの親水性は増大する。しかしながら、本発明のナノ粒子に含まれるランダムコポリマーは、疎水性ペンダント基が大半を占めることにより基本的には疎水性のままである。
【0034】
双性イオン基及び負の荷電基が存在するおかげで、本発明のナノ粒子の大きさは際立って小さい。
【0035】
本発明のナノ粒子の直径は、5nm~200nm、特に5nm~150nm、より特定すれば5nm~100nm、さらにより特定すれば5nm~50nm、さらにより特定すれば7~30nm、さらにより特定すれば7~20nmである。
ナノ粒子の直径及び粒度分布は、電子顕微鏡検査又は動的光散乱によって従来の方法で計測することができる。
【0036】
本発明のナノ粒子はさらに発光性色素を含む。
本発明の範囲内で、前記発光性色素は蛍光性色素又はリン光性色素であってよい。
前記発光性色素はさらに、発光性金属錯体であってもよい。
【0037】
好ましい実施形態では、前記発光性色素は蛍光性色素であって場合によりその対イオンを備えたものであり、前記色素及び前記対イオンはナノ粒子の内部にカプセル化される。
【0038】
蛍光性色素の例には、限定するものではないが、ローダミン誘導体、シアニン誘導体、フルオレセイン誘導体、BODIPY誘導体、アザBODIPY誘導体、クマリン、スクアライン、ポルフィリン又はフタロシアニンを挙げることができる。
イオン性色素に適した対イオンは、無機対イオン又は嵩高い有機対イオンであってよい。
無機対イオンの例には、限定するものではないが、クロリド、ペルクロレート、スルホネート、ニトレート、テトラフルオロボレート、ヘキサフルオロホスフェートが挙げられる。
【0039】
本明細書中で使用されるような用語「嵩高い有機対イオン」は、芳香族及び/又は脂肪族の残基を有している大きな有機陰イオンを意味する。嵩高い有機対イオンの例には、限定するものではないが、テトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボラート、テトラキス(4‐フルオロフェニル)ボラート、テトラキス[3,5‐ビス(トリフルオロメチル)フェニル]ボラート、テトラキス[3,5‐ビス(1,1,1,3,3,3‐ヘキサフルオロ‐2‐メトキシ‐2‐プロピル)フェニル]ボラート、テトラキス[ペルフルオロtert‐ブトキシ]アルミナート、又はテトラフェニルボラートを挙げることができる。
【0040】
いくつかの実施形態によれば、本発明のランダムコポリマーはさらに、天然又は合成の生物学的に興味深い分子によって機能化するのに適した反応性基である第3の種類の微量のペンダント基を含むこともできる。
【0041】
例えば、前記反応性基は、アジド基、テトラジン基、アルケニル基、若しくは付加環化を行なうことができるその他の反応性基のような、「クリックケミストリー」に適した反応性基、又は、マレイミド基、若しくはペンタフルオロフェニルエステルやNHSエステルのような活性エステルなどの反応性基であってよい。
【0042】
この第3の種類の微量のペンダント基により、天然又は合成の生物学的に興味深い分子を本発明の発光性の双性イオンナノ粒子と組み合わせることが可能となる。
【0043】
前記天然又は合成の生物学的に興味深い分子の例は、限定するものではないが、細胞、組織又は生体液の中で標的の生体分子を認識する分子、例えば抗体、抗体のフラグメント、リガンド、天然の生体分子のアゴニスト若しくはアンタゴニスト、ペプチド、アプタマー、オリゴヌクレオチド、毒素又は化学薬品であってよい。
【0044】
反応性基を有しているこの種の発光性の双性イオンナノ粒子は、該ナノ粒子の予定された用途に照らして簡単にさらなる機能化を行うことが可能であるので、特に興味深い。
いくつかの実施形態によれば、本発明の発光性の双性イオンポリマーナノ粒子は、前述のようなランダムコポリマーを唯一のポリマー材料として含むことができる。
【0045】
他のいくつかの実施形態によれば、本発明の発光性の双性イオンポリマーナノ粒子は、上述のようなランダムコポリマーを別のポリマーとともに含んでもよいし、上述のようなランダムコポリマーを少なくとも2種類含んでもよい。
【0046】
好ましい実施形態では、本発明の発光性の双性イオンポリマーナノ粒子は、
― 生物学的に興味深い分子を用いたナノ粒子の機能化に適している反応性基を備えた上述のような第1のランダムコポリマー、及び
― ナノ粒子の機能化のための反応性基を備えていない上述のような第2のランダムコポリマー
を含んでいる。
【0047】
反応性基を有するランダムコポリマーと反応性基を含まない別のランダムコポリマーとの混合物は、この反応性基を介してナノ粒子に結合され、かつ例えばナノ粒子の検出感度、標的分子の定量、又は単一分子のトラッキングにさらに影響を及ぼすであろう生物学的に興味深い分子の量を、より高い精度で制御することを可能にする。
【0048】
特定の実施形態において、本発明の双性イオンポリマーナノ粒子は第1のランダムコポリマー及び第2のランダムコポリマーを含み、
第1のランダムコポリマーは、
― ホスホネート、スルホネート及びカルボキシレートから選択された負の荷電基であるペンダント基を有する、0.5~20mol%の繰返し単位、
― 双性イオン基であるペンダント基を有する、3~30mol%、特に5~20mol%、より特定すれば7~17mol%の繰返し単位、
― 天然又は合成の生物学的に興味深い分子によって機能化するのに適した反応性基であるペンダント基を有する、0より多いが5mol%以下の繰返し単位
を含んでおり、
第2のランダムコポリマーは、天然又は合成の生物学的に興味深い分子によって機能化するのに適した反応性基を含んでおらず、かつ
― ホスホネート、スルホネート及びカルボキシレートから選択された負の荷電基であるペンダント基を有する、0.5~20mol%の繰返し単位、
― 双性イオン基であるペンダント基を有する、3~30mol%、特に5~20mol%、より特定すれば7~17mol%の繰返し単位
を含んでいる。
【0049】
別の特定の実施形態では、本発明の発光性の双性イオンポリマーナノ粒子は、
― 第1の種類の生物学的に興味深い分子を用いたナノ粒子の機能化に適している反応性基を備えた、上述のような第1のランダムコポリマー、及び
― 第2の種類の生物学的に興味深い分子を用いたナノ粒子の機能化に適している反応性基を備えた、上述のような第2のランダムコポリマー
を含んでいる。
【0050】
したがってこの種のナノ粒子は、2種類の生物学的に興味深い分子を用いて機能化することができる。
発光性の双性イオンナノ粒子に反応性基が存在することにより、前記ポリマー鎖への共有結合を通じて前記ナノ粒子を天然又は合成の生物学的に興味深い分子により容易に機能化することが可能となる。
【0051】
よって、本発明の別の態様は、新規な機能化された双性イオンの発光性ポリマーナノ粒子を提供することである。
【0052】
前記機能化された双性イオンの発光性ポリマーナノ粒子は、少なくとも1つのランダムコポリマーであって、
― ホスホネート、スルホネート及びカルボキシレートから選択された負の荷電基であるペンダント基を有する、0.5~20mol%の繰返し単位、
― 双性イオン基であるペンダント基を有する、3~30mol%、特に5~20mol%、より特定すれば7~17mol%の繰返し単位、
― 前記ポリマー鎖に共有結合している天然又は合成の生物学的に興味深い分子であるペンダント基を有する、0より多いが5mol%以下の繰返し単位、
― 疎水基であるペンダント基を有する、60~95mol%の繰返し単位
を含んでいるランダムコポリマーを含んでいる。
【0053】
特定の実施形態では、本発明の前記機能化された双性イオンの発光性ポリマーナノ粒子は、以下の式III
【化4】
で表すことが可能であり、上記式中、
― mは0又は1であり、
― nは1~6から選択された整数であり、
― R
1は双性イオン基であり、
― R
2は負の荷電基であり、
― R
4は天然又は合成の生物学的に興味深い分子とコンジュゲートした反応性基であり、
― xは0.5~20mol%の範囲にあり、
― yは3~30mol%、特に5~20mol%、より特定すれば7~17mol%の範囲にあり、
― zは0より多く5mol%以下の範囲にある。
【0054】
特定の実施形態では、本発明の前記機能化された双性イオンの発光性ポリマーナノ粒子は、以下の式IV
【化5】
で表すことが可能であり、
― R
1は双性イオン基であり、
― R
2は負の荷電基であり、
― R
4は天然又は合成の生物学的に興味深い分子とコンジュゲートした反応性基であり、
― xは0.5~20mol%の範囲にあり、
― yは3~30mol%、特に5~20mol%、より特定すれば7~17mol%の範囲にあり、
― zは0より多く5mol%以下の範囲にある。
【0055】
前記天然又は合成の生物学的に興味深い分子は、抗体、抗体のフラグメント、ペプチド、アプタマー、オリゴヌクレオチド、毒素又は化学薬品から選択される。
そのような天然又は合成の生物学的に興味深い分子がナノ粒子上に存在することにより、前記ナノ粒子に、対応する生体分子を検出する能力が付与される。
【0056】
検出されるべき標的の生体分子に応じて、反応性基を有する発光性の双性イオンナノ粒子を、対応する天然又は合成の生物学的に興味深い分子により機能化することができる。例えば、特定のタンパク質の発現を検出するためには、発光性の双性イオンナノ粒子を前記タンパク質に対する抗体で機能化することができる。
【0057】
小型であり、輝度が極めて高く、タンパク質吸着が低いことと標的特異性とを兼ね備えている、本発明の上記の機能化された発光性の双性イオンナノ粒子は、in vitro若しくはin vivoでの疾患の診断、治療処置、又は生物学的研究における適用に特に有用である。
【0058】
本発明の機能化されたナノ粒子は例えば、標的の生体分子の検出、例えば特定のタンパク質、抗体又はペプチドの検出のための、バイオセンサとして使用することができる。
高輝度であることにより、本発明の機能化された発光性の双性イオンナノ粒子は、ELISA検査よりも高感度で、より使い易い。
【0059】
特に、これらの機能化されたナノ粒子は、in vivoでの医学的診断のための標的の分子又は細胞のin vivoでの検出、トラッキングに使用可能なコントラスト剤又は医用造影剤として使用することもできるし、生体分子又は前記生体分子を発現している細胞のin vitroでの検出又は同定に使用可能な診断用薬として使用することもできる。
【0060】
本発明はさらに、上述のような機能化された発光性の双性イオンポリマーナノ粒子を用いて標的生体分子をin vitro又はin vivoで検出又はトラッキングするための方法に関する。
【0061】
前記標的生体分子の例は、限定するものではないが、タンパク質、抗体、DNA、RNA、siRNA、マイクロRNA、毒素であってよい。
その極めて高い輝度により、本発明のナノ粒子は単一分子のトラッキングに使用することができる。
【0062】
特定の実施形態によれば、本発明は、試料中の標的生体分子、特に抗原の、in vitroでの検出又はトラッキングのための方法に関する。
前記試料は、生体液から、in vitro細胞培養物又は組織から、植物から、微生物から得られた生物学的試料、生体分子を含有する溶液、環境試料、食品試料、薬剤試料であってよい。
【0063】
「生体液」が意味するのは、生きている動物又は植物に含まれていたか、生きている動物又は植物から排泄又は分泌された液体、例えば、血液、血液の様々な画分、リンパ液、胆汁、唾液、滲出液である。本発明の好ましい実施形態では、生体液は、血清、不活化血清、血漿、又は血液から選択されたヒト又は動物由来の流体である。
【0064】
「組織」が意味するのは、ヒト、動物又は植物の組織である。本発明の特定の実施形態では、組織の試料は生検によって得られたか又は外科手術の際に得られた試料である。より具体的な実施形態では、組織は、がんに罹患しているか又はがんの発症が疑われる患者から、生検によって、又は外科手術の際に得られた腫瘍組織である。
【0065】
「環境試料」が意味するのは、土壌、汚泥、又は廃水のような、環境から収集された試料である。
【0066】
検出用に、本発明の機能化された発光性の双性イオンナノ粒子を、溶液中に懸濁させるか又はマイクロプレートの表面上に固定化することができる。
【0067】
本発明はさらに、コントラスト剤、診断用薬又は医用造影剤として使用するための、本発明の機能化された発光性の双性イオンナノ粒子を含んでいる医薬組成物に関する。
前記組成物は、in vivoの診断用薬として使用することができる。
【0068】
前述のような発光性の双性イオン疎水性ポリマーナノ粒子に含まれるランダムコポリマーは、フリーラジカル重合、精密ラジカル重合、縮合、付加開環重合によって合成することができる。
発光性の双性イオン疎水性ポリマーナノ粒子は、ナノ沈殿法によって得ることができる。
【0069】
本発明はさらに、前述のような機能化された蛍光性の双性イオンポリマーナノ粒子を調製するための方法も提供し、前記方法は、
― 少なくとも1つのランダムコポリマーであって、
― ホスホネート、スルホネート及びカルボキシレートから選択された負の荷電基であるペンダント基を有する、0.5~20mol%の繰返し単位、
― 双性イオン基であるペンダント基を有する、3~30mol%、特に5~20mol%、より特定すれば7~17mol%の繰返し単位、
― 前記ポリマー鎖に共有結合している天然又は合成の生物学的に興味深い分子であるペンダント基を有する、0より多いが5mol%以下の繰返し単位
を含んでいるランダムコポリマーのナノ沈殿
を含んでいる。
【0070】
前述のような機能化された発光性の双性イオンポリマーナノ粒子を調製するための別の方法は、
― 少なくとも1つのランダムコポリマーであって、
― ホスホネート、スルホネート及びカルボキシレートから選択された負の荷電基であるペンダント基を有する、0.5~20mol%の繰返し単位、
― 双性イオン基であるペンダント基を有する、3~30mol%、特に5~20mol%、より特定すれば7~17mol%の繰返し単位、
― 天然又は合成の生物学的に興味深い分子によって機能化するのに適した反応性基であるペンダント基を有する、0より多いが5mol%以下の繰返し単位
を含んでいるランダムコポリマーのナノ沈殿と、
― ナノ沈殿の後に得られた発光性の双性イオンポリマーナノ粒子と天然又は合成の生物学的に興味深い分子との反応と
を含んでいる。
【図面の簡単な説明】
【0071】
本発明については、以降の図面及び実施例においてより詳細に提示される。
【
図1】ナノ沈殿による双性イオンの発光色素搭載NPの調製に使用された、スルホネート及び双性イオン(ZI)基を有するメタクリラート系コポリマー、色素(R18)及びその対イオン(F5‐TPB)の、簡略化した化学構造を示す図。疎水基、双性イオン基及びスルホネートが主鎖のポリマー鎖上に無作為に配置構成されていることに注目されることに注意すべきである。
【
図2】(A)双性イオンのスルホネートナノ粒子(PMMA‐ZI 10%‐SO
3H 1%及び2%)並びに非双性イオンのスルホネートナノ粒子(PMMA‐SO
3H 1%、PMMA‐SO
3H 2%)の大きさのTEM分析について示す図。10重量%のR18/F5‐TPBを搭載したナノ粒子はナノ沈殿によって調製された。(B)10%の双性イオン基及び1%のSO
3H基を有する様々なメタクリラートポリマーの大きさのTEM分析について示す図。各画像の下に、対応するナノ粒子の粒度分布が示されている。スケールバーは50nmに相当する。1条件につき少なくとも100個のナノ粒子が分析された。
【
図3】FCSを使用して測定されたNPの安定性及び該NPとタンパク質との相互作用を示す図。(A)粒子が安定性を維持した最大塩濃度に対するZI密度の影響。(B)様々な割合のZIを有するPMMA‐SO
3H 2%のNP、及び(C)ZI基を有するか又は有していない様々なメタクリラートモノマーから作製された1%スルホネートNPの、10%ウシ胎児血清(FBS)の存在下における大きさ。全てのNPに1%のR18/F5‐TPBが搭載された。3回の独立な計測値から平均値が得られている。エラーバーはs.e.m.に相当する。
【
図4】10重量%のR18/F5‐TPBが搭載された様々な種類のNPをマイクロインジェクションされたHeLa細胞を代表する落射蛍光顕微鏡写真。60秒間の最大値投影が示されている。スケールバーは10μmに相当する。
【
図5】単一粒子のトラッキングについて示す図。(A)20重量%のR18/F5‐TPBが搭載されたPEMA‐ZI 10%‐SO
3H 1%のNPの、細胞質中における30秒間の軌道。(B)PEMA‐ZI 10%‐SO
3H 1%のNPの平均二乗変位(MSD)。黒色の曲線は平均のMSD曲線に相当し、灰色の直線はプロットをフィッティングしたものである。エラーバーはs.e.m.に相当する。(C)PEMA‐ZI 10%‐SO
3H 1%のNPの拡散係数の分布。(D)様々なポリマーNPの平均の拡散係数。エラーバーはFWHMを示す。1試料につき少なくとも50例の軌道を分析した。
【
図6】(A)カルボキシレート(荷電)、スルホベタイン(双性イオン)基、及びアジド基を有しているエチルメタクリラート系ポリマーを色素塩R18/F5‐TPBと共にナノ沈殿して構築された、アジドを有する蛍光性NPの簡略化学スキームを示す図。(B)DBCOを有する抗体は、DBCO‐EG4‐マレイミドを、TCEPで処理した抗体と反応させることで得られる。
【
図7】HER2受容体を発現しているSKBR‐3細胞を、アジドを有する双性イオンNP単独と共にインキュベートしたもの(上段)、又はDBCO修飾された抗HER2受容体抗体、次いでアジドを有する双性イオンナノ粒子と共にインキュベートしたもの(下段)の顕微鏡写真を示す図。左から右に、蛍光及びDICの重ね合わせ画像、蛍光画像、並びにDIC画像である。
【実施例】
【0072】
<実施例1>
1.材料及び方法
1.1 材料
メチルメタクリラート(99%、M55909)、メタクリル酸(99%、155721)、3‐スルホプロピルメタクリラートカリウム塩(99%、251658)及び2‐(N‐3‐スルホプロピル‐N,N‐ジメチルアンモニウム)エチルメタクリラート(99%、537284)は、シグマアルドリッチ(Sigma-Aldrich)から購入した。ジメチルスルホキシド(DMSO、分析用)はフィッシャーサイエンティフィック(Fisher-Scientific)から入手した。ミリQ水(ミリポア(Millipore))、アセトニトリル(≧99.9%、シグマアルドリッチ)及びメタノール(≧99.9%、カルロエルバリエージェンツ(Carlo Erba reagents))は、ナノ粒子の調製に使用した。ジクロロメタン(≧99.8%)はカルロエルバ製、及びメタノール(HPLC用)はVWR製である。6‐カルボキシ‐テトラメチルローダミン(TMR、シグマアルドリッチ製)、リン酸緩衝生理食塩水(PBS、フィッシャーサイエンティフィック)、ウシ胎児血清(FBS、ロンザ(Lonza))は安定性研究に使用した。モノマーはカラムクロマトグラフィー又は再結晶を使用して精製した。アゾビスイソブチロニトリル(アルドリッチ、≧98%)は、エタノールから2度再結晶を行った。他の化合物は、入手したものをそのまま使用した。R18/F5‐TPBは、既述2のとおりにしてローダミンBオクタデシルエステル過塩素酸塩(アルドリッチ、>98.0%)及びリチウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボラートエチルエーテラート(アルファエイサー(AlfaAesar)、97%)からイオン交換によって合成した後にカラムクロマトグラフィーにより精製した。
【0073】
1.2 ポリマーの合成
本発明のポリマーの合成:様々なポリマーをフリーラジカル重合によって合成した。様々なモノマーを全て、脱気したDMSOに溶解し、所望の比率で混合した。0.01等量のAIBNを添加し、丸底フラスコを70℃に予熱したオイルバスに入れた。転化率が25%に達したならば、反応を停止させ、ポリマーをメタノール及び/又は水の中で2回再沈殿させた。乾燥させた後、ポリマーをNMRで、かつ可能な場合はサイズ排除クロマトグラフィーで特徴解析した。例として、PMMA‐SO3H‐ZIの合成について述べる:
【0074】
ポリ(メチルメタクリラート‐コ‐3‐スルホプロピルメタクリラート‐コ‐2‐(N‐3‐スルホプロピル‐N,N‐ジメチルアンモニウム)エチルメタクリラート)(PMMA‐ZI‐SO3H):メチルメタクリラート、2‐(N‐3‐スルホプロピル‐N,N‐ジメチルアンモニウム)エチルメタクリラート、及び3‐スルホプロピルメタクリラートカリウム塩を、2Mの濃度で(2‐(N‐3‐スルホプロピル‐N,N‐ジメチルアンモニウム)エチルメタクリラートについては1Mとして少量のメタノールを追加)、脱気したDMSOに溶解した。次いでこの3つの溶液を、撹拌子を備えた50mLの二つ口丸底フラスコの中で所望の比率で混合し、全量20mLとした。該混合物を5分間のアルゴンバブリングにより脱気し、アルゴン雰囲気下に置いた。DMSO中のAIBN(40mg/mL)を0.01等量添加し、丸底フラスコを70℃に予熱したオイルバスに入れた。一定間隔で試料を抜き取り、DMSO‐d6に溶解してNMRで分析した。転化率が25%に達したならば、RTまで急冷することにより反応を停止させた。次に反応混合物をメタノール中に、又は荷電モノマー及び双性イオンモノマーの比率が高い場合は水中に、滴下した。濾過した後、沈殿物を少量のアセトニトリル(必要であれば少量のメタノールを含むもの)に再溶解し、メタノール(ZIの比率が最も高いものについては水)の中で2回再沈殿させた。得られたポリマーを真空下で乾燥させた。1H NMR (400 MHz, DMSO-d6, δ): 4.36 (br, 0.04-0.2 H), 3.96 (br. s, 0.02-0.04 H), 3.55 (m, 3.4 H), 3.13 (br, 0.12-0.6 H), 2.45 (br, covered by the solvent peak), 2.04 (br, 0.04-0.2 H), 2.00-0.30 (m, 6 H). それぞれ4.36ppm及び3.97ppmのピークに基づいて得られたZI基及びSO3H基の分率(供給:取得)は、ZI 10%:10.2%-SO3H 1%:1.4%;ZI 10%:11%-SO3H 2%:2.8%である。GPCによる分子量:1%SO3H:
Mw=51200、Mw/Mn=1.58;1%ZI:Mw=43100、Mw/Mn=1.14。より多くの双性イオンモノマーを有するポリマーについては、GPCに適した溶媒系を利用できなかった。
【0075】
ポリ(エチルメタクリラート‐コ‐3‐スルホプロピルメタクリラート‐コ‐2‐(N‐3‐スルホプロピル‐N,N‐ジメチルアンモニウム)エチルメタクリラート)(PEMA‐ZI‐SO3H):1H NMR (400 MHz, MeOD-, δ): 4.50 (br, 0.2 H), 4.34-3.92 (m, 2.02 H), 3.81 (br, 0.2 H), 3.70 (br, 0.2 H), 3.29 (br, partial covered by the solvent peak), 2.92 (br, 0.2 H), 2.31 (br, 0.2 H), 2.23-0.5 (m, 9 H). 4.50ppmのピークに基づいて得られたZI基の分率:10.3%。
【0076】
ポリ(プロピルメタクリラート‐コ‐3‐スルホプロピルメタクリラート‐コ‐2‐(N‐3‐スルホプロピル‐N,N‐ジメチルアンモニウム)エチルメタクリラート)(PPMA‐ZI‐SO3H):1H NMR (400 MHz, MeOD, δ): 4.50 (br, 0.2 H), 4.29-3.54 (m, 2.42 H), 3.29 (br, partial covered by the solvent peak), 2.92 (br, 0.2 H), 2.31 (br, 0.2 H), 2.23-0.5 (m, 11 H).
4.50ppmのピークに基づいて得られたZI基の分率:9.4%。
【0077】
ポリ(ブチルメタクリラート‐コ‐3‐スルホプロピルメタクリラート‐コ‐2‐(N‐3‐スルホプロピル‐N,N‐ジメチルアンモニウム)エチルメタクリラート)(PBMA‐ZI‐SO3H):1H NMR (400 MHz, CDCl3, δ): 4.40 (br, 0.2H), 4.30-3.55 (m, 2.42 H), 3.33 (br, 0.6 H), 2.99 (br, 0.2 H), 2.36 (br, 0.2 H), 2.28-0.4 (m, 13 H). 4.40ppmのピークに基づいて得られたZI基の分率:8.3%。
【0078】
ポリ(メチルメタクリラート‐コ‐3‐スルホプロピルメタクリラート)(PMMA‐SO3H):1H NMR (400 MHz, DMSO-d6, δ): 3.97 (br. s, 0.02-0.04 H), 3.57 (s, 3 H), 2.45 (m, partial covered by the solvent peak), 2.1 - 0.5 (m, 6 H). 3.97ppmのピークに基づいたSO3H基の分率(供給:取得)は、SO3H 1%:1.1%;SO3H 2%:2.3%である。
【0079】
1.3 ナノ粒子の調製
コポリマーの保存溶液を、アセトニトリル(ZIポリマー用には20体積%メタノール)中に10g/Lの濃度で調製した。これらの溶液を、1、10又は20重量%(ポリマーに対して)のR18/F5‐TPBを含有する対応する溶媒で2g/Lに希釈した。この溶液を直ちに10倍過剰量の撹拌中(エッペンドルフ(Eppendorf)のThermomixer comfort、21℃で1000rpm)の水に加え、次いで水中で第2の希釈を行った。
【0080】
1.4 ナノ粒子の特徴解析
吸収及び発光スペクトルをそれぞれ、Cary4000スキャン紫外可視分光光度計(バリアン(Varian))及びFS5蛍光分光光度計(エジンバラインスツルメンツ(Edinburgh Instruments))にサーモスタット付きセルコンパートメントを装備したものを用いて記録した。励起波長は530nmに設定し、発光を540~750nmで記録した。QYは、参照基準としてエタノール中のローダミン101(QY=0.9)を使用して計算した。
【0081】
透過型電子顕微鏡検査:5μlのナノ粒子溶液を、カーボンコーティングした銅ロジウムの電子顕微鏡用グリッド上に載せ、次いでアミルアミンによるグロー放電を行った。次に染色用の2%酢酸ウラニル溶液で20秒間処理した。得られたグリッドを、LaB6フィラメントを装備し100kVで作動するフィリップス(Philips)のCM120透過型電子顕微鏡を使用して観察した。関心領域の取得を、ペルチェ式冷却型CCDカメラ(モデル794、米国カリフォルニア州プレザントンのガタン(Gatan))を用いて記録した。Fijiソフトウェアを使用して画像を分析した。
【0082】
蛍光相関分光法:計測は、自作の共焦点光学系で励起を532nmとして、参照基準として水中のTMRを使用して実施した。1重量%の色素を含有するNPの溶液を2倍に希釈してから、200μlを96ウェルの透明底の計測用プレートに載せた。塩及びタンパク質の存在下でのNPの安定性について、低吸着の1.5mlエッペンドルフチューブに入ったNP溶液に50体積%の10倍濃PBS(10×)、FBS又は水を1滴ずつ添加して調査した。データを添加の5分後に記録し、次に、PyCorrFitソフトウェアを使用して分析した。
【0083】
1.5 細胞実験:
HeLa細胞を、10%ウシ胎児血清(FBS、ロンザ)、L‐グルタミン、及び1%抗生物質溶液(ペニシリン‐ストレプトマイシン、ギブコ‐インビトロジェン(Gibco-Invitrogen))を添加したダルベッコ改変イーグル培地(DMEM、フェノールレッド不含、ギブコ‐インビトロジェン)において、5%CO2を含有する加湿環境下にて37℃で増殖させた。細胞を、マイクロインジェクションの24時間前に、6ウェルプレートに載置された円形の顕微鏡用カバーグラス(直径18mm)の上に125×103個/ウェルの密度で播種した。
【0084】
NPのマイクロインジェクション及び細胞の画像化:マイクロインジェクション実験については、ガラスのカバーガラス上で平板培養されたサブコンフルエントなHeLa細胞を、Ludin Chamber(スイス連邦バーゼルのライフ・イメージング・サービス(Life Imaging Services))に取り付けた。次いで細胞を、ライカ(Leica)のDMIRE2顕微鏡(37℃、5%CO2、100×対物レンズ、sCMOSカメラ、キセノンランプ)に載せ、粒子濃度0.5~2nMの様々なナノ粒子溶液を、Femtojet/InjectMan NI2マイクロインジェクタ(エッペンドルフ)を使用して細胞の核周囲部にマイクロインジェクションした。次に、同じ装置上で、又は多波長LED光源SpectraX(ルメンコ(Lumencor))、オリンパスの60×TIRFM(1.45NA)対物レンズ、及びFlash4 V2+カメラ(浜松)を装備したiMIC顕微鏡(ティル・フォトニクス(Till Photonics))上で、試料を移した後に画像シーケンスを取得した。
【0085】
生細胞を、環境制御システム(ライフ・イメージング・サービス)を使用して5%CO2の加湿環境下で37℃に維持した。タイムラプス動画を、フレームレートを50ミリ秒及びビニングを2として60秒間記録した。これを次にImageJ(米国国立衛生研究所)を使用して分析した。単一粒子のトラッキングについては、タイムラプス動画を、解像度を高めるためにフレームレートをImic顕微鏡については43ミリ秒又はライカのDMIRE2顕微鏡については50ミリ秒及びビニングを1として、30秒間記録した。Fijiソフトウェアを用いて、軌道をTrackMateプラグインから復元した。次いでMSD曲線をプロットし、粒子トラッキング解析のためにMATLABスクリプトを用いてMSD曲線から傾きを求めた。
【0086】
2.実験結果
2.1 負の荷電基及び双性イオン基が粒子径に及ぼす影響
スルホネート及び双性イオン(ZI)基を有するメタクリラート系コポリマーを、「材料及び方法」に上述された方法に従って合成した。以降の本文ではポリマーをPXMA‐ZI‐x%‐SO3H‐y%と記し、前記式中、XMAは対応する主要モノマー(メチルメタクリラートはMMA、エチルメタクリラートはEMA、プロピルメタクリラートはPMA、ブチルメタクリラートはBMA)であり、x及びyは双性イオン基及びスルホネートのモル百分率に相当する。なお、スルホネートのみを有し双性イオン基は有していないポリマーも対照として調製した。
【0087】
次にこれらのポリマーを、ナノ沈殿により色素搭載ポリマーNPを構築するために使用した。これについては、様々な量のローダミンB誘導体(R18)とペルフルオロホウ酸(F5‐TPB)との塩を含有しているアセトニトリル(少量のメタノールを含む)中のポリマー溶液を、大過剰量の水に素早く加えた。形成されたNPの大きさを、透過型電子顕微鏡法により分析した(TEM、
図2、表1)。
【0088】
スルホネートのみを有し双性イオン基は有していないポリマーの場合には、非常に小さな粒子が観察され、PMMA‐SO
3H 1%では約13nmのNPが生じ、粒子径は2%のスルホネートで約9nmまで低下した。ポリマー鎖に10%のZIを導入してもPMMA‐ZI‐SO
3H系NPの粒子径への影響はごくわずかであった。1%及び2%スルホネートのNPについてはそれぞれ直径11nm及び9nmとなった。従ってZI基の存在は粒子形成の過程に影響を及ぼさず、得られる「ZIシェル」は十分に薄くNPの大きさに影響しない。一方でアルキルメタクリラートモノマーの疎水性を高めると、粒子径(
図2、表1)は、PMMA‐ZI 10%‐SO
3H 1%<PEMA‐ZI 10%‐SO
3H 1%<PPMA‐ZI 10%‐SO
3H 1%<PBMA‐ZI 10%‐SO
3H 1%の順に、11nmから35nmまで大きくなった。
【0089】
表1.透過型電子顕微鏡法及び蛍光相関分光法から得られた、様々なポリマーから作製されたNPの大きさ。誤差は、TEMについては分布の半値幅、及びFCSについては3回の計測値に関する変動に相当する。
【0090】
【0091】
ナノ粒子は、大量の色素(ポリマーに対して1~20重量%)のカプセル化によって蛍光性となった。ここで、カチオンのローダミンR18は大型かつ非常に疎水性の高い対イオンF5‐TPBと会合しているが、これはこの会合が凝集によるクエンチングを回避し、かつ非常に疎水性の高い色素と対イオンの対を生じるからである。色素を搭載したNPを48時間透析すると、使用した色素の放出は5%未満であることが判明し、この手法で粒子中への色素塩の非常に効率的なカプセル化がなされることが示されたが、これはF5‐TPB対イオンを伴う色素の非常に効率的なカプセル化を示した以前の結果15と一致している。更に、粒子の量子収率は双性イオンを有する全てのポリマーに関して10重量%の場合で>30%が維持され、よって優れた粒子輝度が確保された。
【0092】
2.2 双性イオンポリマーナノ粒子の安定性
得られた粒子の生体媒質中における安定性、特に双性イオン基が安定性を改善する可能性について、蛍光相関分光法(FCS)によって調査した。ポリマー中のZI基の割合(%)を、粒子上のZIの密度を変更するために0%から10%まで変化させた。FCSデータから得られたNPの粒子径は、TEMから得られたものと非常に良く一致していた(
図3、表1。大きさが小さいのはFCS実験で使用された色素塩の量が少ないことと関係している。)。第1のステップでは、NPの安定性について、追加するNaCl溶液の濃度を高めることにより評価した(
図3A)。安定限界は、NPの凝集が観察されない最大のNaCl濃度として定義した。ZI基を有していないポリマーから作製された粒子は少量の塩が添加されるとすぐに凝集(及び沈殿)し始めた(
図3A)。ZI基を加えることにより、ZI基の量が増加するにつれて粒子の安定性が増大した。10%の双性イオン基では、NPの大きさに変化は見られず1M NaClまでは沈殿の兆候もみられなかった。
【0093】
次にNPとタンパク質及び他の生体分子との相互作用に対する双性イオン基の影響について、塩及び生体分子の複雑な混合物であり著しく多数のタンパク質を含有しているウシ胎児血清(FBS)を加えることにより試験した(
図3B)。ZI基を含まない粒子の場合、約10nmの大きさの増大が観察されたが、これは少なくとも単層のタンパク質の吸着とその結果である「ハードな」タンパク質コロナの形成に相当する(
図3B)。5%のZI基以降、タンパク質と相互作用したときのNPの大きさの増大は有意に縮小された。10%のZI基では粒子径の有意な増大は観察されず、これらの粒子の表面がタンパク質吸着に抵抗したことが示された(
図3C)。
【0094】
2.3 双性イオンポリマーナノ粒子のin vitroでのふるまい
その後、上記のNPを生きているHeLa細胞の細胞質ゾルの核周囲部に直接マイクロインジェクションし、その挙動について落射蛍光顕微鏡法を使用してモニタリングした(
図4)。全例において、細胞質ゾル構造物の広範な染色はほとんど存在しなかった。これは、NP内への色素の効率的かつ安定したカプセル化、及び色素の浸出が無いことを確認するものである。60秒間の蛍光強度の最大値投影により、細胞質ゾル全域の粒子の全体的分布についての概要がつかめた。すなわち、ZI基が存在しない場合、ほとんどの粒子は注入地点に残されたままであり、かつ細胞質ゾル中にあるわずかな粒子の移動性は低く、粒子と細胞構成物質との強い相互作用が示された。これに対し、10%のZI基を有する粒子は概して細胞質ゾル全体にわたって分布した。PMMA系のZIを有するNPは、注入地点近くの核の上に「投影像」がある場合もあるが、細胞質ゾル全体への分布及び高い移動性を示した。PEMA‐ZI粒子は、実際にすべてのNPについて均一な分布及び高い移動性を示した。これはPPMA‐ZI粒子についても観察され、ただしこの場合は粒子の一部が注入地点近くに残った。PBMA系の粒子の場合、これらは試験した他のポリマーを用いる粒子よりも強く注入地点に局在した。これらの結果から、10%のZI基は、粒子と細胞構成物質との相互作用を強力に低減して細胞質ゾル全体にわたって広がることを可能にするのに十分であることが確認された。しかしながら、上記の結果からさらに、粒子径も細胞内の粒子拡散に対して大きな影響を有すること、及び細胞構造物による立体障害
6のためコアの臨界の大きさ約23nmより小さい粒子しか細胞質ゾル全体にわたって広がることができないことも確認される。ここでは、PBMA粒子はこの閾値を明らかに上回る大きさであり、該粒子の固定化が生じていた。PPMA粒子の一部もこの閾値を上回っており、その結果粒子の一部の固定化が生じた。
【0095】
2.4 単一粒子のトラッキング
本発明の粒子が高輝度であることにより、NPの移動性及び拡散挙動を単一粒子レベルでモニタリングすることが可能となり、したがって本発明者らのNPの細胞内の挙動に対するZI基及び使用したポリマーの種類の影響をよりよく理解することが可能となった。PEMA系のZIを有するNPの細胞質内軌道の一例を
図5Aに示す。上記NPについて平均二乗変位(MSD)を遅延時間に対してプロットすることにより、指数αを1とした約10μm
2までの直線的増加が示された(
図5B)。これは、細胞質ゾル中における上記粒子の正常拡散又はブラウン拡散を示しており、二次元ではMSD=4DΔt
αとして記述され、Dは拡散係数であり、α=1である
16。次に個々のNPの拡散係数を対応するMSD曲線から求めた。
図5Cは、PEMA‐ZIのNPについて拡散係数の分布がおよそ1μm
2/sに集中していて平均のDは0.80μm
2/sであり、同じような大きさのQDについて得られた値
4と良く一致していることを示している。この分布は、0.2μm
2/sを下回る拡散係数のNPを有する画分のみを示している。PMMA‐ZIのNPは同様の拡散係数の分布を有し、平均値はわずかに低く0.65μm
2/sであった(
図5D)が、これは流体力学的な大きさがわずかに大きいことと合致している。他方、PPMA‐ZIのNPは0.25μm
2/sという明らかに低い平均拡散係数を示した。これは恐らく、このNPが注入地点の周りに強く集積していることによって既に示されていたように、該NPがより大きいため細胞質内拡散が制限されることによる。ZI基を含まないPMMA‐SO
3H 1%のNPは注入地点の周りに集積したままであり、従ってこれらの拡散挙動を特徴解析することはできなかった。しかしながら本発明者らは、そのようなナノ粒子上へのPEG化界面活性剤Tween 80(T80)の単純な吸着が、該ナノ粒子のタンパク質との相互作用を強く低減し、かつ細胞質ゾル中における拡散を可能にすることを、かつて示すことができている
5、15。興味深いことに、これらのNPの平均拡散係数は、PMMA及びPEMAのZIのNPの平均拡散係数と比較すると、それらのコアの大きさが非常に近い(
図2)にもかかわらず、3分の1~4分の1の0.2μm
2/sであった。この1つの理由は確かに、PEG化界面活性剤の添加によりNPの大きさが>5nmも増大するという事実である。拡散係数の大きな差はさらに、ZI基が、吸着したPEGシェルよりも、細胞内の生体分子及び構造物との非特異的相互作用を低減するのにより有効であることを示している。
【0096】
<実施例2:生体分子との特異的相互作用のための双性イオン蛍光性ナノ粒子の調製>
本実施例では、非特異的相互作用を防止するための双性イオン基を有し、かつ生体分子との特異的相互作用を導入するための標的指向基を有している、蛍光性ナノ粒子(NP)を設計した。特異的相互作用を導入するために、抗体、より具体的にはHER2受容体に対する抗体であるセツキシマブを使用した。抗体とナノ粒子とのコンジュゲーションを達成するために、アジド基と歪んだアルキンであるジベンジルシクロオクチン(DBCO)との間の、銅を用いない付加環化のクリックケミストリーを利用した。片方では、双性イオン基、荷電基、及びアジド基を有する疎水性コポリマーを疎水性の色素塩と共にナノ沈殿することにより、アジド基を表面に備えた双性イオンの高輝度蛍光性ナノ粒子を構築した。他方では、反応性のDBCO基を導入するために抗体を修飾した。細胞アッセイから、抗体を用いて蛍光性ナノ粒子がHER2を発現する細胞に特異的に結合することが示された。
【0097】
1. 材料及び方法
1.1 ポリ(エチルメタクリラート‐コ‐メタクリル酸‐コ‐2‐(N‐3‐スルホプロピル‐N,N‐ジメチルアンモニウム)エチルメタクリラート‐コ‐Asp(OtBu)‐N
3)(PEMA‐ZI‐MAA‐Asp(OtBu)‐N
3)の合成
このポリマーは、下式(Ia‐1)
【化6】
によって表わすことができる。
【0098】
PEMA‐ZI‐MAA‐Asp(OtBu)‐N3は、ポリ(エチルメタクリラート‐コ‐メタクリル酸‐コ‐2‐(N‐3‐スルホプロピル‐N,N‐ジメチルアンモニウム)エチルメタクリラート)(PEMA‐ZI‐MAA)から3ステップで得た。PEMA‐ZI‐MAAは、実施例1に上述したようにしてフリーラジカル重合によって得た。
【0099】
1H NMR (400 MHz, DMSO-D6) δ, ppm: 4.35 (br, 0.33 H), 3.98 (m, 2.00 H), 3.66 (br, partial covered with solvent peak), 3.10 (m, 0.87 H), 1.82 (br, 1.78 H), 1.19 (m, 3.06 H), 0.94 (m, 1.12 H), 0.78 (m, 1.53).
【0100】
第1のステップでは、PEMA‐ZI‐MAAを、Asp(OtBu)‐N3(Tert‐ブチル3‐アミノ‐4‐((3‐アジドプロピル)アミノ)‐4‐オキソブタノアート、Melnychuk, N.らが述べた手順(A.S. “DNA-Functionalized Dye-Loaded Polymeric Nanoparticles:Ultrabright FRET Platform for Amplified Detection of Nucleic Acids”, J. Am. Chem. Soc., (米), 2018, vol. 140, p. 10856)に従って合成)と共に、ジメチルホルムアミド(DMF、シグマアルドリッチ)の中で、カップリング剤としてベンゾトリアゾール‐1‐イル‐オキシトリピロリジノホスホニウムヘキサフルオロホスファート(PyBOP、東京化成工業)を使用して、塩基のN,N‐ジイソプロピルエチルアミン(DIPEA、シグマアルドリッチ)の存在下で、反応させた。得られたポリマーを、メタノール‐水混合物中での沈殿により精製した。
【0101】
第2のステップでは、tert‐ブチル基を、トリフルオロ酢酸(シグマアルドリッチ)及びジクロロメタン(シグマアルドリッチ)の1対1混合物を用いた処理によって脱離させた。
【0102】
蒸発乾固の後、第3のステップにおいて、ポリマーを沈殿及びカラムクロマトグラフィーにより精製した。
【0103】
1H NMR (400 MHz, DMSO-D6) δ, ppm: 4.34 (br, 0.23 H), 3.96 (m, 2.00 H), 3.63 (m, 0.22 H), 3.51 (m, 0.23 H), 3.09 (m, 0.54 H), 1.78 (br, 1.97 H), 1.37 (s, 0.41 H), 1.17 (m, 3.55 H), 0.92 (m, 1.06 H), 0.76 (m, 1.65 H).
【0104】
このポリマーでは、主要モノマーは上記のようにエチルメタクリラートであり、COOH基及び双性イオン基のモル量はそれぞれ5mol%及び10mol%である。
【0105】
1.2 ナノ粒子の調製
上記1.1項において得られたPEMA‐ZI‐MAA‐Asp(OtBu)‐N3の保存溶液を、20体積%メタノールを含むアセトニトリル中に10g/Lの濃度で調製した。この溶液を、蛍光性の疎水性色素塩であるR18/F5‐TPBを(ポリマーに対して)10、20、又は30重量%含有する相応の溶媒で2g/Lに希釈した。この溶液を直ちに9倍過剰量の撹拌中(Thermomixer comfort、21℃で1000rpm)のリン酸緩衝液(20mM、pH7.4)に加え、続いて水性相を用いて第2の希釈を行った。
【0106】
1.3 抗体の修飾
セツキシマブ(メルク(Merck))は、HER2受容体に対するキメラ型のIgG1完全長抗体である。この抗体は臨床用調合物として入手した。抗体のバッファ交換を、限外濾過(MWCO 50kDa、Vivaspin)によりホウ酸緩衝液pH8.14について行った。抗体の濃度をUV‐vis吸光度によって測定し(セツキシマブmAbについてはε280=210.000M-1cm-1)、48μM(10.0mg/mL)に調整し、アリコートとして-20℃で保管した。実験用には、アリコートを融解して直ぐに使用した。
【0107】
1.4 セツキシマブとマレイミド‐PEG4‐DBCOとのコンジュゲーション
報告されているプロトコール1の変法を使用してコンジュゲートを調製した。セツキシマブ(23μM、300μL、0.0069μmol)をホウ酸緩衝液pH8.4で調製した。次に、トリス(2‐カルボキシエチル)ホスフィン塩酸塩(TCEP、シグマアルドリッチ)を加え(45.8mM、1.2μL、4eq)、反応物を穏やかに撹拌(450RPM)しながら37℃で2時間インキュベートした。その後、ジベンゾシクロオクチン‐PEG4‐マレイミド(DBCO‐PEG4‐マレイミド、シグマアルドリッチ)の乾燥DMF中の溶液(10mM)を調製してセツキシマブ(8μL、8 eq)に添加した。続いて、温度を4℃に下げてインキュベーションを18時間継続した。その後、PBS緩衝液(pH7.4)を用いた限外濾過(50kDa MWCO)により過剰な試薬を除去すると、PBS緩衝液中の修飾型の抗体‐マレイミド‐PEG4‐DBCOが得られ、UV‐visによって決定されるように収率は60~70%であった。
【0108】
1.5 細胞の維持及び蛍光の画像化
Her2(Neu/ErbB‐2)を過剰発現するヒト乳がん細胞株であるSKBR‐3細胞を、10%ウシ胎児血清(ギブコ)及び1%ペニシリン/ストレプトマイシン(100U/mL、ギブコ)が添加されたダルベッコ改変イーグル培地(ギブコ、DMEM)で培養した。SKBR‐3細胞を、8ウェルのLab‐Tekチャンバーカバーガラス(サーモサイエンティフィック(Thermo Scientific))に2.0×104個の細胞密度で播種し、続いて37℃及び5%CO2で48時間インキュベートした。蛍光の画像化のために、培地を捨てて細胞をPBS緩衝液で洗浄した。次に、200μLのAb‐マレイミド‐PEG4‐DBCO(ギブコのOptimemに含めて10μg/mL)及び200μLのOptimem培地単独(対照)を細胞に加え、37℃及び5%CO2で20分間インキュベートした。次に細胞をPBSで繰り返し洗浄し、PBS中の4%パラホルムアルデヒドを用いて37℃及び5%CO2で12分間固定し、続いてPBS中に含めた3%BSAを添加し、37℃及び5%CO2でさらに15分間インキュベートした。次に、双性イオン基、荷電基及びアジド基を有する蛍光性NP(1.2項を参照、PBS中に0.1%BSAの溶液中に100pM)を添加し、細胞を37℃及び5%CO2で3時間インキュベートした。最後に、細胞をPBS中に0.1%BSAの溶液で洗浄し、60×対物レンズ(Apo TIRF、油浸、NA1.49、ニコン)を備えたニコンのTi‐E倒立顕微鏡を使用して落射蛍光顕微鏡法によって検査した。励起は発光ダイオード(SpectraX、ルメンコ)により550nmで行った。
【0109】
2. 結果及び考察
本実施例では、生物学的に興味深い分子の導入を可能にする反応性基を備えた蛍光性の双性イオンナノ粒子を構築した。このために、カルボキシレート及びスルホベタイン基を有するエチルメタクリラート系ポリマーをラジカル重合によって合成した(
図6A)。このポリマーに、本発明者らは次に、アジド基、ポリマー上のCOOH基と結合するためのアミノ基、及び保護されたカルボン酸を有する三官能分子(Asp(OtBu)‐N3、アスパラギン酸由来)との反応によりアジド基を導入した。カルボキシレートの脱保護の後、ZI基、ナノ沈殿の際のナノ粒子の大きさを制御するためのCOOH基、及びアジド反応性基(例えば10mol%の双性イオン基、5mol%のCOOH、3~5mol%のN3)を兼ね備えた疎水性ポリマーが得られた(上記の式Ia‐1)。
【0110】
このポリマーを次に、ナノ沈殿により色素搭載ナノ粒子(NP)を構築するために使用した。ポリマー及び(ポリマーに対して)10~30重量%の色素塩R18/F5‐TPBのアセトニトリル溶液(10%のメタノールを含有)を、9倍過剰量のリン酸緩衝液(pH7.4)に素早く加え、続いてさらに希釈した。これにより15~18nmの大きさのNPが形成されたが、この大きさは以下の表2に詳述されるように色素の搭載に伴ってわずかに増大した。これらのNPは、蛍光量子収率およそ32%の明るい蛍光を示した。粒子の大きさ及び搭載量に基づくと、発蛍光団の数を、搭載量10、20、及び30重量%のナノ粒子につきそれぞれ100、250及び500個の発蛍光団であると見積もることができる。次に1粒子あたりの輝度は式ε×N×QYを使用して計算することが可能であり、前記式中、εはローダミンの吸光係数(125000M-1・cm-1)、Nは1粒子当たりの色素の数、及びQYは量子収率であり、×は乗算演算子である。これにより、搭載量30重量%の場合、1粒子あたりの輝度は2.1×107M-1・cm-1となる。
【0111】
【0112】
他方、DBCOを有する抗体は、2ステップのワンポットプロセスで得た(
図6B)。第1ステップでは、(トリス(2‐カルボキシエチル)ホスフィン)(TCEP)を使用して抗体セツキシマブのジスルフィド結合を切断した。第2ステップでは、次に抗体を、一方の側にチオール基とのコンジュゲーション用のマレイミド、及び反対側にDBCO基を有しておりこれらが短いオリゴ(エチレングリコール)リンカーによって接続されている二価性試薬と、反応させた。精製した後、アジド基を有する発蛍光団とのコンジュゲーションを経た反応性のDBCO基の存在を、UV‐可視吸収測定によって確認した。
【0113】
この抗体/NPシステムを次に、HER2受容体を発現する細胞へのNPの特異的結合に適用した。抗体‐NPコンジュゲーションはin situで実施した。SKBR‐3細胞をガラス製のカバーガラス(Labtek)のウェル内で培養し、培養48時間後に本発明のDBCO修飾抗体で処理した。細胞を固定した後、アジドを有するNPを添加した。対照として、抗体を加えずに同じ実験を実施した。
【0114】
図7に示す蛍光顕微鏡法の結果から、抗体が存在しない場合はSKBR‐3細胞にNPは事実上検出されないことが示された。しかしながら、HER2受容体に対するDBCO修飾抗体を用いて処理した後は、NPを添加すると、特に細胞の外縁部、恐らくは受容体を包含している原形質膜に、強い蛍光が生じた。
【0115】
これにより、DBCOを有する抗体とアジドを有する蛍光性の双性イオンNPとのコンジュゲーションという本発明者らのシステムが、細胞上の生物学的な目的物(受容体)へのNPの特異的結合を可能にすることが示された。
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