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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-06-06
(45)【発行日】2025-06-16
(54)【発明の名称】レーザレーダ装置
(51)【国際特許分類】
   G01S 17/95 20060101AFI20250609BHJP
   G01S 7/481 20060101ALI20250609BHJP
【FI】
G01S17/95
G01S7/481 A
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2024571990
(86)(22)【出願日】2023-07-04
(86)【国際出願番号】 JP2023024701
(87)【国際公開番号】W WO2025009044
(87)【国際公開日】2025-01-09
【審査請求日】2024-12-06
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006013
【氏名又は名称】三菱電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003166
【氏名又は名称】弁理士法人山王内外特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 優佑
(72)【発明者】
【氏名】小竹 論季
(72)【発明者】
【氏名】今城 勝治
【審査官】佐藤 宙子
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第106997051(CN,A)
【文献】特開2021-012101(JP,A)
【文献】特開2008-309562(JP,A)
【文献】国際公開第2021/079513(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第112346082(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01S 7/48- 7/51
G01S 17/00-17/95
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力されたレーザ光に対し、所定の角度だけ偏光方向を回転させる偏光方向回転部と、
前記偏光方向回転部により偏光方向が回転されたレーザ光を、第1の方向と、当該第1の方向とは異なる第2の方向とに分岐させる偏光ビームスプリッタと、
前記偏光方向回転部と前記偏光ビームスプリッタとを、互いに異なる回転角速度で回転させることにより、前記第1の方向に分岐されたレーザ光による円形状のスキャンと、前記第2の方向に分岐されたレーザ光による円錐状のスキャンとを実現する回転制御部と、
前記それぞれのスキャンにおいてレーザ光の照射対象により反射された反射光を用いて、風速場を算出する信号処理部と、
を備え、
前記第1の方向は水平方向であり、
前記第2の方向は鉛直方向であり、
前記偏光方向回転部はλ/2波長板で構成され、
前記回転制御部は、前記λ/2波長板の回転角度に対し、前記偏光ビームスプリッタの光学軸に対するオフセット角が付与された状態で、前記偏光ビームスプリッタの回転角速度が前記λ/2波長板の回転角速度の2倍になるように前記偏光ビームスプリッタと前記λ/2波長板とを回転させるものである、
ことを特徴とするレーザレーダ装置。
【請求項2】
前記鉛直方向における前記偏光ビームスプリッタの後段に偏光学素子を備え、
前記偏光ビームスプリッタにより前記鉛直方向に分岐された前記レーザ光に対して、前記偏光学素子により所定の角度だけ偏角を与えることにより、前記鉛直方向に分岐されたレーザ光による円錐状のスキャンを実現する
ことを特徴とする請求項記載のレーザレーダ装置。
【請求項3】
記回転制御部は、
前記λ/2波長板の光学軸に対応するベクトルと、前記偏光ビームスプリッタの反射面の法線ベクトルを前記λ/2波長板へ射影したベクトルとが平行ではない状態を維持しながら、前記λ/2波長板と前記偏光ビームスプリッタとを回転させる
ことを特徴とする請求項1または請求項2のいずれか1項に記載のレーザレーダ装置。
【請求項4】
前記オフセット角の大きさは任意に設定可能であることを特徴とする請求項1または請求項2のいずれか1項に記載のレーザレーダ装置。
【請求項5】
レーザ光の照射対象が反射可能な波長帯を有し、直線偏光特性を有するレーザ光を出力する光源と、
前記光源から出力されたレーザ光を分岐する分岐部と、
前記分岐部により分岐されたレーザ光の一方をパルス変調する変調部と、
前記変調部によりパルス変調されたレーザ光のパワーを増幅する増幅部と、
前記増幅部により増幅されたレーザ光を整形する送信側光学系と、
前記送信側光学系により整形されたレーザ光と、当該レーザ光の前記照射対象による反射光とを分離する送受分離部と、
前記送受分離部により分離された反射光を受信する受信側光学系と、
前記受信側光学系により受信された反射光と、前記分岐部により分岐されたレーザ光の他方とを合波することにより、所定の干渉信号を得る検波器と、
を備え、
前記偏光方向回転部は、前記送受分離部により分離されたレーザ光に対し、所定の角度だけ偏光方向を回転させ、
前記信号処理部は、前記検波器により得られた干渉信号に基づいて風速場を算出する
ことを特徴とする請求項1記載のレーザレーダ装置。
【請求項6】
前記受信側光学系の光学軸は、前記送信側光学系の光学軸に対して45度傾けて配置されていることを特徴とする請求項記載のレーザレーダ装置。
【請求項7】
記信号処理部は、前記水平方向における風速場の算出により得られた1高度複数地点の風速場を示すデータと、前記鉛直方向における風速場の算出により得られた複数高度1地点の風速場を示すデータとに基づき、複数高度複数地点の風速場を示すデータを生成し、当該生成したデータから、複数高度複数地点の風速場を算出すること
を特徴とする請求項1記載のレーザレーダ装置。
【請求項8】
前記信号処理部は、
前記鉛直方向における高度0の地点の風速場を示すデータを仮想的に生成し、
当該生成したデータを基準とした、前記複数高度1地点の風速場を示すデータの比を算出し、当該算出した比を、前記水平方向における風速場の算出により得られた1高度複数地点の風速場を示すデータに乗算することにより、複数高度複数地点の風速場を示すデータを生成する
ことを特徴とする請求項記載のレーザレーダ装置。
【請求項9】
入力されたレーザ光に対し、所定の角度だけ偏光方向を回転させる偏光方向回転部と、
前記偏光方向回転部により偏光方向が回転されたレーザ光を、第1の方向と、当該第1の方向とは異なる第2の方向とに分岐させるとともに、前記第2の方向に分岐させたレーザ光に対して所定の角度だけ偏角を与えることが可能な偏向出力偏光ビームスプリッタと、
前記偏光方向回転部と前記偏向出力偏光ビームスプリッタとを、互いに異なる回転角速度で回転させることにより、前記第1の方向に分岐されたレーザ光による円形状のスキャンと、前記第2の方向に分岐されたレーザ光による円錐状のスキャンとを実現する回転制御部と、
前記それぞれのスキャンにおいてレーザ光の照射対象により反射された反射光を用いて、風速場を算出する信号処理部と、
を備え、
前記第1の方向は水平方向であり、
前記第2の方向は鉛直方向であり、
前記偏光方向回転部はλ/2波長板で構成され、
前記回転制御部は、前記λ/2波長板の回転角度に対し、前記偏向出力偏光ビームスプリッタの光学軸に対するオフセット角が付与された状態で、前記偏向出力偏光ビームスプリッタの回転角速度が前記λ/2波長板の回転角速度の2倍になるように前記偏向出力偏光ビームスプリッタと前記λ/2波長板とを回転させるものである、
ことを特徴とするレーザレーダ装置。
【請求項10】
記水平方向に対するスキャンを行う際の仰角が変更可能となるように前記偏向出力偏光ビームスプリッタを回転可能に固定する回転部を備えた
ことを特徴とする請求項9記載のレーザレーダ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、レーザレーダ装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
本開示に関し、レーザレーダ装置を用いた風(風速)計測の技術が知られている。例えば、レーザレーダ装置は、レーザパルス光(以下、単に「レーザ光」ともいう。)を大気中に照射してエアロゾルからの散乱光を受光し、照射したレーザ光のローカル光である単一周波数の連続光と散乱光とのヘテロダイン検波により、エアロゾルの移動によって生じるドップラーシフトを求め、レーザ光の照射方向における風速を計測する。なお、ドップラーシフトは、ヘテロダイン検波後の信号をフーリエ変換して得られるスペクトルから算出される(例えば非特許文献1)。
【0003】
上記レーザレーダ装置にて計測される風速は、レーザ光の照射方向に平行な方向の風速であり、この風速は通常「視線風速」と呼称される。一方で、3次元的な風向風速(以下、この風向風速を「風速場」又は「風速ベクトル」ともいう。)を求める場合には、複数視線観測、あるいはスキャニング観測を行うことにより、レーザ光の照射方向を切り替え、ベクトル演算及びVAD(Velocity Azimuth Display)法に基づく処理など、従来知られた計算方法によって3次元的な風速場を算出する。
【0004】
このような風速場を算出可能なレーザレーダ装置としては、例えば、大気中の異なる方向にレーザ光が照射されるように複数の光学系を構築することで、複数視線観測を行う鉛直型のレーザレーダ装置、あるいは、複数の可動ミラーを走査することでレーザ光を屈折させ、大気中の候となる方向にレーザ光が照射されるようにスキャンするスキャニング型のレーザレーダ装置が知られている。なお、以下の説明では、大気中に照射するレーザ光を、送信光、レーザパルス光、送信ビーム、送信レーザビーム等という場合があるが、いずれも同義とする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】気象と大気のレーダーリモートセンシング、ISBN 4-87698-653-3
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来、風計測を行うレーザレーダ装置(以下、「風計測ライダ」又は単に「ライダ」ともいう。)は、空港、風力発電、及び気象観測用途などの様々な分野で利用されるが、本開示に係るレーザレーダ装置は、空飛ぶクルマをはじめとした空中プラットフォームへの適用を想定するものである。空中プラットフォームへのレーザレーダ装置の利活用に向けては、空中プラットフォームの航行路における風速場の把握が極めて重要となり、当該把握結果を基にした突風アラート、及び最適航路提案などの航行支援が必要となる。そのため、レーザレーダ装置では、地上半球空間における風速場の計測が必要となり、かつ、その計測にはリアルタイム性が求められる。
【0007】
例えば、従来の天頂方向のみを観測する鉛直型のライダでは、短時間での風速場の計測が可能であるが、その場合の計測結果は、高度方向にのみ距離分解された計測結果であり、ライダを設置した1地点での風速場の情報のみしか得られない。これに対し、スキャニング型のライダでは、方位角方向(AZ;azimuth)及び仰角方向(EL;elevation)にレーザ光をスキャンすることで、3次元的に風速場を計測することが可能となり、複数地点及び複数高度の半球空間全域の風速場の計測が可能となる。しかしながら、このライダは半球空間の全方向をスキャンするために時間を要し、リアルタイム性を欠く。
【0008】
例えば、スキャニング型のライダでは、北方向の観測データと南方向の観測データとの間には観測時間のずれが生じる。つまり、スキャニング型のライダでは、半球空間の全方向をスキャンした観測データの中で、風速場の同一時刻性が担保されていない。一方で、この計測を短時間で行うことは困難である。
【0009】
前提とする風計測ライダをパルス型、すなわちTime of fight(TOF)で距離を分解する方式を用いた風計測ライダを例にして、上記計測に時間を要する理由を説明する。パルス型の場合、風計測ライダが大気中に送信するレーザ光は所定の繰り返し周波数であるパルス光となるが、十分な信号対雑音比(SNR)を得るためには積算を要する。繰り返し周波数をPRFとし、積算回数をNとした場合、積算が完了する時間はPRF×Nとなる。したがって、この積算に要する時間では、風計測ライダは所定の方向でスキャンを止めるか、もしくは低速でスキャンすることで近似的に同一方向を指向する必要がある。そのため、風計測ライダでは、地上半球空間全域をスキャンすることに時間を要する。このように、従来の風計測ライダは、短時間で地上半球空間の風速場を計測することは困難であり、空中プラットフォームへ適用するには課題がある。
【0010】
本開示は上記のような課題を解決するためになされたもので、地上半球空間の風速場を従来よりも短時間で計測することが可能なレーザレーダ装置を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本開示に係るレーザレーダ装置は、入力されたレーザ光に対し、所定の角度だけ偏光方向を回転させる偏光方向回転部と、偏光方向回転部により偏光方向が回転されたレーザ光を、第1の方向と、当該第1の方向とは異なる第2の方向とに分岐させる偏光ビームスプリッタと、偏光方向回転部と偏光ビームスプリッタとを、互いに異なる回転角速度で回転させることにより、第1の方向に分岐されたレーザ光による円形状のスキャンと、第2の方向に分岐されたレーザ光による円錐状のスキャンとを実現する回転制御部と、それぞれのスキャンにおいてレーザ光の照射対象により反射された反射光を用いて、風速場を算出する信号処理部と、を備えたものである。
【発明の効果】
【0012】
本開示によれば、地上半球空間の風速場を従来よりも短時間で計測可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】実施の形態1に係るレーザレーダ装置の構成例を示す図である。
図2】実施の形態1におけるλ/2波長板へ入力された送信光の偏光方向の変化を説明する図である。
図3】実施の形態1において大気中への送信光の伝搬方向が変化していく様子を説明する図である。
図4】実施の形態1におけるスキャン側の領域のうちのある一領域の風速場を説明する図である。
図5】実施の形態1に係る信号処理部により計算された鉛直側及びスキャン側の風速場の様子を説明する図である。
図6】実施の形態1に係る信号処理部により計算された複数高度かつ複数地点の風速場の様子を説明する図である。
図7】実施の形態2に係るレーザレーダ装置におけるスキャン部の構成例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本開示の実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。
実施の形態1.
【0015】
図1は、実施の形態1に係るレーザレーダ装置100の構成例を示す図である。レーザレーダ装置100は、例えば図1に示すように、光源1と、分岐部2と、変調部3と、増幅部4と、送信側光学系5と、送受分離部6と、偏光方向回転部7と、受信側光学系11と、受信側偏光ビームスプリッタ12と、光IQ検波器13と、信号処理部14と、回転制御部15(15a、15b)と、スキャン部17(偏光ビームスプリッタ8、偏光学素子9、ウィンドウ10、及びウィンドウ16)とを含んで構成される。
【0016】
光源1は、略単一周波数からなる連続光であるレーザ光を出力する。このレーザ光は、例えば大気中のエアロゾルなどの照射対象が反射可能な波長帯を有し、かつ直線偏光特性を有するレーザ光である。光源1は、例えば半導体レーザ及び固体レーザで構成され、分岐部2に接続される。
【0017】
分岐部2は、光源1から入力されたレーザ光を送信光信号と局発光信号とに分配し、送信光信号を変調部3へ、局発光信号を光IQ検波器13へ、それぞれ出力する。分岐部2は、例えば1:2光カプラ、及びハーフミラーで構成される。ここでは、分岐部2はファイバ型であるものとして説明するが、分岐部2はこれに限らず空間型でもよい。分岐部2は、送信光信号の出力端が変調部3に接続され、局発光信号の出力端が光IQ検波器13に接続される。
【0018】
変調部3は、分岐部2から入力された送信光信号に対してパルス変調を行うとともに、所望の周波数シフトを与えてパルス光を生成する機能を有する。変調部3は、例えばLN(LiNbO3)変調器、AOM(Acousto-Optics modulator)、及びSOA(semiconductor optical amplifier)で構成され、増幅部4に接続される。
【0019】
増幅部4は、変調部3から入力されたパルス光のピークパワーを増幅して送信光を生成する機能を有する。増幅部4は、例えば光ファイバアンプで構成され、送信側光学系5に接続される。
【0020】
送信側光学系5は、増幅部4から入力された送信光を所望のビーム径及び広がり角に整形する機能を有する。送信側光学系5は、例えば凸レンズ、凹レンズ、非球面レンズ及びそれらの組み合わせで構成される。ただし、送信側光学系5はこれらに限らず、例えばミラーで構成されてもよい。
【0021】
送信側光学系5は、送受分離部6と光学的に接続される。ここで、「光学的に接続される」とは、電気的又は物理的な接続ではないが、光が伝搬する経路として接続されているということを意味する。
【0022】
なお、実施の形態1では、光源1から送信側光学系5までの経路は光ファイバにより構成される例を説明する。具体的には、実施の形態1では、光源1がレーザ光を出力してから、送信光が送信側光学系5を出射するまで、送信光の偏光方向は光源1で定められる偏光方向に維持されている。そのため、実施の形態1では、偏波保持の光ファイバで上記経路を構成する。ただし、上記経路は必ずしも光ファイバで構成される必要はなく、例えば空間光学系で構成されてもよい。なお、実施の形態1では、送信側光学系5から出射された位置での送信光の偏光方向を基準光学軸として定義する。
【0023】
送受分離部6は、送信側光学系5と、偏光方向回転部7と、受信側光学系11とに光学的に接続される。送受分離部6は、例えば偏光無依存型のビームスプリッタで構成される。送受分離部6は、送信側光学系5から順方向に入力された送信光を偏光方向回転部7に出力する機能を有する。このとき、送受分離部6は、当該送信光を受信側光学系11には出力しない。また、送受分離部6は、偏光方向回転部7から逆方向に入力された受信光を受信側光学系11に出力する機能を有する。このとき、送受分離部6は、当該受信光を送信側光学系5には出力しない。
【0024】
偏光方向回転部7は、送受分離部6及び偏光ビームスプリッタ8に光学的に接続される。偏光方向回転部7は、送受分離部6から入力された、特定の偏光方向を有する送信光に対し、所定の角度だけ偏光方向を回転させる処理を施し、当該回転後の送信光を偏光ビームスプリッタ8へ出力する機能を有する。偏光方向回転部7は、例えばλ/2波長板で構成される。また、偏光方向回転部7は、回転制御部15に接続され、当該回転制御部15による制御を受けて回転する。
【0025】
偏光ビームスプリッタ8は、偏光学素子9及びウィンドウ16に光学的に接続される。偏光ビームスプリッタ8は、偏光方向回転部7から入力された上記回転後の送信光の偏光方向に応じて、S偏光成分を第1の方向側へ、P偏光成分を第2の方向側へ、それぞれ誘導する機能を有する。ここで、第1の方向は例えば水平方向(スキャン方向)であり、第2の方向は鉛直方向である。
【0026】
なお、以下の説明では、第1の方向は水平方向(スキャン方向)であり、第2の方向は鉛直方向である場合について説明する。また、以下の説明では、水平方向(スキャン方向)側のことを単に「スキャン側」ともいい、鉛直方向側のことを単に「鉛直側」ともいう。
【0027】
光学素子9は、偏光ビームスプリッタ8及びウィンドウ10に光学的に接続される。偏光学素子9は、上記鉛直側へ誘導された送信光(P偏光成分)に対し、所定の角度だけ偏角を与え、ウィンドウ10に出力する機能を有する。
【0028】
ウィンドウ10は、偏光学素子9に光学的に接続される。ウィンドウ10は、偏光学素子9から出力された送信光を透過させて大気中へ誘導(照射)する機能を有する。
【0029】
ウィンドウ16は、偏光ビームスプリッタ8に光学的に接続される。ウィンドウ16は、偏光ビームスプリッタ8から上記スキャン側へ誘導された送信光(S偏光成分)を透過させて大気中へ誘導する機能を有する。
【0030】
なお、実施の形態1では、偏光ビームスプリッタ8、偏光学素子9、ウィンドウ10、及びウィンドウ16によりスキャン部17が構成される。また、スキャン部17は、回転制御部15に接続され、当該回転制御部15による制御を受けて回転する。
【0031】
受信側光学系11は、送受分離部6に光学的に接続される。受信側光学系11は、上記鉛直側及び上記スキャン側に照射された送信光が照射対象にあたって散乱した反射光を受信光として受信する機能を有する。なお、受信側光学系11の光学軸は、受信した受信光のP偏光成分及びS偏光成分を、fast軸とslow軸とで区別して受信するように、送信側光学系5の光学軸に対して45度傾けられている。これにより、受信側光学系11は、それぞれの偏光成分を常に同じ光学軸で受信することができる。
【0032】
受信側偏光ビームスプリッタ12は、受信側光学系11及び光IQ検波器13に接続される。受信側偏光ビームスプリッタ12は、受信側光学系11により受信された上記受信光のP偏光成分とS偏光成分とを分離し、当該分離したそれぞれの成分を光IQ検波器13に出力する機能を有する。
【0033】
光IQ検波器13は、分岐部2、受信側偏光ビームスプリッタ12、及び信号処理部14に接続される。光IQ検波器13の機能は、従来技術として知られているため、その内部構成及び機能については詳細な説明を省略するが、ここでは概要のみ説明する。
【0034】
上述した構成及び機能から、鉛直側とスキャン側には送信光のP偏光成分とS偏光成分を割り当て、受信側光学系11のfast軸とslow軸との光学軸には、大気から受信された受信光のP偏光成分とS偏光成分とが固定して割り当てられている。光IQ検波器13は、分岐部2から出力された局発光信号を受信すると、受信した信号を2つに分岐し、一方の信号に対してはπ/2だけ位相シフトを与える。そして、当該分岐した信号のそれぞれを、受信側偏光ビームスプリッタ12で分岐されたP偏光成分とS偏光成分に対し合波させる。この合波により得られた光を、例えば2:2カプラ及びハーフミラーと同等の機能によって分岐し、分岐した光(干渉光)をバランスドレシーバもしくは差動増幅検出器へ入力することにより、受信光のP偏光成分及びS偏光成分から、変調部3で与えた周波数シフトによって定まるビート信号(P側RF信号及びS側RF信号)を生成する。光IQ検波器13は、生成したビート信号を信号処理部14へ出力する。なお、光IQ検波器13の内部構成は、ファイバ系で構築されていてもよい。
【0035】
信号処理部14は、光IQ検波器13及び回転制御部15に接続される。信号処理部14は、AD変換器、フーリエ変換器など、風計測ライダにおいて従来知られる信号処理において必要な構成を備えており、フーリエ変換後のスペクトルから風速を計算する処理を行う。また、信号処理部14は、回転制御部15を制御する。
【0036】
例えば、信号処理部14は、P偏光成分とS偏光成分とによって生成された上記2つのビート信号を、当該各ビート信号用に構成されたAD変換器によってAD変換し、デジタル化されたそれぞれの信号に高速フーリエ変換(FFT)を施し、周波数スペクトルを生成する。そして、信号処理部14は、当該生成した周波数スペクトルに基づき、鉛直方向及びスキャン方向における距離毎の風速場を計算する。なお、信号処理部14は、上記高速フーリエ変換後の風速場の計算処理のため、例えばFPGA(Field-Programmable Gate Array)により構成される。
【0037】
回転制御部15は、偏光方向回転部7、信号処理部14、及びスキャン部17に接続され、信号処理部14による制御を受けて、偏光方向回転部7及びスキャン部17をそれぞれ独立に回転させる。具体的には、回転制御部15は、回転制御部15a及び15bからなり、回転制御部15aは偏光方向回転部7を、回転制御部15bはスキャン部17を、それぞれ所定の回転角速度で回転させる機能を有する。
【0038】
回転制御部15bは、スキャン部17を回転させることにより、偏光ビームスプリッタ8からスキャン側へ誘導された送信光の照射方向を、方位角方向に対して0~360度の範囲で変化させる。また、回転制御部15bは、スキャン部17を回転させることにより、偏光ビームスプリッタ8から鉛直側へ誘導され、偏光学素子9によって偏角を加えられた鉛直側の送信光の照射方向を変化させる。
【0039】
回転制御部15aは、偏光方向回転部7を回転させる機能を有するが、この機能には以下の2つの機能が含まれる。1つは、偏光ビームスプリッタ8の光学軸に対して、偏光方向回転部7の回転角度にオフセット角を与える機能であり、もう1つは、スキャン部17の回転角速度とは異なる回転角速度で偏光方向回転部7を回転させる機能である。
【0040】
一例として、偏光方向回転部7の回転角度に与えるオフセット角をα、偏光方向回転部7の回転角速度をω2、スキャン部17の回転角速度をωsとした場合、ω2及びωsには次式(1)の関係が成り立つ。
ωs=2×ω2 (1)
【0041】
また、時刻tにおける偏光方向回転部7の回転角θ(t)は次式(2)により、時刻tにおけるスキャン部17の回転角θ(t)は次式(3)により求められる。
θ(t)=(ωs/2)×t+α (2)
θ(t)=ωs×t (3)
【0042】
なお、偏光ビームスプリッタ8の光学軸に対して、偏光方向回転部7の回転角度にオフセット角αを与えることは、例えば偏光方向回転部7を構成するλ/2波長板(7)の光学軸に対応するベクトルと、偏光ビームスプリッタ(8)の反射面の法線ベクトルをλ/2波長板(7)へ射影したベクトルとが平行ではない状態とすることと同義である。
【0043】
上記のような構成及び機能を備えることで、実施の形態1に係るレーザレーダ装置100では、送信側光学系5から出力される送信光は、スキャン側と鉛直側との2方向に分離されるだけでなく、送信光のP偏光成分が常に鉛直側、送信光のS偏光成分が常にスキャン側へ誘導される。また、レーザレーダ装置100では、上記のような構成及び機能を備えることで、スキャン側へ誘導された送信光のS偏光成分による円形状のスキャンと、鉛直側へ誘導された送信光のP偏光成分による円錐状のスキャンとが実現される。
【0044】
また、レーザレーダ装置100では、鉛直方向及びスキャン方向のそれぞれの方向に位置する大気中の照射対象(エアロゾル等)によって散乱された光、すなわち反射光は再び偏光ビームスプリッタ8へ受信光として入射され、偏光方向回転部7を通過する。このとき、それぞれの方向からの受信光の偏光方向は、送信光の偏光方向とは異なる角度となるが、上記受信光の合成成分の偏光方向は、常に同一方向に固定される。
【0045】
次に、実施の形態1に係るレーザレーダ装置100の動作例について説明する。なお、以下の説明では、偏光方向回転部7がλ/2波長板で構成された場合を例に説明する。
【0046】
まず、光源1は、略単一周波数からなる連続光であるレーザ光を出力する。分岐部2は、光源1から入力されたレーザ光を送信光信号と局発光信号とに分配し、送信光信号を変調部3へ、局発光信号を光IQ検波器13へ、それぞれ出力する。変調部3は、分岐部2から入力された送信光信号に対してパルス変調を行うとともに、所望の周波数シフトを与えて、パルス光を生成する。
【0047】
増幅部4は、変調部3から入力されたパルス光のピークパワーを増幅して送信光を生成する。送信側光学系5は、増幅部4から入力された送信光を所望のビーム径及び広がり角に整形する。送信側光学系5から出射された送信光は、偏波無依存型のビームスプリッタである送受分離部6へ入力され、さらに送受分離部6から偏光方向回転部7を構成するλ/2波長板へ入力される。
【0048】
λ/2波長板へ入力された送信光の偏光方向の変化について、図2を用いて詳細に説明する。図2では、左図にて時刻t=0秒、右図にて時刻t=1秒時の偏光方向の変化を説明する。なお、ここでは、説明を具体的にするため、スキャン部17の回転角速度ωsを90度/秒とし、偏光方向回転部7の回転角度に与えるオフセット角αを22.5度とする。したがって、偏光方向回転部7であるλ/2波長板の回転角速度ω2は45度/秒である。
【0049】
また、上記式(2)及び(3)から、時刻t=0においては、λ/2波長板の回転角θ(t)は22.5度であり、スキャン部17の回転角θ(t)は0度である。
なお、λ/2波長板の回転角θ(t)は、当該λ/2波長板の光学軸に対応する。また、スキャン部17の回転角θ(t)は、偏光ビームスプリッタ8で反射するS偏光成分の方向として定義する。また、このスキャン部17の回転角θ(t)は、上述した基準光学軸と一致する。
【0050】
時刻t=0においては、λ/2波長板の回転角θ(t)が22.5度であることから、λ/2波長板を通過した送信光は、基準光学軸に対して45度だけ偏光方向が回転する。なお、λ/2波長板を通過する送信光は紙面に対して垂直方向、すなわち紙面奥側から紙面手前側へ伝搬している。
【0051】
45度だけ偏光方向が回転した送信光は、基準光学軸とθ(t)が一致しているスキャン部17の偏光ビームスプリッタ8へ入射することで、偏光ビームスプリッタ8で分岐し、偏光ビームスプリッタ8で反射されるS偏光成分が抽出される。抽出されたS偏光成分は、図2に示すX-Y平面内に折り曲げられ、紙面に対して水平方向で伝搬する送信光に変換される。したがって、例えば図2に示すX軸方向を北と定義した場合、抽出されたS偏光成分は北方向へスキャンする送信光となる。このとき、S偏成分のスキャン方向はスキャン部17の回転角θ(t)と一致しているが、これはλ/2波長板にオフセット角αを与えているためである。
【0052】
一方、45度だけ偏光方向が回転した送信光は、基準光学軸とθ(t)が一致しているスキャン部17の偏光ビームスプリッタ8へ入射することで、偏光ビームスプリッタ8で分岐し、偏光ビームスプリッタ8を透過するP偏光成分が抽出される。抽出されたP偏光成分は、図2に示すX-Y平面内に折り曲げられず、紙面に対して垂直方向手前に伝搬する送信光となる。したがって、例えば図2に示すZ軸方向の正方向を天頂方向と定義した場合、抽出されたP偏光成分は天頂方向(鉛直側)へ伝搬する送信光となる。
【0053】
光学素子9は、鉛直側へ伝播した送信光に対し、所定の角度だけ偏角を与え、ウィンドウ10に出力する。ウィンドウ10は、偏角された鉛直側の送信光を大気中へ照射する。また、ウィンドウ16は、スキャン側へ伝播した送信光を大気中へ照射する。その後、大気中の照射対象(エアロゾル等)によって散乱された各々の送信光は、反射光となって、再び各々のウィンドウ10及び16へ到達する。この時、それぞれの反射光の偏光方向は維持されている。
【0054】
ウィンドウ10へ到達した鉛直側の反射光は、受信光として再び偏光学素子9を通過する。偏光学素子9は、送信時に偏角を印加する前の送信光の光軸と一致するよう、鉛直側の受信光に対して再度偏角を付与する。その後、鉛直側の受信光は、送信時と同じ経路で再び偏光方向回転部7であるλ/2波長板へ再帰する。同様に、ウィンドウ16へ到達したスキャン側の反射光は受信光として、送信時と同じ経路で再び偏光方向回転部7であるλ/2波長板へ再帰する。λ/2波長板へ再帰した各々の受信光がλ/2波長板を再び通過することで、各受信光にはλ/2波長板の光学軸に対して偏光方向の回転が生じる。
【0055】
このとき、例えばスキャン側の受信光(S偏光成分)は、スキャン側の送信光(S偏光成分)に対し、偏光方向がX-Y平面で紙面反時計周りに45度回転する。また、鉛直側の受信光(P偏光成分)は、鉛直側の送信光(P偏光成分)に対し、偏光方向がX-Y平面で紙面時計周りに135度回転する(図2参照)。なお、これらスキャン側の受信光(S偏光成分)と鉛直側の受信光(P偏光成分)との合波成分は、送信時、送信側光学系5を出射した時点での送信光の偏光方向に一致している。
【0056】
次に、t=1の様子を説明する。上記式(2)及び(3)から、時刻t=1においては、λ/2波長板の回転角θ(t)は67.5度であり、スキャン部17の回転角θ(t)は90度である。
【0057】
時刻t=1においては、λ/2波長板の回転角θ(t)は67.5度であることから、λ/2波長板を通過した送信光は、基準光学軸に対して135度だけ偏光方向が回転する。135度だけ偏光方向が回転した送信光が、基準光学軸からθ(t)が90度回転したスキャン部17の偏光ビームスプリッタ8へ入射することで、偏光ビームスプリッタ8で分岐し、偏光ビームスプリッタ8で反射されるS偏光成分が抽出される。抽出されたS偏光成分は、図2に示すX-Y平面内に折り曲げられ、紙面に対して水平方向で伝搬する送信光に変換される。
【0058】
したがって、t=1の場合、抽出されたS偏成分は、例えばX軸方向を北と定義した場合、西方向へスキャンする送信光となる。また、これは、S偏成分のスキャン方向がスキャン部17の回転角θ(t)に一致していることを意味している。これは、上述の通り、上記双方が一致するようにλ/2波長板にオフセット角αを与えているためである。
【0059】
また、t=0のときと同様に、偏光ビームスプリッタ8を透過したP偏成分はX-Y平面内に折り曲げられず、紙面に対して垂直方向手前に伝搬する送信光となる。したがって、例えばZ軸方向の正方向を天頂方向と定義した場合、P偏光成分は天頂方向(鉛直側)へ伝搬する送信光となる。
【0060】
以下、t=0のときと同様に、偏光学素子9は、鉛直側へ伝播した送信光に対し、所定の角度だけ偏角を与え、ウィンドウ10に出力する。ウィンドウ10は、偏角された鉛直側の送信光を大気中へ照射する。また、ウィンドウ16は、スキャン側へ伝播した送信光を大気中へ照射する。その後、大気中の照射対象(エアロゾル等)によって散乱された各々の送信光は、反射光となって、再び各々のウィンドウ10及び16へ到達する。この時、それぞれの反射光の偏光方向は維持されている。
【0061】
ウィンドウ10へ到達した鉛直側の反射光は、受信光として再び偏光学素子9を通過する。偏光学素子9は、送信時に偏角を印加する前の送信光の光軸と一致するよう、鉛直側の受信光に対して再度偏角を付与する。その後、鉛直側の受信光は、送信時と同じ経路で再び偏光方向回転部7であるλ/2波長板へ再帰する。同様に、ウィンドウ16へ到達したスキャン側の反射光は受信光として、送信時と同じ経路で再び偏光方向回転部7であるλ/2波長板へ再帰する。λ/2波長板へ再帰した各々の受信光がλ/2波長板を再び通過することで、各受信光にはλ/2波長板の光学軸に対して偏光方向の回転が生じる。
【0062】
このとき、例えばスキャン側の受信光(S偏光成分)は、スキャン側の送信光(S偏光成分)に対し、偏光方向がX-Y平面で紙面時計周りに45度回転する。また、鉛直側の受信光(P偏光成分)は、鉛直側の送信光(P偏光成分)に対し、偏光方向がX-Y平面で紙面時計周りに225度回転する(図2参照)。なお、これらスキャン側の受信光(S偏光成分)と鉛直側の受信光(P偏光成分)との合波成分は、送信時、送信側光学系5を出射した時点での送信光の偏光方向に一致している。また、t=0とt=1とでは、λ/2波長板を透過した後の、スキャン側の受信光(S偏光成分)の偏光方向と、鉛直側の受信光(P偏光成分)の偏光方向とが一致している。
【0063】
なお、上記の説明では、t=0とt=1の場合を例に説明したが、上記の内容は任意の時間で成立する。つまり、λ/2波長板を透過した後の、鉛直側の受信光(P偏光成分)とスキャン側の受信光(S偏光成分)の偏光方向は、常に、前者は基準光学軸から+45度、後者は-45度に傾いており、固定されている。
【0064】
すなわち、実施の形態1では、λ/2波長板の回転角度に対しオフセット角αを加え、λ/2波長板の回転角速度を偏光ビームスプリッタ8の回転角速度の1/2として回転制御することにより、鉛直側の受信光(P偏光成分)とスキャン側の受信光(S偏光成分)の偏光方向を基準光学軸に対して常に固定した状態とすることが可能となる。
【0065】
したがって、実施の形態1では、受信側光学系11の光学軸(fast軸及びslow軸)を、鉛直側の受信光(P偏光成分)の偏光方向(基準光学軸から+45度)と、スキャン側の受信光(S偏光成分)の偏光方向(基準光学軸から-45度)とに一致するよう、基準光学軸に対して45度傾けて(回転させて)固定することにより、受信側光学系11のfast軸にはP偏成分、slow軸にはS偏成分を常に結合させることが可能となる。したがって、実施の形態1では、受信側光学系11のfast軸には常に鉛直側から受信した受信光が、受信側光学系11のslow軸には常にスキャン側から受信した受信光が、それぞれ伝搬するように、受信側光学系11の光学軸を固定することが可能となる。
【0066】
以下、受信側偏光ビームスプリッタ12は、受信側光学系11により受信された上記受信光のP偏光成分とS偏光成分とを分離し、当該分離したそれぞれの成分を光IQ検波器13に出力する。
【0067】
光IQ検波器13は、分岐部2から受信した局発光信号を用いて、受信側偏光ビームスプリッタ12で分岐されたP偏光成分とS偏光成分に対する上記合波を行い、上述したビート信号(P側RF信号及びS側RF信号)を生成する。光IQ検波器13は、生成したビート信号を信号処理部14へ出力する。信号処理部14は、上記2つのビート信号を用いて上述した処理を行うことにより、鉛直方向及びスキャン方向における距離毎の風速場を算出する。
【0068】
次に、上記のような動作例により、レーザレーダ装置100から照射される鉛直側及びスキャン側の送信光がスキャンされることで、大気中への送信光の伝搬方向が変化していく様子について、図3を参照しながら説明する。
【0069】
<鉛直側>
鉛直側では、上述の通り、偏光学素子9により送信光に所定の偏角が生じるため、天頂方向から当該偏角分の傾きを有したスキャン、すなわち円錐状のスキャンとなる。鉛直側では、スキャン部17が0度から360度まで1回転したとき、所定の円状の領域における風速場が計算される。したがって、鉛直側では、例えば南方向と北方向、あるいは西方向と東方向など、相反する方向に偏角した送信光の間で、送信光の照射方向の角度差が最大となる。
【0070】
このようにして、レーザレーダ装置100では、鉛直側でスキャンされた1周分の視線方向の風速値(風速場の絶対値)を示すデータ(以下、単に「風速値データ」ともいう。)から、図3中の斜線で塗りつぶした領域の3次元風速場を計算することができる。なお、この計算処理は、既存の手法を用いてなされる。例えば、ベクトル演算及びVAD(Velocity Azimuth Display)法を用いることができる。
【0071】
なお、図3では一高度のみを例にして、計算により求められる3次元風速場を斜線で示しているが、風速場は高度毎に取得することが可能である。例えば、実施の形態1では、送信光をパルス化しているため、TOF方式であり、距離方向を分解することが可能である。一方、送信光を連続光(CW光)としても距離分解を行うことは可能である。この場合は、送信側光学系5で形成するビーム拡がり角を変更し、集光位置を走査することで集光位置での風計測がなされる。この場合は、レーザレーダ装置100では、変調部3でのパルス化は不要であり、集光位置を可変とすればよい。
【0072】
<スキャン側>
スキャン側では、送信光は天頂(鉛直)方向に対して垂直方向に折り曲げられることで、地上面に対して水平方向に照射される。スキャン側におけるスキャンは、スキャン部17が0度から360度まで1回転したとき1周する。すなわち、PPI(Plan-position indicator)スキャンとなる。
【0073】
スキャン側では、高度略0mの一高度計測が行われるが、レーザレーダ装置100からの水平方向の距離が異なる複数の箇所で計測することが可能であり、一高度でも複数地点の風速場を求めることが可能となる。例えば、図4で示すように、PPIスキャンにより計算した0度から360度までの視線方向における風速値データから、異なる視線方向の風速値を用いることで、とある一領域の風速場を計算により求める。この手法は既存の手法を用いればよく、例えばベクトル演算及びVAD法などを用いることができる。
【0074】
次に、ベクトル演算及びVAD法によって計算された、鉛直側及びスキャン側の風速場の様子について、図5を参照しながら説明する。
【0075】
図5では、風速場を太線の矢印で示している。また、図5では、鉛直側については一地点で複数高度、スキャン側については一高度で複数地点の風速場が得られる様子を示している。
【0076】
ここで、これらの風速場を変数として定義する。例えば、鉛直側で取得した水平方向の風速場をU(UVX,UVY;x=0,y=0,z)と定義する。ここで、zは高度を表し、添え字のiを用いて高度を区別する。また、Uは水平方向の風速ベクトルであり、そのx方向成分とy方向成分とをそれぞれUVX、UVYと定義する。
【0077】
鉛直側では、レーザレーダ装置100を設置した位置をx=0、y=0と定義すると、それ以外のx、yの位置では風速場を示すデータ(以下、単に「風速場データ」ともいう。)を有さないが、高度方向については複数高度の風速場データを有する。したがって、鉛直側におけるx=0、y=0での高度方向の風速場データはzの関数となる。
【0078】
一方、スキャン側で取得した水平方向の風速場をU(USX,USY;x,y,z)と定義する。スキャン側では、レーザレーダ装置100を設置した箇所の高度をzと定義すると、それ以外の高度では風速場データを有さないが、高度zでは複数地点の風速場データを有する。したがって、スキャン側における高度zでの複数地点の風速場データはx及びyの関数となる。
【0079】
次に、レーザレーダ装置100の信号処理部14が、上記風速場U及びUを用いて、複数地点かつ複数高度の風速場を計算によって近似的に求める一例について説明する。
なお、以下では、説明を簡単にするため、上記風速場Uを「1地点複数高度の風速場」ともいい、上記風速場Uを「複数地点1高度の風速場」ともいう。
【0080】
信号処理部14は、例えば以下の手順(1)~(3)により、鉛直側で取得された1地点複数高度の風速場と、スキャン側で取得された複数地点1高度の風速場データから、複数地点かつ複数高度の風速場を計算する。
【0081】
(1)信号処理部14は、鉛直側の風速場データには含まれない、高度zのデータを仮想的に生成する。例えば、信号処理部14は、スキャン側で得られた風速場データから、x=0、y=0を中心とした半径Rの円を定義し、この範囲の風速場データを平均する。そして、信号処理部14は、当該平均して得られたデータを、鉛直側の風速場データには含まれない高度zでの風速場データとする。上記の処理は例えば以下の式(4)で表される。
【0082】
(2)次に、信号処理部14は、鉛直側の風速場データから、高度zの風速場データを基準とした風速場の比Rを求める。上記の処理は例えば以下の式(5)で表される。
【0083】
(3)次に、信号処理部14は、風速場の比Rを用いて、以下の式(6)により、複数高度かつ複数地点の風速場Uを計算する。
【0084】
上記の計算では、信号処理部14は、x=0、y=0の1地点における高度方向の風速場の変化について、高度zでの風速場データを基準として各高度の風速場データの比Rを求め、この比Rが異なる地点(任意のx,y)でも保たれるという仮定に基づいて、この比Rを各高度の風速場データに乗算することで、この比Rを複数高度へ拡張するという計算を行っている。このようにして計算された風速場Uの様子を図6に示す。
【0085】
なお、上記の例では、信号処理部14は、風速場の絶対値、すなわち風速値に対して計算を行うことが可能であるが、風向についても同様に計算が可能である。すなわち、信号処理部14は、x=0、y=0の1地点における高度方向の風向の変化について、高度zにおける風向を基準として変化角を求める。そして、高度iの風速場を計算で求める場合には、その変化角の分だけ風速場U(USX,USY;x,y,z)を回転させればよい。
【0086】
したがって、信号処理部14は、風速値及び風向のそれぞれに対して、x=0、y=0の1地点における高度zでの値に対する高度方向の変化を求め、この変化の傾向がx=0、y=0以外でも成立する、と仮定する。そして、信号処理部14は、この仮定のもとに、高度zでしかデータを保有しないが、x=0、y=0以外のデータを有するスキャン側のデータに対して、上記変化の傾向を適用することにより、複数高度かつ複数地点の風速値及び風向を求める、ということに対応する。なお、ここでいう「変化の傾向」とは、比あるいは変化角のことであり、「適用する」とは、乗算あるいは加算することである。
【0087】
次に、実施の形態1に係るレーザレーダ装置100の効果について説明する。実施の形態1に係るレーザレーダ装置100は、上記のような構成を備えることにより、鉛直方向及びスキャン方向の双方について、送信光のスキャンを1周させるのに要する時間で地上半球空間の風速場を計算することが可能となる。これは、地上半球空間の風速場を従来よりも短時間で計測することと同義である。そして、これにより、地上半球空間の風速場の計算におけるリアルタイム性も向上する。また、実施の形態1に係るレーザレーダ装置100は、複数台のライダ装置を用いるのではなく、1台の装置として上記の効果を得ることが可能となる。
【0088】
また、実施の形態1に係るレーザレーダ装置100は、例えば偏光方向回転部7を構成するλ/2波長板に加えるオフセット角αを適宜調整することで、鉛直ライダのみの機能、もしくはスキャニングライダのみの機能へ変更することが可能である。
【0089】
例えば、上記の例では、λ/2波長板に加えるオフセット角αとして22.5度を設定する例を説明した。これは、鉛直側及びスキャン側の双方に送信光(送信パワー)を等分配することを意図したものであった。すなわち、実施の形態1に係るレーザレーダ装置100では、オフセット角αの値を適宜調整することで、常時鉛直側のみに送信光(送信パワー)を誘導することも可能となるし、常時スキャン側のみに送信光(送信パワー)を誘導することも可能となる。
【0090】
したがって、レーザレーダ装置100の利用者及び運用方法の違いに合わせて、上記オフセット角αを適宜調整することで、本開示で目的とする地上半球空間全域の風速場を計測するモードを選択することも可能であるし、鉛直方向のみを観測するモード、ないしはスキャン方向のみを観測するモードを選択することも可能である。また、例えば鉛直方向のみを観測するモードを選択した場合には、送信光(送信パワー)のすべてが鉛直側へ誘導されることから、SNRが増加して観測可能距離が延伸し、従来の鉛直型ライダの性能を維持することが可能となる。
【0091】
つまり、実施の形態1に係るレーザレーダ装置100は、1台のライダ装置として、従来の鉛直型のライダで得られる性能を示すことも可能であるし、スキャニング型のライダで得られる性能を示すことも可能であるし、本開示で目的とする、地上半球空間全域の風速場を従来よりも短時間で計測することも可能となる。
【0092】
また、実施の形態1に係るレーザレーダ装置100によるその他の効果として、地上半球空間の風速場の計算におけるリアルタイム性が向上することで、例えば航空機及びドローン等の空中移動体プラットフォームに向けた航行支援及び最適航路の設定にレーザレーダ装置100の機能を利活用できる。
【0093】
例えば、空中移動体プラットフォームの最適航路を設定する場合、始点から終点に至る経路として複数経路が候補となる場合がある。このとき、レーザレーダ装置100により得られた風速場を考慮して、所要電力及び所要時間を最小化する経路を抽出することで、最適航路の抽出及び提示を行えば、効果的な航路選択支援を行うことが可能となる。また、このとき、航路選択支援にはリアルタイム性が必要となるが、実施の形態1に係るレーザレーダ装置100によればこの問題も解消される。
【0094】
以上のように、実施の形態1によれば、レーザレーダ装置100は、入力されたレーザ光に対し、所定の角度だけ偏光方向を回転させる偏光方向回転部7と、偏光方向回転部7により偏光方向が回転されたレーザ光を、第1の方向と、当該第1の方向とは異なる第2の方向とに分岐させる偏光ビームスプリッタ8と、偏光方向回転部7と偏光ビームスプリッタ8とを、互いに異なる回転角速度で回転させることにより、第1の方向に分岐されたレーザ光による円形状のスキャンと、第2の方向に分岐されたレーザ光による円錐状のスキャンとを実現する回転制御部15と、それぞれのスキャンにおいてレーザ光の照射対象により反射された反射光を用いて、風速場を算出する信号処理部14とを備えた。これにより、実施の形態1に係るレーザレーダ装置100は、地上半球空間の風速場を従来よりも短時間で計測することが可能となる。
【0095】
また、第1の方向は水平方向であり、第2の方向は鉛直方向である。これにより、実施の形態1に係るレーザレーダ装置100は、地上半球空間の風速場を従来よりも短時間で計測することが可能となる。
【0096】
また、鉛直方向における偏光ビームスプリッタ8の後段に偏光学素子9を備え、偏光ビームスプリッタ8により鉛直方向に分岐されたレーザ光に対して、偏光学素子9により所定の角度だけ偏角を与えることにより、鉛直方向に分岐されたレーザ光による円錐状のスキャンを実現する。これにより、実施の形態1に係るレーザレーダ装置100は、鉛直方向に分岐されたレーザ光による円錐状のスキャンを実現することができる。
【0097】
また、偏光方向回転部7は、λ/2波長板で構成され、回転制御部15は、λ/2波長板の光学軸に対応するベクトルと、偏光ビームスプリッタ8の反射面の法線ベクトルをλ/2波長板へ射影したベクトルとが平行ではない状態を維持しながら、λ/2波長板と偏光ビームスプリッタ8とを互いに異なる回転角速度で回転させる。これにより、実施の形態1に係るレーザレーダ装置100は、第1の方向を偏光ビームスプリッタ8を含むスキャン部の回転角θ(t)と一致させることができる。
【0098】
また、偏光方向回転部7は、λ/2波長板で構成され、回転制御部15は、λ/2波長板の回転角度に対し、偏光ビームスプリッタ(8)の光学軸に対するオフセット角が付与された状態で、λ/2波長板と偏光ビームスプリッタ8とを互いに異なる回転角速度で回転させる。これにより、実施の形態1に係るレーザレーダ装置100は、第1の方向を偏光ビームスプリッタ8を含むスキャン部の回転角θ(t)と一致させることができる。
【0099】
また、オフセット角の大きさは任意に設定可能である。これにより、実施の形態1に係るレーザレーダ装置100は、常時第1の方向側のみに送信光を誘導することも可能となるし、常時第2の方向側のみに送信光を誘導することも可能となる。
【0100】
また、レーザレーダ装置100は、レーザ光の照射対象が反射可能な波長帯を有し、直線偏光特性を有するレーザ光を出力する光源1と、光源1から出力されたレーザ光を分岐する分岐部2と、分岐部2により分岐されたレーザ光の一方をパルス変調する変調部3と、変調部3によりパルス変調されたレーザ光のパワーを増幅する増幅部4と、増幅部4により増幅されたレーザ光を整形する送信側光学系5と、送信側光学系5により整形されたレーザ光と、当該レーザ光の照射対象による反射光とを分離する送受分離部6と、送受分離部6により分離された反射光を受信する受信側光学系11と、受信側光学系11により受信された反射光と、分岐部2により分岐されたレーザ光の他方とを合波することにより、所定の干渉信号を得る検波器13とを備え、偏光方向回転部7は、送受分離部6により分離されたレーザ光に対し、所定の角度だけ偏光方向を回転させ、信号処理部14は、検波器13により得られた干渉信号に基づいて風速場を算出する。これにより、実施の形態1に係るレーザレーダ装置100は、地上半球空間の風速場を従来よりも短時間で計測することが可能となる。
【0101】
また、受信側光学系11の光学軸は、送信側光学系5の光学軸に対して45度傾けて配置されている。これにより、実施の形態1に係るレーザレーダ装置100は、受信側光学系11のfast軸には常に第2の方向(鉛直方向)側から受信した受信光が、受信側光学系11のslow軸には常に第1の方向(水平方向)側から受信した受信光が、それぞれ伝搬するように、受信側光学系11の光学軸を固定することが可能となる。
【0102】
また、第1の方向は水平方向であり、第2の方向は鉛直方向であり、信号処理部14は、水平方向における風速場の算出により得られた1高度複数地点の風速場を示すデータと、鉛直方向における風速場の算出により得られた複数高度1地点の風速場を示すデータとに基づき、複数高度複数地点の風速場を示すデータを生成し、当該生成したデータから、複数高度複数地点の風速場を算出する。これにより、実施の形態1に係るレーザレーダ装置100は、地上半球空間の風速場を従来よりも短時間で計測することが可能となる。
【0103】
また、信号処理部14は、鉛直方向における高度0の地点の風速場を示すデータを仮想的に生成し、当該生成したデータを基準とした、複数高度1地点の風速場を示すデータの比を算出し、当該算出した比を、水平方向における風速場の算出により得られた1高度複数地点の風速場を示すデータに乗算することにより、複数高度複数地点の風速場を示すデータを生成する。これにより、実施の形態1に係るレーザレーダ装置100は、地上半球空間の風速場を従来よりも短時間で計測することが可能となる。
【0104】
実施の形態2.
実施の形態1では、地上半球空間の風速場を従来よりも短時間で計測することが可能なレーザレーダ装置100について説明した。実施の形態2では、実施の形態1よりも構成部品の点数が少なく、かつスキャン側の送信光をスキャンする際の仰角(EL)を可変とすることが可能なレーザレーダ装置100bについて説明する。
【0105】
図7は、実施の形態2に係るレーザレーダ装置100bにおけるスキャン部17bの構成例を示す図である。実施の形態2に係るレーザレーダ装置100bは、図1に示す実施の形態1に係るレーザレーダ装置100に対し、スキャン部17がスキャン部17bに変更されている点が異なっている。実施の形態2に係るレーザレーダ装置100bのその他の構成は、図1に示す実施の形態1に係るレーザレーダ装置100と同一であるため、同一の符号を付してその説明を省略する。
【0106】
スキャン部17bは、偏向出力偏光ビームスプリッタ回転部18と、偏向出力偏光ビームスプリッタ19と、ウィンドウ10と、ウィンドウ16とにより構成される。すなわち、スキャン部17bでは、実施の形態1におけるスキャン部17を構成していた偏光ビームスプリッタ8が偏向出力偏光ビームスプリッタ19に置き換えられている。また、これにより、スキャン部17bでは、実施の形態1におけるスキャン部17を構成していた偏光光学素子9が不要となる。なお、スキャン部17bは、実施の形態1におけるスキャン部17と同様に、回転制御部15bにより回転される。
【0107】
偏向出力偏光ビームスプリッタ19は、偏光方向回転部7、ウィンドウ10及び16に光学的に接続される。偏向出力偏光ビームスプリッタ19は、P偏光成分、すなわち鉛直側へ誘導される送信光側の面に傾斜が設けられている。例えば、キューブ型の偏光ビームスプリッタは立方体形状であり、対向する面は水平であるところ、偏向出力偏光ビームスプリッタ19は、この対向する面の一方が、偏光方向回転部7からの送信光の入射面を考慮し、水平ではなく、所定の角度を有した傾斜面として構成されている。
【0108】
このように構成することで、偏向出力偏光ビームスプリッタ19の屈折率に応じて、偏向出力偏光ビームスプリッタ19からの出射光、すなわち鉛直側へ誘導される送信光に偏角が生じる。これにより、スキャン部17bでは、実施の形態1で用いられた偏光学素子9が不要となる。
【0109】
なお、偏向出力偏光ビームスプリッタ19は、S偏光成分、すなわちスキャン側へ誘導される送信光側の面には傾斜が設けられていない。したがって、スキャン側へ誘導される送信光は、実施の形態1と同様に照射される。
【0110】
偏向出力偏光ビームスプリッタ回転部18は、例えば回転ステージで構成される。偏向出力偏光ビームスプリッタ回転部18は、偏向出力偏光ビームスプリッタ19を回転及び固定する。偏向出力偏光ビームスプリッタ回転部18は、信号処理部14と電気的に接続され、信号処理部14による制御を受けて回転する。
【0111】
次に、実施の形態2に係るレーザレーダ装置100bの動作例及び効果について説明する。なお、実施の形態2に係るレーザレーダ装置100bの動作例は、実施の形態1に係るレーザレーダ装置100の動作例に対し、スキャン部17bの動作例のみが異なるため、ここではスキャン部17bの動作例について説明する。
【0112】
例えば、実施の形態1では、スキャン部17を構成する偏光ビームスプリッタ8により、P偏光成分、すなわち鉛直側へ誘導される送信光は、スキャン側に対して進行方向が略90度異なる。したがって、例えば偏光方向回転部7から出力される送信光が天頂方向(地面に対し90度の方向)であった場合、スキャン側の送信光は地面と水平方向に照射され、鉛直側の送信光は天頂方向に照射される。また、実施の形態1では、鉛直側では、偏光ビームスプリッタ8の後段に偏光学素子9が設けられていることにより、鉛直側の送信光は天頂方向から傾きを持った送信光となる。そして、実施の形態1では、この送信光をスキャンすることで円錐状のスキャンとなり、上述の通り、例えばVAD処理などによって風速場を得ることができる。
【0113】
一方、実施の形態2では、上述の通り、P偏光成分、すなわち鉛直側へ誘導される送信光側の面に傾斜が設けらた偏向出力偏光ビームスプリッタ19が、偏光ビームスプリッタ8に代えて設けられている。これにより、実施の形態2でも、実施の形態1と同様に、偏向出力偏光ビームスプリッタ19からの出射光、すなわち鉛直側へ誘導される送信光に偏角を付与することができる。また、このとき実施の形態2では、実施の形態1で用いられた偏光学素子9が不要となり、実施の形態1よりも部品点数が低減する。
【0114】
また、実施の形態2では、例えばユーザからの指示により、信号処理部14を介して偏向出力偏光ビームスプリッタ回転部18を制御することで、偏向出力偏光ビームスプリッタ19を回転させ、所定の位置で固定すれば、スキャン側の送信光の仰角を所定の仰角に変化させることができる。
【0115】
例えば、実施の形態1では、上述の通り、スキャン側の送信光は地面と水平方向となるため、スキャン側では仰角が0度のPPIスキャンが行われる。しかし、例えば構造物などの障害物を避けてスキャンしたい場合には、仰角を変えた方がよい場合がある。この点、実施の形態2では上述の通り、偏向出力偏光ビームスプリッタ回転部18により偏向出力偏光ビームスプリッタ19を回転させることで、スキャン側の送信光の仰角を所定の仰角に変化させることができる。この機能は、スキャン側において上記構造物などの障害物を避けてスキャンしたい場合に便宜である。
【0116】
以上のように、実施の形態2によれば、レーザレーダ装置100bは、偏光ビームスプリッタ8に代えて、偏光方向回転部7により偏光方向が回転されたレーザ光を、第1の方向と第2の方向とに分岐させるとともに、第2の方向に分岐させたレーザ光に対して所定の角度だけ偏角を与えることが可能な偏向出力偏光ビームスプリッタ19を備え、回転制御部15は、偏光方向回転部7と偏向出力偏光ビームスプリッタ19とを、互いに異なる回転角速度で回転させる。これにより、実施の形態2に係るレーザレーダ装置100bは、実施の形態1の効果に加え、実施の形態1よりも部品点数が低減する。
【0117】
また、第1の方向は水平方向であり、第2の方向は鉛直方向であり、水平方向に対するスキャンを行う際の仰角が変更可能となるように偏向出力偏光ビームスプリッタ19を回転可能に固定する回転部18を備えた。これにより、実施の形態2に係るレーザレーダ装置100bは、水平方向側の送信光の仰角を所定の仰角に変化させることができる。
【0118】
なお、本開示は、各実施の形態の自由な組合わせ、或いは実施の形態の任意の構成要素の変形、若しくは実施の形態において任意の構成要素の省略が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0119】
本開示は、地上半球空間の風速場を従来よりも短時間で計測することが可能となり、レーザレーダ装置に用いるのに適している。
【符号の説明】
【0120】
1 光源、2 分岐部、3 変調部、4 増幅部、5 送信側光学系、6 送受分離部、7 偏光方向回転部、8 偏光ビームスプリッタ、9 偏光学素子、10 ウィンドウ、11 受信側光学系、12 受信側偏光ビームスプリッタ、13 光IQ検波器(検波器)、14 信号処理部、15 回転制御部、15a 回転制御部、15b 回転制御部、16 ウィンドウ、17 スキャン部、17b スキャン部、18 偏向出力偏光ビームスプリッタ回転部(回転部)、19 偏向出力偏光ビームスプリッタ、100 レーザレーダ装置、100b レーザレーダ装置、U 風速場、U 風速場、U 風速場、θ λ/2波長板の回転角、θ スキャン部の回転角。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7