(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-06-09
(45)【発行日】2025-06-17
(54)【発明の名称】行動錯覚生成システム。
(51)【国際特許分類】
G06F 3/01 20060101AFI20250610BHJP
A43C 19/00 20060101ALI20250610BHJP
A63B 23/04 20060101ALI20250610BHJP
A63B 24/00 20060101ALI20250610BHJP
A61H 1/02 20060101ALN20250610BHJP
【FI】
G06F3/01 560
A43C19/00
A63B23/04 A
A63B24/00
A61H1/02 N
(21)【出願番号】P 2024096391
(22)【出願日】2024-06-14
【審査請求日】2025-04-07
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】592123819
【氏名又は名称】株式会社ハルタ
(73)【特許権者】
【識別番号】800000068
【氏名又は名称】学校法人東京電機大学
(74)【代理人】
【識別番号】110002343
【氏名又は名称】弁理士法人 東和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】井上 淳
(72)【発明者】
【氏名】野口 雄弘
(72)【発明者】
【氏名】若林 翼
(72)【発明者】
【氏名】山本 拓実
(72)【発明者】
【氏名】春田 勲
【審査官】井上 香緒梨
(56)【参考文献】
【文献】韓国公開特許第10-2023-0004990(KR,A)
【文献】特許第7313079(JP,B2)
【文献】特開2018-206368(JP,A)
【文献】特開2017-126337(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06F3/01
A61H1/00
A61H3/00
A63B23/00
A63B69/00
A63B71/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
使用者のひざから足首、踵、足裏、足指を含む足部を刺激して、仮想的に行動錯覚を生じさせる、触覚を再現する足部の行動錯覚生成システムであって、
複数の触覚から一を選択する選択入力部と、
前記足部を複数の領域に区分し、その領域ごとに配設された刺激発生デバイスと、
予め取得された前記刺激発生デバイスによって生ずる触覚と複数の種類の刺激との相関
に基づいて、前記触覚に対応する前記刺激の種類・強度・時間を設定したテーブルが格納された記録部と、
選択された前記触覚に応じて、前記テーブルを参照して、前記刺激発生デバイスに前記刺激の種類・強度・時間に対応する動作を指令する指令部と、
を備えた足部の行動錯覚生成システム。
【請求項2】
刺激発生デバイスは、振動子であり、
前記指令部が、前記刺激の種類・強度・時間に対応した振動の周波数・振幅・加振時間を前記振動子に指令する、請求項1に記載の行動錯覚生成システム。
【請求項3】
前記テーブルは複数のテーブルからなり、
第1のテーブルには、前記足部への刺激発生個所を間に挟んだ、一の前記領域と他の前記領域に対して、前記使用者が前記刺激発生個所に前記刺激を感ずるように、前記一の前記領域への前記刺激の強度と、前記他の前記領域への前記刺激の強度との組み合わせが記録されており、
第2のテーブルには、前記振動子の加振時の一定の周波数に対する前記刺激の範囲の組み合わせが記録されており、
前記選択入力部は、歩行錯覚モードを備えており、前記歩行錯覚モードが選択されたとき、前記第1のテーブルを参照して、刺激箇所を設定し、前記第2のテーブルを参照して想定される前記使用者の歩行時の体重移動に相当する前記刺激の範囲を設定する、請求項2に記載の行動錯覚生成システム。
【請求項4】
前記テーブルは、さらに第3のテーブルを備え、
第3のテーブルには、前記振動子の加振時の周波数の変動による前記刺激の範囲の拡大・縮小の推移の組み合わせが記録されており、
前記第3のテーブルを参照して想定される前記使用者の歩行時の路面状況に相当する前記刺激の範囲の拡大・縮小の推移を設定する、請求項3に記載の行動錯覚生成システム。
【請求項5】
前記第3のテーブルは、前記振動の周波数を所定時間の間隔で、所定の第1周波数から、該第1周波数よりも高い第2周波数、該第1周波数よりも低い第3周波数、該第1周波数よりも高い第4周波数の順で、もしくは、所定の第1周波数から、該第1周波数よりも高い第5周波数、該第1周波数よりも低い第6周波数、該第1周波数よりも高い第7周波数の順で加振する、請求項4に記載の行動錯覚生成システム。
【請求項6】
さらに映像・音響を再現するメディアデバイスを備えており、
前記記録部には、複数の前記路面状況を歩行する映像・音響が格納されており、
前記指令部は、前記路面状況での歩行において生ずる触覚に対応する前記刺激発生デバイスに前記刺激の種類・強度・時間に対応する動作を指令するとともに、前記動作を前記映像・音響に同期させて、前記メディアデバイスに前記前記映像・音響を再現させる、請求項4または請求項5に記載の行動錯覚生成システム。
【請求項7】
前記テーブルは第4のテーブルを有し、
前記第4のテーブルには、前記使用者のアキレス腱近傍及び大腿四頭筋腱近傍の前記領域への前記刺激と、想定される前記使用者の歩行時の歩幅に対応する足首の角度との組み合わせが記録されており、
前記選択入力部は、運動錯覚モードを備えており、前記運動錯覚モードが選択されたとき、前記第4のテーブルを参照して、前記使用者の歩行時の歩幅に相当する前記刺激の範囲を設定する、請求項2に記載の行動錯覚生成システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、行動錯覚を生成するシステムに係り、詳しくは、足部を刺激して、仮想的に歩行や運動等の行動を錯覚させるような触覚を生成するシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
人が歩行するとき、歩行する路面の状況等に合わせて、自身の体重を支え、足を踏み出し、体重移動を行う等の動作を同時に、かつ無意識に行っている。この動作は、足部へかかる大きな負荷に耐えると同時に、常に身体のバランスをとるという複雑なものである。
【0003】
近年バーチャルリアリティー(VR)や、オグメンテッドリアリティー(AR)の技術は、加速的に高度化されており、より現実に近い歩行等の状況を生成するべく、VR環境における感覚刺激方法が提案されている(特許文献1参照)。
【0004】
一方、足腰が弱った高齢者や、歩行困難な身体障碍者が、安全な歩行をするためには訓練が必要となり、従来から、足裏の触感により自然な形で情報伝達を行うことが可能な、触感提示装置、触感提示システム及び触感提示方法が提案されている(特許文献2、3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】米国特許第10,945,484号
【文献】特開2011-062298
【文献】特開2007-268140
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1にて開示された技術は、靴状もしくは靴下状の構造体に複数の触覚提示技術(Haptics)を利用したデバイスを配設して、コミュニケーション回路(Communications circuitry)によってフィードバックをとりながら動作をさせる旨の記載があるが、実体的にどのような手順をとれば、どのような触覚を生成するかは開示されていない。
【0007】
また、特許文献2,3にて開示された技術は、立位の状態で歩行訓練を行うものであり、足腰が弱った高齢者や、歩行困難な身体障碍者は、足部への感触を適正にフィードバックできず、負荷に耐えられない、もしくは身体のバランスを崩すおそれがある。
【0008】
本発明は、前記背景における実情に鑑みてなされたものであり、立位状態でなくとも歩行や運動等の行動を錯覚させるような触覚を生成する行動錯覚生成システムであり、詳しくは、足部を刺激して、仮想的に運動錯覚を生じさせる触覚を再現するシステムを提供することができる。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一形態は、使用者のひざから足首、踵、足裏、足指を含む足部を刺激して、仮想的に行動錯覚を生じさせる、触覚を再現する足部の行動錯覚生成システムである。
複数の触覚から一を選択する選択入力部と、
前記足部を複数の領域に区分し、その領域ごとに配設された刺激発生デバイスと、
予め取得された前記刺激発生デバイスによって生ずる触覚と複数の種類の刺激との相関に基づいて、前記触覚に対応する前記刺激の種類・強度・時間を設定したテーブルが格納された記録部と、
選択された前記触覚に応じて、前記テーブルを参照して、前記刺激発生デバイスに前記刺激の種類・強度・時間に対応する動作を指令する指令部と、
を備える。
【0010】
本構成は、使用者の足部への触覚と刺激との関係を予め実験的に取得し、これをテーブルとして、歩行や運動等の行動を錯覚させるような触覚を生成する際に、このテーブルを参照して、歩行時の触覚を再現させるように刺激を与えるものである。
触覚を促す刺激としては、振動、電流、穿刺、加圧、温度等を付加する刺激発生デバイスを適用することができ、これらの刺激の強度・時間を設定する。
テーブルは、例えば、歩行ができる健常者が、歩行時の刺激を記憶し、刺激発生デバイスの強度・時間と、この記憶に基づく感覚との一致から主観的に評価し、この評価結果を集積したものを適用することができる。
【0011】
本構成によれば、立位に限定されない歩行や運動等の行動を錯覚させるような触覚を生成することができる。また、触覚と刺激との相関を表すテーブルにより、使用者の状態や体調に合わせて、適正な刺激の種類・強度・時間に対応する動作を選択でき、使用者に負担をかけずに歩行や運動等の行動を錯覚させることができる。
【0012】
前記構成において、
刺激発生デバイスは、振動子であり、
前記指令部が、前記刺激の種類・強度・時間に対応した振動の周波数・振幅・加振時間を前記振動子に指令する構成としても良い。
【0013】
特許文献1,2,3に開示されているように、足部の刺激発生デバイスとして、振動子は実績があり、足部に適正に刺激を与えることができる。また、振動は、周波数・振幅・加振時間を変えることで、使用者の触覚を変えることができる。このように、本構成は、使用者に対して現実の世界にいるような歩行を実現させる。また、高齢者や身体障碍者にとって、より実際の歩行訓練に近い状態を再現させることができる。
【0014】
前記構成において、
前記テーブルは複数のテーブルからなり、
第1のテーブルには、前記足部への刺激発生個所を間に挟んだ、一の前記領域と他の前記領域に対して、前記使用者が前記刺激発生個所に前記刺激を感ずるように、前記一の前記領域への前記刺激の強度と、前記他の前記領域への前記刺激の強度との組み合わせが記録されており、
第2のテーブルには、前記振動子の加振時の一定の周波数に対する前記刺激の範囲の組み合わせが記録されており、
前記選択入力部は、歩行錯覚モードを備えており、前記歩行錯覚モードが選択されたとき、前記第1のテーブルを参照して、刺激箇所を設定し、前記第2のテーブルを参照して想定される前記使用者の歩行時の体重移動に相当する前記刺激の範囲を設定する構成としても良い。
【0015】
前記構成は、歩行錯覚モードを実現するにあたり、第1のテーブルを参照して刺激を与える足部の箇所を設定し、第2のテーブルを参照して歩行時に足部にかかる荷重の範囲を設定することができる。前記構成によれば、予め実験的に取得して作成された第1のテーブルおよび第2のテーブルによって、刺激の種類・強度を設定することができるため、使用者が実際に歩行しているような状況を生成し、歩行錯覚モードとして再現することができる。
【0016】
前記構成において、
前記テーブルは、さらに第3のテーブルを備え、
第3のテーブルには、前記振動子の加振時の周波数の変動による前記刺激の範囲の拡大・縮小の推移の組み合わせが記録されており、
前記第3のテーブルを参照して想定される前記使用者の歩行時の路面状況に相当する前記刺激の範囲の拡大・縮小の推移を設定する構成としても良い。
【0017】
前記構成は、振動子の加振時の周波数の変動による刺激の範囲の拡大・縮小の推移を実現させることで、実際の歩行における足部への荷重の変化、例えば、右足を支えとして、左足を踏み出し、左足が着地して、左足に荷重がかかるともに、この左足を支えとして、右足を踏み出すという、錯覚を生み出す。このように、前記構成によれば、予め実験的に取得して作成された第3のテーブルによって、刺激の種類・強度・時間的な推移を設定することができるため、使用者が実際に歩行しているような状況を生成し、歩行錯覚モードとして再現することができる。
【0018】
前記構成において、
前記第3のテーブルは、前記振動の周波数を所定時間の間隔で、所定の第1周波数から、該第1周波数よりも高い第2周波数、該第1周波数よりも低い第3周波数、該第1周波数よりも高い第4周波数の順で、もしくは、所定の第1周波数から、該第1周波数よりも高い第5周波数、該第1周波数よりも低い第6周波数、該第1周波数よりも高い第7周波数の順で加振するように構成することができる。
【0019】
前記構成は、第3のテーブルの具体的な一例を規定するものであり、周波数を変動させることで、刺激の拡大・縮小を実現させる。前記構成によれば、周波数を高低の順序で変動させることで、使用者の足部の感覚を鋭敏にすることも可能となり、使用者が実際に歩行しているような状況をより現実に近づけることができる。
【0020】
前記構成において、
さらに映像・音響を再現するメディアデバイスを備えており、
前記記録部には、複数の前記路面状況を歩行する映像・音響が格納されており、
前記指令部は、前記路面状況での歩行において生ずる触覚に対応する前記刺激発生デバイスに前記刺激の種類・強度・時間に対応する動作を指令するとともに、前記動作を前記映像・音響に同期させて、前記メディアデバイスに前記前記映像・音響を再現させるようにしても良い。
【0021】
前記構成は、歩行錯覚モードでの歩行において、映像・音響を同期させるものである。前記構成によれば、使用者は、歩行錯覚にメディアデバイスによる映像・音響の情報が付加され、バーチャルリアリティー(VR)もしくはオグメンテッドリアリティー(AR)を実現させることができる。
【0022】
前記構成によれば、実際の歩行時に遭遇する状況を映像・音響として再現しつつ、歩行錯覚を生成することで、実際の屋外における散歩等の状況を仮想的に実現させ、使用者が実際に歩行しているような状況をより現実に近づけることができる。
【0023】
前記構成において、
前記テーブルは第4のテーブルを有し、
前記第4のテーブルには、前記使用者のアキレス腱近傍及び大腿四頭筋腱近傍の前記領域への前記刺激と、想定される前記使用者の歩行時の歩幅に対応する足首の角度との組み合わせが記録されており、
前記選択入力部は、運動錯覚モードを備えており、前記運動錯覚モードが選択されたとき、前記第4のテーブルを参照して、前記使用者の歩行時の歩幅に相当する前記刺激の範囲を設定することができる。
【0024】
前記構成は、運動錯覚モードを実現するにあたり、第4のテーブルを参照して使用者のアキレス腱近傍の領域への刺激と、想定される使用者の歩行時の歩幅に対応する足首の角度との組み合わせを設定できる。ここで言う運動錯覚は、例えば椅子に座った使用者のアキレス腱に刺激を与えると、実際には足首を曲げていないにも関わらず、曲げているような錯覚を生じさせることができる。
【0025】
前記構成によれば、使用者が仰向けになっている状態であっても、運動をしているという錯覚を生成するため、座位以外のVR、ARのいろいろなシチュエーションでも歩行や運動等の行動を錯覚させるような触覚を生成することができる。また、足部を自分の意志通りに動かせない使用者が、正常な歩行における歩行時の足首の曲げを訓練することができるため、より安全な歩行訓練を実現させることができる。
【発明の効果】
【0026】
本発明は、立位状態でなくとも歩行や運動等の行動を錯覚させるような触覚を生成する行動錯覚生成システムであり、詳しくは、足部を刺激して、仮想的に運動錯覚を生じさせる触覚を再現するシステムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】本発明の一実施形態に係る全体構成を示すブロック図である。
【
図2】本発明の一実施形態に係る刺激発生デバイスの一例である。
【
図3】本発明の一実施形態に係る刺激発生デバイスの一例である。
【
図4】本発明の一実施形態に係る歩行錯覚モードのテーブルを作成するための試験の説明図である。
【
図5】本発明の一実施形態に係る第1のテーブルの作成における使用者の足部の刺激箇所と刺激発生デバイスとの位置関係を示す説明図である。
【
図6】本発明の一実施形態に係る第1のテーブルの一例である。
【
図7】本発明の一実施形態に係る第1のテーブル作成のためのファントムセンセーション実験の説明図である。
【
図8】本発明の一実施形態に係る第1のテーブル作成のためのファントムセンセーション実験条件の刺激位置の一例である。
【
図9】本発明の一実施形態に係る第1のテーブル作成のためのファントムセンセーション実験の加振条件の一例である。
【
図10】本発明の一実施形態に係る第1のテーブル作成のためのファントムセンセーションが発生した周波数の一例である。
【
図11】本発明の一実施形態に係る第2のテーブルの作成における使用者の足部の刺激箇所と刺激発生デバイスとの位置関係を示す説明図である。
【
図12】本発明の一実施形態に係る第2のテーブルの一例である。
【
図13】本発明の一実施形態に係る第3のテーブル作成のための評価方法の説明図である。
【
図14】本発明の一実施形態に係る第2のテーブルの取得に係る周波数の変化の一例である。
【
図15】本発明の一実施形態に係る第3のテーブルの一例である。
【
図16】本発明の一実施形態に係る第3のテーブル作成のための周波数ごとの感度の評価結果の一例である。
【
図17】本発明の一実施形態に係る第3のテーブル作成のための周波数の変化の一例である。
【
図18】本発明の一実施形態に係る第3のテーブルの作用の説明図である。
【
図19】本発明の一実施形態に係る歩行錯覚モードと映像・音響を同期させたシステムの一例である。第3のテーブル作成のための評価方法の説明図である。
【
図20】本発明の一実施形態に係る第4のテーブルの一例である。
【
図21】本発明の一実施形態に係る第4のテーブルに関連する運動錯覚モードの説明図である。
【
図22】本発明の一実施形態に係る第4のテーブル作成のための評価結果の一例である。
【
図23】本発明の一実施形態に係る歩行錯覚モードのフローである。
【
図24】本発明の一実施形態に係る運動錯覚モードのフローである。
【発明を実施するための形態】
【0028】
<全体構成の説明>
以下、図面を参照しながら、本発明の足部の行動錯覚生成システムに係る好適な実施の形態について説明する。以下の説明において、異なる図面においても同じ符号を付した構成は同様のものであるとして、その説明を省略する場合がある。
【0029】
本発明に係る一実施形態は、使用者のひざから足首、踵、足裏、足指を含む足部を刺激して、仮想的に行動錯覚を生じさせる、触覚を再現する足部の行動錯覚生成システムであって、複数の触覚から一を選択する選択入力部と、前記足部を複数の領域に区分し、その領域ごとに配設された刺激発生デバイスと、予め取得された前記刺激発生デバイスによって生ずる触覚と複数の種類の刺激との相関に基づいて、前記触覚に対応する前記刺激の種類・強度・時間を設定したテーブルが格納された記録部と、選択された前記触覚に応じて、前記テーブルを参照して、前記刺激発生デバイスに前記刺激の種類・強度・時間に対応する動作を指令する指令部と、を備える構成であれば、その具体的態様はいかなるものであっても構わない。
【0030】
図1~
図4を参照すると、本実施形態に係る行動錯覚生成システム1000は、複数の触覚(歩行錯覚モード110、運動錯覚モード120、他)から一を選択する選択入力部100と、使用者50の足部60を複数の領域に区分し、その領域ごとに配設された刺激発生デバイス500(1~18,30,31)と、予め取得された刺激発生デバイス500によって生ずる触覚と複数の種類の刺激との相関
に基づいて、触覚(歩行錯覚モード110、運動錯覚モード120、他)に対応する刺激の種類・強度・時間を設定したテーブル400が格納された記録部300と、選択された触覚(歩行錯覚モード110、運動錯覚モード120、他)に応じて、テーブル400を参照して、刺激発生デバイス500に刺激の種類・強度・時間に対応する動作を指令する指令部200と、から構成している。
【0031】
選択入力部100は、使用者50自身がどのような行動錯覚を行うか選択する、いわゆるスイッチ的な機能を有する。ここでの行動錯覚とは、使用者50の足部60への刺激によって生ずる「触覚」となる。
図1には「触覚」の例として、歩行錯覚モード110、運動錯覚モード120を示しており、これらについては後述する。
【0032】
触覚には、
図1で揚げた歩行錯覚モード110、運動錯覚モード120以外にも、例えば単純な「足踏みモード」や、「ジャンプモード」などを、予め取得したテーブルに応じて追加することが可能であり、仮にXモード、Yモード130としている。
【0033】
選択入力部100は、スイッチ的な機能だけでなく、使用者50の足部60の状態(例えば使用者の足裏の感覚に違和感がある、過敏である、等の歩行状態の特色など)、前回の行動錯覚生成システム1000を利用したときの結果、等のデータを読み込ませるようにしても良い。選択された「触覚」およびデータ等は、指令部200に伝送される。
【0034】
指令部200は、選択入力部100から伝送された選択結果およびデータに基づき、記録部300に格納されたテーブル400を参照し、足部60を刺激して、仮想的に行動の錯覚を生じさせる触覚を再現するために必要な指示内容を作成する。
【0035】
テーブル400は、足部60を複数の領域に区分(例えば、
図5の区分けを参照)、その領域ごとに配設された刺激発生デバイス500と、予め取得された刺激発生デバイス500によって生ずる触覚と複数の種類の刺激との相関
に基づいて、触覚に対応する刺激の種類・強度・時間を設定したものである。テーブル400については、触覚と複数の種類の刺激との相関の根拠を含めて、いくつかの例について後述する。
【0036】
選択入力部100から伝送されたデータと、記録部300のテーブル400を参照して作成された指示内容は刺激発生デバイス500に伝送される。刺激発生デバイス500は、指示内容に従った刺激の種類・強度・時間に基づき、足部60を刺激する。
【0037】
選択入力部100は、例えば、選択をする部分については、半導体を使ったスイッチング素子によるスイッチを、データを入力する部分については、メディアリーダー等を適用することができる。
【0038】
指令部200は、例えば、マイクロコンピュータで構成することができ、演算を行うプロセッサCPU、制御プログラムおよび各種データのリスト、テーブル、マップを格納するROM、およびCPUによる演算結果などを一時記憶するRAMを有する。
【0039】
記録部300は、不揮発性のメモリを備えており、必要なデータなどをこの不揮発性メモリに保存する。不揮発性メモリは、書き換え可能なROMであるEEPROM、または電源がオフにされていても保持電流が供給されて記憶を保持するバックアップ機能付きのRAMで構成することができる。
【0040】
図2、3を参照すると、刺激発生デバイス500は、足部60の足裏62(
図2)、アキレス腱64、大腿四頭筋腱66(
図3)に配設される。足裏62へは、足指から踵側へ複数の刺激発生デバイス500-1~-18、およびアキレス腱64、大腿四頭筋腱66へは刺激発生デバイス500-30、-31が配設されている。これらの刺激発生デバイス500-1~-18、-30、-31は、発明者によるこれまでの試験結果、評価により、触覚と刺激との相関に基づいて、設定された領域ごとに配している。なお、
図2では刺激発生デバイス500-1,5,8,16について、デバイスを作動させるための信号・電力の伝達・供給を行うリード線の例を示している。
【0041】
刺激発生デバイス500は、使用者50の足部60に直接装着・貼付しても良いし、
図2に示す足裏62に合わせたインソールを備え、さらにアキレス腱64、大腿四頭筋腱66を包容するような、例えば、靴(サンダル、スニーカー、長靴等)に、刺激発生デバイス500を配設するようにしても良い。
【0042】
刺激発生デバイス500は、振動を付加するものであれば特に限定されず、例えば、振動モータ、ボイスコイルモータ、リニア振動アクチュエータ、ピエゾアクチュエータ、超音波振動子などを適用できる。その他、電流、穿刺、加圧、温度による刺激についても適宜、回路、アクチュエータ、ペルチェ素子等を選択して適用することができる。
【0043】
<テーブル400の説明>
以下、本実施形態に適用できるテーブル400についていくつかの例とその根拠について説明する。なお、以下のテーブル400の作成に当たっては、刺激発生デバイス500として、ボイスコイルモータ(huyunxin社製 Ipx7 外径20mm)を適用した。
【0044】
人が歩行するとき、立位の状態から、一方の足を浮かせて前へ出し、歩幅分だけ前方の位置に踵を着地させる。このとき、人の体重を質量とする前方への動きに伴う荷重(力)は、荷重が移動するとともに増加していき、着地した踵からつま先へと移動する。そして、一方の足だけで荷重を支えた後、次には他方の足を浮かせて前へ出して、同じ行為が繰り返される。
【0045】
このことは、足をつく時、体重が乗っているとき、蹴り出す時で荷重範囲が変わるが、この状況は、振動の強さだけでは表現できないので、感覚の受容範囲を変化させることで歩行している時の刺激部位を再現できる。
【0046】
このように、使用者50の足部60に付加される荷重箇所は、連続的に変化する。この動作をシミュレーションするためには連続的に刺激位置および刺激を負荷する量を変化させる必要がある。
【0047】
第1のテーブル410については、限られた個数の刺激発生デバイス500を使って、足部60の全体をカバーする荷重の負荷を実現するファントムセンセーションを起こすための触覚と刺激の相関を説明する。ファントムセンセーションとは、触知覚において皮膚上2点の振動刺激を与えた場合刺激が融合し、2点の間の点に振動を知覚する現象である。また、2点の振動刺激の強度比によって知覚位置が強度の強い方に偏ることが知られている。
【0048】
第2のテーブル420については、歩行に伴い、足部60の特定位置の荷重が増加・縮小することをシミュレーションする、すなわち、歩行における体重移動による刺激範囲の拡大・縮小を設定するために、刺激発生デバイス500の周波数を変化させたときの触覚の強度と刺激の強度との相関を表すものである。
【0049】
第3のテーブル430については、歩行に伴い、足部60への刺激位置が変化することをシミュレーションするために、刺激発生デバイス500の周波数を時系列的に変動させたときの触覚の強度と刺激の強度との相関を表すものである。
【0050】
第4のテーブル440については、歩行時の足部60の関節が動作しているように錯覚を生成するために、アキレス腱64、大腿四頭筋腱66における触覚と刺激の相関を表すものである。
【0051】
テーブル400は、第1のテーブルから第1のテーブルに限定されるものではなく、後述するように映像・音響データ450をテーブルにする等、行動錯覚に係る予め取得したデータに基づいたテーブルを準備し、記録部300に格納し、指令部200によって場面に応じて利用することができる。
【0052】
<第1のテーブルの説明>
図5~10を参照して、第1のテーブル410の内容及び根拠となる予め取得された結果の一部について説明する。
【0053】
図5を参照すると、足部60の足裏62は複数の領域(縦方向A-H、横方向a-d)に区分されている。そして、領域のいくつかに刺激発生デバイス500(1-18)が配設されている。ここで、おおよそ、領域(A-B、a-d)は足指の近傍、領域(C-F、b-c)は土踏まずの近傍、領域(G-H、b-c)は踵の近傍となる。
【0054】
ここで、足指の近傍である領域(A-B、c-d)に、刺激ST1を負荷しようとする場合を想定する。この領域に配設された刺激発生デバイス500は、(1,2,5,6)であり、一つの刺激発生デバイス500では、要求される負荷は達成できない。
【0055】
このとき、刺激ST1を負荷するために、
図6を参照すると、第1のテーブル410から3通りの組み合わせが与えられる。それぞれの組み合わせは、二つの刺激発生デバイス500を選択され(例えば、第1の選択組み合わせの5,6)、それぞれの強度として振幅(5についてはa3、6についてはa5)を設定している。
【0056】
図7、8を参照すると、足裏62への刺激ST1を、刺激発生デバイス500の(5,6)から(TypeA)、(7)の方向へ移動させて(5,7)の間(TypeB)に位置する場合を示している。なお、TypeAは母指球近距離での刺激、TypeBは母指球遠距離での刺激と言い換えることができる。
【0057】
図9を参照すると、TypeA及びTypeBに、それぞれ大きさ(振幅)0.1mm~1mm、周波数100Hz、加振時間0.5secを負荷する試験の条件を示しており、
図7の矢印TR,TLのような方向に触覚が移動したか、使用者に確かめる試験を行った。さらに、10Hzから500Hzの周波数に対する第1のテーブル作成のためのファントムセンセーションが発生した周波数の一例を
図10に示す。
【0058】
試験結果は、
図10に示すいずれの周波数においても、
図7の矢印TR,TLのような方向への触覚の移動が確認された。このように第1のテーブル410を参照することにより、刺激発生デバイス500を領域に配設することで、ファントムセンセーションを起こして、位置的に連続的な刺激ST1を生じさせることができる。
【0059】
このように第1のテーブル410には、足部60への刺激ST1発生個所を間に挟んだ、一の領域と他の領域に対して、使用者50が刺激ST1発生個所に刺激ST1を感ずるように、一の領域への刺激の強度と、他の領域への刺激の強度との組み合わせが記録されている。
【0060】
<第2のテーブルの説明>
次に、
図11~14を参照して、第2のテーブル420の内容及び根拠となる予め取得された結果の一部について説明する。
【0061】
ここでは、
図11に示すように足裏62の踵の近傍である領域(G、b)に、刺激ST2を負荷し、その後周囲の領域(F-H、a-c)までの、刺激ST3を行う場合を想定する。
【0062】
図12を参照すると、第2のテーブル420には、刺激ST2と刺激ST3の条件である刺激を負荷する位置、作動させる刺激発生デバイス500、刺激の強度となる周波数が設定されている。この例では、刺激ST2と比べて刺激ST3は高い周波数であるf3(>f1)が設定されている。
【0063】
ここで、
図13を参照して、評価方法を説明する。使用者50は、
図13の左側のように局所的な振動(刺激)を感じるときは「1」、右側のように広く振動(刺激)を感じるときは「100」として、「1」から「100」を使用者の主観で評価した。
【0064】
試験は、
図14に示すように、数回(4回)にわたって実施し、一定の時間の加振(振動)を行い、停止(休憩)を挟んで周波数を変化させた。この結果、踵では150Hzより大きい周波数の場合は、広く振動(刺激)を感じ、それ以下の周波数の時は局所的な振動(刺激)を感じることが分かった。同様な試験は、踵以外の部位にも実施している。
【0065】
試験の全般的な傾向としては、高い周波数を与えることで振動(刺激)を広く感じ、低い周波数を与えることで振動(刺激)を局所的に感じることが分かり、第2のテーブル420は、足裏62の領域ごとに、振動(刺激)を広く感じる周波数、振動(刺激)を局所的に感じる周波数の閾値をまとめている。第2のテーブル420は、歩行に伴い、足部60の特定位置の荷重が増加・縮小することをシミュレーションする、すなわち、歩行における体重移動による刺激範囲の拡大・縮小を設定するために、刺激発生デバイス500の周波数を変化させたときの触覚の強度と刺激の強度との相関をテーブルとしている。
【0066】
<第3のテーブルの説明>
次に
図15~18を参照して、第3のテーブル430の内容及び根拠となる予め取得された結果の一部について説明する。
【0067】
図15を参照すると、第3のテーブル430は、指定された領域(
図15では、「踵」と「小指球」)を対象にして、周波数を変化させた場合の振動(刺激)に対する感度を示している。なお、感度は
図13に示すものである。
【0068】
領域「踵」のテーブルを見ると刺激発生デバイス500(18)を、周波数50-100Hzで加振したときには感度40-50となり、周波数150-500Hzで加振したときには感度65-80となる。領域「小指球」のテーブルを見ると刺激発生デバイス500(4)を、周波数50-300Hzで加振したときには感度40-50となり、周波数350-500Hzで加振したときには感度65-80となる。
【0069】
図16に「踵」のテーブル作成のための試験結果を示している。
図16は、足裏62の踵部分に刺激ST4を負荷したものである。このように、第3のテーブル430には、歩行に伴い、足部60への刺激位置が変化することをシミュレーションするために、刺激発生デバイス500の周波数を時系列的に変動させたときの触覚の強度と刺激の強度との相関が記録されている。
【0070】
なお、連続的に刺激を与えたときと、一旦刺激を中断して、十分に時間をとった後に再開したときとは、使用者50の感覚は異なることを発明者は発見した。すなわち、
図17のような加振パターンとした場合には、
図18に示すように、同じ周波数100Hzであっても、
図17の最初の100Hz(左側)と、最後の100Hzとは感じ方が異なり、足裏62への刺激ST4は、前者が広範囲の刺激ST4となり、後者が局所的な刺激ST4となる。
【0071】
以上のように、第3のテーブル430は、オプション的に、振動の周波数を所定時間の間隔で、所定の第1周波数から、第1周波数よりも高い第2周波数、第1周波数よりも低い第3周波数、第1周波数よりも高い第4周波数の順で、もしくは、所定の第1周波数から、第1周波数よりも高い第5周波数、第1周波数よりも低い第6周波数、第1周波数よりも高い第7周波数の順で加振するように構成するテーブルも併せて備えることが好ましい。このように、周波数を変動させることで、刺激の拡大・縮小を実現させる。前記構成によれば、周波数を高低の順序で変動させることで、使用者50の足部60の感覚を鋭敏にすることも可能となる。
【0072】
<第1のテーブル、第2のテーブル、第3のテーブルと映像・音響との同期>
次に
図19を参照して、第1のテーブル410、第2のテーブル420、第3のテーブル430から設定された歩行錯覚モード110に従って、使用者50の足部60に対して、刺激発生デバイス500によって刺激を負荷するときに、映像・音響と同期させる例を説明する。
【0073】
図19を参照すると、
図4のシステムにさらに映像・音響を再現するメディア機器600が指令部200とつながっており、また、記録部300には、映像・音響データ450が格納されている。
【0074】
指令部200は、第1のテーブル410、第2のテーブル420、第3のテーブル430に基づいて再現される歩行錯覚、すなわち、路面状況での歩行において生ずる触覚に対応する刺激発生デバイス500に刺激の種類・強度・時間に対応する動作を指令するとともに、その動作を映像・音響データ450に同期させて、メディア機器600に映像・音響を再現させる。
【0075】
この構成によれば、使用者50は、歩行錯覚にメディアデバイスによる映像・音響の情報が付加され、バーチャルリアリティー(VR)もしくはオグメンテッドリアリティー(AR)を実現させることができる。
【0076】
さらにこの構成によれば、実際の歩行時に遭遇する状況を映像・音響として再現しつつ、歩行錯覚を生成することで、実際の屋外における散歩等の状況を仮想的に実現させることができる。
【0077】
<第4のテーブルの説明>
【0078】
次に、
図20、21,22を参照して、第4のテーブル440の内容及び根拠となる予め取得された結果の一部について説明する。
【0079】
図20を参照すると、第4のテーブル440には、アキレス腱64、大腿四頭筋腱66へ、周波数75Hzの刺激(振動)を一定時間tだけ加振することが設定されている。
【0080】
第4のテーブル440は、運動錯覚モード120を実行するものであり、運動錯覚とは、例えば、
図21に示すように、足腰が弱った高齢者や、歩行困難な身体障碍者のアキレス腱64に刺激を加えたときに、
図21の上段(実際の足)に示すように実際の足部60は動かないにもかかわらず、下段(脳内イメージ)では、足首を上側に曲げたように感じる。
【0081】
この運動錯覚は使用者50が健常者であった場合、使用者が仰向けになっている状態であっても、運動をしているという錯覚を生成するため、座位以外のVR、ARのいろいろなシチュエーションでも歩行や運動等の行動を錯覚させるような触覚を生成することができる。
【0082】
使用者50は、
図21の上段(実際の足)と下段(脳内イメージ)との差を視覚的に実感することで、自身の足首の動きを
図21の右のように修正することができる。この修正は、
図22に示すように、歩行時に足を前に出す動作を正常な状態に回復させ、適正な歩幅を実現させる援けとなる。
【0083】
このように、第4のテーブル440には、使用者50のアキレス腱64近傍および大腿四頭筋腱66近傍の領域への刺激と、想定される使用者50の歩行時の歩幅に対応する足首の角度との組み合わせが記録されている。
【0084】
そして、選択入力部100において、運動錯覚モード120が選択されたとき、この第4のテーブル440を参照して、使用者50の歩行時の歩幅に相当する前記刺激の範囲を設定することができる。
【0085】
詳しくは、運動錯覚モード120を実現するにあたり、第4のテーブル440を参照して使用者50のアキレス腱64近傍および大腿四頭筋腱66近傍の領域への刺激と、想定される使用者50の歩行時の歩幅に対応する足首の角度との組み合わせを設定できる。
【0086】
この構成によれば、使用者50がとることができる姿勢の範囲を広げることができる。また、足部を自分の意志通りに動かせない使用者50の場合であっては、正常な歩行における歩行時の足首の曲げを訓練することができるため、より安全な歩行訓練の準備段階となる運動錯覚を実現させることができる。
【0087】
次に、これまで説明したテーブル400を参照して、足部60に刺激を負荷する行動錯覚生成システム1000の例として、歩行錯覚モード110、運動錯覚モード120の流れを説明する。なお、一つ一つの構成については、すでに記載していることから、簡単に説明する。
【0088】
<歩行錯覚モードの例>
図23に歩行錯覚モード110を選択したときのフローを示す。なお、このフローのSTP1からSTP3、STP8は、使用者50や、サポートをする人の行為等、一部本発明の技術的範囲を超えるものとなっている。これは、本実施形態を実現させる上で、通常行ったほうが良いサポート内容であるため、併せて記載している。
【0089】
使用者50は、選択入力部100の歩行錯覚モード110を選択する(STP1)。そして、使用者50は、自身の足部60と刺激発生デバイス500との位置調整を行う(STP2)。使用者50は、刺激発生デバイス500を足部60に装着もしくは足部60に当接させた後、使用者50の足部60の感覚の感度と刺激発生デバイス500の強度を校正する(STP3)。以上で使用者50の準備は整う。
【0090】
このとき、選択入力部100から、使用者50の足部60の状態(例えば使用者の足裏の感覚に違和感がある、過敏である、等の歩行状態の特色など)、前回の行動錯覚生成システム1000を利用したときの結果、等のデータを読み込ませるようにしても良い。
【0091】
次に、行動錯覚生成システム1000の指令部200は、記録部300に格納された第1のテーブル410を参照して、刺激箇所と強度を設定する(STP4)。続けて、第2のテーブル420を参照して刺激の範囲を設定する(STP5)。そして、第3のテーブル430を参照して刺激範囲の拡大・縮小の推移を設定する(STP6)。さらにオプション的に、歩行錯覚のシーケンスに合わせた映像・画像を設定する(STP7)。
【0092】
以上のSTP1~7を実行した後に、歩行錯覚モード110による行動錯覚を開始する(STP8)。
【0093】
<運動錯覚モードの例>
図24に運動錯覚モード120を選択したときのフローを示す。なお、このフローのSTP1からSTP3は、使用者50や、サポートをする人の行為等、一部本発明の技術的範囲を超えるものとなっている。
【0094】
使用者50は、選択入力部100の運動錯覚モード120を選択する(STP1)。そして、使用者50は、自身の足部60と刺激発生デバイス500との位置調整を行う(STP2)。使用者50は、刺激発生デバイス500を足部60に装着もしくは足部60に当接させた後、使用者50の足部60の感覚の感度と刺激発生デバイス500の強度を校正する(STP3)。以上で使用者50の準備は整う。
【0095】
次に、行動錯覚生成システム1000の指令部200は、記録部300に格納された第4のテーブル440を参照して、刺激箇所と強度を設定する(STP4)。
以上のSTP1~4を実行した後に、運動錯覚モード120による行動錯覚を開始する(STP5)。
【0096】
以上説明したように、本発明は、立位状態でなくとも歩行や運動等の行動を錯覚させるような触覚を生成する行動錯覚生成システムであり、詳しくは、足部を刺激して、仮想的に運動錯覚を生じさせる触覚を再現するシステムを提供する。なお、本開示の態様は上記実施形態に限られるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で変形が可能である。
【符号の説明】
【0097】
50・・・使用者
60・・・足部
62・・・足裏
64・・・アキレス腱
66・・・大腿四頭筋腱
100・・・選択入力部
110・・・歩行錯覚モード
120・・・運動錯覚モード
130・・・Xモード、Yモード
200・・・指令部
300・・・記録部
400・・・テーブル
410・・・第1のテーブル
420・・・第2のテーブル
430・・・第3のテーブル
440・・・第4のテーブル
450・・・映像・音響データ
500・・・刺激発生デバイス(1~18,31,32)
1000・・・行動錯覚生成システム
ST1~ST4・・・刺激
【要約】
【課題】立位状態でなくとも歩行や運動等の行動を錯覚させるような触覚を生成する行動錯覚生成システム1000を提供する。
【解決手段】複数の触覚(歩行錯覚モード110、運動錯覚モード120、他)から一を選択する選択入力部100と、使用者50の足部60を複数の領域に区分し、その領域ごとに配設された刺激発生デバイス500(1~18,30,31)と、予め取得された刺激発生デバイス500によって生ずる触覚と複数の種類の刺激との相関を基づいて、触覚(歩行錯覚モード110、運動錯覚モード120、他)に対応する刺激の種類・強度・時間を設定したテーブル400が格納された記録部300と、選択された触覚(歩行錯覚モード110、運動錯覚モード120、他)に応じて、テーブル400を参照して、刺激発生デバイス500に刺激の種類・強度・時間に対応する動作を指令する指令部200と、を備える。
【選択図】
図1