(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-06-09
(45)【発行日】2025-06-17
(54)【発明の名称】液状コンプレッションモールド材
(51)【国際特許分類】
H01L 23/29 20060101AFI20250610BHJP
H01L 23/31 20060101ALI20250610BHJP
C08G 59/18 20060101ALI20250610BHJP
【FI】
H01L23/30 R
C08G59/18
(21)【出願番号】P 2022532340
(86)(22)【出願日】2021-04-20
(86)【国際出願番号】 JP2021016031
(87)【国際公開番号】W WO2021261064
(87)【国際公開日】2021-12-30
【審査請求日】2024-03-07
(31)【優先権主張番号】P 2020107776
(32)【優先日】2020-06-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】591252862
【氏名又は名称】ナミックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001508
【氏名又は名称】弁理士法人 津国
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 真
(72)【発明者】
【氏名】上村 剛
(72)【発明者】
【氏名】酒井 洋介
【審査官】後藤 嘉宏
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-087852(JP,A)
【文献】特開平01-188519(JP,A)
【文献】国際公開第2018/221682(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 23/29
C08G 59/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
液状コンプレッションモールド材であって、下記成分(A)~(C):
(A)エポキシ樹脂;
(B)硬化剤;及び
(C)フィラー
を含み、かつ
0.8~4.0のチキソトロピックインデックス(TI)を
有し、
成分(A)が脂肪族エポキシ樹脂を含み、
前記脂肪族エポキシ樹脂の数平均分子量が200~1000である、液状コンプレッションモールド材。
【請求項2】
成分(C)が、粒径5nm~100nmの粒子を、成分(C)の総重量に対して5~23重量%含む、請求項1記載の液状コンプレッションモールド材。
【請求項3】
成分(C)がカップリング剤で表面処理されている、
請求項1又は2記載の液状コンプレッションモールド材。
【請求項4】
25℃における粘度が10~1000Pa・sである、
請求項1~3のいずれか1項記載の液状コンプレッションモールド材。
【請求項5】
前記脂肪族エポキシ樹脂が、下記一般式(I)で示される化合物を含む、
請求項1~4のいずれか1項記載の液状コンプレッションモールド材。
【化3】
[式中、nは、1~15の整数である。]
【請求項6】
成分(B)がフェノール化合物を含む、
請求項1~5のいずれか1項記載の液状コンプレッションモールド材。
【請求項7】
成分(C)がシリカを含む、
請求項1~6のいずれか1項記載の液状コンプレッションモールド材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子部品の製造において好適に使用し得る液状コンプレッションモールド材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
集積回路等の半導体素子の多くは、封止材で封止されている。半導体素子の封止を行うための成形方法は複数存在するが、近年、相対的に大型の成形品の製造により適している圧縮成形が、半導体素子の封止に採用される機会が増加している。これは、ウェハーレベルチップサイズパッケージ技術(回路形成完了後のチップに切り分けられていないウェハーを、そのまま封止することを伴う)の普及が進んでいることなどに起因する。
【0003】
圧縮成形による半導体素子の封止に用いられる従来の硬化性樹脂組成物は、主に顆粒状等の固形の樹脂組成物であった。しかし最近では、新たな圧縮形成技術の開発に伴い、液状の硬化性樹脂組成物が用いられることも多くなっている。以下、圧縮成形による封止に用いられるこのような液状の硬化性樹脂組成物を「液状コンプレッションモールド材」と称する。この「液状コンプレッションモールド材」を「LCM(Liquid Compression Molding)材」と略称する場合がある。
【0004】
液状コンプレッションモールド(LCM)材としては、電気特性、耐湿性、耐熱性、機械特性、接着性等の諸特性のバランスの観点から、液状のエポキシ樹脂組成物がしばしば用いられる。LCM材として用いられるエポキシ樹脂組成物の例として、特許文献1に記載の液状樹脂組成物を挙げることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】国際出願公開第WO2018/221681号公報
【文献】特開2015-105304
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところが、従来のLCM材を圧縮成形に付すと、金型の合わせ目から漏出し、成形不良が生じるという問題があることが判明した。この漏出によって成形効率が低下し、LCM材の損失も発生することから、製造コストの増加がもたらされる。
【0007】
本発明は、上記した従来技術の問題点を解決するため、適切なレオロジー特性を有し、圧縮成形に付しても金型からの漏出が起こらず、容易かつ効率的な半導体素子の封止を可能にする、LCM材としての使用に適した液状エポキシ樹脂組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記問題点を解決するために鋭意研究を重ねた結果、本発明に到達した。
【0009】
すなわち、本発明は、以下に限定されるものではないが、次の発明を包含する。
【0010】
1.液状コンプレッションモールド材であって、下記成分(A)~(C):
(A)エポキシ樹脂;
(B)硬化剤;及び
(C)フィラー
を含み、かつ
0.8~4.0のチキソトロピックインデックス(TI)を有する、液状コンプレッションモールド材。
【0011】
2.成分(C)が、粒径5nm~100nmの粒子を、成分(C)の総重量に対して5~23重量%含む、前項1記載の液状コンプレッションモールド材。
【0012】
3.成分(C)における前記粒径5nm~100nmの粒子の少なくとも一部を、成分(A)の少なくとも一部とあらかじめ混合する工程を含む方法によって得ることができる、前項2記載の液状コンプレッションモールド材。
【0013】
4.成分(C)がカップリング剤で表面処理されている、前項1~3のいずれか1項記載の液状コンプレッションモールド材。
【0014】
5.25℃における粘度が10~1000Pa・sである、前項1~4のいずれか1項記載の液状コンプレッションモールド材。
【0015】
6.成分(A)が脂肪族エポキシ樹脂を含む、前項1~5のいずれか1項記載の液状コンプレッションモールド材。
【0016】
7.前記脂肪族エポキシ樹脂の数平均分子量が200~1000である、前項6記載の液状コンプレッションモールド材。
【0017】
8.前記脂肪族エポキシ樹脂が、下記一般式(I)で示される化合物を含む、前項6又は7記載の液状コンプレッションモールド材。
【化1】
[式中、nは、1~15の整数である。]
【0018】
9.成分(B)がフェノール化合物を含む、前項1~8のいずれか1項記載の液状コンプレッションモールド材。
【0019】
10.成分(C)がシリカを含む、前項1~9のいずれか1項記載の液状コンプレッションモールド材。
【発明の効果】
【0020】
本発明の液状コンプレッションモールド材は、適切なレオロジー特性を有するので、圧縮成形に付しても金型からの漏出が起こらず、半導体素子の封止を容易かつ効率的に行うことができる
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】液状コンプレッションモールド(LCM)材が塗布されたシリコンウェハーを圧縮成形に付したときの、LCM材の金型からの漏出の機構を示す図である。(a)LCM材のシリコンウェハーへの適用。(b)LCM材がシリコンウェハーに適用されてから、LCM材に応力が負荷されて延伸されるまでの間の、シリコンウェハー上のLCM材の状態。LCM材のTIが0.8未満であると(下段)、LCM材はシリコンウェハー上を金型内面に近い位置まで自然に拡がる。LCM材のTIが適切であれば(上段)、LCM材は、金型内面から比較的離れた位置までしか、シリコンウェハー上を自然に拡がらない。(c)LCM材に応力が負荷されて延伸された直後の、シリコンウェハー上のLCM材の状態。LCM材のTIが0.8未満であると(下段)、延伸されたLCM材はごくわずかな時間で金型内面に達し、金型の形状によっては、金型が完全に閉じないうちにLCM材が金型からあふれてしまう。LCM材のTIが適切であれば(上段)、延伸されたLCM材が金型内面に達するまでに要する時間は、前記の場合についてのその時間に比して長い。その結果、延伸されたLCM材は、金型が完全に閉じてから金型内面に達し、金型からのLCM材の漏出が回避される。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
本発明は、液状コンプレッションモールド材であって、下記成分(A)~(C):
(A)エポキシ樹脂;
(B)硬化剤;及び
(C)フィラー;
を含み、かつ
0.8~4.0のチキソトロピックインデックス(TI)を有する、液状コンプレッションモールド(LCM)材に関する。本発明のLCM材に含まれる上記成分(A)~(C)に関し、以下に説明する。
【0023】
[エポキシ樹脂(成分(A))]
本発明のLCM材は、エポキシ樹脂を含有する。以下、このエポキシ樹脂を「成分(A)」と称する場合がある。
本発明のLCM材における成分(A)としては、封止材料として用いられるエポキシ樹脂を使用することができる。エポキシ樹脂は、2官能以上の多官能エポキシ樹脂であることが好ましい。多官能エポキシ樹脂の例としては、カテコールジグリシジルエーテル、レゾルシンジグリシジルエーテル、フタル酸ジグリシジルエステル、2,5-ジイソプロピルヒドロキノンジグリシジルエーテル、ヒドロキノンジグリシジルエーテル等の単環芳香族エポキシ樹脂;3’,4’-エポキシシクロヘキシルメチル-3,4-エポキシシクロヘキサンカルボキシレート、3,4-エポキシ-6-メチルシクロヘキシルメチル-3,4-エポキシ-6-メチルシクロヘキシルカルボキシレート、ビス(3,4-エポキシシクロヘキシル)アジペート、ビニルシクロヘキセンモノエポキシド、ジエポキシリモネン等の脂環式エポキシ樹脂;ビスフェノールA型、ビスフェノールF型、ビスフェノールAD型、ビスフェノールS型等のビスフェノール型エポキシ樹脂;ビスフェノール型エポキシ樹脂の部分重合によって得られるオリゴマーの混合物;環が水素添加されたビスフェノール型エポキシ樹脂;テトラメチルビス(4-ヒドロキシフェニル)メタンジグリシジルエーテル;テトラメチルビス(4-ヒドロキシフェニル)エーテルジグリシジルエーテル;ビフェニル型又はテトラメチルビフェニル型エポキシ樹脂及びこれらの環が水素添加された樹脂;ビスフェノールフルオレン型エポキシ樹脂、ビスクレゾールフルオレン型エポキシ樹脂等のフルオレン型エポキシ樹脂;ナフタレン型エポキシ樹脂等を挙げることができる。
【0024】
さらに、多官能エポキシ樹脂としては、例えば、トリグリシジル-p-アミノフェノールなどのアミノフェノール型エポキシ樹脂、ジグリシジルアニリンなどのアニリン型エポキシ樹脂、ジグリシジルオルトトルイジンなどのトルイジン型エポキシ樹脂、テトラグリシジルジアミノジフェニルメタンなどのジアミノジフェニルメタン型エポキシ樹脂等の多官能グリシジルアミン型エポキシ樹脂;ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂;トリメチロールプロパントリグリシジルエーテル、トリメチロールメタントリグリシジルエーテル、トリメチロールエタントリグリシジルエーテル等のトリメチロールアルカン型エポキシ樹脂等の多官能グリシジルエーテルが挙げられる。
【0025】
また、その他のエポキシ樹脂、例えば脂肪族エポキシ樹脂、シリル化エポキシ樹脂、複素環式エポキシ樹脂、ジアリルビスフェノールA型エポキシ樹脂、ポリアリーレンエーテルジグリシジルエーテル等を用いることもできる。
【0026】
これらのエポキシ樹脂のうち、脂肪族エポキシ樹脂の例としては、アルキレングリコールジグリシジルエーテル、ポリ(アルキレングリコール)ジグリシジルエーテル、アルケニレングリコールジグリシジルエーテル等の、分子内にエポキシ基を2つ有する二官能脂肪族エポキシ樹脂;三官能以上のアルコール(トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール等)のポリグリシジルエーテル[トリメチロールプロパントリグリシジルエーテル、ペンタエリスリトール(トリ又はテトラ)グリシジルエーテル、ジペンタエリスリトール(トリ、テトラ、ペンタ又はヘキサ)グリシジルエーテル等]等の、分子内にエポキシ基を3つ以上有する多官能脂肪族エポキシ樹脂などが挙げられる。
【0027】
これらの脂肪族エポキシ樹脂のうち、二官能脂肪族エポキシ樹脂が好ましい。
二官能脂肪族エポキシ樹脂の例としては、エチレングリコールジグリシジルエーテル、プロピレングリコールジグリシジルエーテル、1,3-プロパンジオールジグリシジルエーテル、2-メチル-1,3-プロパンジオールジグリシジルエーテル、2-ブチル-2-エチル-1,3-プロパンジオールジグリシジルエーテル、1,4-ブタンジオールジグリシジルエーテル(テトラメチレングリコールジグリシジルエーテル)、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、3-メチル-2,4-ペンタンジオールジグリシジルエーテル、2,4-ペンタンジオールジグリシジルエーテル、1,5-ペンタンジオールジグリシジルエーテル(ペンタメチレングリコールジグリシジルエーテル)、3-メチル-1,5-ペンタンジオールジグリシジルエーテル、2-メチル-2,4-ペンタンジオールジグリシジルエーテル、2,4-ジエチル-1,5-ペンタンジオールジグリシジルエーテル、1,6-ヘキサンジオールジグリシジルエーテル(ヘキサメチレングリコールジグリシジルエーテル)、1,7-ヘプタンジオールジグリシジルエーテル、3,5-ヘプタンジオールジグリシジルエーテル、1,8-オクタンジオールジグリシジルエーテル、2-メチル-1,8-オクタンジオールジグリシジルエーテル、1,9-ノナンジオールジグリシジルエーテル等のアルキレングリコールジグリシジルエーテル(アルカンジオールジグリシジルエーテル);ジエチレングリコールジグリシジルエーテル、トリエチレングリコールジグリシジルエーテル、テトラエチレングリコールジグリシジルエーテル、ジプロピレングリコールジグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテル、ポリ(エチレングリコール/プロピレングリコール)ジグリシジルエーテル、ジテトラメチレングリコールジグリシジルエーテル、トリテトラメチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリテトラメチレングリコールジグリシジルエーテル、ジペンタメチレングリコールジグリシジルエーテル、トリペンタメチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリペンタメチレングリコールジグリシジルエーテル、ジヘキサメチレングリコールジグリシジルエーテル、トリヘキサメチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリヘキサメチレングリコールジグリシジルエーテル等のポリアルキレングリコールジグリシジルエーテル(オリゴアルキレングリコールジグリシジルエーテルも含まれる)などが挙げられる。
【0028】
ある実施形態では、二官能脂肪族エポキシ樹脂は(ポリ)アルキレングリコールジグリシジルエーテルであり、好ましくは、アルキレングリコール(アルキレンオキシ)単位の数が1~20である(ポリ)アルキレングリコールジグリシジルエーテルであり、より好ましくは、アルキレングリコール単位の数が1~20であり、アルキレングリコール単位中の炭素原子の数が2~4である(ポリ)アルキレングリコールジグリシジルエーテルである。
他の実施形態では、二官能脂肪族エポキシ樹脂は、アルキレングリコール(アルキレンオキシ)単位の数が2~20であるポリアルキレングリコールジグリシジルエーテルであり、好ましくは、アルキレングリコール単位の数が2~20であり、アルキレングリコール単位中の炭素原子の数が2~4であるポリアルキレングリコールジグリシジルエーテルである。
【0029】
脂肪族エポキシ樹脂の分子量(脂肪族エポキシ樹脂が重合体である場合、分子量は、溶出溶媒にテトラヒドロフランを用いたゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)による標準ポリスチレン換算の数平均分子量)は特に限定されないが、好ましくは200~10000であり、より好ましくは200~1200であり、さらに好ましくは200~1000であり、特に好ましくは300~900である。
【0030】
より好ましい脂肪族エポキシ樹脂の具体的な例として、下記一般式(I)で示される化合物、すなわち(ポリ)テトラメチレングリコールのジグリシジルエーテルを挙げることができる。
【化2】
(式中、nは、1~15の整数である)
【0031】
一般式(I)で示される化合物として、商品名「エポゴーセーPT(一般グレード)」(四日市合成株式会社、ポリテトラメチレングリコールのジグリシジルエーテル、数平均分子量700~1000)等の市販品を使用してもよい。
【0032】
本発明のLCM材においては、成分(A)として、単一のエポキシ樹脂を用いてもよく、2種以上のエポキシ樹脂を併用してもよい。本発明においては、成分(A)が、脂肪族エポキシ樹脂を含むことが特に好ましく、前記脂肪族エポキシ樹脂が、前記一般式(I)で示される化合物を含むことがより好ましい。また、前記脂肪族エポキシ樹脂の数平均分子量が200~1000であることが好ましい。
【0033】
[硬化剤(成分(B))]
本発明のLCM材は、硬化剤を含有する。この硬化剤は、上記エポキシ樹脂(成分(A))を硬化させることができることができる限り特に限定されない。以下、この硬化剤を「成分(B)」と称する場合がある。
【0034】
本発明のLCM材に使用する成分(B)の例としては、イミダゾール化合物、アミン化合物、フェノール化合物及び酸無水物等が挙げられる。これらのうち、イミダゾール化合物は、潜在化されていてもよく、マイクロカプセル型硬化剤の形態であってもよい。
【0035】
イミダゾール化合物の例としては、イミダゾール、2-メチルイミダゾール、2-エチルイミダゾール、1-イソブチル-2-メチルイミダゾール、2-エチル-4-メチルイミダゾール、2-フェニルイミダゾール、2-フェニル-4-メチルイミダゾール、2-フェニル-4-メチル-5-ヒドロキシメチルイミダゾール、1-ベンジル-2-メチルイミダゾール、1-ベンジル-2-フェニルイミダゾール、1,2-ジメチルイミダゾール、1-シアノエチル-2-メチルイミダゾール、1-シアノエチル-2-エチル-4-メチルイミダゾール、1-シアノエチル-2-ウンデシルイミダゾール、1-シアノエチル-2-フェニルイミダゾール等の2-置換イミダゾール化合物;1-シアノエチル-2-ウンデシルイミダゾリウムトリメリテイト、1-シアノエチル-2-フェニルイミダゾリウムトリメリテイト等のトリメリット酸塩;2,4-ジアミノ-6-[(2-メチル-1-イミダゾリル)エチル]s-トリアジン、2,4-ジアミノ-6-[(2-ウンデシル-1-イミダゾリル)エチル]s-トリアジン、2,4-ジアミノ-6-[(2-エチル-4-メチル-1-イミダゾリル)エチル]s-トリアジン等のトリアジン環含有化合物;2,4-ジアミノ-6-[(2-メチル-1-イミダゾリル)エチル]s-トリアジンのイソシアヌル酸付加物、2-フェニルイミダゾールのイソシアヌル酸付加物、2-メチルイミダゾールのイソシアヌル酸付加物、2-フェニル-4,5-ジヒドロキシメチルイミダゾールのイソシアヌル酸付加物及び2-フェニル-4-メチル-5-ヒドロキシメチルイミダゾールのイソシアヌル酸付加物等が挙げられる。
これらのイミダゾール化合物のうち、2-フェニル-4-メチルイミダゾール、2,4-ジアミノ-6-[(2-メチル-1-イミダゾリル)エチル]s-トリアジン、2-フェニル-4-メチル-5-ヒドロキシメチルイミダゾール(そのイソシアヌル酸付加物を含む)等が好ましい。
【0036】
上記マイクロカプセル型硬化剤としては、例えば、アミン化合物の粉末が液状エポキシ樹脂中に分散された分散液を使用することができる。このアミン化合物は、例えば脂肪族第一アミン、脂環式第一アミン、芳香族第一アミン、脂肪族第二アミン、脂環式第二アミン、芳香族第二アミン、イミダゾール化合物及びイミダゾリン化合物から選択すればよい。このアミン化合物は、カルボン酸、スルホン酸、イソシアネート、エポキシド等との反応生成物の形態で用いてもよい。これらの化合物は、単独で用いても、2種以上を併用してもよい。例えば、上記アミン化合物を、そのカルボン酸、スルホン酸、イソシアネート、又はエポキシドとの反応生成物を組み合わせて使用することができる。上記アミン化合物の粉末の体積平均粒径は、30μm以下が好ましく、5μm以下がより好ましい。また、上記アミン化合物の粉末は、融点又は軟化点が60℃以上であることが、25℃での増粘を抑える観点から好ましい。
【0037】
上記フェノール化合物としては、フェノール樹脂、特に、フェノール類又はナフトール類(例えば、フェノール、クレゾール、ナフトール、アルキルフェノール、ビスフェノール、テルペンフェノールなど)とホルムアルデヒドを縮合させて得られるノボラック樹脂が好ましく用いられる。ノボラック樹脂の例としては、フェノールノボラック樹脂、o-クレゾールノボラック樹脂、p-クレゾールノボラック樹脂、α-ナフトールノボラック樹脂、β-ナフトールノボラック樹脂、t-ブチルフェノールノボラック樹脂、ビスフェノールA型ノボラック樹脂、キシリレン変性ノボラック樹脂、デカリン変性ノボラック樹脂等が挙げられる。他のフェノール樹脂の例としては、ジシクロペンタジエンクレゾール樹脂、ポリパラビニルフェノール、ポリ(ジ-o-ヒドロキシフェニル)メタン、ポリ(ジ-m-ヒドロキシフェニル)メタン及びポリ(ジ-p-ヒドロキシフェニル)メタン等が挙げられる。
【0038】
上記酸無水物の例としては、無水フタル酸;ヘキサヒドロ無水フタル酸;メチルヘキサヒドロ無水フタル酸などのアルキルヘキサヒドロ無水フタル酸;テトラヒドロ無水フタル酸;トリアルキルテトラヒドロ無水フタル酸、3-メチルテトラヒドロ無水フタル酸などのアルキルテトラヒドロ無水フタル酸;無水ハイミック酸;無水コハク酸;無水トリメリット酸;無水ピロメリット酸等を挙げることができる。これらのうち、メチルテトラヒドロ無水フタル酸、メチルヘキサヒドロ無水フタル酸等が好ましい。
【0039】
上記アミン化合物の例としては、テトラメチルジアミノジフェニルメタン、テトラエチルジアミノジフェニルメタン、ジエチルジメチルジアミノジフェニルメタン、ジメチルジアミノトルエン、ジアミノジブチルトルエン、ジアミノジプロピルトルエン、ジアミノジフェニルスルホン、ジアミノジトリルスルホン、ジエチルジアミノトルエン、ビス(4-アミノ-3-エチルフェニル)メタン、ポリテトラメチレンオキシド-ジ-p-アミノベンゾエート等を挙げることができる。これらのうち、ビス(4-アミノ-3-エチルフェニル)メタン等が好ましい。
上記アミン化合物の更なる例としては、2,4,6-トリス(ジメチルアミノメチル)フェノール、ジエチルアミン、トリエチルアミン、ジエチレンテトラミン、トリエチレンテトラミン及び4,4-ジメチルアミノピリジン等も挙げられる。アミン化合物はアミンアダクトであってよい。
【0040】
本発明のLCM材においては、成分(B)として、単一の硬化剤を用いてもよく、2種以上の硬化剤を併用してもよい。本発明においては、成分(B)がイミダゾール化合物を含むことが好ましく、イミダゾール化合物とフェノール化合物(好ましくは液状の)の両方を含むことがより好ましい。
【0041】
本発明のLCM材は、成分(B)を、成分(A)100重量部に対して1~20重量%含むことが好ましく、2~15重量%含むことがより好ましく、3~10重量%含むことが特に好ましい。
【0042】
[フィラー(成分(C))]
本発明のLCM材は、フィラーを含有する。以下、このフィラーを「成分(C)」と称する場合がある。
本発明に用いられる成分(C)のフィラーの例としては、シリカ、アルミナ、タルク、炭酸カルシウム、チタンホワイト、ベンガラ、炭化珪素、窒化ホウ素(BN)、ガラスビーズ等が挙げられるが、これらに限定されない。本発明においては、成分(C)がシリカを含むことが好ましい。これは、シリカがレオロジー調整剤としても機能することに起因する。シリカは、天然シリカ(珪石、石英など)であってもよく、合成シリカであってもよい。合成シリカは、乾式法及び湿式法を含む任意の方法で合成されうる。
また成分(C)は、表面処理剤、例えばシランカップリング剤(フェニル基、ビニル基、メタクリロイル基等の置換基を有していてもよい)等のカップリング剤で表面処理されていてもよい。本発明においては、成分(C)の少なくとも一部が表面処理されていることが好ましい。
【0043】
一実施態様において、成分(C)はシリカ粉末を含む。シリカ粉末は、市販品として入手することができる。
本発明においては、成分(C)が、溶融シリカの粉末及び/又は爆燃法により製造されたシリカ粉末を含むことがより好ましい。爆燃法とは、酸素の気流中に分散させた金属ケイ素の粉末を、着火することにより酸化させ、得られる酸化物(場合により未反応金属ケイ素を含有する)を、前記酸化の反応熱を用いる加熱による溶融又は気化、次いで前記酸化物の融点以下の温度への冷却に付すことにより、微細な球状シリカ粒子からなるシリカ粉末を製造する方法である。一方、溶融シリカの粉末の例としては、球状シリカ粒子からなるもの、破砕状シリカ粒子からなるもの等が挙げられる。LCM材の流動性の観点から、成分(C)は、球状シリカ粒子(特に、真球度の高いもの)からなるシリカ粉末を含むことがより好ましい。
【0044】
本発明のLCM材においては、成分(C)として、単一のフィラーを用いてもよく、2種以上のフィラーを併用してもよい。成分(C)が2種以上のフィラーを含む場合、それらのフィラーが、それらを構成する粒子に含まれる物質において異なっていてもよく、或いは、フィラーが同じ物質を含む粒子から構成される場合、それらのフィラーが、製造方法、又は何らかの他の特性(例えば、後述する粒度分布)において異なっていてもよい。一実施態様において、成分(C)は、2種以上のフィラーを含む。
【0045】
成分(C)を構成する粒子の特性、例えば粒度分布は、特に限定されない。しかし、LCM材の適切なチキソトロピックインデックス(後述)という観点から、本発明においては、成分(C)が、粒径5nm~100nmの粒子を、より好ましくは粒径10nm~50nmの粒子を、成分(C)の総重量に対して5~23重量%含むことが好ましく、8~19重量%含むことがより好ましい。この場合、成分(C)中の粒径5nm~100nmの粒子以外の粒子についての、成分(C)中の含有量以外の特性は、特に限定されない。
成分(C)を構成する粒子の粒度分布は、成分(C)の試料について撮影された顕微鏡写真(例えば電子顕微鏡写真)を、画像処理ソフトウェアを用いて解析し、顕微鏡写真中の粒子の全て又は一部のサイズを数値化及び統計処理することにより得ることができる。ここで、成分(C)が2種以上のフィラーを含む場合、成分(C)を構成する粒子の粒度分布とは、それらのフィラー全ての混合物としての成分(C)を構成する粒子の粒度分布である。
なお、成分(C)中の粒径5nm~100nmの粒子は、表面処理されていることが好ましい。
【0046】
本発明のLCM材は、成分(C)を、LCM材の総重量に対して65~90重量%含むことが好ましく、68~88重量%含むことがより好ましく、70~85重量%含むことが特に好ましい。
【0047】
本発明のLCM材は、0.8~4.0のチキソトロピックインデックス(TI)を有する。TIは、好ましくは0.8~2.0である。本発明において、LCM材のTIは、下記式:
TI=η1/η10
(式中、
η1は、回転式粘度計を用いて、温度25℃及び回転数1rpmの条件下で測定した、LCM材の粘度であり、
η10は、回転数が10rpmである以外はη1と同じ条件下で測定した、LCM材の粘度である)
で表される。
【0048】
先に述べたように、従来のLCM材を圧縮成形による封止処理に付すと、金型の合わせ目からの漏出が発生する場合がある。このことは、従来のLCM材が有するレオロジー特性が、このような封止処理に適していないことを意味する。
本発明者らは種々検討の結果、0.8~4.0のTIを有する特定のエポキシ樹脂組成物が、圧縮成形による封止処理に適したレオロジー特性を示し、LCM材として有用であることを見出した。
LCM材のTIが0.8未満であると、圧縮成形時にLCM材が金型から漏出する。一方、LCM材のTIが4.0超であると、LCM材の適用手段からの吐出が困難になる。
【0049】
圧縮成形による封止処理において、LCM材が被封止体に適用されてから、LCM材に応力が負荷されるまでには一定の時間を要する。この間に、適用されたLCM材はある程度、被封止体上を自然に拡がる。LCM材のTIが0.8未満であると、LCM材は金型内面に近い位置まで拡がる。このため、負荷された応力によってLCM材が延伸されると、延伸されたLCM材はごくわずかな時間で金型内面に達し、金型の形状によっては、金型が完全に閉じないうちにLCM材が金型からあふれてしまう。
【0050】
一方、LCM材のTIが上記範囲内にあると、被封止体に適用されてから応力が負荷されるまでの間に、LCM材は、金型内面から比較的離れた位置までしか、被封止体上を自然に拡がらない。このため、負荷された応力によって延伸されたこのようなLCM材が金型内面に達するまでに要する時間は、TIが0.8未満であるLCM材についてのその時間に比して長い。その結果、延伸されたLCM材は、金型が完全に閉じてから金型内面に達し、金型からのLCM材の漏出が回避される。
以上のことは、本発明者らによって初めて見出されたことである。
【0051】
なお、上記のTIの定義によれば、LCM材のTIが1以下であるとき、相対的に高い剪断応力下におけるLCM材の粘度は、相対的に低い剪断応力下におけるそのLCM材の粘度と同じであるか、又は後者の粘度よりも高い。しかし、LCM材の粘度は測定条件によって変動するので、現実の圧縮成形条件下におけるLCM材の挙動が、上記の定義によるTIから予測される挙動と整合しない場合がある。
【0052】
LCM材のこのような適切なレオロジー特性、すなわち適切なTIを達成するための手段の例としては、成分(C)の粒度分布を適宜調節し、例えば上記の如く、粒径5nm~100nmという微小な粒子を含む(例えば、成分(C)の総重量に対して5~23重量%)粒度分布にすることを挙げることができる。この手段は、成分(C)がシリカを含む場合、特に有用である。これは、シリカがレオロジー調整剤としても機能することに起因する。
【0053】
半導体用の封止剤として用いられる、上記のような微小な粒子を含むフィラーを用いて調製されるエポキシ樹脂組成物は、例えば特許文献2に開示されている。しかし、このエポキシ樹脂組成物はアンダーフィル剤としての使用が意図されており、アンダーフィル剤は、LCM材に比して高い流動性(例えば、後述の「120℃における粘度」として評価される)を有することが必要である。このため、このエポキシ樹脂組成物では、フィラー中の微小な粒子の含有量をある程度以上高くする(例えば、フィラーの総重量に対して20重量%超)ことは好ましくない。
【0054】
なお、本発明のLCM材においては、25℃における粘度が10~1000Pa・sであることが好ましく、30~900Pa・sであることがより好ましく、50~800Pa・sであることがさらに好ましい。本発明において、LCM材の25℃における粘度は、上記η10の測定と同様にして測定される。
【0055】
また、本発明のLCM材においては、120℃における粘度が0.3~6.0Pa・sであることが好ましく、0.5~5.5Pa・sであることがより好ましく、0.8~5.1Pa・sであることがさらに好ましい。本発明において、120℃における粘度とは、レオメーターを用いて、せん断歪みが一定に制御された条件下で、周波数10Hzの振動を120℃で1分間与えた後に、120℃で測定した粘度(単位:Pa・s)を意味する。これに対し、アンダーフィル剤においては通常、120℃における粘度は0.3Pa・s未満である。
【0056】
本発明のLCM材は、所望であれば、必須成分である上記成分(A)~(C)に加え、任意成分、例えば以下に述べるものを必要に応じて含有してもよい。
【0057】
・硬化促進剤
本発明のLCM材は、所望であれば、硬化促進剤を含んでいてもよい。本発明において用いる硬化促進剤は、硬化剤(前記成分(B))によるエポキシ樹脂(前記成分(A))の硬化を促進することができる化合物であれば特に限定されず、公知のものを使用することができる。硬化促進剤の例としては、例えば、アミン化合物、リン化合物及び有機金属化合物等の塩基性の化合物が挙げられる。
上記アミン化合物の例としては、2,4,6-トリス(ジメチルアミノメチル)フェノール、ジエチルアミン、トリエチルアミン、ジエチレンテトラミン、トリエチレンテトラミン及び4,4-ジメチルアミノピリジン等も挙げられる。アミン化合物はアミンアダクトであってよい。
【0058】
上記リン化合物としては、トリブチルホスフィン等のトリアルキルホスフィン化合物、トリフェニルホスフィン等のトリアリールホスフィン化合物が挙げられる。
【0059】
上記有機金属化合物としては、ナフテン酸亜鉛、ナフテン酸コバルト、オクチル酸スズ、オクチル酸コバルト、ビスアセチルアセトナートコバルト(II)及びトリスアセチルアセトナートコバルト(III)等が挙げられる。
【0060】
本発明のLCM材が硬化促進剤を含む場合、硬化促進剤の量は、成分(A)~(C)の合計量100重量部に対して1~100重量部であることが好ましく、5~50重量部であることがより好ましい。
【0061】
・顔料
本発明のLCM材は、所望であれば、顔料を含んでいてもよい。顔料を含むことで、本発明のLCM材の色度を調整することができる。また、電子部品内の配線が光の影響を受ける可能性を考慮すると、顔料の使用は重要である。顔料としては、特に限定されないが、例えば、カーボンブラック、チタン窒化物等のチタンブラック、黒色有機顔料、混色有機顔料、及び無機顔料等を用いることができる。黒色有機顔料としては、ペリレンブラック、アニリンブラック等が、混色有機顔料としては、赤、青、緑、紫、黄色、マゼンダ、シアン等から選ばれる少なくとも2種類以上の顔料を混合して疑似黒色化されたものが、無機顔料としては、グラファイト、ならびに金属及びその酸化物(複合酸化物を含む)、硫化物、窒化物等の微粒子が挙げられる。この金属としては、チタン、銅、鉄、マンガン、コバルト、クロム、ニッケル、亜鉛、カルシウム、銀等が挙げられる。本発明のLCM材において、顔料は、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。また顔料は、染料などの他の着色剤と組み合わせて用いてもよい。
【0062】
耐熱性の観点から、顔料は、好ましくはカーボンブラックである。
【0063】
・安定剤
本発明のLCM材は、所望であれば、安定剤を含んでいてもよい。安定剤は、本発明のLCM材に、その貯蔵安定性を向上させ、ポットライフを長くするために含まれていてもよい。エポキシ樹脂を主剤とする一液型接着剤の安定剤として公知の種々の安定剤を使用することができるが、貯蔵安定性を向上させる効果の高さから、液状ホウ酸エステル化合物、アルミキレート及び有機酸からなる群から選択される少なくとも1つが好ましい。
【0064】
液状ホウ酸エステル化合物の例としては、2,2'-オキシビス(5,5'-ジメチル-1,3,2-オキサボリナン)、トリメチルボレート、トリエチルボレート、トリ-n-プロピルボレート、トリイソプロピルボレート、トリ-n-ブチルボレート、トリペンチルボレート、トリアリルボレート、トリヘキシルボレート、トリシクロヘキシルボレート、トリオクチルボレート、トリノニルボレート、トリデシルボレート、トリドデシルボレート、トリヘキサデシルボレート、トリオクタデシルボレート、トリス(2-エチルヘキシロキシ)ボラン、ビス(1,4,7,10-テトラオキサウンデシル)(1,4,7,10,13-ペンタオキサテトラデシル)(1,4,7-トリオキサウンデシル)ボラン、トリベンジルボレート、トリフェニルボレート、トリ-o-トリルボレート、トリ-m-トリルボレート、トリエタノールアミンボレート等が挙げられる。液状ホウ酸エステル化合物は常温(25℃)で液状であるため、LCM材の粘度を低く抑えられるので好ましい。アルミキレートとしては、例えばアルミキレートAを用いることができる。有機酸としては、例えばバルビツール酸を用いることができる。
【0065】
本発明のLCM材が安定剤を含む場合、安定剤の量は、成分(A)100重量部に対して、0.01~30重量部であることが好ましく、0.05~25重量部であることがより好ましく、0.1~20重量部であることが更に好ましい。
【0066】
・シリコーン系添加剤
本発明のLCM材は、所望であれば、シリコーン系添加剤を含んでいてもよい。シリコーン系添加剤が含まれることは、LCM材の流動性向上の観点から好ましい。シリコーン系添加剤は、ジアルキルポリシロキサン(Siに結合するアルキル基としては、メチル、エチル等が挙げられる)、特にジメチルポリシロキサンであることが好ましい。またシリコーン系添加剤は、変性ジアルキルポリシロキサン、例えばエポキシ変性ジメチルポリシロキサンであってもよい。シリコーン系添加剤の具体的な例としては、KF69(ジメチルシリコーンオイル、信越シリコーン製)、SF8421(エポキシ変性シリコーンオイル、東レダウシリコーン製)等が挙げられる。シリコーン系添加剤は、単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0067】
本発明のLCM材がシリコーン系添加剤を含む場合、シリコーン系添加剤の量は、成分(A)100重量部に対して0.1~1.0重量部であることが好ましく、0.25~1重量部であることがより好ましい。
【0068】
・カップリング剤
本発明のLCM材は、所望であれば、カップリング剤を含んでいてもよい。カップリング剤、特にシランカップリング剤が含まれることは、接着強度向上の観点から好ましい。カップリング剤としては、エポキシ系、アミノ系、ビニル系、メタクリル系、アクリル系、メルカプト系等の各種シランカップリング剤を用いることができる。シランカップリング剤の具体的な例としては、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、3-トリエトキシシリル-N-(1,3-ジメチル-ブチリデン)プロピルアミン、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、p-スチリルトリメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルメチルトリメトキシシラン、3-アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、8-グリシドキシオクチルトリメトキシシラン、3-ウレイドプロピルトリエトキシシラン、3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、ビス(トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、3-イソシアネートプロピルトリエトキシシラン等が挙げられる。これらのシランカップリング剤は、単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0069】
本発明のLCM材がカップリング剤を含む場合、カップリング剤の量は、成分(A)100重量部に対して0.01~5重量部であることが好ましく、0.1~5重量部であることがより好ましい。
【0070】
・マイグレーション抑制剤
本発明のLCM材は、所望であれば、マイグレーション抑制剤を含んでいてもよい。マイグレーションとは、配線パターンの金属が、電気化学反応によって溶出し、抵抗値低下が生じる現象である。マイグレーション抑制剤が含まれることは、電子部品における信頼性向上の観点から好ましい。マイグレーション抑制剤の具体的な例としては、カフェイン、テオフィリン、テオブロミン、パラキサンチン等のキサンチン類;5,7,8-トリメチルトコール(α-トコフェロール)、5,8-ジメチルトコール(β-トコフェロール)、7,8-ジメチルトコール(γ-トコフェロール)、8-メチルトコール(δ-トコフェロール)等のトコール類;5,7,8-トリメチルトコトリエノール(α-トコトリエノール)、5,8-ジメチルトコトリエノール(β-トコトリエノール)、7,8-ジメチルトコトリエノール(γ-トコトリエノール)、8-メチルトコトリエノール(δ-トコトリエノール)等のトコトリエノール類;ベンゾトリアゾール、1H-ベンゾトリアゾール-1-メタノール、アルキルベンゾトリアゾール類等のベンゾトリアゾール類;2,4-ジアミノ-6-ビニル-S-トリアジン、2,4-ジアミノ-6-[2’-エチル-4-メチルイミダゾール-(1)]-エチル-S-トリアジン、2,4-ジアミノ-6-メタクリロイルオキシエチル-S-トリアジン等のトリアジン類;上記ベンゾトリアゾール類又はトリアジン類のイソシアヌル酸付加物等が挙げられる。これらのマイグレーション抑制剤は、単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0071】
本発明のLCM材がマイグレーション抑制剤を含む場合、マイグレーション抑制剤の量は、成分(A)100重量部に対して0.01~5重量部であることが好ましく、0.1~5重量部であることがより好ましい。
【0072】
・その他の添加剤
本発明のLCM材は、所望であれば、本発明の趣旨を損なわない範囲で、その他の添加剤、例えばイオントラップ剤、レベリング剤、酸化防止剤、消泡剤、揺変剤、粘度調整剤、難燃剤、溶剤等を含んでいてもよい。各添加剤の種類、量は常法通りである。
【0073】
本発明の液状コンプレッションモールド(LCM)材を製造する方法は、特に限定されない。例えば、成分(A)~(C)及び所望であればその他の添加剤を、適切な混合機に同時に、又は別々に導入して、必要であれば加熱により溶融しながら撹拌して混合し、均一な組成物とすることにより、本発明のLCM材を得ることができる。この混合機は特に限定されないが、撹拌装置及び加熱装置を備えたライカイ機、ヘンシェルミキサー、3本ロールミル、ボールミル、プラネタリーミキサー、ビーズミル等を使用することができる。また、これらの装置を適宜組み合わせて使用してもよい。
【0074】
本発明のLCM材において、成分(C)が粒径5nm~100nmの粒子を含む(例えば、成分(C)の総重量に対して5~23重量%)場合、好ましくは、本発明のLCM材を、成分(C)における上記粒径5nm~100nmの粒子の少なくとも一部を、成分(A)の少なくとも一部とあらかじめ混合する工程を含む方法によって得る。
本発明のLCM材は、好ましくは、上記の方法によって得ることができる。
【0075】
このようにして得られた液状コンプレッションモールド材は熱硬化性であり、温度100~170℃の条件下では、0.1~3時間で硬化することが好ましく、0.25~2時間で硬化することがより好ましい。
【0076】
本発明の液状コンプレッションモールド材は、電子部品、特に、圧縮成形による封止を伴う半導体素子の製造に適している。より具体的には、本発明の液状コンプレッションモールド材は、ウェハーレベルチップサイズパッケージによって、パッケージが小型化された半導体素子を製造する際の、回路の形成が完了した、チップに切り分けられていないウェハーの封止処理に特に有用である。
【0077】
また本発明においては、本発明のLCM材を硬化させることにより得られる硬化物も提供される。本発明においてはさらに、本発明の硬化物を含む電子部品も提供される。
【実施例】
【0078】
以下、本発明について、実施例により説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお以下の記載において、部、%は、断りのない限り重量部、重量%を示す。
【0079】
実施例1~17、比較例1~5
表1に示す配合に従って、3本ロールミルを用いて所定の量の各成分を混合することにより、液状コンプレッションモールド(LCM)材を調製した。表1において、各成分の量は重量(単位:g)で表されている。
【0080】
・エポキシ樹脂(成分(A))
実施例及び比較例において、成分(A)として用いた化合物は、以下の通りである。
(A-1):ポリテトラメチレングリコールのジグリシジルエーテル(数平均分子量700~1000)(商品名:エポゴーセーPT(一般グレード)、四日市合成株式会社製)
(A-2):アミノフェノール型エポキシ樹脂(商品名:630、三菱ケミカル株式会社製)
【0081】
・硬化剤(成分(B))
実施例及び比較例において、成分(B)として用いた化合物は、以下の通りである。
(B-1):イミダゾール化合物(商品名:キュアゾール2P4MZ、四国化成工業株式会社製)
(B-2):イミダゾール化合物(商品名:キュアゾール2MZ-A、四国化成工業株式会社製)
(B-3):イミダゾール化合物(商品名:キュアゾール2P4MHZ-PW、四国化成工業株式会社製)
(B-4):液状フェノールノボラック樹脂(商品名:MEH-8005、明和化成株式会社製)
(B-5):アミン化合物(商品名:カヤハードA-A、日本化薬株式会社)
(B-6):酸無水物(商品名:HN-5500、日立化成株式会社)
【0082】
・フィラー(成分(C))
実施例及び比較例において、成分(C)として用いた化合物は、以下の通りである。これらの化合物を、平均粒径が0.1μm(100nm)超であるものと、平均粒径が0.1μm(100nm)以下であるものの2群に分けて示す。
【0083】
<平均粒径が0.1μm(100nm)超であるフィラー>
(C-1):シリカフィラー(商品名:SO-E2、株式会社アドマテックス製、平均粒径:0.6μm)
(C-2):シリカフィラー(商品名:SO-E5、株式会社アドマテックス製、平均粒径:1.5μm)
(C-3):シリカフィラー(商品名:SO-E6、株式会社アドマテックス製、平均粒径:2μm)
【0084】
<平均粒径が0.1μm(100nm)以下であるフィラー>
(C-4):シリカフィラー(商品名:アエロジル(登録商標)R805、東新化成株式会社製、平均粒径:7nm、オクチルシランで表面処理されている)
(C-5):シリカフィラー(商品名:YA010C、株式会社アドマテックス製、平均粒径:10nm、表面処理されている)
(C-6):シリカフィラー(商品名:YA050C、株式会社アドマテックス製、平均粒径:50nm、表面処理されている)
(C-7):シリカフィラー(商品名:YC100C、株式会社アドマテックス製、平均粒径:100nm、表面処理されている)
【0085】
実施例及び比較例においては、LCM材の特性を以下のようにして測定した。
【0086】
(LCM材の25℃における粘度)
Brookfield社製のHB型回転粘度計(スピンドルSC4-14使用)を用いて、製造したLCM材について25℃、10回転/分の条件で粘度(単位:Pa・s)を測定した。結果を表1に示す。
【0087】
(LCM材の120℃における粘度)
HAAKE社製のMARSレオメーターを用いて、製造したLCM材について、オシレーション歪制御モードで、周波数10Hzの振動を120℃で1分間与えた後の粘度(単位:Pa・s)を、120℃で測定した。結果を表1に示す。
【0088】
(LCM材のチキソトロピックインデックス(TI))
回転速度が1回転/分である以外は、上記「LCM材の25℃における粘度」と同じ条件で、製造したLCM材について粘度(単位:Pa・s)を測定した。この粘度を、上記「LCM材の25℃における粘度」で除した値として、当該LCM材のチキソトロピックインデックス(TI)を算出した。結果を表1に示す。
【0089】
(LCM材の成形性の評価)
直径292mm、厚さ400μmの円盤の体積に相当する量の製造したLCM材を、シリコンウェハー(直径300mm、厚さ780μmの円盤状)に塗布した。このシリコンウェハーを、コンプレッションモールド装置WCM300(アピックヤマダ製)に装着された金型内に入れ、温度120℃、圧力350kNの条件下で圧縮成形(封止処理)に付した。
この圧縮成形中の金型からのLCM材の漏出の有無を、目視にて監視した。漏出が起こった場合、LCM材の成形性を×と評価し、漏出が起こらなかった場合、LCM材の成形性を〇と評価した。上記方法による成形性の評価が不可能であった場合も、LCM材の成形性を×と評価した。
【0090】
(LCM材の流動性の評価)
製造したLCM材40gを、内径10mmのノズルを取り付けたディスペンス装置ML-5000XII(武蔵エンジニアリング製)に装填し、吐出圧0.2MPaで同装置から吐出した。
装填したLCM材が5分以内に全て吐出された場合、LCM材の流動性を〇と評価し、装填したLCM材が全て吐出されるまでに5分超を要した場合、LCM材の流動性を×と評価した。また、上記方法による流動性の評価が不可能であった場合も、LCM材の流動性を×と評価した。
【0091】
【0092】
表1より明らかなように、LCM材のチキソトロピックインデックス(TI)が0.8~4.0である実施例1~17のいずれにおいても、LCM材は、ディスペンス装置から容易に吐出することができる程度の適切な流動性を示すと共に、良好な成形性を有し、シリコンウェハーと共に圧縮成形に付した際の、金型からのLCM材の漏出は認められなかった。
これに対し、LCM材のTIが0.8未満である比較例1、3及び5ではいずれも、成形性が不十分であり、LCM材をシリコンウェハーと共に圧縮成形に付すと、金型からのLCM材の漏出が認められた。また、比較例2及び4ではいずれも、LCM材がほぼ固体状であり、粘度測定や、成形性及び流動性の評価が不可能であった。
【産業上の利用可能性】
【0093】
本発明のLCM材は、適切なレオロジー特性を有する。このため、本発明のLCM材を圧縮成形に付しても、金型からの漏出が起こらず、圧縮成形による半導体素子の封止を容易かつ効率的に行うことができる。したがって、本発明のLCM材は、圧縮成形による封止を伴う半導体素子の製造、特に、ウェハーレベルチップサイズパッケージによる、パッケージが小型化された半導体素子の製造において有用である。
【符号の説明】
【0094】
1 液状コンプレッションモールド(LCM)材
2 シリコンウェハー
3 上金型
4 下金型