(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-06-09
(45)【発行日】2025-06-17
(54)【発明の名称】光学フィルタ、光学素子および撮像装置
(51)【国際特許分類】
G02B 5/28 20060101AFI20250610BHJP
G02B 1/11 20150101ALI20250610BHJP
G02B 5/00 20060101ALI20250610BHJP
G02B 5/22 20060101ALI20250610BHJP
G02B 5/26 20060101ALI20250610BHJP
G03B 11/00 20210101ALI20250610BHJP
【FI】
G02B5/28
G02B1/11
G02B5/00 A
G02B5/22
G02B5/26
G03B11/00
(21)【出願番号】P 2021003913
(22)【出願日】2021-01-14
【審査請求日】2023-12-11
(31)【優先権主張番号】P 2020068782
(32)【優先日】2020-04-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110412
【氏名又は名称】藤元 亮輔
(74)【代理人】
【識別番号】100104628
【氏名又は名称】水本 敦也
(74)【代理人】
【識別番号】100121614
【氏名又は名称】平山 倫也
(72)【発明者】
【氏名】内田 和枝
(72)【発明者】
【氏名】石橋 友彦
【審査官】横川 美穂
(56)【参考文献】
【文献】特開平09-071440(JP,A)
【文献】実開平01-097313(JP,U)
【文献】特開2016-038494(JP,A)
【文献】特開平07-186831(JP,A)
【文献】特開2007-334150(JP,A)
【文献】特開2009-083183(JP,A)
【文献】特開2004-126264(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2010/0289995(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 5/20-5/28
G02B 1/11
G02B 5/00
G03B 11/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に設けられる光学フィルタであって、
前記基板の側から順に隣接して配置された
、増反射層としての第1の層、
光吸収性を有する吸収層、および
反射防止層としての第2の層
により構成され、
前記第1および第2の層のそれぞれは、波長550nmにおける消衰係数が0.02以下である材料で構成され、
波長550nmの光が前記基板とは反対側から入射したときの反射率をR1[%]、波長550nmの光が前記基板の側から入射したときの反射率をR2[%]とするとき、
R2-R1≧10
なる条件を満足することを特徴とする光学フィルタ。
【請求項2】
0≦R1/R2≦0.5
なる条件を満足することを特徴とする請求項1に記載の光学フィルタ。
【請求項3】
前記吸収層を構成する膜の数をm、該膜のうち前記基板の側からj番目の膜の消衰係数をkj、物理膜厚をdj[nm]とするとき、
【数1】
なる条件を満足することを特徴とする請求項1
または2に記載の光学フィルタ。
【請求項4】
前記j番目の膜の屈折率をnjとするとき、
1.8≦nj≦4.2
なる条件を満足することを特徴とする請求項
3に記載の光学フィルタ。
【請求項5】
0.05≦kj
なる条件を満足することを特徴とする請求項
3または
4に記載の光学フィルタ。
【請求項6】
前記第1の層を構成する膜の数は、前記第2の層を構成する膜の数よりも多いことを特徴とする請求項1から
5のいずれか一項に記載の光学フィルタ。
【請求項7】
前記第2の層における前記吸収層から最も離れた膜の屈折率と、前記吸収層とは反対側において該膜に隣接する媒質の屈折率との差をdnとするとき、
0≦dn≦0.40
なる条件を満足することを特徴とする請求項1から
6のいずれか一項に記載の光学フィルタ。
【請求項8】
請求項1から
7のいずれか一項に記載の光学フィルタと、
前記基板とを有することを特徴とする光学素子。
【請求項9】
前記第2の層に接合される光学要素を有することを特徴とする請求項
8に記載の光学素子。
【請求項10】
前記第2の層と前記光学要素とは接合部材を介して互いに接合されおり、
前記基板、前記光学要素および前記接合部材の波長550nmにおける屈折率をそれぞれns、neおよびnaとするとき、
|ns-na|≦|ne-na|
なる条件を満足することを特徴とする請求項
9に記載の光学素子。
【請求項11】
前記基板の厚さは0.2mm以上、8.0mm以下であることを特徴とする請求項
8から1
0のいずれか一項に記載の光学素子。
【請求項12】
前記基板は、前記光学フィルタの側へ向かって凸形状であることを特徴とする請求項
8から1
1のいずれか一項に記載の光学素子。
【請求項13】
請求項1から
7のいずれか一項に記載の光学フィルタと、
該光学フィルタを通して被写体を撮像する撮像素子とを有することを特徴とする撮像装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、入射した光の一部を反射し、他の一部を透過させる光学フィルタに関する。
【背景技術】
【0002】
上記のような光学フィルタとしては、いわゆるハーフミラーが用いられている。特許文献1には、内部の部材を前側から被覆する前カバーとしてのハーフミラーが設けられた撮影装置が開示されている。被写体はハーフミラーにて反射した自身の像を見ることで、表情やポーズを確認しながら撮像を行うことができる。
【0003】
さらにハーフミラーは、監視カメラを覆って該カメラの存在や向きが外部から見えないようにするカバーとしても用いられており、曲率を有するハーフミラーカバーはそれ自体が監視用ミラーとして機能する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一般に、ハーフミラーは、その表面側から入射する光と裏面側から入射する光に対する反射率(透過率)が互いにほぼ同じである。このため、監視カメラ用のハーフミラーカバーにおいて被写体側から入射する光に対する反射率が高いと、カメラ側から入射する光に対する反射率も高くなる。このため、被写体側からカメラ内に入射して該カメラで反射した光がハーフミラーカバーで反射し、この反射光が再びカメラ内に入射することでゴーストやフレアの原因となる。
【0006】
本発明は、光の入射方向によって反射率が異なる光学フィルタを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一側面としての光学フィルタは、基板の側から順に隣接して配置された、増反射層としての第1の層、光吸収性を有する吸収層、および反射防止層としての第2の層により構成され、第1および第2の層のそれぞれは、波長550nmにおける消衰係数が0.02以下である材料で構成される。波長550nmの光が基板とは反対側から入射したときの反射率をR1[%]、基板側から入射したときの反射率をR2[%]とするとき、
R2-R1≧10
なる条件を満足することを特徴とする。なお、上記光学フィルタを有する光学素子や、該光学素子を用いた撮像装置も、本発明の他の一側面を構成する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、光の入射方向によって反射率が異なり、一方からの入射光に対して反射膜として機能し、他方からの入射光に対して反射防止膜として機能する光学フィルタを実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の実施例である光学フィルタが設けられた光学素子の断面図。
【
図2】上記光学フィルタの反射/透過特性を説明するための断面図。
【
図3】上記光学フィルタの反射率特性と透過率特性を示す図。
【
図4】実施例1~5の光学フィルタに使用される材料の屈折率および消衰係数を示す図。
【
図5】実施例1~5の光学フィルタの反射率特性と透過率特性を示す図。
【
図6】実施例6~10の光学フィルタに使用される吸収材料K2およびK3の屈折率と消衰係数を示す図。
【
図7】実施例6~10の光学フィルタの反射率特性と透過率特性を示す図。
【
図8】実施例11~17の光学フィルタに使用される材料の屈折率および消衰係数を示す図。
【
図9】実施例11~17の光学フィルタの反射率特性と透過率特性を示す図。
【
図10】実施例18~23の光学フィルタに使用される材料の屈折率と消衰係数を示す図。
【
図11】実施例18の光学フィルタの反射率特性と透過率特性を示す図。
【
図12】実施例19の光学フィルタの反射率特性と透過率特性を示す図。
【
図13】実施例20の光学フィルタの反射率特性と透過率特性を示す図。
【
図14】実施例21の光学フィルタの反射率特性と透過率特性を示す図。
【
図15】実施例22の光学フィルタの反射率特性と透過率特性を示す図。
【
図16】実施例23の光学フィルタの反射率特性と透過率特性を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施例について図面を参照しながら説明する。
図1は、本発明の実施例である光学素子100を示している。光学素子100は、透光性材料により形成された基板01と、光学フィルタ10とにより構成されている。光学フィルタ10は、基板01側から空気05側に順に積層された反射防止層02、吸収層03および反射層(増反射層または反射増加層)04により構成されている。増反射層04は、空気05(屈折率1)と接している。基板01の屈折率は、空気05の屈折率よりも大きい。
【0011】
反射防止層02と増反射層04はそれぞれ、1層以上の薄膜により構成されている。なお、反射防止層02と増反射層04の層数は、屈折率の調整、使用帯域の拡大、入射角度依存性の低減および偏光依存性の低減のために適宜選択することができる。また、吸収層03は、1層以上の光吸収性を有する材料により構成されている。
【0012】
図2は、
図1に示した反射防止層02と増反射層04が設けられていない光学素子100′を示している。基板01上に設けられた吸収層03は、空気05(屈折率1)に接している。
【0013】
図3は、入射光が波長λ=450、550、650nmであるときの光学素子100′における反射率と吸収層03の膜厚との関係および透過率と吸収層03の膜厚との関係を示している。吸収層03は、入射光の波長によらず、屈折率n=2.35、消衰係数k=0.05としている。
【0014】
図3中の反射率のグラフから分かるように、膜厚によらず、空気05側から入射した場合の反射率は、基板01側から入射した場合の反射率よりも大きい。また入射光の波長に応じて反射率が異なる。一方、
図3中の透過率のグラフから分かるように、透過率は光の入射方向によらず等しい。さらに吸収層03の膜厚が厚くなるほど透過率が低下する。
【0015】
以上のことから、光吸収性を有する材料を使用すれば、光が空気05側から入射した場合と基板01側から入射した場合とで反射率が異なる光学フィルタを作製することができる。しかし、光学素子100′のような膜構成では、反射率が入射光の波長によって異なり、しかも反射防止効果が小さい。このため、本実施例では、
図1に示した光学素子100(光学フィルタ10)のように、吸収層03と基板01との間に第1の層である反射防止層02を配置し、吸収層03と空気05との間に第2の層である増反射層04を配置する。反射防止層02は、主に基板01側からの入射光に対して反射防止膜としての機能を有し、増反射層04は、主に空気05側からの入射光に対する反射膜としての機能を有する。
【0016】
本実施例の光学フィルタ10は、可視光領域である波長420~680nmの光に対して使用する。光学フィルタ10において、波長550nmの光が基板01側から入射したときの反射率(以下、基板側反射率という)をR2[%]、基板01とは反対側から入射したときの反射率(以下、空気側反射率または接合部材側反射率という)をR1[%]とする。このとき、
|R1-R2|≧10[%] (1)
なる関係を満足することが望ましい。本実施例の光学フィルタ10は、一般的なハーフミラーとは異なり、光の入射方向によって反射率が異なる。これにより、光学フィルタ10は、一方側からの入射光に対して反射防止膜として機能し、他方側からの入射光に対して反射膜として機能する。
【0017】
なお、式(1)の数値範囲としては、以下の式(1)′から式(1)″に順に設定することがより好ましい。
80≧|R1-R2|≧15[%] (1)′
60≧|R1-R2|≧18[%] (1)″
光学フィルタ10は、基板01側から順に積層された第1の層である反射防止層02、吸収層03、第2の層である増反射層04を含む。吸収層03がm(複数)の膜で構成されている場合において、該m膜のうち基板01側からj番目の膜(以下、吸収j膜という)の消衰係数をkj、物理膜厚をdjとするとき、
【0018】
【0019】
なる条件を満足することが望ましい。kj×djは吸収層03の透過率を決定する係数である。kj×djの総和が132より大きいと、透過率が極めて小さくなり、光学素子10を光を透過させる素子として利用できない。一方、kj×djの総和が8より小さいと、反射率R1とR2との差を大きくすることが難しくなる。
【0020】
また吸収j膜の屈折率njは、
1.8≦nj≦4.2 (3)
なる条件を満足することが望ましい。消衰係数を有する誘電体材料において、蒸着やスパッタリング等のドライ成膜方法によって容易に作製できる材料の屈折率はおおよそこの範囲に収まる。
【0021】
なお、
2.0≦nj≦3.6 (3)′
を満足することがより好ましい。
【0022】
さらに吸収j膜の消衰係数kjは、
0.05≦kj≦4.00 (4)
なる条件を満足することが望ましい。消衰係数が0.05未満であると、ドライ成膜装置内に導入する酸素量を高い精度で制御する必要があり、しかも酸素量は装置内部での成膜物質の付着量等にも依存するため、0.05未満の消衰係数で再現性よく成膜することが困難である。また消衰係数が4.0より大きいと、必要な特性を実現するための膜厚が非常に薄くなり、膜厚制御が困難となるため、好ましくない。
【0023】
なお、
0.10≦kj≦3.60 (4)′
を満足することがより好ましい。
【0024】
基板01の材料は、ガラスやプラスチック等であり、特に限定されない。また基板01の形状は、平板形状であってもよいし、凸形状や凹形状等でもよく、球面以外の曲面形状であってもよい。
【0025】
吸収層03を形成する方法としては、蒸着やスパッタリングなどのドライ成膜方法が望ましいが、めっき法やスピンコート等のウェット成膜方法を用いてもよい。また、吸収層03の材料は、上述した消衰係数kに関する条件(条件式(2)、(4))を満足すればよく、酸素欠損型のTiO2膜、Nb2O5膜、Ta2O5膜、ITO膜、Cr膜等が挙げられる。
【0026】
第1の層および第2の層を形成する方法としても、蒸着やスパッタリング等のドライ成膜方法が望ましいが、めっき法やスピンコート等のウェット成膜方法でもよい。第1の層及び第2の層を構成する膜材料は光吸収性がない材料で構成することが好ましい。これによれば、本実施例の光学フィルタで生じる光吸収を抑制でき、高い透過率を実現することが可能となる。第1の層及び第2の層を構成する膜材料の波長550nmにおける消衰係数としては、0.02以下であることが好ましく、より好ましくは0.01以下、さらに好ましくは0.005以下であればよい。
【0027】
また、反射率R1が反射率R2よりも大きい(R1-R2≧10[%]である)とき、
0≦R2/R1≦0.5 (5)
なる条件を満足することが望ましい。反射率R1及びR2は0以上の値を有するため、式(5)の下限を下回ることはない。式(5)の上限を上回る程に反射率R1が小さいと、光学フィルタ10の空気側反射光を利用して自身の像を確認することが困難となる。
【0028】
なお、
0≦R2/R1≦0.4 (5)′
を満足することがより好ましい。
【0029】
一方、反射率R2が反射率R1よりも大きい(R2-R1≧10[%]である)とき、
0≦R1/R2≦0.5 (6)
なる条件を満足することが望ましい。反射率R1及びR2は0以上の値を有するため、式(6)の下限を下回ることはない。式(6)の上限を上回る程に反射率R2が小さいと、光学フィルタ10の基板側反射光を利用して自身の像を確認することが困難となる。
【0030】
なお、
0≦R1/R2≦0.4 (6)′
を満足することがより好ましい。
【0031】
第2の層である増反射層04における吸収層03とは反対側の最表層と、最表層が接する媒質との屈折率差をdnとするとき、
dn≦0.50 (7)
なる条件を満足することが望ましい。式(7)の上限を上回る程に屈折率差dnが大きいと、界面で生じる反射を干渉作用を用いて十分に低減することが困難となる。
【0032】
なお、
dn≦0.40 (7)′
を満足することがより好ましい。
【0033】
第2の層は接合部材を介して光学要素と密着接合し、光学フィルタを雰囲気にさらされないよう接合界面に配置されていてもよい。第2の層が空気と接するときと比べて、光学フィルタの基板側および基板と反対側の最表層と、最表層と隣接する部材との屈折率差が小さくなるため、更なる反射防止効果を得ることができる。
【0034】
基板、光学要素および接合部材の波長550nmにおける屈折率をそれぞれns、ne、およびnaとするとき、
|ns-na|≦|ne-na| (8)
なる条件を満足することが望ましい。これを満足することで、光学フィルタの最表層と隣接する部材の屈折率差を小さく構成することができ、更なる反射防止効果を得ることができる。
【0035】
以下に具体的な実施例を示す。ただし、これらは例に過ぎず、本発明の実施例はこれら以外のものも含む。
【0036】
表1は、実施例1~5の光学フィルタの膜構成を示している。各実施例において、基板01の材料は、光吸収性がない硝材S1である。第1の層である反射防止層02の材料は、誘電体材料H1である。第2の層である増反射層04は、吸収層03側から順に誘電体材料M1、H1およびL1が積層された多層膜である。多層膜としての増反射層04の層数(2)は、反射防止層02の層数(1)より多い。誘電体材料M1、H1およびL1はいずれも光吸収性がない材料である。硝材S1と誘電体材料M1、H1およびL1の波長ごとの屈折率を
図4(a)に示す。
【0037】
吸収層03の材料は、光吸収性を有する吸収材料K1である。吸収材料K1の波長ごとの屈折率と消衰係数を
図4(b)に示す。吸収材料K1のλ=550nmでの消衰係数は0.34である。
【0038】
図5(a)~(d)は、実施例1~5の光学フィルタの波長ごとの空気側反射率、基板側反射率および透過率を示す。これらの図から分かるように、実施例1~5の光学フィルタのλ=550nmでの空気側反射率と基板側反射率との差は10%以上であり、条件式(1)(さらに(1)′)を満足する。
【0039】
また実施例1~5における吸収材料K1の膜厚は、表1に示すようにそれぞれ50nm、100nm、150nm、200nmおよび250nmであり、kj×djは条件式(2)を満足する。
【0040】
【0041】
表2は、実施例6~10の光学フィルタの膜構成を示している。これらの実施例においても、実施例1~5と同様に基板01の材料は硝材S1である。第1の層である反射防止層02は、基板01側から順に誘電体材料H1、M1およびH1が積層された多層膜である。第2の層である増反射層04は、吸収層03側から順に誘電体材料M1、H1、M1、H1およびM1が積層された多層膜である。多層膜としての増反射層04の層数(5)は、反射防止層02の層数(3)より多い。
【0042】
吸収層03は、反射防止層02側から順に吸収材料K3およびK2が積層された多層膜である。吸収材料K2およびK3の波長ごとの屈折率と消衰係数をそれぞれ、
図6(a)および(b)に示す。吸収材料K2のλ=550nmでの消衰係数は0.19であり、吸収
材料K3のλ=550nmでの消衰係数は0.26である。
【0043】
図7(a)~(d)は、実施例6~10の光学フィルタの波長ごとの空気側反射率、基板側反射率および透過率を示す。これらの図から分かるように、実施例6~10の光学フィルタのλ=550nmでの空気側反射率と基板側反射率との差は10%以上であり、条件式(1)(さらに(1)′)を満足する。
【0044】
また実施例6~10における吸収材料K2、K3の膜厚は、表2に示すようにそれぞれ50nm、100nm、150nm、200nmおよび250nmであり、kj×djは条件式(2)を満足する。
【0045】
【0046】
表3は、実施例11~17の光学フィルタの膜構成を示している。これらの実施例では、基板01の材料は光吸収性がない硝材S2である。第1の層である反射防止層02は、基板01側から順に誘電体材料H2、M2およびH2が積層された多層膜である。第2の層である増反射層04は、吸収層03側から順に誘電体材料M2、H2、M2、H2およびM2が積層された多層膜である。多層膜としての増反射層04の層数(5)は、反射防止層02の層数(3)より多い。誘電体材料M2およびH2はいずれも光吸収性がない材料である。硝材S2と誘電体材料M2およびH2の波長ごとの屈折率を
図8(a)に示す。
【0047】
吸収層03の材料は、光吸収性を有する吸収材料K4である。吸収材料K4の波長ごとの屈折率と消衰係数を
図8(b)に示す。吸収材料K4のλ=550nmでの消衰係数は0.20である。
【0048】
図9(a)~(
g)は、実施例11~17の光学フィルタの波長ごとの空気側反射率、基板側反射率および透過率を示す。これらの図から分かるように、実施例11~17の光学フィルタのλ=550nmでの空気側反射率と基板側反射率との差は10%以上であり、条件式(1)(さらに(1)′)を満足する。
【0049】
また実施例11~17における吸収材料K4の膜厚は、表3に示すようにそれぞれ50nm、100nm、150nm、200nm、250nm、300nmおよび600nmであり、kj×djは条件式(2)を満足する。
【0050】
【0051】
表4は、実施例18の光学フィルタの膜構成を示している。本実施例の光学フィルタは、硝材S2から成る基板側から順に積層された第1の層である増反射層、吸収層、第2の層である反射防止層で構成されている。本実施例の光学フィルタは、基板側から入射したときの反射率R2の方が、反射率R1よりも大きい特徴を有する。誘電体材料M3、H3およびL3はいずれも光吸収性がない材料であり、これらの波長ごとの屈折率を
図10(a)に示す。
【0052】
吸収層の材料は、光吸収性を有する吸収材料K5である。吸収材料K5の波長ごとの屈折率と消衰係数を
図10(b)に示す。吸収材料K5の波長550nmでの消衰係数は3.33である。
【0053】
図11は、実施例18の光学フィルタの波長ごとの空気側反射率、基板側反射率および透過率を示す。
図11から分かるように、実施例18の光学フィルタは条件式(1)を満足する。
【0054】
【0055】
表5は、実施例19の光学フィルタの膜構成を示している。本実施例の光学フィルタの構成は実施例18と同じである。
【0056】
吸収層の材料は、光吸収性を有する吸収材料K6である。吸収材料K6の波長ごとの屈折率と消衰係数を
図10(c)に示す。吸収材料K6の波長550nmでの消衰係数は1.24である。
【0057】
図12は、実施例19の光学フィルタの波長ごとの空気側反射率、基板側反射率および透過率を示す。
図12から分かるように、実施例19の光学フィルタは条件式(1)を満足する。
【0058】
【0059】
表6は、実施例20の光学フィルタの膜構成を示している。本実施例の光学フィルタの構成は実施例11~17と同じである。
【0060】
吸収層の材料は、光吸収性を有する吸収材料K6で、波長550nmでの消衰係数は1.24である。
【0061】
図13は、実施例20の光学フィルタの波長ごとの空気側反射率、基板側反射率および透過率を示す。
図13から分かるように、実施例20の光学フィルタは条件式(1)を満足する。
【0062】
【0063】
表7は、実施例21の光学フィルタの膜構成を示している。本実施例の光学フィルタの構成は実施例18と同じである。
【0064】
吸収層の材料は、光吸収性を有する吸収材料K7及びK8から成る。吸収材料K7及びK8の波長ごとの屈折率と2層の平均消衰係数を
図10(d)に示す。波長550nmでの2層の平均消衰係数は0.29である。
【0065】
図14は、実施例21の光学フィルタの波長ごとの空気側反射率、基板側反射率および透過率を示す。
図14から分かるように、実施例21の光学フィルタは条件式(1)を満足する。
【0066】
【0067】
表8は、実施例22の光学フィルタの膜構成を示している。本実施例の光学フィルタの構成は実施例18と同じである。
【0068】
吸収層の材料は、光吸収性を有する吸収材料K7及びK8から成り、波長550nmでの2層の平均消衰係数は0.29である。
【0069】
図15は、実施例22の光学フィルタの波長ごとの空気側反射率、基板側反射率および透過率を示す。
図15から分かるように、実施例22の光学フィルタは条件式(1)を満足する。
【0070】
【0071】
表9は、実施例23の光学フィルタの膜構成を示している。本実施例の光学フィルタは、硝材S2から成る基板側から順に積層された第1の層である増反射層、吸収層、第2の層である反射防止層、接合部材S3、光学要素S4で構成される。光学要素S4は、接合部材S3を介して第2の層と密着接合されており、接合界面に光学フィルタが配置された光学素子である。硝材S2、接合部材S3、光学要素S4の波長550nmにおける屈折率は条件式(8)を満足する。また、接合部材S3と光学要素S4との界面における反射を低減するために、接合部材S3と光学要素S4との界面に反射防止効果を有する層を設けてもよい。
【0072】
吸収層の材料は、光吸収性を有する吸収材料K6で、波長550nmでの消衰係数は1.24である。
【0073】
図16は、実施例23の光学フィルタの波長ごとの接合部材側反射率、基板側反射率および透過率を示す。
図16から分かるように、実施例23の光学フィルタは条件式(1)を満足する。
【0074】
【0075】
各実施例における種々の数値を表10にまとめて示す。透過率は波長550nmにおける値とする。
【0076】
【0077】
なお、実施例11~23においては、透過率に波長分散依存性が生じている。これにより生じる撮像画像のカラーバランスの補正は、必要に応じて
図17に示す撮像装置で行ってもよい。また、光学フィルタ10によるカラーバランスの変化を
図17に示す反射防止膜20の透過率波長特性により相殺するように構成してもよい。CIE1976L*a*b*色空間における色度座標をa*、b*とするとき、光学フィルタ10の透過光、及び反射防止膜20における色度座標a*、b*のいずれか一方は、互いに異なる符号になるよう構成すればよい。
【0078】
また実施例1~22では、空気側の表面層の材料がL1(屈折率1.38)、M1(屈折率1.45)、M2(屈折率1.47)またはL3(屈折率1.38)である場合を示したが、それらの表面にフッ素系の材料を含有する層を付加してもよい。フッ素系の材料としては、キヤノンオプトロン株式会社製のOF-SRやOF-210などを用いることができる。このような層を付加することで、レンズ表面の防汚性を高めることができる。
【0079】
図17は、上述した実施例1~23のいずれかの光学フィルタ10を有する光学素子100を使用した撮像の様子を示す。光学素子100は、被写体400と撮像光学系200との間に配置されている。撮像光学系200の像面にはCCDセンサやCMOSセンサ等の撮像素子300が配置されている。
【0080】
光学素子100において、基板01における被写体400側の面に光学フィルタ10が設けられており、撮像光学系200側の面には反射防止膜20が設けられている。反射防止膜20は、一般的な反射防止膜であればよく、膜構成や材料は限定されない。また、反射防止膜20がなく、基板01が雰囲気にさらされていてもよい。
【0081】
光学フィルタ10は被写体400から入射する光に対しては反射膜として機能するため、光学フィルタ10には被写体400の姿が映る。このため、被写体400または第三者は、被写体400の表情やポーズ等を確認しながら、撮像光学系200を通して撮像素子300により撮像を行うことができる。
【0082】
撮像光学系200や撮像素子300で反射した光は、反射防止膜20に入射する。反射防止膜20に入射した光の一部は該反射防止膜20を透過し、基板10を通って光学フィルタ10に入射する。この被写体400とは反対側から入射する光に対しては光学フィルタ10は反射防止膜として機能する。このため、被写体400とは反対側から入射して光学フィルタ10で反射して撮像素子300に戻る不要光を減少させ、ゴーストやフレアの発生を抑えることができる。
【0083】
また、撮影光学系200及び撮像素子300に代えて、画像表示素子を配置してもよい。この場合、被写体400側から光学フィルタ10に写る姿に、文字情報や撮影画像、合成画像等を重ね合わせて表示できるスマートミラーとして構成可能となる。画像表示素子を配置する場合、光学フィルタ10の被写体400とは反対側の反射率が高い場合には、フレア等が生じて明瞭な画像を認識することが困難となる。また、画像表示素子と正対せずに斜めに視認する場合、光学フィルタ10からの反射光により複数の鏡像がずれて視認されてしまう。実施例の光学フィルタ10によれば、反射光が抑制されているため、明瞭な画像を視認することが可能となる。
【0084】
なお、光学フィルタ10の基板01側および反対側の反射率の大小関係にあわせて、光学フィルタ10は基板01より被写体400側、または撮像光学系200側のどちらに配置してもよい。
【0085】
実施例の光学フィルタは、反射光により画像等を認識する装置に使用してもよい。これらの装置としては例えばHUD(Head Up Display)、HMD(Head Mounted Display)、プロンプタ等がある。反射光を視認するのとは反対側の反射を低減することで、フレア等の不要光を低減して反射光の視認性の向上が可能となる。また、同軸落射照明を用いた画像取得装置に使用してもよい。これによれば、実施例の光学フィルタにより照明光を良好に反射させつつ、画像取得装置側での反射を低減できるため、画像取得装置や周辺環境の映り込み、環境光によるフレア等を抑制することが可能となる。
【0086】
図18は、実施例の撮像装置としてのデジタルカメラ500を示している。デジタルカメラ500は、レンズ部501とカメラ本体部502とから構成されている。なお、レンズ部501は、カメラ本体部502と一体に構成されてもよいし、カメラ本体部502に対して着脱(交換)可能であってもよい。
【0087】
実施例1~23のいずれかの光学フィルタ10が不図示の基板における被写体側の面に設けられた光学素子503は、レンズ部501における被写体側の端部に配置される。これにより、被写体は、レンズ部501の前面に映った自身の姿を確認することができる。また、レンズ部501内やカメラ本体部502内での反射により生じた不要光は、光学フィルタ503に基板側から入射し、該光学フィルタ503の反射防止膜としての機能によってレンズ部501内やカメラ本体部502内には戻らない。このため、ゴーストやフレアの発生、すなわち撮像画像の劣化を抑えることができる。
【0088】
実施例1~23の光学フィルタ10が設けられる基板01の形状は、被写体が自身の姿を確認する観点からは、被写体側(光学フィルタの反射率が高い入射側)に向かって凸面となることが好ましい。これにより、被写体側から光学フィルタ10を見たときに写る姿が大きくなり、表情やポーズ等の確認が容易となる。また、基板01は、光学的なパワー(屈折力)がゼロないしごく小さい形状であることが好ましい。これにより、基板01で生じる収差を小さく抑えることができ、レンズ部501の結像性能への影響を抑制することが可能となる。
【0089】
デジタルカメラ500のレンズ部501の被写体端部に取り付けられることから、基板01の径は10mm~300mmであることが好ましい。特に、ポートレートなどを撮影するデジタルカメラの場合の径は50~150mmが好ましく、動画を撮像するビデオカメラの場合は、カメラレンズ自体の径が大きくなるため、100~300mmが好ましい。このとき、被写体とカメラ500との距離が0.5~5.0mの範囲で顔の表情や全身の様子を確認する観点からは、凸面の曲率半径は200mm~∞の間であることが好ましい。
【0090】
また、撮像画像を劣化させる収差を抑制する観点からは、基板01の厚さは0.2mm以上、8.0mm以下であることが好ましい。特に、レンズの被写体端部に取り付けるフィルタであることから、1.5mm以上5.0mm以下であることがより好ましい。
【0091】
図19は、実施例の撮影装置としての監視カメラ600を示している。監視カメラ600は、レンズを含むカメラ部601と、これを覆うドーム状の光学素子100としてのカバー素子602とにより構成されている。
【0092】
実施例1~23のいずれかの光学フィルタ10は、カバー素子602におけるドーム形状の基板の外面に設けられている。このため、カバー素子602の外面(光学フィルタ10)の反射率が高くなり、外界がカバー素子602の外面に映って外界からはカバー素子602の内側に配置されたカメラ部601の向きが分かりにくくなる。これにより、外界に位置する通行人等の監視対象の警戒心や緊張感を緩和することができる。
【0093】
さらに、カメラ部601からカバー素子602に入射した光に対しては光学フィルタ10によって反射が防止されるので、カバー素子602で反射した不要光により生じるゴーストやフレアによる監視画像の劣化を抑えることができる。
【0094】
以上説明した各実施例は代表的な例にすぎず、本発明の実施に際しては、各実施例に対して種々の変形や変更が可能である。
【符号の説明】
【0095】
01 基板
02 第1の層
03 吸収層
04 第2の層
05 空気
10 光学フィルタ
100 光学素子