(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-06-09
(45)【発行日】2025-06-17
(54)【発明の名称】通電部品、溶接トーチ、溶接システム、通電部品の設計方法及びコンタクトチップ
(51)【国際特許分類】
B23K 9/26 20060101AFI20250610BHJP
B23K 9/29 20060101ALI20250610BHJP
【FI】
B23K9/26 D
B23K9/29 E
(21)【出願番号】P 2022201382
(22)【出願日】2022-12-16
【審査請求日】2024-09-02
(73)【特許権者】
【識別番号】000001199
【氏名又は名称】株式会社神戸製鋼所
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】王 金江
(72)【発明者】
【氏名】小川 亮
(72)【発明者】
【氏名】中尾 哲也
【審査官】齋藤 健児
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-99969(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2009/0152255(US,A1)
【文献】特開平10-328836(JP,A)
【文献】特開昭61-182886(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 9/26
B23K 9/29
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶接ワイヤに給電し、アーク溶接を行うための溶接トーチが有する通電部品であって、
前記通電部品は、少なくとも、前記溶接ワイヤに給電を行うコンタクトチップと、前記溶接トーチ基端側のトーチ銃身と前記コンタクトチップとを接続するチップボディと、を備え、
前記チップボディは、第1の内径を有する偏心ガイド部と、前記偏心ガイド部に挿通された前記溶接ワイヤを径方向に偏心させるワイヤ押付部と、を有し、
前記コンタクトチップには、先端に形成された先端開口部から後端開口部まで軸方向に沿って形成され、前記溶接ワイヤをガイドするガイド孔が設けられ、
前記ガイド孔は、前記第1の内径よりも径が小さい第2の内径を有する、
通電部品。
【請求項2】
前記チップボディには、前記偏心ガイド部の基端側に、第3の内径を有する基端ガイド部が設けられ、
前記第3の内径は、前記第1の内径よりも径が小さく、前記第2の内径よりも径が大きい、
請求項1に記載の通電部品。
【請求項3】
前記ワイヤ押付部は、少なくとも、前記溶接ワイヤと接触する押当部材と、前記溶接ワイヤへ前記押当部材を押し当てるための弾性部材と、を有し、
前記押当部材を、球状部材とし、
前記弾性部材を、板バネ状部材とした、
請求項1に記載の通電部品。
【請求項4】
前記ワイヤ押付部では、
前記チップボディの周面に形成された径方向の貫通孔に、前記球状部材が収容され、
前記板バネ状部材は、前記貫通孔から突出する前記球状部材を押圧するように、前記チップボディの周面をクランプする、
請求項3に記載の通電部品。
【請求項5】
前記基端ガイド部は、前記チップボディの後部側に内挿されたコンジットチューブの内径により、前記第3の内径を有する、
請求項2に記載の通電部品。
【請求項6】
前記ワイヤ押付部に、前記チップボディの長手方向又は円周方向に対し、位置調整可能な調整機構を設けた、
請求項1~5の何れか1項に記載の通電部品。
【請求項7】
請求項1~5の何れか1項に記載の通電部品を備えた溶接トーチ。
【請求項8】
請求項7に記載の溶接トーチを備える溶接ロボットと、
溶接電源と、を備える、
溶接システム。
【請求項9】
請求項2に記載の通電部品の設計方法であって、
少なくとも、
前記基端ガイド部の先端位置と、前記ワイヤ押付部による前記溶接ワイヤの押付位置との間の第1曲げ区間と、
前記ワイヤ押付部による前記溶接ワイヤの押付位置と、前記ガイド孔の後端開口部との間の第2曲げ区間と、
前記ガイド孔の軸方向の長さである先端ガイド長と、
前記第1の内径と、
前記第2の内径と、
前記第3の内径と、
溶接に使用する前記溶接ワイヤに関する溶接ワイヤ情報と、
で構成される通電部品設計項目に基づいて、前記コンタクトチップの先端位置近傍と、前記溶接ワイヤとの間の接触力を算出する接触力算出工程と、
前記接触力算出工程で算出された接触力が、任意に予め設定した設計接触力となるように、前記通電部品設計項目の値を決定する、設計工程とを有する、
通電部品の設計方法。
【請求項10】
前記溶接ワイヤ情報は、前記溶接ワイヤの線径と、前記溶接ワイヤの機械的性能のうち、少なくとも1つを含む、
請求項9に記載の通電部品の設計方法。
【請求項11】
溶接ワイヤに給電し、アーク溶接を行うための溶接トーチに用いられるコンタクトチップであって、
前記コンタクトチップの内面は、
後端に配置されてチップボディの軸方向先端と接続する筒状の連結部と、
前記連結部から軸方向前側に向かって径が小さくなるテーパ部と、
前記テーパ部の先端と連通する後端開口部から前記コンタクトチップの先端に形成された先端開口部まで軸方向に沿って形成され、前記溶接ワイヤをガイドするガイド孔と、を有し、
前記ガイド孔を形成する第2の内径は、前記溶接ワイヤの線形より大きい一方で、前記チップボディの偏心ガイド部で前記溶接ワイヤが径方向に押圧される、押圧空間が有する第1の内径よりも小さく、
前記ガイド孔は、前記後端開口部と、前記先端開口部とで、前記溶接ワイヤに接触する、
コンタクトチップ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶接ワイヤに強制的に接触する機構を備えた通電部品と、通電部品を備えた溶接トーチと、通電部品を備えた溶接システムと、通電部品の設計方法と、コンタクトチップと、に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、コンタクトチップは、溶接ワイヤを溶接箇所に向けて案内するとともに、溶接ワイヤに給電する通電部品としても機能している。コンタクトチップを備えた溶接トーチは、コンタクトチップの先端側に形成された開口部から溶接箇所に向けて溶接ワイヤを繰り出すとともに、コンタクトチップに接触した溶接ワイヤに給電することによって、溶接箇所をアーク溶接することができる。
【0003】
コンタクトチップを介して、送給される溶接ワイヤは、スプール巻き、またはパック巻きの形態で使用されるため、一般的に曲げ癖がついている。この曲げ癖によって、溶接ワイヤはコンタクトチップ側に接触し、この接触位置が給電部となる。溶接ワイヤとコンタクトチップが接触する力は、曲げ癖に依存するため、溶接ワイヤの剛性、スプール巻きまたはパック巻きの形態などの条件によって変わる。例えば、パック巻きの形態で使用すると、ワイヤの曲げ癖が小さくなるため、溶接ワイヤとコンタクトチップ間の接触力は小さくなる。この接触力が小さい場合は、チップ摩耗によって、コンタクトチップの開口部が少しでも大きくなると、溶接ワイヤとコンタクトチップ間で接触し難くなり、給電部の電気抵抗が急激に大きくなることによるチップ融着や給電部の通電不良によるアーク不安定などが発生し易くなる。このため、溶接ワイヤの剛性や巻き方によっては、接触力の影響で、コンタクトチップを早期に交換する必要が生じる。よって、溶接ワイヤの剛性や巻き方を問わず、コンタクトチップの寿命を延ばし、かつ安定した溶接を行うためには、何らかの押付手段を用いて、溶接ワイヤとコンタクトチップ間の接触力を一定に保つ必要がある。
【0004】
これに対し、特許文献1では、コンタクトチップの内部に溶接ワイヤをチップ接触面に押付ける押付手段を設け、その押付力によって溶接ワイヤをコンタクトチップの通電面に強制的に接触させる構成が開示されている。
【0005】
また、特許文献2では、溶接ワイヤが挿通される軸方向のトーチボディと、トーチボディの軸方向先端側に延在する給電用部材と、トーチボディを軸方向に対して直交する方向に押付ける押付手段を設け、押付手段によってトーチボディ全体を動かすことによって、トーチボディから繰り出される溶接ワイヤを給電用部材側に押付けた構成が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開平10-34311号公報
【文献】特開昭59-199673号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に記載のコンタクトチップは、溶接作業によって開口部が多少大きくなっても、押付手段によって溶接ワイヤを、一定の接触力でコンタクトチップ接触面に押付けることができるため、溶接ワイヤへの給電が安定して、製品寿命が向上するものであるが、比較的に製品寿命の短い消耗品であるコンタクトチップの構造が複雑になるため、製造コストが高くなり、費用対効果が十分でない。
【0008】
また、特許文献2に記載の溶接トーチは、コンタクトチップの構成を複雑にすることなく、コンタクトチップの製品寿命を向上させることができるものであるが、トーチボディ全体を動かす押付手段を設ける必要があるため、装置全体が大型化、複雑化してメンテナンスにも手間がかかるという問題がある。
【0009】
本発明は、上記状況に鑑みてなされたものであり、その目的は、コンタクトチップ内に押付手段を設けない簡素且つコンパクトな構成で、溶接ワイヤへの給電を安定させつつ、コンタクトチップの製品寿命を延ばすことができる通電部品と、通電部品を備えた溶接トーチと、通電部品を備えた溶接システムと、通電部品の設計方法と、コンタクトチップと、を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の上記目的は、下記の構成により達成される。
(1) 溶接ワイヤに給電し、アーク溶接を行うための溶接トーチが有する通電部品であって、
前記通電部品は、少なくとも、前記溶接ワイヤに給電を行うコンタクトチップと、前記溶接トーチ基端側のトーチ銃身と前記コンタクトチップとを接続するチップボディと、を備え、
前記チップボディは、第1の内径を有する偏心ガイド部と、前記偏心ガイド部に挿通された前記溶接ワイヤを径方向に偏心させるワイヤ押付部と、を有し、
前記コンタクトチップには、先端に形成された先端開口部から後端開口部まで軸方向に沿って形成され、前記溶接ワイヤをガイドするガイド孔が設けられ、
前記ガイド孔は、前記第1の内径よりも径が小さい第2の内径を有する、
通電部品。
(2) 前記チップボディには、前記偏心ガイド部の基端側に、第3の内径を有する基端ガイド部が設けられ、
前記第3の内径は、前記第1の内径よりも径が小さく、前記第2の内径よりも径が大きい、
(1)に記載の通電部品。
(3) 前記ワイヤ押付部は、少なくとも、前記溶接ワイヤと接触する押当部材と、前記溶接ワイヤへ前記押当部材を押し当てるための弾性部材と、を有し、
前記押当部材を、球状部材とし、
前記弾性部材を、板バネ状部材とした、
(1)に記載の通電部品。
(4) 前記ワイヤ押付部では、
前記チップボディの周面に形成された径方向の貫通孔に、前記球状部材が収容され、
前記板バネ状部材は、前記貫通孔から突出する前記球状部材を押圧するように、前記チップボディの周面をクランプする、
(3)に記載の通電部品。
(5) 前記基端ガイド部は、前記チップボディの後部側に内挿されたコンジットチューブの内径により、前記第3の内径を有する、
(2)に記載の通電部品。
(6) 前記ワイヤ押付部に、前記チップボディの長手方向又は円周方向に対し、位置調整可能な調整機構を設けた、
(1)~(5)の何れか1つに記載の通電部品。
(7) (1)~(5)の何れか1つに記載の通電部品を備えた溶接トーチ。
(8) (7)に記載の溶接トーチを備える溶接ロボットと、
溶接電源と、を備える、
溶接システム。
(9) (2)に記載の通電部品の設計方法であって、
少なくとも、
前記基端ガイド部の先端位置と、前記ワイヤ押付部による前記溶接ワイヤの押付位置との間の第1曲げ区間と、
前記ワイヤ押付部による前記溶接ワイヤの押付位置と、前記ガイド孔の後端開口部との間の第2曲げ区間と、
前記ガイド孔の軸方向の長さである先端ガイド長と、
前記第1の内径と、
前記第2の内径と、
前記第3の内径と、
溶接に使用する前記溶接ワイヤに関する溶接ワイヤ情報と、
で構成される通電部品設計項目に基づいて、前記コンタクトチップの先端位置近傍と、前記溶接ワイヤとの間の接触力を算出する接触力算出工程と、
前記接触力算出工程で算出された接触力が、任意に予め設定した設計接触力となるように、前記通電部品設計項目の値を決定する、設計工程とを有する、
通電部品の設計方法。
(10) 前記溶接ワイヤ情報は、前記溶接ワイヤの線径と、前記溶接ワイヤの機械的性能のうち、少なくとも1つを含む、
(9)に記載の通電部品の設計方法。
(11) 溶接ワイヤに給電し、アーク溶接を行うための溶接トーチに用いられるコンタクトチップであって、
前記コンタクトチップの内面は、
後端に配置されてチップボディの軸方向先端と接続する筒状の連結部と、
前記連結部から軸方向前側に向かって径が小さくなるテーパ部と、
前記テーパ部の先端と連通する後端開口部から前記コンタクトチップの先端に形成された先端開口部まで軸方向に沿って形成され、前記溶接ワイヤをガイドするガイド孔と、を有し、
前記ガイド孔を形成する第2の内径は、前記溶接ワイヤの線形より大きい一方で、前記チップボディの偏心ガイド部で前記溶接ワイヤが径方向に押圧される、押圧空間が有する第1の内径よりも小さく、
前記ガイド孔は、前記後端開口部と、前記先端開口部とで、前記溶接ワイヤに接触する、
コンタクトチップ。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、溶接ワイヤの曲げ剛性の反力を利用して、溶接ワイヤへの給電を安定させるワイヤ押付部を、チップボディに配置したことによって、溶接トーチ全体をコンパクトに構成できるとともに、交換頻度の高いコンタクトチップの構成を簡素化できるため、コストを低く抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明に係る溶接トーチの一実施形態が用いられた溶接ロボットの概略側面図である。
【
図2】実施形態に係る溶接トーチを示した側面図である。
【
図7】別実施例の通電部品を示した中央横断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、添付図面を参照して、本発明に係る通電部品を備えた溶接トーチの構成を説明する。なお、各図は、本発明の説明のために作成されたものであり、本発明の実施形態は、図示の内容に限らない。
【0014】
まず、本実施形態の溶接トーチの全体像を把握するために、溶接トーチが用いられた溶接システム1について説明する。
【0015】
溶接システム1は、
図1に示すように、ワイヤパック2と、溶接電源5と、溶接ロボット7と、を備える。溶接ロボット7は、トーチケーブル3と、ワイヤ送給装置4と、マニピュレータ6と、溶接トーチ10と、を有する。なお、
図1中の符号Aは、溶接対象である母材である。
【0016】
ワイヤパック2は、
図1に示すように、溶接ワイヤWの供給源であり、所定量の溶接ワイヤWがパック巻きの形態で格納されるものである。溶接ワイヤWは、例えば、銅めっきワイヤ、銅めっきなしワイヤ等を用いることができる。また、溶接ワイヤWは、ワイヤパック2に格納されることによって湾曲する曲げ癖がついている。
【0017】
トーチケーブル3は、溶接電源5から供給される溶接電流、ワイヤパック2に格納される溶接ワイヤW、及び不図示のシールドガス格納装置から供給されるシールドガスを溶接トーチ10に供給するものである。トーチケーブル3は、一端がワイヤ送給装置4に接続され、他端が溶接トーチ10に接続されている。
【0018】
ワイヤ送給装置4は、トーチケーブル3を介して、溶接ワイヤWをローラ等により繰り出して溶接トーチ10に送給するものである。そして、このワイヤ送給装置4を備えることにより、溶接ワイヤWが溶接トーチ10に自動的に供給される。
【0019】
溶接電源5は、溶接電流の供給源であり、ワイヤ送給装置4及びトーチケーブル3を介して溶接トーチ10に溶接電流を供給する。
【0020】
マニピュレータ6は、先端に溶接トーチ10が取り付けられた多関節ロボットであり、不図示のロボット制御装置により動作が制御される。
【0021】
図2は、実施形態に係る溶接トーチを示した側面図である。溶接トーチ10は、トーチ銃身11と、ノズル12と、通電部品20と、を備え、ガスシールドアーク溶接を行うものである。
【0022】
トーチ銃身11は、金属製の円筒形状の部材であって、先端側に通電部品20と、ノズル12と、が着脱可能に取付けられている。トーチ銃身11の先端側には、通電部品20が取り付けられる不図示の雌ネジ部と、ノズル12が取り付けられる袋ナット14と、が設けられている。
【0023】
また、トーチ銃身11は、溶接ワイヤWをガイドするコンジットチューブ13を備える。このコンジットチューブ13は、トーチ銃身11の先端から突出して設けられており、突出した部分が通電部品20を構成するチップボディ30内に挿入されている。
【0024】
また、トーチ銃身11は、溶接ワイヤWと、溶接電源5から供給される溶接電流と、不図示のシールドガス格納装置から供給されるシールドガスと、を通電部品20に向けて供給する。
【0025】
ノズル12は、前後端が開放された円筒形状の部材であり、トーチ銃身11の先端側に設けられた通電部品20と、通電部品20に外挿された不図示のオリフィスと、を収容する。ノズル12の先端の開口した部分からは、通電部品20の周面から噴出されて、オリフィスによって整流されたシールドガスが、供給される。
【0026】
次に、
図3~
図6に基づいて、通電部品の構成について説明する。
図3は、通電部品を示した斜視図であり、
図4は、通電部品を示した分解斜視図であり、
図5は、通電部品を示した中央横断面図であり、
図6は、ワイヤ押付部を示した断面図である。
【0027】
通電部品20は、トーチ銃身11の先端側に取付けられるチップボディ30と、チップボディ30の先端に取付けられるコンタクトチップ40と、を備える。
【0028】
チップボディ30は、軸方向に延設された円筒形状の部材であって、後方のトーチ銃身11側から供給された溶接ワイヤWを、前方のコンタクトチップ40に向けてガイドする。チップボディ30は、銅等の通電性を有する金属材料で形成されている。
【0029】
チップボディ30は、挿通された溶接ワイヤWを偏心させるワイヤ押付部33と、溶接ワイヤWが偏心される円筒状の空間(以下、押圧空間と称する。)を形成する偏心ガイド部31と、該偏心ガイド部31の後方側に配置される円筒状の空間を形成する基端ガイド部32と、を備える。この構成は
図5を参照するとよい。
【0030】
チップボディ30の外周面には、前端側にコンタクトチップ40を取付けるための雄ネジ部34が形成され、後端側にトーチ銃身11の先端側に取付けるための雄ネジ部35が形成されている。
【0031】
チップボディ30の内周面には、偏心ガイド部31による押圧空間が形成されている。偏心ガイド部31は、チップボディ30の前端側半部に配置されており、軸方向の中途部にワイヤ押付部33が設けられている。偏心ガイド部31内の押圧空間は、予め設計された第1の内径R1を有する。
【0032】
ワイヤ押付部33は、偏心ガイド部31に挿通された溶接ワイヤWを押付ける球状の押当部材36と、押当部材36を径方向外側に向けて付勢する付勢部材37と、押当部材36及び付勢部材37を保持するようにチップボディ30に設けられた保持部38と、押当部材36及び付勢部材37をチップボディ30の外周面に沿って覆うカバー体39と、を備えている。この構成は
図4及び
図5を参照するとよい。
【0033】
保持部38は、
図4~
図6に示されるように、偏心ガイド部31の外面を周方向全体に亘って凹設した溝部38Aと、溝部38Aの円筒状の底面に対して180°対称位置に形成された一対の切欠面38B、38Bと、一方の切欠面38Bと、押圧空間との間を径方向に貫通する貫通孔38Cと、を有する。貫通孔38Cの直径は、切欠面38Bの幅方向よりも若干大きい。この構成は
図4を参照するとよい。
【0034】
押当部材36は、貫通孔38Cに嵌合収容される鋼球であって、貫通孔38Cに沿って径方向に移動可能に保持されている。押当部材36の直径は、偏心ガイド部31の第1の内径R1よりも大きく、偏心ガイド部31の外径よりも小さい。このため、押当部材36である鋼球が偏心ガイド部31内に入り込むことを防止できる。
【0035】
付勢部材37は、溝部38Aに沿ってC型に形成された板バネであって、一対の切欠面38B、38Bを挟持する一対の挟持部37B、37Cと、溝部38Aに沿って円弧状に延設されて一対の挟持部37B、37Cを連結する連結部37Aと、を有する。なお、C型に形成された板バネとして、例えばロッドクランプが挙げられる。一方側の挟持部37Cは、球状の押当部材36を貫通孔38Cに押込む方向に押圧するように、内側に向けて屈曲形成されている。他方側の挟持部37Bは、切欠面38Bの幅方向全体に亘って当接する当接面37B1と、挟持部37Bの端部を溝部38Aに沿うように、当接面37B1に対して屈曲形成した係止部37B2と、を有する。この構成は、
図6を参照するとよい。
【0036】
カバー体39は、軸方向が溝部38Aよりも長く形成されて、溝部38Aを覆うように取付けられる円筒形状の部材である。カバー体39によって押当部材36と付勢部材37がセットされた溝部38Aの外周側を覆うことによって、溶接作業中に押当部材36が貫通孔38Cから外れるのを確実に防止できる。
【0037】
カバー体39は、薄板のバネ状部材によって形成され、弾性変形前はチップボディ30の外径よりも内径が小径に形成されている。これにより、カバー体39を拡径方向に弾性変形することにより、溝部38Aを覆う所定位置へカバー体39を容易に取り付けることができる。また、カバー体39を薄い部材で形成できるため、チップボディ30の径方向をコンパクトに形成できる。
【0038】
基端ガイド部32は、チップボディ30の後側半部に配置されており、その内周面は、トーチ銃身11に内挿されたコンジットチューブ13の先端部によって構成されている。具体的に説明すると、チップボディ30の基端ガイド部32の内部には、トーチ銃身11から延びるコンジットチューブ13の先端が押圧空間の後端に設けれた段差31aに突き当てられて収容されている。そして、コンジットチューブ13の内径が、基端ガイド部32の第3の内径を規定する。
図5に示されるように、第3の内径R3は、第1の内径R1よりも径が小さい。
【0039】
コンタクトチップ40は、軸方向に延設された円筒形状の部材であって、前側半部が先端に向かって径が小さくなる円錐台状に形成されている。コンタクトチップ40の先端には、溶接ワイヤWが繰り出される先端開口部42aが形成されている。コンタクトチップ40は、銅等の通電性を有する金属材料で形成され、溶接ワイヤWに溶接電流を供給する。
【0040】
コンタクトチップ40の内面は、後端に配置されてチップボディ30の軸方向先端の雄ネジ部34に締結される雌ネジ部44aが形成された筒状の連結部44と、連結部44の前端から軸方向前側に向かって径が小さくなるテーパ部43と、テーパ部43の先端と連通する後端開口部42bから先端開口部42aまで軸方向に沿って形成され、溶接ワイヤWをガイドするガイド孔42と、を有する。
【0041】
ガイド孔42は、通電部品20の中心軸に沿って形成されており、先端開口部42aから後端開口部42bまでの軸方向の長さである先端ガイド長Tと、第2の内径R2と、を有する。第2の内径R2は、第1の内径R1及び第3の内径R3よりも径が小さく、溶接ワイヤWの線径よりも大きい。
【0042】
先端ガイド長Tと、第2の内径R2とは、ワイヤ押付部33により通電部品20の中心軸から偏心した溶接ワイヤWを、ガイド孔42の前後端にある後端開口部42bと先端開口部42aとに接触させることができるように設定されている。この構成は
図5を参照するとよい。具体的には、第2の内径は、溶接ワイヤWの線径の1.05~1.35倍とすることが望ましい。
【0043】
連結部44は、後端側にチップボディ30の先端側に連結するための雌ネジ部44aが形成されている。これにより、連結部44は、後端側からテーパ部43に連通する前端側まで、第1の内径R1と同程度、或いは、第1の内径R1よりも大きい内径を有する、円筒状に形成されている。
【0044】
テーパ部43は、後端から前端に向けて径が徐々に小さくなるように形成されており、テーパ部43の後端は、図示する例では、第1の内径R1よりも径の大きい連結部44の前端側と連通し、テーパ部43の前端は、第2の内径R2を有するガイド孔42の後端開口部42bと連通する。
【0045】
テーパ部43及び連結部44は、ワイヤ押付部33により屈曲された溶接ワイヤWが、押当部材36による溶接ワイヤWの押付位置からガイド孔42の後端開口部42bまでの間で、通電部品20側に接触しない構成であれば良く、上記形状には限られない。
【0046】
上述の構成によれば、通電部品20が有する第1の内径R1と、第2の内径R2と、第3の内径R3とは、同軸上に配置されており、第2の内径R2が一番小さく、第1の内径R1が一番大きい。また、先端開口部42aと後端開口部42bとは、第2の内径R2と略同じ大きさとなる。
【0047】
以下、上述の通電部品20の作用、効果について説明する。
トーチ銃身11から通電部品20に供給された溶接ワイヤWは、ワイヤ押付部33によって偏心されることによって、第3の内径R3を有する基端ガイド部32(コンジットチューブ13)の先端位置にある第3接触位置X3と、第1の内径R1を有する偏心ガイド部31内で押当部材36により押圧される第1接触位置X1と、ガイド孔42の後端開口部42bの近傍である第2接触位置X2と、ガイド孔42の先端開口部42aの近傍である先端接触位置X0と、で通電部品20側に接触する。
【0048】
このため、溶接トーチ10内でチップボディ30側まで案内された溶接ワイヤWは、
図5に示されるように、ワイヤ押付部33によって、第1曲げ区間L1で径方向外側に大きく偏心され、第2曲げ区間L2で屈曲量が小さくなるように押さえられる。また、溶接ワイヤWは、ガイド孔42による先端ガイド長Tの区間では、第2接触位置X2と先端接触位置X0の両方に接触するように案内される。このとき、通電部品20の軸方向において、第3接触位置X3と第1接触位置X1との間を第1曲げ区間L1とし、第1接触位置X1と第2接触位置X2との間を第2曲げ区間L2とする。
【0049】
以上によれば、溶接ワイヤWの曲げ癖の有無を問わず、溶接ワイヤWをコンタクトチップ40の先端位置近傍に対して所定の接触力で強制的に接触させることができる。言い換えると、溶接ワイヤWに強制給電できる。これにより、溶接作業によってコンタクトチップ40の先端開口部2aが広がった場合であっても、溶接ワイヤWへの給電を維持できるため、コンタクトチップ40の寿命を延ばすことができる。
【0050】
なお、本実施例の通電部品20の内周が有する各内径は、第1の内径R1>第3の内径R3>第2の内径R2としているが、第1の内径R1>第2の内径R2のみを有する構成としても良い。この場合、コンジットチューブ13の内径である第3の内径R3が、押圧空間の第1の内径R1と、同じ寸法を有している。
【0051】
また、溶接ワイヤWを偏心させるワイヤ押付部33を、チップボディ30側に配置したことにより、チップボディ30と比較して交換頻度の高いコンタクトチップ40を簡易な構成にできる。このため、通電部品20全体の製造コスト、メンテナンスコストを抑えることができる。
【0052】
また、ワイヤ押付部33は、球状の押当部材36を採用したことにより、溶接ワイヤWを偏心させる押当部材36が送給する溶接ワイヤWと点接触し、回転することによって、送給方向の摩擦力を軽減できるため、溶接ワイヤWの供給抵抗が必要以上に増大することを防止できる。
【0053】
次に、通電部品20の設計方法について説明する。ワイヤ押付部33を備えた通電部品20の設計方法は、接触力算出工程と、設計工程と、を有する。
【0054】
接触力算出工程は、各種設計項目に関する情報に基づいて、溶接ワイヤWが、コンタクトチップ40の先端近傍、具体的には第2接触位置X2に接触する接触力を算出する。設計項目としては、少なくとも、第1曲げ区間L1と、第2曲げ区間L2と、先端ガイド長Tと、第1の内径R1と、第2の内径R2と、第3の内径R3と、溶接ワイヤWに関する情報と、を用いる。
【0055】
溶接ワイヤWに関する情報としては、溶接ワイヤWの線径と、溶接ワイヤWの機械的性能に関する情報と、溶接ワイヤWの曲げ癖に関する情報のうち少なくとも一つを含む。溶接ワイヤWの機械的性能に関する情報は、剛性等に関する情報であって、ヤング率やポアソン比を用いる。
上記の他の設計項目として、ワイヤ押付部33による溶接ワイヤWの押付力、又は、ワイヤ押付部33による溶接ワイヤWの偏心量を加えても良い。
【0056】
コンタクトチップ40の先端近傍への溶接ワイヤWの接触力は、第1曲げ区間L1や第2曲げ区間L2が短いほど強くなり、第1の内径R1と第3の内径R3との差と、第1の内径R1と第2の内径R2との差が大きいほど強くなり、溶接ワイヤWの剛性が高いほど強くなる。
【0057】
設計工程は、接触力算出工程により算出された接触力が、任意で予め決定した接触力となる場合の、各設計項目の値を決定する。なお、各設計項目は、溶接ワイヤWがコンタクトチップ40側の第2接触位置X2に接触する設計接触力が1N~15Nの範囲となるように設計されるとよい。
【0058】
上記の設計方法によれば、コンタクトチップ40の先端位置近傍に溶接ワイヤWが適した接触力で接触する通電部品20を、種類の異なる溶接ワイヤWや、収容方法によって曲げ癖の異なる溶接ワイヤW毎に設計できる。
【0059】
次に、
図7に基づいて、ワイヤ押付部の別実施例について説明する。
図7は、別実施例の通電部品を示した中央横断面図である。ワイヤ押付部50は、押当部材として用いられる押付ボルト51と、偏心ガイド部31の周面から押圧空間までに径方向に貫通するネジ孔である貫通孔53と、押付ボルト51による溶接ワイヤWの押付位置を軸方向と周方向とに調整可能にする調整機構53A1、53A2、53B1、53B2と、を備えている。
【0060】
押付ボルト51は、貫通孔53に締結されることにより、偏心ガイド部31内に挿通される溶接ワイヤWを径方向外側に押付けることができる。押付ボルト51は、貫通孔53への締付量を調整することにより、押付ボルト51の軸部が偏心ガイド部31内に突出する長さを無段階で調整できる。
【0061】
調整機構53A1、53A2、53B1、53B2は、
図7に示されるように、貫通孔53を偏心ガイド部31の軸方向、周方向に複数並べて配置することによって構成されている。具体的には、調整機構53A1、53A2、53B1、53B2は、偏心ガイド部31の軸方向に沿って並べて配置された第1前貫通孔53A1と、第1後貫通孔53A2と、第1前貫通孔53A1に対して、偏心ガイド部31の周方向に並べて配置された第2前貫通孔53B1と、第1後貫通孔53A2に対して、偏心ガイド部31の周方向に並べて配置された第2後貫通孔53B2と、によって構成されている。
【0062】
上記のワイヤ押付部50によれば、押付ボルト51による締付量を調整することによって、溶接ワイヤWの変位量を微調整できる。これにより、例えば、溶接作業によって先端開口部42aが広がって、溶接ワイヤWのコンタクトチップ40へ接触力が弱くなった場合に、押付ボルト51の締付量を増やすことで、溶接ワイヤWのコンタクトチップ40への接触力を再び適切な値に戻すことができる。このため、コンタクトチップの寿命をさらに伸ばすことができる。
【0063】
上記の調整機構53A1、53A2、53B1、53B2によれば、押付ボルト51を、軸方向に異なる貫通孔53に締結することによって、溶接ワイヤWを偏心させる軸方向の位置を調整できる。言い換えると、通電部品20の構成を変更することなく、通電部品20の長手方向に沿って、第1接触位置X1の位置を簡単に変更できるため、汎用性が向上する。
【0064】
また、調整機構53A1、53A2、53B1、53B2によれば、押付ボルト51を周方向に異なる貫通孔53に締結することによって、第1接触位置X1の軸方向の位置は変えずに、溶接ワイヤWを偏心させる径方向の向きを変更できる。言い換えると、溶接ワイヤWの曲げ癖に応じて、溶接ワイヤWを押す向きを偏心ガイド部31の円周方向に沿って変更できるため、汎用性が向上する。
【0065】
なお、調整機構53A1、53A2、53B1、53B2は、溶接ワイヤWを偏心させる押当部材36(押付ボルト51)の位置を、チップボディ30の軸方向又は/及び周方向に調整可能な構成であれば良く、貫通孔53を軸方向及び周方向に複数並べた構成には限られない。例えば、調整機構は、チップボディ30に取付けた押当部材を軸方向と周方向とにスライド移動可能に支持する構成としても良い。
【0066】
なお、本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、実施形態の各構成を相互に組み合わせることや、明細書の記載、並びに周知の技術に基づいて、当業者が変更、応用することも本発明の予定するところであり、保護を求める範囲に含まれる。
【0067】
以上の通り、本明細書には次の事項が開示されている。
(1) 溶接ワイヤに給電し、アーク溶接を行うための溶接トーチが有する通電部品であって、
前記通電部品は、少なくとも、前記溶接ワイヤに給電を行うコンタクトチップと、前記溶接トーチ基端側のトーチ銃身と前記コンタクトチップとを接続するチップボディと、を備え、
前記チップボディは、第1の内径を有する偏心ガイド部と、前記偏心ガイド部に挿通された前記溶接ワイヤを径方向に偏心させるワイヤ押付部と、を有し、
前記コンタクトチップには、先端に形成された先端開口部から後端開口部まで軸方向に沿って形成され、前記溶接ワイヤをガイドするガイド孔が設けられ、
前記ガイド孔は、前記第1の内径よりも径が小さい第2の内径を有する、
通電部品。
本構成によれば、溶接ワイヤの曲げ剛性の反力を利用して、溶接ワイヤを安定してコンタクトチップに接触させるワイヤ押付部を、チップボディに配置したことによって、溶接トーチ全体をコンパクトに構成できるとともに、比較的に交換頻度の高いコンタクトチップの構成を簡素化できるため、コストを低く抑えることができる。
(2) 前記チップボディには、前記偏心ガイド部の基端側に、第3の内径を有する基端ガイド部が設けられ、
前記第3の内径は、前記第1の内径よりも径が小さく、前記第2の内径よりも径が大きい、
(1)に記載の通電部品。
本構成によれば、ワイヤ押付部によって偏心される溶接ワイヤを山型に変形させることができるため、溶接ワイヤのコンタクトチップ側へ接触する力がより安定するとともに、通電部品の設計も容易になる。
(3) 前記ワイヤ押付部は、少なくとも、前記溶接ワイヤと接触する押当部材と、前記溶接ワイヤへ前記押当部材を押し当てるための弾性部材と、を有し、
前記押当部材を、球状部材とし、
前記弾性部材を、板バネ状部材とした、
(1)又は(2)に記載の通電部品。
本構成によれば、溶接ワイヤに押付けられる押付部材が球状に形成されるため、ワイヤ押付部は、溶接ワイヤを径方向に偏心させつつ、溶接ワイヤをコンタクトチップの開口部から送り出すために必要な力が必要以上に大きくなることを防止できる。
(4) 前記ワイヤ押付部では、
前記チップボディの周面に形成された径方向の貫通孔に、前記球状部材が収容され、
前記板バネ状部材は、前記貫通孔から突出する前記球状部材を押圧するように、前記チップボディの周面をクランプする、
(3)に記載の通電部品。
本構成によれば、ワイヤ押付部の構成を簡素化できるため、コストを低く抑えることができるとともに、ワイヤ押付部を構成する部品の組付作業も簡易になるため、メンテナンスのし易さも向上する。
(5) 前記基端ガイド部は、前記チップボディの後部側に内挿されたコンジットチューブの内径により、前記第3の内径を有する、
(2)~(4)の何れか1つに記載の通電部品。
本構成によれば、コンジットチューブを変更したり、長さを調整したりすることによって、第3の内径の大きさと、第3の内径を有する基端ガイド部の先端位置と、を容易に設定・変更することができる。
(6) 前記ワイヤ押付部に、前記チップボディの長手方向又は円周方向に対し、位置調整可能な調整機構を設けた、
(1)~(5)の何れか1つに記載の通電部品。
本構成によれば、チップボディやコンタクトチップを変えることなく、溶接ワイヤの押付位置を変更・調整することができるため、汎用性が向上する。
(7) (1)~(6)の何れか1つに記載の通電部品を備えた溶接トーチ。
本構成によれば、溶接ワイヤの曲げ剛性の反力を利用して、溶接ワイヤをコンタクトチップに接触させることにより、溶接ワイヤへの給電を安定させることのできる溶接トーチを、コンパクトで且つコストを抑えて構成することができる。
(8) (7)に記載の溶接トーチを備える溶接ロボットと、
溶接電源と、を備える、
溶接システム。
本構成によれば、溶接ワイヤの曲げ剛性の反力を利用して、溶接ワイヤをコンタクトチップに接触させることにより、溶接ワイヤへの給電を安定させることのできる溶接トーチを備えた溶接システムを、コストを抑えて構成することができる。
(9) (2)に記載の通電部品の設計方法であって、
少なくとも、
前記基端ガイド部の先端位置と、前記ワイヤ押付部による前記溶接ワイヤの押付位置との間の第1曲げ区間と、
前記ワイヤ押付部による前記溶接ワイヤの押付位置と、前記ガイド孔の後端開口部との間の第2曲げ区間と、
前記ガイド孔の軸方向の長さである先端ガイド長と、
前記第1の内径と、
前記第2の内径と、
前記第3の内径と、
溶接に使用する前記溶接ワイヤに関する溶接ワイヤ情報と、
で構成される通電部品設計項目に基づいて、前記コンタクトチップの先端位置近傍と、前記溶接ワイヤとの間の接触力を算出する接触力算出工程と、
前記接触力算出工程で算出された接触力が、任意に予め設定した設計接触力となるように、前記通電部品設計項目の値を決定する、設計工程とを有する、
通電部品の設計方法。
本構成によれば、コンタクトチップと溶接ワイヤとを適した接触力で強制的に接触させる通電部品をスムーズ且つ容易に設計できる。
(10) 前記溶接ワイヤ情報は、前記溶接ワイヤの線径と、前記溶接ワイヤの機械的性能のうち、少なくとも1つを含む、
(9)に記載の通電部品の設計方法。
本構成によれば、溶接トーチによって供給される溶接ワイヤの線形や機械的性質が異なる場合であっても、コンタクトチップと溶接ワイヤとを適した接触力で強制的に接触させる通電部品をスムーズ且つ容易に設計できる。
(11) 溶接ワイヤに給電し、アーク溶接を行うための溶接トーチに用いられるコンタクトチップであって、
前記コンタクトチップの内面は、
後端に配置されてチップボディの軸方向先端と接続する筒状の連結部と、
前記連結部から軸方向前側に向かって径が小さくなるテーパ部と、
前記テーパ部の先端と連通する後端開口部から前記コンタクトチップの先端に形成された先端開口部まで軸方向に沿って形成され、前記溶接ワイヤをガイドするガイド孔と、を有し、
前記ガイド孔を形成する第2の内径は、前記溶接ワイヤの線形より大きい一方で、前記チップボディの偏心ガイド部で前記溶接ワイヤが径方向に押圧される、押圧空間が有する第1の内径よりも小さく、
前記ガイド孔は、前記後端開口部と、前記先端開口部とで、前記溶接ワイヤに接触する、
コンタクトチップ。
本構成によれば、適した接触力で溶接ワイヤが接触されるコンタクトチップを得ることができる。
【符号の説明】
【0068】
1 溶接システム
2 ワイヤパック
3 トーチケーブル
4 ワイヤ送給装置
5 溶接電源
6 マニピュレータ
7 溶接ロボット
10 溶接トーチ
11 トーチ銃身
12 ノズル
13 コンジットチューブ
14 袋ナット
20 通電部品
30 チップボディ
31 偏心ガイド部
31a 段差
32 基端ガイド部
33 ワイヤ押付部
34、35 雄ネジ部
36 押当部材、鋼球(球状部材)
37 付勢部材、板バネ(弾性部材)
38 保持部
38A 溝部
38B 切欠面
38B1 当接面
38B2 係止部
38C 貫通孔
39 カバー体
40 コンタクトチップ
42 ガイド孔
42a 先端開口部
42b 後端開口部
43 テーパ部
44 連結部
44a 雌ネジ部
50 ワイヤ押付部
51 押付ボルト
53 貫通孔
53A1 第1前貫通孔(調整機構)
53A2 第1後貫通孔(調整機構)
53B1 第2前貫通孔(調整機構)
53B2 第2後貫通孔(調整機構)
W 溶接ワイヤ
R1 第1の内径
R2 第2の内径
R3 第3の内径
L1 第1曲げ区間
L2 第2曲げ区間
X0 先端接触位置
X1 第1接触位置
X2 第2接触位置
X3 第3接触位置
T 先端ガイド長