(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-06-09
(45)【発行日】2025-06-17
(54)【発明の名称】バイオマーカーとしての細胞外遊離ヌクレオソームの使用
(51)【国際特許分類】
G01N 33/68 20060101AFI20250610BHJP
G01N 33/574 20060101ALI20250610BHJP
G01N 33/53 20060101ALI20250610BHJP
C12N 5/071 20100101ALI20250610BHJP
C12Q 1/00 20060101ALI20250610BHJP
【FI】
G01N33/68
G01N33/574 A
G01N33/53 P
C12N5/071
C12Q1/00
(21)【出願番号】P 2022532782
(86)(22)【出願日】2020-12-02
(86)【国際出願番号】 EP2020084328
(87)【国際公開番号】W WO2021110776
(87)【国際公開日】2021-06-10
【審査請求日】2023-11-30
(32)【優先日】2019-12-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2020-10-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】517151969
【氏名又は名称】ベルジアン ボリション エスアールエル
(74)【代理人】
【識別番号】100097456
【氏名又は名称】石川 徹
(72)【発明者】
【氏名】ジャコブ ビンセント ミカレフ
(72)【発明者】
【氏名】ヘザー ウィルソン‐ロブレス
(72)【発明者】
【氏名】マーク エドワード エクルストン
(72)【発明者】
【氏名】マリエール シャンタル アンドレー ヘルツォーク
(72)【発明者】
【氏名】ジェイソン ブラッドリー テレル
【審査官】海野 佳子
(56)【参考文献】
【文献】特表2018-536849(JP,A)
【文献】国際公開第2019/169263(WO,A1)
【文献】Nucleosomes in Serum of Patients with Benign and Malignant Diseases,International Journal of Cancer,2001年,Vol.95, No.2,pp,114-120,DOI: 10.1002/1097-0215(20010320)95:2<114::aid-ijc1020>3.0.co;2-q
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/48-33/98
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
血管癌又は血液系癌の診断又は検出のための、血漿試料中のバイオマーカーとしての細胞外遊離ヌクレオソームの
H3.1ヒストンアイソフォームのインビトロにおける使用。
【請求項2】
前記細胞外遊離ヌクレオソームが、モノヌクレオソーム又はオリゴヌクレオソームである、請求項1記載の使用。
【請求項3】
前記血液系癌が、白血病
、リンパ腫
又は骨髄腫から選択される、請求項1
又は2記載の使用。
【請求項4】
前記白血病が、急性リンパ球性白血病(ALL)及び急性骨髄性白血病(AML)から選択される、請求項
3記載の使用。
【請求項5】
前記リンパ腫が、非ホジキンリンパ腫(NHL)である、請求項
3記載の使用。
【請求項6】
前記血管癌が、血管肉腫(angiosarcoma)又は血管肉腫(hemangiosarcoma)から選択される、請求項1
又は2記載の使用。
【請求項7】
血管癌又は血液系癌を診断し、又は検出するためのデータを取得する方法であって:
対象から取得した血漿試料を結合剤と接触させて、
ヒストンアイソフォームH3.1を含む細胞外遊離ヌクレオソームを検出し、又は測定する工
程を含む、前記方法。
【請求項8】
血管癌又は血液系癌を有する対象の予後を決定するためのデータを取得する方法であって:
(i)該対象から取得した血漿試料を結合剤と接触させて、
ヒストンアイソフォームH3.1を含む細胞外遊離ヌクレオソームを検出し、又は測定する工程;及び
(ii)検出された
ヒストンアイソフォームH3.1を含む細胞外遊離ヌクレオソームのレベルを、該血管癌又は血液系癌の予後の指標として使用する工程、を含む、前記方法。
【請求項9】
血管癌又は血液系癌を有する、有する疑いがある、又はこれらにかかりやすい対象において、治療の有効性をモニタリングするためのデータを取得する方法であって:
(i)該対象から取得した血漿試料を結合剤と接触させて、
ヒストンアイソフォームH3.1を含む細胞外遊離ヌクレオソームを検出し、又は測定する工程;及び
(ii)検出された
ヒストンアイソフォームH3.1を含む細胞外遊離ヌクレオソームのレベルを該対象から以前に採取した血漿試料と比
較する工程、を含む、前記方法。
【請求項10】
前記検出又は測定が、免疫アッセイ、免疫化学、質量分析法、クロマトグラフィー、クロマチン免疫沈降法、又はバイオセンサー法を含む、請求項
7~
9のいずれか1項記載の方法。
【請求項11】
前記検出し、又は測定する工程が、固定化された抗ヒストンH3.1結合剤と組み合わせて標識抗ヌクレオソーム検出結合剤を利用する二部位免疫アッセイを含む、請求項7~9のいずれか1項記載の方法。
【請求項12】
前記対象が、ヒト又は動物対象である、請求項
7~
11のいずれか1項記載の方法。
【請求項13】
前記対象が、血管癌又は血液系癌を再発する疑いがある、請求項
7~
12のいずれか1項記載の方法。
【請求項14】
前記対象が高レベルの白血球増多症/高い白血球数を有する、請求項
7~
12のいずれか1項記載の方法。
【請求項15】
前記血漿試料中の前記
ヒストンアイソフォームH3.1を含む細胞外遊離ヌクレオソームのレベルを1以上の対照と比較する工程をさらに含む、請求項
7~
14のいずれか1項記載の方法。
【請求項16】
前記対照が健康な対象である、請求項
15記載の方法。
【請求項17】
前記対照が血管癌又は血液系癌ではない癌を有する対象である、請求項
15記載の方法。
【請求項18】
前記対照が、高レベルの白血球増多症を有する対象である、請求項
15記載の方法。
【請求項19】
前記
ヒストンアイソフォームH3.1を含む細胞外遊離ヌクレオソームのレベルが、対照と比較して上昇している、請求項
7~
18のいずれか1項記載の方法。
【請求項20】
前記
ヒストンアイソフォームH3.1を含む細胞外遊離ヌクレオソームのレベルが、測定パネルの1つとして検出され、又は測定される、請求項
7~
19のいずれか1項記載の方法。
【請求項21】
前記パネルが、1以上のインターロイキンを含む、請求項
20記載の方法。
【請求項22】
前記1以上のインターロイキンが、IL-6、IL-10、及びIL-1βからなる群から選択される、請求項
21記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(発明の分野)
本発明は、血管癌又は血液系癌の血漿試料中のバイオマーカーとしての細胞外遊離ヌクレオソームに関する。
【背景技術】
【0002】
(発明の背景)
血液系癌は、血液、骨髄、及びリンパ節を冒す種類の癌である。血液系癌は罹患した細胞の種類に応じて、白血病、リンパ腫、及び骨髄腫と呼ばれる。白血病は通常骨髄から出発し、血流を通って移動する血液細胞の癌である。白血病においては、骨髄により突然変異細胞が生産され、それらは血液中に散布され、そこで突然変異細胞は増殖し、健康な血液細胞を締め出す。リンパ腫疾患はリンパ系の細胞に影響を及ぼす。リンパ腫においては、リンパ球と呼ばれる免疫細胞が制御不能に増殖し、かつリンパ節、脾臓、他のリンパ組織、又は隣接する器官に集合する。骨髄腫は多発性骨髄腫とも呼ばれ、骨髄で発達し、感染症及び疾患を攻撃する抗体を生産する形質細胞を冒す。血液癌の例には、急性リンパ芽球性白血病(ALL)、急性骨髄性白血病(AML)、ホジキンリンパ腫(HL)、及び非ホジキンリンパ腫(NHL)がある。
【0003】
「急性白血病」への言及は、迅速かつ攻撃的に進行し、通常は即座の治療を必要とする癌を意味する。ALLは、感染症と戦うことのできない多数の未成熟なリンパ球の発達を伴う。これにより、患者の循環中の健康な白血球、赤血球、及び血小板のための余地が少なくなる。その結果、患者は通常、免疫系の弱体化及び貧血の症状、例えば、疲労、息切れ、及び過度の出血のリスクの増加を患うこととなる。ALLを発症するリスクは5歳未満の小児で最も高く、子供を冒す最も一般的な種類の白血病である。その後、リスクは20代半ばまで徐々に低下し、かつ50歳以後再び徐々に上昇し始める。全体を見ると、ALLの症例10件に約4件が成人におけるものである。
【0004】
AMLは骨髄芽球に影響を及ぼし、骨髄中に異常な単球及び顆粒球を蓄積させる。AMLは骨髄幹細胞にも影響を及ぼし、異常な赤血球又は血小板を生じさせ得る。ALLと同様に、AMLは患者の循環中の健康な白血球、赤血球、及び血小板のレベルを低下させる。AMLは成人における最も一般的な種類の白血病の1つであり、診断時の平均年齢は68歳である。
【0005】
HL及びNHLは2つの主要な種類のリンパ腫である。HLは顕微鏡下で特定の外観を有し、リード・シュテルンベルグ細胞と呼ばれる細胞(癌化したBリンパ球の一種)を含む一方、NHLは顕微鏡下の見え方が異なり、リード・シュテルンベルグ細胞を含まない。ほとんどのリンパ腫はNHLであり、5例中約1例のみがHLである。NHLはリンパ球に影響を及ぼす癌であり、通常はリンパ節又はリンパ組織から出発する。それは子供、十代及び成人した若者の間でより一般的な癌の1つである。
【0006】
白血病及び骨髄腫を診断する現在の方法は、完全血球計算(CBC)検査結果を取得して赤血球及び血小板に対する白血球の異常なレベルを特定することを伴う。しかしながら、白血球数(WBC)の上昇は血液系悪性腫瘍を有する患者に特異的ではなく、当該事象は感染症又は他の炎症性プロセスに対し継続する反応の結果でもあり得る。リンパ腫については、X線、CT、又はPETスキャンを使用して腫脹リンパ節を検出することができるが、これも特異的ではない。
【0007】
血液系癌の診断を確認するためには、骨髄又はリンパ節の生検が必要である。従って、診断プロセスの初期段階で血液系癌の過剰診断を行うと、侵襲的で、潜在的危険性があり、かつ医療提供者にとって費用が比較的高くつく不必要な生検をもたらし得る。細胞遺伝学的分析及び/又は免疫表現型判定も、血液系癌診断の確認に使用され得るが、これらの方法は実施のための費用が高く、従って典型的には診断プロセスの後期段階でのみ使用される。
【0008】
ヒト血管肉腫(angiosarcoma)は、血管内側を縁取る(lining)内皮細胞に影響を及ぼす稀少な血管癌である。イヌ血管肉腫(hemangiosarcoma)は同様に、血管内皮又は血管壁の増殖を伴う癌であり、やはり診断が難しい一般的なイヌの癌である。イヌの癌はヒトの癌よりも一般的であり、それは概して近親交配による遺伝的作用及びイヌの寿命がヒトより短く、一般的に8歳以上で癌にかかることの両方が原因である。動物対象における癌の検出及び診断は、ヒト癌の診断と比較してさらなる困難を提示する。非ヒト動物での癌の検出は、例えば磁気共鳴イメージング又はMRIスキャンによるスキャンを伴うことが多いが、動物はスキャンに必要な時間の間静止し続けようとはしないため、麻酔をかけなければならない。ペットの医療保険は滅多になく、癌の診断又は治療をカバーしないことがあり、これらの検査は多くのペットの飼い主にとって経済的に手の届かないところにある。さらに、癌のマーカータンパク質に対するヒトの血液検査は通常動物タンパク質を検出せず、そのために獣医腫瘍学において利用可能な血液検査はずっと少ない。
【0009】
過去Holdenriederらの文献(2001) Int J Cancer 95:114-120に、良性及び悪性疾患を有する患者の血清試料中のヌクレオソームのレベルを検出することが記載されている。しかしながら、血清試料について提示された結果から、他の試験された癌種と比較しても、血液系癌、例えばリンパ腫のレベルとの間で相違があることは何ら示されなかった。循環細胞外遊離ヌクレオソームのそのヒストン修飾、ヒストンバリアント、DNA修飾及び付加物含有量の観点でのエピジェネティック組成も、癌の血液ベースのバイオマーカーとして研究されている。WO 2005/019826、WO 2013/030577、WO 2013/030579、及びWO 2013/084002を参照されたい。
【0010】
血管癌又は血液系癌についての簡便かつ費用対効果の高い診断方法、特に他の種類の疾患又は非血管癌若しくは非血液系癌を有するが、同様の症状を提示し得る患者から識別可能な方法を提供することは、当該技術分野において依然として要望されている。
【発明の概要】
【0011】
(発明の概要)
第1の態様により、血管癌又は血液系癌の診断又は検出のための血漿試料中のバイオマーカーとしての細胞外遊離ヌクレオソームの使用を提供する。
【0012】
さらなる態様により、血液系癌の診断又は検出のための血漿試料中のバイオマーカーとしての細胞外遊離ヌクレオソームの使用を提供する。
【0013】
さらなる態様により、血管癌の診断又は検出のための血漿試料中のバイオマーカーとしての細胞外遊離ヌクレオソームの使用を提供する。
【0014】
さらなる態様により、血管癌又は血液系癌の診断又は検出のための方法であって:
(i)該対象から取得した血漿試料を結合剤と接触させて、細胞外遊離ヌクレオソームを検出し、又は測定する工程;及び
(ii)検出された細胞外遊離ヌクレオソームのレベルを使用して、該血管癌又は血液系癌を有する対象を診断する工程、を含む、前記方法を提供する。
【0015】
さらなる態様により、血管癌又は血液系癌を有する対象の予後を決定するための方法であって:
(i)該対象から取得した血漿試料を結合剤と接触させて、細胞外遊離ヌクレオソームを検出し、又は測定する工程;及び
(ii)検出された細胞外遊離ヌクレオソームのレベルを、該血管癌又は血液系癌の予後の指標として使用する工程、を含む、前記方法を提供する。
【0016】
さらなる態様により、血管癌又は血液系癌を有する、有する疑いがある、又はこれらにかかりやすい対象において、治療の有効性をモニタリングするための方法であって:
(i)該対象から取得した血漿試料を結合剤と接触させて、細胞外遊離ヌクレオソームを検出し、又は測定する工程;及び
(ii)検出された細胞外遊離ヌクレオソームのレベルを該対象から以前に採取した血漿試料と比較して、該治療の有効性を決定する工程、を含む、前記方法を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0017】
(図面の簡単な説明)
【
図1】健康なヒト対象並びに急性リンパ球性白血病(ALL)、急性骨髄性白血病(AML)、及び非ホジキンリンパ腫(NHLym)を有するヒト対象から取得した血漿試料中のH3.1を含む細胞外遊離ヌクレオソームの濃度。
【
図2】異なる種類の癌を有するヒト対象から取得した血漿試料中のH3.1を含む細胞外遊離ヌクレオソームの濃度。
【
図3】健康なヒト対象由来の血漿試料中のH3シトルリン化(H3cit)を含む細胞外遊離ヌクレオソームのELISA吸光度(OD)の結果の、(A)試験した全ての種類の血液系癌からの結果、並びに(B)ALL、AML、及びNHLを有するヒト対象からの結果との比較。
【
図4】健康なヒト対象由来の血漿試料中のH3K27Me3を含む細胞外遊離ヌクレオソームのELISA ODの結果の、(A)試験した全ての種類の血液系癌からの結果、並びに(B)ALL、AML、及びNHLを有するヒト対象からの結果との比較。
【
図5】健康なヒト対象由来の血漿試料中のH4汎アセチル化(H4panAc)を含む細胞外遊離ヌクレオソームのELISA相対発光量単位(RLU)の結果の、(A)試験した全ての種類の血液系癌からの結果、並びに(B)ALL、AML、及びNHLを有するヒト対象からの結果との比較。
【
図6】(A)健康なイヌ対象から採取した血漿試料中のヒストンアイソフォームH3.1(ng/ml)を含む細胞外遊離ヌクレオソームのELISAの結果の、リンパ腫と診断されたイヌ対象との比較、及び(B)H3.1の結果を使用した、イヌリンパ腫の検出を示すROC曲線。
【
図7】(A)健康なイヌ対象から採取した血漿試料中のヒストンアイソフォームH3.1(ng/ml)を含む細胞外遊離ヌクレオソームのELISAの結果の、血管肉腫と診断されたイヌ対象との比較、及び(B)H3.1の結果を使用した、イヌ血管肉腫の検出を示すROC曲線。
【
図8】血管肉腫の治療下にある2頭のイヌ対象から連続的に採取した血漿試料中のヒストンアイソフォームH3.1(ng/ml)及びCRP(μg/ml)を含む細胞外遊離ヌクレオソームのELISAの結果。
【
図9】リンパ腫の治療下にある2頭のイヌ対象から連続的に採取した血漿試料中のヒストンアイソフォームH3.1(ng/ml)及びCRP(μg/ml)を含む細胞外遊離ヌクレオソームのELISAの結果。
【発明を実施するための形態】
【0018】
(詳細な説明)
第一の態様により、血管癌又は血液系癌の診断又は検出のための、血漿試料中のバイオマーカーとしての細胞外遊離ヌクレオソームの使用を提供する。特に、癌は血液系癌である。
【0019】
ヌクレオソームはクロマチン構造の基本単位であり、8つの高度に保存されたコアヒストン(ヒストンH2A、H2B、H3、及びH4の各々の対から構成される)のタンパク質複合体からなる。この複合体の周りには、およそ146塩基対のDNAが巻きついている。別のヒストン、H1又はH5はリンカーとして作用し、クロマチンコンパクションに関与する。DNAは、しばしば「ひもでつながったビーズ」のようであると言われる構造の中で連続したヌクレオソームの周りに巻きつき、これはオープンな、又はユークロマチンの基本構造を形成する。圧縮された、又はヘテロクロマチン中で、このひもはコイル及びスーパーコイルを形成し、閉鎖した複合体構造となる(Herranz及びEstellerの文献(2007) Methods Mol. Biol. 361:25-62)。
【0020】
「ヌクレオソーム」への言及は、体液試料中で検出される場合、「細胞外遊離ヌクレオソーム」を指し得る。本文書の全体を通じ、細胞外遊離ヌクレオソームという用語は、1以上のヌクレオソームを含む任意の細胞外遊離クロマチン断片を含むことを意図していることは理解されよう。本明細書中で言及する細胞外遊離ヌクレオソームの「エピジェネティックな特徴」、「エピジェネティックシグナルの特徴」、又は「エピジェネティックシグナル構造」は、限定されることなく、1以上のヒストン翻訳後修飾、ヒストンアイソフォーム、修飾ヌクレオチド、及び/又はヌクレオソーム-タンパク質付加物中でヌクレオソームと結合するタンパク質を含み得る。
【0021】
細胞外遊離ヌクレオソームは、その構成要素との結合により検出され得ることは、理解されよう。本明細書で使用する「その構成要素」という用語は、ヌクレオソームの一部を指し、すなわちヌクレオソームの全体が検出される必要はない。細胞外遊離ヌクレオソームの構成要素は:ヒストンタンパク質(すなわち、ヒストンH1、H2A、H2B、H3、若しくはH4)、ヒストン翻訳後修飾、ヒストンバリアント若しくはアイソフォーム、ヌクレオソームに結合したタンパク質(すなわち、ヌクレオソーム-タンパク質付加物)、ヌクレオソームに会合したDNA断片、及び/又はヌクレオソームに会合した修飾ヌクレオチドからなる群から選択され得る。例えば、その構成要素は、ヒストン(アイソフォーム)H3.1又はヒストンH1又はDNAであり得る。
【0022】
本発明の方法及び使用では、(細胞外遊離)ヌクレオソーム自体のレベルを測定し得る。「ヌクレオソーム自体」への言及は、ヌクレオソームに何らかのエピジェネティックな特徴が含まれている場合でも、含まれていない場合でも関係なく、試料中に存在するヌクレオソームの総レベル又は総濃度を指す。ヌクレオソームの総レベルの検出は、典型的に全てのヌクレオソームに共通のヒストンタンパク質、例えばヒストンH4の検出を伴う。従って、ヌクレオソーム自体は、コアヒストンタンパク質、例えばヒストンH4を検出することにより測定することができる。本明細書に記載の通り、ヒストンタンパク質は真核生物細胞においてDNAを小さくまとめるために使用される、ヌクレオソームとして知られる構造単位を形成する。WO 2016/067029(参照により本明細書に組み込まれている)において過去報告されているように、特定のヒストンバリアント、例えばヒストンH3.1、H3.2、又はH3tを使用して、腫瘍細胞に起源を有する細胞外遊離ヌクレオソームを単離することができる。従って、腫瘍起源の細胞外遊離ヌクレオソームの総レベルを検出することができる。
【0023】
成人における正常な細胞のターンオーバーには、細胞分裂による1日に数千億個の細胞の発生と、主にアポトーシスによる同程度の数の死を伴う。アポトーシスのプロセスの中で、クロマチンはモノヌクレオソーム及びオリゴヌクレオソームに分解されて、細胞から放出される。正常な条件下では、健康な対象において見いだされる循環ヌクレオソームのレベルは低いことが報告されている。多くの癌、自己免疫疾患、炎症性状態、脳卒中、及び心筋梗塞を含む様々な状態を有する対象において、レベルの上昇が見いだされている(Holdenreider及びStieberの文献(2009) Crit Rev Clin Lab Sci, 46(1):1-24)。
【0024】
現在のヌクレオソームELISA法は通常アポトーシスを検出するための方法として、主に細胞培養で用いられるが(Salgameらの文献(1997) Nucleic Acids Res, 25(3):680-681; Holdenriederらの文献(2001)上掲; van Nieuwenhuijzeらの文献(2003) Ann Rheum Dis, 62:10-14)、血清及び血漿中の循環細胞外遊離ヌクレオソームの測定にも使用される(Holdenriederらの文献(2001))。死細胞によって循環中に放出される血清及び血漿の細胞外遊離ヌクレオソームのレベルは多くの異なる癌の研究においてELISA法により測定され、その潜在的なバイオマーカーとしての使用が評価されている。循環ヌクレオソームの平均レベルは、全てではないものの、ほとんどの試験された癌において高かったことが報告されている。しかしながら、悪性腫瘍を有する患者は、血清中ヌクレオソーム濃度が大きく異なることが報告されており、進行した腫瘍疾患を有する患者の中には、健康な対象に対し測定される範囲内の低い循環ヌクレオソームレベルを有することが見いだされるものもいた(Holdenriederらの文献(2001))。
【0025】
細胞外遊離ヌクレオソームは、モノヌクレオソーム若しくはオリゴヌクレオソーム、又はそれらの混合物であり得る。
【0026】
モノヌクレオソーム及びオリゴヌクレオソームは、酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)及びいくつかの報告されている方法により検出することができる(例えば、Salgameらの文献(1997); Holdenriederらの文献(2001); van Nieuwenhuijzeらの文献(2003))。これらのアッセイでは典型的に、抗ヒストン抗体(例えば、抗H2B、抗H3、又は抗H1、H2A、H2B、H3、及びH4)を捕捉抗体として、抗DNA又は抗H2A-H2B-DNA複合体抗体を検出抗体として利用する。
【0027】
循環ヌクレオソームは、タンパク質-核酸複合体の均質な群ではない。むしろ、それらは細胞死に際するクロマチンの消化から生じるクロマチン断片の異種混交性の群であり、特定のヒストンアイソフォーム(又はバリアント)、翻訳後のヒストン修飾、ヌクレオチド又は修飾ヌクレオチド、及びタンパク質付加物を含む極めて多様なエピジェネティック構造を含む。当業者には、ヌクレオソームレベルの上昇が、特定のヒストンアイソフォーム(又はバリアント)を含むヌクレオソーム、特定の翻訳後ヒストン修飾を含むヌクレオソーム、特定のヌクレオチド又は修飾ヌクレオチドを含むヌクレオソーム、及び特定のタンパク質付加物を含むヌクレオソームを含む、特定のエピジェネティックシグナルを含む、一部の循環ヌクレオソームのサブセットの上昇に関連することは明らかであろう。これらの種類のクロマチン断片のアッセイは、当該技術分野で公知である(例えば、参照により本明細書に組み込まれているWO 2005/019826、WO 2013/030579、WO 2013/030578、WO 2013/084002を参照されたい)。
【0028】
本発明の使用及び方法で使用するバイオマーカーは、細胞外遊離ヌクレオソーム自体及び/又は細胞外遊離ヌクレオソームのエピジェネティックな特徴のレベルであり得る。「エピジェネティックシグナル構造」及び「エピジェネティックな特徴」という用語は、本明細書において互換的に使用されることは、理解されよう。これらの用語はヌクレオソームの検出可能な特定の特徴を指す。一実施態様において、ヌクレオチソームのエピジェネティックな特徴は:翻訳後ヒストン修飾、ヒストンバリアント、特定のヌクレオチド、及びタンパク質付加物からなる群から選択される。
【0029】
一実施態様において、ヌクレオソームのエピジェネティックな特徴は、1以上のヒストンバリアント又はアイソフォームを含む。細胞外遊離ヌクレオソームのエピジェネティックな特徴は、ヒストンアイソフォーム、例えばコアヌクレオソームのヒストンアイソフォーム、特にヒストンH3アイソフォームであり得る。
【0030】
「ヒストンバリアント」及び「ヒストンアイソフォーム」という用語は、本明細書において互換的に使用され得る。また、ヌクレオソームの構造は、異なる遺伝子又はスプライシング産物であり、かつ異なるアミノ酸配列を有する代替のヒストンアイソフォーム又はバリアントを含むことにより、異なり得る。多くのヒストンアイソフォームが、当該技術分野において公知である。ヒストンバリアントは、個別の種類に細分されるいくつかのファミリーに分類され得る。多数のヒストンバリアントのヌクレオチド配列が公知であり、例えば米国立ヒトゲノム研究所NHGRIヒストンデータベース(Marino-Ramirezらの文献、「ヒストンデータベース:ヒストン及びヒストンフォールド含有タンパク質の統合リソース(The Histone Database: an integrated resource for histones and histone fold-containing proteins.)」Database Vol.2011.及びhttp://genome.nhgri.nih.gov/histones/complete.shtml)、GenBank (NIH遺伝子配列)データベース、EMBLヌクレオチド配列データベース、及び日本DNAデータバンク(DDBJ)において公開され、入手可能である。例えば、ヒストンH2のバリアントには、H2A1、H2A2、mH2A1、mH2A2、H2AX、及びH2AZがある。別の例では、H3のヒストンアイソフォームには、H3.1、H3.2、及びH3tがある。
【0031】
一実施態様において、ヒストンアイソフォームはH3.1である。本明細書で提示する実施例において示すように、H3.1は、健康な対象から血管癌又は血液系癌を有する対象を識別するのに有効であった。H3.1は、NHLを有する患者の84%を90%の特異度で健康対象から識別したため、リンパ腫を有する患者の特定に特に有効であった(表1を参照されたい)。
【0032】
ヌクレオソームの構造は、ヒストンタンパク質の翻訳後修飾(PTM)によって異なり得る。ヒストンタンパク質のPTMは典型的にコアヒストンの尾部で起こり、一般的な修飾には、リシン残基のアセチル化、メチル化、又はユビキチン化、並びにアルギニン残基のメチル化、及びセリン残基のリン酸化など多数がある。多くのヒストン修飾が当該技術分野で公知であり、その数は新たな修飾が特定されるにつれ、増加している(Zhao及びGarciaの文献, 2015 Cold Spring Harb Perspect Biol, 7: a025064)。従って、一実施態様において、細胞外遊離ヌクレオソームのエピジェネティックな特徴は、ヒストン翻訳後修飾(PTM)であり得る。ヒストンPTMは、コアヌクレオソーム、例えばH3、H2A、H2B、又はH4、特に、H3、H2A、又はH2BのヒストンPTMであり得る。特に、ヒストンPTMはヒストンH3 PTMである。そのようなPTMの例は、WO 2005/019826に記載されている。
【0033】
例えば、翻訳後修飾にはアセチル化、モノ-、ジ-、若しくはトリ-メチル化であり得るメチル化、リン酸化、リボシル化、シトルリン化、ユビキチン化、ヒドロキシル化、グリコシル化、ニトロシル化、グルタミン化(glutamination)、及び/又は異性化があり得る(Ausioの文献(2001) Biochem Cell Bio 79:693を参照されたい)。一実施態様において、ヒストンPTMはメチル化又はシトルリン化から選択される。さらなる実施態様において、ヒストンPTMはH3K27me3又はH3シトルリン(H3cit)である。なおさらなる実施態様において、ヒストンPTMはH3citである。本明細書で提示する実施例において示すように、H3citは、健康な対象から血管癌又は血液系癌を有する対象を識別するのに最も有効なヒストンPTMであった。
【0034】
関連するヒストン翻訳後修飾の群又はクラス(単一の修飾ではなく)も検出され得る。典型的な例には、限定されることなく、ヌクレオソームとの結合に方向づけられた1つの抗体又は他の選択的結合剤及び対象とするヒストン修飾の群との結合に方向づけられた1つの抗体又は他の選択的結合剤を利用する二部位免疫アッセイを含む。そのようなヒストン修飾の群との結合に方向づけられた抗体の例には、限定されることなく説明の目的で、抗汎アセチル化抗体(例えば、汎アセチルH4抗体[H4panAc])、抗シトルリン化抗体、又は抗ユビキチン抗体がある。
【0035】
一実施態様において、ヌクレオソームのエピジェネティックな特徴は、1以上のDNA修飾を含む。ヌクレオソームヒストンアイソフォーム及びPTMの組成によって仲介されるエピジェネティックシグナル伝達に加え、ヌクレオソームはそのヌクレオチド及び修飾ヌクレオチドの組成においても異なる。グローバルなDNAの低メチル化は癌細胞の特徴であり、一部のヌクレオソームは他のヌクレオソームよりも多くの5-メチルシトシン残基(若しくは、5-ヒドロキシメチルシトシン残基又は他のヌクレオチド若しくは修飾ヌクレオチド)を含み得る。一実施態様において、DNA修飾は5-メチルシトシン又は5-ヒドロキシメチルシトシンから選択される。
【0036】
一実施態様において、ヌクレオソームのエピジェネティックな特徴は、1以上のタンパク質-ヌクレオソーム付加物又は複合体を含む。さらなる種類の循環ヌクレオソームのサブセットはヌクレオソームタンパク質付加物である。クロマチンが、その構成要素であるDNA及び/又はヒストンに結合した多数の非ヒストンタンパク質を含むことは長年知られている。これらのクロマチン関連タンパク質は極めて多様な種類があり、様々な機能を有し、転写調節因子、転写増強因子、転写抑制因子、ヒストン調節酵素、DNA損傷修復タンパク質ほか多数を含む。ヌクレオソーム及び他の非ヒストンクロマチンタンパク質又はDNA、及び他の非ヒストンクロマチンタンパク質を含むこれらのクロマチン断片は、当該技術分野において記述されている。
【0037】
一実施態様において、ヌクレオソームに付加する(かつ従ってバイオマーカーとして使用され得る)タンパク質は:転写調節因子、高移動度群タンパク質、又はクロマチン調節酵素から選択される。「転写調節因子」への言及は、DNAに結合し、転写を促進し(すなわち、アクチベーター)又は抑制する(すなわち、リプレッサー)ことによって遺伝子発現を調節するタンパク質を指す。転写調節因子は、それが調節する遺伝子に隣接するDNAの特定の配列に結合する1以上のDNA結合ドメイン(DBD)を含む。本明細書に記載する全ての循環ヌクレオソーム及びヌクレオソームの部分、種類、又はサブグループは、本発明において有用であり得る。
【0038】
細胞外遊離ヌクレオソームの2以上のエピジェネティックな特徴は、本発明の方法及び使用において検出することができることは理解されよう。複数のバイオマーカーを、組合わせバイオマーカーとして使用することができる。従って一実施態様において、使用には、組合わせバイオマーカーとしての細胞外遊離ヌクレオソームの2以上のエピジェネティックな特徴を含む。エピジェネティックな特徴は、同種(例えば、PTM、ヒストンアイソフォーム、ヌクレオチド、又はタンパク質付加物)又は異種(例えば、ヒストンアイソフォームと組み合わせたPTM)であり得る。例えば、翻訳後ヒストン修飾及びヒストンバリアントを検出することができる(すなわち、2以上の種類のエピジェネティックな特徴を検出する)。あるいはさらに、2以上の種類の翻訳後ヒストン修飾を検出し、又は2以上の種類のヒストンアイソフォームを検出する。一態様において、使用は、血管癌又は血液系癌の診断又は検出のための、血漿試料中の組合わせバイオマーカーとしての、翻訳後ヒストン修飾及びヒストンアイソフォームを含む。一実施態様において、組合わせバイオマーカーはH3.1及びH3citである。代替の実施態様において、組合わせバイオマーカーはH3.1及びH3K27Me3である。
【0039】
「バイオマーカー」という用語は、プロセス、事象、又は状態の示差的な生物学的な又は生物由来の指標を意味する。バイオマーカーは、診断の方法、例えば臨床スクリーニング及び予後評価において、並びに治療結果のモニタリング、特定の治療的処置に最も反応する可能性が高い患者の特定、薬物スクリーニング、及び創薬において、使用することができる。バイオマーカー及びそれらの使用は、新規薬物治療の特定及び薬物治療の新規標的の同定に有益である。
【0040】
本明細書に記載する方法及び使用は、体液試料、特に血液、血清、又は血漿試料で検査することができる。好ましくは、血漿試料を使用する。血漿試料は、1以上の抗凝固剤、例えばエチレンジアミン四酢酸(EDTA)、ヘパリン、又はクエン酸ナトリウム、特にEDTAを含む収集チューブに収集することができる。
【0041】
(血液系癌)
血液系癌は血液の癌であるため、「血液癌」とも称し得る。血液系癌には主に3種類:異常な白血球の急速な産生により引き起こされる白血病;異常なリンパ腫細胞により引き起こされるリンパ腫;及び形質細胞の癌である骨髄腫がある。
【0042】
一実施態様において、血液系癌は、リンパ腫、白血病、骨髄腫、慢性骨髄増殖性疾患、意義不明のモノクローナル免疫グロブリン血症、骨髄異形成症候群、及びアミロイドーシスから選択される。さらなる実施態様において、血液系癌は白血病又はリンパ腫から選択される。
【0043】
白血病は白血球を冒し、冒される白血球の種類(骨髄性又はリンパ性)及び疾患が進行する方式(急性又は慢性)によって分類できる。これらに限定はされないが、急性リンパ芽球性白血病(ALL;急性リンパ球性白血病とも呼ばれ得る)、急性骨髄性白血病(AML)、急性巨核芽球性白血病(AMKL)、急性前骨髄球性白血病(APL)、小児急性骨髄性白血病(C-AML)、小児急性リンパ球性白血病(C-ALL)、慢性好酸球性白血病(CEL)、慢性リンパ球性白血病(CLL)、慢性骨髄性白血病(CML)、慢性骨髄単球性白血病(CMML)、慢性好中球性白血病、ヘアリー細胞白血病、若年性骨髄単球性白血病(JMML)、大顆粒リンパ球性白血病(LGLL)、T細胞急性リンパ芽球性白血病、及び前リンパ球性白血病を含むいくつかの種類の白血病が特定されている。
【0044】
一実施態様において、白血病は、急性白血病、例えば急性リンパ球性白血病(ALL)、急性骨髄性白血病(AML)、急性巨核芽球性白血病(AMKL)、又は急性前骨髄球性白血病(APL)である。さらなる実施態様において、白血病は、急性リンパ球性白血病(ALL)及び急性骨髄性白血病(AML)から選択される。あるいは一実施態様において、白血病は慢性白血病、例えば慢性好酸球性白血病(CEL)、慢性リンパ球性白血病(CLL)、慢性骨髄性白血病(CML)、慢性骨髄単球性白血病(CMML)、又は慢性好中球性白血病である。
【0045】
ホジキンリンパ腫(HL)及び非ホジキンリンパ腫(NHL)は両方ともリンパ腫である。NHL患者の大多数は最初に診断された時点で55歳を超えているのに対し、ホジキンリンパ腫の診断を受ける年齢の中央値は39歳である。一実施態様において、リンパ腫は非ホジキンリンパ腫(NHL)である。NHLは体のあらゆる位置のリンパ節で発生し得るのに対し、HLは典型的に、上半身、例えば首、胸、又は腋で発生する。
【0046】
ホジキンリンパ腫は早期に診断されることが多いため、最も治療しやすい癌の1つと考えられている。非ホジキンリンパ腫は典型的に、より進行した病期に達するまで診断されないため、本発明の方法は、疾患の早期で患者を検出し、治療転帰を改善することが要望されている、NHLの診断において特別な用途を見いだす。
【0047】
(他の血液癌)
血管肉腫(angiosarcoma)及び血管肉腫(hemangiosarcoma)は、血管系の内側を縁取る細胞の増殖を伴う軟部組織癌であるため、「血管癌」と呼ばれ得る。造血系癌と同様に、これらは脈管構造と密接に関連し、冒された細胞は循環する血液と直接接触する。本件発明者らは、これらの血液癌がリンパ腫において観察されるレベルと同程度の非常に高レベルの循環ヌクレオソームと関連していることを示す。
【0048】
(検出及び診断方法)
本発明は、血管癌又は血液系癌を有する患者の検出又は診断に使用可能な方法を提供する。従って、さらなる態様により、血管癌又は血液系癌を診断し、又は検出するための方法であって:
(i)該対象から取得した血漿試料を結合剤と接触させて、細胞外遊離ヌクレオソームを検出し、又は測定する工程;及び
(ii)検出された細胞外遊離ヌクレオソームのレベルを使用して、該血管癌又は血液系癌を有する対象を診断する工程、を含む、前記方法を提供する。
【0049】
さらなる態様により、血液系癌を診断し、又は検出するための方法であって:
(i)該対象から取得した血漿試料を結合剤と接触させて、細胞外遊離ヌクレオソームを検出し、又は測定する工程;及び
(ii)検出された細胞外遊離ヌクレオソームのレベルを使用して、血液系癌を有する対象を診断する工程、を含む、前記方法を提供する。
【0050】
あるいはさらなる態様により、血管癌を診断し、又は検出するための方法であって:
(i)該対象から取得した血漿試料を結合剤と接触させて、細胞外遊離ヌクレオソームを検出し、又は測定する工程;及び
(ii)検出された細胞外遊離ヌクレオソームのレベルを使用して、血管癌を有する対象を診断する工程、を含む、前記方法を提供する。
【0051】
さらなる態様により、血管癌又は血液系癌を有する対象の予後を決定するための方法であって:
(i)該対象から取得した血漿試料を結合剤と接触させて、細胞外遊離ヌクレオソームを検出し、又は測定する工程;及び
(ii)検出された細胞外遊離ヌクレオソームのレベルを、該血管癌又は血液系癌の予後の指標として使用する工程、を含む、前記方法を提供する。
【0052】
対象が血管癌又は血液系癌を有しないと決定された場合でも、本発明はなお疾患の進行をモニタリングする目的で使用することができる。例えば、使用が血管癌又は血液系癌を有さないと決定された対象由来の試料を含む場合、バイオマーカーレベルの測定を繰り返して別の時点でも行い、バイオマーカーレベルが変化したかどうかを確立することができる。
【0053】
さらなる態様により、血管癌又は血液系癌を有する、有する疑いがある、又はこれらにかかりやすい対象において、治療の有効性をモニタリングするための方法であって:
(i)該対象から取得した血漿試料を結合剤と接触させて、細胞外遊離ヌクレオソームを検出し、又は測定する工程;及び
(ii)検出された細胞外遊離ヌクレオソームのレベルを該対象から以前に採取した血漿試料と比較して、該治療の有効性を決定する工程、を含む、前記方法を提供する。
【0054】
検出及び/又は定量は、精製若しくは濃縮されたヌクレオソーム試料に対して直接的に、又は該試料からの抽出物若しくはその希釈物に対して間接的に、実施することができる。試料中に存在するバイオマーカーの量の定量化には、試料中に存在するバイオマーカーの濃度を決定することを含み得る。本明細書に記載する本発明による使用及び検出、モニタリング、及び診断の方法は、疾患の存在を確認し、発症及び進行を評価することにより疾患の発展をモニタリングし、又は疾患の改善又は逆行を評価するのに有用である。また、使用並びに検出、モニタリング、及び診断の方法は、臨床スクリーニングの評価、予後、治療の選択、治療利益の評価、すなわち薬物スクリーニング及び創薬の方法に有用である。
【0055】
検出又は測定は、免疫アッセイ、免疫化学、質量分析、クロマトグラフィー、クロマチン免疫沈降、又はバイオセンサー法を含み得る。特に、検出及び/又は測定は、ヌクレオソーム部分の二部位免疫アッセイ法を含み得る。そのような方法は、2つの抗ヌクレオソーム結合剤又は抗ヌクレオソーム結合剤を抗ヒストン修飾又は抗ヒストンバリアント又は抗DNA修飾又は抗付加タンパク質検出結合剤と組み合わせたものを利用して、インサイチュでヌクレオソーム又はエピジェネティックな特徴が組み込まれたヌクレオソームの測定に好ましい。また、検出及び/又は測定は、標識抗ヌクレオソーム検出結合剤を固定化された抗ヒストン修飾又は抗ヒストンバリアント又は抗DNA修飾又は抗付加タンパク質結合剤と組み合わせたものを利用した、二部位免疫アッセイを含み得る。
【0056】
バイオマーカー(複数可)のレベルの検出又は測定は、好適な結合剤などの1以上の試薬を使用して実施することができる。例えば、1以上の結合剤は、所望のバイオマーカー、例えばヌクレオソーム又はその構成要素部分、ヌクレオソームのエピジェネティックな特徴、ヌクレオソームの構造/形状模倣物又はその構成要素部分、任意にこれらを1以上のインターロイキンと組み合わせたものに特異的なリガンド又は結合剤を含み得る。
【0057】
当業者には、本明細書で使用する「抗体」、「結合剤」、又は「リガンド」という用語は、限定するものでないものの、特定の分子又は実体と結合することができる任意の結合剤を含むことを意図するものであること、及び任意の好適な結合剤を本発明の方法において使用することができることは、明らかであろう。また、「ヌクレオソーム」という用語は、流体媒体中で分析することができるモノヌクレオソーム及びオリゴヌクレオソーム、並びに任意のタンパク質-DNAクロマチン断片を含むことを意図するものであることは、明らかであろう。
【0058】
バイオマーカーを検出する方法は、当該技術分野で公知である。試薬は、所望の標的との特異的結合が可能な1以上のリガンド又は結合剤、例えば、天然化合物又は化学合成化合物を含み得る。リガンド又は結合剤は、所望の標的との特異的結合が可能なペプチド、抗体、若しくはそれらの断片、又はプラスチック抗体などの合成リガンド、又はアプタマー、又はオリゴヌクレオチドを含み得る。抗体は、モノクローナル抗体又はその断片であり得る。抗体断片を使用する場合、それはバイオマーカーと結合する能力を保持する結果、(本発明に従い)バイオマーカーを検出することができることは理解されよう。リガンド/結合剤は、検出可能なマーカー、例えば発光、蛍光、酵素、又は放射性マーカーで標識することができ;あるいはさらに、本発明によるリガンドはアフィニティータグ、例えばビオチン、アビジン、ストレプトアビジン、又はHis(例えば、ヘキサ-His)タグで標識することができる。あるいは、リガンド結合は、無標識技術、例えばForteBio社の無標識技術を使用して決定することができる。
【0059】
本明細書で使用する「検出する」又は「診断する」という用語は、疾患状態の特定、確認、及び/又は特性評価を包含する。本発明による検出、モニタリング、及び診断の方法は、疾患の存在を確認し、発症及び進行を評価することにより疾患の発展をモニタリングし、又は疾患の改善又は逆行を評価するのに有用である。また、検出、モニタリング、及び診断の方法は、臨床スクリーニングの評価、予後、治療の選択、治療利益の評価、すなわち薬物スクリーニング及び創薬の方法に有用である。
【0060】
一実施態様において、本明細書に記載の方法は複数の時機に繰り返す。本実施態様は、検出結果を一定期間にわたりモニタリングすることを可能とするという利点を提供する。そのような計画は、疾患状態の治療の有効性をモニタリングし、又は評価することの利益を提供する。本発明のそのようなモニタリング方法を使用して、発症、進行、安定化、改善、再発、及び/又は寛解をモニタリングすることができる。
【0061】
モニタリング方法において、検査試料は2以上の時機に採取し得る。本方法は、検査試料中に存在するバイオマーカー(複数可)のレベルを、1以上の対照及び/又は例えば治療開始前に同じ検査対象から、及び/又は治療のより早期段階の同じ検査対象から、以前に採取した1以上の過去の検査試料と比較することをさらに含み得る。本方法は、異なる時機に採取された検査試料中のバイオマーカー(複数可)の性質又は量の変化を検出することを含み得る。
【0062】
検査試料中のバイオマーカーのレベルの同じ検査対象から以前に採取された過去の検査試料におけるレベルと比較した変化は、障害又は疑いのある障害に対するその治療の有益な効果、例えば安定化又は改善を示すことができる。さらに、治療が完了したら、疾患の再発をモニタリングするため、本発明の方法を定期的に繰り返すことができる。
【0063】
治療の有効性をモニタリングする方法を使用して、ヒト対象及び非ヒト動物(例えば、動物モデル)における既存の治療法及び新規治療法の治療有効性をモニタリングすることができる。これらのモニタリング方法は、新規な原薬及び物質の組合わせのスクリーニングに組み込むことができる。
【0064】
さらなる実施態様において、迅速に作用する治療によるより急速な変化のモニタリングを、より短い時間又は日数の間隔で実施することができる。
【0065】
診断又はモニタリングのキット(又はパネル集団)を、本発明の方法を実施するために提供する。そのようなキットは、好適には本発明によるバイオマーカーの検出及び/若しくは定量用の1以上のリガンド、並びに/又は本明細書に記載するバイオセンサ及び/若しくはアレイを、任意にキットの使用説明書とともに含む。
【0066】
本発明のさらなる態様は、疾患状態の存在を検出するためのキットであって、本明細書で定義する1以上のバイオマーカーを検出し、かつ/又は定量することが可能なバイオセンサを含む、前記キットである。本明細書で使用する「バイオセンサ」という用語は、バイオマーカーの存在を検出可能なあらゆるものを意味する。バイオセンサの例は、本明細書に記載されている。バイオセンサは、バイオマーカーとの特異的結合が可能な、本明細書に記載のリガンド結合剤又はリガンドを含み得る。そのようなバイオセンサは、本発明のバイオマーカーの検出及び/又は定量化に有用である。
【0067】
好適には、1以上のバイオマーカーの検出のためのバイオセンサは、生体分子の認識を、試料中のバイオマーカーの存在の検出又は定量結果をシグナルに変換する適切な手段と組み合わせる。バイオセンサは、診断検査を行う「代替現場」、例えば病棟、外来科(outsubjects’ department)、手術室、自宅、フィールド、及び職場に適応させることができる。本発明の1以上のバイオマーカーを検出するバイオセンサには、音響、プラズモン共鳴、ホログラフィー、バイオレイヤー干渉測定(BLI)、及びマイクロエンジニアリングセンサがある。インプリント認識エレメント、薄膜トランジスタ技術、磁気音響レゾネータ装置、及び他の新規音響電気システムを、1以上のバイオマーカーを検出するためのバイオセンサに利用することができる。
【0068】
疾患の存在を検出するためのバイオマーカーは、障害の進行を遅らせ、又は停止させる新規標的及び薬物分子を発見するためのきわめて重要な標的である。バイオマーカーのレベルは障害及び薬物反応を示すため、バイオマーカーはインビトロ及び/又はインビボアッセイにおける新規治療化合物の同定に有用である。本明細書に記載のバイオマーカーは、バイオマーカーの活性を調節する化合物のスクリーニング方法に利用することができる。
【0069】
従って、本発明のさらなる態様において、記載された通り、本発明によるバイオマーカーに方向づけられたペプチド、抗体、若しくはそれらの断片、又はアプタマー、又はオリゴヌクレオチドであり得る結合剤又はリガンドの使用;あるいはバイオマーカーの生成を促進し、かつ/又は抑制し得る物質を同定するための本発明によるバイオセンサ、又はアレイ、又はキットの使用を提供する。
【0070】
本明細書に記載の免疫アッセイには、本明細書で定義するバイオマーカーに結合するよう方向づけられた1以上の抗体又は他の特異的結合剤を利用する任意の方法がある。免疫アッセイには、酵素検出法を利用する二部位免疫アッセイ又は免疫測定アッセイ(例えば、ELISA)、蛍光標識免疫測定アッセイ、時間分解蛍光標識免疫測定アッセイ、化学発光免疫測定アッセイ、免疫比濁アッセイ、微粒子標識免疫測定アッセイ、及び免疫放射分析アッセイ、並びに一部位免疫アッセイ、試薬限定免疫アッセイ、標識抗原及び標識抗体を含む競合的免疫アッセイ法、放射性、酵素、蛍光、時間分解蛍光、及び微粒子標識を含む、様々な種類の標識を用いる単一抗体免疫アッセイ法がある。上記の免疫アッセイ法は全て、当技術分野において周知されている。例えばSalgameらの文献(1997)及びvan Nieuwenhuijzeらの文献(2003)を参照されたい。
【0071】
特定、検出、及び/又は定量化は、対象由来の生体試料、又は生体試料の精製物若しくは抽出物若しくはそれらの希釈物中の特定のタンパク質の存在及び/又は量を特定するのに好適な任意の方法により実施することができる。特に、定量化は1以上の試料中の標的の濃度を測定することにより実施することができる。本発明の方法において検査され得る生体試料には、本明細書中上記において定義した生体試料がある。試料は通常の方法で調製し、例えば適宜希釈又は濃縮し、かつ保存することができる。本発明は、対象から取得できる血漿試料において特定の用途が見いだされる。
【0072】
バイオマーカーの特定、検出、及び/又は定量化は、バイオマーカー又はその断片、例えばC末端が切断された断片、又はN末端が切断された断片の検出により実施され得る。断片は、好適には長さが4アミノ酸超、例えば長さが5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、又は20アミノ酸である。特に、ヒストン尾部の配列と同じ又は関連する配列のペプチドは、特に有用なヒストンタンパク質の断片であることに留意されたい。
【0073】
例えば、検出及び/定量化は: SELDI(-TOF)、MALDI(-TOF)、1-Dゲルベース分析、2-Dゲルベース分析、質量分析(MS)、逆相(RP)LC、サイズ浸透(ゲルろ過)、イオン交換、アフィニティー、HPLC、UPLC、及び他のLC又はLC MSベースの技術からなる群から選択される1以上の方法により実施することができる。適切なLC MS技術には、ICAT(登録商標)(Applied Biosystems、CA、USA)又はiTRAQ(登録商標)(Applied Biosystems、CA、USA)がある。液体クロマトグラフィー(例えば、高圧液体クロマトグラフィー(HPLC)又は低圧液体クロマトグラフィー(LPLC))、薄層クロマトグラフィー、NMR(核磁気共鳴)分光法も使用可能である。
【0074】
本発明の1以上のバイオマーカーの検出及び/又は定量化を伴う方法は、実験机上の機器で実施することができ、又は実験室外の環境、例えば医師の執務室若しくは対象のベッド脇において使用可能な使い捨ての診断若しくはモニタリングプラットフォームに組み込むことができる。本発明の方法の実施に好適なバイオセンサには、光学又は音響リーダを備えた「クレジット」カードがある。バイオセンサは、収集されたデータを電子的に送信して医師の解釈に付すことを可能とするように構成され、従ってe-medicineの基盤を形成し得る。
【0075】
疾患状態のバイオマーカーの特定は、診断手順及び治療レジメンの統合を可能とする。バイオマーカーは、治療反応、反応の失敗、望ましくない副作用プロファイル、服薬コンプライアンスの程度、及び適切な血清薬物レベルの達成を示す手段を提供する。バイオマーカーを使用して、有害薬物反応の警告を提供することができる。反応の評価を使用して、投薬量を微調整し、処方される投薬の回数を最小限に抑え、効果的な治療の達成の遅延を低下させ、有害薬物反応を回避することができるため、バイオマーカーは、オーダーメイド治療の開発に有用である。従って本発明のバイオマーカーをモニタリングすることにより、対象の障害及び薬理ゲノムプロファイルによって決定されるニーズに適合するよう対象のケアを的確に合わせることができ、そのためにバイオマーカーを使用して、最適な用量を調整し、肯定的な治療反応を予測し、かつ重篤な副作用のリスクが高い対象を特定することができる。
【0076】
バイオマーカーベースの検査は、現在の手段を使用しては達成できない「新規」対象の第一選択評価を提供し、正確かつ迅速な診断のための客観的な手段を提供する。
【0077】
また、バイオマーカーをモニタリングする方法、バイオセンサ、及びキットは、再発が障害の悪化によるものであるかどうかを医師が決定できるようにするための対象モニタリングツールとして重要である。薬理学的治療が不十分であると評価された場合、治療を再開又は増加させることができ;適切な場合治療を変化させることができる。バイオマーカーは障害の状態に敏感であるため、バイオマーカーは薬物治療の影響の指標を提供する。
【0078】
「対象」又は「患者」への言及は、本明細書において互換的に使用される。対象は、ヒト又は動物対象であり得る。一実施態様において、対象はヒトである。一実施態様において、対象は(非ヒト)動物である。一実施態様において、対象は非ヒト哺乳動物、例えばイヌ、マウス、ラット、又はウマ、特にイヌである。本明細書に記載の使用、パネル、及び方法は、インビトロ、インビボ、又はエクスビボで実施され得る。
【0079】
一実施態様において、対象は血管癌又は血液系癌の再発の疑いがある。微小残存病変(MRD)とは、治療中の患者において、又は患者が寛解にある(すなわち、患者が疾患の症状も徴候も有さない)場合に治療後に残る少数の白血病細胞(骨髄由来癌細胞)に与えられた名称である。しかしながら、MRDは癌及び白血病における再発の主な原因である。従って、本発明の方法は、再発の疑いがある患者、特に癌からの寛解にある患者のモニタリングに有用である。
【0080】
本明細書に記載の方法を使用して検査した対象は、血液系癌を示す症状、例えば貧血、白血球増多症、及び/又は腫脹リンパ節を提示し得る。一実施態様において、対象は高レベルの白血球増多症を有する。これは、「高い白血球数」とも呼ばれ得る。血液系癌は典型的に、異常な白血球又は赤血球の増殖の増加を引き起こし、高い白血球数をもたらす。しかしながら、白血球増多症は炎症反応、最も一般的には感染症の結果としての炎症反応の徴候であることが多いため、白血球増多症は血液系癌(特に白血病)を有する患者を診断するのに十分ではない。従って、本発明の方法は、血液系癌に罹患している可能性が高い患者を検出するためのより具体的な方法を提供し得る。
【0081】
検出結果及び/又は定量結果は、カットオフレベルと比較することができる。カットオフ値は、複数の患者及び対照からの結果を分析し、疾患を有しているか、又は有していないものとして対象を分類するのに好適な値を決定することにより、事前に決定することができる。例えば、疾患に罹患している患者のバイオマーカーのレベルがより高い疾患について、検出されたレベルがカットオフより高い場合、患者がその疾患に罹患していることが示される。あるいは、疾患に罹患している患者のバイオマーカーのレベルがより低い疾患について、検出されたレベルがカットオフより低い場合、患者がその疾患に罹患していることが示される。単純なカットオフ値を使用することの利点には、臨床医が検査を容易に理解できること、及び検査結果の解釈にソフトウェア又は他の補助のあらゆる必要性が排除されることがある。カットオフレベルは、当該技術分野における方法を使用して決定することができる。
【0082】
また、検出結果及び/又は定量結果は、対照と比較することができる。当業者には、例えば疾患を有さないことが分かっている対象を含み得、又は異なる疾患を有する(例えば、異なる診断の研究のための)対象であり得る対照対象は、様々な基準により選択され得ることは明らかであろう。「対照」には、健康な対象、非罹患対象、及び/又は血管癌若しくは血液系癌を有さない対象を含み得る。対照との比較は、診断の分野において周知されている。
【0083】
従って、一実施態様において、本方法は、該血漿試料中の該細胞外遊離ヌクレオソームのレベルを1以上の対照と比較することをさらに含む。例えば、本方法は、対象から取得した血漿試料中に存在する細胞外遊離ヌクレオソームのレベルを、正常な対象から取得した血漿試料中に存在する細胞外遊離ヌクレオソームのレベルと比較することを含み得る。対照は健康な対象であり得る。あるいは、対照は罹患した対象、例えば感染症を有する対象であり得る。
【0084】
あるいは、対照は、血管癌又は血液系癌ではない癌を有する対象、すなわち、体の異なる器官を冒す癌を有する対照対象である。本明細書で提供するデータは、本発明のバイオマーカーが他の形態の癌を有する患者と比較して血液癌患者において有意に上昇したことを示し、従って本発明のバイオマーカーを使用して、血管癌又は血液系癌を有する患者を他の形態の癌を有する患者とは区別して診断することができる。従って、一態様において、診断は血管癌又は血液系癌を非血管癌又は非血液系癌と区別して診断することを含む。「非血管癌又は非血液系癌」は血液癌ではなく、血液細胞又は血管細胞の増殖を伴わない癌、例えば膀胱癌、骨癌、脳癌、食道癌、頭頸部癌、皮膚癌(例えば、黒色腫)、甲状腺癌、舌癌、子宮癌、及び/又は子宮頸癌である。
【0085】
対照は、高レベルの白血球増多症を有する対象であり得る。本明細書で論ずるように、白血球増多症は白血病に固有の症状ではない。従って、本発明の方法を使用して血管癌又は血液系癌の結果ではない高レベルの白血球増多症を有する対照、例えば炎症、感染症を有し、及び/又は薬物治療を受けている対照を比較することができる。
【0086】
一実施態様において、細胞外遊離ヌクレオソームのレベルは対照と比較して上昇する。
【0087】
いかなる場合でも、比較目的で対照レベルを測定することが必要なわけではないことは、理解されよう。例えば、健康な/非罹患対照について、一度「正常範囲」が確立されると、それは全ての後続の検査の基準として使用することができる。正常範囲は、血管癌又は血液系癌を有さない複数の対照対象から試料を取得すること、及びバイオマーカーのレベルを検査することにより確立することができる。血管癌又は血液系癌を有する疑いがある対象の結果(すなわち、バイオマーカーレベル)を続いて調べ、それらがそれぞれの正常範囲内にあるか、又は範囲外にあるかを確認することができる。「正常範囲」の使用は、疾患を検出するための標準的な慣例である。
【0088】
一実施態様において、本方法は、患者の少なくとも1つの臨床パラメータを決定することをさらに含む。このパラメータは、結果の解釈に使用することができる。臨床パラメータには、任意の関連する臨床情報、例えば限定することなく、性別、体重、ボディーマス指数(BMI)、喫煙状態、及び食習慣があり得る。従って、一実施態様において、臨床パラメータは:年齢、性別、及びボディーマス指数(BMI)からなる群から選択される。
【0089】
一実施態様において、本発明の方法は、血管癌又は血液系癌を有するリスクが高く、従ってさらなる検査(すなわち、さらなる癌調査)が必要な対象を特定するために実施する。さらなる検査は、1以上の:生検(例えば骨髄生検又はリンパ節生検)、細胞遺伝学検査、免疫表現型判定、CTスキャン、X線(特に、腫脹リンパ節を特定する胸部X線)、及び/又は腰椎穿刺を含み得る。
【0090】
本明細書に記載の方法及びバイオマーカーを使用して、患者が生検、特に骨髄生検又はリンパ節生検を必要としているかどうかを特定することができる。従って、本発明のさらなる態様により、生検を必要とする患者を特定する方法であって、該患者から血漿試料を取得すること、血漿試料中の細胞外遊離ヌクレオソームのレベルを検出すること、及びパネル検査から取得した結果を使用して、患者が生検を必要としているかどうかを特定すること、を含む、前記方法を提供する。
【0091】
本発明のさらなる態様により、生検を必要とする患者を特定する方法であって、該患者から血漿試料を取得すること、試料を本明細書で定義するパネル検査に適用すること、及びパネル検査から取得した結果を使用して、患者が生検を必要とするかどうかを特定すること、を含む、前記方法を提供する。
【0092】
(追加のバイオマーカー)
細胞外遊離ヌクレオソームのレベルを検出し、又は測定パネルの1つとして測定することができる。パネルは、本明細書中上記した、ヌクレオソームの異なるエピジェネティックな特徴(例えば、ヒストンアイソフォーム及びPTM)を含み得る。一実施態様において、パネルは1以上のサイトカイン、例えば1以上のインターロイキンを含む。
【0093】
インターロイキン(IL)は、通常白血球により分泌されるサイトカインの一群であり、シグナル伝達分子として作用する。インターロイキンは免疫反応及び炎症の刺激において重要な役割を有する。インターロイキンは1970年代に最初に同定され、追加のインターロイキン種が発見されるたびに、数字で名付けられてきた。インターロイキンの例には、これらに限定はされないが: IL-1、IL-2、IL-3、IL-4、IL-5、IL-6、IL-7、IL-8、IL-9、IL-10、IL-11、IL-12、IL-13、IL-14、及びIL-15がある。
【0094】
一実施態様において、1以上のインターロイキンは、インターロイキン-6(IL-6)、インターロイキン-10(IL-10)、及びインターロイキン-1β(IL-1β)からなる群から選択される。
【0095】
インターロイキンはIL-6であり得る。インターロイキン-6(IL-6)は、極めて多様な生体機能を有するサイトカインである。IL-6は、発熱及び急性期反応の強力な誘導因子である。ヒトIL-6の配列は当該技術分野で公知であり、UniProt受託番号P05231において記述されている。特定の一実施態様において、インターロイキンはIL-6であり、測定パネルはヒストンアイソフォームH3.1及びIL-6の測定を含み得る。
【0096】
あるいはさらに、インターロイキンはIL-10であり得る。インターロイキン-10(IL-10)は、極めて多様な生体機能を有する抗炎症性サイトカインである。ヒトIL-10の配列は当該技術分野で公知であり、UniProt受託番号P22301において記述されている。特定の一実施態様において、インターロイキンはIL-10であり、測定パネルはヒストン翻訳後修飾H3cit及びIL-10の測定を含み得る。
【0097】
あるいはさらに、インターロイキンはIL-1βであり得る。インターロイキン-1β(IL-1β)は炎症促進性サイトカインであり、細胞の増殖、分化、及びアポトーシスを含む様々な細胞活動に関与する。特定の一実施態様において、インターロイキンはIL-1βであり、測定パネルはヒストンアイソフォームH3.1及びIL-1βの測定を含み得る。より詳細には、パネルはヒストンアイソフォームH3.1及びIL-1βの測定を含み得、ここで血管癌又は血液系癌はリンパ腫、例えばNHLである。
【0098】
一実施態様において、パネルは、細胞外遊離ヌクレオソームのエピジェネティックな特徴及びインターロイキンを含む。別の実施態様において、パネルは細胞外遊離ヌクレオソームのエピジェネティックな特徴及び2つのインターロイキンを含む。例えば、細胞外遊離ヌクレオソームの測定は、2以上のインターロイキンと組み合わせ、例えば、IL-6とIL-1β、又はIL-10とIL-1β、又はIL-6とIL-10として測定することができる。さらなる実施態様において、細胞外遊離ヌクレオソームのエピジェネティックな特徴は、ヒストンアイソフォーム、例えばH3.1、及び翻訳後修飾ヒストン、例えばH3citから選択される。なおさらなる実施態様において、測定パネルはH3.1、IL-6、及びIL-1βである。代替の実施態様において、測定パネルはH3cit、IL-10、及びIL-1βである。
【0099】
本発明のバイオマーカーを使用して、モデルを導くことができる。実施例の表5及び6におけるようなモデル又はアルゴリズムを導く方法は、当該技術分野で周知されており、好適なソフトウェアパッケージが利用可能である。この目的のための典型的なソフトウェアツールには、SPSS(社会科学のための統計パッケージ)及び「R」がある。これらのソフトウェアパッケージは、臨床データの線形及び非線形データモデリングを提供する。
【0100】
当業者には、本明細書で開示するバイオマーカーの任意の組合わせを、血管癌又は血液系癌の検出のためのパネル及びアルゴリズムにおいて使用することができること、及びさらなるマーカーをこれらのマーカーを含むパネルに追加することができることは、明らかであろう。
【0101】
本発明の態様により、血管癌又は血液系癌を有する患者を検出するためのパネル検査の使用であって、パネル検査が患者から取得した血漿試料中のヌクレオソーム又はその構成要素、及び1以上のインターロイキンの測定を検出するための試薬を含む、前記使用を提供する。
【0102】
(治療方法)
さらなる態様により、対象における血管癌又は血液系癌を治療する方法であって:
(i)対象から取得した血漿試料中の細胞外遊離ヌクレオソームのレベルを検出又は測定する工程;
(ii)工程(i)で測定されたレベルを、対象における血管癌又は血液系癌の存在の指標として使用する工程;及び
(iii)工程(ii)において対象が該血管癌又は血液系癌を有することが決定された場合、外科処置を行い、又は治療薬を投与する工程、を含む、前記方法を提供する。
【0103】
さらなる態様において、それを必要とする対象において血管癌又は血液系癌を治療する方法であって、該対象から取得した血漿試料中の細胞外遊離ヌクレオソームのレベルを、対照対象から取得した血漿試料中の細胞外遊離ヌクレオソームのレベルと比較した際に、異なっていると特定された対象に、外科処置を行い、又は治療薬を投与する工程を含む、前記方法を提供する。
【0104】
一実施態様において、治療は1以上の:化学療法、免疫療法、ホルモン療法、生物学的治療法、放射線療法、白血球アフェレーシス、及び幹細胞移植から選択される。
【0105】
本方法は:
(i)対象から取得した血漿試料中の細胞外遊離ヌクレオソームのレベルを(任意に1以上のインターロイキンのレベルと組み合わせて)測定すること;
(ii)対照と比較して、細胞外遊離ヌクレオソームのレベルがより高いことに基づいて、対象が血管癌又は血液系癌に罹患していると特定すること;及び
(iii)対象に治療を施すこと、を含み得る。
【0106】
本発明の別の態様により、血管癌又は血液系癌の治療方法であって、パネル検査を使用して血管癌又は血液系癌の治療を必要とする患者を特定すること、及び該治療を提供すること、を含み、パネル検査が、ヌクレオソーム又はその構成要素、及び1以上のインターロイキンの測定を検出するための試薬を含む、前記方法を提供する。血管癌又は血液系癌を有する患者は、対照と比較してより高レベルの細胞外遊離ヌクレオソームを有することが予想される。
【0107】
本明細書に記載の実施態様は、本発明の全ての態様に適用することができる、すなわち、使用の記載のある実施態様は、特許請求の範囲に記載の方法などに等しく適用することができることは、理解されよう。
【0108】
ここで本発明を、以下の非限定的な実施例を参照して説明する。
【実施例】
【0109】
(実施例)
(実施例1)
血漿試料を、116名のヒト対象のコホートから採取した。各対象について、全血採取物をEDTAバキュテイナチューブに収集し、チューブを穏やかに10回反転させた。採血から2時間以内に、全血を1500gで15分間遠心分離した。血漿をクライオチューブに移し、すぐに凍結させた。コホート内では、62名の対象が健康であり、25名の対象が非ホジキンリンパ腫(NHL)を有し、22名の対象が急性骨髄性白血病(AML)を有し、かつ7名の対象が急性リンパ芽球性白血病(ALL)を有していた。白血病又はリンパ腫を有する対象は、癌と診断されている患者(合計31名の対象、16名の対象がNHLと診断され、15名の対象が白血病と診断されている)、又は再発による癌を有する患者(合計15名の対象;6名の対象がNHLを再発し、9名の対象が白血病を再発している)にさらに分類することができた。
【0110】
試料をELISAによりH3.1を含むヌクレオソームについて分析した。簡潔に説明すると、ヒストンアイソフォームH3.1を含むヌクレオソームの測定を以下のように行った: 80μlのアッセイ緩衝液及び20μlの血漿試料又は標準ヌクレオソーム調製物を、ヒストンH3.1に結合するように方向づけられた抗体でコーティングされたマイクロタイターウェルに加えた。マイクロタイタープレートに蓋をし、室温で穏やかに振盪しながら2.5時間インキュベートした。マイクロタイターウェルの内容物を捨てた。ウェルを200μlの洗浄溶液で3回洗浄し、100μlのビオチン化抗ヌクレオソーム抗体を加えた。マイクロタイタープレートに再度蓋をし、室温で穏やかに振盪しながら1.5時間インキュベートした。マイクロタイターウェルの内容物を捨てた。ウェルを200μlの洗浄溶液で3回洗浄し、100μlのストレプトアビジン-HRP溶液を加えた。マイクロタイタープレートに再度蓋をし、室温で穏やかに振盪しながら0.5時間インキュベートした。マイクロタイターウェルの内容物を捨てた。ウェルを200μlの洗浄溶液で3回洗浄し、100μlのHRP(セイヨウワサビペルオキシダーゼ)基質溶液を加えた。マイクロタイタープレートに蓋をし、室温で穏やかに振盪しながら暗所で20分間インキュベートした。ウェルの吸光度(OD)を405nmで測定した。ODレベルを直接使用するか、又はヒストンH3.1を含むヌクレオソームの血漿レベルを標準曲線から内挿するかした。
【0111】
OD結果を、受信者操作特性(ROC)曲線としてプロットした。結果を、癌を有する全ての患者対健常者、ならびにリンパ腫を有する全ての患者対健常者、及び白血病を有する全ての患者(すなわち、ALL及びAMLを含む)対健常者について群別した。曲線下面積(AUC)の結果を表1~3に示す。
【0112】
(表1:血漿中のH3.1 ODに対するROC曲線―全ての患者)
【表1】
【0113】
(表2:血漿中のH3.1 ODに対するROC曲線―診断された患者)
【表2】
【0114】
(表3:血漿中のH3.1 ODに対するROC曲線―再発患者)
【表3】
【0115】
表1に示すように、H3.1を含む細胞外遊離ヌクレオソームのレベルは、75%超の血液癌患者を90%の特異度で健康なドナーから識別可能であった。この結果は表2に示すように、癌と診断されている患者については90%の特異度で80%超に増加し得る。また、NHLを有する患者の84%が90%の特異度で健康対象から識別されたため、この結果はこのバイオマーカーがリンパ腫を有する患者を特定するのに特に有効であることを示していた(表1を参照されたい)。
【0116】
全てのAML、ALL、及びNHL患者の血漿試料中のH3.1の濃度をOD値から内挿のための標準曲線を使用して導き、健康な患者におけるレベルと比較した結果を、
図1に示す。血液系癌を有する患者におけるH3.1のレベルは、健康対象と比較して、はっきりと上昇している。
【0117】
この結果は、ヌクレオソーム、特にH3.1を含むヌクレオソームのレベルを、血液系癌の検出に使用することができることを示している。
【0118】
(実施例2)
実施例1において試験したヒト血漿試料中のH3.1を含む細胞外遊離ヌクレオソームのレベルを、やはり実施例1に記載の通りに収集した他の形態の癌を有するヒト患者から取得した血漿試料中のH3.1のレベルとさらに比較した。
【0119】
結果を
図2に示す。意外にも、H3.1のレベルを使用して、他の形態の癌を有する患者に対して血液系癌を有する対象を区別することができることが見いだされた。各種の血液癌(ALL、AML、及びNHL)の患者におけるH3.1のレベルは、膀胱癌、骨癌、脳癌、食道癌、頭頸部癌、皮膚癌、甲状腺癌、舌癌、子宮癌及び子宮頸癌並びに黒色腫を有する患者からの血漿試料におけるH3.1のレベルと比較して、有意に上昇していた。
【0120】
(実施例3)
実施例1に記載のヒト血漿試料について、翻訳後修飾を有する細胞外遊離ヌクレオソームのレベルを試験した。ELISA法を、ヒストンH3.1と結合するように方向づけられた抗体を、H3cit、H3K27Me3、及びH4panAcから選択される翻訳後ヒストン修飾に方向づけられた抗体に置き換えたことを除き、実施例1に記載されたH3.1に対するELISA法と同様にして実施した。結果を表4にまとめる。また、全ての血液癌に対する結果及び各血液癌種に対する結果を図に示す(
図3~5を参照されたい)。
【0121】
(表4:血漿中のPTMヌクレオソームに対するROC曲線―全ての血液癌)
【表4】
【0122】
試験した全てのヌクレオソーム翻訳後修飾は、血液癌を有する患者において健康対照と比較して有意な上昇を示す。血液癌を種類(ALL、AML、NHL)別に分けた場合でさえも、H3cit、H3K27Me3、及びH4panAc細胞外遊離ヌクレオソームの血漿試料中のレベルは健康対照と比較して有意に上昇する(
図3B、4B、及び5Bを参照されたい)。翻訳後修飾ヌクレオソームのレベルは、ALLを有する患者から取得した血漿試料において最も大きく上昇した。
【0123】
(実施例4)
2つの最も優れた細胞外遊離ヌクレオソームマーカー(H3.1及びH3cit)を一つに組み合わせ、又は異なるインターロイキンの測定と組み合わせた。細胞外遊離ヌクレオソームのレベルを先に記載の通り測定し、血漿インターロイキンのレベルを市販のELISA法を使用して測定した。
【0124】
アッセイ結果をロジスティック回帰分析によってモデル化し、血液癌を有するヒト患者対正常ヒトドナーの比較のために最も高いAUCを用いてモデル又はアルゴリズムに学習させた。結果を表5にまとめる。
【0125】
(表5:血漿中の組合わせバイオマーカーパネルに対するROC曲線―全ての血液癌
♯)
【表5】
♯コホートサイズ: 54名の癌対62名の健康
【0126】
表5に示すように、全てのモデルは、75%超の血液癌患者を90%の特異度で健康なドナーから識別可能であった。結果は、ヌクレオソームのレベルをインターロイキンのレベルと組み合わせて、血液系癌の検出のための関連するアルゴリズムによる効果的なアッセイパネルとすることができることを示す。
【0127】
(実施例5)
NHLを有するヒト患者のみからの血漿試料を、実施例4に記載の通りロジスティック回帰分析によってモデル化した。結果を表6にまとめる。
【0128】
(表6:血漿中の組合わせバイオマーカーパネルに対するROC曲線―NHL癌
♯)
【表6】
♯コホートサイズ: 25名のNHL対62名の健康
【0129】
表6に示すように、全てのモデルは、80%超のNHLを有する患者を90%の特異度で健康なドナーから識別可能であった。特に、H3.1及びIL-1βの組合わせにより、100%のNHLを有する患者を80%の特異度で識別可能であった。結果は、ヌクレオソーム及びインターロイキンのレベルを使用して、NHLの検出のための関連するアルゴリズムによる効果的なアッセイパネルとすることができることを示す。
【0130】
(実施例6)
血漿試料を、イヌ血管肉腫と診断された73頭のイヌ、イヌリンパ腫と診断された127頭のイヌ、及び癌を有さない134頭の対照イヌから採取した。試料をELISAによりH3.1を含むヌクレオソームについて分析した。
【0131】
健康なイヌは一様に、ヒストンアイソフォームH3.1を含む循環ヌクレオソームの濃度が低く、67.4ng/ml未満(平均32ng/ml、中央値31ng/ml)であることが見いだされた。
【0132】
リンパ腫と診断されたイヌは、ヒストンアイソフォームH3.1を含む循環ヌクレオソームのレベルが大きく上昇する(平均570ng/ml、中央値211ng/ml)ことが見いだされた。イヌリンパ腫に対し取得した結果のドットプロット及びROC曲線を、それぞれ
図6A及び6Bに図示する。リンパ腫検出に対するAUCは87%であった。67.4ng/mlのカットオフを使用した場合、アッセイの特異度は100%であり、感度は74%であった。48.1ng/mlという比較的低いカットオフを使用した場合、81%の感度を与え、特異度は90%であった。
【0133】
また、血管肉腫と診断されたイヌは、ヒストンアイソフォームH3.1を含む循環ヌクレオソームのレベルが大きく上昇する(平均513ng/ml、中央値361ng/ml)ことが見いだされた。イヌ血管肉腫に対し取得した結果のドットプロット及びROC曲線を、それぞれ
図7A及び7Bに図示する。血管肉腫検出に対するAUCは97.6%であった。67.4ng/mlのカットオフを使用した場合、アッセイの特異度は100%であり、感度は89%であった。48.1ng/mlという比較的低いカットオフ値を使用した場合、95%の感度を与え、特異度は90%であった。
【0134】
また、ヒト疾患で見いだされたように、リンパ腫又は血管肉腫と診断されたイヌについて観察された循環ヌクレオソームのレベルは、調査した他のイヌ腫瘍について観察されたレベルよりもずっと高かった。
【0135】
ヒトタンパク質に対するアッセイのほとんどは、他の動物に転用することはできない。しかしながら、ヌクレオソームの構造は、種間で、かつ門間でさえも、高度に保存されている。本件発明者らは、このことがこのヒトH3.1ヌクレオソームに対するアッセイをイヌ及びウマを含む他の種に転用可能であることを意味することを示した。さらに、イヌ対象の血管癌及び造血系癌について本件発明者らが観察した結果は、ヒト対象において観察された結果と酷似している。本件発明者らは、本発明の方法が、ヒト及び動物の両方の血管癌及び造血系癌の検出に非常に有効な方法であると結論付ける。
【0136】
(実施例7)
一連の血漿試料を血管肉腫の治療を受けている2頭のイヌ及びリンパ腫の治療を受けている2頭のイヌから採取した。その情報が治療背景に基づきなされる臨床における治療決定に知見を与えないように、
図8における治療最終日の後、4頭のイヌからの全ての試料を収集し、その後ヒストンアイソフォームH3.1を含むヌクレオソームについて分析した。
【0137】
C反応性タンパク質(CRP)は周知の炎症のバイオマーカーである。ヌクレオソームのレベルが単に炎症反応を反映しているのか、又は対象の状態、予後、及び治療反応に関するさらなる情報を提供するのかを決定するための対照として、試料中のこのタンパク質も測定した。
【0138】
イヌ1(
図8A)は、血管肉腫と診断され、第1日に開始し、第129日まで続ける、CHOP(シクロホスファミド、ドキソルビシン、ビンクリスチン、及びプレドニゾン)として知られる4つの薬物の化学療法レジメンによる治療を受けていた。治療は成功し、イヌ1は第160日に治療背景について寛解にあると決定された。CHOP治療の成功は、治療経過にわたるヌクレオソームレベルの下降傾向に反映され、疾患の寛解は第122日までのほぼ正常なヌクレオソームレベルによって予測された。この結果は、ヌクレオソームレベルが予後の指標として有用であり、これを使用して治療レジメンを導き、寛解中に対象をモニタリングして疾患の再発を調べることができることを示す。CRP分析は臨床目的では有用ではなかった。
【0139】
イヌ2(
図8B)は、当初2017年に血管肉腫と診断され、ドキソルビシン及び免疫調節薬により治療された。このイヌは2~3ヵ月ごとに全身CTスキャンによって定期的にモニタリングされた。このイヌは2年後に再発したことが認められ、このことは高レベルの循環ヌクレオソームに反映される。この再発はドキソルビシン、ダカルバジン、及び免疫調節剤、並びに肺全体の放射線照射及び体幹部定位放射線治療(SBRT)により首尾よく治療され、かつイヌ2は全身CTイメージングに基づき寛解にあると決定された。様々な治療の成功は、2020年1月に測定されたほぼ正常なヌクレオソームレベルに反映されている。2020年2月に、イヌ2はイメージング結果を根拠に完全奏効を有すると診断されたが、興味深いことに、測定されたヌクレオソームレベルは2月に上昇し始め、その後2020年4月の次回のスキャンにおいてイメージングにより疾患進行を検出することができた。4月に疾患進行が認められたとき、ヌクレオソームのレベルは依然として高いままであった。治療時にヌクレオソームのレベルが分かっていれば、より徹底したモニタリングを2月の時点でこの患畜に対して確立していたであろう。この結果は、ヌクレオソームレベルを使用して治療レジメンを導き、寛解中に対象をモニタリングして疾患の再発を調べることができることを示す。CRP分析は臨床目的では有用ではなかった。
【0140】
イヌ3(
図9A)は2018年当初、リンパ腫と診断され、治療に成功したが、寛解という結果となった。このことは、測定されたヌクレオソームのレベルに反映されていた。このイヌの疾患進行(PD)に対し、第1日にCHOP化学療法レジメンの一部としてビンクリスチンによる治療を行った。ビンクリスチン治療により、臨床状態は安定(SD)へと改善され、このことは
図9Aの結果によって示されるように、ヌクレオソームレベルの低下に反映されていた。しかしながら、CHOP治療は毒性上の理由及び強い臨床反応が観察されないことの双方から、中止された。ロスムスチン+L-アスパラギナーゼ(L-spar)による治療を第22日に開始し、その後第34日、第79日、及び第113日にはさらなるロムスチン治療を行った。臨床所見は第34日及び第79日に腫瘍測定により決定された部分寛解まで改善し、その後第113日及び第145日の治療に対し完全奏効(CR)まで改善し、この時点まではイヌ3は寛解しており、さらなる化学療法は実施されなかった。ヌクレオソームレベルは第22日から第34日の間に上昇し、その後第34日から堅実に下方へ進行し、後に第113日及び第145日に臨床的に観察される完全奏効という、ロムスチン治療の成功を予測していた。さらに、ヌクレオソームレベルは臨床所見により、第145日に健康なイヌに対して観察される範囲まで低下した。CRPレベルは常に正常範囲内にあり、臨床目的には有用ではなかった。
【0141】
イヌ4(
図9B)は、ステージVbの腹部内高カルシウム血症リンパ腫と診断された。このイヌは、第1日にビンクリスチン及びドキソルビシンのCHOP化学療法レジメンを開始して第93日まで行い、その治療に対する反応は循環カルシウムレベルに基づいてモニタリングした。獣医師は臨床において、ビンクリスチンに対してはある程度の反応があるが、ドキソルビシンに対する反応がないことを認めた。その後、第108日に治療をCHOPからロムスチン+L-sparに切り替え、第164日まで続けたが、やはり反応しなかった。ビンクリスチンに対する反応が認められたため、ビンクリスチンを用いたCOP(ドキソルビシンを使用しないCHOP)による治療を、第164日に開始した(第167日には血液試料を採取できなかった)。イヌ4はCOP療法に反応し、執筆時点で依然として治療に反応し続けている。測定されたヌクレオソームレベルは、観察された臨床所見を反映する(
図9B)。ビンクリスチンによる治療後のほとんどの時点で、この治療への反応を反映して、ヌクレオソームレベルが減少し、ドキソルビシンのそれぞれの投与の後には、この治療への反応がないことを反映して、ヌクレオソームレベルが増加した。また、イヌ4は、臨床においてシクロホスファミドに対し部分奏効を有することが見いだされ、このことはヌクレオソーム濃度の減少にも反映されていた。しかしながら、ヌクレオソームのレベルは依然として正常レベルを上回り、継続してさらなる治療が必要であることを示した。ヌクレオソーム測定結果は臨床所見と明確に相関し、疾患の寛解をモニタリングし、治療選択を導くために使用することができる。例えば、ヌクレオソームのレベルは、ドキソルビシン療法に対する反応の欠如を予測したが、ヌクレオソームのレベルによる知見を得ていれば、より早期に中止することができたかもしれない。CRP分析は有意な変動を何ら示さず、臨床目的には有用ではなかった。
本件出願は、以下の態様の発明を提供する。
(態様1)
血管癌又は血液系癌の診断又は検出のための、血漿試料中のバイオマーカーとしての細胞外遊離ヌクレオソームの使用。
(態様2)
前記細胞外遊離ヌクレオソームが、モノヌクレオソーム又はオリゴヌクレオソームである、態様1記載の使用。
(態様3)
前記バイオマーカーが、前記細胞外遊離ヌクレオソームのレベル及び/又は前記細胞外遊離ヌクレオソームのエピジェネティックな特徴である、態様1又は2記載の使用。
(態様4)
前記細胞外遊離ヌクレオソームの前記エピジェネティックな特徴が、ヒストンアイソフォーム、例えばコアヌクレオソームのヒストンアイソフォーム、特にヒストンH3アイソフォームである、態様3記載の使用。
(態様5)
前記ヒストンアイソフォームがH3.1である、態様4記載の使用。
(態様6)
前記細胞外遊離ヌクレオソームの前記エピジェネティックな特徴が、ヒストン翻訳後修飾(PTM)、例えばコアヌクレオソームのヒストンPTM、特にヒストンH3 PTMである、態様3記載の使用。
(態様7)
前記ヒストンPTMが、シトルリン化(例えば、H3シトルリン)又はメチル化(例えば、H3K27me3)から選択される、態様6記載の使用。
(態様8)
前記血液系癌が、白血病又はリンパ腫から選択される、態様1~7のいずれか1項記載の使用。
(態様9)
前記白血病が、急性リンパ球性白血病(ALL)及び急性骨髄性白血病(AML)から選択される、態様8記載の使用。
(態様10)
前記リンパ腫が、非ホジキンリンパ腫(NHL)である、態様8記載の使用。
(態様11)
前記血管癌が、血管肉腫(angiosarcoma)又は血管肉腫(hemangiosarcoma)から選択される、態様1~7のいずれか1項記載の使用。
(態様12)
血管癌又は血液系癌を診断し、又は検出するための方法であって:
(i)該対象から取得した血漿試料を結合剤と接触させて、細胞外遊離ヌクレオソームを検出し、又は測定する工程;及び
(ii)検出された細胞外遊離ヌクレオソームのレベルを使用して、該血管癌又は血液系癌を有する対象を診断する工程、を含む、前記方法。
(態様13)
血管癌又は血液系癌を有する対象の予後を決定するための方法であって:
(i)該対象から取得した血漿試料を結合剤と接触させて、細胞外遊離ヌクレオソームを検出し、又は測定する工程;及び
(ii)検出された細胞外遊離ヌクレオソームのレベルを、該血管癌又は血液系癌の予後の指標として使用する工程、を含む、前記方法。
(態様14)
血管癌又は血液系癌を有する、有する疑いがある、又はこれらにかかりやすい対象において、治療の有効性をモニタリングするための方法であって:
(i)該対象から取得した血漿試料を結合剤と接触させて、細胞外遊離ヌクレオソームを検出し、又は測定する工程;及び
(ii)検出された細胞外遊離ヌクレオソームのレベルを該対象から以前に採取した血漿試料と比較して、該治療の有効性を決定する工程、を含む、前記方法。
(態様15)
前記検出又は測定が、免疫アッセイ、免疫化学、質量分析法、クロマトグラフィー、クロマチン免疫沈降法、又はバイオセンサー法を含む、態様12~14のいずれか1項記載の方法。
(態様16)
前記対象が、ヒト又は動物対象である、態様12~15のいずれか1項記載の方法。
(態様17)
前記対象が、血管癌又は血液系癌を再発する疑いがある、態様12~16のいずれか1項記載の方法。
(態様18)
前記対象が高レベルの白血球増多症/高い白血球数を有する、態様12~17のいずれか1項記載の方法。
(態様19)
前記血漿試料中の前記細胞外遊離ヌクレオソームのレベルを1以上の対照と比較する工程をさらに含む、態様12~18のいずれか1項記載の方法。
(態様20)
前記対照が健康な対象である、態様19記載の方法。
(態様21)
前記対照が血管癌又は血液系癌ではない癌を有する対象である、態様19記載の方法。
(態様22)
前記対照が、高レベルの白血球増多症を有する対象である、態様19記載の方法。
(態様23)
前記細胞外遊離ヌクレオソームのレベルが、前記対照と比較して上昇している、態様12~22のいずれか1項記載の方法。
(態様24)
前記細胞外遊離ヌクレオソームのレベルが、測定パネルの1つとして検出され、又は測定される、態様12~23のいずれか1項記載の方法。
(態様25)
前記パネルが、1以上のインターロイキンを含む、態様24記載の方法。
(態様26)
前記1以上のインターロイキンが、IL-6、IL-10、及びIL-1βからなる群から選択される、態様25記載の方法。