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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-06-09
(45)【発行日】2025-06-17
(54)【発明の名称】効率的なヨウ素濃縮液の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C02F 1/469 20230101AFI20250610BHJP
   B01D 61/44 20060101ALI20250610BHJP
   B01D 61/54 20060101ALI20250610BHJP
   C01B 7/14 20060101ALI20250610BHJP
   C02F 1/70 20230101ALI20250610BHJP
【FI】
C02F1/469
B01D61/44 500
B01D61/44 520
B01D61/54
C01B7/14 B
C02F1/70 Z
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2023135435
(22)【出願日】2023-08-23
(65)【公開番号】P2025030280
(43)【公開日】2025-03-07
【審査請求日】2023-08-25
【審判番号】
【審判請求日】2024-03-04
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】392000888
【氏名又は名称】株式会社合同資源
(74)【代理人】
【識別番号】100110928
【弁理士】
【氏名又は名称】速水 進治
(74)【代理人】
【識別番号】100169498
【弁理士】
【氏名又は名称】水長 雄大
(74)【代理人】
【識別番号】100210985
【弁理士】
【氏名又は名称】執行 敬宏
(72)【発明者】
【氏名】馬場 正彦
(72)【発明者】
【氏名】中村 優樹
【合議体】
【審判長】宮澤 尚之
【審判官】田口 裕健
【審判官】深草 祐一
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-022921(JP,A)
【文献】分析化学,1995年,Vol.44, No.7,pp.529-535,DOI:10.2116/bunsekikagaku.44.529
【文献】分析化学,1990年,Vol.39, No.10,pp.567-572,DOI:10.2116/bunsekikagaku.39.10_567
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 7/00
C02F 1/00
B01D 61/00 - 71/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヨウ素成分を含有する廃液に還元剤を添加して、前記ヨウ素成分に含まれるヨウ素(I)の少なくとも一部を還元することによりヨウ化物イオン(I)を得る還元工程と、
前記還元工程の後、アニオン交換膜を備える電気透析装置を用いて、pHが3以上9以下の前記廃液を、ヨウ素含有濃縮液と脱塩液とに分離する電気透析工程と、を有し、
前記還元工程の後、吸光光度法により前記廃液のI濃度を測定し、前記還元剤を添加することにより、吸光光度法により測定される前記廃液のI濃度を20ppm以下に維持する、
ヨウ素濃縮液の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載のヨウ素濃縮液の製造方法であって、
前記還元剤が、チオ硫酸塩、亜硫酸塩、亜硫酸水素塩、シュウ酸、ギ酸、ヒドラジン、および次亜リン酸からなる群から選ばれる一または二以上を含む、ヨウ素濃縮液の製造方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載のヨウ素濃縮液の製造方法であって、
前記廃液がホウ素成分を含む場合、前記還元工程の前、前記廃液のpHを9.5以下に調整するpH調整工程を含む、ヨウ素濃縮液の製造方法。
【請求項4】
請求項1または2に記載のヨウ素濃縮液の製造方法であって、
前記電気透析装置が、連続循環式電気透析設備を備える、ヨウ素濃縮液の製造方法。
【請求項5】
請求項1または2に記載のヨウ素濃縮液の製造方法であって、
前記電気透析装置が有する脱塩室と濃縮室との循環圧力を同一とする、ヨウ素濃縮液の製造方法。
【請求項6】
請求項1または2に記載のヨウ素濃縮液の製造方法であって、
前記廃液の原料が、偏光フィルム、造影剤、消毒剤、および放射線関連材料のいずれかのヨウ素成分を含む製品における製造過程もしくは製造装置からの廃液または廃粉末及び廃固形物、または抗生物質・抗ウイルス剤などの医薬品合成等の化学合成に使用するヨウ素触媒を含む廃液または廃固形物である、ヨウ素濃縮液の製造方法。
【請求項7】
請求項1または2に記載のヨウ素濃縮液の製造方法であって、
得られた前記ヨウ素含有濃縮液を用いて、ヨウ素、ヨウ化物塩、およびヨウ化水素酸からなる群から選ばれる一または二以上を製造する再生工程を含む、ヨウ素濃縮液の製造方法。
【請求項8】
請求項1または2に記載のヨウ素濃縮液の製造方法であって、
前記電気透析工程の直後における前記ヨウ素含有濃縮液から、ヨウ化物塩を回収する、ヨウ素濃縮液の製造方法。
【請求項9】
請求項8に記載のヨウ素濃縮液の製造方法であって、
前記ヨウ化物塩が、ヨウ化アルカリ金属塩を含む、ヨウ素濃縮液の製造方法。
【請求項10】
請求項1または2に記載のヨウ素濃縮液の製造方法であって、
得られた前記脱塩液を、強塩基性陰イオン交換樹脂に通液して前記脱塩液中に残存するヨウ化物イオンを前記強塩基性陰イオン交換樹脂に吸着させ、前記強塩基性陰イオン交換樹脂から前記ヨウ化物イオンを回収する工程を含む、ヨウ素濃縮液の製造方法。
【請求項11】
請求項1または2に記載のヨウ素濃縮液の製造方法であって、
前記ヨウ素含有濃縮液をバイポーラ膜電気透析法により、ヨウ化水素酸と水酸化物塩水溶液とに分離する工程を含む、ヨウ素濃縮液の製造方法。
【請求項12】
請求項1または2に記載のヨウ素濃縮液の製造方法であって、
前記廃液がホウ素成分を含む場合、得られた前記脱塩液をpHが11以上となるように調整した後、別の電気透析装置を用いて、前記脱塩液からホウ素含有濃縮液を分離回収するホウ素回収工程を含む、ヨウ素濃縮液の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、効率的なヨウ素濃縮液の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
これまで廃液からヨウ素を回収する技術について様々な開発がなされてきた。この種の技術として、例えば、特許文献1に記載の技術が知られている。廃液には、ヨウ化物イオン(I)などのヨウ素成分のほか、硫酸イオン(SO 2-)のような2価イオンなども共存していることがある。たとえば、廃液中には、硫酸イオンが、通常、1g/L以上、硫酸塩の飽和溶解度以下の濃度で含まれ、より一般的には20~50g/L程度含まれていることがある。
特許文献1には、1価選択性アニオン交換膜などを使用して、ヨウ素を有する無機陰イオン及びフッ素を有する無機陰イオンを含有し、脱塩室内に収容されている原液に電気透析を行う方法が記載されている(特許文献1の請求項1、実施例など)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2021-079318号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、本発明者が検討した結果、上記特許文献1に記載のアニオン交換膜を有する電気透析槽において、ヨウ化物イオンの透過効率の点で改善の余地があることが判明した。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者はさらに検討したところ、廃液中に含まれるヨウ素(I)が電気透析中にアニオン交換膜に付着することがあり、これにより、アニオン交換膜の膜抵抗が上昇するため、通電電流が低下し、ヨウ化物イオンの透過効率が低下することを見出した。
また、水溶液では、三ヨウ化物イオンの可逆反応(I3-←→I+I)や五ヨウ化物イオンの可逆反応(I5-←→I3-+I)が生じている。このようなポリヨウ化物イオンの可逆反応により、廃液中にヨウ素(I)が発生することもある。
このような知見に基づきさらに鋭意研究したところ、廃液中に含まれるヨウ素(I)を適切に還元してヨウ化物イオン(I)の状態とすることにより、電気透析中に通電電流の低下を抑制し、ヨウ化物イオンの透過効率の低下を抑制できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0006】
本発明の一態様によれば、以下のヨウ素濃縮液の製造方法およびリサイクル水溶液が提供される。
【0007】
1. ヨウ素成分を含有する廃液に還元剤を添加して、前記ヨウ素成分に含まれるヨウ素(I)の少なくと一部を還元することによりヨウ化物イオン(I)を得る還元工程と、
前記還元工程の後、アニオン交換膜を備える電気透析装置を用いて、前記廃液を、ヨウ素含有濃縮液と脱塩液とに分離する電気透析工程と、を有する、ヨウ素濃縮液の製造方法。
2. 1.に記載のヨウ素濃縮液の製造方法であって、
前記還元剤が、チオ硫酸塩、亜硫酸塩、亜硫酸水素塩、シュウ酸、ギ酸、ヒドラジン、および次亜リン酸からなる群から選ばれる一または二以上を含む、ヨウ素濃縮液の製造方法。
3. 1.または2.に記載のヨウ素濃縮液の製造方法であって、
前記還元工程の後、前記電気透析工程前において、前記還元剤を添加した前記廃液のI濃度が20ppm以下である、ヨウ素濃縮液の製造方法。
4. 1.~3.のいずれか一つに記載のヨウ素濃縮液の製造方法であって、
前記還元工程の前、前記廃液のpHを9.5以下に調整するpH調整工程を含む、ヨウ素濃縮液の製造方法。
5. 1.~4.のいずれか一つに記載のヨウ素濃縮液の製造方法であって、
前記電気透析装置が、連続循環式電気透析設備を備える、ヨウ素濃縮液の製造方法。
6. 1.~5.のいずれか一つに記載のヨウ素濃縮液の製造方法であって、
前記電気透析装置が有する脱塩室と濃縮室との循環圧力を同一とする、ヨウ素濃縮液の製造方法。
7. 1.~6.のいずれか一つに記載のヨウ素濃縮液の製造方法であって、
前記廃液の原料が、偏光フィルム、造影剤、消毒剤、および放射線関連材料のいずれかのヨウ素成分を含む製品における製造過程もしくは製造装置からの廃液または廃粉末及び廃固形物、または抗生物質・抗ウイルス剤などの医薬品合成等の化学合成に使用するヨウ素触媒を含む廃液または廃固形物である、ヨウ素濃縮液の製造方法。
8. 1.~7.のいずれか一つに記載のヨウ素濃縮液の製造方法であって、
得られた前記ヨウ素含有濃縮液を用いて、ヨウ素、ヨウ化物塩、およびヨウ化水素酸からなる群から選ばれる一または二以上を製造する再生工程とを含む、ヨウ素濃縮液の製造方法。
9. 1.~8.のいずれか一つに記載のヨウ素濃縮液の製造方法であって、
前記電気透析工程の直後における前記ヨウ素含有濃縮液から、ヨウ化物塩を回収する、ヨウ素濃縮液の製造方法。
10. 9.に記載のヨウ素濃縮液の製造方法であって、
前記ヨウ化物塩が、ヨウ化アルカリ金属塩を含む、ヨウ素濃縮液の製造方法。
11. 1.~10.のいずれか一つに記載のヨウ素濃縮液の製造方法であって、
得られた前記脱塩液を、強塩基性陰イオン交換樹脂に通液して前記脱塩液中に残存するヨウ化物イオンを前記強塩基性陰イオン交換樹脂に吸着させ、前記強塩基性陰イオン交換樹脂から前記ヨウ化物イオンを回収する工程を含む、ヨウ素濃縮液の製造方法。
12. 1.~11.のいずれか一つに記載のヨウ素濃縮液の製造方法であって、
前記ヨウ素含有濃縮液をバイポーラ膜電気透析法により、ヨウ化水素酸と水酸化物塩水溶液とに分離する工程を含む、ヨウ素濃縮液の製造方法。
13. 1.~12.のいずれか一つに記載のヨウ素濃縮液の製造方法であって、
前記廃液がホウ素成分を含む場合、得られた前記脱塩液をpHが11以上となるように調整した後、別の電気透析装置を用いて、前記脱塩液からホウ素含有濃縮液を分離回収するホウ素回収工程を含む、ヨウ素濃縮液の製造方法。
14. ヨウ化金属塩を含むリサイクル水溶液であって、
当該リサイクル水溶液に含まれるヨウ素(I)の含有量は、10gm/L以上370g/L以下であり、
当該リサイクル水溶液中の全有機体炭素(TOC)の濃度は、1000ppm以下である、リサイクル水溶液。
15. 14.に記載のリサイクル水溶液であって、
前記ヨウ化金属塩の濃度は、30g/L以上560g/L以下である、リサイクル水溶液。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、電気透析装置におけるヨウ化物イオンの透過効率の低下抑制に優れたヨウ素濃縮液の製造方法、およびヨウ素濃縮液の製造方法により製造されたリサイクル水溶液が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本実施形態の電気透析装置の構成の一例を模式的に示す断面図である。
図2】本実施形態のヨウ素回収システムの構成の一例を模式的に示す図である。
図3】本実施形態のヨウ素回収工程の一例を示すフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態について、図面を用いて説明する。なお、すべての図面において、同様な構成要素には同様の符号を付し、適宜説明を省略する。また、図は概略図であり、実際の寸法比率とは一致していない。
【0011】
本実施形態のヨウ素濃縮液の製造方法の概要を説明する。
【0012】
本実施形態のヨウ素濃縮液の製造方法は、ヨウ素成分を含有する廃液に還元剤を添加して、ヨウ素成分に含まれるヨウ素(I)の少なくと一部を還元することによりヨウ化物イオン(I)を得る還元工程と、還元工程の後、アニオン交換膜を備える電気透析装置を用いて、廃液を、ヨウ素含有濃縮液と脱塩液とに分離する電気透析工程と、を有する。
【0013】
本発明者らの知見によれば、次のような電気透析装置における動作不良が判明した。
(ヨウ素分子と呼称することもある)が含まれる廃液を電気透析の対象とする場合、定電圧運転による電気透析過程において、脱塩液中に存在するヨウ素分子がアニオン交換膜の表面に付着することになる。その結果、アニオン交換膜の膜抵抗が上昇するため、通電電流が低下し、ヨウ化物イオンの透過効率が低下すること、具体的には、廃液からヨウ化物イオンの脱塩と濃縮する処理能力が低下することが判明した。
このような知見に基づく本発明者らのさらなる研究により、廃液中に含まれるヨウ素(I)を、適切に還元してヨウ化物イオン(I)の状態とすることにより、上記の電気透析中における通電不良を抑制し、電気透析装置の運転安定性を向上できることが見出された。
さらなる検討により、ヨウ素(I)の還元状態の指標として、酸化還元電位を採用することにより、安定的に通電不良を抑制できることが判明した。具体的には、廃液の酸化還元電位が、100mV以下となることが好ましい。
【0014】
以下、本実施形態のヨウ素濃縮液の製造方法の構成を詳述する。
【0015】
図1は、電気透析装置1の構成の一例を模式的に示す断面図である。図2は、ヨウ素回収システム100の構成の一例を模式的に示す図である。図3は、ヨウ素回収工程の一例を示すフロー図である。
【0016】
本実施形態のヨウ素濃縮液の製造方法の一例は、図1の電気透析装置1を用いて、ヨウ素成分を含有する廃液10を、ヨウ素含有濃縮液(濃縮液20)と脱塩液(脱塩液30)とに分離する電気透析工程を含む。
【0017】
図2のヨウ素回収システム100は、電気透析装置1に、廃液10を供給する設備を少なくとも備えるものであればよく、電気透析装置1で生成された濃縮液20および/または脱塩液30を処理する設備をさらに備えるものである。
【0018】
廃液10(原液)として、後述のヨウ素成分を含有する液体であればとくに限定されないが、例えば、ヨウ素成分を含む製品の製造過程から排出される廃液や、ヨウ素成分を含む製品を廃棄処理したときの廃液、ヨウ素成分を反応触媒として使用した合成過程から排出される廃液、ヨウ素成分を使用した製造装置の洗浄に使用した洗浄液の廃液等が含まれる。
【0019】
具体的な廃液10の原料としては、偏光フィルム、造影剤、消毒剤、および放射線関連材料のいずれかのヨウ素成分を含む製品における製造過程もしくは製造装置からの廃液または廃粉末及び廃固形物、または抗生物質・抗ウイルス剤などの医薬品合成等の化学合成に使用するヨウ素触媒(有機ヨウ素化合物または無機ヨウ素化合物)を含む廃液または廃固形物等が挙げられる。これらを単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0020】
ヨウ素回収液は、有機物および/または有機溶媒が廃液中に含まれている場合には、公知の有機物分解処理を予め施してもよい。この有機物分解処理の一つとして、例えば、有機成分(有機物や有機溶媒)を燃焼法により燃焼処理し、昇華したヨウ素を、(例えば、水酸化ナトリウムと亜硫酸水素ナトリウム等の)アルカリ剤および還元剤により吸着処理し、ヨウ素成分を回収した水溶液を示す。
ヨウ素成分とは、例えば、ヨウ化物イオン(I)、ヨウ素(I)、ヨウ素酸(HIO)、過ヨウ素酸(HIO)、およびヨウ化物(無機ヨウ素化合物または有機ヨウ素化合物を含む)からなる群から選ばれる一又は二以上を少なくとも含むと定義される。
また、水溶液では、前述の通り、三ヨウ化物イオンや五ヨウ化物イオンのようなポリヨウ化物イオンの可逆反応により、廃液中にヨウ素(I)が発生することもある。
ここで、前記原料等を由来とする廃液中には、上記ヨウ素成分の中でもヨウ化物イオンを、通常、3%以上、好適には3%~30%程度含んでいる。さらにこれら廃液中には、硫酸イオンが、通常、1g/L以上、硫酸塩の飽和溶解度以下の濃度で含まれ、より一般的には20~50g/L程度含まれている。またヨウ素成分を含む固形物には、通常、ヨウ素元素を質量換算で30%~99.8%程度含んでいる。
【0021】
なお、廃液10は、少なくとも還元処理されたものを使用するが、必要なら、pH調整、希釈、有機物分解・除去処理等の化学的前処理または物理的前処理が施されていてもよい。
【0022】
電気透析装置1は、図1に示すように、濃縮室2、脱塩室3、濃縮室2と脱塩室3とを仕切るイオン交換膜、陽極4、陰極5、および電源6を有する。電気透析装置1は、図1に限定されず、公知の装置構成を備えることができる。
【0023】
陽極4を含む電極室(陽極室)および陰極5を含む電極室(陰極室)には、電極液が電極液タンク(不図示)から供給される。陽極室および陰極室は、濃縮室2および脱塩室3で構成される電気透析槽の両面側のそれぞれに配置される。陽極4および陰極5に電源6を用いて電流を印可すると、電気透析槽中で電気透析が開始される。
なお、電極液として、公知のものが使用できるが、例えば、水酸化ナトリウム水溶液、水酸化カリウム水溶液、硫酸水素ナトリウム水溶液、硫酸カリウム水溶液等が用いられる。ただし、電気透析の後にバイポーラ電気透析などを行う場合には、電気透析装置1に使用する電極液は、硫酸塩を含まないものが好ましい。
【0024】
電気透析槽中、濃縮室2および脱塩室3は、それぞれ、イオン交換膜(アニオン交換膜7およびカチオン交換膜8のいずれか一方)に区画されて交互に配置される。
電気透析装置1は、脱塩室3、アニオン交換膜7、濃縮室2、カチオン交換膜8、および脱塩室3がこの順で並んだ配置構成を少なくとも有してもよく、処理能力を高める観点から、濃縮室2を1個以上、好ましくは2個以上有してもよい。
なお、濃縮室2には、電気透析前に、電解液が収容されていてもよい。電解液としては、例えば、電気伝導度を有する無機塩水溶液が含まれていればよい。例えば、最初に電気透析装置1を使用する場合にはイオン交換水を使用し、動作を停止後に再開するという継続使用の場合には前回の濃縮液を使用してもよい。このような電解液の他に、塩化ナトリウム水溶液、ヨウ化カリウム水溶液、ヨウ化ナトリウム水溶液等を使用してもよい。ただし、電解液には、硫酸塩を含まないものが好ましい。
【0025】
上記のような電気透析に用いる電気透析装置1の具体例は、一対の電極の間に、多数のガスケットスペーサー(室枠とも呼ばれている)が重ねて配置されており、互いに隣り合う室枠の間には、アニオン交換膜7或いはカチオン交換膜8が挟持され、全体としてアニオン交換膜7とカチオン交換膜8とが、原則、交互に位置するように配置され、各ガスケットにアニオン交換膜7とカチオン交換膜8とによって区画されたイオン交換室(通電部)が形成されている。
そして、このイオン交換室は、陰極5側にカチオン交換膜8が位置し且つ陽極4側にアニオン交換膜7が位置している室が脱塩室3となり、陰極5側にアニオン交換膜7が位置し且つ陽極4側にカチオン交換膜8が位置している室が濃縮室2となり、脱塩室3と濃縮室2とが交互に配置された構造となっている。即ち、脱塩室3に処理液(電解質液)を循環供給しながら通電を行うと、脱塩室3に供給された処理液中の陽イオンはカチオン交換膜8を通って隣の陰極5側の濃縮室2に移行し、該処理液中のアニオンはアニオン交換膜を通って隣の陽極4側の濃縮室2に移行することとなる。このようにして、脱塩室3に処理液を循環供給すると同時に濃縮室2に塩水溶液を循環すると、処理液の脱塩が行われると同時に、塩濃度が増大した濃縮液20を得ることができる。
これらのイオン交換室の積層体を電極間に固定する方法としては、フィルタープレスによるものが好適に用いられるが、それに限定されるものではない。
【0026】
本実施形態では、電気透析装置1に含まれるアニオン交換膜7の少なくとも一つ又は全てが、1価選択性アニオン交換膜で構成されてもよい。
【0027】
1価選択性アニオン交換膜以外の他のアニオン交換膜をアニオン交換膜7が含む場合、他のアニオン交換膜としては、公知のものを使用してもよく、例えば、1価イオン選択透過アニオン交換膜、全透過性のアニオン交換膜、高強度耐アルカリアニオン交換膜を使用してもよく、1価イオン選択透過アニオン交換膜であると好ましい。
【0028】
カチオン交換膜8としては、特に制限はなく、強酸性カチオン交換膜、高強度耐アルカリカチオン交換膜等を使用できる。また、カチオン交換膜8は、1価イオン選択性のカチオン交換膜であってもよい。
【0029】
電気透析時における電気透析装置1の動作の一例は、以下の通りである。
陽極4および陰極5の間に電源6を用いて直流電流を印可すると、一面側の脱塩室3中のヨウ化物イオン(I)がアニオン交換膜7を通過して濃縮室2に移動し、他面側の脱塩室3中の陽イオン(アルカリ金属イオンなどの1価の陽イオンおよびアルカリ土類金属イオン等の2価の陽イオンの少なくとも一つを含む)がカチオン交換膜8を通過して同じ濃縮室2に移動する。この濃縮室2において、例えば、ヨウ化カリウム(KI)等の、ヨウ化物塩が生成される。濃縮室2から、ヨウ化物塩を含む濃縮液20(ヨウ素含有濃縮液)が得られる。なお、脱塩室3から、脱塩液30が得られる。
【0030】
ここで、ヨウ素濃縮液の製造方法の還元工程および電気透析工程におけるプロセスフローの一例について、図1,2を用いて説明する。
【0031】
まず、廃液10を、ライン12(配管)を介して、廃液タンク11に貯蔵する。
【0032】
還元処理前の廃液10中に含まれるヨウ素(I)の含有量は、例えば、10gm/L以上370g/L以下である。廃液10中のヨウ素(I)の含有量は、デンプン指示薬を用いたチオ硫酸ナトリウム等の還元剤滴定法と、350nmのヨウ素及び、三ヨウ化物イオンに起因する波長での吸光度法で定量できる。
【0033】
廃液タンク11中の廃液10に対して、還元剤タンク50から、ライン51を介して、還元剤を廃液タンク11に導入する。これにより、廃液10中に含まれるにヨウ素(I)の少なくと一部またはほぼ全てを還元することによりヨウ化物イオン(I)にすることができる。また、廃液10中に含まれるヨウ素(I)以外のヨウ素成分に含まれるヨウ素酸や過ヨウ素酸についても一部または全てをヨウ化物イオンに状態をイオンに変えることも可能である。
ヨウ化物イオンについては、イオンクロマトグラフによる機器分析、有機溶媒で抽出分離したヨウ化物イオン・ヨウ素・ヨウ素酸を滴定する分析、紫外・可視吸光度分析等の方法を用いて検出できる。
【0034】
還元剤は、例えば、チオ硫酸塩、亜硫酸塩、亜硫酸水素塩、シュウ酸、ギ酸、ヒドラジン、および次亜リン酸からなる群から選ばれる一または二以上の還元成分を含む。この中でも、中性領域で使用可能である点で、チオ硫酸塩、亜硫酸塩、亜硫酸水素塩等の硫酸系還元剤が好ましく、ハンドリング性、経済性、入手容易性の観点から、亜硫酸水素塩がより好ましい。
【0035】
還元剤は、液状であることが好ましく、例えば、上記の還元成分を含む水溶液が用いられる。
また、還元剤は、廃液10の液温が、例えば、5℃~70℃の範囲で使用してもよい。
還元剤は、廃液10のpHが、例えば、1~9の範囲で使用してもよい。
【0036】
廃液タンク11には、吸光光度計が設置されていてもよい。廃液タンク11中の廃液10の、吸光光度法により測定されるI濃度が所定値以下に維持するように還元剤を供給できる。
ここで、I濃度の所定値としては、経済性の観点から20ppmが好ましく、15ppmがより好ましく、効率性の観点から10ppmが更に好ましい。つまり、還元工程の後、電気透析工程前において、還元剤を添加した廃液10のI濃度が、20ppm以下に維持されることが好ましい。これにより、電気透析装置の処理量の低下を一層抑制できる。
なお、吸光光度法では、I(ヨウ素分子)の吸収波長である350nmにおける吸光度を測定し、予め準備した検量線を用いて、I濃度を定量できる。
【0037】
廃液タンク11には、ORP(Oxidation Reduction Potential)計が設置されていてもよい。廃液タンク11中の廃液10の酸化還元電位が所定値以下に維持するように還元剤を供給できる。
ここで、酸化還元電位の所定値としては、120mVとすることが好ましい。つまり、還元工程の後、電気透析工程前において、還元剤を添加した廃液10の酸化還元電位が、120mV以下に維持されることが好ましい。これにより、電気透析装置の処理量の低下を一層抑制できる。
【0038】
廃液タンク11中の廃液10に対して、必要なら、還元処理以外の上記の化学的前処理または物理的前処理を施してもよい。
廃液10がホウ素成分を含む場合、電気透析工程の前に、廃液10のpHを9.5以下、好ましくは8以下、より好ましくは7未満に調整するpH調整工程を行ってもよい。廃液10のpHを9.5以下に調整した場合、ホウ酸(HBO)の大部分は解離せずに分子として存在しているため、電気透析を行っても、ホウ酸は殆ど移動せず、そのままの状態で脱塩液30中に排出される。これにより、廃液10中のホウ素成分とヨウ素成分とを効率よく分離することができる。
【0039】
廃液10が酸性(pH7未満)の場合、酸化剤が存在する場合、ヨウ素分子(I)が発生しやくすなりため、上述の還元剤を添加してもよい。
【0040】
続いて、廃液タンク11中の廃液10を、ライン13を介して、電気透析装置1の脱塩室3に供給する。陽極4および陰極5に電圧を印加して、電気透析を実施する(電気透析工程)。
電気透析により脱塩室3で生成された脱塩液30を、ライン31を介して、回収する。一方、電気透析により濃縮室2で生成された濃縮液20を、ライン22を介して、回収する。
【0041】
このとき、脱塩液30の少なくとも一部を、ライン31から分岐したライン32を介して廃液タンク11に供給し、脱塩液30と廃液10とが混合した混合脱塩液を、再度、脱塩室3に供給してもよい。すなわち、脱塩室3に供給される廃液10には、脱塩液30が含まれていてもよい。
このように繰り返し電気透析を行うことにより、脱塩液30中のヨウ化物イオン濃度を所望値まで低減できる。
【0042】
一方、濃縮液20の少なくとも一部を、ライン22から分岐したライン23を介して濃縮液タンク21に供給し、濃縮液タンク21中の濃縮液20を、再び、ライン24を介して濃縮室2に供給してもよい。このように繰り返し電気透析を行うことにより、濃縮液20中のヨウ化物イオン濃度を所望値まで濃縮することができる。
【0043】
また、濃縮液タンク21中の濃縮液20に対しても、必要なら、ライン52を介して還元剤タンク50から還元剤を導入してもよい。濃縮液タンク21中の濃縮液20のI濃度および/または酸化還元電位についても、各種の測定計を用いて上記の所定値以下に維持されるように管理されていてもよい。
【0044】
また、2以上の電気透析装置を備える場合、第1の電気透析装置から生成された第1の濃縮液を、第2の電気透析装置の脱塩室に供給してもよい。さらに、第2の電気透析装置の脱塩室で生成された第2の脱塩液を、第1の濃縮液と混合して、再度、第2の電気透析装置の脱塩室に供給してもよい。
【0045】
また、連続循環式電気透析設備を備える電気透析装置1を用いてもよい。
このような電気透析装置1は、脱塩液30に連続的に廃液10または混合脱塩液を供給しながら、連続的に脱塩液30を排出する連続運転が可能になる。
【0046】
また、電気透析装置1が有する脱塩室3と濃縮室2との循環圧力を同一となるように制御してもよい。これにより、脱塩室3と濃縮室1の循環圧力に差圧が付くことにより圧力の高い方から低い方へ内部漏れ(透水)が発生することを抑制できる。具体的には、脱塩室3中の不純物が濃縮室2に入ること、あるいは、濃縮室2中のヨウ素成分が脱塩室3に戻ることによりヨウ素を透過させる効率が低下することを抑制できる。
【0047】
本実施形態のヨウ素濃縮液の製造方法の電気透析工程により得られたヨウ素含有濃縮液(濃縮液20)は、ヨウ化金属塩を含むリサイクル水溶液として活用できる。
リサイクル水溶液中のヨウ素濃度は、例えば、ヨウ化アルカリ金属塩の飽和濃度以下であればよく、30~560g/Lであり、好ましくは、80~350g/Lである。
リサイクル水溶液中のヨウ素濃度は、ICP(誘導結合発光分光分析装置)及び、イオンクロマトグラフ装置による機器分析法で全ヨウ素濃度として測定できる。
【0048】
リサイクル水溶液のヨウ化金属塩には、例えば、ヨウ化アルカリ金属塩やヨウ化アルカリ土類金属塩などの少なくとも一種または2種以上を含む。
【0049】
リサイクル水溶液中に含まれる全有機体炭素(TOC)の濃度は、例えば、1000ppm以下である。
リサイクル水溶液中のTOCの濃度は、TOC計による機器分析法で測定できる。
【0050】
上記の濃縮液などのリサイクル水溶液は、樹脂製容器で保管してもよい。
樹脂製容器は、内部に、液相(リサイクル水溶液)と気相(上部空間)とを含んでもよく、気相が、窒素ガスなどの不活性ガスで置換されていてもよい。これにより、樹脂製容器中で保管されたリサイクル水溶液中において、ヨウ化物イオンがヨウ素分子に酸化してしまうことを抑制できる。これにより、液安定性を高められる。
また、液安定性をさらに高める観点から、リサイクル水溶液に上述の還元剤を添加してもよい。
【0051】
次に、ヨウ素濃縮液の製造方法の再生工程のプロセスフローの一例について、図3を用いて説明する。
【0052】
続いて、ヨウ素濃縮液の製造方法は、電気透析工程の後、得られたヨウ素含有濃縮液(濃縮液20)をリサイクル水溶液として用いて、図3に示すように、ヨウ素(I)、ヨウ化物塩、およびヨウ化水素酸からなる群から選ばれる一または二以上を製造する再生工程を含むことができる。このような再生工程は、前述の電気透析装置1とは別の装置を使用して実施してもよい。
上記のヨウ素濃縮液の製造方法で再生(リサイクル)されたヨウ素、ヨウ化物塩、およびヨウ化水素酸は、それぞれ、水溶液でもよく、ヨウ素およびヨウ化物塩は、粉末(顆粒を含む)であってもよい。
【0053】
ヨウ素濃縮液の製造方法は、得られた濃縮液20を用いてヨウ化水素酸を回収できる。例えば、ヨウ素濃縮液の製造方法は、図3に示すように、ヨウ素含有濃縮液(濃縮液20)をバイポーラ膜電気透析法により、ヨウ化水素酸と水酸化物塩水溶液とに分離する工程(バイポーラ電気透析工程)を含んでもよい。
ここで、バイポーラ膜電気透析法は、陽極と陰極の間に、カチオン交換膜及び/またはアニオン交換膜に加えて、水素イオンと水酸イオンを生成するバイポーラ膜を順に配列し、膜で仕切られた各室に処理液を供給して通電を行い、中性塩から酸とアルカリを得る方法である。
【0054】
具体的には、電気透析装置1から排出された濃縮液20(例えば、KI濃縮液)をバイポーラ膜電気透析装置に導入する。必要なら、濃縮液20のpHを7未満に調整して酸性化してもよい。バイポーラ膜電気透析装置に直流電流を印加すると、濃縮液20中のヨウ化物塩が電気分解され、ヨウ化水素酸の水溶液(HI液)と水酸化物(例えば、KOH)の水溶液とが排出される。その後、HI液を蒸留して精製し、ヨウ化水素酸が得られる。
【0055】
また、ヨウ素濃縮液の製造方法は、得られた濃縮液20を用いてヨウ素(I)を回収できる。
図3に示すように、ヨウ化物イオンを含む濃縮液20を酸化すると、ヨウ素(I)が得られる。
【0056】
ヨウ素濃縮液の製造方法は、得られた濃縮液20を用いてヨウ化物塩を回収できる。
図3に示すように、上記で得られたヨウ化水素酸を中和すると、ヨウ化物塩が得られる。また、上記で得られたヨウ素(I)を還元・中和すると、ヨウ化物塩が得られる。
ヨウ素濃縮液の製造方法において、上記の酸化、中和、および還元方法は、それぞれ、特に限定されず、公知の手段を使用できる。
なお、ヨウ化物塩には、例えば、ヨウ化アルカリ金属塩やヨウ化アルカリ土類金属塩などのヨウ化物金属塩が含まれる。
ヨウ化物金属塩の具体例としては、例えば、ヨウ化カリウム、ヨウ化ナトリウム、ヨウ化カルシウム、ヨウ化マグネシウム、ヨウ化セシウム等が挙げられる。これらを単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
なお、アルカリ土類金属は、イオン交換膜に損傷を生じさせる恐れがある。このため、本実施形態のヨウ素濃縮液の製造方法では、廃液10にアルカリ土類金属が含まれる場合、上述の電気透析工程の前に、アルカリ土類金属を除去する工程を含むことが好ましい。例えば、カチオン交換樹脂を使用する方法、または沈殿方法により等によりアルカリ土類金属を分離できる。沈殿方法では、水酸化物または炭酸塩等により等により形成させた難溶解性塩を分離してもよい。必要なら、難溶解性塩を形成する前処理として、pH調整を実施してもよい。
【0057】
一方、ヨウ素濃縮液の製造方法は、得られた脱塩液30を用いてヨウ素(I)を回収できる。
図3に示すように、ヨウ素濃縮液の製造方法は、得られた脱塩液30を、強塩基性陰イオン交換樹脂に通液して脱塩液30中に残存するヨウ化物イオンを強塩基性陰イオン交換樹脂に吸着させ、強塩基性陰イオン交換樹脂からヨウ素を回収する工程を含んでもよい。
【0058】
具体的には、電気透析装置1から排出された脱塩液30を強塩基性イオン交換樹脂に通し、この強塩基性陰イオン交換樹脂にヨウ化物イオンを吸着させる。このとき、強塩基性陰イオン交換樹脂に通液する際の脱塩液30のpHは、前述した電気透析と同様に7未満とする、好ましくは3以上7未満に調整する。これにより、ホウ酸が解離してなるホウ酸イオンが強塩基性陰イオン交換樹脂に吸着されることを抑制して、選択的にヨウ化物塩イオンを分離できる。その後、公知の手段により、強塩基性陰イオン交換樹脂からヨウ素(I)を回収できる。
【0059】
また、廃液10がホウ素成分を含む場合、得られたホウ素成分を含む脱塩液30から、ホウ素(B)を回収できる。
【0060】
ヨウ素濃縮液の製造方法は、ホウ素成分を含む脱塩液30をpHが、例えば、7以上、好ましくは8以上、より好ましくは11以上となるように調整した後、別の電気透析装置を用いて、脱塩液30からホウ素含有濃縮液(ホウ酸濃縮液)を分離回収するホウ素回収工程を含んでもよい。ホウ素含有濃縮液を酸性にして晶析すると、ホウ酸(HBO)を回収できる。
【0061】
また、pHが7以上のホウ素成分を含む脱塩液30、あるいは上記で強塩基性陰イオン交換樹脂に通液する際の脱塩液30を、ホウ素選択性キレート樹脂に通液させ、ホウ酸イオンを吸着させる。その後、公知の手段によりホウ素選択性キレート樹脂から、ホウ素酸を回収できる。
【0062】
以上、本発明の実施形態について述べたが、これらは本発明の例示であり、上記以外の様々な構成を採用することができる。また、本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良等は本発明に含まれる。
以下、参考形態の例を付記する。
1. ヨウ素成分を含有する廃液に還元剤を添加して、前記ヨウ素成分に含まれるヨウ素(I )の少なくとも一部を還元することによりヨウ化物イオン(I )を得る還元工程と、
前記還元工程の後、アニオン交換膜を備える電気透析装置を用いて、前記廃液を、ヨウ素含有濃縮液と脱塩液とに分離する電気透析工程と、を有する、ヨウ素濃縮液の製造方法。
2. 1.に記載のヨウ素濃縮液の製造方法であって、
前記還元剤が、チオ硫酸塩、亜硫酸塩、亜硫酸水素塩、シュウ酸、ギ酸、ヒドラジン、および次亜リン酸からなる群から選ばれる一または二以上を含む、ヨウ素濃縮液の製造方法。
3. 1.または2.に記載のヨウ素濃縮液の製造方法であって、
前記還元工程の後、前記電気透析工程前において、前記還元剤を添加した前記廃液のI 濃度が20ppm以下である、ヨウ素濃縮液の製造方法。
4. 1.または2.に記載のヨウ素濃縮液の製造方法であって、
前記還元工程の前、前記廃液のpHを9.5以下に調整するpH調整工程を含む、ヨウ素濃縮液の製造方法。
5. 1.または2.に記載のヨウ素濃縮液の製造方法であって、
前記電気透析装置が、連続循環式電気透析設備を備える、ヨウ素濃縮液の製造方法。
6. 1.または2.に記載のヨウ素濃縮液の製造方法であって、
前記電気透析装置が有する脱塩室と濃縮室との循環圧力を同一とする、ヨウ素濃縮液の製造方法。
7. 1.または2.に記載のヨウ素濃縮液の製造方法であって、
前記廃液の原料が、偏光フィルム、造影剤、消毒剤、および放射線関連材料のいずれかのヨウ素成分を含む製品における製造過程もしくは製造装置からの廃液または廃粉末及び廃固形物、または抗生物質・抗ウイルス剤などの医薬品合成等の化学合成に使用するヨウ素触媒を含む廃液または廃固形物である、ヨウ素濃縮液の製造方法。
8. 1.または2.に記載のヨウ素濃縮液の製造方法であって、
得られた前記ヨウ素含有濃縮液を用いて、ヨウ素、ヨウ化物塩、およびヨウ化水素酸からなる群から選ばれる一または二以上を製造する再生工程とを含む、ヨウ素濃縮液の製造方法。
9. 1.または2.に記載のヨウ素濃縮液の製造方法であって、
前記電気透析工程の直後における前記ヨウ素含有濃縮液から、ヨウ化物塩を回収する、ヨウ素濃縮液の製造方法。
10. 9.に記載のヨウ素濃縮液の製造方法であって、
前記ヨウ化物塩が、ヨウ化アルカリ金属塩を含む、ヨウ素濃縮液の製造方法。
11. 1.または2.に記載のヨウ素濃縮液の製造方法であって、
得られた前記脱塩液を、強塩基性陰イオン交換樹脂に通液して前記脱塩液中に残存するヨウ化物イオンを前記強塩基性陰イオン交換樹脂に吸着させ、前記強塩基性陰イオン交換樹脂から前記ヨウ化物イオンを回収する工程を含む、ヨウ素濃縮液の製造方法。
12. 1.または2.に記載のヨウ素濃縮液の製造方法であって、
前記ヨウ素含有濃縮液をバイポーラ膜電気透析法により、ヨウ化水素酸と水酸化物塩水溶液とに分離する工程を含む、ヨウ素濃縮液の製造方法。
13. 1.または2.に記載のヨウ素濃縮液の製造方法であって、
前記廃液がホウ素成分を含む場合、得られた前記脱塩液をpHが11以上となるように調整した後、別の電気透析装置を用いて、前記脱塩液からホウ素含有濃縮液を分離回収するホウ素回収工程を含む、ヨウ素濃縮液の製造方法。
14. ヨウ化金属塩を含むリサイクル水溶液であって、
当該リサイクル水溶液に含まれるヨウ素(I )の含有量は、10gm/L以上370g/L以下であり、
当該リサイクル水溶液中の全有機体炭素(TOC)の濃度は、1000ppm以下である、リサイクル水溶液。
15. 14.に記載のリサイクル水溶液であって、
前記ヨウ化金属塩の濃度は、30g/L以上560g/L以下である、リサイクル水溶液。
【実施例
【0063】
以下、本発明について実施例を参照して詳細に説明するが、本発明は、これらの実施例の記載に何ら限定されるものではない。
【0064】
<電気透析装置の製造>
1価選択性陰イオン交換膜を、卓上型試験装置(株式会社アストム製、マイクロアシライザー(登録商標)S3)に設置して、電気透析装置を組み立てた。得られた電気透析装置を用いて、各実施例および各比較例の1価選択性陰イオン交換膜のそれぞれに対して、電気透析試験を行った。
以下、実施例1の電気透析装置の組み立ての手順を具体的に説明する。
まず、卓上型試験装置(以下、S3と呼称する)用に作られた抜型を用いて、1価選択性陰イオン交換膜(株式会社アストム製、ACS-8T)を打ち抜いた。同様にして、陽イオン交換膜(株式会社アストム製、CMX-SB)を打ち抜いた。
打ち抜きを完了した陽イオン交換膜(以下、CMXと呼称する)を12枚([1]~[12])、1価選択性陰イオン交換膜(以下、ACSと呼称する)を10枚([1]~[10])用意した。
これらを用いて、陽極枠、端パッキン、CMX[1]、濃縮室ガスケット、ACS[1]、脱塩室ガスケット、CMX[2]、・・・・・、CMX[10]、濃縮室ガスケット、ACS[10]、脱塩室ガスケット、CMX[11]、濃縮室ガスケット、CMX[12]、端パッキン、陰極枠の順に積層した。なお、濃縮室ガスケット、陰極室ガスケットには通電部にスペーサーメッシュをはめ込んだ。また、ACSは1価選択面が脱塩室を向くように装着した。
枠の四隅にボルトを通し所定のトルクで締め付け、スタックを得た。
陽極室と陰極室の間にこのスタックを挿入し、四隅のボルトで締め付けて本体に固定した。
S3には3台のマグネチックポンプが内蔵されており、それぞれ脱塩液タンクと脱塩室連通孔、濃縮室タンクと濃縮室連通孔をつないでスタックを通過後、元のタンクに戻るようになっている。また、3台目のポンプは電極液タンクから陰極室、陽極室を直列に通過しタンクに戻るようになっている。
必要に応じて配管を熱交換器につなぎ、またはタンクに冷却器や加熱器を入れ温度調整する。
陽極板、陰極板はチタン板に白金をコートしたものを使用した。
これらの電極板は直流電流を供給できる整流器に接続されている。
【0065】
[電気透析の評価]
上記で製造した電気透析装置を用いて、以下の透析条件にて、電気透析を実施し、透析時間(min)および電流値(A)を経時的に測定した。
(透析条件)
・脱塩液:20g/l KI水溶液、1000mL
・濃縮液:イオン交換水、100mL
・電極液:9g/l KOH水溶液、500mL
・印加電圧:10V定電圧
ただし、比較例1の脱塩液には、20g/l KI水溶液に対してヨウ素(I)を所定量添加して調製した、I濃度が45ppmであるKI水溶液を使用した。
実施例1脱塩液には、比較例1で調製したKI水溶液に対して亜硫酸カリウム(還元剤)を所定量添加し、I濃度が0ppm(測定限界以下)であるKI水溶液を使用した。
実施例2脱塩液には、比較例1で調製したKI水溶液に対して亜硫酸カリウム(還元剤)を所定量添加し、I濃度が20ppmであるKI水溶液を使用した。
なお、脱塩液中のI濃度は、吸光光度計を用いて、25℃下、350nmの吸光度を測定し、予め準備した検量線により、定量した。また、脱塩液中の酸化還元電位を、ORP計を用いて測定した結果、実施例1が120mV、実施例2が280mV、比較例1が290mVであった。
【0066】
上記の電気透析の結果、最大電流値は、実施例1が0.31A、実施例2が0.27A、比較例1が0.22Aであり、透析時間は、実施例1が40min、実施例2が66min、比較例1が97minであった。なお、透析終点は、脱塩液の電気伝導度を基準とした。
以上の結果より、実施例1~2の電気透析方法では、比較例1と比べて、最大電流値が高く、また透析時間が短いことから、電気透析装置中におけるヨウ化物イオンの透過効率の低下を抑制できる結果を示した。
【符号の説明】
【0067】
1 電気透析装置
2 濃縮室
3 脱塩室
4 陽極
5 陰極
6 電源
7 アニオン交換膜
8 カチオン交換膜
10 廃液
11 廃液タンク
12、13 ライン
20 濃縮液
21 濃縮液タンク
22、23、24 ライン
30 脱塩液
31、32 ライン
50 還元剤タンク
51、52 ライン
100 ヨウ素回収システム
図1
図2
図3