(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-06-09
(45)【発行日】2025-06-17
(54)【発明の名称】回転電機用インサート部材
(51)【国際特許分類】
H02K 5/06 20060101AFI20250610BHJP
【FI】
H02K5/06
(21)【出願番号】P 2023159276
(22)【出願日】2023-09-22
【審査請求日】2024-08-23
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000215785
【氏名又は名称】TPR株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】591206120
【氏名又は名称】TPR工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 喬
(72)【発明者】
【氏名】東海林 康智
(72)【発明者】
【氏名】清野 一樹
(72)【発明者】
【氏名】川合 清行
【審査官】若林 治男
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-016736(JP,A)
【文献】特許第6655560(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K 5/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転電機のアルミニウム合金製モーターケースに鋳込まれる略円筒形状のインサート部材であって、
前記インサート部材の外周面には、凹部と凸部とを含む凹凸部が形成され、
前記インサート部材の中心軸を含む仮想平面により前記インサート部材を軸方向に沿って、2分割に切断したときに前記中心軸の両側に一つずつ現れる切断面のうちの一方である一切断面において、
所定の軸方向長さの範囲における、前記凹凸部の輪郭を含む、前記外周面の輪郭に沿った線を輪郭線としたとき、
前記輪郭線の長さを前記所定の軸方向長さで割った値である外周面長さ比が、1.15以上
且つ3.00以下となる、
回転電機用インサート部材。
【請求項2】
前記インサート部材は、前記所定の軸方向長さの範囲において、前記インサート部材の内周面と平行な線分を前記一切断面と重ねた際に、前記線分上で前記インサート部材が前記線分に重なる実体部領域と、前記線分上で前記インサート部材が前記線分に重ならない非実体部領域と、を画定し、
前記線分上において、前記所定の軸方向長さの範囲のうち、前記実体部領域の割合を示す値を実体部比率として、
前記インサート部材における前記一切断面において、前記線分を、前記凹凸部において最も突出している前記凸部の先端部から前記凸部の基端部側に向かって、前記凹凸部の高さ方向に沿って所定のピッチで移動させた各測定点の前記実体部比率の値を順にプロットし、横軸に前記実体部比率を表し、縦軸に前記高さ方向における前記先端部からの距離を測定高さとして表した図を実体部集計図として、
複数の前記一切断面に基づいた前記各測定点における前記実体部比率の平均を平均実体部比率として、前記平均実体部比率を順にプロットした前記実体部集計図を平均実体部集計図として、
前記平均実体部集計図において、前記平均実体部比率が0の位置を図上先端部として、
前記先端部側から前記基端部側に向かって順にプロットされた前記平均実体部比率が0.98を初めて超えた位置を図上基端部として、
前記図上先端部から前記図上基端部までの距離を前記凹凸部の平均最大高さとしたとき、
前記凹凸部の平均最大高さが0.15mm以上1.50mm以下である、
請求項1に記載の回転電機用インサート部材。
【請求項3】
前記図上基端部から前記図上先端部側へ高さを0.10mm移動した位置における前記平均実体部比率をAとして、前記外周面長さ比をAで割った値を第一界面パラメータとしたとき、
前記第一界面パラメータが1.30以上である、
請求項2に記載の回転電機用インサート部材。
【請求項4】
前記インサート部材の外径から内径を引いた値の半分を前記インサート部材の厚さとしたとき、
前記インサート部材の厚さが前記インサート部材の外径の0.8%以上である、
請求項1に記載の回転電機用インサート部材。
【請求項5】
前記外周面に、粗面化処理が施されている、
請求項1に記載の回転電機用インサート部材。
【請求項6】
前記インサート部材の前記外周面は、前記軸方向における一部において、前記外周面長さ比が1.15未満である領域と前記第一界面パラメータが1.30未満である領域とのうち少なくも一方を有する、
請求項3に記載の回転電機用インサート部材。
【請求項7】
前記平均実体部集計図において、
前記図上基端部における前記平均実体部比率から、ある前記測定高さにおける前記平均実体部比率を引いた値を平均非実体部比率として、前記図上基端部から前記図上先端部側へ高さを0.10mm移動した位置における前記平均非実体部比率をBとしたとき、
0.10/B≦1.30である、
請求項3に記載の回転電機用インサート部材。
【請求項8】
前記平均実体部集計図において、
前記図上基端部における前記平均実体部比率から、ある前記測定高さにおける前記平均実体部比率を引いた値を平均非実体部比率として、前記図上基端部から前記図上先端部側へ高さを0.10mm移動した位置における前記平均非実体部比率をBとしたとき、
0.10×B≧0.01である、
請求項3に記載の回転電機用インサート部材。
【請求項9】
前記平均実体部集計図において、
前記図上基端部から前記平均実体部比率が0.30の位置までの高さが0.40mm以下である、
請求項3に記載の回転電機用インサート部材。
【請求項10】
前記平均実体部集計図において、
前記外周面長さ比を、前記図上基端部から前記平均実体部比率が0.30の位置までの高さで割った値である第二界面パラメータが、4.00以上である、
請求項3に記載の回転電機用インサート部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転電機用インサート部材に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に、回転電機のモーターケースの構造部材として、アルミニウム合金が多く用いられている。また、当該モーターケースにおいて、ステータを配置する部分には、強度を補うために、鉄系材料により略円筒形状に形成された高強度部材をインサート部材として使用する場合がある。これに関連して、圧入や鋳込みによりモーターケースと一体化されるインサート部材の外周面に凹凸を設けることが提案されている(例えば、特許文献1、2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2001-169500号公報
【文献】特許第6655560号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、鉄系材料で形成されたインサート部材は、モーターケースの構造部材として一般的に多く用いられるアルミニウム合金と比較して熱伝導性に劣る。そのため、インサート部材の外周面に設けられた凹凸によりモーターケースとの接合強度が高められる一方で、ステータ等の発熱体が発する熱を効率的に外部に放熱できず、モーターの出力低下やモーターに使用される磁石の磁力低下を招く虞があった。
【0005】
本発明の技術は、上記した実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、インサート部材とモーターケースとの界面における熱伝導性を良好に制御し得るインサート部材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明の技術は以下の構成を採用した。本発明に係る技術の一側面としての回転電機用インサート部材は、回転電機のアルミニウム合金製モーターケースに鋳込まれる略円筒形状のインサート部材であって、前記インサート部材の外周面には、凹部と凸部とを含む凹凸部が形成され、前記インサート部材の中心軸を含む仮想平面により前記インサート部材を軸方向に沿って、2分割に切断したときに前記中心軸の両側に一つずつ現れる切断面のうちの一方である一切断面において、所定の軸方向長さの範囲における、前記凹凸部の輪郭を含む、前記外周面の輪郭に沿った線を輪郭線としたとき、前記輪郭線の長さを前記所定の軸方向長さで割った値である外周面長さ比が、1.15以上となる。
【0007】
また、前記インサート部材は、前記所定の軸方向長さの範囲において、前記インサート部材の内周面と平行な線分を前記一切断面と重ねた際に、前記線分上で前記インサート部材が前記線分に重なる実体部領域と、前記線分上で前記インサート部材が前記線分に重ならない非実体部領域と、を画定し、前記線分上において、前記所定の軸方向長さの範囲のうち、前記実体部領域の割合を示す値を実体部比率として、前記インサート部材における前記一切断面において、前記線分を、前記凹凸部において最も突出している前記凸部の先端部から前記凸部の基端部側に向かって、前記凹凸部の高さ方向に沿って所定のピッチで移動させた各測定点の前記実体部比率の値を順にプロットし、横軸に前記実体部比率を表
し、縦軸に前記高さ方向における前記先端部からの距離を測定高さとして表した図を実体部集計図として、複数の前記一切断面に基づいた前記各測定点における前記実体部比率の平均を平均実体部比率として、前記平均実体部比率を順にプロットした前記実体部集計図を平均実体部集計図として、前記平均実体部集計図において、前記平均実体部比率が0の位置を図上先端部として、前記先端部側から前記基端部側に向かって順にプロットされた前記平均実体部比率が0.98を初めて超えた位置を図上基端部として、前記図上先端部から前記図上基端部までの距離を前記凹凸部の平均最大高さとしたとき、前記凹凸部の平均最大高さが0.15mm以上1.50mm以下であってもよい。
【0008】
また、前記図上基端部から前記図上先端部側へ高さを0.10mm移動した位置における前記平均実体部比率をAとして、前記外周面長さ比をAで割った値を第一界面パラメータとしたとき、前記第一界面パラメータが1.30以上であってもよい。
【0009】
また、前記インサート部材の外径から内径を引いた値の半分を前記インサート部材の厚さとしたとき、前記インサート部材の厚さが前記インサート部材の外径の0.8%以上であってもよい。
【0010】
また、前記外周面に、粗面化処理が施されていてもよい。
【0011】
また、前記インサート部材の前記外周面は、前記軸方向における一部において、前記外周面長さ比が1.15未満である領域と前記第一界面パラメータが1.30未満である領域とのうち少なくも一方を有してもよい。
【0012】
また、前記平均実体部集計図において、前記図上基端部における前記平均実体部比率から、ある前記測定高さにおける前記平均実体部比率を引いた値を平均非実体部比率として、前記図上基端部から前記図上先端部側へ高さを0.10mm移動した位置における前記平均非実体部比率をBとしたとき、0.10/B≦1.30であってもよい。
【0013】
また、前記平均実体部集計図において、前記図上基端部における前記平均実体部比率から、ある前記測定高さにおける前記平均実体部比率を引いた値を平均非実体部比率として、前記図上基端部から前記図上先端部側へ高さを0.10mm移動した位置における前記平均非実体部比率をBとしたとき、0.10×B≧0.01であってもよい。
【0014】
また、前記平均実体部集計図において、前記図上基端部から前記平均実体部比率が0.30の位置までの高さが0.40mm以下であってもよい。
【0015】
また、前記平均実体部集計図において、前記外周面長さ比を、前記図上基端部から前記平均実体部比率が0.30の位置までの高さで割った値である第二界面パラメータが、4.00以上であってもよい。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、インサート部材とモーターケースとの界面における熱伝導性を良好に制御し得るインサート部材を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】
図1は、実施形態に係る回転電機用インサート部材の全体図、及びその外周面の一部を拡大した拡大図である。
【
図2】
図2は、実施形態に係る回転電機用インサート部材の、所定の切断面の一例を示す断面図である。
【
図3】
図3は、実施形態に係る回転電機用インサート部材の、測定高さと平均実体部比率との関係を説明する、平均実体部集計図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に、本発明の実施形態について、図面を参照して説明する。以下の実施形態に記載されている構成は、特に記載がない限りは発明の技術的範囲をそれらのみに限定する趣旨のものではない。以下の実施形態における各構成及びそれらの組み合わせ等は、一例であって、本発明の主旨から逸脱しない範囲内で、適宜、構成の付加、省略、置換、及びその他の変更が可能である。
【0019】
<実施形態>
[構造]
図1は、実施形態に係る回転電機用インサート部材1(以下、「インサート部材1」と称する)の全体図、及びその外周面の一部を拡大した拡大図である。本実施形態では、インサート部材1の中心軸Cに沿う方向を軸方向とし、軸方向と直交し中心軸Cからインサート部材1の外周面側へ向かう方向を径方向とする。また、インサート部材1の外周面に沿う、中心軸C回りの方向を周方向とする。このような軸方向・径方向・周方向とは、インサート部材1において、各要素における相対的な位置関係を示すための方向に過ぎない。
【0020】
本実施形態に係るインサート部材1は、例えば、中心軸Cを中心とした略円筒形状に形成される鋳鉄材であり、外周面(表面)に複数の凸部10が形成されている。ここで、凸部10に対して相対的に陥没している部位を「凹部13」と称し、凸部10と凹部13とを含む構造を「凹凸部」と称する。本発明の適用対象となる回転電機は、例えば、電気自動車等に用いられる回転電機である。但し、本発明の適用対象となる回転電機は、これに限定されない。本実施形態では、インサート部材1の外径ODは150mm~300mmの範囲内で形成されているが、使途によって適宜変更してもよい。また、外径ODは、互いに平行な二つの平面間にインサート部材1を置き、インサート部材1の外周面上にある凸部10の先端部11と、互いに平行な二つの平面とを夫々接触させたときの、互いに平行な二つの平面間の距離に相当する値である。ここで、外径ODから内径IDを引いた値の半分をインサート部材1の厚さとする。インサート部材1の当該厚さは、インサート部材1の外径ODの0.8%以上であることが好ましい。インサート部材1の厚さが外径ODの0.8%未満となると、インサート部材1とモーターケースとを一体化する際に強度が不足し、インサート部材1に割れが生じるリスクが高くなる。また、インサート部材1の重量は軽量であることが望ましいため、インサート部材1の厚さは外径ODの4%未満程度であることが好ましい。
【0021】
回転電機は、例えば、回転軸、ローター、ステータ、モーターケース、ベアリング等の部品を含んで構成されている。モーターケースは、内部が円柱状にくり抜かれた筒部を有している。ステータは、一般的には電磁鋼板等で形成され、当該筒部の内周部分に嵌合されることになる。インサート部材1は、モーターケースにおけるステータとの嵌合部分に配置されることになる。ここで、インサート部材1は、アルミニウム合金製のモーターケースの内周部分に鋳込まれて用いられる。これにより、モーターケースとインサート部材1は、インサート部材1の外周面の少なくとも一部がアルミニウム合金で覆われる複合構造体となる。ここで、インサート部材1の内周部分に嵌合されたステータは、回転電機の稼働に伴い発熱することになるが、インサート部材1の外周面を適切な形態とすることで、インサート部材1とモーターケースとの界面における熱伝導性を良好に制御し、発生した熱をモーターケースへと効率的に逃がすことができる。
【0022】
先述の、インサート部材1の素材は、スチールと比較して熱伝導性の高い鋳鉄などが適しているが、特に限定されるものではない。典型的には、熱伝導性及び加工性を考慮した
JIS FC250相当材等の片状黒鉛鋳鉄を用いることができる。
【0023】
インサート部材1の外周面の凹凸部は、遠心鋳造法における塗型剤の凹凸を転写する方法や、直接インサート部材の外周面に切削加工等の機械加工を施す方法、粗面化処理を施す方法、又はこれらを組合せる方法で形成してもよい。粗面化処理としては、例えば、溶射、コールドスプレー、ショットブラスト等の表面処理が挙げられる。溶射材料としては、例えば、アルミニウム合金などが例示されるが、特に限定されない。但し、先述のインサート部材1の材質や凹凸部の成形方法は一例であり、特に限定されない。
【0024】
図2は、実施形態に係るインサート部材1の所定の切断面の一例を示す断面図である。本実施形態における所定の切断面とは、インサート部材1の中心軸Cを含む仮想平面によりインサート部材1を軸方向に沿って、2分割に切断したときに中心軸Cの両側に一つずつ現れる切断面のうちの一方である一切断面である。一切断面の軸方向における長さは、後述の長さd1以上である。
図2では、所定の切断面の一例として、
図1におけるA-A’断面が図示されている。以下では、
図2を用いて、本実施形態に係るインサート部材1が備える凹凸部について説明する。
【0025】
凹凸部における凸部10は、インサート部材1の一部であり、インサート部材1の外周面に形成されている。凸部10は、軸方向及び周方向において、配置位置や配置密度が不連続且つ不規則(ランダム)に複数配置されていてもよいし、配置位置や配置密度が連続的且つ規則的に、複数配置されていてもよい。また、凸部10は、先端部11と基端部12とを有し、基端部12から先端部11へインサート部材1の径方向の外側に向かって突き出るように形成されている。但し、凸部10及び凹部13の形状は特に限定されない。
【0026】
さらに、インサート部材1の外周面において、複数の凸部10が形成される箇所を一部に限定したり、複数の凸部10のうち一部を削り落とす加工等を行ってもよい。これにより、複数の凸部10は、インサート部材1の外周面の一部領域にのみ形成されている態様でもよい。
【0027】
凸部10は、遠心鋳造法によって遠心力を付与されながら鋳込まれることで形成される場合がある。この際、凸部10の先端部11は、金型の内周面を基準に形成されるため、金型の内周面が真円であれば、インサート部材1の中心軸Cからの距離はほぼ等しくなるのに対し、基端部12は中心軸Cからの距離が不揃いになることがある。そのため、凸部10の高さは、後述の実体部集計図を用いて凹凸部の平均最大高さh1を導く過程において、先端部11を基準として測定している。但し、凸部10の形成方法はこれに限らず、例えば、円筒部材の外周面に切削加工等の機械加工を施すことによって形成してもよい。
【0028】
また、凸部10の形状は特に限定されない。凸部10は、例えば、らせん状に連続する形状を有してもよいし、周方向に沿って環状に連続する形状を有してもよい。例えば、インサート部材1の外周面に切削加工等の機械加工を直接施すことで、凸部10をらせん状又は環状に形成することができる。凸部10の形状は、後述の実体切断試験、熱伝導率測定、表面温度シミュレーション、及びコンパクト性評価において効果を有するものであればよい。
【0029】
インサート部材1の外周面において、凹凸部が形成される領域を一部に限定してもよい。また、インサート部材1の外周面は、軸方向における一部において、後述の外周面長さ比が1.15未満である領域と後述の第一界面パラメータが1.30未満である領域とのうち少なくとも一方を有していてもよい。この際、外周面長さ比が1.15未満になる領域や第一界面パラメータが1.30未満になる領域には、凹凸部が形成されてもよいし、凹凸部が形成されていなくともよい。また、外周面長さ比が1.15未満になる領域や第
一界面パラメータが1.30未満になる領域の、軸方向における長さは、インサート部材1の全長に対して50%未満であることが好ましく、より好ましくは30%未満であり、さらに好ましくは10%未満である。また、外周面長さ比が1.15未満になる領域や第一界面パラメータが1.30未満になる領域は、インサート部材1の外周面において、周方向における一部の領域でもよく、周方向における全域でもよい。外周面長さ比が1.15未満になる領域や第一界面パラメータが1.30未満になる領域を外周面の一部に限定することで、インサート部材1において熱が伝わり易い箇所をステータの発熱部に応じて変更することができ、熱によるインサート部材1やモーターケースの変形を防ぐことができる。
【0030】
図2の符号30は、所定の切断面において、長さd1(本発明における、「所定の軸方向長さ」の一例)の範囲における、凸部10や凹部13の形状に沿ったインサート部材1の外周面の輪郭線(以下、「輪郭線30」と称する)を示している。また、符号40は、インサート部材1の内周面(以下、「内周面40」と称する)を示している。インサート部材1は円筒形状に形成されているため、
図2において、内周面40は、軸方向に沿った直線として形成されている。
【0031】
[外周面長さ比]
外周面長さ比とは、長さd1の範囲における輪郭線30の長さを、長さd1で割った値である。凹凸部の平均最大高さh1の値が同等の場合、外周面長さ比の値がより大きいほど熱伝導性に優れることが期待される。この際、外周面長さ比は、1.15以上であることが好ましく、1.30以上であるとより好ましい。また、外周面長さ比の値は、凹凸部の平均最大高さh1の値を大きくし、輪郭線30の長さを大きくすることで容易に大きくすることができるが、凹凸部の平均最大高さh1が過大となると、インサート部材1とモーターケースとの界面付近においてインサート部材1が占める体積が増えるため、伝導の熱抵抗が大きくなり、当該界面における熱伝導性が損なわれる虞がある。そのため、外周面長さ比を3.00以下にすることが好ましい。外周面長さ比をこのような範囲とし、凹凸部の平均最大高さh1が過大にならないようにすることで、インサート部材1とモーターケースとの界面における優れた熱伝導性を備えることができる。さらに、凹凸部の平均最大高さh1が過少にならないため、インサート部材1とモーターケースとの剥離を抑制することができる。外周面長さ比の測定は、一つのインサート部材1において複数の切断面、具体的には、6箇所の切断面にて行い、外周面長さ比はその平均値を求める。
【0032】
[実体部比率]
インサート部材1の凸部10によって、実体部領域21と非実体部領域22とが画定される。
図2に示すように、実体部領域21と非実体部領域22は、長さd1を有する線分20を所定の切断面に重ねたときに当該線分20が凸部10と重なる領域か否かによって特定される。より詳しくは、長さd1の範囲において、線分20が凸部10と重なる領域が実体部領域21として定義され、線分20が凸部10と重ならない領域が非実体部領域22として定義される。なお、線分20は、所定の切断面において内周面40と平行(つまり、中心軸Cと平行)な仮想の線分であり、実体部領域21や非実体部領域22を特定するために便宜上設けられる線分である。
【0033】
実体部比率とは、長さd1の範囲のうち、実体部領域21が形成されている割合を示す値である。線分20を
図2の矢印A20の方向(径方向における先端部11側から基端部12側)に沿って所定のピッチで移動することで、先端部11からの径方向における距離である測定高さのうち、各測定点における測定高さでの実体部領域21の長さを取得できる。その際、任意の測定高さにおいて、長さd1に対する、実体部領域21の長さを合計したものの比率を、「実体部比率」と称する。同様の操作を複数の所定の切断面で行い、各切断面における凸部10の実体部比率を集約し、各測定点の測定高さにおける実体部比
率を平均化することによって、当該任意の測定高さにおける、複数の所定の切断面に基づいた各測定点の実体部比率の平均値である平均実体部比率を求めることができる。
【0034】
[実体部集計図]
図2に示すように、線分20をインサート部材1の基端部12側に向かって(線分20を矢印A20の方向に沿って)所定のピッチで移動し、実体部比率が1.00になるまで実体部比率の取得を繰り返し、グラフ上に取得した実体部比率をプロットすることで、所定の切断面に現れる複数の凸部10の形状を集約した一つの形状としてグラフ化できる。これを「実体部集計図」と称する。実体部集計図は、縦軸に凹凸部の高さ方向における先端部11からの距離である測定高さを表し、横軸には実体部比率を表したグラフである。また、実体部比率を求める作業を複数の所定の切断面で行い、複数の所定の切断面によって求められる平均実体部比率を順にプロットした平均実体部集計図を作成することで、平均的に、インサート部材1における凸部10の形成状態を把握することができる。この際、いずれの所定の切断面においても、高さ方向の基準点は「長さd1の範囲内における複数の凸部10のうち、最も突出している凸部10の先端部11」とし、線分20を移動するピッチも同様のピッチとする。これにより、複数の所定の切断面においても測定高さが一義的に決定されうる。
図3は、本実施形態に係るインサート部材1の一例として、所定のピッチを0.05mm、長さd1を14.7mmとし、あるサンプルの6つの所定の切断面から断続的に取得できる平均実体部比率を順にプロットした平均実体部集計図を示している。
【0035】
凹凸部の平均最大高さh1は、平均実体部集計図の縦軸において、図上先端部から図上基端部までの値の絶対値である。図上先端部は、実体部集計図においては、「長さd1の範囲内における複数の凸部10のうち、最も突出している凸部10の先端部11」に相当する。図上先端部における測定高さは0mmであり、実体部比率は0となる。図上基端部は、実体部集計図においては、「先端部11側から基端部12側に向かって順にプロットされた実体部比率が0.98を初めて超えた位置」であり、平均実体部集計図においては、「先端部11側から基端部12側に向かって順にプロットされた平均実体部比率が0.98を初めて超えた位置」である。なお、実体部集計図の各測定点における実体部比率は、上側に位置する凸部10の先端部11側から下側に位置する中心軸C側に向かって測定するため、各測定点における測定高さはマイナスの値で表示される。複数の実体部集計図から求めた平均実体部集計図においても同様であるが、実際の凹凸部の高さ及び凹凸部の平均最大高さh1は平均実体部集計図上の縦軸の値の絶対値となり、平均最大高さh1は図上基端部から図上先端部までの距離となる。また、平均実体部集計図上にプロットされる各測定点を、線でつないだものを「平均実体部曲線」と称する。
【0036】
所定の軸方向長さである線分20の長さd1は、原則として14.7mmとするが、測定サンプルの凸部10や凹部13の大きさに鑑みて適宜変更してよい。
【0037】
[測定方法]
[測定用試料の準備]
以下では、輪郭線30の長さ及び実体部比率の測定方法について説明する。はじめに、測定用試料の調整方法について説明する。中心軸Cを含み、且つ軸方向に沿う方向に切断したインサート部材1を、さらに、樹脂包埋と研磨が可能な大きさとなるように、軸方向と垂直な断面で切断し、輪郭線30の長さ及び実体部比率を測定する一切断面が研磨面となるように樹脂包埋を行う。樹脂が固化した後、流水中にて耐水エメリー紙を用いて試料を研磨する。このとき、耐水エメリー紙の番手は、#220、#400、#800、#1000、#1500の順で交換する。研磨が終了したら、輪郭線30の長さ及び実体部比率の測定を行う。研磨が終了した後の観察面は、所定の切断面に相当する。
【0038】
[外周面長さ比の測定方法]
本実施形態において、輪郭線30の長さの測定には、株式会社ハイロックス社製デジタルマイクロスコープRX-100を使用した。測定時の対物レンズ倍率は20倍又は40倍とし、凹凸部の平均最大高さh1が大きい場合、例として0.30mmを超える場合は、20倍を使用する。今回使用した機器の場合は、対物レンズ倍率が20倍のとき、モニターの横軸の長さが14.7mmとなり、これを長さd1とする。研磨後の測定用試料をセットしたら、インサート部材1の内周面40と観察用モニターに表示されるグリッドの横軸とが平行になるように測定用試料をセットし、その後、外周面の観察が可能な位置に測定用試料を平行移動させる。マイクロスコープ付属のソフトウェアによる「自動面積」ツールを使用し、モニター上のインサート部材1部分をクリックして階調濃度を調整すると、インサート部材1と包埋に使用した樹脂との階調濃度差により、インサート部材1部分の面積と周長を自動で測定することができる。このとき、階調濃度は、インサート部材1が過不足無く選択される値とする。測定される周長は、モニター上のインサート部材1の全周であるため、インサート部材1の輪郭線30以外の部分に相当する長さを求め、測定した全周長から差し引く。輪郭線30の長さはこのようにして求められる。この際、輪郭線30以外の部分の長さは、マイクロスコープに付属の「自動幅」ツールを使用し求めることができる。このようにして求めた輪郭線30の長さを、長さd1で割ることによって、外周面長さ比を求めることができる。
【0039】
[実体部比率の測定方法]
実体部比率の測定には、株式会社ハイロックス社製デジタルマイクロスコープRX-100を使用し、測定時の対物レンズ倍率は20倍又は50倍を使用し、凹凸部の平均最大高さh1が大きい場合、例として0.20mm以上の場合は、20倍を使用する。マイクロスコープ付属のソフトウェアによるグリッドと自動幅ツールを使用した。研磨後の測定用試料をセットし、インサート部材1の内周面40と観察用モニターに表示されるグリッド横軸とが平行になるように測定用試料をセットする。その後、外周面の観察が可能な位置に観察用試料を平行移動させる。次に、自動幅ツールを用いて、当該測定用試料の横軸方向における測定を行う。自動幅ツールによる測定は、階調濃度を使用した自動測定のため、実体部領域21に相当するインサート部材エリアと、非実体部領域22に相当する樹脂エリアの自動識別が妥当となるように都度階調濃度を調整し、所定のピッチ毎に移動し、任意の測定高さにおける実体部領域21の長さを測定する。本実施形態における線分20は、当該自動幅ツールの測定位置を示している。線分20をインサート部材1の径方向に沿って、先端部11側から基端部12側に向かって所定のピッチで移動することで、先端部11からの任意の測定高さにおける、実体部領域21の軸方向長さを測定することができる。この際、線分20を、一切断面において、長さd1の範囲内で最も突出している凸部10の先端部11から、基端部12側に向かって、所定のピッチである0.05mm又は0.025mm毎に移動させ、測定を行う。対物レンズ倍率に50倍を使用する場合には、所定のピッチは0.025mmとするとよい。
【0040】
図2では、線分20が位置20aにある場合と位置20bにある場合とが図示されている。位置20aは、長さd1の範囲内において最も突出している凸部10の先端部11の位置である。線分20が位置20aに示す測定高さにある場合、線分20は、当該凸部10の先端部11と重なっている。これを基準とし、線分20を矢印A20が示す方向(基端部12側)へ所定のピッチで移動させる。位置20bは、線分20を、所定のピッチで任意の回数、移動を繰り返した場合の測定高さの一例である。位置20bに示す測定高さに線分20がある場合には、インサート部材1は、線分20のうち破線で示す実体部領域21と、実線で示す非実体部領域22とを画定していると言える。線分20を矢印A20に沿って移動し、後述の実体部比率が0.98を初めて超えた位置から、さらに線分20を矢印A20に沿って移動し、線分20における長さd1の範囲の全てが実体部領域21となった場合(つまり、実体部比率が1.00になった場合)に測定を終了する。
【0041】
[非実体部比率]
非実体部比率とは、実体部集計図において、
[任意の測定高さにおける非実体部比率]=[図上基端部の実体部比率]-[任意の測定高さにおける実体部比率]
という関係が成り立つ値である。また、平均実体部集計図においては、
[任意の測定高さにおける平均非実体部比率]=[図上基端部の平均実体部比率]-[任意の測定高さにおける平均実体部比率]
という関係が成り立つ。
【0042】
[平均実体部集計図のパラメータ]
平均実体部集計図において、凹凸部の平均最大高さh1が、0.15mm以上1.50mm以下の範囲内となるように、凸部10及び凹部13を形成することが好ましい。より好ましくは、凹凸部の平均最大高さh1が、0.20mm以上1.00mm以下の範囲内であるとよい。この際、凹凸部の平均最大高さh1を大きくすることで、輪郭線30の長さを長くすることができるが、凹凸部の平均最大高さh1が過大となると、インサート部材1とモーターケースとの界面付近で、凸部10が占める体積が増え、伝導の熱抵抗が大きくなるため、熱伝導性が損なわれる虞がある。これに対して、凹凸部の平均最大高さh1を1.50mm以下としつつ、輪郭線30の長さを大きくする、すなわち、界面長さ比を大きくすることにより、インサート部材1からモーターケースへの熱伝導性や、モーターケースからの放熱性の一助となる。
【0043】
また、凹凸部の平均最大高さh1を1.50mm以下とすることで、インサート部材1の軽量化やコンパクト化を実現できる。しかし、凹凸部の平均最大高さh1が過少であると、インサート部材1とモーターケースとの接合力が不足し、インサート部材1とモーターケースとが剥離する虞がある。一般に、インサート部材1とモーターケースとの接合力が大きい方が熱伝導性に優れるため、インサート部材1とモーターケースとの接合力を維持するために、凹凸部の平均最大高さh1を0.15mm以上とすることが好ましい。これにより、インサート部材1がモーターケースから剥離することを抑制し易くなる。
【0044】
ここで、平均実体部集計図において、図上基端部から図上先端部側へ高さを0.10mm移動した位置における平均実体部比率を「第一平均実体部比率」と称し、第一平均実体部比率に基づいて求めた平均非実体部比率を「第一平均非実体部比率」と称する。第一平均実体部比率の値をAとし、第一平均非実体部比率の値をBとする。このとき、外周面長さ比をAで割った値を、便宜上、「第一界面パラメータ」と称する。第一界面パラメータは、凸部10の基端部12付近の形状を把握するための一助となる。例えば、インサート部材1の内部には、ステータ等の発熱体が配置される。その際、発熱体から発生する熱は、凸部10の基端部12付近からモーターケース等が配置される先端部11側へと伝わっていくことになる。そのため、発熱体の熱を効率よくモーターケースへ伝えるため、インサート部材1における基端部12付近の形状はできるだけフラットであることが好ましい。従って、第一平均実体部比率は、できるだけ小さい値となるものが好ましい。つまり、第一界面パラメータは、大きい値になることが好ましい。
図3には、図上基端部から図上先端部側へ高さを0.10mm移動した位置における第一平均実体部比率をAとし、当該位置における第一平均非実体部比率をBとして示している。
【0045】
また、外周面長さ比を、図上基端部から平均実体部比率が0.30の位置までの高さで割った値を、便宜上、「第二界面パラメータ」と称する。
図3では、「図上基端部から平均実体部比率が0.30の位置までの高さ」をh2で示す。高さh2は、換言すると、「図上基端部の測定高さと平均実体部比率が0.30となる位置の測定高さとの差」である。ここで、平均実体部比率が0.30となる位置が複数存在する場合には、最も図上基端
部側の位置を評価対象とする。つまり、高さh2は、図上基端部から平均実体部比率が0.30となる最も図上基端部側の位置までの高さとなる。第二界面パラメータは、平均実体部集計図に基づいて、図上基端部から平均実体部比率が0.30の位置までのインサート部材1の凸部10の形状を把握しやすくできる。上述の第一界面パラメータ及び第二界面パラメータを用いることで、外周面長さ比を、平均実体部集計図における一定の位置で規格化することができ、凹凸部の形状と熱伝導性との相関を確認しやすくなる。
【0046】
平均実体部比率が0.30の位置の測定高さは、平均実体部集計図において、連続する2点である平均実体部比率が0.30未満の点と平均実体部比率が0.30を超える点とに基づいて求めることができる。具体的には、平均実体部集計図上における平均実体部比率が0.30未満の点と、当該点に連続し平均実体部比率が0.30を超える点とを結んだ直線の関数から求めることができる。
【0047】
本発明のインサート部材1における凹凸部の形状を、外周面長さ比及び平均実体部集計図に基づいて、第一界面パラメータ及び第二界面パラメータを用いて整理することで、インサート部材1とモーターケースとの界面における熱伝導性に、更に優れたインサート部材1を判別することができる。
【0048】
[試験・シミュレーション]
サンプルを用いた試験・シミュレーションにより、本発明の実施例1~11に係るインサート部材1及び比較例1~3に係るインサート部材を評価した。具体的には、実施例及び比較例(以下、実施例等という)のインサート部材について、各種パラメータの測定、実体切断試験、熱伝導率測定と、表面温度シミュレーションを行った。
【0049】
[各種パラメータの測定]
実施例等に係るインサート部材の各種パラメータを測定した。表1には、実施例等に係るインサート部材の各測定項目の結果を示す。測定項目1では、各実施例等におけるインサート部材を切断して外周面長さ比を求めた。測定項目2~8では、各実施例等における平均実体部集計図を用いて、夫々の値を求めた。各実施例等における平均実体部集計図を作成する際には、所定のピッチを0.05mm又は0.025mmとした。また、外周面長さ比の測定においては、所定の軸方向長さを、実施例1~3、6~11、比較例1~3では、14.7mmとし、実施例4、5では、7.35mmとした。また、平均実体部比率の測定においては、所定の軸方向長さを、実施例1~3、6~11、比較例1、3では、14.7mmとし、実施例4、5、比較例2では、5.57mmとした。なお、各測定項目における丸括弧内は使用単位であり、記載のないものについては無次元数である。
【0050】
[1.外周面長さ比]
測定項目1として、外周面長さ比を測定した。この際、外周面長さ比は、実施例等におけるインサート部材を、中心軸Cを含む仮想平面により軸方向に沿って切断・研磨し、輪郭線30の長さを測定し、求めた。また、輪郭線30を得られるような所定の軸方向長さを確保するために、インサート部材の軸方向と垂直な方向(径方向)にも切断する。こうして得られた切断面を、マイクロスコープにて観察した。外周面長さ比は、一つのインサート部材から任意の6カ所の所定の切断面を切り出し、その平均値を求めた。
【0051】
[2.凹凸部の平均最大高さh1(mm)]
測定項目2として、各実施例等における平均実体部集計図を用いて、凹凸部の平均最大高さh1を測定した。比較例1については、凹凸部の平均最大高さh1における数値が小さいため、他項目での測定は行っていない。
【0052】
[3.第一平均実体部比率A]
測定項目3として、各実施例等における平均実体部集計図を用いて、第一平均実体部比率Aを求めた。先述したように、第一平均実体部比率Aは、図上基端部から図上先端部側へ高さを0.10mm移動した位置における平均実体部比率である。
【0053】
[4.第一界面パラメータ]
測定項目4として、測定項目1で求めた外周面長さ比を、測定項目3で求めた第一平均実体部比率Aで割ることで、第一界面パラメータを求めた。
【0054】
[5. 0.10/第一平均非実体部比率B(mm)]
測定項目5として、各実施例等の平均実体部集計図における、第一平均実体部比率Aの測定位置と図上基端部との二点を結ぶ直線の勾配(以下、平均実体部曲線の傾きという)を求めた。第一平均非実体部比率Bは、各実施例等において、図上基端部の平均実体部比率から測定項目3で求めた第一平均実体部比率Aの値を引くことで求められる。平均実体部曲線の傾きを確認することで、凸部の基端部付近における形状を把握する一助となる。平均実体部曲線の傾きは、[0.10/第一平均非実体部比率B]により求められる。
【0055】
[6. 0.10×第一平均非実体部比率B(mm)]
測定項目6として、各実施例等の平均実体部集計図において、以下により所定の領域の面積を求めた。測定項目5と同様に、第一平均非実体部比率Bは、各実施例等において、図上基端部の平均実体部比率から測定項目3で求めた第一平均実体部比率Aを引くことで求められる。ここで、所定の領域とは、平均実体部集計図において、図上基端部からの高さを0.10mmとして、幅を第一平均非実体部比率Bとした矩形の領域であって、図上基端部から図上先端部側へ高さを0.10mm移動した位置までの平均実体部曲線を含む領域である。所定の領域の面積は、[0.10×第一平均非実体部比率B]により求められる。これにより、凸部の基端部付近における凹凸部の形状を把握する一助となる。
【0056】
[7.図上基端部から平均実体部比率が0.30の位置までの高さh2(mm)]
測定項目7として、各実施例等における図上基端部から平均実体部比率が0.30の位置までの高さである高さh2を求めた。高さh2が小さくなるほど、インサート部材における図上基端部から平均実体部比率が0.30の位置までの形状が、フラット状に近いものとなる。
【0057】
[8.第二界面パラメータ(1/mm)]
測定項目8として、測定項目1で求めた外周面長さ比を、測定項目7で求めた高さh2で割ることで、第二界面パラメータを求めた。
【0058】
上述のように測定した、各種パラメータの測定結果を表1に示す。
【表1】
【0059】
[実体切断試験]
実体切断試験では、各実施例等において、アルミニウム合金をアウター部材として、インサート部材をアウター部材で鋳込んだ複合体を作製した。ここでいうアウター部材は、モーターケース等に例示される、インサート部材の径方向外側に位置する部材を意味する。さらに、当該複合体を切断し、20mm×20mmのテストピースを切り出した。各実施例等について、テストピースを複数回切り出したときのインサート部材とアウター部材との剥離の有無を判定することで、インサート部材とアウター部材との接合性を評価した。具体的には、各実施例等から6箇所ずつテストピースを切り出して、剥離の有無を判定した。表2に判定基準を示す。
【表2】
【0060】
[熱伝導率測定]
実体切断試験に用いたテストピースのうち、剥離しなかったものから、直径10mm、厚さ3mmとなるような熱伝導率測定用テストピースを作製し、熱伝導率測定用テストピースを用いて、レーザーフラッシュ法にて熱伝導率を測定した。このとき、熱伝導率測定用テストピースの側面を観察しながら、凹凸部の高さの中央部が熱伝導率測定用テストピースの厚さの中央部に位置するように調整した。なお、テストピースの切り出し時にインサート部材とアウター部材とが剥離したものについては、熱伝導率は測定不可(0W/m・K)とし、複数回の試験で数回剥離してしまうもの、又は複数回の試験で剥離しなかったものは、剥離しなかったものの平均値を求めて表6に示した。
【0061】
[表面温度シミュレーション]
各実施例等において、インサート部材の厚さを2mm、複合体部分(インサート部材とアウター部材との界面部分)の厚さを3mm、アウター部材の厚さを2mmとしてモデルを作成し、アウター部材の表面温度をシミュレーションした。この際、インサート部材の内周面温度を150℃、アウター部材外周の流体温度を50℃とし、アウター部材の外周には冷却のための流体が存在する想定で、アウター部材の表面温度を求めた。また、アウター部材の表面から流体への熱伝達については、熱伝達率を200W/m
2・Kとした。
当該シミュレーションによって求められたアウター部材の表面温度を基に、表3に示す判定基準により放熱性の評価を行った。この際、表面温度が高いほど、内部の熱を効率的に伝達することができており、放熱性に優れていると言える。
【表3】
【0062】
[コンパクト性評価]
上述の各種パラメータの測定における、測定項目2である凹凸部の平均最大高さh1に基づいて、表4に示す判定基準によりコンパクト性を評価した。
【表4】
【0063】
総合判定では、夫々の測定項目における判定記号を基に表5のように評価を行った。
【表5】
【0064】
上述のように測定したサンプル試験の結果と、総合判定を表6に示す。
【表6】
【0065】
表6に示す結果より、総合判定においては、実施例1~11のいずれもが比較例1~3
のいずれに対しても優れていることを確認した。さらに、実施例2、3、4、5が特に優れていることを確認した。
【0066】
また、実施例1~8、10と比較例1~3との比較により、第一界面パラメータが1.30以上となり且つ第二界面パラメータが4.00以上となるように凹凸部を形成することでインサート部材とモーターケースとの界面における熱伝導率が高くなることを確認した。
【0067】
また、実施例4、5、10は、インサート部材の外周面に溶射又はコールドスプレーによる粗面化処理が施されており、他の実施例等と比較し、熱伝導率が高くなることを確認した。
【0068】
また、実施例1、9と他の実施例等との比較により、外周面長さ比が大きい場合であっても、実施例1、9のように凹凸部の平均最大高さh1が比較的大きい場合には、熱伝導率が高くならないことを確認できた。また、比較例3のように凹凸部の平均最大高さh1が過大である場合にはインサート部材とモーターケースとの界面における熱伝導率が低くなることを確認した。
【0069】
以上の結果より、実施例4、5のように、第一平均実体部比率Aの値が小さく、第一界面パラメータの値が大きい実施例が、熱伝導率が高いことを確認した。各実施例のうち第一界面パラメータが最大となる実施例5において、インサート部材とモーターケースとの界面における熱伝導率が最大となった。
【0070】
以上の結果より、実施例1~11を参照すると、平均実体部集計図における平均実体部曲線の傾きが、
0.10/B≦1.30
であることが好ましいことを確認した。また、実施例2~5を参照すると、平均実体部曲線の傾きが小さいとインサート部材とモーターケースとの界面における熱伝導率が高くなることを確認した。
【0071】
以上の結果より、実施例1~11を参照すると、測定項目6で求めた平均実体部集計図における所定の領域の面積が、
0.10×B≧0.01
であることが好ましいことが確認できた。また、実施例2~5を参照すると、当該所定の領域の面積が大きいとインサート部材とモーターケースとの界面における熱伝導率が高くなることを確認した。
【0072】
以上の結果より、比較例1、2のように、外周面長さ比が1.15未満のものは、テストピース切り出し時にインサート部材とアウター部材とが剥離することがわかった。また、実施例6~8のように、外周面長さ比が1.15よりも大きく1.30未満のものは剥離する場合もあったため、外周面長さ比は1.30以上であることがより好ましいことを確認した。
【0073】
以上の結果より、実施例1~5のように、高さh2が0.40mm以下であると、熱伝導率が高くなることを確認した。また、実施例6~8は、高さh2が0.40mm以下であるものの、テストピース切り出し時の剥離が認められ、必ずしも接合性が高くないことから、熱伝導率が低くなることを確認した。
【0074】
[作用効果]
インサート部材1の外周面に本発明に係る凹凸部を形成することで、ステータ等の発熱
体が発する熱を効率的に外部に放熱するように、インサート部材1とモーターケースとの界面における熱伝導性を向上させることができる。
【0075】
複数の凸部10は、インサート部材1の外周面において、隣り合う凸部10が適度に間隔を有するように配置されている。これにより、鋳型内に流し込む鋳造材料が複数の凸部10間にも行き渡り、モーターケースとインサート部材1との間に生じる空隙を抑制することが可能となり、モーターケースとインサート部材1との界面における熱伝導性を向上できる。
【0076】
本発明のインサート部材1は、長さd1の範囲内において、凹凸部を過度に大きくすることなく、輪郭線30の長さを確保するように、凸部10や凹部13が形成される。そのため、インサート部材1とモーターケースとの界面における熱伝導性を良好に制御し得る。これにより、モーターケースの肉厚の増加によるモーターケース自体の大型化や質量増加を抑制し、回転電機の軽量化やコンパクト化を実現しつつ、インサート部材1からモーターケースへの熱伝導性、及び回転電機自体の放熱性を向上することができる。
【0077】
以上、本発明に係る実施形態について説明したが、本明細書に開示された各々の態様は、本明細書に開示された他のいかなる特徴とも組み合わせることができる。
【符号の説明】
【0078】
1 :回転電機用インサート部材
10 :凸部
13 :凹部
20 :線分
30 :輪郭線
40 :内周面
C :インサート部材の中心軸