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特許7694022形質転換補助用プラスミド及びこれを用いた形質転換体の製造方法、並びに形質転換方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-06-10
(45)【発行日】2025-06-18
(54)【発明の名称】形質転換補助用プラスミド及びこれを用いた形質転換体の製造方法、並びに形質転換方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/90 20060101AFI20250611BHJP
   C12N 15/63 20060101ALI20250611BHJP
【FI】
C12N15/90 100Z
C12N15/63 Z
【請求項の数】 16
(21)【出願番号】P 2020213107
(22)【出願日】2020-12-23
(65)【公開番号】P2022099381
(43)【公開日】2022-07-05
【審査請求日】2023-01-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大西 徹
【審査官】坂崎 恵美子
(56)【参考文献】
【文献】特表2016-533719(JP,A)
【文献】特表2017-500038(JP,A)
【文献】Biotechnology Journal,2016年,Vol.11,p.1110-1117
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/90
C12N 15/63
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゲノム上の所定の位置に導入するための目的遺伝子を少なくとも備える1種又は複数種の線状ゲノム導入核酸断片と、当該線状ゲノム導入核酸断片を組み入れるための一対の相同組換え配列及びカウンターセレクションマーカーを少なくとも有する形質転換補助用プラスミドと、を宿主に導入する工程であって、上記線状ゲノム導入核酸断片は、上記宿主内で、相同組換えによって形質転換補助用プラスミドに組み込まれ、上記線状ゲノム導入核酸断片が形質転換補助用プラスミドに組み込まれた状態で、上記目的遺伝子の外側に当該目的遺伝子をゲノムの所定の位置に相同組換えによって導入するための一対の相同組換え配列と、当該一対の相同組換え配列の外側に当該一対の相同組換え配列と上記目的遺伝子を少なくとも含む線状の核酸断片を上記形質転換補助用プラスミドから切り出すための一対のエンドヌクレアーゼ標的配列とが配置される工程と、
上記宿主のゲノムにおける上記所定の位置に上記目的遺伝子が組み込まれ、上記目的遺伝子が発現する形質転換体を選抜する工程とを有し、
上記カウンターセレクションマーカーが機能することにより、上記線状ゲノム導入核酸断片が組み込まれた状態の形質転換補助用プラスミドを有する宿主が致死となり、
上記線状ゲノム導入核酸断片は、上記目的遺伝子の外側に、当該線状ゲノム導入核酸断片の上記形質転換補助用プラスミドへの組み込みに用いられる、上記形質転換補助用プラスミドの上記一対の相同組換え配列と相同組換え可能な一対の相同組換え配列をさらに備えることを特徴とする、形質転換体の製造方法。
【請求項2】
上記形質転換補助用プラスミドは、上記線状ゲノム導入核酸断片における目的遺伝子の外側と相同組換えする一対の相同組換え配列と、当該相同組換え配列を介して上記線状ゲノム導入核酸断片を組み入れる位置の反対側に配置された一対のエンドヌクレアーゼ標的配列とを備えることを特徴とする請求項1記載の形質転換体の製造方法。
【請求項3】
上記線状ゲノム導入核酸断片は、上記目的遺伝子を挟み込む位置に上記ゲノムの所定の位置に組み入れるための上記一対の相同組換え配列と、当該一対の相同組換え配列の外側に上記一対のエンドヌクレアーゼ標的配列と、当該一対のエンドヌクレアーゼ標的配列の外側に上記形質転換補助用プラスミドと相同組換えするための上記一対の相同組換え配列とを備えることを特徴とする請求項1記載の形質転換体の製造方法。
【請求項4】
上記形質転換補助用プラスミドは、上記エンドヌクレアーゼ標的配列の二本鎖を特異的に切断する標的特異的エンドヌクレアーゼ遺伝子を発現可能に有することを特徴とする請求項1記載の形質転換体の製造方法。
【請求項5】
上記標的特異的エンドヌクレアーゼ遺伝子は、ホーミングエンドヌクレアーゼ遺伝子であることを特徴とする請求項4記載の形質転換体の製造方法。
【請求項6】
上記エンドヌクレアーゼ標的配列は、ホーミングエンドヌクレアーゼが特異的に認識する配列であることを特徴とする請求項5記載の形質転換体の製造方法。
【請求項7】
上記形質転換補助用プラスミドは、上記標的特異的エンドヌクレアーゼ遺伝子の発現を制御する誘導型プロモーターを有することを特徴とする請求項4記載の形質転換体の製造方法。
【請求項8】
上記複数種の線状ゲノム導入核酸断片は、第1の線状ゲノム導入核酸断片から第nの線状ゲノム導入核酸断片(nは2以上の整数)からなり、第mの線状ゲノム導入核酸断片(mは、1≦m≦n-1を満たす整数)の3’末端側は、第m+1の線状ゲノム導入核酸断片の5’末端側と相同組換えする配列を有することを特徴とする請求項1記載の形質転換体の製造方法。
【請求項9】
ゲノム上の所定の位置に導入するための目的遺伝子を少なくとも備える1種又は複数種の線状ゲノム導入核酸断片と、当該線状ゲノム導入核酸断片を組み入れるための一対の相同組換え配列及びカウンターセレクションマーカーを少なくとも有する形質転換補助用プラスミドと、を宿主に導入する工程であって、上記線状ゲノム導入核酸断片は、上記宿主内で、相同組換えによって形質転換補助用プラスミドに組み込まれ、上記線状ゲノム導入核酸断片が形質転換補助用プラスミドに組み込まれた状態で、上記目的遺伝子の外側に当該目的遺伝子をゲノムの所定の位置に相同組換えによって導入するための一対の相同組換え配列と、当該一対の相同組換え配列の外側に当該一対の相同組換え配列と上記目的遺伝子を少なくとも含む線状の核酸断片を上記形質転換補助用プラスミドから切り出すための一対のエンドヌクレアーゼ標的配列とが配置される工程を有し、上記カウンターセレクションマーカーが機能することにより、上記線状ゲノム導入核酸断片が組み込まれた状態の形質転換補助用プラスミドを有する宿主が致死となり、
上記線状ゲノム導入核酸断片は、上記目的遺伝子の外側に、当該線状ゲノム導入核酸断片の上記形質転換補助用プラスミドへの組み込みに用いられる、上記形質転換補助用プラスミドの上記一対の相同組換え配列と相同組換え可能な一対の相同組換え配列をさらに備えることを特徴とする形質転換方法。
【請求項10】
上記形質転換補助用プラスミドは、上記線状ゲノム導入核酸断片における目的遺伝子の外側と相同組換えする一対の相同組換え配列と、当該相同組換え配列を介して上記線状ゲノム導入核酸断片を組み入れる位置の反対側に配置された一対のエンドヌクレアーゼ標的配列とを備えることを特徴とする請求項9記載の形質転換方法。
【請求項11】
上記線状ゲノム導入核酸断片は、上記目的遺伝子を挟み込む位置に上記ゲノムの所定の位置に組み入れるための上記一対の相同組換え配列と、当該一対の相同組換え配列の外側に上記一対のエンドヌクレアーゼ標的配列と、当該一対のエンドヌクレアーゼ標的配列の外側に上記形質転換補助用プラスミドと相同組換えするための上記一対の相同組換え配列とを備えることを特徴とする請求項9記載の形質転換方法。
【請求項12】
上記形質転換補助用プラスミドは、上記エンドヌクレアーゼ標的配列の二本鎖を特異的に切断する標的特異的エンドヌクレアーゼ遺伝子を発現可能に有することを特徴とする請求項9記載の形質転換方法。
【請求項13】
上記標的特異的エンドヌクレアーゼ遺伝子は、ホーミングエンドヌクレアーゼ遺伝子であることを特徴とする請求項12記載の形質転換方法。
【請求項14】
上記エンドヌクレアーゼ標的配列は、ホーミングエンドヌクレアーゼが特異的に認識する配列であることを特徴とする請求項13記載の形質転換方法。
【請求項15】
上記形質転換補助用プラスミドは、上記標的特異的エンドヌクレアーゼ遺伝子の発現を制御する誘導型プロモーターを有することを特徴とする請求項12記載の形質転換方法。
【請求項16】
上記複数種の線状ゲノム導入核酸断片は、第1の線状ゲノム導入核酸断片から第nの線状ゲノム導入核酸断片(nは2以上の整数)からなり、第mの線状ゲノム導入核酸断片(mは、1≦m≦n-1を満たす整数)の3’末端側は、第m+1の線状ゲノム導入核酸断片の5’末端側と相同組換えする配列を有することを特徴とする請求項9記載の形質転換方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、宿主に対して目的遺伝子を導入する際に使用される形質転換補助用プラスミド、当該形質転換補助用プラスミドを用いた形質転換体の製造方法、当該形質転換補助用プラスミドを用いた形質転換方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、宿主細胞に外部から目的遺伝子を導入する技術を形質転換或いは遺伝子組換えと呼び、当該目的遺伝子が導入された細胞を形質転換体或いは組換え体と呼ぶ。形質転換技術を利用して形質転換体を効率よく作製することで、例えば、合成生物学的手法を利用して微生物代謝工学の加速・効率化を進めることができる。ここで、合成生物学的手法とは、生産宿主の設計・構築・評価・学習のサイクルを迅速に回すことで成立する技術である。なかでも、酵母を宿主とした合成生物学においては、効率的な宿主構築、すなわち組換え酵母を効率的に作製できることが重要な課題の一つである。
【0003】
酵母を宿主とした形質転換には、目的遺伝子を組み込んだ環状プラスミドを使用する方法と、目的遺伝子を含む線状ベクターを使用する方法とに大別される。環状プラスミドを用いて目的遺伝子を酵母に導入することは容易で、10-2程度の高効率で形質転換酵母を作製することができる(非特許文献1)。一方、線状ベクターを使用して目的遺伝子を酵母に導入する場合、相同組換えによって目的遺伝子をゲノムに組み込む必要があるため、10-6程度の効率でしか形質転換酵母を作製することができない(非特許文献2)。
【0004】
環状プラスミドを用いて目的遺伝子を酵母に導入する方法は、上述のように効率が良いものの、環状プラスミドが脱落する場合もあり、安定的な組換え酵母を作製することができない。一方、線状ベクターを用いて目的遺伝子を酵母に導入する方法では、目的遺伝子がゲノムに組み込まれるために安定的ではあるが、上述のように効率の良い方法とは言えない。
【0005】
ゲノムに対する目的遺伝子の導入効率を向上させるために、ゲノムにおける導入予定部位にホーミングエンドヌクレアーゼ等の標的特異的エンドヌクレアーゼの標的配列を予め導入し、当該部位の2本鎖を切断しておく技術が知られている(非特許文献2)。また、標的特異的エンドヌクレアーゼに代えて、CRISPR-Cas9やTALEN等の任意の塩基配列を切断できる技術を用いて、同様にゲノムにおける導入予定部位の2本鎖を切断しておく技術が知られている(非特許文献3)。このように、目的遺伝子を導入する部位の2本鎖を切断しておくことで相同組換え効率を10-2~10-1程度まで向上させることが可能とされている。
【0006】
しかしながら、これら目的遺伝子の導入効率を向上させる方法では、ゲノムにおける導入予定部位にエンドヌクレアーゼの標的配列を予め導入する必要があり、或いは、標的部位に対するガイドRNA等を作製する必要があった。このように、これら目的遺伝子の導入効率を向上させる方法は、目的遺伝子を含む相同組換え用DNA断片を作製し、これを用いて形質転換する以外に様々な工程を必要とする複雑な方法であった。
【0007】
また、特許文献1には、ホーミングエンドヌクレアーゼ標的配列をテロメアシード配列で挟み込んだ構成のイントロンを有する選抜マーカーを備えるプラスミドが開示されている。特許文献1に開示された当該プラスミドは、ホーミングエンドヌクレアーゼが発現することで環状プラスミドから線状分子に変換され、末端のテロメアシード配列により安定して存在できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】US 2016/0017344
【非特許文献】
【0009】
【文献】Gietz, R.D., et al.“High-efficiency yeast transformation using the LiAc/SS carrier DNA/PEG method.”Nature Protocols. 2 (2007):31-34.
【文献】Storici, F, et al.“Chromosomal site-specific double-strand breaks are efficiently targeted for repair by oligonucleotides in yeast.”Proc. Natl. Acad. Sci. USA. 100 (2003):14994-14999.
【文献】DiCarlo,J.E., et al.“Genome engineering in Saccharomyces cerevisiae using CRISPR-Cas systems.”Nucleic Acids Res. 41 (2013):4336-4343.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、上述した何れの手法も、目的遺伝子をゲノムへ組み込んだ安定した形質転換体を簡便且つ効率よく作製することはできないといった問題があった。そこで、本発明は、上述したような実情に鑑み、目的遺伝子をゲノムへ組み込んだ安定した形質転換体を簡便且つ効率よく作製することができる形質転換体の製造方法及び形質転換方法、並びにこれら方法に使用できる形質転換補助用プラスミドを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上述した目的を達成した本発明は以下を包含する。
(1)ゲノム上の所定の位置に導入するための目的遺伝子を備える1種又は複数種の線状ゲノム導入核酸断片と、当該線状ゲノム導入核酸断片を組み入れるための一対の相同組換え配列とカウンターセレクションマーカーとを有する形質転換補助用プラスミドを宿主に導入する工程であって、上記線状ゲノム導入核酸断片が形質転換補助用プラスミドに組み込まれた状態で上記目的遺伝子の外側とゲノムの所定の位置で相同組換えするための一対の相同組換え配列と、当該一対の相同組換え配列の外側に一対のエンドヌクレアーゼ標的配列とが配置される工程と、
上記宿主のゲノムにおける上記所定の位置に上記目的遺伝子が組み込まれ、上記目的遺伝子が発現する形質転換体を選抜する工程とを有し、
上記カウンターセレクションマーカーが機能することにより、上記線状ゲノム導入核酸断片が組み込まれた状態の形質転換補助用プラスミドを有する宿主が致死となることを特徴とする、形質転換体の製造方法。
(2)上記形質転換補助用プラスミドは、上記線状ゲノム導入核酸断片における目的遺伝子の外側と相同組換えする一対の相同組換え配列と、当該相同組換え配列を介して上記線状ゲノム導入核酸断片を組み入れる位置の反対側に配置された一対のエンドヌクレアーゼ標的配列とを備えることを特徴とする(1)記載の形質転換体の製造方法。
(3)上記線状ゲノム導入核酸断片は、上記目的遺伝子を挟み込む位置に上記ゲノムの所定の位置に組み入れるための上記一対の相同組換え配列と、当該一対の相同組換え配列の外側に上記一対のエンドヌクレアーゼ標的配列と、当該一対のエンドヌクレアーゼ標的配列の外側に上記形質転換補助用プラスミドと相同組換えするための上記一対の相同組換え配列とを備えることを特徴とする(1)記載の形質転換体の製造方法。
(4)上記形質転換補助用プラスミドは、上記エンドヌクレアーゼ標的配列の二本鎖を特異的に切断する標的特異的エンドヌクレアーゼ遺伝子を発現可能に有することを特徴とする(1)記載の形質転換体の製造方法。
(5)上記標的特異的エンドヌクレアーゼ遺伝子は、ホーミングエンドヌクレアーゼ遺伝子であることを特徴とする(4)記載の形質転換体の製造方法。
(6)上記エンドヌクレアーゼ標的配列は、ホーミングエンドヌクレアーゼが特異的に認識する配列であることを特徴とする(5)記載の形質転換体の製造方法。
(7)上記形質転換補助用プラスミドは、上記標的特異的エンドヌクレアーゼ遺伝子の発現を制御する誘導型プロモーターを有することを特徴とする(4)記載の形質転換体の製造方法。
(8)上記複数種の線状ゲノム導入核酸断片は、第1の線状ゲノム導入核酸断片から第nの線状ゲノム導入核酸断片(nは2以上の整数)からなり、第mの線状ゲノム導入核酸断片(mは、1≦m≦n-1を満たす整数)の3’末端側は、第m+1の線状ゲノム導入核酸断片の5’末端側と相同組換えする配列を有することを特徴とする(1)記載の形質転換体の製造方法。
【0012】
(9)ゲノム上の所定の位置に導入するための目的遺伝子を備える1種又は複数種の線状ゲノム導入核酸断片と、当該線状ゲノム導入核酸断片を組み入れるための一対の相同組換え配列とカウンターセレクションマーカーとを有する形質転換補助用プラスミドを宿主に導入する工程であって、上記線状ゲノム導入核酸断片が形質転換補助用プラスミドに組み込まれた状態で上記目的遺伝子の外側とゲノムの所定の位置で相同組換えするための一対の相同組換え配列と、当該一対の相同組換え配列の外側に一対のエンドヌクレアーゼ標的配列とが配置される工程を有し、上記カウンターセレクションマーカーが機能することにより、上記線状ゲノム導入核酸断片が組み込まれた状態の形質転換補助用プラスミドを有する宿主が致死となることを特徴とする形質転換方法。
(10)上記形質転換補助用プラスミドは、上記線状ゲノム導入核酸断片における目的遺伝子の外側と相同組換えする一対の相同組換え配列と、当該相同組換え配列を介して上記線状ゲノム導入核酸断片を組み入れる位置の反対側に配置された一対のエンドヌクレアーゼ標的配列とを備えることを特徴とする(9)記載の形質転換方法。
(11)上記線状ゲノム導入核酸断片は、上記目的遺伝子を挟み込む位置に上記ゲノムの所定の位置に組み入れるための上記一対の相同組換え配列と、当該一対の相同組換え配列の外側に上記一対のエンドヌクレアーゼ標的配列と、当該一対のエンドヌクレアーゼ標的配列の外側に上記形質転換補助用プラスミドと相同組換えするための上記一対の相同組換え配列とを備えることを特徴とする(9)記載の形質転換方法。
(12)上記形質転換補助用プラスミドは、上記エンドヌクレアーゼ標的配列の二本鎖を特異的に切断する標的特異的エンドヌクレアーゼ遺伝子を発現可能に有することを特徴とする(9)記載の形質転換方法。
(13)上記標的特異的エンドヌクレアーゼ遺伝子は、ホーミングエンドヌクレアーゼ遺伝子であることを特徴とする(12)記載の形質転換方法。
(14)上記エンドヌクレアーゼ標的配列は、ホーミングエンドヌクレアーゼが特異的に認識する配列であることを特徴とする(13)記載の形質転換方法。
(15)上記形質転換補助用プラスミドは、上記標的特異的エンドヌクレアーゼ遺伝子の発現を制御する誘導型プロモーターを有することを特徴とする(12)記載の形質転換方法。
(16)上記複数種の線状ゲノム導入核酸断片は、第1の線状ゲノム導入核酸断片から第nの線状ゲノム導入核酸断片(nは2以上の整数)からなり、第mの線状ゲノム導入核酸断片(mは、1≦m≦n-1を満たす整数)の3’末端側は、第m+1の線状ゲノム導入核酸断片の5’末端側と相同組換えする配列を有することを特徴とする(9)記載の形質転換方法。
【0013】
(17)ゲノム上の所定の位置に導入するための目的遺伝子を備える線状ゲノム導入核酸断片を相同組換えにより組み入れることができ、上記線状ゲノム導入核酸断片における目的遺伝子の外側と相同組換えする一対の相同組換え配列と、当該相同組換え配列を介して上記線状ゲノム導入核酸断片を組み入れる位置の反対側に配置された一対のエンドヌクレアーゼ標的配列と、カウンターセレクションマーカーとを備える形質転換補助用プラスミド。
(18)上記エンドヌクレアーゼ標的配列の二本鎖を特異的に切断する標的特異的エンドヌクレアーゼ遺伝子を発現可能に有することを特徴とする(17)記載の形質転換補助用プラスミド。
(19)上記標的特異的エンドヌクレアーゼ遺伝子は、ホーミングエンドヌクレアーゼ遺伝子であることを特徴とする(18)記載の形質転換補助用プラスミド。
(20)上記エンドヌクレアーゼ標的配列は、ホーミングエンドヌクレアーゼが特異的に認識する配列であることを特徴とする(19)記載の形質転換補助用プラスミド。
(21)上記標的特異的エンドヌクレアーゼ遺伝子の発現を制御する誘導型プロモーターを有することを特徴とする(18)記載の形質転換補助用プラスミド。
【発明の効果】
【0014】
また、本発明に係る形質転換用体の製造方法は、カウンターセレクションマーカーが機能することによって、形質転換補助用プラスミドから目的遺伝子を備える線状ゲノム導入核酸断片が切り出されなかった宿主が致死となるため、宿主ゲノムに対して目的遺伝子を組み入れてなる形質転換体を効率よく作製することができる。
【0015】
さらに、本発明に係る形質転換用方法は、カウンターセレクションマーカーが機能することによって、形質転換補助用プラスミドから目的遺伝子を備える線状ゲノム導入核酸断片が切り出されなかった宿主が致死となるため、宿主ゲノムに対して目的遺伝子を組み入れてなる形質転換体を作製する優れた形質転換効率を達成することができる。
【0016】
本発明に係る形質転換補助用プラスミドを利用することで、カウンターセレクションマーカーが機能することによって、形質転換補助用プラスミドから目的遺伝子を備える線状ゲノム導入核酸断片が切り出されなかった宿主が致死となるため、宿主ゲノムに対して目的遺伝子を組み入れてなる形質転換体を効率よく作製することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明に係る形質転換体の製造方法及び形質転換法によって目的遺伝子をゲノムに組み込むメカニズムを模式的に示す構成図である。
図2】本発明に係る形質転換補助用プラスミドの一構成例を模式的に示す構成図である。
図3】本発明に係る形質転換補助用プラスミドと線状ゲノム導入核酸断片を模式的に示す構成図である。
図4】本発明に係る形質転換補助用プラスミドの他の構成例を模式的に示す構成図である。
図5】本発明に係る形質転換補助用プラスミドを用いて複数の目的遺伝子をゲノムに組み込むメカニズムを模式的に示す構成図である。
図6】第2の実施形態として示す線状ゲノム導入核酸断片及び形質転換補助用プラスミドの一構成例を模式的に示す構成図である。
図7】第2の実施形態として示す形質転換体の製造方法及び形質転換法によって目的遺伝子をゲノムに組み込むメカニズムを模式的に示す構成図である。
図8】第2の実施形態として示す形質転換体の製造方法及び形質転換法によって複数の目的遺伝子をゲノムに組み込むメカニズムを模式的に示す構成図である。
図9】実施例で作製した3種類の線状ゲノム導入核酸断片を増幅するスキームを模式的に示す構成図である。
図10】実施例で作製した形質転換補助用プラスミドを増幅するスキームを模式的に示す構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明を図面及び実施例を用いてより詳細に説明する。
本発明に係る形質転換体の製造方法及び形質転換方法(以下、まとめて本方法と称する。)では、宿主のゲノムに組み込む予定の目的遺伝子を有する線状ゲノム導入核酸断片と、当該線状ゲノム導入核酸断片を相同組換えによって組み入れることができ、カウンターセレクションマーカーを有する形質転換補助用プラスミドとを宿主に導入する。本方法では、線状ゲノム導入核酸断片が形質転換補助用プラスミドに相同組換えによって組み込まれる。そして、宿主内において、所定のエンドヌクレアーゼにより、一対の相同組換え配列に挟み込まれた目的遺伝子が切り出され、宿主ゲノムとの間の相同組換えにより目的遺伝子をゲノムに組み入れることができる。
【0019】
このとき、一対の相同組換え配列に挟み込まれた目的遺伝子を、一対のエンドヌクレアーゼ標的配列で挟み込むように配置しておくことで、当該エンドヌクレアーゼ標的配列を特異的に認識するエンドヌクレアーゼにより一対の相同組換え配列に挟み込まれた目的遺伝子を切り出すことができる。すなわち、図1に模式的に示すように、エンドヌクレアーゼによってプラスミドから切り出された断片は、両端部に一対の相同組換え配列を有し、当該一対の相同組換え配列によって目的遺伝子が挟み込まれるような構成となっている。そして、一対の相同組換え配列において宿主ゲノムとの間で相同組換えが生じる結果、宿主ゲノム内に目的遺伝子を組み入れることができる。
【0020】
ここで、一対のエンドヌクレアーゼ標的配列は、宿主に導入する線状ゲノム導入核酸断片に予め配置しておいても良いし、形質転換補助用プラスミドに予め配置しておいても良い。或いは、一対のエンドヌクレアーゼ標的配列のうち一方を線状ゲノム導入核酸断片に予め配置しておき、他方を形質転換補助用プラスミドに予め配置しておいても良い。
【0021】
カウンターセレクションマーカーとは、例えば、発現することで細胞を死に至らしめる機能を有する遺伝子であって、マーカーとして利用される遺伝子を意味する。この場合、カウンターセレクションマーカーを有する細胞は、特定の条件下でカウンターセレクションマーカー遺伝子が発現することで致死となる。よって、カウンターセレクションマーカーを有する細胞とカウンターセレクションマーカーを有しない細胞が混在するときに、特定の条件下で生育した細胞をセレクションマーカーを有しない細胞として選択することができる。
【0022】
また、カウンターセレクションマーカーとしては、例えば、特定の条件下で遺伝子の発現が抑制されることで細胞を死に至らしめる機能を有する遺伝子であってもよい。この場合、カウンターセレクションマーカーが機能するとは、特定の条件下でカウンターセレクションマーカー遺伝子の発現が抑制され、細胞が致死となることを意味する。よってこの場合もまた、カウンターセレクションマーカーを有する細胞とカウンターセレクションマーカーを有しない細胞が混在するときに、特定の条件下で生育した細胞をセレクションマーカーを有しない細胞として選択することができる。
【0023】
具体的に、大腸菌を宿主とする場合、カウンターセレクションマーカーとしては枯草菌由来のsacB遺伝子を利用することができる。sacB遺伝子産物であるレバンシュークラーゼは、ショ糖をレバンに変換する活性を持つ。大腸菌などのグラム陰性菌では、レバンがペリプラズム層に蓄積すると死に至るため、sacB遺伝子をカウンターセレクションマーカーとして利用することができる。
【0024】
また、他の例としては、フェニルアラニルtRNA合成酵素のα-サブユニット(PheS)の変異体をカウンターセレクションマーカーとして利用するものが挙げられる。PheSの変異体は、フェニルアラニン類縁体である4-クロロ-D,L-フェニルアラニンを取り込むため、PheSの変異体を発現する細胞は正常なポリペプチドが合成できなくなる。正常なポリペプチドが合成できない結果、当該PheSの変異体を発現する細胞は4-クロロ-D,L-フェニルアラニンの存在下で死に至る。このように、生合成されるタンパク質分子中にアミノ酸の類縁体を導入することでその機能を損なわせ、細胞を死に至らしめることができる。このような方法に利用できる変異遺伝子をカウンターセレクションマーカーとして利用することができる。
【0025】
さらに、他の例として、チミジンキナーゼ遺伝子をカウンターセレクションマーカーとして利用することもできる。チミジンキナーゼ遺伝子は、5-フルオロ-2-デオキシウリジン(5FU)を毒性の代謝物である5-フルオロデオキシウリジン-5'-一リン酸に変換し、チミジル酸シンターゼ阻害し、チミンの生合成を阻害する。したがって、チミジンキナーゼ遺伝子を発現する細胞は、5FUの存在下でチミン生合成が阻害され致死となる。
【0026】
他にも、プラスミドpSC101の複製開始点RepAの温度感受性変異遺伝子をカウンターセレクションマーカーとして利用することができる。この温度感受性変異遺伝子を有するプラスミドを保持する細胞は、37℃を超える温度での培養により細胞増殖が阻害される。このように、温度感受性変異遺伝子を有するプラスミドを用いて細胞を形質転換し、上記温度帯で培養することによって、プラスミドが脱落した細胞のみを選択的に増殖させることができる。
【0027】
さらにまた、トキシン-アンチトキシンのシステムをカウンターセレクションマーカーとして利用することもできる。通常、アンチトキシン遺伝子が発現している状態では、トキシン遺伝子が発現することによる細胞死は抑制されている。したがって、アンチトキシン遺伝子の発現を抑制すれば、トキシン遺伝子の発現による効果を顕在化させることができ、細胞死を誘導することができる。例えば、内在するアンチトキシン遺伝子を標的遺伝子とするアンチセンスRNAを、アンチトキシン遺伝子のmRNAの一部に対して相補的な延塩基配列として設計し、条件特異的にアンチセンスRNAを誘導させれば、アンチトキシン遺伝子の翻訳を妨げることができ、その結果、トキシン遺伝子の発源によって細胞を死に至らしめることができる。
【0028】
[第1の実施形態]
以下、一対のエンドヌクレアーゼ標的配列を形質転換補助用プラスミドに配置した形態について説明する。本発明に係る形質転換補助用プラスミドは、図2に示すように、線状ゲノム導入核酸断片を組み込むための一対の相同組換え配列と、当該相同組換え配列を介して上記線状ゲノム導入核酸断片を組み入れる位置の反対側に配置された一対のエンドヌクレアーゼ標的配列と、プロモーター及び当該プロモーターの下流にカウンターセレクションマーカー遺伝子とを備える。言い換えると、形質転換補助用プラスミドは、上記線状ゲノム導入核酸断片を組み入れる位置を切断して線状としたときに、両端部に一対の相同組換え配列を有し、それぞれの相同組換え配列に続いてエンドヌクレアーゼ標的配列を有し、さらにプロモーター及び当該プロモーターの下流にカウンターセレクションマーカー遺伝子を有している。
【0029】
形質転換補助用プラスミドは、図3に示すように、目的遺伝子を備える線状ゲノム導入核酸断片を上記一対の相同組換え配列を介した相同組換えにより組み入れることができる。ここで、線状ゲノム導入核酸断片は、目的遺伝子と、当該目的遺伝子を挟み込む一対の相同組換え配列を有している。すなわち、線状ゲノム導入核酸断片における相同組換え配列と、形質転換補助用プラスミドにおける相同組換え配列との間で相同組換えが生じることで、形質転換補助用プラスミドに線状ゲノム導入核酸断片を組み入れることができる。また、線状ゲノム導入核酸断片における相同組換え配列と、ゲノムにおける所定の位置で相同組換えが生じることで、目的遺伝子をゲノムに組み入れることができる(図1参照)。
【0030】
目的遺伝子とは、宿主ゲノムに導入する予定の核酸を意味する。よって、目的遺伝子は、特定のタンパク質をコードする塩基配列に限定されず、siRNA等をコードする塩基配列、転写産物の転写時期と生産量を制御するプロモーターやエンハンサー等の転写調節領域の塩基配列、転移RNA(tRNA)やリボソームRNA(rRNA)等をコードする塩基配列など、あらゆる塩基配列からなる核酸を含む意味である。
【0031】
また、目的遺伝子は、発現可能な状態で上記部位に組み込まれることが好ましい。発現可能な状態とは、宿主生物において所定のプロモーターの制御下に発現されるように、目的遺伝子とプロモーターとを連結しておくことを意味する。
【0032】
さらに、目的遺伝子には、プロモーター及びターミネーター、所望によりエンハンサー等のシスエレメント、スプライシングシグナル、ポリA付加シグナル、選択マーカー、リボソーム結合配列(SD配列)等を連結することができる。なお、選択マーカーとしては、例えば、アンピシリン耐性遺伝子やカナマイシン耐性遺伝子やハイグロマイシン耐性遺伝子などの抗生物質耐性遺伝子が挙げられる。
【0033】
一対の相同組換え配列とは、宿主ゲノムにおける所定の領域に対して相同性を有する一対の核酸領域を意味する。線状ゲノム導入核酸断片における一対の相同組換え配列が、相同性を有する宿主ゲノムとの間でそれぞれ交叉することで、当該一対の相同組換え配列に挟み込まれる目的遺伝子を宿主ゲノムに組み入れることができる。したがって、一対の相同組換え配列としては、具体的な塩基配列には何ら限定されないが、例えば、宿主ゲノムに存在する所定の遺伝子の上流領域及び下流領域と相同性の高い塩基配列とすることができる。この場合、線状ゲノム導入核酸断片と宿主ゲノムとの間に相同組換えが生じると、当該遺伝子が宿主ゲノムから欠失するため、当該遺伝子の欠失による表現型を観察することで相同組換えの成否を判断することができる。
【0034】
例えば、一対の相同組換え配列として、アデニン生合成経路に関与するADE1遺伝子のコーディング領域より上流の領域と、同ADE1遺伝子のコーディング領域より下流の領域とすることができる。この場合、線状ゲノム導入核酸断片における一対の相同組換え配列と宿主ゲノムとの間で相同組換えが生じると、アデニンの中間代謝産物の5-アミノイミダゾールリボシドが蓄積し、その重合したポリリボシルアミノイミダゾールに起因して形質転換体が赤く着色する。よって、この赤い着色を検出することで、線状ゲノム導入核酸断片における一対の相同組換え配列と宿主ゲノムとの間で相同組換えが生じたことを判定することができる。
【0035】
ここで、線状ゲノム導入核酸断片における一対の相同組換え配列と宿主ゲノムの組換え領域との間は、相同組換えしうる(交叉しうる)程度に高い配列同一性を有している。各領域間の塩基配列の同一性は、従来公知の配列比較ソフト:blastn等を使用して計算することができる。各領域間の塩基配列は、60%以上の同一性を有していればよく、80%以上が好ましく、90%以上がさらに好ましく、95%以上が特に好ましく、99%以上の同一性を有していることが最も好ましい。
【0036】
また、線状ゲノム導入核酸断片における一対の相同組換え配列は、それぞれ同じ長さでも良いし、異なる長さでも良い。これら線状ゲノム導入核酸断片における一対の相同組換え配列は、ゲノムとの間で相同組換えしうる(交叉しうる)程度の長さであればよく、例えば、各々0.1kb~3kbであることが好ましく、更には0.5kb~3kbであることが好ましく、特に0.5kb~2kbであることが好ましい。
【0037】
ところで、本発明に係る形質転換補助用プラスミドは、上述した線状ゲノム導入核酸断片を組み入れるための一対の相同組換え配列を有している。形質転換補助用プラスミドにおける相同組換え配列は、線状ゲノム導入核酸断片における相同組換え配列との間で相同組換えが生じればよく、線状ゲノム導入核酸断片における相同組換え配列と同じ長さであっても良いし、異なる長さであっても良い。形質転換補助用プラスミドにおける相同組換え配列は、線状ゲノム導入核酸断片における相同組換え配列と相同性を有する塩基配列であって、例えば、30b~300bとすることができ、40b~200bとすることが好ましく、50b~100bとすることがより好ましい。
【0038】
また、本発明に係る形質転換補助用プラスミドにおいて、線状ゲノム導入核酸断片を組み入れるための一対の相同組換え配列とは、線状ゲノム導入核酸断片における一対の相同組換え配列との間で直接的に相同組換えできるものと、線状ゲノム導入核酸断片における一対の相同組換え配列との間で1以上の線状核酸断片を介して間接的に相同組換えできるものとの両者を含む意味である。ここで1以上の線状核酸断片とは、1つの核酸断片又は複数の核酸断片が相同組換えによって連結した核酸断片において、一方端部が形質転換補助用プラスミドにおける相同組換え配列との間で相同組換えできる配列を有し、他方端部が線状ゲノム導入核酸断片における相同組換え配列との間で相同組換えできる配列を有する断片である。
【0039】
また、本発明に係る形質転換補助用プラスミドは、上述した一対の相同組換え配列に続いてエンドヌクレアーゼ標的配列を有している。エンドヌクレアーゼ標的配列とは、エンドヌクレアーゼが認識する塩基配列を意味する。
【0040】
エンドヌクレアーゼとしては、特に限定されず、所定の塩基配列を認識して二本鎖DNAを切断する活性を有する酵素を広く意味する。エンドヌクレアーゼとしては、例えば、制限酵素、ホーミングエンドヌクレアーゼ、Cas9ヌクレアーゼ、メガヌクレアーゼ(MN)、ジンクフィンガーヌクレアーゼ(ZFN)、転写活性化様エフェクターヌクレアーゼ(TALEN)等を挙げることができる。また、ホーミングエンドヌクレアーゼとしては、イントロンにコードされたエンドヌクレアーゼ(I-という接頭語が付く)及びインテインに含まれるエンドヌクレアーゼ(PI-という接頭語が付く)の両者を含む意味である。ホーミングエンドヌクレアーゼとしては、より具体的にI-Ceu I、I-Sce I、I-Onu I、PI-Psp I及びPI-Sce Iを挙げることができる。なお、これら具体的なエンドヌクレアーゼが特異的に認識する標的配列、すなわちエンドヌクレアーゼ標的配列は公知であり、当業者であれば適宜入手することができる。
【0041】
また、本発明に係る形質転換補助用プラスミドは、図4に示すように、誘導型プロモーターとエンドヌクレアーゼ遺伝子とを含むものであってもよい。なお、エンドヌクレアーゼ遺伝子の発現は、誘導型プロモーターに限定されず、恒常発現型プロモーターを使用してもよい。
【0042】
このエンドヌクレアーゼ遺伝子は、上述した一対のエンドヌクレアーゼ標的配列を特異的に認識して二本鎖を切断する活性を有する酵素をコードしている。すなわち、エンドヌクレアーゼ遺伝子としては、制限酵素遺伝子、ホーミングエンドヌクレアーゼ遺伝子、Cas9ヌクレアーゼ遺伝子、メガヌクレアーゼ遺伝子、ジンクフィンガーヌクレアーゼ遺伝子、転写活性化様エフェクターヌクレアーゼ遺伝子等を挙げることができる。
【0043】
誘導型プロモーターとは、特定の条件下で発現誘導する機能を有するプロモーターを意味する。誘導型プロモーターとしては、特に限定されないが、例えば特定の物質の存在下ン発現誘導するプロモーター、特定の温度条件で発現誘導するプロモーター、各種ストレスに応答して発現誘導するプロモーター等を挙げることができる、使用するプロモーターは、形質添加する宿主に応じて適宜選択することができる。
【0044】
例えば、誘導型プロモーターとしては、GAL1及びGAL10などのガラクトース誘導性プロモーター、テトラサイクリン又はその誘導体の添加又は除去で誘導するTet-onシステム/Tet-off系プロモーター、HSP10、HSP60、HSP90などの熱ショックタンパク質(HSP)をコードする遺伝子のプロモーター等を挙げることができる。また、誘導型プロモーターとしては、銅イオンの添加で活性化するCUP1プロモーターを用いることもできる。さらに、誘導型プロモーターとしては、宿主が大腸菌等の原核細胞である場合、IPTGで誘導するlacプロモーター、コールドショックで誘導するcspAプロモーター、アラビノースで誘導araBADプロモーター等を挙げることができる。
【0045】
また、エンドヌクレアーゼ遺伝子の発現制御は、誘導型プロモーターや恒常発現型プロモーターといったプロモーターによる方法に限定されず、例えばDNA組換え酵素を使用する方法を適用しても良い。DNA組換え酵素を用いて、遺伝子の発現のオン・オフを行う方法としては、例えば、FLEx switch法(A FLEX Switch Targets Channelrhodopsin-2 to Multiple Cell Types for Imaging and Long-Range Circuit Mapping.Atasoy et al. The Journal of Neuroscience, 28, 7025-7030, 2008.)を挙げることができる。FLEx switch法では、DNA組換え酵素によりプロモーター配列の向きを変える組換えを起こさせることで、遺伝子の発現のオン・オフを行うことができる。
【0046】
一方、本発明に係る形質転換補助用プラスミドは、従来公知の入手可能なプラスミドに基づいて作製することができる。このようなプラスミドとしては、例えばpRS413、pRS414、pRS415、pRS416、YCp50、pAUR112又はpAUR123などのYCp型大腸菌-酵母シャトルベクター、pYES2又はYEp13などのYEp型大腸菌-酵母シャトルベクター、pRS403、pRS404、pRS405、pRS406、pAUR101又はpAUR135などのYIp型大腸菌-酵母シャトルベクター、大腸菌由来のプラスミド(pBR322、pBR325、pUC18、pUC19、pUC118、pUC119、pTV118N、pTV119N、pBluescript、pHSG298、pHSG396又はpTrc99AなどのColE系プラスミド、pACYC177又はpACYC184などのp15A系プラスミド、pMW118、pMW119、pMW218又はpMW219などのpSC101系プラスミド等)、アグロバクテリウム由来のプラスミド(例えばpBI101等)、枯草菌由来のプラスミド(例えばpUB110、pTP5等)などが挙げられる。
【0047】
本発明に係る形質転換補助用プラスミドは、さらに複製開始点や、自律複製配列(ARS)、セントロメア配列(CEN)を含むことができる。これらを含むことで宿主細胞に導入された後に安定的に複製することができる。また、本発明に係る形質転換補助用プラスミドは、選抜マーカーを含むことができる。選抜マーカーとしては、特に限定されず、例えば薬剤耐性マーカー遺伝子や栄養要求性マーカー遺伝子を挙げることができる。これら選抜マーカーを含むことで、形質転換補助用プラスミドが導入された宿主細胞を効率的に選択することができる。
【0048】
以上のように構成された形質転換補助用プラスミドを使用することで、目的遺伝子をゲノムへ組み込んだ安定した形質転換体を簡便且つ効率よく作製することができる。形質転換体を作製するには、先ず、目的遺伝子を有する線状ゲノム導入核酸断片と形質転換補助用プラスミドとを定法に従って宿主細胞に導入する。このとき、線状ゲノム導入核酸断片は、相同組換えによって形質転換補助用プラスミドに組み込まれ、環状のプラスミドとなる(図3参照)。その後、図1に模式的に示すように、エンドヌクレアーゼにより、一対のエンドヌクレアーゼ標的配列において二本鎖が切断され、一対の相同組換え配列に挟み込まれた目的遺伝子を含む線状ゲノム導入核酸断片が切り出される。切り出された線状ゲノム導入核酸断片は、当該線状ゲノム導入核酸断片における一対の相同組換え配列と宿主ゲノムにおける相同組換え配列との間で交叉し、ゲノム内に組み込まれる。これにより、目的遺伝子をゲノムに組み込んだ安定した形質転換体を作製することができる。
【0049】
このとき、目的遺伝子を有する線状ゲノム導入核酸断片及び形質転換補助用プラスミドを宿主細胞に導入する方法としては、特に限定されず、従来公知の方法、例えば塩化カルシウム法、コンピテントセル法、プロトプラスト又はスフェロプラスト法、電気パルス法等を適宜使用することができる。その後、形質転換補助用プラスミドが選抜マーカーを有する場合には、選抜マーカーを用いて形質転換補助用プラスミドが導入された宿主細胞を選抜することができる。
【0050】
また、誘導型プロモーターの制御下でエンドヌクレアーゼを発現させるには、誘導型プロモーターに応じて適宜条件を設定する。例えば、誘導型プロモーターとしてGAL1及びGAL10などのガラクトース誘導性プロモーターを使用した場合には、形質転換補助用プラスミドを導入した宿主細胞を培養する培地にガラクトースを添加する、或いは当該宿主細胞をガラクトース含有培地に移して培養することで、エンドヌクレアーゼを発現誘導することができる。また、誘導型プロモーターとして熱ショックタンパク質(HSP)をコードする遺伝子のプロモーターを使用する場合には、形質転換補助用プラスミドを導入した宿主細胞を培養する際に所望のタイミングで熱ショックを負荷することで、当該タイミングでエンドヌクレアーゼを発現誘導することができる。
【0051】
ただし、誘導型プロモーターが発現誘導する条件で、線状ゲノム導入核酸断片及び形質転換補助用プラスミドを宿主細胞に導入する処理を行い、誘導型プロモーターの制御下でエンドヌクレアーゼを発現させても良い。この場合、発現誘導条件に移行させる処理が不要であり、より簡便に形質転換体を得ることができる。
【0052】
また、上述した形質転換補助用プラスミドでは、一対の相同組換え配列を、所定の遺伝子の上流領域及び下流領域と相同性の高い塩基配列とした場合には、相同組換えによって、目的遺伝子を含む線状ゲノム導入核酸断片がゲノムに組み込まれるとともに当該所定の遺伝子がゲノムから欠失することとなる。よって、当該所定の遺伝子の欠失に起因する表現型を観察することで、目的遺伝子を含む線状ゲノム導入核酸断片がゲノムに組み込まれたか否かを判定することができる。例えば、所定の遺伝子としてADE1遺伝子を利用した場合、目的遺伝子を含む線状ゲノム導入核酸断片がゲノムに組み込まれると、ADE1遺伝子がゲノムから欠失することとなる。その結果、宿主には5-アミノイミダゾールリボシドが蓄積し、その重合したポリリボシルアミノイミダゾールに起因して形質転換体が赤く着色する。よって、この赤い着色を検出することで、目的遺伝子を含む線状ゲノム導入核酸断片が宿主のゲノムに組み込まれたことを判定することができる。
【0053】
なお、上述した例では、形質転換補助用プラスミドが誘導型プロモーターとエンドヌクレアーゼ遺伝子とを有する構成としたが、本発明に係る形質転換補助用プラスミドは、誘導型プロモーターとエンドヌクレアーゼ遺伝子を有しない構成であってもよい。この場合、誘導型プロモーターとエンドヌクレアーゼ遺伝子を有する発現ベクターを別途準備し、目的遺伝子を有する線状ゲノム導入核酸断片及び本発明に係る形質転換補助用プラスミドとともに宿主細胞に導入すればよい。この場合でも、誘導型プロモーターとエンドヌクレアーゼ遺伝子を有する発現ベクターと線状ゲノム導入核酸断片と形質転換補助用プラスミドとが導入された宿主細胞において、エンドヌクレアーゼ遺伝子が誘導型プロモーターの制御下に発現することで、図1に示したように、一対の相同組換え配列に挟み込まれた目的遺伝子を含む線状ゲノム導入核酸断片が切り出され、目的遺伝子をゲノムに組み込んだ形質転換体を作製することができる。
【0054】
一方、本発明に係る形質転換補助用プラスミドを使用することで、複数の線状ゲノム導入核酸断片を直列に配置して宿主ゲノムに組み込むことができる。仮に、複数種の線状ゲノム導入核酸断片を、第1の線状ゲノム導入核酸断片から第nの線状ゲノム導入核酸断片(nは2以上の整数)とすると、第mの線状ゲノム導入核酸断片(mは、1≦m≦n-1を満たす整数)の3’末端側と第m+1の線状ゲノム導入核酸断片の5’末端側とを相同組換え配列とすることで、相同組換えにより第1~nの線状ゲノム導入核酸断片をこの順で連結することができる。一例として、図5に示すように、第1~3の線状ゲノム導入核酸断片を宿主ゲノムに組み込む場合、第1の線状ゲノム導入核酸断片の3’末端側と第2の線状ゲノム導入核酸断片の5’末端側とを相同組換え配列2とし、第2の線状ゲノム導入核酸断片の3’末端側と第3の線状ゲノム導入核酸断片の5’末端側とを相同組換え配列3とすることで、相同組換えにより第1~第3の線状ゲノム導入核酸断片をこの順で連結することができる。第1~第3の線状ゲノム導入核酸断片を連結した断片は、形質転換補助用プラスミド及び宿主ゲノムとの間で相同組換え配列1及び相同組換え配列4を介した相同組換えによって、形質転換補助用プラスミド及び宿主ゲノムに組み込まれる。
【0055】
ところで、複数の線状ゲノム導入核酸断片を相同組換えにより直列に配置するには、隣接する線状ゲノム導入核酸断片の間に相同組換え配列を設けている。これら、相同組換え配列は、隣接する線状ゲノム導入核酸断片における相同組換え配列との間で相同組換えが生じればよく、隣接する線状ゲノム導入核酸断片における相同組換え配列と同じ長さであっても良いし、異なる長さであっても良い。この相同組換え配列は、隣接する線状ゲノム導入核酸断片における相同組換え配列と相同性を有する塩基配列であって、例えば、30b~300bとすることができ、40b~200bとすることが好ましく、50b~100bとすることがより好ましい。
【0056】
以上のように、本発明に係る形質転換補助用プラスミドを使用することで、複数の線状ゲノム導入核酸断片を直列に配置して宿主ゲノムに組み込むことができる。ここで複数の線状ゲノム導入核酸断片は、それぞれ目的遺伝子を有していても良いし、一部の線状ゲノム導入核酸断片のみが目的遺伝子を有していてもよい。
【0057】
なお、本発明に係る形質転換補助用プラスミドを利用した形質転換方法、形質転換体の製造方法は、特に限定されず、如何なる宿主細胞に対しても適用することができる。宿主細胞としては、糸状菌や酵母等の真菌、大腸菌や枯草菌等の細菌、植物細胞、ほ乳類や昆虫を含む動物細胞を挙げることができる。これらのなかでも、酵母を宿主細胞とすることが好ましい。酵母としては、特に限定されないが、サッカロマイセス属(Saccharomyces)に属する酵母、クルイベロマイセス属(Kluyveromyces)に属する酵母、カンジダ属(Candida)に属する酵母、ピキア属(Pichia)に属する酵母、シゾサッカロマイセス属(Schizosaccharomyces)に属する酵母、ハンセヌラ属(Hansenula)に属する酵母等を挙げることができる。より具体的には、サッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)、サッカロマイセス・バヤヌス(Saccharomyces bayanus)、サッカロマイセス・ボウラルディ(Saccharomyces boulardii)等のサッカロマイセス属に属する酵母に適用することができる。
【0058】
特に、本発明に係る形質転換補助用プラスミドを利用した形質転換方法、形質転換体の製造方法においては、形質転換補助用プラスミドがカウンターセレクションマーカーを有している。カウンターセレクションマーカーが機能することにより、目的遺伝子を含む線状ゲノム導入核酸断片が切り出されずに形質転換補助用プラスミドに組み込まれたままの状態の宿主を致死とすることができる。本発明に係る形質転換補助用プラスミドを利用した場合、目的遺伝子がゲノムDNAに組み込まれず、図3図5に示したように、環状の形質転換補助用プラスミドとして宿主細胞に存在する場合がある。仮に、形質転換補助用プラスミドがカウンターセレクションマーカーを有しない場合、目的遺伝子の発現や目的遺伝子とともに導入した選択マーカーに基づいて形質転換細胞を選択すると、目的遺伝子がゲノムDNAに組み込まれず、環状の形質転換補助用プラスミドとして存在する細胞も選択される(擬陽性)。
なお、目的遺伝子を含む線状ゲノム導入核酸断片がエンドヌクレアーゼによって切り出された場合には、図2図4に示すように、形質転換補助用プラスミドは線状となるため、複製されることなく細胞の増殖とともに脱落していくこととなる。よって、目的遺伝子を含む線状ゲノム導入核酸断片がエンドヌクレアーゼによって切り出された場合には、カウンターセレクションマーカーの影響なく、目的遺伝子の発現や目的遺伝子とともに導入した選択マーカーに基づいて陽性として選択される。
【0059】
[第2の実施形態]
以下、一対のエンドヌクレアーゼ標的配列を、目的遺伝子を有する線状ゲノム導入核酸断片に配置した形態について説明する。なお、以下の説明において、第1の実施形態に関する説明と同じ用語を使用することで、その構成等に関する詳細な説明を省略する。
【0060】
第2の実施形態において線状ゲノム導入核酸断片は、図6に示すように、両端部に形質転換補助用プラスミドとの間で相同組換えを生じることのできる一対の第1の相同組換え配列と、第1の相同組換え配列の内側にエンドヌクレアーゼ標的配列と、当該エンドヌクレアーゼ標的配列の内側に宿主ゲノムとの間で相同組換えを生じることのできる一対の第2の相同組換え配列と、これら一対の第2の相同組換え配列の内側に目的遺伝子とを有している。本実施形態において、形質転換補助用プラスミドは、線状ゲノム導入核酸断片を組み込むための一対の第3の相同組換え配列と、プロモーター及び当該プロモーターの下流にカウンターセレクションマーカー遺伝子とを備えている。また、形質転換補助用プラスミドは、図示しないが、第1の実施形態において図4に示したように、誘導型プロモーター及び当該誘導型プロモーターの下流にエンドヌクレアーゼ遺伝子を備えていても良い。
【0061】
なお、第2の実施形態においてもまた、形質転換補助用プラスミドにおける一対の第3相同組換え配列と、線状ゲノム導入核酸断片における一対の第1の相同組換え配列とは、直接的に相同組換えしても良いし、1以上の線状核酸断片を介して間接的に相同組換えしても良い。ここで1以上の線状核酸断片とは、1つの核酸断片又は複数の核酸断片が相同組換えによって連結した核酸断片において、一方端部が形質転換補助用プラスミドにおける第3の相同組換え配列との間で相同組換えできる配列を有し、他方端部が線状ゲノム導入核酸断片における第1の相同組換え配列との間で相同組換えできる配列を有する断片である。
【0062】
以上のように構成された線状ゲノム導入核酸断片及び形質転換補助用プラスミドを使用することで、目的遺伝子をゲノムへ組み込んだ安定した形質転換体を簡便且つ効率よく作製することができる。形質転換体を作製するには、先ず、上述した目的遺伝子を有する線状ゲノム導入核酸断片と形質転換補助用プラスミドとを定法に従って宿主細胞に導入する。このとき、線状ゲノム導入核酸断片における第1の相同組換え配列と、形質転換補助用プラスミドにおける第3の相同組換え配列との間で相同組換えが生じ、線状ゲノム導入核酸断片が形質転換補助用プラスミドに組み込まれてなる環状のプラスミドとなる(図7参照)。その後、図7に模式的に示すように、エンドヌクレアーゼにより、一対のエンドヌクレアーゼ標的配列において二本鎖が切断され、一対の第2の相同組換え配列に挟み込まれた目的遺伝子を含む断片が切り出される。切り出された断片は、当該断片における一対の第2の相同組換え配列と宿主ゲノムにおける第4の相同組換え配列との間で交叉し、ゲノム内に組み込まれる。これにより、目的遺伝子をゲノムに組み込んだ安定した形質転換体を作製することができる。
【0063】
また、本実施の形態においても、複数の線状ゲノム導入核酸断片を直列に配置して宿主ゲノムに組み込むことができる。一例として、図8に示すように、第1~3の線状ゲノム導入核酸断片を宿主ゲノムに組み込む場合、第1の線状ゲノム導入核酸断片の3’末端側と第2の線状ゲノム導入核酸断片の5’末端側とを相同組換え配列2とし、第2の線状ゲノム導入核酸断片の3’末端側と第3の線状ゲノム導入核酸断片の5’末端側とを相同組換え配列3とすることで、相同組換えにより第1~第3の線状ゲノム導入核酸断片をこの順で連結することができる。連結した断片は、その第1の相同組換え配列と形質転換補助用プラスミドにおける第3の相同組換え配列との間の相同組換えによって形質転換補助用プラスミドに組み込まれる。また、エンドヌクレアーゼによってエンドヌクレアーゼ標的配列で切り出された断片は、その第2の相同組換え配列とゲノムにおける第4の相同組換え配列の間の相同組換えによって宿主ゲノムに組み込まれる。
【0064】
第2の実施の形態として説明した形質転換補助用プラスミドを利用した形質転換方法、形質転換体の製造方法においてもまた、形質転換補助用プラスミドがカウンターセレクションマーカーを有している。カウンターセレクションマーカーが機能することにより、目的遺伝子を含む線状ゲノム導入核酸断片が切り出されずに形質転換補助用プラスミドに組み込まれたままの状態の宿主を致死とすることができる。本発明に係る形質転換補助用プラスミドを利用した場合、目的遺伝子がゲノムDNAに組み込まれず、図6図8に示したように、環状の形質転換補助用プラスミドとして宿主細胞に存在する場合がある。仮に、形質転換補助用プラスミドがカウンターセレクションマーカーを有しない場合、目的遺伝子の発現や目的遺伝子とともに導入した選択マーカーに基づいて形質転換細胞を選択すると、目的遺伝子がゲノムDNAに組み込まれず、環状の形質転換補助用プラスミドとして存在する細胞も選択される(偽陽性)。
【0065】
なお、目的遺伝子を含む線状ゲノム導入核酸断片がエンドヌクレアーゼによって切り出された場合には、図7に示すように、形質転換補助用プラスミドは線状となるため、複製されることなく細胞の増殖とともに脱落していくこととなる。よって、目的遺伝子を含む線状ゲノム導入核酸断片がエンドヌクレアーゼによって切り出された場合には、カウンターセレクションマーカーの影響なく、目的遺伝子の発現や目的遺伝子とともに導入した選択マーカーに基づいて陽性として選択される。
【実施例
【0066】
以下、実施例を用いて本発明をより詳細に説明するが、本発明の技術的範囲は以下の実施例に限定されるものではない。
【0067】
〔実施例1〕
[方法]
1.供試株
供試した菌株は、1倍体の実験酵母S. cerevisiae BY4742株である。
2.ADE1破壊用直鎖ベクター及び、形質転換補助用プラスミドを含むプラスミドの作製
作製したプラスミドは、ガラクトースで誘導されるS. cerevisiae由来のホーミングエンドヌクレアーゼのI-SceI(SCEI遺伝子)、カウンターセレクション用のマーカーであるチミジンキナーゼ、I-SceIの2か所の認識配列の間にゲノム導入用の相同組換え配列を含むDNA断片が挿入された配列で構成されるYCp型の酵母シャトルベクターpYC(TK-SAT)-P_GAL1-SCEI-T_CYC1-Sce-5U_ADE1-P_AgTEF1-G418-T_AgTEF1-3U_ADE1-Sce(図9)である。pYC(TK-SAT)-P_GAL1-SCEI-T_CYC1-Sce-5U_ADE1-P_AgTEF1-G418-T_AgTEF1-3U_ADE1-Sceには、GAL1プロモーターとCYC1ターミネーターが付加されたSCEI遺伝子(COX5B遺伝子のイントロンが挿入され、全長を酵母の核ゲノムのコドン使用頻度に合わせてコドンを変換した配列)、TPI1プロモーターとBNA4ターミネーターが付加された単純ヘルペスウイルス1型チミジンキナーゼ遺伝子(全長を酵母の核ゲノムのコドン使用頻度に合わせてコドンを変換した配列、図9中「TK」)、ゲノム導入用の相同組換え配列として、ADE1遺伝子の5’側末端より上流約1000bpの領域の遺伝子配列(5U_ADE1)及びADE1遺伝子3’側末端より下流の約950bpの領域のDNA配列(3U_ADE1)、相同組換え用のマーカー遺伝子として、Ashbya gossypii由来のTEF1プロモーターとTEF1ターミネーターが付加されたG418耐性遺伝子を含む遺伝子配列(G418マーカー)が、含まれている。なお、5U_ADE1と3U_ADE1及びG418マーカー配列は2か所のホーミングエンドヌクレアーゼI-SceI認識配列の間に挿入されており、炭素源がガラクトースの培地で誘導されるGAL1プロモーターに付加されているSCEI遺伝子により切り出すことが可能である。
【0068】
各DNA配列はPCRにより増幅することが可能である。各DNA断片を結合するため、プライマーは隣接DNA配列と約15bp重複するようにDNA配列を付加されたものを合成し(表1)、それらを用いて、pRS436cen(SAT)-P_GAL1-SCEI-T_CYC1-Sce-5U_ADE1-P_AgTEF1-G418-T_AgTEF1-3U_ADE1-Sce(後述する参考例)、S. cerevisiae OC-2株ゲノム、もしくは合成DNAを鋳型に目的のDNA断片を増幅、In-Fusion HD Cloning Kit等を用いて各DNA断片を結合して目的のプラスミドを作製した。
【0069】
【表1】
【0070】
3.ADE1破壊用線状DNAベクター断片の作製
本実施例では、上記で作製したベクターのYCp型の酵母シャトルベクターpYC(TK-SAT)-P_GAL1-SCEI-T_CYC1-Sce-5U_ADE1-P_AgTEF1-G418-T_AgTEF1-3U_ADE1-Sceを鋳型として、表2に示したプライマーを用いて、ADE1遺伝子の5’相同組換え配列を含む断片と、ADE1遺伝子の3’相同組換え配列を含む断片と、G418マーカーを含む断片とをPCRで増幅した。詳細には、図9に模式的に示すように、プライマーP1及びP2を用いてADE1遺伝子の5’相同組換え配列を含む断片を増幅し、プライマーP3及びP4を用いてG418マーカーを含む断片を増幅し、プライマーP5及びP6を用いてADE1遺伝子の3’相同組換え配列を含む断片を増幅した。なお、それぞれの断片が約60bp重複するようにプライマーを設計した。
【0071】
【表2】
【0072】
4.形質転換補助用プラスミドの作製
本実施例では、上記で作製したベクターであるYCp型の酵母シャトルベクターpYC(TK-SAT)-P_GAL1-SCEI-T_CYC1-Sce-5U_ADE1-P_AgTEF1-G418-T_AgTEF1-3U_ADE1-Sceを鋳型として、ADE1の5’もしくは、3’相同組換え配列を含む線状ゲノム導入核酸断片と約60bp重複する表3に示したプライマーを用いて、形質転換補助用プラスミドを増幅した。詳細には、図10に模式的に示したように、プライマーP7及びP8を用いてPCRにより形質転換補助用プラスミドを増幅した。
【0073】
【表3】
【0074】
5.ADE1破壊用線状DNAベクター及び形質転換補助用プラスミドを同時形質転換によるADE1破壊株の取得
作製したADE1破壊用線状DNAベクター及び形質転換補助用プラスミドをそれぞれ400fmol用いて、S. cerevisiae BY4742株の形質転換を行い、YPD液体培地で4時間培養後、G418を含むYPGa(炭素源がガラクトース)寒天培地に塗布し(2×106個/プレート)、生育したコロニーをカウントした。同時に、YPD寒天培地にも塗布し(2×106個/プレート)、実際に生育したコロニー数を寒天培地に撒いた細胞数とした。形質転換はAkadaらの方法(Akada, R. et al. “Elevated temperature greatly improves transformation of fresh and frozen competent cells in yeast“ BioTechniques 28 (2000): 854-856)に従って行った。
【0075】
ADE1遺伝子はアデニン生合成経路の遺伝子であり、その破壊株は、アデニンの中間代謝産物の5-アミノイミダゾールリボシドが蓄積し、その重合したポリリボシルアミノイミダゾールが赤く着色するため、容易にADE1破壊株の判別が可能である。なお、ADE1遺伝子座への相同組換え効率は下記の式で算出した。
ADE1遺伝子破壊頻度=寒天培地で生育した赤いコロニー数÷寒天培地に撒いた細胞数
【0076】
6.ADE1破壊用線状DNAベクター及び形質転換補助用プラスミドの融合環状ベクター導入株の作製とADE1破壊株の取得
また、本実施例では、比較のため、pYC(TK-SAT)-P_GAL1-SCEI-T_CYC1-Sce-5U_ADE1-P_AgTEF1-G418-T_AgTEF1-3U_ADE1-Sceを直接形質転換した細胞を、YPD液体培地で4時間培養後、nourseothricinを含むYPD寒天培地に塗布し、生育したコロニーをADE1破壊用線状DNAベクターと形質転換補助用プラスミドの融合環状ベクター導入株とした。本ベクター導入株について、G418を含むYPGa培地に移してADE1破壊用線状DNAベクターを切り出し、ゲノム上のADE1破壊株を取得した。
【0077】
7.カウンターセレクションによる形質転換補助用プラスミドの除去
チミジンキナーゼ遺伝子は5-フルオロ-2-デオキシウリジン(5FU)を毒性の代謝物に変換する酵素をコードする。したがって、チミジンキナーゼ遺伝子を持つ細胞は、5FUを含む培地では致死となる。すなわち、チミジンキナーゼ遺伝子を有する形質転換補助用プラスミドが脱落した細胞のみが生育することができる。G418含むYPGa寒天培地で生育したコロニーのうち、白コロニーを30コロニー、赤コロニーを10コロニー5FU含むSD寒天培地に移し、コロニーの色から想定されるADE1破壊率と生存率を判定した。また、上記の計算に基づき、カウンターセレクション後の偽陽性の発生率を下記式で計算した。
カウンターセレクション後の偽陽性比率=カウンターセレクション後に想定される白コロニー数÷カウンターセレクション後に想定される生存コロニー数
【0078】
[結果・考察]
1.環状DNAプラスミドのゲノム形質転換効率に対するヘルパーDNAの効果
線状DNAベクターと形質転換補助用プラスミドとを同時に添加した場合には、線状DNAベクターを含む環状融合ベクターを単独で添加した場合と比較して5倍程度の効率で、ADE1破壊株を取得できた(表4)。しかしながら、同時にADE1を破壊していない白コロニーが高頻度で取得された(表4)。
【0079】
【表4】
【0080】
次に、ADE1破壊用線状DNAベクター及び形質転換補助用プラスミド同時形質転換で得られた形質転換体コロニーを5FU培地に移し、カウンターセレクションを行った結果を表5に示した。
【0081】
【表5】
【0082】
表5に示すように、得られた形質転換体のADE1破壊株(赤コロニー)はすべて赤色のコロニーとして生育したものの、ADE1非破壊株(白コロニー)は、赤コロニー・白コロニー・死滅の3種類の表現型に分離した。なお、ADE1破壊用線状ベクターを含む環状融合プラスミドを導入して得られたコロニーをカウンターセレクション培地に移しても、表現型は特に変化が見られなかった。
【0083】
死滅したコロニーは、線状DNAベクターと形質転換補助用プラスミドが相同組換えにより環状化したプラスミドから、何らかの理由により線状ベクターが切り出されなかったプラスミドを保持するため、G418に耐性になったと考えられる。カウンターセレクションにより、本プラスミドを保持する細胞が致死となり、本プラスミドが脱落した細胞がG418に感受性になったと考えられる。一方、赤色コロニーに変色したコロニーは、ADE1非破壊株と考えられた白コロニーのなかにごく少数のADE1破壊細胞が混じっていたと考えられ、カウンターセレクションにより、ADE1破壊株が優先的に増殖してきたと考えられる。表5に示したように、カウンターセレクションにより、白コロニーのままG418耐性を維持する偽陽性細胞はほとんど生じないことが分かった。
【0084】
カウンターセレクション後の偽陽性発生率を、ADE1破壊用線状ベクターを含む環状融合プラスミドを導入した場合と、線状DNAベクターと形質転換補助用プラスミドとを同時に導入した場合とで比較した結果を表6に示した。
【0085】
【表6】
【0086】
表6に示すように、線状DNAベクターと形質転換補助用プラスミドとを同時に導入した場合には、ADE1破壊用線状ベクターを含む環状融合プラスミドを導入した場合と比較して偽陽性の発生率が低くなった。この結果から、本方法よる偽陽性クローンの除去は極めて有効であると考えられた。
【0087】
〔参考例〕
pRS436cen(SAT)-P_GAL1-SCEI-T_CYC1-Sce-5U_ADE1-P_AgTEF1-G418-T_AgTEF1-3U_ADE1-Sceは、pRS436(SAT)-P_GAL1-SCEI-T_CYC1-Sce-5U_ADE1-P_AgTEF1-G418-T_AgTEF1-3U_ADE1-Sceから2μmプラスミド由来の複製起点を削除し、代わりに自律複製配列(ARS)とセントロメア配列(CEN)が挿入した、細胞内のコピー数が1コピーに保持されるベクターである。本ベクターは、RS436(SAT)-P_GAL1-SCEI-T_CYC1-Sce-5U_ADE1-P_AgTEF1-G418-T_AgTEF1-3U_ADE1-Sce もしくは、S. cerevisiae OC-2株ゲノムを鋳型に目的のDNA断片を増幅(使用プライマーは表7)、In-Fusion HD Cloning Kit等を用いてDNA断片を結合して作製した。
【0088】
なお、pRS436(SAT)-P_GAL1-SCEI-T_CYC1-Sce-5U_ADE1-P_AgTEF1-G418-T_AgTEF1-3U_ADE1-Sceには、GAL1プロモーターとCYC1ターミネーターが付加されたSCEI遺伝子(COX5B遺伝子のイントロンが挿入され、全長を酵母の核ゲノムのコドン使用頻度に合わせてコドンを変換した配列)、nourseothricin耐性遺伝子を含む遺伝子配列(natマーカー)、ゲノム導入用の相同組換え配列として、ADE1遺伝子の5’側末端より上流約1000bpの領域の遺伝子配列(5U_ADE1)及びADE1遺伝子3’側末端より下流の約950bpの領域のDNA配列(3U_ADE1)、相同組換え用のマーカー遺伝子として、Ashbya gossypii由来のTEF1プロモーターとTEF1ターミネーターが付加されたG418耐性遺伝子を含む遺伝子配列(G418マーカー)が、YEp型の酵母シャトルベクターであるpRS436GAP(NCBIアクセスNo. AB304862)からURA3遺伝子、TDH3プロモーター、CYC1ターミネーターを除いたベクターに挿入されている。なお、5U_ADE1と3U_ADE1及びG418マーカー配列は2か所のホーミングエンドヌクレアーゼI-SceI認識配列の間に挿入されており、炭素源がガラクトースの培地で誘導されるGAL1プロモーターに付加されているSCEI遺伝子により切り出すことが可能である。
【0089】
各DNA配列はPCRにより増幅することが可能である。各DNA断片を結合するため、プライマーは隣接DNA配列と約15bp重複するようにDNA配列を付加されたものを合成した(表7)。これらプライマーを用いて、S. cerevisiae OC-2株ゲノム又は合成DNAを鋳型として、目的のDNA断片を増幅し、In-Fusion HD Cloning Kit等を用いて順次DNA断片を結合、pRS436GAPベクターにクローニングして最終目的のプラスミドを作製した。
【0090】
【表7】
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
【配列表】
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