(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-06-10
(45)【発行日】2025-06-18
(54)【発明の名称】金属がドープされた多孔質シリカを含むスラリーの製造方法
(51)【国際特許分類】
C01B 33/12 20060101AFI20250611BHJP
C01B 33/14 20060101ALI20250611BHJP
C01B 37/02 20060101ALI20250611BHJP
【FI】
C01B33/12 A
C01B33/14
C01B37/02
(21)【出願番号】P 2021043711
(22)【出願日】2021-03-17
【審査請求日】2024-02-13
(31)【優先権主張番号】P 2020092575
(32)【優先日】2020-05-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003768
【氏名又は名称】東洋製罐グループホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098545
【氏名又は名称】阿部 伸一
(74)【代理人】
【識別番号】100106611
【氏名又は名称】辻田 幸史
(74)【代理人】
【識別番号】100189717
【氏名又は名称】太田 貴章
(72)【発明者】
【氏名】生田目 大輔
(72)【発明者】
【氏名】大橋 和彰
(72)【発明者】
【氏名】木村(三溝) 真梨子
【審査官】廣野 知子
(56)【参考文献】
【文献】特開平05-097420(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第107365150(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第106904957(CN,A)
【文献】特開2003-221220(JP,A)
【文献】特開平04-012041(JP,A)
【文献】国際公開第2019/122449(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 33/00ー33/193
C01B 33/20-39/74
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属がドープされた多孔質シリカと、分散媒と、かさ密度が2~5g/cm
3であるメディアを用いて、金属がドープされた多孔質シリカを湿式粉砕し、メディアン径が0.1~8μmである、金属がドープされた多孔質シリカを分散媒に懸濁することによる、
比表面積が600~1200m
2
/gである、金属がドープされた多孔質シリカを含むスラリーの製造方法
(上記において、金属がドープされた多孔質シリカは、多孔質シリカを構成するシロキサン結合からなる無機ネットワーク中に金属が化学結合して組み込まれている多孔質シリカを意味する)。
【請求項2】
メディアが、かさ密度が2.5~4g/cm
3であるアルミナを主たる材質とするボールである、請求項1記載の製造方法。
【請求項3】
多孔質シリカにドープされる金属が、銅、アルミニウム、ジルコニウム、コバルト、マンガン、鉄から選択される少なくとも1種である、請求項1または2記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属がドープされた多孔質シリカを含むスラリーの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
多孔質シリカは、大きな比表面積と細孔容積を有することから、吸着剤、調湿剤、触媒担体などとして、各種の分野で利用されていることは周知の通りである。近年、多孔質シリカの機能性を高めるための様々な試みがなされており、本発明者らも、研究成果の1つとして、銅などの金属がドープされた多孔質シリカが、硫黄含有臭気に対する優れた消臭効果を発揮することを特許文献1において報告している。
【0003】
本発明者らが特許文献1において報告した、金属がドープされた多孔質シリカは、システアミンなどの硫黄含有化合物を還元剤として用いて行われるパーマ処理の後に、毛髪に残存する硫黄含有臭気を消臭するための素材としての利用が期待されるが、その効果を遺憾なく発揮させるためには、金属がドープされた多孔質シリカを、液状やクリーム状であるパーマ処理剤にいかに配合するかが肝要である。金属がドープされた多孔質シリカのパーマ処理剤への配合は、金属がドープされた多孔質シリカを粉末のままパーマ処理剤に添加することで行ってもよいが、この方法では、金属がドープされた多孔質シリカをパーマ処理剤に均一に分散させることが必ずしも容易でない。また、金属がドープされた多孔質シリカを、繊維や不織布などの担体に担持させて利用する場合、金属がドープされた多孔質シリカを粉末のまま担体に担持させることは困難である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そこで本発明は、金属がドープされた多孔質シリカを、液状やクリーム状の物品に均一に分散させたり、担体に担持させたりすることを容易にする、取り扱い性に優れる、金属がドープされた多孔質シリカを含むスラリーの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記の点に鑑みて鋭意検討を行った結果、所定のかさ密度を有するメディアを用いて、金属がドープされた多孔質シリカを所定の大きさに湿式粉砕することで、取り扱い性に優れる、金属がドープされた多孔質シリカを含むスラリーを得ることができることを見出した。
【0007】
上記の知見に基づいてなされた本発明の比表面積が600~1200m
2
/gである、金属がドープされた多孔質シリカを含むスラリーの製造方法は、請求項1記載の通り、金属がドープされた多孔質シリカと、分散媒と、かさ密度が2~5g/cm3であるメディアを用いて、金属がドープされた多孔質シリカを湿式粉砕し、メディアン径が0.1~8μmである、金属がドープされた多孔質シリカを分散媒に懸濁することによる(上記において、金属がドープされた多孔質シリカは、多孔質シリカを構成するシロキサン結合からなる無機ネットワーク中に金属が化学結合して組み込まれている多孔質シリカを意味する)。
また、請求項2記載の製造方法は、請求項1記載の製造方法において、メディアが、かさ密度が2.5~4g/cm3であるアルミナを主たる材質とするボールである。
また、請求項3記載の製造方法は、請求項1または2記載の製造方法において、多孔質シリカにドープされる金属が、銅、アルミニウム、ジルコニウム、コバルト、マンガン、鉄から選択される少なくとも1種である。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、金属がドープされた多孔質シリカを、液状やクリーム状の物品に均一に分散させたり、担体に担持させたりすることを容易にする、取り扱い性に優れる、金属がドープされた多孔質シリカを含むスラリーの製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の金属がドープされた多孔質シリカを含むスラリーの製造方法は、かさ密度が2~5g/cm3であるメディアを用いて、金属がドープされた多孔質シリカを湿式粉砕し、メディアン径が0.1~8μmである、金属がドープされた多孔質シリカを分散媒に懸濁することによる。ここで、「金属がドープされた多孔質シリカ」とは、多孔質シリカを構成するシロキサン結合からなる無機ネットワーク中に金属が化学結合して組み込まれている多孔質シリカを意味する。金属がドープされた多孔質シリカは、例えば本発明者らが特開2020-15640号公報に記載したものであってよい。具体的には、次の通りである。
【0010】
多孔質シリカにドープされる金属としては、例えば、銅、アルミニウム、ジルコニウム、コバルト、マンガン、鉄が挙げられる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0011】
金属がドープされた多孔質シリカ中の金属の含量(2種以上の金属を組み合わせて用いる場合はそれぞれの合計量)は、例えば0.01~10wt%、好ましくは0.1~5wt%である。金属がドープされた多孔質シリカ中の金属の含量が0.01wt%を下回ると、金属をドープすることの効果が十分に得られない恐れがある一方、10wt%を超える量の金属がドープされた多孔質シリカは、製造が困難な恐れがある。2種以上の金属を組み合わせて用いる場合、金属間の含量比率は、例えば1つの金属の含量に対してその他の金属の含量が0.1~2倍であってよい。
【0012】
多孔質シリカとしては、例えば直径2~50nmの細孔(メソ孔)が規則的に配列したメソポーラスシリカが挙げられる。
【0013】
多孔質シリカの比表面積は、例えば500~2000m2/gであることが、耐久性を維持することができる点において好ましい。
【0014】
金属がドープされたメソポーラスシリカの製造は、例えば特開2020-15640号公報に記載した自体公知の以下の方法に従って行うことができる。
【0015】
(工程1)
まず、界面活性剤と、金属をメソポーラスシリカにドープするための原料を、溶媒に溶解し、例えば30~200℃で0.5~10時間攪拌することで、界面活性剤にミセルを形成させる。
【0016】
界面活性剤の溶媒への溶解量は、例えば10~400mmol/L、好ましくは50~150mmol/Lである。或いは、界面活性剤の溶媒への溶解量は、後述する工程2において添加するシリカ原料1molに対し、例えば0.01~5.0mol、好ましくは0.05~1.0molである。
【0017】
界面活性剤としては、陽イオン性界面活性剤、陰イオン性界面活性剤、非イオン性界面活性剤の何れを用いてもよいが、好ましくはアルキルアンモニウム塩などの陽イオン性界面活性剤である。アルキルアンモニウム塩は、炭素数が8以上のアルキル基を有するものが好ましく、工業的な入手の容易さに鑑みると、炭素数が12~18のアルキル基を有するものがより好ましい。アルキルアンモニウム塩の具体例としては、ヘキサデシルトリメチルアンモニウムクロライド、セチルトリメチルアンモニウムブロマイド、ステアリルトリメチルアンモニウムブロマイド、セチルトリメチルアンモニウムクロライド、ステアリルトリメチルアンモニウムクロライド、ドデシルトリメチルアンモニウムブロマイド、オクタデシルトリメチルアンモニウムブロマイド、ドデシルトリメチルアンモニウムクロライド、オクタデシルトリメチルアンモニウムクロライド、ジドデシルジメチルアンモニウムブロマイド、ジテトラデシルジメチルアンモニウムブロマイド、ジドデシルジメチルアンモニウムクロライド、ジテトラデシルジメチルアンモニウムクロライドが挙げられる。界面活性剤は、単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0018】
金属をメソポーラスシリカにドープするための原料の溶媒への溶解量(2種以上の金属を組み合わせて用いる場合はそれぞれの原料の合計量)は、後述する工程2において添加するシリカ原料1molに対し、例えば0.001~0.5mol、好ましくは0.01~0.1molである。
【0019】
金属をメソポーラスシリカにドープするための原料としては、例えば金属の硝酸塩、硫酸塩、塩化物、オキシ塩化物を用いることができる。銅をドープする場合は硝酸銅や塩化銅を用いることが好ましい。アルミニウムをドープする場合は塩化アルミニウムを用いることが好ましい。ジルコニウムをドープする場合はオキシ塩化ジルコニウムを用いることが好ましい。コバルトをドープする場合は硝酸コバルトを用いることが好ましい。マンガンをドープする場合は塩化マンガンを用いることが好ましい。鉄をドープする場合は塩化鉄を用いることが好ましい。金属をドープするための原料は、単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0020】
溶媒としては、例えば水を用いることができる。溶媒は、水と、メタノール、エタノール、ジエチレングリコールやグリセリンなどの多価アルコールをはじめとする水溶性有機溶媒の混合溶媒であってよい。
【0021】
(工程2)
次に、工程1において得た、界面活性剤がミセルを形成する溶液に、シリカ原料を例えば室温で溶解し、均一になるまで攪拌して、界面活性剤のミセルの表面にシリカ原料を集積させる。シリカ原料の溶液への溶解量は、例えば0.2~1.8mol/Lである。或いは、溶媒として水や水と水溶性有機溶媒の混合溶媒を用いる場合、水1molに対し、例えば0.001~0.05molである。
【0022】
シリカ原料は、脱水縮合することでメソポーラスシリカを構成するシロキサン結合からなる無機ネットワークを形成するものであれば特に限定されない。シリカ原料の具体例としては、テトラエトキシシラン、テトラメトキシシラン、テトラ-n-ブトキシシランなどのテトラアルコキシシランや、ケイ酸ナトリウムが挙げられる。好ましくはテトラアルコキシシランであり、より好ましくはテトラエトキシシランである。シリカ原料は、単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0023】
(工程3)
次に、界面活性剤のミセルの表面に集積させたシリカ原料を脱水縮合させて、メソポーラスシリカを構成するシロキサン結合からなる無機ネットワークを形成させるとともに、無機ネットワーク中に金属を化学結合させて組み込ませる。シリカ原料の脱水縮合は、例えば、系内に塩基性水溶液を添加してpHを上げた後、室温で1時間以上攪拌することで行わせることができる。塩基性水溶液は、pHが添加直後に8~14となるように添加することが好ましく、9~11となるように添加することがより好ましい。塩基性水溶液の具体例としては、水酸化ナトリウム水溶液、炭酸ナトリウム水溶液、アンモニア水が挙げられるが、好ましくは水酸化ナトリウム水溶液である。塩基性水溶液は、単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。なお、シリカ原料の脱水縮合は、系内に塩酸水溶液などの酸性水溶液を添加してpHを下げた後、攪拌することで行わせることもできる。
【0024】
(工程4)
最後に、工程3において得た、メソポーラスシリカを構成するシロキサン結合からなり、金属が化学結合して組み込まれた無機ネットワークを表面に形成させた界面活性剤のミセルを、沈殿物として濾過して回収し、例えば、30~70℃で10~48時間乾燥した後、400~600℃で1~10時間焼成することで、目的とする金属がドープされたメソポーラスシリカを得る。
【0025】
なお、金属をメソポーラスシリカにドープするための原料の系内への添加は、上記の工程1において界面活性剤とともに溶媒に溶解する態様に限定されず、工程3におけるシリカ原料が脱水縮合することによるメソポーラスシリカを構成するシロキサン結合からなる無機ネットワークの形成が完結するまでであれば、工程2や工程3において溶液に溶解する態様であってもよい。
【0026】
本発明の金属がドープされた多孔質シリカを含むスラリーの製造方法において、金属がドープされた多孔質シリカの湿式粉砕後のメディアン径を0.1~8μmであると規定するのは、メディアン径が0.1μmを下回るまで金属がドープされた多孔質シリカを湿式粉砕すると、多孔質シリカの構造が破壊されることで、比表面積や細孔容積が著しく減少し、その機能が低下する恐れがある一方、メディアン径が8μmを上回る金属がドープされた多孔質シリカは、スラリー中で沈降しやすく、取り扱い性に劣る恐れがあるからである。金属がドープされた多孔質シリカの湿式粉砕後のメディアン径の上限は、5μmが好ましく、2μmがより好ましい。
【0027】
本発明の金属がドープされた多孔質シリカを含むスラリーの製造方法において、金属がドープされた多孔質シリカを湿式粉砕するために用いるメディアのかさ密度を2~5g/cm3であると規定するのは、かさ密度が2g/cm3を下回ると、金属がドープされた多孔質シリカに対する粉砕エネルギーが弱すぎて、メディアン径が0.1~8μmになるまで湿式粉砕することが困難であったり、必要以上に長時間を要したりする恐れがある一方、かさ密度が5g/cm3を上回ると、粉砕エネルギーが強すぎて、多孔質シリカの構造が破壊されることで、比表面積や細孔容積が著しく減少し、その機能が低下する恐れがあるからである。かさ密度が2~5g/cm3であるメディアを用いることで、少なくとも50%以上、好ましくは60%以上、より好ましくは70%以上の、高い比表面積や細孔容積の維持率(湿式粉砕前の数値に対する湿式粉砕後の数値の百分率)で、メディアン径が0.1~8μmである金属がドープされた多孔質シリカを含むスラリーを、効率的に得ることができる。
【0028】
かさ密度が2~5g/cm3であるメディアの具体例としては、かさ密度が2.5~4g/cm3である、アルミナを主たる材質(例えばアルミナの純度が85%以上)とするボールの他、ガラスビーズ、ジルコンボール、窒化珪素ボール、炭化珪素ボールなどが挙げられる。このようなメディアは、粉砕用や分散用として市販されている0.5~30mmφのものであってよい。
【0029】
湿式粉砕に用いる分散媒は、金属がドープされた多孔質シリカを含むスラリーの分散媒になるものなので、スラリーの汎用性を考慮すれば、水、メタノール、エタノール、ジエチレングリコールやグリセリンなどの多価アルコールなどが好ましい。分散媒のpHは、例えば5~11、好ましくは6~9である。分散媒のpHが5を下回ると、多孔質シリカにドープされた金属が溶解する恐れがある一方、分散媒のpHが11を上回ると、多孔質シリカが溶解する恐れがある。
【0030】
金属がドープされた多孔質シリカの湿式粉砕は、スラリー中の金属がドープされた多孔質シリカの含量が例えば0.1~20wt%、好ましくは1~10wt%になる量の金属がドープされた多孔質シリカと分散媒を、メディアとともにミルポットなどに入れて行えばよい。スラリー中の金属がドープされた多孔質シリカの含量が20wt%を上回るようになる量の金属がドープされた多孔質シリカの湿式粉砕は、粘度が高くなることで困難になる恐れがある一方、金属がドープされた多孔質シリカの含量が0.1wt%を下回るスラリーは、金属がドープされた多孔質シリカがその機能を十分に発揮しない恐れがある。湿式粉砕を、スラリー中の金属がドープされた多孔質シリカの含量を所定の含量にするために必要な分散媒の一部を用いて行い、残りの分散媒を後から添加するといったこともできる。用いるメディアの量や粉砕時間は、湿式粉砕する金属がドープされた多孔質シリカの量や所望するメディアン径などによって異なるが、例えば、1gの金属がドープされた多孔質シリカに対して5~100gのメディアを用い、1~48時間粉砕すればよい。
【0031】
なお、金属がドープされた多孔質シリカを湿式粉砕する前に、金属がドープされた多孔質シリカをミキサーなどでプレ粉砕し、そのメディアン径を10~40μm程度としておくことで、金属がドープされた多孔質シリカの湿式粉砕を効率よく行うことができる。
【0032】
こうして本発明の方法によって製造された金属がドープされた多孔質シリカを含むスラリーは、金属がドープされた多孔質シリカのメディアン径が0.1~8μmであり、取り扱い性に優れるとともに、比表面積や細孔容積が湿式粉砕によって著しく減少していないので、機能性に優れる(比表面積は例えば600~1200m2/gであって細孔容積は例えば0.4~1cm3/gである。細孔直径は例えば2~50nmである)。従って、液状やクリーム状の物品に均一に分散させたり、担体に担持させたりすることを容易にする、機能性素材として利用することができる。具体的には、例えば、多孔質シリカにドープされる金属として、多孔質シリカにドープすることができる消臭性金属として知られている銅、マンガン、鉄などを選択した場合、消臭のために使用することができる。また、多孔質シリカにドープされる金属として、多孔質シリカにドープすることができる静菌性金属として知られている銅、ジルコニウム、コバルトなどを選択した場合、静菌のために使用することができる。
【実施例】
【0033】
以下、本発明を実施例によって詳細に説明するが、本発明は以下の記載に限定して解釈されるものではない。
【0034】
製造例1:銅とアルミニウムがドープされたメソポーラスシリカの製造(その1)
界面活性剤としてのヘキサデシルトリメチルアンモニウムクロライド、銅をメソポーラスシリカにドープするための原料としての塩化銅、アルミニウムをメソポーラスシリカにドープするための原料としての塩化アルミニウムを、溶媒としての水に溶解し、100℃で1時間攪拌した後、室温まで冷却してから、シリカ原料としてのテトラエトキシシランをさらに溶解して均一になるまで攪拌した。次いで、反応液に、塩基性水溶液としての水酸化ナトリウム水溶液を、添加直後のpHが9となるように添加し、室温で20時間攪拌した。生成した沈殿物を濾過して回収し、50℃で24時間乾燥した後、570℃で5時間焼成することで、目的とする銅とアルミニウムがドープされたメソポーラスシリカをごくわずかに青みがかった白色粉末として得た。
【0035】
なお、界面活性剤としてのヘキサデシルトリメチルアンモニウムクロライド、銅をメソポーラスシリカにドープするための原料としての塩化銅、アルミニウムをメソポーラスシリカにドープするための原料としての塩化アルミニウム、溶媒としての水のそれぞれの使用量は、シリカ原料としてのテトラエトキシシラン1molに対し、以下の通りとした。
ヘキサデシルトリメチルアンモニウムクロライド:0.225mol
塩化銅:0.0204mol
塩化アルミニウム:0.0482mol
水:125mol
また、塩基性水溶液としての水酸化ナトリウム水溶液を調製するために、水酸化ナトリウムを、シリカ原料としてのテトラエトキシシラン1molに対し、0.195mol用いた。
【0036】
以上の方法で得た銅とアルミニウムがドープされたメソポーラスシリカは、比表面積が1100m2/g、細孔容積が0.72cm3/g、細孔の直径が2.6nmであった(マイクロトラックベル社製BELSORP MAX II型を用いて多点法で液体窒素温度にて窒素ガスの吸着等温線を測定しBJH計算により算出)。また、銅とアルミニウムがドープされたメソポーラスシリカ約50mgを精確に量り取り、4mLの塩酸に溶解した後、塩酸溶液中の銅とアルミニウムの濃度を、誘導結合プラズマ発光分光分析装置(Thermo Scientific社製ICP-OES)を用いて測定し、測定結果に基づいて、銅とアルミニウムがドープされたメソポーラスシリカ中の銅の含量とアルミニウムの含量を算出したところ、銅の含量は1.85wt%であり、アルミニウムの含量は1.87wt%であった。メソポーラスシリカに銅とアルミニウムがドープされていることは、X線光電子分光装置(Thermo Scientific社製K-Alpha Surface Analysis)と透過型電子顕微鏡(JEOL社製JEM2010)で確認した。
【0037】
以上の方法で得た銅とアルミニウムがドープされたメソポーラスシリカを、ミキサーで粉砕し、メディアン径を27.5μmとした(レーザー回折式粒度分布測定装置(島津製作所社製SALD-3100)による、以下同じ)。
【0038】
製造例2:銅とアルミニウムがドープされたメソポーラスシリカの製造(その2)
製造例1において用いた、アルミニウムをメソポーラスシリカにドープするための原料としての塩化アルミニウムの使用量を0.0241molにすること以外は製造例1と同様にして、銅とアルミニウムがドープされたメソポーラスシリカをごくわずかに青みがかった白色粉末として得た後、ミキサーで粉砕し、メディアン径を36.1μmとした。
【0039】
製造例3:銅がドープされたメソポーラスシリカの製造
製造例1において用いた、アルミニウムをメソポーラスシリカにドープするための原料としての塩化アルミニウムを用いないこと以外は製造例1と同様にして、銅がドープされたメソポーラスシリカをごくわずかに青みがかった白色粉末として得た後、ミキサーで粉砕し、メディアン径を10.8μmとした。
【0040】
製造例1~3で得た、銅とアルミニウム、または銅のみがドープされたメソポーラスシリカの物性を表1に示す。
【0041】
【0042】
実施例1:銅とアルミニウムがドープされたメソポーラスシリカを含むスラリーの製造(その1)
250mLのポリプロピレン製ポット(アイボーイPP広口びん:アズワン社製)に、製造例1で得た銅とアルミニウムがドープされたメソポーラスシリカ5gと水95g、メディアとして2mmφのアルミナボール(ニッカトー社製、アルミナ純度:93%、かさ密度:3.6g/cm3)210g(約14000個)を入れ、ポットミルで湿式粉砕を8時間行った後、アルミナボールを濾別することで、銅とアルミニウムがドープされたメソポーラスシリカが均一に分散したその含量が5wt%のスラリーを得た。
【0043】
実施例2:銅とアルミニウムがドープされたメソポーラスシリカを含むスラリーの製造(その2)
実施例1において用いた水のかわりにエタノールを用い、湿式粉砕を16時間行うこと以外は実施例1と同様にして、銅とアルミニウムがドープされたメソポーラスシリカが均一に分散したその含量が5wt%のスラリーを得た。
【0044】
実施例3:銅とアルミニウムがドープされたメソポーラスシリカを含むスラリーの製造(その3)
実施例1において用いた、製造例1で得た銅とアルミニウムがドープされたメソポーラスシリカのかわりに、製造例2で得た銅とアルミニウムがドープされたメソポーラスシリカを用いること以外は実施例1と同様にして、銅とアルミニウムがドープされたメソポーラスシリカが均一に分散したその含量が5wt%のスラリーを得た。
【0045】
実施例4:銅がドープされたメソポーラスシリカを含むスラリーの製造
実施例1において用いた、製造例1で得た銅とアルミニウムがドープされたメソポーラスシリカのかわりに、製造例3で得た銅がドープされたメソポーラスシリカを用いること以外は実施例1と同様にして、銅がドープされたメソポーラスシリカが均一に分散したその含量が5wt%のスラリーを得た。
【0046】
実施例5:銅とアルミニウムがドープされたメソポーラスシリカを含むスラリーの製造(その4)
実施例1において用いたメディアのかわりに、2mmφのガラスビーズ(アズワン社製、ソーダガラス:100%、かさ密度:2.5g/cm3)145g(約14000個)を用いること以外は実施例1と同様にして、銅とアルミニウムがドープされたメソポーラスシリカが均一に分散したその含量が5wt%のスラリーを得た。
【0047】
実施例6:銅とアルミニウムがドープされたメソポーラスシリカを含むスラリーの製造(その5)
実施例1において用いたメディアのかわりに、2mmφのジルコンビーズ(アズワン社製、ジルコニア:55~65%とシリカ:35~45%、かさ密度:4.0g/cm3)235g(約14000個)を用いること以外は実施例1と同様にして、銅とアルミニウムがドープされたメソポーラスシリカが均一に分散したその含量が5wt%のスラリーを得た。
【0048】
比較例1:銅とアルミニウムがドープされたメソポーラスシリカを含むスラリーの製造(その6)
実施例1において用いたメディアのかわりに、2mmφのジルコニアボール(ニッカトー社製、ジルコニア純度:95%、かさ密度:6.0g/cm3)350g(約14000個)を用い、湿式粉砕を3時間行うこと以外は実施例1と同様にして、銅とアルミニウムがドープされたメソポーラスシリカが均一に分散したその含量が5wt%のスラリーを得た。
【0049】
実施例1~6と比較例1で得た、銅とアルミニウム、または銅のみがドープされたメソポーラスシリカを含むスラリーの、採用した湿式粉砕条件を表2に、物性を表3に示す。
【0050】
【0051】
【0052】
表3から明らかなように、メディアン径が0.5μm前後の微細な金属がドープされた多孔質シリカを含むスラリーを得ようとした場合、かさ密度が6.0g/cm3であるジルコニアボールを用いて湿式粉砕を行うと、金属がドープされた多孔質シリカに対する粉砕エネルギーが強すぎて、多孔質シリカの構造の多くが破壊され、比表面積と細孔容積の維持率が50%を下回ったが、かさ密度が2~5g/cm3の範囲であるアルミナボールやガラスビーズやジルコンビーズを用いて湿式粉砕を行うと、比表面積と細孔容積の維持率を少なくとも50%以上にすることができた。
【0053】
応用例1:銅とアルミニウムがドープされたメソポーラスシリカを配合したパーマ処理剤の製造
実施例1で得た銅とアルミニウムがドープされたメソポーラスシリカを含むスラリーを、添加量が10wt%となるように市販のクリーム状のパーマ処理剤(第2剤)に添加してよく攪拌することで、銅とアルミニウムがドープされたメソポーラスシリカが均一に分散したその含量が0.5wt%の消臭効果と静菌効果を兼ね備えたパーマ処理剤を製造することができた。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明は、金属がドープされた多孔質シリカを、液状やクリーム状の物品に均一に分散させたり、担体に担持させたりすることを容易にする、取り扱い性に優れる、金属がドープされた多孔質シリカを含むスラリーの製造方法を提供することができる点において、産業上の利用可能性を有する。