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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-06-10
(45)【発行日】2025-06-18
(54)【発明の名称】ガラス材の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C03B 3/02 20060101AFI20250611BHJP
   C03C 3/068 20060101ALI20250611BHJP
   C03C 3/097 20060101ALI20250611BHJP
【FI】
C03B3/02
C03C3/068
C03C3/097
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2021057982
(22)【出願日】2021-03-30
(65)【公開番号】P2022100192
(43)【公開日】2022-07-05
【審査請求日】2024-02-02
(31)【優先権主張番号】P 2020213671
(32)【優先日】2020-12-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000232243
【氏名又は名称】日本電気硝子株式会社
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 太志
【審査官】磯部 香
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-145143(JP,A)
【文献】特開2019-023155(JP,A)
【文献】特開2018-080066(JP,A)
【文献】特開2018-097350(JP,A)
【文献】国際公開第2019/239684(WO,A1)
【文献】特開2020-007179(JP,A)
【文献】特開平10-297933(JP,A)
【文献】特開昭50-053414(JP,A)
【文献】特開2007-302539(JP,A)
【文献】特開平06-329422(JP,A)
【文献】特開2013-103846(JP,A)
【文献】特開2009-107850(JP,A)
【文献】特開2013-001607(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03B 3/02
C03C 3/068
C03C 3/097
INTERGLAD
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶融容器と融液ガラスが接触するガラス材の製造方法であって、
前記ガラス材が、Tb 系ガラス材であり、モル%で、Tb 26%~40%、B 12%超~40%、Al 1%~20%、SiO 1%~40%、P 0.1%~5%、Ga 0%~4%、B +Al +SiO +P 14%超~74%を含有し、
還元剤を含むガラス原料を溶融、固化する溶融工程を備える、ガラス材の製造方法。
【請求項2】
さらに、再溶融工程を備える、請求項1に記載のガラス材の製造方法。
【請求項3】
前記還元剤が、カーボンである、請求項1または2に記載のガラス材の製造方法。
【請求項4】
前記ガラス原料における前記還元剤の含有量が、外割の重量%で、0.001%~1%である、請求項1~3のいずれか一項に記載のガラス材の製造方法。
【請求項5】
前記溶融工程において、溶融時間が3時間以下である、請求項1~4のいずれか一項に記載のガラス材の製造方法。
【請求項6】
前記再溶融工程において、溶融時間が4時間以上である、請求項2に記載のガラス材の製造方法。
【請求項7】
前記再溶融工程の溶融雰囲気が、真空雰囲気、不活性雰囲気又は還元雰囲気である、請求項2に記載のガラス材の製造方法。
【請求項8】
前記Tb 系ガラス材の全Tbに対するTb 3+ の割合が、モル%で55%以上である、請求項1~7のいずれか一項に記載のガラス材の製造方法。
【請求項9】
前記Tb 系ガラス材がSb 及びAs を実質的に含有しない、請求項1~8のいずれか一項に記載のガラス材の製造方法。
【請求項10】
前記ガラス材が、波長532nmにおいて光透過率が70%以上である、請求項1~のいずれか一項に記載のガラス材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラス材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
常磁性ガラス材は、磁気光学効果の一つであるファラデー効果を示すことが知られている。ファラデー効果は、磁場中に置かれた材料を通過する直線偏光を回転させる効果である。この効果を利用した磁気光学素子(例えば、ファラデー回転子)は、光アイソレータなどの磁気光学デバイスに利用される。
【0003】
ファラデー効果による旋光度(偏光面の回転角)θは、以下の式により表される。ここで、Hは磁場の強さ、Lは偏光が通過する物質の長さ、Vは物質の種類に依存する定数(ベルデ定数)である。ベルデ定数の絶対値が大きいほど旋光度の絶対値も大きくなり、結果として大きなファラデー効果を示す。
【0004】
θ=VHL
【0005】
ファラデー効果を示すガラス材として、例えば、SiO-B-Al-Tb系(特許文献1)、P-B-Tb系(特許文献2)が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特公昭51-46524号公報
【文献】特公昭52-32881号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
近年は磁気光学デバイスに照射されるレーザー光の高出力化のため、使用波長(例えば、300~1100nm)における磁気光学素子の光透過率向上が求められている。
【0008】
以上に鑑み、本発明は使用波長における高い光透過率を示すガラス材の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のガラス材の製造方法は、ガラス材が、常磁性ガラス材であり、還元剤を含むガラス原料を溶融、固化する溶融工程を備えることを特徴とする。
【0010】
本発明のガラス材の製造方法は、さらに、再溶融工程を備えることが好ましい。
【0011】
本発明のガラス材の製造方法は、還元剤が、カーボンであることが好ましい。
【0012】
本発明のガラス材の製造方法は、ガラス原料における還元剤の含有量が、外割の質量%で、0.001%~1%であることが好ましい。
【0013】
本発明のガラス材の製造方法は、溶融工程において、溶融時間が3時間以下であることが好ましい。
【0014】
本発明のガラス材の製造方法は、再溶融工程において、溶融時間が4時間以上であることが好ましい。
【0015】
本発明のガラス材の製造方法は、再溶融工程の溶融雰囲気が、真空雰囲気、不活性雰囲気又は還元雰囲気であることが好ましい。
【0016】
本発明のガラス材の製造方法は、ガラス材が、Tb系ガラス材であることが好ましい。
【0017】
本発明のガラス材の製造方法は、Tb系ガラス材が、モル%で、Tb 25%以上を含有することが好ましい。
【0018】
本発明のガラス材の製造方法は、Tb系ガラス材が、モル%で、Tb 26%~40%、B 12%超~40%、Al 1%~20%、SiO 1%~40%、P 0%~5%、B+Al+SiO+P 14%超~74%を含有することが好ましい。
【0019】
本発明のガラス材の製造方法は、ガラス材が、波長532nmにおいて光透過率が70%以上であることが好ましい。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、使用波長における高い光透過率を示すガラス材の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明は、ガラス材の製造方法であって、ガラス材が、常磁性ガラス材であり、還元剤を含むガラス原料を溶融する溶融工程を備えることを特徴とする。本発明によれば、使用波長における高い光透過率を示すガラス材を製造することができる。また、本発明は、構成成分の価数変化により特性が変化しやすいガラス材、例えば、常磁性ガラス材において、使用波長における高い光透過率を示すガラス材を製造しやすくなる。
【0022】
(溶融工程)
はじめに、還元剤を含むガラス原料を溶融、固化する(溶融工程)。ガラス原料が還元剤を含むことにより、ガラス材の着色を抑制しやすくなり、ガラス材の光透過率の低下を抑制しやすくなる。例えば、ガラス材が常磁性ガラス材の一種であるTb系ガラス材である場合、還元剤を含むことにより、着色の原因であるTb4+をTb3+に還元することができ、ガラス材の光透過率の低下を抑制しやすくなる。
【0023】
還元剤は、カーボンであることが好ましい。例えば、カーボンは粉末状で使用することが好ましい。これにより、ガラス原料中にカーボンを均一に分布させることができる。なお、還元剤はカーボンに限定されず、例えば、木粉、金属アルミニウム、金属シリコン、フッ化アルミニウム、アンモニウム塩等を用いてもよい。
【0024】
ガラス原料における還元剤の含有量は、外割の質量%で、0.001%~1%、0.01%~1%、0.05%~0.9%、0.1%~0.8%、特に0.1%~0.7%であることが好ましい。還元剤が少なすぎると還元効果が得づらくなり、ガラス材の着色が抑制しづらくなる。還元剤が多すぎると、溶融ガラスが過剰に還元されて、かえってガラス材が着色しやすくなる。例えば、白金るつぼを用いてガラス原料を溶融する場合は、還元剤が多すぎると、溶融ガラス中に微細なPtブツが生じて、ガラス材の光透過率が低下しやすくなる。なお、還元剤の含有量は、ガラス原料に対して外割で添加された値を意味する。
【0025】
溶融工程は、大気雰囲気で行うことが好ましい。これにより、製造コストを低減しやすくなる。なお、溶融工程は、真空雰囲気、不活性雰囲気又は還元雰囲気で行ってもよい。
【0026】
溶融工程は、溶融時間が、3時間以下、2時間以下、特に1時間以下であることが好ましい。また、溶融時間が5分以上、10分以上、特に20分以上であることが好ましい。溶融時間が短すぎると、ガラス原料の溶融が不十分になり、組成が均一なガラス材が得づらくなる。溶融時間が長すぎると、溶融容器の構成成分が溶融ガラス中に溶け込みやすくなる。例えば、白金るつぼを用いてガラス原料を溶融する場合は、溶融時間が長すぎると、溶融ガラス中に微細なPtブツが生じて、ガラス材の光透過率が低下しやすくなる。また、石英るつぼを用いてガラス原料を溶融する場合は、溶融時間が長すぎると、溶融ガラス中にSiOが溶けだして、所望の組成を有するガラス材が得づらくなる。
【0027】
溶融工程において、溶融容器は、溶融ガラスが接触する面が石英、白金又は白金合金で構成されていることが好ましい。例えば、石英るつぼ、白金るつぼ、白金ロジウムるつぼ、強化白金るつぼ、白金又は白金合金で内張された溶融炉等を溶融容器として用いることができる。
【0028】
溶融ガラスを所望の冷却方法により固化させることで、ガラス材を得ることができる。冷却方法は特に限定されないが、例えば、水冷、ローラー急冷を行うことができる。これらの方法により、破片状やフレーク状のガラス材を得ることができる。これらの形状のガラス材を用いることで、後述する再溶融工程において、ガラス材を再溶融しやすくなる。
【0029】
(再溶融工程)
ガラス材は再溶融されることが好ましい(再溶融工程)。これにより、溶融ガラスに対して十分な清澄を行うことができ、残留泡の少ないガラス材を得やすくなる。ガラス材中に残留泡が存在すると、光の散乱が生じて、ガラス材の光透過率が低下しやすくなる。なお本発明においては、再溶融される前のガラスを、便宜上、前駆体ガラス材と呼ぶことがある。
【0030】
再溶融工程は、溶融時間が、4時間以上、5時間以上、特に6時間以上であることが好ましい。また、溶融時間は10時間以下、9時間以下、特に8時間以下であることが好ましい。溶融時間が短すぎると、溶融ガラスの清澄が不十分になり、残留泡が多くなりやすくなる。溶融時間が長すぎると、溶融容器の構成成分が溶融ガラス中に溶け込みやすくなる。例えば、白金るつぼを用いてガラス材を再溶融する場合は、溶融時間が長すぎると、溶融ガラス中に微細なPtブツが生じて、ガラス材の光透過率が低下しやすくなる。また、石英るつぼを用いてガラス材を再溶融する場合は、溶融時間が長すぎると、溶融ガラス中にSiOが溶けだして、所望の組成を有するガラス材が得づらくなる。
【0031】
再溶融工程において、溶融容器は、溶融ガラスが接触する面が白金又は白金合金で構成されていることが好ましい。例えば、白金るつぼ、白金ロジウムるつぼ、強化白金るつぼ、白金又は白金合金で内張された溶融炉等を溶融容器として用いることが好ましい。なお、溶融容器に石英るつぼを用いてもよい。
【0032】
得られたガラス材は、アニールすることが好ましい。これにより、ガラス材の歪みを取り除くことができる。なお、アニールは大気雰囲気、還元雰囲気、不活性雰囲気のいずれで行ってもよいが、製造コストを低減する観点からは、大気雰囲気で行うことが好ましい。
【0033】
再溶融工程の溶融雰囲気は、真空雰囲気、不活性雰囲気または還元性雰囲気であることが好ましい。これにより、溶融ガラスの酸化を抑制し、ガラス材の着色をより一層抑制しやすくなる。
【0034】
本発明のガラス材の製造方法は、例えば、常磁性ガラス材を製造する際に用いることができる。常磁性ガラス材は、製造時に酸化が生じると、構成成分の価数が変化して、特性(例えば、光透過率)が変化しやすい。そのため、本発明の製造方法を用いることにより、常磁性ガラス材の酸化を抑制し、特性変化を抑制しやすくなる。常磁性ガラス材としては、例えば、Tb系ガラス材、Pr系ガラス材、EuO系ガラス材が挙げられる。
【0035】
Tb系ガラス材は、モル%で、Tb 25%以上を含有することが好ましい。例えば、モル%で、Tb 26%~40%、B 12%超~40%、Al 1%~20%、SiO 1%~40%、P 0%~5%、B+Al+SiO+P 14%超~74%を含有するガラス材が好ましい。上記組成を満たすガラス材は、使用波長における高い光透過率を示しやすい。このようにガラス組成を規定した理由、及び各成分の含有量について以下で説明する。なお、以下の説明において、特に断りのない限り「%」は「モル%」を意味する。
【0036】
Tbは、ベルデ定数の絶対値を大きくしてファラデー効果を高める成分である。Tbの含有量は26%~40%、26%~39%、26%~36%、26%~35%、28%~35%、29%~35%、30%~34%、特に31%~34%であることが好ましい。Tbの含有量が少なすぎると、上記効果が得られにくくなる。Tbの含有量が多すぎると、ガラス化しにくくなる。なお、Tbはガラス中に3価や4価の状態で存在するが、本発明ではこれら全てをTbとして表す。
【0037】
全Tbに対するTb3+の割合は、モル%で55%以上、60%以上、70%以上、80%以上、特に90%以上であることが好ましい。これにより、ガラス材の着色の原因であるTb4+の割合が少なくなり、ガラス材の光透過率の低下を抑制しやすくなる。なお、Tb4+は、波長300~1100nmに吸収を有する。全Tbに対するTb3+の割合が小さすぎると、ガラス材が着色して、上記波長域における光透過率が低下してしまい、ガラス材が発熱しやすくなる。この発熱は熱レンズ効果を生じさせるため、ガラス材にレーザー光を照射した際に、レーザー光のビームプロファイルが変形しやすくなる。
【0038】
全Tbに対するTb3+の割合は、ガラス材中に存在するTb4+をTb3+に還元することにより、その値を大きくすることができる。上述したように、本発明では、還元剤を含むガラス原料を溶融してガラス材を作製している。そのため、本発明の製造方法によれば、Tb4+をTb3+に還元しやすく、全Tbに対するTb3+の割合を大きくしやすくなる。
【0039】
はガラス化範囲を広げ、ガラス化を安定にする成分である。Bの含有量は12%超~40%、15%~38%、16%~36%、20%~35%、21%~35%、21%~32%、25%超~32%、特に26%~32%であることが好ましい。Bの含有量が少なすぎると、ガラス化しにくくなる。Bの含有量が多すぎると、十分なファラデー効果が得られにくくなる。また、熱的安定性やガラスの硬度が低下しやすくなる。
【0040】
Alはガラス骨格を形成し、ガラス化範囲を広げる成分である。Alの含有量は1%~20%、2%~20%、3%~20%、5%~20%、7%~20%、10%~20%、特に11%~19%であることが好ましい。Alの含有量が少なすぎると、上記効果が得づらくなる。Alの含有量が多すぎると、十分なファラデー効果が得られにくくなる。
【0041】
SiOはガラス骨格となり、ガラス化範囲を広げる成分である。SiOの含有量は1%~40%、5%~40%、10%~38%、15%~35%、18%~32%、20%~32%であることが好ましい。SiOの含有量が少なすぎると、上記効果が得づらくなる。SiOの含有量が多すぎると、十分なファラデー効果が得られにくくなる。
【0042】
はガラス骨格となり、ガラス化範囲を広げる成分である。Pの含有量は0%~5%、0%~5%未満、0%~4%、0.1%~4%、特に1%~4%であることが好ましい。Pの含有量が多すぎると、十分なファラデー効果が得られにくくなる。また、熱的安定性や硬度が低下しやすくなる。
【0043】
+Al+SiO+Pの含有量(B、Al、SiO、Pの合量)は14%超~74%、20%~74%、30%~74%、40%~74%、50%~72%、55%~71%、60%~70%、特に60%~69%であることが好ましい。B+Al+SiO+Pの含有量が少なすぎると、ガラス化しづらくなる。B+Al+SiO+Pの含有量が多すぎると、十分なファラデー効果が得られにくくなる。
【0044】
上述したTb系ガラス材には、上記成分に加えて、下記成分を含有させることができる。
【0045】
La、Gd、Y、Ybはガラス化を安定にする成分である。La、Gd、Y、Ybの含有量は、それぞれ10%以下、7%以下、5%以下、4%以下、2%以下、特に1%以下であることが好ましい。これらの成分の含有量が多すぎると、かえってガラス化しにくくなる。
【0046】
Dy、Eu、Ceはベルデ定数の向上にも寄与する成分である。Dy、Eu、Ceの含有量は、それぞれ1%以下、0.5%以下、0.1%以下、特に0.01%以下であることが好ましい。これらの成分の含有量が多すぎると、波長300~1100nmにおける光透過率が低下して、ガラス材が発熱しやすくなる。この発熱は、発熱による熱レンズ効果によるレーザー光のビームプロファイル変形の原因となりうる。なお、ガラス中に存在するDy、Eu、Ceは3価や4価の状態で存在するが、本発明ではこれら全てをそれぞれDy、Eu、Ceとして表す。
【0047】
Prはベルデ定数の向上に寄与する成分である。Prの含有量は5%以下、3%以下、1%未満、特に0.5%以下であることが好ましい。Prの含有量が多すぎると、ガラス化しにくくなる。
【0048】
MgO、CaO、SrO、BaOはガラス化を安定にするとともに、化学的耐久性を高める成分である。MgO、CaO、SrO、BaOの含有量は、それぞれ0%~10%、特に0%~5%であることが好ましい。これらの成分の含有量が多すぎると、十分なファラデー効果が得られにくくなる。
【0049】
GeOはガラス形成能を高める成分である。GeOの含有量は0%~15%、0%~10%、0%~9%、0%~7%、0%~5%、特に0%~4%であることが好ましい。GeOの含有量が多すぎると、十分なファラデー効果が得られにくくなる。
【0050】
Gaはガラス形成能を高め、ガラス化範囲を広げる成分である。Gaの含有量は0%~6%、0%~5%、0%~4%、特に0%~2%であることが好ましい。Gaの含有量が多すぎると、かえって失透しやすくなる。また、十分なファラデー効果が得られにくくなる。
【0051】
フッ素はガラス形成能を高め、ガラス化範囲を広げる効果を有する。フッ素の含有量(F換算)は0%~10%、0%~7%、0%~5%、0%~3%、0%~2%、特に0%~1%であることが好ましい。フッ素の含有量が多すぎると、溶融中に成分が揮発して、かえってガラス化に悪影響を及ぼすおそれがある。また、脈理が生じやすくなる。
【0052】
ガラス材は、FeO及びFeの含有量が、それぞれ10ppm以下、7ppm以下、5ppm以下、4ppm以下、2ppm以下、1ppm以下、特に0.8ppm以下であることが好ましい。FeOは波長1200nm付近でピークとなるFe2+に起因するブロードな吸収を示すため、波長800~1200nmにおける光透過率が低下して、ガラス材が発熱しやすくなる。この発熱は熱レンズ効果を生じさせ、レーザー光のビームプロファイル変形の原因となりうる。また、Feは溶融の過程において還元されてFeOとなり、同様にFe2+に起因するブロードな吸収を示す原因となる恐れがある。そのため、FeO+Feの含有量が多すぎると、熱レンズ効果が生じて、レーザー光のビームプロファイル変形が生じやすくなる。FeO+Feの含有量の下限は特に限定されないが、例えば0.01ppm以上である。なお、FeO及びFeそれぞれの含有量についても、10ppm以下、7ppm以下、5ppm以下、4ppm以下、2ppm以下、1ppm以下、特に0.8ppm以下であることが好ましい。
【0053】
ガラス材は、Sb及びAsを実質的に含有しないことが好ましい。これらの成分を含有すると、ガラス材中に気泡が残留しやすくなり、ガラス材の光透過率が低下しやすくなる。なお、上記の「実質的に含有しない」は、意図的にガラス原料中に含有させないという意味であり、不純物レベルの混入をも排除するものではない。客観的には、各成分の含有量が1000ppm未満を指す。
【0054】
ガラス材は、波長532nmにおいて、光透過率が70%以上、72%以上、75%以上、特に80%以上であることが好ましい。また、波長633nmにおいて、光透過率が70%以上、75%以上、特に80%以上であることが好ましい。さらに、波長1064nmにおいて、光透過率が80%以上、82%以上、特に85%以上であることが好ましい。なお、上記の光透過率は、ガラス材の厚みが1mmであるときの値である。
【0055】
このように、本発明の製造方法によれば、ガラス材の着色を抑制しやすくなる。これにより、使用波長における高い光透過率を示すガラス材を製造することができる。例えば、ガラス材がTb系ガラス材である場合、Tb4+をTb3+に還元することで全Tbに対するTb3+の割合を大きくすることができ、ガラス材の着色を抑制することができる。
【実施例
【0056】
以下、本発明を実施例に基づいて説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0057】
表1~3は本発明の実施例1~12、14~17及び比較例13を示している。
【0058】
【表1】
【0059】
【表2】
【0060】
【表3】
【0061】
実施例1~10、14~17は以下のように作製した。はじめに、表1~3に示すガラス組成となるよう原料を調合し、300gのガラス原料を得た。また、ガラス原料に対して、外割の重量%でカーボンを0.5%添加した。カーボン添加後のガラス原料を石英るつぼに入れ、表1~3に記載の条件で溶融を行った。溶融後、溶融ガラスを大気雰囲気で水冷し固化させることにより、前駆体ガラス材を得た。このようにして得られた前駆体ガラス材は破片状であった。
【0062】
次に、前駆体ガラス材を白金るつぼに100g入れて、表1~3に記載の条件で再溶融を行った。再溶融後、溶融ガラスを大気雰囲気でカーボン板上に流し出し、ガラス材を得た。得られたガラス材に対して、大気雰囲気、770℃にて1時間アニールを行った。
【0063】
実施例1~10、14~17と同様の手順でガラス材を得た後、再溶融工程を行わなかったガラス材を実施例11とした。
【0064】
実施例12は以下のように作製した。はじめに、実施例1~10と同様の手順でガラス原料を調合し、ガラス原料に対して、外割の重量%でカーボンを0.5%添加した。カーボン添加後のガラス原料を白金るつぼに入れて、不活性雰囲気(窒素雰囲気)、1400℃で6時間溶融を行った。溶融後、溶融ガラスを大気雰囲気でカーボン板上に流し出し、ガラス材を得た。得られたガラス材に対して、大気雰囲気、770℃にて1時間アニールを行った。なお実施例12は、実施例11と同様、再溶融工程を行っていないものである。
【0065】
比較例13は以下のように作製した。はじめに、ガラス原料にカーボンを添加しないことを除いて、実施例1~10と同様の手順で前駆体ガラス材を得た。次に、前駆体ガラス材を大気雰囲気、1400℃で5時間再溶融を行った。再溶融後、溶融ガラスを大気雰囲気でカーボン板上に流し出し、ガラス材を得た。得られたガラス材に対して、大気雰囲気、770℃にて1時間アニールを行った。
【0066】
得られたガラス材に対して、ベルデ定数、光透過率、全Tbに対するTb3+の割合、残留泡、ガラスの着色についてそれぞれ測定を行った。結果を表1~3に示す。
【0067】
ベルデ定数は、回転検光子法を用いて測定した。具体的には、得られたガラス材を1mmの厚さとなるよう研磨加工し、10kOeの磁場中で波長400nm~1100nmの範囲におけるファラデー回転角を測定し、波長532nmでのベルデ定数を算出した。
【0068】
光透過率は、分光光度計(日本分光社製V-670)を用いて測定した。具体的には、得られたガラス材を1mmの厚さとなるよう研磨加工し、光透過率曲線から波長532nmにおける光透過率を読み取った。なお、光透過率は反射も含んだ外部透過率である。
【0069】
全Tbに対するTb3+の割合は、X線吸収微細構造解析(XAFS)を用いて測定した。具体的には、X線吸収端構造領域(XANES)のスペクトルを得て、各Tbイオンのピーク位置のシフト量から全Tbに対するTb3+の割合(モル%)を算出した。
【0070】
残留泡は、1cmのガラス材を目視で観察した際に確認できる泡の数で評価した。確認できる泡が9個以下であるものを○、10個以上であるものを×とした。
【0071】
ガラス材の着色は、ガラス材を目視で確認して評価した。ガラス材本来の色であった試料は○、着色があった試料は具体的な着色状態を記録した。
【0072】
表1~3に示すように、実施例1~12、14~17のガラス材は、波長532nmにおいて、ベルデ定数の絶対値が0.511~0.799min/Oe・cmであった。また、光透過率はいずれも波長532nmにおいて70%以上となり、良好な光透過率を示した。一方、表2に示すように、比較例13は波長532nmにおける光透過率が低くなった。
【産業上の利用可能性】
【0073】
本発明の製造方法で作成したガラス材は、光アイソレータ、光サーキュレータ、磁気センサ等の磁気デバイスを構成する磁気光学素子(例えば、ファラデー回転子)に好適に用いることができる。