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7694302ペリクルフレーム、ペリクル、ペリクル付露光原版及び露光方法、並びに半導体装置又は液晶表示板の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-06-10
(45)【発行日】2025-06-18
(54)【発明の名称】ペリクルフレーム、ペリクル、ペリクル付露光原版及び露光方法、並びに半導体装置又は液晶表示板の製造方法
(51)【国際特許分類】
   G03F 1/64 20120101AFI20250611BHJP
【FI】
G03F1/64
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2021157022
(22)【出願日】2021-09-27
(62)【分割の表示】P 2021523086の分割
【原出願日】2021-02-02
(65)【公開番号】P2022000709
(43)【公開日】2022-01-04
【審査請求日】2024-01-26
(31)【優先権主張番号】P 2020016970
(32)【優先日】2020-02-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002240
【氏名又は名称】弁理士法人英明国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】簗瀬 優
【審査官】後藤 慎平
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-249442(JP,A)
【文献】国際公開第2020/009169(WO,A1)
【文献】特開2018-103621(JP,A)
【文献】特開2000-128672(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G03F 1/00-1/86
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
上端面と下端面とを有する枠状のペリクルフレームであって、
該ペリクルフレームには通気部が設けられており、EUV露光の圧力変化時に前記通気部を通る空気によりペリクル内部の空気の移動が生じ、
該ペリクルフレームの内側面には、粗さ曲線のクルトシス(Rku)が3.0以下である領域を有すると共に、検査光に対する反射率が5%以上であることを特徴とするペリクルフレーム。
【請求項2】
上記枠状が、四角形枠状であり、
上記粗さ曲線のクルトシス(Rku)が3.0以下である領域が、ペリクルフレームの各辺内側面の中央部である請求項1記載のペリクルフレーム。
【請求項3】
上記粗さ曲線のクルトシス(Rku)が3.0以下である領域は、ペリクルフレームの内側面全部の領域又はペリクルフレームの表面全部の領域である請求項1記載のペリクルフレーム。
【請求項4】
上記粗さ曲線のクルトシス(Rku)が、0.1以上である請求項1~3のいずれか1項記載のペリクルフレーム。
【請求項5】
ペリクルフレームの少なくとも内側面の一部において、平均粗さ(Ra)が0.001~1.0の範囲である請求項1~3のいずれか1項記載のペリクルフレーム。
【請求項6】
ペリクルフレームの少なくとも内側面の一部において、二乗平均平方根高さ(Rq)が0.001~1.0の範囲である請求項1~3のいずれか1項記載のペリクルフレーム。
【請求項7】
検査光に対する反射率が20%以下である請求項1~3のいずれか1項記載のペリクルフレーム。
【請求項8】
検査光の波長が550nmである請求項7記載のペリクルフレーム。
【請求項9】
ペリクルフレームの材料は、Si、SiO2、SiN、石英、インバー、チタン、チタン合金、アルミニウム及びアルミニウム合金からなる群から選ばれる請求項1~3のいずれか1項記載のペリクルフレーム。
【請求項10】
ペリクルフレームの厚みが、2.5mm未満である請求項1~3のいずれか1項記載のペリクルフレーム。
【請求項11】
請求項1~3いずれか1項記載のペリクルフレームと、ペリクル膜とを具備することを特徴とするペリクル。
【請求項12】
露光原版に、請求項11記載のペリクルが装着されていることを特徴とするペリクル付露光原版。
【請求項13】
請求項12記載のペリクル付露光原版によってEUV露光が行われることを特徴とする露光方法。
【請求項14】
請求項12記載のペリクル付露光原版を用いて、EUV露光する工程を備えることを特徴とする半導体装置の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リソグラフィ用フォトマスクにゴミ除けとして装着されるペリクルフレーム、ペリクル、ペリクル付露光原版及び露光方法、並びに半導体装置又は液晶表示板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、LSIのデザインルールはサブクオーターミクロンへと微細化が進んでおり、それに伴って、露光光源の短波長化が進んでいる。すなわち、露光光源は水銀ランプによるg線(436nm)、i線(365nm)から、KrFエキシマレーザー(248nm)、ArFエキシマレーザー(193nm)等に移行しており、さらには主波長13.5nmのEUV(Extreme Ultra Violet)光を使用するEUV露光が検討されている。
【0003】
LSI、超LSI等の半導体製造又は液晶表示板の製造においては、半導体ウエハ又は液晶用原版に光を照射してパターンを作製するが、この場合に用いるリソグラフィ用フォトマスク及びレチクル(以下、総称して「露光原版」と記述する)にゴミが付着していると、このゴミが光を吸収したり、光を曲げてしまうために、転写したパターンが変形したり、エッジが粗雑なものとなるほか、下地が黒く汚れたりして、寸法、品質、外観等が損なわれるという問題があった。
【0004】
これらの作業は、通常クリーンルームで行われているが、それでも露光原版を常に清浄に保つことは難しい。そこで、露光原版表面にゴミ除けとしてペリクルを貼り付けた後に露光をする方法が一般に採用されている。この場合、異物は露光原版の表面には直接付着せず、ペリクル上に付着するため、リソグラフィ時に焦点を露光原版のパターン上に合わせておけば、ペリクル上の異物は転写に無関係となる。
【0005】
このペリクルの基本的な構成は、アルミニウムやチタン等からなるペリクルフレームの上端面に露光に使われる光に対し透過率が高いペリクル膜が張設されるとともに、下端面に気密用ガスケットが形成されているものである。気密用ガスケットは一般的に粘着剤層が用いられ、この粘着剤層の保護を目的とした保護シートが貼り付けられる。ペリクル膜は、露光に用いる光(水銀ランプによるg線(436nm)、i線(365nm)、KrFエキシマレーザー(248nm)、ArFエキシマレーザー(193nm)等)を良く透過させるニトロセルロース、酢酸セルロース、フッ素系ポリマー等からなるが、EUV露光用では、ペリクル膜として極薄シリコン膜や炭素膜が検討されている。
【0006】
ペリクルは、露光原版に異物が付着しないよう保護することが目的であるため、ペリクルには非常に高い清浄度が求められる。そのため、ペリクルの製造工程において、出荷前にペリクル膜、ペリクルフレーム、粘着剤及び保護シートに異物が付着していないかの検査を行う必要がある。
【0007】
通常、ペリクルフレームへの異物検査は暗室で集光をフレームに当て、異物からの散乱光を目視で検出する。あるいは、異物検査装置を用いて、He-Neレーザーや半導体レーザーをペリクルフレームに照射し、異物からの散乱光を半導体検出器(CCD)等によって検出する。
【0008】
特許文献1では、フレーム内面での検査光に対する反射率を低くすることで検査性を向上させることが提案されている。しかし、反射率を低減しても、フレーム表面に存在する凹部あるいは凸部が散乱光を発生させることがあり、検知した散乱光が異物由来なのか、フレーム由来なのか、判断することが難しいという問題があった。
【0009】
また、EUV露光は高真空下で行われるため、EUV用ペリクルは大気圧から真空へ、および真空から大気圧へと圧力変化に晒される。この際、ペリクルフレームに設けられた通気部を通って空気の移動が発生する。EUV用ペリクルでは、ArF用ペリクルでは存在しなかった、ペリクル内部の空気の移動が生じるため、ペリクルフレーム表面に付着する異物が露光原版に落下するリスクが高い。そのため、EUV用ペリクルでは、ArF用ペリクルよりも厳しい異物検査が必要になってくる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】特開2001-249442号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、上記事情に鑑みなされたもので、フレーム由来の散乱光を防止し、フレーム表面に付着した異物を確実かつ容易に検出することができるペリクルフレーム、ペリクル、ペリクル付露光原版及び露光方法、並びに半導体装置又は液晶表示板の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は、ペリクル膜を設ける上端面とフォトマスクに面する下端面とを有する枠状のペリクルフレームであって、該ペリクルフレームの内側面において、粗さ曲線のクルトシス(Rku)が3.0以下である領域を有するように該ペリクルフレームに対して表面処理を行ったところ、ペリクルフレーム表面の尖り部を抑えることができ、該ペリクルフレーム表面の微小な異物を検査することが可能であることを知見した。一般的に、ペリクルフレームの表面粗さは算術平均粗さRaで示されるものであるが、単純にRaを低減しても、検査性が悪い場合があり、本発明者は、上記表面粗さの指標に代えてクルトシス(Rku)に着目することにより、その結果、ペリクルフレーム表面の異物を確実かつ容易に検出できることを見出し、本発明をなすに至ったものである。
【0013】
従って、本発明は、下記のペリクルフレーム、ペリクル、ペリクル付露光原版及び露光方法、並びに半導体装置又は液晶表示板の製造方法を提供する。
1.ペリクル膜を設ける上端面とフォトマスクに面する下端面とを有する枠状のペリクルフレームであって、該ペリクルフレームの内側面には、粗さ曲線のクルトシス(Rku)が3.0以下である領域を有することを特徴とするペリクルフレーム。
2.粗さ曲線のクルトシス(Rku)が3.0以下である領域は、ペリクルフレームの内側面全部の領域又はペリクルフレームの表面全部の領域である上記1記載のペリクルフレーム。
3.上記粗さ曲線のクルトシス(Rku)が、0.1以上である上記1又は2記載のペリクルフレーム。
4.ペリクルフレームの少なくとも内側面の一部において、平均粗さ(Ra)が0.001~1.0の範囲である上記1又は2記載のペリクルフレーム。
5.ペリクルフレームの少なくとも内側面の一部において、二乗平均平方根高さ(Rq)が0.001~1.0の範囲である上記1又は2記載のペリクルフレーム。
6.検査光に対する反射率が20%以下である上記1又は2記載のペリクルフレーム。
7.検査光の波長が550nmである上記6記載のペリクルフレーム。
8.ペリクルフレームの材料は、チタン、チタン合金、アルミニウム及びアルミニウム合金からなる群から選ばれる上記1又は2記載のペリクルフレーム。
9.ペリクルフレームの厚みが、2.5mm未満である上記1又は2記載のペリクルフレーム。
10.ペリクルフレームの厚みが、1.0mm以上である上記1又は2記載のペリクルフレーム。
11.ペリクルフレームの表面に酸化膜が形成されている上記1又は2記載のペリクルフレーム。
12.ペリクルフレームの表面が黒色化されている上記1又は2記載のペリクルフレーム。
13.ペリクルフレームの表面に物理的研磨又は化学的研磨が施されている上記1又は2記載のペリクルフレーム。
14.EUV用ペリクルに用いられるペリクルフレームである上記1又は2記載のペリクルフレーム。
15.上記1記載のペリクルフレームと、該ペリクルフレームの一端面に粘着剤又は接着剤を介して設けられるペリクル膜とを具備することを特徴とするペリクル。
16.ペリクル膜が、ペリクルフレームの上端面に設けられる上記15記載のペリクル。
17.ペリクル膜が、シリコン膜又は炭素膜である上記15又は16記載のペリクル。
18.ペリクルの高さが2.5mm以下である上記15又は16記載のペリクル。
19.真空下又は減圧下における露光に使用される上記15又は16記載のペリクル。
20.EUV露光に使用される上記15又は16記載のペリクル。
21.露光原版に、上記15記載のペリクルが装着されていることを特徴とするペリクル付露光原版。
22.露光原版が、EUV用露光原版である上記21記載のペリクル付露光原版。
23.EUVリソグラフィに用いられるペリクル付露光原版である上記21記載のペリクル付露光原版。
24.上記21記載のペリクル付露光原版によって露光が行われることを特徴とする露光方法。
25.露光の光源が、EUV光を発する露光光源である上記24記載の露光方法。
26.上記21記載のペリクル付露光原版を用いて、真空下又は減圧下において基板を露光する工程を備えることを特徴とする半導体装置の製造方法。
27.露光の光源が、EUV光を発する露光光源である上記26記載の半導体装置の製造方法。
28.上記21記載のペリクル付露光原版を用いて、真空下又は減圧下において基板を露光する工程を備えることを特徴とする液晶表示板の製造方法。
29.露光の光源が、EUV光を発する露光光源である上記28記載の液晶表示板の製造方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明のペリクルフレーム及びペリクルは、フレーム由来の散乱光を防止し、フレーム表面に付着した異物を確実かつ容易に検出することができ、検査性の良好なペリクルフレーム及びペリクルを提供することができる。また、上記ペリクルを用いることにより、ペリクル付露光原版を用いて基板を露光する工程を備える半導体装置又は液晶表示板の製造方法において非常に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明のペリクルフレームの一例を示す斜視図である。
図2】本発明のペリクルをフォトマスクに装着した様子を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明につき、更に詳しく説明する。
本発明のペリクルフレームは、ペリクル膜を設ける上端面とフォトマスクに面する下端面とを有する枠状のペリクルフレームである。
【0017】
ペリクルフレームは枠状であれば、その形状はペリクルを装着するフォトマスクの形状に対応する。一般的には、四角形(長方形又は正方形)枠状である。四角形枠状のほかには、三角形枠状、五角形枠状、六角形枠状、八角形枠状等の多角形枠状や、丸形枠状、楕円形枠状などの、フォトマスクの形状に変更することができる。ペリクルフレームの角部(エッジ部)の形状については、そのまま角ばった(尖った)形状であってもよく、或いは、R面取り又はC面取り等の面取りを施し、曲線形状等の他の形状であってもよい。
【0018】
また、ペリクルフレームには、ペリクル膜を設けるための面(ここでは上端面とする)と、フォトマスク装着時にフォトマスクに面する面(ここでは下端面がとする)がある。
【0019】
通常、ペリクルフレームの上端面には、接着剤等を介してペリクル膜が設けられ、下端面には、ペリクルをフォトマスクに装着するための粘着剤等が設けられるが、この限りではない。
【0020】
ペリクルフレームの材質に制限はなく、公知のものを使用することができる。EUV用のペリクルフレームでは、高温にさらされる可能性があるため、熱膨張係数の小さな材料が好ましい。例えば、Si、SiO2、SiN、石英、インバー、チタン、チタン合金、アルミニウム、アルミニウム合金等が挙げられる。中でも、加工容易性や軽量なことからチタン、チタン合金、アルミニウム及びアルミニウム合金からなる群から選ばれることが好ましい。また、低熱膨張係数の観点からはチタン又はチタン合金から選ばれることが好ましい。
【0021】
ペリクルフレームの寸法は特に限定されないが、EUV用ペリクルの高さが2.5mm以下に制限される場合には、EUV用のペリクルフレームの厚みはそれよりも小さくなり2.5mm未満であることが好ましい。特に、EUV用のペリクルフレームの厚みは、ペリクル膜やマスク粘着剤等の厚みを勘案すると、1.5mm以下であることが好ましい。また、上記ペリクルフレームの厚みの下限値は1.0mm以上であることが好ましい。
【0022】
本発明のペリクルフレームでは、例えば、該ペリクルフレームの内側面において、粗さ曲線のクルトシス(Rku)が3.0以下である領域を有するように該ペリクルフレームの表面処理が施される。この表面処理の方法については特に制限はなく、物理的研磨(手作業による金属磨き、バフ研磨、機械化学研磨、ブラスト処理等)や化学的研磨(化学研磨や電解研磨等)が使用でき、これらの研磨方法を組み合わせても良い。これらの研磨方法において、研磨材種類、研磨材粒径、研磨時間等の研磨条件を適宜変化させることにより、Rkuの値を調整することが可能である。また、本発明では、粗さ曲線のクルトシス(Rku)が3.0以下である領域がペリクルフレームの内側面の一部に有していればよい。製造効率の観点から、好ましくは内側面の全部、より好ましくはフレーム表面全部(即ち、フレームの上端面、下端面、内側面及び外側面の全表面)においてRku値が3.0以下とするように、ペリクルフレームに対して表面処理を行うことができる。この場合、ペリクルフレームは部分的に表面処理が行われていなくてもよい。
【0023】
また、本発明では、上記クルトシス(Rku)については3.0以下であるが、2.9以下であることが好ましく、2.8以下であることがより好ましく、2.7以下であることが特に好ましい。下限値は特に制限されないが、0.1以上であることが好ましく、0.5以上であることがより好ましい。
【0024】
クルトシス(Rku)の測定方法は、JIS B 0601:2013により規定される。クルトシス(Rku)は、表面の鋭さの尺度である尖度を意味し、高さ分布のとがり(鋭さ)を表す。クルトシス(Rku)の値が3.0であると正規分布を示し、3.0より大きいと高さ分布が尖っている、3.0より小さいと表面凹凸の高さ分布がつぶれている形状になっていることを意味する。
【0025】
クルトシス(Rku)は、以下の式により算出されるものである。即ち、クルトシス(Rku)は、粗さ曲線のRq(二乗平均平方根粗さ)の4乗によって無次元化した基準長さにおけるZ(x)の4乗平均の値であり、表面凹凸の突出した山又は谷の影響を強く受ける。
【数1】
(Rq:二乗平均平方根粗さ、l:基準長さ)
【0026】
上記のクルトシス(Rku)の測定方法としては、例えば、市販の3D測定レーザー顕微鏡を用い、この測定機により得られる測定断面曲線によりクルトシス(Rku)を測定することができる。このような測定機としては、例えば、製品名「LEST OLS4000」(オリンパス社製)や製品名「VK-X1000」(キーエンス社製)が挙げられる。
【0027】
また、上記のクルトシス(Rku)以外の表面粗さの指標として、平均粗さ(Ra)及び二乗平均平方根高さ(Rq)が挙げられる。本発明では特に制限はないが、ペリクルフレームの少なくとも内側面の一部において、Raが0.001~1.0の範囲であることが好ましく、また、Rqが0.001~1.0の範囲であることが好ましい。これらRa及びRqの値についても、JIS B 0601:2013の規定により測定することができ、製品名「LEST OLS4000」(オリンパス社製)や製品名「VK-X1000」(キーエンス社製)等の測定機により測定することができる。
【0028】
また、さらに検査性を向上させるために、フレームを着色し、検査光に対する反射率を低減させても良い。その場合、検査光に対する反射率が20%以下であることが好ましい。着色方法に制限はないが、陽極酸化等により表面に酸化膜を形成し、干渉の色により発色させることが、他物質の添加が不要であるので、好ましい。
【0029】
また、通常、ペリクルフレームの側面には、ハンドリングやペリクルをフォトマスクから剥離する際に用いられる冶具穴が設けられる。冶具穴の大きさは、ペリクルフレームの厚み方向の長さ(円形の場合は直径)を意味し、0.5~1.0mmであることが好ましい。穴の形状に制限はなく、円形や矩形であっても構わない。
【0030】
また、ペリクルフレームには通気部が設けられていてもよく、通気部には異物の侵入を防ぐため、フィルタを設けることができる。なお、ペリクルフレームの表面(即ち、フレームの上端面、下端面、内側面及び外側面の任意の箇所)には、無機膜や有機膜を設けてもよい。
【0031】
本発明のペリクルは、ペリクルフレームの上端面に、粘着剤又は接着剤を介して、ペリクル膜が設けられる。粘着剤や接着剤の材料に制限はなく、公知のものを使用することができる。ペリクル膜を強く保持するために、接着力の強い粘着剤又は接着剤が好ましい。
【0032】
上記ペリクル膜の材質については、特に制限はないが、露光光源の波長における透過率が高く耐光性の高いものが好ましい。例えば、EUV露光に対しては極薄シリコン膜や炭素膜等が用いられる。これら炭素膜としては、例えば、グラフェン、ダイヤモンドライクカーボン、カーボンナノチューブ等の膜が挙げられる。上記ペリクル膜は薄膜のみに限定されず、ペリクル膜を支持する支持枠を含むものも採用できる。例えば、シリコンウエハ上にペリクル膜を形成し、ペリクル膜として使用される箇所のみをバックエッチングでシリコンウエハを除去することで、ペリクル膜を作製する方法を採用できる。この場合、ペリクル膜はシリコン枠で支持された状態で得られる。
【0033】
さらに、ペリクルフレームの下端面には、フォトマスクに装着するためのマスク粘着剤が形成される。一般的に、マスク粘着剤は、ペリクルフレームの全周に亘って設けられることが好ましい。
【0034】
上記マスク粘着剤としては、公知のものを使用することができ、アクリル系粘着剤やシリコーン系粘着剤が好適に使用できる。粘着剤は必要に応じて、任意の形状に加工されてもよい。
【0035】
上記マスク粘着剤の下端面には、粘着剤を保護するための離型層(セパレータ)が貼り付けられていてもよい。離型層の材質は、特に制限されないが、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、ポリエチレン(PE)、ポリカーボネート(PC)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリプロピレン(PP)等を使用することができる。また、必要に応じて、シリコーン系離型剤やフッ素系離型剤等の離型剤を離型層の表面に塗布してもよい。なお、ペリクルのフォトマスクへの装着は、マスク粘着剤以外にも物理的な固定手段により固定することが可能である。この固定手段としては、ねじ、ボルト、ナット、リベット、キー、ピン等が挙げられる。マスク粘着剤と物理的な固定手段を併用することも可能である。
【0036】
ここで、図1は、本発明のペリクルフレーム1の一例を示し、符号11はペリクルフレームの内側面、符号12はペリクルフレームの外側面、符号13はペリクルフレームの上端面、符号14はペリクルフレームの下端面を示す。なお、通常、ペリクルフレームの長辺側にはペリクルをフォトマスクから剥離するために用いられる治具穴が設けられるが、図1では特に図示していない。
【0037】
図2は、ペリクル10を示すものであり、ペリクルフレーム1の上端面には接着剤4によりペリクル膜2が接着、張設されている。また、ペリクルフレーム1の下端面には、粘着剤5によりフォトマスク3に剥離可能に接着されており、フォトマスク3上のパターン面を保護している。
【0038】
本発明のペリクルは、EUV露光装置内で、露光原版に異物が付着することを抑制するための保護部材としてだけでなく、露光原版の保管時や、露光原版の運搬時に露光原版を保護するための保護部材としてもよい。ペリクルをフォトマスク等の露光原版に装着し、ペリクル付露光原版を製造する方法には、前述したマスク粘着剤で貼り付ける方法の他、静電吸着法、機械的に固定する方法等がある。
【0039】
本実施形態に係る半導体装置又は液晶表示板の製造方法は、上記のペリクル付露光原版によって基板(半導体ウエハ又は液晶用原板)を露光する工程を備える。例えば、半導体装置又は液晶表示板の製造工程の一つであるリソグラフィ工程において、集積回路等に対応したフォトレジストパターンを基板上に形成するために、ステッパーに上記のペリクル付露光原版を設置して露光する。一般に、EUV露光ではEUV光が露光原版で反射して基板へ導かれる投影光学系が使用され、これらは減圧又は真空下で行われる。これにより、仮にリソグラフィ工程において異物がペリクル上に付着したとしても、フォトレジストが塗布されたウエハ上にこれらの異物は結像しないため、異物の像による集積回路等の短絡や断線等を防ぐことができる。よって、ペリクル付露光原版の使用により、リソグラフィ工程における歩留まりを向上させることができる。
【実施例
【0040】
以下、実施例及び比較例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。
【0041】
[実施例1]
チタン製のペリクルフレーム(外寸150mm×118mm×1.5mm、フレーム幅4.0mm)を作製した。チタン製のフレーム表面(フレームの上端面、下端面、内側面及び外側面の全表面)を、サンドペーパー(粒度1,000)で表面の加工キズを除去した後、手作業により金属磨き粉(日本研磨工業(株)製のピカール液)で研磨した。このペリクルフレームを純水と中性洗剤による超音波洗浄により洗浄し、該フレームの上端面には、ペリクル膜接着剤としてシリコーン粘着剤(信越化学工業(株)製X-40-3264)100質量部に硬化剤(信越化学工業(株)製PT-56)を1質量部加えて撹拌した材料を、幅1mm、厚み0.1mmになるよう塗布した。また、フレームの下端面には、マスク粘着剤として、アクリル粘着剤(綜研化学(株)製SKダイン1495)100質量部に硬化剤(綜研化学(株)製L-45)を0.1質量部加えて撹拌した材料を、全周に亘り幅1mm、厚み0.1mmになるよう塗布した。その後、ペリクルフレームを90℃で12時間加熱して、上下端面のペリクル膜接着剤及びマスク粘着剤を硬化させた。続いて、ペリクル膜として極薄シリコン膜を、フレームの上端面に形成したペリクル膜接着剤に圧着させて、ペリクルを完成させた。
【0042】
[実施例2]
チタン製フレームを作製した後、サンドペーパーによる表面の加工キズの除去に代えてサンドブラスト装置によるブラスト処理を行い、金属磨き粉による研磨に代えて化学研磨処理を行った以外は実施例1と同様にしてペリクルを完成させた。ここで使用したサンドブラスト条件及び化学研磨処理条件は以下である。
〈サンドブラスト条件〉
・研磨剤:(株)不二製作所製のガラスビーズ(中心粒径≦30μm)
・吐出圧:7kgf/cm2
・時間:30秒
〈化学研磨処理条件〉
・薬液:佐々木化学薬品(株)製の「エスクリーンS-22」
・温度:30℃
・処理時間:10秒
【0043】
[実施例3]
化学研磨処理に続いて陽極酸化により紫色に着色した以外は実施例2と同様にしてペリクルを完成させた。
【0044】
[実施例4]
チタン製のペリクルフレームの代わりにアルミニウム合金製のペリクルフレームを作製し、サンドペーパーによる表面の加工キズの除去に代えて実施例2と同条件のブラスト処理を行い、金属磨き粉による研磨に代えて陽極酸化、黒色染色及び封孔処理して表面に黒色の酸化被膜を形成した以外は実施例1と同様にしてペリクルを完成させた。
【0045】
[比較例1]
サンドペーパーによる表面の加工キズの除去に代えて実施例2と同条件のブラスト処理を行い、金属磨き粉による研磨に代えて陽極酸化により紫色に着色した以外は実施例1と同様にしてペリクルを完成させた。
【0046】
[比較例2]
金属磨き粉による研磨に代えて実施例2と同条件の化学研磨処理を行った以外は実施例1と同様にしてペリクルを完成させた。
【0047】
実施例1~4並びに比較例1及び2で得られたペリクルに対し、目視検査及び表面粗さ測定を実施した。また、実施例1~4並びに比較例1及び2と同様のフレームの材質を用い、該材質に表面処理を施したサンプルピースを用いて、各サンプルの反射率測定を実施した。
【0048】
[反射率測定]
3cm×3cm、厚み5mmのサンプルピースを準備し、実施例1~4並びに比較例1及び2と同様の表面処理を施し、サンプルを準備した。「分光光度計V-780」(日本分光(株)製、型式名)を用いて、550nmの反射率を測定した。
【0049】
[表面粗さ測定]
各例のペリクルのフレーム各辺内側面の中央部4点(図1の符号P,P,P,P)における、算術平均粗さRa、二乗平均平方根高さRq及びクルトシス(Rku)を3D測定レーザー顕微鏡「LEXT OLS4000」(オリンパス(株)製、型式名)を用いて以下の条件で測定した。
<LEXT OLS4000 測定条件>
・評価長さ:4mm
・カットオフ:λc 800μm、λs 2.5μm、λf なし
・フィルタ:ガウシアンフィルタ
・解析パラメータ:粗さパラメータ
・対物レンズ:×50
【0050】
[目視検査]
得られたペリクルの内壁面に20μmの標準粒子を一部分に付着させ、暗室にて集光ランプを照射しながら、異物の検査性の良否について下記の基準により評価した。
〈判定基準〉
〇:粒子が付着していない部分では散乱光は確認されず、粒子が付着する部分のみ散乱光を確認した。
×:粒子が付着していない部分においても散乱光を確認した。
【0051】
【表1】
【0052】
上記表1の結果からは下記の点が考察される。
比較例1及び比較例2のペリクルフレームは、低反射率あるいは算術平均粗さRaが小さいものではあるが、クルトシス(Rku)が3を超えてしまい、その結果として、目視による異物検査性が悪いことが分かる。
一方、フレーム表面のクルトシス(Rku)が3以下である実施例1~4のペリクルフレームについては、反射率や粗さ曲線の別の高さパラメータであるRaやRqの値の大小に関係なく、目視による異物検査性が良好であることが分かる。
【符号の説明】
【0053】
1 ペリクルフレーム
2 ペリクル膜
3 フォトマスク
4 ペリクル膜接着剤
5 マスク粘着剤
10 ペリクル
P 内側面の中央部
図1
図2