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特許7694380酸化セリウムのナノ粒子、分散体、酸化剤、抗酸化剤および酸化セリウムのナノ粒子の製造方法、分散体の製造方法、酸化剤の製造方法ならびに抗酸化剤の製造方法
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  • 特許-酸化セリウムのナノ粒子、分散体、酸化剤、抗酸化剤および酸化セリウムのナノ粒子の製造方法、分散体の製造方法、酸化剤の製造方法ならびに抗酸化剤の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-06-10
(45)【発行日】2025-06-18
(54)【発明の名称】酸化セリウムのナノ粒子、分散体、酸化剤、抗酸化剤および酸化セリウムのナノ粒子の製造方法、分散体の製造方法、酸化剤の製造方法ならびに抗酸化剤の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01F 17/235 20200101AFI20250611BHJP
   A61L 9/01 20060101ALI20250611BHJP
   A61P 39/06 20060101ALI20250611BHJP
【FI】
C01F17/235
A61L9/01 B
A61P39/06
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2021501056
(86)(22)【出願日】2020-12-25
(86)【国際出願番号】 JP2020048951
(87)【国際公開番号】W WO2021132643
(87)【国際公開日】2021-07-01
【審査請求日】2023-12-06
(31)【優先権主張番号】P 2019237323
(32)【優先日】2019-12-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】関口 翔太
(72)【発明者】
【氏名】本白水 崇光
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 正照
【審査官】森坂 英昭
(56)【参考文献】
【文献】韓国登録特許第10-1261599(KR,B1)
【文献】中国特許出願公開第100998335(CN,A)
【文献】特表2018-508568(JP,A)
【文献】特表2016-514163(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01F 17/00 - 17/38
A61L 9/01
A61P 39/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の一般式(I)で示される脂環式アミンの溶液とセリウム(III)イオンを含む溶液またはセリウム(III)塩とを混合し、酸化剤を添加することにより製造された、酸化セリウムのナノ粒子。
【化1】
一般式(I)中、XはNR2、O、Sを示し、R1およびR2は水素原子、炭素数1~4のアルキル基、炭素数1~4のヒドロキシアルキル基、炭素数1~4のアミノアルキル基、炭素数1~4のスルホン酸アルキル基を示す。R1及びR2は同一であっても異なっていてもよい。)
【請求項2】
前記酸化剤を添加する際に、pHを5以上に調整する請求項1に記載の酸化セリウムのナノ粒子。
【請求項3】
前記一般式(I)のうち、XはNR、Oを示し、R1およびR2が水素原子、炭素数1~2のアルキル基、炭素数2~3のヒドロキシアルキル基、炭素数2~3のアミノアルキル基、炭素数2~3のスルホン酸アルキル基を示すことを特徴とする請求項1または2に記載の酸化セリウムのナノ粒子。
【請求項4】
前記一般式(I)で示される脂環式アミンが、ピペラジン、1-メチルピペラジン、N,N‘-ジメチルピペラジン、1-エチルピペラジン、N,N‘-ジエチルピペラジン、1-(2-ヒドロキシエチル)ピペラジン、1,4-ビス(2-ヒドロキシエチル)ピペラジン、N-(2-アミノエチル)ピペラジン、1,4-ビス(2-アミノエチル)ピペラジン、2-[4-(2-ヒドロキシエチル)-1-ピペラジニル]エタンスルホン酸、ピペラジン-1,4-ビス(2-エタンスルホン酸)、モルホリン、4-メチルモルホリン、4-エチルモルホリン、4-(2-アミノエチル)モルホリン、4-(2-ヒドロキシエチル)モルホリン、2-モルホリノエタンスルホン酸、3-モルホリノプロパンスルホン酸である請求項1から3のいずれか一つに記載の酸化セリウムのナノ粒子。
【請求項5】
下記の一般式(I)で示される脂環式アミンを含む酸化セリウムのナノ粒子であって、X線吸収微細構造スペクトル測定によって得られるCe L3端XANESスペクトルにおいて、5726.0~5729.0eVおよび5735.0~5739.0eVに極大吸収を有する酸化セリウムのナノ粒子。
【化2】
(一般式(I)中、XはNR 2 、O、Sを示し、R 1 およびR 2 は水素原子、炭素数1~4のアルキル基、炭素数1~4のヒドロキシアルキル基、炭素数1~4のアミノアルキル基、炭素数1~4のスルホン酸アルキル基を示す。R 1 及びR 2 は同一であっても異なっていてもよい。)
【請求項6】
請求項1から5のいずれか一つに記載の酸化セリウムのナノ粒子を含む分散体。
【請求項7】
請求項1から5のいずれか一つに記載の酸化セリウムのナノ粒子または請求項6に記載の分散体を含む酸化剤。
【請求項8】
請求項1から5のいずれか一つに記載の酸化セリウムのナノ粒子または請求項6に記載の分散体を含む抗酸化剤。
【請求項9】
下記の一般式(I)で示される脂環式アミンの溶液とセリウム(III)イオンを含む溶液またはセリウム(III)塩とを混合し、酸化剤を添加する、酸化セリウムのナノ粒子の製造方法。
【化3】
(一般式(I)中、XはNR 2 、O、Sを示し、R 1 およびR 2 は水素原子、炭素数1~4のアルキル基、炭素数1~4のヒドロキシアルキル基、炭素数1~4のアミノアルキル基、炭素数1~4のスルホン酸アルキル基を示す。R 1 及びR 2 は同一であっても異なっていてもよい。)
【請求項10】
前記酸化剤を添加する際に、pHを5以上に調整する、請求項9に記載の酸化セリウムのナノ粒子の製造方法。
【請求項11】
前記一般式(I)のうち、XはNR 2 、Oを示し、R 1 およびR 2 が水素原子、炭素数1~2のアルキル基、炭素数2~3のヒドロキシアルキル基、炭素数2~3のアミノアルキル基、炭素数2~3のスルホン酸アルキル基を示す、ことを特徴とする請求項9または10に記載の酸化セリウムのナノ粒子の製造方法。
【請求項12】
前記一般式(I)で示される脂環式アミンが、ピペラジン、1-メチルピペラジン、N,N‘-ジメチルピペラジン、1-エチルピペラジン、N,N‘-ジエチルピペラジン、1-(2-ヒドロキシエチル)ピペラジン、1,4-ビス(2-ヒドロキシエチル)ピペラジン、N-(2-アミノエチル)ピペラジン、1,4-ビス(2-アミノエチル)ピペラジン、2-[4-(2-ヒドロキシエチル)-1-ピペラジニル]エタンスルホン酸、ピペラジン-1,4-ビス(2-エタンスルホン酸)、モルホリン、4-メチルモルホリン、4-エチルモルホリン、4-(2-アミノエチル)モルホリン、4-(2-ヒドロキシエチル)モルホリン、2-モルホリノエタンスルホン酸、3-モルホリノプロパンスルホン酸である、請求項9から11のいずれか一つに記載の酸化セリウムのナノ粒子の製造方法。
【請求項13】
請求項9から12のいずれか一つに記載の酸化セリウムのナノ粒子の製造方法によって製造される酸化セリウムのナノ粒子を含める、分散体の製造方法。
【請求項14】
請求項9から12のいずれか一つに記載の酸化セリウムのナノ粒子の製造方法によって製造される酸化セリウムのナノ粒子または請求項13に記載の分散体の製造方法によって製造される分散体を含める、酸化剤の製造方法。
【請求項15】
請求項9から12のいずれか一つに記載の酸化セリウムのナノ粒子の製造方法によって製造される酸化セリウムのナノ粒子または請求項13に記載の分散体の製造方法によって製造される分散体を含める、抗酸化剤の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸化セリウムのナノ粒子、当該ナノ粒子を含む分散体、当該酸化セリウムのナノ粒子の製造方法、当該分散体の製造方法、および当該酸化セリウムのナノ粒子または分散体を含む酸化剤、抗酸化剤、当該酸化剤の製造方法ならびに当該抗酸化剤の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、安全や衛生管理に対する意識が高まる中で、有害物質や微生物を分解する抗菌技術が注目されている。例えば、酸化チタンは、光触媒特性によって有機物を酸化分解する特性を有しており、有機色素の分解反応などで評価される。このような酸化分解特性は、抗菌剤としての利用の他、アセトアルデヒドやアンモニアなどの低分子、アレルゲン、ウイルスなどの各種有害物質を分解する用途への利用が期待されている。
【0003】
一方、酸化セリウムのナノ粒子(ナノセリア)は、カタラーゼ、オキシダーゼ、ペルオキシダーゼ、スーパーオキシドジスムターゼ等の酸化還元酵素と同様の触媒活性を有しており、酸化剤、抗酸化剤としての応用が期待されている。これらの触媒活性には紫外線等の特別な光源を必要としないことから、酸化チタンとは異なる用途への利用が期待できる。
【0004】
しかしながら、一般に、ナノ粒子は凝集しやすいため、合成の際には安定化剤となる化合物を共存させておき、得られたナノ粒子を安定分散させる手法が用いられる。酸化セリウムのナノ粒子の場合、例えば、ポリアクリル酸を安定化剤として過酸化水素によりセリウム(III)イオンを酸化して粒子分散液を取得したり、デキストランを安定化剤としてアンモニア水中でセリウム(III)イオンのアルカリ中和を行って粒子分散液を取得する。
【0005】
ここで、非特許文献1には、表面がポリアクリル酸やデキストランで被覆された酸化セリウムのナノ粒子の合成方法が記載されている。非特許文献1では、特に、ポリアクリル酸を安定化剤とした場合、酸化性能を示す値であるオキシダーゼ活性が高くなることが開示されている。
【0006】
また、特許文献1には、表面がクエン酸やエチレンジアミン二コハク酸(EDDS)等のキレート剤で被覆された酸化セリウムのナノ粒子の合成方法が記載されている。特に、クエン酸/EDDSを安定化剤とした場合、抗酸化性能を示す値であるカタラーゼ活性が高くなることが開示されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【文献】A.Asati,Angew. Chem. Int. Ed. 2009, 48, 2308-2312.
【特許文献】
【0008】
【文献】特表2018-508568号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明者らは、酸化セリウムのナノ粒子を用いる用途の検討を行った。しかし、後述する色素の分解試験での結果のとおり、非特許文献1に記載の製造方法で作製されたポリアクリル酸で表面が被覆された酸化セリウムのナノ粒子(比較例1)や市販される酸化セリウムのナノ粒子の溶液を用いて、有機色素の酸化分解を試みたところ、分解率が非常に低いことがわかった。これらの結果から、高い酸化性能を有する酸化セリウムのナノ粒子を取得することを課題として、さらに検討を行った。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決するために、酸化セリウムのナノ粒子の製造方法に着目して検討した。その結果、安定化剤として一般式(I)に示される脂環式アミンの溶液とセリウム(III)イオンを含む溶液またはセリウム(III)塩とを混合し、酸化剤を添加することで酸化セリウムのナノ粒子を含む分散体が取得できることを見出した。一方、一般式(I)と異なる構造であるピペリジンを安定化剤として用いた場合、酸化セリウムのナノ粒子を含む分散体を取得することができず、安定化剤の構造が酸化セリウムのナノ粒子を含む分散体を取得する上で重要であることを見出した。そして、このようにして製造された分散体を使って、有機色素の酸化分解を試みたところ、分解率が高くなることを見出した。また、この酸化性能は、酸化セリウムのナノ粒子の分散体に対して一般式(I)に示される脂環式アミンを添加するだけでは確認されず、製造方法に依存した特性であることも見出した。さらにこのようにして製造された酸化セリウムのナノ粒子の分散体は、特許文献1に記載の酸化セリウムのナノ粒子の溶液と比較しても、高い抗酸化活性を有することを見出し、本発明を完成させた。
【0011】
本発明者らは、上記検討を経て本発明を完成させた。本発明は以下のとおりである。
(1)下記の一般式(I)で示される脂環式アミンの溶液とセリウム(III)イオンを含む溶液またはセリウム(III)塩とを混合し、酸化剤を添加することにより製造された、酸化セリウムのナノ粒子。
【化1】
式(I)中、XはNR、O、Sを示し、RおよびRは水素原子、炭素数1~4のアルキル基、炭素数1~4のヒドロキシアルキル基、炭素数1~4のアミノアルキル基、炭素数1~4のスルホン酸アルキル基を示す。R及びRは同一であっても異なっていてもよい。
【0012】
(2)酸化剤を添加する際に、pHを5以上に調整する(1)に記載の酸化セリウムのナノ粒子。
(3)前記一般式(I)のうち、XはNR、Oを示し、RおよびRが水素原子、炭素数1~2のアルキル基、炭素数2~3のヒドロキシアルキル基、炭素数2~3のアミノアルキル基、炭素数2~3のスルホン酸アルキル基を示すことを特徴とする(1)または(2)に記載の酸化セリウムのナノ粒子。
(4)前記一般式(I)で示される脂環式アミンが、ピペラジン、1-メチルピペラジン、N,N‘-ジメチルピペラジン、1-エチルピペラジン、N,N‘-ジエチルピペラジン、1-(2-ヒドロキシエチル)ピペラジン、1,4-ビス(2-ヒドロキシエチル)ピペラジン、N-(2-アミノエチル)ピペラジン、1,4-ビス(2-アミノエチル)ピペラジン、2-[4-(2-ヒドロキシエチル)-1-ピペラジニル]エタンスルホン酸、ピペラジン-1,4-ビス(2-エタンスルホン酸)、モルホリン、4-メチルモルホリン、4-エチルモルホリン、4-(2-アミノエチル)モルホリン、4-(2-ヒドロキシエチル)モルホリン、2-モルホリノエタンスルホン酸、3-モルホリノプロパンスルホン酸であることを特徴とする(1)から(3)のいずれか一つに記載の酸化セリウムのナノ粒子。
(5)前記一般式(I)で示される脂環式アミンを含む酸化セリウムのナノ粒子であって、X線吸収微細構造スペクトル測定によって得られるCe L3端XANESスペクトルにおいて、5726.0~5729.0eVおよび5735.0~5739.0eVに極大吸収を有する酸化セリウムのナノ粒子。
(6)(1)から(5)のいずれか一つに記載の酸化セリウムのナノ粒子を含む分散体。
(7)(1)から(5)のいずれか一つに記載の酸化セリウムのナノ粒子または(6)に記載の分散体を含む酸化剤。
(8)(1)から(5)のいずれか一つに記載の酸化セリウムのナノ粒子または(6)に記載の分散体を含む抗酸化剤。
(9)前記一般式(I)で示される脂環式アミンの溶液とセリウム(III)イオンを含む溶液またはセリウム(III)塩とを混合し、酸化剤を添加する、酸化セリウムのナノ粒子の製造方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明の酸化セリウムのナノ粒子を含む分散体を用いれば、従来の酸化セリウムのナノ粒子より高い収率で有害物を酸化分解すること、また、従来の酸化セリウムのナノ粒子より高い収率で活性種を消去することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1図1は、実施例12において測定した、実施例1および比較例3で調製した酸化セリウムのナノ粒子のCeL3端XANESスペクトルを示す図である。
図2図2は、実施例12において測定した、実施例2および比較例5で調製した酸化セリウムのナノ粒子のCeL3端XANESスペクトルを示す図である。
図3図3は、参考例1において測定した、酸化セリウムの結晶、炭酸セリウム(III)、硝酸セリウム(III)、硝酸アンモニウムセリウム(IV)のCeL3端XANESスペクトルを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の酸化セリウムのナノ粒子を含む分散体は、本明細書中で、本発明の分散体又は本発明の分散液と記載する場合がある。
酸化セリウムのナノ粒子の合成にあたっては、原料の一つが水溶性のセリウムの塩であり、合成は水または水と相溶性のある溶媒で行われる。適度な親水性を持ち、金属イオンに対してアミン錯体を形成できるような性質を両立する観点から、本発明で用いる脂環式アミンの好ましい実施形態としては、化学式(I)に示される脂環式アミンが挙げられる。
【化2】
式(I)中、XはNR、O、Sを示し、RおよびRは水素原子、炭素数1~4のアルキル基、炭素数1~4のヒドロキシアルキル基、炭素数1~4のアミノアルキル基、炭素数1~4のスルホン酸アルキル基を示す。R及びRは同一であっても異なっていてもよい。
【0016】
本発明で用いる脂環式アミンのより好ましい実施形態としては、上記化学式(I)において、XはNR、Oを示し、RおよびRが水素原子、炭素数1~2のアルキル基、炭素数2~3のヒドロキシアルキル基、炭素数2~3のアミノアルキル基、炭素数2~3のスルホン酸アルキル基を示すものである。R及びRは同一であっても異なっていてもよい。
【0017】
一実施形態として、このような脂環式アミンとしては、ピペラジン、1-メチルピペラジン、N,N‘-ジメチルピペラジン、1-エチルピペラジン、N,N‘-ジエチルピペラジン、1-(2-ヒドロキシエチル)ピペラジン、1,4-ビス(2-ヒドロキシエチル)ピペラジン、N-(2-アミノエチル)ピペラジン、1,4-ビス(2-アミノエチル)ピペラジン、2-[4-(2-ヒドロキシエチル)-1-ピペラジニル]エタンスルホン酸、ピペラジン-1,4-ビス(2-エタンスルホン酸)、モルホリン、4-メチルモルホリン、4-エチルモルホリン、4-(2-アミノエチル)モルホリン、4-(2-ヒドロキシエチル)モルホリン、2-モルホリノエタンスルホン酸、3-モルホリノプロパンスルホン酸が挙げられる。
【0018】
本発明において、酸化セリウムのナノ粒子は、CeとCeOの混合物で構成される。酸化セリウムは、実際には上記酸化物の形態に加え、水酸化物やオキシ水酸化物としての形態も含み得ることが知られている。CeとCeO2の比率は、セリウム(III)とセリウム(IV)の比としてX線光電子分光法(XPS)などにより算出することができる。
【0019】
本発明の酸化セリウムのナノ粒子またはそれを含む分散体は、下記の一般式(I)で示される脂環式アミンの溶液とセリウム(III)イオンを含む溶液またはセリウム(III)塩とを混合し、酸化剤を添加する製造方法により製造される。以下、本発明の酸化セリウムのナノ粒子またはそれを含む分散体の製造方法を説明する。
【化3】
式中、XはNR、O、Sを示し、RおよびRは水素原子、炭素数1~4のアルキル基、炭素数1~4のヒドロキシアルキル基、炭素数1~4のアミノアルキル基、炭素数1~4のスルホン酸アルキル基を示す。R及びRは同一であっても異なっていてもよい。
【0020】
第一の工程は、一般式(I)で示される脂環式アミンの溶液とセリウム(III)イオンを含む溶液またはセリウム(III)塩とを混合し、混合溶液を得る工程である。この工程で用いる脂環式アミンの溶液は、脂環式アミンを任意の溶媒に溶解して調製することができる。溶媒は、水または水と相溶性のある溶媒が好ましい。水と相溶性のある溶媒の具体例としては、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、tert-ブタノール、テトラヒドロフラン、アセトン、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、グリセロール、エチレングリコール、オリゴエチレングリコールなどが挙げられる。脂環式アミンが溶解しにくい場合、加温や超音波処理をして溶解してもよい。
【0021】
脂環式アミンの量は、セリウム(III)イオンに対して、0.1~100モル当量の範囲であればよい。
【0022】
脂環式アミンの溶液と、セリウム(III)イオンを含む溶液またはセリウム(III)塩との混合方法は、脂環式アミンの溶液と、セリウム(III)イオンを含む溶液をそれぞれ調製して混合してもよいし、脂環式アミンの溶液の溶媒が水または、水と相溶性のある溶媒である場合には、脂環式アミンの溶液にセリウム(III)塩を添加して混合してもよい。セリウム(III)イオンを含む溶液は、セリウム(III)塩を任意の溶媒に溶解して調製すればよい。セリウム(III)塩には、例えば硝酸セリウム(III)・六水和物を用いればよい。
【0023】
セリウム(III)塩の量は、反応液の終濃度が0.01質量%~10質量%の範囲となるように脂環式アミンの溶液と混合することができる。混合溶液は、溶液が均一になるまで5分以上混合することが好ましい。
【0024】
第一の工程において、脂環式アミンとセリウム(III)イオンを含む溶液は、3価以上のカルボン酸、例えば、下記に示す化合物を含まないことが好ましい。含まれている場合でも、その量はセリウム(III)イオンに対して、0.1当量以下であることが好ましく、0.01当量以下であることがより好ましい。3価以上のカルボン酸とは、具体的には、ニトリロ三酢酸(NTA)、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、エチレンジアミン二コハク酸(EDDS)、グリコールエーテルジアミン四酢酸(EGTA)、ジエチレントリアミノ五酢酸(DTPA)、クエン酸、ヒドロキシエチルエチレンジアミン四酢酸(HEDTA)、ポリアクリル酸および/またはそれらの塩が挙げられる。
【0025】
第二の工程は、第一の工程で得られた混合溶液に酸化剤を添加する工程である。第二の工程で用いる酸化剤は、硝酸、硝酸カリウム、次亜塩素酸、亜塩素酸、塩素酸、過塩素酸、ハロゲン、ハロゲン化水素、過マンガン酸塩、クロム酸、ニクロム酸、シュウ酸、硫化水素、二酸化硫黄、チオ硫酸ナトリウム、硫酸、過酸化水素などが挙げられる。これらの中でも特に過酸化水素が好ましい。添加量は、セリウム(III)イオンに対してモル当量として、0.1当量以上10当量以下であればよく、好ましくは0.5当量以上2当量以下である。
【0026】
脂環式アミンとセリウム(III)イオンの混合溶液に酸化剤を添加すると、セリウム(III)イオンがセリウム(IV)に酸化され、Ce3とCeOの混合物で構成される酸化セリウム粒子の形成反応が開始される。また、その反応の際には、溶液が黄色、橙色、赤色、褐色などに着色する。これは、セリウム(III)イオンが、セリウム(IV)に変化することによる呈色であり、着色度合いは、酸化セリウムのナノ粒子の表面に存在するセリウム(III)とセリウム(IV)の比で決定する。反応終了は色の変化がなくなった点で判断することができる。このとき、粒子形成反応はpHに依存し、弱酸性~塩基性で反応が進行する。反応が進行するにしたがってpHが酸性側に傾くので、酸化剤添加時から反応終了までの間、反応溶液をpH5以上に調整しておくことが好ましく、pH6以上に調整しておくことがより好ましく、pH7以上に調整しておくことが更に好ましい。pHを調整するにあたり、水酸化ナトリウム水溶液やアンモニア水溶液などを用いることができる。通常5分~1時間程度で反応は終了し、本発明の酸化セリウムのナノ粒子を含む分散体が得られる。例えば、200μlの10質量%の硝酸セリウム(III)六水和物水溶液を、24.6mg/10mlのピペラジン二塩酸塩一水和物溶液に対して添加し、その後、1.2質量%の過酸化水素水溶液を200μl添加して室温で攪拌すると、溶液が橙色に変化して10分程度で反応が終了する。
【0027】
本発明の分散体は、反応終了後の分散液をそのまま用いてもよいが、限外ろ過膜で濾過したり、半透膜で透析したりして、反応終了後の分散液中に残存している未反応の酸化剤およびセリウム(III)イオン並びに余分な脂環式アミンを除去して用いることができる。その後、本発明の分散体をエバポレーターや凍結乾燥機などを用いて乾燥し、酸化セリウムのナノ粒子を取り出すこともできる。
【0028】
本発明の分散体は、酸化セリウムのナノ粒子、および溶媒である水に加え、水と相溶性のある他の溶媒成分を含んでもよい。他の溶媒成分としては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、tert-ブタノール、テトラヒドロフラン、アセトン、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、グリセロール、エチレングリコール、オリゴエチレングリコールなどが挙げられる。これらの溶媒成分を90容量%以下となるように含むことができる。これらの溶媒成分は、反応終了後の分散液に加えてもよく、限外ろ過膜で濾過した後に加えてもよく、透析液として使用してもよく、透析後の分散液に添加してもよい。乾燥した酸化セリウムのナノ粒子に添加して分散液にしてもよい。
【0029】
本発明の分散体は、イオン成分を含んでもよい。イオン成分としては、緩衝性能を付与する成分として、酢酸、フタル酸、コハク酸、炭酸、Tris(hydroxymethyl)aminomethane(Tris)、2-Morpholinoethanesulfonic acid、 monohydrate(MES)、Bis(2-hydroxyethyl)iminotris(hydroxymethyl)methane(Bis-Tris)、N-(2-Acetamido)iminodiacetic acid(ADA)、Piperazine-1,4-bis(2-ethanesulfonic acid)(PIPES)、N-(2-Acetamido)-2-aminoethanesulfonic acid(ACES)、2-Hydroxy-3-morpholinopropanesulfonic acid(MOPSO)、N,N-Bis(2-hydroxyethyl)-2-aminoethanesulfonic acid(BES)、3-Morpholinopropanesulfonic acid(MOPS)、N-Tris(hydroxymethyl)methyl-2-aminoethanesulfonic acid(TES)、2-[4-(2-Hydroxyethyl)-1-piperazinyl]ethanesulfonic acid(HEPES)、2-Hydroxy-N-tris(hydroxymethyl)methyl-3-aminopropanesulfonic(TAPSO)、Piperazine-1,4-bis(2-hydroxy-3-propanesulfonic acid)(POPSO)、2-Hydroxy-3-[4-(2-hydroxyethyl)-1-piperazinyl]propanesulfonic acid(HEPSO)、3-[4-(2-Hydroxyethyl)-1-piperazinyl]propanesulfonic acid(HEPPS)、(Tricine)、N,N-Bis(2-hydroxyethyl)glycine(Bicine)、N-Tris(hydroxymethyl)methyl-3-aminopropanesulfonic acid(TAPS)が挙げられ、緩衝性能を付与しない成分として塩化ナトリウム、塩化カリウムが挙げられる。これらのイオン成分は終濃度で0.1mM~1Mの範囲となるように添加することができる。これらのイオン成分は、反応終了後の分散液に加えてもよく、限外ろ過膜で濾過した後に加えてもよく、透析液として使用してもよく、透析後の分散液に添加してもよい。乾燥した酸化セリウムのナノ粒子に添加して分散体にしてもよい。
【0030】
本発明の分散体は、精製した後にpHを調整してもよい。本発明の分散体のpHは、pH2~12の範囲であればよく、好ましくはpH4~10、さらに好ましくはpH5~8である。pHは緩衝液を加えて調整してもよく、硝酸、硫酸、塩酸などの酸、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどの塩基を加えて調整してもよい。
【0031】
本発明の分散体は、上記反応終了後の反応液をそのまま保存してもよいし、反応終了後の分散液を限外ろ過膜で濾過した精製物や半透膜で透析した精製物として保存してもよい。また、上記溶媒成分やイオン成分を含んだ分散液として保存してもよいし、pHを調整してから保存してもよい。分散液として保存する場合は冷蔵保存が好ましい。
【0032】
本発明の酸化セリウムのナノ粒子は、上記のようにして製造された分散体から取り出して、乾燥させることにより、乾燥物として得ることができる。例えば、反応終了後の溶液を限外ろ過膜で濾過したり、半透明膜で透析したりして、反応終了後の溶液中に残存している未反応の酸化剤およびセリウム(III)イオン並びに余分な脂環式アミンを除去した後、エバポレーターや凍結乾燥機などを用いて乾燥させることにより、酸化セリウムのナノ粒子を得ることができる。具体的には、メルク社のアミコンウルトラ、GEヘルスケア社のビバスピンなどの限外ろ過膜や、スペクトラム社のスペクトラ/ポアなどの半透明膜を用いることができる。取り出した分散体の乾燥条件としては、状態図において溶媒が気体となる温度と気圧条件にすればよい。例えば、ナノ粒子が水分散である場合、40℃、50hPa以下となるようにエバポレーターを設定し、水を除去すればよい。エバポレーターとしては、例えば東京理化器械株式会社のN-1200Aを用いることができる。また、-40℃、20Paとなるように凍結乾燥機を設定し、水を除去すればよい。凍結乾燥機としては、例えば、東京理化器械株式会社のFDU-1200を用いることができる。また、100℃以上となるようにオイルバスで加熱したり、80℃以上になるように恒温乾燥機で加熱したりすることによっても乾燥させることができる。
【0033】
本発明の分散体中の酸化セリウムのナノ粒子の示す流体力学直径は、動的光散乱を測定して自己相関関数を導き、マルカート法(Marquadt法)によって解析し、個数変換ヒストグラムから平均粒子径として算出する。動的光散乱の測定には、大塚電子株式会社のELS-Zを用いる。分散液中の酸化セリウムのナノ粒子の示す流体力学直径は、1以上1000nm以下であればよく、1以上200nm以下であることが好ましい。
【0034】
本発明の分散体中の酸化セリウムのナノ粒子の示す流体力学直径は、脂環式アミンのセリウム(III)イオンに対するモル当量によって調整することができる。モル当量が低ければ大きい粒径の粒子が得られ、モル当量が高ければ小さな粒径の粒子が得られる。
【0035】
CeとCeOにおけるセリウム(III)とセリウム(IV)のエネルギー状態は、X線吸収微細構造スペクトル測定(X-ray Absorption Fine Structure;XAFS)により観察することができる。XAFSスペクトル中、吸収端より約20eVの構造がXANES(X-ray Absorption Near Edge Structure)、吸収端より約100eV以上高エネルギー側に現れる広域X線吸収微細構造がEXAFS(Extended X-ray Absorption Fine Structure)と呼ばれる。XANESから着目原子の価数や構造に関する情報が得られ、EXAFS解析では、実スペクトルのフーリエ変換(FT-EXAFS/動径分布関数に相当)により、試料の局所構造、着目原子周囲の原子種、価数、距離に関する情報が得られる。酸化セリウムの酸化還元反応に関するセリウム(III)とセリウム(IV)のエネルギー状態は、XANESスペクトルの極大吸収のピーク位置やピーク強度比に反映される。
本発明の酸化セリウムのナノ粒子は、X線吸収微細構造スペクトル測定によって得られるCe L3端XANESスペクトルにおいて、5726.0~5729.0eVおよび5735.0~5739.0eVの間に極大吸収を有する。
【0036】
本発明の分散体は使用前に滅菌してもよい。滅菌の方法としては滅菌フィルターを通過させる方法が挙げられる。
【0037】
本発明の酸化セリウムのナノ粒子または当該ナノ粒子を含む分散体は、酸化剤として用いることができる。例えば、酸化作用を利用して、有機合成反応や高分子重合における均一触媒や半導体のウェットエッチング液に用いることができる。また、酸化作用を利用して、酸化酵素溶液に代わる溶液として用いることができる。具体的には、オキシダーゼやペルオキシダーゼ溶液の代わりとして抗体-抗原反応や核酸のハイブリダイゼーションを使った検出反応や組織染色に用いたり、電極へコーティングして酸化セリウムのナノ粒子を固定化することで電気化学的な検出反応に用いることができる。他には、酸化作用を利用して漂白剤・消毒剤として汚れ、ニオイ、アレルゲン、ウイルス、細菌、真菌、カビの分解・除去に用いることができる。具体的には、漂白剤として衣類、食器、台所、トイレ、洗面所、風呂場、医療器具などの洗浄に使用することができる。また、消毒剤としてプール、浴槽、温泉に添加したり、ボディーソープ、手洗い洗剤、消毒薬、うがい薬、洗口液などとして用いることができる。このような酸化剤としての性能は、後述する有機色素の退色反応などで評価することができる。
【0038】
他には、本発明の酸化セリウムのナノ粒子または当該ナノ粒子を含む分散体は、酸化性能を付与するための添加剤として、繊維、チューブ、ビーズ、ゴム、フイルム、プラスチック等の成型時に添加したり、これらの表面に塗布することで防臭、抗アレル、抗ウイルス、抗菌、抗カビ加工に用いることができる。本発明のナノ粒子または分散体で加工したものには、例えば、台所流し台用の排水口菊割れカバー、排水口栓、窓ガラス固定用パッキン、鏡固定用のパッキン、風呂場、洗面台や台所の防水パッキン、冷蔵庫のドア内張りパッキン、バスマット、洗面器やいすのすべり止めゴム、ホース、シャワーヘッド、浄水器に使用されるパッキン、浄水器のプラスチック製品、洗濯機に使用されるパッキン、洗濯機のプラスチック製品、マスク、医療用キャップ、医療用シューズカバー、エアコン用フィルター、空気清浄機用フィルター、掃除機用フィルター、換気扇用フィルター、車両用フィルター、空調用フィルター、エアコンのフィン、エアコン吹き出し口のルーバー等のプラスチック部品ならびに送風ファン等、カーエアコンのフィン、カーエアコン吹き出し口のルーバー等のプラスチック部品ならびに送風ファン、衣類、寝具、網戸用ネット、鶏舎用ネット、蚊屋などのネット類、壁紙や窓、ブラインド、病院内などのビル用内装材、電車や自動車などの内装材、車両用シート、ブラインド、椅子、ソファー、ウイルスを扱う設備、ドア、天井板、床板、窓などの建装材などが挙げられる。このように、本発明のナノ粒子または分散体で加工した製品は衛生材料として様々な分野に利用することができる。
【0039】
有機色素の退色反応は、酸化チタンにおける光触媒性能の評価にも使用され、得られた色素の分解率は、有機物を酸化分解する特性の指標として用いられる。具体的には、色素の分解率は以下のように算出する。まず本発明の分散体と、アシッドオレンジ7(AO7)などの有機色素を混合、所定の時間静置する。コントロールとして、酸化セリウムのナノ粒子を含まないAO7の溶液に対しても同様の処理を行う。反応後、全ての溶液の吸収スペクトルを測定する。解析にはAO7の極大吸収波長である485nmの吸光度を用いる。コントロールの吸光度と本発明の分散体含んだ溶液の吸光度の差を取り、コントロールの吸光度に対する割合を分解率として算出する。
【0040】
また、本発明の酸化剤の好適な一態様は、下記の一般式(I)で示される脂環式アミンの溶液と酸化セリウムのナノ粒子を含み、40℃、1時間でのアシッドオレンジの分解反応における分解率が30%以上である酸化セリウムのナノ粒子を含む分散液である。
【化4】
式(I)中、XはNR、O、Sを示し、RおよびRは水素原子、炭素数1~4のアルキル基、炭素数1~4のヒドロキシアルキル基、炭素数1~4のアミノアルキル基、炭素数1~4のスルホン酸アルキル基を示す。R及びRは同一であっても異なっていてもよい。40℃、1時間でのアシッドオレンジの分解反応における分解率が30%以上であることにより、酸化剤として使用することができる。40℃、1時間でのアシッドオレンジの分解反応における分解率は、好ましくは50%以上であり、70%以上が特に好ましい。
【0041】
本発明の酸化セリウムのナノ粒子または当該ナノ粒子を含む分散体は抗酸化剤として用いることができる。本発明において抗酸化剤とは、還元性をもち、脂質の過酸化を抑えたり、活性酸素(スーパーオキシドイオン、ヒドロキシラジカル、過酸化水素など)と反応してその作用を抑制する物質を指す(標準化学用語辞典第2版、丸善出版)。例えば、このような抗酸化作用を利用して、有機化学反応における還元剤や、高分子重合におけるラジカル停止剤として用いることができる。また、抗酸化作用を利用して、細胞培養液へ添加したり、シャーレ等の培養容器に塗布することで、酸化ストレスから細胞を保護することに用いることができる。さらに、化粧品として皮膚に塗布することで、過酸化脂質や活性酸素から皮膚を保護することに用いることができる。他には、抗酸化作用を利用して、抗酸化酵素溶液に代わる物質として用いることができる。具体的には、カタラーゼ溶液の代わりとして、電極へコーティングして酸化セリウムのナノ粒子を固定化することで、過酸化水素の検出反応や電気化学的な検出反応に用いることができる。また、食品、半導体、繊維、紙パルプ製造や、公衆浴場の殺菌、配管内のスライム除去などで産業利用された過酸化水素に対する中和液として用いることができる。このような性能は後述するカタラーゼ活性などで評価することができる。他には、本発明の分散体は酸化防止剤として、ゴムやプラスチックの成型時に添加したり、燃料、洗剤、食品、動物飼料に添加することができる。このような抗酸化剤としての性能は後述する活性種のスカベンジ反応などで評価することができる。
【0042】
さらに、本発明の酸化セリウムのナノ粒子または当該ナノ粒子を含む分散体は、抗酸化剤として酸化ストレスや炎症に関する人または動物用の医薬品として用いることができる。具体的には、本発明の分散体を注入、点滴または移植等の局所的、経腸的または非経口的な方法により被検体に投与されることで、脳卒中、多発性硬化症、筋萎縮性側索硬化症、虚血再灌流傷害などの酸化ストレス関連疾患を予防および治療に用いることができる。また、本発明の分散体を抗酸化剤としてカニューレ、カテーテルまたはステントのような医療器具や透析膜に代表される人工器官の表面にコーティングすることで、局所的にまたは全身的に炎症を減少させることもできる。
【0043】
カタラーゼ活性は、特表2018-508568号公報に示されるようにサーモフィッシャーサイエンティフィック社のAmplexRed Catalase Assay Kit(A22180)を用い、プロトコルにしたがって値を求めることができる。キットに含まれるReaction Bufferと本発明の分散体、過酸化水素水溶液を混合し、30分間静置して過酸化水素の分解反応を行う。反応液を30kDの限外ろ過膜へ通過させ、フロースルー溶液をキットに含まれるWorking Solutionと混合し、37℃で30分間反応させる。反応によって生成したResorufinを544nmで励起し、590nmの蛍光強度を測定する。キットに含まれる活性値既知のカタラーゼの標品で作成した検量線と比較して、本発明の分散体のカタラーゼ活性を算出する。カタラーゼ活性の測定には、他にはBioAssay System社のEnzyChrom Catalase Assay Kitなどを用いることもできる。
【0044】
本発明の分散剤の好適な一態様は、下記の一般式(I)で示される脂環式アミンの溶液と酸化セリウムのナノ粒子を含み、酸化セリウムのナノ粒子の濃度が4μg/mlでのサーモフィッシャーサイエンティフィック社のAmplexRed Catalase Assay Kit(A22180)を使用した、過酸化水素水の分解反応におけるカタラーゼ活性が0.5U/ml以上である酸化セリウムのナノ粒子を含む分散液である。
【化5】
式(I)中、XはNR、O、Sを示し、RおよびRは水素原子、炭素数1~4のアルキル基、炭素数1~4のヒドロキシアルキル基、炭素数1~4のアミノアルキル基、炭素数1~4のスルホン酸アルキル基を示す。R及びRは同一であっても異なっていてもよい。AmplexRed Catalase Assay Kit(A22180)を使用した、過酸化水素水の分解反応におけるカタラーゼ活性が0.5U/ml以上であることにより、抗酸化剤として使用することが可能となる。カタラーゼ活性は、好ましくは0.7U/ml以上であり、0.8U/ml以上が特に好ましい。
【0045】
活性種のスカベンジ反応は、Y. Xue,J.Phys.Chem.C 2011, 115,4433-4438.に示されるような方法で色素保持率として測定することができる。具体的には、塩化鉄(II)水溶液と過酸化水素水溶液を混合してフェントン反応によりヒドロキシラジカルを発生させる。そこへ本発明の分散体を加えてラジカル消去反応を行う。この混合液とメチレンブルーなどの有機色素を混合、所定の時間静置する。コントロールとして、本発明の分散体を含まない溶液に対しても同様の処理を行う。さらに、反応液と同濃度のメチレンブルー溶液を基準液として調製し、上記の溶液の吸収スペクトルを測定する。解析にはメチレンブルーの極大吸収波長である664nmの吸光度を用いる。基準液の吸光度(I)とコントロールの吸光度(I)の差(△I)と、本発明の分散体を含んだ溶液の吸光度(I)とコントロールの吸光度(I)の差(△I)を算出する。前者(△I)に対しての後者(△I)の割合を分解率として算出し、色素保持率とする。この値はラジカル消去性能を示す値となる。色素保持率はメチレンブルーの代わりに、メチルバイオレッドを使って求めることもできる。
【実施例
【0046】
本発明を以下の実施例によってさらに具体的に説明する。
<材料と方法>
ピペラジン二塩酸塩一水和物、1-(2-ヒドロキシエチル)ピペラジン、N-(2-アミノエチル)ピペラジン、1,4-ビス(2-アミノエチル)ピペラジン、2-[4-(2-ヒドロキシエチル)-1-ピペラジニル]エタンスルホン酸、モルホリン、2-モルホリノエタンスルホン酸、アシッドオレンジ7は東京化成株式会社より、硝酸セリウム(III)六水和物、30質量%過酸化水素水は富士フイルム和光純薬株式会社より入手した。比較例で用いた市販の酸化セリウム分散液(796077)は、メルクより入手した。AmplexRed Catalase Assay Kit(A22180)はサーモフィッシャーサイエンティフィック社より入手した。
その他の試薬については、富士フイルム和光純薬株式会社、東京化成株式会社、シグマーアルドリッチジャパン合同会社から購入し、特に精製することなくそのまま用いた。
本発明の酸化セリウムのナノ粒子を含む分散液の流体力学直径の測定には、大塚電子株式会社のゼータ電位・粒子測定システムELS-Zを用いた。
サーモブロックは日伸理化のND-SO1を用いた。
【0047】
(比較例1)ポリアクリル酸を安定化剤とする酸化セリウムのナノ粒子を含む分散液
非特許文献1を参考に、酸化活性の比較のため、本発明とは異なる安定化剤を用いて調製した酸化セリウムのナノ粒子を含む分散液を作製した。
1質量%のポリアクリル酸ナトリウム水溶液10mlに対し、10質量%の硝酸セリウム(III)六水和物水溶液を200μl添加し、室温で5分間攪拌した。その後、1.2質量%の過酸化水素水溶液を200μl添加し、40℃に加温して1時間反応させた。反応溶液を30kDの限外ろ過膜で精製し、酸化セリウムのナノ粒子を含む黄色分散液を得た。
【0048】
(比較例2)ピペリジンを安定化剤とする酸化セリウムのナノ粒子の分散液の調製
一般式(I)に該当しない脂環式アミンとしてピペリジンを用いた。6.6mg/10mlのピペリジン水溶液10mlに対し、10質量%の硝酸セリウム(III)六水和物水溶液を200μl添加し、pHを7に調整して室温で5分間攪拌した。その後、1.2質量%の過酸化水素水溶液を200μl添加し、室温で1時間反応させた。反応溶液の着色は確認できず、粒子分散液は得られなかった。
【0049】
(比較例3)ピペラジンを後添加する酸化セリウムのナノ粒子の分散液の調製
安定化剤であるピペラジンとセリウム(III)塩との共存下に酸化剤を添加することによって調製された実施例1の酸化セリウムのナノ粒子を含む分散液と、その製造方法の違いによる酸化性能を比較するため、ピペラジンを酸化セリウムナノ粒子(IV)へ後添加して吸着させる製造方法で分散液を調製した。
市販の酸化セリウムのナノ粒子の分散液(メルク、796077)を0.2mg/mlに希釈し、希釈液10mlに対して24.6mgのピペラジンを添加し、1時間室温で攪拌した。その後、溶液を30kDの限外ろ過膜で精製し、酸化セリウムのナノ粒子を含む褐色水溶液を得た。
【0050】
(比較例4)クエン酸とエチレンジアミン二コハク酸(EDDS)を安定化剤とする酸化セリウムのナノ粒子を含む分散液の調製
特許文献1(特表2018-508568号公報)を参考に、本発明とは異なる安定化剤を用いて調製された酸化セリウムのナノ粒子を含む分散液と抗酸化性能を比較するために、安定化剤としてクエン酸/EDDSを用いて酸化セリウムのナノ粒子を含む分散液を調製した。
硝酸セリウム0.8g、0.24gのクエン酸一水和物、0.41gのEDDSを水へ溶解し、30%アンモニア水でpH9.5に調整した。そこへ、640μlの30%過酸化水素を滴下しながら加え、1時間撹拌して褐色の水溶液を得た。その後、溶液を3kDの限外ろ過膜で精製し、酸化セリウムのナノ粒子を含む褐色分散液を得た。
【0051】
(比較例5)1-(2-ヒドロキシエチル)ピペラジンを後添加する酸化セリウムのナノ粒子の分散液の調製
実施例2の酸化セリウムのナノ粒子を含む分散液と、製造方法の違いによる酸化性能を比較するため、1-(2-ヒドロキシエチル)ピペラジンを酸化セリウムナノ粒子(IV)へ後添加して吸着させる製造方法でナノ粒子の分散液を調製した。
ピペラジンの代わりに20.0mgの1-(2-ヒドロキシエチル)ピペラジンを用いたこと以外は比較例3と同様の操作および条件で、酸化セリウムのナノ粒子を含む褐色水溶液を得た。
【0052】
(実施例1)ピペラジンを安定化剤とする酸化セリウムのナノ粒子の分散液の調製
比較例2において、安定化剤を24.6mg/10mlのピペラジン二塩酸塩一水和物水溶液とした以外は比較例2と同様の条件で反応を行い、酸化セリウムのナノ粒子を含む橙色水溶液を得た。
【0053】
(実施例2)1-(2-ヒドロキシエチル)ピペラジンを安定化剤とする酸化セリウムのナノ粒子の分散液の調製
比較例2において、安定化剤を20mg/10mlの1-(2-ヒドロキシエチル)ピペラジン水溶液とした以外は比較例2と同様の条件で反応を行い、酸化セリウムのナノ粒子を含む橙色水溶液を得た。
【0054】
(実施例3)N-(2-アミノエチル)ピペラジンを安定化剤とする酸化セリウムのナノ粒子の分散液
比較例2において、安定化剤を20mg/10mlのN-(2-アミノエチル)ピペラジン水溶液とした以外は比較例2と同様の条件で反応を行い、酸化セリウムのナノ粒子を含む黄色水溶液を得た。
【0055】
(実施例4)1,4-ビス(2-アミノエチル)ピペラジンを安定化剤とする酸化セリウムのナノ粒子の分散液
比較例2において、安定化剤を31mg/10mlの1,4-ビス(2-アミノエチル)ピペラジン水溶液とした以外は比較例2と同様の条件で反応を行い、酸化セリウムのナノ粒子を含む橙色水溶液を得た。
【0056】
(実施例5)2-[4-(2-ヒドロキシエチル)-1-ピペラジニル]エタンスルホン酸を安定化剤とする酸化セリウムのナノ粒子の分散液
比較例2において、安定化剤を36.8mg/10mlの2-[4-(2-ヒドロキシエチル)-1-ピペラジニル]エタンスルホン酸水溶液とした以外は比較例2と同様の条件で反応を行い、酸化セリウムのナノ粒子を含む橙色水溶液を得た。
【0057】
(実施例6)モルホリンを安定化剤とする酸化セリウムのナノ粒子の分散液
比較例2において、安定化剤を13.5mg/10mlのモルホリン水溶液とした以外は比較例2と同様の条件で反応を行い、酸化セリウムのナノ粒子を含む黄色水溶液を得た。
【0058】
(実施例7)2-モルホリノエタンスルホン酸を安定化剤とする酸化セリウムのナノ粒子の分散液
比較例2において、安定化剤を33mg/10mlの2-モルホリノエタンスルホン酸水溶液とした以外は比較例2と同様の条件で反応を行い、酸化セリウムのナノ粒子を含む橙色水溶液を得た。
【0059】
(実施例8)酸化セリウムのナノ粒子を含む分散液の流体力学直径の測定
実施例1~7で調製した酸化セリウムのナノ粒子を含む分散液中のナノ粒子の流体力学直径を動的光散乱(DLS)によって測定した。測定時の溶媒は水とし、個数換算により流体力学直径の平均粒子径を得た。得られた値を表1に示す。
【表1】
【0060】
(実施例9)色素の分解試験による酸化性能の測定
2mg/mlになるように調製した実施例1~7で調製した本発明の分散液各30μlに、有機物を含む試料として0.5mg/mlのアシッドオレンジ7(AO7)60μl、および蒸留水1.41mlをそれぞれ加え、ヒートブロックを使って40℃で1時間静置し、色素の分解反応を行った。コントロールとして、酸化セリウムのナノ粒子を含まないAO7の溶液に対しても同様の処理を行った。反応後、それぞれの溶液を100μl取って1.9mlの蒸留水で希釈し、吸収スペクトルを測定した。コントロールのサンプルは加熱前後で吸収スペクトルに変化は見られなかった。
解析にはAO7の極大吸収波長である485nmの吸光度を用いた。各分散液の吸光度とコントロールの吸光度との吸光度の差を取り、コントロールの吸光度に対する当該各吸光度差の割合を分解率(%)として算出した。結果を表2に示した。
本結果から、本発明の酸化セリウムのナノ粒子を含む分散液は、高い分解率で色素を分解できる酸化性能を有することが確認できた。
一方、比較例1で本発明とは異なる安定化剤を用いて調製した分散液、比較例3でピペラジンを後添加して調製した分散液、および比較例5で1-(2-ヒドロキシエチル)ピペラジンを後添加して調製した分散液について、同様にして酸化性能の測定を行ったが、色素の分解はほとんど確認できなかった。
【0061】
【表2】
【0062】
(実施例10)カタラーゼ活性測定による抗酸化性能の測定
カタラーゼ活性は、サーモフィッシャーサイエンティフィック社のAmplexRed Catalase Assay Kit(A22180)を用い、プロトコルにしたがって測定した。簡潔には、Reaction Buffer 50μl、16μg/mlの実施例1~7で調製した本発明の分散液25μl、40μMの過酸化水素水溶液25μlを混合し、30分間静置して過酸化水素の分解反応を行った。反応液を30kDの限外ろ過膜へ通過させ、フロースルー溶液100μlをWorking Solution50μlと混合し、37℃で30分間反応させた。反応によって生成したResorufinを544nmで励起し、590nmの蛍光強度を測定した。活性値既知のカタラーゼの標品で作成した検量線により、本発明の分散液のカタラーゼ活性を算出した。結果を表3に示した。
本結果から、本発明の酸化セリウムのナノ粒子を含む分散液には高いカタラーゼ活性があることが確認できた。
一方、比較例4で調製したナノ粒子の分散液について、同様にして抗酸化性能の測定を行ったが、本発明の分散液と比較してカタラーゼ活性は低い値となった。
【0063】
【表3】
【0064】
(実施例11)2,2-Diphenyl-1-picrylhydrazyl(DPPH)を用いたラジカル消去試験による抗酸化性能の測定
0.3mMのDPPHエタノール溶液100μlと、0.5mg/mlになるように調製した実施例1、2で調製した分散液100μlを混合し、室温で30分間静置した。コントロールとして、酸化セリウムのナノ粒子を含まない溶液に対しても同様の処理を行った。また、0.3mMのDPPHエタノール溶液100μlと蒸留水100μlを混合した基準液を調製した。上記の溶液の吸収スペクトルを測定した。
解析にはDPPHの極大吸収波長である517nmの吸光度を用いた。基準液の吸光度とコントロールの吸光度の差と、各分散液の吸光度とコントロールの吸光度の差を算出した。前者吸光度差に対する後者吸光度差の割合をDPPH保持率(%)として算出し、100からDPPH保持率を引いた値をDPPH消去率(%)とした。結果を表4に示した。
本結果から、本発明の酸化セリウムのナノ粒子を含む分散液は、高いラジカル消去性能を有することが確認できた。
一方、比較例4で調製したナノ粒子の分散液について、同様にしてラジカル消去性能の測定を行ったが、DPPH消去率は、実施例1および2の分散剤と比較して低い値となった。
【0065】
【表4】
【0066】
(実施例12)XAFS観察
実施例1、2で調製した本発明の酸化セリウムのナノ粒子の分散液(8mg/ml)に、それぞれX線を照射し、その吸収量を計測することにより、X線吸収微細構造(X-ray Absorption Fine Structure)スペクトルを測定した。測定条件は、実験施設が高エネルギー加速器研究機構 放射光科学研究施設(Photon Factory)BL12C、分光器がSi(111)2結晶分光器、吸収端がCe L3吸収端、検出法が透過法、検出器がイオンチャンバーとした。
CeL3端XANESスペクトルをそれぞれ図1、2に示した。縦軸は、スペクトルの5724.4eVを吸収端(E0)とし、E0から-150~-30eVの範囲の吸収の平均値を0、E0から+150~+400eVの範囲の吸収の平均値を1として比を取ることで設定した。
実施例1で調製した酸化セリウムのナノ粒子は、5727.990eVと5736.407eVに、実施例2で調製した酸化セリウムのナノ粒子は、5727.990eVと5736.570eVに、それぞれ極大吸収を有していた。この結果から、本発明の酸化セリウムのナノ粒子は、5726.0~5729.0eVおよび5735.0~5739.0eVに極大吸収を有することが明らかとなった。
一方、比較例3、5において安定化剤を後添加して調製した酸化セリウムのナノ粒子の溶液についても、同様の操作および条件でXAFS観察を行い、得られたCeL3端XANESスペクトルをそれぞれ図1、2に示した。
比較例3の酸化セリウムのナノ粒子は、5729.285eVと5736.246eVに、比較例5の酸化セリウムのナノ粒子は、5729.426eVと5736.407eVに、それぞれ極大吸収を有していた。これらの酸化セリウムのナノ粒子は、5735.0~5739.0eVの間には極大吸収を有するものの、5726.0~5729.0eVの間には極大吸収を有さず、本発明の酸化セリウムのナノ粒子とは異なるスペクトルを示すことが分かった。
【0067】
(参考例1)XAFS観察
ナノ粒子ではないセリウム化合物として、酸化セリウムの結晶、炭酸セリウム(III)、硝酸セリウム(III)、硝酸アンモニウムセリウム(IV)を用いて、上記の実施例12と同様の操作および条件でXAFS観察を行った。得られたCeL3端XANESスペクトルを図3に示した。
酸化セリウムの結晶は5729.751eV、5736.582eVに、炭酸セリウム(III)は5725.161eVに、硝酸セリウム(III)は5725.316eVに、硝酸アンモニウムセリウム(IV)は5725.796eV、5736.105eVに、それぞれ極大吸収を有した。いずれのセリウム化合物では、本発明の酸化セリウムのナノ粒子とは異なり、5726.0~5729.0eV及び5735.0~5739.0eVの間に極大吸収がないことが分かった。
図1
図2
図3