(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-06-10
(45)【発行日】2025-06-18
(54)【発明の名称】ラインカメラおよび放射線検査装置ならびにそれを用いたインライン検査方法および検査方法
(51)【国際特許分類】
G21K 4/00 20060101AFI20250611BHJP
G01T 1/20 20060101ALI20250611BHJP
【FI】
G21K4/00 A
G01T1/20 B
G01T1/20 E
G01T1/20 G
(21)【出願番号】P 2021542359
(86)(22)【出願日】2021-07-20
(86)【国際出願番号】 JP2021027073
(87)【国際公開番号】W WO2022024860
(87)【国際公開日】2022-02-03
【審査請求日】2024-04-03
(31)【優先権主張番号】P 2020129974
(32)【優先日】2020-07-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2020129975
(32)【優先日】2020-07-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】宮尾 将
(72)【発明者】
【氏名】村井 尚宏
(72)【発明者】
【氏名】小林 康宏
(72)【発明者】
【氏名】藤岡 伸康
【審査官】鷲崎 亮
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-194580(JP,A)
【文献】国際公開第2020/153049(WO,A1)
【文献】特開2008-051626(JP,A)
【文献】特開2014-167404(JP,A)
【文献】特開2018-010002(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G21K 4/00
G01T 1/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
光電変換層を有する出力基板の上に、シンチレータパネルを備えたラインカメラであって、該シンチレータパネルが、基材、および蛍光体を含有するシンチレータ層を有するシンチレータパネルであって、前記シンチレータ層が、7以上の原子から構成されるπ共役系構造を有するバインダー樹脂を含み、
前記バインダー樹脂が、下記一般式(1)または(2)で表される構造を主鎖に有し、
【化1】
(上記一般式(1)および(2)中、X
1
、X
2
、Y
1
およびY
2
は、それぞれ独立に、二価の有機基を表す。Arは芳香族炭化水素基を表す。tは、1または2の整数を表す。)
かつ前記バインダー樹脂のガラス転移点が30~430℃であり、かつ、前記シンチレータ層の膜厚が50~800μmである、ラインカメラ。
【請求項2】
前記バインダー樹脂が、30以下の原子から構成されるπ共役系構造を有する、請求項1に記載のラインカメラ。
【請求項3】
前記バインダー樹脂を2.5重量%含む溶液の光路長1cm、波長400nmにおける透過率が85%以上である請求項1
または2に記載のラインカメラ。
【請求項4】
前記バインダー樹脂の最高占有分子軌道と最低非占有分子軌道とのエネルギー準位差Egが2.0eV以上4.2eV以下である、請求項1~
3のいずれかに記載のラインカメラ。
【請求項5】
前記バインダー樹脂の重量平均分子量が5,000~100,000の範囲である請求項1~
4のいずれかに記載のラインカメラ。
【請求項6】
前記シンチレータ層中における前記蛍光体と前記バインダー樹脂の体積比率が、蛍光体:バインダー樹脂=80:20~95:5である請求項1~
5のいずれかに記載のラインカメラ。
【請求項7】
前記蛍光体が、酸硫化ガドリニウムを含有する、請求項1~
6のいずれかに記載のラインカメラ。
【請求項8】
前記蛍光体が、初期発光強度に対して1/e倍の発光強度となる時間が100μ秒以下である請求項1~
7のいずれかに記載のラインカメラ。
【請求項9】
前記シンチレータ層を区画する隔壁を有する請求項1~
8のいずれかに記載のラインカメラ。
【請求項10】
請求項1~
9のいずれかに記載のラインカメラを備えた放射線検査装置。
【請求項11】
産業用途に用いられる請求項
10記載の放射線検査装置。
【請求項12】
請求項
10または
11に記載の放射線検査装置を用いたインライン検査方法。
【請求項13】
請求項
10または
11に記載の放射線検査装置を用いたオフライン検査方法であって、放射線照射時の管電圧が70kV以上である検査方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シンチレータパネル、それを用いた放射線検出器、ラインカメラおよび放射線検査装置ならびにそれを用いたインライン検査方法および検査方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、X線画像による検査が必要な分野においては、フィルムを用いた検出方法が広く用いられてきた。しかし、フィルムを用いたX線画像はアナログ画像情報であるため、近年、フラットパネル型の放射線ディテクタ(flat panel detector:FPD)等のデジタル方式の放射線検出装置が開発されている。
【0003】
間接変換方式のFPDにおいては、X線を可視光に変換するために、シンチレータパネルが使用される。シンチレータパネルは、酸硫化ガドリニウム(GOS)等の蛍光体を含むシンチレータ層を有し、X線の照射により該蛍光体が光を発光する。シンチレータパネルから発光された光を薄膜トランジスタ(TFT)や電荷結合素子(CCD)を有するセンサ(光電変換層)を用いて電気信号に変換することにより、X線の情報をデジタル画像情報に変換する。
【0004】
放射線としてX線を利用する放射線検出装置であるX線検出器には、輝度が高いことが望まれる。また、耐久性の観点から、シンチレータパネルと支持体との密着性に優れることが望まれる。そのため、シンチレータ層に含まれる蛍光体粒子やバインダー樹脂に工夫を施すことが検討されている(例えば、特許文献1~3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2019-194580号公報
【文献】特開2019-23579号公報
【文献】特開2016-38324号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
産業用途において、食品や電子部品等のインライン検査では、1製品あたりに要する検査時間(タクトタイム)を早くすることが求められる。また、タクトタイムを早くするための方法として、X線を連続照射しながら検査を行う方法がとられている。しかしながら、特許文献1~3に記載の技術では、X線を連続照射することで、検出器の使用期間中に輝度が低下するという問題があった。
【0007】
そして、本発明者らの検討の結果、上記の問題は、シンチレータ層内のバインダー樹脂が、高線量の放射線照射条件で使用されることにより劣化(例えば、着色等)するためであることが見いだされた。
【0008】
本発明は、上記課題に鑑み、放射線照射による輝度劣化を抑制した、高輝度なシンチレータパネルを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
すなわち本発明は、基材、および、蛍光体を含有するシンチレータ層を有するシンチレータパネルであって、前記シンチレータ層が、7以上の原子から構成されるπ共役系構造を有するバインダー樹脂を含み、かつ、前記バインダー樹脂のガラス転移点が30~430℃であり、かつ、前記シンチレータ層の膜厚が50~800μmである、シンチレータパネルである。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、高輝度で、放射線耐性に優れたシンチレータパネルを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明のシンチレータパネルを含むX線検出器の一態様を模式的に表した断面図である。
【
図2】隔壁で区画されたシンチレータ層を有するシンチレータパネルを含むX線検出器の一態様を模式的に表した断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態に係るシンチレータパネルおよびそれを用いた放射線検出器の好ましい構成を、適宜図面を参照して説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。
【0013】
本発明のシンチレータパネルは、少なくとも基材とシンチレータ層とを有する。シンチレータ層は、入射されたX線等の放射線のエネルギーを吸収して、例えば波長300nm~800nmの範囲の電磁波、すなわち、可視光を中心に紫外光から赤外光にわたる範囲の光を発光する。
【0014】
シンチレータ層は、少なくとも、蛍光体および7以上の原子から構成されるπ共役系構造を有するバインダー樹脂を含有する。蛍光体は、X線等の放射線のエネルギーを吸収し、光を発光する作用を有する。バインダー樹脂は、複数の蛍光体粒子を繋ぎ止め、シンチレータ層における蛍光体粒子の相対的な位置を固定する作用を有する。
【0015】
図1に、本発明の実施の形態に係るシンチレータパネルを含むX線検出器の一態様を模式的に表す。X線検出器1は、シンチレータパネル2、出力基板3および電源部12を有する。
【0016】
シンチレータパネル2は、基材5とシンチレータ層4とを有している。シンチレータ層4は、蛍光体6とバインダー樹脂7を含有する。
【0017】
出力基板3は、基板11上に、光電変換層9および出力層10を有する。光電変換層9は、図示しないフォトセンサを有する画素を形成したもの、例えば光電変換層内において、シンチレータ層4に面して、画素がマトリクス状に配列されているもの、が一般的である。光電変換層9上に隔膜層8を有してもよい。シンチレータパネル2の出光面と出力基板3の光電変換層9を、隔膜層8を介して接着または密着させることが好ましい。
【0018】
図2に、本発明の実施の形態に係るシンチレータパネルを含むX線検出器1の別の一態様を模式的に表す。X線検出器1は、シンチレータパネル2、出力基板3および電源部12を有する。
【0019】
シンチレータパネル2は、基材5と、シンチレータ層4とを有し、シンチレータ層4は、隔壁13によって区画されている。シンチレータ層4は、蛍光体6とバインダー樹脂7を含有する。出力基板3は、基板11上に、光電変換層9および出力層10を有する。光電変換層9は、図示しないフォトセンサを有する画素を形成したものが一般的である。光電変換層9上に隔膜層8を有してもよい。シンチレータ層4で発光した光は、光電変換層9に到達して光電変換され、出力される。
【0020】
(バインダー樹脂)
シンチレータ層に含まれるバインダー樹脂は、7以上の原子から構成されるπ共役系構造を有する。7以上の原子から構成されるπ共役系構造を有することにより、バインダー樹脂が、共鳴安定化が可能な構造を有することととなり、放射線照射によるバインダー樹脂の変色が抑制される。放射線照射によるバインダー樹脂の変色が抑制されることによって、シンチレータパネルを高線量の放射線照射条件で使用した場合でも、輝度の低下が抑制でき、シンチレータパネルの長寿命化が可能となる。
【0021】
バインダー樹脂が「π共役系構造を有する」とは、樹脂中の構造が、単結合と多重結合を交互に有し、多重結合が複数存在する状態のことである。「7以上の原子から構成されるπ共役系構造を有する」とは、前述した単結合と多重結合を交互に有し、多重結合が複数存在する構造であり、その構造において多重結合を構成する原子が7以上であることを意味する。バインダー樹脂のπ共役系構造を構成する原子の数としては、一例を挙げると、ポリメタクリル酸メチルは0、ポリスチレンは6、ポリエチレンテレフタレートは10、ポリヒドロキシスチレンは6、ポリカーボネートは6、ポリ(4,4‘―オキシジフェニレンピロメリットイミド)は14である。7以上の原子から構成されるπ共役系構造は、後述する方法によってバインダー樹脂の構造を確認した後、単結合と多重結合を交互に有し、多重結合が複数存在する構造において、多重結合を構成する原子数を算出することにより確認できる。
【0022】
バインダー樹脂は、30以下の原子から構成されるπ共役系構造を有することが好ましい。30以下の原子から構成されるπ共役系構造を有することで、バインダー樹脂の吸収波長が長波長化することを抑制できるため、可視光域の透過率が大きくなり、バインダー樹脂の初期における着色が低減され、輝度がより向上する。
【0023】
本発明に用いられるバインダー樹脂を2.5重量%含む溶液の光路長1cm、波長400nmにおける透過率は、85%以上であることが好ましく、90%以上であることがより好ましい。バインダー樹脂を2.5重量%含む溶液の光路長1cm、波長400nmにおける透過率が85%以上であることによって、バインダー樹脂の初期の着色が低減される。そのため、蛍光体の発光した光が、バインダー樹脂中で吸収されるのを抑制でき、蛍光体層中における光の減衰が小さくなるため、輝度がより向上する。ここでバインダー樹脂を2.5重量%含む溶液の光路長1cm、波長400nmにおける透過率は、紫外可視分光光度計(例えば、(株)日立ハイテク製 U-4100)を用いて測定される値であり、溶液の溶媒は、バインダー樹脂を均一に溶解するもので、かつ、溶媒単独での光路長1cm、波長400nmにおける透過率が80%以上であれば特に限定されない。
【0024】
本発明に用いられるバインダー樹脂は、下記一般式(1)または(2)で表される構造を主鎖に繰り返し単位として有することが好ましい。
【0025】
【0026】
上記一般式(1)および(2)中、X1、X2、Y1およびY2は、それぞれ独立に、二価の有機基を表す。Arは芳香族炭化水素基を表す。tは、1または2の整数を表す。
【0027】
Arは芳香族炭化水素基であるので、一般式(1)および(2)中、Ar-C(=O)の部分が、共鳴安定化が可能な構造である。芳香族炭化水素基は、置換されていても無置換であってもよい。置換されている場合の好ましい置換基としては、脂肪族炭化水素基、カルボキシ基、アミノ基、水酸基、アルコキシ基、ハロゲン、シリル基が挙げられる。芳香族炭化水素基は、置換基も含めて炭素原子数6~25の芳香族炭化水素基であることが好ましい。
【0028】
芳香族炭化水素基の具体例としては、例えば、フェニレン基、ナフチレン基、アントラセニレン基、フェナントレニレン基が挙げられる。これらを2種以上含有してもよい。これらの中でも、樹脂の溶剤溶解性および透明性、色味の観点から、フェニレン基またはナフチレン基が好ましく、特にフェニレン基が好ましい。Arの具体例は、一般式(1)においてはこれらの基に由来する2価の基であり、一般式(2)においてはこれらの基に由来する3~4価基である。
【0029】
一般式(1)中、X1は二価の有機基である。二価の有機基としては、置換もしくは無置換の炭化水素基、置換もしくは無置換のジオール由来の有機基、置換もしくは無置換のジアミン由来の有機基、およびこれらのうち2種以上が組み合わされてなる基が好ましい。
【0030】
炭化水素基としては、脂肪族炭化水素基、芳香族炭化水素基が挙げられる。脂肪族炭化水素基は直鎖であっても分岐していてもよく、一部または全体が環状であってもよい。また、飽和炭化水素基であっても不飽和炭化水素基であってもよい。脂肪族炭化水素基は水素の少なくとも一部がハロゲンなどにより置換されていてもよい。芳香族炭化水素基は水素の少なくとも一部がハロゲンなどにより置換されていてもよい。炭化水素基の炭素数は2以上が好ましく、4以上がより好ましい。炭化水素基の炭素数は25以下が好ましく、20以下がより好ましい。
【0031】
ジオール由来の有機基とは、ジオールの2つの水酸基からそれぞれ水素原子が脱離した後の残基をいう。ジオールとしては、例えば、エチレングリコール、1,4-ブタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、トリメチレングリコール、テトラメチレングリコール、1,3-プロパンジオール、2,2-ジエチル-1,3-プロパンジオール、2-n-ブチル-2-エチル-1,3-プロパンジオール、2,2-イソプロピル-1,3-プロパンジオール、2,2-ジ-n-ブチル-1,3-プロパンジオール、ネオペンチルグリコール、ヘキサンジオール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、2,2,4,4-テトラメチル-1,3-シクロブタンジオール等の脂肪族ジオール、ビスフェノールA等の芳香族ジオール等が挙げられる。これらを2種以上含有してもよい。
【0032】
ジアミン由来の有機基とは、ジアミンの2つのアミノ基からそれぞれ水素原子が1つずつ脱離した後の残基をいう。ジアミンとしては、例えば、1,6-ヘキサメチレンジアミン、2-メチル-1,5-ジアミノペンタン、2,2,4-トリメチルヘキサメチレンジアミン、2,4,4-トリメチルヘキサメチレンジアミン、1,9-ノナメチレンジアミン、1,10-デカメチレンジアミン、1,12-デカメチレンジアミン、4,4’-ジアミノジシクロヘキシルメタン、3,3’-ジメチル-4,4’-ジアミノジシクロヘキシルメタン、4,4’-ジアミノジシクロヘキシルプロパン、4,4‘-ジアミノ-3,3’-ジメチルジシクロヘキシルメタン、1,4-ジアミノシクロヘキサン、1,4-ビス(アミノメチル)-シクロヘキサン、2,6-ビス(アミノメチル)-ノルボルナン、3-アミノメチル-3,5,5-トリメチルシクロヘキシルアミン、ビス-(4-アミノ-3-メチル-シクロヘキシル)メタン、イソホロンジアミン等の脂肪族ジアミン、m-キシリレンジアミン、p-キシリレンジアミン、ビス(4-アミノフェニル)プロパン等の芳香族ジアミンなどが挙げられる。これらを2種以上含有してもよい。
【0033】
一般式(1)中、Y1は二価の有機基である。二価の有機基としては、例えば、置換もしくは無置換の炭化水素基、エーテル基、チオエーテル基、カルボニル基、スルホニル基、イミノ基、およびこれらのうち2種以上が組み合わされてなる基が好ましい。これらの中でも、放射線照射による樹脂の変色や劣化の抑制および合成の容易さの観点から、置換もしくは無置換の炭化水素基、エーテル基、カルボニル基、およびこれらのうち2種以上が組み合わされてなる基が好ましい。炭化水素基への置換基としては、例えば、ハロゲンなどが挙げられる。Y1が炭化水素基である場合、その炭化水素基の炭素数は1以上が好ましく、3以上がより好ましい。炭化水素基の炭素数は15以下が好ましく、10以下がより好ましい。
【0034】
一般式(1)で表される構造を主鎖に有するバインダー樹脂の具体例としては、例えば、ポリエステル樹脂(例えば、X1がジオール由来の有機基でありY1がカルボニル基である場合)、ポリエーテルエーテルケトン樹脂(例えば、X1が炭化水素基でありY1がエーテル基と炭化水素基とが組み合わされてなる基である場合)、ポリアミド樹脂(例えば、X1がジアミン由来の有機基でありY1がカルボニル基である場合)等が挙げられる。
【0035】
一般式(2)中、X2は二価の有機基である。二価の有機基としては、例えば、置換もしくは無置換の炭化水素基や、置換もしくは無置換の炭化水素基と、エーテル基、チオエーテル基、エステル基、カルボニル基、スルホニル基、イミノ基およびアミド基からなる群より選ばれる1種以上の基とが組み合わされてなる基が好ましい。
【0036】
これらの中でも、置換もしくは無置換の炭化水素基、および、置換もしくは無置換の炭化水素基と、エーテル基および/またはスルホニル基とが組み合わされてなる基であることが好ましい。その具体例としては、例えば、下記のような構造が挙げられる。
【0037】
【0038】
一般式(2)中、Y2は二価の有機基である。二価の有機基としては、例えば、置換もしくは無置換の炭化水素基、エーテル基、チオエーテル基、エステル基、カルボニル基、スルホニル基、イミノ基、アミド基、イミド基、およびこれらのうち2種以上が組み合わされてなる基が好ましい。これらの中でも、放射線照射による樹脂の変色や劣化の抑制の観点から、置換もしくは無置換の炭化水素基、エーテル基、エステル基、スルホニル基、カルボニル基、アミド基、イミド基、およびこれらのうち2種以上が組み合わされてなる基が好ましい。炭化水素基の炭素数は1~8が好ましい。一般式(2)中tが2の場合、複数のY2は互いに同じであってもよく、異なっていてもよい。また、複数のY2は環状構造を形成していてもよい。
【0039】
一般式(2)で表される構造を主鎖に有するバインダー樹脂の具体例としては、例えば、ポリイミド樹脂(例えば、Y2がイミド基である場合)、ポリエーテルイミド樹脂(例えば、Y2がエーテル基と炭化水素基とイミド基とが組み合わされてなる基である場合)、ポリアミドイミド樹脂(例えば、Y2がアミド基を含む場合)等が挙げられる。
【0040】
一般式(1)~(2)で表される樹脂の構造は、核磁気共鳴装置(NMR)を用いて、検出されるピークを帰属する方法によって確認できる。
【0041】
本発明に用いられるバインダー樹脂は非晶性であることが好ましい。バインダー樹脂が非晶性であることにより、溶剤溶解性が良好になり、後述するシンチレータパネルの製造方法において、蛍光体とバインダー樹脂を均一に混合することが可能となるため、均一な蛍光体層を形成することが可能となる。その結果、バインダー樹脂の着色によるシンチレータパネルの輝度劣化が局所的に生じるのを抑制できる。加えて、ホットメルト樹脂等の熱溶融が必要な樹脂と比較し、シンチレータパネルの製造工程における高温の加熱工程が不要となるため、基材の選択が容易となり、かつ、高温での加熱におけるバインダー樹脂の変色等の劣化を低減することが可能となる。その結果、シンチレータパネルの輝度がより向上する。ここでいう、「非晶性」とは、バインダー樹脂を粉末X線回折法により測定した際に、結晶構造に起因するピークが実質的に見られず、ブロードなハローのみが観察される場合を意味する。
【0042】
本発明に用いられるバインダー樹脂のガラス転移温度は30~430℃である。ガラス転移温度の下限は30℃であり、40℃以上であることが好ましい。バインダー樹脂のガラス転移温度が30℃以上であると、放射線照射によるバインダー樹脂中でのラジカルの発生やそれに伴う分子間の架橋や開裂、分解を低減できる。それによって、開裂箇所と他の分子との反応による着色や、バインダー樹脂の構造の変化を抑制することができる。その結果、バインダー樹脂の着色によるシンチレータパネルの輝度劣化や、バインダー樹脂の力学特性の低下に伴うシンチレータパネルの変形を抑制できる。
【0043】
一方、バインダー樹脂のガラス転移温度の上限は430℃であり、270℃以下がさらに好ましく、260℃以下がより一層好ましい。ガラス転移温度が430℃より高いと、X線照射前においてもバインダー樹脂が着色しやすく、輝度が低下する。
【0044】
本発明において、バインダー樹脂のガラス転移温度は、示差熱分析装置(例えば、差動型示差熱天秤TG8120;(株)リガク製)を用いて測定される値である。
【0045】
本発明において、バインダー樹脂の重量平均分子量(Mw)は5,000~100,000の範囲であることが好ましい。バインダー樹脂の重量平均分子量Mwが5,000以上であると、バインダー樹脂が蛍光体を繋ぎ止めるための強度が十分であり、シンチレータ層のカケや割れや、輝度の低下を抑制することができる。また、放射線照射による分子構造の変化の影響を受けにくく、シンチレータパネルの変色や力学特性の劣化を抑制できる。バインダー樹脂のMwが100,000以下であると、蛍光体粒子を高密度に充填することが可能であり、輝度が向上する。
【0046】
バインダー樹脂の重量平均分子量(Mw)を数平均分子量(Mn)で除した分散度(Mw/Mn)は、1.5~5.0が好ましい。バインダー樹脂の分散度が1.5以上であると、バインダー樹脂の製造歩留まりを向上させることができる。バインダー樹脂の分散度が5.0以下であると、溶媒への難溶成分の発生が抑制でき、シンチレータ層中の輝度のばらつきを抑制することができる。
【0047】
ここで、バインダー樹脂の重量平均分子量(Mw)および数平均分子量(Mn)とは、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)法により測定、算出した分子量であり、分子量が既知であるポリスチレン試料に基づく換算値のことをいう。具体的には、ゲル浸透クロマトグラフGPC(GPC-22)/示差屈折率検出器RI(東ソー(株)製、RI-8020型)を用いて測定でき、単分散ポリスチレン(東ソー(株)製)を標準物質として測定することで算出できる。
【0048】
本発明に用いられるバインダー樹脂は、最高占有分子軌道と最低非占有分子軌道とのエネルギー準位差Egが2.0eV以上4.2eV以下であることが好ましく、2.7eV以上4.1eV以下であることがより好ましい。バインダー樹脂のEgが2.0eV以上であると、蛍光体の発光した光が、バインダー樹脂中で吸収されるのを抑制でき、蛍光体層中における光の減衰が小さくなるため、輝度がより向上する。バインダー樹脂のEgが4.2eV以下であることで、放射線で励起されたバインダー樹脂中の電子が基底状態に戻る際に放出されるエネルギーが、バインダー樹脂を構成する原子間の平均的な結合エネルギーと同程度か、あるいはそれより低くなるため、バインダー樹脂の原子間の結合が解離する確率を小さくすることができる。その結果、バインダー樹脂中のラジカルの発生確率を低下させる、および/または、発生したラジカルの反応性を低下させることが可能となるため、ラジカルに起因した反応によるバインダー樹脂の着色が抑制され、輝度劣化をより抑制する。
【0049】
本発明において、バインダー樹脂のEgは、Taucプロットを用いて算出された値である。具体的には、各波長に対する光学定数(屈折率n、消衰係数k)を分光エリプソメータ(例えば、FE-5000;大塚電子(株)製)を用いて求め、その消衰係数kから吸収係数αを算出し、各波長のエネルギーEをx軸、(Eα)2をy軸としてそれぞれプロットする(Taucプロット)。プロットによって得られたS字状の上昇曲線に対し、変曲点を通る接線を引くことで、該接線とx軸の交点がEgとして求まる。なお、Taucプロットにおいてx軸とは別にベースラインが存在する場合には、上記接線と該ベースラインとの交点がEgとなる。
【0050】
シンチレータ層には、本発明の効果を損なわない範囲で、上記以外のバインダー樹脂が含まれていてもよい。そのようなバインダー樹脂としては、例えば、アクリル樹脂、セルロース系樹脂、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、フェノール樹脂、ユリア樹脂、塩化ビニル樹脂、ブチラール樹脂、ポリビニルアセタール、シリコーン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリケトン樹脂、ポリエーテル樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリビニルトルエン、ポリビニルピロリドン、ポリアクリルアミド、ポリ酢酸ビニル、芳香族系炭化水素樹脂、ポリアルキレンポリアミン樹脂、ポリベンゾイミダゾール樹脂、ポリピロール樹脂、ポリチオフェン樹脂などが挙げられる。
【0051】
(蛍光体)
本発明のシンチレータパネルに用いられる蛍光体は、放射線の照射により、可視光を中心に紫外光から赤外光にわたる範囲の光を発光する物質であればよく、例えば、無機蛍光体、有機蛍光体のいずれであってもよい。
【0052】
無機蛍光体としては、硫化物系蛍光体、ゲルマン酸塩系蛍光体、ハロゲン化物系蛍光体、硫酸バリウム系蛍光体、リン酸ハフニウム系蛍光体、タンタル酸塩系蛍光体、タングステン酸塩系蛍光体、希土類ケイ酸塩系蛍光体、希土類酸硫化物系蛍光体、希土類リン酸塩系蛍光体、希土類オキシハロゲン化物系蛍光体、アルカリ土類金属リン酸塩系蛍光体、アルカリ土類金属フッ化ハロゲン化物系蛍光体等が挙げられる。
【0053】
希土類ケイ酸塩系蛍光体としては、セリウム賦活希土類ケイ酸塩系蛍光体が挙げられ、希土類酸硫化物系蛍光体としては、プラセオジム賦活希土類酸硫化物系蛍光体、テルビウム賦活希土類酸硫化物系蛍光体、ユウロピウム賦活希土類酸硫化物系蛍光体が挙げられ、希土類リン酸塩系蛍光体としては、テルビウム賦活希土類リン酸塩系蛍光体が挙げられ、希土類オキシハロゲン蛍光体としては、テルビウム賦活希土類オキシハロゲン化物系蛍光体、ツリウム賦活希土類オキシハロゲン化物系蛍光体が挙げられ、アルカリ土類金属リン酸塩系蛍光体としては、ユウロピウム賦活アルカリ土類金属リン酸塩系蛍光体が挙げられ、アルカリ土類金属フッ化ハロゲン化物系蛍光体としては、ユウロピウム賦活アルカリ土類金属フッ化ハロゲン化物系蛍光体が挙げられる。
【0054】
有機蛍光体としては、p-ターフェニル、p-クアテルフェニル、2,5-ジフェニルオキサゾール、2,5-ジフェニル-1,3,4-オキソジアゾール、ナフタレン、ジフェニルアセチレン、スチルベンなどが挙げられる。
【0055】
これらを2種以上含有してもよい。これらの中でも、希土類酸硫化物系蛍光体から選ばれた蛍光体が好ましく、発光効率や化学的安定性より希土類酸硫化物の中でも発光効率や化学的安定性から酸硫化ガドリニウムが好ましい。酸硫化ガドリニウムはテルビウム賦活、ユウロピウム賦活またはプラセオジウム賦活されたものであることが好ましい。
【0056】
蛍光体の形状は、例えば、粒子状、柱状、鱗片状などが挙げられる。これらの中でも、粒子状の蛍光体が好ましい。蛍光体の形状を粒子状にすることにより、シンチレータ層中において蛍光体がより均一に分散されることから、シンチレータ層中における蛍光体の発光の偏りを抑制し、均一に発光させることができる。
【0057】
蛍光体の平均粒子径は、0.5~50μmが好ましく、3.0~40μmがより好ましく、4.0~30μmがさらに好ましい。蛍光体の平均粒子径が0.5μm以上であると、放射線から可視光への変換効率がより向上し、輝度をより向上させることができる。また、蛍光体の凝集を抑制することができる。一方、蛍光体の平均粒子径が50μm以下であると、シンチレータ層表面の平滑性に優れ、画像への輝点の発生を抑制することができる。
【0058】
ここで、本発明における蛍光体の平均粒子径とは、粒度の累積分布に対して50%となる粒子径を言い、粒度分布測定装置(例えば、MT3300;日機装(株)製)を用いて測定することができる。より具体的には、水を満たした試料室に蛍光体を投入し、300秒間超音波処理を行った後に粒度分布を測定し、累積分布に対して50%となる粒子径を平均粒子径とする
蛍光体の発光強度が、初期発光強度に対して1/e倍になるまでに要する時間は、100μ秒以下であることが好ましい。1/e倍になるまでに要する時間が100μ秒以下であると、後述するインライン検査を含む被写体を連続的に撮像する検査方法において、それぞれの被写体のX線画像が後続の被写体の画像に残存するのを抑制することが可能になる。その結果、高速で連続的な検査が可能となる。蛍光体の発光強度の減衰時間は、公知の方法で測定することが出来、具体的には、蛍光寿命測定装置(例えば、Quantaurus-Tau C11367-24;浜松ホトニクス(株))を用いた紫外光を励起光とする方法や光ファイバー、フォトダイオードおよびフォトセンサアンプから構成される装置を用いた放射線を励起源とする方法などが挙げられる。蛍光体の発光強度の減衰時間を短くする方法としては、酸硫化ガドリニウムを一例として挙げると、賦活剤がテルビウムとは異なるものを使用する方法があげられ、特にプラセオジウムが賦活されていることで、減衰時間が短くなる。
【0059】
シンチレータ層中における蛍光体とバインダー樹脂の体積比率は、蛍光体:バインダー樹脂=80:20~95:5が好ましい。蛍光体の体積比率を80%以上とすることで、放射線照射により変色するバインダー樹脂の含有量が小さくなり、シンチレータ層内で発光した光の減衰が抑制できるため輝度がより向上する。蛍光体とバインダー樹脂の体積比率は、蛍光体:バインダー樹脂=83:17~95:5がより好ましく、蛍光体:バインダー樹脂=85:15~95:5がさらに好ましい。一方、蛍光体の体積比率を95%以下とすることにより、放射線照射後においても、バインダー樹脂による蛍光体粒子間の結合力を維持できるため、シンチレータ層のカケや割れを抑制し、基材とシンチレータ層との密着強度をより向上させることができる。また、シンチレータ層形成時の蛍光体の分散性を向上させ、シンチレータ層中の輝度のばらつきを抑制することができる。
【0060】
(シンチレータ層の他の要素)
シンチレータ層には分散剤を含んでもよい。分散剤を含むことで、後述する蛍光体ペーストにおける蛍光体粒子の凝集や沈降を抑制し、ポットライフを長くすることができる。また、蛍光体ペーストの中の蛍光体粒子の均一な分散状態が維持できることから、シンチレータ層中の蛍光体粒子の分布の偏りを抑制し、シンチレータ層中の輝度のばらつきを抑制することができる。分散剤としては、アニオン性の官能基を有するものが好ましく、カルボキシ基、スルホン基および/またはリン酸基を有するものが好ましい。
【0061】
シンチレータ層は、さらに、分散剤、可塑剤、架橋剤、表面調整剤、帯電防止剤、金属化合物粒子などを含んでもよい。
【0062】
シンチレータ層の膜厚は、発光する蛍光体をより多くし、輝度を向上させるために、厚くすることが好ましく、X線の線質に応じて適宜設定することができるが、本発明においては50~800μmであり、70~600μmがより好ましく、100~400μmがさらに好ましい。膜厚が50μm以上であると、放射線照射によるバインダー樹脂の変色の影響に対して、本発明の効果を損なわない範囲で、膜厚に対する蛍光体粒子径の選定が可能であるため、輝度の低下を抑制することができる。膜厚が800μm以下であると、シンチレータ層で発光した光、特に基材側で発光した光の光電変換層までの光路長が短いため、放射線照射によるバインダー樹脂の変色の影響が小さくなる。その結果、シンチレータ層中での光の減衰を低減でき、輝度の低下を抑制することができる。また、放射線照射による力学特性の劣化が抑制できるため、バインダー樹脂による蛍光体同士の結着力、および、基材とシンチレータ層との密着強度の低下を抑制できる。上記範囲であれば、膜厚均一性にも優れ、膜厚に対してシンチレータ層の表面の凹凸による輝度ばらつきの影響が小さくなる。
【0063】
シンチレータ層を2層以上の積層構造とする場合、基材側のシンチレータ層(下層シンチレータ層)の厚みTdと、その上に積層されるシンチレータ層(上層シンチレータ層)の厚みTtの関係は、Tt/(Td+Tt)が0.4~0.9の範囲であることが好ましく、0.6~0.9の範囲であることがより好ましい。
【0064】
本発明のシンチレータパネルの明度L*は、75以上であることが好ましく、80以上であることがより好ましい。明度L*が75以上であることにより、蛍光体で発光した光がシンチレータ層中で減衰するのを抑制することが可能となり、より輝度が向上する。
【0065】
本発明のシンチレータパネルの色度a*は、-10.0~10.0であることが好ましく、-6.0~6.0であることがより好ましい。色度a*が-10.0~10.0であることにより、蛍光体で発光した光、特に、450nm近傍より長波長での光がシンチレータ層中で減衰するのを抑制することが可能となり、より輝度が向上する。
【0066】
本発明のシンチレータパネルの色度b*は、-15.0~15.0であることが好ましく、-10.0~10.0であることがより好ましく、-6.0~6.0であることがより一層好ましい。色度b*が-15.0~15.0であることにより、蛍光体で発光した光、特に、600nm近傍より短波長での光がシンチレータ層中で減衰するのを抑制することが可能となり、より輝度が向上する。
【0067】
(基材)
本発明のシンチレータパネルに用いられる基材を構成する材料としては、高い放射線透過性を有するものが好ましく、例えば、各種のガラス、高分子材料、金属等が挙げられる。ガラスとしては、例えば、石英、ホウ珪酸ガラス、化学的強化ガラスなどが挙げられる。高分子材料としては、例えば、セルロースアセテート、ポリエチレンテレフタレート(PET)などのポリエステル、ポリアミド、ポリイミド、トリアセテート、ポリカーボネート、炭素繊維強化樹脂などが挙げられる。金属としては、例えば、アルミニウム、鉄、銅などが挙げられる。これを2種以上用いてもよい。これらの中でも、特に放射線の透過性が高い高分子材料が好ましい。また、平坦性および耐熱性に優れる材料が好ましい。
【0068】
基材の厚みは、シンチレータパネルの軽量化の観点から、例えば、ガラス基板を用いる場合は2.0mm以下が好ましく、1.0mm以下がより好ましく、0.5mm以下がさらに好ましい。また、高分子材料からなる基材の場合は、3.0mm以下が好ましく、1.0mm以下がより好ましい。本発明における基材の厚さは、ミクロトームを用いて基板断面を切り出した後に、走査型電子顕微鏡(例えば、(株)日立製作所製電界放出形走査電子顕微鏡「S-4800」)を用いて、各10箇所観察し、平均厚みを測定することにより算出することができる。
【0069】
基材は、シンチレータ層側の表面に金属層を有していてもよい。基材に金属層を有している場合、基材の色味や厚みに関わらず、基材の高反射率化が可能になる。金属層は公知の方法で基材に形成することが出来、具体的には、物理気相成長(PVD)法や化学気相成長(CVD)法などの方法でアルミニウム、銀およびこれらの合金の層を基材表面に形成することができる。
【0070】
基材として高分子材料を用いる場合は、反射率、強度および耐熱性の観点から、ポリエステルを主成分とすることが好ましい。ここで、本発明における「主成分」とは、50質量%以上の成分を意味する。ポリエステルを主成分とし、さらに屈折率の異なる材料を含む、白色ポリエステルがより好ましい。
【0071】
ポリエステルとは、ジオールとジカルボン酸との縮重合物である。ジオールとしては、例えば、エチレングリコール、1,4-ブタンジオール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、1,6-ヘキサンジオール、トリメチレングリコール、テトラメチレングリコールなどが挙げられる。ジカルボン酸としては、例えば、テレフタル酸、イソフタル酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、4,4’-ジフェニルジカルボン酸、アジピン酸、セバシン酸などが挙げられる。ポリエステルとしては、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリテトラメチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレン-p-オキシベンゾエート、ポリ-1,4-シクロヘキシレンジメチレンテレフタレート、ポリエチレン-2,6-ナフタレンジカルボキシレート(PEN)などが挙げられる。
【0072】
屈折率の異なる材料としては、例えば、酸化亜鉛、酸化ジルコニウム、酸化チタン、酸化ガドリニウム、酸硫化ガドリニウム、高屈折率ガラス等のセラミック粒子などの白色顔料が挙げられる。
【0073】
基材は、高い放射線透過性を有することが好ましいことから、周期表の第6周期以上の元素を含まないことが好ましく、第5周期以上の元素を含まないことがより好ましい。特に、第4周期以下で構成される元素を成分とする基材は、高い放射線透過性を有するため、好適である。なお、本発明において、高周期元素を含まないとは、基材中の高周期元素含有量が0.1質量%未満であることを言う。
【0074】
基材は、シンチレータパネルの軽量化と放射線透過性の観点から、比重が小さいことが好ましい。具体的には、基材の比重は、1.2g/cm3以下が好ましく、0.9g/cm3以下がより好ましく、0.7g/cm3以下がさらに好ましい。一方、基材製造時における破れやシワの発生をより抑制し、ハンドリング性をより向上させる観点から、基材の比重は、0.5g/cm3以上が好ましい。
【0075】
基材は、蛍光体層側の表面に易接着層を有することが好ましい。易接着層を有することで、シンチレータ層と基材の密着強度をより向上させることができる。
【0076】
易接着層の材料としては、例えば、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、ポリエステル樹脂等が挙げられる。これらを2種以上含有してもよい。中でも、ポリエステル樹脂を主成分とすることが好ましい。ガラス転移温度が10~80℃のポリエステル樹脂がより好ましい。例えば、基材としてPETを用いる場合には、PETと類似の構造であるテレフタル酸やイソフタル酸などの残基を有する芳香族ポリエステルが好ましい。芳香族ポリエステルとしては、重量平均分子量2,000~30,000の飽和共重合ポリエステルが好ましく、さらに非結晶性溶剤可溶型の重量平均分子量2,000~30,000の飽和共重合ポリエステルが好ましい。非結晶性溶剤可溶型の重量平均分子量2,000~30,000の飽和共重合ポリエステルとしては、日本合成化学(株)製の“ニチゴーポリエスター”(登録商標)の非結晶性溶剤可溶型を好適に用いることができる。樹脂のガラス転移温度は、示差熱分析装置(例えば、差動型示差熱天秤TG8120;(株)リガク製)を用いて測定することができる。
【0077】
易接着層には、主成分であるポリエステル樹脂と異なる屈折率を有する粉末を含有してもよい。粉末を含有することにより、支持体に対して平行方向への光拡散をより抑制することができる。ポリエステルと粉末の屈折率差Δnは0.2以上が好ましい。粉末として、易接着層の主成分である樹脂との屈折率差の観点から、無機粉末が好ましい。無機粉末としては、前述の表面層における無機粉末として例示したものが挙げられる。高屈折率の観点から酸化チタン粉末が特に好ましい。ここで、ポリエステル樹脂の屈折率は、ポリエステル樹脂を可溶な有機溶媒、例えばメチルエチルケトン等に溶解した溶液を塗布・乾燥して得られる樹脂膜について、屈折率計(アッベ屈折率計4T;(株)アタゴ社製、光源:ナトリウムD線、測定温度25℃)を用いて測定することができる。また、無機粉末の屈折率は、「無機化学ハンドブック」(技報堂)、「フィラー活用辞典」(大成社)、「セラミック工学ハンドブック」(日本セラミック協会)などに開示されている。
【0078】
基材は、シンチレータ層が存在する面と反対側に粘着層および支持体を有していてもよい。支持体を有することで、後述するシンチレータパネルの作製プロセスにおいて、基材のコシが強くなるため、ハンドリング時の基材の折れを防止することができる。
【0079】
支持体を構成する材料は、高い放射線透過性を有することが好ましい。材料としては、例えば、セルロースアセテート、ポリエステル、ポリアミド、ポリイミド、トリアセテート、ポリカーボネートや、これらと炭素繊維を含む炭素繊維強化樹脂などが挙げられる。支持体を構成する材料は、基材と同じ材料でもよい。
【0080】
粘着層を構成する材料としては、例えば、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹
脂、ポリエステル樹脂等が挙げられる。中でも、低温で接着できることから、アクリル系
粘着材等をシート状に加工した光学粘着シート(Optically Clear Ad
hesive;OCA)が好ましい。
【0081】
(隔壁)
本発明のシンチレータパネルは、シンチレータ層を区画する隔壁を有することが好ましい。
【0082】
隔壁を構成する材料は、強度や耐熱性の高い隔壁が形成できるものが好ましく、例えば、無機材料や高分子材料等が好ましい。ここで、本発明における「無機材料」とは、単純な一部の炭素化合物(グラファイト若しくはダイヤモンド等炭素の同素体等)及び炭素以外の元素で構成される化合物をいう。なお、「無機物からなる」とは、厳密な意味で無機物以外の成分の存在を排除するものではなく、原料となる無機物自体が含有する不純物や、隔壁の製造の過程において混入する不純物程度の無機物以外の成分の存在は、許容される。
【0083】
隔壁が無機材料からなる場合、ガラスを主成分とすることが好ましい。ガラスとは、ケイ酸塩を含有する、無機非晶質固体をいう。隔壁の主成分がガラスであると、隔壁は、強度や耐久性、耐熱性が高まり、後述する反射層の形成工程や蛍光体の充填工程における変形や損壊が発生しにくくなる。なお、本発明の実施の形態において、「ガラスを主成分とする」とは、隔壁を構成する材料の50~100質量%が、ガラスであることをいう。
【0084】
特には、隔壁は、軟化点650℃以下のガラスである低軟化点ガラスの占める割合が、隔壁部分の体積を100体積%としたとき、95体積%以上とすることが好ましく、98体積%以上とすることがより好ましい。低軟化点ガラスの含有率が95体積%以上であることにより、隔壁は、焼成工程において隔壁の表面が平坦化しやすくなる。これにより、シンチレータパネルは、隔壁の表面に均一に反射層を形成しやすくなる。その結果、反射率が高くなり、輝度をより高めることができる。
【0085】
低軟化点ガラス以外の成分として用いうる成分としては、軟化点650℃を超えるガラスである高軟化点ガラス粉末やセラミック粉末等が挙げられる。これらの粉末は、隔壁形成工程において隔壁の形状を調整しやすくする。低軟化点ガラスの含有率を高めるために、低軟化点ガラス以外の成分の含有量は、5体積%未満であることが好ましい。
【0086】
隔壁が高分子材料からなる場合、ポリイミド、ポリアミド、ポリアミドイミド及びポリベンゾオキサゾール、アクリル樹脂からなる群より選ばれる一以上の化合物(P)からなることが好ましい。隔壁が化合物(P)から形成されることで、微細でアスペクト比の高い、表面が平滑な隔壁を形成することができる。化合物(P)を用いた感光性樹脂組成物を作製する場合、感光性材料の成分は特に限定されない。一例を挙げると、化合物(P)に多官能アクリルモノマーと光ラジカル重合開始剤を添加した光ラジカル重合性ネガ型感光性樹脂組成物、化合物(P)にエポキシ化合物と光カチオン性重合開始剤を添加した光カチオン重合性ネガ型感光性樹脂組成物、化合物(P)にナフトキノン系感光剤を添加した光可溶化ポジ型感光性樹脂組成物、などが挙げられる。これらの中でも、高いアスペクト比を有する隔壁を形成できる観点から、エポキシ化合物を含有した光カチオン重合性ネガ型感光性樹脂組成物が好ましい。
【0087】
隔壁が化合物(P)からなる場合、フェノール性水酸基を有することが好ましい。フェノール性水酸基を有することで、樹脂のアルカリ現像液への適度な溶解性が得られるため、露光部と未露光部の高いコントラストが得られ、所望のパターンが形成できる。
【0088】
隔壁はさらにエポキシ化合物を含有することが好ましい。エポキシ化合物は化合物(P)の耐熱性と機械強度を損なうことなく、加工性をより向上させることができるので、所望の形状の隔壁が形成しやすくなる。これにより、蛍光体の充填量をより増加させ、輝度をより向上させることができる。
【0089】
化合物(P)の特性を損なわないために、隔壁中のエポキシ化合物の含有量は質量分率で化合物(P)の含有量を超えないことが好ましい。隔壁が化合物(P)、エポキシ化合物以外の成分を含有する場合は、それらの含有量の合計が、質量分率で化合物(P)とエポキシ化合物の合計量を超えないことが好ましい。
【0090】
エポキシ化合物としては、公知のもの等が使用でき、芳香族エポキシ化合物、脂環式エポキシ化合物及び脂肪族エポキシ化合物が含まれる。
【0091】
(反射層)
隔壁およびシンチレータパネルの基材の表面には、反射層、特には金属反射層、を有することが好ましい。反射層を有することで、放射線の照射によって隔壁で区画されたセル内で発光した光が、効率的に検出器側まで到達し、輝度が向上しやすい。
【0092】
反射層を構成する材料は、蛍光体から発光した電磁波を反射する機能があれば、特に限定されない。例えば、酸化チタンや酸化アルミニウム等の金属酸化物、銀やアルミニウム等の金属が挙げられる。これらを2種類以上含んでいてもよい。
【0093】
反射層を構成する材料は、薄膜でも反射率が高いものが好ましい。薄膜にすることにより、セルの内容積の減少を抑え、充填される蛍光体量を多くできるので、シンチレータパネルの輝度が向上しやすい。そのため、反射層は金属でできていることが好ましく、銀、アルミニウム、およびこれらの合金であることがより好ましい。大気中における変色耐性の観点から、パラジウムと銅を含有する銀合金であることが好ましい。
【0094】
反射層の厚みは、必要な反射特性に応じて適宜設定でき、特に限定されない。例えば、反射層の厚みは、10nm以上であることが好ましく、50nm以上であることがより好ましい。また、反射層の厚みは、500nm以下であることが好ましく、300nm以下であることがより好ましい。隔壁に設けられた反射層の厚みが10nm以上であることにより、シンチレータパネルは、隔壁を透過して光が漏れ出すことを抑制して充分な光の遮蔽性が得られ、その結果、鮮鋭度が向上する。反射層の厚みが500nm以下であることにより、反射層の表面の凹凸が大きくなりにくく、反射率が低下しにくい。
【0095】
反射層は、表面に保護層を有することが好ましい。反射層は、大気中における変色耐性が乏しい合金などを使用した場合でも、保護層が設けられていることによって、変色を低減することが出来、金属反射層とシンチレータ層との反応による金属反射層の反射率低下が抑制され、輝度がより向上する。
【0096】
(保護層)
保護層は、無機保護層と有機保護層のいずれもが好適に使用できる。保護層として、無機保護層と有機保護層を積層して併用することもできる。
【0097】
無機保護層は、水蒸気の透過性が低いため保護層として好適である。無機保護層は、スパッタ法など、公知の手法により形成できる。無機保護層の材料は特に限定されない。無機保護層の材料として、例えば、酸化ケイ素、酸化インジウムスズ、酸化ガリウム亜鉛などの酸化物、窒化ケイ素などの窒化物、フッ化マグネシウムなどのフッ化物等である。これらの中でも、無機保護層の材料は、水蒸気透過性が低く、また無機保護層形成において銀の反射率が低下しにくいことから、窒化ケイ素を用いることが好ましい。
【0098】
無機保護層の厚みは特に限定されない。無機保護層の厚みとしては、例えば、2nm以上であることが好ましく、5nm以上であることがより好ましい。また、無機保護層の厚みは、300nm以下であることが好ましく、100nm以下であることがより好ましい。厚みが2nm以上であることにより、シンチレータパネルは、使用環境下における輝度低下の抑制効果をより大きくすることができる。厚みが300nm以下であることにより、無機保護層による着色を抑制し、輝度をより向上させることができる。無機保護層の厚みは、後述する有機保護層の厚みと同様な方法により測定することができる。
【0099】
有機保護層は、化学的耐久性に優れる高分子化合物が好ましく、例えば、ポリシロキサンや、非晶性フッ素樹脂を主成分として含有することが好ましい。ここで、「非晶性フッ素樹脂」とは、フッ素含有樹脂を粉末X線回折法により測定した際に、結晶構造に起因するピークが実質的に見られず、ブロードなハローのみが観察される場合をいう。
【0100】
有機保護層は、溶液塗布やスプレーコーティングなど、公知の手法により容易に形成され得る。
【0101】
有機保護層の厚みは、0.05μm以上であることが好ましく、0.2μm以上であることがより好ましい。また、有機保護層の厚みは、10μm以下であることが好ましく、5μm以下であることがより好ましい。有機保護層の厚みが0.05μm以上であることにより、シンチレータパネル2は、輝度低下の抑制効果をより大きくすることができる。また、有機保護層の厚みが10μm以下であることにより、シンチレータパネルは、セル内の体積を大きくし、蛍光体を十分な量充填することにより、輝度をより向上させることができる。本発明の実施の形態において、有機保護層の厚みは、走査型電子顕微鏡観察により測定できる。なお、後述する有機保護層形成工程で形成される有機保護層は、隔壁頂部付近の側面では厚みが薄く、底部付近の側面では厚く形成される傾向がある。そのため、このように厚みに隔たりがある場合、上記有機保護層の厚みは、隔壁の高さ方向の中央部側面における厚みを指す。
【0102】
(シンチレータパネルの製造方法)
本発明において、シンチレータパネルの製造方法は特に、例えば、基材上に、蛍光体、7以上の原子から構成されるπ共役系構造を有するバインダー樹脂ならびに必要に応じてその他成分を含む蛍光体ペーストを塗布し、必要に応じて加熱乾燥や露光を行うことによりシンチレータ層を形成する方法などが挙げられる。
【0103】
蛍光体ペーストの塗布方法としては、例えば、スクリーン印刷法、バーコーター、ロールコーター、ダイコーター、ブレードコーターなどを用いた塗布方法などが挙げられる。これらの中でも、厚膜であってもシンチレータ層の膜厚が均一となるよう塗布しやすいことから、ロールコーターやダイコーターを用いて塗布することが好ましい。ダイコーターの中でも、スリットダイコーターを用いた塗布方法は、シンチレータ層厚みを吐出量により調整可能であり、シンチレータ層の厚みを高精度に調整することができる。
【0104】
蛍光体ペーストは、シンチレータ層を形成する成分として先に説明した成分に加えて、有機溶媒を含んでも構わない。有機溶媒は、7以上の原子から構成されるπ共役系構造を有するバインダー樹脂ならびに必要に応じて含まれる可塑剤や分散剤、表面調整剤などに対して、良溶媒であることが好ましい。そのような有機溶媒としては、例えば、エチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、トリエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、ポリエチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノブチルエーテルアセテート、ジプロピレングリコールモノブチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールフェニルエーテル、ジエチレングリコールフェニルエーテル、ヘキシレングリコール、イソプロピルアルコール、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、プロピルアルコール、ブチルアルコール、テルピネオール、ベンジルアルコール、テトラヒドロフラン、ジヒドロターピネオール、γ-ブチロラクトン、ジヒドロターピニルアセテート、3-メトキシ-1-ブタノール、3-メトキシ-3-メチル-1-ブタノール、3-メトキシ-3-メチル-1-ブチルアセテート、N,N-ジメチルホルムアミド、N-メチル-2-ピロリドンなどが挙げられる。これらを2種以上含んでもよい。
【0105】
シンチレータ層は、蛍光体ペーストの塗布膜を加熱乾燥することにより形成することが好ましい。乾燥方法としては、例えば、熱風乾燥、IR(赤外線)乾燥などが挙げられる。蛍光体ペーストの塗布膜の乾燥時、蛍光体ペーストは加熱されて、蛍光体ペーストの粘度が低減する。そのため、蛍光体ペースト中で相対的に高比重な材料である蛍光体の沈降が促進し、シンチレータ層中の蛍光体の充填密度を高めることができる。蛍光体ペーストの塗布膜の加熱乾燥方法は、蛍光体ペーストの塗布膜中の残存有機溶媒量を40%より少なくする第一工程、蛍光体ペースト塗布膜中の残存有機溶媒量を5%未満にする第二工程を有することが好ましい。第一工程における加熱温度は35~80℃が好ましく、加熱時間は10~30分間が好ましい。第二工程における加熱温度は35~120℃が好ましく、加熱時間は120~800分間が好ましい。
【0106】
(放射線検出器)
本発明の放射線検出器は、光電変換層を有する出力基板上に、前述のシンチレータパネルを備えてなる。出力基板は、基板上に、光電変換層および出力層を有する。光電変換層としては、フォトセンサを有する画素を形成したものが一般的である。
【0107】
(ラインカメラ)
本発明のラインカメラは、光電変換層を有する一次元のライン状出力基板上に、前述のシンチレータパネルを備えてなる。出力基板は、基板上に、光電変換層および出力層を有する。光電変換層としては、フォトセンサを有する画素を形成したものが一般的である。
【0108】
(放射線検査装置)
本発明の放射線検査装置は、放射線を発生させる放射線発生部と前述の放射線検出器を有する。放射線検査装置は、被写体に対して放射線発生部から放射線を照射し、被写体を透過した放射線を放射線検出器によって検出する装置である。その放射線検出部に本発明の放射線検出器を搭載することにより、高輝度の放射線検査装置を得ることができる。本発明の放射線検査装置は、前述の放射線検出器の代わりに前述のラインカメラと用いてもよい。
【0109】
本発明の放射線検出装置は産業用途に用いられることが好ましい。産業用途においては、放射線検出器に対して、長時間、連続的に高エネルギーな放射線が照射されるため、放射線検出装置がうける放射線量が医療用途に対して、非常に大きくなる。放射線検出装置内部に備えられているシンチレータパネルに対する放射線の照射量も非常に大きくなり、輝度劣化の影響が顕著である。これらの用途に、本発明の放射線検出器を搭載することにより、輝度劣化を抑制した高輝度の放射線検査装置を得ることができる。ここで、本発明における「産業用途」とは、人体に対して直接放射線を照射しない用途のことを意味し、「医療用途」とは人体に対して直接放射線を照射する用途のことで、医療目的での用途を意味する。
【0110】
(インライン検査方法)
本発明のインライン検査方法は、前述の放射線検査装置を用いる。インライン検査方法は、電子部品や食品等を製造するラインにおいて、非破壊で連続的に被写体を検査する方法であり、放射線検査装置は、搭載する放射線検出器に対しては放射線を連続的に長時間照射する。その放射線検査装置に、本発明の放射線検査器を用いることにより、連続的な放射線照射の環境下において、輝度劣化が抑制可能なインライン検査方法となる。
【0111】
(オフライン検査)
本発明のオフライン検査方法は、前述の放射線検査装置を用いる。オフライン検査方法は、航空機部材やインフラ設備等の検査において、非破壊で非連続的に被写体を検査する方法である。オフライン検査方法において、被写体の内部構造の検査には、放射線検査装置に搭載された放射線照射部における管電圧が高い方が好ましく、例えば、70kV以上であることが好ましい。管電圧が70kV以上であることにより、被写体を透過する放射線量が高く、放射線検出器で検出できる放射線量が十分量となるため、高輝度な放射線画像を得ることができる。その放射線検査装置に、本発明の放射線検査器を用いることにより、管電圧が高い放射線照射の環境下において、輝度劣化が抑制可能なオフライン検査方法となる。
【実施例】
【0112】
以下に、実施例および比較例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではなく、また、これらの例に限定して解釈されるものではない。
【0113】
各実施例および比較例において用いた材料を以下に示す。また、各材料の特性は以下の方法により測定した。
【0114】
(蛍光体の平均粒子径)
粒度分布測定装置(MT3300;日機装(株)製)の水を満たした試料室に蛍光体を投入し、300秒間超音波処理を行った後に粒度分布を測定し、累積分布に対して50%となる粒子径を平均粒子径とした。
【0115】
(バインダー樹脂のガラス転移温度)
バインダー樹脂を約10mg秤量し、アルミニウム製パンおよびパンカバーを用いて、示差熱分析装置(差動型示差熱天秤TG8120;(株)リガク製)により、窒素雰囲気中20℃から10℃/分の速度で昇温したときの温度プロファイルを測定し、ガラス転移温度を算出した。
【0116】
(バインダー樹脂の重量平均分子量(Mw)および数平均分子量(Mn))
バインダー樹脂2.5mgをテトラヒドロフラン5mLに溶解した樹脂溶液を作製し、ゲル浸透クロマトグラフGPC(GPC-22)と示差屈折率検出器RI(東ソー(株)製、RI-8020型)を用いて、の単分散ポリスチレン(東ソー(株)製)を標準物質とした際の、Mw、Mnを測定した。GPCのカラムは、TSKgel GMHxl((東ソー(株)製)2本と、G2500Hxl(東ソー(株)製)1本とを連結したものを用い、テトラヒドロフラン溶媒を流速1.0mL/分で通した。
【0117】
(バインダー樹脂溶液の透過率)
バインダー樹脂0.25mgを、表1に記載の溶媒9.75mgに溶解した樹脂溶液を作製し、光路長1cmの石英セルに入れた状態で、紫外可視分光光度計((株)日立ハイテク製、U-4000)を用いて、300~800nmの透過率の測定を行った。各樹脂溶液のベースラインは、それぞれ溶媒単独での透過率で補正した。
【0118】
(バインダー樹脂のEg)
表1に示す組合せのバインダー樹脂と溶媒を、5重量%になるように撹拌用容器に入れ、オイルバスを用いて60℃で8時間加熱撹拌してバインダー樹脂溶液を作製した。そのバインダー樹脂溶液を、スピンコーター(MS-B150:ミカサ株式会社製)を用いて、8インチシリコンウェハー上にスピンコート法で塗布し、100℃で5分間ホットプレートにてベークすることで膜厚700nmの乾燥膜を作製した。乾燥膜を分光エリプソメータ装置(FE-5000;大塚電子株式会社製)により、300~800nmに対する消衰係数を測定し、TaucプロットからEgを算出した。
【0119】
(蛍光体ペーストの原料)
蛍光体粉末1:Gd2O2S:Tb(日亜化学工業(株)製:平均粒子径11μm)
蛍光体粉末2:Gd2O2S:Pr(日亜化学工業(株)製:平均粒子径5μm)。
【0120】
バインダー樹脂1:“バイロン”(登録商標)103(π共役系構造の構成原子数:10、一般式(1)に該当、X1:エチレングリコール/ネオペンチルグリコール由来の有機基、Y1:カルボニル基、Ar:フェニレン基、ガラス転移温度:47℃、重量平均分子量:2.3万、ポリエステル樹脂、Eg=3.9、非晶性)(東洋紡(株)製)
バインダー樹脂2:“バイロン”(登録商標)270(π共役系構造の構成原子数:10、一般式(1)に該当、X1:エチレングリコール/ネオペンチルグリコール由来の有機基、Y1:カルボニル基、Ar:フェニレン基、ガラス転移温度:67℃、重量平均分子量:2.3万、ポリエステル樹脂、Eg=3.9、非晶性)(東洋紡(株)製)
バインダー樹脂3:“Uポリマー”(登録商標)Dタイプ(π共役系構造の構成原子数:10、一般式(1)に該当、X1:ビスフェノールA由来の有機基、Y1:カルボニル基、Ar:フェニレン基、ガラス転移温度:193℃、重量平均分子量:6万、ポリアリレート樹脂、Eg=3.5、非晶性)(ユニチカ(株)製)
バインダー樹脂4:“グリルアミド”(登録商標)TR55(π共役系構造の構成原子数:10、一般式(1)に該当、X1:4,4’-ジアミノ-3,3’-ジメチルジシクロヘキシルメタン由来の有機基、Y1:カルボニル基、Ar:フェニレン基、ガラス転移温度:160℃、重量平均分子量:1.8万、ポリアミド樹脂、Eg=4.1、非晶性)(エムスケミ―・ジャパン(株)製)
バインダー樹脂5:“バイロマックス”(登録商標)HR-15ET(π共役系構造の構成原子数:10、一般式(2)に該当、X2:ジフェニルエーテル由来の有機基、t=1、Y2:アミド基、Ar:フェニル基に由来する基、ガラス転移温度:260℃、重量平均分子量:0.8万、ポリアミドイミド樹脂、Eg=3.5、非晶性)(東洋紡(株)製)
バインダー樹脂6:“エスレック”(登録商標)BL-1(π共役系構造の構成原子数:0、一般式(1)、(2)に非該当、ガラス転移温度:70℃、重量平均分子量:1.9万、ブチラール樹脂、Eg=3.6、非晶性)(積水化学工業(株)製)
バインダー樹脂7:“バイロン”(登録商標)630(π共役系構造の構成原子数:10、一般式(1)に該当、X1:エチレングリコール/ネオペンチルグリコール由来の有機基、Y1:カルボニル基、Ar:フェニレン基、ガラス転移温度:7℃、重量平均分子量:2.3万、ポリエステル樹脂、Eg=3.9、非晶性)(東洋紡(株)製)
バインダー樹脂8:“ユーピロン”(登録商標)H-4000(π共役系構造の構成原子数:6、一般式(1)、(2)に非該当、ガラス転移温度:146℃、重量平均分子量:3.0万、ポリカーボネート樹脂、Eg=4.4、非晶性)(三菱エンジニアプラスチック(株)製)
バインダー樹脂9:“パラペット”(登録商標)GH-S(π共役系構造の構成原子数:0、一般式(1)、(2)に非該当、ガラス転移温度:104℃、重量平均分子量:8.1万、アクリル樹脂、Eg=4.7、非晶性)(クラレ(株)製)
バインダー樹脂10:スチレンポリマー(π共役系構造の構成原子数:6、一般式(1)、(2)に非該当、ガラス転移温度:100℃、重量平均分子量:20万、ポリスチレン、Eg=4.4、非晶性)(富士フィルム和光純薬(株)製)。
【0121】
(バインダー樹脂溶液の調製)
各バインダー樹脂と溶媒を、表1に示す割合になるように撹拌用容器に入れ、オイルバスを用いて60℃で8時間加熱撹拌してバインダー樹脂溶液1~10を得た。
【0122】
(ガラス粉末含有ペーストの原料)
感光性モノマーM-1 : トリメチロールプロパントリアクリレート
感光性モノマーM-2 : テトラプロピレングリコールジメタクリレート
感光性ポリマー1 : メタクリル酸/メタクリル酸メチル/スチレン=40/40/30の質量比からなる共重合体のカルボキシル基に対して0.4当量のグリシジルメタクリレートを付加反応させたもの(重量平均分子量43000;酸価100)
光重合開始剤1 : 2-ベンジル-2-ジメチルアミノ-1-(4-モルフォリノフェニル)ブタノン-1(BASF社製)
重合禁止剤1 : 1,6-ヘキサンジオール-ビス[(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート])
紫外線吸収剤溶液1 : スダンIV(東京応化工業(株)製)のγ-ブチロラクトン0.3質量%溶液
粘度調整剤1 : “フローノン”(登録商標)EC121(共栄社化学(株)製)
溶媒1 : γ-ブチロラクトン
低軟化点ガラス粉末1 : SiO2 27質量%、B2O3 31質量%、ZnO 6質量%、Li2O 7質量%、MgO 2質量%、CaO 2質量%、BaO 2質量%、Al2O3 23質量%、屈折率(ng)1.56、ガラス軟化温度588℃、熱膨張係数70×10-7(K-1)、平均粒子径2.3μm。
【0123】
(ガラス粉末含有ペーストの作製)
4質量部の感光性モノマーM-1、6質量部の感光性モノマーM-2、24質量部の感光性ポリマー1、6質量部の光重合開始剤1、0.2質量部の重合禁止剤1及び12.8質量部の紫外線吸収剤溶液1を、38質量部の溶媒2に添加し、温度80℃で加熱溶解した。得られた溶液を冷却した後、9質量部の粘度調整剤1を添加して、有機溶液1を得た。50質量部の有機溶液1に、50質量部の前記低軟化点ガラス粉末を添加した後、3本ローラー混練機にて混練し、ガラス粉末含有ペースト1を得た。
【0124】
(発光強度の減衰時間の評価)
各実施例および比較例において作製したシンチレータパネルに対し、管電圧70kVpのX線で曝射し、その発光量の時間変化を、光ファイバー(PLG-1-3000-8R(日本ピー・アイ(株)製))、フォトダイオード(S2281-01(浜松ホトニクス(株)製))およびフォトセンサアンプ(C9329(浜松ホトニクス(株)製))から構成される装置を用いて測定した。その後、X線照射を止めた時点での発光強度に対して、発光強度が1/eになるまでに要した時間を算出した。
【0125】
(明度L*、色度a*、b*の評価)
各実施例および比較例において作製したシンチレータパネルに対し、シンチレータ層表面に分光測色計CM-2600D(コニカミノルタ(株)製)を設置し、400~700nmにおける明度L*、色度a*、b*をSCI方式により測定した。
【0126】
(輝度の評価)
各実施例および比較例において作製したシンチレータパネルを、市販のFPD(Paxscan2520V(Varian社製))に設置して、X線検出器を作製した。管電圧70kVpの放射線を、シンチレータパネルの基材側から照射して、シンチレータパネルの輝度をFPDで検出した。輝度は、設定した入射線量に対する画像のデジタル値から算出した。実施例1~7および比較例1~7は比較例1の輝度を100%とし、実施例8~11および比較例8~9は比較例8の輝度を100%とし、実施例12~16および比較例10~14は、比較例10の輝度を100%とし、実施例17~19および比較例15~16は比較例15の輝度を100%として、それぞれ相対比較を行った。
【0127】
(放射線連続照射による輝度劣化評価)
各実施例および比較例において作製したシンチレータパネルに対して、線量率が3kGy/hになる条件で、放射線を14日間連続照射した。照射後のシンチレータパネルは、前述した方法でX線検出器を作製し、シンチレータパネルの輝度をFPDで検出した。輝度は、設定した入射線量に対する画像のデジタル値から算出した。各実施例および比較例における放射線連続照射前の輝度を100%とし、照射後の輝度の相対値を算出した。
【0128】
(シンチレータ層の支持体との密着強度)
各実施例および比較例において作製したシンチレータパネルのシンチレータ層に粘着力5N/25mmの粘着テープを貼りつけ、剥離角90°に保った状態でテープを剥離し、シンチレータ層の欠けや割れ、支持体からの剥離の有無を観察した。この試験を50回繰り返し、シンチレータ層に欠け・割れや剥離が認められない試験回数の最大値を密着強度とした。20回剥離後にもシンチレータ層に欠け・割れや剥離が認められないものをA、20回剥離までにシンチレータ層の剥離が認められないものをB、5回までにシンチレータ層の剥離が認められるものをCと評価した。
【0129】
(放射線連続照射による密着強度劣化評価)
各実施例および比較例において作製したシンチレータパネルに対して、線量率が3kGy/hになる条件で、放射線を14日間連続照射した。照射後のシンチレータパネルは、前述した方法で、シンチレータ層と支持体との密着強度を評価した。
【0130】
(実施例1)
各原料を、表2に記載の比率で攪拌容器に加えて混合し、遊星式撹拌脱泡装置(“マゼルスター”(登録商標)KK-400;倉敷紡績(株)製)を用いて、回転数1000rpmで20分間撹拌脱泡して、蛍光体ペーストA-1を得た。得られた蛍光体ペースト1を、ダイコーターを用いて、乾燥後の膜厚が200μmになるように基板E20(白色PETフィルム;東レ(株)製)に塗布し、70℃で180分間加熱乾燥し、基材上にシンチレータ層が形成されたシンチレータパネルを得た。
【0131】
(実施例2~11、比較例1~9)
蛍光体ペーストA-1の代わりに、表2~4に記載の蛍光体ペーストを用いたこと以外は実施例1と同様にしてシンチレータパネルを得た。
【0132】
(実施例12)
(基材上への隔壁の作製)
基材として、125mm×125mm×0.7mmのソーダガラス板を用いた。基材の表面に、ガラス粉末含有ペースト1を、乾燥後の厚さが220μmになるようにダイコーターで塗布して乾燥し、ガラス粉末含有ペースト1の塗布膜を得た。次に、所望のパターンに対応する開口部を有するフォトマスク(ピッチ127μm、線幅15μmの、格子状開口部を有するクロムマスク)を介して、ガラス粉末含有ペースト1の塗布膜を、超高圧水銀灯を用いて300mJ/cm2の露光量で露光した。露光後の塗布膜は、0.5質量%のエタノールアミン水溶液中で現像し、未露光部分を除去して、格子状のパターンを得た。得られた格子状のパターンを、空気中580℃で15分間焼成して、ガラスを主成分とする、格子状の隔壁を形成した。
【0133】
(反射層の形成)
市販のスパッタ装置、およびスパッタターゲットを用い、上記隔壁が形成された基板に対して反射層としての金属膜の形成を行った。金属膜の厚みは、隔壁が形成された基板の近傍にガラス平板を配置して、該ガラス平板上における金属膜の厚みが300nmとなる条件でスパッタを実施した。スパッタターゲットには、パラジウムおよび銅を含有する銀合金であるAPC((株)フルヤ金属製)を用いた。金属反射層を形成後、同一の真空バッチ中で、保護層としてSiNをガラス基板上における厚みが100nmとなるように形成した。
【0134】
(有機保護層の形成)
非晶性フッ素含有樹脂として“CYTOP”(登録商標)CTL-809M(AGC(株)製)の1質量部に対し、溶媒としてフッ素系溶剤CT-SOLV180(AGC(株)製)を1質量部混合して樹脂溶液を作製した。
【0135】
この樹脂溶液を金属反射層と無機保護層を形成した隔壁基板に真空印刷した後、90℃で1h乾燥し、さらに190℃で1hキュアして有機保護層を形成した。トリプルイオンミリング装置EMTIC3X(LEICA社製)を用いて隔壁断面を露出させ、電界放射型走査電子顕微鏡(FE-SEM)Merlin(カールツァイス(株)製)で撮像して測定した、隔壁基板における隔壁の高さ方向中央部側面の有機保護層の厚みは1μmであった。
【0136】
実施例1と同様にして蛍光体ペーストA-11を作製した。得られた蛍光体ペーストA-11を、真空印刷により反射層付き隔壁基板に充填し、150℃で30分乾燥し、隔壁内部にシンチレータ層が形成されたシンチレータパネルを得た。
【0137】
(実施例13~19、比較例10~16)
蛍光体ペーストA-11の代わりに、表5~6に記載の蛍光体ペーストを用いたこと以外は実施例12と同様にしてシンチレータパネルを得た。
【0138】
各実施例および比較例の構成と結果を表2~6に示す。
【0139】
【0140】
【0141】
【0142】
【0143】
【0144】
【符号の説明】
【0145】
1 X線検出器
2 シンチレータパネル
3 出力基板
4 シンチレータ層
5 基材
6 蛍光体
7 バインダー樹脂
8 隔膜層
9 光電変換層
10 出力層
11 基板
12 電源部
13 隔壁