(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-06-10
(45)【発行日】2025-06-18
(54)【発明の名称】全固体電池の蓄電デバイス
(51)【国際特許分類】
H01M 50/317 20210101AFI20250611BHJP
H01M 10/0562 20100101ALI20250611BHJP
H01M 50/105 20210101ALI20250611BHJP
H01M 50/375 20210101ALI20250611BHJP
【FI】
H01M50/317 101
H01M10/0562
H01M50/105
H01M50/375
(21)【出願番号】P 2022149545
(22)【出願日】2022-09-20
【審査請求日】2023-12-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山本 邦光
【審査官】渡部 朋也
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-120852(JP,A)
【文献】特開2018-073802(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0054121(US,A1)
【文献】特許第6954511(JP,B1)
【文献】特開2017-168221(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2015-0012531(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 50/30-50/392
H01M 10/0562
H01M 50/105
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極層、固体電解質層、負極層を積層させて全固体電池素子を構成する蓄電セルと、
少なくとも一つの前記蓄電セルが収容された筐体と、
前記筐体の側面に設けられ、該筐体の内外を連通させる通気口と、
前記筐体内の圧力値及び温度値の少なくとも一方に基づいて、前記通気口を開閉可能に構成された開閉弁と、
前記開閉弁の開閉を制御する弁制御部と、
を有し、
前記弁制御部は、前記筐体内の圧力値及び温度値の少なくとも一方が、前記蓄電セルの急激な温度上昇を検知するために設けた第1閾値以上である場合に前記開閉弁を開放すると共に、第1閾値に基づいて前記開閉弁を開放した後、前記筐体内の圧力値及び温度値の少なくとも一方が第1閾値よりも低く、前記筐体の変形を回避するために設定された第2閾値未満となった場合に、前記開閉弁を閉塞
し、
前記筐体は、ラミネートフィルムから成る外装体で構成されている、全固体電池の蓄電デバイス。
【請求項2】
正極層、固体電解質層、負極層を積層させて全固体電池素子を構成する蓄電セルと、
少なくとも一つの前記蓄電セルが収容された筐体と、
前記筐体の側面に設けられ、該筐体の内外を連通させる通気口と、
前記筐体内の圧力値及び温度値の少なくとも一方に基づいて、前記通気口を開閉可能に構成された開閉弁と、
前記開閉弁の開閉を制御する弁制御部と、
を有し、
前記弁制御部は、前記筐体内の圧力値及び温度値の少なくとも一方が、前記蓄電セルの急激な温度上昇を検知するために設けた第1閾値以上である場合に前記開閉弁を開放すると共に、第1閾値に基づいて前記開閉弁を開放した後、前記筐体内の圧力値及び温度値の少なくとも一方が第1閾値よりも低く、前記筐体の変形を回避するために設定された第2閾値未満となった場合に、前記開閉弁を閉塞し、また、第2閾値に基づいて前記開閉弁を閉塞した後、前記筐体内の温度傾きが負であり、且つ、温度値が前記蓄電セルから生じ得る可燃性ガスの発火温度未満である場合に、前記開閉弁を開放する、全固体電池の蓄電デバイス。
【請求項3】
前記開閉弁は、前記筐体の側面に沿ってスライドし、前記通気口の開閉を行うように構成されている、請求項1又は請求項2に記載の全固体電池の蓄電デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、全固体電池の蓄電デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、リチウムイオン二次電池等の蓄電デバイスの内部ガス放出口の外側に設けられる発火防止装置が開示されている。この発火防止装置では、通気性を有するケーシングに可燃性ガスの発火及び/又は火炎の抑制剤を充填し、蓄電デバイスの内部ガス放出口から吐出する可燃性ガスを抑制剤に接触させることで、内部ガスの濃度及び温度の低下や火炎の消化を行う。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、近年、電気自動車(EV)、ハイブリッド自動車(HV)、プラグインハイブリッド自動車(PHV)等の車両駆動用電源等として、固体状の固体電解質を用いたいわゆる全固体電池の実用化が精力的に進められている。
【0005】
全固体電池の実用化においては、正極層、固体電解質層、負極層を積層させて全固体電池素子を構成する少なくとも一つの蓄電セルを筐体に収容し、蓄電デバイスとすることが検討されている。このようなデバイス構造では、従来の液体状の電解質を用いたリチウムイオン二次電池等と比べて蓄電セルの薄型化が容易であるため、デバイスの小型化と大容量化との両立が期待されている。
【0006】
しかしながら、上記全固体電池の蓄電デバイスに特許文献1に記載された発火防止装置を適用すると、蓄電セルの急激な温度上昇時の抑制剤を配置するスペースを確保するために、蓄電セルを収容する筐体が大型化し、期待される構造効率の弊害となる場合がある。
【0007】
本発明は上記事実を考慮し、蓄電セルの異常温度上昇時における安全性を担保した上で構造効率を向上させることができる全固体電池の蓄電デバイスを得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
第1の態様に係る全固体電池の蓄電デバイスは、正極層、固体電解質層、負極層を積層させて全固体電池素子を構成する蓄電セルと、少なくとも一つの前記蓄電セルが収容された筐体と、前記筐体の側面に設けられ、該筐体の内外を連通させる通気口と、前記筐体内の圧力値及び温度値の少なくとも一方に基づいて、前記通気口を開閉可能に構成された開閉弁と、前記開閉弁の開閉を制御する弁制御部と、を有し、前記弁制御部は、前記筐体内の圧力値及び温度値の少なくとも一方が、前記蓄電セルの急激な温度上昇を検知するために設けた第1閾値以上である場合に前記開閉弁を開放すると共に、第1閾値に基づいて前記開閉弁を開放した後、前記筐体内の圧力値及び温度値の少なくとも一方が第1閾値よりも低く、前記筐体の変形を回避するために設定された第2閾値未満となった場合に、前記開閉弁を閉塞する。
【0009】
第1の態様に係る全固体電池の蓄電デバイスでは、筐体の内外を連通させる通気口に開閉弁が設けられている。この開閉弁は、筐体内の圧力値及び温度値の少なくとも一方に基づいて、通気口を開閉させる。これにより、セルの急激な温度上昇時においても、上記開閉弁の開閉により筐体の内部圧力を調整することができ、筐体の破損等を回避できる。また、蓄電セルと筐体との間に蓄電セルの温度上昇を抑制する抑制剤を配置する必要がなく、筐体の薄型化、省スペース化が容易である。これにより、蓄電セルの異常温度上昇時における安全性を担保した上で構造効率を向上させることができる。
【0010】
また、第1の態様に係る全固体電池の蓄電デバイスは、前記開閉弁の開閉を制御する弁制御部を更に備え、前記弁制御部は、前記筐体内の圧力値及び温度値の少なくとも一方が、前記蓄電セルの急激な温度上昇を検知するために設けた第1閾値以上である場合に前記開閉弁を開放すると共に、第1閾値に基づいて前記開閉弁を開放した後、前記筐体内の圧力値及び温度値の少なくとも一方が第1閾値よりも低く、前記筐体の変形を回避するために設定された第2閾値未満となった場合に、前記開閉弁を閉塞する。
【0011】
このように、第1の態様に係る全固体電池の蓄電デバイスでは、蓄電セルの急激な温度上昇を検知して開閉弁を開放させることができるため、筐体の内部圧力の急上昇による筐体の破損を抑制することができる。また、第1の態様に係る全固体電池の蓄電デバイスでは、蓄電セルの急激な温度上昇に伴って開閉弁を開放状態にした後、筐体の変形を回避することができる状態まで内部圧力が低下した場合に、開閉弁が再び閉塞される。これにより、筐体内が再び密閉された空間となり、開閉弁の開放により筐体の外部の空気が導入されることによる発火のリスクを低減させることができる。
【0012】
第2の態様に係る全固体電池の蓄電デバイスは、第1の態様において、前記筐体は、ラミネートフィルムから成る外装体で構成されている。
【0013】
第2の態様に係る全固体電池の蓄電デバイスでは、ラミネートフィルムから成る外装体で筐体が構成されることにより、蓄電セルと筐体との間に設けられる間隙を最小限に抑えることができ、構造効率をより一層向上させることができる。
【0014】
第3の態様に係る全固体電池の蓄電デバイスは、第1の態様又は第2の態様において、前記開閉弁は、前記筐体の側面に沿ってスライドし、前記通気口の開閉を行うように構成されている。
【0015】
第3の態様に係る全固体電池の蓄電デバイスでは、開閉弁が筐体の側面に沿ってスライドするため、開閉弁の可動スペースを確保するために筐体が大型化することが抑制される。
【0018】
第4の態様に係る全固体電池の蓄電デバイスは、第1の態様において、前記弁制御部は、第2閾値に基づいて前記開閉弁を閉塞した後、前記筐体内の温度傾きが負であり、且つ、温度値が前記蓄電セルから生じ得る可燃性ガスの発火温度未満である場合に、前記開閉弁を開放する。
【0019】
第4の態様に係る全固体電池の蓄電デバイスでは、筐体内の温度傾きが負であり、且つ、筐体内の温度値が蓄電セルから生じ得る可燃性ガスの発火温度未満である場合に、開閉弁を再び開放する。これにより、安全性を担保した上で筐体の内部の高温ガスを排出することができるため、筐体内の温度を効率的に下げることができる。
【発明の効果】
【0020】
以上説明したように、本発明に係る全固体電池の蓄電デバイスは、蓄電セルの異常温度上昇時における安全性を担保した上で構造効率を向上させることができると共に、筐体の内部圧力の急上昇による筐体の破損を抑制することができ、さらに、開閉弁の開放により筐体の外部の空気が導入されることによる発火のリスクを低減させることができる、という優れた効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】実施形態に係る蓄電デバイスを備える車両を示す模式図である。
【
図2】
図1に示される蓄電デバイスの模式図である。
【
図3】
図2に示される蓄電セルの積層構造を示す縦断面図である。
【
図4】
図2に示される開閉弁の動作を説明するための模式図であって、(A)には、開閉弁の開放状態が示されており、(B)には、開閉弁の閉塞状態が示されている。
【
図6】弁制御ECUが実行する弁開閉処置の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、
図1~
図6を参照して、本発明の一実施形態に係る蓄電デバイス20について説明する。
【0023】
図1に示される車両10は、蓄電デバイス20、弁開閉制御ECU40及び駆動源50を備える。車両10は、走行用の駆動源50として図示しない電動モータを備え、当該電動モータは、蓄電デバイス20に蓄電された電力を利用して駆動する。
【0024】
図2に示されるように、蓄電デバイス20は、全固体電池素子を構成する複数の蓄電セル30と、複数の蓄電セル30が収容される筐体22とを含んで構成されている。筐体22の側面22A(
図2では上面側)には、筐体22の内外を連通させる通気口24(
図4参照)と、通気口24の開閉を行う開閉弁60が設けられている。
【0025】
また、筐体22の内部には、筐体内の圧力値を検出する圧力センサ52と、筐体内の温度値を検出する温度センサ54が設けられている。
【0026】
図3に示されるように、各々の蓄電セル30は、リチウムイオン二次電池であり、正極層30P、固体電解質層33、負極層30Nを積層させて全固体電池素子を構成している。なお、
図3では、蓄電セル30の各層の積層方向H1と、各層の面方向W1が示されている。
【0027】
正極層30Pは、正極集電タブ31Aを有する正極集電体層31と正極活物質層32で構成される。負極層30Nは、負極活物質層34と負極集電タブ35Aを有する負極集電体層35で構成される。
【0028】
正極集電体層31の構成材料は、例えばSUS、アルミニウム、銅、ニッケル、鉄、チタン、又はカーボンであるがこれらに限定されない。
【0029】
正極活物質層32は少なくとも正極活物質を含む。正極活物質の材料は、例えば、コバルト酸リチウム(LiCoO2)、ニッケル酸リチウム(LiNiO2)、マンガン酸リチウム(LiMn2O4)であるが、これらに限定されない。
【0030】
固体電解質層33は、少なくとも固体電解質を含む。固体電解質の材料は、特に限定されず、全固体電池の固体電解質として利用可能な材料を用いることができる。
【0031】
負極活物質層34は、チタン酸リチウム(LTO)、LTO粒子同士を結合させる結着材、及び導電助剤を含む。
【0032】
負極集電体層35に用いられる材料は、例えば正極集電体層31に用いられる材料である。
【0033】
蓄電セル30は、正極集電体層31、正極活物質層32、固体電解質層33、負極活物質層34及び負極集電体層35が、この順に積層されて、一つの全固体電池素子を構成している。なお、
図3は、一つの蓄電セル30が一つの全固体電池素子を備える構成を図示しているが、これに限らず、一つの蓄電セルが複数の全固体電池素子の積層体で構成されてもよい。この場合、隣接する全固体電池素子間で正極集電体層31及び負極集電体層35を共有し、各層の積層順を互いに逆方向として複数個が積層される構成としてもよい。
【0034】
筐体22は、蓄電デバイス20の高さ方向に扁平な矩形状に形成されている。この筐体の材料は、金属材料や樹脂材料などを適宜採用することができるが、本実施形態の一例では、ラミネートフィルムから成る外装体で構成されている。
【0035】
ラミネートフィルムは、金属箔の片面又は両面に樹脂フィルムを有する樹脂ラミネート金属箔で構成される。樹脂ラミネート金属箔は、例えば、金属箔の片方の面に機械的強度を付与するための樹脂フィルムが積層され、且つ、反対側の面にヒートシール性を有する樹脂フィルムが積層されている。
【0036】
樹脂ラミネート金属箔における金属箔は、例えば、アルミニウム、アルミニウム合金等から成る箔であってよい。機械的強度を維持するための樹脂フィルムは、例えば、ポリエステル、ナイロン等から成るフィルムであってよい。ヒートシール性を有する樹脂フィルムは、例えば、ポリオレフィン等から成るフィルムであってよく、具体的には例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン等から成るフィルムであってよい。
【0037】
かかる筐体22は、二枚のラミネートフィルムを、ヒートシール性を有する樹脂フィルムが内側となるように対向させ、その間隙に蓄電セル30を配置する。ラミネートフィルムの外周4辺を、ヒートシールによって封止して、袋状の外装体を成形する。これにより、蓄電セル30が、ラミネートフィルムから成る外装体内に収容される。
【0038】
図4(A)及び
図4(B)に示されるように、開閉弁60は、筐体22の側面22Aに設けられた通気口24に取り付けられており、後述する弁制御ECU40によって開閉が制御されている。開閉弁60は、例えば、公知のスライドバルブで構成され、通気口24を塞ぐ閉塞位置(
図4(A))と通気口24を開放する開放位置(
図4(B))との間で筐体22の側面に沿って摺動する摺動子62と、該摺動子62を駆動させる電動のアクチュエータ56とを含んで構成される。
【0039】
開閉弁60の閉塞状態では、摺動子62が
図4(A)に示す閉塞位置に配置される。この状態では、筐体22の通気口が摺動子62によって塞がれて、筐体22が密閉される。一方、開閉弁60の解放雄状態では、摺動子62が
図4(B)に示す開放位置に配置される。この状態では、筐体22の通気口24が開放され、通気口24を介して筐体22の内外が連通される。
【0040】
上記開閉弁60は、弁制御ECU40によって開閉が制御される。以下、弁制御ECU40の構成について説明する。
【0041】
図5に示されるように、弁制御ECU40は、ハードウェア構成としての、CPU(Central Processing Unit)41、ROM(Read Only Memory)42、RAM(Random Access Memory)43、ストレージ44、通信インタフェース(I/F)45及び入出力インタフェース(I/F)46を含んで構成されている。CPU41、ROM42、RAM43、ストレージ44、通信I/F45及び入出力I/F46は、内部バス47を介して相互に通信可能に接続されている。
【0042】
CPU41は、中央演算処理ユニットであり、各種プログラムを実行したり、各部を制御したりする。CPU41は、ROM42又はストレージ44からプログラムを読み出し、RAM43を作業領域としてプログラムを実行する。CPU41は、ROM42又はストレージ44に記録されているプログラムに従って、各構成の制御及び各種の演算処理を行う。
【0043】
ROM42は、各種プログラム及び各種データを格納する。RAM43は、作業領域として一時的にプログラム又はデータを記憶する。ストレージ44は、HDD(Hard Disk Drive)又はSSD(Solid State Drive)等の記憶装置により構成され、各種プログラム及び各種データを格納する。
【0044】
通信I/F45は、弁制御ECU40が他の機器と通信するためのインタフェースである。
【0045】
入出力I/F46は、車両10に搭載される各装置と通信するためのインタフェースである。本実施形態では、圧力センサ52、温度センサ54及びアクチュエータ56が入出力I/F46に、接続されている。
【0046】
また、弁制御ECU40は、機能構成としての、取得部410と弁制御部420を有する。取得部410及び弁制御部420の機能は、CPU41がROM42に記憶されたプログラムを読み出し、実行することにより実現される。
【0047】
取得部410は、圧力センサ52で検出される筐体22内の圧力値、及び、温度センサ54で検出される筐体22内の温度値に関する情報を取得する。
【0048】
弁制御部420は、取得部410で取得される筐体22内の圧力値及び温度値の少なくとも一方に基づいて開閉弁60の開閉を制御する。具体的に、本実施形態では、筐体22内の圧力値及び温度値の少なくとも一方に基づいて、筐体22の内部環境を推察するための段階的な閾値が設けられている。
【0049】
ここで、筐体22内の一部の蓄電セル30の過充電等により筐体22内に可燃性のガスが発生し、これが引き金となって回路が短絡することで蓄電セル30が急激に温度上昇する場合がある。このような温度上昇で蓄電セル30が発火するに至ると、発火直後において1000度[C]を超える高温となり、その後、急激に温度が低下することが分かっている。
【0050】
かかる現象の際は、発火直後の温度上昇により筐体22内の圧力が筐体22の破裂耐圧力を超える場合があり、筐体22内の圧力を迅速に下げて筐体22の破損を回避することが安全性を担保する上で重要となる。
【0051】
弁制御部420は、上記のような蓄電セル30の異常発生時を想定し、筐体22内の圧力値及び温度値の少なくとも一方が、蓄電セル30の急激な温度上昇を検知するために設けられた第1閾値以上である場合に、アクチュエータ56を駆動させて開閉弁60を開放状態にする。これにより、筐体22の内部圧力を下げて、筐体22の破損を回避する。
【0052】
この第1閾値は、筐体22内の温度値に基づいて、蓄電セル30の発火直後の温度に設定されてもよいし、筐体22内の圧力値に基づいて、筐体22の破裂耐圧力も設定されてもよく、これらの組み合わせにより設定されてもよい。
【0053】
また、弁制御部420は、第1閾値に基づいて開閉弁60を開放した後、筐体22内の圧力値及び温度値の少なくとも一方が、第1閾値よりも低く、筐体22の変形を回避するために設定された第2閾値未満になった場合は、開閉弁60を再び閉塞状態にする。これにより、筐体22を密閉し、外気を遮断することにより、蓄電セル30の発火抑制又は消化を行うことができる。
【0054】
この第2閾値は、筐体22内の温度値に基づいて設定されてもよく、筐体22内の圧力値に基づいて設定されてもよく、これらの組み合わせにより設定されてもよい。
【0055】
更に、弁制御部420は、第2閾値に基づいて開閉弁60を閉塞した後、所定の時間内における筐体22内の温度傾きが負であり、且つ、筐体22内の温度値が蓄電セル30から生じ得る可燃性ガスの発火温度未満である場合に、開閉弁60を開放する。これにより、安全性を担保した上で筐体22の内部の高温ガスを排出することができるため、筐体22内の温度を効率的に下げることができる。
【0056】
次に、弁制御ECU40で実行される弁開閉処理の一例を
図6に示すフローチャートを参照して説明する。この弁制御処理は、CPU41がRO42又はストレージ44からプログラムを読み出して、RAM43で展開して実行することによって行われる。
【0057】
図6に示されるように、CPU41は、ステップS101で、筐体22内の圧力値及び温度値の少なくとも一方が、第1閾値以上であるか否かについて判定する。具体的に、CPU41は、取得部410と弁制御部420の機能により、圧力値及び温度値の少なくとも一方が、第1閾値以上であると判断した場合に、ステップS102へ進む。
【0058】
ステップS102において、CPU41は、蓄電セル30で急激な温度上昇が発生していると判断し、開閉弁60を開放する。これにより、筐体22の内部圧力を下げ、内部圧力の上昇による筐体22の破損を回避する。
【0059】
一方、ステップS103では、CPU41は、蓄電セル30で異常が検出されなかったと判断して、開閉弁60を作動させない。
【0060】
ステップS104で、CPU41は、筐体22内の圧力値及び温度値の少なくとも一方が、第2閾値未満であるか否かについて判定する。CPU41は、圧力値及び温度値の少なくとも一方が、第2閾値未満であると判断した場合に、ステップS105に進む。
【0061】
ステップS105で、CPU41は、開閉弁60を閉塞しても筐体22が変形されないと判断して、開閉弁60を再び閉塞する。これにより、筐体22内の蓄電セル30が外部の空気と接触することによる発火を抑制することができる。また、筐体22内を再び密閉空間とすすることで、火炎を消化することができる。
【0062】
一方、ステップS104で第2閾値以上であると判断された場合は、ステップS102の処理に戻る。
【0063】
ステップS106で、CPU41は、所定の時間内にあける筐体22の内部の温度傾きが負であり、且つ、可燃性ガスの発火温度未満であるか否かを判定する。即ち、CPU41は、ステップS106で筐体22の内部の温度が減少し続け、且つ、内部温度が可燃性ガスの発火温度未満である場合は、開閉弁60を開放しても蓄電セル30が発火しないと判断し、ステップS107に進む。
【0064】
」
ステップS107で、CPU41は、開閉弁60を開放し、筐体22内の高温ガスを排出して再びステップS102の処理に戻る。
【0065】
一方、ステップS106で否定的な判定がされた場合は、CPU41は、筐体22内で発火が継続されている可能性があると考え、ステップS105の処理に戻る。
【0066】
(作用並びに効果)
以上説明したように、本実施形態に係る蓄電デバイス20では、筐体22の内外を連通させる通気口24に開閉弁60が設けられている。この開閉弁60は、筐体22内の圧力値及び温度値の少なくとも一方に基づいて、通気口24を開閉させる。これにより、蓄電セル30の急激な温度上昇時においても、上記開閉弁60の開閉により筐体22の内部圧力を調整することができ、筐体22の破損等を回避できる。また、蓄電セル30と筐体22との間に蓄電セル30の温度上昇を抑制する抑制剤を配置する必要がなく、筐体22の薄型化、省スペース化が容易である。これにより、蓄電セル30の異常温度上昇時における安全性を担保した上で構造効率を向上させることができる。
【0067】
また、本実施形態では、ラミネートフィルムから成る外装体で筐体22が構成されることにより、蓄電セル30と筐体22との間に設けられる間隙を最小限に抑えることができる。これにより、構造効率をより一層向上させることができる。
【0068】
また、本実施形態では、開閉弁60が筐体22の側面に沿ってスライドするため、開閉弁60の可動スペースを確保するために筐体22が大型化することが抑制される。
【0069】
また、本実施形態では、蓄電セル30の急激な温度上昇を検知して開閉弁60を開放させることができるため、筐体22の内部圧力の急上昇による筐体22の破損を抑制することができる。
【0070】
また、本実施形態では、蓄電セル30の急激な温度上昇に伴って開閉弁60を開放状態にした後、筐体22の変形を回避することができる状態まで内部圧力が低下した場合に、開閉弁60が再び閉塞される。これにより、筐体22内が再び密閉された空間となり、開閉弁60の開放により筐体22の外部の空気が導入されることによる発火のリスクを低減させることができる。
【0071】
また、本実施係形態では、筐体内の温度傾きが負であり、且つ、筐体内の温度値が蓄電セルから生じ得る可燃性ガスの発火温度未満である場合に、開閉弁を再び開放する。これにより、安全性を担保した上で筐体の内部の高温ガスを排出することができるため、筐体内の温度を効率的に下げることができる。
[補足説明]
【0072】
以上、本発明の位置実施形態について説明したが、本発明はこれに限らない。本発明の各構成は、その要旨を逸脱しない範囲において、種々の変更を行い実施することが可能である。
【符号の説明】
【0073】
20 蓄電デバイス
22 筐体
22A 側面
24 通気口
30 蓄電セル
30P 正極層
30N 負極層
33 固体電解質層
60 開閉弁
420 弁制御部