(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-06-10
(45)【発行日】2025-06-18
(54)【発明の名称】車載カメラの光軸位置調整方法及び光軸位置調整具
(51)【国際特許分類】
G03B 17/56 20210101AFI20250611BHJP
B60R 1/24 20220101ALI20250611BHJP
G03B 15/00 20210101ALI20250611BHJP
【FI】
G03B17/56 Z
B60R1/24
G03B15/00 V
G03B15/00 T
(21)【出願番号】P 2022182847
(22)【出願日】2022-11-15
【審査請求日】2024-06-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003199
【氏名又は名称】弁理士法人高田・高橋国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】飯田 大貴
(72)【発明者】
【氏名】立住 優介
【審査官】越河 勉
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-051786(JP,A)
【文献】特開2001-285681(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2001/0012985(US,A1)
【文献】特開2003-312376(JP,A)
【文献】特開2020-176921(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第111824021(CN,A)
【文献】特開2017-170606(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G03B 17/56
B60R 1/24
G03B 15/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両に搭載されたカメラの光軸位置調整を行うためのターゲットボードと、
前記ターゲットボードを支持する脚部と、
平面視において前記車両の車幅の中心を通る車両中心線と、平面視において前記脚部の幅の中心を通る脚部中心線と、を一致させるように
、前記脚部を
平面視において前記車両中心線が通る前記車両
の所定部位に接続する設置補助治具と、を備え
、
前記脚部は、平面視において、前記脚部中心線と、前記ターゲットボードの幅方向の中心を通るターゲットボード中心線とが重なるように前記ターゲットボードを支持し、
前記設置補助治具は、前記脚部に沿って鉛直方向にスライド可能に設けられ、前記脚部と前記所定部位とを前記ターゲットボードが延在する面に垂直な軸を中心に回転可能に接続すること
を特徴とする光軸位置調整具。
【請求項2】
前記
所定部位は、前記車両の前方に備わるエンブレム
であることを特徴とする
請求項1に記載の光軸位置調整具。
【請求項3】
地面に対してターゲットボードが垂直になるように前記ターゲットボードを支持する脚部を前記地面に対して設置するステップと、
平面視において車両の車幅の中心を通る車両中心線と、平面視において前記脚部の幅の中心を通る脚部中心線と、を一致させるように
、平面視において前記車両中心線が通る前記車両
の所定部位と前記脚部とを設置補助治具を用いて接続するステップと、
前記設置補助治具を用いて前記車両に接続された前記ターゲットボードを用いて、前記車両に搭載されたカメラの光軸位置調整を行うステップと、
を備え
、
前記脚部は、平面視において、前記脚部中心線と、前記ターゲットボードの幅方向の中心を通るターゲットボード中心線とが重なるように前記ターゲットボードを支持し、
前記設置補助治具は、前記脚部に沿って鉛直方向にスライド可能に設けられ、前記脚部と前記所定部位とを前記ターゲットボードが延在する面に垂直な軸を中心に回転可能に接続することを特徴とする車両点検方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、車両に搭載されるカメラの光軸位置調整方法及び光軸位置調整具に関する。
【背景技術】
【0002】
同一鉛直平面上に2つの可視光線を出力するレーザーポインターを用意し、各レーザーポインターが車両の前後に備わるエンブレムに当たるように調整することで車両の車幅方向の中心にターゲットボードを設置する手法が特許文献1に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
車両に搭載されたカメラの光軸位置調整は、車両の車幅方向の中心とターゲットボードの中心を合わせなければ正確に行うことができない。従来は、車両の車幅方向の中心線を得るために複数の作業者により墨出しが必要であった。墨出しにより描かれた車両の中心線上に設置されたターゲットボードを用いてカメラの光軸位置調整は行われていた。
【0005】
本開示は、車両に搭載されたカメラの光軸位置調整を、車両の中心線を可視化するための墨出しやターゲットボード設置位置の微調整を行うことなく、簡便に光軸位置調整を行うことのできる光軸位置調整具を提供する。また、当該光軸位置調整具を用いた車両点検方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示における第1の観点は、光軸位置調整具に関する。光軸位置調整具は、車両に搭載されたカメラの光軸位置調整を行うためのターゲットボードと、ターゲットボードを支持する脚部と、平面視において車両の車幅の中心を通る車両中心線と、平面視において脚部の幅の中心を通る脚部中心線と、を一致させるように脚部を車両に接続する設置補助治具と、を備えることを特徴とする。
【0007】
本開示における第2の観点は、光軸位置調整方法に関する。光軸位置調整方法は、地面に対してターゲットボードが垂直になるようにターゲットボードを支持する脚部を地面に対して設置するステップと、平面視において車両の車幅の中心を通る車両中心線と、平面視において脚部の幅の中心を通る脚部中心線と、を一致させるように車両と脚部とを設置補助治具を用いて接続するステップと、設置補助治具を用いて車両に接続されたターゲットボードを用いて、車両に搭載されたカメラの光軸位置調整を行うステップと、を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本開示によれば、車両の中心線を可視化するための墨出しを行うことなく、簡便にターゲットボードの設置位置を決め、車両に搭載されたカメラの光軸位置調整を行うことのできる光軸位置調整具及び光軸位置調整方法を提供することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本実施形態における光軸位置調整具及び車両の概要図である。
【
図2】カメラの光軸位置調整を行う際の車両と光軸位置調整具の位置関係を示す概要図である。
【
図3】本実施形態における設置補助治具の概要図である。
【
図4】従来技術と本実施形態を比較する概要図及び光軸位置調整前後のカメラ認識に使う光軸中心の概要図である。
【
図5】本実施形態における光軸位置調整方法のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
図1は、本実施形態における光軸位置調整具1及び車両10を開示する。
【0011】
光軸位置調整具1は、車両10に搭載されたカメラ12の光軸位置調整に用いられる。カメラ12は、例えば、車両10の前方の状況の認識のために搭載されている。カメラ12で撮影された画像から車両10の前方に存在する物体が認識され、その認識結果に基づく行動が車両10において実行される。実行される行動は車両10の種類によって異なる。車両10は、車両10に搭乗した運転者が運転する手動運転車両でもよいし、遠隔地のオペレータによって遠隔運転される遠隔運転車両でもよいし、自動運転システムによって自動運転される自動運転車両でもよい。例えば、車両10が自動運転車両の場合、認識結果に基づいた判断が自動運転システムによって行われ、その判断に従ってアクチュエータの操作が行われる。
【0012】
光軸位置調整具1は、ターゲットボード2と、ターゲットボード2を支持する脚部3と、脚部に3に取り付けられた設置補助治具4で構成される。脚部3は、設置補助治具4を接続するための接続部5を有する。
【0013】
ターゲットボード2は、カメラ12の光軸位置調整を行うための模様が描かれた長方形の板である。カメラ12を制御するコンピュータにおいて既定のプログラムを実行することにより、ターゲットボード2に描かれた模様を目印にカメラ12の光軸位置調整がなされる。
【0014】
脚部3は、地面に設置されるベースと、ベースから垂直に伸びる支柱とを備える。ターゲットボード2は支柱に取り付けられている。光軸位置調整具1の使用時、脚部3はベースが地面に対して水平になるように設置される。設置補助治具4を接続するための接続部5は支柱に設けられている。接続部5は、正面視において支柱の幅方向の中心を通る直線に沿って縦方向に形成された溝である。
【0015】
設置補助治具4は、脚部3を車両10に接続するために用いられる治具である。設置補助治具4は、接続部5、すなわち、溝に沿って支柱の縦方向に移動可能に取り付けられる。
【0016】
図2は、カメラ12の光軸位置調整を行う際の車両10と光軸位置調整具1の位置関係を示す概要図である。
【0017】
図2(A)は平面視における光軸位置調整具1と車両10の位置関係を示す。
【0018】
光軸位置調整具1は、車両10の目の前に配置され、設置補助治具4で車両10と接続されている。具体的には、車両10の前方に備わるエンブレム11と設置補助治具4が接続されている。設置補助治具4により光軸位置調整具1がエンブレム11に接続されたときは、平面視におけるターゲットボード中心線6(以下、ターゲットボード中心線6と呼ぶ)は、車両10の前後の車幅の中心を通る車両中心線13と一致する。
【0019】
なお、脚部3は、平面視において、脚部3の幅の中心線、すなわち、支柱の幅の中心線を通る脚部中心線7と、ターゲットボード2の幅方向の中心を通るターゲットボード中心線6とが重なるようにターゲットボード2を支持している。よって、脚部3と車両10とが設置補助治具4によって接続されて脚部中心線7と車両中心線13が一致した時、ターゲットボード中心線6と車両中心線13も一致する。
【0020】
設置補助治具4は、車両中心線13が延伸する方向を軸として回転可能に車両10に接続される。より詳細には、設置補助治具4は、車両10に対して上記軸を中心に回転可能に接続されるが、脚部3に対しては回転を拘束されて接続部5に取り付けられる。従って、脚部3及び設置補助治具4は、一体となって車両10に対して上記軸を中心に回転可能に接続される。
【0021】
接続部5は、平面視において脚部中心線7上に位置している。接続部5は溝であるので、設置補助治具4は溝に沿って鉛直方向にスライドすることができる。接続部5は、設置補助治具4をスライドさせることによって車両中心線13と脚部中心線7の縦方向の位置ずれを吸収する役割がある。
【0022】
図2(B)は立体視における光軸位置調整具1と車両10の位置関係を示す。
【0023】
車両10は、前方にエンブレム11を備える。本実施形態では、エンブレム11は車両10の車幅方向の中心に備わり、エンブレム11の中心を通る線が車両中心線13と定義される。また、本実施形態では、設置補助治具4の中心を通る線が脚部中心線7と定義される。
【0024】
エンブレム11は車種によって備わる高さが異なるが、車種ごとの高さの違いは、接続部5において設置補助治具4の高さを調整することで吸収される。なお、エンブレム11は車両中心線13の位置を示す目印の一例である。本質的には、車両10の車幅方向の中心が分かる目印が車両10に備わっていればよい。
【0025】
図3は、設置補助治具4がエンブレム11に接続される様子を具体的に表した模式図である。
【0026】
設置補助治具4は、接続部5の溝にはめ込まれることで脚部3に接続される。更に、設置補助治具4は、エンブレム11に接続される。設置補助治具とエンブレム11の接続方法は、着脱可能な接続方法であることが望ましい。例えば、本実施形態においては磁石で接続されるものとする。また、設置補助治具4が接続される部位としては、平面視において車両中心線13が通る部位であるならば、ナンバープレート又はナンバープレート保持部、車両10のバンパー、車両10のアンダーカバーであってもよい。
【0027】
図4(A)は、車両10が地面に対して傾いている場合において、従来技術におけるターゲットボード2の支持方法と本実施形態におけるターゲットボード2の支持方法を比較する概要図である。
図4(B)は、本実施形態における光軸位置調整前後におけるカメラ12による認識に使う光軸中心を比較する概要図である。
【0028】
従来技術の1つとして、
図4(A)の左図に示すようにターゲットボード2を車両10に設置してカメラ12の光軸位置調整を行う方法が挙げられる。ターゲットボード2は、特定の固定具などを使用して車両10のボンネット上などに固定される。
【0029】
図4(A)の左図に示されるカメラ12の光軸位置調整方法は、車両10にターゲットボード2を設置することで、通常複数人で行われる車両10の中心線を引く墨出し作業を簡略化したものである。
【0030】
図4(A)の左図において、車両10のエンブレム11の中心を通り、鉛直方向に延伸する直線を直線14とする。
図4(A)左図に示される方法は、車両10が地面に対して水平であること、すなわち直線14が正面視におけるターゲットボード正面視中心線15(以下、ターゲットボード正面視中心線15と呼ぶ)と重なることを前提に行われる。
【0031】
しかし、
図4(A)の左図に示すように車両10が地面に対して水平でない場合、車両10に設置されているターゲットボード2も水平にはならない。このため、直線14とターゲットボード正面視中心線15は一致せず、カメラ12の光軸位置調整が不正確になる恐れがある。このほかにもカメラ12を車両10に搭載した際の位置ずれが原因となり、カメラ12の光軸位置調整が不正確に恐れもある。
【0032】
更に、
図4(A)の左図における方法では、ターゲットボード2を車両10に固定するための器具が必要になる。出荷時にすべての車両10に対してカメラ12の光軸位置調整を行うための固定具を備えることは、コスト面からも効率的とは言い難い。
【0033】
図4(A)の右図は、ターゲットボード2が脚部3により支持されている場合において、カメラ12の光軸位置調整具1と車両10の位置関係を車両10の先方から見た場合の概要図である。
【0034】
図4(A)の右図において、車両10の前方に備わるエンブレム11は、設置補助治具4に接続されている。設置補助治具4は、脚部3を車両10に対して回転可能に接続する。従って、車両10が地面に対して水平に配置されていない場合であっても、脚部3は地面に対して水平に配置することが可能であり、脚部3が支持するターゲットボード2もエンブレム11の中心を通り、且つ地面に対して水平を保つことが可能である。従って、本実施形態によれば、車両10に搭載されているカメラ12の光軸位置調整を簡易に且つ正確に行うことができる。
【0035】
図4(B)はカメラ12の光軸位置調整の概要図である。詳細には、
図4(B)の左図にカメラ12の認識に使う光軸中心121aと物理的光軸中心121bが一致していない光軸位置調整前の概要図を示す。さらに、
図4(B)の右図にカメラ12の認識に使う光軸中心121aと物理的光軸中心121bが一致している光軸位置調整後の概要図を示す。
【0036】
図4(B)の左図は、カメラ12の光軸位置調整前における認識に使う光軸中心121a及び物理的光軸中心121bの概要図である。認識に使う光軸中心121aは、カメラ12が認識する水平線122上に存在し、カメラ12が認識する鉛直方向に延伸する直線123との交点である。光軸位置調整前において、カメラ12は、光軸中心121aを基準に物標の認識を行う。物理的光軸中心121bは、物標の認識を正しく行うための光軸中心であり、ターゲットボード正面視中心線15と、ターゲットボード正面視中心線15と垂直に交わる直線124の交点である。直線124は、ターゲットボード2が地面に対して水平に設置されている場合、地面に対する水平線である。
【0037】
図4(B)の左図は、光軸中心121aと物理的光軸中心121bが一致していないことにより、カメラ12が物標の認識を正しく行えていないことを示す。光軸位置調整は、この2つの光軸中心121a及び121bが一致するように、121aを調整することである。
【0038】
図4(B)の右図は、カメラ12の光軸位置調整後の認識に使う光軸中心121aである。カメラ12はターゲットボード2を基準に水平線122を決定する。すなわち、カメラ12は、直線124が水平線122であると認識するように調整される。同様に、カメラ12は、カメラ12が認識する鉛直方向に延伸する直線123もターゲットボード2を基準に決定する。すなわち、カメラ12は、ターゲットボード正面視中心線15を鉛直方向に延伸する直線123であると認識するように調整される。上記の調整により、カメラ12は正しく前方の物標を認識することが可能である。
【0039】
図5は、上記の光軸位置調整具1を用いて行われる光軸位置調整方法、すなわち、本実施形態における光軸位置調整方法のフローチャートである。
【0040】
まず、ステップS100において、車両10の中心位置がわかる場所、すなわち、エンブレム11に設置補助治具4が取り付けられる。
【0041】
次に、ステップS200において、ターゲットボード2を支える脚部3が地面に対して設置される。
【0042】
次に、ステップS300において、設置補助治具4に脚部3の接続部5が組付けられる。
【0043】
最後に、ステップS400において、ターゲットボード2を用いてカメラ12の光軸位置調整が実行される。
【0044】
以上が本実施形態における車両点検方法の手順である。
【0045】
図6は、光軸位置調整具1を用いた光軸位置調整方法の変形例の概要図である。変形例において、車両10は、更に発光装置16を前方に備える。発光装置16は、車両10の前方にレーザー光17を照射することができる装置である。
図6(A)は発光装置16を備える車両10と光軸位置調整具1の位置関係であり、
図6(B)はレーザー光17が脚部3に備わる接続部5の溝に入る様子である。
【0046】
発光装置16は、車両10の前方に、鉛直方向に延伸するようにレーザー光17を放つ。光軸位置調整具1の設置時には、レーザー光17が脚部3に備わる接続部5の溝に入るように脚部3の設置位置を調整する。発光装置16の照射するレーザー光17が接続部5の溝に入ることで、光軸位置調整具1は車両10に対して正しく配置される。
【0047】
変形例によれば、車両のフロント形状が違う場合においても、同様の光軸位置調整具を用いることで、カメラ12の光軸位置調整を正確に行うことが可能である。
【符号の説明】
【0048】
1光軸位置調整具、2ターゲットボード、3脚部、4設置補助治具、5接続部、6ターゲットボード中心線、7脚部中心線、10車両、11エンブレム、12カメラ、13車両中心線、16発光装置