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特許7694554車両制御装置、車両制御方法、及び車両制御プログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-06-10
(45)【発行日】2025-06-18
(54)【発明の名称】車両制御装置、車両制御方法、及び車両制御プログラム
(51)【国際特許分類】
   B62D 6/00 20060101AFI20250611BHJP
   B60W 60/00 20200101ALI20250611BHJP
   B60W 30/10 20060101ALI20250611BHJP
   B62D 119/00 20060101ALN20250611BHJP
【FI】
B62D6/00
B60W60/00
B60W30/10
B62D119:00
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2022210552
(22)【出願日】2022-12-27
(65)【公開番号】P2024093908
(43)【公開日】2024-07-09
【審査請求日】2024-02-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003199
【氏名又は名称】弁理士法人高田・高橋国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】林 勇介
(72)【発明者】
【氏名】河内 太一
(72)【発明者】
【氏名】堀田 大地
(72)【発明者】
【氏名】阿部 真之
【審査官】村山 禎恒
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-125062(JP,A)
【文献】特開2017-207967(JP,A)
【文献】特開2022-171709(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 6/00
B60W 60/00
B60W 30/10
B62D 119/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両を制御する装置であって、
少なくとも1つのプロセッサと、
前記少なくとも1つのプロセッサに通信可能に結合され、実行可能な複数のインストラクションを記憶したメモリと、を備え、
前記複数のインストラクションは、前記少なくとも1つのプロセッサに、
予め設定された運行経路を取得することと、
自動運転によって前記車両を運行させる自動運転モードと、少なくとも操舵は手動である手動運転によって前記車両を運行させる手動運転モードのいずれかのモードで、前記運行経路に沿って前記車両を運行させることと、
前記手動運転モードでの運行中に前記運行経路から外れる道へ向かう操舵の検出を受けて、前記車両を前記運行経路へ戻す方向の操舵トルクを発生させることと、
前記自動運転モードでの運行中に運転者による操舵への介入の検出を受けて、前記自動運転モードから前記手動運転モードへ切り替えることと、
前記介入の検出から所定時間が経過するまで、或いは、前記介入の検出から前記車両が所定距離移動するまでは、前記車両を前記運行経路へ戻す方向の操舵トルクの発生を抑制することと、を実行させるように構成されている
ことを特徴とする装置。
【請求項2】
請求項1に記載の装置において、
前記複数のインストラクションは、前記少なくとも1つのプロセッサに、
無線通信によって通信可能に接続されたサーバから前記運行経路を取得すること、を実行させるように構成されている
ことを特徴とする装置。
【請求項3】
コンピュータによって車両を制御する方法であって、
予め設定された運行経路を取得することと、
自動運転によって前記車両を運行させる自動運転モードと、少なくとも操舵は手動である手動運転によって前記車両を運行させる手動運転モードのいずれかのモードで、前記運行経路に沿って前記車両を運行させることと、
前記手動運転モードでの運行中に前記運行経路から外れる道へ向かう操舵の検出を受けて、前記車両を前記運行経路へ戻す方向の操舵トルクを発生させることと、
前記自動運転モードでの運行中に運転者による操舵への介入の検出を受けて、前記自動運転モードから前記手動運転モードへ切り替えることと、
前記介入の検出から所定時間が経過するまで、或いは、前記介入の検出から前記車両が所定距離移動するまでは、前記車両を前記運行経路へ戻す方向の操舵トルクの発生を抑制することと、を含む
ことを特徴とする方法。
【請求項4】
車両を制御するための処理をコンピュータに実行させるプログラムであって、
前記処理は、
予め設定された運行経路を取得することと、
自動運転によって前記車両を運行させる自動運転モードと、少なくとも操舵は手動である手動運転によって前記車両を運行させる手動運転モードのいずれかのモードで、前記運行経路に沿って前記車両を運行させることと、
前記手動運転モードでの運行中に前記運行経路から外れる道へ向かう操舵の検出を受けて、前記車両を前記運行経路へ戻す方向の操舵トルクを発生させることと、
前記自動運転モードでの運行中に運転者による操舵への介入の検出を受けて、前記自動運転モードから前記手動運転モードへ切り替えることと、
前記介入の検出から所定時間が経過するまで、或いは、前記介入の検出から前記車両が所定距離移動するまでは、前記車両を前記運行経路へ戻す方向の操舵トルクの発生を抑制することと、を含む
ことを特徴とするプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、予め設定された運行経路に沿って運行される車両を制御する装置、方法、及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
本開示に関連する技術分野の技術水準を示す文献の例としては、特開2010-513123号公報、及び特開2001-151137号公報を挙げることができる。例えば、特開2010-513123号公報は、周辺状況に適合する目標軌道を生成し、車両が目標軌道に従うようにステアリングシステムを調整する方法を開示する。その方法によれば、目標軌道に許容走行通路が割り当てられ、許容走行通路内で誘導する基本ステアリングトルクが生成される。そして、車両が許容走行通路を離れる場合、基本ステアリングトルクに、許容走行通路の方向で車両に作用するステアリング誘導トルクが重ね合わされる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2010-513123号公報
【文献】特開2001-151137号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、運転者による手動操作が許容される車両では、運行経路から外れた道に向かって操舵が行われる場合がある。上記の各特許文献に記載の技術は、操舵に対する支援によって車両に車線内の好ましい位置を運行させる技術であるが、車両が運行経路から外れることを防ぐ技術ではない。
【0005】
本開示は、上記の課題に鑑みてなされたものである。本開示の1つの目的は、車両を予め設定された運行経路に沿って運行させる場合において、手動運転での運行時に、運行経路から外れる道に車両が進むことを抑制できるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示は上記目的を達成するための車両制御技術として車両制御装置と車両制御方法と車両制御プログラムとを提供する。
【0007】
本開示の車両制御装置は、少なくとも1つのプロセッサと、少なくとも1つのプロセッサに通信可能に結合され、実行可能な複数のインストラクションを記憶したメモリと、を備える。複数のインストラクションは、少なくとも1つのプロセッサに、以下の処理を実行させるように構成されている。その処理は、予め設定された運行経路を取得することと、自動運転モードと手動運転モードのいずれかのモードで運行経路に沿って車両を運行させることと、手動運転モードでの運行中に運行経路から外れる道へ向かう操舵の検出を受けて車両を運行経路へ戻す方向の操舵トルクを発生させることとを含む。自動運転モードは自動運転によって車両を運行させるモードであり、手動運転モードは少なくとも操舵は手動である手動運転によって車両を運行させるモードである。
【0008】
本開示の車両制御方法は、コンピュータによって車両を制御する方法である。本開示の車両制御方法は、予め設定された運行経路を取得することと、自動運転モードと手動運転モードのいずれかのモードで運行経路に沿って車両を運行させることと、手動運転モードでの運行中に運行経路から外れる道へ向かう操舵の検出を受けて車両を運行経路へ戻す方向の操舵トルクを発生させることとを含む。
【0009】
本開示の車両制御プログラムは、コンピュータに本開示の車両制御方法を実施させるように構成されている。言い換えれば、本開示の車両制御プログラムは、コンピュータで実行されることにより、そのコンピュータを本開示の車両制御装置として機能させるように構成されている。なお、本開示の車両制御プログラムは、コンピュータ読み取り可能な記録媒体に記憶されてもよいし、ネットワークを介して提供されてもよい。
【0010】
本開示の車両制御技術において、自動運転モードでの運行中に運転者による操舵への介入の検出を受けて、自動運転モードから手動運転モードへ切り替えられてもよい。その場合、運転者による介入の検出から所定時間が経過するまで、或いは、運転者による介入の検出から車両が所定距離移動するまでは、車両を運行経路へ戻す方向の操舵トルクの発生を抑制してもよい。これによれば、運転者による意図的な操舵への介入に対し、運転者の意図を妨げる操舵抵抗の発生を抑えることができる。
【発明の効果】
【0011】
本開示の車両制御技術によれば、手動運転モードでの運行中に運行経路から外れる道へ向かう操舵が運転者により行われた場合、車両を運行経路へ戻す方向の操舵トルクが発生する。これにより、車両を予め設定された運行経路に沿って運行させる場合において、手動運転での運行時に、運行経路から外れる道に車両が進むことは抑制される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本開示の実施形態に係る車両の運行エリアについて説明する図である。
図2】本開示の実施形態に係る車両制御方法において手動運転モードでの運行中に実施される操舵制御について説明する図である。
図3】本開示の実施形態に係る車両制御方法において自動運転モードから手動運転モードへの切り替え直後に実施される操舵制御について説明する図である。
図4】本開示の実施形態に係る車両制御方法の手順を示すフローチャートである。
図5】本開示の実施形態に係る車両制御装置の構成を示すブロック図である。
図6】本開示の実施形態に係る車両制御装置が適用される車両の構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
1.前提
本開示の実施形態に係る車両制御方法は、SAEの自動運転レベルの定義においてレベル2以上の自動運転が可能な車両に適用される。以下、本実施形態に係る車両とは、本実施形態に係る車両制御方法が適用される自動運転が可能な車両を意味するものとする。
【0014】
本実施形態に係る車両は、レベル4の自動運転のための走行環境条件が満たされたエリア(以下、Lv4サービスエリアという)での自動運転による輸送サービスの提供に用いられる。つまり、本実施形態に係る車両は、レベル4の自動運転が可能な車両である。ただし、図1に示すように、Lv4サービスエリアは限定されたエリアであり、車両が駐車される車庫や、駅等の周囲の交通機関との乗り換え地点はLv4サービスエリアの外に位置しているケースが多い。また、Lv4サービスエリアは一つの連続したエリアとして存在するのではなく、複数のLv4サービスエリアが離散的に存在している。車庫や駅等とLv4サービスエリアとを結ぶ区間、及び2つのLv4サービスエリアを結ぶ区間には、車両を運行させる運行経路が設定される。本実施形態に係る車両は、Lv4サービスエリア外の運行経路をレベル2の自動運転又は手動運転によって移動する。
【0015】
Lv4サービスエリアでは、車両の運転の主体は車両自身であるため、道の間違いが生じることはない。また、レベル2の自動運転では、操舵に対する支援が行われる。Lv4サービスエリアに繋がる運行経路を目標経路として設定すれば、その運行経路に沿って車両を移動させるように操舵が自動で行われる。よって、運転者がレベル2の自動運転による支援を受け入れている間は、車両が運行経路から外れた道に入ってしまう虞はないと考えてよい。
【0016】
しかし、何らかの理由により運転者による操舵への介入が行われた場合、レベル2の自動運転はキャンセルされて手動運転へ切り替えらえる。一般的に、レベル2の自動運転がキャンセルされた後の手動運転では、運転者の判断で操舵が行われるために道の間違いが生じる虞がある。道の間違いは運行の遅延を発生させる。また、Lv4サービスエリア外のエリアでは、Lv4サービスエリアへの進入を検知するために地図情報に基づいたローカライズが行われている。しかし、車両が地図情報のない道に誤って入ってしまった場合、ローカライズをやり直す必要が生じてしまう。
【0017】
2.車両制御方法
2-1.手動運転モードでの運行中
以下の説明では、レベル2の自動運転によって車両を運行させるモードを自動運転モードと称し、手動運転によって車両を運行させるモードを手動運転モードと称する。本実施形態に係る車両制御方法では、手動運転モードでの運行中、運転者の自由な操舵を許容するのではなく、操舵に制約を加えることによって運行経路から外れる道に車両が進むことを抑制する。以下、手動運転モードでの運行中に実施される操舵制御について図2A及び図2Bを用いて具体的に説明する。
【0018】
図2A及び図2Bにおいて、本実施形態に係る車両制御方法は車両2に適用されている。車両2は手動運転モードで運行され、本線道路6から分岐路8が右に分岐する地点に差し掛かっている。図2Aに示すケースでは、分岐路8が車両2の運行経路であり、分岐点より向こうの本線道路6は運行経路から外れた道である。図2Bに示すケースでは、本線道路6が車両2の運行経路であり、分岐路8は運行経路から外れた道である。
【0019】
図2Aに示すケースでは、運行経路に沿って車両2を運行するためには、分岐路8のほうへ車両2を進ませなければならない。車両2が分岐路8へ進むために期待される操舵量は、地図情報、詳しくは、分岐路8が直線路6から分岐する分岐点の道路形状と車両2の姿勢から計算することができる。運転者の手動操作による操舵量が期待される操舵量を満たしているのであれば、車両2は運行経路に沿って分岐路8へと進む。
【0020】
しかし、手動操作による操舵量が期待される操舵量とは異なる場合、具体的には、右方向への操舵が行われずに現在の操舵量が維持される場合、車両2は本線道路6をそのまま走行し続けて運行経路から外れてしまう。そこで、このようなケースでは、運転者が操作する車両操舵デバイス、具体的には、ステアリングホイール4に対して右回りの操舵トルクが与えられる。この操舵トルクの付与は運転者に対して右方向への操舵を促し、運転者は車両2を分岐路8へ進ませるようにステアリングホイール4を操作する。これにより、車両2が運行経路から外れることは抑制される。なお、分岐路が本線道路から左に分岐しているケースでは、運転者に対して左方向への操舵を促すように左回りの操舵トルクが与えられる。
【0021】
図2Bに示すケースでは、運行経路に沿って車両2を運行するためには、車両2に本線道路6を走行させ続ける必要がある。車両2が本線道路6を走行し続けるために期待される操舵量は、地図情報、詳しくは、本線道路6の道路形状と車両2の姿勢から計算することができる。運転者の手動操作による操舵量が期待される操舵量を満たしている場合、車両2は運行経路に沿って本線道路6を走行し続ける。
【0022】
しかし、手動操作による操舵量が期待される操舵量とは異なる場合、具体的には、現在の操舵量が維持されずに右方向への操舵が行われる場合、車両2は分岐路8のほうへ進み運行経路から外れてしまう。そこで、このようなケースでは、運転者がステアリングホイール4に加える右回りの操舵トルクに対抗させるように、ステアリングホイール4に対して左回りの操舵トルクが与えられる。この操舵トルクは運転者がステアリングホイール4を操作して車両2を右方向へ操舵する際の抵抗として作用し、運転者に対して現在の操舵量を維持するよう促す。これにより、車両2が運行経路から外れることは抑制される。なお、分岐路が本線道路から左に分岐しているケースでは、運転者の左方向への操舵に対して抵抗となるように左回りの操舵トルクが与えられる。
【0023】
以上のように、本実施形態に係る車両制御方法は、手動運転モードでの車両2の運行中は、自動運転モードでの車両2の運行中とは異なる規則で操舵支援のための操舵トルクを発生させる。自動運転モードでは、車両2が目標軌道に沿って走行するように操舵支援のための操舵トルクを発生させる。目標軌道は、車両2を運行経路に沿って運行させる上で車両2が通るべき軌道であり、車両2の周囲の障害物に関する情報に基づいて設定される。一方、手動運転モードで発生させる操舵トルクは、運転者に運行経路とは異なる道を選ばせないことを目的としたものである。ゆえに、手動運転モードでは、分岐点や交差点のように複数の道の選択肢がある場所において、車両2が運行経路から外れる道へ向かいそうになった場合、車両2を運行経路へ戻す方向の操舵トルクを発生させる。
【0024】
2-2.運転モードの切り替え直後
自動運転モードにおいて運転者による操舵への介入が行われた場合、自動運転モードから手動運転モードへの切り替えが行われる。運転者による操舵への介入は、例えば、運転者の明確な意図によって運行経路とは異なる道が選択されたときに行われる。その際に上記の操舵トルクが発生すると、運転者は思うようにステアリングホイール4を操作することができず介入操作に支障をきたしてしまう虞がある。
【0025】
上記の課題への対策として、本実施形態に係る車両制御方法は、自動運転モードにおいて運転者による操舵への介入が検知された場合、所定時間が経過するまでは操舵支援のための操舵トルクの付与を停止する。以下、本実施形態に係る車両制御方法において、自動運転モードから手動運転モードへの切り替え直後に実行される操舵制御について図3を用いて具体的に説明する。
【0026】
図3には、運行中の車両2の状態が時系列に描かれている。時刻T1では、車両2は本線道路6を自動運転モードで走行している。自動運転モードでは、運行経路上に設定された目標軌道に沿って車両2を走行させるように操舵支援が行われている。
【0027】
時刻T2において、運転者は車両2を分岐路8の方へ向かわせるようにステアリングホイール4を操作する。すなわち、運転者による操舵への介入が行われる。運転者からの介入を受けて自動運転モードから手動運転モードへ運転モードが切り替えられる。運転モードが手動運転モードへ切り替えられると同時に、所定時間(例えば数秒から数十秒)に設定されたタイマーがスタートされる。
【0028】
時刻T3では、車両2は運行経路である本線道路6から外れて分岐路8の方へ進んでいる。しかし、タイマーの値がゼロになるまでは、車両2が運行経路から外れている場合であっても車両2を運行経路へ戻す方向の操舵トルクは与えられない。つまり、タイマーの値が所定時間からゼロになるまでの間は、手動運転モード用の操舵支援はオフにされる。
【0029】
時刻T4において、タイマーの値がゼロになる。これ以降は手動運転モード用の操舵支援はオンにされる。このため、車両2が運行経路から外れる道へ向かいそうになった場合、車両2を運行経路へ戻す方向の操舵トルクが発生する。なお、タイマーの値がゼロになるまでの間に、ナビゲーション装置によって目的地までの運行経路が再検索され、分岐路8を通る新たな運行経路が設定される。
【0030】
以上のような操舵制御が運転モードの切り替え直後に行われることにより、運転者による意図的な操舵への介入に対し、運転者の意図を妨げる操舵抵抗の発生は抑えられる。
【0031】
2-3.フローチャート
【0032】
本実施形態に係る車両制御方法は、その手順をフローチャートで示すことができる。図4は、本実施形態に係る車両制御方法の手順を示すフローチャートである。
【0033】
ステップS01では、車両2の運転モードを判定する。現在の運転モードが自動運転モードである場合、手順はステップS07に進む。
【0034】
ステップS07では、レベル2の自動運転の処理を継続する。自動運転モードでの運行中に運転者による操舵への介入が検知された場合、自動運転モードから手動運転モードへ運転モードを変更する。ステップS07の実施後、この手順は終了する。
【0035】
ステップS01の判定で現在の運転モードが手動運転モードである場合、手順はステップS02に進む。
【0036】
ステップS02では、直前に行われた運転者による操舵への介入から所定時間が経過したかどうか判定する。つまり、自動運転モードから手動運転モードへ切り替わってから所定時間が経過したかどうか判定する。所定時間が経過していない場合、残りのステップを実施することなく、この手順は終了する。
【0037】
ステップS02の判定で既に所定時間が経過している場合、手順はステップS03に進む。
【0038】
ステップS03では、車両操舵デバイスの操舵量を取得する。車両操舵デバイスの具体例はステアリングホイール4であり、その操舵量の具体例は操舵角である。次に、手順はステップS04に進む。
【0039】
ステップS04では、運行経路の道路形状と現在の車両2の姿勢から操舵量の期待値を計算する。操舵量の期待値は、車両2を運行経路に沿って運行させるために期待される操舵量である。次に、手順はステップS05に進む。
【0040】
ステップS05では、ステップS03で取得された操舵量とステップS04で計算された操舵量の期待値とを比較し、操舵量が期待値に対して不足しているかどうか判定する。詳しくは、操舵量が期待値よりも小さく、その差が閾値Aを越えている場合、操舵量は期待値に対して不足していると判定する。操舵量が期待値に対して不足している場合、手順はステップS08に進む。
【0041】
ステップS08では、車両2が運行経路に沿うように運転者の操舵操作を誘導するトルクを発生させる。つまり、図2Aに例示されるような操舵制御を実施する。ステップS08の実施後、この手順は終了する。
【0042】
ステップS05の判定で操舵量が期待値に対して不足していない場合、手順はステップS06に進む。
【0043】
ステップS06では、ステップS03で取得された操舵量とステップS04で計算された操舵量の期待値とを比較し、操舵量が期待値に対して過剰かどうか判定する。詳しくは、操舵量が期待値よりも大きく、その差が閾値Bを越えている場合、操舵量は期待値に対して過剰と判定する。操舵量が期待値に対して過剰な場合、手順はステップS09に進む。
【0044】
ステップS09では、車両2が運行経路に沿うように運転者の操舵の抵抗となるトルクを発生させる。つまり、図2Bに例示されるような操舵制御を実施する。ステップS09の実施後、この手順は終了する。
【0045】
3.車両制御装置
次に、本実施形態に係る車両制御装置について説明する。
【0046】
図5は本実施形態に係る車両制御装置の構成を示すブロック図である。本実施形態に係る車両制御装置10は、上記の車両制御方法を実施するコンピュータである。車両制御装置10は、ナビゲーション装置102、自動運転装置104、操舵支援装置106、介入判定装置110、第1セレクタ112、ステートマシン114、第2セレクタ116、及び車両駆動装置118を備える。これらは、車両制御装置10を物理的に構成する少なくとも1つのプロセッサによって所定の複インストラクションが実行されることで実現される車両制御装置10の機能である。
【0047】
ナビゲーション装置102は、車両2の運行計画に基づいて運行経路を生成する。運行計画には、例えば、出発地、出発予定時間、目的地、到着予定時間、中継地、中継地通過時間等の情報が含まれている。運行計画は、事前に定義されてメモリに登録されている。或いは、運行計画は、車両2の運行を管理する管理サーバから無線通信によって配信される。ナビゲーション装置102は、運行経路が更新される度に最新の運行経路を自動運転装置104及び操舵支援装置106へ配信する。なお、ナビゲーション装置102は、車両制御装置10とは物理的に独立した別の装置であってもよい。
【0048】
自動運転装置104は、車両2に搭載された認識センサからセンサ情報を取得し、センサ情報に基づいて認知及び判断を行う。そして、認知及び判断の結果に基づき、運行経路に沿った目標軌道を生成する。目標軌道は、車両2の目標位置とその目標位置における目標速度或いは目標加速度で表わされ、車両2が移動する毎に更新される。自動運転装置104は、目標軌道を車両駆動装置118へ伝達する。なお、自動運転モードか手動運転モードかによらず、自動運転装置104は常に作動している。
【0049】
操舵支援装置106は、運行経路の道路形状と現在の車両2の姿勢に基づいて、車両2を運行経路に沿って運行させる上で期待される操舵量を計算する。そして、実際の操舵量と期待される操舵量とを比較する。期待される操舵量に対して実際の操舵量が不足している場合、例えば、右折或いは左折が必要な場所で車両2が直進しそうな場合、操舵支援装置106は、車両操舵デバイス30に操舵トルクを与えることにより運転者に右折或いは左折を促す。期待される操舵量に対して実際の操舵量が過剰な場合、例えば、直進が必要な場所で車両2が右折或いは左折しそうな場合、操舵支援装置106は、車両操舵デバイス30に与える操舵トルクを調整して操舵抵抗を生成することにより運転者に直進を促す。なお、自動運転モードか手動運転モードかによらず、操舵支援装置106は常に作動している。
【0050】
車両駆動装置118は、車両2に搭載されたアクチュエータを動作させることによって車両2を駆動する。車両駆動装置118は、自動運転装置104と車両操舵デバイス30のいずれか一方に選択的に接続される。自動運転装置104と接続されるとき、車両駆動装置118は、自動運転装置104で生成された目標軌道に基づいて駆動アクチュエータ、制動アクチュエータ、及び操舵アクチュエータを動作させる。車両操舵デバイス30と接続されるとき、車両駆動装置118は、車両操舵デバイス30から入力される操舵量に応じて操舵アクチュエータを動作させる。このとき、駆動アクチュエータ及び制動アクチュエータについては、車両駆動装置118は、運転者によるアクセルペダルやブレーキペダルの操作量に応じて動作させる。
【0051】
介入判定装置110は、車両操舵デバイス30から操舵量を受け付ける。介入判定装置110は、閾値を越える操舵量の変化を検出したとき、運転者による操舵への介入があったと判定する。介入判定装置110は、介入があったと判定された時刻を介入時刻として記録する。介入判定装置110は、介入の有無の判定結果と介入時刻を第1セレクタ112に通知する。また、介入判定装置110は、介入の有無の判定結果をステートマシン114に通知する。
【0052】
第1セレクタ112は、操舵支援装置106から車両操舵デバイス30への操舵トルクの伝達ラインに設けられている。第1セレクタ112は、介入判定装置110から通知される介入の有無の判定結果と介入時刻とに基づいて伝達ラインを接続又は遮断する。介入が有ったと判定された場合、第1セレクタ112は伝達ラインを遮断し、操舵支援装置106から付与される操舵トルクの車両操舵デバイス30への伝達を遮断する。介入が終わった後も、直前の介入から所定時間が経過するまでは、第1セレクタ112は伝達ラインを遮断する。そして、介入が無いと判定され、直前の介入から所定時間が経過した後は、第1セレクタ112は伝達ラインを接続し、操舵支援装置106から付与される操舵トルクを車両操舵デバイス30へ伝達する。
【0053】
ステートマシン114は、車両2の運転モードを管理する。ステートマシン114には、介入判定装置110から運転者による介入の有無の判定結果が通知され、自動運転装置104から自動運転装置104の作動状態が通知される。自動運転装置104が正常に作動しており、且つ、運転者による介入が無いと判定され続けている場合、ステートマシン114は、運転モードを自動運転モードに決定する。運転者による介入が有ったと判定された場合、及び、自動運転装置104が正常に作動していない場合、ステートマシン114は、運転モードを手動運転モードに決定する。ステートマシン114は、決定した運転モードを第2セレクタ116に通知する。
【0054】
第2セレクタ116は、ステートマシン114から通知される運転モードに応じて、車両駆動装置118への接続を自動運転装置104と車両操舵デバイス30との間で切り替える。通知された運転モードが手動運転モードの場合、第2セレクタ116は、車両操舵デバイス30を車両駆動装置118に接続する。通知された運転モードが自動運転モードの場合、第2セレクタ116は、自動運転装置104を車両駆動装置118に接続する。
【0055】
4.車両の構成
最後に、車両制御装置10が搭載される車両2の構成の一例について説明する。図6は車両2の構成の一例を示すブロック図である。車両2には、車両制御装置10の他にも、認識センサ22、車両状態センサ24、アクチュエータ26、通信装置28、及び車両操舵デバイス30が搭載されている。これらは、車載ネットワークを用いて車両制御装置10に接続されている。
【0056】
車両制御装置10は、少なくとも1つのプロセッサ11(以下、単にプロセッサ11と呼ぶ)を備えている。プロセッサ11は、例えば、CPU、FPGA、又はASICであってもよい。又は、プロセッサ11は、CPU、FPGA、又はASICの2以上の組み合わせであってもよい。
【0057】
車両制御装置10は、プロセッサ11に通信可能に結合された少なくとも1つのメモリ12(以下、単にメモリ12と呼ぶ)を備えている。メモリ12には、プロセッサ11で実行可能な少なくとも1つのプログラム13(以下、単にプログラム13と呼ぶ)と、運行経路データ15を含む各種のデータが記憶されている。プログラム13は複数のインストラクション14から構成されている。プロセッサ11がプログラム13を実行することにより、プロセッサ11による各種処理が実現される。インストラクション14には、本実施形態に係る車両制御方法を実施するためのインストラクションが含まれる。
【0058】
認識センサ22は、車両2の周囲の状況を認識するための情報を取得するセンサである。認識センサ22は、少なくとも車両2の前方を撮像するカメラを含む。車両状態センサ24は車両2の姿勢や運動に関する情報を取得するセンサである。アクチュエータ26は車両2を操舵する操舵アクチュエータ、車両2を駆動する駆動アクチュエータ、及び車両2を制動する制動アクチュエータを含む。通信装置28は車両2と外部との無線通信を制御する装置である。通信装置28は通信ネットワークを介して管理サーバと通信を行う。車両操舵デバイス30は、運転者が車両2の操舵に用いる入力装置であって、典型的には、ステアリングホイール4を含むステアリング機構である。車両操舵デバイス30は、ステアリングホイール4の操舵角を取得する操舵角センサ31と、ステアリングホイール4に操舵トルクを付与する反力モータ32を備える。
【0059】
5.その他の実施形態
ナビゲーション装置によって車上で運行経路を生成する方法に代えて、無線通信によって管理サーバより運行経路を取得する方法を用いてもよい。つまり、図6に示す運行経路データ15は、車両制御装置10内で計算により生成されたものでもよいし、通信装置28を介して外部から取得されたものでもよい。
【0060】
自動運転において運転者による操舵への介入が有った場合、介入が有った時点からの経過時間に代えて、介入が有った時点からの移動距離を測ってもよい。つまり、介入の検出から車両が所定距離を移動するまでは、車両を運行経路へ戻す方向の操舵トルクの発生を抑制してもよい。具体的には、ウェイポイントのような絶対座標を地図情報として持っておき、それに基づいて操舵トルクの発生タイミングを決定してもよい。
【0061】
手動運転モードでは、少なくとも操舵が手動であればよい。つまり、手動運転モードでは、車両2の駆動及び制動は自動で行われてもよい。
【符号の説明】
【0062】
2 車両
4 ステアリングホイール
6 本線道路
8 分岐路
10 車両制御装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6