(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-06-10
(45)【発行日】2025-06-18
(54)【発明の名称】カルボキシル基含有架橋重合体又はその塩の製造方法
(51)【国際特許分類】
C08F 220/04 20060101AFI20250611BHJP
C08F 8/44 20060101ALI20250611BHJP
C08F 2/38 20060101ALI20250611BHJP
【FI】
C08F220/04
C08F8/44
C08F2/38
(21)【出願番号】P 2022517027
(86)(22)【出願日】2021-04-19
(86)【国際出願番号】 JP2021015808
(87)【国際公開番号】W WO2021215381
(87)【国際公開日】2021-10-28
【審査請求日】2024-03-01
(31)【優先権主張番号】P 2020076817
(32)【優先日】2020-04-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003034
【氏名又は名称】東亞合成株式会社
(72)【発明者】
【氏名】仲野 朋子
(72)【発明者】
【氏名】西脇 篤史
(72)【発明者】
【氏名】斎藤 直彦
【審査官】中村 英司
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/180547(WO,A1)
【文献】特表2014-528014(JP,A)
【文献】特表2013-512324(JP,A)
【文献】国際公開第2021/095739(WO,A1)
【文献】特開2008-122924(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 220/04
C08F 8/44
C08F 2/38
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
カルボキシル基含有架橋重合体又はその塩の製造方法であって、
交換連鎖移動機構型制御剤の存在下、沈殿重合若しくは分散重合により、エチレン性不飽和カルボン酸単量体を含む単量体成分を重合する工程を備え、
前記交換連鎖移動機構型制御剤が、1種又は2種以上のビニル系単量体の重合鎖と交換連鎖移動機構によるリビングラジカル重合活性単位を有する重合体、及び/又は、当該重合体以外の交換連鎖移動機構型制御剤であ
り、
前記架橋重合体又はその塩は、中和度80~100モル%に中和された後、水媒体中で測定した粒子径が、体積基準メジアン径で0.1μm以上5.0μm以下である、製造方法。
【請求項2】
前記交換連鎖移動機構型制御剤が、可逆的付加開裂型連鎖移動剤(RAFT剤)である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記可逆的付加開裂型連鎖移動剤が、分子内にトリチオカーボネート基を有するものである、請求項2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記交換連鎖移動機構型制御剤の使用量が、エチレン性不飽和カルボン酸単量体を含む単量体成分の総量に対して0.0001~0.50モル%である、請求項1~3のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項5】
前記単量体成分は、その総量に対し、エチレン性不飽和カルボン酸単量体を50質量%以上100質量%以下含む、請求項1~4のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項6】
前記架橋重合体は、架橋性単量体により架橋されたものであり、当該架橋性単量体の使用量が非架橋性単量体の総量100質量部に対して0.1質量部以上2.0質量部以下である、請求項1~5のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項7】
前記架橋重合体又はその塩は、pH8における水膨潤度が20以上80以下である、請求項1~
6のいずれか1項に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カルボキシル基含有架橋重合体又はその塩の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
カルボキシル基含有重合体は、化粧品用の増粘剤や粘度調整剤、非水電解質二次電池電極用のバインダー、顔料用の沈降防止剤、金属粉の分散安定剤等の様々な用途に利用されている。
これらの用途の中でも、化粧品用の増粘剤としては、カルボキシル基含有重合体が直鎖のときは曳糸性を有し、ベタツキが感じられるが、架橋度を高めていくにつれて曳糸性は減少し、みずみずしさが感じられるようになるという特徴を備えている。そのため、曳糸性が不要でみずみずしさが求められる化粧品では、少量の使用で高い増粘性が得られるという利点から、カルボキシル基含有架橋重合体が用いられる場合が多い。また、リチウムイオン二次電池電極用バインダーとしても、良好な結着性及びサイクル特性を付与し得る利点から、カルボキシル基含有架橋重合体が用いられる場合が多い。
【0003】
ここで、カルボキシル基含有架橋重合体の製造方法としては、沈殿重合法や分散重合法等の種々の方法が知られている。
【0004】
沈殿重合法は、重合性モノマーは溶媒に溶解するが、得られるポリマーは溶媒に不溶で析出する系で架橋重合体を得る重合法であり、数μm~数100μmの粒子が一般的に得られる。例えば、特許文献1では、カルボキシル基含有架橋重合体として、沈殿重合により、微架橋化したアクリル酸系重合体を製造し、リチウムイオン二次電池電極用バインダーへの利用を試みている。
【0005】
また、分散重合法は、沈殿重合に分散安定剤等を利用することで一次粒子のまま架橋重合体を得る方法であって、重合性モノマー、溶媒、並びに、分散安定剤の種類及び添加量により、生成微粒子の粒子径制御が可能な重合法であり、サブミクロン~数μmサイズの粒子を得るのに好適である。例えば、特許文献2では、カルボキシル基含有架橋重合体として、分散重合により、微架橋化したアクリル酸系重合体を製造し、リチウムイオン二次電池電極用バインダーへの利用を試みている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】国際公開第2014/065407号
【文献】国際公開第2017/073589号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、発明者らの検討によれば、スラリー中の粒子のバインダー(例えば、リチウムイオン二次電池電極スラリー中の活物質のバインダー)として、特許文献1及び2に記載の沈殿重合法や分散重合法により製造される微架橋化したアクリル酸系重合体を用いる場合、アクリル酸系重合体の微架橋化によって、スラリー中の粒子間の結着性を高めることができる一方で、当該重合体の水中での拡がりが増して少量の添加でも粘度が大きく上昇するため、スラリー粘度の低減には限界があり、塗工性と塗膜性能(例えば、リチウムイオン二次電池のサイクル特性)を両立できず問題となる事があった。
【0008】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、カルボキシル基含有架橋重合体又はその塩を含む組成物の塗工性及び塗膜性能を両立させる事ができる、当該架橋重合体又はその塩の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、交換連鎖移動機構型制御剤の存在下、沈殿重合若しくは分散重合により、エチレン性不飽和カルボン酸単量体を含む単量体成分を重合する工程を備える、製造方法により得られる、カルボキシル基含有架橋重合体又はその塩を用いることによって、当該架橋重合体又はその塩を含む組成物の塗工性を確保しつつ、優れた塗膜性能を発揮することができることを見出し、本発明を完成した。
【0010】
本発明は以下の通りである。
〔1〕カルボキシル基含有架橋重合体又はその塩の製造方法であって、交換連鎖移動機構型制御剤の存在下、沈殿重合若しくは分散重合により、エチレン性不飽和カルボン酸単量体を含む単量体成分を重合する工程を備え、前記交換連鎖移動機構型制御剤が、1種又は2種以上のビニル系単量体の重合鎖と交換連鎖移動機構によるリビングラジカル重合活性単位を有する重合体、及び/又は、当該重合体以外の交換連鎖移動機構型制御剤である、製造方法。
〔2〕前記交換連鎖移動機構型制御剤が、可逆的付加開裂型連鎖移動剤(RAFT剤)である、〔1〕に記載の製造方法。
〔3〕前記可逆的付加開裂型連鎖移動剤が、分子内にトリチオカーボネート基を有するものである、〔2〕に記載の製造方法。
〔4〕前記交換連鎖移動機構型制御剤の使用量が、エチレン性不飽和カルボン酸単量体を含む単量体成分の総量に対して0.0001~0.50モル%である〔1〕~〔3〕のいずれか一に記載の製造方法。
〔5〕前記単量体成分は、その総量に対し、エチレン性不飽和カルボン酸単量体を50質量%以上100質量%以下含む、〔1〕~〔4〕のいずれか一に記載の製造方法。
〔6〕前記架橋重合体は、架橋性単量体により架橋されたものであり、当該架橋性単量体の使用量が非架橋性単量体の総量100質量部に対して0.1質量部以上2.0質量部以下である、〔1〕~〔5〕のいずれか一に記載の製造方法。
〔7〕前記架橋重合体又はその塩は、中和度80~100モル%に中和された後、水媒体中で測定した粒子径が、体積基準メジアン径で0.1μm以上5.0μm以下である、〔1〕~〔6〕のいずれか一に記載の製造方法。
〔8〕前記架橋重合体又はその塩は、pH8における水膨潤度が20以上80以下である、〔1〕~〔7〕のいずれか一に記載の製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明の製造方法により得られるカルボキシル基含有架橋重合体又はその塩によれば、当該架橋重合体又はその塩を含む組成物の塗工性及び塗膜性能を両立させる事できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】架橋重合体又はその塩の水膨潤度の測定に用いる装置を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明は、交換連鎖移動機構型制御剤の存在下、エチレン性不飽和カルボン酸単量体を含む単量体成分を沈殿重合若しくは分散重合することにより、カルボキシル基含有架橋重合体(以下、「本架橋重合体」ともいう。)又はその塩を製造する工程を備える、製造方法である。
【0014】
以下に、本発明について詳細に説明する。
尚、本明細書において、「(メタ)アクリル」とは、アクリル及び/又はメタクリルを意味し、「(メタ)アクリレート」とは、アクリレート及び/又はメタクリレートを意味する。また、「(メタ)アクリロイル基」とは、アクリロイル基及び/又はメタクリロイル基を意味する。
【0015】
1.本架橋重合体の構造単位
<エチレン性不飽和カルボン酸単量体に由来する構造単位>
本架橋重合体は、エチレン性不飽和カルボン酸単量体に由来する構造単位(以下、「(a)成分」ともいう。)を有し、エチレン性不飽和カルボン酸単量体を含む単量体成分を沈殿重合若しくは分散重合することにより重合体に導入することができる。本架橋重合体が、係る構造単位を有することによりカルボキシル基を有することで、基材への接着性が向上するとともに、水膨潤性が付与されるため、本架橋重合体又はその塩を含む組成物(以下、「本組成物」ともいう。)の安定性を高めることができる。特に、リチウムイオン二次電池用途では、基材である集電体への接着性が向上するとともに、リチウムイオンの脱溶媒和効果及びイオン伝導性に優れるため、抵抗が小さく、ハイレート特性に優れた電極が得られる。
【0016】
エチレン性不飽和カルボン酸単量体としては、(メタ)アクリル酸、イタコン酸、クロトン酸、マレイン酸、フマル酸;(メタ)アクリルアミドヘキサン酸及び(メタ)アクリルアミドドデカン酸等の(メタ)アクリルアミドアルキルカルボン酸;コハク酸モノヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ω-カルボキシ-カプロラクトンモノ(メタ)アクリレート、β-カルボキシエチル(メタ)アクリレート等のカルボキシル基を有するエチレン性不飽和単量体又はそれらの(部分)アルカリ中和物が挙げられ、これらの内の1種を単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。上記の中でも、重合速度が大きいために一次鎖長の長い重合体が得られ、本架橋重合体の接着力が良好となる点で重合性官能基としてアクリロイル基を有する化合物が好ましく、特に好ましくはアクリル酸である。エチレン性不飽和カルボン酸単量体としてアクリル酸を用いた場合、カルボキシル基含有量の高い重合体を得ることができる。
【0017】
本架橋重合体における(a)成分の含有量は、特に限定するものではないが、例えば、本架橋重合体の全構造単位に対して10質量%以上、100質量%以下含むことができる。かかる範囲で(a)成分を含有することで、基材に対する優れた接着性を容易に確保することができる。下限は、例えば20質量%以上であり、また例えば30質量%以上であり、また例えば40質量%以上である。下限が50質量%以上の場合、本組成物の分散安定性が良好となり、より高い結着力が得られるため好ましく、60質量%以上であってもよく、70質量%以上であってもよく、80質量%以上であってもよい。また、上限は、例えば、99.9質量%以下であり、また例えば99.5質量%以下であり、また例えば99質量%以下であり、また例えば98質量%以下であり、また例えば95質量%以下であり、また例えば90質量%以下であり、また例えば80質量%以下である。範囲としては、こうした下限及び上限を適宜組み合わせた範囲とすることができるが、例えば、10質量%以上、100質量%以下であり、また例えば50質量%以上、100質量%以下であり、また例えば50質量%以上、99.9質量%以下であり、また例えば50質量%以上、99質量%以下であり、また例えば50質量%以上、98質量%以下などとすることができる。
【0018】
<その他の構造単位>
本架橋重合体は、(a)成分以外に、これらと共重合可能な他のエチレン性不飽和単量体に由来する構造単位(以下、「(b)成分」ともいう。)を含むことができる。(b)成分としては、例えば、スルホン酸基及びリン酸基等のカルボキシル基以外のアニオン性基を有するエチレン性不飽和単量体化合物、又は非イオン性のエチレン性不飽和単量体等に由来する構造単位が挙げられる。これらの構造単位は、スルホン酸基及びリン酸基等のカルボキシル基以外のアニオン性基を有するエチレン性不飽和単量体化合物、又は非イオン性のエチレン性不飽和単量体を含む単量体を共重合することにより導入することができる。
【0019】
(b)成分の割合は、本架橋重合体の全構造単位に対し、0質量%以上、90質量%以下とすることができる。(b)成分の割合は、1質量%以上、60質量%以下であってもよく、2質量%以上、50質量%以下であってもよく、5質量%以上、40質量%以下であってもよく、10質量%以上、30質量%以下であってもよい。また、特に、リチウムイオン二次電池用途では、本架橋重合体の全構造単位に対して(b)成分を1質量%以上含む場合、電解液への親和性が向上するため、リチウムイオン伝導性が向上する効果も期待できる。
【0020】
(b)成分としては、前記した中でも、耐屈曲性が良好な塗膜が得られる観点から非イオン性のエチレン性不飽和単量体に由来する構造単位が好ましく、非イオン性のエチレン性不飽和単量体としては、(メタ)アクリルアミド及びその誘導体、ニトリル基含有エチレン性不飽和単量体、脂環構造含有エチレン性不飽和単量体、水酸基含有エチレン性不飽和単量体等が挙げられる。
【0021】
(メタ)アクリルアミド誘導体としては、例えば、イソプロピル(メタ)アクリルアミド、t-ブチル(メタ)アクリルアミド等のN-アルキル(メタ)アクリルアミド化合物;N-n-ブトキシメチル(メタ)アクリルアミド、N-イソブトキシメチル(メタ)アクリルアミド等のN-アルコキシアルキル(メタ)アクリルアミド化合物;ジメチル(メタ)アクリルアミド、ジエチル(メタ)アクリルアミド等のN,N-ジアルキル(メタ)アクリルアミド化合物が挙げられ、これらの内の1種を単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0022】
ニトリル基含有エチレン性不飽和単量体としては、例えば、(メタ)アクロリニトリル;(メタ)アクリル酸シアノメチル、(メタ)アクリル酸シアノエチル等の(メタ)アクリル酸シアノアルキルエステル化合物;4-シアノスチレン、4-シアノ-α-メチルスチレン等のシアノ基含有不飽和芳香族化合物;シアン化ビニリデン等が挙げられ、これらの内の1種を単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。上記の中でも、ニトリル基含有量が多い点でアクリロニトリルが好ましい。
【0023】
脂環構造含有エチレン性不飽和単量体としては、例えば、(メタ)アクリル酸シクロペンチル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸メチルシクロヘキシル、(メタ)アクリル酸t-ブチルシクロヘキシル、(メタ)アクリル酸シクロデシル及び(メタ)アクリル酸シクロドデシル等の脂肪族置換基を有していてもよい(メタ)アクリル酸シクロアルキルエステル;(メタ)アクリル酸イソボルニル、(メタ)アクリル酸アダマンチル、(メタ)アクリル酸ジシクロペンテニル、(メタ)アクリル酸ジシクロペンテニルオキシエチル、(メタ)アクリル酸ジシクロペンタニル、並びに、シクロヘキサンジメタノールモノ(メタ)アクリレート及びシクロデカンジメタノールモノ(メタ)アクリレート等のシクロアルキルポリアルコールモノ(メタ)アクリレート等が挙げられ、これらの内の1種を単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0024】
水酸基含有エチレン性不飽和単量体としては、例えば、(メタ)アクリル酸ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシプロピル及び(メタ)アクリル酸ヒドロキシブチル等が挙げられ、これらの内の1種を単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0025】
本架橋重合体又はその塩は、スラリー中の粒子との結着性が優れる点で、(メタ)アクリルアミド及びその誘導体、並びに、ニトリル基含有エチレン性不飽和単量体、脂環構造含有エチレン性不飽和単量体等に由来する構造単位を含むことが好ましい。
また、特に、リチウムイオン二次電池用途では、(b)成分として、水中への溶解性が1g/100ml以下の疎水性のエチレン性不飽和単量体に由来する構造単位を導入した場合、電極材料と強い相互作用を奏することができ、活物質に対して良好な結着性を発揮することができる。これにより、堅固で一体性の良好な電極合剤層を得ることができるため、前記した「水中への溶解性が1g/100ml以下の疎水性のエチレン性不飽和単量体」としては、特に脂環構造含有エチレン性不飽和単量体が好ましい。
さらに、特に、リチウムイオン二次電池用途では、得られる二次電池のサイクル特性が向上する点で、(b)成分として、水酸基含有エチレン性不飽和単量体に由来する構造単位を含むことが好ましく、当該構造単位を0.5質量%以上、70質量%以下含むことが好ましく、2.0質量%以上、50質量%以下含むことがより好ましく、10.0質量%以上、50質量%以下含むことがさらに好ましい。
【0026】
また、その他の非イオン性のエチレン性不飽和単量体としては、例えば(メタ)アクリル酸エステルを用いてもよい。(メタ)アクリル酸エステルとしては、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル等の(メタ)アクリル酸アルキルエステル化合物;
(メタ)アクリル酸フェニル、(メタ)アクリル酸フェニルメチル、(メタ)アクリル酸フェニルエチル等の芳香族(メタ)アクリル酸エステル化合物;
(メタ)アクリル酸2-メトキシエチル、(メタ)アクリル酸2-エトキシエチル等の(メタ)アクリル酸アルコキシアルキルエステル化合物等が挙げられ、これらの内の1種を単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0027】
スラリー中の粒子との結着性及び塗膜性能の観点からは、芳香族(メタ)アクリル酸エステル化合物を好ましく用いることができる。リチウムイオン伝導性及びハイレート特性がより向上する観点から、(メタ)アクリル酸2-メトキシエチル及び(メタ)アクリル酸2-エトキシエチルなどの(メタ)アクリル酸アルコキシアルキルエステル等、エーテル結合を有する化合物が好ましく、(メタ)アクリル酸2-メトキシエチルがより好ましい。
【0028】
非イオン性のエチレン性不飽和単量体の中でも、重合速度が速いために一次鎖長の長い重合体が得られ、本架橋重合体の接着力が良好となる点でアクリロイル基を有する化合物が好ましい。また、非イオン性のエチレン性不飽和単量体としては、得られる塗膜の耐屈曲性が良好となる点でホモポリマーのガラス転移温度(Tg)が0℃以下の化合物が好ましい。
【0029】
本架橋重合体は、当該重合体中に含まれるカルボキシル基の一部又は全部が中和された塩の形態であってもよい。塩の種類としては特に限定しないが、リチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩;カルシウム塩及びバリウム塩等のアルカリ土類金属塩;マグネシウム塩、アルミニウム塩等のその他の金属塩;アンモニウム塩及び有機アミン塩等が挙げられる。特に、リチウムイオン二次電池用途では、これらの中でも電池特性への悪影響が生じにくい点からアルカリ金属塩及びマグネシウム塩が好ましく、アルカリ金属塩がより好ましい。
【0030】
本架橋重合体は、架橋構造を有する架橋重合体である。本架橋重合体における架橋方法は特に制限されるものではなく、例えば以下の方法による態様が例示される。
1)架橋性単量体の共重合
2)ラジカル重合時のポリマー鎖への連鎖移動を利用
3)反応性官能基を有する重合体を合成後、必要に応じて架橋剤を添加して後架橋
本架橋重合体が架橋構造を有することにより、当該架橋重合体又はその塩は、優れた接着力を有することができる。上記の内でも、操作が簡便であり、架橋の程度を制御し易い点から架橋性単量体の共重合による方法が好ましい。
【0031】
<架橋性単量体>
架橋性単量体としては、2個以上の重合性不飽和基を有する多官能重合性単量体、及び加水分解性シリル基等の自己架橋可能な架橋性官能基を有する単量体等が挙げられる。
【0032】
上記多官能重合性単量体は、(メタ)アクリロイル基、アルケニル基等の重合性官能基を分子内に2つ以上有する化合物であり、多官能(メタ)アクリレート化合物、多官能アルケニル化合物、(メタ)アクリロイル基及びアルケニル基の両方を有する化合物等が挙げられる。これらの化合物は、1種のみを単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらの内でも、均一な架橋構造を得やすい点で多官能アルケニル化合物が好ましく、分子内に2個以上のアリルエーテル基を有する多官能アリルエーテル化合物が特に好ましい。
【0033】
多官能(メタ)アクリレート化合物としては、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート等の2価アルコールのジ(メタ)アクリレート類;トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンエチレンオキサイド変性体のトリ(メタ)アクリレート、グリセリントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート等の3価以上の多価アルコールのトリ(メタ)アクリレート、テトラ(メタ)アクリレート等のポリ(メタ)アクリレート;メチレンビスアクリルアミド、ヒドロキシエチレンビスアクリルアミド等のビスアミド類等を挙げることができる。
【0034】
多官能アルケニル化合物としては、トリメチロールプロパンジアリルエーテル、トリメチロールプロパントリアリルエーテル、ペンタエリスリトールジアリルエーテル、ペンタエリスリトールトリアリルエーテル、テトラアリルオキシエタン、ポリアリルサッカロース等の多官能アリルエーテル化合物;ジアリルフタレート等の多官能アリル化合物;ジビニルベンゼン等の多官能ビニル化合物等を挙げることができる。
【0035】
(メタ)アクリロイル基及びアルケニル基の両方を有する化合物としては、(メタ)アクリル酸アリル、(メタ)アクリル酸イソプロペニル、(メタ)アクリル酸ブテニル、(メタ)アクリル酸ペンテニル、(メタ)アクリル酸2-(2-ビニロキシエトキシ)エチル等を挙げることができる。
【0036】
上記自己架橋可能な架橋性官能基を有する単量体の具体的な例としては、加水分解性シリル基含有ビニル単量体、N-メチロール(メタ)アクリルアミド、N-メトキシアルキル(メタ)アクリレート等が挙げられる。これらの化合物は、1種単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0037】
加水分解性シリル基含有ビニル単量体としては、加水分解性シリル基を少なくとも1個有するビニル単量体であれば、特に限定されない。例えば、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルメチルジメトキシシラン、ビニルジメチルメトキシシランン等のビニルシラン類;アクリル酸トリメトキシシリルプロピル、アクリル酸トリエトキシシリルプロピル、アクリル酸メチルジメトキシシリルプロピル等のシリル基含有アクリル酸エステル類;メタクリル酸トリメトキシシリルプロピル、メタクリル酸トリエトキシシリルプロピル、メタクリル酸メチルジメトキシシリルプロピル、メタクリル酸ジメチルメトキシシリルプロピル等のシリル基含有メタクリル酸エステル類;トリメトキシシリルプロピルビニルエーテル等のシリル基含有ビニルエーテル類;トリメトキシシリルウンデカン酸ビニル等のシリル基含有ビニルエステル類等を挙げることができる。
【0038】
本架橋重合体が架橋性単量体により架橋されたものである場合、当該架橋性単量体の使用量は、架橋性単量体以外の単量体(非架橋性単量体)の総量100質量部に対して好ましくは0.05質量部以上5.0質量部以下であり、より好ましくは0.1質量部以上5.0質量部以下であり、さらに好ましくは0.2質量部以上4.0質量部以下であり、一層好ましくは0.3質量部以上3.0質量部以下である。架橋性単量体の使用量が0.05質量部以上であれば、接着力及び本組成物の安定性がより良好となる点で好ましい。5.0質量部以下であれば、沈殿重合若しくは分散重合の安定性が高くなる傾向がある。
同様に、上記架橋性単量体の使用量は、架橋性単量体以外の単量体(非架橋性単量体)の総量に対して0.02~1.7モル%であることが好ましく、0.10~1.0モル%であることがより好ましい。
【0039】
2.本架橋重合体の製造方法
本架橋重合体は、交換連鎖移動機構型制御剤の存在下、上記エチレン性不飽和カルボン酸単量体を含む単量体成分(以下、「本単量体」ともいう。)を沈殿重合又は分散重合することにより得られる。
ここで、沈殿重合は、原料である単量体を溶解するが、生成する重合体を実質溶解しない溶媒中で重合反応を行うことにより重合体を製造する方法である。重合の進行とともにポリマー粒子は凝集及び成長により大きくなり、数十nm~数百nmの一次粒子が数μm~数十μmに二次凝集したポリマー粒子の分散液が得られる。ポリマーの粒子サイズを制御するために分散安定剤を使用することもできる。
尚、分散安定剤や重合溶剤等を選定することにより上記二次凝集を抑制することもできる。一般に、二次凝集を抑制した沈殿重合は、分散重合とも呼ばれる。
【0040】
交換連鎖移動機構型制御剤について
本発明に係る交換連鎖移動機構型制御剤としては、可逆的付加-開裂連鎖移動重合法(RAFT法)における制御剤(以下、「RAFT剤」ともいう。)、ヨウ素移動重合法における制御剤、有機テルル化合物を用いる重合法(TERP法)における制御剤、有機アンチモン化合物を用いる重合法(SBRP法)における制御剤、有機ビスマス化合物を用いる重合法(BIRP法)における制御剤等が挙げられる。交換連鎖移動機構型制御剤としては、1種又は2種以上のビニル系単量体の重合鎖と交換連鎖移動機構によるリビングラジカル重合活性単位を有する重合体(以下、単に「第1の重合体」ともいう。後記の段落[0052]~[0078]で詳述する。)、当該重合体以外の制御剤を用いることができる。第1の重合体、当該重合体以外の制御剤は、それぞれ単独で用いても良いし、併用しても良い。
交換連鎖移動機構型制御剤の存在下、本単量体を沈殿重合又は分散重合することで、一次鎖長が短くなるとともに、鎖長が揃うことで均一な架橋構造を形成するため、本架橋重合体の水膨潤度を高くすることが可能となる。これに伴い、組成物粘度の低減による良好な塗工性と優れた塗膜性能を両立させることができるものと推定される。
これらの中でも、本架橋重合体の架橋構造をより均一にすることができる点で、RAFT剤及びヨウ素移動重合法における制御剤が好ましく、RAFT剤がより好ましい。
【0041】
RAFT剤としては、可逆的付加-開裂連鎖移動法によるリビングラジカル重合活性単位を有する第1の重合体(後記に詳述)、及び/又は、当該第1の重合体以外のRAFT剤(ジチオエステル化合物、キサンテート化合物、トリチオカーボネート化合物、ジチオカーバメート化合物等)を使用することができる。
上記第1の重合体以外のRAFT剤としては、具体的には、例えば、2-シアノ-2-プロピルベンゾジチオエート、2-フェニル-2-プロピルベンゾジチオエート、トリチオカーボネート、2-シアノ-2-プロピルドデシルトリチオカーボネート、2-(ドデシルチオカルボノチオイルチオ)プロピオン酸、3-((1-カルボキシエチルチオ)カルボノチオイルチオ))プロピオン酸、2-(ドデシルチオカルボノチオイルチオ)-2-メチルプロパン酸メチル、1,4-ビス(n-ドデシルスルファニルチオカルボニルスルファニルメチル)ベンゼン、ジベンジルトリチオカーボネート、ジスチリルトリチオカーボネート、ジクミルトリチオカーボネート、シアノメチル-N-メチル-N-フェニルジチオカーバメート等が挙げられる。
RAFT剤の中では、本架橋重合体の架橋構造をより一層均一にすることができる点で、分子内にトリチオカーボネートを有するものが特に好ましい。
【0042】
ヨウ素移動重合法における制御剤は、ヨウ素移動重合法によるリビングラジカル活性単位を有する第1の重合体(後記に詳述)、及び/又は、当該第1の重合体以外の制御剤を使用することができる。
上記第1の重合体以外の制御剤としては、具体的には、例えば、ヨウ化メチル、ヨウ化メチレン、ヨードホルム、四ヨウ化炭素、1-フェニルエチルヨージド、ベンジルヨージド等のアルキル基の炭素数が1~20のパフルオロアルキルパーフルオロアルキルヨージド、2-ヨードプロピオン酸エチル、2-ヨードイソ酪酸メチル、2-ヨードイソ酪酸エチル、2-ヨード-2-フェニル酢酸エチル、ビス(2-ヨード-2-フェニル酢酸)エチレングリコール、ビス(2-ヨードイソ酪酸)エチレングリコール、1,5-ジヨード-2,4-ジメチルベンゼン、2-ヨードプロピオニトリル等が挙げられる。
【0043】
交換連鎖移動機構型制御剤は、活性点を1個所備える1官能性のものであってもよいし、2個所以上備える2官能性以上のものを用いることもできる。2官能性以上の交換連鎖移動機構型制御剤は、2方向性以上に重合鎖が伸長するものである。本架橋重合体の製造の観点からは、2官能性又は3官能性以上の交換連鎖移動機構型制御剤を用いることが好適な場合がある。
【0044】
交換連鎖移動機構型制御剤の使用量としては、架橋重合体の架橋構造をより均一にすることができる点で、本単量体の総量に対して0.0001~0.50モル%であることが好ましく、0.0001~0.40モル%であることがより好ましく、0.0001~0.30モル%であることがさらに好ましく、0.0002~0.30モル%であることがより一層好ましい。
【0045】
交換連鎖移動機構型制御剤とともに用いる重合開始剤としては、アゾ系化合物、有機過酸化物、無機過酸化物等の公知の重合開始剤を用いることができるが、特に限定されるものではない。熱開始、還元剤を併用したレドックス開始、UV開始等、公知の方法で適切なラジカル発生量となるように使用条件を調整することができる。一次鎖長の長い本架橋重合体を得るためには、製造時間が許容される範囲内で、ラジカル発生量がより少なくなるように条件を設定することが好ましい。
前記の重合開始剤の中でも、安全上取り扱い易く、ラジカル重合時の副反応が起こりにくい点からは、アゾ化合物が好ましい。上記アゾ化合物の具体例としては、2,2’-アゾビスイソブチロニトリル、2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)、2,2’-アゾビス(4-メトキシ-2,4-ジメチルバレロニトリル)、ジメチル-2,2’-アゾビス(2-メチルプロピオネート)、2,2’-アゾビス(2-メチルブチロニトリル)、1,1’-アゾビス(シクロヘキサン-1-カルボニトリル)、2,2’-アゾビス[N-(2-プロペニル)-2-メチルプロピオンアミド]、2,2’-アゾビス(N-ブチル-2-メチルプロピオンアミド)等が挙げられる。上記ラジカル重合開始剤は1種類のみ使用しても又は2種以上を併用してもよい。
【0046】
重合開始剤の好ましい使用量は、用いる単量体成分の総量を100質量部としたときに、例えば、0.001~2質量部であり、また例えば、0.005~1質量部であり、また例えば、0.01~0.1質量部である。重合開始剤の使用量が0.001質量部以上であれば重合反応を安定的に行うことができ、2質量部以下であれば一次鎖長の長い重合体を得やすい。
重合開始剤の使用割合は特に制限されないが、本架橋重合体の架橋構造を均一にすることができる点から、上記交換連鎖移動機構型制御剤1molに対する上記重合開始剤の使用量を0.5mol以下とすることが好ましく、0.2mol以下とするのがより好ましい。また、重合反応を安定的に行う観点から、交換連鎖移動機構型制御剤1molに対する重合開始剤の使用量の下限は、0.001molである。よって、交換連鎖移動機構型制御剤1molに対する重合開始剤の使用量は、0.001mol以上0.5mol以下の範囲が好ましく、0.005mol以上0.2mol以下の範囲がより好ましい。
【0047】
重合溶媒は、使用する単量体の種類等を考慮して水及び各種有機溶剤等から選択される溶媒を使用することができる。より一次鎖長の長い重合体を得るためには、連鎖移動定数の小さい溶媒を使用することが好ましい。
具体的な重合溶媒としては、メタノール、t-ブチルアルコール、アセトン、メチルエチルケトン、アセトニトリル及びテトラヒドロフラン等の水溶性溶剤の他、ベンゼン、酢酸エチル、ジクロロエタン、n-ヘキサン、シクロヘキサン及びn-ヘプタン等が挙げられ、これらの1種を単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。又は、これらと水との混合溶媒として用いてもよい。本発明において水溶性溶剤とは、20℃における水への溶解度が10g/100mlより大きいものを指す。
上記の内、粗大粒子の生成や反応器への付着が小さく重合安定性が良好であること、析出した架橋重合体が二次凝集しにくい(若しくは二次凝集が生じても水媒体中で解れやすい)こと、連鎖移動定数が小さく重合度(一次鎖長)の大きい重合体が得られること、及び後述する工程中和の際に操作が容易であること等の点で、メチルエチルケトン及びアセトニトリルが好ましい。
【0048】
また、同じく工程中和において中和反応を安定かつ速やかに進行させるため、重合溶媒中に高極性溶媒を少量加えておくことが好ましい。係る高極性溶媒としては、好ましくは水及びメタノールが挙げられる。高極性溶媒の使用量は、媒体の全質量に基づいて好ましくは0.05~20.0質量%であり、より好ましくは0.1~10.0質量%、さらに好ましくは0.1~5.0質量%であり、一層好ましくは0.1~1.0質量%である。高極性溶媒の割合が0.05質量%以上であれば、上記中和反応への効果が認められ、20.0質量%以下であれば重合反応への悪影響も見られない。また、アクリル酸等の親水性の高いエチレン性不飽和カルボン酸単量体の重合では、高極性溶媒を加えた場合には重合速度が向上し、一次鎖長の長い重合体を得やすくなる。高極性溶媒の中でも特に水は上記重合速度を向上させる効果が大きく好ましい。
【0049】
交換連鎖移動機構型制御剤の存在下における重合反応の際の反応温度は、好ましくは30℃以上120℃以下であり、より好ましくは40℃以上110℃以下であり、さらに好ましくは50℃以上100℃以下である。反応温度が30℃以上であれば、重合反応を円滑に進めることができる。一方、反応温度が120℃以下であれば、副反応が抑制できるとともに、使用できる開始剤や溶剤に関する制限が緩和される。
【0050】
重合工程を経て得られた架橋重合体の分散液は、乾燥工程において減圧及び/又は加熱処理等を行い溶媒留去することにより、目的とする架橋重合体を粉末状態で得ることができる。この際、上記乾燥工程の前に、未反応単量体(及びその塩)を除去する目的で、重合工程に引き続き、遠心分離及び濾過等の固液分離工程、有機溶剤又は有機溶剤/水の混合溶剤を用いた洗浄工程を備えることが好ましい。
上記洗浄工程を備えた場合、架橋重合体が二次凝集した場合であっても使用時に解れやすく、さらに残存する未反応単量体が除去されることにより、塗膜性能の点でも良好な性能を示す。
【0051】
本発明の製造方法では、エチレン性不飽和カルボン酸単量体として未中和又は部分中和塩を用いた場合、重合工程により得られた架橋重合体の分散液にアルカリ化合物を添加して重合体を中和(以下、「工程中和」ともいう)した後、乾燥工程で溶媒を除去してもよい。また、未中和若しくは部分中和塩状態のまま架橋重合体の粉末を得た後、スラリー組成物を調製する際にアルカリ化合物を添加して、重合体を中和(以下、「後中和」ともいう)してもよい。上記の内、工程中和の方が、二次凝集体が解れやすい傾向にあり好ましい。
【0052】
ここで、交換連鎖移動機構型制御剤としては、前記の通り、1種又は2種以上のビニル系単量体(以下、単に、「第1の単量体」ともいう。)の重合鎖(以下、単に、「第1の重合鎖」ともいう。)と交換連鎖移動機構によるリビングラジカル重合活性単位を有する重合体(第1の重合体)を用いることができる。
【0053】
第1の重合体の存在下、本単量体を重合して本架橋重合体を製造するにあたって、第1の重合体を本単量体の重合の基点として用いるとともに、当該架橋重合体の重合溶媒中における分散安定剤として用いることができ、第1の重合体の重合鎖に対して、本単量体由来の構造単位を有する重合鎖を結合させた本架橋重合体を分散微粒子として得ることができる。こうすることで、重合安定性、すなわち、重合工程中の本架橋重合体の凝集を抑制して、粗大な凝集粒子の発生を抑制し、粒子径が小さく、かつ粒子径分布の狭い本架橋重合体を得ることができる。
【0054】
第1の重合体の存在下、本単量体を重合して本架橋重合体を製造するにあたって、第1の重合体を分散安定剤として機能させるためには、例えば、第1の重合体を、本単量体の総質量100質量部に対して、0.3質量部以上50質量部以下用いることができる。かかる範囲で用いることで、第1の重合体を分散安定剤として機能させつつ、本単量体を主として含有する本架橋重合体を製造することができる。また、第1の重合体が0.3質量部未満であると、十分な分散安定効果が出にくく、本架橋重合体の粒子径が0.3μmを超えやすくなり、50質量部を超えても、分散安定剤としての機能性も向上しにくく、かつ本架橋重合体の小粒子径化の効果も小さくなってしまうからである。
【0055】
第1の重合体は、本単量体の総質量100質量部に対して、また例えば、0.5質量部以上、また例えば、1質量部以上用いることができる。また、第1の重合体は、また例えば、40質量部以下、また例えば、30質量部以下、また例えば、20質量部以下用いることができる。第1の重合体の本単量体の総質量100質量部に対する使用量の範囲は、上記上限と下限を適宜組み合わせて設定できる。
【0056】
第1の重合体の製造方法
公知の交換連鎖移動機構型制御剤の存在下、第1の単量体を含む単量体組成物を重合することで、第1の単量体由来の構造単位を有する第1の重合鎖と交換連鎖移動機構によるリビング重合活性単位を備える第1の重合体を得ることができる。
【0057】
第1の重合体を製造する際の重合条件は、当業者において周知であり、重合プロセスとしては、塊状重合、溶液重合、懸濁重合及び乳化重合等の各種プロセスが挙げられるが、本架橋重合体の製造における重合基点であることや分散安定剤的に機能することを考慮すると、例えば、溶液重合を用いることができる。また、交換連鎖移動機構制御剤の種類、重合開始剤の種類及び使用量、重合溶媒、反応温度等の重合条件は、前記の段落[0040]~[0043]及び[0045]~[0049]に準じて適宜選択され、交換連鎖移動機構制御剤の使用量は、目標とする第1の重合体の数平均分子量(Mn)に応じて適宜調整される。
交換連鎖移動機構制御剤としては、RAFT剤及びヨウ素移動重合法における制御剤が第1の重合体の分子量分布を小さくできる点で好ましい。
さらに、第1の重合体を製造する際の濃度は、重合溶媒と第1の単量体など仕込み量の総質量に対して、特に限定するものではないが、例えば、10質量%以上80質量%以下、また例えば、15質量%以上70質量%以下、また例えば、20質量%以上70質量%以下などとすることができる。
【0058】
典型的には、1官能性の交換連鎖移動機構型制御剤を用いた場合には、リビング重合活性単位を第1の重合鎖の末端に備える態様となり、2官能性以上の交換連鎖移機構型制御剤を用いた場合には、リビング重合活性単位を基点として2方向以上に分岐してそれぞれに第1の重合鎖を備える態様となる。なお、いずれの態様においても、別の重合鎖を備える場合には、この別の重合鎖が、リビング重合活性単位に直接結合され、リビング重合活性単位に対してより遠位側に第1の重合鎖が備えられるように、当該別の重合鎖の遠位末端に第1の重合鎖が結合された態様となっている。
【0059】
第1の重合体は、2種以上の第1の重合鎖を備えることもできる。例えば、ある種の組成の1種又は2種以上の第1の単量体を用いてリビングラジカル重合等を実施後に、他の組成で1種又は2種以上の第1の単量体を用いてリビングラジカル重合等を実施することで、異なる組成の第1の単量体由来の構造単位を有する第1の重合鎖(ブロック)を備える第1の重合体を得ることができる。
【0060】
第1の重合体の数平均分子量(Mn)は、特に限定するものではないが、例えば、3,000以上であり、また例えば、5,000以上であり、また例えば、7,000以上であり、また例えば、8,000以上であり、また例えば、10,000以上である。また、同Mnは、50,000以下であり、また例えば、30,000以下であり、また例えば、25,000以下であり、また例えば、20,000以下であり、また例えば、15,000以下であり、また例えば、14,000以下であり、また例えば、12,000以下である。Mnの範囲としては、上記した下限及び上限を適宜組み合わせて設定することができるが、例えば、5,000以上25,000以下であり、また例えば、10,000以上25,000以下であり、また例えば、10,000以上15,000以下であり、また例えば、10,000以上14,000以下である。
【0061】
第1の重合体の重量平均分子量(Mw)は、特に限定するものではないが、例えば、5,000以上であり、また例えば、7,000以上であり、また例えば、9,000以上であり、また例えば、10,000以上であり、また例えば、13,000以上であり、また例えば、15,000以上である。また、同Mwは、60,000以下であり、また例えば、55,000以下であり、また例えば、50,000以下であり、また例えば、45,000以下であり、また例えば、40,000以下であり、また例えば、36,000以下であり、また例えば、35,000以下であり、また例えば、30,000以下であり、また例えば、25、000以下である。Mwの範囲としては、上記した下限及び上限を適宜組み合わせて設定することができるが、例えば、1,000以上40,000以下であり、また例えば、10,000以上35,000以下であり、また例えば、10,000以上30,000以下であり、また例えば、15,000以上25,000以下である。
【0062】
なお、第1の重合体のMw及びMnは、いずれも、ポリスチレンを標準物質として用いたゲルパーミエーションクロマトグラフィーにて測定することができる。クロマトグラフィー条件の詳細は、後段の実施例に開示する条件を採用することができる。
【0063】
第1の重合体の分子量分布(Mw/Mn)は、特に限定するものではないが、例えば、2.5以下であり、また例えば、2.4以下であり、また例えば、2.3以下であり、また例えば、2.0以下であり、また例えば、1.6以下であり、また例えば、1.5以下であり、また例えば、1.4以下であり、また例えば、1.3以下である。また、分子量分布は、例えば、1.1以上であり、また例えば、1.2以上であり、また例えば、1.3以上であり、また例えば、1.4以上、また例えば、1.5以上である。分子量分布の範囲としては、上記した下限及び上限を適宜組み合わせて設定することができるが、例えば、1.1以上2.5以下、また例えば、1.1以上2.4以下、また例えば、1.1以上2.3以下、また例えば、1.1以上2.0以下などとすることができる。
【0064】
第1の重合体の分子量分布は小さいほど、得られる本架橋重合体の粒子径が小さくなる傾向がある。分子量分布が2.4以下であることが好適であり、より小さい粒子径の本架橋重合体を得るには、同1.7以下であることが好適であり、さらに好適には、同1.6以下であり、一層好適には、1.4以下である。
【0065】
<第1の単量体>
第1の単量体としては、例えば、スチレン類、(メタ)アクリロニトリル化合物、マレイミド化合物、不飽和酸無水物及び不飽和カルボン酸化合物が挙げられる。これらのうち1種又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0066】
スチレン類としては、スチレン及びその誘導体が含まれる。具体的な化合物としては、スチレン、α-メチルスチレン、β-メチルスチレン、ビニルトルエン、ビニルキシレン、ビニルナフタレン、o-メチルスチレン、m-メチルスチレン、p-メチルスチレン、o-エチルスチレン、m-エチルスチレン、p-エチルスチレン、p-n-ブチルスチレン、p-イソブチルスチレン、p-t-ブチルスチレン、o-メトキシスチレン、m-メトキシスチレン、p-メトキシスチレン、o-クロロメチルスチレン、p-クロロメチルスチレン、o-クロロスチレン、p-クロロスチレン、o-ヒドロキシスチレン、m-ヒドロキシスチレン、p-ヒドロキシスチレン、ジビニルベンゼン等が例示され、これらの内の1種又は2種以上を用いることができる。これらの中でも、重合性の観点から、スチレン、o-メトキシスチレン、m-メトキシスチレン、p-メトキシスチレン、o-ヒドロキシスチレン、m-ヒドロキシスチレン、p-ヒドロキシスチレンが好ましい。
【0067】
(メタ)アクリロニトリル化合物としては、(メタ)アクリロニトリル、アクリロ二トリル、α-メチルアクリロニトリル等が挙げられる。例えば、アクリロニトリルが用いられる。
【0068】
マレイミド化合物としては、マレイミド化合物には、マレイミド及びN-置換マレイミド化合物が含まれる。N-置換マレイミド化合物の具体例としては、N-メチルマレイミド、N-エチルマレイミド、N-n-プロピルマレイミド、N-イソプロピルマレイミド、N-n-ブチルマレイミド、N-イソブチルマレイミド、N-tert-ブチルマレイミド、N-ペンチルマレイミド、N-ヘキシルマレイミド、N-ヘプチルマレイミド、N-オクチルマレイミド、N-ラウリルマレイミド、N-ステアリルマレイミド等のN-アルキル置換マレイミド化合物;N-シクロペンチルマレイミド、N-シクロヘキシルマレイミド等のN-シクロアルキル置換マレイミド化合物;N-フェニルマレイミド、N-(4-ヒドロキシフェニル)マレイミド、N-(4-アセチルフェニル)マレイミド、N-(4-メトキシフェニル)マレイミド、N-(4-エトキシフェニル)マレイミド、N-(4-クロロフェニル)マレイミド、N-(4-ブロモフェニル)マレイミド、N-ベンジルマレイミド等のN-アリール置換マレイミド化合物などが挙げられ、これらの内の1種又は2種以上を用いることができる。例えば、N-フェニルマレイミドが用いられる。
【0069】
また、不飽和酸無水物としては、無水マレイン酸、無水イタコン酸、無水シトラコン酸等が挙げられ、これらのうち1種又は2種以上を用いることができる。
【0070】
不飽和カルボン酸化合物としては、(メタ)アクリル酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、クロトン酸、シトラコン酸、ケイ皮酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、シトラコン酸、無水マレイン酸、無水イタコン酸及び無水シトラコン酸等の不飽和ジカルボン酸並びに不飽和ジカルボン酸のモノアルキルエステル等が挙げられ、これのうち、1種又は2種以上を用いることができる。
【0071】
第1の単量体としては、これらの中でも、例えば、少なくともスチレン類を含むことが好ましい。スチレン類は、リビング重合が容易で、適度な疎水性と有機溶媒に対する親和性を付与できるからである。第1の重合鎖に疎水性ないし有機溶媒に対する親和性を付与することができる。こうすることで、例えば、極性有機溶媒中での分散重合法により架橋重合体を製造する場合には、第1の重合体が、架橋重合体の表層に存在する傾向が生じて、架橋重合体の分散安定性が向上される。
【0072】
スチレン類は、第1の単量体の総質量のうち、例えば、20質量%以上である。20質量%以上であるとリビング重合が容易となり、適度な疎水性と有機溶媒に対する親和性を適切に付与できるからである。また例えば、30質量%以上であり、また例えば、35質量%以上であり、また例えば、40質量%以上であり、また例えば、50質量%以上であり、また例えば、60質量%以上であり、また例えば、65質量%以上であり、また例えば、70質量%以上であり、また例えば、75質量%以上である。また、スチレン類は、前記総質量の100質量%以下であり、また例えば、95質量%以下であり、また例えば、90質量%以下であり、また例えば、85質量%以下であり、また例えば、80質量%以下であり、また例えば、75質量%以下である。スチレン類の前記総質量に対する範囲としては、上記した下限及び上限を適宜組み合わせて設定することができるが、例えば、20質量%以上95質量%以下であり、また例えば、30質量%以上75質量%以下であり、また例えば、35質量%以上85質量%以下である。
【0073】
(メタ)アクリロニトリル化合物、マレイミド化合物、酸無水物及び不飽和カルボン酸化合物は、それぞれ、単独でも使用できるほか、これら4種のうち1種又は2種以上をスチレン類と組み合わせて用いることが好ましい。これら4種は、いずれも、第1の重合鎖の疎水性又は有機溶媒親和性を維持、調節又は付与することができるからである。中でも、アクリロニトリルなどの(メタ)アクリロニトリル化合物、N-フェニルマレイミドなどのマレイミド化合物及び酸無水物のうちの1種又は2種以上である。中でも、スチレンとアクリロニトリル、スチレンとN-フェニルマレイミドなどの組み合わせが好適である。なお、不飽和カルボン酸化合物は、第1の重合体の極性を容易に変化させることができる点等において好ましい。
【0074】
スチレン類と組み合わせて用いる場合、スチレン類以外のこれら1種又は2種以上の第1の単量体の総量は、第1の重合鎖を重合するための第1の単量体(第1の重合鎖の第1の単量体単位)の総質量のうち、例えば、20質量%以上である。また例えば、25質量%以上であり、また例えば、30質量%以上であり、また例えば、35質量%以上であり、また例えば、40質量%以上であり、また例えば、50質量%以上であり、また例えば、60質量%以上である。また、(メタ)アクリロニトリル化合物は、前記総質量の80質量%以下であり、また例えば、75質量%以下であり、また例えば、70質量%以下であり、また例えば、65質量%以下であり、また例えば、60質量%以下であり、また例えば、55質量%以下であり、また例えば、50質量%以下である。スチレン類の前記総質量に対する範囲としては、上記した下限及び上限を適宜組み合わせて設定することができるが、例えば、20質量%以上65質量%以下であり、また例えば、25質量%以上50質量%以下である。
【0075】
<第1の重合鎖>
第1の重合鎖は、上記した第1の単量体のみの重合鎖であってもよいが、必要に応じて、上記以外の他のビニル系単量体を第1の単量体として用いることができる。例えば、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸アルキルなどの(メタ)アクリル酸エステル等の公知のビニル系単量体を用いることができる。
なお、こうした他の単量体は、第1の重合鎖を構成する単量体の総質量の、例えば10質量%以下、また例えば、5質量%以下、また例えば、3質量%以下、また例えば、1質量%以下であり、また例えば、0.5質量%以下である。
【0076】
また、第1の重合体は、第1の重合鎖とは異なるブロック(他の重合鎖)を備えることもできる。かかる他の重合鎖は、例えば、第1の重合鎖の形成後に、別の合成工程で付加されてもよい。この場合には、第1の重合鎖を備える第1の重合体に、引き続きあるいは新たにラジカル重合開始剤と他のビニル系単量体を供給して、第1の重合鎖とは異なる組成の第1の単量体以外の単量体に由来する単位からなる他の重合鎖(ブロック)を備える第1の重合体を得ることができる。後述するリビングラジカル活性単位に直接連結され、かつ第1の重合鎖に連結されるように備えられることで、本架橋重合体に用いる本単量体と共通する単量体の一部を予め、第1の重合体中に備えることができる。
【0077】
<リビングラジカル重合活性単位>
第1の重合体は、交換連鎖移動機構によるリビングラジカル重合活性単位を備えるため、本単量体の沈殿重合又は分散重合にあたって、第1の重合体の重合溶媒への溶解性や分散安定剤としての機能のために、種々のモノマーを選択することができる。
【0078】
第1の重合体におけるリビングラジカル重合活性単位の交換連鎖移動機構としては、可逆的付加-開裂連鎖移動重合法(RAFT法)、ヨウ素移動重合法、有機テルル化合物を用いる重合法(TERP法)、有機アンチモン化合物を用いる重合法(SBRP法)、有機ビスマス化合物を用いる重合法(BIRP法)等が挙げられる。これらの中でも、本架橋重合体の粒子径を小さくできる点で、RAFT法及びヨウ素移動重合法が好ましく、RAFT法がより好ましい。
【0079】
3.本架橋重合体の特性
<本架橋重合体の水溶液粘度>
本架橋重合体又はその塩は、その2質量%濃度水溶液の粘度が100mPa・s以上であることが好ましい。2質量%濃度水溶液の粘度が100mPa・s以上の場合、架橋重合体を含む組成物の保存安定性が高く、優れた接着力を発揮することが可能となる。2質量%濃度水溶液の粘度は、1,000mPa・s以上であってもよく、10,000mPa・s以上であってもよく、50,000mPa・s以上であってもよい
水溶液粘度は、所定の濃度となる量の本架橋重合体又はその塩を水中に均一に溶解又は分散した後、実施例に記載の方法に従い、12rpmにおけるB型粘度(25℃)を測定することにより得られる。
【0080】
本架橋重合体は、水中では水を吸収して膨潤した状態となる。一般に、架橋重合体が適度な架橋度を有する場合、当該架橋重合体が有する親水性基の量が多いほど、架橋重合体は水を吸収して膨潤し易くなる。また、架橋度についていえば、架橋度が低いほど、架橋重合体は膨潤し易くなる。但し、架橋点の数が同じであっても、分子量(一次鎖長)が大きいほど三次元ネットワークの形成に寄与する架橋点が増えるため、架橋重合体は膨潤し難くなる。よって、架橋重合体の親水性基の量、架橋点の数及び一次鎖長等を調整することにより、架橋重合体水溶液の粘度を調節することができる。この際、上記架橋点の数は、例えば、架橋性単量体の使用量、ポリマー鎖への連鎖移動反応及び後架橋反応等により調整が可能である。また、重合体の一次鎖長は、開始剤及び重合温度等のラジカル発生量に関連する条件の設定、並びに、連鎖移動等を考慮した重合溶媒の選択等により調整することができる。
【0081】
<本架橋重合体の粒子径>
本組成物において、本架橋重合体は大粒径の塊(二次凝集体)として存在することなく、適度な粒子径を有する水膨潤粒子として良好に分散していることが、当該架橋重合体が良好な接着力を発揮し得るため好ましい。
【0082】
本架橋重合体は、当該架橋重合体が有するカルボキシル基に基づく中和度が80~100モル%であるものを水中に分散させた際の粒子径(水膨潤粒子径)が、体積基準メジアン径で0.1μm以上、5.0μm以下の範囲にあることが好ましい。上記粒子径のより好ましい範囲は0.1μm以上、4.0μm以下であり、さらに好ましい範囲は0.1μm以上、3.0μm以下であり、一層好ましい範囲は0.2μm以上、3.0μm以下であり、より一層好ましい範囲は0.3μm以上、3.0μm以下である。粒子径が0.1μm以上、5.0μm以下の範囲であれば、本組成物中において好適な大きさで均一に存在するため、本組成物の安定性が高く、優れた接着力を発揮することが可能となる。粒子径が5.0μmを超えると、上記の通り接着力が不十分となる虞がある。また、平滑性な塗面が得られにくい点で、塗工性が不十分となる虞がある。一方、粒子径が0.1μm未満の場合には、安定製造性の観点において懸念される。
【0083】
本架橋重合体は、本組成物中において、中和度が20モル%以上となるように、エチレン性不飽和カルボン酸単量体由来のカルボキシル基等の酸基が中和され、塩の態様として用いることが好ましい。上記中和度は、より好ましくは50モル%以上であり、さらに好ましくは70モル%以上であり、一層好ましくは75モル%以上であり、より一層好ましくは80モル%以上であり、特に好ましくは85モル%以上である。中和度の上限値は100モル%であり、98モル%であってもよく95モル%であってもよい。中和度の範囲は、上記下限値及び上限値を適宜組合せることができ、例えば、50モル%以上100モル%以下であってもよく、75モル%以上100モル%以下であってもよく、80モル%以上100モル%以下であってもよい。中和度が20モル%以上の場合、水膨潤性が良好となり分散安定化効果が得やすいという点で好ましい。本明細書では、上記中和度は、カルボキシル基等の酸基を有する単量体及び中和に用いる中和剤の仕込み値から計算により算出することができる。なお、中和度は架橋重合体又はその塩を、減圧条件下、80℃で3時間乾燥処理後の粉末をIR測定し、カルボン酸のC=O基由来のピークとカルボン酸塩のC=O基由来のピークの強度比より確認することができる。
【0084】
<本架橋重合体の水膨潤度>
本明細書では、水膨潤度は本架橋重合体の乾燥時の重量「(WA)g」、及び当該架橋重合体を水で飽和膨潤させた際に吸収される水の量「(WB)g」とから、以下の式に基づいて算出される。
(水膨潤度)={(WA)+(WB)}/(WA)
【0085】
架橋重合体又はその塩は、pH8における水膨潤度が20以上、80以下であることが好ましい。水膨潤度が上記範囲であれば、架橋重合体又はその塩が水媒体中で適度に膨潤するため、塗膜を形成する際に、スラリー中の粒子及び基材への十分な接着面積を確保することが可能となり、結着性が良好となる傾向がある。上記水膨潤度は、例えば21以上であってもよく、23以上であってもよく、25以上であってもよく、27以上であってもよく、30以上であってもよい。水膨潤度が20以上の場合、架橋重合体又はその塩がスラリー中の粒子や基材の表面において広がり、十分な接着面積を確保することができるため、良好な結着性が得られる。pH8における水膨潤度の上限値は、75以下であってもよく、70以下であってもよく、65以下であってもよく、60以下であってもよく、55以下であってもよい。水膨潤度が80を超えると、本組成物の粘度が高くなる傾向が有り、合剤層の均一性が不足する結果、十分な結着力が得られないことがある。また、本組成物の塗工性が低下する虞がある。pH8における水膨潤度の範囲は、上記上限値及び下限値を適宜組合せることにより設定できるが、例えば、23以上、70以下であり、また例えば、25以上、65以下であり、また例えば、25以上、55以下である。
pH8における水膨潤度は、pH8の水中における架橋重合体又はその塩の膨潤度を測定することにより得ることができる。上記pH8の水としては、例えばイオン交換水を使用することができ、必要に応じて適当な酸若しくはアルカリ、又は緩衝液等を用いてpHの値を調整してもよい。測定時のpHは、例えば、8.0±0.5の範囲であり、好ましくは8.0±0.3の範囲であり、より好ましくは8.0±0.2の範囲であり、さらに好ましくは8.0±0.1の範囲である。
【0086】
尚、当業者であれば、架橋重合体の組成及び構造等を制御することにより、その水膨潤度の調整を行うことができる。例えば、架橋重合体に酸性官能基、又は親水性の高い構造単位を導入することにより、水膨潤度を高くすることができる。また、架橋重合体の架橋度を低くすることによっても、通常その水膨潤度は高くなる。
【実施例】
【0087】
以下、実施例に基づいて本発明を具体的に説明する。尚、本発明は、これらの実施例により限定されるものではない。尚、以下において「部」及び「%」は、特に断らない限り質量部及び質量%を意味する。
【0088】
≪カルボキシル基含有架橋重合体(塩)の評価≫
(pH8における水膨潤度)
pH8における水膨潤度は、以下の方法によって測定した。測定装置を
図1に示す。
測定装置は
図1における<1>~<3>から構成される。
<1> 空気抜きするための枝管が付いたビュレット1、ピンチコック2、シリコンチューブ3及びポリテトラフルオロエチレンチューブ4から成る。
<2> ロート5の上に底面に多数の穴が空いた支柱円筒8、さらにその上に装置用濾紙10が設置されている。
<3> 架橋重合体の試料6(測定試料)は2枚の試料固定用濾紙7に挟まれ、試料固定用濾紙は粘着テープ9によって固定される。なお、使用する濾紙は全てADVANTEC No.2、内径55mmである。
<1>と<2>とはシリコンチューブ3によって繋がれる。
また、ロート5及び支柱円筒8は、ビュレット1に対する高さが固定されており、ビュレット枝管の内部に設置されたポリテトラフルオロエチレンチューブ4の下端と支柱円筒8の底面とが同じ高さになる様に設定されている(
図1中の点線)。
【0089】
測定方法について以下に説明する。
<1>にあるピンチコック2を外し、ビュレット1の上部からシリコンチューブ3を通してイオン交換水を入れ、ビュレット1から装置用濾紙10までイオン交換水12で満たされた状態とする。次いで、ピンチコック2を閉じ、ビュレット枝管にゴム栓で接続されたポリテトラフルオロエチレンチューブ4から空気を除去する。こうして、ビュレット1から装置用濾紙10までイオン交換水12が連続的に供給される状態とする。
次に、装置用濾紙10からにじみ出た余分なイオン交換水12を除去した後、ビュレット1の目盛りの読み(a)を記録する。
測定試料の乾燥粉末0.1~0.2gを秤量し、<3>にある様に、試料固定用濾紙7の中央部に均一に置く。もう1枚の濾紙でサンプルを挟み、粘着テープ9で2枚の濾紙を留め、サンプルを固定する。サンプルが固定された濾紙を<2>に示される装置用濾紙10上に載置する。
次に、装置用濾紙10上に蓋11を載置した時点から、30分間経過した後のビュレット1の目盛りの読み(b)を記録する。
測定試料の吸水量と2枚の試料固定用濾紙7の吸水量の合計(c)は(a-b)で求められる。同様の操作により、架橋重合体の試料を含まない、2枚の濾紙7のみの吸水量(d)を測定する。
上記操作を行い、水膨潤度を以下の式より計算した。なお、計算に使用する固形分は、後述する方法により測定した値を使用した。
水膨潤度={測定試料の乾燥重量(g)+(c-d)}/{測定試料の乾燥重量(g)}
ただし、測定試料の乾燥重量(g)=測定試料の重量(g)×(固形分(%)÷100)
【0090】
ここで、固形分の測定方法について以下に記載する。
試料約0.5gを、予め重さを測定しておいた秤量瓶[秤量瓶の重さ=B(g)]に採取して、秤量瓶ごと正確に秤量した後[W0(g)]、その試料を秤量瓶ごと無風乾燥機内に収容して155℃で45分間乾燥してその時の重さを秤量瓶ごと測定し[W1(g)]、以下の式により固形分を求めた。
固形分(%)=(W1-B)/(W0-B)×100
【0091】
(水媒体中での粒子径(水膨潤粒子径)の測定)
カルボキシル基含有架橋重合体塩の粉末0.25g、及びイオン交換水49.75gを100ccの容器に量りとり、自転/公転式攪拌機(シンキー社製、あわとり錬太郎AR-250)にセットした。次いで、撹拌(自転速度2,000rpm/公転速度800rpm、7分)、さらに脱泡(自転速度2,200rpm/公転速度60rpm、1分)処理を行い、カルボキシル基含有架橋重合体塩が水に膨潤した状態のハイドロゲルを作製した。
次に、イオン交換水を分散媒とするレーザー回折/散乱式粒度分布計(マイクロトラックベル社製、マイクロトラックMT-3300EXII)にて上記ハイドロゲルの粒度分布測定を行った。ハイドロゲルに対し、過剰量の分散媒を循環しているところに、適切な散乱光強度が得られる量のハイドロゲルを投入したところ、数分後に測定される粒度分布形状が安定した。安定を確認次第、粒度分布測定を行い、粒子径の代表値としての体積基準メジアン径(D50)を得た。
【0092】
(2質量%濃度水溶液粘度の測定)
カルボキシル基含有架橋重合体塩の粉末2.0部、及びイオン交換水98部を容器に秤量し、自転/公転式撹拌機(シンキー社製、あわとり錬太郎AR-250)にセットした。次いで撹拌(自転速度2,000rpm/公転速度800rpm、7分)、さらに脱泡(自転速度2,200rpm/公転速度60rpm、1分)処理を未膨潤粉末状部がなくなるまで繰り返し、カルボキシル基含有架橋重合体塩が水に膨潤した状態のハイドロゲル微粒子分散液を調製した。得られた各ハイドロゲル微粒子分散液を25℃±1℃に調整した後、B型粘度計(東機産業社製、TVB-10)を用いて、ローター速度12rpmにおける粘度を測定した。
【0093】
≪第1の重合体の合成≫
(重合体1)
攪拌機、温度計、還流冷却器及び窒素導入管を備えた反応器内にRAFT剤(ジベンジルトリチオカーボネート:DBTTC)2.0部、2,2’-アゾビス(2-メチルブチロニトリル)(日本ファインケム社製、商品名「ABN-E」)0.410部、スチレン(St)75部、アクリロニトリル(AN)25部、及びアニソール67部を仕込み、窒素バブリングで十分脱気し、80℃の恒温槽で重合を開始した。4時間後、室温まで冷却し反応を停止した。上記重合溶液を、メタノール/水=90/10(vоl%)から再沈殿精製、真空乾燥することで重合体1を得た。ガスクロマトグラフィーによる試験の結果、得られた重合体1の反応率は72%であった。重合体1の分子量は、Mn11,900、Mw15,500、Mw/Mnは1.30であった。なお、スチレン及びアクリロニトリルが、第1の単量体に対応している。
【0094】
(第1の重合体の分子量の測定方法)
第1の重合体の分子量の測定をゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)にて行った。すなわち、THF系GPCにより、ポリスチレン換算による数平均分子量(Mn)及び重量平均分子量(Mw)を得た。また、得られた値から分子量分布(Mw/Mn)を算出した。なお、GPCは以下の条件で行った。
【0095】
カラム:東ソー製TSKgel SuperMultiporeHZ-M×4本
溶媒:テトラヒドロフラン
温度:40℃
検出器:RI
流速:600μL/min
【0096】
≪カルボキシル基含有架橋重合体塩の製造≫
(実施例1:カルボキシル基含有架橋重合体塩R-1の製造)
重合には、攪拌翼、温度計、還流冷却器及び窒素導入管を備えた反応器を用いた。
反応器内にアセトニトリル567部、イオン交換水2.20部、アクリル酸(以下、「AA」という。)100部、DBTTC0.001部、トリメチロールプロパンジアリルエーテル(ダイソー社製、商品名「ネオアリルT-20」)0.90部及び上記AAに対して1.0モル%に相当するトリエチルアミンを仕込んだ。反応器内を十分に窒素置換した後、加温して内温を55℃まで昇温した。内温が55℃で安定したことを確認した後、重合開始剤として2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)(和光純薬工業社製、商品名「V-65」)0.040部を添加したところ、反応液に白濁が認められたため、この点を重合開始点とした。なお、単量体濃度は15.0%と算出された。重合開始点から12時間経過した時点で反応液の冷却を開始し、内温が25℃まで低下した後、水酸化リチウム・一水和物(以下、「LiOH・H2O」という)の粉末52.4部を添加した。添加後室温下12時間撹拌を継続して、カルボキシル基含有重合体塩R-1(Li塩、中和度90モル%)の粒子が媒体に分散したスラリー状の重合反応液を得た。
【0097】
得られた重合反応液を遠心分離して重合体粒子を沈降させた後、上澄みを除去した。その後、重合反応液と同重量のアセトニトリルに沈降物を再分散させた後、遠心分離により重合体粒子を沈降させて上澄みを除去する洗浄操作を2回繰り返した。沈降物を回収し、減圧条件下、80℃で3時間乾燥処理を行い、揮発分を除去することにより、カルボキシル基含有重合体塩R-1の粉末を得た。カルボキシル基含有重合体塩R-1は吸湿性を有するため、水蒸気バリア性を有する容器に密封保管した。なお、カルボキシル基含有重合体塩R-1の粉末をIR測定し、カルボン酸のC=O基由来のピークとカルボン酸LiのC=O由来のピークの強度比より中和度を求めたところ、仕込みからの計算値に等しく90モル%であった。また、水膨潤度は36.4であり、水媒体中での粒子径は1.72μmであり、2質量%濃度水溶液粘度は9,110mPa・sであった。
【0098】
(実施例2~15及び比較例1~2:カルボキシル基含有架橋重合体塩R-2~R-17の製造)
単量体、架橋性単量体、及び中和剤の仕込み量を表1に記載の通りとした以外は製造例1と同様の操作を行い、カルボキシル基含有架橋重合体塩R-2~R-17を含む重合反応液を得た。
次いで、各重合反応液について製造例1と同様の操作を行い、粉末状のカルボキシル基含有架橋重合体塩R-2~R-17を得た。各カルボキシル基含有架橋重合体塩は、水蒸気バリア性を有する容器に密封保管した。R-2~R-17の水膨潤度、水媒体中での粒子径及び2質量%濃度水溶液粘度を表1に示す。なお、R-3(中和度70モル%)の水媒体中での粒子径については、LiOH・H2Oにより中和度を90モル%に調整した上で測定を行った。
【0099】
【0100】
表1において用いた化合物の詳細を以下に示す。
AA:アクリル酸
IBXA:アクリル酸イソボルニル
BM1430:2-(ドデシルチオカルボノチオイルチオ)プロピオン酸
IBME:2-ヨードイソ酪酸メチル
T-20:トリメチロールプロパンジアリルエーテル(ダイソー社製、商品名「ネオアリルT-20」)
P-30:ペンタエリスリトールトリアリルエーテル(ダイソー社製、商品名「ネオアリルP-30」)
TEA:トリエチルアミン
AcN:アセトニトリル
V-65:2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)(和光純薬工業社製)
LiOH・H2O:水酸化リチウム・一水和物
Na2CO3:炭酸ナトリウム
K2CO3:炭酸カリウム
【0101】
≪カルボキシル基含有架橋重合体塩を含む組成物の評価≫
(実施例1:カルボキシル基含有架橋重合体塩R-1を含む組成物の評価)
<スラリー組成物の調製>
SiOx(0.8<x<1.2)の表面にCVD法で炭素を10%コートしたものを準備し(以下、「Si系活物質」という。)、人造黒鉛とSi系活物質とを混合したものを活物質として用いた。また、バインダーとしては、本架橋重合体塩R-1、スチレンブタジエンゴム(SBR)系ラテックス及びカルボキシメチルセルロース(CMC)の混合物を用いた。
スラリー組成物の固形分濃度が50質量%となるように、水を希釈溶媒として、人造黒鉛:Si系活物質:R-1:SBR:CMC=90:10:1.0:1.0:1.0(固形分)の質量比でプライミクス社製T.K.ハイビスミックスを用いて2時間混合し、スラリー組成物を調製した。スラリー組成物の粘度は3,670mPa・sであり、十分低い値であった。
得られたスラリー組成物を用いて電極を作製し、その塗工性及び塗膜性能の評価を行った。具体的な手順及び評価方法等について以下に示す。
【0102】
(スラリー組成物の塗工性)
上記スラリー組成物を銅箔(厚み:20μm)の両面に塗布し、乾燥することにより合剤層を形成した。その後、合剤層の厚みが27μm、充填密度が1.3g/cm3になるよう圧延した後、3cm正方に打ち抜いて負極極板を得た。
上記負極極板の作製におけるスラリー組成物の塗工性は、以下の基準に基づき評価され、「◎」と評価された。
<評価基準>
◎:表面に筋ムラ、ブツ等の外観異常が全く認められない。
〇:表面に筋ムラ、ブツ等の外観異常がわずかに認められる。
△:表面に筋ムラ、ブツ等の外観異常が少し認められる。
×:表面に筋ムラ、ブツ等の外観異常が顕著に認められる。
【0103】
<リチウムイオン二次電池の作製>
N-メチルピロリドン(NMP)溶媒中、正極活物質としてリン酸鉄リチウム(LFP)を100部、導電剤としてカーボンナノチューブを0.2部、ケッチェンブラックを2部、気層法炭素繊維(VGCF)0.6部を混合して添加し、電極組成物用バインダーとしてポリフッ化ビニリデン(PVDF)を混合し、正極用組成物を調製した。アルミニウム集電体(厚み:15μm)に前記正極用組成物を塗布乾燥することにより合剤層を形成した。その後、合剤層の厚みが88μm、充填密度が3.1g/cm3になるように圧延した後、3cm正方に打ち抜いて正極極板を得た。
上記正極極板、上記負極極板及びセパレータを用いて、ラミネート型セルのリチウムイオン二次電池を作製した。電解液としてはエチレンカーボネート(EC)、エチルメチルカーボネート(DEC)を体積比で25:75とした混合溶媒に、LiPF6を1.0mol/リットルの濃度で溶解させたものを用いた。
【0104】
(塗膜性能)
上記スラリー組成物から得られた塗膜の性能について、本実施例においては、リチウムイオン二次電池のサイクル特性を測定する事で評価した。
上記の手順で作製したラミネート型セルのリチウムイオン二次電池を、CC放電にて2.7から3.4Vの条件下、0.2Cの充放電レートにて充放電の操作を行い、初期容量C0を測定した。さらに、25℃の環境下で充放電を繰り返し、50サイクル後の容量C50を測定した。以下の式で算出されるサイクル特性(ΔC)は91.8%であり、以下の基準に基づくサイクル特性は「〇」と評価された。なお、ΔCの値が高いほどサイクル特性に優れることを示す。
ΔC=C50/C0×100(%)
<評価基準>
◎:充放電容量保持率が95.0%以上
〇:充放電容量保持率が90.0%以上95.0%未満
△:充放電容量保持率が85.0%以上90.0%未満
×:充放電容量保持率が85.0%未満
【0105】
(実施例2~15、及び比較例1~2:カルボキシル基含有架橋重合体塩R-2~R-17を含む組成物の評価)
カルボキシル基含有架橋重合体塩を表1に記載の通りとした以外は、実施例1と同様の操作を行うことによりスラリー組成物を調製し、当該組成物の粘度を測定した。また、当該組成物の塗工性、それを用いて得られた二次電池のサイクル特性を評価した。結果を表1に示す。
【0106】
≪評価結果≫
実施例1~15の結果から明らかなように、本発明の製造方法により得られる本架橋重合体塩を含むスラリー組成物は、いずれも塗工性が良好であるとともに、当該組成物の塗膜性能(本実施例においては、当該組成物を使用して得られた電極を備えた二次電池のサイクル特性)にも優れるものであった。これらの中でも、水膨潤度及び水媒体中での粒子径が同等の場合(実施例2、12、13)で比較すると、交換連鎖移動機構型制御剤として、可逆的付加開裂型連鎖移動重合における制御剤を用いた場合(実施例2、12)の方が、ヨウ素移動重合制御剤を用いた場合(実施例13)よりも塗膜性能に優れた(本実施例においては、充放電容量保持率が高く、サイクル特性に優れた)。
これらに対して、交換連鎖移動機構型制御剤を用いずに製造した架橋重合体を含むスラリー組成物の場合、塗膜性能(二次電池のサイクル特性)あるいは塗工性のいずれかが著しく劣った(比較例1及び2)。
【産業上の利用可能性】
【0107】
本発明の製造方法により得られるカルボキシル基含有架橋重合体又はその塩を含む組成物は、塗工性及び塗膜性能のいずれにも優れるため、化粧品用の増粘剤や粘度調整剤、非水電解質二次電池電極用のバインダー、顔料用の沈降防止剤、金属粉の分散安定剤等の様々な用途への適用が期待される。