(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-06-10
(45)【発行日】2025-06-18
(54)【発明の名称】印刷物の製造方法、印刷用インキセットおよび印刷物
(51)【国際特許分類】
B41M 1/06 20060101AFI20250611BHJP
C09D 11/101 20140101ALI20250611BHJP
B41M 1/04 20060101ALI20250611BHJP
B41M 1/30 20060101ALI20250611BHJP
【FI】
B41M1/06
C09D11/101
B41M1/04
B41M1/30 Z
B41M1/30 D
(21)【出願番号】P 2022547214
(86)(22)【出願日】2022-08-01
(86)【国際出願番号】 JP2022029444
(87)【国際公開番号】W WO2023013571
(87)【国際公開日】2023-02-09
【審査請求日】2025-04-04
(31)【優先権主張番号】P 2021129708
(32)【優先日】2021-08-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】小清水 昇
(72)【発明者】
【氏名】辻 祐一
(72)【発明者】
【氏名】井上 武治郎
【審査官】後藤 孝平
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-271321(JP,A)
【文献】特開2011-167990(JP,A)
【文献】特開2018-30303(JP,A)
【文献】特開昭62-32099(JP,A)
【文献】特開2004-123802(JP,A)
【文献】国際公開第02/018149(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41M 1/06
C09D 11/101
B41M 1/04
B41M 1/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1)少なくとも1種の平版印刷用墨または有彩色インキと、平版印刷用白インキ(a)とを基材上に印刷する工程、および、
(2)前記平版印刷用白インキ(a)とは異なる印刷用白インキ(b)をさらに印刷する工程、
をこの順に有
し、
前記平版印刷用白インキ(a)の粘度(C)と前記印刷用白インキ(b)の粘度(D)の差(C)-(D)が5Pa・s以上30Pa・s以下である、
印刷物の製造方法。
【請求項2】
前記印刷用白インキ(b)がフレキソ印刷用白インキである、請求項1に記載の印刷物の製造方法。
【請求項3】
前記平版印刷用白インキ(a)と前記印刷用白インキ(b)の表面張力の差が5mN/m以上20mN/m以下である、請求項1または2に記載の印刷物の製造方法。
【請求項4】
前記平版印刷用白インキ(a)のタック値(A)と前記印刷用白インキ(b)のタック値(B)の差(A)-(B)が2.0以上5.0以下である、請求項1
または2に記載の印刷物の製造方法。
【請求項5】
前記平版印刷用白インキ(a)の硬化膜の膜厚よりも前記印刷用白インキ(b)の硬化膜の膜厚が大きくなるように印刷する、請求項1
または2に記載の印刷物の製造方法。
【請求項6】
前記平版印刷用白インキ(a)の硬化膜の膜厚が0.5μm以上2.0μm以下、前記印刷用白インキ(b)の硬化膜の膜厚が2.0μm以上4.0μm以下となるように印刷する、請求項
5に記載の印刷物の製造方法。
【請求項7】
前記(2)の工程においてウェットオンウェット印刷方式で印刷される、請求項1
または2に記載の印刷物の製造方法。
【請求項8】
前記(2)の工程の後に、(3)電子線を照射する工程をさらに含む、請求項1
または2に記載の印刷物の製造方法。
【請求項9】
少なくとも1種の平版印刷用墨または有彩色インキ、平版印刷用白インキ(a)および前記平版印刷用白インキ(a)とは異なる印刷用白インキ(b)を含
み、前記平版印刷用白インキ(a)の粘度(C)と前記印刷用白インキ(b)の粘度(D)の差(C)-(D)が5Pa・s以上30Pa・s以下である、印刷用インキセット。
【請求項10】
前記印刷用白インキ(b)がフレキソ印刷用白インキである、請求項
9に記載の印刷用インキセット。
【請求項11】
前記平版印刷用白インキ(a)と前記印刷用白インキ(b)の表面張力の差が5mN/m以上20mN/m以内である、請求項
9または
10に記載の印刷用インキセット。
【請求項12】
前記平版印刷用白インキ(a)のタック値(A)と前記印刷用白インキ(b)のタック値(B)の差(A)-(B)が2.0以上5.0以下である、請求項
9または10に記載の印刷用インキセット。
【請求項13】
請求項
9または10に記載の印刷用インキセットを用いた印刷物であって、前記平版印刷用白インキ(a)の硬化膜の上に前記印刷用白インキ(b)の硬化膜を有する印刷物。
【請求項14】
前記印刷用白インキ(b)の硬化膜の膜厚が前記平版印刷用白インキ(a)の硬化膜の膜厚よりも大きい、請求項
13に記載の印刷物。
【請求項15】
前記平版印刷用白インキ(a)の硬化膜の膜厚が0.5μm以上2.0μm以下、前記印刷用白インキ(b)の硬化膜の膜厚が2.0μm以上4.0μm以下である、請求項
14に記載の印刷物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、印刷物の製造方法、印刷用インキセットおよびそれを用いた印刷物に関する。
【背景技術】
【0002】
平版印刷は、高速、大量、安価に印刷物を供給するシステムとして広く普及している印刷方式である。近年、環境問題への対応から、インキに含まれる揮発成分の低減が求められている。このため、揮発成分を含まず、活性エネルギー線の照射により瞬間硬化する、活性エネルギー線硬化型インキの利用が進められている。活性エネルギー線硬化型インキは、環境面での利点に加えて、乾燥工程を短縮することができるため、平版印刷の生産性を向上させることができる。
【0003】
また、近年、特にフィルム印刷物について、パッケージの多様化のため、小ロット対応が求められており、小ロットでは割高なグラビア印刷から、平版印刷やフレキソ印刷への転換が進められている。平版印刷は、フレキソ印刷に比べて、粘度の高いインキを用いることができ、フィルムとの密着力が高い。
【0004】
フィルム印刷物が好ましく用いられる包装用途においては、内容物の保護やヒートシール性付与などの観点から、印刷物に対して、別のプラスチックフィルムや金属箔、熱溶融フィルム(シーラント)などを貼り合わせることが一般的に行われる。また、内容物によっては、さらに熱水による殺菌処理などが行われる。これらの工程においては、インキの剥離が生じやすいことから、基材とインキとの間のさらに高い密着性が求められている。
【0005】
フィルム印刷などの透明な基材への印刷の場合、文字や絵柄などをより鮮明に見せるために、白インキを印刷することにより、隠蔽性を高めることが一般的である。インキの隠蔽性を高める技術として、凸版印刷または平版印刷用の電子線で硬化される印刷インキであって、その中の着色成分の含有量が20~70質量%の範囲であることを特徴とする印刷インキが提案されている(例えば、特許文献1参照)。また、白色度及び隠蔽性に優れた印刷物を得ることができる印刷方法として、特定のアンカーコート剤を用いてフレキソ印刷する方法が提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2004-123802号公報
【文献】特開2015-134914号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1~2に記載される印刷インキは、隠蔽性に優れるものの、近年包装用途などにおいて求められる基材との高い密着性に対しては、なお不十分である課題があった。
【0008】
そこで、本発明は、基材との密着性および隠蔽性に優れる印刷物を得ることができる印刷物の製造方法および印刷用インキセットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、
(1)少なくとも1種の平版印刷用墨または有彩色インキと、平版印刷用白インキ(a)とを基材上に印刷する工程、および、
(2)前記平版印刷用白インキ(a)とは異なる印刷用白インキ(b)をさらに印刷する工程、
をこの順に有する印刷物の製造方法である。
【0010】
また本発明は、少なくとも1種の平版印刷用墨または有彩色インキ、平版印刷用白インキ(a)および前記平版印刷用白インキ(a)とは異なる印刷用白インキ(b)を含む印刷用インキセットである。
【0011】
また本発明は、本発明の印刷用インキセットを用いた印刷物であって、前記平版印刷用白インキ(a)の硬化膜の上に前記印刷用白インキ(b)の硬化膜を有する印刷物である。
【発明の効果】
【0012】
本発明の印刷物の製造方法および印刷用インキセットによれば、基材との密着性および隠蔽性に優れる印刷物を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
まず、本発明の第一の態様として、印刷物の製造方法について説明する。本発明の印刷物の製造方法は、
(1)少なくとも1種の平版印刷用墨または有彩色インキと、平版印刷用白インキ(a)とを基材上に印刷する工程(以下、「工程(1)」と記載する場合がある)、および、
(2)前記平版印刷用白インキ(a)とは異なる印刷用白インキ(b)をさらに印刷する工程(以下、「工程(2)」と記載する場合がある)、
をこの順に有する。
【0014】
一般的に、印刷物の色合いは、墨インキおよび有彩色インキを用いて表現される。有彩色インキとしては、例えば、藍インキ、紅インキ、黄インキなどが挙げられる。これらを2種以上用いてもよい。
【0015】
前述のとおり、文字や絵柄などをより鮮明に見せるために、白インキを印刷することが一般的であり、基材上に、墨インキおよび/または有彩色インキにより絵柄を印刷した後、全面に白インキを印刷することが好ましい。このとき、白インキは、墨インキおよび有彩色インキが印刷されている部分においてはこれらのインキ上に、墨インキおよび有彩色インキが印刷されていない部分においては基材上に、膜形成される。このため、白インキには、隠蔽性とともに、基材との密着性が求められる。そこで、本発明においては、白インキとして異なる2種を用い、工程(1)において基材との密着性に優れる平版印刷用白インキ(a)を用い、工程(2)において前記平版印刷用白インキ(a)とは異なる印刷用白インキ(b)を用いて隠蔽性を向上させることを特徴とする。
【0016】
印刷用白インキ(b)が平版印刷用白インキ(a)上に印刷される場合、印刷用白インキ(b)は基材との密着性には影響しないことから、隠蔽性に優れるインキを選択することが好ましい。
【0017】
ここで、本発明における印刷用白インキ(b)は、平版印刷用白インキ(a)と組成が異なるものであればよく、例えば、平版印刷用白インキ(a)とは組成の異なる平版印刷用白インキや、フレキソ印刷用白インキ、グラビア印刷用白インキ、インクジェット印刷用白インキなどを用いることができる。本発明においては、平版印刷用墨または有彩色インキ、平版印刷用白インキ(a)および印刷用白インキとして、後述する本発明のインキセットを用いることが好ましい。
【0018】
工程(1)において、基材上に、少なくとも1種の平版印刷用墨または有彩色インキと、平版印刷用白インキ(a)とを印刷する。
【0019】
基材としては、例えば、アート紙、コート紙、キャスト紙、合成紙、新聞用紙、プラスチックフィルム、プラスチックフィルムラミネート紙、金属板、金属蒸着紙、金属蒸着プラスチックフィルムなどが挙げられる。これらを2種以上用いてもよい。
【0020】
プラスチックフィルムとしては、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレン、ポリエステル、ポリアミド、ポリイミド、ポリスチレン、ポリプロピレン、ポリカーボネート、ポリビニルアセタールなどからなるフィルムなどが挙げられる。
【0021】
プラスチックフィルムラミネート紙としては、例えば、紙上に、前述のプラスチックフィルムが積層されたものなどが挙げられる。
【0022】
金属板としては、例えば、亜鉛、銅などからなる板などが挙げられる。
【0023】
金属蒸着紙や金属蒸着プラスチックフィルムとしては、例えば、紙やプラスチックフィルム上に、前記金属やその酸化物が蒸着されたものなどが挙げられる。
【0024】
これらの中でも、プラスチックフィルム、プラスチックフィルムラミネート紙、金属板、金属蒸着紙、金属蒸着プラスチックフィルムは、インキを吸収しないことから、インキの吸収によりインキを固着しないため、インキとの密着性が低下しやすい傾向にあることから、インキと基材との密着性に優れる本発明に好適に用いることができる。
【0025】
基材には、易接着処理が施されていてもよい。易接着処理により、基材へのインキの転移性および基材とインキの密着性をより向上させることができる。易接着処理としては、例えば、プライマ塗布、コロナ放電処理やプラズマ処理などの表面処理などが挙げられる。
【0026】
平版印刷用白インキ(a)としては、後述する本発明のインキセットにおける平版印刷用白インキ(a)を用いることが好ましい。
【0027】
工程(1)における印刷方式としては、平版印刷が好ましい。平版印刷としては、水あり平版印刷、水なし平版印刷のいずれを用いてもよい。
【0028】
次に、工程(2)において、印刷用白インキ(b)を印刷する。
【0029】
印刷用白インキ(b)としては、平版印刷用白インキ、フレキソ印刷用白インキが好ましく、フレキソ印刷用白インキがより好ましい。フレキソ印刷用白インキは、粘度が低くてもフレキソ印刷可能であり、隠蔽性をより向上させることができる。
【0030】
工程(2)における印刷方式としては、隠蔽性により優れたフレキソ印刷用白インキを用いることができることから、フレキソ印刷が好ましい。
【0031】
また、工程(2)における印刷方式としては、ウェットオンウェット印刷方式、ドライオンウェット印刷方式などが挙げられる。これらの中でも、生産性の観点から、ウェットオンウェット印刷方式が好ましく用いられる。
【0032】
ウェットオンウェット印刷方式を採用する場合、印刷用白インキ(b)の成分の平版印刷用白インキ(a)への移行を抑制し、基材との密着性をより向上させる観点から、平版印刷用白インキ(a)および印刷用白インキ(b)として、表面張力、タック値、粘度などが後述する好ましい範囲にあるものを用いることが好ましい。
【0033】
工程(2)において、平版印刷用白インキ(a)の硬化膜の膜厚よりも、印刷用白インキ(b)の硬化膜の膜厚が大きくなるように印刷することが好ましい。基材との密着性を向上させる平版印刷用白インキ(a)に対して、印刷用白インキ(b)は隠蔽性を担うことから、印刷用白インキ(b)の硬化膜の膜厚を大きくすることにより、隠蔽性をより向上させることができる。平版印刷用白インキ(b)の硬化膜の膜厚と印刷用白インキ(a)の硬化膜の膜厚との差としては、0.1mm以上が好ましく、より好ましくは0.5mm以上、さらに好ましくは1.0mm以上である。
【0034】
平版印刷用白インキ(a)の硬化膜の膜厚は、基材との密着力をより向上させる観点から、0.5mm以上2.0mm以下が好ましく、0.8mm以上2.0mm以下がより好ましく、1.1mm以上2.0mm以下がさらに好ましい。
【0035】
印刷用白インキ(b)の硬化膜の膜厚は、隠蔽性をより向上させる観点から、2.0mm以上が好ましく、2.5mm以上がより好ましく、3.0mm以上がさらに好ましい。また印刷用白インキ(b)の硬化膜の膜厚は、印刷用白インキ(b)の成分の平版印刷用白インキ(a)への移行を抑制し、基材との密着性をより向上させる観点から、4.0mm以下が好ましく、3.1mm以下がより好ましい。
【0036】
ここで、本発明における平版印刷用白インキ(a)の硬化膜と印刷用白インキ(b)の硬化膜の膜厚は、印刷物断面の走査電子顕微鏡観察により、各層の印刷物垂直方向の厚みを5箇所ずつ測定し、その平均値により算出することができる。
【0037】
本発明において、平版印刷用墨または有彩色インキ、平版印刷用白インキ(a)および印刷用白インキの少なくとも1つが活性エネルギー線により硬化する性質を有する場合には、工程(2)の後に、印刷されたインキに対して活性エネルギー線を照射する工程をさらに有することが好ましい。活性エネルギー線を照射することにより、印刷されたインキを瞬時に硬化させることができ、生産性を向上させることができる。活性エネルギー線としては、例えば、紫外線や電子線などが挙げられる。密着性をより向上させる観点から、電子線が好ましい。すなわち、本発明においては、工程(2)の後に、(3)電子線を照射する工程(以下、「工程(3)」と記載する場合がある)をさらに含むことが好ましい。工程(3)においては、10kGy以上60kGy以下のエネルギー線を有する電子線装置が好ましく用いられる。
【0038】
工程(3)を設ける場合、印刷用白インキ(b)の成分の平版印刷用白インキ(a)へ移行を抑制する観点から、工程(2)において印刷用白インキ(b)を印刷してから工程(3)により電子線を照射するまでの時間は、6.0秒以下が好ましく、3.0秒以下がより好ましく、2.0秒以下がさらに好ましい。
【0039】
本発明の印刷物の製造方法において、平版印刷用白インキ(a)と印刷用白インキ(b)の表面張力の差は、5mN/m以上20mN/m以下が好ましい。表面張力の差を5mN/m以上とすることにより、印刷物上における、印刷用白インキ(b)の成分の平版印刷用白インキ(a)を経由した基材との界面への移行を抑制し、基材との密着性をより向上させることができる。表面張力の差は8mN/m以上がより好ましく、11mN/m以上がさらに好ましい。一方、表面張力の差を20mN/m以下とすることにより、印刷用白インキ(b)の平版印刷用白インキ(a)上への転移性を高め、印刷用白インキ(b)の膜厚を大きくし、隠蔽性をより向上させることができる。表面張力の差は17mN/m以下がより好ましく、14mN/m以下がさらに好ましい。なお、平版印刷用白インキ(a)と印刷用白インキ(b)の表面張力は、どちらが高くてもよい。
【0040】
平版印刷用白インキ(a)の表面張力は、45mN/m以上70mN/m以下が好ましい。表面張力を45mN/m以上とすることにより、インキがブランケットから剥がれやすくなり、基材に転写したインキ表面が平滑になることから、隠蔽性をより向上させることができる。平版印刷用白インキ(a)の表面張力は、50mN/m以上がより好ましく、55mN/m以上がさらに好ましい。一方、表面張力を70mN/m以下とすることにより、基材上への転移性を向上させることができる。平版印刷用白インキ(a)の表面張力は、65mN/m以下がより好ましく、60mN/m以下がさらに好ましい。
【0041】
印刷用白インキ(b)の表面張力は、好ましくは平版印刷用白インキ(a)との差が前述の範囲となる範囲で適宜選択することができる。
【0042】
ここで、本発明における平版印刷用白インキ(a)と印刷用白インキ(b)の表面張力は、自動接触角計の液滴法により測定した接触角から算出することができる。より具体的には、まず、厚さ1mm×縦50mm×横50mmのガラス基材(面取り、洗浄品)上に、インキを平滑に塗布した後、インキ表面をより平滑にするために、30分間暗所で静置する。静置した後のインキ上に、シリンジを用いて、表面張力の値が既知である純水およびエチレングリコールの液滴を着滴させる。着滴後、30秒経過した時の接触角を、自動接触角計(Drop Master DM-501、協和界面科学(株)製)を用いて、気温25℃、湿度50%の条件で測定する。
【0043】
次に、接触角から表面張力を算出する方法について説明する。一般的に、表面張力γは、下記数式(1)に示すように、非極性の分散力成分γdと極性の水素結合性の分散力成分γhに分解される。
γ=γd+γh (1)
物質A上に溶液Bを着滴させた場合、物質Aと溶液Bには、下記数式(2)に示すYoungの式が成立する。ここで、下記数式(2)において、物質Aの表面張力をγA、溶液Bの表面張力をγB、物質Aと溶液Bとの間の表面張力をγA-B、物質Aと溶液Bの接触角をθA-Bと記す。
γA=γA-B+γBcosθA-B (2)
また、物質Aと溶液Bとの間の表面張力について、下記数式(3)に示す拡張Fowkesモデルが提唱されている。
【0044】
【0045】
物質Aとしてインキを、溶液Bとして純水およびエチレングリコールを使用する時、上記数式(1)~(3)より、下記数式(4)~(5)が導出される。ただし、数式(4)~(5)において、エチレングリコールの表面張力、非極性の分散力成分、極性の水素結合性の分散力成分を、それぞれE、E(d)、E(h)とし、インキの表面張力γIの極性の水素結合性の分散力成分をI(h)とし、純水の表面張力、非極性の分散力成分、極性の水素結合性の分散力成分を、それぞれW、W(d)、W(h)とし、インキとエチレングリコールの接触角をαとし、インキと純水の接触角をβとする。また、数式(4)~(5)において、分散力成分γd、γhの値はそれぞれ0以上である。
【0046】
【0047】
【0048】
数式(1)、数式(4)および数式(5)より、インキとエチレングリコールの接触角θI-EGおよびインキと純水の接触角θI-Wの測定値から、インキの表面張力を算出することができる。純水の表面張力γは72.8mN/m、非極性の分散力成分γdは21.8mN/m、極性の水素結合性の分散力成分γhは51.0mN/mであり、エチレングリコールの表面張力γは48.8mN/m、非極性の分散力成分γdは32.8mN/m、極性の水素結合性の分散力成分γhは16.0mN/mである。
【0049】
本発明の印刷物の製造方法において、平版印刷用白インキ(a)のタック値(A)と印刷用白インキ(b)のタック値(B)の差(A)-(B)は、2.0以上5.0以下が好ましい。タック値は、インキの粘着性を表す指標であり、タック値が高いほどインキの粘着性が高いことを示す。印刷用白インキ(b)のタック値が平版印刷用白インキ(a)のタック値(A)よりも大きく、その差(A)-(B)を2.0以上とすることにより、基材に印刷した下層白インキが後刷り白インキによって剥がされ、下層白インキおよび後刷り白インキの膜厚が小さくなる、逆トラッピングと呼ばれる現象を抑制し、隠蔽率をより向上させることができる。(A)-(B)は、2.5以上がより好ましく、3.0以上がさらに好ましい。一方、(A)-(B)を5.0以下とすることにより、(B)を適度に大きく保ち、インキの凝集力により転移性を高めて、印刷用白インキ(b)の膜厚を大きくし、隠蔽性をより向上させることができる。(A)-(B)は、4.5以下がより好ましく、4.0以下がさらに好ましい。
【0050】
平版印刷用白インキ(a)のタック値(A)は、3.0以上8.0以下が好ましい。タック値(A)を3.0以上とすることにより、インキの凝集力により転移性を高め、また印刷用白インキ(b)の平版印刷用白インキ(a)上への転移性を高めて、隠蔽性をより向上させることができる。(A)は、4.5以上がより好ましく、6.0以上がさらに好ましい。一方、タック値(A)を8.0以下とすることにより、基材への転移性を高めて、隠蔽性をより向上させることができる。(A)は、7.5以下がより好ましく、7.0以下がさらに好ましい。
【0051】
印刷用白インキ(b)のタック値(B)は、1.0以上6.0以下が好ましい。(B)を1.0以上とすることにより、インキの凝集力により転移性を高めて、隠蔽性をより向上させることができる。(B)は、1.5以上がより好ましく、2.0以上がさらに好ましい。一方、タック値(B)を6.0以下とすることにより、平版印刷用白インキ(a)上への転移性を高めて、隠蔽性をより向上させることができる。(B)は、4.0以下がより好ましく、3.0以下がさらに好ましい。
【0052】
ここで、本発明における平版印刷用白インキ(a)と印刷用白インキ(b)のタック値は、インキピペットで秤量した1.31mlのインキについて、インコメーター(直径76.2mmの金属ロール、EPDМゴム製でショアA硬度70°、直径79.3mmのトップロール、およびEPDМゴム製でショアA硬度60°、直径50.8mmのバイブレーションロールを有する。テスター産業(株)社製“INKO-GRAPH”TYPE V)を用い、回転数400rpm、温度38℃の条件により測定することができる。かかる回転数と温度の条件は、印刷時におけるインキの代表的な環境(温度、せん断速度)を模したものである。ただし、測定開始1分後の測定値を、本発明におけるタック値とする。
【0053】
本発明の印刷物の製造方法において、平版印刷用白インキ(a)の粘度(C)と印刷用白インキ(b)の粘度(D)の差(C)-(D)は、5Pa・s以上30Pa・s以下が好ましい。粘度の差(C)-(D)を5Pa・s以上とすることにより、印刷物上における、印刷用白インキ(b)の成分の平版印刷用白インキ(a)を経由した基材界面への移行を抑制し、基材との密着性をより向上させることができる。粘度の差は15Pa・s以上がより好ましく、20Pa・s以上がさらに好ましい。一方、粘度の差(C)-(D)を30Pa・s以下とすることにより、平版印刷用白インキ(a)の粘度を適度に抑え、平版印刷用白インキ(a)の基材上への転移性を高め、平版印刷用白インキ(a)の膜厚を大きくすることにより、印刷用白インキ(b)の成分の平版印刷用白インキ(a)を経由した基材界面への移行を抑制し、基材との密着性をより向上させることができる。粘度の差は25Pa・s以下がより好ましい。
【0054】
平版印刷用白インキ(a)の粘度(C)は、15Pa・s以上40Pa・s以下が好ましい。(C)を15Pa・s以上とすることにより、インキの凝集力により転移性を高め、隠蔽性をより向上させることができる。また、印刷用白インキ(b)の成分の平版印刷用白インキ(a)を経由した基材界面への移行を抑制し、基材との密着性をより向上させることができる。(C)は、20Pa・s以上がより好ましい。一方、粘度(C)を40Pa・s以下とすることにより、基材への転移性を高めて、隠蔽性をより向上させることができる。また、印刷用白インキ(b)の成分の平版印刷用白インキ(a)を経由した基材界面への移行を抑制し、基材との密着性をより向上させることができる。(C)は、30Pa・s以下がより好ましく、25Pa・s以下がさらに好ましい。
【0055】
印刷用白インキ(b)の粘度(D)は、0.1Pa・s以上20Pa・s以下が好ましい。(D)を0.1Pa・s以上とすることにより、インキの凝集力により転移性を高めて、隠蔽性をより向上させることができる。一方、粘度(D)を20Pa・s以下とすることにより、平版印刷用白インキ(a)上への転移性を高めて、隠蔽性をより向上させることができ、また、印刷用白インキ(b)の成分の平版印刷用白インキ(a)を経由した基材界面への移行を抑制し、基材との密着性をより向上させることができる。(D)は、10Pa・s以下がより好ましく、5Pa・s以下がさらに好ましい。
【0056】
ここで、本発明における平版印刷用白インキ(a)と印刷用白インキ(b)の粘度は、インキピペットで秤量した0.35mlのインキについて、温度35℃、回転数70rpmの条件において、コーンプレート(コーン角1°、φ=40mm)を装着したコーンプレート型回転式粘度計により測定することができる。かかる回転数と温度の条件は、印刷時におけるインキの代表的な環境(温度、せん断速度)を模したものである。
【0057】
前述の特性と満たす平版印刷用白インキ(a)と印刷用白インキ(b)の組み合わせとしては、後述する本発明のインキセットにおける平版印刷用白インキ(a)および印刷用白インキ(b)を用いることが好ましい。
【0058】
次に、本発明の第二の態様として、本発明の印刷用インキセットについて説明する。本発明の印刷用インキセットは、少なくとも1種の平版印刷用墨または有彩色インキ、平版印刷用白インキ(a)および平版印刷用白インキ(a)とは異なる印刷用白インキ(b)を含む。第一の態様と同じく、本発明における印刷用白インキ(b)は、平版印刷用白インキ(a)と組成が異なるものであればよい。
【0059】
平版印刷用墨または有彩色インキ、平版印刷用白インキ(a)および印刷用白インキ(b)は、それぞれ、樹脂、多官能(メタ)アクリレート、顔料および界面活性剤を含むことが好ましい。ここで、「(メタ)アクリレート」とは、アクリレートおよびメタクリレートの総称である。平版印刷用墨または有彩色インキこれらを含むインキとしては、例えば、国際公開第2018/062108号の[0037]~[0090]に記載されるインキなどが挙げられる。これらのうち、平版印刷用白インキ(a)としては、例えば、国際公開第2018/062108号の[0037]、[0039]、[0041]、[0043]~[0049]、[0052]、[0053]、[0055]、[0056]、[0062]~[0066]、[0069~0090]に記載されるインキなどが挙げられる。印刷用白インキ(b)としては、例えば、国際公開第2018/062108号の[0037]、[0039]、[0041]、[0043]~[0049]、[0053]、[0055]、[0056]、[0062]~[0066]、[0069~0090]に記載されるインキなどが挙げられる。また、これらのうち、平版印刷用墨または有彩色インキの組み合わせとしては、例えば、国際公開第2018/062108号の[0095]~[0157]に記載されるインキセットなどが挙げられる。また、印刷用白インキ(b)としては、フレキソ印刷用白インキが好ましい。
【0060】
本発明のインキセットにおいて、平版印刷用白インキ(a)と印刷用白インキ(b)の表面張力の差、平版印刷用白インキ(a)のタック値(A)と印刷用白インキ(b)のタック値(B)とその差(A)-(B)、平版印刷用白インキ(a)の粘度(C)と印刷用白インキ(b)の粘度(D)とその差(C)-(D)は、第一の態様において説明した範囲にあることが好ましい。これらの特性を前述の好ましい範囲にするために、平版印刷用白インキ(a)は、親水性基を有する樹脂、親水性基を有する多官能(メタ)アクリレート、親水性基を有しない多官能(メタ)アクリレート、顔料および界面活性剤を含むことが好ましい。また、印刷用白インキ(b)は、親水性基を有する樹脂、親水性基を有する多官能(メタ)アクリレート、炭素数6以上18以下の脂肪族骨格を有する(メタ)アクリレート、顔料および界面活性剤を含むことが好ましい。
【0061】
ここで、親水性基としては、例えば、ヒドロキシル基、アミノ基、メルカプト基、カルボキシル基、スルホ基、リン酸基などが挙げられる。これらを2種以上用いてもよい。
【0062】
また、炭素数6以上18以下の脂肪族骨格を有する(メタ)アクリレートとしては、親水性基を有しないものが好ましく例えば、ヘキシル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、ノニル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、イソステアリル(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,9-ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、1,7-ヘプタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,8-オクタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,10-デカンジオールジ(メタ)アクリレート、1,11-ウンデカンジオールジ(メタ)アクリレート、1,12-ドデカンジオールジ(メタ)アクリレート、1,13-トリデカンジオールジ(メタ)アクリレート、1,14-テトラデカンジオールジ(メタ)アクリレート、1,15-ペンタデカンジオールジ(メタ)アクリレート、1,16-ヘキサデカンジオールジ(メタ)アクリレート、1,17-ヘプタデカンジオールジ(メタ)アクリレート、1,18-オクタデカンジオールジ(メタ)アクリレート、4-メチル-1,10-デカンジオールジ(メタ)アクリレート、4-エチル-1,10-デカンジオールジ(メタ)アクリレートや、炭素数6以上18以下の脂肪族骨格を繰り返し単位として有するポリエステルジ(メタ)アクリレートなどが挙げられる。
【0063】
親水性基を有する樹脂および親水性基を有する多官能(メタ)アクリレートは、インキの表面張力に影響を及ぼし、親水性基が多いほど、表面張力を大きくする傾向にある。また、親水性基同士の相互作用は、インキのタックおよび粘度に影響を及ぼし、親水性基が多いほど、タック値および粘度を大きくする傾向にある。親水性基としては、顔料分散性に優れ、前述の特性を所望の範囲に調整しやすいことから、カルボキシル基が好ましい。
【0064】
一方、親水性基を有しない多官能(メタ)アクリレートは、上記親水性基を有する樹脂および親水性基を有する多官能(メタ)アクリレートのインキ中の含有量を適度に保ち、表面張力、タック値および粘度を所望の範囲に調整しやすくする。
【0065】
顔料としては、二酸化チタン、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、アルミナ白などが挙げられる。これらを2種以上用いてもよい。これらの中でも、隠蔽性により優れることから、二酸化チタンが好ましい。二酸化チタンは塩基性を示すが、二酸化チタンをインキ中に良好に分散させる観点から、表面張力を前述の好ましい範囲に調整するために、界面活性剤として、高分子系界面活性剤を含むことが好ましい。
【0066】
平版印刷用白インキ(a)における好ましい態様について説明する。
【0067】
表面張力、タック値(A)および粘度(C)を前述の好ましい範囲に調整するために、親水性基を有する樹脂の酸価は、75mgKOH/g以上150mgKOH/g以下が好ましく、親水性基を有する樹脂の重量平均分子量は、15,000以上50,000以下が好ましく、平版印刷用白インキ(a)中の親水性基を有する樹脂の含有量は、5質量%以上10質量%以下が好ましい。特に、タック値(A)および粘度(C)を前述の好ましい範囲に調整するために、親水性基を有する樹脂の含有量は、6.5質量%以上9.5質量%以下がより好ましい。
【0068】
表面張力、タック値(A)および粘度(C)を前述の好ましい範囲に調整するために、親水性基を有する多官能(メタ)アクリレートの水酸基価は、80mgKOH/g以上130mgKOH/g以下が好ましく、平版印刷用白インキ(a)中の親水性基を有する多官能(メタ)アクリレートの含有量は、20質量%以上45質量%以下が好ましい。特に、表面張力を前述の好ましい範囲に調整するために、平版印刷用白インキ(a)中の親水性基を有する多官能(メタ)アクリレートの含有量は、27質量%以上40質量%以下がより好ましい。
【0069】
表面張力、タック値(A)および粘度(C)を前述の好ましい範囲に調整するために、平版印刷用白インキ(a)中の親水性基を有しない多官能(メタ)アクリレートの含有量は、5質量%以上25質量%以下が好ましい。特に、表面張力を前述の好ましい範囲に調整するために、平版印刷用白インキ(a)中の親水性基を有しない多官能(メタ)アクリレートの含有量は、10質量%以上20質量%以下がより好ましい。
【0070】
平版印刷用白インキ(a)中の高分子系界面活性剤の含有量は、表面張力を前述の好ましい範囲に容易に調整する観点から、0.6質量%以上1.5質量%以下が好ましい。
【0071】
次に、印刷用インキ(b)における好ましい態様について説明する。
【0072】
タック値(B)および粘度(D)を前述の好ましい範囲に調整するために、親水性基を有する樹脂の酸価は、50mgKOH/g以上120mgKOH/g以下が好ましく、親水性基を有する樹脂の重量平均分子量は、5,000以上40,000以下が好ましく、印刷用白インキ(b)中の親水性基を有する樹脂の含有量は、2質量%以上5質量%以下が好ましい。特に、タック値(B)を前述の好ましい範囲に調整するために、印刷用インキ(b)中の親水性基を有する樹脂の含有量は、2.5質量%以上4.5質量%以下がより好ましい。
【0073】
表面張力、タック値(B)および粘度(D)を前述の好ましい範囲に調整するために、親水性基を有する多官能(メタ)アクリレートの水酸基価は、5mgKOH/g以上130mgKOH/g以下が好ましく、印刷用白インキ(b)中の親水性基を有する多官能(メタ)アクリレートの含有量は、20質量%以上45質量%以下が好ましい。
【0074】
タック値(B)および粘度(D)を前述の好ましい範囲に調整するために、炭素数6以上18以下の脂肪族骨格を有する(メタ)アクリレートを含むことが好ましく、印刷用白インキ(b)中の炭素数6以上18以下の脂肪族骨格を有する(メタ)アクリレートの含有量は、3質量%以上20質量%以下が好ましい。
【0075】
印刷用白インキ(b)中の高分子系界面活性剤の含有量は、1.7質量%以上3.0質量%以下が好ましい。
【0076】
本発明の印刷用インキセットは、印刷物の生産性の観点から、前記平版印刷用墨または有彩色インキ、平版印刷用白インキ(a)および前記印刷用白インキ(b)の少なくとも1つが、電子線照射により硬化する電子線硬化型であることが好ましい。また、これらのインキの全てが電子線硬化型であることがより好ましい。前述の多官能(メタ)アクリレートを含むインキセットであれば、電子線照射により硬化させることができる。
【0077】
本発明の印刷物は、前記印刷用インキセットを用いた印刷物であって、平版印刷用白インキ(a)の硬化膜の上に印刷用白インキ(b)の硬化膜を有する。
【0078】
前述の第一の態様と同じく、本発明の印刷物においても、印刷用白インキ(b)の硬化膜の膜厚が、平版印刷用白インキ(a)の硬化膜の膜厚に比べ大きいことが好ましい。本発明の印刷物における、平版印刷用白インキ(b)の硬化膜の膜厚と印刷用白インキ(a)の硬化膜の膜厚との差としては、0.1mm以上が好ましく、より好ましくは0.5mm以上、さらに好ましくは1.0mm以上である。
【0079】
本発明の印刷物における平版印刷用白インキ(a)の硬化膜の膜厚は、基材との密着力をより向上させる観点から、0.5mm以上2.0mm以下が好ましく、0.8mm以上2.0mm以下がより好ましく、1.1mm以上2.0mm以下がさらに好ましい。
【0080】
本発明の印刷物における印刷用白インキ(b)の硬化膜の膜厚は、隠蔽性をより向上させる観点から、2.0mm以上が好ましく、2.5mm以上がより好ましく、3.0mm以上がさらに好ましい。また印刷用白インキ(b)の硬化膜の膜厚は、印刷用白インキ(b)の成分の平版印刷用白インキ(a)への移行を抑制し、基材との密着性をより向上させる観点から、4.0mm以下が好ましく、3.1mm以下がより好ましい。
【実施例】
【0081】
以下、本発明を実施例により具体的に説明する。ただし、本発明はこれらにのみ限定されるものではない。
【0082】
<インキ原料>
樹脂:25質量%のメタクリル酸メチル、25質量%のスチレン、50質量%のメタクリル酸からなる共重合体に、そのカルボキシル基に対して0.55当量のグリシジルメタクリレートを付加反応させて、エチレン性不飽和基と親水性基を有する樹脂1を得た。得られた樹脂1は重量平均分子量34,000、酸価105mgKOH/g、ヨウ素価2.0mol/kgであった。
(メタ)アクリレート1:ペンタエリスリトールトリアクリレートとペンタエリスリトールテトラアクリレートの混合物(MIWON社製、“Miramer”(登録商標)M340)、水酸基価115mgKOH/g
(メタ)アクリレート2:トリシクロデカンジメタノールジアクリレート(ダイセル・オルネクス株式会社製、EBECRYL 130)、水酸基価0mgKOH/g
(メタ)アクリレート3:1,10-デカンジオールジアクリレート(新中村化学工業株式会社製、NKエステル A-DOD-N)、水酸基価0mgKOH/g
(メタ)アクリレート4:トリメチロールプロパンEO変性トリアクリレート(MIWON社製、“Miramer”(登録商標)M3130)、水酸基価10mgKOH/g
(メタ)アクリレート5:ステアリルアクリレート(MIWON社製、“Miramer”(登録商標)M180)、水酸基価0mgKOH/g
顔料1:カーボンブラック MA8(三菱化学(株)製)
顔料2:セイカシアニンブルー4920(大日精化(株)製)
顔料3:カーミン6B 1483LT(大日精化(株)製)
顔料4:ファストイエロー2300(大日精化(株)製)
顔料5:“タイペーク”(登録商標)CR58-2(石原産業(株)製)
界面活性剤1:“Disperbyk”(登録商標)2013(ALTANA社製)
界面活性剤2:“Solsperse”(登録商標)54000(Lubrizol社製)、高分子系界面活性剤
界面活性剤3:“Solsperse”(登録商標)3000(Lubrizol社製)、高分子系界面活性剤。
【0083】
<インキ原料の分析方法>
(1)重量平均分子量
樹脂を、濃度0.25質量%となるようにテトラヒドロフランで希釈した希釈溶液を作製し、ミックスローター(MIX-ROTAR VMR-5、アズワン(株)社製)を用いて、希釈溶液を回転数100rpmの条件で5分間撹拌して樹脂を溶解させ、0.2μmフィルター(Z227536-100EA、SIGMA社製)を用いてろ過した。得られたろ液を用いて、テトラヒドロフランを移動相としたゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)により、樹脂の重量平均分子量を測定した。
【0084】
GPCはHLC-8220(東ソー(株)製)、カラムはTSKgel SuperHM-H(東ソー(株)製)、TSKgel SuperHM-H(東ソー(株)製)、TSKgel SuperH2000(東ソー(株)製)の順で連結したものを用い、RI検出により測定した。検量線はポリスチレン標準物質を用いて作成した。測定条件は、打ち込み量10μL、分析時間30分、流量0.4mL/分、カラム温度40℃とした。
【0085】
(2)酸価
JIS K 0070:1992の試験方法第3.1項の中和滴定法に記載の方法により、樹脂の酸価を測定した。
【0086】
(3)ヨウ素価
JIS K 0070:1992の試験方法第6.0項に記載の方法により、樹脂のヨウ素価を測定した。
【0087】
(4)水酸基価
JIS K 0070:1992の試験方法第7.1項の中和滴定法に記載の方法により、(メタ)アクリレートの水酸基価を測定した。
【0088】
<評価方法>
(1)表面張力
厚さ1mm×縦50mm×横50mmのガラス基材(面取り、洗浄品、(株)石田理化製)上に、各実施例および比較例に用いたインキを塗布した後、インキ表面をより平滑にするために、30分間暗所で静置した。静置した後のインキ上に、シリンジを用いて、表面張力の値が既知である純水およびエチレングリコールの液滴を着滴させ、着滴後30秒経過した時の接触角を、自動接触角計(Drop Master DM-501、協和界面科学(株)製)を用いて、気温25℃、湿度50%の条件で測定した。
【0089】
次に、接触角から、数式(1)、数式(4)および数式(5)より、インキの表面張力γIを算出した。
γ=γd+γh (1)
【0090】
【0091】
なお、純水の表面張力γは72.8mN/m、非極性の分散力成分γdは21.8mN/m、極性の水素結合性の分散力成分γhは51.0mN/mであり、エチレングリコールの表面張力γは48.8mN/m、非極性の分散力成分γdは32.8mN/m、極性の水素結合性の分散力成分γhは16.0mN/mである。
【0092】
(2)タック値
各実施例および比較例に用いたインキを、インキピペットを用いて1.31ml秤量し、インコメーター(直径76.2mmの金属ロール、EPDМゴム製でショアA硬度70°、直径79.3mmのトップロール、およびEPDМゴム製でショアA硬度60°、直径50.8mmのバイブレーションロールを有する。テスター産業(株)社製“INKO-GRAPH”TYPE V)を用いて、回転数400rpm、温度38℃の条件において測定した。ただし、測定開始1分後の測定値を、本発明におけるタック値とした。
【0093】
(3)粘度
各実施例および比較例に用いたインキを、インキピペットを用いて0.35ml秤量し、コーンプレート(コーン角1°、φ=40mm)を装着したコーンプレート型回転式粘度計レオメーター(MCR301、アントン・パール(Anton Paar)社製)を用いて、温度35℃、回転数70rpmの条件において粘度を測定した。
【0094】
(4)膜厚
各実施例および比較例により得られた印刷物断面を、走査電子顕微鏡観察(S-5500、株式会社日立ハイテクノロジーズ社)を用いて拡大観察し、各層の印刷物垂直方向の厚みを無作為に5箇所測定し、その平均値を膜厚とした。
【0095】
(5)隠蔽性
各実施例および比較例により得られた印刷物のうち、白インキのみが印刷された箇所について、濃度計(xEact Basic、X-rite社製)を用いて、隠蔽率測定モードで基材面より隠蔽率を測定した。隠蔽率が60%未満であると隠蔽性が不十分であり、60%以上65%未満であると隠蔽性がやや良好であり、65%以上70%未満であると隠蔽性が良好であり、70%以上であると隠蔽性が極めて良好であると判断した。
【0096】
(6)密着性
各実施例および比較例により得られた印刷物のうち、白インキのみが印刷された箇所のインキの硬化膜上に、接着剤として“タケラック”(登録商標)A-626(三井化学(株)製)と“タケネート”(登録商標)A-50(三井化学(株)製)の質量比8/1の混合物をバーコート法により塗布した。このとき、80℃で1分間乾燥した後の塗布量が4.0g/m2となるように調整した。前記接着剤を塗布した印刷物と、シーラントとして無延伸ポリプロピレンフィルム“トレファン”(登録商標)ZK207(東レ(株)製、厚み70μm)を、ハンドローラーを用いてラミネートした後、40℃にて72時間エージングし、シーラント/接着剤/インキの硬化膜/ポリエステルフィルムのフィルム積層体を得た。
【0097】
前記フィルム積層体から、幅15mm、長さ50mmの切片を切り出し、テンシロン万能材料試験機(エー・アンド・デイ社製、型番「RTG-1210」)を用いて、90度T型剥離法(JIS K 6854-3:1999)により、ポリエステルフィルム/シーラント間の剥離強度を測定し、第一極大点の値をラミネート剥離強度とした。気温25℃、湿度50%、試験速度300mm/分の条件において剥離強度を測定した。
【0098】
剥離強度が1.0N/15mm未満であると密着性が不十分であり、1.0N/15mm以上2.0N/15mm未満であると密着性がやや良好であり、2.0N/15mm以上3.0N/15mm未満であると密着性が良好であり、3.0N/15mm以上であると密着性が極めて良好と判断した。
【0099】
<平版印刷用墨または有彩色インキの作製>
表1の「インキの種類」において、「平版」とは平版印刷用インキ、「フレキソ」とはフレキソ印刷用インキを意味する。
【0100】
表1の墨または有彩色の各色に示す樹脂、(メタ)アクリレートを秤量し、ディスパー羽根を用いて、回転数500rpmで撹拌しながら、温度95℃で390分間加熱し、ワニスを得た。
【0101】
得られたワニスに、表1の墨または有彩色の各色顔料および界面活性剤を添加し、三本ロールミル“EXAKT”(登録商標)M-80S(EXAKT社製)を用いて、ギャップ1で5回通し、平版印刷用インキを得た。
【0102】
[実施例1]
<白インキの作製>
表1において、「1層目白」とは白インキのうち1層目に印刷する白インキを、「2層目白」とは2層目に印刷する白インキを意味する。
【0103】
表1の1層目白に示す樹脂、(メタ)アクリレートを秤量し、ディスパー羽根を用いて、回転数500rpmで撹拌しながら、温度95℃で390分間加熱し、ワニスを得た。得られたワニスに、表1に記載の顔料および界面活性剤を添加し、三本ロールミル“EXAKT”(登録商標)M-80S(EXAKT社製)を用いて、ギャップ1で5回通し、平版印刷用白インキを得た。
【0104】
表1の2層目白に示す樹脂、(メタ)アクリレートを秤量し、ディスパー羽根を用いて、回転数500rpmで撹拌しながら、温度95℃で390分間加熱し、ワニスを得た。得られたワニスに、表1に記載の顔料および界面活性剤を添加し、アイガーミル(メディアとして直径0.5mmのジルコニアビーズを使用)を用いて分散させ、フレキソ印刷用白インキを得た。
【0105】
<印刷物の製造>
平版およびフレキソハイブリッド印刷機(CI-8、COMEXI社)を使用し、1~5胴目に水なし平版印刷版(TAN-E、東レ(株)製)、8胴目にフレキソ印刷版(“Cyrel”(登録商標)EASY FAST EFX、DuPont社製)を設置し、1~5、8胴目にそれぞれ順に、平版印刷用墨、藍、紅、黄、1層目白、2層目白の各インキを設置した。基材としてポリエステルフィルムPTM12(ユニチカ社製、厚み12μm)上に、インキの送り量:50%、圧胴用チラー設定温度:30℃、揺動ローラーおよびインキ壺用チラー設定温度:28℃の条件で、ブランケットにT414(金陽社製、厚み1.95mm)を用い、ウェットオンウェット印刷方式により、100m/分の速度で印刷し、全インキ印刷後に印刷機付属の電子線照射装置を用いて110kV、40kGyの電子線を照射し、インキを硬化させ印刷物を得た。このとき、印刷物中に、基材上に1層目として平版印刷用白インキ(a)と2層目として印刷用白インキ(b)のみが印刷される箇所が得られるように、画像を構成した。
【0106】
各インキおよび得られた印刷物について、前述の方法により評価した結果を表1に示す。隠蔽性および密着性は極めて良好であった。
【0107】
[実施例2~4]
<白インキの作製>
1層目白インキの組成を表1に記載のとおりに変更したこと以外は実施例1と同様にして、平版印刷用白インキおよびフレキソ印刷用白インキを得た。
【0108】
<印刷物の製造>
表1に記載の1層目白インキを用いたこと以外は実施例1と同様にして、印刷物を得た。
【0109】
各インキおよび得られた印刷物について、前述の方法により評価した結果を表1に示す。
【0110】
[実施例5]
<白インキの作製>
2層目白インキの組成を表2に記載のとおりに変更したこと以外は実施例1と同様にして、平版印刷用白インキおよびフレキソ印刷用白インキを得た。
【0111】
<印刷物の製造>
表2に記載の2層目白インキを用いたこと以外は実施例1と同様にして、印刷物を得た。
【0112】
各インキおよび得られた印刷物について、前述の方法により評価した結果を表2に示す。
【0113】
[実施例6]
<白インキの作製>
1層目白インキの組成を表2に記載のとおりに変更したこと以外は実施例1と同様にして、平版印刷用白インキおよびフレキソ印刷用白インキを得た。
【0114】
<印刷物の製造>
表2に記載の1層目白インキを用いたこと以外は実施例1と同様にして、印刷物を得た。
【0115】
各インキおよび得られた印刷物について、前述の方法により評価した結果を表2に示す。
【0116】
[比較例1]
<印刷物の製造>
1~6胴目に水なし平版印刷版(TAN-E、東レ(株)製)を設置し、1~6胴目にそれぞれ順に、平版印刷用墨、藍、紅、黄、1層目白、2層目白の各インキを設置したこと以外は実施例1と同様に印刷物を得た。
【0117】
各インキおよび得られた印刷物について、前述の方法により評価した結果を表2に示す。1層目白および2層目白として同組成の平版印刷用白インキを使用した比較例1は、隠蔽性が不十分であった。
【0118】
[比較例2]
1~4胴目に水なし平版印刷版(TAN-E、東レ(株)製)、8胴目にフレキソ印刷版(“Cyrel”(登録商標)EASY FAST EFX、DuPont社製)を設置し、1~4、8胴目にそれぞれ順に、平版印刷用墨、藍、紅、黄、1層目白の各インキを設置したこと、印刷物中に、基材上にフレキソ印刷用白インキのみが印刷される箇所が得られるように画像を構成したこと以外は実施例1と同様に印刷物を得た。
【0119】
各インキおよび得られた印刷物について、前述の方法により評価した結果を表2に示す。1層目白としてフレキソ印刷用白インキのみを使用した比較例2は、密着性が不十分であった。
【0120】
【0121】