(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-06-10
(45)【発行日】2025-06-18
(54)【発明の名称】連続式圧延機のキャンバー制御装置
(51)【国際特許分類】
B21B 37/58 20060101AFI20250611BHJP
B21C 51/00 20060101ALI20250611BHJP
B21B 38/02 20060101ALI20250611BHJP
B21B 37/68 20060101ALI20250611BHJP
【FI】
B21B37/58 B
B21C51/00 L
B21B38/02
B21B37/68 Z
(21)【出願番号】P 2024500513
(86)(22)【出願日】2022-09-14
(86)【国際出願番号】 JP2022034450
(87)【国際公開番号】W WO2024057454
(87)【国際公開日】2024-03-21
【審査請求日】2024-01-09
(73)【特許権者】
【識別番号】501137636
【氏名又は名称】株式会社TMEIC
(74)【代理人】
【識別番号】110003199
【氏名又は名称】弁理士法人高田・高橋国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】上野 聡
【審査官】池ノ谷 秀行
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-131196(JP,A)
【文献】特開2016-215241(JP,A)
【文献】特開平09-174129(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第103611736(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B21B 37/00-37/78
B21C 51/00
B21B 38/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
連続式圧延機のキャンバー制御装置であって、
前記連続式圧延機が、圧下レベリング装置を有する複数の圧延スタンドを備えるものにおいて、
圧延材の蛇行量を検出する蛇行量検出器と、
前記蛇行量検出器で検出した蛇行量に基づき、圧延材先端部における先端キャンバー測定値を算出する先端キャンバー測定部と、
前記先端キャンバー測定部で算出した先端キャンバー測定値に基づいて、各圧延スタンドにおける先端キャンバーを低減するのに必要な圧下レベリング量であるキャンバー修正レベリング量を算出するキャンバー修正レベリング演算部と、
各圧延スタンドの前記圧下レベリング装置に対し、先端キャンバーを低減するための設定値である先端レベリング補正量と
、先端キャンバーを制御する圧延材先端部の長さである先端レベリング制御長さを設定する先端レベリング設定部と、
各圧延スタンドに圧延材が進入する前に、前記先端レベリング補正量を加算した位置に前記圧下レベリング装置を調整し、各圧延スタンドにおける圧延長さが前記先端レベリング制御長さに到達した後、
当該圧延スタンドの先端レベリング補正量が
徐々に減少するように前記圧下レベリング装置の位置を調整する圧下レベリング制御部と、を備え
、
前記蛇行量検出器は、最終圧延スタンド出側に配置され、
前記キャンバー修正レベリング演算部は、最終圧延スタンド出側における先端キャンバー測定値を各圧延スタンドの先端キャンバー推定値とし、この先端キャンバー推定値と各圧延スタンドの影響係数に基づいてキャンバー修正レベリング量を算出し、
前記キャンバー制御装置は、前記キャンバー修正レベリング量に基づいて、次の圧延材以降の圧延に適用される先端レベリング補正量を学習的に更新する先端レベリング学習部を更に備え、
前記先端レベリング設定部は、前記先端レベリング学習部で更新された最新値を前記先端レベリング補正量として設定することを特徴とする連続式圧延機のキャンバー制御装置
。
【請求項2】
連続式圧延機のキャンバー制御装置であって、
前記連続式圧延機が、圧下レベリング装置を有する複数の圧延スタンドを備えるものにおいて、
圧延材の蛇行量を検出する蛇行量検出器と、
前記蛇行量検出器で検出した蛇行量に基づき、圧延材先端部における先端キャンバー測定値を算出する先端キャンバー測定部と、
前記先端キャンバー測定部で算出した先端キャンバー測定値に基づいて、各圧延スタンドにおける先端キャンバーを低減するのに必要な圧下レベリング量であるキャンバー修正レベリング量を算出するキャンバー修正レベリング演算部と、
各圧延スタンドの前記圧下レベリング装置に対し、先端キャンバーを低減するための設定値である先端レベリング補正量と、先端キャンバーを制御する圧延材先端部の長さである先端レベリング制御長さを設定する先端レベリング設定部と、
各圧延スタンドに圧延材が進入する前に、前記先端レベリング補正量を加算した位置に前記圧下レベリング装置を調整し、各圧延スタンドにおける圧延長さが前記先端レベリング制御長さに到達した後、当該圧延スタンドの先端レベリング補正量が徐々に減少するように前記圧下レベリング装置の位置を調整する圧下レベリング制御部と、を備え、
前記蛇行量検出器は、最終圧延スタンド出側に配置される第1蛇行量検出器と、いずれかの圧延スタンド間に配置される少なくとも一つの第2蛇行量検出器とを含み、
前記キャンバー修正レベリング演算部は、
前記第2蛇行量検出器より上流側の圧延スタンドについては、最終圧延スタンド出側における先端キャンバー測定値と、圧延スタンド間における先端キャンバー測定値に基づいて
先端キャンバー推定値を決定し、この先端キャンバー推定値と各圧延スタンドの影響係数に基づいてキャンバー修正レベリング量を算出し、
前記第2蛇行量検出器より下流側の圧延スタンドについては、最終圧延スタンド出側における先端キャンバー測定値
を先端キャンバー推定値とし、この先端キャンバー推定値と各圧延スタンドの影響係数に基づいてキャンバー修正レベリング量を算出し、
前記キャンバー修正レベリング量に基づいて、次
の圧延材以降の圧延に適用される先端レベリング補正量を学習的に更新する先端レベリング学習部を備え、
前記先端レベリング設定部は、前記先端レベリング学習部で更新された最新値を先端レベリング補正量として設定す
ることを特徴とす
る連続式圧延機のキャンバー制御装置。
【請求項3】
連続式圧延機のキャンバー制御装置であって、
前記連続式圧延機が、圧下レベリング装置を有する複数の圧延スタンドを備えるものにおいて、
いずれかの圧延スタンド間に配置され、圧延材の蛇行量を検出する少なくとも一つの蛇行量検出器と、
前記蛇行量検出器で先端キャンバー測定値の算出に必要な圧延長さに亘る測定を終えた後、前記蛇行量検出器で検出した蛇行量に基づき、圧延材先端部における前記先端キャンバー測定値を即座に算出する先端キャンバー測定部と、
前記先端キャンバー測定部で算出した先端キャンバー測定値に基づいて、前記蛇行量検出器より下流側の各圧延スタンドにおける先端キャンバーを低減するのに必要な圧下レベリング量であるキャンバー修正レベリング量を算出するキャンバー修正レベリング演算部と、
前記蛇行量検出器より下流側の各圧延スタンドの前記圧下レベリング装置に対し、先端キャンバーを低減するための設定値である先端レベリング補正量と、先端キャンバーを制御する圧延材先端部の長さである先端レベリング制御長さを設定する先端レベリング設定部と、
前記蛇行量検出器より下流側の各圧延スタンドに圧延材が進入する前に、前記先端レベリング補正量を加算した位置に当該圧延スタンドの前記圧下レベリング装置を調整し、前記蛇行量検出器より下流側の各圧延スタンドにおける圧延長さが前記先端レベリング制御長さに到達した後、当該圧延スタンドの先端レベリング補正量が徐々に減少するように前記圧下レベリング装置の位置を調整する圧下レベリング制御部と、を備え、
前記キャンバー修正レベリング演算部は、前記蛇行量検出器における先端キャンバー測定値
を先端キャンバー推定値とし、この先端キャンバー推定値と各圧延スタンドの影響係数に基づいて、前記蛇行量検出器より下流側の各圧延スタンドのキャンバー修正レベリング量を算
出することを特徴とす
る連続式圧延機のキャンバー制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、熱間仕上圧延機などの連続式圧延機のキャンバー制御装置に関し、より詳しくは、連続式圧延機が圧下レベリング装置を夫々有する複数の圧延スタンドを備えるものに関する。
【背景技術】
【0002】
連続式圧延機で圧延材を圧延するに際して、圧延材が圧延ロール幅方向中心位置からずれ、左右(駆動側と作業側)何れかの方向に移動する現象を蛇行という。一方、圧延材自体が幅方向に湾曲した形状になったものをキャンバーと呼ぶ。圧延材の先端付近や尾端付近では、局所的に大きなキャンバーが生じやすいことが知られている。圧延後の鋼帯に残るキャンバーは、巻き取り後の鋼帯コイルに、テレスコープと呼ばれる巻きズレを引き起こす。鋼帯コイルのテレスコープは、コイル搬送時の事故につながる可能性がある。また、圧延材先尾端の大きなキャンバーは、圧延スタンド間のサイドガイドや、巻き取り機入側のサイドガイドに衝突し、通板トラブルに至ることもある。このようなトラブルが発生すると、事故処理や、設備の補修作業などが発生し、生産性が低下する。このため、キャンバーを抑制する必要がある。
【0003】
ここで、キャンバーは、圧延プロセスにおいて、左右の圧下量の差が圧延方向の伸びの差として表われたものである。左右の圧下量の差が生じる原因としては、圧下レベリングの調整ズレ、圧延材の左右の温度差などによる圧延反力の差、圧延ロールの偏った摩耗、あるいは、母材の板厚の左右差、などがある。
【0004】
キャンバーを抑制するためには、圧下レベリング装置で上下圧延ロール間の左右開度を適切に調整する必要がある。先端部など局所的なキャンバーを修正するためには、圧延材長手方向の各位置におけるキャンバー形状を正確に測定する必要がある。しかしながら、圧延材全長に亘るキャンバー形状の測定は、技術的に難しい面があり、キャンバー形状の代わりに、蛇行量の測定結果を使った制御方法が多く提案されている。粗圧延機は、測定と、圧下レベリングの調整、を繰り返し実施できるため、粗圧延機に適用する制御方法の提案が多いが、仕上圧延機でもキャンバーは発生する。特に、張力の拘束がない先端付近や尾端付近に対応する部分にキャンバーが残ることが多い。
【0005】
特許文献1では、鋼帯コイルのテレスコープの発生を抑制するため、最終圧延スタンドの出側と入側に設置された蛇行量検出器で検出した蛇行量に基づいて、蛇行量が所定の範囲に収まるように最終圧延スタンドの圧下レベリングを制御している。特許文献1記載の方法は、いわゆる蛇行量検出値に基づくフィードバック制御である。また、特許文献2では、仕上圧延機の入側に設けた形状検出器によりキャンバーの長さと曲り量を検出し、当該検出値に基づいて、仕上圧延機の圧延スタンドのレベリング補正量を設定している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】日本特開2020-131196号公報
【文献】日本特許第2526323号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、仕上圧延機出側の蛇行量検出器は、通常、最終圧延スタンドから15m程度の距離だけ離れて設置されており、特許文献1に記載のようなフィードバック制御では、圧延材先端部の、当該距離以下の長さにおける、圧延材の蛇行量やキャンバーを制御することはできない。
【0008】
また、特許文献2記載の方法のように、仕上圧延機入側で検出したキャンバーに基づいて圧下レベリングの位置を調整する方法によれば、粗圧延機で作られたキャンバーを低減することはできたとしても、仕上圧延機の各圧延スタンドの圧下レベリングの調整ズレなど、仕上圧延機に内在する要因(硬さ)に因るキャンバーを抑えることはできない。また、各圧延スタンドの圧下レベリングは、圧延中、一定の圧下レベリング位置に調整、保持されていると思われるが、このように圧下レベリング位置を調整するだけでは、圧延材全長に亘って同じ矯正効果を与え、先端部の局所的な曲りを修正することはできず、これでは歩留まり向上させることができない。
【0009】
本開示は、上述のような課題を解決するためになされたものであり、連続式圧延機で圧延材を圧延する際に、圧延材の先端部のキャンバーを低減し、鋼帯コイルにおけるテレスコープの発生を抑制可能な連続式圧延機のキャンバー制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
第1の観点は、連続式圧延機のキャンバー制御装置に関連する。連続式圧延機は、圧下レベリング装置を有する複数の圧延スタンドを備える。キャンバー制御装置は、圧延材の蛇行量を検出する蛇行量検出器と、蛇行量検出器で検出した蛇行量に基づき、圧延材先端部における先端キャンバー測定値を算出する先端キャンバー測定部と、先端キャンバー測定部で算出した先端キャンバー測定値に基づいて、各圧延スタンドにおける先端キャンバーを低減するのに必要な圧下レベリング量であるキャンバー修正レベリング量を算出するキャンバー修正レベリング演算部と、各圧延スタンドの前記圧下レベリング装置に対し、先端キャンバーを低減するための設定値である先端レベリング補正量と先端レベリング制御長さを設定する先端レベリング設定部と、各圧延スタンドに圧延材が進入する前に、先端レベリング補正量を加算した位置に圧下レベリング装置を調整し、各圧延スタンドにおける圧延長さが先端レベリング制御長さに到達した後、徐々に先端レベリング補正量が減少するように圧下レベリング装置の位置を調整する圧下レベリング制御部と、を備える。
【0011】
第2の観点は、第1の観点に加えて、次の特徴を更に有する。蛇行量検出器は、最終圧延スタンド出側に配置される。キャンバー修正レベリング演算部は、最終圧延スタンド出側における先端キャンバー測定値に基づいてキャンバー修正レベリング量を算出する。キャンバー制御装置は、キャンバー修正レベリング量に基づいて、次の圧延材以降の圧延に適用される先端レベリング補正量を学習的に更新する先端レベリング学習部を更に備える。先端レベリング設定部は、先端レベリング学習部で更新された最新値を先端レベリング補正量として設定する。
【0012】
第3の観点は、第1の観点に加えて、次の特徴を更に有する。蛇行量検出器は、最終圧延スタンド出側に配置される第1蛇行量検出器と、いずれかの圧延スタンド間に配置される少なくとも一つの第2蛇行量検出器とを含む。キャンバー修正レベリング演算部は、第2蛇行量検出器より上流側の圧延スタンドについては、最終圧延スタンド出側における先端キャンバー測定値と、圧延スタンド間における先端キャンバー測定値に基づいてキャンバー修正レベリング量を算出する。キャンバー修正レベリング演算部は、第2蛇行量検出器より下流側の圧延スタンドについては、最終圧延スタンド出側における先端キャンバー測定値に基づいてキャンバー修正レベリング量を算出する。キャンバー制御装置は、キャンバー修正レベリング量に基づいて、次の圧延材以降の圧延に適用される先端レベリング補正量を学習的に更新する先端レベリング学習部を更に備える。先端レベリング設定部は、先端レベリング学習部で更新された最新値を先端レベリング補正量として設定する。
【0013】
第4の観点は、第1の観点に加えて、次の特徴を更に有する。蛇行量検出器は、いずれかの圧延スタンド間に少なくとも一つ配置される。蛇行量検出器で、先端キャンバー測定値の算出に必要な圧延長さに亘る測定を終えた後、先端キャンバー測定部、キャンバー修正レベリング演算部及び先端レベリング設定部の各処理を即座に実行する。記キャンバー修正レベリング演算部は、蛇行量検出器における先端キャンバー測定値に基づいて、蛇行量検出器より下流側の各圧延スタンドのキャンバー修正レベリング量を算出する。先端レベリング設定部は、キャンバー修正レベリング量に基づいて、現圧延材の圧延における蛇行量検出器より下流側の各圧延スタンドの圧下レベリング装置に先端レベリング補正量と先端レベリング制御長さを設定する。
【発明の効果】
【0014】
本開示によれば、少なくとも一つの蛇行量検出装器を備えた連続式圧延機において、圧延材先端部の局所的なキャンバーを低減することができ、巻き取り機で巻き取った鋼帯コイルのテレスコープを抑制することができる。また、先端通板中に、サイドガイドに湾曲した圧延材先端部が衝突するトラブルを回避することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本開示に係るキャンバー制御装置が適用される連続式圧延機の構成例を示す図である。
【
図2】実施の形態1によるキャンバー制御装置の構成を示すブロック図である。
【
図3】実施の形態1における圧下レベリング制御部による圧下レベリング装置の操作について説明するための図である。
【
図4】実施の形態1におけるキャンバー修正レベリング演算部による処理を説明するための図である。
【
図5】実施の形態2によるキャンバー制御装置の構成を示すブロック図である。
【
図6】実施の形態2におけるキャンバー修正レベリング演算部による処理を説明するための図である。
【
図7】キャンバー制御装置が有する処理回路のハードウェア構成例を示す概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態について詳細に説明する。尚、各図において共通する要素には、同一の符号を付して重複する説明を省略する。
【0017】
[連続式圧延機]
図1は、本開示に係るキャンバー制御装置が適用される連続式圧延機の構成例を示す図である。連続式圧延機1は、複数の圧延スタンドF1,F2,・・・,Fnを備える複数段の圧延機である。nは、2以上の自然数である。圧延材Mは、鉄鋼又はその他の金属材である。圧延材Mは、図中の左側から右側に移動しながら、熱間で所定の板厚に圧延される。板状に圧延された圧延材Mは、図示省略の巻取機により巻き取られて鋼帯コイルとなる。
【0018】
各圧延スタンドFi(1≦i≦n)は、上下2本のワークロールRwと、ワークロールRwの上下方向外側に夫々配置される上下2本のバックアップロールRbを備える。バックアップロールRbの作業側と駆動側には、図示省略の圧下装置が夫々設けられ、上下ワークロールRwの間隙を調整できる。各圧延スタンドFiは、圧下レベリング装置Vi(1≦i≦n)を更に備え、圧下装置により上下ワークロールRwの作業側と駆動側の両方、あるいは一方の平行度を調整し、上下ワークロールRw間隙の作業側と駆動側の差異を変更できる。なお、圧下レベリング装置Viは、上下ワークロールRwを接触させ、作業側と駆動側の圧下装置を一定量締め込んだ時に、作業側と駆動側のロードセルで検出した荷重がほぼ等しくなる位置を圧下レベリング装置Viのゼロ基準とする。
【0019】
連続式圧延機1は、圧延スタンドF1,F2,・・・,Fnのスタンド間、あるいは最終圧延スタンドの出側に、少なくとも一つの蛇行量検出器Diを有する。蛇行量検出器Diは、最終圧延スタンドFnの出側に配置される第1蛇行量検出器Dnと、圧延スタンドF3,F4のスタンド間に配置される第2蛇行量検出器D3を含む。各蛇行量検出器Di(1≦i≦n)は、圧延スタンドFiの下流側に距離LDi離れて設置される。蛇行量検出器Diは、光学式または接触式のいずれの方式の検出器であってもよく、圧延材Mの左右端部位置を検出し、圧延材Mの左右端部位置から決まる圧延材中心位置の圧延機中心位置からの偏差を蛇行量として出力する。
【0020】
連続式圧延機1は、セットアップ装置2とキャンバー制御装置3を備える。セットアップ装置2は、キャンバー制御装置3に必要な各種セットアップ値、具体的には、各圧延スタンドFiにおける、圧延材Mの板厚、影響係数、および最終圧延スタンドFnの先端レベリング制御長さ、などを当該圧延材の圧延開始前にキャンバー制御装置3に出力する。
【0021】
キャンバー制御装置3は、セットアップ装置2から取得したセットアップ値と、蛇行量検出器Diで収集した蛇行量に基づいて、各圧延スタンドFiの圧下レベリング設定値を計算し、圧下レベリング装置Viを調整する。
【0022】
実施の形態1.
図2は、実施の形態1によるキャンバー制御装置3の構成を示すブロック図である。キャンバー制御装置3は、先端キャンバー測定部31、キャンバー修正レベリング演算部32、先端レベリング学習部33、先端レベリング設定部34及び圧下レベリング制御部35を備える。以下、キャンバー制御装置3を構成する機能を詳細に説明する。
【0023】
キャンバー制御装置3は、圧延開始前に、先端レベリング設定部34を実行する。先端レベリング設定部34は、セットアップ装置2から取得した次圧延材のセットアップ値及び先端レベリング学習部33から取得した学習値に基づいて、各圧延スタンドFiの「先端レベリング補正量」と「先端レベリング制御長さ」を決定する。先端レベリング制御長さは、先端キャンバーを制御したい圧延材先端部の長さである。最終圧延スタンドFnにおける先端レベリング制御長さLCMB,Nとしては、任意の長さが設定され、例えば、15m~20mの範囲内に設定される。各圧延スタンドFiにおける先端レベリング制御長さLCMB,iは、下式(1)に示すように、最終圧延スタンドFnの先端レベリング制御長さLCMB,Nに対する各圧延スタンドFiの出側板厚hiの板厚比(hi/hN)で決められる。
【0024】
【0025】
先端レベリング設定部34は、先端レベリング学習部33から取得した最新の学習値を先端レベリング補正量と決める。先端レベリング設定部34は、各圧延スタンドFiに圧延材Mが進入する前の指定されたタイミングで、先端レベリング補正量と先端レベリング制御長さを圧下レベリング制御部35に設定する。
【0026】
圧下レベリング制御部35は、各圧延スタンドFiにおける圧延長を計算するトラッキング機能を有し、先端レベリング設定部34により設定された先端レベリング補正量と先端レベリング制御長さに基づいて、圧下レベリング装置Viを操作する。
【0027】
図3は、圧下レベリング制御部35による圧下レベリング装置Viの操作について説明するための図である。先端レベリング設定部34により先端レベリング補正量と先端レベリング制御長さが設定されると、先端レベリング補正量を加算した位置に圧下レベリング装置Viを調整する。当該圧延スタンドFiの圧延距離が先端レベリング制御長さに達したら、加算した先端レベリング補正量を徐々に減少させるように、圧下レベリング装置Viの位置が調整される。
【0028】
キャンバー制御装置3は、最終圧延スタンドFn出側の蛇行量検出器Dnにおける圧延材先端部の測定が完了した後、以下に説明するように、先端キャンバー測定部31、キャンバー修正レベリング演算部32及び先端レベリング学習部33の各処理を順次実施する。
【0029】
先端キャンバー測定部31は、圧延スタンド間および最終圧延スタンドFn出側のそれぞれの蛇行量検出器Diにおいて、圧延材先端部の蛇行量を測定する。それぞれの蛇行量は、圧延材先端部が蛇行量検出器Diに到達してから、先端レベリング制御長さで指定される長さを通過する期間の検出値を収集する。次に、先端キャンバー測定部31は、上記蛇行量の測定データを用いて、圧延材Mの先端キャンバー測定値を算出する。先端キャンバーの大きさは、圧延材先端付近における蛇行量の変化を曲線近似したときの曲率の平均値と定義する。採取した蛇行量の測定データを用いて先端キャンバーの曲率を求める方法の一つとして、蛇行量の測定データを、測定位置をX軸、蛇行量をY軸としてプロットした関係から近似多項式を求め、下式(2)に示す方法で算出する方法を用いることができる。下式(2)は、測定位置毎の曲率を与える。このため、近似多項式が3次以上の場合、各測定位置について算出した曲率の平均値を計算することになる。近似多項式が2次の場合は、一意の曲率が算出されるため、その結果が平均曲率となる。
【0030】
【0031】
キャンバー修正レベリング演算部32は、先端キャンバーを修正するのに必要な圧下レベリングの補正量を算出する。
図4は、キャンバー修正レベリング演算部32による処理を説明するための図である。まず、キャンバー修正レベリング演算部32は、先端キャンバー測定部31で算出した圧延スタンド間および最終圧延スタンド出側における先端キャンバー測定値を用いて、各圧延スタンドにおける先端キャンバーの推定値を決定する。いずれの圧延スタンド間にも蛇行量検出器が備わっていない場合、各圧延スタンドにおける先端キャンバー推定値は、最終圧延スタンドFn出側における先端キャンバー測定値と同じとする。いずれかの圧延スタンド間に蛇行量検出器が備わっており、先端キャンバー測定値が採取できている場合、当該蛇行量検出器より上流側の圧延スタンドにおける先端キャンバー推定値は、下式(3)に示すように、最終圧延スタンド出側における先端キャンバー測定値と圧延スタンド間蛇行量検出器における先端キャンバー測定値を案分して算出する。当該蛇行量検出器の下流側の圧延スタンドにおける先端キャンバーは、最終圧延スタンド出側における先端キャンバー測定値と等値とする。
【0032】
【0033】
次に、キャンバー修正レベリング演算部32は、下式(4)に示すように、各圧延スタンドの先端キャンバー推定値と影響係数を用いて各圧延スタンドのキャンバー修正レベリング量を算出する。
【0034】
【0035】
先端レベリング学習部33は、下式(5)に示すように、キャンバー修正レベリング演算部32で計算されたキャンバー修正レベリング量に基づいて、各圧延スタンドの先端レベリング補正量を更新する。「OLD値」は、現圧延材以前の結果に基づいて決まった値であり、圧延材Mの鋼種やサイズ、加熱炉番号、および圧延スタンド番号、などの条件で区分された層別テーブルに格納されている。層別テーブルは、後述するメモリ30cに格納されている。「NEW値」は、現圧延材の結果に基づいて更新された値であり、更新された最新の先端レベリング補正量は、当該層別テーブルに上書き格納される。
【0036】
【0037】
以上説明したように、本実施の形態によれば、最終圧延スタンドFn出側における先端キャンバー測定値と中間圧延スタンドにおける先端キャンバー測定値に基づいて、全圧延スタンドの圧下レベリング装置の設定値を適応的に修正することで、先端キャンバーを低減することができる。
【0038】
実施の形態2.
図5は、実施の形態2によるキャンバー制御装置の構成を示すブロック図である。本実施の形態では、先端キャンバー測定部31は、圧延スタンドF3,F4間の蛇行量検出器D3により圧延材先端部の先端レベリング制御長さとして与えられる材料長さの範囲の蛇行量測定が完了した後、即座に、先端キャンバー測定値を算出する点で、上記実施の形態1と相違する。先端キャンバー測定部31の処理が完了した後、即座に、キャンバー修正レベリング演算部32の処理が実施される。
【0039】
図6は、キャンバー修正レベリング演算部32による処理を説明するための図である。キャンバー修正レベリング演算部32は、蛇行量検出器より下流側の各圧延スタンドにおける先端キャンバー推定値を、前記先端キャンバー測定値と等値として決定する。次に、キャンバー修正レベリング演算部32は、上式(4)に示すように、先端キャンバー推定値と影響係数を用いて、当該蛇行量検出器より下流側の各圧延スタンドのキャンバー修正レベリング量を算出する。キャンバー修正レベリング演算部32の処理が完了したあと、即座に、先端レベリング設定部34が実施される。
【0040】
先端レベリング設定部34は、キャンバー修正レベリング量に基づいて、蛇行量検出器Diより下流側の各圧延スタンドの圧下レベリング装置に設定する先端レベリング補正量をおよび先端レベリング制御長さを決定する。
【0041】
圧下レベリング制御部35は、上記実施の形態1(
図3参照)と同様に、先端レベリング設定部34から設定された先端レベリング補正量と先端レベリング制御長さに従って、各圧延スタンドの圧下レベリング装置Viを操作する。
【0042】
以上説明したように、本実施の形態によれば、連続式圧延機1を圧延材先端部が通板している途中の先端キャンバーを測定し、残りの圧延スタンドの圧下レベリングを調整することで、最終圧延スタンドFn出側における圧延材Mの先端キャンバーを低減することができる。
【0043】
上記実施の形態1及び2におけるキャンバー制御装置3の具体的構造に限定はないが、一例として次のようなものであってもよい。
図7は、キャンバー制御装置3が有する処理回路のハードウェア構成の一例を示す図である。キャンバー制御装置3の機能は、
図7に示す処理回路30により実現することができる。この処理回路30は、専用ハードウェア30aであってもよい。この処理回路は、プロセッサ30b及びメモリ30cを備えていてもよい。この処理回路は、一部が専用ハードウェア30aとして形成され、更にプロセッサ30b及びメモリ30cを備えていてもよい。
図7の例は、処理回路の一部が専用ハードウェア30aとして形成されるとともに、処理回路がプロセッサ30b及びメモリ30cをも備えている。
【0044】
処理回路の少なくとも一部が、少なくとも1つの専用ハードウェア30aであってもよい。この場合、処理回路は、例えば、単一回路、複合回路、プログラム化したプロセッサ、並列プログラム化したプロセッサ、ASIC、FPGA、又はこれらを組み合わせたものが該当する。
【0045】
処理回路が、少なくとも1つのプロセッサ30b及び少なくとも1つのメモリ30cを備えてもよい。この場合、キャンバー制御装置3の各機能は、ソフトウェア、ファームウェア、又はソフトウェアとファームウェアとの組み合わせにより実現される。ソフトウェア及びファームウェアはプログラムとして記述され、メモリ30cに格納される。プロセッサ30bは、メモリ30cに記憶されたプログラムを読み出して実行することにより、各部の機能を実現する。
【0046】
プロセッサ30bは、CPU(Central Processing Unit)、中央処理装置、処理装置、演算装置、マイクロプロセッサ、マイクロコンピュータ、DSPとも呼ばれる。メモリ30cは、例えば、RAM、ROM、フラッシュメモリー、EPROM、EEPROM等の、不揮発性又は揮発性の半導体メモリ等が該当する。
【0047】
このように、処理回路は、ハードウェア、ソフトウェア、ファームウェア、又はこれらの組み合わせによって、キャンバー制御装置3の各機能を実現することができる。
【0048】
以上、本発明の実施の形態について説明したが、本発明は、上記の実施の形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形して実施することができる。連続式圧延機の構成は、
図1に示す例に限定されず、種々変形した構成の連続式圧延機に本発明を適用することができる。また、上述した実施の形態において各要素の個数、数量、量、範囲等の数に言及した場合、特に明示した場合や原理的に明らかにその数に特定される場合を除いて、その言及した数にこの発明が限定されるものではない。また、上述した実施の形態において説明する構造等は、特に明示した場合や明らかに原理的にそれに特定される場合を除いて、この発明に必ずしも必須のものではない。
【符号の説明】
【0049】
1…仕上圧延機(連続式圧延機)、3…キャンバー制御装置、Vi…圧下レベリング装置、Fi…圧延スタンド、M…圧延材、Di…蛇行量検出器、Dn…第1蛇行量検出器、D3…第2蛇行量検出器、31…先端キャンバー測定部、32…キャンバー修正レベリング演算部、33…先端レベリング学習部、34…先端レベリング設定部、35…圧下レベリング制御部