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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-06-10
(45)【発行日】2025-06-18
(54)【発明の名称】複合口金、および複合繊維の製造方法
(51)【国際特許分類】
   D01D 5/30 20060101AFI20250611BHJP
   D01F 8/14 20060101ALN20250611BHJP
【FI】
D01D5/30 Z
D01F8/14 B
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2024505433
(86)(22)【出願日】2024-01-05
(86)【国際出願番号】 JP2024000041
(87)【国際公開番号】W WO2024154595
(87)【国際公開日】2024-07-25
【審査請求日】2024-09-17
(31)【優先権主張番号】P 2023007005
(32)【優先日】2023-01-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】船越 祥二
(72)【発明者】
【氏名】平川 萌香
(72)【発明者】
【氏名】兼森 康宜
【審査官】曽川 マリー
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-014872(JP,A)
【文献】特開2021-188174(JP,A)
【文献】国際公開第2020/095861(WO,A1)
【文献】特開2010-274436(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D01D1/00-13/02
D01F8/00-8/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
2成分以上のポリマーによって構成される複合ポリマー流を吐出する複合口金であって、
各ポリマー成分を分配する分配孔および/または分配溝が形成された1枚以上の分配板と、
前記分配板のポリマーの紡出経路方向の下流側に配置され、第一のポリマー成分を吐出する複数の第一の吐出孔と、前記第一のポリマー成分とは異なる第二のポリマー成分を吐出する複数の第二の吐出孔と、が形成された最下層分配板と、
前記最下層分配板のポリマーの紡出経路方向の下流側に配置され、前記第一のポリマー成分と第二のポリマー成分が合流した複合ポリマー流を形成する口金吐出孔を有する吐出板と、で構成されており、
前記複合ポリマー流のポリマーの紡出経路方向に垂直な断面において、前記第一のポリマー成分と前記第二のポリマー成分との界面は、直線またはなだらかな曲線をなし、
前記第一の吐出孔と前記第二の吐出孔のうち、下記条件1に該当する全ての前記第一の吐出孔および前記第二の吐出孔が、下記条件2を満たす、複合口金。
条件1:前記複合ポリマー流のポリマーの紡出経路方向に垂直な断面において、前記第一のポリマー成分と前記第二のポリマー成分との界面を挟む前記第一のポリマー成分と前記第二のポリマー成分のそれぞれを吐出する前記第一の吐出孔と前記第二の吐出孔である。
条件2:任意の前記第一の吐出孔を吐出孔1a、当該第一の吐出孔1aと最も短い中心間距離で隣合う前記第一の吐出孔を吐出孔1b、前記吐出孔1aと最も短い中心間距離で隣合う前記第二の吐出孔を吐出孔4b、当該吐出孔4bと最も短い中心間距離で隣合う前記第二の吐出孔を吐出孔4cとして、前記吐出孔1aと前記吐出孔4bとの中心間距離LABが、前記吐出孔1aと前記吐出孔1bとの中心間距離Lの2倍以上であり、かつ前記吐出孔4bと前記吐出孔4cとの中心間距離Lの2倍以上である。
【請求項2】
前記条件1に該当する全ての前記第一の吐出孔が、直線上またはなだらかな曲線上に並ぶように配置されており、かつ前記条件1に該当する全ての前記第二の吐出孔が、直線上またはなだらかな曲線上に並ぶように配置されている、請求項1の複合口金。
【請求項3】
前記条件1に該当する前記第一の吐出孔と前記第二の吐出孔のそれぞれの列の間の中心線を挟んで、前記条件1に該当する前記第一の吐出孔と前記第二の吐出孔とが線対称の位置に配置されている、請求項2の複合口金。
【請求項4】
請求項1から3のいずれかの複合口金を用いた複合紡糸機により複合繊維を製造する、複合繊維の製造方法。
【請求項5】
一つの前記第一の吐出孔から吐出する前記第一のポリマー成分の吐出量に対する、一つの前記第二の吐出孔から吐出する前記第二のポリマー成分の吐出量の比率を0.3以上3.3以下とする、請求項4の複合繊維の製造方法。
【請求項6】
前記第二のポリマー成分の溶融粘度に対する前記第一のポリマー成分の溶融粘度の比率を0.2以上5.0以下とする、請求項4の複合繊維の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複合口金、それを用いた複合繊維の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
複合繊維を製造する手法には、芯鞘、サイドバイサイド、海島型と言った複合口金を利用した複合紡糸法がある。この方法は、複合口金で複合ポリマー流を精密に制御し、特に糸の走行方向において高精度な糸断面形態を形成できる。ここで複合紡糸法での複合繊維の製造方法としては、成分毎に原料であるチップを押出機で押出すことでポリマーとし、加熱ボックス内に設置されたポリマー配管を通じて紡糸用パックにポリマーを導く。その後に、各成分ポリマーは紡糸パック内に配置された濾材・フィルターを通ることで異物が除去され、多孔板にて分配される。その後に各成分ポリマーが口金にて合流して複合ポリマー流を形成し、口金の最終吐出孔から吐出する方法が採用されており、この口金を用いた複合繊維の製作方法が、糸断面形態を決定する上で極めて重要となっている。
【0003】
特に近年は、糸断面形態を精密に制御する方法として、分配方式口金と呼ばれる口金が用いられている。分配方式口金では、分配板を複数枚重ねることで、ポリマー流路を形成し、分配板により各成分ポリマーを予め多数に分配した後に、最下層分配板から一斉に吐出し、複合化させることで、複雑な断面を形成することが可能となる。
【0004】
例えば、特許文献1には、多様な断面形態を高精度に形成するために、最下層分配板での2成分ポリマー(A/B成分ポリマー)の吐出孔の配置として、島成分となるA成分ポリマーを吐出する第一の吐出孔の周囲の3方向、4方向または6方向に、海成分となるB成分ポリマーを吐出する第二の吐出孔を配置することで、島成分同士の合流が無く、島成分が多角形となる海島型複合繊維を製造できることが開示されている。また、第一の吐出孔を繊維断面の中層に集め、第二の吐出孔を外層に集めることで、芯鞘型複合繊維も製造でき、さらに第一の吐出孔を星形、三葉形状に集めることで、芯成分が星形、三葉断面の複合繊維を製造できることが開示されている。
【0005】
また、特許文献1と同様の孔配置の例として特許文献2には、六角格子状に配置することで、海島型の複合繊維を製造できることが開示されている。
さらに、特許文献3には、A成分またはB成分ポリマーのいずれか一方の吐出孔を中心に配置し、その外周側に、円周方向に渡って第一の吐出孔と、第二の吐出孔とを交互に配置することで、分割型の複合繊維を製造できることが開示されている。
【0006】
さらにまた、分配板方式口金を用いて、特許文献1、2とは異なる孔配置にて海島型の複合繊維を製造する方法が、特許文献4に開示されている。特許文献4には、実施形態として様々な孔配置(島成分ポリマーを吐出する第一の吐出孔、海成分ポリマーを吐出する第二の吐出孔の配置)が開示されており、複合繊維の島が多数配置された中に、海成分のみの領域を比較的自由に形成できることが開示されている。さらには、第一の吐出孔から、A成分ポリマーがB成分ポリマーに被膜された芯鞘の複合ポリマーを吐出し、第二の吐出孔からB成分ポリマーを吐出することで、海成分の領域を形成した海島型複合繊維を製造できることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2011-174215号公報
【文献】特開平7-3529号公報
【文献】特開2008-38275号公報
【文献】国際公開第2014/077359号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、従来の複合繊維の製造方法には以下に述べる技術課題がある。特許文献1、特許文献2には、吐出孔の詳細な配置に関する記載は無く、ポリマー組み合わせや吐出条件によっては、島成分や芯成分の断面形状に変動が起こる場合があり、所望の断面形態に精密に制御するという観点においては改善できる可能性がある。すなわち、最下層分配板の第一の吐出孔の周囲に、第二の吐出孔を近接させて配置していることから、各吐出孔から吐出されたA成分ポリマーとB成分ポリマーの流速が速い状態で衝突して合流し、A成分ポリマー/B成分ポリマーの界面が乱れて、断面形態が安定しない場合がある。特に、A成分ポリマーとB成分ポリマーの吐出量の差が大きい場合や、ポリマー粘度差が大きい場合には、界面の不安定化がする場合がある。
【0009】
また、特許文献3に開示されている口金では、最下層分配板の第一の吐出孔と、第二の吐出孔を円周方向に交互に配列しているが、一つの界面を形成するために、各ポリマー成分の吐出孔が単一孔にて構成されていることから、分割繊維の断面形状を精密に制御できない場合がある。また、各成分の吐出孔が近接して配置されているため、上記と同様に、ポリマー間の界面が乱れて、断面形態が安定しない場合がある。
【0010】
さらに、特許文献4に開示されている口金では、海領域を比較的自由に形成した海島型の複合繊維を製造できるが、一方で、本発明者らの知見によると、第一の吐出孔(島成分ポリマー、または芯鞘複合ポリマーの吐出孔)と第二の吐出孔(海成分ポリマーの吐出孔)との距離が近接していることから、吐出孔の配置の影響を受けて、海成分ポリマーと島成分ポリマーとの界面形状が波状となり、所望の繊維断面を得られない場合がある。界面が波状になると、複合繊維を製造後に海成分ポリマーを溶解する際に、溶解液が複合繊維の中央まで入っていかず、溶解不良が発生する場合がある。また、海成分ポリマーを溶解したあとの島成分の繊維に波状の形状が残ることにより、後工程での操業性が悪化する等が生じる場合がある。
【0011】
そこで、本発明は、従来技術の課題を解消し、複合繊維の断面を高精度に形成し、この断面形態の安定性を高く維持できる複合口金、およびその複合口金を用いた複合繊維の製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0012】
[1] 上記課題を解決する本発明は、2成分以上のポリマーによって構成される複合ポリマー流を吐出する複合口金であって、
各ポリマー成分を分配する分配孔および/または分配溝が形成された1枚以上の分配板と、
上記分配板のポリマーの紡出経路方向の下流側に配置され、第一のポリマー成分を吐出する複数の第一の吐出孔と、上記第一のポリマー成分とは異なる第二のポリマー成分を吐出する複数の第二の吐出孔と、が形成された最下層分配板と、
上記最下層分配板のポリマーの紡出経路方向の下流側に配置され、上記第一のポリマー成分と上記第二のポリマー成分が合流した複合ポリマー流を形成する口金吐出孔を有する吐出板と、で構成されており、
上記複合ポリマー流のポリマーの紡出経路方向に垂直な断面において、上記第一のポリマー成分と上記第二のポリマー成分との界面は、直線またはなだらかな曲線をなし、
上記第一の吐出孔と上記第二の吐出孔のうち、下記条件1に該当する全ての上記第一の吐出孔および上記第二の吐出孔が、下記条件2を満たしている。
条件1:上記複合ポリマー流のポリマーの紡出経路方向に垂直な断面において、上記第一のポリマー成分と上記第二のポリマー成分との界面を挟む上記第一のポリマー成分と上記第二のポリマー成分のそれぞれを吐出する上記第一の吐出孔と上記第二の吐出孔である。
条件2:任意の上記第一の吐出孔を吐出孔1a、当該吐出孔1aと最も短い中心間距離で隣合う上記第一の吐出孔を吐出孔1b、上記吐出孔1aと最も短い中心間距離で隣合う上記第二の吐出孔を吐出孔4b、当該吐出孔4bと最も短い中心間距離で隣合う上記第二の吐出孔を吐出孔4cとして、上記吐出孔1aと上記吐出孔4bとの中心間距離LABが、上記吐出孔1aと上記吐出孔1bとの中心間距離Lの2倍以上であり、かつ上記吐出孔4bと上記吐出孔4cとの中心間距離Lの2倍以上である。
また、本発明の複合口金は、下記[2]または[3]であることが好ましい。
[2] 上記条件1に該当する全ての上記第一の吐出孔が、直線上またはなだらかな曲線上に並ぶように配置されており、かつ上記条件1に該当する全ての上記第二の吐出孔が、直線上またはなだらかな曲線上に並ぶように配置されている、上記[1]の複合口金。
[3] 上記条件1に該当する上記第一の吐出孔と上記第二の吐出孔のそれぞれの列の間の中心線を挟んで、上記条件1に該当する上記第一の吐出孔と上記第二の吐出孔とが線対称の位置に配置されている、上記[1]または[2]の複合口金。
【0013】
[4] 本発明の複合繊維の製造方法は、上記[1]~[3]のいずれかの複合口金を用いた複合紡糸機により複合繊維を製造する。
また、本発明の複合繊維の製造方法は、下記[5]または[6]であることが好ましい。
[5] 一つの上記第一の吐出孔から吐出する上記第一のポリマー成分の吐出量に対する、一つの上記第二の吐出孔から吐出する上記第二のポリマー成分の吐出量の比率を0.3以上3.3以下とする、上記[4]の複合繊維の製造方法。
[6] 上記第二のポリマー成分の溶融粘度に対する上記第一のポリマー成分の溶融粘度の比率を0.2以上5.0以下とする、上記[4]または[5]の複合繊維の製造方法。
【0014】
本発明において、「分配孔」とは、複数の分配板の組合せにより、孔が形成され、ポリマーの紡出経路方向に、ポリマーを分配する役割を果たすものをいう。
本発明において、「分配溝」とは、複数の分配板の組合せにより、溝が形成され、ポリマーの紡出経路方向に垂直な方向に、ポリマーを分配する役割を果たすものをいう。ここで、分配溝は、細長い穴(スリット)であってもよいし、細長い溝が掘ってあってもよい。
本発明において、「ポリマーの紡出経路方向」とは、各ポリマー成分が分配板から吐出板の口金吐出孔まで流れる主方向をいう。
本発明において、「ポリマーの紡出経路方向に垂直な方向」とは、各ポリマー成分が分配板から吐出板の口金吐出孔まで流れる主方向に垂直な方向をいう。
【発明の効果】
【0015】
本発明の複合口金によれば、異成分ポリマー同士のポリマー界面をなだらかに形成し、この界面形態の寸法安定性を高く維持できる。また、多様な繊維断面形態を高精度に形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の実施形態の複合口金に用いられる最下層分配板の部分拡大平面図である。
図2】本発明の実施形態にかかる複合口金の概略断面図である。
図3】本発明の実施形態の複合口金に用いられる分配板、最下層分配板の概略部分断面図である。
図4図2のX-X矢視図である。
図5】本発明の実施形態にかかる複合口金を用いたスピンブロックの概略断面図である。
図6】本発明の別の実施形態にかかる最下層分配板の部分拡大平面図である。
図7】本発明に含まれない参考例の形態にかかる最下層分配板の部分拡大平面図である。
図8】本発明の実施形態にかかる複合口金により製造された代表的な複合繊維の断面形態を示した断面図である。
図9】従来例に用いられる最下層分配板の部分拡大平面図である。
図10図1の最下層分配板を用いた場合に得られる複合ポリマーの界面の拡大図である。
図11図9の最下層分配板を用いた場合に得られる複合ポリマーの界面の拡大図である。
図12】複合繊維のポリマー界面の断面不良の有無を説明するための図である。
図13】本発明の別の実施形態にかかる最下層分配板の部分拡大平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を参照しながら、本発明の複合口金の実施形態について詳細に説明する。図2は本発明の実施形態にかかる複合口金の概略断面図であり、図4図2のX-X矢視図である。図1は本発明の実施形態の複合口金に用いられる最下層分配板の部分拡大平面図であり、図6本発明の別に実施形態にかかる最下層分配板の部分拡大平面図である。図5は本発明の実施形態にかかる複合口金を用いたスピンブロックの概略断面図である。なお、これらは、本発明の要点を正確に伝えるための概念図であり、図を簡略化しており、本発明の複合口金は特に制限されるものでなく、孔および溝の数ならびにその寸法比などは実施の形態に合わせて変更可能なものとする。
【0018】
本発明の実施形態にかかる複合口金18は、図5に示すように、紡糸パック15に装備され、スピンブロック16の中に固定され、複合口金18の直下に冷却装置17が構成される。そこで、複合口金18に導かれた第一のポリマー成分と、第一のポリマー成分とは異なる少なくとも1種類の第二のポリマー成分は、各々、分配板6、最下層分配板5を通過して、吐出板10の口金吐出孔21から吐出された後、冷却装置17により吹き出される気流により冷却され、油剤を付与された後に、複合繊維として巻き取られる。なお、図5では、環状内向きに気流を吹き出す環状の冷却装置17を採用しているが、一方向から気流を吹き出す冷却装置17を用いてもよい。また、分配板6の上流側に装備する部材に関しては、既存の紡糸パック15にて使用された流路等を用いればよく、特別に専有化する必要が無い。
【0019】
発明の実施形態に用いられる複合口金18は、図2に示すように、少なくとも1枚以上の分配板6、最下層分配板5、吐出板10の順に積層して構成され、特に、分配板6、最下層分配板5は薄板にて構成されるのが好ましい。その場合、分配板6と最下層分配板5、および吐出板10は、位置決めピンにより、紡糸パック15の中心位置(芯)が合うように位置決めを行い、積層した後に、ネジ、ボルト等で固定してもよく、熱圧着により金属接合させてもよい。
【0020】
そこで、図3に示すように、分配板6に供給された第一のポリマー成分13は、少なくとも1枚以上積層された分配板6の分配溝8、および分配孔7を通過した後、最下層分配板5の第一のポリマー成分を吐出するための第一の吐出孔1より吐出される。また、図示は無いが、第二のポリマー成分も同様に、分配板6の分配溝8、分配孔7を通過し、最下層分配板5の第二の吐出孔4から吐出される。分配板6と最下層分配板5の内部では、第一のポリマー成分と第二のポリマー成分とは、合流することは無く、各々の流路にて分配される。
【0021】
そして、図2に示すように、吐出導入孔11において、第一の吐出孔1から吐出された第一のポリマー成分と、第二の吐出孔4から吐出された第二のポリマー成分とが合流し、複合ポリマーを形成する。その後に複合ポリマーは、縮流孔12にて縮流し、口金吐出孔21より吐出される。図4に示すように、複合繊維1本は、最下層分配板5の各成分の吐出孔から吐出され、合流した複合ポリマーが口金吐出孔21から吐出されることで形成される。図4の最下層分配板5は、複合繊維が4本形成できる概略図を示している。
【0022】
ここで本発明の重要なポイントである、複合ポリマー流のポリマーの紡出経路方向に垂直な断面において、第一のポリマー成分13と第二のポリマー成分14との界面iを、直線またはなだらかな曲線に形成できる原理について説明する。ここで、「なだらかな曲線」とは、実施例の「(1)複合繊維の断面不良の有無」に記載されている方法で算出した平均偏差率Xが30%未満となっている界面のことである。従来例の分配方式口金の複合口金を用いて、複合ポリマー流のポリマー界面を形成すると、図11に示すように、第一のポリマー成分13と第二のポリマー成分14との界面iは波状となり、複合ポリマーはこのまま口金吐出孔21から吐出されるため、歪な断面形状の複合繊維となる。この理由を図9を使って説明をする。
【0023】
図9は従来例の最下層分配板5’を示しており、第一のポリマー13と第二のポリマー14の境界では、第一の吐出孔1と第二の吐出孔4とが、それぞれ列を形成して配置されている。その吐出孔の中で、任意の第一の吐出孔1を吐出孔1(1a)とし、この吐出孔1(1a)と最も短い中心間距離で隣合う第一の吐出孔1を吐出孔1(1b)とし、吐出孔1(1a)と最も短い中心間距離で隣合う上記第二の吐出孔4を吐出孔4(4b)とし、この吐出孔4(4b)と最も短い中心間距離で隣合う第二の吐出孔4を吐出孔4(4c)として説明する。従来例では、吐出孔1(1a)と吐出孔4(4b)が非常に近接して配置していることから、吐出孔1(1a)と吐出孔1(1b)から吐出された第一のポリマー成分13同士が合流する前に、さらに吐出孔4(4b)と吐出孔4(4c)から吐出された第二のポリマー成分14同士が合流する前に、吐出孔1(1a)から吐出される第一のポリマー成分13が、吐出孔1(1a)に最も近接した吐出孔4(4b)から吐出される第二のポリマー成分14と合流するため、最初に合流した位置にてポリマー界面が決定される。その一方で、同じポリマー成分の隣接する吐出孔(吐出孔1(1a)と吐出孔1(1b)、吐出孔4(4b)と吐出孔4(4c))の間では、その後に合流するため、界面位置の決定に時間差が生じる。その結果、ポリマーの界面iに変動が発生し、なだらかな形状を形成することが困難となる。
【0024】
従って、分配方式口金において、最下層分配板5の各成分の吐出孔を適正に配置し、適正量のポリマーを供給して複合ポリマー流を形成することが、多様な形態の複合繊維を製造する上で極めて重要な技術となる。そこで、本発明者らは上記問題に関して、鋭意検討を重ねた結果、本発明の新たな技術を見出すに至った。
【0025】
本発明の実施形態の最下層分配板5では、図1に示すように、1種類のポリマー成分(第一のポリマー成分13)を吐出する複数の第一の吐出孔1と、第一のポリマー成分とは異なるポリマー成分(第二のポリマー成分14)を吐出する複数の第二の吐出孔4とが、直線状にそれぞれ列を形成して配置されている。ここで、従来例での説明と同様に、任意の第一の吐出孔1を吐出孔1(1a)とし、この吐出孔1(1a)と最も短い中心間距離で隣合う第一の吐出孔1を吐出孔1(1b)とし、吐出孔1(1a)と最も短い中心間距離で隣合う第二の吐出孔4を吐出孔4(4b)とし、この吐出孔4(4b)と最も短い中心間距離で隣合う第二の吐出孔4を吐出孔4(4c)とする。
【0026】
本発明の実施形態の最下層分配板5では、複合ポリマー流のポリマー紡出経路方向に垂直な断面において、第一のポリマー成分13と第二のポリマー成分14との界面iのうち、直線またはなだらかな曲線をなす範囲の界面を挟む第一のポリマー成分13と第二のポリマー成分14のそれぞれを吐出する第一の吐出孔1と第二の吐出孔4が、吐出孔1(1a)と吐出孔4(4b)との中心間距離LABが、吐出孔1(1a)と吐出孔1(1b)との中心間距離Lの2倍以上であり、かつ吐出孔4(4b)と吐出孔4(4c)との中心間距離Lの2倍以上になるように配置されている。
【0027】
このように、本発明の実施形態の最下層分配板5では、吐出孔1(1a)と隣合う吐出孔4(4b)との距離を従来の最下層板5’より遠ざけて配置していることから、吐出孔1(1a)と隣接する吐出孔1(1b)のそれぞれから吐出される第一のポリマー成分13同士が合流し、さらに吐出孔4(4b)と隣接する吐出孔4(4c)のそれぞれから吐出される第二のポリマー成分14同士が合流した後に、第一のポリマー成分13と第二のポリマー成分14とが合流し、複合ポリマー流を形成することができる。その結果、界面位置の違いによる合流時間の差を小さくすることが可能となり、ポリマーの界面iの変動を低減し、図10に示すような、なだらかな形状の界面を形成することができる。
【0028】
ここで、距離LABが、距離Lの2倍未満であると、吐出孔1(1a)と隣接する吐出孔1(1b)のそれぞれから吐出される第一のポリマー成分13同士が合流する前に、吐出孔1(1a)から吐出される第一のポリマー成分13と隣接する吐出孔4(4b)から吐出される第二のポリマー成分とが合流するため、上記の通り、ポリマー界面に変動が発生する場合があり、なだらかな界面形状を形成することが困難となる。同様に、距離LABが、距離Lの2倍未満であっても、吐出孔4(4b)と隣接する吐出孔4(4c)のそれぞれから吐出される第二のポリマー成分14同士が合流する前に、吐出孔4(4b)から吐出される第二のポリマー成分と隣接する吐出孔1(1a)から吐出される第一のポリマー成分13とが合流するため、ポリマー界面に変動が発生する場合があり、なだらかな界面形状を形成することが困難となる。
なお、説明を簡略化するため、図1では、基準となる吐出孔1(1a)の場所を定めて説明したが、本発明の実施形態の最下層分配板5では、第一のポリマー成分13と第二のポリマー成分14との界面を直線またはなだらかな曲線としたい領域に配置される任意の第一の吐出孔1を基準となる吐出孔1(1a)にできる。
【0029】
また、本発明の実施形態の最下層分配板5では、第一のポリマー13と第二のポリマー14の界面iにおいて、第一の吐出孔1と第二の吐出孔4とが列で配置される。第一の吐出孔1と第二の吐出孔4の配置される個数が異なっていてもよく、第一の吐出孔1同士の配列ピッチと、第二の吐出孔4の配列ピッチが異なっていてもよい。好ましくは、第一の吐出孔1と第二の吐出孔4のそれぞれの列の間の中心線を挟んで、吐出孔同士が一対一で線対称の位置に配置されていることにより、距離LABを一定に保つことができるため、列内での合流時間の差を小さくすることができる。
【0030】
また、図6に示す本発明の別の実施形態にかかる最下層分配板5Aのように、第一の吐出孔1と第二の吐出孔4とが、緩やかな曲線に沿って、各々が列を形成していてもよい。それにより異なる成分のポリマー界面が、緩やかな曲線を形成することが可能となる。
【0031】
は、本発明に含まれない参考例の形態にかかる最下層分配板5Bである。
【0032】
次に、本発明の複合口金を用いた、複合繊維の製造方法について説明する。本発明の複合繊維の製造方法は、公知の複合紡糸機で、本発明の複合口金18を使用すればよい。例えば、溶融紡糸の場合には、紡糸温度は、2種類以上のポリマーのうち、主に高融点や高粘度ポリマーが流動性を示す温度とする。この流動性を示す温度としては、分子量によっても異なるが、そのポリマーの融点が目安となり、融点+60℃以下で設定すればよい。これ以下であれば、紡糸パック15内でポリマーが熱分解等することなく、分子量低下が抑制されるため、好ましい。紡糸速度はポリマーの物性や複合繊維の目的によって異なるが、1~6000m/分程度となる。
【0033】
また、最下層分配板5、5A一つの第一の吐出孔1から吐出する第一のポリマー成分13の吐出量に対する、一つの第二の吐出孔4から吐出する第二のポリマー成分14の吐出量の比率を0.3以上3.3以下とすることが好ましい。この範囲とすることで、第一のポリマー成分13と、第二のポリマー成分14との界面が安定化し、精度よく形態を維持することが可能となる。各吐出孔からの吐出量の比率が0.3未満または3.3を超えると、吐出量が多い方のポリマー成分が、吐出量の小さい方のポリマー成分を吐出孔の位置から遠ざけてしまうことから、ポリマー界面の形状をなだらかに形成しにくくなる。
【0034】
また、使用される第二のポリマー成分の溶融粘度η2に対する第一のポリマー成分の溶融粘度η1の比率(=η1/η2)を0.2以上5.0以下とすることが好ましい。この範囲とすることで、第一のポリマー成分と第二のポリマー成分との界面が安定化し、経時的に変動することが少なくなる。この比率が0.2未満または5.0を超えると、低粘度側のポリマー成分が高粘度側のポリマー成分を包囲し易くなり、ポリマー界面の形状をなだらかに形成しにくくなる。
【0035】
次に、本発明の複合口金18によって得られる複合繊維について説明する。本発明の複合口金18によって得られる複合繊維とは、2種類以上のポリマーが組み合わされた繊維のことを意味し、繊維断面において2種類以上のポリマーが様々な島形状の形態をとって存在している繊維のことを言う。ここで、2種類以上のポリマーとは、例えば、ポリエステル、ポリアミド、ポリフェニレンサルファイド、ポリオレフィン、ポリエチレン、ポリプロピレン等々の分子構造が異なるポリマーを2種類以上使用するということが含まれるのは言うまでもないが、製糸安定性等を損なわない範囲で、二酸化チタン等の艶消し剤、酸化ケイ素、カオリン、着色防止剤、安定剤、抗酸化剤、消臭剤、難燃剤、糸摩擦低減剤、着色顔料、表面改質剤等の各種機能性粒子や有機化合物等の添加剤や粒子の添加量が異なること、また、分子量が異なること、あるいは、共重合がなされている等などが含まれる。
【0036】
また、本発明の複合繊維の製造方法によって得られる複合繊維の単糸断面は、丸形状はもとより、三角、扁平等の丸形以外の形状や中空であってもよい。また、本発明は、極めて汎用性の高い発明であり、複合繊維の単糸繊度により特に限られるものではなく、複合繊維の単糸数により特に限られるものではなく、さらに、複合繊維の糸条数により特に限られるものでも無く、1糸条であってもよく、2糸条以上の多糸条であってもよい。
【0037】
本発明の複合繊維の製造方法によって得られる複合繊維とは、前述した通り、異なる2種類以上のポリマーが、繊維軸方向に垂直な断面において様々な島形状を形成する繊維をいう。その場合、島形状に制約はなく、図8(a)に示す複合繊維20のように、一つの扁平な島成分である第二のポリマー成分14と、第二のポリマー成分14を囲む第一のポリマー成分13との界面が直線状に構成されていてもよい。また、図8(b)に示す複合繊維20Aのように、島成分である第二のポリマー成分14の界面がゆるやかな曲線状に構成されていてもよい。さらに、図8(c)に示す複合繊維20Bのように、多数の扁平な島成分である第二のポリマー成分14の界面が直線状に構成されていてもよい。さらにまた、図8(d)に示す複合繊維20Cのように、多数の島成分である第二のポリマー成分14が複雑な形状を有し、その一部分の界面が直線状に構成されていてもよい。この島形状の個数に関しては、理論的には最下層分配板5の吐出面のスペースの許す範囲で無限に作製することは可能であるが、実質的に実施可能な範囲として2~10000島が好ましい範囲である。
【0038】
次に、図1図2図3図4図5図6図13に示した本発明の実施形態の複合口金18に共通した各部材、各部材の形状について詳細に説明する。本発明における複合口金18は、円形状に限定されず、四角形であってもよく、多角形であってもよい。また、複合口金18における口金吐出孔21の配列は、複合繊維の本数、糸条数、冷却装置17に応じて、適宜決定すればよい。冷却装置17として、環状の冷却装置では、口金吐出孔21を一列、もしくは複数列に渡り環状に配列するのがよく、また、一方向の冷却装置では、口金吐出孔21を、格子や千鳥に配列するのがよい。
【0039】
口金吐出孔21のポリマーの紡出経路方向に垂直な方向の断面は丸形状に限定されず、丸形以外の断面状や中空断面状であってもよい。ただし、丸形以外の断面形状とする場合は、ポリマーの計量性を確保するために、口金吐出孔21の長さを大きくするのが好ましい。
また、本発明における第一の吐出孔1、第二の吐出孔4は、ポリマーの紡出経路方向に垂直な方向の断面は丸形状に限定されず、楕円や矩形であってもよい。その場合、吐出孔の重心を中心Pとし、その中心P同士の中心間距離にて、距離L、距離LAB、距離Lを算出する。
【0040】
また、本発明における縮流孔12は、最下層分配板5の吐出面から口金吐出孔21に至る流路の縮小角度θを50~120°の範囲に設定することで、複合ポリマー流のドローレゾナンス等の不安定現象を抑え、安定的に複合ポリマー流を供給することができる。ここで、縮小角度θが50°より小さい場合、複合ポリマー流の不安定現象を抑えることはできるが、複合口金18自体が大型化し、また、縮小角度θが120°より大きい場合、複合ポリマー流の不安定現象がより顕著化する場合がある。
【0041】
また、縮流孔12の上方の開口部の穴径は、最下層分配板5の吐出面に配設された第一の吐出孔1と第二の吐出孔4の吐出孔群の仮想円19の外径よりも大きく、かつ、仮想円19の断面積と、吐出孔群の断面積比が極力小さくなるように構成されるのが好ましい。それにより、吐出面より吐出された各ポリマーの拡幅が抑えられ、複合ポリマー流を安定化させることができる。
【0042】
また、本発明の1枚の分配板6には、分配孔7のみが配設されていてもよく、分配溝8のみが配設されていてもよく、あるいは、分配板6の上流側に分配孔7が配設され、それに連通して分配溝8(下流側)が配設されていてもよく、また、分配板6の上流側に分配溝8が配設され、それに連通して分配孔7(下流側)が配設されていてもよい。
また、本発明の複合繊維の製造方法は、溶融紡糸法の適用に限定されず、湿式紡糸法や、乾湿式紡糸法、乾式紡糸法にも適用することができる。湿式紡糸法に適用する場合は、凝固浴槽内に複合口金18を浸漬させて、乾式紡糸法を適用する場合は、複合口金18を、凝固浴槽の液面の上方に設置する。
【0043】
以上のように、本発明の複合繊維の製造方法においては、断面形態を任意に制御することができるため、以上の形態にとらわれることなく、自由な形態を作製することができるまた、本発明の製造方法で製造される複合繊維は、繊維巻き取りパッケージやトウ、カットファイバー、わた、ファイバーボール、コード、パイル、織編、不織布、紙、液体分散体など多用な繊維製品とすることができる。
【実施例
【0044】
以下実施例を挙げて、本発明の複合口金、および複合繊維の製造方法の効果を具体的に説明する。各実施例、比較例では、本発明の複合口金を使用して複合繊維を紡糸し、複合繊維の断面不良の有無を判定した。
【0045】
(1)複合繊維の断面不良の有無
紡糸開始から24時間連続紡糸を行い、その後に得られた複合繊維を繊維軸方向の任意の位置で切断し、その繊維断面を(株)キーエンス製 VE-7800型走査型電子顕微鏡(SEM)にて倍率1000倍で撮影した。図12に示すように、第一のポリマー成分と第二のポリマー成分との界面のうち、直線または曲線になっている範囲の平均値ラインgを導出し、その平均値ラインをN=49等分(i=N+1、i=1、2、3・・・N+1)とし、等分された各位置での平均値ラインからの距離をLi(i=1、2、3・・・N+1)とする。そして、平均偏差η、平均偏差率Xを以下の式で算出し、平均偏差率Xが30%以上であれば、断面形状が不良であるとし、10%未満であれば、界面形状は良好とした。
平均偏差η=(L+L+L+・・・+LN+1)/(N+1)
平均偏差率X[%]=平均偏差η/複合繊維外径D×100
【0046】
(2)ポリマーの溶融粘度
チップ状のポリマーを真空乾燥機によって、水分率200ppm以下とし、東洋精機製“キャピログラフ1B”によって、歪速度を段階的に変更して、溶融粘度を測定した。なお、測定温度は紡糸温度と同様にし、実施例あるいは比較例には、1216s-1の溶融粘度を記載している。ちなみに、加熱炉にサンプルを投入してから測定開始までを5分とし、窒素雰囲気下で測定を行った。
【0047】
(3)極限粘度[η]
オルソクロロフェノールを溶媒として25℃で測定した。
【0048】
(4)98%硫酸相対粘度[ηr]
(a)試料を秤量し、98%質量濃硫酸に試料粘度Cが1g/100mlとなるように溶解する。
(b)(a)項の溶液をオストワルド粘度計にて25℃で落下秒数T1を測定する。
(c)試料を溶解していない98%質量濃硫酸の25℃での落下秒数T2を測定する。
(d)試料の98質量%硫酸相対粘度ηrを下記の式にて算出する。測定温度は25℃とする。
ηr=(T1/T2)+{1.891×(1.000-C)}
【0049】
[実施例1]
第一のポリマー成分として極限粘度[η]0.65、溶融粘度210Pa・sのポリエチレンテレフタレート(PET)、第二のポリマー成分として極限粘度[η]0.59、溶融粘度130Pa・sのポリエチレンテレフタレート(PET)を285℃で別々に溶融した。これら溶融したポリマーを下記の複合口金18を用いて、1つの口金吐出孔21から吐出される第一のポリマー成分の総吐出量/第二のポリマー成分の総吐出量の比を15/85(≒0.18)にて吐出した。この吐出したポリマーを冷却装置17で冷却し、その後、給油、交絡処理、熱延伸を行い、巻取ローラで1500m/分の速度で巻き取り、168dtex-18フィラメント(単孔吐出量4g/min)の未延伸繊維を採取した。巻き取った未延伸繊維を90℃と130℃に加熱したローラ間で3.0倍延伸を行い、56dtex-18フィラメントの複合繊維を採取した。複合繊維の断面は、図8(a)に示すように、一文字形状の断面形態が得られた。
ここで実施例1に用いた複合口金18の最下層分配板5には、図1に示すように、複合ポリマー流の第一のポリマー成分と第二のポリマー成分との界面のうち、直線にする範囲(一文字の長尺の辺を形成する範囲)に、第一のポリマー成分と第二のポリマー成分のそれぞれを吐出する第一の吐出孔1と第二の吐出孔4とが配置されている。複合繊維1本当たりの第一の吐出孔1の孔数は40孔、第二の吐出孔4の孔数は30孔である。これらの吐出孔は、直線状に列を形成しており、それぞれの列の間の中心線を挟んで、第一の吐出孔1と第二の吐出孔4とが線対称に配置されていた。そして、中心間距離Lを1mm、中心間距離Lを1mm、中心間距離LABを2.5mmとし、中心間距離LABが中心間距離Lの2.5倍、中心間距離LABが中心間距離Lの2.5倍となるように配置されている。表1に記載の通り、繊維断面の界面形状の平均偏差率は1.3%となり、断面不良は無く、良好な結果となった。一つの第一の吐出孔1から吐出する第一のポリマー成分の吐出量に対する、一つの第二の吐出孔4から吐出する第二のポリマー成分の吐出量の比率は約0.13であった。
【0050】
[実施例2]
1つの口金吐出孔21から吐出される第一のポリマー成分の総吐出量/第二のポリマー成分の総吐出量の比を35/65(≒0.54)に変更した以外は、実施例1と同じ複合口金18、ポリマー、紡糸条件を用いて複合繊維を採取した。表1に記載の通り、繊維断面の界面形状の平均偏差率は1.0%となり、断面不良は無く、良好な結果となった。一つの第一の吐出孔1から吐出する第一のポリマー成分の吐出量に対する、一つの第二の吐出孔4から吐出する第二のポリマー成分の吐出量の比率は約0.40であった。
[実施例3]
最下層分配板5を変更し、1つの口金吐出孔21から吐出される第一のポリマー成分の総吐出量/第二のポリマー成分の総吐出量の比を25/75(≒0.33)に変更した以外は、実施例1と同じポリマー、紡糸条件を用いて、図8(b)に示すような楕円形状の複合繊維を採取した。複合口金18の最下層分配板5には、図6に示すように、楕円形状の長尺の辺を形成する範囲において、第一の吐出孔1と第二の吐出孔4とが、なだらかな曲線となるように列として配置されている。複合繊維1本当たりの第一の吐出孔1の孔数は40孔、第二の吐出孔4の孔数は30孔である。そして、中心間距離Lを1mm、中心間距離Lを1mm、中心間距離LABを2.3mmとし、中心間距離LABが中心間距離Lの2.3倍、中心間距離LABが中心間距離Lの2.3倍となるように配置されている。表1に記載の通り、繊維断面の界面形状の平均偏差率は1.8%となり、断面不良は無く、良好な結果となった。一つの第一の吐出孔1から吐出する第一のポリマー成分の吐出量に対する、一つの第二の吐出孔4から吐出する第二のポリマー成分の吐出量の比率は約0.25であった。
【0051】
[実施例4]
最下層分配板5を変更した以外は、実施例1と同じポリマー、紡糸条件を用いて、図8(a)に示すような一文字形状の断面形態の複合繊維を採取した。複合口金18の最下層分配板5Cには、図13に示すように一文字形状の長尺の辺を形成する範囲において、第一の吐出孔1と第二の吐出孔4のいずれか片方の吐出孔全てを一文字形状の長尺方向へ、中心間距離Lの半分の距離を移動させ、千鳥配列となるように配置されている。複合繊維1本当たりの第一の吐出孔1の孔数は40孔、第二の吐出孔4の孔数は30孔である。そして、中心間距離Lを1mm、中心間距離Lを1mm、中心間距離LABを2.6mmとし、中心間距離LABが中心間距離Lの2.6倍、中心間距離LABが中心間距離Lの2.6倍となるように配置されている。表1に記載の通り、繊維断面の界面形状の平均偏差率は2.9%となり、断面不良は無く、良好な結果となった。一つの第一の吐出孔1から吐出する第一のポリマー成分の吐出量に対する、一つの第二の吐出孔4から吐出する第二のポリマー成分の吐出量の比率は約0.13であった。
【0052】
[比較例1]
最下層分配板5の吐出孔の配置が異なる以外は、実施例1と同じ複合口金18を用いて、実施例1と同等のポリマー、同等の繊度、紡糸条件で紡糸した。最下層分配板5の第一の吐出孔1と第二の吐出孔4は、中心間距離Lを1mm、中心間距離Lを1mm、中心間距離LABを1.5mmとし、中心間距離LABが中心間距離Lの1.5倍、中心間距離LABが中心間距離Lの1.5倍となるように配置されている。表1に記載の通り、繊維断面の界面形状の平均偏差率は15%となり、断面不良がある結果となった。
【0053】
[比較例2]
最下層分配板5の吐出孔の配置が異なる以外は、実施例1と同じ複合口金18を用いて、実施例1と同等のポリマー、同等の繊度、紡糸条件で紡糸した。最下層分配板5の第一の吐出孔1と第二の吐出孔4は、中心間距離Lを1mm、中心間距離Lを1mmとし、中心間距離LABを1mmとし、中心間距離LABが中心間距離Lの1.0倍、中心間距離LABが中心間距離Lの1.0倍となるように配置されている。表1に記載の通り、繊維断面の界面形状の平均偏差率は35%となり、断面不良がある結果となった。
【0054】
[比較例3]
最下層分配板5Cを使用した以外は、実施例1と同じ複合口金18を用いて、実施例1と同等のポリマー、同等の繊度、紡糸条件で紡糸した。最下層分配板5Cは実施例3と同等の千鳥配列となるように配置さている。複合繊維1本当たりの第一の吐出孔1の孔数は40孔、第二の吐出孔4の孔数は30孔である。最下層分配板5Cの第一の吐出孔1と第二の吐出孔4は、中心間距離Lを1mm、中心間距離Lを1mm、中心間距離LABを1.6mmとし、中心間距離LABが中心間距離Lの1.6倍、中心間距離LABが中心間距離Lの1.6倍となるように配置されている。表1に記載の通り、繊維断面の界面形状の平均偏差率は18%となり、断面不良がある結果となった。一つの第一の吐出孔1から吐出する第一のポリマー成分の吐出量に対する、一つの第二の吐出孔4から吐出する第二のポリマー成分の吐出量の比率は約0.13であった。
各実施例、比較例の結果を表1にまとめる。
【0055】
【表1】
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明は、一般的な溶液紡糸法に用いられる複合口金に限らず、メルトブロー法およびスパンボンド法に適用可能であるし、湿式紡糸法や、乾湿式紡糸法に用いられる口金にも応用することができるが、その応用範囲が、これらに限られるものではない。
【符号の説明】
【0057】
1 第一の吐出孔
1a 任意の第一の吐出孔
1b 吐出孔1aと最も短い中心間距離で隣合う第一の吐出孔
4b 吐出孔1aと最も短い中心間距離で隣合う第二の吐出孔
4c 吐出孔4bと最も短い中心間距離で隣合う第二の吐出孔
4 第二の吐出孔
5、5A、5B、5C、5’ 最下層分配板
6 分配板
7 分配孔
8 分配溝
10 吐出板
11 吐出導入孔
12 縮流孔
13 第一のポリマー成分
14 第二のポリマー成分
15 紡糸パック
16 スピンブロック
17 冷却装置
18 複合口金
19 仮想円
20、20A、20B、20C 複合繊維
21 口金吐出孔
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13