(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-06-10
(45)【発行日】2025-06-18
(54)【発明の名称】がん細胞の増殖抑制用組成物、抗がん用組成物、正常細胞のがん化抑制用組成物、がん発症抑制用組成物、及び、がん細胞死誘導用組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 31/12 20060101AFI20250611BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20250611BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20250611BHJP
【FI】
A61K31/12
A61P35/00
A61P43/00 105
(21)【出願番号】P 2020519595
(86)(22)【出願日】2019-05-09
(86)【国際出願番号】 JP2019018555
(87)【国際公開番号】W WO2019221003
(87)【国際公開日】2019-11-21
【審査請求日】2022-02-22
【審判番号】
【審判請求日】2023-07-25
(31)【優先権主張番号】P 2018093848
(32)【優先日】2018-05-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】306019030
【氏名又は名称】ハウスウェルネスフーズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】花房 知夏
(72)【発明者】
【氏名】不破 有沙
(72)【発明者】
【氏名】内尾 隆正
(72)【発明者】
【氏名】川▲崎▼ 健吾
(72)【発明者】
【氏名】室山 幸太郎
(72)【発明者】
【氏名】室▲崎▼ 伸二
【合議体】
【審判長】前田 佳与子
【審判官】石井 徹
【審判官】渕野 留香
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-342183号公報(JP,A)
【文献】J Chin Chem Soc, 1999,, Vol.46, p.201-204
【文献】J Nat Prod, 2016, Vol.79, p.267-273
【文献】Nutrients, 2017, 発行日, Vol.9, No.10, 1051
【文献】PubMed Abstract PMID:26308760, [online], 2015, [retrieved on 2019. 06. 05] Retrieved from the Internet: <URL: https//www.ncbi.nim.nih.gov/pubmed/26308760〉, & DIMAS, K et a1., An ethanol extract of Hawaiian turmeric: extensive in vitro anti-cancer activity against human colon cancer cells, Altern Ther Health Med, 2015, Vol. 21, No. Supp 12, p. 46-54
【文献】Phytother Res, 201801, Vol.32, No.5, p.933-942
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K31/12
A61P1/00
A61P35/00
CAPlus/REGISTRY/EMBASE/MEDLINE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ターメロノールAを有効成分として含有する、大腸がん細胞の増殖抑制用組成物
(但し、ウコン抽出物を含む組成物を除く)。
【請求項2】
ターメロノールAを有効成分として含有する、大腸がんに対する抗がん用組成物
(但し、ウコン抽出物を含む組成物を除く)。
【請求項3】
ターメロノールAを有効成分として含有する、大腸がん細胞死誘導用組成物
(但し、ウコン抽出物を含む組成物を除く)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、がん細胞の増殖抑制用組成物、抗がん用組成物、正常細胞のがん化抑制用組成物、がん発症抑制用組成物、及び、がん細胞死誘導用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
がんによって死亡に至る過程はこれまでに詳細に解析され、明らかにされつつある。現在、多段階発がんと呼ばれるがんの進展プロセスが提唱されており、これは化学物質、放射線、ウイルスの曝露によって遺伝子が障害され、がん遺伝子やがん抑制遺伝子などの複数の遺伝子に変異が起こり、この異常が蓄積することによって細胞ががん化し、細胞増殖等さまざまな異常性質を獲得した後、浸潤・転移・再発といった能力を獲得してより悪性度が増し(悪性化進展)、死亡に至るというものである。そのため、化学物質、放射線、ウイルス誘導性の遺伝子変異による細胞のがん化抑制はがん発生予防に重要であり、がん細胞の増殖、浸潤、転移の阻害はがんの悪性化進展の抑制に重要であると考えられている。
【0003】
特許文献1には、ウコンの根茎から単離された蛋白結合多糖体を有効成分とする抗腫瘍剤が記載されている。
【0004】
一方、ターメロノール(Turmeronol)A及びターメロノールBはウコンから単離され、構造決定された既知成分である(非特許文献1)。非特許文献1ではターメロノールAが大豆リポキシゲナーゼの酵素活性を阻害する作用と抗酸化作用を有することが報告されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【非特許文献】
【0006】
【文献】Agric Biol Chem. 1990; 54(9):2367-71
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1には、ウコンの根茎から単離された蛋白結合多糖体の作用について記載されており、非特許文献1では、ターメロノールAの抗酸化作用が記載されているが、これらの文献では、ウコンに由来するターメロノールA及びターメロノールBが、細胞のがん化及びがんの悪性化進展すなわちがんの発症を抑制することや、がんの細胞死を誘導することは記載されていない。
【0008】
そこで本発明は、細胞のがん化及びがんの悪性化進展すなわちがんの発症を抑制するための手段や、がんの細胞死を誘導するための手段を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、ターメロノールA及びターメロノールBが、細胞のがん化及びがんの悪性化進展すなわちがんの発症を抑制することができることや、がんの細胞死を誘導することができることを見出し、以下の本発明を完成するに至った。
(1)ターメロノールA及びターメロノールBの少なくとも1種を有効成分として含有する、がん細胞の増殖抑制用組成物。
(2)前記がん細胞が大腸がん細胞である、(1)に記載のがん細胞の増殖抑制用組成物。
(3)ターメロノールA及びターメロノールBの少なくとも1種を有効成分として含有する、抗がん用組成物。
(4)大腸がんに対する抗がん用組成物である、(3)に記載の抗がん用組成物。
(5)ターメロノールA及びターメロノールBの少なくとも1種を有効成分として含有する、正常細胞のがん化抑制用組成物。
(6)正常細胞の大腸がんへのがん化を抑制する、(5)に記載の正常細胞のがん化抑制用組成物。
(7)ターメロノールA及びターメロノールBの少なくとも1種を有効成分として含有する、がん発症抑制用組成物。
(8)大腸がんに対するがん発症抑制用組成物である、(7)に記載のがん発症抑制用組成物。
(9)ターメロノールA及びターメロノールBの少なくとも1種を有効成分として含有する、がん細胞死誘導用組成物。
(10)前記がん細胞が大腸がん細胞である、(9)に記載のがん細胞死誘導用組成物。
【0010】
(11)ターメロノールA及びターメロノールBの少なくとも1種の、がん細胞の増殖抑制用組成物の製造のための使用。
(12)ターメロノールA及びターメロノールBの少なくとも1種の、がん細胞の増殖抑制用医薬の製造のための使用。
(13)ターメロノールA及びターメロノールBの少なくとも1種を、がん細胞に、生体内又は生体外で投与すること、及び
前記がん細胞の増殖を抑制すること
を含む、がん細胞の増殖を抑制する方法。
(14)生体内又は生体外で、がん細胞の増殖を抑制するための、ターメロノールA、ターメロノールB、又は、ターメロノールAとターメロノールBとの混合物。
(15)前記がん細胞が大腸がん細胞である、(11)に記載の使用、(12)に記載の使用、(13)に記載の方法、或いは、(14)に記載のターメロノールA、ターメロノールB、又は、ターメロノールAとターメロノールBとの混合物。
【0011】
(16)ターメロノールA及びターメロノールBの少なくとも1種の、抗がん用組成物の製造のための使用。
(17)ターメロノールA及びターメロノールBの少なくとも1種の、抗がん用医薬の製造のための使用。
(18)ターメロノールA及びターメロノールBの少なくとも1種を、がんの治療を必要とする患者に投与すること、及び
前記患者においてがんを治療すること
を含む、がんを治療する方法。
(19)がんの治療を必要とする患者においてがんを治療するための、ターメロノールA、ターメロノールB、又は、ターメロノールAとターメロノールBとの混合物。
(20)前記がんが大腸がんである、(16)に記載の使用、(17)に記載の使用、(18)に記載の方法、或いは、(19)に記載のターメロノールA、ターメロノールB、又は、ターメロノールAとターメロノールBとの混合物。
【0012】
(21)ターメロノールA及びターメロノールBの少なくとも1種の、正常細胞のがん化抑制用組成物の製造のための使用。
(22)ターメロノールA及びターメロノールBの少なくとも1種の、正常細胞のがん化抑制用医薬の製造のための使用。
(23)ターメロノールA及びターメロノールBの少なくとも1種を、正常細胞に、生体内又は生体外で投与すること、及び
前記正常細胞のがん化を抑制すること
を含む、正常細胞のがん化を抑制する方法。
(24)生体内又は生体外で、正常細胞のがん化を抑制するための、ターメロノールA、ターメロノールB、又は、ターメロノールAとターメロノールBとの混合物。
(25)前記がん化が大腸がんへのがん化である、(21)に記載の使用、(22)に記載の使用、(23)に記載の方法、或いは、(24)に記載のターメロノールA、ターメロノールB、又は、ターメロノールAとターメロノールBとの混合物。
【0013】
(26)ターメロノールA及びターメロノールBの少なくとも1種の、がん発症抑制用組成物の製造のための使用。
(27)ターメロノールA及びターメロノールBの少なくとも1種の、がん発症抑制用医薬の製造のための使用。
(28)ターメロノールA及びターメロノールBの少なくとも1種を、がんの発症の抑制を必要とする患者に投与すること、及び
前記患者においてがんの発症を抑制すること
を含む、がんの発症を抑制する方法。
(29)がんの発症の抑制を必要とする患者においてがんの発症を抑制するための、ターメロノールA、ターメロノールB、又は、ターメロノールAとターメロノールBとの混合物。
(30)前記がんが大腸がんである、(26)に記載の使用、(27)に記載の使用、(28)に記載の方法、或いは、(29)に記載のターメロノールA、ターメロノールB、又は、ターメロノールAとターメロノールBとの混合物。
【0014】
(31)ターメロノールA及びターメロノールBの少なくとも1種の、がん細胞死誘導用組成物の製造のための使用。
(32)ターメロノールA及びターメロノールBの少なくとも1種の、がん細胞死誘導用医薬の製造のための使用。
(33)ターメロノールA及びターメロノールBの少なくとも1種を、がん細胞に、生体内又は生体外で投与すること、及び
前記がん細胞の細胞死を誘導すること
を含む、がん細胞の細胞死を誘導する方法。
(34)生体内又は生体外で、がん細胞の細胞死を誘導するための、ターメロノールA、ターメロノールB、又は、ターメロノールAとターメロノールBとの混合物。
(35)前記がん細胞が大腸がん細胞である、(31)に記載の使用、(32)に記載の使用、(33)に記載の方法、或いは、(34)に記載のターメロノールA、ターメロノールB、又は、ターメロノールAとターメロノールBとの混合物。
【0015】
本明細書は本願の優先権の基礎となる日本国特許出願番号2018-093848号の開示内容を包含する。
【発明の効果】
【0016】
本発明は、ターメロノールA及びターメロノールBの少なくとも1種を有効成分とする、がん細胞の増殖抑制用組成物、抗がん用組成物、正常細胞のがん化抑制用組成物、がん発症抑制用組成物、及び、がん細胞死誘導用組成物を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】
図1は、ターメロノールA(Tumeronol A)による、ヒト大腸がんの細胞株であるHT-29細胞の代謝活性の抑制能の測定結果を示す。
【
図2】
図2は、ターメロノールB(Tumeronol B)による、HT-29細胞の代謝活性の抑制能の測定結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0018】
<有効成分>
ターメロノールA及びターメロノールBは、それぞれ、以下の平面構造を有する化合物である。
【0019】
【0020】
【0021】
ウコンから分離される天然のターメロノールA、ターメロノールBは、それぞれ、2-メチル-2-ヘプテン-4-オンの部分構造における6位炭素の立体配置がS体であることが公知である。しかし、本発明で用いることができるターメロノールA、ターメロノールBは、それぞれ、上記の平面構造を有するものであればよく、ウコンに由来する立体構造のターメロノールA、ターメロノールBには限定されないが、好ましくは、ウコンに由来する立体構造のターメロノールA、ターメロノールBである。本発明では、塩、水和物等の各種形態のターメロノールA、ターメロノールBを用いることができる。塩の形態のターメロノールA、ターメロノールBとしては、薬学的に許容される塩であればよく特に限定されないが、例えばナトリウム塩(フェノール性水酸基のナトリウム塩)が挙げられる。
【0022】
本発明の各態様において、有効成分は、ターメロノールA及びターメロノールBの少なくとも1種である。すなわち前記有効成分は、ターメロノールAのみからなるものであってもよいし、ターメロノールBのみからなるものであってもよいし、ターメロノールAとターメロノールBとの混合物であってもよい。
【0023】
本発明で用いる有効成分は植物に由来するものであってもよいし、人為的に合成されたものであってもよい。例えば光学活性の(+)-ターメロノールAは、Biosci Biotechnol Biochem. 1993;57(7):1137-40に記載の方法により合成することできる。
【0024】
本発明で用いる有効成分はより好ましくは植物原料に由来するものであり、より好ましくは、ショウガ科ウコン属植物に由来するものである。ショウガ科ウコン属植物としては、Curcuma longa(ウコン)、Curcuma aromatica、Curcuma zedoaria、Curcuma phaeocaulis、Curcuma kwangsiensis、Curcuma wenyujin、Curcuma xanthorrhizaが挙げられ、特に好ましくは、Curcuma longa(ウコン)である。ショウガ科ウコン属の植物の根茎等の部位からターメロノールA及びターメロノールBを得ることができる。根茎は土中から採取したものを使用してよく、根茎の適当な部位を原型のまま、あるいは適当な寸法又は形状にカットしたもの、あるいは粉砕物の形態にしたものを使用することができる。植物原料は適宜乾燥されたものであってよい。
【0025】
本発明で用いる、ターメロノールA及びターメロノールBから選択される少なくとも1種の化合物は、それを含む植物又は植物加工品の形態や、植物又は植物加工品から抽出した抽出物の形態や、前記抽出物から調製した、前記化合物の純度を高めた画分の形態や、前記抽出物又は画分から単離した前記化合物の形態等の任意の形態であることができる。
【0026】
植物又は植物加工品からの、ターメロノールA及びターメロノールBから選択される少なくとも1種を含む抽出物の調製に用いる抽出溶媒としては、水、極性有機溶媒及び非極性有機溶媒からなる群から選択される少なくとも1種や、超臨界二酸化炭素等の超臨界流体が例示できる。水、極性有機溶媒及び非極性有機溶媒からなる群から選択される少なくとも1種の抽出溶媒としては、水、極性有機溶媒、水と極性有機溶媒の混合溶媒、非極性有機溶媒等が例示できる。極性有機溶媒は、複数種の極性有機溶媒の混合溶媒であってもよい。非極性有機溶媒は、複数種の非極性有機溶媒の混合溶媒であってもよい。「水」とは熱水も包含する。熱水としては例えば95℃以上の熱水が使用できる。極性有機溶媒としては少なくとも1種のアルコール(複数種のアルコールの混合溶媒であってもよい)が挙げられ、アルコールとしては、特に限定されないが、メタノール、エタノールが好ましい。抽出溶媒としてアルコールと水との混合溶媒を用いる場合の混合比は特に限定されないが、例えば重量比で10:90~90:10の範囲が好ましく、20:80~50:50の範囲がより好ましい。植物又は植物加工品からのターメロノールA及びターメロノールBから選択される少なくとも1種の抽出方法は特に限定されない。ターメロノールA及びターメロノールBから選択される少なくとも1種を含む抽出物は、必要に応じて抽出溶媒を揮発除去して用いる。
【0027】
前記抽出物から、ターメロノールA及びターメロノールBから選択される少なくとも1種の純度を高めた画分を調製する方法は、特に限定されないが、例えば、ターメロノールA及びターメロノールBから選択される少なくとも1種の化合物を含む抽出物を酢酸エチル/水の液-液分配に供し、酢酸エチル画分に前記を高純度化する方法や、前記抽出物又は画分を、カラムクロマトグラフィ等のクロマトグラフィに供して前記化合物を高純度化する方法が例示できる。クロマトグラフィとしては、逆相カラムクロマトグラフィ、順相薄層クロマトグラフィ等を使用することができる。
【0028】
前記抽出物又は画分から、ターメロノールA及びターメロノールBから選択される少なくとも1種の化合物を単離する方法は特に限定されず、クロマトグラフィ等の手段を用いて前記化合物を単離する方法が使用できる。
【0029】
ターメロノールA及びターメロノールBから選択される少なくとも1種の化合物、前記化合物を含む植物又は植物加工品、或いは、前記化合物を含む植物又は植物加工品の抽出又は画分は、常法により、乾燥、粉末化、顆粒化、溶液化等の加工を施したものであってもよい。
【0030】
<がん細胞の増殖抑制用組成物、抗がん用組成物、正常細胞のがん化抑制用組成物、がん発症抑制用組成物、がん細胞死誘導用組成物>
本発明の第一の態様は、ターメロノールA及びターメロノールBから選択される少なくとも1種を有効成分として含有する、がん細胞の増殖抑制用組成物に関する。本発明のがん細胞の増殖抑制用組成物は、好ましくは、大腸がん細胞の増殖抑制用組成物である。本発明の第一の態様はまた、ターメロノールA及びターメロノールBから選択される少なくとも1種の、がん細胞の増殖抑制用組成物の製造のための使用に関する。本発明の第一の態様はまた、ターメロノールA及びターメロノールBから選択される少なくとも1種の、がん細胞の増殖抑制用医薬の製造のための使用に関する。本発明の第一の態様はまた、ターメロノールA及びターメロノールBから選択される少なくとも1種を、がん細胞に、生体内又は生体外で投与すること、及び、前記がん細胞の増殖を抑制することを含む、がん細胞の増殖を抑制する方法に関する。本発明の第一の態様はまた、生体内又は生体外で、がん細胞の増殖を抑制するための、ターメロノールA、ターメロノールB、又は、ターメロノールAとターメロノールBとの混合物に関する。
【0031】
本発明の第二の態様は、ターメロノールA及びターメロノールBから選択される少なくとも1種を有効成分として含有する、抗がん用組成物に関する。本発明の抗がん用組成物は、好ましくは、大腸がんに対する抗がん用組成物である。本発明の第二の態様はまた、ターメロノールA及びターメロノールBから選択される少なくとも1種の、抗がん用組成物の製造のための使用に関する。本発明の第二の態様はまた、ターメロノールA及びターメロノールBから選択される少なくとも1種の、抗がん用医薬の製造のための使用に関する。本発明の第二の態様はまた、ターメロノールA及びターメロノールBから選択される少なくとも1種を、がんの治療を必要とする患者に投与すること、及び、前記患者においてがんを治療することを含む、がんを治療する方法に関する。本発明の第二の態様はまた、がんの治療を必要とする患者においてがんを治療するための、ターメロノールA及びターメロノールBから選択される少なくとも1種に関する。
【0032】
本発明の第三の態様は、ターメロノールA及びターメロノールBから選択される少なくとも1種を有効成分として含有する、正常細胞のがん化抑制用組成物に関する。本発明の正常細胞のがん化抑制用組成物は、好ましくは、正常細胞の大腸がんへのがん化を抑制する。本発明の第三の態様はまた、ターメロノールA及びターメロノールBから選択される少なくとも1種の、正常細胞のがん化抑制用組成物の製造のための使用に関する。本発明の第三の態様はまた、ターメロノールA及びターメロノールBから選択される少なくとも1種の、正常細胞のがん化抑制用医薬の製造のための使用に関する。本発明の第三の態様はまた、ターメロノールA及びターメロノールBから選択される少なくとも1種を、正常細胞に、生体内又は生体外で投与すること、及び、前記正常細胞のがん化を抑制することを含む、正常細胞のがん化を抑制する方法に関する。本発明の第三の態様はまた、生体内又は生体外で、正常細胞のがん化を抑制するための、ターメロノールA及びターメロノールBから選択される少なくとも1種に関する。
【0033】
本発明の第四の態様は、ターメロノールA及びターメロノールBから選択される少なくとも1種を有効成分として含有する、がん発症抑制用組成物に関する。本発明のがん発症抑制用組成物は、好ましくは、大腸がんに対するがん発症抑制用組成物である。本発明の第四の態様はまた、ターメロノールA及びターメロノールBから選択される少なくとも1種の、がん発症抑制用組成物の製造のための使用に関する。本発明の第四の態様はまた、ターメロノールA及びターメロノールBから選択される少なくとも1種の、がん発症抑制用医薬の製造のための使用に関する。本発明の第四の態様はまた、ターメロノールA及びターメロノールBから選択される少なくとも1種を、がんの発症の抑制を必要とする患者に投与すること、及び、前記患者においてがんの発症を抑制することを含む、がんの発症を抑制する方法に関する。本発明の第四の態様はまた、がんの発症の抑制を必要とする患者においてがんの発症を抑制するための、ターメロノールA及びターメロノールBから選択される少なくとも1種に関する。
【0034】
本発明の第五の態様は、ターメロノールA及びターメロノールBから選択される少なくとも1種を有効成分として含有する、がん細胞死誘導用組成物に関する。本発明のがん細胞死誘導用組成物は、好ましくは、大腸がん細胞の細胞死誘導用組成物である。本発明の第五の態様はまた、ターメロノールA及びターメロノールBから選択される少なくとも1種の、がん細胞死誘導用組成物の製造のための使用に関する。本発明の第五の態様はまた、ターメロノールA及びターメロノールBから選択される少なくとも1種の、がん細胞死誘導用医薬の製造のための使用に関する。本発明の第五の態様はまた、ターメロノールA及びターメロノールBから選択される少なくとも1種を、がん細胞に、生体内又は生体外で投与すること、及び、前記がん細胞の細胞死を誘導することを含む、がん細胞の細胞死を誘導する方法に関する。本発明の第五の態様はまた、生体内又は生体外で、がん細胞の細胞死を誘導するための、ターメロノールA及びターメロノールBから選択される少なくとも1種に関する。
【0035】
本発明で用いる前記有効成分或いはそれを含む組成物又は医薬は、医薬品、飲食品、飼料、食品添加剤、飼料添加剤等の各形態の組成物であってよく、医薬品又は飲食品であることがより好ましい。飲食品は、機能性表示食品、特定保健用食品、栄養補給のためのサプリメント等の形態のものも包含する。本発明で用いる前記有効成分を含む組成物又は医薬は、好ましくは、経口又は経鼻により摂取又は投与される組成物の形態であり、より好ましくは、経口により摂取又は投与される組成物の形態である。
【0036】
本発明の一実施形態に係る、前記化合物を含む組成物又は医薬は、1日の摂取または投与量当たり、好ましくはヒト1人、特に成人1人に対する1日の摂取又は投与量当たり、ターメロノールA及びターメロノールBの合計量として100μg以上となるように、ターメロノールA及びターメロノールBから選択される少なくとも1種を含有する。本発明の他の一実施形態に係る、前記有効成分を含む組成物又は医薬は、1日の摂取または投与量当たり、好ましくはヒト1人、特に成人1人に対する1日の摂取又は投与量当たり、ターメロノールAが80μg以上、及び/又は、ターメロノールBが20μg以上となるように、より好ましくは、ターメロノールAが80μg以上、及び、ターメロノールBが20μg以上となるように、ターメロノールA及びターメロノールBから選択される少なくとも1種を含有する。これらの実施形態によれば、がん細胞増殖抑制作用、抗がん作用、正常細胞のがん化抑制作用、がん発症抑制作用、又は、がん細胞死誘導作用を効果的に得られる。ここで「1日の摂取又は投与量」とは経口又は経鼻による、好ましくは経口による、摂取又は投与の場合に、典型的には、本発明の組成物の量として0.1g~500gである。本発明で用いる前記有効成分或いはそれを含む組成物又は医薬は、継続的に摂取又は投与してもよいし、必要時に摂取又は投与して用いてもよい。
【0037】
本発明で用いる前記有効成分或いはそれを含む組成物又は医薬は、前記有効成分自体であってもよいし、前記有効成分と、少なくとも1種の他の成分とを含むものであってもよい。本発明で用いる前記有効成分或いはそれを含む組成物又は医薬が、前記有効成分と、少なくとも1種の他の成分とを含む場合、前記有効成分と、少なくとも1種の他の成分とを混合した組成物であってもよいし、前記有効成分と、少なくとも1種の他の成分とを適当な手段で製剤化した組成物であってもよいし、前記有効成分と、少なくとも1種の他の成分との製剤化した組成物を、更に他の成分と混合した組成物であってもよい。
【0038】
本発明で用いる前記有効成分或いはそれを含む組成物又は医薬の形状は、特に限定されず、例えば、液体状、流動状、ゲル状、半固形状、又は固形状などの何れの形状であってもよい。
【0039】
本発明で用いる前記有効成分或いはそれを含む組成物又は医薬が含み得る、少なくとも1種の他の成分としては、特に限定されないが、好ましくは、医薬品、飲食品、飼料、食品添加剤、飼料添加剤等の最終的な形態において許容される成分であって、経口摂取可能な成分が例示できる。
【0040】
このような他の成分としては例えば、甘味料、酸味料、ビタミン類、ミネラル類、増粘剤、乳化剤、酸化防止剤、水等が挙げられる。また、必要により、色素、香料、保存料、防腐剤、防かび剤、更なる生理活性物質等を添加してもよい。
【0041】
甘味料としては、ブドウ糖、果糖、ショ糖、乳糖、麦芽糖、パラチノース、トレハロース、キシロース等の単糖や二糖、異性化糖(ブドウ糖果糖液糖、果糖ブドウ糖液糖、砂糖混合異性化糖等)、糖アルコール(エリスリトール、キシリトール、ラクチトール、パラチニット、ソルビトール、還元水飴等)、はちみつ、高甘味度甘味料(スクラロース、アセスルファムカリウム、ソーマチン、ステビア、アスパルテーム等)等が挙げられる。
【0042】
酸味料としては、クエン酸、リンゴ酸、グルコン酸、酒石酸、乳酸、リン酸、又はこれらの塩等があり、これらのうちの1種又は2種以上を利用することができる。
【0043】
ビタミン類としては、ビタミンA、ビタミンB1、ビタミンB2、ビタミンB6、ビタミンE、ナイアシン、イノシトール等が挙げられる。
【0044】
ミネラル類としては、カルシウム、マグネシウム、亜鉛、鉄等が挙げられる。
【0045】
増粘剤としては、カラギーナン、ジェランガム、キサンタンガム、アラビアガム、タマリンドガム、グアーガム、ローカストビーンガム、カラヤガム、寒天、ゼラチン、ペクチン、大豆多糖類、カルボキシメチルセルロース(CMC)等が挙げられる。
【0046】
乳化剤としては、グリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、レシチン、植物性ステロール、サポニン等が挙げられる。
【0047】
酸化防止剤としては、ビタミンC、トコフェロール(ビタミンE)、酵素処理ルチン、カテキン等が挙げられる。
【0048】
前記他の成分は、それぞれ当業者が飲食品、医薬品等の組成物に通常採用する範囲内の量で適宜配合することができる。
【0049】
本発明で用いる前記有効成分と、少なくとも1種の他の成分とを適当な手段で製剤化した組成物又は医薬の形態は、粉末、顆粒、カプセル剤、錠剤(糖衣錠等のコーティング錠又は多層錠、口中崩壊剤、チュアブル錠等を含む)等の固形組成物の形態であってもよいし、溶液剤等の液体組成物の形態であってもよい。
【実施例】
【0050】
1.抗がん作用の評価
ターメロノールA(Tumeronol A)及びターメロノールB(Tumeronol B)(ともに長良サイエンス株式会社からの市販品)はジメチルスルホキシドに溶解して以下の試験に用いた。
【0051】
ヒト大腸がんの細胞株であるHT-29細胞をRPMI1640培地(10%FBS含有)に懸濁し、96穴マイクロプレートに1ウェル当たり細胞数が3.0×103個になるように播種して、37℃かつ5%CO2の条件下で24時間培養した。このように96穴プレートで培養したHT-29細胞を、ターメロノールAとターメロノールBのどちらかを12.5μM、25μM、50μM、100μMの量含有したRPMI1640培地(2.5%FBS含有)で72時間培養した。培養終了の2時間前にWST-1試薬を加えて、2時間後に吸光度(細胞の代謝活性)をプレートリーダーで測定した。検体(ターメロノールA、ターメロノールB)を含まないRPMI1640培地を用いた以外は同様の手順で培養したHT-29細胞の代謝活性を100%とし、各濃度の検体を含むRPMI1640培地中で培養したHT-29細胞の代謝活性の変化率を求めた。ここでいう細胞の代謝活性とは、細胞の増殖活動及び、過度の活性化を含む生命維持活動を意味する。
【0052】
ターメロノールAについての結果を
図1、ターメロノールBについての結果を
図2にそれぞれ示す。
図1は、HT-29細胞をターメロノールAで処理することにより、細胞の代謝活性が用量依存的に有意に低下したことを示す。同様に、
図2は、HT-29細胞をターメロノールBで処理することにより、細胞の代謝活性が用量依存的に有意に低下したことを示す。これらの結果から、ターメロノールAとターメロノールBはどちらも大腸がん細胞の代謝活性を抑制することが示された。ここでいうがん細胞の代謝活性の抑制とは、がん細胞の増殖抑制、がん化抑制、がん細胞死誘導を意味する。
【0053】
本明細書で引用した全ての刊行物、特許及び特許出願はそのまま引用により本明細書に組み入れられるものとする。