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特許7694893アルカリ水電解用アノード及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-06-10
(45)【発行日】2025-06-18
(54)【発明の名称】アルカリ水電解用アノード及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C25B 11/077 20210101AFI20250611BHJP
   B01J 37/08 20060101ALI20250611BHJP
   B01J 37/14 20060101ALI20250611BHJP
   B01J 37/02 20060101ALI20250611BHJP
   B01J 23/889 20060101ALI20250611BHJP
   C25B 11/067 20210101ALI20250611BHJP
   C25B 1/04 20210101ALI20250611BHJP
【FI】
C25B11/077
B01J37/08
B01J37/14
B01J37/02 301L
B01J37/02 301M
B01J23/889 M
C25B11/067
C25B1/04
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020174096
(22)【出願日】2020-10-15
(65)【公開番号】P2022065484
(43)【公開日】2022-04-27
【審査請求日】2023-09-08
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)2018年度、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構水電解水素製造技術高度化のための基盤技術研究開発/アルカリ水電解及び固体高分子形水電解の高度化委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】504132272
【氏名又は名称】国立大学法人京都大学
(73)【特許権者】
【識別番号】504182255
【氏名又は名称】国立大学法人横浜国立大学
(73)【特許権者】
【識別番号】390014579
【氏名又は名称】デノラ・ペルメレック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098707
【弁理士】
【氏名又は名称】近藤 利英子
(74)【代理人】
【識別番号】100135987
【弁理士】
【氏名又は名称】菅野 重慶
(74)【代理人】
【識別番号】100168033
【弁理士】
【氏名又は名称】竹山 圭太
(74)【代理人】
【識別番号】100161377
【弁理士】
【氏名又は名称】岡田 薫
(72)【発明者】
【氏名】内本 喜晴
(72)【発明者】
【氏名】内山 智貴
(72)【発明者】
【氏名】光島 重徳
(72)【発明者】
【氏名】黒田 義之
(72)【発明者】
【氏名】長澤 兼作
(72)【発明者】
【氏名】錦 善則
【審査官】萩原 周治
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-221471(JP,A)
【文献】特開2018-178221(JP,A)
【文献】特開2018-081812(JP,A)
【文献】特表2020-515405(JP,A)
【文献】特許第6975297(JP,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25B 1/00-15/08
B01J 21/00-38/74
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくともその表面がニッケル又はニッケル基合金からなる導電性基体と、
前記導電性基体の表面上に配置された、四重ペロブスカイト酸化物構造を有する金属複合酸化物を含む触媒層と、を備え、
前記金属複合酸化物が、カルシウム(Ca)、マンガン(Mn)、及びニッケル(Ni)を含むとともに、Ca/Mn/Ni/Oの原子比が、(1.0)/(6.6-7.0)/(0.1-0.4)/12.0であるアルカリ水電解用アノード。
【請求項2】
前記四重ペロブスカイト酸化物構造をAA’ 12 と表すとともに、A’サイトのMnをMn(A’)及びBサイトのMnをMn(B)とそれぞれ表した場合に、Mn(A’)-Mn(B)結合距離が、3.18~3.19Åである請求項1に記載のアルカリ水電解用アノード。
【請求項3】
前記導電性基体と前記触媒層の間に配置される、組成式LiNi2-x(0.02≦x≦0.5)で表されるリチウム含有ニッケル酸化物からなる中間層をさらに備える請求項1又は2に記載のアルカリ水電解用アノード。
【請求項4】
カルシウム成分、マンガン成分、及びニッケル成分を含有する前駆体を酸素含有雰囲気下、400~900℃で熱処理して、四重ペロブスカイト酸化物構造を有する金属複合酸化物を得る工程と、
少なくともその表面がニッケル又はニッケル基合金からなる導電性基体の表面上に、前記金属複合酸化物を含む触媒層を形成する工程と、を有し、
前記金属複合酸化物が、カルシウム(Ca)、マンガン(Mn)、及びニッケル(Ni)を含むとともに、Ca/Mn/Ni/Oの原子比が、(1.0)/(6.6-7.0)/(0.1-0.4)/12.0であるアルカリ水電解用アノードの製造方法。
【請求項5】
前記前駆体を、0.2気圧以上の酸素分圧の酸素含有雰囲気下で熱処理する請求項4に記載のアルカリ水電解用アノードの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルカリ水電解用アノード及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
水素は、貯蔵及び輸送に適しているとともに、環境負荷が小さい二次エネルギーであるため、水素をエネルギーキャリアに用いた水素エネルギーシステムに関心が集まっている。現在、水素は主に化石燃料の水蒸気改質などにより製造されている。しかし、地球温暖化や化石燃料枯渇問題の観点から、基盤技術のなかでも、太陽光発電や風力発電といった再生可能エネルギーを用いた水電解により水素を製造することが重要である。水電解は、低コストで大規模化に適しており、水素製造の有力な技術である。
【0003】
水電解に用いる部材のうち、アノード材料は、実際の動作条件下における酸素発生過電圧が0.3Vを超える場合が多い。これは、現状の電解工業において利用される水素発生や塩素発生の過電圧が0.1V前後であるのと比較すると、大幅な改良の余地があるといえる。なお、電源水電解として再生可能エネルギーなどの出力変動の大きい電力を使用した場合、長期間にわたって優れた触媒活性を安定して維持できるアノードは開発段階にあり、未だ実用化されていない。
【0004】
現状の実用的な水電解は大きく2つに分けられる。1つはアルカリ水電解であり、電解質に高濃度アルカリ水溶液が用いられている。もう1つは、固体高分子型水電解であり、電解質に固体高分子膜(SPE)が用いられている。大規模な水素製造を水電解で行う場合、高価な貴金属を多量に用いた電極を用いる固体高分子型水電解よりも、ニッケル等の鉄系金属などの安価な材料を用いるアルカリ水電解の方が適していると言われている。
【0005】
高濃度アルカリ水溶液は、温度上昇に伴って電導度が高くなるが、腐食性も高くなる。このため、操業温度の上限は80~90℃程度に抑制されている。高温及び高濃度のアルカリ水溶液に耐える電解セルの構成材料や各種配管材料の開発、低抵抗隔膜、及び表面積を拡大し触媒を付与した電極の開発により、電流密度0.6Acm-2における電解セル電圧が2V以下となるまでに向上している。
【0006】
アルカリ水電解用陽極として、高濃度アルカリ水溶液中で安定なニッケル系材料が使用されており、安定な動力源を用いたアルカリ水電解の場合、ニッケル系陽極は数十年以上の寿命を有することが知られている。しかし、再生可能エネルギーを動力源とすると、激しい起動停止や負荷変動などの過酷な条件となる場合が多く、ニッケル系陽極の性能劣化が問題とされている。
【0007】
ニッケル酸化物の生成反応、及び生成したニッケル酸化物の還元反応は、いずれも金属表面にて進行する。このため、これらの反応に伴い、金属表面に形成された電極触媒の脱離が促進される。電解のための電力が供給されなくなると、電解が停止し、ニッケル系陽極は酸素発生電位(1.23V vs.RHE)より低い電位、かつ、対極である水素発生用陰極(0.00V vs.RHE)より高い電位に維持される。電解セル内では、種々の化学種による起電力が発生しており、電池反応の進行により陽極電位は低く維持され、ニッケル酸化物の還元反応が促進される。
【0008】
電池反応によって生じた電流は、例えば、アノード室とカソード室等の複数のセルを組み合わせた電解スタックの場合、セル間を連結する配管を介してリークする。このような電流のリークを防止する対策として、例えば、停止時に微小な電流を流し続けるようにする方法などがある。しかし、停止時に微小な電流を流し続けるには、特別な電源制御が必要になるとともに、酸素及び水素を常に発生させることになるため、運用管理上の過度の手間がかかる、といった問題がある。また、逆電流状態を意図的に避けるために、停止直後に液を抜いて電池反応を防止することは可能であるが、再生エネルギーのような出力変動の大きい電力での稼動を想定した場合、適切な処置であるとはいえない。
【0009】
従来、アルカリ水電解に使用される酸素発生用陽極の触媒(陽極触媒)として、白金族金属、白金族金属酸化物、バルブ金属酸化物、鉄族酸化物、ランタニド族金属酸化物などが利用されている。その他の陽極触媒としては、Ni-Co、Ni-Feなど、ニッケルをベースにした合金系;表面積を拡大したニッケル;スピネル系のCo、NiCo、ペロブスカイト系のLaCoO、LaNiOなどの導電性酸化物(セラミック材料);貴金属酸化物;ランタニド族金属と貴金属からなる酸化物なども知られている。
【0010】
近年、高濃度アルカリ水電解に使用される酸素発生用陽極(アノード)として、リチウムとニッケルを所定のモル比で含むリチウム含有ニッケル酸化物触媒層をニッケル基体表面に形成したアルカリ水電解用陽極(特許文献1)や、ニッケルコバルト系酸化物と、イリジウム酸化物又はルテニウム酸化物とを含む触媒層をニッケル基体表面に形成したアルカリ水電解用陽極(特許文献2)が提案されている。また、Aサイト秩序型ペロブスカイト酸化物触媒AMnMn12(A=La又はCa)である酸素発生用の触媒が提案されている(特許文献3)。さらに、酸素還元触媒として用いられるCaMn、CaMn、及びCaMn12が提案されている(特許文献4及び5)。
【0011】
また、層状岩塩型構造を有するLiNi0.8Al0.2が高い酸素発生活性を示すことが報告されている(非特許文献1)。Alは、Niとの相乗効果により、分極中の構造を安定させる役割を果たすと推察される。層状岩塩構造は、酸素ガス中での熱処理によって開発されている。LiNiO層のNi3+を安定化させ、Li層のNi2+の混合を抑制するために、Al3+ドーピングに注目している。さらに、層状岩塩型構造を有するLiNi0.8Fe0.2が高い酸素発生活性を示すことが報告されている(非特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【文献】特開2015-86420号公報
【文献】特開2017-190476号公報
【文献】特許第5869169号公報
【文献】米国特許第4101716号明細書
【文献】中国特許第110416559号明細書
【非特許文献】
【0013】
【文献】Gupta, A.; Chemelewski, W. D.; Buddie Mullins, C.; Goodenough, Adv Mater.,2015, 27 (39), 6063-7.
【文献】Zhu, K.; Wu, T.; Zhu, Y.; Li, X.; Li, M.; Lu, R.; Wang, J.; Zhu, X.; Yang, W., ACS Energy Letters 2017, 2 (7), 1654-1660.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
しかし、特許文献1及び2で提案されたアルカリ水電解用陽極であっても、再生可能エネルギーなどの出力変動の大きい電力を動力源とした場合には、性能が低下しやすく、長期間にわたって安定的に使用することが困難であるといった問題があった。なお、特許文献3には、Niの量を制御することによって得られる効果については何ら記載されていない。さらに、特許文献4及び5には、酸素発生に関して何ら記載されていない。また、非特許文献1で報告されたLiNi0.8Al0.2や、非特許文献2で報告されたLiNi0.8Fe0.2であっても、必ずしも十分に高活性であるとは言えず、さらなる改善の余地があった。
【0015】
本発明は、このような従来技術の有する問題点に鑑みてなされたものであり、その課題とするところは、再生可能エネルギーなどの出力変動の大きい電力を動力源とした場合であっても、電解性能が劣化しにくく、優れた触媒活性が長期間にわたって安定して維持されるアルカリ水電解用アノードを提供することにある。また、本発明の課題とするところは、上記アルカリ水電解用アノードの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者らは上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、四重ペロブスカイト酸化物構造を有する金属複合酸化物中のNiの含有量を制御し、Mn(A’)-Mn(B)結合距離を変化させることで反応活性化が生ずることを見出し、本発明を完成するに至った。四重ペロブスカイト酸化物AA’12が、同じBサイト要素を持つ単純なペロブスカイト酸化物ABOよりも高い酸素発生触媒活性を示すことが報告されている。この理由の1つは、構造中の酸素が1つ欠損している反応に優位な新たな吸着サイトを有しているためである。この吸着サイトに吸着した水酸イオンから電子を奪い、中間体としてO-O二量体形成するが、Mn(B)をNiで部分的に置き換えることによる結合長の減少により、A’-BサイトのO-O結合の安定性が変化し、酸素としての離脱が容易になったと推定される。
【0017】
すなわち、本発明によれば、以下に示すアルカリ水電解用アノードが提供される。
[1]少なくともその表面がニッケル又はニッケル基合金からなる導電性基体と、前記導電性基体の表面上に配置された、四重ペロブスカイト酸化物構造を有する金属複合酸化物を含む触媒層と、を備え、前記金属複合酸化物が、カルシウム(Ca)、マンガン(Mn)、及びニッケル(Ni)を含むとともに、Ca/Mn/Ni/Oの原子比が、(1.0)/(6.6-7.0)/(0.1-0.4)/12.0であるアルカリ水電解用アノード。
[2]Mn(A’)-Mn(B)結合距離が、3.18~3.19Åである前記[1]に記載のアルカリ水電解用アノード。
[3]前記導電性基体と前記触媒層の間に配置される、組成式LiNi2-x(0.02≦x≦0.5)で表されるリチウム含有ニッケル酸化物からなる中間層をさらに備える前記[1]又は[2]に記載のアルカリ水電解用アノード。
【0018】
さらに、本発明によれば、以下に示すアルカリ水電解用アノードの製造方法が提供される。
[4]カルシウム成分、マンガン成分、及びニッケル成分を含有する前駆体を酸素含有雰囲気下、400~900℃で熱処理して、四重ペロブスカイト酸化物構造を有する金属複合酸化物を得る工程と、少なくともその表面がニッケル又はニッケル基合金からなる導電性基体の表面上に、前記金属複合酸化物を含む触媒層を形成する工程と、を有し、前記金属複合酸化物が、カルシウム(Ca)、マンガン(Mn)、及びニッケル(Ni)を含むとともに、Ca/Mn/Ni/Oの原子比が、(1.0)/(6.6-7.0)/(0.1-0.4)/12.0であるアルカリ水電解用アノードの製造方法。
[5]前記前駆体を、0.2気圧以上の酸素分圧の酸素含有雰囲気下で熱処理する前記[4]に記載のアルカリ水電解用アノードの製造方法。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、再生可能エネルギーなどの出力変動の大きい電力を動力源とした場合であっても、電解性能が劣化しにくく、優れた触媒活性が長期間にわたって安定して維持されるアルカリ水電解用アノードを提供することができる。また、本発明によれば、上記アルカリ水電解用アノードの製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明のアルカリ水電解用アノードの一実施形態を模式的に示す断面図である。
図2】金属複合酸化物(触媒)の結晶構造(四重ペロブスカイト酸化物構造)を模式的に示す図である。
図3】金属複合酸化物(触媒)の放射光X線回折パターンを示す図である。
図4】金属複合酸化物(触媒)のMnのKエッジ((a))及びNiのKエッジ((b))のXANESスペクトルを示す図である。
図5】線形掃引ボルタンメトリーの測定結果(LSV曲線)((a))、ターフェル図((b))、及びMn(A’)-Mn(B)結合距離と電流密度の相関関係を示すグラフ((c))である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
<アルカリ水電解用アノード>
図1は、本発明のアルカリ水電解用アノードの一実施形態を模式的に示す断面図である。図1に示すように、本実施形態のアルカリ水電解用アノード10は、導電性基体2と、導電性基体2の表面上に形成された中間層4と、中間層4の表面上に形成された触媒層6とを備える。以下、本発明のアルカリ水電解用アノード(以下、単に「アノード」とも記す)の詳細について説明する。
【0022】
(導電性基体)
導電性基体2は、電気分解のための電気を通すための導電体であり、中間層4及び触媒層6を担持する担体としての機能を有する部材である。導電性基体2の少なくとも表面(中間層4や触媒層6が形成される面)は、ニッケル又はニッケル基合金で形成されている。すなわち、導電性基体2は、全体がニッケル又はニッケル基合金で形成されていてもよく、表面のみがニッケル又はニッケル基合金で形成されていてもよい。具体的に、導電性基体2は、鉄、ステンレス、アルミニウム、チタン等の金属材料の表面に、めっき等によりニッケル又はニッケル基合金のコーティングが形成されたものであってもよい。
【0023】
導電性基体の厚さは、0.05~5mmであることが好ましい。導電性基体の形状は、生成する酸素や水素等の気泡を除去するための開口部を有する形状であることが好ましい。例えば、エクスパンドメッシュや多孔質エクスパンドメッシュを導電性基体として使用することができる。導電性基体が開口部を有する形状である場合、導電性基体の開口率は10~95%であることが好ましい。
【0024】
(中間層)
本発明のアノードは、導電性基体と前記触媒層の間に配置される中間層を備えることが好ましい。図1に示すように、中間層4は、導電性基体2の表面上に形成される層である。中間層4は、導電性基体2の腐食等を抑制するとともに、触媒層6を導電性基体2に安定的に固着させる。また、中間層4は、触媒層6に電流を速やかに供給する役割も果たす。中間層4は、組成式LiNi2-x(0.02≦x≦0.5)で表されるリチウム含有ニッケル酸化物で形成されていることが好ましい。上記組成式中のxが0.02未満であると、導電性がやや不十分になることがある。一方、xが0.5を超えると物理的強度及び化学的安定性がやや低下することがある。上記組成式で表されるリチウム含有ニッケル酸化物で形成された中間層4は、電解に十分な導電性を有するとともに、長期間使用した場合でも優れた物理的強度及び化学的安定性を示す。
【0025】
中間層の厚さは、0.01μm以上100μm以下であることが好ましく、0.1μm以上10μm以下であることがさらに好ましい。中間層の厚さが0.01μm未満であると、上述した機能が発現しない。一方、中間層の厚さを100μm超としても、中間層での抵抗による電圧損失が大きくなって上述の機能が発現しにくくなるとともに、製造コスト等の面でやや不利になる場合がある。
【0026】
(触媒層)
触媒層6は、中間層4の表面上に形成される触媒能を有する層である。中間層4を介在させることで、触媒層6は導電性基体2上により強固に固定されている。
【0027】
触媒層は、四重ペロブスカイト酸化物構造を有する金属複合酸化物を含む層であり、好ましくは、四重ペロブスカイト酸化物構造を有する金属複合酸化物によって実質的に形成されている層である。そして、この金属複合酸化物は、カルシウム(Ca)、マンガン(Mn)、及びニッケル(Ni)を含むとともに、Ca/Mn/Ni/Oの原子比が、(1.0)/(6.6-7.0)/(0.1-0.4)/12.0である。Ca、Mn、Ni、及びOが上記の比で表される組成の金属複合酸化物を含む触媒層を備えることで、再生可能エネルギーなどの出力変動の大きい電力を動力源とした場合であっても、電解性能が劣化しにくく、優れた触媒活性を長期間にわたって安定して維持することができる。
【0028】
触媒層の厚さは、0.01μm以上100μm以下であることが好ましく、0.1μm以上10μm以下であることがさらに好ましい。触媒層の厚さが0.01μm未満であると、上述した機能が発現しない。一方、触媒層の厚さを100μm超としても、触媒層での抵抗による電圧損失が大きくなって上述の機能が発現しにくくなるとともに、製造コスト等の面でやや不利になる場合がある。
【0029】
<アルカリ水電解用アノードの製造方法>
次に、本発明のアルカリ水電解用アノードの製造方法について説明する。以下で説明するアノードの製造方法は、前述のアルカリ水電解用アノードを好適に製造する方法である。本発明のアノードの製造方法は、金属複合酸化物の調製工程と、触媒層形成工程とを有する。金属複合酸化物の調製工程は、カルシウム成分、マンガン成分、及びニッケル成分を含有する前駆体を酸素含有雰囲気下、400~900℃で熱処理して、四重ペロブスカイト酸化物構造を有する金属複合酸化物を得る工程である。また、触媒層形成工程は、導電性基体の表面上に金属複合酸化物を含む触媒層を形成する工程である。
【0030】
なお、前述の通り、導電性基体と触媒層の間に、必要に応じて中間層を配置することもできる。中間層が配置されたアノードを製造する方法は、上記の第1塗布工程の前に、導電性基体の表面に、リチウムイオン及びニッケルイオンを含有する水溶液を塗布する工程(塗布工程)と、水溶液を塗布した導電性基体を熱処理して、導電性基材の表面上に組成式LiNi2-x(0.02≦x≦0.5)で表されるリチウム含有ニッケル酸化物からなる中間層を形成する工程(中間層形成工程)と、をさらに有する。
【0031】
(前処理工程)
中間層や触媒層を形成する前に、表面の金属や有機物などの汚染粒子を除去するために、導電性基体を予め化学エッチング処理することが好ましい。化学エッチング処理による導電性基体の消耗量は、30g/m以上400g/m以下程度とすることが好ましい。また、中間層や触媒層との密着力を高めるために、導電性基体の表面を予め粗面化処理することが好ましい。粗面化処理の手段としては、粉末を吹き付けるブラスト処理や、基体可溶性の酸を用いたエッチング処理や、プラズマ溶射などを挙げることができる。
【0032】
(塗布工程)
塗布工程では、リチウムイオン及びニッケルイオンを含有する水溶液を導電性基体の表面に塗布する。中間層は、いわゆる熱分解法によって形成される。熱分解法により中間層を形成するに際しては、まず、中間層の前駆体水溶液を調製する。リチウム成分を含む前駆体としては、硝酸リチウム、炭酸リチウム、塩化リチウム、水酸化リチウム、カルボン酸リチウムなど公知の前駆体を使用することができる。カルボン酸リチウムとしては、ギ酸リチウムや酢酸リチウムを挙げることができる。ニッケル成分を含む前駆体としては、硝酸ニッケル、炭酸ニッケル、塩化ニッケル、カルボン酸ニッケルなど公知の前駆体を使用することができる。カルボン酸ニッケルとしては、ギ酸ニッケルや酢酸ニッケルを挙げることができる。特に、前駆体としてカルボン酸リチウム及びカルボン酸ニッケルの少なくとも一方を用いることにより、後述するように低温で焼成した場合であっても緻密な中間層を形成することができるので特に好ましい。
【0033】
(中間層形成工程)
中間層形成工程では、水溶液を塗布した導電性基体を熱処理する。これにより、組成式LiNi2-x(0.02≦x≦0.5)で表されるリチウム含有ニッケル酸化物からなる中間層を導電性基材の表面上に形成することができる。熱分解法で中間層を形成する際の熱処理温度は、適宜設定することができる。前駆体の分解温度と生産コストとを考慮すると、熱処理温度は450~600℃とすることが好ましく、450~550℃とすることがさらに好ましい。例えば、硝酸リチウムの分解温度は430℃程度であり、酢酸ニッケルの分解温度は373℃程度である。熱処理温度を450℃以上とすることにより、各成分をより確実に分解することができる。熱処理温度を600℃超とすると、導電性基体の酸化が進行しやすく、電極抵抗が増大して電圧損失の増大を招く場合がある。熱処理時間は、反応速度、生産性、中間層表面の酸化抵抗等を考慮して適宜設定すればよい。
【0034】
前述の塗布工程における水溶液の塗布回数を適宜設定することで、形成される中間層の厚さを制御することができる。なお、水溶液の塗布と乾燥を一層毎に繰り返し、最上層を形成した後に全体を熱処理してもよく、水溶液の塗布及び熱処理(前処理)を一層毎に繰り返し、最上層を形成した後に全体を熱処理してもよい。前処理の温度と全体の熱処理の温度は、同一であってもよく、異なっていてもよい。また、前処理の時間は、全体の熱処理の時間よりも短くすることが好ましい。
【0035】
(金属複合酸化物の調製工程)
金属複合酸化物の調製工程では、カルシウム成分、マンガン成分、及びニッケル成分を含有する前駆体を酸素含有雰囲気下、400~900℃で熱処理して、金属複合酸化物を調製する。カルシウム成分としては、硝酸カルシウム、炭酸カルシウム、塩化カルシウム、水酸化カルシウム、カルボン酸カルシウムなど公知の化合物を使用することができる。カルボン酸カルシウムとしては、ギ酸カルシウムや酢酸カルシウムを挙げることができる。ニッケル成分としては、硝酸ニッケル、炭酸ニッケル、塩化ニッケル、カルボン酸ニッケルなど公知の化合物を使用することができる。カルボン酸ニッケルとしては、ギ酸ニッケルや酢酸ニッケルを挙げることができる。特に、カルボン酸リチウム及びカルボン酸ニッケルの少なくとも一方を用いることにより、より緻密な触媒層を形成することができるので好ましい。マンガン成分としては、硝酸マンガン、炭酸マンガン、塩化マンガン、カルボン酸マンガンなど公知の化合物を使用することができる。カルボン酸マンガンとしては、ギ酸マンガンや酢酸マンガンを挙げることができる。
【0036】
標的物質である金属複合酸化物(CaMn7-xNi12)は、クエン酸錯化法によって調製することができる。例えば、所定量のカルシウム成分、マンガン成分、及びニッケル成分を硝酸に溶解させた後、大過剰のクエン酸及び化学量論量の1,2-エタンジオールを撹拌しながら添加する。得られた溶液を300℃前後に加熱して一定時間保持することで、前駆体である乾燥粉末を得ることができる。得られた前駆体(乾燥粉末)を酸素含有雰囲気下、400~900℃、好ましくは700~900℃で2~50時間熱処理することで、標的物質である金属複合酸化物(以下、「CMO」とも記す)を得ることができる。
【0037】
前駆体を熱処理する際の酸素含有雰囲気の酸素分圧は、0.2気圧以上とすることが好ましく、0.5気圧以上とすることがさらに好ましい。また、供給する酸素を含むガス流量は、酸素として5mL/min以下に制御することが好ましく、2.5mL/min以下に制御することがさらに好ましい。ガス流量が多すぎる(速すぎる)と、酸化物の生成が過度に促進されることがあるので、CMOの組成が目的とする組成からズレやすくなる場合がある。得られた金属複合酸化物(CMO)が四重ペロブスカイト酸化物構造を有するか否かについては、XRDによる結晶構造解析によって確認することができる。
【0038】
(触媒層形成工程)
触媒層形成工程では、導電性基体の表面上に、触媒である金属複合酸化物(CMO)を含む触媒層を形成する。これにより、目的とするアルカリ水電解用アノードを得ることができる。導電性基体の表面上に触媒層を形成するには、従来公知の方法を適宜採用すればよく、特に限定されない。例えば、特定の樹脂(ナフィオン(登録商標))等を含有する溶剤に触媒(CMO)を添加して触媒インクを調製する。そして、調製した触媒インクを導電性基体又は導電性基体上に形成した中間層の表面に塗布するとともに、必要に応じて加熱等して乾燥させることで、導電性基体の表面上に触媒層を形成することができる。
【0039】
<アルカリ水電解用アノードの使用>
本発明のアルカリ水電解用アノードは、アルカリ水を電気分解する際の酸素発生用アノードとして用いることができる。すなわち、本発明のアノードを用いれば、アルカリ水電解セル等の電解セルを構成することができる。上記のアノードとともに用いる陰極(カソード)や隔膜の種類や構成等については特に限定されず、従来のアルカリ水電解に用いられるカソードや隔膜を用いることができる。
【0040】
(カソード)
カソードとしては、アルカリ水電解に耐えうる材料製の基体と、陰極過電圧が小さい触媒とを選択して用いることが好ましい。陰極基体としては、ニッケル基体、又はニッケル基体に活性陰極を被覆形成したものを用いることができる。陰極基体の形状としては、板状の他、エクスパンドメッシュや、多孔質エクスパンドメッシュなどを挙げることができる。
【0041】
陰極材料としては、表面積の大きい多孔質ニッケルや、Ni-Mo系材料などがある。その他、Ni-Al、Ni-Zn、Ni-Co-Znなどのラネーニッケル系材料;Ni-Sなどの硫化物系材料;TiNiなど水素吸蔵合金系材料などがある。触媒としては、水素過電圧が低い、短絡安定性が高い、被毒耐性が高い等の性質を有するものが好ましい。その他の触媒としては、白金、パラジウム、ルテニウム、イリジウムなどの金属、及びこれらの酸化物が好ましい。
【0042】
(隔膜)
電解用の隔膜としては、アスベスト、不織布、イオン交換膜、高分子多孔膜、及び無機物質と有機高分子の複合膜などを用いることができる。具体的には、リン酸カルシウム化合物やフッ化カルシウム等の親水性無機材料と、ポリスルホン、ポリプロピレン、及びフッ化ポリビニリデン等の有機結合材料との混合物に、有機繊維布を内在させたイオン透過性隔膜を用いることができる。また、アンチモンやジルコニウムの酸化物及び水酸化物等の粒状の無機性親水性物質と、フルオロカーボン重合体、ポリスルホン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、及びポリビニルブチラール等の有機性結合剤とのフィルム形成性混合物に、伸張された有機性繊維布を内在させたイオン透過性隔膜を用いることができる。
【0043】
本発明のアノードを構成要素とするアルカリ水電解セルを用いれば、高濃度のアルカリ水溶液を電解することができる。電解液として用いるアルカリ水溶液としては、水酸化カリウム(KOH)、水酸化ナトリウム(NaOH)等のアルカリ金属水酸化物の水溶液が好ましい。アルカリ水溶液の濃度は1.5質量%以上40質量%以下であることが好ましい。また、アルカリ水溶液の濃度は15質量%以上40質量%以下であることが、電気伝導度が大きく、電力消費量を抑えることができるために好ましい。さらに、コスト、腐食性、粘性、操作性等を考慮すると、アルカリ水溶液の濃度は20質量%以上30質量%以下であることが好ましい。
【実施例
【0044】
以下、本発明を実施例に基づいて具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、実施例、比較例中の「部」及び「%」は、特に断らない限り質量基準である。
【0045】
<アルカリ水電解用触媒の製造>
(製造例1)
化学量論量のCaCO、Mn(NO・6HO、及びNi(NO・6HOを硝酸に溶解させた。撹拌しながら、5倍モル過剰のクエン酸及び化学量論量の1,2-エタンジオールを添加した後、300℃に加熱して、粉末状の前駆体を得た。得られた前駆体を、空気中、400℃で1時間及び675℃で12時間、加熱炉を使用して焼成した。次いで、空気中、900℃で12時間焼成して、粉末状の標的物質(CMO)を得た。得られた標準物質の一部を酸に溶解して得た溶液を試料とし、誘導結合プラズマ(ICP)発光分光分析法により組成を分析した。誘導結合プラズマ発光分析装置としては、製品名「ICPS-8100CL」(島津製作所社製)を使用した。その結果、得られた標的物質(CMO)の化学組成は「CaMn7-xNi12」(x=0.0、0.1、0.2、0.3、及び0.4の5種類)で表されることを確認した。
【0046】
図2は、金属複合酸化物(触媒)の結晶構造(四重ペロブスカイト酸化物構造)を模式的に示す図である。図2に示すように、CaMn12四重ペロブスカイト酸化物構造のMn(A’)-Mn(B)結合距離におけるMn(B)をNiで部分的に置き換えたとき、Mn及びOの状態がいずれも変化することなく、ホストマトリックスのBサイトにNiが組み込まれていることがわかる。
【0047】
図3は、金属複合酸化物(触媒)の放射光X線回折パターンを示す図である。図3に示すように、Niのドーピングにより、結晶構造の相転移が明確に引き起こされていることがわかる。なお、NiドープCMOのいくつかの回折ピークの消失は、x=0.2で結晶構造の変化が生じたことを示唆している。リートベルト精密解析によると、x=0.0では、三角対称の歪んだペロブスカイト構造、R3空間群を表示し、x≧0.2は立方対称、Im3空間群を表示した。x=0.1の場合、R3とIm3の両方の相が観察された。なお、不純物が存在するため、x≧0.5については調製しなかった。
【0048】
図4は、金属複合酸化物(触媒)のMnのKエッジ((a))及びNiのKエッジ((b))のXANESスペクトルを示す図である。図4に示すように、Niドーピングレベルに関係なく、Mnの状態は一定であった。そして、吸収エッジ位置がNiOよりも高く、Niの価電子状態はすべてのサンプルで「+3」になると推察される。なお、OのKエッジスペクトルは変化していない。このため、酸素発生能に関わる因子であるMnの状態及びO2pバンドセンターのいずれも変化していないと考えられる。
【0049】
各触媒10mg、アセチレンブラック(デンカ社製)2mg、5%ナフィオン(登録商標)溶液40μL、及び0.1mol/L KOH水溶液20μLを混合して懸濁液を得た。得られた懸濁液にテトラヒドロフラン1.94mLを添加し、30分間超音波処理して、均一な懸濁液である触媒インクを得た。
研磨したガラス状カーボン(GC)回転ディスク電極(RDE、北斗電工社製、直径5mm、0.196cm)に触媒インク10μLを滴下した後、室温で12時間真空乾燥して作用極を得た。そして、ポテンシオガルバノスタット(商品名「MPG-205-NUC」、Bio-Logic社製)に接続された、以下に示す構成の三電極セルを使用して電解操作を実施した。なお、線形掃引ボルタンメトリー(LSV)を前処理として実施し、電極を1,600rpmで回転させながら、電位1.2~1.8V、掃引速度5mV/sにて電流を計測した。また、すべての電気化学実験を窒素雰囲気で実施し、測定後のすべてのデータに対してiR補正(R~12Ω)を実行した。線形掃引ボルタンメトリーの測定結果(LSV曲線)((a))、ターフェル図((b))、及びMn(A’)-Mn(B)結合距離と電流密度の相関関係を示すグラフ((c))を図5に示す。
[三電極セル]:
・作用極:触媒被覆GC
・参照極:可逆水素電極(RHE)
・対極:Ptワイヤー
・電解液:0.1mol/L KOH水溶液
【0050】
図5(a)に示すように、触媒活性とNiドーピング量との間に相関関係があり、x=0.4で最良の活性を示すことがわかる。なお、OER活動の減少傾向は、xの減少に対応している。また、図5(b)に示すように、ターフェル勾配(傾き)は、x(Ni)によらず、いずれも約94mVdec-1であった。NiをドープしたCMOの触媒活性は、反応経路の変化ではなく、律速段階の反応速度の増加によることが示唆される。図5(c)に示すように、酸素発生の触媒活性は、Mn(A’)-Mn(B)結合距離と明確に相関していた。
【0051】
<アノードの製造>
(実施例1)
陽極基体として、沸点付近まで加熱した17.5%塩酸に6分間浸漬して化学エッチング処理したニッケル製のエクスパンドメッシュ(10cm×10cm、LW×3.7SW×0.9ST×0.8T)を用意した。このエクスパンドメッシュを、60メッシュのアルミナ粒子でブラスト処理(0.3MPa)した後、沸点付近まで加熱した20%塩酸に浸漬し6分間浸漬して化学エッチング処理した。化学エッチング処理後の陽極基体の表面に、リチウム含有ニッケル酸化物の前駆体となる成分を含有する水溶液を刷毛で塗布した後、80℃で15分間乾燥させた。次いで、酸素雰囲気下、600℃で15分間熱処理した。水溶液の塗布から熱処理までの処理を20回繰り返して、陽極基体の表面上に中間層(組成:Li0.5Ni1.5)が形成された中間体を得た。
【0052】
次に、製造例1で得た金属複合酸化物(触媒)(x=0.4)の触媒インクを使用し、前述の製造例1と同様の方法によって、中間層の表面上に触媒層(組成:CaMn6.6Ni0.412)が形成されたアノードを得た。
【0053】
得られたアノード、隔膜(商品名「Zirfon」、AGFA社製)、及びRuとPr酸化物からなる触媒層を形成した活性カソードを使用し、中性隔膜を用いた小型のゼロギャップ型電解セルを作製した。電極面積は19cmとした。電解セルを構成するアノード室とカソード室に電解液(25%KOH水溶液)を供給し、電流密度6kA/mでそれぞれ6時間電解した。このときの過電圧は、250mVであった。次いで、アノードとカソードを短絡状態(0kA/m)とし、15時間停止させた。電解から停止までの操作を1サイクルとするシャットダウン試験を行った。その結果、16回のシャットダウン試験において、電圧が安定に保たれることを確認した。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明のアルカリ水電解用アノードは、例えば、再生可能エネルギーなどの出力変動の大きい電力を動力源とする電解設備等を構成するアルカリ水電解用アノードとして好適である。
【符号の説明】
【0055】
2:導電性基体
4:中間層
6:触媒層
10:アルカリ水電解用アノード

図1
図2
図3
図4
図5