(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-06-10
(45)【発行日】2025-06-18
(54)【発明の名称】タンパク質結晶の製造方法及び結晶構造解析方法
(51)【国際特許分類】
G01N 23/20 20180101AFI20250611BHJP
C07K 14/01 20060101ALN20250611BHJP
C07K 19/00 20060101ALN20250611BHJP
C12N 1/21 20060101ALN20250611BHJP
C12N 15/35 20060101ALN20250611BHJP
C12N 15/62 20060101ALN20250611BHJP
C12P 21/02 20060101ALN20250611BHJP
【FI】
G01N23/20 ZNA
C07K14/01
C07K19/00
C12N1/21
C12N15/35
C12N15/62 Z
C12P21/02 C
(21)【出願番号】P 2022501101
(86)(22)【出願日】2021-02-22
(86)【国際出願番号】 JP2021006607
(87)【国際公開番号】W WO2021167104
(87)【国際公開日】2021-08-26
【審査請求日】2023-12-19
(31)【優先権主張番号】P 2020027386
(32)【優先日】2020-02-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和2年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、研究成果展開事業、「研究成果最適展開支援プログラム 産学共同(育成型)」「精製なし無細胞タンパク質結晶化による迅速構造解析」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】304021417
【氏名又は名称】国立大学法人東京科学大学
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100188558
【氏名又は名称】飯田 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100175824
【氏名又は名称】小林 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100152272
【氏名又は名称】川越 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100181722
【氏名又は名称】春田 洋孝
(72)【発明者】
【氏名】上野 隆史
(72)【発明者】
【氏名】安部 聡
(72)【発明者】
【氏名】小島 摩利子
【審査官】長谷川 強
(56)【参考文献】
【文献】SCHONHERR, R. et al.,Protein crystallization in living cells,Biol. Chem.,2018年,Vol.399, No.7,pp.751-772
【文献】DUSZENKO, M. et al.,In vivo protein crystallization in combination with highly brilliant radiation sources offers novel,Acta Crystallogr. F,2015年,Vol.71,pp.929-937
【文献】ECHEVERRY, F. et al.,Sequence analysis and expression of the polyhedrin gene of Choristoneura fumiferana cytoplasmic poly,Gene,1997年,Vol.198,pp.399-406
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 23/20
C07K 14/01
C07K 19/00
C12N 1/21
C12N 15/35
C12N 15/62
C12P 21/02
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
結晶性タンパク質の発現コンストラクトが導入された大腸菌で前記結晶性タンパク質を発現誘導し、前記大腸菌の内部に前記結晶性タンパク質の結晶が形成されるまでの所定時間、前記大腸菌をインキュベートし、その結果、前記結晶が製造される工程と、
前記結晶を、前記大腸菌ごとX線結晶構造解析し、分解能Åレベルで結晶構造を決定する工程と、
を含み、
前記結晶性タンパク質が、下記(i)~(iii)のいずれかに記載のタンパク質である、結晶構造解析方法。
(i)細胞質多角体タンパク質、核多角体タンパク質
、Crystalline inclusion protein A(CipA)、又は、Crystalline inclusion protein B(CipB)
(ii)前記(i)のタンパク質のアミノ酸配列において、1
~50個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、且つ結晶形成能を有するタンパク質
(iii)前記(i)又は(ii)のタンパク質と
5~50アミノ酸の標的ペプチドとの融合タンパク質
【請求項2】
前記結晶性タンパク質が、配列番号1に記載のアミノ酸配列の第66番目及び第67番目のアミノ酸の間、又は、配列番号1に記載のアミノ酸配列において1又は複数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、且つ結晶形成能を有するタンパク質の、配列番号1に記載のアミノ酸配列の第66番目に対応するアミノ酸及び第67番目に対応するアミノ酸の間に、
5~50アミノ酸の標的ペプチドが挿入された、融合タンパク質である、請求項
1に記載の結晶構造解析方法。
【請求項3】
前記所定時間が3~30時間である、請求項1
又は2に記載の結晶構造解析方法。
【請求項4】
前記インキュベートする工程を18~40℃で行う、請求項1~
3のいずれか一項に記載の結晶構造解析方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タンパク質結晶の製造方法及び結晶構造解析方法に関する。本願は、2020年2月20日に、日本に出願された特願2020-027386号に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
タンパク質の構造解析は、タンパク質の立体構造の決定、構造・機能相関の研究に重要である。タンパク質の構造解析を行うためには、良質なタンパク質結晶を作製することが必要である。タンパク質結晶の質が、タンパク質結晶構造解析の精度と信頼度に多大な影響を与える。このため、タンパク質の結晶化がタンパク質の構造解析の最大の律速段階となっている。
【0003】
タンパク質の結晶化には、タンパク質の濃度、純度、緩衝溶液の種類、pH、沈澱剤の種類と濃度、温度、有機溶媒、金属イオン、界面活性剤の種類と濃度等の多くの因子が関係する。このため、良質なタンパク質結晶を作製し、結晶構造解析を行うためには、多くの条件を検討する必要があり、多大な労力を必要とする(例えば、非特許文献1を参照。)。
【0004】
ところで、タンパク質分子の表面には、様々な機能性官能基をもつアミノ酸側鎖が存在し、特異な化学的特性を有している。そして、複数のタンパク質分子が規則正しく配列することにより、籠(ケージ)状の3次元構造(タンパク質ケージ)を形成する場合がある。
【0005】
例えば、多角体病ウイルスは、カイコ等の昆虫の細胞に感染するウイルスである。多角体病ウイルスは、感染後期に感染細胞内に多角体と呼ばれる封入体を全細胞タンパクの約半分に達するほど大量に作り、その中に多数のウイルス粒子を封入する。多角体タンパク質であるポリヘドリンは、上述したタンパク質ケージを形成するタンパク質の例である。
【0006】
タンパク質ケージを形成するタンパク質としては、ポリヘドリンタンパク質の他にも、DNA binding proteins from starved cells(DPS)、RNAを内包するウイルスのキャプシド等が知られている。これらのタンパク質から形成されたタンパク質ケージは、規則正しく配列して結晶を形成する場合がある。
【0007】
例えば、特許文献1には、少なくとも一部のアミノ酸配列を欠失した改変ポリヘドリンが多角体形成能を有することが記載されている。更に、この改変ポリヘドリンタンパク質から形成された多角体を用いて結晶構造解析を行うことができたことが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【非特許文献】
【0009】
【文献】芦田 玉一、X線構造解析を始めよう(9)タンパク質結晶構造解析入門、日本結晶学会誌、38, 378-388, 1996.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、タンパク質の結晶を簡便に作製する技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は以下の態様を含む。
[1]結晶性タンパク質の発現コンストラクトが導入された大腸菌で前記結晶性タンパク質を発現誘導し、前記大腸菌の内部に前記結晶性タンパク質の結晶が形成されるまでの所定時間、前記大腸菌をインキュベートする工程を含む、前記結晶の製造方法。
[2]前記大腸菌が非結晶性タンパク質の発現コンストラクトを更に導入されたものであり、前記インキュベートする工程において、前記結晶性タンパク質と共に前記非結晶性タンパク質を発現誘導し、前記大腸菌の内部に形成される前記結晶が、前記結晶性タンパク質及び前記非結晶性タンパク質の共結晶である、[1]に記載の製造方法。
[3]前記結晶性タンパク質が、下記(i)~(iii)のいずれかに記載のタンパク質である、[1]又は[2]に記載の製造方法。
(i)細胞質多角体タンパク質、核多角体タンパク質、カテプシンB、フェリチン、DNA-binding proteins from starved cells(DPS)、ルシフェラーゼ、reovirus nonstructural protein(μNS)、フソリンタンパク質(Fusolin)、Crystalline inclusion protein A(CipA)、又は、Crystalline inclusion protein B(CipB)
(ii)前記(i)のタンパク質のアミノ酸配列において、1又は複数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、且つ結晶形成能を有するタンパク質
(iii)前記(i)又は(ii)のタンパク質と標的ペプチドとの融合タンパク質
[4]前記結晶性タンパク質が、配列番号1に記載のアミノ酸配列の第66番目及び第67番目のアミノ酸の間、又は、配列番号1に記載のアミノ酸配列において1又は複数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、且つ結晶形成能を有するタンパク質の、配列番号1に記載のアミノ酸配列の第66番目に対応するアミノ酸及び第67番目に対応するアミノ酸の間に、標的ペプチドが挿入された、融合タンパク質である、[1]~[3]のいずれかに記載の製造方法。
[5]前記所定時間が3~30時間である、[1]~[4]のいずれかに記載の製造方法。
[6]前記インキュベートする工程を18~40℃で行う、[1]~[5]のいずれかに記載の製造方法。
[7][1]~[6]のいずれかに記載の製造方法により製造された結晶を、前記大腸菌ごとX線結晶構造解析する工程を含む、結晶構造解析方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、タンパク質の結晶を簡便に作製する技術を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】(a)及び(b)は、実験例1において、CPV由来のポリヘドリンの結晶(多角体)を菌体内部で形成させた大腸菌の光学顕微鏡写真である。(c)及び(d)は、実験例1において、NPV由来のポリヘドリンの結晶を菌体内部で形成させた大腸菌の光学顕微鏡写真である。
【
図2】(a)は、実験例1において、CPV由来のポリヘドリンの結晶を走査型電子顕微鏡で観察した結果を示す写真である。(b)は、実験例1において、NPV由来のポリヘドリンの結晶を走査型電子顕微鏡で観察した結果を示す写真である。
【
図3】実験例1におけるSDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動(PAGE)の結果を示す写真である。
【
図4】(a)及び(b)は、実験例1におけるMALDI-TOF MS解析の結果を示すグラフである。
【
図5】(a)~(c)は、実験例2において、ポリヘドリン変異体の結晶を走査型電子顕微鏡で観察した結果を示す写真である。
【
図6】(a)~(c)は、実験例2におけるMALDI-TOF MS解析の結果を示すグラフである。
【
図7】(a)~(f)は、実験例3において、ポリヘドリンの結晶を走査型電子顕微鏡で観察した結果を示す写真である。
【
図8】実験例4において、CPV由来のポリヘドリンの結晶を、大腸菌のまま構造解析した結果を示す図である。
【
図9】(a)は、実験例4において、大腸菌で作製したポリヘドリンの結晶の立体構造と、昆虫細胞で作製したポリヘドリンの結晶の立体構造を重ねた図である。(b)及び(c)は、大腸菌で作製したポリヘドリンの結晶の立体構造解析の結果を示す画像である。
【
図10】(a)及び(b)は、実験例5において撮影した共焦点蛍光顕微鏡写真である。
【
図11】(a)上は、実験例6において、ポリヘドリン変異体の結晶を走査型電子顕微鏡で観察した結果を示す写真であり、下は、ポリヘドリン変異体の結晶を構造解析した結果を示す図である。(b)上は、実験例6において、ポリヘドリン変異体の結晶を走査型電子顕微鏡で観察した結果を示す写真であり、下は、ポリヘドリン変異体の結晶を構造解析した結果を示す図である。
【
図12】(a)は、実験例7において、CipAの結晶を菌体内部で形成させた大腸菌の光学顕微鏡写真である。(b)は、実験例7において、CipAの結晶を走査型電子顕微鏡で観察した結果を示す写真である。
【
図13】(a)左及び(b)左は、実験例7において、融合タンパク質の結晶を菌体内部で形成させた大腸菌の光学顕微鏡写真である。(a)右及び(b)右は、実験例7において、融合タンパク質の結晶を走査型電子顕微鏡で観察した結果を示す写真である。(c)は、実験例7において、回収した融合タンパク質の結晶をMALDI-TOF MS解析した結果を示すグラフである。
【
図14】(a)は、実験例9において、大腸菌体内部で融合タンパク質の結晶を形成させ、回収した結晶の光学顕微鏡写真と、GFPの蛍光を観察した写真をマージした画像である。(b)は、実験例9において、融合タンパク質の結晶を走査型電子顕微鏡で観察した結果を示す写真である。(c)は、実験例9において、回収した融合タンパク質の結晶をMALDI-TOF MS解析した結果を示すグラフである。
【
図15】(a)はCRBNタンパク質のサリドマイド結合ドメインの立体構造を示す図である。(b)上及び(c)上は、実験例10において、大腸菌内で合成し、回収した融合タンパク質の結晶の光学顕微鏡写真である。(b)下及び(c)下は、実験例10において、融合タンパク質の結晶を走査型電子顕微鏡で観察した結果を示す写真である。
【
図16】(a)及び(c)は、実験例11において、細胞質多角体タンパク質の断片の結晶を走査型電子顕微鏡で観察した結果を示す写真である。(b)及び(d)は、実験例11において、回収した細胞質多角体タンパク質の断片の結晶をMALDI-TOF MS解析した結果を示すグラフである。
【
図17】(a)及び(c)は、実験例11において、細胞質多角体タンパク質の断片の結晶を走査型電子顕微鏡で観察した結果を示す写真である。(b)及び(d)は、実験例11において、回収した細胞質多角体タンパク質の断片の結晶をMALDI-TOF MS解析した結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
[タンパク質結晶の製造方法]
1実施形態において、本発明は、結晶性タンパク質の発現コンストラクトが導入された大腸菌で前記結晶性タンパク質を発現誘導し、前記大腸菌の内部に前記結晶性タンパク質の結晶が形成されるまでの所定時間、前記大腸菌をインキュベートする工程を含む、前記結晶の製造方法を提供する。
【0015】
結晶性タンパク質としては、大腸菌内で結晶を形成するタンパク質であれば特に限定されない。本来結晶を形成しない非結晶性タンパク質であっても、タンパク質の化学修飾や変異体作成、融合タンパク質などの手法により、大腸菌内で結晶を形成可能となった場合、当該タンパク質も本明細書における結晶性タンパク質に含まれる。
【0016】
より限定的な結晶性タンパク質としては、下記(i)~(iii)のいずれかに記載のタンパク質が挙げられる。
(i)細胞質多角体タンパク質、核多角体タンパク質、カテプシンB、フェリチン、DPS、ルシフェラーゼ、μNS、Fusolin、CipA又はCipB、
(ii)前記(i)のタンパク質のアミノ酸配列において、1又は複数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、且つ結晶形成能を有するタンパク質
(iii)前記(i)又は(ii)のタンパク質と標的ペプチドとの融合タンパク質
【0017】
核多角体タンパク質とは、核多角体病の病原ウイルスである核多角体病ウイルス(Nucleopolyhedrovirus、NPV)由来のポリヘドリンタンパク質である。また、細胞質多角体タンパク質とは、細胞質多角体病の病原ウイルスである細胞質多角体病ウイルス(Cypovirus、CPV)由来のポリヘドリンタンパク質である。配列番号2に細胞質多角体タンパク質のアミノ酸配列を示す。
【0018】
カテプシンBは、エンドペプチダーゼ活性とエキソペプチダーゼ活性を有するプロテアーゼである。カテプシンBは、昆虫培養細胞内で結晶を形成するタンパク質である。配列番号4にブルーストリパノソーマ由来カテプシンBのアミノ酸配列を示す。
【0019】
フェリチンは、藻類、細菌、植物、ヒト、非ヒト動物を含むほぼ全ての生物が合成するタンパク質である。フェリチンは24量体からなるケージを形成し、鉄イオンを内包することにより、生体内鉄貯蔵を担う。外径は約12nmである。
【0020】
フェリチンとしては特に限定されず、ウマ由来フェリチン、ヒト由来フェリチン等が挙げられる。配列番号5にウマ由来フェリチンL鎖のアミノ酸配列を示し、配列番号6にヒト由来フェリチンL鎖のアミノ酸配列を示す。
【0021】
DPSは、多くのバクテリアが合成する、フェリチンスーパーファミリーに属するタンパク質である。DPSは12量体からなるケージを形成し、染色体DNAを内包することにより、染色体DNAを酸化ストレス等から守る。外径は約9nmである。配列番号7に大腸菌由来DPSのアミノ酸配列を示す。
【0022】
ルシフェラーゼは発光バクテリアやホタルなどの生物発光において、発光物質が光を放つ化学反応を触媒する作用を持つ酵素の総称である。ルシフェラーゼは、昆虫細胞内で結晶を形成するタンパク質である。配列番号8にホタル由来ルシフェラーゼのアミノ酸配列を示し、配列番号9にウミシイタケ由来ルシフェラーゼのアミノ酸配列を示す。
【0023】
μNSは、結晶性を有するレオウイルスの非構造タンパク質である。配列番号10にレオウイルス由来μNSのアミノ酸配列を示す。
【0024】
Fusolinは、昆虫ポックスウイルスが宿主細胞内に形成する、結晶性タンパク質封入体の構成タンパク質である。配列番号11に昆虫ポックスウイルス由来Fusolinのアミノ酸配列を示す。
【0025】
CipA及びCipBは、昆虫病原性細菌のPhotorhabdus luminescensが細胞質内に形成する結晶性タンパク質封入体の構成タンパク質である。配列番号16にCipAのアミノ酸配列を示し、配列番号17にCipBのアミノ酸配列を示す。
【0026】
結晶性タンパク質は、結晶形成能を有する限り、上述した、細胞質多角体タンパク質、核多角体タンパク質、カテプシンB、フェリチン、DPS、ルシフェラーゼ、μNS、Fusolin、CipA、CipB等に対して変異を有する変異体であってもよい。より具体的には、結晶性タンパク質は、例えば、上述した配列番号2~11、16、17に記載のアミノ酸配列において、1又は複数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなるタンパク質であってもよい。
【0027】
ここで、1又は複数個とは、例えば1~50個であってもよいし、例えば1~40個であってもよいし、例えば1~30個であってもよいし、例えば1~20個であってもよいし、例えば1~10個であってもよいし、例えば1~5個であってもよいし、例えば1~3個であってもよい。実施例において後述するように、発明者らは、ポリヘドリンタンパク質の38アミノ酸を欠失させても結晶形成能を有することを確認している。
【0028】
また、結晶性タンパク質は、結晶形成能を有する限り、上述した、タンパク質と標的ペプチドとの融合タンパク質であってもよい。すなわち、結晶性タンパク質は、上述した、細胞質多角体タンパク質、核多角体タンパク質、カテプシンB、フェリチン、DPS、ルシフェラーゼ、μNS、Fusolin、CipA、CipB又はこれらの結晶性タンパク質の変異体と、標的ペプチドとの融合タンパク質であってもよい。
【0029】
ここで、標的ペプチドとは、例えば、立体構造を解析する対象であるペプチドであってもよい。後述するように、上述した結晶性タンパク質と標的ペプチドとの融合タンパク質である結晶性タンパク質を、大腸菌で発現させて結晶を形成し、前記結晶性タンパク質の結晶を前記大腸菌ごとX線結晶構造解析することにより、標的ペプチドの立体構造を簡便に解析することができる。
【0030】
この場合、標的ペプチドは、立体構造を解析する需要のある任意のペプチドであってよい。標的ペプチドのアミノ酸の長さは、結晶性タンパク質が、結晶形成能を維持することができる観点から、例えば5~50アミノ酸程度であることが好ましい。
【0031】
結晶性タンパク質の変異体と、標的ペプチドとの融合タンパク質において、結晶性タンパク質が、配列番号1に記載のアミノ酸配列であり、配列番号1に記載のアミノ酸配列の第66番目及び第67番目のアミノ酸の間に、標的ペプチドが挿入された、融合タンパク質であってもよい。
【0032】
あるいは、結晶性タンパク質の変異体と、標的ペプチドとの融合タンパク質において、結晶性タンパク質が、配列番号1に記載のアミノ酸配列の変異タンパク質であってもよい。より具体的には、配列番号1に記載のアミノ酸配列の変異タンパク質は、配列番号1に記載のアミノ酸配列において1又は複数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、且つ結晶形成能を有するタンパク質であってもよい。ここで、1又は複数個については上述したものと同様である。
【0033】
そして、融合タンパク質は、配列番号1に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質の変異タンパク質において、配列番号1に記載のアミノ酸配列の第66番目に対応するアミノ酸及び第67番目に対応するアミノ酸の間に、標的ペプチドが挿入された、融合タンパク質であってもよい。
【0034】
配列番号1に記載のアミノ酸配列の第66番目に対応するアミノ酸及び第67番目に対応するアミノ酸は、例えば、ClastalW等のソフトウエアを用いて配列番号1に記載のアミノ酸配列と変異タンパク質のアミノ酸配列をアラインメントすることにより特定することができる。
【0035】
本実施形態の製造方法において、前記大腸菌が非結晶性タンパク質の発現コンストラクトを更に導入されたものであり、前記インキュベートする工程において、前記結晶性タンパク質と共に前記非結晶性タンパク質を発現誘導し、前記大腸菌の内部に形成される前記結晶が、前記結晶性タンパク質及び前記非結晶性タンパク質の共結晶であってもよい。
【0036】
本明細書において、非結晶性タンパク質とは、通常、大腸菌内で結晶を形成しないタンパク質を意味する。非結晶性タンパク質としては、分子量が1,000~100,000程度のタンパク質であれば特に制限なく用いることができる。
【0037】
例えば、非結晶性タンパク質として、膜タンパク質等の不安定なタンパク質を用いて共結晶を製造してもよい。これにより、膜タンパク質等の不安定なタンパク質を共結晶として容易に精製することができる。また、膜タンパク質等の不安定なタンパク質を共結晶の形態で安定的に保存することができる。
【0038】
非結晶性タンパク質は1種を単独で用いてもよいし、2種以上を混合して用いてもよい。また、非結晶性タンパク質を2種以上用いる場合、それらの非結晶性タンパク質は複合体を形成してもよい。
【0039】
また、非結晶性タンパク質は、結晶性タンパク質の一部との融合タンパク質であってもよい。これにより、非結晶性タンパク質が、結晶性タンパク質の結晶に取り込まれやすくなり、共結晶が形成されやすくなる傾向にある。
【0040】
上述した結晶性タンパク質及び非結晶性タンパク質の大腸菌での発現方法は、特に限定されず、通常行われる方法で発現させればよい。例えば、結晶性タンパク質又は非結晶性タンパク質の発現コンストラクトが導入された大腸菌を培地中でインキュベートすることにより、結晶性タンパク質又は非結晶性タンパク質を発現誘導してもよい。
【0041】
大腸菌への発現コンストラクトの導入は、例えば、結晶性タンパク質又は非結晶性タンパク質の発現ベクターをプラスミド等の形態で大腸菌に導入することにより行ってもよいし、大腸菌のゲノム中に結晶性タンパク質又は非結晶性タンパク質の発現コンストラクトを挿入することにより行ってもよい。
【0042】
また、結晶性タンパク質又は非結晶性タンパク質の発現誘導は、結晶性タンパク質又は非結晶性タンパク質の発現コンストラクトの特性に応じた適宜の方法により行うことができる。例えば、ラクトースオペロンを利用した発現制御システムを利用し、培地中にイソプロピルβ-D-チオガラクトピラノシド(IPTG)を添加することで結晶性タンパク質又は非結晶性タンパク質の発現誘導を行ってもよい。
【0043】
あるいは、Tet-on/Tet-offシステムによる発現制御システムを利用し、培地中にテトラサイクリン又はその誘導体を添加すること、あるいは培地からテトラサイクリン又はその誘導体を除去することにより結晶性タンパク質又は非結晶性タンパク質の発現誘導を行ってもよい。
【0044】
あるいは、発現誘導制御を行わず、大腸菌の培養開始と共に結晶性タンパク質又は非結晶性タンパク質の発現が開始される態様であってもよい。
【0045】
本実施形態の製造方法では、結晶性タンパク質又は非結晶性タンパク質の発現コンストラクトが導入された大腸菌で結晶性タンパク質又は非結晶性タンパク質を発現誘導する。発現誘導は、例えば、大腸菌のOD600が0.6~0.8に達した後に行うことが好ましい。
【0046】
大腸菌の培養は、約10mL程度の少量の培地で行ってもよい。実施例において後述するように、発明者らは、このような少量の培地であっても、タンパク質の結晶を大量に作製することができ、大腸菌ごとX線結晶構造解析することにより、タンパク質の構造解析を行うことができることを明らかにした。
【0047】
続いて、結晶性タンパク質又は非結晶性タンパク質を発現誘導した後、大腸菌の内部に結晶性タンパク質の結晶、又は、結晶性タンパク質及び非結晶性タンパク質の共結晶が形成されるまでの所定時間、大腸菌をインキュベートする。ここで、所定時間は、3~30時間であってもよく、例えば3~24時間であってもよい。実施例において後述するように、発明者らは、わずか20~24時間インキュベートして結晶を形成させた後に、大腸菌ごとX線結晶構造解析することにより、タンパク質の構造解析を行うことができることを明らかにした。
【0048】
また、結晶性タンパク質の結晶、又は、結晶性タンパク質及び非結晶性タンパク質の共結晶が形成されるまでインキュベートするときの温度は18~40℃であってもよく、25~38℃であってもよく、約30℃であってもよい。結晶性タンパク質、又は、結晶性タンパク質及び非結晶性タンパク質の共結晶の結晶が形成されるまでインキュベートするときの温度が上記範囲であると、形成されるタンパク質結晶の質が向上する傾向にある。
【0049】
[結晶構造解析方法]
1実施形態において、本発明は、上述した製造方法により製造された結晶を、大腸菌ごとX線結晶構造解析する工程を含む、結晶構造解析方法を提供する。
【0050】
実施例において後述するように、発明者らは、意外なことに、菌体内部でタンパク質結晶を形成させた大腸菌を、大腸菌ごとX線結晶構造解析することにより、タンパク質の構造解析を行うことができることを明らかにした。すなわち、タンパク質結晶の精製を行わなくても大腸菌ごとX線結晶構造解析することが可能である。本実施形態の方法によれば、従来技術と比較して、タンパク質の構造解析を格段に簡便に行うことができる。
【実施例】
【0051】
以下、実施例により本発明を説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0052】
[実験例1]
(大腸菌内でのタンパク質の結晶化1)
CPV由来のポリヘドリン(アミノ酸配列を配列番号2に示す。)をコードする遺伝子、及びNPV由来のポリヘドリンをコードする遺伝子を、それぞれpET29bベクター(メルクミリポア社)に挿入し、発現ベクターを作製した。続いて、各発現ベクターをそれぞれ大腸菌BL21株に形質転換した。
【0053】
続いて、形質転換した大腸菌のそれぞれをLB培地10mLに植菌し、37℃でOD600が0.6~0.8になるまで培養した。続いて、IPTGを終濃度0.5mMとなるように添加し、ポリヘドリンを発現誘導した。続いて、30℃で20~24時間培養し、ポリヘドリンの結晶を形成させた。
【0054】
図1(a)及び(b)は、CPV由来のポリヘドリンの結晶(多角体)を菌体内部で形成させた大腸菌の光学顕微鏡写真である。また、
図1(c)及び(d)は、NPV由来のポリヘドリンの結晶を菌体内部で形成させた大腸菌の光学顕微鏡写真である。
図1(a)~(d)中、スケールバーは10μmを示す。
【0055】
続いて、各大腸菌を遠心分離で回収した。続いて、大腸菌を超音波破砕し、遠心分離によりポリヘドリンの結晶を回収した。
図2(a)は、CPV由来のポリヘドリンの結晶を走査型電子顕微鏡で観察した結果を示す写真である。
図2(b)は、NPV由来のポリヘドリンの結晶を走査型電子顕微鏡で観察した結果を示す写真である。
図2(a)及び(b)中、スケールバーは2μmを示す。その結果、いずれの試料においても立方体状の結晶が観察され、大腸菌内で多角体結晶を形成できることが確認された。
【0056】
図3は、回収したCPV由来のポリヘドリンの結晶及びNPV由来のポリヘドリンの結晶をSDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動(PAGE)に供し、クマシーブリリアントブルー染色した結果を示す写真である。
図3中、「M」は分子量マーカーを示し、「CPV(WT)」は、対照としてSDS-PAGEに供した、昆虫細胞Sf21株で発現させたCPV由来のポリヘドリンの結晶を示す。
【0057】
その結果、大腸菌で発現させた、CPV由来のポリヘドリン及びNPV由来のポリヘドリンが、いずれも予想される分子量を有していることが確認された。
【0058】
図4(a)及び(b)は、回収したCPV由来のポリヘドリンの結晶及びNPV由来のポリヘドリンの結晶をMALDI-TOF MS解析した結果を示すグラフである。
図4(a)はCPV由来のポリヘドリンの結果を示し、
図4(b)はNPV由来のポリヘドリンの結果を示す。
図4(a)及び(b)中、「Obs」は測定された分子量を示し、「Cal」は予測される全長タンパク質の分子量を示す。
【0059】
その結果、CPV由来のポリヘドリン及びNPV由来のポリヘドリンが、予想される全長の分子量を有していることが確認された。
【0060】
[実験例2]
(大腸菌内でのタンパク質の結晶化2)
CPV由来のポリヘドリン変異体を実験例1と同様にして大腸菌で発現させた。変異体としては、配列番号2に示すアミノ酸配列において、29番目のアスパラギン(N29)をセリンに置換した変異体(以下、「N29S」といい、アミノ酸配列を配列番号12に示す。)、配列番号2に示すアミノ酸配列において、192番目のグリシン(G192)、193番目のセリン(S193)、194番目のアラニン(A194)を欠失したアミノ酸配列からなる変異体(以下、「Δ3」といい、アミノ酸配列を配列番号13に示す。)、配列番号2に示すアミノ酸配列において、67番目のアラニン(A67)~104番目のアラニン(A104)を欠失したアミノ酸配列からなる変異体(以下、「Δ38」といい、アミノ酸配列を配列番号1に示す。)を使用した。CPV由来のポリヘドリン変異体をコードする遺伝子を、それぞれpET29bベクター(メルクミリポア社)に挿入し、発現ベクターを作製した。続いて、各発現ベクターをそれぞれ大腸菌BL21株に形質転換した。
【0061】
続いて、形質転換した大腸菌のそれぞれをLB培地10mLに植菌し、37℃でOD600が0.6~0.8になるまで培養した。続いて、IPTGを終濃度0.5mMとなるように添加し、ポリヘドリン変異体を発現誘導した。続いて、30℃で20~24時間培養し、ポリヘドリン変異体の結晶を形成させた。
【0062】
続いて、各大腸菌を遠心分離で回収した。続いて、大腸菌を超音波破砕し、遠心分離によりポリヘドリン変異体の結晶を回収した。
図5(a)~(c)は、ポリヘドリン変異体の結晶を走査型電子顕微鏡で観察した結果を示す写真である。
図5(a)は、変異体(N29S)の結晶を走査型電子顕微鏡で観察した結果を示す写真であり、
図5(b)は、変異体(Δ3)の結晶を走査型電子顕微鏡で観察した結果を示す写真であり、
図5(c)は、変異体(Δ38)の結晶を走査型電子顕微鏡で観察した結果を示す写真である。
図5(a)~(c)中、スケールバーは2μmを示す。その結果、いずれの試料においても結晶が観察され、大腸菌内でポリヘドリン変異体の結晶を形成できることが確認された。
【0063】
図6(a)~(c)は、回収したポリヘドリン変異体の結晶をMALDI-TOF MS解析した結果を示すグラフである。
図6(a)は変異体(N29S)の結果を示し、
図6(b)は変異体(Δ3)の結果を示し、
図6(c)は変異体(Δ38)の結果を示す。その結果、各ポリヘドリン変異体が、予想される全長の分子量を有していることが確認された。
【0064】
[実験例3]
(大腸菌内でのタンパク質の結晶化3)
CPV由来のポリヘドリン(アミノ酸配列を配列番号2に示す。)を実験例1と同様にして大腸菌BL21株で発現させ、結晶を形成した。ここで、結晶化の温度を30℃又は37℃に設定した。
【0065】
具体的には、まず、形質転換した大腸菌をLB培地10mLに植菌し、37℃でOD600が0.6~0.8になるまで培養した。続いて、IPTGを終濃度0.5mMとなるように添加し、ポリヘドリンを発現誘導した。続いて、30℃又は37℃で20~24時間培養し、ポリヘドリンの結晶を形成させた。
【0066】
続いて、各大腸菌を遠心分離で回収した。続いて、大腸菌を超音波破砕し、遠心分離によりポリヘドリンの結晶を回収した。
図7(a)~(c)は、30℃で結晶化したポリヘドリンの結晶を走査型電子顕微鏡で観察した結果を示す写真である。また、
図7(d)~(f)は、37℃で結晶化したポリヘドリンの結晶を走査型電子顕微鏡で観察した結果を示す写真である。その結果、いずれの温度でもポリヘドリンを結晶化することができることが明らかとなった。また、より低温で結晶化することにより、ポリヘドリンの結晶の質が向上する傾向が認められた。
【0067】
[実験例4]
(ポリヘドリンの結晶の構造解析)
実験例1で作製した、CPV由来のポリヘドリン(アミノ酸配列を配列番号2に示す。)の発現ベクターを有する大腸菌BL21株をLB培地10mLに植菌し、37℃でOD600が0.6~0.8になるまで培養した。続いて、IPTGを終濃度0.5mMとなるように添加し、ポリヘドリンを発現誘導した。続いて、30℃で20~24時間培養し、ポリヘドリンの結晶を形成させた。
【0068】
続いて、この大腸菌を菌体ごとX線結晶構造解析に供した。X線結晶構造解析には、SPring-8 BL32XUを使用した。その結果、分解能1.8Åでの構造解析に成功した。
図8は、CPV由来のポリヘドリンの結晶を、大腸菌のまま構造解析した結果を示す図である。
【0069】
続いて、実験例1と同様にして、大腸菌から精製したポリヘドリンの結晶を用いてX線結晶構造解析を行った。X線結晶構造解析には、SPring-8 BL32XUを使用した。また、比較のために、昆虫細胞Sf21株で作製し、精製したポリヘドリンの結晶についても同様にX線結晶構造解析を行った。その結果、精製した結晶は、分解能1.9Åでの構造解析に成功した。
【0070】
図9(a)は、大腸菌で作製したポリヘドリンの結晶の立体構造と、昆虫細胞で作製したポリヘドリンの結晶の立体構造を重ねた図である。その結果、両者が一致することが確認された。
【0071】
図9(b)及び(c)は、大腸菌で作製したポリヘドリンの結晶の立体構造解析の結果を示す画像である。
図9(b)及び(c)中、「GTP」はグアノシン三リン酸を示し、「ATP」はアデノシン三リン酸を示し、「CTP」はシトシン三リン酸を示す。その結果、
図9(b)及び(c)に示すように、大腸菌で作製したポリヘドリンの結晶の立体構造には、核酸が結合していることが確認された。この結果は、大腸菌で作製したポリヘドリンの結晶が、昆虫細胞で作製したポリヘドリンの結晶と同等であることを更に支持するものである。
【0072】
[実験例5]
(大腸菌内でのタンパク質の結晶化4)
CPV由来のポリヘドリン(アミノ酸配列を配列番号2に示す。)をコードする遺伝子を、pET29bベクター(メルクミリポア社)に挿入し、発現ベクターを作製した。また、非結晶性タンパク質である緑色蛍光タンパク質(sfGFP)をコードする遺伝子を、pET21cベクター(メルクミリポア社)に挿入し、発現ベクターを作製した。
【0073】
sfGFPは、CPV由来のポリヘドリンのH1領域(アミノ酸配列を配列番号14に示す。)とsfGFPとの融合タンパク質(アミノ酸配列を配列番号15に示す。)の形態で用いた。続いて、各発現ベクターを混合して大腸菌BL21株に形質転換した。
【0074】
続いて、形質転換した大腸菌をLB培地10mLに植菌し、37℃でOD600が0.6~0.8になるまで培養した。続いて、IPTGを終濃度0.5mMとなるように添加し、ポリヘドリン及びsfGFPを発現誘導し、共発現させた。続いて、30℃で20~24時間培養し、ポリヘドリン及びsfGFPの共結晶を形成させた。
【0075】
続いて、各大腸菌を遠心分離で回収した。続いて、大腸菌を超音波破砕し、遠心分離によりポリヘドリンの結晶を回収した。
図10(a)及び(b)は、30℃で結晶化したポリヘドリン及びsfGFPの共結晶を共焦点蛍光顕微鏡で観察した結果を示す代表的な写真である。
図10(a)及び(b)では、明視野画像とsfGFPの蛍光画像を重ね合わせて表示した。
図10(a)及び(b)中、sfGFPの蛍光が検出された領域をドットで示す。
【0076】
その結果、形成された結晶がsfGFPの蛍光を発することが確認された。この結果は、ポリヘドリン及びsfGFPの共結晶が形成されたことを示す。
【0077】
[実験例6]
(ポリヘドリン変異体の結晶の構造解析)
実験例2で精製した、CPV由来のポリヘドリン変異体(Δ3)の結晶、及び、CPV由来のポリヘドリン変異体(Δ38)の結晶のX線結晶構造解析を行った。X線結晶構造解析には、SPring-8 BL32XUを使用した。
【0078】
図11(a)上は、変異体(Δ3)の結晶を走査型電子顕微鏡で観察した結果を示す写真であり、
図11(a)下は、変異体(Δ3)の結晶を構造解析した結果を示す図である。その結果、精製した変異体(Δ3)の結晶は、分解能2.3Åでの構造解析に成功した。
【0079】
また、
図11(b)上は、変異体(Δ38)の結晶を走査型電子顕微鏡で観察した結果を示す写真であり、
図11(b)下は、変異体(Δ38)の結晶を構造解析した結果を示す図である。その結果、精製した変異体(Δ38)の結晶は、分解能2.5Åでの構造解析に成功した。
【0080】
[実験例7]
(大腸菌内でのタンパク質の結晶化5)
Crystalline inclusion protein A(CipA)をコードする遺伝子を、pET29bベクター(メルクミリポア社)に挿入し、発現ベクターを作製した。続いて、発現ベクターを大腸菌BL21株に形質転換した。
【0081】
続いて、形質転換した大腸菌をLB培地10mLに植菌し、37℃でOD
600が0.6~0.8になるまで培養した。続いて、IPTGを終濃度0.5mMとなるように添加し、CipAを発現誘導した。続いて、30℃で20~24時間培養し、CipAの結晶を形成させた。
図12(a)は、CipAの結晶を菌体内部で形成させた大腸菌の光学顕微鏡写真である。スケールバーは10μmを示す。
【0082】
続いて、大腸菌を遠心分離で回収した。続いて、大腸菌を超音波破砕し、遠心分離によりCipAの結晶を回収した。
図12(b)は、CipAの結晶を走査型電子顕微鏡で観察した結果を示す写真である。スケールバーは2μmを示す。
【0083】
続いて、精製したCipAの結晶のX線結晶構造解析を行った。X線結晶構造解析には、SPring-8 BL32XUを使用した。その結果、分解能2.8Åで回折データを取得することができた。
【0084】
以上の結果から、大腸菌内でCipAの結晶を形成できることが明らかとなった。
【0085】
[実験例8]
(大腸菌内でのタンパク質の結晶化6)
ユビキチン(以下、「Ubq」という場合がある。)と細胞質多角体タンパク質(以下、「PhM」という場合がある。)の融合タンパク質をコードする遺伝子を、pET29bベクター(メルクミリポア社)に挿入し、発現ベクターを作製した。
【0086】
UbqがN末端側に位置する融合タンパク質(以下、「Ubq-PhM」という場合がある。)及びPhMがN末端側に位置する融合タンパク質(以下、「PhM-Ubq」という場合がある。)の2種類の融合タンパク質について発現ベクターを作製した。Ubq-PhM及びPhM-Ubqのいずれにおいても、UbqとPhMの間にリンカー「GGGS(配列番号18)」を挿入した。Ubq-PhMのアミノ酸配列を配列番号19に示し、PhM-Ubqのアミノ酸配列を配列番号20に示す。
【0087】
続いて、各発現ベクターを大腸菌BL21株に形質転換した。続いて、形質転換した各大腸菌をLB培地10mLにそれぞれ植菌し、37℃でOD600が0.6~0.8になるまで培養した。続いて、IPTGを終濃度0.5mMとなるように添加し、Ubq-PhM及びPhM-Ubqをそれぞれ発現誘導した。続いて、30℃で20~24時間培養し、Ubq-PhM及びPhM-Ubqの結晶をそれぞれ形成させた。
【0088】
図13(a)左は、Ubq-PhMの結晶を菌体内部で形成させた大腸菌の光学顕微鏡写真であり、
図13(b)左は、PhM-Ubqの結晶を菌体内部で形成させた大腸菌の光学顕微鏡写真である。スケールバーは10μmを示す。
【0089】
続いて、各大腸菌を遠心分離で回収した。続いて、各大腸菌を超音波破砕し、遠心分離によりUbq-PhM及びPhM-Ubqの結晶をそれぞれ回収した。
図13(a)右は、Ubq-PhMの結晶を走査型電子顕微鏡で観察した結果を示す写真であり、
図13(b)右は、PhM-Ubqの結晶を走査型電子顕微鏡で観察した結果を示す写真である。スケールバーは2μmを示す。
【0090】
図13(c)は、回収したUbq-PhM及びPhM-Ubqの結晶をそれぞれMALDI-TOF MS解析した結果を示すグラフである。
図13(c)上はUbq-PhMの結果を示し、
図13(c)下はPhM-Ubqの結果を示す。
図13(c)中、「Cal」は予測される各融合タンパク質の分子量を示す。その結果、Ubq-PhM及びPhM-Ubqのそれぞれが、予想される分子量を有していることが確認された。
【0091】
以上の結果から、大腸菌内でUbq-PhM及びPhM-Ubqの結晶を形成できることが明らかとなった。
【0092】
[実験例9]
(大腸菌内でのタンパク質の結晶化7)
緑色蛍光タンパク質(以下、「GFP」という場合がある。)と細胞質多角体タンパク質(以下、「PhM」という場合がある。)の融合タンパク質をコードする遺伝子を、pET29bベクター(メルクミリポア社)に挿入し、発現ベクターを作製した。
【0093】
作製した融合タンパク質は、GFPがN末端側に位置していた(以下、「GFP-PhM」という場合がある。)GFPとPhMの間にはリンカー「GGGS(配列番号18)」を挿入した。GFP-PhMのアミノ酸配列を配列番号21に示す。
【0094】
続いて、発現ベクターを大腸菌BL21株に形質転換した。続いて、形質転換した大腸菌をLB培地10mLにそれぞれ植菌し、37℃でOD600が0.6~0.8になるまで培養した。続いて、IPTGを終濃度0.5mMとなるように添加し、GFP-PhMを発現誘導した。続いて、30℃で20~24時間培養し、GFP-PhMの結晶をそれぞれ形成させた。
【0095】
続いて、大腸菌を遠心分離で回収した。続いて、大腸菌を超音波破砕し、遠心分離によりGFP-PhMの結晶を回収した。
【0096】
図14(a)は、回収したGFP-PhMの結晶の光学顕微鏡写真と、GFPの蛍光を観察した写真をマージした画像である。スケールバーは10μmを示す。
図14(b)は、GFP-PhMの結晶を走査型電子顕微鏡で観察した結果を示す写真である。スケールバーは5μmを示す。
【0097】
図14(c)は、回収したGFP-PhMの結晶をMALDI-TOF MS解析した結果を示すグラフである。
図14(c)中、「SfGFP-WTPhC
2+」はSfGFP-WTPhC(GFP-PhM)の2価イオンを示し、「SfGFP-WTPhC
+」はSfGFP-WTPhC(GFP-PhM)の1価イオンを示す。また、「Cal」は予測される融合タンパク質の分子量を示す。その結果、GFP-PhMが、予想される分子量を有していることが確認された。
【0098】
以上の結果から、大腸菌内でGFP-PhMの結晶を形成できることが明らかとなった。
【0099】
[実験例10]
(大腸菌内でのタンパク質の結晶化8)
セレブロン(CRBN)タンパク質のサリドマイド結合ドメイン(以下、「TBD」という場合がある。)と細胞質多角体タンパク質(以下、「PhM」という場合がある。)の融合タンパク質をコードする遺伝子を、pET29bベクター(メルクミリポア社)に挿入し、発現ベクターを作製した。
【0100】
TBDがN末端側に位置する融合タンパク質(以下、「TBD-PhM」という場合がある。)及びPhMがN末端側に位置する融合タンパク質(以下、「PhM-TBD」という場合がある。)の2種類の融合タンパク質について発現ベクターを作製した。TBD-PhM及びPhM-TBDのいずれにおいても、TBDとPhMの間にリンカー「GGGS(配列番号18)」を挿入した。TBD-PhMのアミノ酸配列を配列番号22に示し、PhM-TBDのアミノ酸配列を配列番号23に示す。
【0101】
続いて、各発現ベクターを大腸菌BL21株に形質転換した。続いて、形質転換した各大腸菌をLB培地10mLにそれぞれ植菌し、37℃でOD600が0.6~0.8になるまで培養した。続いて、IPTGを終濃度0.5mMとなるように添加し、TBD-PhM及びPhM-TBDをそれぞれ発現誘導した。続いて、30℃で20~24時間培養し、TBD-PhM及びPhM-TBDの結晶をそれぞれ形成させた。
【0102】
続いて、各大腸菌を遠心分離で回収した。続いて、各大腸菌を超音波破砕し、遠心分離によりTBD-PhM及びPhM-TBDの結晶をそれぞれ回収した。
【0103】
図15(a)はTBD(CRBNタンパク質のサリドマイド結合ドメイン)の立体構造を示す図である。
図15(b)上は、回収したTBD-PhMの結晶の光学顕微鏡写真であり、
図15(c)上は、回収したPhM-TBDの結晶の光学顕微鏡写真である。また、
図15(b)下は、TBD-PhMの結晶を走査型電子顕微鏡で観察した結果を示す写真であり、
図15(c)下は、PhM-TBDの結晶を走査型電子顕微鏡で観察した結果を示す写真である。スケールバーは2μmを示す。
【0104】
以上の結果から、大腸菌内でTBD-PhM及びPhM-TBDの結晶を形成できることが明らかとなった。
【0105】
[実験例11]
(大腸菌内でのタンパク質の結晶化9)
細胞質多角体タンパク質の断片をコードする遺伝子を、pET29bベクター(メルクミリポア社)に挿入し、発現ベクターを作製した。
【0106】
細胞質多角体タンパク質の断片として、配列番号2に示す細胞質多角体タンパク質のアミノ酸配列の第1~114番目のアミノ酸からなる断片(以下、「フラグメント1:M1~S114」という場合がある。)、配列番号2のアミノ酸配列の第1~155番目のアミノ酸からなる断片(以下、「フラグメント2:M1~R155」という場合がある。)、配列番号2のアミノ酸配列の第116~248番目のアミノ酸からなる断片(以下、「フラグメント3:S116~Q248」という場合がある。)、及び、配列番号2のアミノ酸配列の第58~248番目のアミノ酸からなる断片(以下、「フラグメント4:K58~Q248」という場合がある。)の4種類について発現ベクターを作製した。
【0107】
フラグメント1:M1~S114のアミノ酸配列を配列番号24に示し、フラグメント2:M1~R155のアミノ酸配列を配列番号25に示し、フラグメント3:S116~Q248のアミノ酸配列を配列番号26に示し、フラグメント4:K58~Q248のアミノ酸配列を配列番号27に示す。
【0108】
続いて、各発現ベクターを大腸菌BL21株に形質転換した。続いて、形質転換した各大腸菌をLB培地10mLにそれぞれ植菌し、37℃でOD600が0.6~0.8になるまで培養した。続いて、IPTGを終濃度0.5mMとなるように添加し、フラグメント1~フラグメント4をそれぞれ発現誘導した。続いて、30℃で20~24時間培養し、フラグメント1~フラグメント4の結晶をそれぞれ形成させた。
【0109】
続いて、各大腸菌を遠心分離で回収した。続いて、各大腸菌を超音波破砕し、遠心分離によりフラグメント1~フラグメント4の結晶をそれぞれ回収した。
図16(a)は、フラグメント1:M1~S114の結晶を走査型電子顕微鏡で観察した結果を示す写真であり、
図16(c)は、フラグメント2:M1~R155の結晶を走査型電子顕微鏡で観察した結果を示す写真である。スケールバーは2μmを示す。
【0110】
また、
図17(a)は、フラグメント3:S116~Q248の結晶を走査型電子顕微鏡で観察した結果を示す写真であり、
図17(c)は、フラグメント4:K58~Q248の結晶を走査型電子顕微鏡で観察した結果を示す写真である。スケールバーは5μmを示す。また、
図16(b)は、回収したフラグメント1:M1~S114の結晶をMALDI-TOF MS解析した結果を示すグラフであり、
図16(d)は、回収したフラグメント2:M1~R155の結晶をMALDI-TOF MS解析した結果を示すグラフであり、
図17(b)は、回収したフラグメント3:S116~Q248の結晶をMALDI-TOF MS解析した結果を示すグラフであり、
図17(d)は、回収したフラグメント4:K58~Q248の結晶をMALDI-TOF MS解析した結果を示すグラフである。
図16及び
図17中、「Cal」は予測される各フラグメントの分子量を示す。その結果、フラグメント1~フラグメント4のそれぞれが、予想される分子量を有していることが確認された。
【0111】
以上の結果から、大腸菌内で細胞質多角体タンパク質の断片の結晶を形成できることが明らかとなった。
【産業上の利用可能性】
【0112】
本発明によれば、タンパク質の結晶を簡便に作製する技術を提供することができる。
【配列表】