(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-06-10
(45)【発行日】2025-06-18
(54)【発明の名称】蒸着源の製造方法
(51)【国際特許分類】
C23C 14/24 20060101AFI20250611BHJP
【FI】
C23C14/24 A
(21)【出願番号】P 2021030732
(22)【出願日】2021-02-26
【審査請求日】2023-12-04
(73)【特許権者】
【識別番号】000231464
【氏名又は名称】株式会社アルバック
(74)【代理人】
【識別番号】110000305
【氏名又は名称】弁理士法人青莪
(72)【発明者】
【氏名】梅原 政司
(72)【発明者】
【氏名】張 偉思
【審査官】今井 淳一
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-008355(JP,A)
【文献】特表2005-515304(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 14/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
蒸着物質を充填する収容箱の上面に、この収容箱の加熱により気化または昇華した蒸着物質の通過を許容する複数個の放出部を所定のパターンで形成する工程を含む蒸着源の製造方法であって、
所定のパターンで形成される各放出部をエッチング範囲とし、収容箱の上面に、エッチング範囲を制限するマスクを設ける第1工程と、収容箱のエッチング範囲をマスク越しにエッチングして収容箱内の空間に達する複数個の透孔を形成する第2工程とを更に含み、
第1工程は、収容箱の上面にマスク材層を形成する工程と、マスク材層の表面にレジストを塗布し、リソグラフィによりパターニングし、このパターニングしたレジストをマスクとして、エッチングによりマスク材層に、収容箱の上面に通じる開口を形成する工程とを含み、
第2工程の後に、
レジストパターンを除去する一方でマスク材層を除去せずに収容箱の上面に残すことを特徴とする蒸着源の製造方法。
【請求項2】
請求項1記載の蒸着源の製造方法であって、前記収容箱が前記蒸着物質を収容する箱部と、箱部の上端に着脱自在に取り付けられる蓋板部とで構成されるものにおいて、
前記蓋板部をシリコン基板としたことを特徴とする蒸着源の製造方法。
【請求項3】
蒸着物質を充填する収容箱の上面に、この収容箱の加熱により気化または昇華した蒸着物質の通過を許容する複数個の放出部を所定のパターンで形成する工程を含む蒸着源の製造方法であって、
所定のパターンで形成される各放出部をエッチング範囲とし、収容箱の上面に、エッチング範囲を制限するマスクを設ける第1工程と、収容箱のエッチング範囲をマスク越しにエッチングして収容箱内の空間に達する複数個の透孔を形成する第2工程とを更に含み、
収容箱が蒸着物質を収容する箱部と、箱部の上端に着脱自在に取り付けられる蓋板部とで構成され、蓋板部をシリコン基板とし、
第1工程は、シリコン基板上面にマスク材層を形成する工程と、マスク材層上にレジストを塗布し、リソグラフィによりパターニングし、このパターニングしたレジストをマスクとして、エッチングにより
、シリコン基板上面に通じる開口を形成する工程とを含むことを特徴とする蒸着源の製造方法。
【請求項4】
蒸着物質を充填する収容箱の上面に、この収容箱の加熱により気化または昇華した蒸着物質の通過を許容する複数個の放出部を所定のパターンで形成する工程を含む蒸着源の製造方法であって、
所定のパターンで形成される各放出部をエッチング範囲とし、収容箱の上面に、エッチング範囲を制限するマスクを設ける第1工程と、収容箱のエッチング範囲をマスク越しにエッチングして収容箱内の空間に達する複数個の透孔を形成する第2工程とを更に含み、
収容箱が蒸着物質を収容する箱部と、箱部の上端に着脱自在に取り付けられる蓋板部とで構成され、蓋板部をシリコン基板とし、
第1工程は
、シリコン基板を第1シリコン基板とし、第1シリコン基板上面に第2シリコン基板を貼り合わせ、これら貼り合わせた両シリコン基板を所定温度で加熱して接合する工程と、第2シリコン基板上にレジストを塗布し、リソグラフィによりパターニングする工程を含み
、第2工程は、パターニングしたレジストをマスクとして、エッチングにより上下方向で互いに連通する透孔を形成する工程とを含むことを特徴とす
る蒸着源の製造方法。
【請求項5】
前記収容箱の上面が複数のエリアに区画され、これら区画された各エリアに異なるパターンで前記放出部が設けられることを特徴とする請求項1~請求項4のいずれか1項に記載の蒸着源の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蒸着源の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、AR、VRまたはMRといった仮想世界を体験できる機器が盛んに開発されている。このような機器にて映像コンテンツを再生するモニタには、視野角が広い等の利点を持つ有機ELディスプレイが注目され、このときの有機ELディスプレイには、例えば2000ppi以上の精細度が求められている。このような有機ELディスプレイの製造方法の一つとして、真空蒸着法により被処理基板の表面に赤(R)、緑(G)、青(B)の蛍光を発する有機発光層を高精細に分けて夫々蒸着することが知られている。被処理基板は、通常、PDLで微小な蒸着領域に区画され(一般に、RGBの各有機発光層で構成される単位素子のサイズは1インチ四方であり、所謂ピクセルピッチは12μm程度である)、この区画された蒸着領域に各有機発光層を夫々蒸着することで、各素子内でのRGBにじみ、輝度むらや混色を抑制している。
【0003】
上記用途に利用できる真空蒸着装置は、例えば特許文献1で知られている。このものは、真空チャンバを備え、真空チャンバ内には、複数個の蒸着源が設けられている。蒸着源としては、蛍光に応じた固体の蒸着物質(有機材料)を充填する一方向に長手の収容箱を有し、被処理基板に対向する収容箱の上面には、その外方に突出させて筒状の放出ノズル(放出部)が間隔を存して複数本列設され(所謂リニアソース)、真空雰囲気の真空チャンバ内で加熱手段により収容箱内の蒸着物質を加熱すると、昇華または気化した蒸着物質が放出ノズルより所定の余弦則に従い放出される。このような蒸着源を用いて、区画された蒸着領域に有機発光層を蒸着する場合に、放出ノズル相互の間隔が大きいと、蒸着領域毎に、蒸着物質を入射させる放出ノズルの数や入射角が変化してしまう。このため、各蒸着領域における有機発光層の膜厚にばらつきが生じ易いという問題があり、これでは、各素子の性能が安定しない。このような場合、収容箱の上面に放出ノズルを互いに近接させて多数設ければよいが、設置スペースや強度を考慮すると、所定の口径を持つ放出ノズルを設ける数には限界がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、以上の点に鑑み、被処理基板に対向する面に多数の放出部を互いに密集させて形成することができる蒸着源の製造方法を提供することをその課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、蒸着物質を充填する収容箱の上面に、この収容箱の加熱により気化または昇華した蒸着物質の通過を許容する複数個の放出部を所定のパターンで形成する工程を含む本発明の蒸着源の製造方法は、所定のパターンで形成される各放出部をエッチング範囲とし、収容箱の上面に、エッチング範囲を制限するマスクを設ける第1工程と、収容箱のエッチング範囲をマスク越しにエッチングして収容箱内の空間に達する複数個の透孔を形成する第2工程とを更に含むことを前提とする。
【0007】
本発明によれば、例えば、真空蒸着装置の真空チャンバ内に配置したときに成膜対象物としての基板に対向する収容箱上面に、エッチングにより形成される透孔で各放出部が構成されるため、マスクパターンを適宜選択するだけで、微細な口径を持ち且つ互いに隣接するものの間隔を可及的に小さくした多数の放出部を収容箱上面に密集して形成することができる。ここで、第2工程のエッチングは、ドライエッチングだけでなく、ウェットエッチングも含まれるものとする。また、本発明において、前記第1工程は、収容箱の上面にマスク材層を形成する工程と、マスク材層の表面にレジストを塗布し、リソグラフィによりパターニングし、このパターニングしたレジストをマスクとして、エッチングによりマスク材層に、収容箱の上面に通じる開口を形成する工程とを含み、第2工程の後に、レジストパターンを除去する一方でマスク材層を除去せずに収容箱の上面に残すことを特徴とする。これにより、マスク材層の厚さだけ放出部を長くできるため、放出部から放出される蒸着物質の直進性を向上でき、有利である。
【0008】
本発明において、前記収容箱が前記蒸着物質を充填する箱部と、箱部の上端に着脱自在に取り付けられる蓋板部とで構成されるような場合、前記蓋板部をシリコン基板とすることが好ましく、前記第1工程は、シリコン基板上面にマスク材層を形成する工程と、マスク材層上にレジストを塗布し、リソグラフィによりパターニングし、このパターニングしたレジストをマスクとして、エッチングにより、シリコン基板上面に前記透孔に通じる開口を形成する工程とを含むものとすればよい。これによれば、所謂半導体装置の製造プロセスで一般に利用されているマスク材や、エッチング液またはエッチングガスを使用でき、有利である。しかも、収容箱の箱部を加熱してその内部に充填された蒸着物質を気化または昇華させる際に、シリコン基板は比較的熱伝導率が高いため、箱部からの伝熱で高温に加熱されて保持される。これにより、放出部としての各透孔を微細な口径に形成しても、そこに蒸着物質が詰まるといったことが可及的に防止される。マスク材層としては、シリコン酸化物層、シリコン窒化物層、シリコン酸窒化物層等のシリコン化合物層を好適に用いることができる。
【0009】
他方、本発明において、前記第1工程は、前記シリコン基板を第1シリコン基板とし、第1シリコン基板上面に第2シリコン基板を貼り合わせ、これら貼り合わせた両シリコン基板を所定温度で加熱して接合する工程と、第2シリコン基板上にレジストを塗布し、リソグラフィによりパターニングする工程を含み、前記第2工程は、パターニングしたレジストをマスクとして、エッチングにより上下方向で互いに連通する透孔を形成する工程とを含むことができる。これによれば、第1シリコン基板と第2シリコン基板とを連通する透孔で各放出部が構成されるため、各シリコン基板の厚さだけ放出部を長くすることができ、有利である。この場合、シリコン基板の複数枚を更に接合するようにしてもよい。
【0010】
また、本発明においては、前記収容箱の上面が複数のエリアに区画され、これら区画された各エリアに異なるパターンで前記放出部が設けられることが好ましい。これによれば、被処理基板の種類に応じて放出部を使い分けることが可能な蒸着源を製造できる。この場合、使用しない放出部は例えばシャッター機構で遮蔽するように構成すればよい。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】蒸着源の構成要素としての収容箱を説明する断面図。
【
図2】(a)~(d)は、第1の実施形態の蒸着源の構成要素としての蓋板部の製造方法を説明する断面図。
【
図3】(a)~(d)は、第2の実施形態の蒸着源の構成要素としての蓋板部の製造方法を説明する断面図。
【
図4】第1の実施形態の製造方法を用いて製造した蒸着源を備える真空蒸着装置を説明する断面図。
【
図5】蓋板部から被処理基板への蒸着物質の入射方向を模式的に説明する断面図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照して、真空蒸着法による蒸着(成膜)に利用される本発明の蒸着源の製造方法の第1の実施形態について説明する。以下においては、「上」、「下」といった方向を示す用語は、
図1を基準とする。
【0013】
図1を参照して、蒸着源EVは、収容箱Sbと加熱手段Htとを備え、蒸着源EVの構成要素としての収容箱Sbが、蒸着物質Emが充填される箱部11とこの箱部11の上端に着脱自在に取り付けられる蓋板部12とで構成される。箱部11は、例えば、ステンレス鋼(SUS304等)、チタン、タンタル、タングステン、モリブデンやカーボンといった耐熱性を持つ材料製であり、上面を開口した直方体形状または円筒状に成形したものである。箱部11内には、上面開口から出入れ自在な内容器13が格納されている。内容器13もまた、例えば、ステンレス鋼(SUS304等)、チタン、タンタル、タングステン、モリブデンやカーボンといった耐熱性を持つ材料製であり、箱部11と同等の輪郭を持つように成形したものであり、箱部11内に内容器13を格納すると、箱部11と内容器13との間に所定の隙間が形成されるようにしている。この場合、内容器13の下端には、箱部11の下面に当接する脚片(図示せず)が設けられ、脚片で内容器13が支持される。
【0014】
箱部11の内面には、加熱手段Htとしてのシースヒータが取り付けられ、シースヒータにより内容器13を加熱できるようにしている。箱部11と内容器13の上面開口を塞ぐように取り付けられる蓋板部12は、所定の板厚を持つシリコン基板で構成され、シリコン基板12には、微細な口径を持ち且つ互いに隣接するものの間隔を可及的に小さくした多数の放出部としての透孔14が密集して形成される。以下に、
図2を参照して、第1の実施形態の蒸着源EVの構成要素としての蓋板部12の製造方法を具体的に説明する。
【0015】
図2(a)に示すように、所定の板厚(例えば200~800μm)を持つ一枚のシリコン基板12を準備し、シリコン基板12の一方の面に、マスク材層2を形成する。マスク材層2としては、後述のエッチングの際にエッチング範囲を制限するマスクとして機能するものであれば、特に制限はないが、シリコン基板12と同様、比較的高い熱伝導率を持つシリコン酸化物層、シリコン窒化物層やシリコン酸窒化物層といったシリコン化合物層を使用することができる。マスク材層2の形成には、CVD法や反応性スパッタリング法などの公知の真空成膜処理が利用でき、特に、CVD法はその成膜速度が速いため、有利である。なお、成膜条件としては、例えば半導体装置の製造過程における公知のものが利用できるため、ここでは詳細な説明は省略する。
【0016】
ここで、マスク材層2として上記シリコン化合物膜を使用する場合、マスク材層2もまた、放出部の構成要素にできるため、マスク材層2の膜厚は、形成しようとする放出部の長さに応じて設定され、例えば50~500μmの範囲に設定することができる。そして、マスク材層2の一方の面にレジスト3を塗布する。レジスト3の塗布には、例えば、公知のスピンコート法を利用することができる。なお、レジスト3の材質や塗布条件としては、上記同様、公知のものが利用できるため、ここでは詳細な説明は省略する。
【0017】
次に、
図2(b)に示すように、リソグラフィ(技術)によりレジスト3を、形成しようとする放出部のパターンに応じてパターニングすることで、レジストパターン3aを形成する。リソグラフィとしては、公知のフォトリソグラフィやEBリソグラフィを用いることができる。なお、露光装置、露光条件や露光後の現像条件としては、上記同様、公知のものが利用できるため、これ以上の説明を省略する。そして、レジストパターン3aをマスクとしてマスク材層2をエッチングすることで、マスク材層2に透孔14に連通する複数個の開口2aが形成される(第1工程)。マスク材層2のエッチングには、マスク材層2の材質に応じて適宜選択されるエッチングガスを用いたドライエッチングまたはエッチング液を用いたウェットエッチングが利用できる。この場合、ドライエッチングによっては、形状の制御性よく異方性エッチングが可能なことから、マスク材層2の膜厚を厚くしたような場合には、有利である。また、ドライエッチングには、公知の反応性エッチング装置が利用され、マスク材層2をシリコン酸化物とした場合、エッチングガスとしては、CF
4ガス、CHF
3ガス及びCOF
2ガスから選択される少なくとも1種が利用される。そして、
図2(c)に示すように、レジストパターン3aを除去する。レジストパターン3aの除去には、公知のアッシング処理や薬液処理が利用できる。なお、アッシング装置、アッシング条件や薬液としては公知のものが利用できるため、ここでは詳細な説明は省略する。
【0018】
次に、
図2(d)に示すように、開口2aが形成されたマスク材層2をマスクとしてシリコン基板12をエッチングする。これにより、シリコン基板12に、レジストパターン3aに応じた複数個の透孔14が形成される(第2工程)。透孔14の孔径は、例えば、1~100μmの範囲に設定することができる。シリコン基板12のエッチングには、適宜選択されるエッチングガスを用いたドライエッチングまたはエッチング液を用いたウェットエッチングが利用できる。上記同様、ドライエッチングを用いることが有利である。
【0019】
なお、マスク材層2として所定の板厚の所謂ハードマスクを用いることもでき、シリコン基板12の一方の面にハードマスクを接着し、シリコン基板12への透孔の形成後には、ハードマスクをそのまま利用することもできる。
【0020】
以上によれば、例えば、真空蒸着装置の真空チャンバ内に蒸着源EVを配置したときに被処理基板に対向する収容箱Sbの蓋板部12に、エッチングにより形成される透孔14で構成される各放出部が形成されるため、マスク材層2に形成される開口2aのパターンを適宜選択するだけで、微細な口径を持ち且つ互いに隣接するものの間隔を可及的に小さくした多数の放出部を収容箱Sbの蓋板部12に密集して形成することができる。しかも、第2工程の後にマスク材層2をそのまま残し、マスク材層2に形成した開口2aとそれに連通する透孔14とで放出部を構成するようにしたため、マスク材層2の厚さだけ、放出部を長くできるため、各放出部から放出される蒸着物質Emの直進性を向上でき、有利である。
【0021】
次に、
図3を参照して、第2の実施形態の蒸着源の構成要素としての蓋板部の製造方法を具体的に説明する。
図3(a)に示すように、所定の板厚を持ち且つ同等の輪郭を持つ2枚のシリコン基板120を準備し、親水化処理を施した後、2枚のシリコン基板120,120を貼り合わせる。そして、この貼り合わせた2枚のシリコン基板120,120を真空加熱炉に格納した後、所定温度に加熱してシリコン酸化物層(図示せず)を介して接合する。
【0022】
次に、
図3(b)に示すように、上記第1の実施形態と同様に、図中上側のシリコン基板(第2シリコン基板)120の一方の面にレジストパターン3aを形成する。そして、
図3(c)に示すように、レジストパターン3aをマスクとして両シリコン基板120,120を連続してエッチングすることで、両シリコン基板120,120を連通する透孔14
1,14
2を形成する。なお、エッチング方法としては、上記第1の実施形態と同様のものが利用できる。最後に、
図3(d)に示すように、上記第1の実施形態と同様の方法で、レジストパターン3aを除去する。
【0023】
以上によれば、2枚のシリコン基板120,120を接合し、両シリコン基板120,120を連通する透孔141,142で放出部を構成するようにしたため、各放出部から放出される蒸着物質Emの直進性を向上でき、有利である。なお、接合するシリコン基板120の枚数は2枚に限定されず、3枚以上接合してもよい。また、形成しようとする各放出部の長さに応じて、第2シリコン基板120を所定の板厚に研磨する工程を更に含ませることもできる。また、接合方法は、上記のものに限定されず、例えばSOI基板を接合する公知の方法を用いることができる。
【0024】
上記のように製造した蒸着源EVは、次のように真空蒸着装置に適用することができる。即ち、
図4に示すように、蒸着源EVを備える真空蒸着装置Dmは、真空排気可能な真空チャンバCvを備え、真空チャンバCvの上部には、その蒸着面を下方に向けた姿勢で被処理基板Swを保持する回転体4が設けられている。回転体4には、特に図示して説明しないが、静電チャック用の電極が埋設され、電極に電圧を印加したときの静電気力により被処理基板Swを吸着保持できる。また、回転体4には、真空チャンバCvの上壁を貫通してのび、モータ41により中心軸線Cl回りに回転する回転軸41aが連結されている。なお、被処理基板Swへの蒸着時、その蒸着面にはマスクプレートMpが取り付けられ、蒸着範囲が制限されるようにしている。そして、被処理基板Swに対向させて真空チャンバCvの下部には、上記蒸着源EVが設けられている。蒸着源EVは、中心軸線Clから径方向(
図4中、左側)にオフセットさせて設置されている。オフセット量dは、蓋板部12や被処理基板Swの直径、蒸着源EVと被処理基板Swとの間の距離L等を考慮して適宜設定される。
【0025】
上記真空蒸着装置Dmにより被処理基板Swの蒸着面がPDL(Pd)により区画された各蒸着領域Rdに有機発光層Leを蒸着するのに際しては、真空雰囲気中の真空チャンバVc内で加熱手段Htにより内容器13に充填された蒸着物質Emを加熱する。すると、収容箱内で気化または昇華した蒸着物質Emが各透孔14及び各開口2aを通して所定の余弦則に従い、被処理基板Swに向けて放出される(
図5参照)。このとき、
図5中に矢印で示すように、蒸着領域Rdに複数個の放出部から蒸着物質Emが入射するため、有機発光層Leを均一な膜厚で蒸着できる。しかも、蒸着領域Rd毎に、蒸着物質Emを入射させる放出部の数や入射角度が其れ程変化することがないため、各蒸着領域Rdにおける有機発光層Leの膜厚ばらつきを可及的に抑制することができる。さらに、蓋板部12を構成するシリコン基板やマスク材層2を構成するシリコン化合物層は比較的熱伝導率が高いため、箱部11からの伝熱で高温に加熱されて保持される。これにより、各放出部を構成する透孔14や開口2aを微細な口径に形成しても、各透孔14や各開口2aに蒸着物質Emが詰まるといったことが可及的に防止される。
【0026】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明の技術思想の範囲を逸脱しない限り、種々の変形が可能である。上記実施形態では、蓋板部12の全面に亘って同一の孔径及びピッチで放出部としての透孔14が形成されているが、
図6に示すように、蓋板部12を複数(本変形例では2つ)のエリアR1,R2に区画し、各エリアR1,R2に異なるパターン(異なる孔径またはピッチ)で放出部14a,14bを形成し、例えば被処理基板Swの種類に応じて放出部14a,14bを使い分けることができるように構成してもよい。この場合、蓋板部12と被処理基板Swとの間にシャッター板5を介在させ、シャッター板5に連結されたピストンロッド51aをアクチュエータ51により駆動し、シャッター板5を一方向(
図6中の左右方向)に移動させることで、使用しないエリアR2の放出部14bを遮蔽することができる。なお、
図6においては、理解し易いように、放出部14a,14bが大きく図示されている。また、エリアの数は3つ以上でもよく、エリアの数や形状に応じてシャッター板を含めたシャッター機構を構成すればよい。
【0027】
また、上記実施形態では、回転体4で保持された被処理基板Swを回転する場合を例に説明したが、これに限定されず、被処理基板Swを一方向に搬送するような場合にも、本発明を適用することができる。この場合、複数個の収容箱Sbを並設することで略線状の蒸着源を構成することが好ましい。
【符号の説明】
【0028】
EV…蒸着源、Sb…収容箱、Em…蒸着物質、Sw…被処理基板、11…箱部、12…蓋板部(収容箱の上面),シリコン基板、120…シリコン基板、14,141,142,14a,14b…透孔(放出部)、120…シリコン基板、2…マスク,マスク材層、2a…開口(放出部)、3…レジスト、3a…レジストパターン(パターニングしたレジスト)、R1,R2…エリア。