(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-06-10
(45)【発行日】2025-06-18
(54)【発明の名称】作業機械
(51)【国際特許分類】
E02F 3/84 20060101AFI20250611BHJP
E02F 9/00 20060101ALI20250611BHJP
B60L 50/60 20190101ALI20250611BHJP
B60L 50/75 20190101ALI20250611BHJP
B60L 58/12 20190101ALI20250611BHJP
B60L 58/40 20190101ALI20250611BHJP
B60L 15/20 20060101ALI20250611BHJP
H01M 8/04 20160101ALI20250611BHJP
H01M 8/04858 20160101ALI20250611BHJP
H01M 8/04537 20160101ALI20250611BHJP
H01M 8/00 20160101ALI20250611BHJP
【FI】
E02F3/84 Z
E02F9/00 C
B60L50/60
B60L50/75
B60L58/12
B60L58/40
B60L15/20 J
H01M8/04 Z
H01M8/04858
H01M8/04537
H01M8/00 Z
H01M8/00 A
(21)【出願番号】P 2022051094
(22)【出願日】2022-03-28
【審査請求日】2024-09-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000005522
【氏名又は名称】日立建機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001829
【氏名又は名称】弁理士法人開知
(72)【発明者】
【氏名】太田 泰典
【審査官】湯本 照基
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-359935(JP,A)
【文献】特開2020-149882(JP,A)
【文献】特開2019-145392(JP,A)
【文献】特開2013-164917(JP,A)
【文献】特開2003-155760(JP,A)
【文献】特開2001-207482(JP,A)
【文献】国際公開第2014/202381(WO,A2)
【文献】特開2010-124594(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02F 3/84
E02F 9/00
B60L 50/60
B60L 50/75
B60L 58/12
B60L 58/40
B60L 15/20
H01M 8/04
H01M 8/04858
H01M 8/04537
H01M 8/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電動機と、
前記電動機によって駆動される油圧ポンプと、
前記油圧ポンプから吐出された圧油によって駆動される油圧アクチュエータと、
運転者が操作可能な操作部材を有し、前記操作部材の操作量に対応するパイロット圧又は操作信号を出力する操作装置と、
前記操作装置のパイロット圧によって、若しくは前記操作装置の操作信号に対応して生成されたパイロット圧によって駆動され、前記油圧ポンプから前記油圧アクチュエータへの圧油の流れ方向及び流量を制御する制御弁と、
前記電動機へ供給する電力を生成する燃料電池と、
前記燃料電池で生成された電力の過剰分を充電し前記燃料電池の電力の不足分を補うために放電するバッテリと、
前記操作部材の操作時に前記操作部材の操作量に応じて変化する要求電力を用いて目標電力を設定し、前記目標電力に近づけるように前記燃料電池の電力を制御し、前記燃料電池の電力の過剰分を充電し前記燃料電池の電力の不足分を補うために放電するように前記バッテリの充電及び放電を制御する車体コントローラと、を備え、
前記車体コントローラは、前記操作部材の非操作時に前記操作部材の非操作状態に対応する要求電力より大きく且つ前記操作部材の最大操作量に対応する要求電力より小さくなるように予め設定された標準電力を目標電力に設定し、前記目標電力に近づけるように前記燃料電池の電力を制御し、前記燃料電池の電力の過剰分を充電し前記燃料電池の電力の不足分を補うために放電するように前記バッテリの充電及び放電を制御することを特徴とする作業機械。
【請求項2】
請求項1に記載の作業機械において、
前記車体コントローラは、前記操作部材が操作状態から非操作状態に切換えられたとき、前記標準電力を目標電力に設定し、その後、前記操作部材の非操作状態の継続時間の増加に応じて前記目標電力を減少することを特徴とする作業機械。
【請求項3】
請求項1に記載の作業機械において、
前記車体コントローラは、前記操作部材の非操作状態の継続時間が所定値に達したとき、前記電動機の回転数を所定のアイドル回転数に低下すると共に、前記操作部材の非操作状態及び前記所定のアイドル回転数に対応する最低要求電力を目標電力に設定し、前記目標電力に近づけるように前記燃料電池の電力を制御し、前記燃料電池の電力の過剰分を充電し前記燃料電池の電力の不足分を補うために放電するように前記バッテリの充電及び放電を制御することを特徴とする作業機械。
【請求項4】
請求項1に記載の作業機械において、
前記車体コントローラは、前記操作部材の操作時に前記操作部材の操作量に応じて変化する前記要求電力と前記標準電力のうちの大きい方を目標電力に設定し、前記目標電力に近づけるように前記燃料電池の電力を制御し、前記燃料電池の電力の過剰分を充電し前記燃料電池の電力の不足分を補うために放電するように前記バッテリの充電及び放電を制御することを特徴とする作業機械。
【請求項5】
請求項1に記載の作業機械において、
複数のモードのうちの一つを選択するモード選択装置を備え、
前記車体コントローラは、前記モード選択装置で選択されたモードに応じて、前記電動機の回転数及び前記油圧ポンプの容量を制御して前記油圧ポンプのトルクを可変すると共に、前記標準電力を可変することを特徴とする作業機械。
【請求項6】
請求項1に記載の作業機械において、
前記電動機の負荷を調整する負荷調整装置を備え、
前記車体コントローラは、前記燃料電池の電力が前記目標電力を超え且つ前記バッテリの蓄電率が所定値以上である場合に、前記負荷調整装置を制御して前記電動機の負荷を増加することを特徴とする作業機械。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、油圧ショベル等の作業機械に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、乗用車等の車両において、車輪を駆動する電動機と、電動機へ供給する電力を生成する燃料電池と、燃料電池で生成された電力の過剰分を充電し燃料電池の電力の不足分を補うためのバッテリと、コントローラとを備えたものを開示する。
【0003】
特許文献1のコントローラは、アクセル開度センサで取得されたアクセル開度と車速センサで取得された車速とを用いて要求電力を算出し、この要求電力を用いて目標電力を設定する。そして、目標電力に近づけるように燃料電池の電力を制御し、燃料電池の電力の過剰分を充電し燃料電池の電力の不足分を補うために放電するようにバッテリの充電及び放電を制御する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、油圧ショベル等の作業機械に対し、特許文献1の燃料電池、バッテリ、及びコントローラおよびその制御を適用しようとすると、油圧ショベル等の作業機械では、乗用車等の車両と比べ、電動機に要求される負荷が高く、電動機の負荷の変動量が大きく、また、運転者による操作部材の非操作状態と操作状態の切換えも多いため、電動機の負荷の変動頻度が高いため、そのまま適用することはできない。例えば、操作レバーが非操作状態から操作状態に切換えられた場合には、操作部材の操作量に応じて変化する要求電力が急激に増加し、操作部材の操作状態及び非操作状態にかかわらず、操作部材の操作量に応じて変化する要求電力を用いて目標電力を設定すると、目標電力も急激に増加する。そのため、目標電力に対して燃料電池の発電電力が追いつかず、バッテリの放電電力が多くなり、バッテリが早期に劣化する虞がある。
【0006】
本発明は、上記事柄に鑑みてなされたものであり、その目的は、バッテリの放電電力を抑え、バッテリの劣化を抑制することができる作業機械を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明は、電動機と、前記電動機によって駆動される油圧ポンプと、前記油圧ポンプから吐出された圧油によって駆動される油圧アクチュエータと、運転者が操作可能な操作部材を有し、前記操作部材の操作量に対応するパイロット圧又は操作信号を出力する操作装置と、前記操作装置のパイロット圧によって、若しくは前記操作装置の操作信号に対応して生成されたパイロット圧によって駆動され、前記油圧ポンプから前記油圧アクチュエータへの圧油の流れ方向及び流量を制御する制御弁と、前記電動機へ供給する電力を生成する燃料電池と、前記燃料電池で生成された電力の過剰分を充電し前記燃料電池の電力の不足分を補うために放電するバッテリと、前記操作部材の操作時に前記操作部材の操作量に応じて変化する要求電力を用いて目標電力を設定し、前記目標電力に近づけるように前記燃料電池の電力を制御し、前記燃料電池の電力の過剰分を充電し前記燃料電池の電力の不足分を補うために放電するように前記バッテリの充電及び放電を制御する車体コントローラと、を備え、前記車体コントローラは、前記操作部材の非操作時に前記操作部材の非操作状態に対応する要求電力より大きく且つ前記操作部材の最大操作量に対応する要求電力より小さくなるように予め設定された標準電力を目標電力に設定し、前記目標電力に近づけるように前記燃料電池の電力を制御し、前記燃料電池の電力の過剰分を充電し前記燃料電池の電力の不足分を補うために放電するように前記バッテリの充電及び放電を制御する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、バッテリの放電電力を抑え、バッテリの劣化を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の一実施形態における油圧ショベルの構造を表す側面図である。
【
図2】本発明の一実施形態における油圧ショベルの駆動装置の構成を表す図である。
【
図3】本発明の一実施形態における車体コントローラの機能的構成を関連機器と共に表すブロック図である。
【
図4】本発明の一実施形態における車体コントローラの目標電力の設定手順を表すフローチャートである。
【
図5】比較例における操作レバーの操作量、目標電力、及び燃料電池の電力の経時変化を表すタイムチャートである。
【
図6】本発明の一実施形態における操作レバーの操作量、目標電力、及び燃料電池の電力の経時変化を表すタイムチャートである。
【
図7】本発明の一変形例における車体コントローラの機能的構成を関連機器と共に表すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の適用対象として油圧ショベルを例にとり、本発明の一実施形態を、図面を参照しつつ説明する。
【0011】
図1は、本実施形態における油圧ショベルの構造を表す側面図である。なお、以降、油圧ショベルの運転室内の運転席に着座した運転者の前側(
図1の右側)、後側(
図1の左側)、右側(
図1の紙面に対して手前側)、左側(
図1の紙面に対して奥側)を、単に前側、後側、右側、左側と称する。
【0012】
本実施形態の油圧ショベルは、走行可能な走行体1と、走行体1の上側に旋回可能に設けられた旋回体2と、旋回体2に連結された作業装置3とを備える。
【0013】
走行体1は、例えば、上方から見てH字形状のトラックフレーム4と、トラックフレーム4の右側部分に回転可能に配置されたクローラ5と、クローラ5を回転する右側の走行モータ6と、トラックフレーム4の左側部分に回転可能に配置されたクローラ(図示せず)と、このクローラを回転する左側の走行モータ(図示せず)とを備える。走行体1は、右側の走行モータ6及び左側の走行モータの回転によって走行する。
【0014】
作業装置3は、旋回体2に回動可能に連結されたブーム7と、ブーム7を回動するブームシリンダ8と、ブーム7の先端部に回動可能に連結されたアーム9と、アーム9を回動するアームシリンダ10と、アーム9の先端部に回動可能に連結されたアタッチメント(例えばバケット11)と、アタッチメントを回動するアタッチメントシリンダ12とを備える。作業装置3は、ブームシリンダ8、アームシリンダ10、及びアタッチメントシリンダ12の伸縮によって駆動される。なお、バケット11は、土砂の掘削などを行うためのものであり、例えば、木材の把持などを行うためのグラップルや、岩盤の破砕などを行うためのブレーカに交換可能である。これにより、様々な作業を行うことが可能である。
【0015】
旋回体2は、旋回モータ13(後述の
図2参照)の回転によって旋回する。旋回体2は、運転者が搭乗する運転室14と、電動機15(後述の
図2参照)等の機器を収容する機械室16と、作業装置3とのバランスを保つためのカウンタウエイト17とを備える。
【0016】
運転室14には、運転者が着座する運転席(図示せず)が設けられている。運転席の前側には、走行体1の走行を指示する走行用操作装置(図示せず)が設けられている。運転席の右側には、ブーム7の回動及びアタッチメントの回動を指示する作業用操作装置18A(後述の
図2参照)と、電動機15の回転数を設定する回転数ダイヤル19(後述の
図3参照)等が設けられている。運転席の左側には、旋回体2の旋回及びアーム9の回動を指示する作業用操作装置18B(後述の
図2参照)が設けられている。
【0017】
油圧ショベルは、複数の油圧アクチュエータ(詳細には、上述した右側の走行モータ6、左側の走行モータ、ブームシリンダ8、アームシリンダ10、アタッチメントシリンダ12、及び旋回モータ13)を駆動する駆動装置を備える。
図2は、本実施形態における油圧ショベルの駆動装置の構成のうち、代表として、ブームシリンダ8及び旋回モータ13の駆動に係わる構成を表す図である。
図3は、本実施形態における車体コントローラの機能的構成を関連機器と共に表すブロック図である。
【0018】
本実施形態の駆動装置は、上述した電動機15と、電動機15の回転数を制御するパワーコントロールユニット20と、電動機15の回転数を検出する回転数センサ21と、電動機15によって駆動される可変容量型のメインポンプ22(油圧ポンプ)と、メインポンプ22の容量(詳細には、斜板の傾転角)を調整するレギュレータ23と、メインポンプ22の吐出圧を制限するメインリリーフ弁24と、メインポンプ22の吐出圧を検出する吐出圧センサ25と、メインポンプ22からブームシリンダ8への圧油の流れ方向及び流量を制御するブーム制御弁26と、メインポンプ22から旋回モータ13への圧油の流れ方向及び流量を制御する旋回制御弁27とを備える。
【0019】
また、本実施形態の駆動装置は、電動機15によって駆動されるパイロットポンプ28と、パイロットポンプ28の吐出圧を制限するパイロットリリーフ弁29と、パイロットポンプ28の吐出圧を元圧としてパイロット圧を生成し、生成したパイロット圧をブーム制御弁26の受圧部に出力するブーム電磁弁30A,30Bと、パイロットポンプ28の吐出圧を元圧としてパイロット圧を生成し、生成したパイロット圧を旋回制御弁27の受圧部に出力する旋回電磁弁31A,31Bと、車体コントローラ32とを備える。
【0020】
車体コントローラ32は、プログラムに従って処理を実行するプロセッサと、プログラムやデータを記憶するメモリと、後述する他のコントローラと通信可能なインターフェイスとを有する。車体コントローラ32は、機能的構成として、電磁弁制御部33、ポンプ容量制御部34、及び電動機回転数制御部35を有する。
【0021】
作業用操作装置18Aは、運転者が操作可能な操作レバー(操作部材)と、操作レバーの前側の操作量に応じて第1の操作信号を生成して出力する第1のポテンションメータと、操作レバーの後側の操作量に応じて第2の操作信号を生成して出力する第2のポテンションメータとを備える。
【0022】
作業用操作装置18Bは、運転者が操作可能な操作レバー(操作部材)と、操作レバーの前側の操作量に応じて第3の操作信号を生成して出力する第3のポテンションメータと、操作レバーの後側の操作量に応じて第4の操作信号を生成して出力する第4のポテンションメータとを備える。
【0023】
車体コントローラ32の電磁弁制御部33は、作業用操作装置18Aからの第1の操作信号に応じて駆動信号を生成し、ブーム電磁弁30Aへ出力する。ブーム電磁弁30Aは、駆動信号に対応するパイロット圧を生成し、ブーム制御弁26の一方側の受圧部へ出力する。これにより、ブーム制御弁26が図示右側の切換位置に切換えられ、メインポンプ22からの圧油がブーム制御弁26を介しブームシリンダ8における図示上側のロッド室に供給されて、ブームシリンダ8が縮短する。その結果、ブーム7が下がる。
【0024】
車体コントローラ32の電磁弁制御部33は、作業用操作装置18Aからの第2の操作信号に応じて駆動信号を生成し、ブーム電磁弁30Bへ出力する。ブーム電磁弁30Bは、駆動信号に対応するパイロット圧を生成し、ブーム制御弁26の他方側の受圧部へ出力する。これにより、ブーム制御弁26が図示左側の切換位置に切換えられ、メインポンプ22からの圧油がブーム制御弁26を介しブームシリンダ8における図示下側のボトム室に供給されて、ブームシリンダ8が伸長する。その結果、ブーム7が上がる。
【0025】
車体コントローラ32の電磁弁制御部33は、作業用操作装置18Bからの第3の操作信号に応じて駆動信号を生成し、旋回電磁弁31Aへ出力する。旋回電磁弁31Aは、駆動信号に対応するパイロット圧を生成し、旋回制御弁27の一方側の受圧部へ出力する。これにより、旋回制御弁27が図示右側の切換位置に切換えられ、メインポンプ22からの圧油が旋回制御弁27を介し旋回モータ13の図示上側のポートに供給されて、旋回モータ13が一方向に回転する。その結果、旋回体2が右方向に旋回する。
【0026】
車体コントローラ32の電磁弁制御部33は、作業用操作装置18Bからの第4の操作信号に応じて駆動信号を生成し、旋回電磁弁31Bへ出力する。旋回電磁弁31Bは、駆動信号に対応するパイロット圧を生成し、旋回制御弁27の他方側の受圧部へ出力する。これにより、旋回制御弁27が図示左側の切換位置に切換えられ、メインポンプ22からの圧油が旋回制御弁27を介し旋回モータ13の図示下側のポートに供給されて、旋回モータ13が反対方向に回転する。その結果、旋回体2が左方向に旋回する。
【0027】
なお、図示しないが、右側の走行モータ6、左側の走行モータ、アームシリンダ10、及びアタッチメントシリンダ12の駆動に係る構成もほぼ同様である。
【0028】
車体コントローラ32のポンプ容量制御部34は、走行用操作装置及び作業用操作装置18A,18Bからの操作信号のうちの最大値と、吐出圧センサ25で検出されたメインポンプ22の吐出圧と、回転数センサ21で検出された電動機15の回転数とに基づき、レギュレータ23を制御してメインポンプ22の容量を調整する。
【0029】
パワーコントロールユニット20は、直流電力を交流電力に変換するDC/ACコンバータと、DC/ACコンバータで変換された交流電力の周波数を可変するインバータと、インバータを制御するインバータコントローラとを有する。インバータコントローラは、プログラムに従って処理を実行するプロセッサと、プログラムやデータを記憶するメモリと、車体コントローラ32と通信可能なインターフェイスとを有する。
【0030】
車体コントローラ32の電動機回転数制御部35は、回転数ダイヤル19で設定された電動機15の回転数を目標回転数としてインバータコントローラへ送信する。また、走行用操作装置及び作業用操作装置18A,18B(言い換えれば、全ての操作レバー)の非操作状態の継続時間が所定値Tに達したとき、所定のアイドル回転数を目標回転数としてインバータコントローラへ送信する。インバータコントローラは、回転数センサ21で検出された電動機15の回転数が前述した目標回転数となるように、インバータを制御する。
【0031】
本実施形態の駆動装置は、水素と酸素を化学反応させて電力を生成する燃料電池36と、燃料電池36で生成された電力を昇圧してパワーコントロールユニット20へ供給する昇圧コンバータ37と、燃料電池36及び昇圧コンバータ37を制御する燃料電池コントローラ38と、DC/DCコンバータ39を介し昇圧コンバータ37及びパワーコントロールユニット20に接続されたバッテリ40(蓄電装置)と、DC/DCコンバータ39を制御するバッテリコントローラ41とを更に備える。バッテリ40は、燃料電池36の電力の過剰分を充電し燃料電池の電力の不足分を補うために放電するものである。
【0032】
燃料電池コントローラ38は、プログラムに従って処理を実行するプロセッサと、プログラムやデータを記憶するメモリと、車体コントローラ32と通信可能なインターフェイスとを有する。燃料電池コントローラ38は、複数の燃料電池センサ(図示せず)で検出された燃料電池36の状態量により、燃料電池36を監視し、その結果を車体コントローラ32へ送信する。
【0033】
バッテリコントローラ41は、プログラムに従って処理を実行するプロセッサと、プログラムやデータを記憶するメモリと、車体コントローラ32と通信可能なインターフェイスとを有する。バッテリコントローラ41は、複数のバッテリセンサ(図示せず)で検出されたバッテリ40の状態量により、バッテリ40を監視し、その結果を車体コントローラ32へ送信する。
【0034】
車体コントローラ32は、機能的構成として、電力制御部42を更に有する。車体コントローラ32の電力制御部42は、目標電力を設定し(詳細は後述)、燃料電池コントローラ38へ送信する。燃料電池コントローラ38は、燃料電池36の発電電力が目標電力に近づくように制御すると共に、昇圧コンバータ37を制御する。
【0035】
車体コントローラ32の電力制御部42は、目標電力に対して燃料電池36の電力が過剰であり、且つバッテリ40の蓄電率が所定値(例えば90%)未満である場合に、バッテリコントローラ41へ充電指令を送信する。バッテリコントローラ41は、充電指令に応じてDC/DCコンバータ39を制御して、燃料電池36の電力の一部を用いてバッテリ40を充電すると共に、充電電力を制御する。これにより、燃料電池36の電力の過剰分を消費する。
【0036】
車体コントローラ32の電力制御部42は、目標電力に対して燃料電池36の電力が過剰であり、且つバッテリ40の蓄電率が所定値以上である場合に、負荷調整装置43を制御して電動機15の負荷を増加する。負荷調整装置43は、例えば、ブーム制御弁26とタンクの間の油路に配置された可変絞り弁であって、その開度を小さくすることにより、メインポンプ22の吐出圧を高くすることが可能である。これにより、電動機15の負荷を増加することが可能である。
【0037】
車体コントローラ32の電力制御部42は、目標電力に対して燃料電池36の電力が不足する場合に、バッテリコントローラ41へ放電指令を送信する。バッテリコントローラ41は、放電指令に応じてDC/DCコンバータ39を制御して、バッテリ40を放電すると共に、放電電力を制御する。これにより、燃料電池36の電力の不足分を補う。
【0038】
本実施形態の最も大きな特徴は、上述した目標電力の設定方法にあり、
図4を用いて説明する。
図4は、本実施形態における車体コントローラの目標電力の設定手順を表すフローチャートである。
【0039】
ステップS1にて、車体コントローラ32の電力制御部42は、走行用操作装置及び作業用操作装置18A,18Bのうちのいずれかの操作レバーが操作状態であるかどうかを判定する。いずれかの操作レバーが操作状態である場合、ステップS2に進み、操作レバーの操作量に応じて変化する要求電力を算出する。具体的には、車体コントローラ32のポンプ容量制御部34によるレギュレータ23の制御情報に基づいて電動機15の消費電力を算出し、インバータコントローラによるインバータの制御情報に基づいて電動機15の消費電力を算出し、それらのうちの大きい方を電動機15の消費電力の真値とする。そして、電動機15の消費電力と電動機15以外に必要な機器の電力(但し、バッテリ40の蓄電率が著しく低下してバッテリ40を充電する場合に必要な電力も含む)を加算して、要求電力を算出する。そして、所定の時間における要求電力のデータに対して平準化処理(詳細には、ローパスフィルタを用いた処理)を行う。
【0040】
その後、ステップS3に進み、平準化された要求電力と、操作レバーの非操作状態に対応する要求電力PAより大きく且つ操作レバーの最大操作量に対応する要求電力PBより小さくなるように予め設定された標準電力PC(後述の
図6参照)とを比較し、それらのうちの大きい方を目標電力に設定する。
【0041】
ステップS1にて全ての操作レバーが非操作状態である場合、ステップS4に移る。ステップS4にて、車体コントローラ32の電力制御部42は、全ての操作レバーの非操作状態の継続時間が所定値T以上であるかどうかを判定する。全ての操作レバーの非操作状態の継続時間が所定値T未満である場合、ステップS5に進み、標準電力PCを用いて目標電力を設定する。本実施形態では、全ての操作レバーが非操作状態になったとき、標準電力PCを目標電力に設定し、その後、全ての操作レバーの非操作状態の継続時間の増加に応じて目標電力を減少する(後述の
図6参照)。
【0042】
ステップS4にて全ての操作レバーの非操作状態の継続時間が所定値T以上である場合、ステップS6に移る。このとき、車体コントローラ32の電動機回転数制御部35は、電動機15の回転数を所定のアイドル回転数に低下させている。そのため、ステップS6にて、車体コントローラ32の電力制御部42は、操作レバーの非操作状態及び所定のアイドル回転数に対応する最低要求電力PD(但し、PD<PA)を目標電力に設定する(後述の
図6参照)。
【0043】
次に、本実施形態の作用効果を、比較例を用いて説明する。
図5は、比較例における操作レバーの操作量、目標電力、及び燃料電池の電力の経時変化を表すタイムチャートである。
図6は、本実施形態における操作レバーの操作量、目標電力、及び燃料電池の電力の経時変化を表すタイムチャートである。
【0044】
比較例の車体コントローラは、操作レバーの操作状態及び非操作状態にかかわらず、操作レバーの操作量に応じた要求電力を目標電力に設定し、目標電力に近づけるように燃料電池の電力を制御し、燃料電池の電力の過剰分を充電し不足分を補うために放電するようにバッテリの充電及び放電を制御する。すなわち、操作レバーの非操作時(時間t1)、操作レバーの非操作状態に対応する要求電力PAを目標電力に設定する。そして、操作レバーが非操作状態から操作状態に切換えられたとき(時間t2)、操作レバーの操作量に応じて変化する要求電力が急激に増加し、目標電力も急激に増加する。そのため、目標電力に対して燃料電池の発電電力が追いつかず、バッテリの放電電力が多くなる(
図5のハッチング部分参照)。
【0045】
一方、本実施形態の車体コントローラ32は、操作レバーの非操作時(時間t1)、操作レバーの非操作状態に対応する要求電力PAより大きく且つ操作レバーの最大操作量に対応する要求電力PBより小さくなるように予め設定された標準電力PCを用いて目標電力を設定する。そして、操作レバーが非操作状態から操作状態に切換えられたとき(時間t2)、操作レバーの操作量に応じて変化する要求電力が急激に増加しても、目標電力を高く維持させているので、目標電力の増加量を抑えることができる。そのため、バッテリ40の放電電力を抑えることができる(
図6のハッチング部分参照)。その結果、バッテリ40の劣化を抑制することができる。
【0046】
また、本実施形態の車体コントローラ32は、操作レバーの非操作状態の継続時間の増加に応じて目標電力を減少する。また、本実施形態の車体コントローラ32は、操作レバーの非操作状態の継続時間が所定値Tに達したとき、操作レバーの非操作状態及び所定のアイドル回転数に対応する最低要求電力PDを目標電力に設定する。そのため、省エネを図ることができる。
【0047】
なお、
図7で示す変形例のように、油圧ショベルは、複数のモード(例えば、エコモード、パワーモード、及びハイパワーモード)のうちの一つを選択するモード選択装置44を備えてもよい。モード選択装置44は、例えば、複数のモードのうちの一つを選択可能なモード選択ダイヤル、若しくは、複数のモードをそれぞれ選択可能な複数のモードスイッチで構成されている。
【0048】
本変形例の車体コントローラ32は、モード選択装置44で選択されたモードに応じて、パワーコントロールユニット20を介し電動機15の回転数を制御すると共に、レギュレータ23を介しメインポンプ22の容量を制御して、メインポンプ22のトルクを段階的に可変する。例えば、エコモードではメインポンプ22のトルクが低段階、パワーモードではメインポンプ22のトルクが中段階、ハイパワーモードではメインポンプ22のトルクが高段階となる。
【0049】
また、本変形例の車体コントローラ32は、上述したメインポンプ22のトルクの変化に伴い、標準電力PCも可変する。すなわち、エコモードでは標準電力PCが低段階、パワーモードでは標準電力PCが中段階、ハイパワーモードでは標準電力PCが高段階となる。このような変形例においても、上記一実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0050】
また、上記一実施形態において、車体コントローラ32は、操作レバーが操作状態から非操作状態に切換えられたとき、標準電力PCを目標電力に設定し、その後、操作レバーの非操作状態の継続時間に応じて目標電力を減少する場合を例にとって説明したが、これに限られない。車体コントローラ32は、操作レバーの非操作状態の継続時間が所定値に達するまで、目標電力を標準電力PCに固定してもよい。
【0051】
また、上記一実施形態において、車体コントローラ32は、操作レバーの非操作状態の継続時間が所定値に達したとき、電動機15の回転数を所定のアイドル回転数に低下するアイドル機能を有する場合を例にとって説明したが、これに限られない。車体コントローラ32は、アイドル機能を有しなくてもよい。すなわち、操作レバーの非操作状態の継続時間が所定値に達したとき、目標電力を最低要求電力PDに変更しなくてもよい。
【0052】
また、上記一実施形態において、燃料電池の電力過剰分を充電し燃料電池の電力不足分を補う二次電池としてバッテリを用いて説明したが、同機能を有するキャパシタを適用してもよい。
【0053】
なお、以上において、本発明の適用対象として油圧ショベルを例にとって説明したが、これに限られず、他の作業機械に本発明を適用してもよい。
【符号の説明】
【0054】
6 走行モータ
8 ブームシリンダ
10 アームシリンダ
12 アタッチメントシリンダ
13 旋回モータ
15 電動機
18A,18B 作業用操作装置
22 メインポンプ(油圧ポンプ)
26 ブーム制御弁
27 旋回制御弁
32 車体コントローラ
36 燃料電池
40 バッテリ