(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-06-10
(45)【発行日】2025-06-18
(54)【発明の名称】質量スペクトル分析においてシグナルを増強するためのアミノ酸の使用
(51)【国際特許分類】
G01N 27/62 20210101AFI20250611BHJP
G01N 30/88 20060101ALI20250611BHJP
G01N 30/72 20060101ALI20250611BHJP
【FI】
G01N27/62 X
G01N30/88 J
G01N30/72 C
(21)【出願番号】P 2022541935
(86)(22)【出願日】2021-01-07
(86)【国際出願番号】 US2021012523
(87)【国際公開番号】W WO2021142137
(87)【国際公開日】2021-07-15
【審査請求日】2023-12-25
(32)【優先日】2020-01-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2020-07-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】597160510
【氏名又は名称】リジェネロン・ファーマシューティカルズ・インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】REGENERON PHARMACEUTICALS, INC.
(74)【代理人】
【識別番号】100127926
【氏名又は名称】結田 純次
(74)【代理人】
【識別番号】100140132
【氏名又は名称】竹林 則幸
(72)【発明者】
【氏名】ユェン・マオ
(72)【発明者】
【氏名】アンドリュー・クラインバーグ
(72)【発明者】
【氏名】ユンロン・ザオ
(72)【発明者】
【氏名】リリ・グォ
【審査官】吉田 将志
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-215317(JP,A)
【文献】特表2018-501465(JP,A)
【文献】特開2016-194500(JP,A)
【文献】特表2019-518195(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/60 - G01N 27/70
G01N 30/00 - G01N 30/96
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量スペクトルシグナルを増強する方法であって、
試料成分が担体に結合することを可能にする条件下で、試料を分離カラムに接触させることと、
第1の移動相勾配を前記分離カラムに適用することであって、前記第1の移動相勾配は、トリフルオロ酢酸(TFA)および小分子添加剤またはギ酸(FA)および小分子添加剤を含む、適用することと、
前記第1の移動相中の前記小分子添加剤は、グリシン、アラニン、セリン、バリン、N-アセチルグリシン、メチオニン、β-アラニン、アスパラギン酸、またはN-メチルグリシンから選択され、
第2の移動相勾配を前記分離カラムに適用することであって、前記第2の移動相勾配は、アセトニトリル(ACN)中のTFAおよび小分子添加剤またはACN中のFAおよび小分子添加剤を含み、適用することと、
前記第2の移動相中の前記小分子添加剤は、グリシン、アラニン、セリン、バリン、N-アセチルグリシン、メチオニン、β-アラニン、アスパラギン酸、またはN-メチルグリシンから選択され、
溶出した試料成分に対して質量分析を行うことと、
を含む、方法。
【請求項2】
前記第1の移動相中の前記小分子添加剤は、グリシン、アラニン、セリン、またはバリンから選択される、請求項
1に記載の方法。
【請求項3】
前記第1の移動相中の前記小分子添加剤は、グリシンである、請求項
2に記載の方法。
【請求項4】
前記小分子添加剤の濃度は
、1mM
~2mMである、請求項1~
3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
グリシン濃度は、
1mMである、請求項3に記載の方法。
【請求項6】
グリシン濃度は、
2mMである、請求項3に記載の方法。
【請求項7】
前記第2の移動相中の前記小分子添加剤は、グリシン、アラニン、セリン、またはバリンから選択される、請求項
1に記載の方法。
【請求項8】
前記第2の移動相中の前記小分子添加剤は、グリシンである、請求項1~
7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記小分子添加剤の濃度は
、1mM
~2mMである、請求項
7または8に記載の方法。
【請求項10】
グリシン濃度は、
1mMである、請求項
8に記載の方法。
【請求項11】
グリシン濃度は、
2mMである、請求項
8に記載の方法。
【請求項12】
前記第1の移動相中のTFA濃度は、H
2O中
の0.05%~0.1%TFAであり、または前記第1の移動相中のFA濃度は
、0.1%FAである、請求項1~
11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記第2の移動相中のTFA濃度は、80%ACNおよび20%H
2O中
の0.05%TFAまたは80%ACNおよび20%H
2O中
の0.1%TFAを含む、請求項1~
12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記試料は、ペプチドまたはヌクレオチドを含む、請求項1~
13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
前記ペプチドは、糖ペプチドである、請求項
14に記載の方法。
【請求項16】
前記糖ペプチドは、モノクローナル抗体から取得される、請求項
15に記載の方法。
【請求項17】
前記モノクローナル抗体は、アイソタイプIgG1、IgG2、IgG3、IgG4、または混合アイソタイプのものである、請求項
16に記載の方法。
【請求項18】
試料成分が前記担体に結合することを可能にする条件下で前記試料を分離カラムに接触させる前に、前記試料を調製することをさらに含む、請求項1~
17のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
前記試料を調製することは、
試料の変性および還元を可能にする条件下で、試料を変性および還元溶液と接触させることと、
試料のアルキル化を可能にする条件下で、変性および還元された試料をアルキル化溶液と接触させることと、
試料の消化を可能にする条件下で、アルキル化された試料を消化溶液と接触させることと、
試料の消化を停止させる条件下で、消化された試料をクエンチ溶液と接触させることと、を含む、請求項
18に記載の方法。
【請求項20】
前記試料は、モノクローナル抗体であり、前記消化溶液は、プロテアーゼを含む、請求項
19に記載の方法。
【請求項21】
前記プロテアーゼは、トリプシンを含む、請求項
20に記載の方法。
【請求項22】
前記分離カラムは、液体クロマトグラフィーカラムである、請求項1~
21のいずれか一項に記載の方法。
【請求項23】
前記液体クロマトグラフィー(LC)分離カラムは、親水性相互作用(HILIC)液体クロマトグラフィーカラムを含む、請求項
22に記載の方法。
【請求項24】
溶出した試料成分に対して質量分析を行うことは、エレクトロスプレーイオン化を適用して前記溶出した試料成分から荷電イオンを生成することと、前記生成された荷電イオンを測定することと、を含む、請求項1~
23のいずれか一項に記載の方法。
【請求項25】
前記方法は、高荷電状態種(z≧3)において、平均
で5~14倍および/また
は2~1000倍の増加によって示される、前記質量スペクトルシグナルを増強する、請求項1~
24のいずれか一項に記載の方法。
【請求項26】
前記溶出した試料成分について取得された前記質量スペクトルシグナルは、前記小分子添加剤の非存在下で対照試料について取得される質量スペクトルシグナルに対して2倍~50倍増強される、請求項
15~17のいずれか一項に記載の方法。
【請求項27】
前記糖ペプチドは、O-グリカン含有糖ペプチドである、請求項
26に記載の方法。
【請求項28】
前記糖ペプチドは、N-グリカン含有糖ペプチドである、請求項
26に記載の方法。
【請求項29】
O-グリカンまたはN-グリカンは、標識に連結されている、請求項
27または28に記載の方法。
【請求項30】
前記標識は、プロカインアミドである、請求項
29に記載の方法。
【請求項31】
前記小分子添加剤は、グリシンである、請求項
26~30のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
配列表の参照
本出願は、2021年1月7日に作成され、18,878バイトを含むファイル10675WO01-Sequence.txtとしてコンピュータ可読形式で提出された配列表を参照により組み込む。
【0002】
本発明は、質量スペクトル分析に関し、グリシンなどのアミノ酸または修飾アミノ酸の使用によって質量分析シグナルを増強する方法に関する。
【背景技術】
【0003】
液体クロマトグラフィー-質量分析(LC-MS)は、ペプチドおよびタンパク質治療薬を含む生体分子の特徴付けに使用される。LC-MSは、組換えタンパク質ならびに翻訳後およびタンパク質修飾(例えば、ジスルフィド結合、グリコシル化およびリン酸化)の特徴付けのための強力な技術であるが、分離および感度が不十分であることが分かっている。例えば、グリコシル化は、抗体のトリプシン消化から生成された糖ペプチドを分析することによってペプチドレベルで特徴付けることができる。しかしながら、不均一なグリコフォームを有する糖ペプチドは、従来からペプチドマッピングに用いられる逆相ベースの液体クロマトグラフィー(RPLC)によっては十分に分離されないことが多い。さらに、オンライン質量分析(MS)によって誘発される糖ペプチドの糖鎖のインソース断片化が起こると、切断されたグリコフォームのアーチファクトが生じる場合があり、これにより、MSを用いた異なるグリコフォームの相対存在量の正確な定量化が損なわれる可能性がある。
【発明の概要】
【0004】
一態様において、本発明は、質量スペクトルシグナルを増強する方法を提供し、該方法は、試料成分が担体に結合することを可能にする条件下で、試料を分離カラムに接触させることと、第1の移動相勾配を分離カラムに適用することであって、第1の移動相勾配は、トリフルオロ酢酸(TFA)および小分子添加剤(例えば、アミノ酸)またはギ酸(FA)および小分子添加剤(例えば、アミノ酸)またはギ酸アンモニウムおよび小分子添加剤(例えば、アミノ酸)を含む、適用することと、第2の移動相勾配を分離カラムに適用することであって、第2の移動相勾配は、アセトニトリル(ACN)中のTFAおよび小分子添加剤(例えば、アミノ酸)、アセトニトリル(ACN)中のギ酸(FA)および小分子添加剤(例えば、アミノ酸)、または水およびアセトニトリル(ACN)中のギ酸アンモニウムおよび小分子添加剤(例えば、アミノ酸)を含む、適用することと、溶出した試料成分に対して質量分析を行うことと、を含む。
【0005】
一部の実施形態では、第1の移動相中の小分子添加剤は、グリシンである。
【0006】
一部の実施形態では、第1の移動相中の小分子添加剤は、グリシンであり、濃度が約1mM~約2mMのグリシンである。
【0007】
一部の実施形態では、第1の移動相中のグリシン濃度は、約1mMである。
【0008】
一部の実施形態では、第1の移動相中のグリシン濃度は、約2mMである。
【0009】
一部の実施形態では、第2の移動相中の小分子添加剤は、グリシンである。
【0010】
一部の実施形態では、第2の移動相中の小分子添加剤はグリシンであり、濃度が約1mM~約2mMのグリシンである。
【0011】
一部の実施形態では、第2の移動相中のグリシン濃度は、約1mMである。
【0012】
一部の実施形態では、第2の移動相中のグリシン濃度は、約2mMである。
【0013】
一部の実施形態では、第1の移動相中のTFA濃度は、H2O中の約0.05%~0.1%TFAであり、または第1の移動相中のFA濃度は、約0.1%FAである。
【0014】
一部の実施形態では、第2の移動相中のTFA濃度は、80%ACNおよび20%H2O中の約0.05%TFAまたは80%ACNおよび20%H2O中の約0.1%TFAを含む。
【0015】
一部の実施形態では、第1の移動相中のギ酸アンモニウム濃度は50mMであり、pHは4.4である。
【0016】
一部の実施形態では、第2の移動相は、H2O中で15%の50mMギ酸アンモニウム(pH4.4)、および85%のACNを含む。
【0017】
一部の実施形態では、試料は、ペプチド、ヌクレオチドまたはグリカンを含む。
【0018】
一部の実施形態では、ペプチドは、糖ペプチドである。
【0019】
一部の実施形態では、糖ペプチドは、モノクローナル抗体から取得される。
【0020】
一部の実施形態では、モノクローナル抗体は、アイソタイプIgG1、IgG2、IgG3、IgG4、または混合アイソタイプのものである。
【0021】
一部の実施形態では、本方法は、試料成分が担体に結合することを可能にする条件下で試料を分離カラムに接触させる前に試料を調製することをさらに含む。
【0022】
一部の実施形態では、試料を調製することは、試料変性および還元を可能にする条件下で試料を変性および還元溶液と接触させることと、試料のアルキル化を可能にする条件下で変性および還元された試料をアルキル化溶液と接触させることと、試料の消化を可能にする条件下で、アルキル化された試料を消化溶液と接触させることと、試料の消化を停止する条件下で消化された試料をクエンチ溶液と接触させること、を含む。
【0023】
一部の実施形態では、試料を調製することは、酵素または化学反応を使用して試料からグリカンを放出させることと、放出されたグリカンを蛍光標識で標識するか、または還元剤を使用して放出されたグリカンを還元することと、を含む。
【0024】
一部の実施形態では、試料はモノクローナル抗体であり、消化溶液はプロテアーゼを含む。
【0025】
一部の実施形態では、プロテアーゼはトリプシンを含む。
【0026】
一部の実施形態では、分離カラムは、液体クロマトグラフィー(LC)分離カラムである。
【0027】
一部の実施形態では、LC分離カラムは、親水性相互作用(HILIC)液体クロマトグラフィーカラムを含む。
【0028】
一部の実施形態では、溶出した試料成分に対して質量分析を行うことは、エレクトロスプレーイオン化を適用して溶出した試料成分から荷電イオンを生成することと、生成された荷電イオンを測定することと、を含む。
【0029】
一部の実施形態では、本方法は、高荷電状態種(例えば、z≧3)において、平均で約5~14倍および/またはおよそ約2~1000倍の増加によって示される、質量スペクトルシグナルを増強する。
【0030】
一部の実施形態では、スペクトルシグナルは、高荷電状態種において、およそ14倍および/またはおよそ1000倍増加する。
【0031】
一部の実施形態では、試料は糖ペプチドまたはグリカンを含有し、溶出した試料成分について取得された質量スペクトルシグナルは、小分子添加剤の非存在下で対照試料について取得される質量スペクトルシグナルに対して2倍~50倍増強される。一部の場合では、糖ペプチドは、O-グリカン含有糖ペプチドである。一部の場合では、糖ペプチドは、N-グリカン含有糖ペプチドである。一部の場合では、グリカンは、O-グリカンである。一部の場合では、グリカンは、N-グリカンである。一部の場合では、O-グリカンまたはN-グリカンは、標識、任意選択でプロカインアミド、2-アミノベンズアミドまたはRapiFluorに連結される。これらの実施形態のいずれにおいても、小分子添加剤はグリシンであってもよい。
【0032】
様々な実施形態では、上記または本明細書で考察される実施形態の特徴または構成要素のうちのいずれかは組み合わせられ得、そのような組み合わせは本開示の範囲内に包含される。上記または本明細書で考察されるいずれの特定の値も、上記または本明細書で考察される別の関連値と組み合わされて、それらの値が範囲の上限および下限を表す範囲を列挙することができ、かかる範囲およびかかる範囲内にあるすべての値は本開示の範囲内に包含される。上記または本明細書で考察される値のうちの各々は、1%、5%、10%または20%の変動で表され得る。例えば、10mMの濃度は、10mM±0.1mM(1%変動)、10mM±0.5mM(5%変動)、10mM±1mM(10%変動)、または10mM±2mMとして表され得る(20%変動)。他の実施形態は、後述の発明を実施するための形態の精査から明らかとなるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【
図1A】MSブーストに対する種々の濃度のグリシンの効果、およびMSブーストに対する種々の試料ローディング量の効果を示す。
【
図1B】MSブーストに対する種々の濃度のグリシンの効果、およびMSブーストに対する種々の試料ローディング量の効果を示す。
【
図1C】NISTmAbの重鎖(配列番号1)および軽鎖(配列番号2)を示す。
【
図3】試薬(2mM)によるNISTmAbトリプシンペプチドの平均MS1ブースト倍率を示す。
【
図4】TFA緩衝液にグリシンを添加した後のペプチドのクロマトグラフィー分離における最小の変化を示す。
【
図5】0.25μgのローディングNISTmAbを含むTFA緩衝液中の2mMグリシンによるブーストの再現性を示す。
図5に、以下のペプチド、すなわちALEWLADIWWDDK(配列番号3)、ALPAPIEK(配列番号4)、DIQMTQSPSTLSASVGDR(配列番号34)、DMIFNFYFDVWGQGTTVTVSSASTK(配列番号5)、DSTYSLSSTLTLSK(配列番号6)、DTLMISR(配列番号7)、EPQVYTLPPSR(配列番号8)、ESGPALVKPTQTLTLTCTFSGFSLSTAGMSVGWIR(配列番号9)、FNWYVDGVEVHNAK(配列番号10)、FSGSGSGTEFTLTISSLQPDDFATYYCFQGSGYPFTFGGGTK(配列番号11)、GFYPSDIAVEWESNGQPENNYK(配列番号12)、GPSVFPLAPSSK(配列番号13)、HYNPSLK(配列番号14)、LASGVPSR(配列番号15)、LLIYDTSK(配列番号16)、NQVSLTCLVK(配列番号17)、NQVVLK(配列番号18)、QVTLR(配列番号19)、SGTASVVCLLNNFYPR(配列番号20)、SLSLSPG(配列番号21)、STSGGTAALGCLVK(配列番号22)、THTCPPCPAPELLGGPSVFLFPPKPK(配列番号23)、TPEVTCVVVDVSHEDPEVK(配列番号24)、TTPPVLDSDGSFFLYSK(配列番号25)、TVAAPSVFIFPPSDEQLK(配列番号26)、VDNALQSGNSQESVTEQDSK(配列番号27)、VGYMHWYQQKPGK(配列番号28)、VTITCSASSR(配列番号29)、VTNMDPADTATYYCAR(配列番号30)、VVSVLTVLHQDWLNGK(配列番号31)、VYACEVTHQGLSSPVTK(配列番号32)、およびWQQGNVFSCSVMHEALHNHYTQK(配列番号33)を示す。
【
図6】TFA対照およびグリシンが存在し、NISTmAb消化物を2.5μg添加したTFAで観察されたシグナル対ノイズ比を示す。
【
図7】グリシンが存在する場合の荷電状態の変化を示す。
図7に、以下のペプチド、すなわちALEWLADIWWDDK(配列番号3)、ALPAPIEK(配列番号4)、DIQMTQSPSTLSASVGDR(配列番号34)、DMIFNFYFDVWGQGTTVTVSSASTK(配列番号5)、DSTYSLSSTLTLSK(配列番号6)、DTLMISR(配列番号7)、EPQVYTLPPSR(配列番号8)、ESGPALVKPTQTLTLTCTFSGFSLSTAGMSVGWIR(配列番号9)、FNWYVDGVEVHNAK(配列番号10)、FSGSGSGTEFTLTISSLQPDDFATYYCFQGSGYPFTFGGGTK(配列番号11)、GFYPSDIAVEWESNGQPENNYK(配列番号12)、GPSVFPLAPSSK(配列番号13)、HYNPSLK(配列番号14)、LASGVPSR(配列番号15)、LLIYDTSK(配列番号16)、NQVSLTCLVK(配列番号17)、NQVVLK(配列番号18)、QVTLR(配列番号19)、SGTASVVCLLNNFYPR(配列番号20)、SLSLSPG(配列番号21)、STSGGTAALGCLVK(配列番号22)、THTCPPCPAPELLGGPSVFLFPPKPK(配列番号23)、TPEVTCVVVDVSHEDPEVK(配列番号24)、TTPPVLDSDGSFFLYSK(配列番号25)、TVAAPSVFIFPPSDEQLK(配列番号26)、VDNALQSGNSQESVTEQDSK(配列番号27)、VGYMHWYQQKPGK(配列番号28)、VTITCSASSR(配列番号29)、VTNMDPADTATYYCAR(配列番号30)、VVSVLTVLHQDWLNGK(配列番号31)、VYACEVTHQGLSSPVTK(配列番号32)、およびWQQGNVFSCSVMHEALHNHYTQK(配列番号33)を示す。配列番号9のアミノ酸配列を有するペプチドを用いて実施した研究を
図8Aに示し、配列番号18の残基を有するペプチドを
図8Bに示す。
【
図8A】グリシンが存在する場合の荷電状態の変化を示す。
図7に、以下のペプチド、すなわちALEWLADIWWDDK(配列番号3)、ALPAPIEK(配列番号4)、DIQMTQSPSTLSASVGDR(配列番号34)、DMIFNFYFDVWGQGTTVTVSSASTK(配列番号5)、DSTYSLSSTLTLSK(配列番号6)、DTLMISR(配列番号7)、EPQVYTLPPSR(配列番号8)、ESGPALVKPTQTLTLTCTFSGFSLSTAGMSVGWIR(配列番号9)、FNWYVDGVEVHNAK(配列番号10)、FSGSGSGTEFTLTISSLQPDDFATYYCFQGSGYPFTFGGGTK(配列番号11)、GFYPSDIAVEWESNGQPENNYK(配列番号12)、GPSVFPLAPSSK(配列番号13)、HYNPSLK(配列番号14)、LASGVPSR(配列番号15)、LLIYDTSK(配列番号16)、NQVSLTCLVK(配列番号17)、NQVVLK(配列番号18)、QVTLR(配列番号19)、SGTASVVCLLNNFYPR(配列番号20)、SLSLSPG(配列番号21)、STSGGTAALGCLVK(配列番号22)、THTCPPCPAPELLGGPSVFLFPPKPK(配列番号23)、TPEVTCVVVDVSHEDPEVK(配列番号24)、TTPPVLDSDGSFFLYSK(配列番号25)、TVAAPSVFIFPPSDEQLK(配列番号26)、VDNALQSGNSQESVTEQDSK(配列番号27)、VGYMHWYQQKPGK(配列番号28)、VTITCSASSR(配列番号29)、VTNMDPADTATYYCAR(配列番号30)、VVSVLTVLHQDWLNGK(配列番号31)、VYACEVTHQGLSSPVTK(配列番号32)、およびWQQGNVFSCSVMHEALHNHYTQK(配列番号33)を示す。配列番号9のアミノ酸配列を有するペプチドを用いて実施した研究を
図8Aに示し、配列番号18の残基を有するペプチドを
図8Bに示す。
【
図8B】グリシンが存在する場合の荷電状態の変化を示す。
図7に、以下のペプチド、すなわちALEWLADIWWDDK(配列番号3)、ALPAPIEK(配列番号4)、DIQMTQSPSTLSASVGDR(配列番号34)、DMIFNFYFDVWGQGTTVTVSSASTK(配列番号5)、DSTYSLSSTLTLSK(配列番号6)、DTLMISR(配列番号7)、EPQVYTLPPSR(配列番号8)、ESGPALVKPTQTLTLTCTFSGFSLSTAGMSVGWIR(配列番号9)、FNWYVDGVEVHNAK(配列番号10)、FSGSGSGTEFTLTISSLQPDDFATYYCFQGSGYPFTFGGGTK(配列番号11)、GFYPSDIAVEWESNGQPENNYK(配列番号12)、GPSVFPLAPSSK(配列番号13)、HYNPSLK(配列番号14)、LASGVPSR(配列番号15)、LLIYDTSK(配列番号16)、NQVSLTCLVK(配列番号17)、NQVVLK(配列番号18)、QVTLR(配列番号19)、SGTASVVCLLNNFYPR(配列番号20)、SLSLSPG(配列番号21)、STSGGTAALGCLVK(配列番号22)、THTCPPCPAPELLGGPSVFLFPPKPK(配列番号23)、TPEVTCVVVDVSHEDPEVK(配列番号24)、TTPPVLDSDGSFFLYSK(配列番号25)、TVAAPSVFIFPPSDEQLK(配列番号26)、VDNALQSGNSQESVTEQDSK(配列番号27)、VGYMHWYQQKPGK(配列番号28)、VTITCSASSR(配列番号29)、VTNMDPADTATYYCAR(配列番号30)、VVSVLTVLHQDWLNGK(配列番号31)、VYACEVTHQGLSSPVTK(配列番号32)、およびWQQGNVFSCSVMHEALHNHYTQK(配列番号33)を示す。配列番号9のアミノ酸配列を有するペプチドを用いて実施した研究を
図8Aに示し、配列番号18の残基を有するペプチドを
図8Bに示す。
【
図9】2mMグリシン(TFA緩衝液、0.25μg NISTmAbローディング)の存在および不在下でのPTM定量%を示す。
【
図10】TFA対照と比較して、TFAまたはFAまたはFA単独でのグリシンの存在によるブースト倍率を示す。
図10に、以下の残基を有するペプチド、すなわちALEWLADIWWDDK(配列番号3)、ALPAPIEK(配列番号4)、DIQMTQSPSTLSASVGDR(配列番号34)、DMIFNFYFDVWGQGTTVTVSSASTK(配列番号5)、DSTYSLSSTLTLSK(配列番号6)、DTLMISR(配列番号7)、EPQVYTLPPSR(配列番号8)、ESGPALVKPTQTLTLTCTFSGFSLSTAGMSVGWIR(配列番号9)、FNWYVDGVEVHNAK(配列番号10)、FSGSGSGTEFTLTISSLQPDDFATYYCFQGSGYPFTFGGGTK(配列番号11)、GFYPSDIAVEWESNGQPENNYK(配列番号12)、GPSVFPLAPSSK(配列番号13)、HYNPSLK(配列番号14)、LASGVPSR(配列番号15)、LLIYDTSK(配列番号16)、NQVSLTCLVK(配列番号17)、NQVVLK(配列番号18)、QVTLR(配列番号19)、SGTASVVCLLNNFYPR(配列番号20)、SLSLSPG(配列番号21)、STSGGTAALGCLVK(配列番号22)、THTCPPCPAPELLGGPSVFLFPPKPK(配列番号23)、TPEVTCVVVDVSHEDPEVK(配列番号24)、TTPPVLDSDGSFFLYSK(配列番号25)、TVAAPSVFIFPPSDEQLK(配列番号26)、VDNALQSGNSQESVTEQDSK(配列番号27)、VGYMHWYQQKPGK(配列番号28)、VTITCSASSR(配列番号29)、VTNMDPADTATYYCAR(配列番号30)、VVSVLTVLHQDWLNGK(配列番号31)、VYACEVTHQGLSSPVTK(配列番号32)、およびWQQGNVFSCSVMHEALHNHYTQK(配列番号33)を示す。
【
図11】2mMグリシンによる個々のアミノ酸のブースト倍率を示す。
【
図12】TTPPVLDSDGSFFLYSK(配列番号25)ペプチドに対する市販のグリシン製剤中の微量ナトリウムの効果を示す。
【
図13】PRMおよびフルスキャンを使用したSTSGGTAALGCLVK(配列番号22)ペプチドの定量化の比較を提供する。
【
図14】9残基ペプチドの糖ペプチド分析について、逆相に対するHILICベースの液体クロマトグラフィーの一部の利点を示す。
【
図15】MS1およびMS2の両方についてグリシン添加緩衝液中で観察されたシグナルブーストを示す。
【
図16】2mMのグリシンが結合を妨げることを示す。
【
図17】IP-HILICベースのLCによる糖ペプチド分析のための例示的な試料調製ワークフロー概略図である。
【
図18】SepPak 30カートリッジによる脱塩が上昇したベースラインを排除した脱塩の効果を示す(矢印を参照)。
【
図19】ピーク面積に対するグリシンの効果を示す表を提供する。
【
図20】ピーク面積に対するグリシンの効果を示す表を提供する。
【
図21A】評価されたmAbにおけるすべてのグリコフォームのピーク面積を示す。
【
図21B】評価されたmAbにおけるすべてのグリコフォームのピーク面積を示す。
【
図22】9残基ペプチドの1mMグリシンの存在における荷電状態シフトによる断片化能力の増強を示す。
【
図23】グリシンがVEGF TRAPにおいてペプチドスペクトルマッチ(PSM)およびグリコフォームの数を増加させたことを示す。
【
図24】Byologic検証後にFAと比較してTFA+グリシンを使用した場合に同定された配列変異体の数を示す。
【
図25】ギ酸アンモニウム移動相におけるPROCA標識血清中N-グリカンに対するグリシンのブースト効果を示す。ギ酸アンモニウム含有移動相(対照)および追加の1mMグリシン(グリシン)を含む同じ移動相を使用してHILICによって分析されたヒト血清からのPROCA標識N-グリカンの質量分析(MS)抽出イオンクロマトグラフ(EIC)および蛍光(FLR)クロマトグラムトレースを示す。
【
図26A】ギ酸アンモニウム移動相中のPROCA標識N-グリカンの総MSシグナルを示す。
図26Aおよび26Cは、ギ酸アンモニウム移動相中に1mMグリシンを含めることによる、PROCA標識血清N-グリカンについてのMSシグナル増強の倍率を示す。
図26Bは、ギ酸アンモニウム含有移動相(対照)および追加の1mMグリシン(グリシン)を含む同じ移動相におけるPROCA標識血清N-グリカンのMS EICピーク面積を示す。
【
図26B】ギ酸アンモニウム移動相中のPROCA標識N-グリカンの総MSシグナルを示す。
図26Aおよび26Cは、ギ酸アンモニウム移動相中に1mMグリシンを含めることによる、PROCA標識血清N-グリカンについてのMSシグナル増強の倍率を示す。
図26Bは、ギ酸アンモニウム含有移動相(対照)および追加の1mMグリシン(グリシン)を含む同じ移動相におけるPROCA標識血清N-グリカンのMS EICピーク面積を示す。
【
図26C】ギ酸アンモニウム移動相中のPROCA標識N-グリカンの総MSシグナルを示す。
図26Aおよび26Cは、ギ酸アンモニウム移動相中に1mMグリシンを含めることによる、PROCA標識血清N-グリカンについてのMSシグナル増強の倍率を示す。
図26Bは、ギ酸アンモニウム含有移動相(対照)および追加の1mMグリシン(グリシン)を含む同じ移動相におけるPROCA標識血清N-グリカンのMS EICピーク面積を示す。
【
図27】グリシン含有移動相を用いた質量クロマトグラムが、対照移動相における質量クロマトグラムよりもFLRによく似ていることを示す。ギ酸アンモニウム含有移動相(対照)および追加の1mMグリシン(グリシン)を含む同じ移動相を使用してHILICによって分析したヒト血清からのPROCA標識N-グリカンの質量EICおよびFLRクロマトグラムトレースを重ね合わせたものを示す。
【
図28A】ギ酸アンモニウム移動相中のグリシンを含む場合および含まない場合のPROCA標識血清中N-グリカンMSピーク強度の比較を示す。ギ酸アンモニウム含有移動相(対照)および追加の1mMグリシンを含む同じ移動相(グリシン)を使用してHILICによって分析されたFA2G2のピーク面積に対して正規化されたFLRまたはMS EICピーク面積に基づくPROCA標識N-グリカンの相対レベルを示す。
【
図28B】ギ酸アンモニウム移動相中のグリシンを含む場合および含まない場合のPROCA標識血清中N-グリカンMSピーク強度の比較を示す。ギ酸アンモニウム含有移動相(対照)および追加の1mMグリシンを含む同じ移動相(グリシン)を使用してHILICによって分析されたFA2G2のピーク面積に対して正規化されたFLRまたはMS EICピーク面積に基づくPROCA標識N-グリカンの相対レベルを示す。
【
図28C】ギ酸アンモニウム移動相中のグリシンを含む場合および含まない場合のPROCA標識血清中N-グリカンMSピーク強度の比較を示す。ギ酸アンモニウム含有移動相(対照)および追加の1mMグリシンを含む同じ移動相(グリシン)を使用してHILICによって分析されたFA2G2のピーク面積に対して正規化されたFLRまたはMS EICピーク面積に基づくPROCA標識N-グリカンの相対レベルを示す。
【
図29】PROCA標識グリカンMSピーク面積が、グリシンを含むギ酸アンモニウム移動相におけるFLRピーク面積により比例することを示す。1mMグリシン添加剤を含まない(対照)および含む(グリシン)ギ酸アンモニウム移動相を使用した分析についての血清N-グリカンEICピーク面積対FLRピーク面積(対数スケール)の散布図を示す。各条件についての式および線形回帰のR二乗値を示す。対照条件と比較してグリシン条件のR二乗値が小さいことは、移動相にグリシンを添加したMSによって、PROCA標識N-グリカンをより正確に定量化できることを実証している。
【
図30A】ギ酸移動相中のグリシンによるPROCA標識N-グリカンのMSシグナルブーストを示す。
図30Aおよび
図30Cは、HILICによって分析された0.1%FA移動相中に1mMグリシンを含めることによる、PROCA標識血清N-グリカンについてのMSシグナル増強の倍率を示す。
図30Bは、0.1%FA移動相(対照)および追加の1mMグリシン(グリシン)を含む同じ移動相におけるPROCA標識血清N-グリカンのMS EICピーク面積を示す。
【
図30B】ギ酸移動相中のグリシンによるPROCA標識N-グリカンのMSシグナルブーストを示す。
図30Aおよび
図30Cは、HILICによって分析された0.1%FA移動相中に1mMグリシンを含めることによる、PROCA標識血清N-グリカンについてのMSシグナル増強の倍率を示す。
図30Bは、0.1%FA移動相(対照)および追加の1mMグリシン(グリシン)を含む同じ移動相におけるPROCA標識血清N-グリカンのMS EICピーク面積を示す。
【
図30C】ギ酸移動相中のグリシンによるPROCA標識N-グリカンのMSシグナルブーストを示す。
図30Aおよび
図30Cは、HILICによって分析された0.1%FA移動相中に1mMグリシンを含めることによる、PROCA標識血清N-グリカンについてのMSシグナル増強の倍率を示す。
図30Bは、0.1%FA移動相(対照)および追加の1mMグリシン(グリシン)を含む同じ移動相におけるPROCA標識血清N-グリカンのMS EICピーク面積を示す。
【
図31A】ギ酸アンモニウム移動相中にグリシンを含む場合および含まない場合のRapiFluor標識血漿中N-グリカンMSピーク強度の比較を示す。ギ酸アンモニウム含有移動相(対照)および追加の1mMグリシンを含む同じ移動相(グリシン)を使用してHILICによって分析されたFA2G2のピーク面積に対して正規化されたFLRまたはMS EICピーク面積に基づくRapiFluor標識N-グリカンの相対レベルを示す。
図31Aはまた、グリシン添加剤によるPROCA標識血清N-グリカンについてのMSシグナル増強および荷電状態シフトの倍率を示す。
【
図31B】ギ酸アンモニウム移動相中にグリシンを含む場合および含まない場合のRapiFluor標識血漿中N-グリカンMSピーク強度の比較を示す。ギ酸アンモニウム含有移動相(対照)および追加の1mMグリシンを含む同じ移動相(グリシン)を使用してHILICによって分析されたFA2G2のピーク面積に対して正規化されたFLRまたはMS EICピーク面積に基づくRapiFluor標識N-グリカンの相対レベルを示す。
図31Aはまた、グリシン添加剤によるPROCA標識血清N-グリカンについてのMSシグナル増強および荷電状態シフトの倍率を示す。
【
図31C】ギ酸アンモニウム移動相中にグリシンを含む場合および含まない場合のRapiFluor標識血漿中N-グリカンMSピーク強度の比較を示す。ギ酸アンモニウム含有移動相(対照)および追加の1mMグリシンを含む同じ移動相(グリシン)を使用してHILICによって分析されたFA2G2のピーク面積に対して正規化されたFLRまたはMS EICピーク面積に基づくRapiFluor標識N-グリカンの相対レベルを示す。
図31Aはまた、グリシン添加剤によるPROCA標識血清N-グリカンについてのMSシグナル増強および荷電状態シフトの倍率を示す。
【
図32】ギ酸アンモニウム移動相中にグリシンを含む場合および含まない場合の減少した血清中N-グリカンMSピーク強度の比較を示す。ギ酸アンモニウム含有移動相(対照)および追加の1mMグリシンを含む同じ移動相(グリシン)を使用してHILICによって分析した還元血清N-グリカンのMSシグナル変化および平均荷電状態を示す表を示す。
【
図33】標識または還元N-グリカンの分析のためのLC-FLR-MS条件を示す。
【
図34】O-グリカン調製ならびにLC-MSおよびFLR検出による分析のための例示的な方法を示す。
【
図35】カラム上のウシ顎下腺ムチン(BSM)2μgからのPROCA標識O-グリカン、蛍光および最適化還元的アミン化を示す。
【
図36】PROCA標識O-グリカンFLおよびMS TICプロファイルがほぼ同等であることを実証する。
【
図37A】ギ酸アンモニウム移動相中のグリシンを含む場合および含まない場合のPROCA標識ウシ顎下腺ムチン(BSM)O-グリカンMSピーク強度の比較を示す。
図37Aは、ギ酸アンモニウム含有移動相(対照)および追加の1mMグリシン(グリシン)を含む同じ移動相を使用してHILICによって分析したBSMからのPROCA標識O-グリカンのMS EICおよびFLRクロマトグラムトレースを示す。
図37Bは、移動相中にグリシンを含む場合および含まない場合のO-グリカンFLRおよびMSピーク強度(HexNAc1NeuAc1のものに対して正規化された)の比較を示す。
【
図37B】ギ酸アンモニウム移動相中のグリシンを含む場合および含まない場合のPROCA標識ウシ顎下腺ムチン(BSM)O-グリカンMSピーク強度の比較を示す。
図37Aは、ギ酸アンモニウム含有移動相(対照)および追加の1mMグリシン(グリシン)を含む同じ移動相を使用してHILICによって分析したBSMからのPROCA標識O-グリカンのMS EICおよびFLRクロマトグラムトレースを示す。
図37Bは、移動相中にグリシンを含む場合および含まない場合のO-グリカンFLRおよびMSピーク強度(HexNAc1NeuAc1のものに対して正規化された)の比較を示す。
【
図38A】種々の標識の有無におけるBSM O-グリカンに対するグリシンのブースト効果を示す。
図38Aは、PROCA標識BSM O-グリカンに対するグリシンのブースト効果を示す。
図38Bは、2AB標識BSM O-グリカンに対するグリシンのブースト効果を示す。
図38Cは、還元BSM O-グリカンに対するグリシンのブースト効果を示す。
【
図38B】種々の標識の有無におけるBSM O-グリカンに対するグリシンのブースト効果を示す。
図38Aは、PROCA標識BSM O-グリカンに対するグリシンのブースト効果を示す。
図38Bは、2AB標識BSM O-グリカンに対するグリシンのブースト効果を示す。
図38Cは、還元BSM O-グリカンに対するグリシンのブースト効果を示す。
【
図38C】種々の標識の有無におけるBSM O-グリカンに対するグリシンのブースト効果を示す。
図38Aは、PROCA標識BSM O-グリカンに対するグリシンのブースト効果を示す。
図38Bは、2AB標識BSM O-グリカンに対するグリシンのブースト効果を示す。
図38Cは、還元BSM O-グリカンに対するグリシンのブースト効果を示す。
【
図39】標識または還元O-グリカンの分析のための例示的なLC-FLR-MS条件を示す。
【
図40】ビーズ精製を使用した場合に非常に低いレベルを有するO-グリカン構造のMS2確認に対するグリシンの効果を示す。
【
図41】ビーズ精製を使用した場合に非常に低いレベルを有するO-グリカン構造のMS2確認に対するグリシンの効果を示す。
【
図42A】グリシン添加剤の存在およびグリシンなしでの最適化されたIP-HILIC条件下での典型的なIgG4のTICプロファイルを示す。
【
図42B】1mMグリシンを含有する移動相および対照条件を使用するIP-HILIC-MS分析のためのmAb1トリプシン消化物のUVクロマトグラムトレースを示す。
【
図42C-1】IP-HILIC-MSについて異なる長さの線形勾配を用いたアイソフォーム(左)と複数のグリコフォーム(右)の分離の比較を示す。
【
図42C-2】IP-HILIC-MSについて異なる長さの線形勾配を用いたアイソフォーム(左)と複数のグリコフォーム(右)の分離の比較を示す。
【
図42C-3】IP-HILIC-MSについて異なる長さの線形勾配を用いたアイソフォーム(左)と複数のグリコフォーム(右)の分離の比較を示す。
【
図42D】IgG4由来の糖ペプチドのタンデム質量スペクトルの例を示す。糖ペプチドについてすべてのPSM内で最高スコアを有するスペクトルを示す。
【
図42E】IgG4由来の糖ペプチドのタンデム質量スペクトルの例を示す。糖ペプチドについてすべてのPSM内で最高スコアを有するスペクトルを示す。
【
図42F】IP-HILIC-MSを用いて分析したmAb2の糖ペプチドのEICピークを示す。カートンは、グリカンの統一記号命名法(SNFG)、すなわち、四角(N-アセチルグルコサミン)、三角(フコース)、丸(マンノース)、丸(ガラクトース、菱形(N-アセチルノイラミン酸)を用いたグリカン構造を表す。
【
図42G】pH5.5でHILIC-FLR-MSを使用して分析したmAb2から放出されたグリカンのEICピークを示す。
【
図42H-1】80分の勾配を用いたIgG4からのトリプシンペプチドのRPLC-MSを示す。すべてのグリコフォームが単一クラスターで溶出しており(右パネル)、IP-HILIC-MSにおける効率的なグリコフォーム分離は、インソース断片化から生成された人工グリコフォームを排除する(左パネル)。
【
図42H-2】80分の勾配を用いたIgG4からのトリプシンペプチドのRPLC-MSを示す。すべてのグリコフォームが単一クラスターで溶出しており(右パネル)、IP-HILIC-MSにおける効率的なグリコフォーム分離は、インソース断片化から生成された人工グリコフォームを排除する(左パネル)。
【
図43A】
図35Aの絶対EICピーク面積および
図35Bの各個々のグリカンの相対存在量として示されるように、Fcグリコシル化部位N297におけるmAb1のすべてのグリコフォームを、グリシンを含む場合および含まない場合のIP-HILIC-MS実行に基づいて定量化して示す。
【
図43B】
図35Aの絶対EICピーク面積および
図35Bの各個々のグリカンの相対存在量として示されるように、Fcグリコシル化部位N297におけるmAb1のすべてのグリコフォームを、グリシンを含む場合および含まない場合のIP-HILIC-MS実行に基づいて定量化して示す。
【
図43C】mAb1(IgG4)からの個々のグリコフォームについて測定されたEICピーク面積および相対的定量の表を示す。
【
図43D-1】mAb5(IgG1)-TICクロマトグラムについての糖ペプチド分析と、IP-HILIC-MSを使用して分析された最も豊富な10種のグリコフォームの溶出プロファイルと、RPLC-MSを使用して分析された最も豊富な10種のグリコフォームの溶出プロファイルと、それぞれの個々のグリコフォームについてのグリシン支援ESIシグナルブーストと、それぞれの同定されたグリコフォームの相対割合と、を示す。
【
図43D-2】mAb5(IgG1)-TICクロマトグラムについての糖ペプチド分析と、IP-HILIC-MSを使用して分析された最も豊富な10種のグリコフォームの溶出プロファイルと、RPLC-MSを使用して分析された最も豊富な10種のグリコフォームの溶出プロファイルと、それぞれの個々のグリコフォームについてのグリシン支援ESIシグナルブーストと、それぞれの同定されたグリコフォームの相対割合と、を示す。
【
図43D-3】mAb5(IgG1)-TICクロマトグラムについての糖ペプチド分析と、IP-HILIC-MSを使用して分析された最も豊富な10種のグリコフォームの溶出プロファイルと、RPLC-MSを使用して分析された最も豊富な10種のグリコフォームの溶出プロファイルと、それぞれの個々のグリコフォームについてのグリシン支援ESIシグナルブーストと、それぞれの同定されたグリコフォームの相対割合と、を示す。
【
図43E】mAb5(IgG1)からの個々のグリコフォームについて測定されたEICピーク面積および相対的定量の表を示す。*対照試料中のグリコフォームのピーク面積が不十分な検出のために低い場合、倍率変化は劇的に増加する。
【
図43F】0.1%TFA(
図35G)またはシグナルブースターとして0.1%TFA+1mMグリシン(
図35F)を含有する移動相を使用するIP-HILIC-MSによって分析されたfP1由来のトリプシンペプチドからのタンデム質量スペクトルの例を示す。両方のスペクトルは、この糖ペプチドについてすべてのPSM内でランク付けされた最も高いスコアを有する。
【
図43G】0.1%TFA(
図35G)またはシグナルブースターとして0.1%TFA+1mMグリシン(
図35F)を含有する移動相を使用するIP-HILIC-MSによって分析されたfP1由来のトリプシンペプチドからのタンデム質量スペクトルの例を示す。両方のスペクトルは、この糖ペプチドについてすべてのPSM内でランク付けされた最も高いスコアを有する。
【
図44A】異なる分離方法(TFAを用いたIP-HILIC、FAを用いたHILICおよびTFAを用いたRPLC)の間でのFcドメイン融合タンパク質fP1の糖ペプチド同定の比較を示す。1mMのグリシンをすべての実験に適用して、MS検出中のイオン抑制の影響を排除する。
図36Aは、完全な部位特異的グリコシル化マップを示す。
図36Bは、異なる方法で同定された糖ペプチドの数をまとめたものを示す。
【
図44B】異なる分離方法(TFAを用いたIP-HILIC、FAを用いたHILICおよびTFAを用いたRPLC)の間でのFcドメイン融合タンパク質fP1の糖ペプチド同定の比較を示す。1mMのグリシンをすべての実験に適用して、MS検出中のイオン抑制の影響を排除する。
図36Aは、完全な部位特異的グリコシル化マップを示す。
図36Bは、異なる方法で同定された糖ペプチドの数をまとめたものを示す。
【
図44C】異なるグリコサイト含有ペプチドについてのグリシンベースのシグナル倍率変化を示す。
【
図44D】TFAを用いたIP-HILIC-MS(上パネル)、FAを用いたHILIC-MS(中パネル)、およびTFAを用いたRPLC-MS(下パネル)によって分析された消化されたfP1のオキソニウムイオン抽出(黄色トレース)およびTIC(他のトレース)プロファイルを示す。
【
図45A】fP1由来の7つのグリコサイト含有ペプチドにおける4つの代表的なグリコフォームのEICピークを示す。ペプチド配列上の色は、ヒドロキシル、アミドまたは一級アミン基を含有する極性残基(オレンジ色)およびグアニジノ基を含有する強い極性残基(赤色)、およびグリコシル化アスパラギン(青色)として示される、親水性に潜在的に寄与するアミノ酸を示す。
【
図45B】非標準N-グリコシル化部位における糖ペプチドおよびmAb3において同定された非占有ペプチドのタンデム質量スペクトルを示す。
【
図45C】非標準N-グリコシル化部位における糖ペプチドおよびmAb3において同定された非占有ペプチドのタンデム質量スペクトルを示す。
【
図45D】IP-HILIC-MSを使用して分析されたmAb3の非標準部位における低存在量N-グリコシル化の相対割合を示す。
【
図45E】mAb4において同定されたO-結合糖ペプチドおよび非占有ペプチドのタンデム質量スペクトルを示す。
【
図45F】mAb4において同定されたO-結合糖ペプチドおよび非占有ペプチドのタンデム質量スペクトルを示す。
【
図46A】(A)(C)グリシンを用いたRPLC-MSおよび(B)(D)4.5μgの試料注入を用いたIP-HILIC-MSの下で取得されたmAb3についての低存在量非標準N-グリコシル化ペプチドおよびベースピーククロマトグラム(BPC)についてのEICを示す。MSピーク強度は、最も高いピークを使用して正規化されている。ピーク番号1~4は、それぞれN91でのMan5、Man6、Man7およびN163でのFA2G2を表す。
【
図46B】(A)(C)グリシンを用いたRPLC-MSおよび(B)(D)4.5μgの試料注入を用いたIP-HILIC-MSの下で取得されたmAb3についての低存在量非標準N-グリコシル化ペプチドおよびベースピーククロマトグラム(BPC)についてのEICを示す。MSピーク強度は、最も高いピークを使用して正規化されている。ピーク番号1~4は、それぞれN91でのMan5、Man6、Man7およびN163でのFA2G2を表す。
【
図46C】(A)(C)グリシンを用いたRPLC-MSおよび(B)(D)4.5μgの試料注入を用いたIP-HILIC-MSの下で取得されたmAb3についての低存在量非標準N-グリコシル化ペプチドおよびベースピーククロマトグラム(BPC)についてのEICを示す。MSピーク強度は、最も高いピークを使用して正規化されている。ピーク番号1~4は、それぞれN91でのMan5、Man6、Man7およびN163でのFA2G2を表す。
【
図46D】(A)(C)グリシンを用いたRPLC-MSおよび(B)(D)4.5μgの試料注入を用いたIP-HILIC-MSの下で取得されたmAb3についての低存在量非標準N-グリコシル化ペプチドおよびベースピーククロマトグラム(BPC)についてのEICを示す。MSピーク強度は、最も高いピークを使用して正規化されている。ピーク番号1~4は、それぞれN91でのMan5、Man6、Man7およびN163でのFA2G2を表す。
【
図46E】mAb4中の同定されたO-結合糖ペプチドのMS1抽出を示す。
【発明を実施するための形態】
【0034】
本発明が記載される前に、記載される特定の方法および実験条件が異なり得るため、本発明がかかる方法および条件に限定されないことを、理解されたい。本明細書で使用される用語は、特定の実施形態のみを説明するためのものであり、本発明の範囲が添付の特許請求の範囲によってのみ限定されるため、限定することを企図するものではないことも理解されるべきである。任意の実施形態または実施形態の特徴は、互いに組み合わせることができ、そのような組み合わせは、本発明の範囲内に明示的に含まれる。
【0035】
別段定義されない限り、本明細書で使用されるすべての技術および科学用語は、本発明が属する当業者によって一般に理解される意味と同じ意味を有する。本明細書で使用される場合、「約」という用語は、特定の列挙された数値に関して使用されるとき、その値が列挙された値から1%以下だけ変動し得ることを意味する。例えば、本明細書で使用される場合、「約100」という表現は、99および101ならびにそれらの間の全ての値(例えば、99.1、99.2、99.3、99.4など)を含む。
【0036】
本明細書に記載されるものと同様または同等のいずれの方法および材料も本発明の実施または試験に使用され得るが、好ましい方法および材料をこれから説明する。本明細書において言及されるすべての特許、出願および非特許刊行物は、それらの全体の参照により本明細書に組み込まれる。
【0037】
本明細書で使用される略語
ACN:アセトニトリル
ESI-MS:エレクトロスプレーイオン化質量分析
FA:ギ酸
FLR:蛍光検出
HC:重鎖
HESI:加熱エレクトロスプレーイオン化
HILIC:親水性相互作用液体クロマトグラフィー
IP-HILIC:イオン対親水性相互作用クロマトグラフィー
IgG:免疫グロブリンG
LC:軽鎖
LC-MS:液体クロマトグラフィー-質量分析
mAb:モノクローナル抗体
MPA:移動相A
MPB:移動相B
MS:質量分析
MW:分子量
PROCA:プロカインアミド
2-AB:2-アミノベンズアミド
PTM:翻訳後修飾
RPLC:逆相液体クロマトグラフィー
RPLC-MS/MS:逆相液体クロマトグラフィータンデム質量分析
SPE:固相抽出
TFA:トリフルオロ酢酸
UV:紫外線
【0038】
定義
本明細書で使用する「抗体」という用語は、4つのポリペプチド鎖、すなわちジスルフィド結合によって相互接続された2つの重(H)鎖および2つの軽(L)鎖からなる免疫グロブリン分子(すなわち、「完全抗体分子」)、ならびにこれらの多量体(例えば、IgM)またはその抗原結合断片を指すよう企図される。各重鎖は、重鎖可変領域(「HCVR」または「VH」)および重鎖定常領域(CH1ドメイン、CH2ドメインおよびCH3ドメインからなる)からなる。種々の実施形態において、重鎖は、IgGアイソタイプのものであり得る。一部の場合において、重鎖は、IgG1、IgG2、IgG3またはIgG4から選択される。一部の実施形態、重鎖は、アイソタイプIgG1/IgG2またはIgG4/IgG2のキメラヒンジ領域を任意で含む、アイソタイプIgG1またはIgG4の重鎖である。各軽鎖は、軽鎖可変領域(「LCVRまたは「VL」)および軽鎖定常領域(CL)からなる。VH領域およびVL領域は、フレームワーク領域(FR)と呼ばれる、より保存された領域が点在する相補性決定領域(CDR)と呼ばれる超可変領域へとさらに細分することができる。各VHおよびVLは、FR1、CDR1、FR2、CDR2、FR3、CDR3、FR4の順でアミノ末端からカルボキシ末端へと配置された3つのCDRおよび4つのFRからなる。「抗体」という用語は、任意のアイソタイプまたはサブクラスのグリコシル化および非グリコシル化免疫グロブリンの両方への言及を含む。「抗体」という用語は、組換え手段によって調製、発現、作製または単離された抗体分子、例えば、抗体を発現するようにトランスフェクトされた宿主細胞から単離された抗体を含む。抗体構造に関する総説については、Lefranc et al.,IMGT unique numbering for immunoglobulin and T cell receptor variable domains and Ig superfamily V-like domains,27(1)Dev.Comp.Immunol.55-77(2003);およびM.Potter,Structural correlates of immunoglobulin diversity,2(1)Surv.Immunol.Res.27-42(1983)を参照されたい。
【0039】
抗体という用語はまた、2つ以上の異なるエピトープに結合することができるヘテロ四量体免疫グロブリンを含む「二重特異性抗体」を包含する。単一の重鎖および単一の軽鎖ならびに6つのCDRを含む二重特異性抗体の半分は、1つの抗原またはエピトープに結合し、抗体のもう半分は、異なる抗原またはエピトープに結合する。一部の場合において、二重特異性抗体は、同じ抗原に結合することができるが、異なるエピトープまたは非重複エピトープにおいて結合することができる。一部の場合において、二重特異性抗体の両半分は、二重特異性を保持しながら同一の軽鎖を有する。二重特異性抗体は、米国特許出願公開第2010/0331527号(2010年12月30日)に概して記載されている。
【0040】
抗体の「抗原結合部分」(または「抗体断片」)という用語は、抗原に特異的に結合する能力を保持する抗体の1つ以上の断片を指す。抗体の「抗原結合部分」という用語に包含される結合断片の例としては、(i)Fab断片、VL、VH、CLおよびCH1ドメインからなる一価断片と、(ii)F(ab’)2断片、ヒンジ領域でジスルフィド架橋によって連結された2つのFab断片を含む二価断片と、(iii)VHおよびCH1ドメインからなるFd断片と、(iv)抗体の単一アームのVLおよびVHドメインからなるFv断片と、(v)VHドメインからなるdAb断片(Ward et al.(1989)Nature 241:544-546)と、(vi)単離されたCDR、および(vii)VLおよびVH領域が対合して一価分子を形成する単一タンパク質鎖を形成するように合成リンカーによって連結されたFv断片の2つのドメインである、VLおよびVHからなるscFvと、が挙げられる。ダイアボディなどの一本鎖抗体の他の形態も、「抗体」という用語に包含される(例えば、Holliger et at.(1993)90 PNAS U.S.A.6444-6448;およびPoljak et at.(1994)2 Structure 1121-1123を参照されたい)。
【0041】
さらに、抗体およびその抗原結合断片は、当該分野で概して公知の標準的な組換えDNA技術を使用して得られ得る(Sambrook et al.,1989を参照されたい)。トランスジェニックマウスにおいてヒト抗体を生成するための方法もまた、当該分野で公知である。例えば、VELOCIMMUNE(登録商標)技術(例えば、米国特許第6,596,541号、Regeneron Pharmaceuticals、VELOCIMMUNE(登録商標)を参照されたい)またはモノクローナル抗体を生成するための任意の他の公知の方法を使用して、ヒト可変領域およびマウス定常領域を有する所望の抗原に対する高親和性キメラ抗体が最初に単離される。VELOCIMMUNE(登録商標)技術は、マウスが抗原刺激に対する応答においてヒト可変領域と、マウス定常領域と、を含む、抗体を生成するように、ヒト重鎖可変領域と、ヒト軽鎖可変領域と、を含む、ゲノムが内在性マウス定常領域座に動作可能に連結されたトランスジェニックマウスの生成を包含する。抗体の重鎖および軽鎖の可変領域をコードするDNAを単離し、ヒト重鎖定常領域およびヒト軽鎖定常領域をコードするDNAに動作可能に連結する。次に、完全ヒト抗体を発現することができる細胞においてDNAを発現させる。
【0042】
「ヒト抗体」という用語は、ヒト生殖系列免疫グロブリン配列に由来する可変領域および定常領域を有する抗体を含むことを意図する。本発明のヒトmAbは、例えば、CDR、特にCDR3における、ヒト生殖系列免疫グロブリン配列(例えば、インビトロでのランダムもしくは部位特異的変異誘発によってまたはインビボでの体細胞突変異によって導入された変異)によってコードされないアミノ酸残基を含み得る。しかしながら、「ヒト抗体」という用語は、本明細書で使用される場合、別の哺乳動物種(例えば、マウス)の生殖系列に由来するCDR配列がヒトFR配列へと移植されたmAbを含むことは企図されない。この用語は、非ヒト哺乳類において、または非ヒト哺乳類の細胞において組換え産生された抗体を含む。この用語は、ヒト対象から単離された、またはヒト対象において生成された抗体を含むよう意図されるものではない。
【0043】
本明細書で使用される「糖ペプチド/糖タンパク質」という用語は、それらの合成中または合成後に、共有結合した炭水化物またはグリカンを有する修飾されたペプチド/タンパク質である。ある特定の実施形態では、糖ペプチドは、モノクローナル抗体から、例えば、モノクローナル抗体のプロテアーゼ消化物から取得される。
【0044】
本明細書で使用される場合、「グリカン」という用語は、1つ以上の糖単位を含む化合物である。これらは概してグルコース(Glc)、ガラクトース(Gal)、マンノース(Man)、フコース(Fuc)、N-アセチルガラクトサミン(GalNAc)、N-アセチルグルコサミン(GlcNAc)およびN-アセチルノイラミン酸(NeuNAc)を含む(Frank Kjeldsen,et al.Anal.Chem.2003,75,2355-2361)。モノクローナル抗体などの糖タンパク質のグリカン部分は、その機能または細胞内の位置を特定するための重要な特性である。例えば特定のモノクローナル抗体は、特定のグリカン部分で修飾される。
【0045】
「親水性相互作用クロマトグラフィー」という用語またはHILICは、親水性化合物が疎水性化合物より長く保持される、親水性固定相および疎水性有機移動相を使用するプロセスを含むことが意図される。ある特定の実施形態では、本方法は、水混和性溶媒移動相を利用する。
【0046】
本明細書で使用される「試料」という用語は、少なくとも分析物分子、例えば、モノクローナル抗体から得られるような糖ペプチドを含み、例えば、分離、分析、抽出、濃縮、または「プロファイリング」を含む、本発明の方法に従って操作される分子の混合物を指す。
【0047】
「分析」または「分析すること」という用語は、本明細書で使用される場合、互換的に使用され、目的の分子(糖タンパク質など)を分離、検出、単離、精製、可溶化、検出、および/または特性評価する種々の方法のいずれかを指す。例としては、これらに限定されないが、固相抽出、固相マイクロ抽出、電気泳動、質量分析(例えば、ESI-MS、SPE HILIC、またはMALDI-MS)、液体クロマトグラフィー(例えば、高速、例えば、逆相、順相、またはサイズ排除)、イオン対液体クロマトグラフィー、液-液抽出(例えば、加速流体抽出、超臨界流体抽出、マイクロ波支援抽出、膜抽出、ソックスレー抽出)、沈殿、清澄化、電気化学検出、染色、元素分析、エドモンド分解、核磁気共鳴、赤外線分析、フローインジェクション分析、キャピラリー電気クロマトグラフィー、紫外線検出、およびそれらの組み合わせなどが挙げられる。
【0048】
本明細書で使用される「プロファイリング」という用語は、試料中の糖ペプチドの含量、組成、または特徴的な比を提供するために組み合わせて使用される種々の分析方法のいずれかを指す。
【0049】
「エレクトロスプレーイオン化質量分析」または「ESI-MS」は、高電圧が液体に印加されてエアロゾルを生成するエレクトロスプレーを使用してイオンを生成するために質量分析において使用される技術である。例えば、エレクトロスプレーでは、イオンは溶液中のタンパク質から生成され、脆弱な分子を無傷でイオン化することを可能にし、非共有結合相互作用を保存することができる。エレクトロスプレーイオン化は、液体クロマトグラフィーと質量分析(LC-MS)とを組み合わせるためのイオン源として選択される。分析は、LCカラムから溶出する液体をエレクトロスプレーに直接供給することによってオンラインで、または古典的なナノエレクトロスプレー質量分析装置で後に分析される画分を収集することによってオフラインで行うことができる。LC-MSは、タンパク質の特徴付けに使用することができ、これには、バイオマーカーの定量化、配列変異体の分析、ならびに糖ペプチドの同定および定量化が含まれる。
【0050】
本明細書で使用される場合、「接触させること」は、少なくとも2つの物質を溶液または固相で一緒にすることを含む。
【0051】
一般的な説明
したがって、感度が向上したタンパク質特徴付け方法が必要とされている。開示された発明は、かかる必要性に応えるものである。
【0052】
質量分析検出感度を増加させる、LC-MSベースのタンパク質特徴付けの新しい方法が本明細書に開示される。この新しい方法は、本明細書において報告される研究に基づいており、本発明者らは、液体クロマトグラフィー中に移動相溶液中に小分子添加剤(例えば、アミノ酸または修飾アミノ酸)を含めることが、かかる小分子添加剤の非存在下で生成されるシグナルと比較して、質量スペクトルシグナルの有意なブーストをもたらすという驚くべき発見をした。本発明者らはまた、かかる添加剤、例えば、アミノ酸(例えば、グリシン)の存在が、移動相緩衝液に添加された場合、LCカラム上のペプチドおよびグリカンの保持およびクロマトグラフィー分離に影響を及ぼさないことを見出した。さらに、ペプチドおよびグリカンのシグナルブースト、荷電状態シフトおよびPTM定量に対する添加剤、例えばグリシンなどのアミノ酸の効果は再現可能であった。さらに、TFAおよびグリシン緩衝液は、タンパク質定量において定量化下限(LLOQ)を改善し、IP-HILIC-LC-MS法において通常のTFA緩衝液と比較して相対的定量に影響を及ぼすことなく糖ペプチドをより確実に同定し、配列変異体分析に通常使用されるFA緩衝液と比較して相補的情報を生成しながらより多くの配列変異体を同定することが見出された。したがって、開示される発見は、質量分析検出感度を改善することを介して、LC-MSベースのタンパク質特徴付けに対して非常に広範囲の用途を有している。一部の実施形態では、開示される方法は、バイオマーカー定量、配列変異体分析および/もしくはペプチド、例えば、糖ペプチド、ならびに/またはLC-MSによるグリカンの同定および定量のために使用することができる。
【0053】
一部の実施形態では、本方法は、試料成分が担体に結合することを可能にする条件下で、試料を分離カラムに接触させることと、分離カラムに移動勾配を適用することであって、移動勾配緩衝液は、小分子添加剤(例えば、アミノ酸)およびTFA、FA、ギ酸アンモニウムおよび/またはACNを含む、適用することと、溶出した試料成分に対して質量分析を行うことと、を含む。
【0054】
使用される移動相は、イオン対形成剤(例えば、アセトニトリルおよび水)を含む緩衝液および含まない緩衝液を含み得る。イオン対形成剤としては、ギ酸塩、酢酸塩、TFAおよび塩が挙げられる。緩衝液の勾配を使用することができ、例えば、2つの緩衝液が使用される場合、第1の緩衝液の濃度または割合が減少し得る一方で、第2の緩衝液の濃度または割合は、クロマトグラフィー実行の過程にわたって増加する。例えば、第1の緩衝液の割合は、クロマトグラフィー実行の過程にわたって、約100%、約99%、約95%、約90%、約85%、約80%、約75%、約70%、約65%、約60%、約50%、約45%、または約40%から、約0%、約1%、約5%、約10%、約15%、約20%、約25%、約30%、約35%、または約40%まで減少し得る。別の例として、第2の緩衝液の割合は、同じ実行の過程にわたって、約0%、約1%、約5%、約10%、約15%、約20%、約25%、約30%、約35%、または約40%から、約100%、約99%、約95%、約90%、約85%、約80%、約75%、約70%、約65%、約60%、約50%、約45%、または約40%まで増加し得る。任意選択で、第1および第2の緩衝液の濃度または割合は、クロマトグラフィー実行の終了時にそれらの出発値に戻ることができる。一例として、第1の緩衝液の割合は、85%から63%、59%、10%、85%の5段階で変化し得るが、同じ段階における第2の緩衝液の割合は、15%から37%、41%、90%、15%の5段階で変化する。割合は、線形勾配として、または非線形(例えば、段階的)方式で徐々に変化し得る。例えば、勾配は、多相(例えば、二相、三相など)であり得る。一部の実施形態では、本明細書に記載される方法は、イオン対形成剤を使用せずに移動相の極性の増加に対応するアセトニトリル緩衝液勾配の減少を使用する。
【0055】
一部の実施形態では、分離カラムに移動勾配を適用することは、第1の移動勾配緩衝液を分離カラムに適用することであって、第1の移動相緩衝液は、TFAおよび小分子添加剤(例えば、アミノ酸)、FAおよび小分子添加剤(例えば、アミノ酸)、またはギ酸アンモニウムおよび小分子添加剤(例えば、アミノ酸)を含む、適用することと、第2の移動勾配を分離カラムに適用することであって、第2の移動相緩衝液は、ACN中のTFAおよび小分子添加剤(例えば、アミノ酸)、ACN中のFAおよび小分子添加剤(例えば、アミノ酸)、または水/ACN中のギ酸アンモニウムおよび小分子添加剤を含む、適用することと、を含む。
【0056】
種々の実施形態では、小分子添加剤は、グリシン、アラニン、セリン、バリン、N-アセチルグリシン、メチオニン、β-アラニン、アスパラギン酸、またはN-メチルグリシンから選択される。一部の場合では、アミノ酸は、グリシン、アラニン、セリンまたはバリンから選択される。一部の実施形態では、アミノ酸はアラニンである。一部の実施形態では、アミノ酸はセリンである。一部の実施形態では、アミノ酸はバリンである。一部の実施形態では、第1の移動相緩衝液中のアミノ酸はグリシンである。一部の実施形態では、第2の移動相緩衝液中のアミノ酸はグリシンである。一部の実施形態では、第1および第2の移動相緩衝液中のアミノ酸はグリシンである。一部の実施形態では、第1および/または第2の移動相緩衝液中の小分子添加剤(例えば、アミノ酸)は、小分子(例えば、修飾アミノ酸)または上記もしくは本明細書中で同定された他のアミノ酸のうちの1つである。
【0057】
移動相緩衝液中の小分子添加剤(例えば、アミノ酸)の濃度は、約0.5mM~約5mM、例えば、約0.5mM~約3mM、約1mM~約2mMであり、0.5mM、0.6mM、0.7mM、0.8mM、0.9mM、1.0mM、1.1mM、1.2mM、1.3mM、1.4mM、1.5mM、1.6mM、1.7mM、1.8mM、1.9mM、2.0mM、2.1mM、2.2mM、2.3mM、2.4mM、2.5mM、2.6mM、2.7mM、2.8mM、2.9mM、3.0mM、3.1mM、3.2mM、3.3mM、3.4mM、3.5mM、3.6mM、3.7mM、3.8mM、3.9mM、4.0mM、4.1mM、4.2mM、4.3mM、4.4mM、4.5mM、4.6mM、4.7mM、4.8mM、4.9mMまたは5.0mMを含む。一部の実施形態では、小分子添加剤(例えば、アミノ酸)は、5mM未満である。一部の実施形態では、小分子添加剤は、5mM未満の濃度のグリシンである。一部の実施形態では、第1の移動相緩衝液中のアミノ酸はグリシンであり、濃度が約1~約2mMのグリシンである。一部の実施形態では、第2の移動相緩衝液中のアミノ酸はグリシンであり、濃度が約1~約2mMのグリシンである。一部の実施形態では、第1の移動相緩衝液中のグリシン濃度は、約1mMである。一部の実施形態では、第1の移動相緩衝液中のグリシン濃度は、約2mMである。一部の実施形態では、第2の移動相緩衝液中のアミノ酸はグリシンであり、濃度が約1~約2mMのグリシンである。一部の実施形態では、第2の移動相緩衝液中のグリシン濃度は、約1mMである。一部の実施形態では、第2の移動相緩衝液中のグリシン濃度は、約2mMである。一部の実施形態では、第1および第2の移動相緩衝液中のアミノ酸はグリシンであり、濃度が約1~約2mMのグリシンである。
【0058】
一部の実施形態では、第1の移動相中のTFA濃度は、H2O中の約0.03%~0.15%TFA、例えば約0.03%~0.1%であり、またはFAは、H2O中の約0.05%~約0.15%、例えば約0.1%FAである。一部の実施形態では、TFA濃度はH2O中の約0.05%~約0.1%TFAであり、または第1の移動相中のFA濃度は約0.1%FAである。例えば、TFA濃度は、H2O中で約0.03%、0.04%、0.05%、0.06%、0.07%、0.08%、0.09%、または0.1%である。一部の実施形態では、第2の移動相中のTFA濃度は、80%ACNおよび20%H2O中の約0.05%TFAまたは80%ACNおよび20%H2O中の約0.1%TFAを含む。一部の実施形態では、第2の移動相中のACNの濃度は、約60%~100%、例えば、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%または100%を含む80%~100%である。
【0059】
一部の実施形態では、第1の移動相中のギ酸アンモニウム濃度は、H2O中で50mMである。一部の実施形態では、第2の移動相は、H2O中で15%の50mMおよび85%のACNである。
【0060】
一部の実施形態では、試料は、ペプチド、ヌクレオチドまたはグリカンを含む。例えば、試料は、モノクローナル抗体から取得される糖ペプチドなどの糖ペプチドを含んでもよい。一部の実施形態では、モノクローナル抗体は、アイソタイプIgG1、IgG2、IgG3、IgG4、または混合アイソタイプのものである。
【0061】
一部の実施形態では、本方法は、試料成分が担体に結合することを可能にする条件下で試料を分離カラムに接触させる前に試料を調製することを含む。一部の実施形態では、試料の調製は、試料変性および還元を可能にする条件下で試料を変性および還元溶液と接触させることと、試料のアルキル化を可能にする条件下で変性および還元された試料をアルキル化溶液と接触させることと、試料の消化を可能にする条件下で、アルキル化された試料を消化溶液と接触させることと、試料の消化を停止する条件下で消化された試料をクエンチ溶液と接触させること、を含む。
【0062】
一部の実施形態では、試料を調製することは、酵素または化学反応を使用して試料からグリカンを放出させることと、放出されたグリカンを蛍光標識で標識するか、または還元剤を使用して放出されたグリカンを還元することと、を含む。
【0063】
一部の実施形態では、N-グリカンは、PNGase Fを使用して糖タンパク質から放出され得る。一部の実施形態では、O-グリカンは、塩基性化学物質によって糖タンパク質から放出される。放出されたN-グリカンは、RapiFluor蛍光標識と反応することができる。放出されたN-グリカンおよびO-グリカンは、水素化ホウ素ナトリウムによって還元され得るか、または酢酸およびシアノ水素化ホウ素ナトリウムとともにインキュベートすることによってPROCAまたは2-ABに連結され得る。
【0064】
一部の実施形態では、試料はモノクローナル抗体であり、消化溶液はトリプシンなどの1つ以上のプロテアーゼを含む。一部の例では、本方法は、1つ以上のプロテアーゼで消化された抗体などのモノクローナル抗体から取得される糖ペプチドなどの糖ペプチドを特徴付ける/分析するために使用される。一部の実施形態では、試料中の抗体は、得られた試料を担体に接触させる前に、還元、酵素分解、変性または断片化によって処理および調製することができる。例えば、本方法は、HILIC-MS分析などの断片およびペプチドレベルLC-MSによって、タンパク質、例えばモノクローナル抗体(mAb)治療薬のグリコシル化を特徴付けるために使用することができる。ある特定の実施形態では、任意の介在ステップにおける試料は、濃縮、希釈、脱塩などを行ってもよい。
【0065】
糖ペプチドは、モノクローナル抗体などのグリコシル化タンパク質から取得される。グリコシル化モノクローナル抗体は、還元、酵素消化、変性、断片化、化学的切断およびそれらの組み合わせによって調製することができる。本明細書に開示される方法は、任意の抗体アイソタイプ、例えばIgG1、IgG2、IgG3、IgG4、または混合アイソタイプに適用可能である。還元とは、モノクローナル抗体などの三次元タンパク質においてジスルフィド結合を2つのチオールに還元することである。還元は、還元剤、例えばTCEP-HClの存在下で、熱変性、界面活性剤の添加、または変性剤、例えばグアニジンHCl(6M)の添加によって行うことができる。酵素分解とは、プロテアーゼ、例えばトリプシンまたはアクロモバクタープロテアーゼI(Lys-C)によるタンパク質の消化である。加えて、糖タンパク質は、熱もしくは化学物質、またはそれらの組み合わせによって変性され得る。断片化は、モノクローナル抗体などの単一または複数のサブユニットタンパク質のタンパク質部分を、物理的、生物学的または化学的方法で切断することを含む。
【0066】
一部の実施形態では、分離カラムは、液体クロマトグラフィー(LC)分離カラムである。HPLCを含む液体クロマトグラフィーを使用して、糖ペプチドを含むペプチドなどの構造を分析することができる。陰イオン交換クロマトグラフィー、逆相HPLC、サイズ排除クロマトグラフィー、高速陰イオン交換クロマトグラフィー、および順相(NP)クロマトグラフィー(NP-HPLCを含む)を含む種々の形態の液体クロマトグラフィーを使用して、これらの構造を研究することができる(例えば、Alpert et al.,J.Chromatogr.A676:191-202(1994)を参照されたい)。親水性相互作用クロマトグラフィー(HILIC)は、部分的に水性の移動相を用いて行うことができるNP-HPLCの変形であり、ペプチド、炭水化物、核酸、および多くのタンパク質の順相分離を可能にする。HILICの溶出順序は、最も極性が低いものから最も極性が高いものであり、逆相HPLCにおけるものとは反対である。HPLCは、例えば、Waters(例えば、Waters 2695 Alliance HPLCシステム)、Agilent、Perkin Elmer、GilsonなどからのHPLCシステムで行うことができる。
【0067】
NP-HPLC、好ましくはHILICは、本明細書に記載の方法において使用することができるHPLCの特に有用な形態である。NP-HPLCは、分析物と固定相(例えば、担体)との間の極性相互作用に基づいて分析物を分離する。極性分析物は、極性固定相と会合し、極性固定相によって保持される。吸着強度は、分析物極性の増加とともに増加し、極性分析物と極性固定相との間の相互作用(移動相に対する)は、溶出時間を増加させる。移動相におけるより極性の溶媒の使用は、分析物の保持時間を減少させるが、より疎水性の溶媒は、保持時間を増加させる傾向がある。
【0068】
NP-HPLCでは、シリカ、アミノ、アミド、セルロース、シクロデキストリン、ポリスチレンの担体など、様々な種類の担体をカラムクロマトグラフィーに使用することができる。例えば、カラムクロマトグラフィーにおいて使用され得る有用な担体の例としては、ポリスルホエチルアスパルトアミド(例えば、PolyLC製)、スルホベタイン担体、例えば、ZIC(登録商標)-HILIC(例えば、SeQuant製)、POROS(登録商標)HS(例えば、Applied Biosystems製)、POROS(登録商標)S(例えば、Applied Biosystems製)、ポリヒドロエチルアスパルトアミド(例えば、PolyLC製)、Zorbax 300 SCX(例えば、Agilent製)、PolyGLYCOPLEX(登録商標)(例えば、PolyLC製)、アミド-80(例えば、Tosohaas製)、TSK GEL(登録商標)アミド-80(例えば、Tosohaas製)、ポリヒドロキシエチルA(例えば、PolyLC製)、Glyco-Sep-N(例えば、Oxford GlycoSciences製)、およびAtlantis HILIC(例えば、Waters製)が挙げられる。一部の実施形態では、開示される方法は、以下の官能基、すなわちカルバモイル基、スルホプロピル基、スルホエチル基(例えば、ポリ(2-スルホエチルアスパルトアミド))、ヒドロキシエチル基(例えば、ポリ(2-ヒドロキシエチルアスパルトアミド))および芳香族スルホン酸基のうちの1つ以上を利用するカラムを含む。
【0069】
カラム温度は、例えば、市販のカラムヒーターを使用して、クロマトグラフィーの実行を通して一定温度に維持することができる。一部の実施形態では、カラムは、約18℃~約70℃、例えば、約30℃~約60℃、約40℃~約50℃、例えば、約20℃、約25℃、約30℃、約35℃、約40℃、約45℃、約50℃、約55℃、約60℃、約65℃、または約70℃の温度で維持される。一部の実施形態では、カラム温度は約40℃である。
【0070】
移動相の流速は、約0~約100ml/分であり得る。分析目的では、流速は典型的には0~10ml/分の範囲であり、分取HPLCでは、100ml/分を超える流速を使用することができる。例えば、流量は、約0.5、約1、約1.5、約2、約2.5、約3、約3.5、約4、約4.5、または約5ml/分であってもよい。同じ充填剤で同じ長さのカラムをより小さい直径を有するカラムに置換することは、より広い直径のカラムで見られるのと同じ保持時間およびピークについての分解能を保持するために、流速の減少を必要とする。一部の実施形態では、4.6×100mm、5μmカラムにおいて約1ml/分に相当する流速が使用される。
【0071】
一部の実施形態では、実行時間は、約15~約240分、例えば、約20~約70分、約30~約60分、約40~約90分、約50分~約100分、約60~約120分、約50~約80分であり得る。
【0072】
NP-HPLCは、例えば、約75μmの内径を有するカラムを使用して、ナノスケールで実施されるように調整することができる(例えば、Wuhrer et al.,Anal.Chem.76:833-838(2004);Wuhrer et al.,Internat.J.Mass.Spec.232:51-57(2004)を参照されたい)。
【0073】
ある特定の実施形態では、分離カラムは、親水性相互作用(HILIC)分離カラムであり、糖ペプチドなどの分子は、その後、例えば移動相勾配を使用してHILIC分離カラムから溶出されて、糖ペプチドの個々の種を分解し、それによって試料中の糖ペプチドを精製および/または分離する。特定の例において、HILICから溶出した糖ペプチドは、1つ以上の画分に分離される。かかる画分は、MS分析などのその後の分析に使用することができる。ある特定の実施形態では、本方法は、画分のうちの1つ以上に存在する糖ペプチドおよび/またはグリカンなどの分子を同定することを含む。ある特定の実施形態では、グリカンは、N-グリカンまたはO-グリカンである。一部の実施形態では、本方法は、例えば、糖ペプチドのペプチド部分からのUVシグナルを使用して、糖ペプチドを検出することをさらに含む。これは、試料の画分に対して行うことができ、さらなる分析、例えば質量分析(MS)分析のための特定の画分の選択を可能にする。一部の実施形態では、方法は、グリカンに連結された蛍光標識からのFLRシグナルを使用してグリカンを検出することを含む。
【0074】
一部の実施形態では、溶出した試料成分に対して質量分析を行うことは、エレクトロスプレーイオン化を適用して溶出した試料成分から荷電イオンを生成することと、生成された荷電イオンを測定することと、を含む。
【0075】
生体分子の分析のための質量分析の適用において、分子は、液相または固相から気相および真空相に移される。多くの生体分子は大きく壊れやすいので(タンパク質はその主な例である)、真空相へのそれらの移動のための最も効果的な方法のうちの2つは、マトリックス支援レーザ脱離イオン化(MALDI)またはエレクトロスプレーイオン化(ESI)である。概して、ESIはより高感度であり、MALDIはより高速である。重要なことに、一部のペプチドは、ESIよりもMALDIモードで良好にイオン化し、逆もまた同様である(Genome Technology,June 220,p52)。ESIは、試料を揮発性酸および有機溶媒と混合し、高電圧で荷電された導電性針を通して注入することによって行われる。ニードル端部から噴霧(または放出)される荷電液滴は、質量分析計内に誘導され、それらが飛行する際に熱および真空によって乾燥される。液滴が乾燥した後、残りの荷電分子は、電磁レンズによって質量検出器に向けられ、質量分析される。一実施形態では、溶出した試料は、キャピラリーからエレクトロスプレーノズルに直接堆積され、例えば、キャピラリーは、試料ローダーとして機能する。別の実施形態では、キャピラリー自体が、抽出デバイスおよびエレクトロスプレーノズルの両方として機能する。一部の実施形態では、本方法は、高荷電状態種(例えば、z≧3)において、平均で約2~27倍、例えば約5~14倍および/またはおよそ約2~1000倍の増加によって示される、質量スペクトルシグナルを増強する。一部の実施形態では、グリシン1mMで、試料ローディング量が10ugである場合、倍率変化は約5である。一部の実施形態では、スペクトルシグナルは、高荷電状態種において、およそ14倍および/またはおよそ1000倍増加する。グリシンのブースト倍率は、試料ローディング量およびグリシン濃度に依存し得ることが企図される。例えば、グリシン濃度が高いほど、異なる試料ローディング量に対して低いグリシン濃度よりも高いブーストを生成し、試料ローディング量の減少に伴いブーストは全体的に増加する。(
図1A、1Bおよび2に実証されるように)ローディング量によるブースト倍率の有意な変化(<10%)が観察され得ない特定の点が存在する。
【0076】
一部の実施形態では、他のイオン化モード、例えば、ターボスプレーイオン化質量分析、ナノスプレーイオン化質量分析、サーモスプレーイオン化質量分析、ソニックスプレーイオン化質量分析、SELDI-MSおよびMALDI-MSが使用される。概して、これらの方法の利点は、試料の「ジャストインタイム」精製およびイオン化環境への直接導入を可能にすることである。なお、種々のイオン化モードおよび検出モードは、使用される脱着溶液の性質に対してそれら自体の制約を導入し、脱着溶液が両方と適合性であることが重要である。例えば、多くの用途における試料マトリックスは、低いイオン強度を有するか、または特定のpH範囲内に存在する必要がある。ESIにおいて、試料中の塩は、イオン化を低下させることによって、またはノズルを詰まらせることによって検出を妨げる可能性がある。この問題は、分析物を低塩で提示することによって、かつ/または揮発性塩を使用することによって対処される。
【0077】
一部の実施形態では、担体は、洗浄、例えば予洗ステップによって、試料の添加のために調製される。一部の実施形態では、担体は、糖ペプチド試料との接触の前に洗浄される。種々の実施形態では、担体は、濃縮のために、糖ペプチドなどの生体分子を含有する試料と接触させられる。試料溶液に関して、試料溶液は、糖ペプチドなどの生体分子が可溶であり、糖ペプチドなどの生体分子が担体に結合する溶媒に溶解された糖ペプチドなどの生体分子を含む。好ましくは、結合は強く、生体分子の実質的な部分、例えば、生体分子の50%超、例えば、糖ペプチドの50%超を含む実質的な部分の結合をもたらす。一部の場合では、糖ペプチドなどの生体分子の実質的にすべて、95%超が結合される。種々の実施形態では、溶媒は水溶液であり、典型的には、糖ペプチドなどの生体分子を可溶化および安定化するための緩衝液、塩、および/または界面活性剤を含有する。一部の実施形態では、糖ペプチド試料などの生体分子試料は、約6.5、6.0、5.5、5.0、4.5、4.0、3.5または3.0未満など、約6.5未満の低pHを有する溶液である。
【0078】
1つの特定の実施形態では、質量スペクトルシグナルを増強する方法は、モノクローナル抗体を変性および還元することを含む。例えば、モノクローナル抗体は、TCEP-HClの存在下、酢酸(例えば、5mM酢酸)を用いて、変性および還元が生じるのに十分な時間(例えば、80℃で10分間)加熱しながら、変性および還元されてもよい。変性および還元の後、試料をアルキル化する。一部の例では、試料は最初に希釈され、次いでアルキル化される。例えば、8M尿素を含む100mM Tris-HCl(pH7.5)で希釈した後、ヨードアセトアミドで暗所、室温で30分間アルキル化することができる。アルキル化後、試料をさらに希釈して尿素濃度を低下させ、例えば100mMのTri-HCl(pH7.5)で希釈して尿素濃度を1M未満に低下させる。次いで、試料をプロテアーゼで消化する。例えば、試料をトリプシンで、酵素対担体比1:20(w/w)で、37℃で4時間処理する。所望の時間に、10%TFAなどのTFAで試料をクエンチするなどして、消化を停止する。次いで、消化された試料をオンラインLC-MS分析に供する。例えば、トリプシン消化(還元/アルキル化)試料は、十分な濃度(例えば、0.25μg)でロードされ、移動相勾配A(MP-A)は、1~2mMグリシンを含むH2O中のTFA、例えば、2mMグリシンを含むH2O中のTFAを含み、続いて、1~2mMグリシンを含むACN中のTFAの移動相勾配B、例えば、2mMグリシンを含む80%ACNおよび20%H2O中の0.05%TFAとなる。
【実施例】
【0079】
以下の実施例は、本発明の方法をどのように作製および使用するかについての完全な開示および説明を当業者に提供するために提示され、本発明者らが本発明とみなすものの範囲を限定することを意図しない。使用される数値(例えば、量、温度など)に関して正確性を確保するための努力はしてきたが、いくつかの実験上の誤差および偏差が考慮されるべきである。別段に示されない限り、部は重量部であり、分子量は平均分子量であり、温度は摂氏度であり、室温は約25℃であり、圧力は大気圧またはそれに近い。
【0080】
実施例1:グリシン添加剤を用いたESI-MSシグナルブーストのための新しい方法
NISTmAbのトリプシン消化:100μgのNISTmAbを変性させ、5mMのTCEP-HClが存在する5mMの酢酸中で80℃で10分間還元した。変性および還元後、試料を8M尿素を含有する100mM Tris-HCl(pH7.5)で希釈し、暗所、室温で30分間ヨードアセトアミドでアルキル化した。アルキル化後、試料を100mM Tri-HCl(pH7.5)でさらに希釈して、尿素濃度を1M未満に低下させた。試料をトリプシンとともに1:20(w/w)の酵素対担体比で37℃で4時間インキュベートした。消化された試料を10%TFAの添加によってクエンチしてトリプシン消化を停止させ、次いでオンラインLC-MS分析に供した。NISTmAbトリプシン消化物(還元/アルキル化)を、0.05~10μgMP-A:0.05%TFA、H2O中0.0625~5mMグリシン、MP-B:0.05%TFA、80%ACNおよび20%H2O中0.0625~5mMグリシンの異なる量でロードした。カラムはACQUITY UPLC ペプチドBEH C18、130Å、1.7μm、2.1mm×150mm(Waters)であり、LC条件は0.25mL/分、40℃カラム温度であった。
【0081】
MSブーストに対する異なる小分子試薬を調査するために(
図3に示すように)、NISTmAbトリプシン消化物(還元/アルキル化)を、0.25μg、MP-A:H
2O中0.05%TFA、MP-B:ACN中0.045%TFAの濃度でロードした。カラムはACQUITY UPLC ペプチドBEH C18、130Å、1.7μm、2.1mm×150mm(Waters)であり、LC条件は0.25mL/分、40℃カラム温度であり、シリンジポンプを使用して50:50H
2O/ACN中の125mMの異なる小分子溶液を10μL/分で送達してLCカラムからの溶出液と混合し、最終小分子濃度はおよそ5mMであった。
【0082】
表1は、種々の時点での%Aおよび%Bを提供する。
【表1】
【0083】
図1Aおよび1Bは、MSブーストに対する種々の濃度のグリシンの効果、およびMSブーストに対する種々の試料ローディング量の効果を示す。
図1Aおよび1Bは、ポストカラムシリンジポンプ構成によってではなく、グリシンをTFA移動相ボトル(MPA:水中0.05%TFAおよびグリシン、MPB:80%ACNおよび20%水およびグリシン中0.05%TFA)に直接添加することによって生成した。
図1Aでは、試料ローディング量に対するグリシンのブーストの明らかな依存性が示されている。低いローディング量における低グリシン濃度と同じブースト倍率を得るために、高いローディング量では高グリシン濃度が必要であった。
【0084】
図1Bは、試料ローディング量の増加が、ペプチドの応答に対するグリシンのブースト力を全体的に減少させたことを示している。2mMのグリシンは、異なる試料ローディング量について、1mMよりも高いブーストを示した。また、試料ローディング量が減少するにつれて、ブースト倍率の増加傾向は徐々に遅くなった。試料ローディング量が1および2mMのグリシン濃度でそれぞれ0.2および0.5μg未満であった場合に、ローディング量によるブースト倍率の最小変化(<10%)が観察された。
【0085】
試料ローディング量の増加とともにブースト倍率の低下が観察されたが、質量分析応答(すなわち、ペプチドのEICピーク面積)は、高ブースト倍率であっても、低ローディング量よりも高ローディング量で依然として高かった。
【0086】
図2は、側鎖の異なる化学特性に基づく10個のアミノ酸の化学構造を提供しており、これには、アラニンおよびバリン(疎水性側鎖)、セリン(親水性側鎖)、プロリン(環状側鎖)、メチオニン(硫黄含有側鎖)、グルタミン(アミド含有側鎖)、グルタミン酸(酸性側鎖)、リジンおよびアルギニン(塩基性側鎖)およびヒスチジン(芳香族側鎖)を含む側鎖、ならびにアミン基(例えば、N,N-ジメチルグリシン、N-アセチルグリシン、N-メチルグリシンおよびプロピオン酸)、側鎖(例えば、3,3,3-トリフルオロ-DL-アラニン)もしくはカルボキシル基(例えば、エチルアミン)上のグリシンを修飾すること、またはアミン基とカルボキシル基との間の距離を延長するために追加の炭素原子を有するグリシンを挿入すること(例えば、β-アラニンおよびγ-アミノ酪酸)に由来する複数のグリシン変異体が含まれる。
図3は、異なる小分子量試薬(2mM)によるNISTmAbトリプシンペプチドの平均MS1ブースト倍率を示すグラフである。
図3に示されるように、グリシンは最も高い平均ブーストを示した。グリシンはまた、最も低い分子量を有する分子である。
図4は、TFA緩衝液にグリシンを添加した後のペプチドのクロマトグラフィー分離における最小の変化を示すトレースである。研究の条件は、2.5μgローディングのNISTmAbトリプシン消化物(還元/アルキル化)、MP-A:2mMグリシンを含むまたは含まないH
2O中の0.05%TFA、MP-B:2mMグリシンを含むまたは含まない80%ACNおよび20%H
2O中の0.05%TFAであった。カラムは、Acquity UPLC ペプチドBEH C18、130A、1.7μm、2.1mm×150mm(Waters、LC条件0.25mL/分、40℃カラム温度)であった。100%ACN中の2mMグリシンの溶解度問題のために、MP-Bを、ACN中の0.05%TFAの従来の条件から80%ACNおよび20%H
2O中の0.05%TFAに変更したことに留意されたい。以下の表2は、LC勾配全体にわたるUVクロマトグラム(
図4を参照されたい)において選択された8つの代表的なペプチドピーク(P1~P8)についてのUPLC性能メトリックを示しており、保持時間差<0.06分、ピーク幅%差<1.4%およびピーク面積%差<1.9%を有する2つの移動相システム間でほぼ同等のUPLC性能メトリックを示している。ピーク幅は、50%ピーク高さで接線を引くことによって得られるピークのベースの対応する幅である。表3は、種々の時点での%Aおよび%Bを提供する。
【表2】
【表3】
【0087】
図5は、0.25μgのローディングNISTmAbを含むTFA緩衝液中の2mMグリシンによるブーストの再現性を、各試料を10回反復して示す棒グラフである。ペプチド依存性応答ブーストが観察され、異なるトリプシンペプチドのブースト倍率は、2~27倍の広い範囲にわたっており、平均でおよそ13.2倍であった。大部分のペプチドは少なくとも5倍の応答ブーストを示し、ペプチドの半分超が10倍超を示した。すべてのペプチドについて、平均ブーストは13.2倍であり、%相対標準偏差(RSD)は5%未満であった。
図6は、TFA対照およびグリシンが存在するTFA、2.5μgのNISTmAbローディングで観察されたシグナル対ノイズ比を示す総イオン電流(TIC)プロットである。全LC勾配にわたって異なる保持時間を有する10個の代表的なトリプシンペプチドを選択して、グリシン添加剤を含むTFA移動相と含まないTFA移動相との間の全イオンクロマトグラムにおけるそれらのシグナル対ノイズ比を比較した。シグナル対ノイズ比は、実際に、これらの10個のトリプシンペプチドについてグリシン添加剤でブーストされた。ペプチド依存性応答ブーストと同様に、選択されたペプチドもまた、1桁超までの広い範囲ので異なるシグナル対ノイズ比のブーストを示した。グリシン添加剤はトリプシンペプチドの質量分析応答をブーストしたが、エレクトロスプレーイオン化中に周囲環境から生成される小分子汚染物質に由来するバックグラウンドノイズに対してブーストは観察されなかった。このブースト特徴は、トリプシンペプチドのシグナル対ノイズ比の改善をもたらすことができ、一方、絶対応答がブーストされた。
【表4】
【0088】
図7、8Aおよび8Bは、グリシンが存在する場合の荷電状態シフトを示す棒グラフである。%RSDは、すべてのペプチドについて0.4%未満であった(10回の反復)。平均荷電状態シフトはペプチド依存性であり、上方シフトおよび下方シフトの両方が観察された。
図9は、2mMグリシン(TFA緩衝液、0.25μg NISTmAbローディング)の存在および不在下でのPTM定量(%)を示す棒グラフである(10回の反復)。
図10は、TFAまたはFAまたはFA単独でのグリシンの存在によるブースト倍率をTFA対照と対比して示す棒グラフである(3回反復)。
図10に示されるように、2mMグリシンの存在下でのTFAは、2mMグリシンの存在下でのFAで観察された12.3倍ブーストまたはFAでの6.1倍ブーストと比較して、13.2倍ブーストをもたらした。
【0089】
図11は、2mMグリシン(Colum:Discovery HS F5-3、15cm×2.1mm、3μm(Supelco);各アミノ酸1nmolローディング)による個々のアミノ酸のブースト倍率を示すグラフである。
図12は、市販のグリシン製剤中の微量ナトリウムの効果を示している。
【0090】
タンパク質定量化のためのグリシン添加剤によるESI-MSシグナルブーストを評価した。
図13は、PRMおよびフルスキャンを使用したSTSGGTAALGCLVKペプチド(配列番号22)の定量化の比較を提供する。3桁にわたる同じ応答線形範囲が、TFAおよびFA対照移動相と同様の回帰傾斜を有するグリシン移動相を用いたTFAおよびFAについて観察され、広いタンパク質濃度におけるグリシン添加剤の一貫した応答ブーストを示した。TFAおよびFA移動相におけるグリシン添加剤の応答ブーストのために、応答線形範囲もまた、TFAおよびFA対照移動相と比較してより低いタンパク質濃度に達した。この特徴は、グリシンベースの移動相を、増加した感度を有する複合マトリックス中の低存在量タンパク質を定量化するための代替として考慮する機会を広げる可能性があるものである。
【0091】
実施例2:グリシン添加剤を用いたESI-MSシグナルブースト:IP-HILIC-MSベースの糖ペプチド同定および定量
図14は、糖ペプチド分析のための逆相に対するHILICベースの液体クロマトグラフィーの利点を示している。ペプチドは、日常的に行われている還元または非還元ペプチドマッピング法のいずれかによって調製した。
図14に示すように、HILICでは糖ペプチドのより良好な分離が得られたが、逆相では糖ペプチドのクラスター化が観察された。例えば、G1Fなどの異性体の分離の増加が、逆相に対してIP-HILICで見られた。さらに、HILICカラム上の糖ペプチド溶出順序は、ペプチドに結合したグリカンのサイズと相関しており、大きなグリカンのインソース断片化により生成されたアーチファクトと実際のピーク(重複しない別個の溶出時間)とを容易に区別することができた。
【0092】
図15は、シグナルブーストがMS1およびMS2の両方についてグリシン添加緩衝液中で観察されたことを示している。試料はトリプシン消化プールVEGFトラップINDロットであり、カラムはWaters BEH-アミドであり、移動相はA:0.1%TFAおよびB:80%ACN+0.1%TFAであった。
図16は、高濃度のグリシンが結合を防止したことを示している。
【0093】
図17は、HILICベースのLCによる糖ペプチド分析のための例示的な試料調製ワークフロー概略図を提供する。
図18は、SepPak 30カートリッジによる脱塩が上昇したベースラインを排除した脱塩の効果を示す(矢印を参照)。移動相B(80%アセトニトリル中0.1%TFA)によるペプチドの溶出は、脱塩後の乾燥ステップを排除し、それによって時間を節約し、プロセスの効率を増加させた。また、金属付加物が、ガラスボトルと比較して、移動相中にポリエチレン溶媒容器(Belart製のポリエチレンボトルなど)を使用することによって低減され得ることが研究により明らかとなった。移動相の間、ガラスボトルと比較してプラスチックボトルを使用した場合、2.7倍の強度ブーストおよび1.7倍の強度ブーストが観察された。プラスチックボトルは、ナトリウムによって引き起こされる不均一性を減少させ、それにより、MSシグナルがブーストされたと考えられる。さらに、60%イソプロピルアルコール中に一晩浸漬すると、浸出可能な不純物/硬化剤が除去された。
図19および20は、グリシンの効果を示す表を提供する。
図19は、グリシンが、IGG1においてすべてのグリコフォームのピーク面積を20倍増加させたことを示す(*この表中のグリコフォームは、いずれの実行でもタンデムMSに基づいてのみ同定された。**タンデムMSデータを有さないグリコフォームについては、ピークは、他の実行において同定された前駆体質量および保持時間に基づいて決定された(Peptide 1_Controlと標識された列に示されている))。
図20は、IGG4分子におけるすべてのグリコフォームのピーク面積を提供する(*この表中のグリコフォームは、いずれの実行でもタンデムMSに基づいてのみ同定された。**タンデムMSデータを有さないグリコフォームについては、ピークは、他の実行において同定された前駆体質量および保持時間に基づいて決定された(Peptide 2 Controlと標識された列に示されている)。***対照実行においてLLOQ未満の存在量を有するグリコフォームの倍率変化は、過大評価された数を与える(括弧内に示されている))。
図21は、評価されたmAbにおけるすべてのグリコフォームのピーク面積を提供する。すべてのグリコフォームの相対分布は、グリシンの存在下で同じままであった。
図22は、1mMグリシンの存在下での荷電状態シフトによる断片化能力の増強を示している。糖ペプチドの主要な荷電状態は+2から+3にシフトし、後者は容易に断片化する傾向がある。VEGF TRAPに対するグリシン(1mM)の添加によるシグナルブーストが観察された。グリシンは、VEGF TRAPにおいてペプチドスペクトルマッチ(PSM)およびグリコフォームの数を増加させた(
図23参照)。
【0094】
実施例3:グリシン添加剤を用いたESI-MSシグナルブースト:配列変異体分析
本実施例は、TFA中のグリシンが配列変異体の数を増加させる能力を実証するものである。Byologic検証後にTFA+グリシンを使用した場合に同定された配列変異体の数をFAと比較して
図24に示す。
【0095】
実施例4:グリシン添加剤を用いたESI-MSシグナルブースト:グリカン分析
糖タンパク質から放出されると、N-グリカンは、しばしばMS応答も増強する種々の蛍光タグで標識することができる。標識または還元N-グリカンは、塩、例えばギ酸アンモニウムを含有する移動相を用いたHILICによって分析することができる。移動相中1mMのグリシンは、ヒト血清由来のPROCA標識N-グリカンのMSシグナルをブースト(3~50倍超)することが見出された(
図25および
図26A~26Cを参照されたい)。グリシンは、高マンノースおよび大きな酸性N-グリカンに対してより強い効果を有した(>10倍)。グリシンを含まないギ酸アンモニウム移動相を使用して、PROCA標識N-グリカンのMSプロファイルは、グリカン定量のために広く使用されるFLRプロファイルといくらかの差異を示した(
図27および
図28A~28Cを参照されたい)。MSおよびFLRプロファイルを比較することによって、高マンノースおよび3つのシアル酸を有する大きなN-グリカンは、比較的低いMSシグナルを有したが、バイセクティングN-グリカンは、比較的高いMSシグナルを有した。移動相にグリシンを添加することによって、MSシグナルは、より高くなるだけでなく、FLRとより同等であった(
図27および
図28A~Cを参照)。
図29は、対照およびグリシン含有条件における、FLRピーク面積(対数スケール)に対するPROCA標識EICピーク面積を有する血清N-グリカンの散布図を示している。対照条件に対するものと比較してグリシン条件に対する線形回帰のより小さいR二乗値により、グリシンがMSシグナルを使用したN-グリカン定量の精度を改善できることが実証される。PROCA標識N-グリカンに対するグリシンによる強いシグナルブースト効果もまた、0.1%FA(3~38倍)を含有する移動相を使用して観察することができる(
図30A~30C参照)。グリシンはまた、ギ酸アンモニウム移動相を使用して、RapiFluor標識N-グリカンおよび小型還元N-グリカンに対して中等度のシグナルブースト効果(1~3倍)を示した(
図31A~31Cおよび
図32を参照)。より大きな還元型N-グリカンに対する阻害効果が観察された(
図32)。MSピーク面積およびFLRピーク面積に基づく大きなRapiFluor標識N-グリカンの相対レベルは、対照条件下のものと比較して、グリシン条件を使用したものより同等であった(
図32)。
図33は、N-グリカンの分析のための例示的なLC-FLR-MS条件を提供する。
【0096】
N-グリカンとは異なり、放出酵素の欠如、ならびに放出有効性および化学的放出によるO-グリカン還元末端分解に課題があるため、満足なO-グリカン放出方法は存在していない。
図34は、O-グリカン調製ならびにLC-MSおよび蛍光(FLR)検出による分析のための例示的な方法を提供する。
【0097】
図35は、カラム上のウシ顎下腺ムチン(BSM)2μgからのPROCA標識O-グリカン、蛍光および最適化還元的アミノ化の結果を示している。
図36は、PROCA標識O-グリカンFLおよびMS TICプロファイルがほぼ同等であることを実証している。BSMから放出されたPROCA標識O-グリカンをHILIC上で実行した(カラム上で2μgに等しい)。低いMSバックグラウンドが観察された。移動相中1mMのグリシンは、ビーズから精製されたPROCA標識BSM O-グリカンに対する効果をブーストすることが見出された(カラム上2μg、
図37A~B)。
図37A~37Bは、移動相中にグリシンを含む場合および含まない場合のO-グリカンFLRおよびMSピーク強度を比較した結果を提供する。FLRと比較して、PROCAシグナルは、グリカンサイズの増加とともに有意に低下する。グリシンは、この効果を補償し、MSシグナルをFLR強度とより同等にした(
図37A~37B)。グリシンは、小さい(1~2個の糖環)O-グリカンに対して中程度のブースト効果(1~3倍)を有した(
図38A~38Cを参照)。グリシンは、PROCAで標識されたより大きいおよび/または酸性グリカンに対して強いブースト効果(3~35倍超)を有した(
図38Aを参照)。この効果は、2つのシアル酸を有するものに対して強力であった(>35倍)。グリシンは、2AB標識BSM O-グリカンに対して中程度のブースト効果(<3倍)を有することが観察された(
図38B参照)。小さな還元O-グリカンのMSシグナルは、グリシンによって最大12倍ブーストされ得る(
図38Cを参照)。しかしながら、より大きな還元O-グリカンに対する阻害効果が観察された。
図39は、PROCA標識または還元O-グリカンの分析のための例示的なLC-FLR-MS条件を提供する。
図40は、一価のグリカンがグリシンの非存在下で不十分なMS2を提供することを示している。
図41は、グリシンでブーストされた試料からの二重荷電イオンが大幅に増強されたMS2情報を提供することを示している。
【0098】
実施例5:トリフルオロ酢酸含有移動相中のグリシン添加剤を用いた、イオン対形成親水性相互作用クロマトグラフィー質量分析による生物製剤の部位特異的グリコシル化プロファイリングの促進
モノクローナル抗体(mAb)およびFcドメイン融合タンパク質などの多くのバイオ治療薬は、1つまたは複数のグリコシル化部位に不均一なグリカン内容物を含有する。部位特異的グリカンプロファイル特徴付けは、薬物開発の異なる段階の間にこれらの分子の質をモニタリングするために重要であった。逆相液体クロマトグラフィー(RPLC)に対する直交分離法としてのイオン対形成親水性相互作用クロマトグラフィー(IP-HILIC)は、個々のグリコフォーム間のより良好な分離、ならびに非グリコシル化ペプチドからの糖ペプチドの同定を達成することができる。しかしながら、質量分析検出に結合されたオンラインIP-HILICは、イオン対形成剤として概して使用されるトリフルオロ酢酸(TFA)に起因して、エレクトロスプレーイオン化中の質量分析シグナルが抑制される可能性がある。この実施例では、IP-HILIC-MSの最適化された条件が報告されており、この条件では、グリシンがTFA含有移動相に添加されて、イオン対形成剤のイオン抑制効果を排除することによって糖ペプチドのMS検出感度をおよそ50倍まで増強する一方で、依然として優れた分離能力を保持する。増強された検出感度で、IP-HILIC-MSは、IgG1およびIgG4 mAbならびにFcドメイン融合タンパク質(5つのN-グリコシル化部位を含有)についての部位特異的N結合型グリカンの数の増加を同定することができ、RPLC質量分析(RPLC-MS)を用いた従来の方法と比較して、同等の定量的結果を達成できることが実証される。IP-HILIC-MSを使用して、LC-MS分析の前に濃縮することなく、mAb上の低レベルのO-グリコシル化および非コンセンサスN-グリコシル化を同定することができることも実証される。
【0099】
I.序論
グリコシル化は、モノクローナル抗体(mAb)およびFcドメイン(断片結晶化ドメイン)融合タンパク質を含むバイオ治療薬の重要な質属性である。保存されたアスパラギン-297部位でのFcドメイングリコシル化プロファイルは、抗体依存性細胞傷害(ADCC)および補体依存性細胞傷害(CDC)などのエフェクター機能と強く関連しており、これは腫瘍学療法における薬物有効性に影響を及ぼし得る。Fc N-グリコシル化は、標的との相互作用に直接関与しないが、mAbのFab(抗原結合断片)領域またはFc-ドメイン融合タンパク質の機能ドメインに位置することが多い非標準部位でのN-またはO-結合グリカンは、標的への結合親和性に悪影響を及ぼし得る。バイオ治療薬におけるグリコシル化はまた、薬物動態および薬力学プロファイルならびに電荷不均一性、安定性、および免疫原性などの他の分子特性と相関する。mAbまたはFcドメイン融合タンパク質のグリコシル化は、異なるタンパク質発現系、製造プロセス、およびタンパク質配列において多様なプロファイルを示すことが多いため、部位特異的グリカンプロファイルの包括的な特徴付けには、一連の極めて重要な作業が含まれており、これには、異なる試料ロット間でのグリカンプロファイルの比較可能性の実証、または生物製剤の非臨床開発中のグリコシル化関連問題の根本原因の調査が含まれる。
【0100】
N結合型グリコシル化プロファイリングは、エキソグリコシダーゼ処理を介してタンパク質からグリカンを連続的に放出させ、還元された末端を蛍光試薬で標識し、放出されたグリカン混合物を蛍光および質量分析検出と組み合わせた親水性相互作用クロマトグラフィー(HILIC-FLR-MS)を使用して分析することによって行うことができるが、タンパク質が複数のグリコシル化部位を含む場合、部位特異的グリコシル化に関する情報を提供することができない。代わりに、インタクトな糖ペプチドの直接分析により、N結合型グリカンおよびO結合型グリカンの両方についての部位特異的グリコシル化プロフィールを明らかにすることができる。糖ペプチド同定の典型的なワークフローでは、タンパク質をプロテアーゼで消化し、質量分析と組み合わせた逆相クロマトグラフィー(RPLC)を用いて分析する。これは、タンパク質アミノ酸配列を確認し、翻訳後およびグリコシル化を含む化学修飾の際に部位特異的定量を提供するための生物製剤の特徴付けに使用されるアプローチである(「ペプチドマッピング」と称されることが多い)。個々のグリカンの相対存在量は、対応する糖ペプチドの抽出イオンクロマトグラム(EIC)のピーク面積に基づいて定量化することができる。しかしながら、RPLCベースの糖ペプチド分離は、グリカン組成物が疎水性の差異にほとんど寄与しないので、主にアミノ酸配列に依存しており、これにより、(1)同じアミノ酸配列を有するペプチドからのグリコフォームは、その保持時間が互いに近いピークのクラスターとして溶出され、(2)糖ペプチドは、それらのペプチド配列が同様の疎水性を有する場合、他の非グリコシル化ペプチドから十分に区別され得ない。例えば、非定型N結合またはO結合グリコシル化部位からの低存在量糖ペプチドのMSシグナルは、MS検出ダイナミックレンジおよびカラムローディング能力の制限により、他の糖ペプチドまたは非グリコシル化ペプチドからの共溶出高存在量干渉種の存在下で大きく抑制され得る。
【0101】
RPLCとは対照的に、HILICは、異なる組成および構造異性体のグリカンの効果的な分離を実施する。質量分析と組み合わせたHILICは、単一のバイオ治療薬から放出されたN-グリカンを分析するために、または異なる種類の複雑な試料中のグリコマイクス分析のために使用されてきた。穏やかな酸性条件下で実施されたHILIC-MSを使用するインタクトな糖ペプチド分析もまた、抗体および他の糖タンパク質について報告されており、これは、グリカン異性体を含む異なるグリコフォームについて優れた分離を示した。糖ペプチドは、酸性環境(pHおよそ2)および強いイオン対特性(TFAアニオン)を提供する0.1%TFAを添加してHILIC移動相を単に変更することによって、非グリコシル化ペプチドからより良好に分離することができる。この条件下で、ペプチド全体の荷電基を中和することができ、非グリコシル化ペプチドの親水性が非常に低下するが、グリカンは、ヒドロキシル基などの非荷電極性部分に富んでいるので、糖ペプチドはあまり影響を受けない。イオン対形成HILIC(IP-HILIC)分離は、多数のグリコプロテオミクス研究におけるオフライン糖ペプチド濃縮のための標準技術となっているが、イオン対形成剤TFAによって引き起こされる有害なシグナル抑制のため、糖ペプチド同定のためにIP-HILICをMS検出と直接組み合わせることは稀であり、これは、同じ濃度のギ酸と比較してMSシグナルの5~10倍の減少を引き起こす可能性がある。したがって、望ましくないイオン抑制を回復することは、TFAを伴うIP-HILIC-MSアプローチにおける適用範囲を拡張するために重要である。
【0102】
TFA関連MSシグナル抑制を軽減するための多くの努力が過去数十年にわたって行われおり、これは、ポストカラム「固定溶液」の導入から、TFAを他の「より弱いイオン対形成」剤で置換することにまで及んでいる。TFA含有移動相にグリシンを直接添加することによって、予備相C18カラムを用いたmAbのペプチドマッピングにおけるシグナル対ノイズ比(S/N)についておよそ1桁の有意な改善をもたらす方法が発見された。グリシン添加剤がカラムの前に導入されたが、C18カラム上でのペプチド分離の性能に影響を与えなかった。本実施例では、この解決策をIP-HILIC-MSに適用することもでき、これにより、モノクローナル抗体またはFcドメイン融合タンパク質の不偏な部位特異的グリコシル化プロファイリングのための高感度で持続可能なプラットフォームを構築することができることが実証される。また、このプラットフォームが、LC-MS分析の前に余分なオフライン濃縮を行うことなく、mAbのFab領域における極めて低存在量のO結合型および非コンセンサスN結合型グリコシル化を同定する可能性を選択的に高めることができるユニークな例も開示される。
【0103】
II.材料および実験
化学物質および材料
4種のIgG4モノクローナル抗体(mAb1、mAb2、mAb3、mAb4)、IgG1モノクローナル抗体(mAb5)およびFcドメイン融合タンパク質(fP1)は、Regeneron(Tarrytown,NY)で製造された。超高純度グリシン(J.T.Bakerブランド)、トリフルオロ酢酸(配列決定グレード)、ギ酸(配列決定グレード)およびアセトニトリル(LC-MSグレード)は、Thermo Fisher Scientific(Waltham,MA)から購入した。ギ酸アンモニウム(99%)は、Acros Organics(商標)から購入した。PNGase Fは、New England Biolabs(Ipswich,MA)から購入した。GlycoWorks(商標)迅速脱グリコシル化キットは、Waters(Milford,MA)から購入した。Milli-Q System(Millipore,Burlington,MA)によって超純水を生成した。他のすべての化学物質は、特に明記しない限り、Sigma-Aldrich(St.Louis,MO)から購入した。
【0104】
トリプシン消化
タンパク質消化物を調製するために、モノクローナル抗体を、5mM酢酸および5mMトリス(2-カルボキシエチルホスフィン塩酸塩)を含有する溶液中で、80℃で10分間加熱することによって変性および還元した。次いで、各試料を、15mMヨードアセトアミドを含有する100mMトリス緩衝液(pH8.0)中で中和し、続いて、1:20(w/w)の酵素対担体比で、37℃、暗所で2時間、トリプシン消化した。Fcドメイン融合タンパク質については、タンパク質を、8Mのグアニジン-HClおよび5mMのジチオスレイトールの存在下で、80℃で10分間加熱することによって還元および変性し、続いて15mMのヨードアセトアミドでアルキル化した。試料を、NAP-5 Sephadex 5-25カラム(GE Healthcare,Chicago,IL)を使用して100mM Tris、pH8.0に緩衝液交換し、次いで、モノクローナル抗体と同じ消化条件下で消化した。消化されたペプチドを、販売者提供のプロトコールに従って、Sep-Pak C18カートリッジ(Waters)を通してさらに浄化した。試料を真空下で乾燥させ、80%ACN(HILIC-MS用)または水(RPLC-MS用)中に再構成した。
【0105】
糖ペプチドのLC-MS分析
すべてのLC-MS実験は、加熱エレクトロスプレーイオン化(HESI)源(Thermo Fisher Scientific)を備えたQ-Exactive Plus Hybrid Quadrupole-Orbitrap質量分析計に連結されたAcquity UPLC I-Class System(Waters)を使用して実施した。アルカリ付加物の形成を最小限に抑えるために、すべての試料を注射用に作製されたポリプロピレンバイアルに移し、移動相溶液を調製し、ポリエチレンボトルに保存し、LCラインを事前に完全に洗浄した。移動相A(MPA)は、100%水(v/v)、0.1%TFAまたはFA(v/v)および1mMグリシンを含有する純粋な水相である。移動相B(MPB)は、80%アセトニトリル(v/v)、20%水(v/v)、0.1%TFAまたはFA(v/v)および1mMグリシンから構成された。グリシンを含まないバージョンのMPAおよびMPBも、グリシンを添加する代わりに等量の水を用いて全く同じレシピを使用して作製した。
【0106】
グリシン含有バージョンとグリシン非含有バージョンとの間で移動相を切り替えた後の第1の試料注入の前に、LCシステムを少なくとも1時間調整し、質の管理の目的のために、76.07m/zにおけるプロトン化グリシンのMSピークの強度をモニタリングした(スキャン範囲50~750m/z)。グリシンを含まない移動相および含む移動相について、それぞれ1e6および1e9で安定なMSシグナルが正規化強度に達すると予想された。
【0107】
HILIC-MS分析のために、6μg(または注釈が付けられている場合はより多量)の脱塩トリプシン消化ペプチドを、Waters Acquity UPLCグリカンBEHアミドカラム(130Å、1.7μm、2.1mm×150mm)上にロードした。0.2mL/分の99.9%MPBでフローを開始し、MPBの割合が90%から62.5%に減少したときにグリカン含有ペプチドを溶出し、分離した。RPLC-MS分析のために、試料をWaters Acquity UPLC BEH C18カラム(130Å、1.7μm、2.1mm×150mm)上にロードした。RPLC-MS分析のための移動相の設定は、HILIC-MSと完全に同一であるが、反対に、99.9%MPAで流動が開始し、ペプチドは、MPBの割合が0.1%から40%に増加したときに溶出した。全MSスキャンを、グリシンシグナルを回避するために500~2000m/zで収集した(分解能=70,000、AGC標的=1e6、最大IT=100ms、シースガス=40、補助ガス=10、掃引ガス=0、スプレー電圧=3.8kV、キャピラリー温度=350℃、補助ガスヒーター温度=250℃、S-レンズRFレベル=50)。5つの最も豊富な前駆体を、データ依存MS2スキャンのために選択し、ここで、NCE=27、分解能=17,500、AGC標的=5e5、最大IT=250msに設定した。
【0108】
糖ペプチド同定のためのデータ処理
Protein Metrics suiteのByonicソフトウェアを使用して、タンパク質配列および132個のヒトN結合型グリカンまたは70個の一般的なO結合型グリカンを含有するビルトイングリカンデータベースに対して生ファイルを検索することによって、糖ペプチド同定を行った。非コンセンサスN-グリカン検索のために、同じN-グリコシル化データベースをカスタマイズして、販売者提供の技術ノートに従って部位制限を排除した。1%FDRに対してフィルタリングすることにより、ユニークな糖ペプチドの予備リストを生成した。次いで、自動特徴抽出およびピーク積分によるフルスキャンベースの最終ID検証および定量化のために、前駆体のリストならびにスペクトルライブラリとしての元の検索結果を、Skyline Dailyソフトウェア(University of Washington,WA)にインポートした。
【0109】
誘導体化グリカンのHILIC LC-MS分析
放出されたN結合型グリカン分析のための試料を調製するために、タンパク質を、0.1%RapiGest(商標)SF(Waters)および4.2mMトリス(2-カルボキシエチルホスフィン塩酸塩(TCEP-HCl)を含有する溶液中で、80℃で10分間加熱することによって変性および還元した。次いで、各試料を、1:5(w/w)の酵素対担体比でのPNGase Fの添加および45℃で25分間のインキュベーションによって脱グリコシル化して、オリゴ糖を放出させ、続いて、45℃で25分間のインキュベーションによるRapiFluor(商標)-MS試薬(Waters)蛍光タグによる放出されたグリカンの誘導体化を行った。誘導体化した試料を、25%N,N-ジメチルホルムアミドおよび53%アセトニトリル(v/v)を含有する最終溶液中に希釈した。
【0110】
Q-Exactive Plus Hybrid Quadrupole-Orbitrap質量分析計(Thermo Fisher Scientific)に連結されたAcquity UPLC I-Class System(Waters)を使用して、データ取得を実行した。1μgの放出され誘導体化されたグリカンを、Acquity UPLCグリカンBEHアミドカラム(130Å、1.7μm、2.1mm×150mm)(Waters)上にロードした。移動相Aは、水中に50mMギ酸アンモニウムを含有する純粋な水相であり、pH=4.4である。移動相Bは純粋な有機相(100%アセトニトリル)である。勾配は、25%移動相Aから開始し、続いて、すべての誘導体化グリカンを溶出するために、移動相Aの割合を32.2%まで増加させた。MSパラメータを、フルスキャンm/z範囲=650~2000、ACG標的=1e6、最大IT=100ms、分解能=70,000、ソース温度=350℃、スプレー電圧=4.0kV、補助ガスヒーター温度=250℃、S-レンズRFレベル=50に設定した。5つの最も豊富な前駆体を、データ依存MS2スキャンのために選択し、ここで、ACG標的=1e5、最大IT=250ms、段階的NCE=13、20、分解能=17,500であった。
【0111】
グリカンの単糖類組成は、各グリカンについて測定された実験質量に基づいて割り当てられた。グリカンの構造は、UniCarbKBデータベース中のグリカン構造によって予測される理論的断片化パターンに対するMS/MS断片化スペクトルの一致に基づいて割り当てられた。
【0112】
III.結果および考察
モノクローナル抗体のグリコフォームの同定および相対的定量化。
【0113】
IgG4分子のトリプシン消化は、可変グリカンを有する保存されたN-グリコシル化部位(
【化1】
(配列番号45)、N297と称される)を、約50個の非グリコシル化ペプチドとともに含有するペプチドを生成する。移動相(pH=2.0)中の1mMのグリシンの存在は、
図42Aに示されるように、ピーク幅および保持時間を含むIP-HILICの溶出プロファイルに影響を及ぼすことなく、IgG4消化物(mAb1)の全体的なMSシグナルを有意に回復させる。グリシンを含む場合および含まない場合のTFA移動相から得られたUVクロマトグラムも同一である(
図42B)。これらの2つの条件のいずれかから観察すると、溶出プロファイル全体を、それぞれ非グリコシル化ペプチドおよび糖ペプチドからのピークを含む2つの離れた領域に分割することができる。HILICカラム上の異なる糖ペプチドは、非グリコシル化ペプチドと比較してはるかに良好に分離されることも注目される。例えば、mAb1の非グリコシル化ペプチド領域(1~13分)は、第1の11分間は解像された特徴を示さず、10分~13.5分の間に限られた数のピークしか示さないが(
図42A)、糖ペプチド領域(18~25分)におけるすべてのピークは、グリカン間の親水性の差のために十分に解像されている。
【0114】
同様のクロマトグラフィープロファイルが、別のIgG4分子(mAb2)について観察される。
図42C1~42C3に示すように、糖ペプチド領域のピーク分解能は、線形勾配(移動相Bの92%から73%)を延長することで独立して改善できる。グリシンの存在下で回復したS/Nはまた、タンデム質量スペクトル(
図42Dおよび42Eに例示される)の質を確実にし、放出されたグリカン分析などの他のアッセイを参照することなく、糖ペプチドを確実に割り当てることを可能にする。
図42Fに示されるように、最適化された勾配で取得されたデータからのmAb1の最も豊富な18個のグリコフォームの抽出されたイオンクロマトグラムは、40分以内に均一に分布している。異なるグリカン組成物を表す各EICピークは、高度に予測可能な溶出時間を有する。例えば、追加のガラクトース(Gal)は、そのグリカン組成にかかわらず、溶出時間の7分の増加を常に引き起こした。それは、任意の数の分岐N-アセチルグルコサミン(GlcNAc)を有するフコシル化コア構造または非フコシル化コア構造であり得る。異なる組成を有するグリカンの十分に分解された分離に加えて、Galが1,3または1,6結合のいずれかを介して分岐GlcNAc(例えば、FA2G1、A2G1)と結合していることに起因する構造異性体についても、ベースライン分離が観察された。注目すべきことに、インタクトな糖ペプチドから観察された溶出プロファイルは、2つのシアル酸含有グリカンFA2G2S1およびFA2G1S1を除いて、ほぼ中性のpH下で同じHILICカラムを使用して得られた放出されたグリカンの溶出プロファイルと非常に一致しており(
図42G)、これらの相対溶出時間は、TFAの存在下でのカルボキシル酸基のプロトン化に起因する可能性が最も高い。
【0115】
IP-HILICにおける広い溶出時間範囲とは対照的に、RPLC-MSデータセットからの同じ糖ペプチドのEICピークは、勾配の線形範囲全体が80分であっても、1.5分ウィンドウ内でのみ溶出する(
図42H1~42H2)。現行の最新技術の質量分析計における高い走査速度および感度のために、ピーク分離におけるかかる欠陥があっても、糖ペプチド同定のために依然として使用することができるが、分離を改善されことで、共溶出ペプチドのダイナミックレンジを低減し、より正確なピーク積分を達成することに関して常に利点が得られる。加えて、インソース断片化中に生成される人工糖ペプチドは、それらが生成されるより大きいグリコフォームと同じ保持時間を有するため、IP-HILICでは保持時間が異なるため、同じ既存の糖ペプチドを容易に除外することができるが、RPLCでは不適切な分離のために困難であり得る(
図42H1~42H2)。
【0116】
グリシンのS/N増強のレベルは、異なるペプチド配列または異なるペプチド対グリシンモル比について変動し得る。所与の配列(EEQFNSTYR;配列番号45)について、すべての糖ペプチドは、2つの条件下でのmAb1の個々のグリコフォームについてのEICピーク面積をプロットする優れた線形性(R
2=0.998)によって示されるように、グリカン組成および個々のグリコフォームの相対存在量に依存しない同様のS/Nの改善を示す(
図43A)。シグナルブーストにおける一貫性は、
図43Bおよび43Cに示されるように、2つの条件下で定量化された異なるグリコフォームについてほぼ同等の割合レベルをもたらす。この結果は、TFAが主にTFAアニオンと一級アミンとの間でイオン対形成を形成することによってシグナルを抑制することを示唆しており、これは糖鎖ではなくアミノ酸においてのみ見出すことができる。
【0117】
IgG4中の糖ペプチドについての平均S/Nブーストは、
図43Aにおけるプロットの切片から決定され、およそ19.4倍である。IgG1由来の糖ペプチドも分析され、ペプチド配列(
【化2】
;配列番号35)中の単一アミノ酸置換にかかわらず、クロマトグラフィープロファイルならびにS/Nブーストに関して同様の特徴が観察される。結果を
図43D1~43D3および43Eに要約する。
【0118】
複数のグリコシル化部位を含有するFcドメイン融合タンパク質の部位特異的N-グリコシル化プロファイルの特徴付け
【0119】
融合タンパク質fP1は、mAb由来のN297に相当する1つの保存されたFcグリコシル化部位(部位1)および機能ドメインに位置する4つのさらなる部位(部位2~4)を含む5つのN-グリコシル化部位を含む。消化されたペプチドのIP-HILIC-MS分析について、グリシンの存在下での増強されたシグナル対ノイズ比は、MS2スペクトルにおける断片イオンの収率に依存する糖ペプチド同定の改善のために、極めて重要である(タンデム質量スペクトルの例については
図43Fおよび43Gを参照されたい)。グリシン添加剤がfP1についての部位特異的糖ペプチドの同定をどのように改善するかを体系的に評価するために、
図44A(上の2つのパネル)に示すように、2つの条件実行からの検索結果を組み合わせ、比較的ストリンジェントなパラメータ(スコア>150、|LogProb|>2、#PSM≧2)を使用してフィルタリングし、高信頼度PSMおよび同定された糖ペプチドの両方の数がグリシン添加剤で改善されることが示された。グリコシル化プロファイルは、各部位で異なることが観察され、これはまた、EICピーク面積を用いた相対的定量化によって検証される(表5)。
【表5-1】
【表5-2】
【表5-3】
【0120】
mAbと同様に、シグナルブーストは、同じグリコシル化部位からのすべてのグリコフォームについて高度に一貫しており(
図44C)、グリシン添加剤を含む場合および含まない場合の定量化された個々のグリコフォームの相対割合が同等となる(表5)。異なるグリコサイトを含有する糖ペプチドについて、シグナルブーストが2倍(部位5)~50倍(部位2)の範囲で変動することも注目に値する。これは、TFAベースのシグナル抑制またはグリシンベースのTFA緩和のレベルが、異なるペプチド配列について大きく変動することを示している。
【0121】
十分なシグナル対ノイズ比に加えて、十分なLC分離もまた、高度にグリコシル化されたタンパク質における部位特異的グリコシル化同定に有利である。すべての糖ペプチドピークは、IP-HILIC分離によって非グリコシル化ペプチドから十分に区別することができ、糖ペプチドからのMS2スペクトルにおけるオキソニウムシグネチャーイオンのEICピークによって明らかにされる(
図44D)。これらの糖ペプチドが互いにどのように分離するかを調べるために、4つの代表的なグリコフォーム(FA2G1、FA2G2、FA2G2S1およびFA2G2S2)のEICピークを、
図45Aに示す7つのピーク「エンベロープ」として、7つすべてのグリコサイト含有ペプチドについて抽出する。1つのエンベロープ内の溶出プロファイルは、グリコフォームの溶出順序および各ピーク間の保持時間差を含めて、他のエンベロープ内のものとほぼ同等である。そして、糖ペプチドの2つのエンベロープ間の保持時間差は、アミノ酸配列と相関するのみである。これはおそらく、HILICにおけるペプチド保持の予測のための複数のモデルにおいて示唆されるように、極性残基の頻度に起因している。記述的には、部位4のペプチドの配列(
【化3】
配列番号36)は、10個の総アミノ酸のうち5個の極性残基を有し、50%の出現頻度を与える。同じグリコサイトをカバーするが、さらなるN末端リジン残基を含む別のペプチドの配列(部位4
bとして示される)は、極性残基のわずかに高い割合(54.4%)を有しているため、部位4
bにおける糖ペプチドのエンベロープは、部位4
aより遅く溶出する。そして、部位4
bの溶出時間は、部位5の糖ペプチドエンベロープと同一である。これは、これらのペプチドの両方が、アミノ酸の異なる組み合わせにもかかわらず、54.4%の極性残基を含むためである。50%のみの極性残基を有する部位3のエンベロープは、おそらくペプチド配列中のC末端アルギニン(リジンの代わりに)の存在に起因して、最後の2つのエンベロープよりも遅く溶出する。ここで、グアニジノ基は、全体的な極性に対してより大きな寄与を有し得る。同じ傾向は、ペプチド配列がC末端アルギニンを含み、高い極性残基頻度を有する他の3つのエンベロープすべてについても観察される。Fcドメイン糖ペプチド(部位1)は、すべての極性残基からなるペプチド配列によって決定される極めて高い親水性のために、最後に溶出する。このペプチド中の2つの酸性アミノ酸(Glu)は中和されたカルボン酸形態のままであるが、それらは依然として固定相の中性アミド基に強力に結合することができる。要約すると、糖ペプチドは、グリカン構造およびアミノ酸配列の両方に基づいて分離され得、そして1つのグリコサイト由来の2つのグリコフォームピーク間の空間は、他のグリコサイト由来のピークで満たされる。したがって、fP1中の糖ペプチドの大部分は、広範囲の溶出時間にわたって均一に分布させることができ、これにより、データ依存的取得中にMS2スキャンのために前駆体を効果的に選択することが可能になる。
【0122】
TFAを使用するIP-HILIC分離において観察されるかかる特徴は、ギ酸などの強いイオン対形成特性を有さないより弱い酸を使用する場合に再現されない可能性がある。第一に、HILIC/FAベースの分離は、糖ペプチドからの非グリコシル化ペプチドの不完全な分離をもたらし得、同じ抽出された代表的ピークは、イオン対形成試薬の欠如に起因する異なる糖ペプチドの不均一な親水性を示す他の早期溶出亜集団を示した(
図44D)。HILIC/TFA分離と比較して、HILIC/FAのLC性能におけるこの欠陥は、
図44Aの第3のパネルおよび
図44Bのベングラフに示されるように、糖ペプチドのより少ない同定をもたらすが、グリシンの添加は、平均で約5倍のシグナルブーストを依然として達成することができ、同定された糖ペプチドは、TFAデータセットと比較してより多い数のPSMを有する。FA含有移動相におけるHILIC性能は、HILIC/FAをグリシン添加剤と組み合わせた場合に糖ペプチド同定をさらに改善し得る他のHILIC固定材料を使用して得ることができる。C18カラムを使用するRPLC/TFAは、複数の部位から糖ペプチドを分離する直交分解能力を保持する。複数の部位からの糖ペプチドは、異なるクラスターとして互いに十分に分離されている(
図36D)。それらは他の非グリコシル化ペプチドから完全には単離されないが、これらの糖ペプチドクラスターにおいて溶出されるこの単一糖タンパク質fP1中の非グリコシル化ペプチドがほとんど存在しないため、RPLC-MSによる糖ペプチドの同定は、IP-HILIC-MS法と同等のままである(
図44A、最後の2つのパネルおよび
図44B)。
【0123】
IP-HILIC-MSを用いたモノクローナル抗体における低存在量のO-グリコシル化および非標準N-グリコシル化の発見。
【0124】
IP-HILICは、fP1における複数のグリコサイトからの糖ペプチドを特徴付ける能力を示すので、mAbについての非標準グリコサイトからの糖ペプチドを同定する可能性も有するはずである。低存在量糖ペプチドの検出能を向上させるために試料注入量をわずかに増加させ、したがって高品質のタンデム質量スペクトルを得た。薬物開発の初期段階からのmAb3の研究において、誤って切断されたN297含有糖ペプチド(例えば、TKPREEQFNSTYR;配列番号44)、ならびにVLドメインに位置するN91およびCH1ドメインに位置するN163の非標準グリコサイトを含有する糖ペプチド(
図45Bおよび45Cにおけるタンデム質量スペクトルの例を参照されたい)を含む、異なるアミノ酸配列を有する複数の低存在量糖ペプチドが確実に同定されている。フコシル化二分岐複合体構造を有するグリカンによって主に占有される標準Fc N297部位とは異なり、3つの高マンノース型グリカンが軽鎖N91において同定され、1つのグリカンFA2G2のみが重鎖N163において同定されており、両方の部位がそれぞれ0.4%および0.07%という低いグリカン占有率を有する。大量の試料注入により、これらの低存在量糖ペプチドを同定できる可能性が得られるが、それらのシグナル飽和に起因して、非グリコシル化ペプチドの存在量が過小評価される可能性がある。試料注入量が低くなると、各個々のグリカンについて、(おそらくより正確な)占有レベルが低く定量化される(
図45D)。別の研究において、最も頻繁に生じる哺乳動物O結合型グリカンデータベース(
図45Eおよび45Fにおけるタンデム質量スペクトルの例を参照されたい)に対して検索する場合、低存在量ムチン型O結合型グリカンHexNAc(1)Hex(1)NeuAc(2)が、二重特異性抗体mAb4についての1つのアームにおけるVHドメインにおいて同定されるが、このO結合型糖ペプチドのレベルは、0.05%未満であると定量化される。Fab領域上のこれらの稀なグリカンの存在はまた、ネイティブ質量分析と組み合わせた強陽イオン交換クロマトグラフィーを使用してインタクトなタンパク質レベルで確認され、Fab領域上の他のグリカンは発見されない。
【0125】
これらの稀なグリカンは、RPLC-MSを使用して独立して発見することはできないが、低存在量の非標準N-グリカンまたはO-グリカンを同定するためにIP-HILIC-MSを使用することの利点を統計的に実証するのに十分な症例はまだ存在していない。代わりに、低存在量糖ペプチドに関する調査では、潜在的な干渉からの影響に関する見込みが得られる可能性がある。非常に低い存在量の(糖)ペプチドの検出は、非常に豊富な共溶出干渉の存在下で、特にオービトラップ型質量分析計におけるデータ依存ベースの取得のために、通常困難である。なぜなら、Cトラップは、非常に豊富なイオンによって迅速に充填されることができ、低豊富なイオンは、短縮された注入時間内に十分に蓄積されない可能性があり、識別のためにタンデムMS2をトリガするための閾値を上回る信号を生成しない可能性があるからである。HILICおよびRPLCの両方が干渉シグナルを完全に除去することができない場合であっても、干渉の主な原因および影響のレベルは異なる可能性がある。RPLC-MSについては、非グリコシル化ペプチドは勾配全体にわたって広く分布しており、潜在的に任意の低存在量糖ペプチドに対する干渉の原因となり得るが(
図46A)、IP-HILIC-MSについては、おそらく非グリコシル化ペプチドからの干渉は存在せず、その集団全体がTFAのイオン対に起因して初期溶出時間に圧縮されており、干渉の唯一の源は高存在量のカノニカルFc糖ペプチドからである(
図46B)。(1)Fc糖ペプチドの数は非グリコシル化ペプチドの数よりもはるかに少なく、(2)Fc糖ペプチドの強度は通常、mAbから消化されたすべてのペプチドの中で最も低いことから、このFc糖ペプチド干渉は、低存在量糖ペプチド同定のためのRPLC-MSにおける非グリコシル化干渉と比較して、より低い負の効果を有するはずであると仮定される。実際、mAb3(相対存在量>10%)中のFA2、FA2G1およびFA2G2などの主要な2つまたは3つのグリコフォームのみが真の干渉として同定され得るが、残りのFcグリコフォームは、存在量が少ないため、懸念は最小限となる。
【0126】
図46Cに示されるように、RPLCにおける代表的な6分ウィンドウ(67~73分)のうち、合計2.7分は、高存在量ペプチド(67.5~68分、69~70分、70.4~70.6分、および71~72分)からのMSシグナルを有し、任意の低存在量糖ペプチドと共溶出する高いリスクを生じる。HC N91における3つの高マンノースグリコフォームのクラスター全体が、250倍の強度のピーク(69.0~69.4分)で共溶出されることが観察される。この状況は、80分クロマトグラム全体のどこにおいても生じ得る。IP-HILICでは、Fc糖ペプチドと部分的に共溶出するN91由来の2つの糖ペプチド(Man6およびMan7)が存在するが、Fc糖ペプチドからの干渉の強度は、それぞれわずか50倍および8倍である。10分の糖ペプチド溶出領域全体(12~22分)のうち、1分(3つの主要なグリコフォームについてのピーク幅の合計)のみが強い干渉ピークを有しており、これは、領域の90%が、バックグラウンドノイズおよび他の低存在量糖ペプチドのみが観察される「谷」領域(
図46Bにおける12.5~16.5分)を含む、低存在量糖ペプチドについて重度の干渉を有し得ないことを意味する。
【0127】
同様に、mAb4のVHドメイン上のO結合糖ペプチドもまた、IP-HILIC-MSにおいて同じ領域で溶出されており、対照的に、EICピークは、おそらく二重特異性mAbに対する非グリコシル化ペプチドの数の増加に起因して、RPLC-MSデータセットから抽出することができない(
図46E)。O-グリカンは、通常、N-グリカンと比較してより少ない単糖単位を含有するので、O-糖ペプチドは、親水性が低く、N-糖ペプチドよりも早く溶出する可能性が高い。mAb由来の任意の他のO-糖ペプチドもまた、非グリコシル化ペプチドまたはFcグリコシル化ペプチドのいずれかからの最小の干渉シグナルを有する「谷」領域において溶出されると仮定される。
【0128】
この干渉の低減により、IP-HILIC-MSは低存在量の糖ペプチド同定のためのユニークなアプローチとなり、本出願におけるイオン対形成試薬としてのTFAとシグナルブースト試薬としてのグリシンの代替不可能な役割が強調されることとなった。このアプローチは、第2の次元の糖ペプチド濃縮を必要とすることなく、初期段階の生物薬剤発見の間の稀なグリコシル化の迅速なスクリーニングのためのアプローチとして使用することができる。性能は、細長い勾配を使用することによってさらに最適化することができる。加えて、予測不可能な分子依存性の重要な質属性(CQA)の大部分は、FcドメインではなくFabドメインに位置し得るので、FcドメインならびにFc N-糖ペプチド干渉の完全な除去によって単離されたFab領域に焦点を当て、検出感度がさらに改善された。
【0129】
本研究では、グリシンをTFA含有移動相に添加して、ペプチド分離のLC性能に悪影響を及ぼすことなく、TFAベースのIP-HILIC-MSにおける感度不足を有意に解決することができることが実証された。本方法は、通常のフローポンプに基づいており、優れた安定性および堅牢性を示し、無数の異なるタイプのバイオ治療薬およびグリコシル化された機能性タンパク質のための部位特異的グリコシル化プロファイリングを可能にする。mAbについて、IP-HILIC-MSにより、放出されたグリカン分析と比較して、インタクトな糖ペプチドレベルで偏りのないグリカンプロファイルが生成されており、このことは、このアプローチが、標準的なタンパク質特徴付けにおける放出されたグリカンアッセイの補足または代用となり得ることを示唆している。加えて、IP-HILIC-MSは、糖ペプチド定量化のためのMRMまたはPRMベースの方法と互換性があり得、糖ペプチドの広い溶出時間範囲のために、比較的少数の前駆体が同時にスケジュールされる必要がある。これらの標的化または非標的化IP-HILIC-MS法は、多属性モニタリングワークフローまたは高スループット分析プラットフォームに円滑に移植することができ、これは、生物製剤産業のための分析科学の進歩に有望である。
【0130】
グリシン添加剤は、MSシグナルをブーストし、全体的な部位特異的グリコシル化同定を増加させるために、弱イオン対形成を伴うRPLC-MSまたはHILIC-MSにおいて使用することができる。Fcドメイン融合タンパク質に関する開示された結果から、IP-HILIC-MS法が、複数のグリコシル化部位からのグリコシル化プロファイルのマッピングに関して、RPLC-MS法と(同じシグナル強度で)ほぼ同等となり得ることが実証される。現在の最先端の質量分析計の高速走査速度および高ダイナミックレンジから、非グリコシル化ペプチドからの干渉は、RPLC-MSにおいて十分に許容することができる。しかしながら、mAb中の非標準部位などの低占有グリコサイトに関しては、IP-HILICは、依然として、追加の濃縮ステップが含まれない場合であっても、それらの検出能を改善する利点を示している。また、IP-HILIC-MSは、非グリコシル化ペプチドバックグラウンドを多量に含有する試料に適用される場合、RPLC-MSよりもはるかに良好に機能すると仮定することも妥当である。線形勾配をIP-HILICにおける糖ペプチド溶出領域において選択的に伸長して、RPLC-MSにおいてはほとんど実現され得なかった糖ペプチド分離を効率的に増加させることができる。したがって、ヒト血清中などのグリコプロテオームスケールでの迅速かつ容易なグリコフォームスクリーニングのための標的化または非標的化方法を、IP-HILIC-MS(UPLC)プラットフォームを用いて実施することができる。中性HILIC固定相材料(アミド)以外に、双性イオン材料などの他の荷電固定相を評価し得ることが本研究で報告されている。
【0131】
本発明は、本明細書に記載される具体的な実施形態によって範囲が限定されるべきではない。実際、本明細書に記載されたものに加えて本発明の様々な修正は、前述の記載および添付の図から当業者には明らかであろう。そのような変更は、添付の特許請求の範囲内に含まれることが意図されている。
【配列表】