(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-06-11
(45)【発行日】2025-06-19
(54)【発明の名称】合成繊維用処理剤、合成繊維用処理剤の水性液、合成繊維、及び不織布の製造方法
(51)【国際特許分類】
D06M 13/248 20060101AFI20250612BHJP
D06M 13/292 20060101ALI20250612BHJP
D06M 13/224 20060101ALI20250612BHJP
【FI】
D06M13/248
D06M13/292
D06M13/224
(21)【出願番号】P 2024209495
(22)【出願日】2024-12-02
【審査請求日】2024-12-02
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000210654
【氏名又は名称】竹本油脂株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】柴山 智洋
(72)【発明者】
【氏名】金子 一輝
(72)【発明者】
【氏名】木村 裕
【審査官】野村 裕亮
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-084004(JP,A)
【文献】特開2021-028427(JP,A)
【文献】特開2023-068484(JP,A)
【文献】特開2020-002497(JP,A)
【文献】特開2014-240530(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D06M13/00-15/715,D04H1/00-18/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記のサルフェート(A)、下記の有機リン酸エステル(B)、及び多価アルコール脂肪酸エステル(C)
(ポリオキシアルキレン基含有ヒドロキシ脂肪酸多価アルコールエステルとジカルボン酸との縮合物の少なくとも1つの水酸基を脂肪酸で封鎖したエステルを除く)を含有することを特徴とする合成繊維用処理剤。
サルフェート(A):多価アルコール脂肪酸エステルサルフェート、及びその塩から選ばれる少なくとも一つ。
有機リン酸エステル(B):炭素数8以上24以下の直鎖の炭化水素基を有する有機リン酸エステル、及びその塩から選ばれる少なくとも一つ。
【請求項2】
前記有機リン酸エステル(B)の炭化水素基が、炭素数12以上18以下である請求項1に記載の合成繊維用処理剤。
【請求項3】
前記多価アルコール脂肪酸エステル(C)が、トリグリセライドである請求項1に記載の合成繊維用処理剤。
【請求項4】
前記サルフェート(A)、前記有機リン酸エステル(B)、及び前記多価アルコール脂肪酸エステル(C)の含有割合の合計を100質量%とすると、前記サルフェート(A)を5質量%以上70質量%以下、前記有機リン酸エステル(B)を10質量%以上75質量%以下、及び前記多価アルコール脂肪酸エステル(C)を10質量%以上85質量%以下の割合で含有する請求項1に記載の合成繊維用処理剤。
【請求項5】
更に、下記の有機リン酸エステル(D)を含有する請求項1に記載の合成繊維用処理剤。
有機リン酸エステル(D):炭素数6以上10以下の分岐鎖の炭化水素基を有する有機リン酸エステル、及びその塩から選ばれる少なくとも一つ。
【請求項6】
前記サルフェート(A)、前記有機リン酸エステル(B)、前記多価アルコール脂肪酸エステル(C)、及び前記有機リン酸エステル(D)の含有割合の合計を100質量%とすると、前記サルフェート(A)を10質量%以上60質量%以下、前記有機リン酸エステル(B)を10質量%以上60質量%以下、前記多価アルコール脂肪酸エステル(C)を10質量%以上70質量%以下、及び前記有機リン酸エステル(D)を10質量%以上30質量%以下の割合で含有する請求項5に記載の合成繊維用処理剤。
【請求項7】
請求項1~6に記載のいずれか一項に記載の合成繊維用処理剤を0.1質量%以上10質量%以下の割合で含有することを特徴とする合成繊維用処理剤の水性液。
【請求項8】
請求項1~6に記載のいずれか一項に記載の合成繊維用処理剤が付着していることを特徴とする合成繊維。
【請求項9】
前記合成繊維が、オレフィン系合成繊維である請求項8に記載の合成繊維。
【請求項10】
請求項8に記載の合成繊維に対し、熱融着処理を施して不織布を得ることを特徴とする不織布の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、合成繊維用処理剤、合成繊維用処理剤の水性液、合成繊維用処理剤が付着している合成繊維、及び合成繊維を用いた不織布の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、不織布の原料繊維として合成繊維が用いられている。不織布は、例えば合成繊維の短繊維であるステープルを作製した後、ステープルをカード機に通してウェブを作製する。また、合成繊維に合成繊維用処理剤を塗布することによって、親水性等の機能が付与される。親水性等の機能が付与された合成繊維から作製された不織布は、衛材分野、医療分野、土木分野等、幅広い分野で活用されている。
【0003】
例えば、従来、特許文献1~3に開示の合成繊維用処理剤が知られている。特許文献1は、多価アルコール脂肪酸エステルサルフェート塩と、炭素数6~10の炭化水素基を有する化合物有機リン酸エステル化合物又は有機スルホン酸化合物等を含有する透水性付与剤について開示する。特許文献2は、炭素数8~22のアルキル基を有するアルキル硫酸塩等、炭素数4~18のアルキル基を有するアルキルホスフェート塩等を含有する透水性付与剤について開示する。特許文献3は、アルキルリン酸エステル塩等、所定の多価アルコール脂肪酸エステル等を含有する不織布用繊維処理剤について開示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2018-84004号公報
【文献】国際公開第2012/169360号
【文献】特開2019-019417号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、合成繊維用処理剤には、該合成繊維用処理剤が付与された繊維について、耐久親水性、工程通過性、及び濡れ戻り防止性の各機能の向上が求められていた。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、前記の課題を解決するべく研究した結果、特定のサルフェート、有機リン酸エステル、及び多価アルコール脂肪酸エステルを含む合成繊維用処理剤がまさしく好適であることを見出した。
【0007】
上記課題を解決する各態様を記載する。
態様1の合成繊維用処理剤は、下記のサルフェート(A)、下記の有機リン酸エステル(B)、及び多価アルコール脂肪酸エステル(C)(ポリオキシアルキレン基含有ヒドロキシ脂肪酸多価アルコールエステルとジカルボン酸との縮合物の少なくとも1つの水酸基を脂肪酸で封鎖したエステルを除く)を含有することを特徴とする。
【0008】
サルフェート(A):多価アルコール脂肪酸エステルサルフェート、及びその塩から選ばれる少なくとも一つ。
有機リン酸エステル(B):炭素数8以上24以下の直鎖の炭化水素基を有する有機リン酸エステル、及びその塩から選ばれる少なくとも一つ。
【0009】
態様2は、態様1に記載の合成繊維用処理剤において、前記有機リン酸エステル(B)の炭化水素基が、炭素数12以上18以下である。
態様3は、態様1又は2に記載の合成繊維用処理剤において、前記多価アルコール脂肪酸エステル(C)が、トリグリセライドである。
【0010】
態様4は、態様1~3のいずれか一態様に記載の合成繊維用処理剤において、前記サルフェート(A)、前記有機リン酸エステル(B)、及び前記多価アルコール脂肪酸エステル(C)の含有割合の合計を100質量%とすると、前記サルフェート(A)を5質量%以上70質量%以下、前記有機リン酸エステル(B)を10質量%以上75質量%以下、及び前記多価アルコール脂肪酸エステル(C)を10質量%以上85質量%以下の割合で含有する。
【0011】
態様5は、態様1~4のいずれか一態様に記載の合成繊維用処理剤において、更に、下記の有機リン酸エステル(D)を含有する。
有機リン酸エステル(D):炭素数6以上10以下の分岐鎖の炭化水素基を有する有機リン酸エステル、及びその塩から選ばれる少なくとも一つ。
【0012】
態様6は、態様5に記載の合成繊維用処理剤において、前記サルフェート(A)、前記有機リン酸エステル(B)、前記多価アルコール脂肪酸エステル(C)、及び前記有機リン酸エステル(D)の含有割合の合計を100質量%とすると、前記サルフェート(A)を10質量%以上60質量%以下、前記有機リン酸エステル(B)を10質量%以上60質量%以下、前記多価アルコール脂肪酸エステル(C)を10質量%以上70質量%以下、及び前記有機リン酸エステル(D)を10質量%以上30質量%以下の割合で含有する。
【0013】
態様7の合成繊維用処理剤の水性液は、態様1~6に記載のいずれか一態様に記載の合成繊維用処理剤を0.1質量%以上10質量%以下の割合で含有することを特徴とする。
態様8の合成繊維は、態様1~6に記載のいずれか一態様に記載の合成繊維用処理剤が付着していることを特徴とする。
【0014】
態様9は、態様8に記載の合成繊維において、前記合成繊維が、オレフィン系合成繊維である。
態様10の不織布の製造方法は、態様8又は9に記載の合成繊維に対し、熱融着処理を施して不織布を得ることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、合成繊維用処理剤が付与された繊維について、耐久親水性、工程通過性、及び濡れ戻り防止性の各機能の向上を図ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
<第1実施形態>
以下、本発明の合成繊維用処理剤(以下、単に処理剤ともいう)を具体化した第1実施形態を説明する。本実施形態の処理剤は、下記のサルフェート(A)、有機リン酸エステル(B)、及び多価アルコール脂肪酸エステル(C)(ポリオキシアルキレン基含有ヒドロキシ脂肪酸多価アルコールエステルとジカルボン酸との縮合物の少なくとも1つの水酸基を脂肪酸で封鎖したエステルを除く)を含有する。処理剤は、さらに下記の有機リン酸エステル(D)を含有してもよい。
【0017】
(サルフェート(A))
本実施形態において供されるサルフェート(A)としては、多価アルコール脂肪酸エステルサルフェート、及びその塩から選ばれる少なくとも一つである。処理剤がサルフェート(A)を含有することにより、処理剤が付与された繊維の耐久親水性を向上できる。
【0018】
サルフェート(A)の原料となる多価アルコールの具体例としては、例えばエチレングリコール、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、1,3-プロパンジオール、1,2-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、2-メチル-1,2-プロパンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、2,5-ヘキサンジオール、2-メチル-2,4-ペンタンジオール、2,3-ジメチル-2,3-ブタンジオール、グリセリン、ジグリセリン、トリグリセリン、ポリグリセリン、2-メチル-2-ヒドロキシメチル-1,3-プロパンジオール、トリメチロールプロパン、ソルビタン、ペンタエリスリトール、ソルビトール等が挙げられる。
【0019】
サルフェート(A)の原料となる脂肪酸としては、飽和脂肪酸であっても、不飽和脂肪酸であってもよい。また、直鎖状のものであっても、分岐鎖構造を有するものであってもよい。また、1価の脂肪酸であっても、多価カルボン酸(多塩基酸)であってもよい。
【0020】
飽和脂肪酸の具体例としては、例えばギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、ヘキサン酸(カプロン酸)、オクチル酸(2-エチルヘキサン酸)、オクタン酸(カプリル酸)、ノナン酸、デカン酸(カプリン酸)、ドデカン酸(ラウリン酸)、テトラデカン酸(ミリスチン酸)、ヘキサデカン酸(パルミチン酸)、オクタデカン酸(ステアリン酸)、エイコサン酸(アラキジン酸)、ドコサン酸(ベヘン酸)、テトラコサン酸等が挙げられる。
【0021】
不飽和脂肪酸の具体例としては、例えばクロトン酸、ミリストレイン酸、パルミトレイン酸、オレイン酸、バクセン酸、エイコセン酸、リノール酸、αリノレン酸、γリノレン酸、アラキドン酸等が挙げられる。
【0022】
多価カルボン酸(多塩基酸)の具体例としては、例えば(1)コハク酸、フマル酸、マレイン酸、アジピン酸、セバシン酸等の二塩基酸、(2)アコニット酸等の三塩基酸、(3)テレフタル酸、イソフタル酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸等の芳香族ジカルボン酸、(4)トリメリット酸等の芳香族トリカルボン酸、(5)ピロメリット酸等の芳香族テトラカルボン酸等が挙げられる。
【0023】
サルフェート(A)としては、動植物油の硫酸エステル又はその塩が用いられてもよい。動植物油の具体例としては、例えばヒマシ油、ごま油、トール油、大豆油、ヒマワリ油、ナタネ油、パーム油、牛脂、鯨油、魚油等が挙げられる。
【0024】
多価アルコール脂肪酸エステルサルフェートの塩としては、例えばアミン塩、金属塩、アンモニウム塩等が挙げられる。
金属塩としては、例えばアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩が挙げられる。アルカリ金属塩を構成するアルカリ金属の具体例としては、例えばナトリウム、カリウム、リチウム等が挙げられる。アルカリ土類金属塩を構成するアルカリ土類金属としては、第2族元素に該当する金属、例えばカルシウム、マグネシウム、ベリリウム、ストロンチウム、バリウム等が挙げられる。
【0025】
アミン塩を構成するアミンは、1級アミン、2級アミン、及び3級アミンのいずれであってもよい。アミン塩を構成するアミンの具体例としては、例えば、(1)メチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、エチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、N-N-ジイソプロピルエチルアミン、ブチルアミン、ジブチルアミン、2-メチルブチルアミン、トリブチルアミン、オクチルアミン、ジメチルラウリルアミン等の脂肪族アミン、(2)アニリン、N-メチルベンジルアミン、ピリジン、モルホリン、ピペラジン、これらの誘導体等の芳香族アミン類又は複素環アミン、(3)モノエタノールアミン、N-メチルエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、イソプロパノールアミン、ジイソプロパノールアミン、トリイソプロパノールアミン、ジブチルエタノールアミン、ブチルジエタノールアミン、オクチルジエタノールアミン、ラウリルジエタノールアミン等のアルカノールアミン、(4)N-メチルベンジルアミン等のアリールアミン、(5)ポリオキシエチレンラウリルアミノエーテル、ポリオキシエチレンステリルアミノエーテル等のポリオキシアルキレンアルキルアミノエーテル、(6)アンモニア等が挙げられる。
【0026】
これらのサルフェート(A)は、一種類を単独で使用してもよいし、又は二種以上を適宜組み合わせて使用してもよい。
サルフェート(A)の具体例としては、例えばヒマシ油サルフェートナトリウム塩、牛脂サルフェートナトリウム塩、ナタネ油サルフェートカリウム塩、パーム油サルフェートカリウム塩、オレイン酸トリグリセライドサルフェートナトリウム塩等が挙げられる。
【0027】
処理剤中のサルフェート(A)の含有割合の下限は、適宜設定されるが、好ましくは3質量%以上、より好ましくは5質量%以上である。かかる含有割合が3質量%以上の場合、処理剤が付与された繊維について、耐久親水性をより向上できる。かかるサルフェート(A)の含有割合の上限は、適宜設定されるが、好ましくは80質量%以下、より好ましくは70質量%以下である。かかる含有割合が80質量%以下の場合、処理剤が付与された繊維について、工程通過性をより向上できる。なお、上記の上限及び下限を任意に組み合わせた範囲も想定される。
【0028】
(有機リン酸エステル(B))
本実施形態において供される有機リン酸エステル(B)としては、炭素数8以上24以下の直鎖の炭化水素基を有する有機リン酸エステル、及びその塩から選ばれる少なくとも一つである。処理剤が有機リン酸エステル(B)を含有することにより、処理剤が付与された繊維の工程通過性を向上できる。
【0029】
有機リン酸エステル(B)としては、例えばアルキルリン酸エステル、アルケニルリン酸エステル、(ポリ)アルキレンオキサイド鎖を付加したアルキルリン酸エステル又はアルケニルリン酸エステル、それらの塩等が挙げられる。また、有機リン酸エステル(B)は、モノエステル体であっても、ジエステル体、トリエステル体であってもよい。
【0030】
アルキル基の具体例としては、例えばオクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基、イコシル基、ドコシル基等が挙げられる。
【0031】
アルケニル基の具体例としては、例えばオクテニル基、ノネニル基、デセニル基、ウンデセニル基、ドデセニル基、トリデセニル基、テトラデセニル基、ペンタデセニル基、ヘキサデセニル基、ヘプタデセニル基、オクタデセニル基、イコセニル基、ドコセニル基等が挙げられる。
【0032】
炭化水素基の炭素数は、炭素数12以上18以下が好ましい。かかる範囲に規定することにより、処理剤が付与された繊維について、工程通過性をより向上できる。
(ポリ)オキシアルキレン構造を形成する原料として用いられるアルキレンオキサイドとしては、炭素数2以上4以下のアルキレンオキサイドが好ましい。アルキレンオキサイドの具体例としては、例えばエチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、ブチレンオキサイド等が挙げられる。アルキレンオキサイドの付加モル数は、適宜設定されるが、好ましくは0.1モル以上60モル以下、より好ましくは1モル以上40モル以下、さらに好ましくは2モル以上30モル以下である。上記の上限及び下限を任意に組み合わせた範囲も想定される。なお、アルキレンオキサイドの付加モル数は、仕込み原料中における付加対象化合物1モルに対するアルキレンオキサイドのモル数を示す。アルキレンオキサイドは、一種類のアルキレンオキサイドを単独で使用してもよいし、又は二種以上のアルキレンオキサイドを適宜組み合わせて使用してもよい。アルキレンオキサイドが2種類以上適用される場合、それらの付加形態は、ブロック付加、ランダム付加、及びブロック付加とランダム付加の組み合わせのいずれでもよく、特に制限はない。
【0033】
有機リン酸エステル(B)を構成するリン酸は、特に制限はなく、オルトリン酸であってもよいし、二リン酸等のポリリン酸であってもよい。
有機リン酸エステル(B)として有機リン酸エステル塩が適用される場合、塩としては、例えばリン酸エステルアミン塩、リン酸エステル金属塩等が挙げられる。金属塩及びアミン塩の具体例としては、サルフェート(A)欄で例示したものが挙げられる。
【0034】
これらの有機リン酸エステル(B)は、一種類を単独で使用してもよいし、又は二種以上を適宜組み合わせて使用してもよい。
有機リン酸エステル(B)の具体例としては、例えばラウリルリン酸エステル又はその塩、ステアリルリン酸エステル又はその塩、ポリオキシエチレンラウリルリン酸エステル又はその塩、デシルリン酸エステル又はその塩、ベヘニルリン酸エステル又はその塩、ポリオキシエチレンオクチルリン酸エステル又はその塩、オクチルリン酸エステル又はその塩等が挙げられる。
【0035】
処理剤中の有機リン酸エステル(B)の含有割合の下限は、適宜設定されるが、好ましくは2質量%以上、より好ましくは5質量%以上、さらに好ましくは10質量%以上である。かかる含有割合が2質量%以上の場合、処理剤が付与された繊維について、工程通過性をより向上できる。かかる有機リン酸エステル(B)の含有割合の上限は、適宜設定されるが、好ましくは75質量%以下、より好ましくは60質量%以下である。かかる含有割合が75質量%以下の場合、本発明の効果をより向上できる。なお、上記の上限及び下限を任意に組み合わせた範囲も想定される。
【0036】
なお、処理剤中の有機リン酸エステル(B)の含有量は、有機リン酸エステル化合物のみならず、有機リン酸エステル(B)を合成する際の反応残渣である無機リン酸又はその塩を含めた含有量の合計を示す(以下、同様)。
【0037】
(多価アルコール脂肪酸エステル(C))
処理剤が多価アルコール脂肪酸エステル(C)を含有することにより、処理剤が付与された繊維の濡れ戻り防止性を向上できる。
【0038】
多価アルコール脂肪酸エステル(C)の原料となる多価アルコールの具体例としては、例えばエチレングリコール、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、1,3-プロパンジオール、1,2-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、2-メチル-1,2-プロパンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、2,5-ヘキサンジオール、2-メチル-2,4-ペンタンジオール、2,3-ジメチル-2,3-ブタンジオール、グリセリン、ジグリセリン、トリグリセリン、ポリグリセリン、2-メチル-2-ヒドロキシメチル-1,3-プロパンジオール、トリメチロールプロパン、ソルビタン、ペンタエリスリトール、ソルビトール等が挙げられる。
【0039】
多価アルコール脂肪酸エステル(C)の原料となる脂肪酸としては、飽和脂肪酸であっても、不飽和脂肪酸であってもよい。また、直鎖状のものであっても、分岐鎖構造を有するものであってもよい。また、1価の脂肪酸であっても、多価カルボン酸(多塩基酸)であってもよい。
【0040】
飽和脂肪酸の具体例としては、例えばギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、ヘキサン酸(カプロン酸)、オクチル酸(2-エチルヘキサン酸)、オクタン酸(カプリル酸)、ノナン酸、デカン酸(カプリン酸)、ドデカン酸(ラウリン酸)、テトラデカン酸(ミリスチン酸)、ヘキサデカン酸(パルミチン酸)、オクタデカン酸(ステアリン酸)、エイコサン酸(アラキジン酸)、ドコサン酸(ベヘン酸)、テトラコサン酸等が挙げられる。
【0041】
不飽和脂肪酸の具体例としては、例えばクロトン酸、ミリストレイン酸、パルミトレイン酸、オレイン酸、バクセン酸、エイコセン酸、リノール酸、αリノレン酸、γリノレン酸、アラキドン酸等が挙げられる。
【0042】
多価カルボン酸(多塩基酸)の具体例としては、例えば(1)コハク酸、フマル酸、マレイン酸、アジピン酸、セバシン酸等の二塩基酸、(2)アコニット酸等の三塩基酸、(3)テレフタル酸、イソフタル酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸等の芳香族ジカルボン酸、(4)トリメリット酸等の芳香族トリカルボン酸、(5)ピロメリット酸等の芳香族テトラカルボン酸等が挙げられる。
【0043】
多価アルコール脂肪酸エステル(C)としては、動植物油が用いられてもよい。動植物油の具体例としては、例えばヒマシ油、ごま油、トール油、大豆油、ヒマワリ油、ナタネ油、パーム油、牛脂、鯨油、魚油等が挙げられる。
【0044】
これらの多価アルコール脂肪酸エステル(C)は、一種類を単独で使用してもよいし、又は二種以上を適宜組み合わせて使用してもよい。
多価アルコール脂肪酸エステル(C)としては、トリグリセライドが好ましい。トリグリセライドを使用することにより、処理剤が付与された繊維について、濡れ戻り防止性をより向上できる。
【0045】
多価アルコール脂肪酸エステル(C)の具体例としては、例えばオレイン酸トリグリセライド、ステアリン酸トリグリセライド、オレイン酸ジグリセライド、ラウリン酸ジグリセライド、オレイン酸モノグリセライド、ソルビタンモノステアラート、ヘキサグリセリンセスキステアラート等が挙げられる。
【0046】
処理剤中の多価アルコール脂肪酸エステル(C)の含有割合の下限は、適宜設定されるが、好ましくは5質量%以上、より好ましくは10質量%以上である。かかる含有割合が5質量%以上の場合、処理剤が付与された繊維について、濡れ戻り防止性をより向上できる。かかる多価アルコール脂肪酸エステル(C)の含有割合の上限は、適宜設定されるが、好ましくは85質量%以下、より好ましくは80質量%以下である。かかる含有割合が85質量%以下の場合、処理剤が付与された繊維について、初期親水性をより向上できる。なお、上記の上限及び下限を任意に組み合わせた範囲も想定される。
【0047】
前記サルフェート(A)、前記有機リン酸エステル(B)、及び前記多価アルコール脂肪酸エステル(C)の含有割合の合計を100質量%とすると、サルフェート(A)を5質量%以上70質量%以下、有機リン酸エステル(B)を10質量%以上75質量%以下、及び多価アルコール脂肪酸エステル(C)を10質量%以上85質量%以下の割合で含有することが好ましい。かかる範囲に規定することにより、本発明の効果をより向上できる。なお、上記の上限及び下限を任意に組み合わせた範囲も想定される。
【0048】
(有機リン酸エステル(D))
本実施形態において供される有機リン酸エステル(D)としては、炭素数6以上10以下の分岐鎖の炭化水素基を有する有機リン酸エステル、及びその塩から選ばれる少なくとも一つである。処理剤が有機リン酸エステル(D)を含有することにより、処理剤が付与された繊維の初期親水性を向上できる。
【0049】
有機リン酸エステル(D)としては、例えばアルキルリン酸エステル、アルケニルリン酸エステル、(ポリ)アルキレンオキサイド鎖を付加したアルキルリン酸エステル又はアルケニルリン酸エステル、それらの塩等が挙げられる。また、有機リン酸エステル(D)は、モノエステル体であっても、ジエステル体、トリエステル体であってもよい。
【0050】
アルキル基の具体例としては、例えばイソヘキシル基、イソヘプチル基、イソオクチル基、イソノニル基、イソデシル基等が挙げられる。
アルケニル基の具体例としては、例えばイソヘキセニル基、イソヘプテニル基、イソオクテニル基、イソノネニル基、イソデセニル基等が挙げられる。
【0051】
(ポリ)オキシアルキレン構造としては、有機リン酸エステル(B)で述べた構造と同じものを採用できる。
有機リン酸エステル(D)を構成するリン酸は、特に制限はなく、オルトリン酸であってもよいし、二リン酸等のポリリン酸であってもよい。
【0052】
有機リン酸エステル(D)として有機リン酸エステル塩が適用される場合、塩としては、例えばリン酸エステルアミン塩、リン酸エステル金属塩等が挙げられる。金属塩及びアミン塩の具体例としては、サルフェート(A)欄で例示したものが挙げられる。
【0053】
これらの有機リン酸エステル(D)は、一種類を単独で使用してもよいし、又は二種以上を適宜組み合わせて使用してもよい。
有機リン酸エステル(D)の具体例としては、例えば2-エチルヘキシルリン酸エステル又はその塩、イソデシルリン酸エステル又はその塩等が挙げられる。
【0054】
処理剤中の有機リン酸エステル(D)の含有割合の下限は、適宜設定されるが、好ましくは5質量%以上、より好ましくは10質量%以上である。かかる含有割合が5質量%以上の場合、処理剤が付与された繊維について、初期親水性をより向上できる。かかる有機リン酸エステル(D)の含有割合の上限は、適宜設定されるが、好ましくは35質量%以下、より好ましくは30質量%以下である。かかる含有割合が35質量%以下の場合、処理剤が付与された繊維について、濡れ戻り防止性をより向上できる。なお、上記の上限及び下限を任意に組み合わせた範囲も想定される。
【0055】
なお、処理剤中の有機リン酸エステル(D)の含有量は、有機リン酸エステル化合物のみならず、有機リン酸エステル(D)を合成する際の反応残渣である無機リン酸又はその塩を含めた含有量の合計を示す(以下、同様)。
【0056】
前記サルフェート(A)、前記有機リン酸エステル(B)、前記多価アルコール脂肪酸エステル(C)、及び前記有機リン酸エステル(D)の含有割合の合計を100質量%とすると、前記サルフェート(A)を10質量%以上60質量%以下、前記有機リン酸エステル(B)を10質量%以上60質量%以下、前記多価アルコール脂肪酸エステル(C)を10質量%以上70質量%以下、及び前記有機リン酸エステル(D)を10質量%以上30質量%以下の割合で含有することが好ましい。かかる範囲に規定することにより、本発明の効果をより向上できる。なお、上記の上限及び下限を任意に組み合わせた範囲も想定される。
【0057】
(溶媒)
本実施形態の処理剤は、必要により溶媒と混合することにより処理剤の水性液が調製されてもよい。処理剤の水性液は、水以外の溶媒が含有されることを妨げるものではない。溶媒は、一気圧における沸点が105℃以下である溶媒である。溶媒としては、有機溶媒が挙げられる。有機溶媒の具体例としては、エタノール、プロパノール等の低級アルコール等、ヘキサン等の低極性溶媒が挙げられる。これらの溶媒は、1種類を単独で使用してもよいし、又は2種以上を適宜組み合わせて使用してもよい。
【0058】
処理剤の水性液中における処理剤の含有量は、0.1質量%以上10質量%以下の割合で含有することが好ましい。かかる範囲に規定することにより、合成繊維に対する付着特性及び水性液の安定性をより向上できる。
【0059】
(本実施形態の効果)
第1実施形態の処理剤の効果について説明する。
(1-1)上記第1実施形態の処理剤では、上述したサルフェート(A)、有機リン酸エステル(B)、及び多価アルコール脂肪酸エステル(C)を含有するように構成した。したがって、処理剤が付与された繊維の耐久親水性、工程通過性、濡れ戻り防止性、及び初期親水性の各機能の向上を図ることができる。
【0060】
(1-2)さらに、処理剤が有機リン酸エステル(D)を含む場合、処理剤が付与された繊維の初期親水性をより向上できる。
<第2実施形態>
本発明に係る合成繊維を具体化した第2実施形態について説明する。本実施形態の合成繊維は、第1実施形態の処理剤が表面に付着している合成繊維である。処理剤が合成繊維の表面に付着することにより各種機能性が付与された合成繊維が得られる。
【0061】
(合成繊維の用途)
合成繊維の用途は、特に限定されず、例えば短繊維、紡績糸、不織布等が挙げられる。短繊維及び長繊維のいずれの繊維用途としても適用できるが、短繊維に適用されることが好ましい。短繊維は、一般にステープルと呼ばれるものが該当し、一般にフィラメントと呼ばれる長繊維を含まないものとする。また、短繊維の長さは、本技術分野において短繊維に該当するものであれば特に限定されないが、例えば100mm以下であることが好ましい。
【0062】
(合成繊維)
合成繊維の具体例としては、(1)ポリエチレン繊維、ポリプロピレン繊維、ポリブテン繊維等のポリオレフィン系繊維、(2)ポリエチレンテレフタラート、ポリブチレンテレフタラート、ポリエチレンテレフタラート・イソフタラート、ポリエーテルポリエステル等のポリエステル系繊維、(3)ナイロン6、ナイロン66等のポリアミド系繊維、(4)複合繊維のうち、芯鞘構造の複合繊維であって芯、鞘部のいずれか又は両者がポリオレフィン系繊維である複合繊維、例えば鞘部がポリエチレン繊維であるポリエチレン/ポリプロピレン複合繊維、ポリエチレン/ポリエステル複合繊維、若しくはサイドバイサイド構造を有するポリエチレン/ポリプロピレン複合繊維、ポリエチレン/ポリエステル複合繊維等が挙げられる。これらの中でも、ポリエチレン繊維、ポリプロピレン繊維、ポリブテン繊維等のポリオレフィン系繊維、芯鞘構造の複合繊維であって芯、鞘部のいずれか又は両者がポリオレフィン系繊維である複合繊維、例えば鞘部がポリエチレン繊維であるポリエチレン/ポリプロピレン複合繊維、ポリエチレン/ポリエステル複合繊維、若しくはサイドバイサイド構造を有するポリエチレン/ポリプロピレン複合繊維、ポリエチレン/ポリエステル複合繊維等のポリオレフィン系合成繊維であることが好ましい。ここで、ポリオレフィン系合成繊維とは、オレフィンやアルケンをモノマーとして合成された合成繊維を意味するものとする。
【0063】
(処理剤の付着処理)
第1実施形態の処理剤を合成繊維に付着させる割合に特に制限はないが、溶媒を含まない処理剤として合成繊維に対し0.1質量%以上2質量%以下となるように付着させることが好ましく、0.2質量%以上1.2質量%以下となるように付着させることがより好ましい。
【0064】
処理剤を合成繊維に付着させる方法としては、例えば、第1実施形態の処理剤、及び水を含有する処理剤の水性液を用いて、公知の方法、例えば浸漬法、スプレー法、ローラー法、計量ポンプを用いたガイド給油法等によって付着させる方法を適用できる。
【0065】
(不織布の製造方法)
本実施形態の合成繊維を用いて、更に以下の方法によって不織布が製造されてもよい。
処理剤を上述した複合繊維として構成される合成繊維、例えば短繊維に対し付着させる工程、及び熱融着処理を施して不織布を得る工程を経ることにより得られる。より具体的には、以下の工程を経ることにより得られる。
【0066】
工程1:第1実施形態の処理剤を、合成繊維に対し付着させる工程。
工程2:前記工程1で処理剤を付着させた合成繊維を、カード機に通過させてウェブを得る工程。
【0067】
工程3:前記工程2で得られたウェブに熱融着処理を施して不織布を得る工程。
以上の工程を経ることにより、不織布を製造できる。不織布は、繊維同士を熱融着させていることから、サーマルボンド不織布と言い換えることができる。
【0068】
合成繊維から不織布が製造される場合、製造性及び使用特性に優れる観点から合成繊維としてポリオレフィン系合成繊維が適用されることが好ましい。
熱融着処理の温度は、合成繊維の種類、処理時間等に応じて適宜設定されるが、例えば100℃以上180℃以下、好ましくは120℃以上160℃以下が採用される。熱融着処理の時間は、合成繊維の種類、処理温度等に応じて適宜設定されるが、例えば1秒以上60秒以下、好ましくは5秒以上20秒以下が採用される。
【0069】
(本実施形態の効果)
第2実施形態の合成繊維の効果について説明する。第2実施形態では、上記実施形態の効果に加えて、以下の効果を有する。
【0070】
(2-1)第2実施形態の合成繊維では、第1実施形態の処理剤が付着している。したがって、耐久親水性、濡れ戻り防止性、及び初期親水性の各機能が向上した合成繊維が得られる。よって、それらの機能向上が求められる衛材分野、医療分野等の用途に好適に適用することができる。
【0071】
(2-2)また、かかる合成繊維を用いて不織布を得る場合、カード機における工程通過性を向上できる。それにより、品質に優れた不織布を効率的に得ることができる。
(変更例)
なお、上記実施形態は以下のように変更してもよい。上記実施形態及び以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施できる。
【0072】
・上記実施形態の処理剤、又は水性液には、本発明の効果を阻害しない範囲内において、処理剤等の品質保持のため、その他の成分として、その他の溶媒、安定化剤、制電剤、つなぎ剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、上記以外の界面活性剤、pH調整剤、シリコーン等の通常処理剤等に用いられる成分がさらに配合されてもよい。なお、溶媒以外の通常処理剤等に用いられるその他の成分は、本発明の効能を効率的に発揮する観点から各処理剤中において10質量%以下が好ましい。また、その他の成分を上述した各処理剤とは別剤として保存してもよい。
【実施例】
【0073】
以下、本発明の構成及び効果をより具体的にするため、実施例等を挙げるが、本発明がこれらの実施例に限定されるというものではない。尚、以下の実施例及び比較例において、部は質量部を、また%は質量%を意味する。
【0074】
試験区分1(処理剤の調製)
(実施例1)
サルフェート(A)としてヒマシ油サルフェートナトリウム塩(A-1)15.0g、有機リン酸エステル(B)としてラウリルリン酸エステル及びそのカリウム塩(B-1)15.0g、多価アルコール脂肪酸エステル(C)としてオレイン酸トリグリセライド(C-1)15.0g、有機リン酸エステル(D)として2-エチルヘキシルリン酸エステル及びそのカリウム塩(D-1)5.0gを混合して、950.0gの水を加え、撹拌して水性分散液とし、実施例1の処理剤の5.0%水性液を得た。
【0075】
(実施例2~24、比較例1~7)
実施例2~24及び比較例1~7の各処理剤の5.0%水性液は、表1に示される各成分を使用し、実施例1と同様の方法にて調製した。
【0076】
各例の処理剤中におけるサルフェート(A)の種類と含有量、有機リン酸エステル(B)の種類と含有量、多価アルコール脂肪酸エステル(C)の種類と含有量、有機リン酸エステル(D)の種類と含有量、及びその他成分の種類と含有量は、表1の「サルフェート(A)」欄、「有機リン酸エステル(B)」欄、「多価アルコール脂肪酸エステル(C)」欄、「有機リン酸エステル(D)」欄、及び「その他成分」欄にそれぞれ示すとおりである。
【0077】
【0078】
表1に記載するサルフェート(A)、有機リン酸エステル(B)、多価アルコール脂肪酸エステル(C)、有機リン酸エステル(D)、及びその他成分の詳細は以下のとおりである。
【0079】
(サルフェート(A))
サルフェート(A)として、下記A-1~A-5,a-1成分を使用した。各成分表記中における酸価は、以下に示す方法により測定した。
【0080】
(酸価の測定方法)
サルフェート(A)をエタノール/キシレン=1/2(容量比)の混合溶媒に溶解し、電位差滴定装置にセットして、0.1mol/Lの水酸化カリウムメタノール標準溶液で滴定し、以下の数式から算出した。
【0081】
酸価(KOH-mg/g)=(R×f×56.11×0.1)/S
数式において、
f:0.1mol/Lの水酸化カリウムメタノール標準溶液のファクター
S:試料採取量(g、固形分換算量)
R:変曲点までの0.1mol/Lの水酸化カリウムメタノール標準溶液の使用量(mL)
A-1:ヒマシ油サルフェートナトリウム塩(酸価:28KOH-mg/g)
A-2:牛脂サルフェートナトリウム塩(酸価:37KOH-mg/g)
A-3:ナタネ油サルフェートカリウム塩(酸価:7KOH-mg/g)
A-4:パーム油サルフェートカリウム塩(酸価:50KOH-mg/g)
A-5:オレイン酸トリグリセライドサルフェートナトリウム塩(酸価:5KOH-mg/g)
a-1:ベヘニル硫酸ナトリウム塩(酸価:12KOH-mg/g)
(有機リン酸エステル(B))
有機リン酸エステル(B)は、下記B-1~B-7,b-1成分を使用した。各成分表記中におけるP核NMR積分比率は、以下に示す方法により測定した。酸価は、サルフェート(A)欄に記載の方法と同様の方法にて求めた。なお、表1中における各有機リン酸エステル(B)の配合量は、無機体、モノエステル体、ジエステル体、及び二リン酸エステル類の各成分の合計含有量を示す。
【0082】
(P核NMR積分比率の測定方法)
リン酸化合物(A)のP核NMR積分比率は、まずリン酸化合物(A)に過剰のKOHを加えてpHを12以上とすることにより前処理した。P核NMR積分比率は、31P-NMR(VALIAN社製の商品名MERCURY plus NMR Spectrometor System、300MHz、以下同じ)を用いた。溶媒は、重水/テトラヒドロフラン=8/2(体積比)の混合溶媒を用いた。
【0083】
各成分中に示されるP核NMR積分比率は、無機体、モノエステル体、ジエステル体、及び二リン酸エステル類に帰属されるP核NMR積分比率の合計を100%としたときの各成分のP核NMR積分比率を示す。
【0084】
B-1:ラウリルリン酸エステル及びそのカリウム塩(酸価:70KOH-mg/g、P核NMR積分比率:無機体31.67%、モノエステル体51.85%、ジエステル体16.48%、二リン酸エステル類0%)
B-2:ステアリルリン酸エステル及びそのカリウム塩(酸価:18KOH-mg/g、P核NMR積分比率:無機体3.5%、モノエステル体49.71%、ジエステル体38.72%、二リン酸エステル類7.92%)
B-3:ポリオキシエチレン(2モル)ラウリルリン酸エステル及びそのカリウム塩(酸価:5KOH-mg/g、P核NMR積分比率:無機体15.36%、モノエステル体32.33%、ジエステル体37.76%、二リン酸エステル類14.55%)
B-4:デシルリン酸エステル及びそのカリウム塩(酸価:33KOH-mg/g、P核NMR積分比率:無機体4.21%、モノエステル体40.33%、ジエステル体39.15%、二リン酸エステル類16.31%)
B-5:ベヘニルリン酸エステル及びそのカリウム塩(酸価:8KOH-mg/g、P核NMR積分比率:無機体2.93%、モノエステル体47.2%、ジエステル体39.98%、二リン酸エステル類9.89%)
B-6:ポリオキシエチレン(3モル)オクチルリン酸エステル及びそのカリウム塩(酸価:4KOH-mg/g、P核NMR積分比率:無機体10.21%、モノエステル体35.43%、ジエステル体32.59%、二リン酸エステル類21.77%)
B-7:オクチルリン酸エステル及びそのカリウム塩(酸価:26KOH-mg/g、P核NMR積分比率:無機体2.07%、モノエステル体41.89%、ジエステル体44.3%、二リン酸エステル類11.76%)
b-1:ヘキシルリン酸エステル及びそのカリウム塩(酸価:44KOH-mg/g、P核NMR積分比率:無機体8.96%、モノエステル体41.5%、ジエステル体33%二リン酸エステル類16.54%)
(多価アルコール脂肪酸エステル(C))
C-1:オレイン酸トリグリセライド
C-2:ステアリン酸トリグリセライド
C-3:オレイン酸ジグリセライド
C-4:ラウリン酸ジグリセライド
C-5:オレイン酸モノグリセライド
C-6:ソルビタンモノステアラート
C-7:ヘキサグリセリンセスキステアラート
(有機リン酸エステル(D))
有機リン酸エステル(D)は、下記D-1,D-2,d-1成分を使用した。各成分表記中におけるP核NMR積分比率及び酸価は、上記有機リン酸エステル(B)欄に示す方法と同様の方法にて測定した。なお、表1中における各有機リン酸エステル(D)の配合量は、無機体、モノエステル体、ジエステル体、及び二リン酸エステル類の各成分の合計含有量を示す。
【0085】
D-1:2-エチルヘキシルリン酸エステル及びそのカリウム塩(酸価:29KOH-mg/g、P核NMR積分比率:無機体5.3%、モノエステル体40.78%、ジエステル体35.24%、二リン酸エステル類18.68%)
D-2:イソデシルリン酸エステル及びそのカリウム塩(酸価:65KOH-mg/g、P核NMR積分比率:無機体20.3%、モノエステル体49.08%、ジエステル体25.23%、二リン酸エステル類5.39%)
d-1:イソセチルリン酸エステル及びそのカリウム塩(酸価:12KOH-mg/g、P核NMR積分比率:無機体5.4%、モノエステル体48.79%、ジエステル体37.77%、二リン酸エステル類8.04%)
(その他成分)
E-1:ジオクチルスルホサクシネートナトリウム塩
E-2:ポリオキシエチレン(20モル)硬化ヒマシ油のマレイン酸縮合物の水酸基1モル当量あたりステアリン酸1モル当量で封鎖したエステル(ヨウ素価6)
E-3:ジステアリルスルホサクシネートナトリウム塩
E-4:ポリエーテル変性シリコーン1
E-5:ポリオキシエチレン(25モル)硬化ヒマシ油の水酸基1モル当量あたりオレイン酸3モル当量で封鎖したエステル
E-6:ポリエーテル変性シリコーン2
E-7:ポリエーテル変性シリコーン3
ポリエーテル変性シリコーン1~3は、下記表2に記載される成分を示す。なお、表2中の「Si%」は、ポリエーテル変性シリコーンの質量平均分子量からアルキレンオキサイドを除いた部分の質量比率を示す。表2中の「EO%(モル比)」は、アルキレンオキサイドに占めるエチレンオキサイドのモル比率を意味する。例えば、アルキレンオキサイドが、エチレンオキサイド(EO)とプロピレンオキサイド(PO)を含む場合、下記の式により、EO%(モル比)を求めることができる。
【0086】
EO%(モル比)=(EOモル数/(EOモル数+POモル数))×100
【0087】
【0088】
試験区分2(ポリオレフィン系合成繊維処理綿の調製)
ポリオレフィン系合成繊維として、鞘部がポリエチレンであり、芯部がポリエステルであり、繊度2.2デシテックス、繊維長51mmのポリオレフィン系複合繊維を使用した。試験区分1で調製した各例の処理剤の水性液を、ポリオレフィン系複合繊維に、付着量(溶媒を除く)が0.35質量%となるようスプレー給油法で付着させ、80℃の熱風乾燥機で1時間乾燥して、処理済みポリオレフィン系合成繊維処理綿を得た。
【0089】
試験区分3(耐久親水性)
試験区分2で得た処理済みポリオレフィン系合成繊維処理綿100gを、20℃で65%RHの恒温室内にて24時間調湿した後、ローラーカード(カード機)に供して、目付け20g/m2のカードウェブを作製した。得られたカードウェブを140℃で10秒の熱風処理を行い、耐久親水性評価の試料とした。この試料を10cm×10cmの小片に裁断し、20℃で60%RHの恒温室内にて24時間調湿した。重ねた5枚の濾紙の上に調湿された不織布を置き、さらにその上の中央に両端が開放された内径1cmの円筒を垂直に立て、この円筒に0.9%生理食塩水10mLを注入し、不織布に食塩水が完全に吸収されるまでの時間を測定した。その後、不織布を取り出し、40℃で90分間送風乾燥した。同様の操作を合計3回繰り返し、3回目の時間から下記の評価基準で評価した。結果を表1の「耐久親水性」欄に示す。
【0090】
・耐久親水性の評価基準
4(優れる):生理食塩水が完全に吸収されるまでに要する時間が3秒未満
3(良好):生理食塩水が完全に吸収されるまでに要する時間が3秒以上且つ5秒未満
2(可):生理食塩水が完全に吸収されるまでに要する時間が5秒以上且つ8秒未満
1(不可):生理食塩水が完全に吸収されるまでに要する時間が8秒以上
試験区分4(工程通過性)
前記の処理済みポリオレフィン系合成繊維処理綿20gを、20℃で65%RHの恒温室内で24時間調湿した後、ローラーカード(カード機)に供した。投入量に対して排出された量の割合を算出し、下記の評価基準で評価した。結果を表1の「工程通過性」欄に示す。
【0091】
・カード通過性の評価基準
4(優れる):排出量が90%以上
3(良好):排出量が80%以上且つ90%未満
2(可):排出量が60%以上且つ80%未満
1(不可):排出量が60%未満
試験区分5(濡れ戻り防止性)
前記の耐久親水性評価の試料を10cm×10cmの小片に裁断し、20℃で65%RHの恒温室内にて24時間調湿した。市販されている紙おむつの最外部の不織布素材から10cm×10cmの不織布片を切除し、その切除部に前記の調湿された10cm×10cmの小片を取り付けて、濡れ戻り防止性評価試料とした。取り付けた小片が上向きになるように濡れ戻り防止性評価試料を水平に置き、該小片の中央に両端が開放された内径6cmの円筒を垂直に立て、この円筒に水80mLを注入し、5分間静置して、紙おむつ内部に水を吸収させた。15枚重ねた濾紙の総質量を測量し、その質量の増加率を算出して、下記の評価基準で評価した。結果を表1の「濡れ戻り防止性」欄に示す。
【0092】
・濡れ戻り防止性の評価基準
4(優れる):質量増加率が1%未満
3(良好):質量増加率が1%以上且つ2%未満
2(可):質量増加率が2%以上且つ3%未満
1(不可):質量増加率が3%以上
試験区分6(初期親水性)
前記の耐久親水性評価の試料を、20℃で65%RHの恒温室内にて24時間調湿した。その後、水平板上に置き、ビューレットを用いて10mmの高さから0.5mLの水滴を滴下させ、その水滴が完全に試料中に吸収されてしまうまでに要する時間(透水までに要する時間)を測定し、下記の評価基準で評価した。結果を表1の「初期親水性」欄に示す。
【0093】
・初期親水性の評価基準
4(優れる):透水までに要する時間が0.5秒未満
3(良好):透水までに要する時間が0.5秒以上且つ1.0秒未満
2(可):透水までに要する時間が1.0秒以上且つ2.0秒未満
1(不可):透水までに要する時間が2.0秒以上
上記表の結果から、本発明によれば、処理剤が付与された繊維の耐久親水性、工程通過性、濡れ戻り防止性、及び初期親水性をそれぞれ向上できる。
【要約】
【課題】合成繊維用処理剤が付与された繊維について、耐久親水性、工程通過性、及び濡れ戻り防止性の各機能を向上できる合成繊維用処理剤、合成繊維用処理剤の水性液、合成繊維、及び不織布の製造方法を提供する。
【解決手段】本発明の合成繊維用処理剤は、下記のサルフェート(A)、下記の有機リン酸エステル(B)、及び多価アルコール脂肪酸エステル(C)を含有することを特徴とする。サルフェート(A)は、多価アルコール脂肪酸エステルサルフェート、及びその塩から選ばれる少なくとも一つである。有機リン酸エステル(B)は、炭素数8以上24以下の直鎖の炭化水素基を有する有機リン酸エステル、及びその塩から選ばれる少なくとも一つである。
【選択図】なし