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特許7695748水素透過によるブリスターを防止する複合管及びその設計方法、水素パイプライン網
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  • 特許-水素透過によるブリスターを防止する複合管及びその設計方法、水素パイプライン網 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-06-11
(45)【発行日】2025-06-19
(54)【発明の名称】水素透過によるブリスターを防止する複合管及びその設計方法、水素パイプライン網
(51)【国際特許分類】
   F16L 9/147 20060101AFI20250612BHJP
   F17D 1/04 20060101ALI20250612BHJP
   B32B 1/08 20060101ALI20250612BHJP
【FI】
F16L9/147
F17D1/04
B32B1/08 Z
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2024543182
(86)(22)【出願日】2023-12-15
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2025-04-17
(86)【国際出願番号】 CN2023139013
(87)【国際公開番号】W WO2024183392
(87)【国際公開日】2024-09-12
【審査請求日】2024-09-20
(31)【優先権主張番号】202310993896.7
(32)【優先日】2023-08-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】505072650
【氏名又は名称】浙江大学
【氏名又は名称原語表記】ZHEJIANG UNIVERSITY
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】弁理士法人ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】施 建峰
(72)【発明者】
【氏名】王 中震
(72)【発明者】
【氏名】亜辛 索海爾
(72)【発明者】
【氏名】姚 日霧
(72)【発明者】
【氏名】葛 周天
(72)【発明者】
【氏名】鄭 津洋
【審査官】奈須 リサ
(56)【参考文献】
【文献】中国実用新案第200952612(CN,Y)
【文献】中国特許出願公開第114962804(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第115823366(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第115773407(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16L 9/147
F17D 1/04
B32B 1/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
管体を備え、前記管体は、前記管体の径方向において内側から外側へ順に配置される少なくとも2組の二層構造を有し、少なくとも2組の前記二層構造の各組は、バリア層と補強層とを有し、各組の前記二層構造における前記補強層は、いずれも前記バリア層の外側に設けられ、
前記管体2組の前記二層構造を有する場合各組の二層構造におけるバリア層及び補強層の肉厚を次式により決定し、
【数1】

とP はそれぞれ前記2組の二層構造におけるバリア層を表し、H とH はそれぞれ前記2組の二層構造における補強層を表し、
前記管体少なくとも3組の前記二層構造を有する場合各組の二層構造におけるバリア層及び補強層の肉厚を次式により決定し、
【数2】

、P …P はそれぞれ前記少なくとも3組の二層構造におけるバリア層を表し、H 、H …H はそれぞれ前記少なくとも3組の二層構造における補強層を表し、
ここで、δは前記バリア層又は前記補強層の肉厚であり、σは前記バリア層又は前記補強層の計算強度である、
ことを特徴とする水素透過によるブリスターを防止する複合管。
【請求項2】
2組の前記二層構造におけるバリア層の材料は同じであり、2組の前記二層構造における補強層の材料は同じであり、2組の前記二層構造の各組におけるバリア層及び補強層の肉厚は、次の式を満たす、
【数3】

ことを特徴とする請求項1に記載の水素透過によるブリスターを防止する複合管。
【請求項3】
前記バリア層の材質は、熱可塑性プラスチックを採用する、
ことを特徴とする請求項1に記載の水素透過によるブリスターを防止する複合管。
【請求項4】
前記補強層は鋼線を採用して網目状を呈し、前記鋼線の外側に被覆層を有し、前記被覆層の材質は熱可塑性プラスチッを採用する、
ことを特徴とする請求項1に記載の水素透過によるブリスターを防止する複合管。
【請求項5】
複数本の密封連通した、請求項1~4のいずれか1項に記載の水素透過によるブリスターを防止する複合管を含む、
ことを特徴とする水素パイプライン網。
【請求項6】
水素透過によるブリスターを防止する複合管の設計方法であって、前記複合管は、管体を備え、前記管体は、前記管体の径方向において内側から外側へ順に配置される少なくとも2組の二層構造を有し、少なくとも2組の前記二層構造の各組は、バリア層と補強層とを有し、各組の前記二層構造における前記補強層は、いずれも前記バリア層の外側に設けられ、
当該設計方法は、
複合管の設計目標に基づいて、使用時の複合管の水素圧力値及び複合管の呼び径を決定するステップと、
前記水素圧力値と前記呼び径とに基づいて、複合管における二層構造の組数及び前記二層構造の各層の材料を決定するステップと、
前記水素圧力値と、前記二層構造の組数と、前記二層構造の各層の材料とに基づいて、各組の二層構造におけるバリア層及び補強層の肉厚を仮決定するステップと、
複合管の強度を検証し、検証の結果に基づいて複合管の合否を判定し、合格であれば設計を完成し、
不合格であれば、検証結果と、決定された各組の二層構造におけるバリア層及び補強層の肉厚とに基づいて、各組の二層構造におけるバリア層及び補強層の肉厚を増加させ、複合管の強度を再度検証するステップと、を含む、
ことを特徴とする水素透過によるブリスターを防止する複合管の設計方法。
【請求項7】
前記管体が2組の前記二層構造を有する場合、各組の二層構造におけるバリア層及び補強層の肉厚を次式により決定し、
【数4】

とPはそれぞれ前記2組の二層構造におけるバリア層を表し、HとHはそれぞれ前記2組の二層構造における補強層を表し、
前記管体が少なくとも3組の前記二層構造を有する場合、各組の二層構造におけるバリア層及び補強層の肉厚を次式により決定し、
【数5】

、P…Pはそれぞれ前記少なくとも3組の二層構造におけるバリア層を表し、H、H…Hはそれぞれ前記少なくとも3組の二層構造における補強層を表し、
ここで、δは前記バリア層又は前記補強層の肉厚であり、σは前記バリア層又は前記補強層の計算強度である、
ことを特徴とする請求項6に記載の水素透過によるブリスターを防止する複合管の設計方法。
【請求項8】
前記バリア層及び補強層の肉厚は、次の式を満たす、
【数6】

ことを特徴とする請求項7に記載の水素透過によるブリスターを防止する複合管の設計方法。
【請求項9】
前記複合管の強度を検証することは、複合管の総強度及び各組の二層構造の強度に対して検証を行い、複合管の破裂圧力が前記水素圧力値の3倍より大きく、且つ各組の二層構造の破裂圧力が対応する二層構造が受ける水素分圧の3倍より大きい場合、当該複合管が合格であると判定することを含む、
ことを特徴とする請求項6に記載の水素透過によるブリスターを防止する複合管の設計方法。
【請求項10】
前記バリア層の材質は、熱可塑性プラスチックを採用する、
ことを特徴とする請求項6に記載の水素透過によるブリスターを防止する複合管の設計方法。
【請求項11】
前記補強層は鋼線を採用して網目状を呈し、前記鋼線の外側に被覆層を有し、前記被覆層の材質は熱可塑性プラスチッを採用する、
ことを特徴とする請求項6に記載の水素透過によるブリスターを防止する複合管の設計方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水素パイプラインの技術分野に関し、特に、水素透過によるブリスターを防止する複合管及びその設計方法、水素パイプライン網に関する。
<関連出願の相互参照>
本発明は、2023年08月09日に提出された、出願番号が202310993896.7の中国特許出願の優先権を主張し、当該出願が参照により本明細書に組み込まれる。
【背景技術】
【0002】
パイプライン輸送は重要な輸送手段として、低コスト、高効率、長距離輸送などの利点を生かし、エネルギー輸送、化学工業原料輸送、給水輸送などの分野で広く用いられている。パイプライン輸送用のパイプは、材質の違いにより、一般に金属管、非金属管及び複合管に分けられる。金属管は、金属製で、鋼管やステンレス鋼管などがある。金属管は、高強度特性により高圧環境で使用できるが、周囲環境の腐食や破壊を受けやすい。非金属管は、一般にプラスチック管、ガラス鋼管などがあり、低コスト、耐食性などの利点を有するが、非金属管は材料自体の構造と特性により、軟化しやすく、変形しやすく、線膨張係数が大きく、クリープしやすいという問題がある。現在、パイプの使用環境がより厳しく、パイプの性能に対する要求がより高くなり、単一材料の管材自体の性能は各種の実際の問題を解決することが困難である。複合材料技術により、金属管の高強度と非金属管の耐食性を組み合わせて複合管を製造している。複合管は、複数の材料の優れた性能を統合し、相補的な材料性能により性能の優れたパイプを得ることができる。複合管は金属管と非金属管の優れた性能を統合し、流体輸送をよりよく行うことができ、メンテナンスコストがより低い。そのため、複合管は広く利用されており、異なるニーズと使用環境に対応するために、炭素繊維複合管、ガラス繊維複合管及び鋼線巻き強化複合管など、さまざまな材料、性能が異なる複合管が開発されている。その中で、鋼線巻き強化ポリエチレン管は、ポリエチレン管の耐食性、耐摩耗性と鋼線の高強度特性を結合し、純ポリエチレン管よりもはるかに強度が高く、同時に、同じ直径、同じ圧力レベルの鋼管の8分の1の重さしかないため、パイプの輸送コストと設置の難易度を大幅に削減することができる。
【発明の概要】
【0003】
本発明の第1の態様によれば、水素透過によるブリスターを防止する複合管が提供され、当該複合管は、管体を備え、前記管体は、前記管体の径方向において内側から外側へ順に配置される少なくとも2組の二層構造を有し、前記少なくとも2組の二層構造の各組は、バリア層と補強層とを有し、各組の前記二層構造における前記補強層は、いずれも前記バリア層の外側に設けられる。
【0004】
本開示の適用は、以下の有益な効果を有する。本発明者らの検討によると、水素分子が小さく透過しやすいという特性により、関連技術における複合管が水素ガスを長期にわたって輸送する過程において、水素ガスが複合管の内部に浸透する。関連技術における複合管(内外2層のポリエチレンプラスチック層を有し、2層のポリエチレンプラスチック層の間に巻き鋼線層が設けられる)を例として、長時間使用した後、水素ガスが2層のポリエチレンプラスチック層の間に浸透するため、外層のポリエチレンプラスチック層と巻き鋼線層との間に水素ガスが集まり、外層のポリエチレンプラスチック層が直接圧力を受け、これにより、外層のポリエチレンプラスチック層表面にふくれ(ブリスター)現象が形成される。発明者らは、この原因を発見した後、本発明において、外層のバリア層の外に補強層を設け、補強層の保護(外層のバリア層と共に受圧する)により、外層に位置するバリア層が水素ガスの浸透圧の作用によるブリスター現象を防止する技術案を提案する。
【0005】
オプションで、前記管体は、2組の前記二層構造を有し、前記2組の二層構造におけるバリア層をそれぞれPとPで表し、前記2組の二層構造における補強層をそれぞれHとHで表すと、
【数1】
となり、
又は、前記管体は、少なくとも3組の前記二層構造を有し、前記少なくとも3組の二層構造におけるバリア層をそれぞれP、P…Pで表し、前記少なくとも3組の二層構造における補強層をそれぞれH、H…Hで表すと、
【数2】
となり、
ここで、δは前記バリア層又は前記補強層の肉厚であり、σは前記バリア層又は前記補強層の計算強度である。
【0006】
複合管の内部に集積された水素ガスによる水素分圧は、内側から外側に徐々に低下する。複合管の各組の二層構造におけるバリア層及び補強層の厚さを設計し、補強層の厚さとバリア層の厚さとは一定の比例関係を有する。上記厚さの設計により、各層のバリア層が受ける水素分圧は、厚さに比例する(厚いバリア層がより多くの水素分圧を受け、薄いバリア層は少ない水素分圧を受ける)。即ち、その肉厚は、内側から外側に徐々に低下する水素分圧の実際の特性に合うように設計される。
【0007】
オプションで、2組の前記二層構造におけるバリア層の材料は同じであり、2組の前記二層構造における補強層の材料は同じであり、2組の前記二層構造の各組におけるバリア層及び補強層の肉厚は、次の式を満たす。
【数3】
【0008】
二層構造が2組設けられる場合、各組の二層構造におけるバリア層と補強層の肉厚との間の比例関係は、経験に基づいて設計される。内層に位置するバリア層は外層に位置するバリア層よりも厚くする必要があるため、両者の間の厚さの比は1より大きい必要がある。一方、外層に位置するバリア層が薄すぎると、水素ガスに対するバリア効果が失われるため、外層に位置するバリア層が薄すぎる状況を避けるために、両者の厚さの比は9より小さい必要がある。
【0009】
オプションで、前記バリア層の材質は、熱可塑性プラスチックを採用する。
【0010】
オプションで、前記補強層は鋼線を採用して網目状を呈し、前記鋼線の外側に被覆層を有し、前記被覆層の材質は熱可塑性プラスチッを採用する。
【0011】
本発明の第2の態様によれば、水素パイプライン網が提供され、当該水素パイプライン網は、複数本の密封連通した、上記技術案のいずれか1項に記載の水素透過によるブリスターを防止する複合管を含む。本発明に係る水素パイプライン網は、前述の複合管の有益な効果の推論過程と類似するため、ここでは説明を省略する。
【0012】
本発明の第3の態様によれば、水素透過によるブリスターを防止する複合管の設計方法が提供され、前記複合管は、管体を備え、前記管体は、前記管体の径方向において内側から外側へ順に配置される少なくとも2組の二層構造を有し、少なくとも2組の前記二層構造の各組は、バリア層と補強層とを有し、各組の前記二層構造における前記補強層は、いずれも前記バリア層の外側に設けられ、
当該設計方法は、
当該複合管の設計目標に基づいて、使用時の複合管の水素圧力値及び複合管の呼び径を決定するステップと、
前記水素圧力値と前記呼び径とに基づいて、複合管における二層構造の組数及び二層構造の各層の材料を決定するステップと、
前記水素圧力値と、前記二層構造の組数と、前記二層構造の各層の材料とに基づいて、各組の二層構造におけるバリア層及び補強層の肉厚を仮決定するステップと、
複合管の強度を検証し、検証の結果に基づいて複合管の合否を判定し、合格であれば設計を完成し、
不合格であれば、検証結果と、決定された各組の二層構造におけるバリア層及び補強層の肉厚とに基づいて、各組の二層構造におけるバリア層及び補強層の肉厚を増加させ、複合管の強度を再度検証するステップと、を含む。
【0013】
本発明に係る設計方法は、前述の複合管の有益な効果の推論過程と類似するため、ここでは説明を省略する。
【0014】
オプションで、前記管体が2組の前記二層構造を有する場合、各組の二層構造におけるバリア層及び補強層の肉厚を次式により決定し、
【数4】
ただし、PとPはそれぞれ前記2組の二層構造におけるバリア層を表し、HとHはそれぞれ前記2組の二層構造における補強層を表す。
前記管体が少なくとも3組の前記二層構造を有する場合、各組の二層構造におけるバリア層及び補強層の肉厚を次式により決定し、
【数5】
ただし、P、P…Pはそれぞれ前記少なくとも3組の二層構造におけるバリア層を表し、H、H…Hはそれぞれ前記少なくとも3組の二層構造における補強層を表す。
ここで、δは前記バリア層又は前記補強層の肉厚であり、σは前記バリア層又は前記補強層の計算強度である。
【0015】
オプションで、前記バリア層及び補強層の肉厚は、次の式を満たす。
【数6】
【0016】
オプションで、前記複合管の強度を検証することは、複合管の総強度及び各組の二層構造の強度に対して検証を行い、複合管の破裂圧力が前記水素圧力値の3倍より大きく、且つ各組の二層構造の破裂圧力が対応する二層構造が受ける水素分圧の3倍より大きい場合、当該複合管が合格であると判定することを含む。
【0017】
本発明のこれらの特徴及び利点は、以下の具体的な実施形態及び添付図面において詳細に説明する。本発明の好適な実施形態又は手段は、添付図面を参照して詳細に示されるが、本発明の技術的解決策を限定するものではない。また、以下及び添付図面において現れるこれらの特徴、要素及びコンポーネントは、複数あり、便宜上、異なる記号又は数字で表示されているが、いずれも同一又は類似の構成又は機能を有する構成要素を表すものである。
【図面の簡単な説明】
【0018】
以下、添付図面を参照して本発明についてさらに説明する。
【0019】
図1】本発明の実施例に係る水素透過によるブリスターを防止する複合管の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施例を詳細に説明する。上記実施例の例示は、添付図面に示される。ここで、同一又は類似の符号は、同一又は類似の要素、又は同一又は類似の機能を有する要素を表す。実施の形態における実施例は、本発明を説明するためのものであり、本発明を限定するものではない。
【0021】
本明細書における「1つの実施例」又は「実施例」又は「実施形態」は、実施例自体に記載された特定の特徴、構造又は特性が本発明の少なくとも1つの実施例に含まれ得ることを意味する。「一実施例において」という記載の明細書における各位置の出現は、必ずしも同一の実施例を指すとは限らない。
【0022】
近年、水素エネルギーの開発利用に伴い、パイプライン輸送は、水素ガスの長距離・大規模輸送を実現するために最も経済的で省エネルギーとなる方法として、水素ガスの輸送に応用されている。現在、パイプラインによる水素輸送には2つの主流研究方向があり、1つは既存の天然ガスパイプライン網により水素を混入させて輸送することであり、もう1つは純水素パイプラインを敷設することである。長距離の純水素パイプラインは、現在、主に鋼管を採用しており、研究によると、高圧水素ガスの輸送過程において、水素が鋼材に徐々に侵入して浸透し、水素が鋼材に浸透することによって水素脆化を引き起こし、鋼材の力学性能の低下、水素誘起割れなどの現象を引き起こすことが明らかになった。水素脆化が発生するほか、鋼管自体が外部環境の腐食を受け、また鋼管の柔軟性が悪く、生産、輸送、施工の過程において不便であるだけでなく、地震や土石流などの自然災害による過度な変形による破壊に対して効果的に対抗することが困難である。一方、純ポリエチレンパイプラインは、パイプ材料への水素の腐食と浸透を防止できるが、その強度が低く、高圧水素ガス輸送の要求を満たすことができない。
【0023】
上記問題を解決するために、関連技術では、複合管を用いて高圧水素ガスを長距離輸送する方法が提案されている。例えば、中国公開特許CN114396512Aには、水素脆化防止金属ワイヤ強化複合管を用いて高圧水素ガスを長距離輸送する方法が開示されており、その焦点は、複合管の補強層を水素の浸透と腐食に耐えるように設計することにある。しかしながら、実際の応用において、上記の技術案は、管体の一部にブリスター現象が発生し、管体に大きな漏洩リスクが存在することが判明し、これは現在の複合管の早急に解決すべき課題となっている。
【0024】
本発明は、関連技術における技術的課題の1つをある程度解決することを意図している。このため、本発明は、水素透過によるブリスターを防止する複合管及びその設計方法、水素パイプライン網を提供する。
【0025】
実施例:本実施例は、水素透過によるブリスターを防止する複合管を提供し、当該複合管は、管体を備え、当該管体は、管体の径方向において内側から外側へ順に配置される2組の二層構造を有し、前記二層構造は、バリア層と補強層とを有し、各組の二層構造における補強層は、いずれもバリア層の外側に設けられる。図1に示すように、説明の便宜上、本実施例において、2組の二層構造のうち管体の内部に近い二層構造のバリア層及び補強層は、それぞれ内バリア層1及び内補強層2と呼ばれ、2組の二層構造のうち管体の外部に近い二層構造のバリア層及び補強層は、それぞれ外バリア層3及び外補強層4と呼ばれる。本実施例におけるバリア層はポリエチレン材質を採用し、補強層は網目状の鋼線を採用し、鋼線の外部にPVC材質の被覆層が被覆される。なお、他の実施形態において、バリア層はナイロン材質又は他の熱可塑性プラスチック材質を採用してもよく、被覆層はPE材質又は他の熱可塑性プラスチック材質を採用してもよい。また、当該複合管を製造する際には、補強層の外に被覆層が被覆され、被覆層がホットメルト接着剤によってバリア層の外表面に接着固定される。
【0026】
本発明者らが従来の複合管について研究を行ったところ、水素分子が小さく透過しやすいという特性により、関連技術における複合管が水素ガスを長期にわたって輸送する過程において、水素ガスが複合管の内部に浸透することを発見した。関連技術における複合管(内外2層のポリエチレンプラスチック層を有し、2層のポリエチレンプラスチック層の間に巻き鋼線層が設けられる)を例として、長時間使用した後、水素ガスが2層のポリエチレンプラスチック層の間に浸透するため、外層のポリエチレンプラスチック層と巻き鋼線層との間に水素ガスが集まり、外層のポリエチレンプラスチック層が直接圧力を受け、これにより、外層のポリエチレンプラスチック層表面にブリスター現象が形成される。発明者らは、この原因を発見した後、本実施例に係る複合管の解決策として、外層のバリア層の外に補強層を設け、補強層の保護(外層のバリア層と共に受圧する)により、外層に位置するバリア層が水素ガスの浸透圧の作用によるブリスター現象を防止する技術案を提案する。
【0027】
関連技術では、複合管の内層に位置するバリア層と外層に位置するバリア層の厚さについては特に設計されておらず、一般的に、内層に位置するバリア層の厚さは外層に位置するバリア層の厚さ以上であり、また、圧縮強度の考慮から、両者の厚さはいずれも3mmより大きくなるように設計される。上述した本発明の出願人の研究結果により、外層のバリア層が透過した水素ガスの圧力を受けるため、関連技術におけるこのような複合管は、長期使用後に外表面にブリスター現象が発生する。本実施例に係る複合管の更なる改良は、透過した水素ガスの圧力の特徴を分析し、内バリア層1、内補強層2、外バリア層3及び外補強層4の厚さを適宜設計することにより、各層構造の厚さが、対応する透過した水素ガスの圧力に耐えられ、かつ過度に厚くする必要がない(即ち、安全性が確保され、コストを制御できる)ことにある。具体的には、内バリア層1をP、外バリア層3をP、内補強層2をH、外補強層4をHとすると、各層構造の厚さは、以下の要件を満たす。
【数7】
ここで、δはバリア層又は補強層の肉厚であり、σはバリア層又は補強層の計算強度である。
【0028】
複合管の内部に集積された水素ガスによる水素分圧は、内側から外側に徐々に低下する。複合管の各組の二層構造におけるバリア層及び補強層の厚さを設計し、補強層の厚さとバリア層の厚さとは一定の比例関係を有する。上記厚さの設計により、各層のバリア層が受ける水素分圧は、厚さに比例する(厚いバリア層がより多くの水素分圧を受け、薄いバリア層は少ない水素分圧を受ける)。即ち、その肉厚は、内側から外側に徐々に低下する水素分圧の実際の特性に合うように設計される。
【0029】
さらに、管体は、2組の二層構造を有し、各組の二層構造におけるバリア層及び補強層の肉厚は、次の式を満たす。
【数8】
【0030】
管体が2組の二層構造を有する場合、各組の二層構造におけるバリア層と補強層の肉厚との間の比例関係は、経験に基づいて設計される。内側に位置する二層構造のバリア層(内バリア層)は外側に位置する二層構造のバリア層(外バリア層)よりも厚くする必要があるため、両者の間の厚さの比は1より大きい必要がある。一方、外層に位置するバリア層が薄すぎると、水素ガスに対するバリア効果が失われるため、外層に位置するバリア層が薄すぎる状況を避けるために、内バリア層の厚さと外バリア層の厚さとの比は9より小さい必要がある。
【0031】
以下、ある町の水素パイプライン網の設計を例として、本実施例に係る当該複合管を設計するための設計過程について説明する。一般的に、設計時には以下のステップS1~S5を含む。
【0032】
ステップS1において、当該複合管の設計目標に基づいて、使用時の複合管の水素圧力値及び複合管の呼び径を決定する。即ち、プロジェクトで要求される水素ガスを輸送する圧力値に基づいて、前記水素圧力値及び呼び径を決定する。今回の設計では、水素圧力値を2Mpaとし、それに応じて複合管の公称圧力PNを2MPa、呼び径を160mmとする。
【0033】
ステップS2において、前記水素圧力値と前記呼び径とに基づいて、複合管における二層構造の組数及び材料を決定する。今回の設計では、二層構造の組数を2組に設計し、即ち、当該複合管は、内バリア層1、内補強層2、外バリア層3及び外補強層4を含む。また、今回の設計において、内バリア層1及び外バリア層3はいずれもPE100の高密度ポリエチレン材質を採用し、内補強層2及び外補強層4はいずれも高強度鋼線を巻き付けて成形された網目状補強層であり、巻き付け前に鋼線の外部には、ホットメルト接着性能と遮水効果を有するポリエチレン材質の被覆層がさらに被覆されている。
【0034】
ステップS3において、水素圧力値と、二層構造の組数と、二層構造の各層の材料とに基づいて、各組の二層構造におけるバリア層及び補強層の肉厚を仮決定する。今回の設計では、内バリア層1の肉厚を15mm、外バリア層3の肉厚を5mm、内補強層2の肉厚を3mm、外補強層4の肉厚を1mmとして初歩的に設計する。初期的な設計の際、経験から複合管の総肉厚の大まかな範囲を決定し、さらにその中から1つの数値を複合管の総肉厚として選択して、前述した式
【数9】
に従って、各層構造の寸法を大まかに決定する(後で検証によって当該肉厚が可能であるかどうかを確認することができる)。
【0035】
例えば、今回の設計では、複合管全体がPE100の高密度ポリエチレン材質を採用すると仮定すると、この場合、式:
【数10】
に基づいて、肉厚を算出することができる。ここで、tは肉厚であり、pはパイプの作動時の内圧(即ち、公称圧力PN)であり、Dはパイプの内径(この場合は公称直径で代用可能)であり、σは材料の計算強度である。本実施例では、全てポリエチレン材質で製造されたと仮定した複合管の肉厚が少なくとも6.4mmであると計算され、圧力パイプの許容圧力が限界強度の3倍であるという規定に基づいて、全てポリエチレン材質で製造されたと仮定した複合管の肉厚が約19.2mmであると計算される。これにより、内バリア層と外バリア層の厚さの合計を20mmに初歩的に設計し、さらに式に基づいて当該寸法のうち15mmを内バリア層に、5mmを外バリア層に割り当て、それに応じて、内補強層の肉厚を3mmに初歩的に設計し、外補強層4の肉厚を1mmに初歩的に設計する。
【0036】
このステップでは、σは同じであるため、次の式(式の両辺がいずれも5に等しい)を満たすことができる。
【数11】
さらに、次の式(厚さ比がいずれも3である)も満たす。
【数12】
【0037】
ステップS4において、複合管の強度を検証し、検証の結果に基づいて複合管の合否を判定し、合格であれば設計を完成し、不合格であればステップS5を行う。
【0038】
ステップS5において、検証結果と、本ステップを行う前に決定された各組の二層構造におけるバリア層及び補強層の肉厚とに基づいて、各組の二層構造におけるバリア層及び補強層の肉厚を増加させ、ステップS4を再度行う。
【0039】
具体的には、ステップS4における検証プロセスは、複合管の総強度及び各組の二層構造の強度に対して検証を行い、複合管の破裂圧力(複合管の圧縮強度を表すことができる)が水素圧力値の3倍より大きく、且つ各組の二層構造の破裂圧力が対応する二層構造が受ける水素分圧の3倍より大きい場合、当該複合管が合格であると判定し、逆に不合格であると判定する。
【0040】
複合管の破裂圧力は、以下の式で計算することができる。
【数13】
ここで、dは鋼線の直径であり、Nは巻き付け鋼線の総本数であり、rは複合管の内半径であり、rは複合管の外半径であり、αは鋼線の巻き付け方向と軸方向との角度であり、Kは係数(K=r/r)であり、σbgは鋼線(補強層材料)の強度限界であり、σbpポリエチレン(バリア層材料)の計算強度であり、pZ Bは軸方向の破裂圧力であり、pθ Bは周方向の破裂圧力である。複合管の破裂圧力は、周方向破裂圧力と軸方向破裂圧力のうちの最小値である。
【0041】
各組の二層構造に対応する水素分圧の計算過程を以下に説明する。複合管が長期間水素を輸送して定常状態に達した後、水素ガスの圧力が内側から外側へ徐々に減少する。したがって、複合管の最内側の圧力はパイプラインによる水素ガスの輸送圧力であり、複合管の最外層の圧力は0であると考えられる。補強層は、水素ガスに対してバリア効果がないため、補強層の両側の水素ガスの圧力が一致する。バリア層は、水素ガスに対してバリア効果を有するため、バリア層の両側の水素圧力が一致しない。これにより、図1に示すように、複合管の内部に近い二層構造の両側表面(即ち、内バリア層1の内表面と内補強層2の外表面)との間に圧力差があり、複合管の外部に近い二層構造の両側表面(即ち、外バリア層3の内表面と外補強層4の外表面)との間に圧力差がある。水素分圧の大きさを計算する際には、バリア層材料の透過係数とその厚さを考慮する必要がある。本設計において、内外2層のバリア層の材料は同じであり、即ち材料の透過係数が同じである。水素ガスは複合管の径方向に沿って均一に浸透し、即ち、内部から外部への水素圧力は、内部の2MPa(公称圧力PN)から均一に0まで低下すると考えられる。そして、2組の二層構造の間(即ち、内補強層2の外表面と外バリア層3の内表面との間)の透過水素ガスの圧力値をFとすると、公称圧力FN、2組の二層構造の間の透過水素ガスの圧力値F、内バリア層1の厚さ、及び外バリア層3の厚さは、下記の関係を満たす。
【数14】
【0042】
具体的な数値を代入すると、Fは0.5MPaとなり、これにより、複合管の内部に近い二層構造が受ける水素分圧は1.5MPaであり、複合管の外部に近い二層構造が受ける水素分圧は0.5MPaであることが分かる。
【0043】
本実施例において、計算により得られた複合管の破裂圧力が6.26MPaであり、これは公称圧力(2MPa)の3倍以上である。複合管の内部に近い二層構造の破裂圧力は4.85MPaであり、対応する水素分圧は1.5MPaであり、複合管の内部に近い二層構造の破裂圧力は対応する水素分圧の3倍以上である。複合管の外部に近い二層構造の破裂圧力は1.63MPaであり、対応する水素分圧は0.5MPaであり、複合管の外部に近い二層構造の破裂圧力は対応する水素分圧の3倍以上である。したがって、複合管の各層の厚さに対する上記の設計は、要件を満たし、検証に合格する。最終的に、内側から外側への4層の厚さを15mm、3mm、5mm、1mmの順に設計する。当該複合管は、長期パイプライン高圧水素輸送のニーズを満たすことができ、水素透過によるブリスター現象が発生しない。
【0044】
また、異なるプロジェクトの要求において、例えば別の実施形態において、複合管は、より大規模、長距離の水素パイプライン網の建設に使用される。この場合、複合管の公称圧力を2MPaとし、呼び径を355mmと設計する。二層構造は依然として2組に設計されるが、内部に位置するバリア層はPE100の高密度ポリエチレン材質(計算強度は約25MPa)を採用し、外部に位置するバリア層はPA66材質(計算強度は約75MPa)を採用し、補強層の材質は変更されない。この場合、式:
【数15】
を満たすようにするため、ステップS3において厚さを初期設計するとき、内バリア層1の肉厚を12mm、外バリア層3の肉厚を4mm、内補強層2の肉厚を2mm、外補強層4の肉厚を2mmに設計する。
【0045】
前述の方法により検証を行い、本実施例では、計算した複合管の破裂圧力は7.96MPaであり、公称圧力(2MPa)の3倍以上である。複合管の内部に近い二層構造の破裂圧力は4.6MPaであり、対応する水素分圧は1.2MPaであり、複合管の内部に近い二層構造の破裂圧力は対応する水素分圧の3倍以上である。複合管の外部に近い二層構造の破裂圧力は4.44MPaであり、対応する水素分圧は0.8MPaであり、複合管の外部に近い二層構造の破裂圧力は対応する水素分圧の3倍以上である。したがって、複合管の各層の厚さに対する上記の設計は、要件を満たし、検証に合格する。最後に、内側から外側への4層の厚さを12mm、2mm、4mm、2mmの順に設計する。当該複合管は、長期パイプラインの高圧水素輸送のニーズを満たすことができ、水素透過によるブリスター現象が発生しない。
【0046】
また、他の実施形態において、複合管は少なくとも3組の二層構造を有することができる。このように、複合管の径方向に沿って内側から外側への方向において、バリア層をそれぞれP、P…Pで表し、補強層をそれぞれH、H…Hで表すと、
【数16】
となり、
ここで、δはバリア層又は補強層の肉厚であり、σはバリア層又は補強層の計算強度である。
【0047】
上記は、本発明の具体的な実施形態に過ぎず、本発明の保護範囲はこれに限定されるものではない。当業者であれば、本発明は、添付図面及び前述した具体的な実施形態に記載された内容を含むが、これらに限定されないことを理解すべきである。本発明の機能及び構造原理から逸脱しない任意の修正は、特許請求の範囲に含まれるものとする。
【符号の説明】
【0048】
1 内バリア層
2 内補強層
3 外バリア層
4 外補強層
図1