(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-06-11
(45)【発行日】2025-06-19
(54)【発明の名称】断熱構造及び断熱構造の施工方法
(51)【国際特許分類】
E04B 5/43 20060101AFI20250612BHJP
E04B 5/40 20060101ALI20250612BHJP
E04B 1/76 20060101ALI20250612BHJP
【FI】
E04B5/43 G
E04B5/40 A
E04B1/76 400H
(21)【出願番号】P 2020112199
(22)【出願日】2020-06-29
【審査請求日】2023-06-16
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000150615
【氏名又は名称】株式会社長谷工コーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】110003498
【氏名又は名称】弁理士法人アイピールーム
(72)【発明者】
【氏名】中井 謙三
(72)【発明者】
【氏名】庄野 豊
【審査官】齋藤 智也
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-006219(JP,A)
【文献】特開2010-037892(JP,A)
【文献】特開2016-037717(JP,A)
【文献】特開平09-088225(JP,A)
【文献】特開平07-217922(JP,A)
【文献】実開昭60-108360(JP,U)
【文献】特開2020-084522(JP,A)
【文献】特開平03-152313(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04B 1/62 ー 1/99
E04B 5/00 - 5/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
集合住宅である建築物の床スラブにおける断熱構造の施工方法であって、
前記床スラブを、梁に敷設して上面側にコンクリートを積層するデッキプレートと、前記デッキプレートの下面側に積層する断熱材とで形成し、
前記建築物の1階の床面に設け、かつ2階以上の床面に設けず、
前記デッキプレートの下面側に熱硬化性樹脂発泡体である断熱材を吹き付け、
前記断熱材が完全に乾燥又は硬化する前に、前記断熱材が下面側に吹き付けられたデッキプレートを前記梁に敷設する
断熱構造の施工方法。
【請求項2】
前記デッキプレートを前記梁に敷設した後に、
前記梁に対する前記デッキプレートのかかり代に前記断熱材を追加的に取り付ける
請求項1に記載の断熱構造の施工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建築物の床スラブにおける断熱構造及び断熱構造の施工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、集合住宅や戸建住宅等の建築物の床面には、地面からの冷気や熱気を遮断する断熱構造が採用されてきた。例えば、床下にグラスウールやロックウールといった断熱材を設ける構造が一般的だが、断熱の効果のみならず、特に集合住宅においては、他の資材との相性、施工後のメンテナンス、材料費及び人件費、施工の工期、作業負荷等を考慮した設計が求められてきた。
【0003】
例えば、特許文献1には、集合住宅のコンクリートスラブの型枠としても用いられるデッキプレートを活用した断熱構造が開示されている。詳細には、デッキプレートの上面側に接着剤で板状の断熱材を貼り付け、上記断熱材の上から配筋してコンクリートを打設する構造により、断熱材の設置が容易であり、断熱材が風で飛ばされる恐れもなく、所望の断熱効果を得られるというものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1では、断熱材の敷設が完了しない限りコンクリートを打設できない分、工期が遅れたり、施工管理が複雑になったりする恐れがある。また、デッキプレートと断熱材とをそれぞれ建設現場に搬入しなければならない分、資材管理に手間がかかったり、調達コストが割高になったりしかねない。総じて、特許文献1のような断熱構造を実施する場合、これに伴うデメリットを克服すべきである。
【0006】
また、1階床面に該当するコンクリートスラブの型枠が、コンクリートの養生後に取り外す一般型枠である場合、また、コンクリートスラブと地中梁とを一体打ちする場合、一般型枠の取り外し及び搬出に伴う労務が過大になりがちである。すなわち、地面からコンクリートスラブまでの高さが低いため、上記労務に対する作業スペースが狭く、また、一般型枠のサイズが大きいほど、コンクリートスラブに貫通させる型枠搬出用の開口の口径が大きくなってしまう。
【0007】
したがって、発明者等は、創意工夫の末、デッキプレートのように捨て枠兼用の構造材を活用すれば、上述したような労務の負荷を軽減できるばかりでなく、さらにデッキプレートの特徴や施工方法を活用すれば、特許文献1のような断熱構造に伴うデメリットを克服した断熱構造を実現できることに辿り着いた。
【0008】
そこで、本発明の目的は、コンクリートの打設用の型枠に関する労務を軽減すると共に、工期の遅延、施工管理及び資材管理の負担、並びに調達コストの高騰を回避する建築物の床スラブにおける断熱構造及び断熱構造の施工方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
すなわち、本発明は、集合住宅である建築物の床スラブにおける断熱構造であって、上記床スラブは、梁に敷設され上面側にコンクリートを積層されたデッキプレートと、上記デッキプレートの下面側に積層された断熱材とを備え、上記建築物の1階の床面に設けられており、かつ2階以上の床面に設けられておらず、上記断熱材は、熱硬化性樹脂発泡体である。
【0010】
上記断熱材は、上記デッキプレートの表面に形成されたメッキに積層されている。
【0011】
また、本発明は、集合住宅である建築物の床スラブにおける断熱構造の施工方法であって、上記床スラブを、梁に敷設して上面側にコンクリートを積層するデッキプレートと、上記デッキプレートの下面側に積層する断熱材とで形成し、上記建築物の1階の床面に設け、かつ2階以上の床面に設けず、上記デッキプレートの下面側に熱硬化性樹脂発泡体である断熱材を吹き付け、上記断熱材が完全に乾燥又は硬化する前に、上記断熱材が下面側に吹き付けられたデッキプレートを上記梁に敷設する。
【0012】
また、上記施工方法にて、上記デッキプレートを上記梁に敷設した後に、上記梁に対する上記デッキプレートのかかり代に上記断熱材を追加的に取り付ける。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、コンクリートの打設用の型枠に関する労務を軽減すると共に、工期の遅延、施工管理及び資材管理の負担、並びに調達コストの高騰を回避することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の一実施形態における断熱構造の概要を示す斜視図である。
【
図2】
図1の矢印X方向から見た上記断熱構造の概要を示す図である。
【
図3】
図1の矢印Y方向から見た上記断熱構造の概要を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、
図1~
図3を参照しつつ、本発明の一実施形態における断熱構造(以下「本断熱構造」ともいう。)及び断熱構造の施工方法(以下「本施工方法」ともいう。)について説明する。これらの図において、複数個存在する同一の部位については、一つの部位のみに符番した部分もある。説明の便宜上、所定の部位やこの部位の引き出し線をかくれ線(破線)で示した部分もある。説明において、上、下、垂直、水平等の向きを示す用語は、基本的に建築物の床スラブを基準とする。
【0016】
<本断熱構造の概要>
図1に示すように、本断熱構造は、例えば、集合住宅の各居室の床面を形成する床スラブSに採用されるものである。床スラブSは、柱や梁Bに設けられ、また、支保工Fに支持されて形成された梁Bや型枠に打設されたコンクリートスラブである。梁Bは、柱に支持された大梁と、大梁に支持された小梁とを含んでもよい。大梁は、地中梁でもよい。小梁は、大梁に対して単純梁でも、支保工Fによる連続梁でもよく、それぞれに適したスパンでよい。梁Bの素材や寸法は、公知技術に基づき、集合住宅の設計に応じて適宜決定してもよい。支保工Fの高さは、500mm~1500mm程度であり、限定しない。
【0017】
コンクリートCの打設は、シングル配筋でもダブル配筋でもよく、養生後に型枠を取り外してもしなくてもよい。コンクリートCの成分や寸法は、公知技術に基づき、集合住宅の設計に応じて適宜決定してもよい。
【0018】
本断熱構造の床スラブSは、デッキプレート1を含む合成スラブであり、梁Bに敷設されて上面側にコンクリートCを積層されたデッキプレート1と、デッキプレート1の下面側に積層された断熱材2とを備え、断熱材2は、熱硬化性樹脂発泡体である。
【0019】
この構成によれば、床スラブSの仕様、機能、及び施工に影響なく、容易に断熱構造を
形成できる。すなわち、断熱材2は、デッキプレート1の下面側に位置するため、コンクリートCの打設に影響を与えず、また、熱硬化性樹脂発泡体であるため、軽量かつ硬化前なら塑性変形しやすく、梁Bへのデッキプレート1の敷設に影響を与えないことから、床スラブSを断熱構造化しやすい。
【0020】
また、断熱材2は、デッキプレート1の表面に形成されたメッキに積層されている。
【0021】
この構成によれば、メッキがデッキプレート1の表面を錆びにくくするため、断熱材2がデッキプレート1から剥離しにくい効果を期待できる。すなわち、メッキにより断熱材2の剥離を予防できるため、断熱材2のメンテナンスの負荷を軽減できる。
【0022】
また、床スラブSは、集合住宅の1階床面である。換言すれば、床スラブSは、集合住宅の2階以上の床面には設けられていない。
【0023】
この構成によれば、断熱材2により集合住宅の1階床面に対する地面からの冷気や熱気を遮断できると共に、1階床面より地面の温度変化の影響を受けにくい2階以上の床面には断熱材2を形成しない分、施工の手間や資材の調達コストを軽減できる。
【0024】
<デッキプレートの詳細>
デッキプレート1の形状は、端面視で波型状であり、付番しない頂面部と、頂面部と略平行な底面部と、頂面部と底面部とを連結する斜面部とを有し、例えば、2つの頂面部と3つの底面部とがそれぞれ斜面部を介して交互に連なって一枚のデッキプレートを構成しているが、端面視で平板状や折板状でもよく、限定しない。デッキプレート1は、梁Bの上に二枚以上隣り合わせて敷設してデッキジョイントで結合してもよい。デッキプレート1は、フラットデッキのようにコンクリートCの型枠として採用されるものでもよい。
【0025】
デッキプレート1の寸法は、厚さ1mm~10mm程度、頂面部と底面部との距離といった鉛直方向の高さ50mm~300mm程度、短手方向及び長手方向の長さ500mm~8000mm程度であればよく、限定しない。デッキプレート1の材質は、鋼製であるが、所望の強度及び剛性を有するものであればよく、限定しない。デッキプレート1の重量は、一枚あたり10kg~20kg程度であり、寸法・材質・メッキの有無に応じて決定してもよく、限定しない。デッキプレート1の表面のメッキは、例えば、亜鉛又は亜鉛とアルミニウム合金との混合物であるが、亜鉛を含有していなくてもよく、デッキプレート1の厚さ1mmあたり4kg/m~8kg/m程度であればよい。
【0026】
<断熱材の詳細>
断熱材2は、例えば、ポリウレタン、ポリスチレン、ポリエチレン等の合成樹脂に、ポリオールやポリイソシアネートを成分とする発泡剤を混入した発泡体であり、熱可塑性樹脂製でも熱硬化性樹脂製でもよいが、好ましくは熱硬化性樹脂製であり、より好ましくは吹き付け可能なものであり、具体的には、ウレタンフォーム、イソシアヌレートフォーム、フェノールフォームである。断熱材2の吹き付けは、ホースを介した高圧ポンプによるジェット噴射でもスプレーによる噴射でもよいが、デッキプレート1の一枚あたりの面積に鑑みて、好ましくはジェット噴射である。
【0027】
断熱材2の寸法は、厚さ10mm~100mm程度であり、デッキプレート1の寸法、床スラブSの耐荷重、又は所望の断熱性能に応じて適宜決定してよく、限定しない。断熱材2の重量は、デッキプレート1の重量が微増する程度であり、限定しない。断熱材2の形成は、集合住宅の建設現場でもそれ以外の場所かつタイミングで行ってもよく、建設現場かつデッキプレート1の敷設前に行ってもよく、デッキプレート1の敷設予定時刻から吹き付けた断熱材2が完全に硬化する前までの時間だけ遡ったタイミングで行ってもよい。
【0028】
<本施工方法の概要>
図1に示すように、本施工方法は、床スラブSを、梁Bに敷設して上面側にコンクリートCを積層するデッキプレート1と、デッキプレート1の下面側に積層する断熱材2とで形成し、デッキプレート1の下面側に熱硬化性樹脂発泡体である断熱材2を吹き付け、断熱材2が下面側に吹き付けられたデッキプレート1を梁Bに敷設する。
【0029】
この構成によれば、デッキプレート1を梁Bに敷設する前にデッキプレート1の下面側に断熱材2を吹き付け、完全に乾燥又は硬化する前にデッキプレート1を梁Bに敷設できるため、断熱材2の吹き付け工程を介してもデッキプレート1の敷設工程やコンクリートCの打設工程は遅延しにくい。また、断熱材2の吹き付け作業及びデッキプレート1の敷設作業は容易であるため、熟練工を必須としない分、施工管理しやすい。
【0030】
<本施工方法の補足>
断熱材2の吹き付け工程では、デッキプレート1を複数個まとめて断熱材2を吹き付けても、一枚ずつ断熱材2を吹き付けてもよい。断熱材2の吹き付け工程後、断熱材2を吹き付けたデッキプレート1は、複数個まとめて建設現場に搬入されてもよい。
【0031】
図2及び
図3に示すように、梁Bに対するデッキプレート1のかかり代では、コンクリートCの加重により断熱材2が塑性変形するため断熱効果の低下を招く恐れがあることから、上記かかり代や図示しない隣り合うデッキプレート1同士を連結するために上記かかり代に固定したデッキジョイントに対し、事後的にデッキプレート1の下面側から断熱材2を吹き付けたり、注入したり、整形済みの断熱材2を貼り付けたりしてもよい。
【0032】
なお、本実施形態に示した断熱構造及び断熱構造の施工方法は、上述した内容に限定されず、同等の効果を得られる限り、あらゆる部位の位置・形状・寸法、部位同士の関係、工程同士の関係、及び工程間の動作を含む。
【符号の説明】
【0033】
1 デッキプレート、2 断熱材、S 床スラブ、C コンクリート、B 梁、F 支保工