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特許7695877最適化抗CD3二重特異性抗体及びその使用
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-06-11
(45)【発行日】2025-06-19
(54)【発明の名称】最適化抗CD3二重特異性抗体及びその使用
(51)【国際特許分類】
   A61K 39/395 20060101AFI20250612BHJP
   A61P 35/00 20060101ALN20250612BHJP
   C07K 16/28 20060101ALN20250612BHJP
   C07K 16/30 20060101ALN20250612BHJP
   C07K 16/46 20060101ALN20250612BHJP
   C12N 15/13 20060101ALN20250612BHJP
   C12P 21/08 20060101ALN20250612BHJP
   G01N 21/41 20060101ALN20250612BHJP
   G01N 33/483 20060101ALN20250612BHJP
   G01N 33/543 20060101ALN20250612BHJP
【FI】
A61K39/395 N
A61P35/00 ZNA
C07K16/28
C07K16/30
C07K16/46
C12N15/13
C12P21/08
G01N21/41 101
G01N33/483 C
G01N33/543 595
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2021211788
(22)【出願日】2021-12-27
(62)【分割の表示】P 2018534519の分割
【原出願日】2016-09-23
(65)【公開番号】P2022064886
(43)【公開日】2022-04-26
【審査請求日】2022-01-20
【審判番号】
【審判請求日】2023-08-10
(31)【優先権主張番号】62/222,605
(32)【優先日】2015-09-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】597160510
【氏名又は名称】リジェネロン・ファーマシューティカルズ・インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】REGENERON PHARMACEUTICALS, INC.
(74)【代理人】
【識別番号】100127926
【弁理士】
【氏名又は名称】結田 純次
(74)【代理人】
【識別番号】100140132
【弁理士】
【氏名又は名称】竹林 則幸
(72)【発明者】
【氏名】エリック・スミス
(72)【発明者】
【氏名】ラウリック・ハーバー
(72)【発明者】
【氏名】ロバート・バブ
(72)【発明者】
【氏名】ギャング・チェン
(72)【発明者】
【氏名】ダグラス・マクドナルド
【合議体】
【審判長】上條 肇
【審判官】田中 晴絵
【審判官】深草 亜子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2013/157105号(WO,A1)
【文献】特表2013-536191号公報(JP,A)
【文献】特開2012-183077号公報(JP,A)
【文献】国際公開第2014/047231(WO,A1)
【文献】国際公開第2014/051433(WO,A1)
【文献】国際公開第2014/056783(WO,A1)
【文献】特表2014-529600号公報(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K39/395-39/44
C12N 15/00-15/90
C07K 1/00-19/00
PubMed
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS (STN)
JSTPlus/JST7580/JMEDPlus (JDreamIII)
UniProt/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象におけるがんを処置する方法において使用するための、細胞毒性二重特異性抗体を含む薬学的組成物であって、該二重特異性抗体が、ヒトCD3およびカニクイザルCD3に対して弱い結合から検出不可能な結合を示す第1の抗原結合アームおよび腫瘍関連抗原に結合する第2の抗原結合アームを含み、第1の抗原結合アームが配列番号34または配列番号138のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域(HCVR)を含む重鎖および軽鎖を含み、軽鎖が第1の抗原結合アームおよび第2の抗原結合アームの両方に共通であり、該軽鎖が腫瘍関連抗原に結合する第2の抗原結合アームの同族軽鎖である、薬学的組成物。
【請求項2】
前記二重特異性抗体がin vitroでT細胞活性化を示す、請求項1に記載の薬学的組成物。
【請求項3】
前記腫瘍関連抗原がヒト腫瘍細胞上で発現される、請求項1または2に記載の薬学的組成物。
【請求項4】
前記二重特異性抗体が、in vitro T細胞媒介腫瘍細胞死滅アッセイにおいて測定されるように、1.3nM未満のEC50値でのT細胞媒介腫瘍細胞死滅を誘引する、請求項1から3のいずれか一項に記載の薬学的組成物。
【請求項5】
前記腫瘍関連抗原が、AFP、ALK、BAGEタンパク質、BIRC5(スルビビン)、BIRC7、β-カテニン、brc-abl、BRCA1、BORIS、CA9、炭酸脱水酵素IX、カスパーゼ-8、CALR、CCR5、CD19、CD20(MS4A1)、CD22、CD30、CD40、CDK4、CEA、CTLA4、サイクリン-B1、CYP1B1、EGFR、EGFRvIII、ErbB2/Her2、ErbB3、ErbB4、ETV6-AML、EpCAM、EphA2、Fra-1、FOLR1、GAGEタンパク質、GD2、GD3、GloboH、グリピカン-3、GM3、gp100、Her2、HLA/B-raf、HLA/k-ras、HLA/MAGE-A3、hTERT、LMP2、MAGEタンパク質、MART-1、メソテリン、ML-IAP、Mu
c1、Muc2、Muc3、Muc4、Muc5、Muc16(CA-125)、MUM1、NA17、NY-BR1、NY-BR62、NY-BR85、NY-ESO1、OX40、p15、p53、PAP、PAX3、PAX5、PCTA-1、PLAC1、PRLR、PRAME、PSMA(FOLH1)、RAGEタンパク質、Ras、RGS5、Rho、SART-1、SART-3、STEAP1、STEAP2、TAG-72、TGF-β、TMPRSS2、Thompson-nouvelle抗原(Tn)、TRP-1、TRP-2、チロシナーゼ、ならびにウロプラキン-3からなる群から選択される、請求項1から4のいずれか一項に記載の薬学的組成物。
【請求項6】
前記腫瘍関連抗原が、EGFRvIIIである、請求項5に記載の薬学的組成物。
【請求項7】
前記腫瘍関連抗原が、PSMAである、請求項5に記載の薬学的組成物。
【請求項8】
前記腫瘍関連抗原が、MUC16である、請求項5に記載の薬学的組成物。
【請求項9】
前記腫瘍関連抗原が、STEAP2である、請求項5に記載の薬学的組成物。
【請求項10】
前記二重特異性抗体が、配列番号34のアミノ酸配列を含むHCVRを含む、請求項1から9のいずれか一項に記載の薬学的組成物。
【請求項11】
前記二重特異性抗体が、配列番号138のアミノ酸配列を含むHCVRを含む、請求項1から9のいずれか一項に記載の薬学的組成物。
【請求項12】
前記がんが、膵臓がん、黒色腫、膠芽腫、頭頸部がん、前立腺癌、悪性神経膠腫、骨肉腫、結腸直腸がん、胃がん、悪性中皮腫、多発性骨髄腫、卵巣がん、小細胞肺がん、非小細胞肺がん、滑膜肉腫、甲状腺がん、乳がん、黒色腫神経膠腫、乳がん、扁平上皮癌、食道がん、明細胞腎細胞癌、嫌色素細胞性腎癌、腎膨大細胞腫、腎移行上皮癌、尿路上皮癌、腺癌、小細胞癌または免疫系の原発もしくは転移腫瘍からなる群から選択される、請求項1から11のいずれか一項に記載の薬学的組成物。
【請求項13】
前記がんが、神経膠腫、前立腺癌、または卵巣がんである、請求項6から11のいずれか一項に記載の薬学的組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
配列表の参照
本出願は、2016年9月22日に作成され、264,418バイトを含むファイル10151WO01_ST25.txtとしてコンピュータ可読形式で提出された配列表を、参照により組み込む。
【0002】
本発明は、CD3抗原及び腫瘍関連抗原等のエフェクター抗原を標的化する二重特異性抗体、ならびに腫瘍死滅の方法に関する。本発明は、腫瘍組織量を低減または消失させ、腫瘍免疫治療に関連し得る毒性副作用を制御する方法に関する。本発明は、弱い親和性で、または検出可能な結合親和性を示さずにエフェクター抗原に結合するエフェクターアーム、例えば、in vitro親和性結合アッセイにおいて約500nM超のKでCD3に結合する抗CD3抗原結合アームを含む二重特異性抗体を提供する。
【背景技術】
【0003】
特にがん免疫治療における治療的二重特異性抗体(bsAbs)の将来性は、望ましくない標的保持細胞または生物に対するより安定な自然免疫反応を惹起するために、複数の抗原標的にわたることを目指している。
【0004】
現在、再指向溶解を媒介するために、bsAbは、標的細胞をT細胞等のエフェクター細胞上の誘発分子に直接クラスタ化しなければならないことが十分に確立されている。bsAb設計において、考慮しなければならない多くの因子があり、例えばサイズ及び組成は、生体内分布及びin vivoでの安定性に影響する(非特許文献1;非特許文献2)。区別可能な転帰は、反応するように誘発されているT細胞サブセット、及び刺激されているT細胞の状態に依存して、予測が困難である。bsAbsは、一貫した結果を示さないことが周知である(非特許文献3)。例えば、適切なサイトカイン産生がない場合、CD3架橋はT細胞におけるアポトーシス反応を誘引し得る(非特許文献4)。T細胞のサブセット及びそのような動員されたT細胞、例えばナイーブT細胞の分化状態は、有効性に重要であるが、これは、ナイーブT細胞が予備活性化(例えば、IL-2の存在下でのTCRとの架橋)なしでは標的細胞を溶解することができないためである。
【0005】
ある特定の二重特異性治療は成功しているが、多くのがん治療と同様に、代償を伴う。毒性は、がん治療のうちの失敗の主な原因である。いわゆる化学治療薬の毒性が、患者の副作用及び二次的弊害の主な原因であることは周知である。「細胞死滅」作用自体が、患者に対する問題を伴う。過剰の細胞毒性反応は、エフェクター細胞、例えばT細胞、及びがん標的細胞の活性化により誘引され得るが、腫瘍免疫治療においてどの種類の反応が最も有益であるかは今のところ不明である。有効性及び所望の薬物動態(PK)特性を維持しながら低減された副作用を有する、二重特異性治療における使用のための抗CD3抗体を特定する方法が有利となるだろう。
【0006】
親和性成熟化等の技術が説明されており、これは、構造/活性関係(SAR)に基づいて、出発抗体と比較して標的抗原に対する増加及び改善された結合特異性または親和性を有するように抗体を最適化するために、突然変異生成を利用する(例えば、2011年5月12日に公開された特許文献1を参照されたい)。様々な程度でCD3に結合及びそれと相互作用しながら、それでも中程度から高程度のT細胞活性化を示すことができる改質OKT3抗体が説明されている(特許文献2)。しかしながら、抗体分子の結合親和性を結合の検出レベル付近またはそれを超えるレベルまで低減する方法は説明されておらず、また腫瘍減少または抑制に必要な有効性が示されていない。
【0007】
したがって、制御された細胞毒性及びより良好なPK特性を有する代替の二重特異性抗原結合分子が必要とされている。そのようながん治療は、治療の現場において極めて有用となるだろう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】WO2011/056997
【文献】US7820166
【非特許文献】
【0009】
【文献】Segal,DM,Weiner,GJ,and Weiner,LM.Current Opinion in Immunol 1999,11:558-562
【文献】Chames,P.and Baty,D.MAbs.2009,1(6):539-547
【文献】Manzke O,et al.Cancer Immunol Immunother.1997,45:198-202
【文献】Noel PJ,Boise LH,Thompson CB:Regulation of T cell activation by CD28 and CTLA4.Adv Exp Med Biol 1996,406:209-217
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0010】
第1の態様において、本発明は、ヒト及び/またはカニクイザルCD3に対する弱い親和性を有する、または検出可能な親和性を有しない、ヒトCD3に結合する抗体及びその抗原結合断片を提供する。本発明のこの態様による抗体は、なかでも、例えばT細胞媒介死滅が有益または望ましい状況下でのCD3を発現するT細胞の標的化、及びT細胞活性化の刺激に有用である。本発明の抗CD3抗体、またはその抗原結合部分は、CD3媒介T細胞活性化を腫瘍細胞等の特定の細胞型または感染因子に指向させる二重特異性抗体の一部として含まれてもよい。
【0011】
本発明の例示的な抗CD3抗体は、本明細書の表2及び3に列挙されている。表2は、重鎖可変領域(HCVR)、ならびに重鎖相補性決定領域(HCDR1、HCDR2及びHCDR3)のアミノ酸配列識別子を記載している。表3は、例示的抗CD3抗体のHCVR、HCDR1、HCDR2、及びHCDR3領域をコードする核酸分子の配列識別子を記載している。表4及び5は、例示的抗CD3抗体の軽鎖可変領域(LCVR)、ならびに相補性決定領域(LCDR1、LCDR2及びLCDR3)を記載している。
【0012】
本発明は、表2に列挙されるHCVRアミノ酸配列、またはそれに対する少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、もしくは少なくとも99%の配列同一性を有するその実質的に同様の配列のいずれかから選択されるアミノ酸配列を含むHCVRを含む抗体またはその抗原結合断片を提供する。
【0013】
本発明はまた、表4に列挙されたLCVRアミノ酸配列、あるいは、抗TAA重鎖の同種軽鎖から得られる、または広範な非同種重鎖と対形成する無差別性もしくは能力を示す軽鎖、すなわち普遍的もしくは共通軽鎖から得られる既知の、もしくは公知の軽鎖可変領域から得られる、共通の軽鎖のいずれかと対形成された表2に列挙されたHCVRアミノ酸配列のいずれかを含むHCVR及びLCVRアミノ酸配列対(HCVR/LCVR)を
含む抗体またはその抗原結合断片を提供する。ある特定の実施形態によれば、本発明は、表4に列挙された例示的軽鎖可変領域と対形成された表2に列挙された例示的抗CD3抗体のいずれかに含有されるHCVR/LCVRアミノ酸配列対を含む抗体またはその抗原結合断片を提供する。ある特定の実施形態において、HCVR/LCVRアミノ酸配列対は、配列番号:10/162(例えばCD3-VH-G2);18/162(例えばCD3-VH-G3);26/162(例えばCD3-VH-G4);34/162(例えばCD3-VH-G5);42/162(例えばCD3-VH-G8);50/162(例えばCD3-VH-G9);58/162(例えばCD3-VH-G10);66/162(例えばCD3-VH-G11);74/162(例えばCD3-VH-G12);82/162(例えばCD3-VH-G13);90/162(例えばCD3-VH-G14);98/162(例えばCD3-VH-G15);106/162(例えばCD3-VH-G16);114/162(例えばCD3-VH-G17);122/162(例えばCD3-VH-G18);130/162(例えばCD3-VH-G19);138/162(例えばCD3-VH-G20);及び146/162(例えばCD3-VH-G21)からなる群から選択される。
【0014】
本発明はまた、表2に列挙されるHCVR1アミノ酸配列、または少なくとも95%、少なくとも98%、もしくは少なくとも99%の配列同一性を有するその実質的に同様の配列のいずれかから選択されるアミノ酸配列を含む重鎖CDR1(HCDR1)を含む抗体またはその抗原結合断片を提供する。本発明はまた、配列番号178に記載のアミノ酸配列を含む重鎖CDR1(HCDR1)を含む抗体またはその抗原結合断片を提供する。
【0015】
本発明はまた、表2に列挙されるHCDR2アミノ酸配列、または少なくとも95%、少なくとも98%、もしくは少なくとも99%の配列同一性を有するその実質的に同様の配列のいずれかから選択されるアミノ酸配列を含む重鎖CDR2(HCDR2)を含む抗体またはその抗原結合断片を提供する。本発明はまた、配列番号179に記載のアミノ酸配列を含む重鎖CDR2(HCDR2)を含む抗体またはその抗原結合断片を提供する。
【0016】
本発明はまた、表2に列挙されるHCDR3アミノ酸配列、または少なくとも95%、少なくとも98%、もしくは少なくとも99%の配列同一性を有するその実質的に同様の配列のいずれかから選択されるアミノ酸配列を含む重鎖CDR3(HCDR3)を含む抗体またはその抗原結合断片を提供する。本発明はまた、配列番号180に記載のアミノ酸配列を含む重鎖CDR3(HCDR3)を含む抗体またはその抗原結合断片を提供する。
【0017】
本発明はまた、表4に列挙されるLCDR1アミノ酸配列、または少なくとも95%、少なくとも98%、もしくは少なくとも99%の配列同一性を有するその実質的に同様の配列のいずれかから選択されるアミノ酸配列を含む軽鎖CDR1(LCDR1)を含む抗体またはその抗原結合断片を提供する。本発明はまた、抗TAA重鎖の同種軽鎖から得られる、または広範な非同種重鎖と対形成する無差別性もしくは能力を示す軽鎖、すなわち普遍的もしくは共通軽鎖から得られる軽鎖CDR1(LCDR1)を含む抗体またはその抗原結合断片を提供する。
【0018】
本発明はまた、表4に列挙されるLCDR2アミノ酸配列、または少なくとも95%、少なくとも98%、もしくは少なくとも99%の配列同一性を有するその実質的に同様の配列のいずれかから選択されるアミノ酸配列を含む軽鎖CDR2(LCDR2)を含む抗体またはその抗原結合断片を提供する。本発明はまた、抗TAA重鎖の同種軽鎖から得られる、または広範な非同種重鎖と対形成する無差別性もしくは能力を示す軽鎖、すなわち普遍的もしくは共通軽鎖から得られる軽鎖CDR2(LCDR2)を含む抗体またはその抗原結合断片を提供する。
【0019】
本発明はまた、表4に列挙されるLCDR3アミノ酸配列、または少なくとも95%、少なくとも98%、もしくは少なくとも99%の配列同一性を有するその実質的に同様の配列のいずれかから選択されるアミノ酸配列を含む軽鎖CDR3(LCDR3)を含む抗体またはその抗原結合断片を提供する。本発明はまた、抗TAA重鎖の同種軽鎖から得られる、または広範な非同種重鎖と対形成する無差別性もしくは能力を示す軽鎖、すなわち普遍的もしくは共通軽鎖から得られる軽鎖CDR3(LCDR3)を含む抗体またはその抗原結合断片を提供する。
【0020】
本発明はまた、表4に列挙されたLCDR3アミノ酸配列のいずれかと対形成された表2に列挙されたHCDR3アミノ酸配列のいずれかを含むHCDR3及びLCDR3アミノ酸配列対(HCDR3/LCDR3)を含む抗体またはその抗原結合断片を提供する。ある特定の実施形態によれば、本発明は、表2に列挙された例示的抗CD3抗体のいずれかに含有されるHCDR3/LCDR3アミノ酸配列対を含む抗体またはその抗原結合断片を提供する。ある特定の実施形態において、HCDR3/LCDR3アミノ酸配列対は、配列番号:16/168(例えばCD3-VH-G2);24/168(例えばCD3-VH-G3);32/168(例えばCD3-VH-G4);40/168(例えばCD3-VH-G5);48/168(例えばCD3-VH-G8);56/168(例えばCD3-VH-G9);64/168(例えばCD3-VH-G10);72/168(例えばCD3-VH-G11);80/168(例えばCD3-VH-G12);88/168(例えばCD3-VH-G13);96/168(例えばCD3-VH-G14);104/168(例えばCD3-VH-G15);112/168(例えばCD3-VH-G16);120/168(例えばCD3-VH-G17);128/168(例えばCD3-VH-G18);136/168(例えばCD3-VH-G19);144/168(例えばCD3-VH-G20);及び152/168(例えばCD3-VH-G21)からなる群から選択される。
【0021】
本発明はまた、表2及び4に列挙された例示的抗CD3抗体のいずれかに含有される6つのCDRのセット(すなわちHCDR1-HCDR2-HCDR3-LCDR1-LCDR2-LCDR3)を含む抗体またはその抗原結合断片を提供する。ある特定の実施形態において、HCDR1-HCDR2-HCDR3-LCDR1-LCDR2-LCDR3アミノ酸配列セットは、配列番号:12-14-16-164-166-168(例えばCD3-VH-G2);20-22-24-164-166-168(例えばCD3-VH-G3);28-30-32-164-166-168(例えばCD3-VH-G4);36-38-40-164-166-168(例えばCD3-VH-G5);44-46-48-164-166-168(例えばCD3-VH-G8);52-54-56-164-166-168(例えばCD3-VH-G9);60-62-64-164-166-168(例えばCD3-VH-G10);68-70-72-164-166-168(例えばCD3-VH-G11);76-78-80-164-166-168(例えばCD3-VH-G12);84-86-88-164-166-168(例えばCD3-VH-G13);92-94-96-164-166-168(例えばCD3-VH-G14);100-102-104-164-166-168(例えばCD3-VH-G15);108-110-112-164-166-168(例えばCD3-VH-G16);116-118-120-164-166-168(例えばCD3-VH-G17);124-126-128-164-166-168(例えばCD3-VH-G18);132-134-136-164-166-168(例えばCD3-VH-G19);140-142-144-164-166-168(例えばCD3-VH-G20);及び148-150-152-164-166-168(例えばCD3-VH-G21)からなる群から選択される。
【0022】
関連する実施形態において、本発明は、表2及び4に列挙された例示的抗CD3抗体の
いずれかにより定義されるようなHCVR/LCVRアミノ酸配列対に含有される6つのCDRの組(すなわちHCDR1-HCDR2-HCDR3-LCDR1-LCDR2-LCDR3)を含む抗体またはその抗原結合断片を提供する。例えば、本発明は、配列番号:10/162(例えばCD3-VH-G2);18/162(例えばCD3-VH-G3);26/162(例えばCD3-VH-G4);34/162(例えばCD3-VH-G5);42/162(例えばCD3-VH-G8);50/162(例えばCD3-VH-G9);58/162(例えばCD3-VH-G10);66/162(例えばCD3-VH-G11);74/162(例えばCD3-VH-G12);82/162(例えばCD3-VH-G13);90/162(例えばCD3-VH-G14);98/162(例えばCD3-VH-G15);106/162(例えばCD3-VH-G16);114/162(例えばCD3-VH-G17);122/162(例えばCD3-VH-G18);130/162(例えばCD3-VH-G19);138/162(例えばCD3-VH-G20);及び146/162(例えばCD3-VH-G21)からなる群から選択されるHCVR/LCVRアミノ酸配列対に含有されるHCDR1-HCDR2-HCDR3-LCDR1-LCDR2-LCDR3アミノ酸配列セットを含む抗体またはその抗原結合断片を含む。
【0023】
HCVR及びLCVRアミノ酸配列内のCDRを特定するための方法及び技術は、当技術分野において周知であり、本明細書において開示される特定のHCVR及び/またはLCVRアミノ酸配列内のCDRを特定するために使用され得る。CDRの境界を特定するために使用され得る例示的な規則は、例えば、Kabatの定義、Chothiaの定義、及びAbMの定義を含む。一般的には、Kabatの定義は配列変動性に基づき、Chothiaの定義は構造ループ領域の場所に基づき、AbMの定義は、Kabat及びChothiaの手法の間の折衷方式である。例えば、Kabat,「Sequences
of Proteins of Immunological Interest」,National Institutes of Health,Bethesda,Md.(1991);Al-Lazikani et al.,J.Mol.Biol.273:927-948(1997);及びMartin et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 86:9268-9272(1989)を参照されたい。抗体内のCDR配列を特定するために、公開データベースもまた利用可能である。
【0024】
本発明はまた、抗CD3抗体またはその一部をコードする核酸分子を提供する。例えば、本発明は、表3に列挙されたHCVRアミノ酸配列のいずれかをコードする核酸分子を提供し、ある特定の実施形態において、核酸分子は、表3に列挙されるHCVR核酸配列、またはそれに対する少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、または少なくとも99%の配列同一性を有するその実質的に同様の配列のいずれかから選択されるポリヌクレオチド配列を含む。
【0025】
本発明はまた、表4に列挙されるLCVRアミノ酸配列;あるいは、抗TAA重鎖の同種軽鎖から得られる、または広範な非同種重鎖と対形成する無差別性もしくは能力を示す軽鎖、すなわち普遍的もしくは共通軽鎖から得られるLCVRのいずれかをコードする核酸分子を提供する。ある特定の実施形態において、核酸分子は、表5に列挙されたLCVR核酸配列、またはそれに対する少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、または少なくとも99%の配列同一性を有するその実質的に同様の配列のいずれかから選択されるポリヌクレオチド配列を含む。
【0026】
本発明はまた、表2に列挙されたHCDR1アミノ酸配列のいずれかをコードする核酸分子を提供し、ある特定の実施形態において、核酸分子は、表3に列挙されたHCDR1核酸配列、またはそれに対する少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、または少なくとも99%の配列同一性を有するその実質的に同様の配列のいずれかから
選択されるポリヌクレオチド配列を含む。
【0027】
本発明はまた、表2に列挙されたHCDR2アミノ酸配列のいずれかをコードする核酸分子を提供し、ある特定の実施形態において、核酸分子は、表3に列挙されたHCDR2核酸配列、またはそれに対する少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、または少なくとも99%の配列同一性を有するその実質的に同様の配列のいずれかから選択されるポリヌクレオチド配列を含む。
【0028】
本発明はまた、表2に列挙されたHCDR3アミノ酸配列のいずれかをコードする核酸分子を提供し、ある特定の実施形態において、核酸分子は、表3に列挙されたHCDR3核酸配列、またはそれに対する少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、または少なくとも99%の配列同一性を有するその実質的に同様の配列のいずれかから選択されるポリヌクレオチド配列を含む。
【0029】
本発明はまた、表4に列挙されるLCDR1アミノ酸配列;あるいは、抗TAA重鎖の同種軽鎖から得られる、または広範な非同種重鎖と対形成する無差別性もしくは能力を示す軽鎖、すなわち普遍的もしくは共通軽鎖から得られるLCDR1のいずれかをコードする核酸分子を提供する。ある特定の実施形態において、核酸分子は、表5に列挙されたLCDR1核酸配列、またはそれに対する少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、または少なくとも99%の配列同一性を有するその実質的に同様の配列のいずれかから選択されるポリヌクレオチド配列を含む。
【0030】
本発明はまた、表4に列挙されるLCDR2アミノ酸配列;あるいは、抗TAA重鎖の同種軽鎖から得られる、または広範な非同種重鎖と対形成する無差別性もしくは能力を示す軽鎖、すなわち普遍的もしくは共通軽鎖から得られるLCDR2のいずれかをコードする核酸分子を提供する。ある特定の実施形態において、核酸分子は、表5に列挙されたLCDR2核酸配列、またはそれに対する少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、または少なくとも99%の配列同一性を有するその実質的に同様の配列のいずれかから選択されるポリヌクレオチド配列を含む。
【0031】
本発明はまた、表4に列挙されるLCDR3アミノ酸配列;あるいは、抗TAA重鎖の同種軽鎖から得られる、または広範な非同種重鎖と対形成する無差別性もしくは能力を示す軽鎖、すなわち普遍的もしくは共通軽鎖から得られるLCDR3のいずれかをコードする核酸分子を提供する。ある特定の実施形態において、核酸分子は、表5に列挙されたLCDR3核酸配列、またはそれに対する少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、または少なくとも99%の配列同一性を有するその実質的に同様の配列のいずれかから選択されるポリヌクレオチド配列を含む。
【0032】
本発明はまた、HCVRをコードする核酸分子を提供し、HCVRは、3つのCDRのセット(すなわちHCDR1-HCDR2-HCDR3)を含み、HCDR1-HCDR2-HCDR3アミノ酸配列セットは、表2に列挙された例示的抗CD3抗体のいずれかにより定義される通りである。
【0033】
本発明はまた、LCVRをコードする核酸分子を提供し、LCVRは、3つのCDRのセット(すなわちLCDR1-LCDR2-LCDR3)を含み、LCDR1-LCDR2-LCDR3アミノ酸配列セットは、表4に記載の例示的な普遍的軽鎖抗体のいずれかにより定義される通りであり;または、LCDR1-LCDR2-LCDR3は、抗TAA重鎖の同種軽鎖から得られる、または広範な非同種重鎖と対形成する無差別性もしくは能力を示す軽鎖、すなわち普遍的もしくは共通軽鎖から得られる。
【0034】
本発明はまた、HCVR及びLCVRの両方をコードする核酸分子を提供し、HCVRは、表2に列挙されるHCVRアミノ酸配列のいずれかのアミノ酸配列を含み、LCVRは、表4に列挙されるLCVRアミノ酸配列のいずれかのアミノ酸配列を含み;または、LCVRは、抗TAA重鎖の同種軽鎖から得られる、または広範な非同種重鎖と対形成する無差別性もしくは能力を示す軽鎖、すなわち普遍的もしくは共通軽鎖から得られる。ある特定の実施形態において、核酸分子は、表2に列挙されたHCVR核酸配列、またはそれに対する少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、または少なくとも99%の配列同一性を有するその実質的に同様の配列のいずれかから選択されるポリヌクレオチド配列、及び、表5に列挙されたLCVR核酸配列、またはそれに対する少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、または少なくとも99%の配列同一性を有するその実質的に同様の配列のいずれかから選択されるポリヌクレオチド配列を含む。いくつかの実施形態において、HCVR及びLCVRの両方をコードする核酸分子は、完全ヒト配列であるか、またはヒト生殖細胞系列免疫グロブリン配列から得られる。
【0035】
本発明はまた、抗CD3抗体の重鎖または軽鎖可変領域を含むポリペプチドを発現することができる組み換え発現ベクターを提供する。例えば、本発明は、上述の核酸分子、すなわち表2または4に記載のようなHCVR、LCVR、及び/またはCDR配列のいずれかをコードする核酸分子のいずれかを含む組み換え発現ベクターを含む。また、そのようなベクターが導入された宿主細胞、ならびに、抗体または抗体断片の生成を許容する条件下で宿主細胞を培養し、そのようにして生成された抗体及び抗体断片を回収することにより抗体またはその一部を生成する方法が、本発明の範囲内に含まれる。
【0036】
本発明は、抗CD3抗体及び/または抗TAA抗体、ならびに改質されたグリコシル化パターンを有する二重特異性抗CD3/抗TAA抗体を含む。いくつかの実施形態において、望ましくないグリコシル化部位を除去するための改質、または、例えば抗体依存性細胞毒性(ADCC)機能を増加させるためのオリゴ糖鎖上に存在するフコース部分欠失抗体が有用となり得る(Shield et al.(2002) JBC 277:26733を参照されたい)。他の用途において、補体依存性細胞傷害(CDC)を改質するために、ガラクトシル化の改質が行われてもよい。
【0037】
一態様において、本発明は、i)エフェクター細胞に特異的に結合することができない、及びii)標的腫瘍細胞に特異的に結合する二重特異性抗原結合分子を含む細胞毒性組成物を提供し、特異的結合は、in vitro FACS結合アッセイまたはin vitro表面プラズモン共鳴結合アッセイにおいて測定される。ある特定の実施形態において、本発明は、エフェクター細胞に対する検出可能な結合を示さない、及び測定可能な結合親和性で標的腫瘍細胞に特異的に結合する二重特異性抗原結合分子を含む細胞毒性組成物を提供し、結合親和性値は、in vitro FACS結合アッセイまたはin vitro表面プラズモン共鳴結合アッセイにおいて測定される。
【0038】
他の実施形態において、本発明は、i)CD3に対する検出可能な結合を示さない第1の抗原結合断片(Fab1)、及びii)測定可能な結合親和性で標的腫瘍細胞に特異的に結合する第2の高原結合断片(Fab2)を含む二重特異性抗原結合分子を含む細胞毒性組成物を提供し、結合親和性値は、in vitro FACS結合アッセイまたはin vitro表面プラズモン共鳴結合アッセイにおいて測定される。いくつかの場合において、結合親和性は、一価結合親和性である(例えば二重特異性抗体コンストラクトにおいて)。
【0039】
別の態様において、本発明は、弱い結合親和性でエフェクター細胞に特異的に結合する、例えば約100nMの、または約100nM超のEC50値を示す、及び、認識可能なEC50値、または50nM未満等の高親和性EC50値で標的腫瘍細胞に特異的に結合
する、二重特異性抗原結合分子を含む細胞毒性組成物を提供し、EC50結合親和性値は、in vitro FACS結合アッセイにおいて測定される。ある特定の実施形態において、本発明は、約500nM超のEC50値でエフェクター細胞に特異的に結合する、及び、認識可能なEC50値、または50nM未満等の高親和性EC50値で標的腫瘍細胞に特異的に結合する、二重特異性抗原結合分子を含む細胞毒性組成物を提供し、EC50結合親和性値は、in vitro FACS結合アッセイにおいて測定される。
【0040】
いくつかの例において、二重特異性抗原結合分子は、約40nM超、または約100nM超、約200nM超、約300nM超、約400nM超、約500nM超、または約1μM超(例えば一価結合に関連して)のEC50値でヒトCD3に特異的に結合するFab1を含む。いくつかの実施形態において、二重特異性抗原結合分子は、高い親和性で、例えば約50nM未満未満、約40nM未満、約20nM未満、約10nM未満または約6nM未満(例えば一価結合に関連して)のEC50値で標的腫瘍細胞に特異的に結合する第2の抗体から得られるFab2を含む。いくつかの場合において、Fab1は、約40nM超、または約100nM超、約200nM超、または約1μM超のEC50値で、ヒトCD3及びカニクイザルCD3のそれぞれに特異的に結合する。いくつかの場合において、Fab1は、弱い親和性で、または測定可能な親和性を示さずに、ヒトCD3及びカニクイザルCD3のそれぞれに特異的に結合する。
【0041】
いくつかの実施形態において、標的腫瘍細胞は、ヒト腫瘍細胞である。いくつかの実施形態において、Fab1(または二重特異性抗原結合分子)は、in vitro T細胞媒介腫瘍細胞死滅アッセイにおいて測定されるように、約1.3nM未満のEC50値でのT細胞媒介腫瘍細胞死滅を誘引する。
【0042】
いくつかの用途において、Fab1または二重特異性抗原結合分子は、in vitro表面プラズモン共鳴結合アッセイにおいて測定されるように、約11nM超のK値でヒトCD3に特異的に結合する。他の場合において、Fab1または二重特異性抗原結合分子は、in vitro表面プラズモン共鳴結合アッセイにおいて測定されるように、約15nM超、または約30nM超、約60nM超、約120nM超、または約300nM超のK値でヒトCD3及びカニクイザルCD3のそれぞれに特異的に結合する。さらにいくつかの用途において、Fab1または二重特異性抗原結合分子は、i)in vitro表面プラズモン共鳴結合アッセイ及びFACS結合アッセイのそれぞれにおいて測定されるように、ヒトCD3に対する検出可能な結合を示さず、またii)in vitro T細胞媒介腫瘍細胞死滅アッセイにおいて測定されるように、T細胞媒介腫瘍細胞死滅を誘引する。
【0043】
いくつかの用途において、二重特異性抗原結合分子は、配列番号12または20に記載のアミノ酸配列を含むHCDR1領域を含む第1の重鎖を含む。いくつかの実施形態において、第1の重鎖は、配列番号14または54に記載のアミノ酸配列を含むHCDR2領域を含む。他の実施形態において、第1の重鎖は、配列番号16、配列番号24、配列番号32、配列番号40、配列番号48、配列番号56、配列番号64、配列番号72、配列番号80、配列番号88、配列番号96、配列番号104、配列番号112、配列番号120、配列番号128、配列番号136、配列番号144、または配列番号152に記載のアミノ酸配列を含むHCDR3領域を含む。他の用途において、第1の重鎖は、配列番号178-179-180のアミノ酸配列を有するHCDR1-HCDR2-HCDR3を含むHCVRを含む。他の実施形態において、第1の重鎖は、配列番号178のアミノ酸残基1~7を含むCDR1、配列番号179のアミノ酸残基1~7を含むCDR2、配列番号180のアミノ酸残基4~11を含むCDR3を含む。
【0044】
さらなる実施形態において、第1の重鎖は、FR1(配列番号174)、FR2(配列
番号175)、FR3(配列番号176)、及びFR4(配列番号177)から選択されるアミノ酸配列を有する可変ドメインフレームワーク領域を含む。
【0045】
本発明は、配列番号10/162;18/162;26/162;34/162;42/162;50/162;58/162;66/162;74/162;82/162;90/162;98/162;106/162;114/162;122/162;130/162;138/162;146/162からなる群から選択されるFab1 HCVR及びLCVRアミノ酸配列対(HCVR/LCVR)を含む二重特異性抗原結合分子を提供する。
【0046】
抗体、及び抗原結合断片、ならびにその二重特異性抗体は、生殖細胞系列配列と親抗体配列との間の差に基づいて親のアミノ酸残基を段階的に置き換えることにより作製された。本発明は、細胞毒性組成物を作製する方法であって、(a)高い親和性でCD3に特異的に結合する、例えば約40nM未満の結合親和性EC50値を示す第1の抗体から得られる第1の重鎖のアミノ酸配列を特定することと、(b)第1の抗体の重鎖可変領域内の選択されたアミノ酸残基を改質して、改質抗体を生成することと、(c)改質抗体を、標的腫瘍抗原に特異的に結合する第2の抗体から得られる第2の重鎖と対形成して、二重特異性抗体を生成することと、(d)二重特異性抗体を結合親和性アッセイにおいて試験することと、CD3に対する結合親和性が約40nM超、もしくは100nM超、もしくは300nM超、もしくは500nM超のEC50値を有する、または検出可能な結合がない場合、(e)二重特異性抗体及び薬学的に許容される担体または希釈剤を含む組成物を調製することとを含む方法を提供する。選択された抗体の重鎖可変領域を改質して、弱い親和性を有する、または親和性を有しない抗原結合アームを設計しながらもエフェクター細胞を特異的に標的化することに加えて、本発明は、本明細書において、各結合アームの重鎖定常領域(例えばC3ドメイン)を改質して二重特異性抗体を調製及び単離する方法を提供する。
【0047】
例示的な方法は、細胞毒性二重特異性抗体を生成する方法であって、(a)複数の種から、エフェクター細胞抗原と相互作用する第1のヒト抗体またはその抗原結合断片を特定することと;(b)ヒト抗体の重鎖可変領域(HCVR)の生殖細胞系列アミノ酸残基を特定することと;(c)第1のヒト抗体のHCVRのアミノ酸配列を、対応する生殖細胞系列HCVRのアミノ酸配列と比較することと;(d)第1の抗体のHCVRの改質領域内のアミノ酸を特定することであって、第1の抗体内の改質領域は、生殖細胞系列HCVR内の同じ領域と比較して、単一アミノ酸残基の置換、欠失または付加による少なくとも1つのアミノ酸改質を示す、特定することと;(e)それぞれHCVRの少なくとも1つの改質領域を含む複数の改質抗体を生成することと;(f)複数の改質抗体のそれぞれを、エフェクター細胞抗原に対する一価親和性に関してスクリーニングすることと;(g)第1の抗体と比較してエフェクター細胞抗原へのより弱い結合親和性を示す、または検出可能な結合親和性を示さない改質抗体を選択することと;(h)選択された第1の抗体を腫瘍関連抗原と相互作用する第2の抗体と対形成し、細胞毒性二重特異性抗体を生成することとを含む方法を提供する。
【0048】
別の態様において、本発明は、CD3に特異的に結合する組み換えヒト二重特異性抗体またはその断片、及び薬学的に許容される担体を含む薬学的組成物を提供する。関連する態様において、本発明は、抗CD3抗体及び第2の治療薬剤の組み合わせである組成物を特徴とする。一実施形態において、第2の治療薬剤は、抗CD3抗体と有利に組み合わされる任意の薬剤である。抗CD3抗体と有利に組み合わされ得る例示的な薬剤は、限定されることなく、CD3に結合する、及び/もしくはCD3シグナル伝達を活性化する他の薬剤(他の抗体もしくはその抗原結合断片等を含む)、ならびに/またはCD3に直接結合しないにもかかわらず、免疫細胞を活性化する、もしくは免疫細胞活性化を刺激する薬
剤を含む。本発明の抗CD3抗体を含む追加的な組み合わせ治療及び配合製剤は、本明細書の別の箇所で開示される。
【0049】
さらに別の態様において、本発明は、本発明の抗CD3抗体または抗体の抗原結合部分を使用してT細胞活性化を刺激するための治療方法を提供し、治療方法は、本発明の二重特異性抗体、またはその抗原結合断片を含む治療有効量の薬学的組成物を、それを必要とする対象に投与することを含む。処置される障害は、腫瘍関連抗原に標的化された細胞毒性治療により改善、寛解、阻害または予防される任意の疾患または状態、例えばがんである。
【0050】
別の態様によれば、本発明は、CD3及び標的抗原、特に腫瘍関連抗原(TAA)に結合する二重特異性抗原結合分子を提供する。
【0051】
本発明はまた、TAA発現に関連する、またはそれにより引き起こされる疾患または障害の処置のための医薬の製造における、本発明の抗CD3/抗TAA二重特異性抗原結合分子の使用を含む。本発明はまた、TAA発現に関連する、またはそれにより引き起こされる疾患または障害の処置のための医薬の製造における、CD3発現エフェクター細胞に対する高い親和性を示す抗CD3/抗TAA二重特異性抗原結合分子と比較してCD3発現エフェクター細胞に対する弱い親和性及び低減されたクリアランスを示す抗CD3/抗TAA二重特異性抗原結合分子の使用を提供する。
【0052】
他の実施形態は、続く発明を実施するための形態を考察することにより明らかとなるだろう。
【図面の簡単な説明】
【0053】
図1-1】以下の抗体重鎖可変領域(HCVR)配列のアミノ酸の列を示す図である:生殖細胞系列hIgHV(配列番号181);CD3-VH-P(配列番号154);CD3-VH-G(配列番号2);CD3-VH-G2(配列番号10);CD3-VH-G3(配列番号18);CD3-VH-G4(配列番号26);CD3-VH-G5(配列番号34);CD3-VH-G8(配列番号42);CD3-VH-G9(配列番号50);CD3-VH-G10(配列番号58);CD3-VH-G11(配列番号66);CD3-VH-G12(配列番号74);CD3-VH-G13(配列番号82);CD3-VH-G14(配列番号90);CD3-VH-G15(配列番号98);CD3-VH-G16(配列番号106);CD3-VH-G17(配列番号114);CD3-VH-G18(配列番号122);CD3-VH-G19(配列番号130);CD3-VH-G20(配列番号138);及びCD3-VH-G21(配列番号146)。各誘導HCVRは、親抗体及び生殖細胞系列アミノ酸残基と比較され、四角形のボックスはCDR内の突然変異を指す。
図1-2】図1-1の続き。
図2A】野生型マウス(図2A)、ヒト化CD3マウス(図2B)及びヒト化MUC16×CD3マウス(図2C)における、BSMUC16/CD3-001、BSMUC16/CD3-005及びアイソタイプ対照抗体の単回0.4mg/kg腹腔内注射後の血清中の全IgGの平均濃度を示す図である。
図2B】野生型マウス(図2A)、ヒト化CD3マウス(図2B)及びヒト化MUC16×CD3マウス(図2C)における、BSMUC16/CD3-001、BSMUC16/CD3-005及びアイソタイプ対照抗体の単回0.4mg/kg腹腔内注射後の血清中の全IgGの平均濃度を示す図である。
図2C】野生型マウス(図2A)、ヒト化CD3マウス(図2B)及びヒト化MUC16×CD3マウス(図2C)における、BSMUC16/CD3-001、BSMUC16/CD3-005及びアイソタイプ対照抗体の単回0.4mg/kg腹腔内注射後の血清中の全IgGの平均濃度を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0054】
本発明を説明する前に、本発明は説明される特定の方法及び実験条件に限定されず、したがって方法及び条件は変動し得ることが理解されるべきである。また、本発明の範囲は添付の特許請求の範囲によってのみ限定されるため、本明細書において使用される専門用語は、特定の実施形態を説明するためだけを目的とし、限定を意図しないことが理解されるべきである。
【0055】
別段に定義されていない限り、本明細書において使用されている技術的及び科学的用語はすべて、本発明が属する技術分野の当業者により一般的に理解されているのと同じ意味を有する。本明細書において使用されるように、「約」という用語は、特定の列挙された数値を参照して使用される場合、その値が列挙された値から1%以内で変動し得ることを意味する。例えば、本明細書において使用される場合、「約100」という表現は、99及び101、ならびにその間の全ての値(例えば、99.1、99.2、99.3、99.4等)を含む。
【0056】
本明細書において説明されているのと同様または同等のいかなる方法及び材料も、本発明の実践または試験に使用することができるが、好ましい方法及び材料がここで説明される。
【0057】
定義
「CD3」という表現は、多分子T細胞受容体(TCR)の一部としてT細胞上に発現し、CD3-イプシロン、CD3-デルタ、CD3-ゼータ、及びCD3-ガンマの4つの受容体鎖のうちの2つの会合から形成されるホモ二量体またはヘテロ二量体からなる抗原を指す。ヒトCD3-イプシロン(hCD3ε)は、配列番号169(UniProtKB/Swiss-Prot:P07766.2)に記載のようなアミノ酸配列を含む。ヒトCD3-デルタ(hCD3δ)は、配列番号170(UniProtKB/Swiss-Prot:P04234.1)に記載のようなアミノ酸配列を含む。本明細書において、タンパク質、ポリペプチド及びタンパク質断片への全ての言及は、非ヒト種からのものであることが明示的に指定されない限り、各タンパク質、ポリペプチドまたはタンパク質断片のヒトバージョンを指すことを意図する。したがって、「CD3」という表現は、非ヒト種からのもの、例えば「マウスCD3」、「サルCD3」等であることが指定されない限り、ヒトCD3を意味する。
【0058】
「CD3に結合する抗体」または「抗CD3抗体」という語句は、単一CD3サブユニット(例えば、イプシロン、デルタ、ガンマまたはゼータ)を特異的に認識及びそれに会合する抗体及びその抗原結合断片、ならびに、2つのCD3サブユニットの二量体複合体(例えば、イプシロン/デルタ、イプシロン/ガンマ、及びゼータ/ゼータCD3二量体)を特異的に認識及びそれに会合する抗体及びその抗原結合断片を含む。本発明の抗体及び抗原結合断片は、可溶性CD3、結合CD3及び/または細胞表面発現CD3に結合し得る。可溶性CD3は、天然CD3タンパク質、ならびに膜貫通ドメインを有しないまたは別様に細胞膜に関連していない組み換えCD3タンパク質変異体、例えば単量体及び二量体CD3コンストラクト等を含む。本発明は、弱い結合親和性で、または検出可能な結合親和性を示さずに、ヒト及びカニクイザルCD3に結合及びそれらを活性化する抗体を提供する。「検出可能な結合親和性を示さずにCD3に結合する」とは、抗体及びまたは抗原結合断片のCD3標的との相互作用が、既知の検出アッセイ、例えば本明細書に記載のようなFACS(細胞ベース)結合アッセイまたは本明細書に記載のような当技術分野において周知の表面プラズモン共鳴結合アッセイにより測定可能または検出可能でなくてもよいことを意味する。他の結合アッセイは、当技術分野において周知である。抗体及び
または抗原結合断片は、非常に弱いタンパク質-タンパク質生化学的相互作用によりCD3標的を認識し得るが、相互作用がアッセイの検出限界を超えている、例えば測定値が決定され得ないため、特定のKDまたはEC50値の決定は測定され得ない。別の場合において、「検出可能な結合親和性を示さない」とは、K値に対応する抗体の親和性が、非特異性抗原、例えばBSA、カゼイン等の10分の1以下である場合に決定される。「弱い結合親和性でCD3に結合する」とは、結合親和性測定値が、アッセイの検出限界値である、もしくはそれより若干大きい、または、非特異性抗原に対する結合親和性に等しい相互作用を含む。
【0059】
「細胞表面発現CD3」という表現は、CD3タンパク質の少なくとも一部が細胞膜の細胞外側に曝露され、抗体の抗原結合部分に到達可能であるように、in vitroまたはin vivoで細胞の表面上に発現する1つ以上のCD3タンパク質を意味する。「細胞表面発現CD3」は、細胞の膜内の機能性T細胞受容体に関連して含有されるCD3タンパク質を含む。「細胞表面発現CD3」という表現は、細胞の表面上のホモ二量体またはヘテロ二量体(例えば、デルタ/イプシロン、ガンマ/イプシロン、及びゼータ/ゼータCD3二量体)の一部として発現したCD3タンパク質を含む。「細胞表面発現CD3」という表現はまた、細胞の表面上に他のCD3鎖型なしで単独で発現するCD3鎖(例えば、CD3-デルタ、CD3-イプシロンまたはCD3-ガンマ)を含む。「細胞表面発現CD3」は、通常CD3タンパク質を発現する細胞の表面上に発現したCD3タンパク質を含む、またはそれからなってもよい。代替として、「細胞表面発現CD3」は、通常はその表面上にヒトCD3を発現しないが、その表面上にCD3を発現するように人工的に改変された細胞の表面上に発現したCD3を含む、またはそれからなってもよい。
【0060】
エフェクター細胞は、エフェクターT細胞(Tリンパ球)、例えばCD4+T細胞、CD8+T細胞、Th1、Th2及び制御性T細胞(Tregs)を含む。エフェクター細胞はまた、ナチュラルキラー(NK)細胞、マクロファージ、顆粒球、形質細胞、またはB細胞(リンパ球)を含み得る。治療は、エフェクター細胞表面受容体、例えばCD3(T細胞表面受容体)、CD28(T細胞)、Fcγ受容体(FcγR)(NK細胞、活性化マクロファージ等)とのIg相互作用により、過剰の細胞媒介免疫反応、またはエフェクター機能を媒介し得ることが理解される。続いて、これらの相互作用により、エフェクター機能、例えば細胞死滅、補体活性化、食作用及びオプソニン作用が誘発される。エフェクター細胞及び腫瘍標的細胞への結合は、腫瘍細胞死滅を伝播し、腫瘍またはがんと闘う内因性免疫機能を誘引する、価値のある効果的な免疫治療設計を可能にする。
【0061】
「抗CD3抗体」という表現は、単一の特異性を有する一価抗体、ならびにCD3に結合する第1のアーム及び第2の(標的)抗原に結合する第2のアームを含む二重特異性抗体の両方を含み、抗CD3アームは、本明細書における表2、3、4及び/または5に記載のようなHCVR/LCVRまたはCDR配列のいずれかを含む。抗CD3二重特異性抗体の例は、本明細書の別の箇所で説明される。「抗原結合分子」という用語は、例えば二重特異性抗体を含む抗体及び抗体の抗原結合断片を含む。
【0062】
「抗体」という用語は、特定の抗原(例えばCD3)に特異的に結合する、またはそれと相互作用する少なくとも1つの相補性決定領域(CDR)を含む、任意の抗原結合分子または分子複合体を含む。「抗体」という用語は、ジスルフィド結合により相互接続された4つのポリペプチド鎖、2つの重(H)鎖及び2つの軽(L)鎖を含む免疫グロブリン分子、ならびにそれらの多量体(例えばIgM)を含む。各重鎖は、重鎖可変領域(本明細書においてHCVRまたはVと略記される)及び重鎖定常領域を含む。重鎖定常領域は、3つのドメイン、C1、C2及びC3を含む。各軽鎖は、軽鎖可変領域(本明細書においてLCVRまたはVと略記される)及び軽鎖定常領域を含む。軽鎖定常領域
は、1つのドメイン(C1)を含む。V及びV領域は、さらに、フレームワーク領域(FR)と呼ばれるより保存された領域と共に散在した、相補性決定領域(CDR)と呼ばれる超可変性の領域にさらに分割され得る。各V及びVは、FR1、CDR1、FR2、CDR2、FR3、CDR3、FR4の順番でアミノ末端からカルボキシ末端まで配列した3つのCDR及び4つのFRで構成される。本発明の異なる実施形態において、抗CD3抗体(またはその抗原結合部分)のFRは、ヒト生殖細胞系列配列と同一であってもよく、または自然もしくは人工的に改質されてもよい。アミノ酸コンセンサス配列は、2つ以上のCDRの比較分析に基づいて決定され得る。
【0063】
「抗体」という用語はまた、完全抗体分子の抗原結合断片を含む。抗体の「抗原結合部分」、抗体の「抗原結合断片」等という用語は、本明細書において使用される場合、抗原と特異的に結合して複合体を形成する、任意の自然発生的な、酵素的に得られた、合成的な、または遺伝子改変されたポリペプチドまたは糖タンパク質を含む。抗体の抗原結合断片は、任意の好適な標準的技術、例えばタンパク分解、または、抗体可変及び任意選択で定常ドメインをコードするDNAの操作及び発現を含む組み換え遺伝子改変技術を使用して、例えば完全抗体分子から得ることができる。そのようなDNAは既知であり、及び/または例えば商業的供給源、DNAライブラリ(例えばファージ-抗体ライブラリを含む)から容易に入手可能であり、または合成されてもよい。例えば、1つ以上の可変及び/もしくは定常ドメインを好適な構成に配置させるために、またはコドンを導入する、システイン残基を形成する、アミノ酸を改質、付加もしくは欠失させる等のため、DNAが配列決定されてもよく、また化学的にまたは分子生物学技術により操作されてもよい。
【0064】
抗原結合断片の限定されない例は、(i)Fab断片;(ii)F(ab´)2断片;(iii)Fd断片;(iv)Fv断片;(v)単鎖Fv(scFv)分子;(vi)dAb断片;及び(vii)抗体の超可変領域(例えば単離された相補性決定領域(CDR)、例えばCDR3ペプチド)または制限FR3-CDR3-FR4ペプチドを模倣するアミノ酸残基からなる最小認識単位を含む。他の改変された分子、例えばドメイン特異性抗体、単一ドメイン抗体、ドメイン欠失抗体、キメラ抗体、CDRグラフト抗体、ジアボディ、トリアボディ、テトラボディ、ミニボディ、ナノボディ(例えば一価ナノボディ、二価ナノボディ等)、小モジュラー免疫薬(SMIP)、及びサメ可変IgNARドメインもまた、本明細書において使用されるような「抗原結合断片」という表現に包含される。
【0065】
抗体の抗原結合断片は、典型的には、少なくとも1つの可変ドメインを含む。可変ドメインは、任意のサイズまたはアミノ酸組成物であってもよく、一般に、1つ以上のフレームワーク配列に隣接する、またはインフレームである少なくとも1つのCDRを含む。Vドメインに会合したVドメインを有する抗原結合断片において、V及びVドメインは、任意の好適な配置で互いに相対的に位置してもよい。例えば、可変領域は、二量体であってもよく、V-V、V-VまたはV-V二量体を含有してもよい。代替として、抗体の抗原結合断片は、単量体VまたはVドメインを含有してもよい。
【0066】
ある特定の実施形態において、抗体の抗原結合断片は、少なくとも1つの定常ドメインに共有結合した少なくとも1つの可変ドメインを含有してもよい。本発明の抗体の抗原結合断片内に見ることができる可変及び定常ドメインの限定されない例示的構成は、(i)V-C1;(ii)V-C2;(iii)V-C3;(iv)V-C1-C2;(v)V-C1-C2-C3;(vi)V-C2-C3;(vii)V-C;(viii)V-C1;(ix)V-C2;(x)V-C3;(xi)V-C1-C2;(xii)V-C1-C2-C3;(xiii)V-C2-C3;及び(xiv)V-Cを含む。上で列挙された例示的構成のいずれかを含む可変及び定常ドメインのいずれかの構成において、可変及び定常
ドメインは、互いに直接結合してもよく、または完全もしくは部分ヒンジもしくはリンカー領域により結合してもよい。ヒンジ領域は、単一ポリペプチド分子内の隣接する可変及び/または定常ドメイン間の柔軟性または半柔軟性の連結をもたらす、少なくとも2個(例えば、5個、10個、15個、20個、40個、60個またはそれ超)のアミノ酸からなってもよい。さらに、本発明の抗体の抗原結合断片は、互いに、及び/または1つ以上の単量体VもしくはVドメインと非共有結合的に会合した(例えばジスルフィド結合(複数可)により)、上で列挙された可変及び定常ドメイン構成のいずれかのホモ二量体またはヘテロ二量体(または他の多量体)を含んでもよい。
【0067】
完全抗体分子と同様に、抗原結合断片は、単一特異性または多重特異性(例えば二重特異性)であってもよい。抗体の多重特異性抗原結合断片は、典型的には、少なくとも2つの異なる可変ドメインを含み、各可変ドメインは、別個の抗原に、または同じ抗原上の異なるエピトープに特異的に結合することができる。本明細書において開示される例示的な二重特異性抗体形式を含む任意の多重特異性抗体形式が、当技術分野において利用可能な慣例的技術を使用して、本発明の抗体の抗原結合断片に関連した使用に適合され得る。
【0068】
本発明の抗体は、補体依存性細胞傷害(CDC)または抗体依存性細胞媒介細胞傷害(ADCC)を通して機能し得る。「補体依存性細胞傷害」(CDC)は、補体の存在下での本発明の抗体による抗原発現細胞の溶解を指す。「抗体依存性細胞媒介細胞傷害」(ADCC)は、Fc受容体(FcR)を発現する非特異性細胞傷害性細胞(例えば、ナチュラルキラー(NK)細胞、好中球、及びマクロファージ)が標的細胞上の結合抗体を認識し、それにより標的細胞の溶解をもたらす細胞媒介反応を指す。CDC及びADCCは、当技術分野において周知及び利用可能なアッセイを使用して測定され得る。(例えば、米国特許第5,500,362号及び米国特許第5,821,337号、ならびにClynes et al.(1998) Proc.Natl.Acad.Sci.(USA)
95:652-656を参照されたい)。抗体の定常領域は、補体を修復して細胞依存性細胞傷害を媒介する抗体の能力において重要である。したがって、抗体のアイソタイプは、抗体が細胞傷害性を媒介することが望ましいかどうかに基づいて選択され得る。
【0069】
本発明のある特定の実施形態において、本発明の抗CD3抗体(単一特異性または二重特異性)は、ヒト抗体である。「ヒト抗体」という用語は、本明細書において使用される場合、ヒト生殖細胞系列免疫グロブリン配列から得られる可変及び定常領域を有する抗体を含むことを意図する。本発明のヒト抗体は、例えばCDR、特にCDR3において、ヒト生殖細胞系列免疫グロブリン配列によりコードされないアミノ酸残基(例えば、in vitroでのランダムもしくは部位特異的突然変異生成により、またはin vivoでの体細胞突然変異により導入された突然変異)を含んでもよい。しかしながら、「ヒト抗体」という用語は、本明細書において使用される場合、マウス等の別の哺乳動物種の生殖細胞系列から得られたCDR配列がヒトフレームワーク配列上にグラフトされた抗体を含むことを意図しない。
【0070】
「組み換えヒト抗体」という用語は、組み換え手段により調製、発現、形成または単離される全てのヒト抗体、例えば、宿主細胞内にトランスフェクトされた組み換え発現ベクターを使用して発現された抗体(以下でさらに説明される)、組み換えコンビナトリアルヒト抗体ライブラリから単離された抗体(以下でさらに説明される)、ヒト免疫グロブリン遺伝子に導入される、動物(例えばマウス)から単離された抗体(例えば、Taylor et al.(1992) Nucl.Acids Res.20:6287-6295を参照されたい)、または、ヒト免疫グロブリン遺伝子配列の他のDNA配列へのスプライシングを含む任意の他の手段により調製、発現、形成もしくは単離された抗体を含むことを意図する。そのような組み換えヒト抗体は、ヒト生殖細胞系列免疫グロブリン配列から得られる可変及び定常領域を有する。しかしながら、ある特定の実施形態において
、そのような組み換えヒト抗体は、in vitro突然変異生成(または、ヒトIg配列に導入される動物が使用される場合は、in vivo体細胞突然変異生成)に供され、したがって、組み換え抗体のV及びV領域のアミノ酸配列は、ヒト生殖細胞系列V及びV配列から得られる、及びそれに関連するものの、in vivoでヒト抗体生殖細胞系列レパートリー内に必ずしも自然に存在するとは限らない配列である。
【0071】
ヒト抗体は、ヒンジ異質性に関連する2つの形態で存在し得る。1つの形態において、免疫グロブリン分子は、約150~160kDaの安定な4つの鎖コンストラクトを含み、二量体は、鎖間重鎖ジスルフィド結合により互いに保持されている。第2の形態において、二量体は、鎖間ジスルフィド結合により連結せず、共有結合した軽鎖及び重鎖で構成された約75~80kDaの分子が形成される(半抗体)。これらの形態は、親和性精製後であっても分離が極めて困難であった。
【0072】
様々な無傷IgGアイソタイプにおける第2の形態の出現頻度は、これに限定されないが、抗体のヒンジ領域アイソタイプに関連する構造的な差に起因する。ヒトIgG4ヒンジのヒンジ領域における単一アミノ酸置換は、第2の形態の出現を、ヒトIgG1ヒンジを使用して典型的に観察されるレベルまで著しく低減し得る(Angal et al.(1993) Molecular Immunology 30:105)。本発明は、例えば生成において所望の抗体形態の収率を改善するために望ましくなり得る、ヒンジC2またはC3領域において1つ以上の突然変異を有する抗体を包含する。
【0073】
本発明の抗体は、単離された抗体であってもよい。「単離された抗体」は、本明細書において使用される場合、その自然環境の少なくとも1つの成分から特定及び分離、ならびに/または回収された抗体を意味する。例えば、生物の少なくとも1つの成分から、または抗体が自然に存在する、もしくは自然に生成される組織もしくは細胞から分離または除去された抗体は、本発明の目的において「単離された抗体」である。単離された抗体はまた、組み換え細胞内のin situの抗体を含む。単離された抗体は、少なくとも1つの精製または単離ステップに供された抗体である。ある特定の実施形態によれば、単離された抗体は、他の細胞物質及び/または化学物質を実質的に含まなくてもよい。
【0074】
本発明はまた、CD3に結合する単一アーム抗体を含む。「単一アーム抗体」という語句は、単一抗体重鎖及び単一抗体軽鎖を含む抗原結合分子を意味する。本発明の単一アーム抗体は、本明細書における表2に記載のようなHCVR/LCVRまたはCDRアミノ酸配列のいずれかを含んでもよい。
【0075】
「エピトープ」という用語は、パラトープとして知られる抗体分子の可変領域における特定の抗原結合部位と相互作用する抗原決定因子を指す。単一の抗原は、2つ以上のエピトープを有し得る。したがって、異なる抗体は、抗原上の異なるエリアに結合し得、また異なる生物学的効果を有し得る。エピトープは、立体構造または直線状であってもよい。立体構造エピトープは、直線状ポリペプチド鎖の異なるセグメントから空間的に並置されたアミノ酸により生成される。直線状エピトープは、ポリペプチド鎖における隣接するアミノ酸残基により生成されるものである。ある特定の状況において、エピトープは、抗原上のサッカリド、ホスホリル基、またはスルホニル基の部分を含んでもよい。
【0076】
「実質的な同一性」または「実質的に同一」という用語は、核酸またはその断片に言及する場合、別の核酸(またはその相補鎖)と適切なヌクレオチド挿入または欠失と共に最適に整列された際に、以下で議論されるようなFASTA、BLASTまたはGap等の配列同一性の任意の周知のアルゴリズムにより測定されるように、ヌクレオチド塩基の少なくとも約95%、及びより好ましくは少なくとも約96%、97%、98%または99%においてヌクレオチド配列同一性が存在することを示す。参照核酸分子との実質的な同
一性を有する核酸分子は、ある特定の場合において、参照核酸分子によりコードされるポリペプチドと同じまたは実質的に同様のアミノ酸配列を有するポリペプチドをコードし得る。
【0077】
ポリペプチドに適用される場合、「実質的な類似性」または「実質的に同様」という用語は、2つのペプチド配列が、例えばGAPまたはBESTFITのプログラムにより初期ギャップ重みを使用して最適に整列された場合、少なくとも95%の配列同一性、さらにより好ましくは少なくとも98%または99%の配列同一性を共有することを意味する。好ましくは、同一ではない残基位置は、保存的アミノ酸置換により異なる。「保存的アミノ酸置換」は、アミノ酸残基が、同様の化学的特性(例えば、電荷または疎水性)を有する側鎖(R基)を有する別のアミノ酸残基により置換されているものである。一般に、保存的アミノ酸置換は、タンパク質の機能的特性を実質的に変化させない。2つ以上のアミノ酸配列が保存的置換により互いに異なる場合、パーセント配列同一性または類似性の程度は、置換の保存的性質を補正するために上方に調節され得る。この調節を行うための手段は、当業者に周知である。例えば、Pearson(1994) Methods Mol.Biol.24:307-331を参照されたい。同様の化学的特性を有する側鎖を有するアミノ酸の群の例は、(1)脂肪族側鎖:グリシン、アラニン、バリン、ロイシン及びイソロイシン;(2)脂肪族-ヒドロキシル側鎖:セリン及びトレオニン;(3)アミド含有側鎖:アスパラギン及びグルタミン;(4)芳香族側鎖:フェニルアラニン、チロシン、及びトリプトファン;(5)塩基性側鎖:リシン、アルギニン、及びヒスチジン;(6)酸性側鎖:アスパルテート及びグルタメート、ならびに(7)硫黄含有側鎖であるシステイン及びメチオニンを含む。好ましい保存的アミノ酸置換基は、バリン-ロイシン-イソロイシン、フェニルアラニン-チロシン、リシン-アルギニン、アラニン-バリン、グルタメート-アスパルテート、及びアスパラギン-グルタミンである。代替として、保存的な置き換えは、Gonnet et al.(1992) Science
256:1443-1445において開示されるPAM250対数尤度行列において正の値を有する任意の変化である。「中程度に保存的」な置き換えは、PAM250対数尤度行列において非負値を有する任意の変化である。
【0078】
配列同一性とも呼ばれるポリペプチドの配列類似性は、典型的には配列分析ソフトウェアを使用して測定される。タンパク質分析ソフトウェアは、保存的アミノ酸置換を含む様々な置換、欠失及び他の改質に割り当てられた類似性の尺度を使用して、同様の配列をマッチさせる。例えば、GCGソフトウェアは、異なる種の生物からの相同性ポリペプチド等の密接に関連したポリペプチド間、または野生型タンパク質とその突然変異タンパク質との間の配列相同性または配列同一性を決定するために初期パラメータと共に使用され得るGap及びBestfit等のプログラムを含有する。例えば、GCG Version
6.1を参照されたい。ポリペプチド配列はまた、GCG Version 6.1におけるプログラムである、初期または推奨パラメータを使用したFASTAを使用して比較され得る。FASTA(例えば、FASTA2及びFASTA3)は、クエリと検索配列との間の最善重複領域の整列及びパーセント配列同一性を提供する(Pearson(2000)、上記参照)。本発明の配列を、異なる生物からの多数の配列を含むデータベースと比較する際の別の好ましいアルゴリズムは、初期パラメータを使用したコンピュータプログラムであるBLAST、特にBLASTPまたはTBLASTNである。例えば、Altschul et al.(1990) J.Mol.Biol.215:403-410及びAltschul et al.(1997) Nucleic Acids Res.25:3389-402を参照されたい。
【0079】
生殖細胞系列突然変異
本明細書において開示される抗CD3抗体は、抗体が得られた対応する生殖細胞系列配列と比較して、重鎖可変ドメインのフレームワーク及び/またはCDR領域における1つ
以上のアミノ酸置換、挿入及び/または欠失を含む。
【0080】
本発明はまた、本明細書において開示されるアミノ酸配列のいずれかから得られる抗体及びその抗原結合断片を含み、1つ以上のフレームワーク及び/またはCDR領域内の1つ以上のアミノ酸は、抗体が得られた生殖細胞系列配列の対応する残基(複数可)に、または別のヒト生殖細胞系列配列の対応する残基(複数可)に、または対応する生殖細胞系列残基(複数可)の保存的アミノ酸置換に突然変異し(そのような配列変化は、本明細書において、集合的に「生殖細胞系列突然変異」と呼ばれる)、CD3抗原に対する弱い結合を有するか、または検出可能な結合を有しない。CD3を認識するいくつかのそのような例示的抗体は、本明細書の表2に記載されている。
【0081】
さらに、本発明の抗体は、フレームワーク及び/またはCDR領域内に2つ以上の生殖細胞系列突然変異の任意の組み合わせを含有してもよく、例えば、ある特定の個々の残基が特定の生殖細胞系列配列の対応する残基に突然変異し、一方、元の生殖細胞系列配列とは異なるある特定の他の残基は、維持されるか、または異なる生殖細胞系列配列の対応する残基に突然変異する。一旦得られたら、1つ以上の生殖細胞系列突然変異を含有する抗体及び抗原結合断片は、1つ以上の所望の特性、例えば改善された結合特異性、弱いまたは低減された結合親和性、改善または向上した薬物動態特性、低減された免疫原性等に関して試験され得る。本開示の指針を考慮してこの一般的な様式で得られた抗体及び抗原結合断片は、本発明に包含される。
【0082】
本発明はまた、1つ以上の保存的置換を有する本明細書において開示されるHCVR、LCVR、及び/またはCDRアミノ酸配列のいずれかの変異体を含む抗CD3抗体を含む。例えば、本発明は、本明細書の表2に記載のHCVR、LCVR、及び/またはCDRアミノ酸配列のいずれかに対して、例えば10個以下、8個以下、6個以下、4個以下等の保存的アミノ酸置換を有するHCVR、LCVR、及び/またはCDRアミノ酸配列を有する抗CD3抗体を含む。本発明の抗体及び二重特異性抗原結合分子は、個々の抗原結合ドメインが得られた対応する生殖細胞系列配列と比較して、重鎖及び軽鎖可変ドメインのフレームワーク及び/またはCDR領域において1つ以上のアミノ酸置換、挿入及び/または欠失を含む一方で、CD3抗原に対する所望の弱い結合から検出不可能な結合を維持または改善する。「保存的アミノ酸置換」は、アミノ酸残基が、同様の化学的特性(例えば、電荷または疎水性)を有する側鎖(R基)を有する別のアミノ酸残基により置換されているものである。一般に、保存的アミノ酸置換は、タンパク質の機能的特性を実質的に変化させず、すなわち、アミノ酸置換は、抗CD3結合分子の場合、所望の弱い結合親和性から検出不可能な結合親和性を維持または改善する。同様の化学的特性を有する側鎖を有するアミノ酸の群の例は、(1)脂肪族側鎖:グリシン、アラニン、バリン、ロイシン及びイソロイシン;(2)脂肪族-ヒドロキシル側鎖:セリン及びトレオニン;(3)アミド含有側鎖:アスパラギン及びグルタミン;(4)芳香族側鎖:フェニルアラニン、チロシン、及びトリプトファン;(5)塩基性側鎖:リシン、アルギニン、及びヒスチジン;(6)酸性側鎖:アスパルテート及びグルタメート、ならびに(7)硫黄含有側鎖であるシステイン及びメチオニンを含む。好ましい保存的アミノ酸置換基は、バリン-ロイシン-イソロイシン、フェニルアラニン-チロシン、リシン-アルギニン、アラニン-バリン、グルタメート-アスパルテート、及びアスパラギン-グルタミンである。代替として、保存的な置き換えは、Gonnet et al.(1992) Science
256:1443-1445において開示されるPAM250対数尤度行列において正の値を有する任意の変化である。「中程度に保存的」な置き換えは、PAM250対数尤度行列において非負値を有する任意の変化である。
【0083】
本発明はまた、本明細書において開示されるHCVR及び/またはCDRアミノ酸配列のいずれかと実質的に同一のHCVR及び/またはCDRアミノ酸配列を有する抗原結合
ドメインを含む一方で、CD3抗原に対する所望の弱い親和性を維持または改善する抗原結合分子を含む。アミノ酸配列に言及する場合、「実質的な同一性」または「実質的に同一」という用語は、2つのアミノ酸配列が、例えばGAPまたはBESTFITのプログラムにより初期ギャップ重みを使用して最適に整列された場合、少なくとも95%の配列同一性、さらにより好ましくは少なくとも98%または99%の配列同一性を共有することを意味する。好ましくは、同一ではない残基位置は、保存的アミノ酸置換により異なる。2つ以上のアミノ酸配列が保存的置換により互いに異なる場合、パーセント配列同一性または類似性の程度は、置換の保存的性質を補正するために上方に調節され得る。この調節を行うための手段は、当業者に周知である。例えば、Pearson(1994) Methods Mol.Biol.24:307-331を参照されたい。
【0084】
配列同一性とも呼ばれるポリペプチドの配列類似性は、典型的には配列分析ソフトウェアを使用して測定される。タンパク質分析ソフトウェアは、保存的アミノ酸置換を含む様々な置換、欠失及び他の改質に割り当てられた類似性の尺度を使用して、同様の配列をマッチさせる。例えば、GCGソフトウェアは、異なる種の生物からの相同性ポリペプチド等の密接に関連したポリペプチド間、または野生型タンパク質とその突然変異タンパク質との間の配列相同性または配列同一性を決定するために初期パラメータと共に使用され得るGap及びBestfit等のプログラムを含有する。例えば、GCG Version
6.1を参照されたい。ポリペプチド配列はまた、GCG Version 6.1におけるプログラムである、初期または推奨パラメータを使用したFASTAを使用して比較され得る。FASTA(例えば、FASTA2及びFASTA3)は、クエリと検索配列との間の最善重複領域の整列及びパーセント配列同一性を提供する(Pearson(2000)、上記参照)。本発明の配列を、異なる生物からの多数の配列を含むデータベースと比較する際の別の好ましいアルゴリズムは、初期パラメータを使用したコンピュータプログラムであるBLAST、特にBLASTPまたはTBLASTNである。例えば、Altschul et al.(1990) J.Mol.Biol.215:403-410及びAltschul et al.(1997) Nucleic Acids Res.25:3389-402を参照されたい。
【0085】
一旦得られたら、1つ以上の生殖細胞系列突然変異を含有する抗原結合ドメインは、1つ以上のin vitroアッセイを利用して、減少した結合親和性に関して試験された。特定の抗原を認識する抗体は、典型的には、抗原に対する高い(すなわち強い)結合親和性に関して試験することにより、その目的のためにスクリーニングされるが、本発明の抗体は、弱い結合を示すか、または検出可能な結合を示さない。この一般的な様式で得られた1つ以上の抗原結合ドメインを含む二重特異性抗原結合分子もまた本発明に包含され、親和力駆動型腫瘍治療として有利であることが判明している。
【0086】
予想外の利益、例えば改善された薬物動態特性及び患者への低い毒性が、本明細書に記載の方法から実現され得る。
【0087】
抗体の結合特性
本明細書において使用される場合、抗体、免疫グロブリン、抗体結合断片、またはFc含有タンパク質の、例えば所定の抗原、例えば細胞表面タンパク質またはその断片のいずれかへの結合に関連する「結合」という用語は、典型的には、最低2つの実体または分子構造間の相互作用または会合、例えば抗体-抗原相互作用を指す。
【0088】
例えば、結合親和性は、典型的には、例えばBIAcore 3000機器での表面プラズモン共鳴(SPR)技術により、リガンドとしての抗原、及び検体(もしくは抗リガンド)としての抗体、Ig、抗体結合断片、またはFc含有タンパク質を使用して決定される場合、約10-7M以下、例えば約10-8M以下、例えば約10-9M以下のK
値に対応する。細胞ベース結合戦略、例えば蛍光活性化細胞選別(FACS)結合アッセイもまた慣例的に使用され、FACSデータは、放射性リガンド競合結合及びSPR等の他の方法と良く相関している(Benedict,CA,J Immunol Methods.1997,201(2):223-31;Geuijen,CA,et al.J Immunol Methods.2005,302(1-2):68-77)。
【0089】
したがって、本発明の抗体または抗原結合タンパク質は、非特異性抗原(例えばBSA、カゼイン)に対する結合の親和性の少なくとも10分の1であるK値に対応する親和性を有する、所定の抗原または細胞表面分子(CD3等の受容体)に結合し得る。本発明によれば、K値に対応する抗体の親和性が、非特異性抗原の10分の1以下である場合、これは、検出不可能な結合とみなされ得るが、そのような抗体は、本発明の二重特異性抗体の生成のために第2の抗原結合アームと対形成されてもよい。
【0090】
「K」(M)という用語は、特定の抗体-抗原相互作用の解離平衡定数、または抗原に結合する抗体もしくは抗体結合断片の解離平衡定数を指す。Kと結合親和性との間には反比例関係があり、したがって、K値がより小さいほど、親和性がより高い、すなわちより強い。したがって、「より高い親和性」または「より強い親和性」という用語は、相互作用を形成するより高い能力、したがってより小さいK値に関連し、逆に、「より低い親和性」または「より弱い親和性」という用語は、相互作用を形成するより低い能力、したがってより大きいK値に関連する。いくつかの状況において、特定の分子(例えば抗体)の別の相互作用パートナー分子(例えば抗原Y)に対する結合親和性と比較した、その分子(例えば抗体)の相互作用パートナー分子(例えば抗原X)に対するより高い結合親和性(またはK)は、より大きいK値(より低い、またはより弱い親和性)をより小さいK(より高い、またはより強い親和性)で除すことにより決定される結合比として表現され得、例えば場合によっては5倍または10倍大きい結合親和性として表現される。例えば、「低い親和性」は、より弱い結合相互作用を指す。いくつかの実施形態において、低い結合親和性は、約1nM超のK、約2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、25、30、35超、または約40nM超のKに対応し、そのようなK結合親和性値は、in vitro表面プラズモン共鳴結合アッセイ、または同等の生体分子相互作用検知アッセイにおいて測定される。いくつかの実施形態において、低い結合親和性は、約10nM超のEC50、約15nM超のEC50、20nMのEC50、約25nM超のEC50、30nMのEC50、約35nM超のEC50、または約40nM超のEC50に対応し、そのようなEC50結合親和性値は、in vitro FACS結合アッセイ、または同等の細胞ベース結合アッセイにおいて測定される。「弱い親和性」は、弱い結合相互作用を指す。いくつかの実施形態において、弱い結合親和性は、約100nM超のKまたはEC50、約200超、300、または約500nM超のKまたはEC50に対応し、そのようなK結合親和性値は、in vitro表面プラズモン共鳴結合アッセイ、または同等の生体分子相互作用検知アッセイにおいて測定され、そのようなEC50結合親和性値は、in vitro FACS結合アッセイ、または一価結合を検出するための同等の細胞ベース相互作用検出アッセイにおいて測定される。検出可能な結合を示さないとは、2つの生体分子間、例えば、特に一価抗体結合アームとその標的抗原との間の親和性が、使用されているアッセイの検出限界を超えていることを意味する。
【0091】
「k」(sec-1または1/s)という用語は、特定の抗体-抗原相互作用の解離速度定数、または抗体もしくは抗体結合断片の解離速度定数を指す。前記値はまた、koff値とも呼ばれる。
【0092】
「k」(M-1×sec-1または1/M)という用語は、特定の抗体-抗原相互作用の会合速度定数、または抗体もしくは抗体結合断片の会合速度定数を指す。
【0093】
「k」(M-1または1/M)という用語は、特定の抗体-抗原相互作用の会合平衡定数、または抗体もしくは抗体結合断片の会合平衡定数を指す。会合平衡定数は、kをkで除すことにより得られる。
【0094】
「EC50」または「EC50」という用語は、特定の曝露時間後にベースラインと最大値との間の半分の反応を誘引する抗体の濃度を含む、最大半量有効濃度を指す。EC50は、本質的に、その最大効果の50%が観察される抗体の濃度を表す。ある特定の実施形態において、EC50値は、例えばFACS結合アッセイにより決定されるように、CD3または腫瘍関連抗原を発現する細胞に対する最大半量の結合を示す本発明の抗体の濃度に等しい。したがって、増加したEC50値または最大半量有効濃度値では、低減された、またはより弱い結合が観察され、したがって、500nMのEC50は、50nMのEC50よりも弱い結合親和性を示す。
【0095】
一実施形態において、減少した結合は、増加したEC50抗体濃度として定義され得、これは、標的細胞の最大半量に対する結合を可能にする。
【0096】
他の実験測定において、EC50値は、T細胞の細胞傷害活性による標的細胞の最大半量枯渇を惹起する本発明の抗体の濃度を表す。したがって、増加した細胞傷害活性(例えば、T細胞媒介腫瘍細胞死滅)は、減少したEC50、または最大半量有効濃度値で観察される。
【0097】
二重特異性抗原結合分子
本発明の抗体は、二重特異性または多重特異性であってもよい。多重特異性抗体は、1つの標的ポリペプチドの異なるエピトープと組み合わせた1つのエフェクター分子、例えばCD3に特異的であってもよく、または、2つ以上の標的ポリペプチドに特異的な抗原結合ドメインを含有してもよい。例えば、Tutt et al.,1991,J.Immunol.147:60-69;Kufer et al.,2004,Trends
Biotechnol.22:238-244を参照されたい。本発明の抗CD3抗体は、別の機能性分子、例えば別のペプチドまたはタンパク質に結合してもよく、またはそれと共発現してもよい。例えば、抗体またはその断片が、1つ以上の他の分子実体、例えば別の抗体または抗体断片に機能的に結合し(例えば、化学的カップリング、遺伝子融合、非共有結合性会合またはその他により)、第2の結合特異性を有する二重特異性または多重特異性抗体を生成し得る。
【0098】
本明細書における「抗CD3抗体」という表現の使用は、単一特異性抗CD3抗体、ならびにCD3結合アーム及び標的抗原に結合する第2のアームを含む二重特異性抗体の両方を含むことを意図する。したがって、本発明は、免疫グロブリンの1つのアームがヒトCD3に結合し、免疫グロブリンの他方のアームが標的抗原に特異的である二重特異的抗体を含む。CD3二重特異性抗体の他方のアームが結合する標的抗原は、それに対して標的化免疫反応が望まれる細胞、組織、器官、微生物またはウイルスの上またはその付近に発現する任意の抗原であってもよい。CD3結合アームは、本明細書の表2に記載のようなHCVRまたはCDRアミノ酸配列のいずれかを含んでもよい。ある特定の実施形態において、CD3結合アームは、ヒトCD3に弱く結合し、ヒトT細胞活性化を誘引する。他の実施形態において、CD3結合アームは、ヒトCD3に弱く結合し、二重特異性または多重特異性抗体に関連して腫瘍関連抗原発現細胞死滅を誘引する。他の実施形態において、CD3結合アームは、ヒト及びカニクイザル(サル)CD3に弱く結合または会合するが、結合相互作用は、当技術分野において知られているin vitroアッセイにより検出可能ではない。本発明のいくつかの実施形態において、CD3結合アームは、ヒト及びカニクイザル(サル)CD3に結合または会合しないが、二重特異性分子はまだ腫瘍
関連細胞死滅を惹起する。
【0099】
抗体の1つのアームがCD3に結合し、他方のアームが標的抗原に結合する本発明の二重特異性抗体に関連して、標的抗原は、腫瘍関連抗原(TAA)であってもよい。特定の腫瘍関連抗原の限定されない例は、例えば、AFP、ALK、BAGEタンパク質、BIRC5(スルビビン)、BIRC7、β-カテニン、brc-abl、BRCA1、BORIS、CA9、炭酸脱水酵素IX、カスパーゼ-8、CALR、CCR5、CD19、CD20(MS4A1)、CD22、CD30、CD40、CDK4、CEA、CTLA4、サイクリン-B1、CYP1B1、EGFR、EGFRvIII、ErbB2/Her2、ErbB3、ErbB4、ETV6-AML、EpCAM、EphA2、Fra-1、FOLR1、GAGEタンパク質(例えばGAGE-1、-2)、GD2、GD3、GloboH、グリピカン-3、GM3、gp100、Her2、HLA/B-raf、HLA/k-ras、HLA/MAGE-A3、hTERT、LMP2、MAGEタンパク質(例えばMAGE-1、-2、-3、-4、-6、及び-12)、MART-1、メソテリン、ML-IAP、Muc1、Muc2、Muc3、Muc4、Muc5、Muc16(CA-125)、MUM1、NA17、NY-BR1、NY-BR62、NY-BR85、NY-ESO1、OX40、p15、p53、PAP、PAX3、PAX5、PCTA-1、PLAC1、PRLR、PRAME、PSMA(FOLH1)、RAGEタンパク質、Ras、RGS5、Rho、SART-1、SART-3、STEAP1、STEAP2、TAG-72、TGF-β、TMPRSS2、Thompson-nouvelle抗原(Tn)、TRP-1、TRP-2、チロシナーゼ、ならびにウロプラキン-3を含む。
【0100】
本発明者は、本発明が、本発明に従って作製された弱い抗CD3結合アームを有する二重特異性抗体の数々の例を含むことを想定している。
【0101】
ある特定の例示的実施形態によれば、本発明は、CD3及びPSMAに特異的に結合する二重特異性抗原結合分子を含む。そのような分子は、本明細書において、「抗CD3/抗PSMA」、または「抗CD3×PSMA」、または「CD3×PSMA」二重特異性分子等と呼ばれ得る。「PSMA」という用語は、本明細書において使用される場合、非ヒト種からのもの(例えば「マウスPSMA」、「サルPSMA」等)であることが指定されない限り、ヒトPSMAタンパク質を指す。
【0102】
「PSMA」という用語は、葉酸加水分解酵素1(FOLH1)(UniProtKB/Swiss-Prot.No.Q04609;配列番号171)としても知られる前立腺特異的膜抗原を指す。PSMAは、前立腺上皮細胞において高度に発現し、前立腺がんの細胞表面マーカーである内在性非剥離膜糖タンパク質である。
【0103】
他の例示的実施形態によれば、本発明は、CD3及びEGFRvIIIに特異的に結合する二重特異性抗原結合分子を含む。そのような分子は、本明細書において、「抗CD3/抗EGFRvIII」、または「抗CD3×EGFRvIII」、または「CD3×EGFRvIII」二重特異性分子等と呼ばれ得る。「EGFRvIII」という用語は、非ヒト種からのもの(例えば「マウスEGFRvIII」、「サルEGFRvIII」等)であることが指定されない限り、ヒトEGFRvIIIタンパク質を指す。
【0104】
「EGFRvIII」という用語は、上皮成長因子受容体のクラスIII変異体(EGFRvIII;配列番号172)を指し、これは膠芽腫において最も頻繁に見られるEGFR変異体である(Bigner et al.,1990,Cancer Res 50:8017-8022;Humphrey et al.,1990,Proc Natl Acad Sci USA 87:4207-4211;Yamazaki et
al.,1990,Jap J Cancer Res 81:773-779;Ekstrand et al.,1992,Proc Natl Acad Sci USA 89:4309-4313;Wikstrand et al.,1995,Cancer Res 55:3140-3148;及びFrederick et al.,2000,Cancer Res 60:1383-1387)。EGFRvIIIは、EGFR遺伝子のエクソン2~7の欠失を特徴とし、コード領域の801塩基対のインフレーム欠失、すなわち6~273アミノ酸残基の欠失(成熟EGFRの残基数に基づく;UniProtKB/Swiss-Prot.No.P00533を参照されたい)、及び融合接合部における新たなグリシンの生成をもたらす(Humphrey et al.,1988,Cancer Res 48:2231-2238;Yamazaki et al.,1990、上記参照,)。EGFRvIIIは、非リガンド依存性の、弱いが構成的に活性なキナーゼ活性、及び向上した腫瘍原性を有することが示されている(Nishikawa et al.,1994,Proc Natl Acad Sci
USA 91:7727-7731;及びBatra et al.,1995,Cell Growth and Differentiation 6:1251-1259)。膠芽腫に加えて、EGFRvIIIは、乳管及び乳管内癌(Wikstrand et al.,1995,Cancer Res 55:3140-3148)、非小細胞肺癌(Garcia de Palazzo et al.,1993,Cancer
Res 53:3217-3220)、卵巣癌(Moscatello et al.,1995,Cancer Res 55:5536-5539)、前立腺がん(Olapade-Olaopa et al.,2000,British J Cancer
82:186-194)、ならびに頭頸部の扁平上皮癌(Tinhofer et al.,2011,Clin Cancer Res 17(15):5197-5204)において検出されている。
【0105】
さらに他の例示的実施形態において、本発明は、CD3及びMUC16に特異的に結合する二重特異性抗原結合分子を含む。そのような分子は、本明細書において、「抗CD3/抗MUC16」、または「抗CD3×MUC16」、または「CD3×MUC16」二重特異性分子等と呼ばれ得る。「MUC16」という用語は、非ヒト種からのもの(例えば「マウスMUC16」、「サルMUC16」等)であることが指定されない限り、ヒトMUC16タンパク質を指す。
【0106】
他にがん抗原125(CA-125)として知られるムチン16(MUC16;NCBI参照配列:NP_078966.2、配列番号173)は、ヒトにおけるMUC16遺伝子によりコードされるムチンである。ムチンタンパク質のファミリーは、細胞外ドメインにおけるオリゴ糖への病原体結合による感染から体を保護し、細胞表面に到達する病原体形態を予防することが知られている。長年の間、MUC16/CA125の過剰発現が、卵巣がんの予後及び診断マーカーとして使用されている(Yin and Lloyd,2001,J.Biol.Chem.276(29),27371-27375;O´Brien,TJ,et al,2001,Tumour Biol.22(6),348-366;Leggieri,C.et al.,2014,Eur.J.Gynaecol.Oncol.35(4),438-441)。MUC16は、ガレクチン-1(免疫抑制タンパク質)に結合し得るその高度にグリコシル化されたタンデム反復ドメインにより、腫瘍細胞を免疫系から保護することが示されている(Seelenmeyer,C.,et al.,2003,J.Cell.Sci.116(Pt 7):1305-18;O´Brien,TJ,et al.,2002,Tumour Biol.23(3),154-169)。ナチュラルキラー細胞及び単球は、高レベルのMUC16を発現する腫瘍細胞を攻撃することができない。その通常の生理学的役割において、MUC16-ガラクチン相互作用は、細菌及びウイルス感染に対するバリアとして機能するが、MUC16は、腫瘍細胞に関連して免疫防御的であり、それによりがん細胞の細胞溶解
を防止すると考えられている(Felder,M.et al.,2014,Molecular Cancer,13:129)。したがって、MUC16は、免疫エフェクター細胞を活性化することにより卵巣がんを処置するために投与された免疫治療二重特異性抗体分子の望ましい標的である。
【0107】
さらに他の例示的実施形態において、本発明は、CD3及びSTEAP2に特異的に結合する二重特異性抗原結合分子を含む。そのような分子は、本明細書において、「抗CD3/抗STEAP2」、または「抗CD3×STEAP2」、または「CD3×STEAP2」二重特異性分子等と呼ばれ得る。「STEAP2」という用語は、非ヒト種からのもの(例えば「マウスSTEAP2」、「サルSTEAP2」等)であることが指定されない限り、ヒトSTEAP2タンパク質を指す。前立腺の6回膜貫通上皮抗原2(STEAP2;UniProtKB/Swiss-Prot:Q8NFT2.3)は、ヒトの染色体領域7q21に位置するSTEAP2遺伝子によりコードされる490-アミノ酸タンパク質である。
【0108】
腫瘍関連抗原に特異的に結合する上述の二重特異性抗原結合分子は、弱い結合親和性で、または検出可能な結合親和性を示さずにCD3に結合する、例えば、in vitro親和性結合アッセイにより測定されるように約100nM、300nMまたは500nM超のKを示す抗CD3抗原結合分子を含む。
【0109】
本明細書において使用される場合、「抗原結合分子」という表現は、単独で、または1つ以上の追加のCDR及び/もしくはフレームワーク領域(FR)と組み合わせて特定の抗原に特異的に結合する少なくとも1つの相補性決定領域(CDR)を含む、またはそれらからなるタンパク質、ポリペプチドまたは分子複合体を意味する。ある特定の実施形態において、抗原結合分子は、抗体または抗体の断片であり、それらの用語は本明細書の別の箇所で定義されている。
【0110】
本明細書において使用される場合、「二重特異性抗原結合分子」という表現は、少なくとも第1の抗原結合ドメイン及び第2の抗原結語具ドメインを含むタンパク質、ポリペプチドまたは分子複合体を意味する。二重特異性抗原結合分子内の各抗原結合ドメインは、単独で、または1つ以上の追加のCDR及び/もしくはFRと組み合わせて特定の抗原に特異的に結合する少なくとも1つのCDRを含む。本発明に関連して、第1の抗原結合ドメインは、第1の抗原(例えばCD3)に特異的に結合し、第2の抗原結合ドメインは、第2の異なる抗原(例えばPSMA、MUC16、EGFRvIIIまたはSTEAP2)に特異的に結合する。
【0111】
本発明のある特定の例示的実施形態において、二重特異性抗原結合分子は、二重特異性抗体である。二重特異性抗体の各抗原結合ドメインは、重鎖可変ドメイン(HCVR)及び軽鎖可変ドメイン(LCVR)を含む。第1及び第2の抗原結合ドメインを含む二重特異性抗原結合分子(例えば二重特異性抗体)に関連して、第1の抗原結合ドメインのCDRには接頭辞「A1」が付されてもよく、第2の抗原結合ドメインのCDRには接頭辞「A2」が付されてもよい。したがって、第1の抗原結合ドメインのCDRは、本明細書においてA1-HCDR1、A1-HCDR2、及びA1-HCDR3と呼ばれてもよく、第2の抗原結合ドメインのCDRは、本明細書においてA2-HCDR1、A2-HCDR2、及びA2-HCDR3と呼ばれてもよい。
【0112】
第1の抗原結合ドメイン及び第2の抗原結合ドメインは、互いに直接的または間接的に接続されて、本発明の二重特異性抗原結合分子を形成してもよい。代替として、第1の抗原結合ドメイン及び第2の抗原結合ドメインは、それぞれ別個の多量体化ドメインに接続されてもよい。1つの多量体化ドメインの別の多量体化ドメインとの会合は、2つの抗原
結合ドメイン間の会合を促進し、それにより二重特異性抗原結合分子を形成する。本明細書において使用される場合、「多量体化ドメイン」は、同じまたは同様の構造または構成の第2の多量体化ドメインと会合する能力を有する任意の巨大分子、タンパク質、ポリペプチド、ペプチド、またはアミノ酸である。例えば、多量体化ドメインは、免疫グロブリンC3ドメインを含むポリペプチドであってもよい。多量体化成分の限定されない例は、免疫グロブリン(C2-C3ドメインを含む)のFc部分、例えばアイソタイプIgG1、IgG2、IgG3、及びIgG4、ならびに各アイソタイプ群内の任意のアロタイプから選択されるIgGのFcドメインである。
【0113】
本発明の二重特異性結合分子は、典型的には、それぞれ個々に別個の抗体重鎖の一部である2つの多量体化ドメイン、例えば2つのFcドメインを含む。第1及び第2の多量体化ドメインは、同じIgGアイソタイプのもの、例えばIgG1/IgG1、IgG2/IgG2、IgG4/IgG4等であってもよい。代替として、第1及び第2の多量体化ドメインは、異なるIgGアイソタイプのもの、例えばIgG1/IgG2、IgG1/IgG4、IgG2/IgG4等であってもよい。
【0114】
ある特定の実施形態において、多量体化ドメインは、少なくとも1つのシステイン残基を含有するFc断片、または長さが1~約200アミノ酸のアミノ酸配列である。他の実施形態において、多量体化ドメインは、システイン残基、または短鎖システイン含有ペプチドである。他の多量体化ドメインは、ロイシンジッパー、螺旋ループモチーフ、またはコイルドコイルモチーフを含む、またはそれらからなるペプチドまたはポリペプチドを含む。
【0115】
本発明の二重特異性抗原結合分子を作製するために、任意の二重特異性抗体形式または技術が使用され得る。例えば、第1の抗原結合特異性を有する抗体またはその断片が、1つ以上の他の分子実体、例えば第2の抗原結合特異性を有する別の抗体または抗体断片に機能的に結合し(例えば、化学的カップリング、遺伝子融合、非共有結合性会合またはその他により)、二重特異性抗原結合分子を生成し得る。本発明に関連して使用され得る特定の例示的二重特異性形式は、限定されることなく、例えば、scFvベースまたはジアボディ二重特異性形式、IgG-scFv融合体、二重可変ドメイン(DVD)-Ig、クアドローマ、ノブイントゥーホール(knobs-into-holes)、共通軽鎖(例えば、ノブイントゥーホールを有する共通の軽鎖等)、CrossMab、CrossFab、(SEED)体、ロイシンジッパー、Duobody、IgG1/IgG2、二重作用性Fab(DAF)-IgG、及びMab二重特異性形式を含む(上記形式を考察するには、例えば、Klein et al.2012,mAbs 4:6,1-11、及びそこで引用されている参考文献を参照されたい)。
【0116】
本発明の二重特異性抗原結合分子に関連して、多量体化ドメイン、例えばFcドメインは、野生型の自然発生的バージョンのFcドメインと比較して1つ以上のアミノ酸変化(例えば、挿入、欠失または置換)を含んでもよい。例えば、本発明は、FcとFcRnとの間の改質された結合相互作用(例えば向上した、または低下した)を有する改質Fcドメインをもたらす、Fcドメインに1つ以上の改質を含む二重特異性抗原結合分子を含む。一実施形態において、二重特異性抗原結合分子は、C2またはC3領域に改質を含み、改質は、酸性環境において(例えばpHが約5.5から約6.0の範囲であるエンドソームにおいて)FcRnに対するFcドメインの親和性を増加させる。そのようなFc改質の限定されない例は、例えば、250位(例えばEもしくはQ);250及び428位(例えばLもしくはF);252位(例えばL/Y/F/WもしくはT)、254位(例えばSもしくはT)及び256位(例えばS/R/Q/E/DもしくはT)における改質;あるいは428及び/もしくは433位(例えばL/R/S/P/QもしくはK)ならびに/または434位(例えばH/FもしくはY)における改質;あるいは250及び
/または428位における改質;あるいは307または308位(例えば308F、V308F)及び434位における改質を含む。一実施形態において、改質は、428L(例えばM428L)及び434S(例えばN434S)改質;428L、259I(例えばV259I)及び308F(例えばV308F)改質;433K(例えばH433K)及び434(例えば434Y)改質;252、254、及び256(例えば252Y、254T、及び256E)改質;250Q及び428L改質(例えばT250Q及びM428L);ならびに307及び/または308改質(例えば308Fまたは308P)を含む。
【0117】
本発明はまた、第1のC3ドメイン及び第2のIg C3ドメインを含む二重特異性抗原結合分子を含み、第1及び第2のIg C3ドメインは、少なくとも1つのアミノ酸だけ互いに異なり、少なくとも1つのアミノ酸の差は、アミノ酸の差を有しない二重特異性抗体と比較して、タンパク質Aに対する二重特異性抗体の結合を低減する。一実施形態において、第1のIg C3ドメインは、タンパク質Aに結合し、第2のIg C3ドメインは、H95R改質(IMGTエクソン付番による;EU付番によるH435R)等のタンパク質A結合を低減または無効化する突然変異を含有する。第2のC3は、さらにY96F改質(IMGTによる;EUによるY436F)を含んでもよい。第2のC3内に見出すことができるさらなる改質は、IgG1抗体の場合D16E、L18M、N44S、K52N、V57M、及びV82I(IMGTによる;EUによるD356E、L358M、N384S、K392N、V397M、及びV422I);IgG2抗体の場合N44S、K52N、及びV82I(IMGT;EUによるN384S、K392N、及びV422I);ならびにIgG4抗体の場合Q15R、N44S、K52N、V57M、R69K、E79Q、及びV82I(IMGTによる;EUによるQ355R、N384S、K392N、V397M、R409K、E419Q、及びV422I)を含む。
【0118】
ある特定の実施形態において、Fcドメインは、2つ以上の免疫グロブリンアイソタイプから得られるキメラの組み合わせFc配列であってもよい。例えば、キメラFcドメインは、ヒトIgG1、ヒトIgG2またはヒトIgG4 C2領域から得られるC2配列の一部または全て、ならびにヒトIgG1、ヒトIgG2またはヒトIgG4のC3配列の一部または全てを含んでもよい。キメラFcドメインはまた、キメラヒンジ領域を含有してもよい。例えば、キメラヒンジは、ヒトIgG1、ヒトIgG2またはヒトIgG4ヒンジ領域から得られる「下部ヒンジ」配列と組み合わされた、ヒトIgG1、ヒトIgG2またはヒトIgG4ヒンジ領域から得られる「上部ヒンジ」配列を含んでもよい。本明細書に記載の抗原結合分子のいずれかに含まれ得るキメラFcドメインの具体例は、N-末端からC-末端に向かって、[IgG4 C1]-[IgG4上部ヒンジ]-[IgG2下部ヒンジ]-[IgG4 CH2]-[IgG4 CH3]を含む。本明細書に記載の抗原結合分子のいずれかに含まれ得るキメラFcドメインの別の例は、N-末端からC-末端に向かって、[IgG1 C1]-[IgG1上部ヒンジ]-[IgG2下部ヒンジ]-[IgG4 CH2]-[IgG1 CH3]を含む。本発明の抗原結合分子のいずれかに含まれ得るキメラFcドメインのこれらの、及び他の例は、参照することによりその全体が本明細書に組み込まれる、2014年8月7日に公開されたPCT国際公開第WO2014/121087A1号に記載されている。これらの一般構造配置を有するキメラFcドメイン及びその変異体は、変更されたFc受容体結合を有し得、これは一方でFcエフェクター機能に影響する。
【0119】
ある特定の実施形態において、本発明は、重鎖定常領域(CH)領域が配列番号182、配列番号183、配列番号184、配列番号185、配列番号186、配列番号187、配列番号188、配列番号189、配列番号190または配列番号191のいずれか1つと少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少な
くとも99%同一であるアミノ酸配列を含む抗体重鎖を提供する。いくつかの実施形態において、重鎖定常領域(CH)領域は、配列番号182、配列番号183、配列番号184、配列番号185、配列番号186、配列番号187、配列番号188、配列番号189、配列番号190及び配列番号191からなる群から選択されるアミノ酸配列を含む。
【0120】
他の実施形態において、本発明は、Fcドメインが配列番号192、配列番号193、配列番号194、配列番号195、配列番号196、配列番号197、配列番号198、配列番号199、配列番号200または配列番号201のいずれか1つと少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%同一であるアミノ酸配列を含む抗体重鎖を提供する。いくつかの実施形態において、Fcドメインは、配列番号192、配列番号193、配列番号194、配列番号195、配列番号196、配列番号197、配列番号198、配列番号199、配列番号200及び配列番号201からなる群から選択されるアミノ酸配列を含む。
【0121】
他のFc変異体
本発明のある特定の実施形態によれば、例えば中性pHと比較して酸性pHにおいて、FcRn受容体に対する抗体結合を向上させる、または低下させる1つ以上の突然変異を含むFcドメインを含む抗CD3抗体、及び抗CD3/抗TAA二重特異性抗原結合分子が提供される。例えば、本発明は、FcドメインのC2またはC3領域に突然変異を含む抗体を含み、突然変異(複数可)は、酸性環境において(例えばpHが約5.5から約6.0の範囲であるエンドソームにおいて)FcRnに対するFcドメインの親和性を増加させる。そのような突然変異は、動物に投与された場合、抗体の血清半減期の増加をもたらし得る。そのようなFc改質の限定されない例は、例えば、250位(例えばEもしくはQ);250及び428位(例えばLもしくはF);252位(例えばL/Y/F/WもしくはT)、254位(例えばSもしくはT)及び256位(例えばS/R/Q/E/DもしくはT)における改質;あるいは428及び/もしくは433位(例えばH/L/R/S/P/QもしくはK)ならびに/または434位(例えばH/FもしくはY)における改質;あるいは250及び/または428位における改質;あるいは307または308位(例えば308F、V308F)及び434位における改質を含む。一実施形態において、改質は、428L(例えばM428L)及び434S(例えばN434S)改質;428L、259I(例えばV259I)及び308F(例えばV308F)改質;433K(例えばH433K)及び434(例えば434Y)改質;252、254、及び256(例えば252Y、254T、及び256E)改質;250Q及び428L改質(例えばT250Q及びM428L);ならびに307及び/または308改質(例えば308Fまたは308P)を含む。
【0122】
例えば、本発明は、250Q及び248L(例えばT250Q及びM248L);252Y、254T及び256E(例えばM252Y、S254T及びT256E);428L及び434S(例えばM428L及びN434S);ならびに433K及び434F(例えばH433K及びN434F)からなる群から選択される突然変異の1つ以上の対または群を含むFcドメインを含む、抗CD3抗体、及び抗CD3/抗TAA二重特異性抗原結合分子を含む。上記のFcドメイン突然変異、及び本明細書において開示される抗体可変ドメイン内の他の突然変異の全ての可能な組み合わせが、本発明の範囲内に企図される。
【0123】
抗体及び二重特異性抗原結合分子の生物学的特徴
本発明は、ヒトCD3及びヒトTAAに同時に結合することができる二重特異性抗原結合分子(例えば二重特異性抗体)を含む。ある特定の実施形態によれば、本発明の二重特異性抗原結合分子は、PSMA、EGFRvIIIまたはMUC16等のCD3及び/またはTAAを発現する細胞と特異的に相互作用する。CD3を発現する細胞と相互作用す
る結合アームは、好適なin vitro結合アッセイにおいて測定されるように、弱い結合から検出不可能な結合を有し得る。二重特異性抗原結合分子が、CD3及び/またはTAAを発現する細胞に結合する程度は、本明細書の実施例4に示されるように、蛍光活性化細胞分類(FACS)により評価され得る。
【0124】
例えば、本発明は、CD3を発現するがTAAを発現しないヒトT細胞株(例えばJurkat)、霊長類T細胞(例えばカニクイザル末梢血単核細胞[PBMC])、及び/またはTAA発現細胞に特異的に結合する抗体、抗原結合断片、及びその二重特異性抗体を含む。本発明は、実施例4に記載のようなFACS結合アッセイまたは実質的に同様のアッセイを使用して決定されるように、約1.8×10-8(18nM)から約2.1×10-7(210nM)以上のEC50値(すなわちより弱い親和性)で上述のT細胞及びT細胞株のいずれかに結合する二重特異性抗原結合分子を含み、またEC50が検出不能である二重特異性抗体を含む。ある特定の実施形態において、本発明の抗体、抗原結合断片、及び二重特異性抗体は、例えば本明細書の実施例4において定義されるようなアッセイ形式を使用したFACS結合により、または実質的に同様のアッセイにより測定されるように、約30nM超、約40nM超、約45nM超、約50nM超、約55nM超、約60nM超、約65nM超、約70nM超、約75nM超、少なくとも80nM、約90nM超、約100nM超、約110nM超、少なくとも120nM、約130nM超、約140nM超、約150nM、少なくとも160nM、約170nM超、約180nM超、約190nM超、約200nM超、約250nM超、約300nM超、約500nM超、約1μM超、約2μM超、もしくは約3μM超のEC50で、または検出可能な結合親和性を示さずにCD3に結合する。
【0125】
本発明はまた、実施例4に記載のようなFACS結合アッセイ、または実質的に同様の細胞ベースアッセイを使用して決定されるように、約100nM未満、または結合に必要なさらにより低い濃度(すなわちより強い親和性)で、例えば5.6nM(5.6×10-9)未満のEC50値で、PSMA、EGFRvIII、STEAP2及びMUC16発現細胞株等のTAA発現細胞及び細胞株に結合する抗体、抗原結合断片、及びその二重特異性抗体を含む。本発明は、例えば上述のアッセイを使用して、約50nM未満、約45nM未満、約40nM未満、約35nM未満、約30nM未満、約25nM未満、約20nM未満、約15nM未満、約10nM未満、約6nM未満、約5nM未満、または約1nM未満のEC50値で上述の腫瘍細胞株のいずれかに結合する二重特異性抗原結合分子を含む。
【0126】
本発明は、低い親和性で、弱い親和性で、またはさらに検出可能な親和性を示さずにヒトCD3に結合する、抗体、抗原結合断片、及びその二重特異性抗体を含む。ある特定の実施形態によれば、本発明は、例えば本明細書の実施例5において定義されるようなアッセイ形式を使用した表面プラズモン共鳴により測定されるように、(約37℃において)約11nM超のKでヒトCD3に結合する抗体及び抗体の抗原結合断片を含み、約100nMまたは500nM超のKでCD3に結合する抗体を含み、また検出可能な結合親和性有しない抗体を含む。ある特定の実施形態において、本発明の抗体または抗原結合断片は、例えば本明細書の実施例5において定義されるようなアッセイ形式(例えばmAb捕捉もしくは抗原捕捉形式)を使用した表面プラズモン共鳴により、または実質的に同様のアッセイにより測定されるように、約15nM超、約20nM超、約25nM超、約30nM超、約35nM超、約40nM超、約45nM超、約50nM超、約55nM超、約60nM超、約65nM超、約70nM超、約75nM超、少なくとも80nM、約90nM超、約100nM超、約110nM超、少なくとも120nM、約130nM超、約140nM超、約150nM、少なくとも160nM、約170nM超、約180nM超、約190nM超、約200nM超、約250nM超、約300nM超、約1μM超、約2μM超、もしくは約3μM超のKで、または検出可能な親和性を示さずにCD3に
結合する。
【0127】
本発明は、低い親和性で、弱い親和性で、またはさらに検出可能な親和性を示さずにサル(すなわちカニクイザル)CD3に結合する、抗体、抗原結合断片、及びその二重特異性抗体を含む。ある特定の実施形態によれば、本発明は、例えば本明細書の実施例5において定義されるようなアッセイ形式を使用した表面プラズモン共鳴により測定されるように、(約37℃において)約10nM超のKでヒトCD3に結合する抗体、抗原結合断片及びその二重特異性抗体を含み、約100nMまたは500nM超のKでCD3に結合する抗体を含み、また検出可能な結合親和性有しない抗体を含む。ある特定の実施形態において、本発明の抗体または抗原結合断片は、例えば本明細書の実施例5において定義されるようなアッセイ形式(例えばmAb捕捉もしくは抗原捕捉形式)を使用した表面プラズモン共鳴により、または実質的に同様のアッセイにより測定されるように、約15nM超、約20nM超、約25nM超、約30nM超、約35nM超、約40nM超、約45nM超、約50nM超、約55nM超、約60nM超、約65nM超、約70nM超、約75nM超、少なくとも80nM、約90nM超、約100nM超、約110nM超、少なくとも120nM、約130nM超、約140nM超、約150nM、少なくとも160nM、約170nM超、約180nM超、約190nM超、約200nM超、約250nM超、約300nM超、約1μM超、約2μM超、もしくは約3μM超のKで、または検出可能な親和性を示さずにCD3に結合する。
【0128】
本発明は、ヒトCD3に結合してT細胞活性化を誘引する、抗体、抗原結合断片、及びその二重特異性抗体を含む。例えば、本発明は、例えば本明細書の実施例6において定義されるようなアッセイ形式を使用したin vitro T細胞活性化アッセイ[例えば、抗CD3抗体の存在下での全T細胞(CD2+)からのパーセント活性化(CD69+)細胞の評価]、またはその活性化状態におけるT細胞を評価する実質的に同様のアッセイにより測定されるように、約113pM未満のEC50値でヒトT細胞活性化を誘引する抗CD3抗体を含む。ある特定の実施形態において、本発明の抗体または抗原結合断片は、本明細書の実施例6において定義されるようなアッセイ形式を使用したin vitro T細胞活性化アッセイ、または実質的に同様のアッセイにより測定されるように、約100pM未満、約50pM未満、約20pM未満、約19pM未満、約18pM未満、約17pM未満、約16pM未満、約15pM未満、約14pM未満、約13pM未満、約12pM未満、約11pM未満、約10pM未満、約9pM未満、約8pM未満、約7pM未満、約6pM未満、約5pM未満、約4pM未満、約3pM未満、約2pM未満、または約1pM未満のEC50値でヒトT細胞活性化[例えばパーセント活性化(CD69+)T細胞]を誘引する。CD3への弱い結合を有する、または検出可能な結合を有しない抗CD3抗体は、本明細書の実施例6において例示されるように、CD3への弱い結合親和性を有する、または検出可能な結合親和性を有しないにもかかわらず、高い効力(すなわちpM範囲)でT細胞活性化を誘引する能力を有する。
【0129】
本発明はまた、ヒトCD3に結合して腫瘍抗原発現細胞のT細胞媒介死滅を誘引する、抗体、抗原結合断片、及び二重特異性抗体を含む。例えば、本発明は、例えば本明細書の実施例6において定義されるようなアッセイ形式を使用したin vitro T細胞媒介腫瘍細胞死滅アッセイ(例えば、抗CD3抗体の存在下での、ヒトPBMCによる腫瘍抗原発現細胞、例えばPSMA発現、EGFRvIII発現もしくはMUC16発現細胞死滅の評価)、または実質的に同様のアッセイにおいて測定されるように、約1.3nM未満のEC50で腫瘍細胞のT細胞媒介死滅を誘引する抗CD3抗体を含む。ある特定の実施形態において、本発明の抗体または抗原結合断片は、例えば本明細書の実施例6において定義されるようなアッセイ形式を使用したin vitro T細胞媒介腫瘍細胞死滅アッセイ、または実質的に同様のアッセイにより測定されるように、約1nM未満、約400pM未満、約250pM未満、約100pM未満、約50pM未満、約40pM未
満、約30pM未満、約20pM未満、約10pM未満、約9pM未満、約8pM未満、約7pM未満、約6pM未満、約5pM未満、約4pM未満、約3pM未満、約2pM、または約1pM未満のEC50値でT細胞媒介腫瘍細胞死滅(例えばOVCAR3細胞のPBMC媒介死滅)を誘引する。
【0130】
本発明はまた、例えば本明細書の実施例5において定義されるようなアッセイ形式を使用した25℃もしくは37℃での表面プラズモン共鳴、または実質的に同様のアッセイにより測定されるように、約10分未満の解離半減期(t1/2)でCD3に結合する抗体、抗原結合断片、及び二重特異性抗体を含む。ある特定の実施形態において、本発明の抗体または抗原結合断片は、例えば本明細書の実施例5において定義されるようなアッセイ形式(例えばmAb捕捉もしくは抗原捕捉形式)を使用した25℃もしくは37℃での表面プラズモン共鳴、または実質的に同様のアッセイにより測定されるように、約9分未満、約8分未満、約7分未満、約6分未満、約5分未満、約4分未満、約3分未満、約2分未満、約1.9分未満、または約1.8分未満のt1/2でCD3に結合するか、または、非常に弱い結合を示す、もしくは検出可能な結合を示さない。
【0131】
本発明の抗CD3/抗TAA二重特異性抗原結合分子は、追加的に、(a)in vitroでPBMC増殖を誘引すること;(b)ヒト全血においてIFN-ガンマ放出及びCD25上方制御を誘引することによりT細胞を活性化すること;ならびに(c)抗TAA抵抗性細胞株に対するT細胞媒介細胞傷害を誘引することからなる群から選択される1つ以上の特徴を示し得る。
【0132】
本発明は、対象における腫瘍抗原発現細胞を枯渇させることができる抗CD3/抗TAA二重特異性抗原結合分子を含む(例えば実施例7を参照されたい)。例えば、ある特定の実施形態によれば、対象への1μg、または10μg、または100μgの二重特異性抗原結合分子の単回投与(例えば、約0.1mg/kg、約0.08mg/kg、約0.06mg/kg、約0.04mg/kg、約0.04mg/kg、約0.02mg/kg、約0.01mg/kg、またはそれ未満の用量)が、対象における腫瘍抗原発現細胞の数の検出可能レベル未満への低減をもたらす(例えば、対象における腫瘍成長が抑制または阻害される)、抗CD3/抗PSMA、抗CD3/抗MUC16、または抗CD3/抗STEAP2二重特異性抗原結合分子が提供される。ある特定の実施形態において、約0.4mg/kgの用量での抗CD3/抗PSMA二重特異性抗原結合分子の単回投与は、対象への二重特異性抗原結合分子の投与から約7日、約6日、約5日、約4日、約3日、約2日または約1日後までに、対象における腫瘍成長の検出可能レベル未満への低減をもたらす。ある特定の実施形態によれば、少なくとも約0.01mg/kgの用量での本発明の抗CD3/抗PSMA二重特異性抗原結合分子の単回投与は、投与後少なくとも約7日、8日、9日、10日、11日、12日、13日、14日、15日、16日、17日、またはそれ超まで、PSMA発現腫瘍細胞の数を検出可能レベル未満に維持させる。本明細書において使用される場合、「検出可能レベル未満」という表現は、例えば本明細書の実施例7に記載のような標準的ノギス測定法を使用して、対象において皮下で成長する腫瘍細胞が直接的または間接的に検出され得ないことを意味する。ある特定の実施形態において、約10μgの用量での抗CD3/抗MUC16二重特異性抗原結合分子の単回投与は、対象への二重特異性抗原結合分子の投与後約6日目に対象における腫瘍成長の抑制をもたらし、また少なくとも26日目まで腫瘍抑制を維持する。腫瘍移植から少なくとも7日後に約10μgの用量で抗CD3/抗MUC16二重特異性抗原結合分子の単回投与を受けた患者において、二重特異性抗原結合分子は、対象における腫瘍移植から約26日目において、対象における樹立された腫瘍のさらなる成長を抑制する上で有効性を示す。ある特定の実施形態によれば、少なくとも約0.1mg/kgの用量での本発明の抗CD3/抗MUC16二重特異性抗原結合分子の単回投与は、二重特異性分子の投与後少なくとも約7日、8日、9日、10日、11日、12日、13日、14日、15日、16日、1
7日、18日、19日、20日、またはそれ超の間、MUC16発現腫瘍細胞の成長を阻害する。例えば、実施例8を参照されたい。
【0133】
ある特定の実施形態において、約0.1mg/kgまたは0.01mg/kgの用量での抗CD3/抗STEAP2二重特異性抗原結合分子の単回投与は、対象への二重特異性抗原結合分子及び腫瘍の投与後少なくとも46日目まで、腫瘍成長の抑制を維持する。ある特定の実施形態によれば、少なくとも約0.1mg/kg、約0.08mg/kg、約0.06mg/kg、約0.05mg/kg、約0.04mg/kg、約0.03mg/kg、約0.02mg/kg、約0.01mg/kg、またはそれ未満の用量での本発明の抗CD3/抗STEAP2二重特異性抗原結合分子の単回投与は、二重特異性分子の投与後少なくとも約20日、30日、35日、40日、45日またはそれ超の間、STEAP2発現腫瘍細胞の成長を阻害する。例えば、実施例10を参照されたい。
【0134】
他の実施形態において、エフェクター細胞への弱い結合親和性を有するCD3標的化結合アームを有する抗CD3/抗TAA二重特異性抗原結合分子は、in vivo薬物動態試験において投与された同じ抗TAA結合アーム及び強いCD3結合アームを含む二重特異性抗体と比較して、低減された薬物消失速度を示す。結果は、より弱い結合のCD3標的化アームを含む二重特異性分子が、有益な薬物曝露レベル(AUClast)及び薬物消失プロファイル(抗体クリアランス)を示し得ることを示唆している。例えば、実施例9を参照されたい。
【0135】
本発明は、(a)ヒト前立腺がん異種移植片を保持する免疫障害マウスにおける腫瘍成の阻害;(b)ヒト前立腺がん異種移植片を保持する免疫正常マウスにおける腫瘍成長の阻害;(c)ヒト前立腺がん異種移植片を保持する免疫障害マウスにおける樹立腫瘍の腫瘍成長の抑制;及び(d)ヒト前立腺がん異種移植片を保持する免疫正常マウスにおける樹立腫瘍の腫瘍成長の低減からなる群から選択される1つ以上の特徴を示す、抗CD3/抗PSMA、抗CD3/抗MUC16及び抗CD3/抗STEAP2二重特異性抗原結合分子(すなわち、抗CD3/抗TAA二重特異性抗原結合分子)を提供する(例えば、実施例7、8及び10を参照されたい)。本発明はまた、エフェクターT細胞(すなわちCD3)に指向された第1の重鎖、及びii)標的腫瘍細胞に指向された第2の重鎖を含む、抗CD3/抗PSMA、抗CD3/抗MUC16及び抗CD3/抗STEAP2二重特異性抗体(すなわち抗CD3/抗TAA二重特異性抗体)を提供し、二重特異性抗体は、エフェクター細胞に対する弱い結合を示す、または検出可能な結合を示さず、またエフェクター細胞に対する強い結合を示す二重特異性抗体と比較して、腫瘍成長抑制、及び体からの低減された抗体クリアランス(すなわち消失)を示す。
【0136】
エピトープマッピング及び関連技術
本発明の抗原結合分子が結合するCD3上のエピトープは、CD3タンパク質の3個以上(例えば3個、4個、5個、6個、7個、8個、9個、10個、11個、12個、13個、14個、15個、16個、17個、18個、19個、20個またはそれ超)のアミノ酸の単一連続配列からなってもよい。代替として、エピトープは、CD3の複数の非連続アミノ酸(またはアミノ酸配列)からなってもよい。本発明の抗体は、単一CD3鎖(例えばCD3-イプシロン、CD3-デルタもしくはCD3-ガンマ)内に含有されるアミノ酸と相互作用してもよく、または2つ以上の異なるCD3鎖上のアミノ酸と相互作用してもよい。「エピトープ」という用語は、本明細書において使用される場合、パラトープとして知られる抗体分子の可変領域における特定の抗原結合部位と相互作用する抗原決定因子を指す。単一の抗原は、2つ以上のエピトープを有し得る。したがって、異なる抗体は、抗原上の異なるエリアに結合し得、また異なる生物学的効果を有し得る。エピトープは、立体構造または直線状であってもよい。立体構造エピトープは、直線状ポリペプチド鎖の異なるセグメントから空間的に並置されたアミノ酸により生成される。直線状エピト
ープは、ポリペプチド鎖における隣接するアミノ酸残基により生成されるものである。ある特定の状況において、エピトープは、抗原上のサッカリド、ホスホリル基、またはスルホニル基の部分を含んでもよい。
【0137】
抗体の抗原結合ドメインがポリペプチドまたはタンパク質内の「1つ以上のアミノ酸と相互作用する」かどうかを決定するために、当技術分野において当業者に知られている様々な技術が使用され得る。例示的な技術は、例えば、Antibodies,Harlow and Lane(Cold Spring Harbor Press,Cold
Spring Harb.,NY)に記載のもの等の慣例的な交差遮断アッセイ、アラニンスキャニング突然変異分析、ペプチドブロット分析(Reineke,2004,Methods Mol Biol 248:443-463)、及びペプチド切断分析を含む。さらに、エピトープ切断、エピトープ抽出及び抗原の化学的改質が使用されてもよい(Tomer,2000,Protein Science 9:487-496)。抗体の抗原結合ドメインが相互作用するポリペプチド内のアミノ酸を特定するために使用され得る別の方法は、質量分析により検出される水素/重水素交換である。一般的に、水素/重水素交換法は、対象となるタンパク質の重水素標識化に続く、重水素標識化タンパク質への抗体の結合を含む。次に、タンパク質/抗体複合体は、抗体により保護された残基(重水素標識化が維持される)を除く全ての残基において水素-重水素交換を生じさせるために水に移される。抗体の解離後、標的タンパク質はプロテアーゼ切断及び質量スペクトル分析に供され、それによって、抗体が相互作用する特定のアミノ酸に対応する重水素標識化残基が明らかとなる。例えば、Ehring(1999) Analytical Biochemistry 267(2):252-259;Engen and Smith(2001) Anal.Chem.73:256A-265Aを参照されたい。抗原/抗体複合体のX線結晶学もまた、エピトープマッピング目的に使用され得る。
【0138】
本発明は、さらに、本明細書に記載の特定の例示的抗体(例えば、本明細書の表6に記載のようなアミノ酸配列のいずれかを含む抗体)のいずれかと同じエピトープに結合する抗PSMA抗体を含む。同様に、本発明はまた、本明細書に記載の特定の例示的抗体(例えば、本明細書の表6に記載のようなアミノ酸配列のいずれかを含む抗体)のいずれかと、PSMAへの結合に関して競合する抗PSMA抗体を含む。米国特許出願公開第15/223,434号において開示される抗PSMA抗体は、本明細書において参照することにより本出願に組み込まれる。
【0139】
本発明はまた、低い、または検出可能な結合親和性でヒトCD3及び/またはカニクイザルCD3に特異的に結合する第1の抗原結合ドメインと、ヒト腫瘍関連抗原(TAA)に特異的に結合する第2の抗原結合ドメインとを含む二重特異性抗原結合分子を含み、第1の抗原結合ドメインは、本明細書に記載の特定の例示的CD3特異性抗原結合ドメインのいずれかと同じCD3上のエピトープに結合する。
【0140】
同様に、本発明はまた、低い、または検出可能な結合親和性でヒトCD3及び/またはカニクイザルCD3に特異的に結合する第1の抗原結合ドメインと、ヒト腫瘍関連抗原(TAA)に特異的に結合する第2の抗原結合ドメインとを含む二重特異性抗原結合分子を含み、第1の抗原結合ドメインは、本明細書に記載の特定の例示的CD3特異性抗原結合ドメインのいずれかと、CD3への結合に関して競合する。
【0141】
特定の抗原結合分子(例えば抗体)またはその抗原結合ドメインが、本発明の参照抗原結合分子と同じエピトープに結合する、またはそれとの結合に関して競合するかどうかは、当技術分野において知られている慣例的方法を使用することによって容易に決定することができる。例えば、試験抗体が本発明の参照二重特異性抗原結合分子と同じCD3(またはTAA)上のエピトープに結合するかどうかを決定するためには、参照二重特異性分
子をまずCD3タンパク質(またはTAAタンパク質)に結合させる。次に、CD3分子に結合する試験抗体の能力を評価する。試験抗体が参照二重特異性抗原結合分子との飽和結合後にCD3(またはTAA)に結合することができる場合、試験抗体は、参照二重特異性抗原結合分子とは異なるCD3(またはTAA)のエピトープに結合すると結論付けることができる。一方、試験抗体が参照二重特異性抗原結合分子との飽和結合後にCD3(またはTAA)分子に結合することができない場合、試験抗体は、本発明の参照二重特異性抗原結合分子により結合されるエピトープと同じCD3(またはTAA)のエピトープと結合することができる。次いで、試験抗体の観察された結合の喪失が、実際に参照二重特異性抗原結合分子と同じエピトープへの結合によるものであるのか、または立体障害的なブロック(もしくは別の現象)が、観察された結合の喪失の原因となるのかを確認するために、追加の慣例的実験(例えば、ペプチド突然変異及び結合分析)を行うことができる。参照抗体が、本明細書において例示されるように測定可能な結合を有しないものである場合、エピトープ相互作用を比較すること、またはその結合特性を本明細書に記載のような試験抗体と比較することを目的としてCD3に対する結合を決定するために、参照抗体を生殖細胞系列配列に突然変異させることができる。この種の実験は、ELISA、RIA、Biacore、フローサイトメトリー、または当技術分野において利用可能な任意の他の定量的もしくは定性的抗体結合アッセイを使用して行うことができる。本発明のある特定の実施形態によれば、例えば、競合結合アッセイにおいて測定されるように、1倍、5倍、10倍、20倍または100倍過剰の1つの抗原結合タンパク質が、他方の結合を少なくとも50%であるが好ましくは75%、90%、またはさらに99%阻害する場合、2つの抗原結合タンパク質が同じ(または重複する)エピトープに結合する(例えば、Junghans et al.,Cancer Res.1990:50:1495-1502を参照されたい)。代替として、1つの抗原結合タンパク質の結合を低減または消失させる、抗原内の本質的に全てのアミノ酸突然変異が、他方の結合を低減または消失させる場合、2つの抗原結合タンパク質が同じエピトープに結合するとみなされる。1つの抗原結合タンパク質の結合を低減または消失させるアミノ酸突然変異のサブセットのみが、他方の結合を低減または消失させる場合、2つの抗原結合タンパク質は、「重複エピトープ」を有するとみなされる。
【0142】
抗体またはその抗原結合ドメインが参照抗原結合分子との結合に関して競合するかどうかを決定するためには、上述の結合方法が2つの方向で行われる。第1の方向では、参照抗原結合分子を飽和条件下でCD3タンパク質(またはTAAタンパク質)に結合させ、続いてCD3(またはTAA)分子に対する試験抗体の結合を評価する。第2の方向では、試験抗体を飽和条件下でCD3(またはTAA)分子に結合させ、続いてCD3(またはTAA)分子に対する参照抗原結合分子の結合を評価する。両方の方向で第1の(飽和)抗原結合分子のみがCD3(またはTAA)分子に結合することができる場合、試験抗体及び参照抗原結合分子はCD3(またはTAA)への結合に関して競合すると結論付けられる。当業者により理解されるように、参照抗原結合分子と結合に関して競合する抗体は、必ずしも参照抗体と同じエピトープに結合するとは限らない可能性があるが、重複または隣接エピトープに結合することにより、参照抗体の結合を立体障害的にブロックする可能性がある。参照抗体が、本明細書において例示されるように測定可能な結合を有しないものである場合、エピトープ相互作用を比較すること、またはその結合特性もしくはブロック相互作用を本明細書に記載のような試験抗体と比較することを目的としてCD3に対する結合を決定するために、参照抗体を生殖細胞系列配列に突然変異させることができる。
【0143】
抗原結合ドメインの調製及び二重特異性分子の構築
特定の抗原に特異的な抗原結合ドメインは、当技術分野において知られている任意の抗体生成技術により調製され得る。得られたら、2つの異なる抗原(例えばCD3及びTAA)に特異的な2つの異なる抗原結合ドメインは、慣例的な方法を使用して本発明の二重
特異性抗原結合分子を生成するために互いに対して適切に配置され得る。(本発明の二重特異性抗原結合分子を構築するために使用され得る例示的な二重特異性抗体形式の議論は、本明細書の別の箇所に記載される。)ある特定の実施形態において、本発明の多重特異性抗原結合分子の個々の成分(例えば重鎖及び軽鎖)の1つ以上が、キメラ、ヒト化、または完全ヒト抗体から得られる。そのような抗体を作製するための方法は、当技術分野において周知である。例えば、本発明の二重特異性抗原結合分子の重鎖及び/または軽鎖の1つ以上が、VELOCIMMUNE(商標)技術を使用して調製され得る。VELOCIMMUNE(商標)技術(または任意の他のヒト抗体生成技術)を使用して、ヒト可変領域及びマウス定常領域を有する、特定の抗原(例えばCD3またはTAA)に対する高親和性キメラ抗体が最初に単離される。抗体は、親和性、選択性、エピトープ等を含む所望の特徴のために特性決定及び選択される。本発明の二重特異性抗原結合分子内に組み込むことができる完全ヒト重鎖及び/または軽鎖を生成するために、マウス定常領域は所望のヒト定常領域と置き換えられる。
【0144】
ヒト二重特異性抗原結合分子を作製するために、遺伝子改変動物が使用され得る。例えば、内因性マウス免疫グロブリン軽鎖可変配列を再配列及び発現することができない遺伝子操作マウスが使用されてもよく、マウスは、内因性マウスカッパ(κ)遺伝子座におけるマウスカッパ(κ)定常遺伝子に作用可能に連結したヒト免疫グロブリン配列によりコードされた、1つまたは2つのみのヒト軽鎖可変ドメインを発現する。そのような遺伝子操作マウスは、2つの異なるヒト軽鎖可変領域遺伝子断片の1つから得られる可変ドメインを含む同一軽鎖と会合する2つの異なる重鎖を含む完全ヒト二重特異性抗原結合分子を生成するために使用され得る。(二重特異性抗原結合分子を生成するためのそのような改変マウス及びその使用の詳細な議論については、例えばUS2011/0195454を参照されたい。)本発明の抗体は、共通軽鎖に会合した免疫グロブリン重鎖を含んでもよい。共通軽鎖は、抗TAA重鎖の同種軽鎖から得られてもよく、または広範な非同種重鎖と対形成する無差別性もしくは能力を示す軽鎖、すなわち普遍的もしくは共通軽鎖から得られる既知の、もしくは公知の軽鎖可変領域から得られてもよい。本発明の抗体は、単一の再配列軽鎖に会合した免疫グロブリン重鎖を含んでもよい。いくつかの実施形態において、軽鎖は、ヒトVκ1-39遺伝子断片またはVκ3-20遺伝子断片から得られる可変ドメインを含む。他の実施形態において、軽鎖は、ヒトJκ5もしくはヒトJκ1遺伝子断片と再配列されたヒトVκ1-39遺伝子断片、またはヒトJκ1遺伝子断片と再配列されたVκ3-20遺伝子断片、またはヒトJκ1遺伝子断片と再配列されたVκ1-39遺伝子断片から得られる可変ドメインを含む。
【0145】
生物学的均等物
本発明は、本明細書において開示される例示的分子のものとは異なるが、CD3及び/またはTAAと結合または相互作用する能力を維持するアミノ酸配列を有する抗原結合分子を包含する。そのような変異体分子は、親配列と比較して、アミノ酸の1つ以上の付加、欠失、または置換を含むが、説明される二重特異性抗原結合分子のものと本質的に均等である生物活性を示し得る。
【0146】
本発明は、本明細書に記載の例示的抗原結合分子のいずれかと生物学的に均等である抗原結合分子を含む。2つの抗原結合タンパク質または抗体は、例えば、それらが、吸収の速度及び程度が同様の実験条件下で単回投与であるかまたは複数回投与であるかを問わず同じモル用量で投与された場合大きな差を示さない薬学的均等物または薬学的代替物である場合、生物学的に均等であるとみなされる。いくつかの抗原結合タンパク質は、それらがその吸収の程度において均等であるが吸収速度において均等ではない場合、均等物または薬学的代替物とみなされるが、そのような吸収速度の差は意図的かつ標識化において反映され、例えば慢性使用時の有効体内薬物濃度の達成に必須ではなく、また研究されている特定の製剤に対して医学的に重要でないとみなされるため、生物学的に均等であるとみ
なされ得る。
【0147】
一実施形態において、2つの抗原結合タンパク質は、その安全性、純度及び効力において臨床的に重要な差がない場合、生物学的に均等である。
【0148】
一実施形態において、2つの抗原結合タンパク質は、参照生成物と生物学的生成物との間の切り替えなしでの継続治療と比較して、患者が免疫原性の臨床的に重要な変化、または低下した有効性を含む副作用のリスクの予測される増加なしに参照生成物と生物学的生成物との間で1回以上切り替えられ得る場合、生物学的に均等である。
【0149】
一実施形態において、2つの抗原結合タンパク質は、共に使用条件(複数可)に対する共通の作用機序(複数可)により作用する場合、そのような機序が知られている限り、生物学的に均等である。
【0150】
生物学的均等性は、in vivo及びin vitro法により実証され得る。生物学的均等性の手段は、例えば、(a)血液、血漿、血清または他の生体液中の抗体またはその代謝産物の濃度が時間の関数として測定される、ヒトまたは他の動物におけるin vivo試験;(b)ヒトin vivoバイオアベイラビリティデータに相関しており、またそれを合理的に予測するin vitro試験;(c)抗体(またはその標的)の適切な急性薬理作用が時間の関数として測定される、ヒトまたは他の動物におけるin vivo試験;及び(d)抗原結合タンパク質の安全性、有効性、またはバイオアベイラビリティもしくは生物学的均等性を確立する十分に制御された臨床試験を含む。
【0151】
本明細書に記載の例示的二重特異性抗原結合分子の生物学的に均等な変異体は、例えば、残基もしくは配列の様々な置換を行うこと、または生物活性に必要ではない末端もしくは内部残基もしくは配列を欠失させることにより構築され得る。例えば、生物活性に必須ではないシステイン残基は、再生後の不必要または不正確な分子内ジスルフィド架橋の形成を防止するために、欠失または他のアミノ酸と置換されてもよい。他の状況において、生物学的に均等な抗原結合タンパク質は、分子のグリコシル化特性を改質するアミノ酸変化、例えばグリコシル化を消失または除去する突然変異を含む、本明細書に記載の例示的二重特異性抗原結合分子の変異体を含んでもよい。
【0152】
種選択性及び種交差反応性
本発明のある特定の実施形態によれば、ヒトCD3との弱い相互作用を示す、または相互作用を示さない、及びカニクイザルCD3等の他の種からのCD3との弱い相互作用を示す、または相互作用を示さない抗原結合分子が提供される。また、ヒトTAAには結合するが他の種からのTAAには結合しない抗原結合分子が提供される。本発明はまた、ヒトCD3及び1種以上の非ヒト種からのCD3に結合する抗原結合分子;ならびに/またはヒトTAA及び1種以上の非ヒト種からのTAAに結合する抗原結合分子を含む。
【0153】
本発明のある特定の例示的実施形態によれば、ヒトCD3及び/またはTAAに弱く結合し、また場合によって、マウス、ラット、モルモット、ハムスター、スナネズミ、ブタ、ネコ、イヌ、ウサギ、ヤギ、ヒツジ、ウシ、ウマ、ラクダ、カニクイザル、マーモセット、アカゲザルまたはチンパンジーCD3及び/またはTAAの1つ以上に結合してもよい、または結合しなくてもよい抗原結合分子が提供される。例えば、ある特定の例示的実施形態において、ヒトCD3及びカニクイザルCD3に弱く結合する第1の抗原結合ドメインと、ヒトPSMA、MUC16、EGFRvIIIまたはSTEAP2に特異的に結合する第2の抗原結合ドメインとを含む本発明の二重特異性抗原結合分子が提供される。
【0154】
免疫抱合体
本発明は、細胞毒素、化学治療薬、免疫抑制剤または放射性同位体等の治療部分(「免疫抱合体」)に複合化した抗原結合分子を包含する。細胞毒性薬剤は、細胞に有害な任意の薬剤を含む。免疫抱合体を形成するための好適な細胞毒性薬剤及び化学療法剤の例は、当技術分野において知られている(例えばWO05/103081を参照されたい)。
【0155】
治療製剤及び投与
本発明は、本発明の抗原結合分子を含む薬学的組成物を提供する。本発明の薬学的組成物は、好適な担体、賦形剤、及び改善された移動、送達、耐性等を提供する他の薬剤と共に製剤化される。多数の適切な製剤が、全ての薬剤師に知られている処方集:Remington´s Pharmaceutical Sciences,Mack Publishing Company,Easton,PAにおいて見出すことができる。これらの製剤は、例えば、粉末、ペースト、軟膏、ゼリー、ワックス、油、脂質、脂質(カチオン性またはアニオン性)含有ベシクル(例えばLIPOFECTIN(商標)、Life Technologies、Carlsbad、CA)、DNA複合体、無水吸収ペースト、水中油及び油中水エマルション、エマルションカーボワックス(様々な分子量のポリエチレングリコール)、半固体ゲル、ならびにカーボワックスを含有する半固体混合物を含む。Powell et al.「Compendium of excipients for parenteral formulations」 PDA(1998) J Pharm Sci Technol 52:238-311もまた参照されたい。
【0156】
患者に投与される抗原結合分子の用量は、患者の年齢及びサイズ、標的疾患、状態、投与経路等に依存して変動し得る。好ましい用量は、典型的には、体重または体表面積に従って計算される。本発明の二重特異性抗原結合分子が成人患者における治療目的で使用される場合、本発明の二重特異性抗原結合分子を、通常約0.01から約20mg/kg体重、より好ましくは約0.02から約7、約0.03から約5、または約0.05から約3mg/kg体重の単回用量で静脈内投与することが有利となり得る。状態の重症度に依存して、処置の頻度及び期間が調節され得る。二重特異性抗原結合分子を投与するための有効用量及びスケジュールは、実験的に決定され得、例えば定期評価により患者の経過が監視され、それに従って用量が調節される。さらに、当技術分野における周知の方法を使用して、用量の種間増減が行われてもよい(例えば、Mordenti et al.,1991,Pharmaceut.Res.8:1351)。
【0157】
様々な送達システム、例えばリポソーム内へのカプセル化、マイクロ粒子、マイクロカプセル、突然変異ウイルスを発現することができる組み換え細胞、受容体媒介エンドサイトーシス(例えば、Wu et al.,1987,J.Biol.Chem.262:4429-4432を参照されたい)が知られており、また本発明の薬学的組成物を投与するために使用され得る。導入方法は、これらに限定されないが、皮内、筋肉内、腹腔内、静脈内、皮下、鼻腔内、硬膜外、及び経口経路を含む。組成物は、任意の便利な経路により、例えば注入もしくはボーラス注射により、上皮もしくは皮膚粘膜内膜(例えば口腔粘膜、直腸及び腸粘膜等)を介した吸収により投与され得、また他の生物学的に活性な薬剤と共に投与され得る。投与は、全身性または局所性であってもよい。
【0158】
本発明の薬学的組成物は、標準的な針及び注射器を用いて皮下または静脈内に送達され得る。さらに、皮下送達に関して、ペン送達デバイスが、本発明の薬学的組成物の送達に容易に適用される。そのようなペン送達デバイスは、再使用可能であってもよく、または使い捨てであってもよい。再使用可能なペン送達デバイスは、一般に、薬学的組成物を含有する交換式カートリッジを利用する。カートリッジ内の薬学的組成物の全てが投与され、カートリッジが空となったら、空のカートリッジは、容易に廃棄され、薬学的組成物を含有する新しいカートリッジと交換され得る。次いで、ペン送達デバイスは、再使用され
得る。使い捨てペン送達デバイスには、交換式カートリッジが存在しない。むしろ、使い捨てペン送達デバイスには、デバイス内の容器内に保持される薬学的組成物で充填されている。容器から薬学的組成物がなくなったら、デバイス全体が廃棄される。
【0159】
多くの再使用可能なペン及び自動注入器送達デバイスが、本発明の薬学的組成物の皮下送達において適用される。その例をいくつか挙げると、AUTOPEN(商標)(Owen Mumford,Inc.、Woodstock、UK)、DISETRONIC(商標)ペン(Disetronic Medical Systems、Bergdorf、Switzerland)、HUMALOG MIX 75/25(商標)ペン、HUMALOG(商標)ペン、HUMALIN 70/30(商標)ペン(Eli Lilly and Co.、Indianapolis、IN)、NOVOPEN(商標)I、II及びIII(Novo Nordisk、Copenhagen、Denmark)、NOVOPEN JUNIOR(商標)(Novo Nordisk、Copenhagen、Denmark)、BD(商標)ペン(Becton Dickinson、Franklin Lakes、NJ)、OPTIPEN(商標)、OPTIPEN PRO(商標)、OPTIPEN STARLET(商標)、ならびにOPTICLIK(商標)(sanofi-aventis、Frankfurt、Germany)が含まれるが、これらに限定されない。本発明の薬学的組成物の皮下送達において適用される使い捨てペン送達デバイスの例をいくつか挙げると、SOLOSTAR(商標)ペン(sanofi-aventis)、FLEXPEN(商標)(Novo Nordisk)、及びKWIKPEN(商標)(Eli Lilly)、SURECLICK(商標)Autoinjector(Amgen、Thousand Oaks、CA)、PENLET(商標)(Haselmeier、Stuttgart、Germany)、EPIPEN(Dey、L.P.)、ならびにHUMIRA(商標)Pen(Abbott Labs、Abbott Park IL)が含まれるが、これらに限定されない。
【0160】
ある特定の状況において、薬学的組成物は、制御放出システムにおいて送達され得る。一実施形態において、ポンプが使用され得る(Langer、上記参照;Sefton,1987,CRC Crit.Ref.Biomed.Eng.14:201を参照されたい)。別の実施形態において、ポリマー材料が使用され得る。Medical Applications of Controlled Release,Langer and Wise(eds.),1974,CRC Pres.,Boca Raton,Floridaを参照されたい。さらに別の実施形態において、制御放出システムは、組成物の標的に近接して設置されてもよく、したがって全身用量のごく一部のみを必要とし得る(例えば、Goodson,1984,in Medical Applications of Controlled Release、上記参照、vol.2,pp.115-138を参照されたい)。他の制御放出システムは、Langer,1990,Science 249:1527-1533によるレビュー内で議論されている。
【0161】
注射製剤は、静脈内、皮下、皮内及び筋肉内注射、点滴等のための剤形を含み得る。これらの注射製剤は、公知の方法により調製され得る。例えば、注射製剤は、例えば上述の抗体またはその塩を従来注射に使用される無菌水性媒体または油性媒体に溶解、懸濁または乳化させることにより調製され得る。注射用の水性媒体としては、例えば、アルコール(例えばエタノール)、多価アルコール(例えばプロピレングリコール、ポリエチレングリコール)、非イオン性界面活性剤[例えばポリソルベート80、HCO-50(水添ヒマシ油のポリオキシエチレン(50モル)付加体)]等の適切な可溶化剤と組み合わされて使用され得る、生理食塩水、グルコース及び他の補助剤を含有する等張溶等がある。油性媒体としては、例えば、安息香酸ベンジル、ベンジルアルコール等の可溶化剤と組み合わされて使用され得る、ゴマ油、大豆油等が使用される。このようにして調製された注射剤は、好ましくは、適切なアンプル内に充填される。
【0162】
有利には、上述の経口的または非経口的使用のための薬学的組成物は、活性成分の用量に合うように適合する単位用量の剤形に調製される。単位用量でのそのような剤形は、例えば、錠剤、丸薬、カプセル、注射(アンプル)、坐剤等を含む。含有される上述の抗体の量は、一般に、単位用量の剤形当たり約5から約500mgであり;特に注射形態では、上述の抗体は約5から約100mgで含有されることが好ましく、他の剤形では約10から約250mgで含有されることが好ましい。
【0163】
抗原結合分子の治療用途
本発明は、抗腫瘍抗体もしくはその抗原結合断片、またはCD3に弱く特異的に結合する、もしくはそれに対する検出可能な結合を有さず、腫瘍関連抗原に結合する二重特異性抗原結合分子を含む治療組成物を、それを必要とする対象に投与することを含む方法を含む。治療組成物は、本明細書において開示されるような抗体または二重特異性抗原結合分子のいずれか、及び薬学的に許容される担体または希釈剤を含んでもよい。本明細書において使用される場合、「それを必要とする対象」という表現は、がんの1つ以上の症状もしくは兆候を示す(例えば、腫瘍を発現している、もしくは本明細書において以下で言及されるがんのいずれかに罹患している対象)、あるいは別様に、腫瘍活性の阻害もしくは低減、または腫瘍細胞(例えばPSMA++前立腺がん細胞)の枯渇から利益を得るヒトまたは非ヒト動物を意味する。
【0164】
本発明の抗体及び二重特異性抗原結合分子(ならびにそれを含む治療組成物)は、なかでも、免疫反応の刺激、活性化及び/または標的化が有益となる任意の疾患または障害の処置に有用である。特に、本発明の二重特異性抗原結合分子は、TAAを発現する細胞、例えば、PSMA発現もしくは活性またはPSMA+細胞の増殖に関連する、またはそれにより媒介される任意の疾患または障害の処置、予防及び/または寛解に使用され得る。本発明の治療方法が達成される作用機序は、エフェクター細胞の存在下での、例えばCDC、アポトーシス、ADCC、食作用、またはこれらの機序の2つ以上の組み合わせによる腫瘍関連抗原を発現する細胞の死滅を含む。本発明の二重特異性抗原結合分子を使用して阻害または死滅され得る、PSMA、MUC16、STEAP2またはEGFRvIII等の腫瘍関連抗原を発現する細胞は、例えば、前立腺腫瘍細胞を含む。
【0165】
本発明の抗原結合分子は、例えば、脳及び髄膜、頭頸部、中咽頭、肺及び気管支樹、胃腸管、男性及び女性生殖器官、筋肉、骨、皮膚及び付属器官、結合組織、脾臓、免疫系、造血細胞及び骨髄、肝臓及び尿路、腎臓、膀胱ならびに/または特殊感覚器官、例えば目に生じる原発及び/または転移腫瘍を処置するために使用され得る。ある特定の実施形態において、本発明の二重特異性抗原結合分子は、以下のがん:膵臓癌、頭頸部がん、前立腺がん、悪性膠芽腫、骨肉腫、結腸直腸がん、胃がん(例えばMET増幅による胃がん)、悪性中皮腫、多発性骨髄腫、卵巣がん、小細胞肺がん、非小細胞肺がん、滑膜肉腫、甲状腺がん、乳がん、黒色腫神経膠腫、乳がん(例えば乳管もしくは乳管内癌、扁平上皮癌、食道がん、明細胞腎細胞癌、嫌色素細胞性腎癌、(腎)膨大細胞腫、(腎)移行上皮癌、尿路上皮癌、(膀胱)腺癌、または(膀胱)小細胞癌の1つ以上の処置に使用されるが、これらに限定されない。本発明のある特定の実施形態によれば、二重特異性抗体は、難治性または処置耐性がん、例えば去勢耐性前立腺がんに罹患した患者の処置に有用である。本発明の例示的実施形態によれば、本明細書において開示されるような抗CD3/抗PSMA二重特異性抗原結合分子、去勢耐性前立腺がんに罹患した患者に投与することを含む方法が提供される。患者が去勢耐性の腫瘍を有するかどうかを確認するために、例えば腫瘍精査等の当技術分野において知られている分析/診断方法が使用され得る。
【0166】
本発明はまた、対象における残存がんを処置するための方法を含む。本明細書において使用される場合、「残存がん」という用語は、抗がん治療、例えば一次治療または標準治
療による処置後の対象における1つ以上のがん細胞の存在または残留を意味する。
【0167】
ある特定の態様によれば、本発明は、TAA発現に関連したがん(例えば、PSMA発現もしくはSTEAP2発現に関連した前立腺がん、EGFRvIII発現に関連した膠芽腫、またはMUC16発現に関連した卵巣がん)を処置するための方法であって、対象ががんを有すると決定された後に、本明細書の別の箇所に記載される二重特異性抗原結合分子の1つ以上を対象に投与することを含む方法を提供する。例えば、本発明は、前立腺がんを処置するための方法であって、対象が以前の治療を受けてから1日後、2日後、3日後、4日後、5日後、6日後、1週間後、2週間後、3週間後、4週間後、2ヵ月後、4ヵ月後、6ヵ月後、8ヶ月後、1年後、またはそれ以後に、抗CD3/抗TAA二重特異性抗原結合分子を患者に投与することを含む方法を含む。
【0168】
複合治療及び製剤
本発明は、1種以上の追加の治療薬剤と組み合わせて本明細書に記載の例示的抗体及び二重特異性抗原結合分子のいずれかを含む薬学的組成物を投与することを含む方法を提供する。本発明の抗原結合分子と組み合わされ得る、またはそれと組み合わせて投与され得る例示的な追加の治療薬剤は、例えば、抗プログラム細胞死1抗体(例えば米国特許出願公開第US2015/0203579A1号に記載のような抗PD1抗体)、抗プログラム細胞死リガンド-1(例えば米国特許出願公開第US2015/0203580A1号に記載のような抗PD-L1抗体)、EGFR拮抗剤(例えば抗EGFR抗体[例えばセツキシマブもしくはパニツムマブ]またはEGFRの小分子阻害剤[例えばゲフィチニブもしくはエルロチニブ])、Her2/ErbB2、ErbB3またはErbB4等の別のEGFRファミリーメンバーの拮抗剤(例えば抗ErbB2、抗ErbB3もしくは抗ErbB4抗体またはErbB2、ErbB3もしくはErbB4活性の小分子阻害剤)、EGFRvIIIの拮抗剤(例えばEGFRvIIIに特異的に結合する抗体)、cMET拮抗剤(例えば抗cMET抗体)、IGF1R拮抗剤(例えば抗IGF1R抗体)、B-raf阻害剤(例えばベムラフェニブ、ソラフェニブ、GDC-0879、PLX-4720)、PDGFR-α阻害剤(例えば抗PDGFR-α抗体)、PDGFR-β阻害剤(例えば抗PDGFR-β抗体)、VEGF拮抗剤(例えばVEGF-Trap、例えばUS7,087,411を参照されたい(本明細書において「VEGF-阻害融合タンパク質」とも呼ばれる)、抗VEGF抗体(例えばベバシズマブ)、VEGF受容体の小分子キナーゼ阻害剤(例えばスニチニブ、ソラフェニブまたはパゾパニブ))、DLL4拮抗剤(例えばUS2009/0142354において開示されている抗DLL4抗体、例えばREGN421)、Ang2拮抗剤(例えばUS2011/0027286において開示されている抗Ang2抗体、例えばH1H685P)、FOLH1(PSMA)拮抗剤、PRLR拮抗剤(例えば抗PRLR抗体)、STEAP1またはSTEAP2拮抗剤(例えば抗STEAP1抗体または抗STEAP2抗体)、TMPRSS2拮抗剤(例えば抗TMPRSS2抗体)、MSLN拮抗剤(例えば抗MSLN抗体)、CA9拮抗剤(例えば抗CA9抗体)、ウロプラキン拮抗剤(例えば抗ウロプラキン抗体)等を含む。本発明の抗原結合分子と組み合わせて有益に投与され得る他の薬剤は、小分子サイトカイン阻害剤、及びIL-1、IL-2、IL-3、IL-4、IL-5、IL-6、IL-8、IL-9、IL-11、IL-12、IL-13、IL-17、IL-18等のサイトカインに、またはそれらの各受容体に結合する抗体を含む、サイトカイン阻害剤を含む。本発明の薬学的組成物(例えば、本明細書において開示されるような抗CD3/抗PSMA二重特異性抗原結合分子を含む薬学的組成物)はまた、「ICE」:イホスファミド(例えばIfex(登録商標))、カルボプラチン(例えばParaplatin(登録商標))、エトポシド(例えばEtopophos(登録商標)、Toposar(登録商標)、VePesid(登録商標)、VP-16);「DHAP」:デキサメタゾン(例えばDecadron(登録商標))、シタラビン(例えばCytosar-U(登録商標)、シトシンアラビノシド、ara-C)、シスプラチン(例えばPlatino
l(登録商標)-AQ);及び「ESHAP」:エトポシド(例えばEtopophos(登録商標)、Toposar(登録商標)、VePesid(登録商標)、VP-16)、メチルプレドニゾロン(例えばMedrol(登録商標))、高用量シタラビン、シスプラチン(例えばPlatinol(登録商標)-AQ)から選択される1種以上の治療的組み合わせを含む、治療計画の一部として投与されてもよい。
【0169】
本発明はまた、本明細書において言及される抗原結合分子のいずれか、及びVEGF、Ang2、DLL4、EGFR、ErbB2、ErbB3、ErbB4、EGFRvIII、cMet、IGF1R、B-raf、PDGFR-α、PDGFR-β、FOLH1(PSMA)、PRLR、STEAP1、STEAP2、TMPRSS2、MSLN、CA9、ウロプラキン、または上述のサイトカインのいずれかの1つ以上の阻害剤を含む薬学的組成物を含み、阻害剤は、アプタマー、アンチセンス分子、リボザイム、siRNA、ペプチボディ、ナノボディまたは抗体断片(例えばFab断片;F(ab´)断片;Fd断片;Fv断片;scFv;dAb断片;または他の改変分子、例えばジアボディ、トリアボディ、テトラボディ、ミニボディ及び最小認識単位)である。本発明の抗原結合分子はまた、抗ウイルス剤、抗生物質、鎮痛薬、コルチコステロイド及び/またはNSAIDと組み合わせて投与及び/または配合製剤化されてもよい。本発明の抗原結合分子はまた、放射線処置及び/または従来の化学治療も含む処置計画の一部として投与されてもよい。
【0170】
追加の治療活性成分(複数可)は、本発明の抗原結合分子の投与の直前に、それと同時に、またはその直後に投与されてもよい(本開示の目的において、そのような投与計画は、追加の治療活性成分「と組み合わせた」抗原結合分子の投与とみなされる)。
【0171】
本発明は、本発明の抗原結合分子が本明細書の別の箇所に記載されるような追加の治療活性成分(複数可)の1つ以上と配合製剤化された薬学的組成物を含む。
【0172】
投与計画
本発明のある特定の実施形態によれば、複数用量の二重特異性抗原結合分子(例えば抗TAA二重特異性抗原結合分子)が、定義された時間的経過にわたり対象に投与されてもよい。本発明のこの態様による方法は、複数用量の本発明の抗原結合分子を対象に逐次投与することを含む。本明細書において使用される場合、「逐次投与する」とは、抗原結合分子の各用量が、異なる時点で、例えば所定間隔(例えば時間、日、週または月)だけ隔てられた異なる日に対象に投与されることを意味する。本発明は、患者に単回初期用量の抗原結合分子を、続いて1回以上の二次用量の抗原結合分子を、続いて任意選択で1回以上の三次用量の抗原結合分子を逐次投与することを含む方法を含む。
【0173】
「初期用量」、「二次用量」、及び「三次用量」という用語は、本発明の抗原結合分子の投与の時系列を指す。したがって、「初期用量」は、処置計画の開始時に投与される用量(「ベースライン用量」とも呼ばれる)であり、「二次用量」は、初期用量の後に投与される用量であり、「三次用量」は、二次用量の後に投与される用量である。初期、二次、及び三次用量は、全て同じ量の抗原結合分子を含有してもよいが、一般に、投与の頻度に関して互いに異なってもよい。しかしながら、ある特定の実施形態において、初期、二次及び/または三次用量に含有される抗原結合分子の量は、処置の過程で互いに異なる(例えば、適宜上方または下方調節される)。ある特定の実施形態において、2回以上(例えば2回、3回、4回または5回)の用量が、処置計画の開始時に「負荷用量」として投与され、続いて、その後の用量がより低頻度で投与される(例えば「維持用量」)。
【0174】
本発明の1つの例示的実施形態において、二次及び/または三次用量はそれぞれ、直前の用量から1~26(例えば、1、1と1/2、2、2と1/2、3、3と1/2、4、
4と1/2、5、5と1/2、6、6と1/2、7、7と1/2、8、8と1/2、9、9と1/2、10、10と1/2、11、11と1/2、12、12と1/2、13、13と1/2、14、14と1/2、15、15と1/2、16、16と1/2、17、17と1/2、18、18と1/2、19、19と1/2、20、20と1/2、21、21と1/2、22、22と1/2、23、23と1/2、24、24と1/2、25、25と1/2、26、26と1/2、またはそれ超)週間後に投与される。「直前の用量」という語句は、本明細書において使用される場合、複数投与の順番において、介在する用量なしに、順番におけるまさに次の用量の投与の前に患者に投与される抗原結合分子の用量を意味する。
【0175】
本発明のこの態様による方法は、抗原結合分子(例えば抗TAA二重特異性抗原結合分子)の任意の数の二次及び/または三次用量を患者に投与することを含んでもよい。例えば、ある特定の実施形態において、単一の二次用量のみが患者に投与される。他の実施形態において、2回以上(例えば2回、3回、4回、5回、6回、7回、8回またはそれ超)の二次用量が患者に投与される。同様に、ある特定の実施形態において、単一の三次用量のみが患者に投与される。他の実施形態において、2回以上(例えば2回、3回、4回、5回、6回、7回、8回またはそれ超)の三次用量が患者に投与される。
【0176】
複数の二次用量が関与する実施形態において、各二次用量は、他の二次用量と同じ頻度で投与されてもよい。例えば、各二次用量は、直前の用量から1~2週間後に患者に投与されてもよい。同様に、複数の三次用量が関与する実施形態において、各三次用量は、他の三次用量と同じ頻度で投与されてもよい。例えば、各三次用量は、直前の用量から2~4週間後に患者に投与されてもよい。代替として、二次及び/または三次用量が患者に投与される頻度は、処置計画にわたって変動し得る。投与頻度はまた、臨床試験後の個々の患者の必要性に依存して、処置の過程で医師により調節されてもよい。
【実施例
【0177】
以下の実施例は、本発明の方法及び組成物を作製及び使用する方法の完全な開示及び説明を当業者に提供するために提示され、本発明者が自らの発明とみなすものの範囲を限定することを意図しない。使用される数字(例えば量、温度等)に関して正確性を確保するための努力がなされているが、ある程度の実験誤差及び偏差が考慮されるべきである。別段に指定されない限り、部は重量部であり、分子量は平均分子量であり、温度は摂氏温度であり、圧力は大気圧または大気圧近くである。
【0178】
実施例1:抗CD3抗体の生成
以下の手順は、抗原としてのCD3(T細胞共受容体)を特異的に認識する抗体を特定することを目指した。
【0179】
遺伝子操作マウスを免疫化することにより、抗CD3抗体のプールを得た。簡潔に説明すると、単一再配列軽鎖(例えばVκ1-39/JまたはVκ3-20/J)に会合した逆キメラ(ヒト可変、マウス定常)及び免疫グロブリン重鎖を発現するように遺伝子改変されたマウスを、CD3抗原で免疫化し、高親和性抗原特異性抗体の多様なレパートリーを発現するために、多様なヒトVH再配列を含むB細胞を生成した。本出願において説明されるある特定の例示された抗体は、組み換えにより作製されており、Vκ1-39JK5の同じ軽鎖配列(配列番号162に記載のLCVR)を発現し、一方組み換えにより作製された他の抗体は、重鎖アーム(例えば腫瘍標的アーム)の1つの同種軽鎖を発現する。
【0180】
生成された抗体を、in vitro結合アッセイにおいてヒト及びカニクイザルCD3抗原に対する親和性について試験し、例えば、いくつかの他の抗体の中からCD3-V
H-P(配列番号154に記載のHCVR)で記号表示される1つのCD3抗体を特定したが、それらは、ヒト及びカニクイザルCD3の両方に結合し、それぞれJurkat細胞及びカニクイザルT細胞のFACS滴定において決定されるように、1から40nMの間の親和性(+++)のEC50を有することが判明した。例えば、本明細書における以下の実施例4に概説されるFACS結合実験を参照されたい。
【0181】
その後、CD3-VH-Pの生殖細胞系列アミノ酸残基を特定し、「CD3-VH-G」で記号表示される抗体を、生殖細胞系列フレームワークのみを含有するように改変した。周知の分子クローニング技術により他の抗体誘導体を改変し、生殖細胞系列配列とCD3-VH-P配列との間の差に基づいて段階的にアミノ酸残基を置き換えた。各抗体誘導体には、「CD3-VH-G」という数字記号表示が付される。表1及び図1を参照されたい。
【0182】
その記号表示及び説明が表1に示される改変抗CD3抗体から得られる第1の結合アームと、抗TAA抗体から得られる第2の結合アームとを含む二重特異性抗体を調製し、FACSアッセイ(実施例4に記載の通り)においてCD3保持細胞に対する一価親和性について試験した。これらの二重特異性抗体の一価結合親和性の結果を、表1の右側の2つの列に示す。具体例において、それぞれ「CD3-VH-G」、「CD3-VH-G5」及び「CD3-VH-G20」で記号表示されるTAA結合アーム及びCD3結合アームを有する二重特異性抗体は、それぞれ2.7E-08のEC50、検出可能な結合なし、及び5.5E-07のEC50でJurkat細胞に結合した。
【0183】
【表1】
【0184】
CD3-VH-G及びいくつかの他の改変抗体は、FACSアッセイにおいて見られるようにその結合親和性を維持したが、いくつかの抗CD3抗体は、in vitroで弱い(+/-)親和性から測定不能(-)の親和性でヒトまたはカニクイザルCD3に結合した。その後、この実施例の方法に従って生成された例示的抗CD3抗体を含む二重特異
性抗体に対して、細胞毒性及び薬物動態(pK)プロファイルを解明するための結合親和性、結合反応速度、及び他の生物学的特性を調査したが、これを以下に記載の実施例において詳細に説明する。
【0185】
実施例2:重鎖及び軽鎖可変領域(CDRのアミノ酸及び核酸配列)
各抗体重鎖配列に対してアミノ酸及び核酸配列を決定した。生殖細胞系列配列IGHV3-9*01/D5-12*01/J6*02(配列番号181)の誘導体としての各抗体重鎖に、一貫した命名のために「G」数字記号表示を割り当てた。表2は、本発明の改変抗CD3抗体の重鎖可変領域及びCDRのアミノ酸配列識別子を記載している。対応する核酸配列識別子を、表3に記載する。また、各組み換え抗体を構築するための軽鎖可変領域及びCDRのアミノ酸及び核酸配列識別子は、それぞれ以下の表4及び5において特定される。
【0186】
【表2】
【0187】
【表3】
【0188】
【表4】
【0189】
【表5】
【0190】
「CD3-L2K」で記号表示される対照1抗体は、既知の抗CD3抗体(すなわちWO2004/106380に記載のような抗CD3抗体「L2K」)に基づいて構築された。
【0191】
本明細書の以下の実施例において言及されるアイソタイプ対照抗体は、無関係の抗原、すなわちFelD1抗原と相互作用するアイソタイプ一致(改質IgG4)抗体である。
【0192】
実施例3:CD3及び腫瘍関連抗原(TAA)に結合するULC二重特異性抗体の生成
PSMA、EGFRvIII、MUC16またはSTEAP2等の抗CD3特異性結合ドメイン及び抗TAA特異性結合ドメインを含む二重特異性抗体を、本明細書に記載の抗CD3抗体からの重鎖、抗TAA抗体からの重鎖、及び共通軽鎖または普遍的軽鎖(ULC)を利用した標準的分子生物学的方法を使用して構築した。本発明の二重特異性抗体を構築するために使用された抗TAA抗体は、遺伝子操作マウスを免疫化することにより得られた。
【0193】
この実施例に従って作製される様々な二重特異性抗体の抗原結合ドメインの構成部分の概要は、以下の表6、7及び8に記載される。2014年8月28日に公開された米国特許出願公開第US20140243504A1号に記載のように、改質(キメラ)IgG4 Fcドメインを有する全ての二重特異性抗体を製造した。例示的なEGFRvIII×CD3二重特異性抗体は、本明細書において議論される抗CD3抗体のいずれかの可変領域またはCDRと組み合わせて、参照することによりその全体が本明細書に組み込まれる米国特許出願公開第US20150259423号において議論されているEGFRvIII抗体のいずれかの重鎖及び軽鎖可変領域(またはCDR)のいずれかを使用して調製され得る。
【0194】
【表6】
【0195】
【表7】
【0196】
【表8】
【0197】
【表9】
【0198】
例示的な二重特異性抗体のそれぞれを、本明細書の以下で説明されるような様々なバイオアッセイにおいて試験した。
【0199】
実施例4:FACS分析により測定されるような例示的二重特異性抗体の結合親和性
この例では、ヒト及びカニクイザルCD3発現細胞株に結合するCD3×TAA二重特異性抗体の能力を、FACSにより決定した。さらに、標的特異性(TAA特異性)細胞株に結合するこれらの二重特異性抗体の能力もまた確認した。上述のように、本発明の様々な二重特異性抗体は、抗CD3結合アーム(上述の実施例1及び2を参照されたい)のパネルの1つと対形成した単一のTAA特異的結合アーム(PSMA、EGFRvIII、MUC16、またはSTEAP2;実施例3、表6、7及び8を参照されたい)、ならびに共通軽鎖を利用した。また、実施例5にも示されるように、CD3×TAA二重特異性抗体は、表面プラズモン共鳴により、ヒト可溶性ヘテロ二量体hCD3ε/δ.mFcタンパク質に対するある範囲の親和性を示した。
【0200】
簡潔に説明すると、2×10細胞/ウェルのヒトCD3発現Jurkat、カニクイザルTまたはTAA特異的発現細胞を、二重特異性抗体を連続希釈して4℃で30分間インキュベートした。インキュベーション後、細胞を洗浄し、ヤギF(ab´)抗ヒトFcγPE標識化二次抗体(Jackson Immunolabs)を、さらに30分間細胞に添加した。次に、細胞を洗浄し、冷PBS+1%BSA中に再懸濁し、BD FACS Canto IIでフローサイトメトリーにより分析した。
【0201】
FACS分析のために、単一イベント選択に対して前方散乱高さ対前方散乱面積により、続いて側方及び前方散乱により細胞をゲーティングした。細胞結合滴定のEC50は、PRISM(商標)ソフトウェア(GraphPad Software,Inc.、La Jolla、CA)を使用して決定した。値は、4パラメータ非線形回帰分析を使用して計算した。
【0202】
【表10】
【表11】
【0203】
表10Aに示されるように、各CD3×PSMA二重特異性抗体のCD3結合アームは、Jurkat細胞を発現するヒトCD3に対するある範囲の細胞結合親和性を示した(15~300nMのEC50範囲)。重要なことに、表面プラズモン共鳴によりヒトCD3ヘテロ二量体タンパク質に対する弱い結合を示すものから結合を示さないCD3アーム(本明細書における以下の表11を参照されたい)はまた、Jurkat細胞(すなわち、CD3-VH-G2、CD3-VH-G3、CD3-VH-G5)に対する弱い結合から観察不能な結合に相関した。FACSアッセイまたは同等のアッセイにおける検出不能な結合、または検出可能な結合がないことは、抗体とその標的抗原との間の親和性がアッセイの検出限界を超える(例えば>1μM)ことを意味する。いくつかのCD3結合アームはまた、カニクイザルT細胞に対する交差反応性を示した。全ての試験された二重特異性抗体は、各PSMA、EGFRvIII及びMUC16発現細胞株に対して同様の細胞結合を示し、個々のCD3アームとの二重特異性対形成はTAA特異性結合に影響またはそれを低下させないことが確認された(TAA特異性結合は、試験された全ての例において5.6nM以下(高親和性)であった)。
【0204】
ヒトCD3に対する弱い結合から検出不可能な結合を示すと共に、カニクイザルCD3に対する弱い結合を示すものから結合を示さない抗体は、本発明による親和力駆動型二重特異性対形成に有利であるとみなされ、in vitro及びin vivoアッセイにおいて細胞毒性についてさらに試験された。
【0205】
実施例5:表面プラズモン共鳴結合アッセイにより測定されるような例示された抗体の結合親和性
可溶性ヘテロ二量体hCD3ε/δ.mFcタンパク質(hCD3ε=UniProtKB/Swiss-Prot:P07766.2;配列番号169;hCD3δ=UniProtKB/Swiss-Prot:P04234.1、配列番号170)に対する抗TAA×抗CD3二重特異性抗体の結合親和性及び速度定数を、抗原捕捉形式(表11)または抗体捕捉形式(データは示さず)のいずれかを使用して、表面プラズモン共鳴によ
り37℃で決定した。この例において、BSPSMA/CD3二重特異性抗体を利用したが、これは、これらの対形成がCD3結合アームの抗体のより広いパネルの使用を示したためである。測定は、Sierra Sensors MASS-1機器で行った。
【0206】
抗原捕捉形式において、MASS-1高密度アミンセンサ表面を、ヤギ抗マウスIgG2aポリクローナル抗体(Southern Biotech)で誘導体化した。可溶性ヘテロ二量体CD3タンパク質が捕捉され、各抗体が捕捉された抗原上に射出された。
【0207】
MASS-1 AnalyserR2曲線フィッティングソフトウェアを使用してデータを処理し、1:1結合モデルにフィッティングすることにより、動力学的会合(k)及び解離(k)速度定数を決定した。結合解離平衡定数(K)及び解離半減期(t1/2)は、以下のように動力学的速度定数から計算された:K(M)=k/k;及びt1/2(分)=(ln2/(60*k)。
【0208】
【表12】
【0209】
表11において示されるように、抗CD3×抗PSMA二重特性抗体は、表面プラズモン共鳴結合アッセイにおいて、可溶性CD3に対する非常に弱い結合を維持し、例えば11nM超から最大334nMまでのK値を有したが、これは、生殖細胞系列フレームワークから得られた二重特異性抗CD3アーム、CD3-VH-Gの値よりも弱い。
【0210】
いくつかの二重特異性抗体は、50nM超のK値を示し、またいくつかは100nM超(>1×10-7)のK値(すなわちBSPSMA/CD3-900、BSPSMA/CD3-1000、BSPSMA/CD3-1900)、300nM超(>3×10-7)のK値(すなわちBSPSMA/CD3-005)、またさらにはアッセイの検出限界を超え(>500nM;>5×10-7)、すなわち可溶性ヒトCD3に対する検出可能な結合を示さなかった(すなわちBSPSMA/CD3-200、BSPSMA/CD3-300、BSPSMA/CD3-400、BSPSMA/CD3-004及びBSPSMA/CD3-1800)。
【0211】
実施例6:in vitroで測定されるような本発明の二重特異性抗体により示されるT細胞活性化及び腫瘍特異性細胞毒性
この例では、CD3系二重特異性抗体の存在下でのPSMA、EGFRvIIIまたはMUC16発現TAA標的細胞の特異的死滅を、フローサイトメトリーにより監視した。以前に報告されたように、二重特異性抗体は、CD3タンパク質及びCD3発現細胞株に対するある範囲の親和性を示した(すなわち、弱い、中程度及び強い結合)。この二重特異性抗体の同じパネルを、ナイーブヒトT細胞に標的発現細胞に対する死滅を再誘導させる能力について試験した。
【0212】
簡潔に説明すると、PSMA発現(C4-2、22Rv1及びTRAMPC2_PSMA)、EGFRvIII発現(U87/EGFRvIII)またはMUC16発現(OVCAR3)細胞株を、1μMの蛍光追跡用色素Violet Cell Trackerで標識化した。標識化後、細胞を37℃で一晩播種した。別個に、ヒトPBMCを添加RPMI培地中に1×10細胞/mLで播種し、接着マクロファージ、樹状細胞、及びいくつかの単球を枯渇させることによりリンパ球を濃縮するために37℃で一晩インキュベートした。翌日、標的細胞を、接着細胞枯渇ナイーブPBMC(エフェクター/標的細胞比4:1)及び連続希釈した関連二重特異性抗体またはアイソタイプ対照(濃度範囲:66.7nMから0.25pM)と、37℃で48時間共インキュベートした。酵素不含細胞解離緩衝剤を使用して細胞を細胞培養プレートから取り出し、FACSにより分析した。
【0213】
FACS分析のために、細胞を死/生遠赤色細胞追跡物質(Invitrogen)で染色した。FACS分析の直前に、5×10の計数ビーズを各ウェルに追加した。各試料に対して1×10のビーズを収集した。死滅の特異性を評価するために、生Violet標識化集団に対して細胞をゲーティングした。生集団のパーセントを記録し、正規化生存率の計算に使用した。
【0214】
細胞をCD2及びCD69への直接共役抗体とインキュベートし、全T細胞(CD2+)のうちの活性化(CD69+)T細胞のパーセントを報告することにより、T細胞活性化を評価した。
【0215】
表12A~12Cにおける結果が示すように、抗PSMA、EGFRvIIIまたはMUC16×CD3二重特異性抗体によりTAA発現細胞の枯渇が観察された。試験した二重特異性抗体のほとんどは、ヒトT細胞を活性化し、ピコモル範囲内のEC50で標的細胞を枯渇するように誘導した。さらに、観察された標的細胞溶解(枯渇)は、CD2+T細胞に対するCD69細胞の上方制御に関連し、ピコモル(pM)のEC50であった。
【0216】
重要なことに、この例の結果は、CD3タンパク質またはCD3発現細胞に対する弱い結合から観察不能な結合を示すCD3結合アーム(すなわちCD3-VH-G5)を利用したいくつかの二重特異性抗体が、まだT細胞を活性化する能力を保持し、腫瘍抗原発現
細胞の強力な細胞毒性を示したことを実証している。
【0217】
【表13】
【表14】
【0218】
実施例7:抗PSMA/抗CD3二重特異性抗体はin vivoで強力な抗腫瘍効果を示す
ヒト及びカニクイザルCD3に対する弱い結合親和性を有する、または検出可能な結合親和性を有しないことが特定された例示的抗PSMA/抗-CD3二重特異性抗体のin
vivo有効性を決定するために、ヒト前立腺がん異種移植片を保持する免疫障害マウスにおいて試験を行った。ヒトPSMAを発現するように改変されたマウス前立腺がん異種移植片を保持する免疫正常マウスにおいても、追加的な試験を行った。
【0219】
ヒト腫瘍異種移植片モデルにおける抗PSMA/抗CD3二重特異性抗体の有効性
ヒト腫瘍異種移植片試験における抗PSMA/抗CD3二重特異性抗体のin vivo有効性を評価するために、NOD scidガンマ(NSG)マウス(Jackson
Laboratories、Bar Harbor、Maine)に、内生的にPSMAを発現する22Rv1またはC4-2ヒト前立腺腫瘍細胞と共に、ヒト末梢血単核細胞(PBMC)を共移植した。
【0220】
簡潔に説明すると、4×10の22Rv1または5×10のC4-2細胞(MD Anderson、TX)細胞を、50:50ミックスのマトリゲルマトリックス(BD
Biosciences)中の1×10のヒトPBMC(ReachBio,LLC.、Seattle、WA)と共に、雄NSGマウスの右脇腹にs.c.で共移植した。C4-2試験では、腫瘍移植後0日目、4日目及び7日目に、0.1mg/kgのBSPSMA/CD3-003またはBSPSMA/CD3-005でマウスをi.p.で処理した。
【0221】
追加的な異種移植モデルにおいて、抗PSMA/抗CD3二重特異性抗体を、ヒト造血CD34+幹細胞を植え付けられたマウスで試験した。簡潔に説明すると、新生仔SIR
Pα BALB/c-Rag2-IL2rγ-(BRG)に、hCD34+胎児肝臓細胞を植え付けた。3~6ヵ月後、hCD34が植え付けられたSIRPα BRGマウスに、C4-2細胞(マトリゲル中5×10 s.c.)を移植した。8日後、マウスを10μgのBSPSMA/CD3-004またはアイソタイプ対照抗体で処置し、続いて2回/週の投薬を試験の間中行った。
【0222】
全ての試験において、ノギスを使用して腫瘍サイズを2回/週測定し、腫瘍体積を体積=(長さ×幅)/2として計算した。
【0223】
表13における結果が示すように、上述の異種移植モデルにおいて試験された二重特異性抗体は全て、アイソタイプ対照での処置と比較して腫瘍成長の抑制に効果的であった。
【0224】
【表15】
【0225】
免疫正常腫瘍モデルにおける抗PSMA/抗CD3二重特異性抗体の有効性
さらに、抗PSMA/抗CD3二重特異性抗体を、免疫正常モデル(2014年11月24日出願の米国仮特許出願第62/083,653号)における抗腫瘍活性について評価した。CD3の3つの鎖(δγε)に対してヒト化したマウスを、PSMAに対してもヒト化し、ヒトPSMAでトランスフェクトした変異マウス前立腺がん細胞株TRAMP-C2を移植した。
【0226】
試験開始の前に、腫瘍原性細胞株変異TRAMP-C2_hPSMAv#1を生成した。簡潔に説明すると、7.5×10のTRAMP-C2_hPSMA細胞を、CD3及びPSMAに対してヒト化した雄マウスの右脇腹にs.c.で移植した。腫瘍を切除し、3mm断片に切断し、その後新たな雄ヒト化マウスの右脇腹に移植した。次いで、移植された腫瘍断片から生じた腫瘍を採取し、単一細胞懸濁液に分散させた。次いで、これらの細胞(TRAMP-C2_hPSMAv#1)をG418選択下でin vitroで培養した。次いで、二重特異性抗体の有効性試験のために、この変異細胞株の4×10の細胞を、雄PSMA/CD3ヒト化マウスの右脇腹に移植した。
【0227】
TRAMPC2_hPSMAv#1が移植されたヒト化PSMA/CD3マウスを、100μgまたは10μgの抗PSMA/抗CD3二重特異性抗体BSPSMA/CD3-004またはアイソタイプ対象で、腫瘍移植の日から開始して2回/週で処置した。脾臓T細胞レベルと共に、注射から4時間後の血清サイトカインレベルも試験した。27日目に試験を終了した。
【0228】
表14における結果が示すように、試験された抗PSMA/抗CD3二重特異性分子、BSPSMA/CD3-004は、処置群にわたり腫瘍成長の大幅な遅延において有効性を示した。BSPSMA/CD3-004の投与後に、おそらくは抗CD3の弱い結合に起因して、最小のサイトカイン放出が観察された。試験した抗体は共に、脾臓内のT細胞を枯渇させることなく抗腫瘍効果を示した。
【0229】
【表16】
【0230】
要約すると、本発明の抗PSMA/抗CD3二重特異性抗体は、CD3抗原に対する低
い結合から検出不可能な結合を有するにもかかわらず、免疫障害及び免疫正常腫瘍モデルの両方において強力な抗腫瘍効果を示す。
【0231】
実施例8:抗MUC16/抗CD3二重特異性抗体はin vivoで強力な抗腫瘍効果を示す
ヒト及びカニクイザルCD3に対する弱い結合親和性を有する、または検出可能な結合親和性を有しないことが特定された例示的抗MUC16/抗-CD3二重特異性抗体のin vivo有効性を決定するために、ヒト前立腺がん異種移植片を保持する免疫障害マウスにおいて試験を行った。選択された二重特異性抗体の有効性を、即時処置及び治療的処置投薬モデルの両方において試験した。
【0232】
ヒト腫瘍異種移植片モデルにおける抗MUC16/抗CD3二重特異性抗体の有効性
ヒト腫瘍異種移植片試験における抗MUC16/抗CD3二重特異性抗体のin vivo有効性を評価するために、NOD scidガンマ(NSG)マウス(Jackson Laboratories、Bar Harbor、Maine)に、ヒト末梢血単核細胞(PBMC;ReachBio LLC.、Seattle、WA)を事前に移植し、次いでルシフェラーゼで形質導入されたヒト卵巣がん細胞株OVCAR-3(American Type Tissue Culture、Manassas、VA)(OVCAR-3/Luc)からの腹水細胞を与えた。OVCAR-3細胞は、内生的にMUC-16を発現する。
【0233】
簡潔に説明すると、NSGマウスに、5.0×10のヒトPBMCを腹腔内(i.p.)注射した。8日後、事前にin vivoで継代されたOVCAR-3/Luc細胞株からの1.5×10の腹水細胞を、PBMCが植え付けられたNSGマウスにi.p.投与した。即時処置群では、OVCAR-3/Luc細胞移植の日に、マウスをMUC16/CD3二重特異性抗体BSMUC16/CD3-001もしくはBSMUC16/CD3-005、またはアイソタイプ対照で10ug/マウス(N=5マウス/処置群)の用量でi.p.処置した。治療的用量モデルでは、腫瘍移植から7日後に、マウスを上述のMUC16/CD3二重特異性または対照抗体で10ug/マウス(N=5/処置群)の用量でi.p.処置した。
【0234】
全ての試験において、腫瘍成長を生物発光画像化(BLI)により監視した。マウスに、PBS中に懸濁させたルシフェラーゼ基質Dルシフェリン(150mg/kg)をi.p.注射し、10分後にイソフルラン麻酔下で画像化した。Xenogen IVISシステム(Perkin Elmer、Hopkinton、MA)を使用してBLIを行い、Living Imageソフトウェア(Xenogen/Perkin Elmer)を使用してBLI信号を抽出した。各細胞集団の周りの対象となる領域を描き、光子強度を、光子(p)/秒(s)/cm/ステラジアン(sr)として記録した。即時処置群では、データは、腫瘍移植から26日後のBLIレベルとして示される(表15)。治療処置群では、データは、6日目(処置の1日前)と試験終了時点(腫瘍移植から26日後;表16)との間のBLIの倍率変化として示される。
【0235】
結果が示すように、即時投薬モデルにおいてBLIが26日目で測定された場合、BSMUC16/CD3-001及びBSMUC16/CD3-005の両方が、アイソタイプ対照と比較して腫瘍成長の抑制において同様の有効性を示した。また、両方の抗MUC16/抗CD3二重特異性抗体が、対照と比較して、腫瘍移植から7日後に投与された場合樹立された腫瘍の成長を抑制した。要約すると、本発明の二重特異性抗MUC16/抗CD3抗体は、いくつかのモデルにおいて強力な抗腫瘍効果を示す。
【0236】
【表17】
【0237】
【表18】
【0238】
実施例9:抗MUC16×CD3二重特異性抗体の薬物動態学的評価
抗MUC16×CD3二重特異性抗体BSMUC16/CD3-001及びBSMUC16/CD3-005、ならびにアイソタイプ対照の薬物動態の評価を、ヒト化MUC16×CD3マウス(ヒトMUC16及びCD3発現のためのホモ接合マウス、MUC16hu/hu×CD3hu/hu)、CD3ヒト化マウス(ヒトCD3発現のためのホモ接合マウス、CD3hu/hu)及び株一致(75%C57BL、25%129Sv)野生型(WT)マウスにおいて行った。コホートは、試験抗体当たり、及びマウス株当たり4~5匹のマウスを含有した。全てのマウスは、単回腹腔内(i.p.)0.4mg/kg投薬を受けた。血液試料を投薬から3及び6時間後、1、3、7、14及び28日後に回収した。血液を血清中に処理し、分析まで-80℃で凍結した。
【0239】
循環抗体濃度を、GyroLab xPlore(商標)(Gyros、Uppsala、Sweden)を使用して全ヒトIgG抗体分析により決定した。簡潔に説明すると、血清中に存在するヒトIgGを捕捉するために、ビオチン化ヤギ抗ヒトIgGポリクロ
ーナル抗体(Jackson ImmunoResearch、West Grove、PA)を、Gyrolab Bioaffy 200 CD(Gyros)でストレプトアビジンコーティングビーズ上に捕捉した。親和性カラム捕捉後に、試料中の結合ヒトIgG抗体を、Alexa-647標識化ヤギ抗ヒトIgG(Jackson ImmunoResearch)で検出した。カラム上の蛍光信号により、結合IgGの検出が可能となり、機器により反応単位(RU)が読み出された。試料濃度は、Gyrolab Evaluator Softwareを使用した5パラメータ対数曲線フィッティングを用いてフィッティングされた標準曲線からの補間により決定された。
【0240】
PKパラメータは、Phoenix(登録商標)WinNonlin(登録商標)ソフトウェアバージョン6.3(Certara、L.P.、Princeton、NJ)及び血管外投薬モデルを使用した非コンパートメント分析(NCA)により決定された。各抗体に対して各平均濃度値を使用して、観察された血清中最大濃度(Cmax)、観察された推定半減期(t1/2)、及び最後の測定可能濃度までの時間に対する濃度曲線下面積(AUClast)を含む全てのPKパラメータを、線形補間及び均一加重による線形台形規則を用いて決定した。
【0241】
WTマウスにおけるi.p.投与後、BSMUC16/CD3-001、BSMUC16/CD3-005及びアイソタイプ対照の全IgG濃度-時間プロファイルは全て同様であり、まず短時間の薬物分布と、それに続く試験の残り全体にわたる単一薬物消失段階を特徴とした。3つの抗体の最大血清濃度(Cmax)及び計算薬物曝露(AUClast)は同等であった(互いに1.3倍以内)。
CD3hu/huマウスにおける抗体のi.p.投与後、BSMUC16/CD3-001、BSMUC16/CD3-005及びアイソタイプ対照は、同等のCmax濃度(それぞれ4.6、3.6及び4.1μg/mL)を有していた。BSMUC16/CD3-005及びアイソタイプ対照は、同様の薬物消失曲線を示し、一方BSMUC16/CD3-001は、その両方よりも急な薬物消失を示し、ヒトCD3標的結合がクリアランスを駆動することを示唆していた。BSMUC16/CD3-001の最終抗体濃度は0.03μg/mLであったが、これはアイソタイプ対照に対して決定された最終抗体濃度(0.85μg/mL)の約28分の1であり、BSMUC16/CD3-005(0.66μg/mL)血清濃度の22分の1である。
【0242】
MUC16hu/hu×CD3hu/hu二重ヒト化マウスにおいて、Muc16×CD3二重特異性及びアイソタイプ対照抗体は、同等のCmax濃度(Cmax範囲:4.5~6.9μg/mL)を有していた。両方の二重特異性抗体が、アイソタイプ対照よりも急な薬物消失を示し、標的媒介効果を示唆していた。BSMUC16/CD3-001及びBSMUC16/CD3-005に対する最終抗体濃度は、アイソタイプ対照に対して決定された最終抗体濃度(0.86μg/mL)のそれぞれ約29分の1及び2.9分の1であった。
【0243】
全抗MUC16×CD3二重特異性抗体及びアイソタイプ対照抗体濃度のデータの要約は、表17にまとめられている。平均PKパラメータは、表18A及び18Bに記載されている。時間に対する平均全抗体濃度は、図2A、2B及び2Cに示されている。結論として、MUC16×CD3二重特異性抗体は、WTマウスにおいて同様のCmax及び薬物消失曲線を示したが、BSMUC16/CD3-001は、CD3単一ヒト化マウス及びMUC16/CD3二重ヒト化マウスにおいて、BSMUC16/CD3-005及びアイソタイプ対照よりも急な消失速度を示した。このPK試験において投与された二重特異性抗体は、同じ抗MUC16結合アームで構成されているため、結果は、CD3標的化アームの結合強度が、薬物曝露レベル(AUClast)及び薬物消失速度において役割を担い得ることを示唆している。BSMUC16/CD3-001及びBSMUC16/
CD3-005のいずれも、マウスMUC16またはマウスCD3に結合しない。
【0244】
【表19】
【0245】
【表20】
【0246】
実施例10:抗STEAP2/抗CD3二重特異性抗体はin vivoで強力な抗腫瘍効果を示す
ヒト及びカニクイザルCD3に対する弱い結合親和性を有する、または検出可能な結合親和性を有しないことが特定された例示的抗STEAP2/抗-CD3二重特異性抗体のin vivo有効性を決定するために、ヒト前立腺がん異種移植片を保持する免疫障害マウスにおいて試験を行った。
【0247】
ヒト腫瘍異種移植片試験における抗STEAP2/抗CD3二重特異性抗体のin vivo有効性を評価するために、NOD scidガンマ(NSG)マウス(Jackson Laboratories、Bar Harbor、Maine)に、内生的にSTEAP2を発現するヒト前立腺がんC4-2細胞(MD Anderson Cancer Center、Houston TX)と共に、ヒト末梢血単核細胞(PBMC;ReachBio LLC.、Seattle、WA)を共移植した。
【0248】
簡潔に説明すると、5.0×10のC4-2細胞を、50:50ミックスのマトリゲルマトリックス(BD Biosciences、San Jose、CA)中の1.25×10のヒトPBMCと共に、雄NSGマウスの右脇腹に皮下(s.c.)で共移植した。移植の日に(即時処置モデル)、マウスを抗STEAP2/抗CD3二重特異性抗
体BSSTEAP2/CD3-001、BSSTEAP2/CD3-002もしくはBSSTEAP2/CD3-003、またはアイソタイプ対照(C4-2腫瘍細胞に結合しない)で0.1または0.01mg/kg(N=5マウス/群)の用量で腹腔内(i.p.)処置した。
【0249】
ノギスを使用して腫瘍サイズを2回/週測定し、腫瘍体積を体積=(長さ×幅)/2として計算した。データは、試験終了時点、腫瘍移植から46日後での腫瘍サイズ(mm)として示されている(表19)。
【0250】
表19における結果が示すように、BSSTEAP2/CD3-001、BSSTEAP2/CD3-002及びBSSTEAP2/CD3-003は、腫瘍サイズが試験終了時点で測定された場合、アイソタイプ対照と比較して腫瘍成長を大幅に抑制した。重要なことに、抗STEAP2/抗CD3二重特異性抗体は、0.1mg/kgの最低用量であってもC4-2腫瘍成長の抑制において有効であった。
【0251】
【表21】
【0252】
本発明は、本明細書に記載の特定の実施形態により範囲が限定されるものではない。実際に、本明細書に記載のものに加え、本発明の様々な修正が、上記説明及び添付の図面から当業者に明らかとなる。そのような修正は、添付の特許請求の範囲内であることが意図される。
図1-1】
図1-2】
図2A
図2B
図2C
【配列表】
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