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  • 特許-カム式時計部品の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-06-11
(45)【発行日】2025-06-19
(54)【発明の名称】カム式時計部品の製造方法
(51)【国際特許分類】
   G04B 21/04 20060101AFI20250612BHJP
【FI】
G04B21/04 Z
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2021561608
(86)(22)【出願日】2020-04-10
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-06-17
(86)【国際出願番号】 EP2020060317
(87)【国際公開番号】W WO2020212281
(87)【国際公開日】2020-10-22
【審査請求日】2023-03-13
(31)【優先権主張番号】19169228.4
(32)【優先日】2019-04-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】599091346
【氏名又は名称】ロレックス・ソシエテ・アノニム
【氏名又は名称原語表記】ROLEX SA
(74)【代理人】
【識別番号】110000062
【氏名又は名称】弁理士法人第一国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ブルッカート, フローラン
(72)【発明者】
【氏名】カラム, フロリアン
(72)【発明者】
【氏名】オリヴェイラ, アレクサンドル
【審査官】細見 斉子
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-230306(JP,A)
【文献】特表2011-520090(JP,A)
【文献】特開2018-031769(JP,A)
【文献】特開昭59-192809(JP,A)
【文献】特開2015-215350(JP,A)
【文献】特開2006-275550(JP,A)
【文献】国際公開第2010/123068(WO,A1)
【文献】特表2016-502081(JP,A)
【文献】Jean-Ren Gonthier,Nouveau laser dual coupl au jet d’eau,外国雑誌,スイス,MSM, le mensuel de l'industrie,2018年05月30日,https://www.msm.ch/nouveau-laser-dualcouple-au-jet-deau-a-720404/
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G04B 1/00-99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
カム式時計部品を製造する方法であって、
前記時計部品の少なくとも1つの機能的側面(3)を形成するために、噴流内での2つの異なるレーザビームの組み合わせによって、600HV以上の硬度を有するセラミックまたはサーメット製の厚肉ストリップを切断するステップを含み、前記時計部品は、200ミクロン以上の厚さを有し、当該方法は50nm以下の前記機能的側面(3)の粗さRaを得るための終了ステップを含み、
前記切断ステップは、前記2つの異なるレーザビームを交互にまたは連続して得るために、それぞれ第1の、マスターレーザ源と第2の、異なる、スレーブレーザ源から生じる、噴流内での2つの異なるレーザビームの使用を含み、
前記第1の、マスターレーザ源は、50W以下の中程度の平均出力であり、パルス幅が80から400nsの間で周波数が6から20kHzの間の緑色レーザである、及び第2の、スレーブレーザ源は、20W以下の中程度の平均出力であり、パルス幅が7から20nsの間で周波数が80から130kHzの間の緑色レーザである、
カム式時計部品の製造方法。
【請求項2】
前記終了ステップは、
記粗さを減少させるための、前記機能的側面または複数の前記機能的側面の研磨、
の追加ステップを含む、
請求項1に記載のカム式時計部品の製造方法。
【請求項3】
前記厚さは、400ミクロン以上である、
請求項1または2に記載のカム式時計部品の製造方法。
【請求項4】
前記カム式時計部品は、平坦な主表面(2)を含み、前記機能的側面(3)は、前記主表面に実質的に垂直で、前記平坦な主表面から延長し、前記平坦な主表面に対して89度以上91度以下の角度を有する、
請求項1から3のいずれか一項に記載のカム式時計部品の製造方法。
【請求項5】
前記少なくとも1つの機能的側面(3)は、40nm以下の粗さRaを有する、
請求項1から4のいずれか一項に記載のカム式時計部品の製造方法。
【請求項6】
前記カム式時計部品は、ハート型カムといったカム、螺旋または切欠き渦状カム、シャトルまたはコラムホイールである、
請求項1から5のいずれか一項に記載のカム式時計部品の製造方法。
【請求項7】
前記切断ステップは、前記噴流内での2つの異なるレーザビームの使用を含み、前記厚さの全てを切断するために、同じ地点にレーザビームの幾度かの通過を必要とする、マルチパス切断ステップである、
請求項1に記載のカム式時計部品の製造方法
【請求項8】
前記切断ステップは、フェムト秒レーザの使用を含み、前記厚さの全てを切断するために、同じ地点にレーザビームの幾度かの通過を必要とする、前記厚肉ストリップのマルチパス切断のステップである、
請求項1に記載のカム式時計部品の製造方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カム式時計部品に関する。本発明はまた、当該時計部品を含む、時計ムーブメントと、小型時計といった時計に関する。本発明はまた、当該時計部品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
カム式時計部品は、隣接する部品と協働することで、時計ムーブメント内で機能を発揮するよう定義される、側面と呼ばれる、側方の表面を有するという、特定の特徴を有する。このような側方の表面はまた、「機能的側面」とも呼ばれる。その機能性を最大限発揮するため、このような時計部品は、理想的には、粗さが低く、一般的には時計部品の主表面に垂直の平面内で、完全に定義された向きの、堅固な側面を有さねばならない。これらの時計部品はまた、十分な表面積の側面を有するため、著しい厚さを有さねばならないこともあり、この場合上述の機能的基準に合致するのが難しいことが判明することもある。
【0003】
機能的側面のこうした特定の特徴に加えて、このような時計部品は、有利には、磁界への不感受性、及び確実且つ大量生産での製造の可能性といった、一般的に時計部品に求められる他の性質も有さなくてはならない。既存の方法は、許容範囲の機能的側面を得るために、程度の差はあるものの複雑な機械加工ステップに依拠する。これらの方法は、面倒であり、高速と両立せず、特定の寸法や特定の素材には不適当である。
【0004】
カム式時計部品について、そして換言すれば機能的側面について上述した全ての制限の組み合わせについては、現存する解決策は完全に満足するものではなく、完全に最適化されていない、特定のトレードオフに依拠することを意味する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】欧州特許出願公開第1750894号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
このため、本発明の一つの全般的な目的は、カム式の、または機能的側面を有する、時計部品について改善した解決策を明示することである。
【0007】
より具体的には、本発明の一つの目的は、工業的製造を提案することと、最も効率的な機能的側面を達成することからなるトレードオフを最適化することを可能にする、カム式時計部品解決策を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
このため、本発明は、時計部品に基づくものであり、時計部品は、セラミックまたはサーメット製で、600HV以上の硬度を有する、実質的に平坦な形状の少なくとも一部を含み、前記一部は、200ミクロン以上の、または350ミクロン以上の、または400ミクロン以上の厚さを有し、前記一部の主表面に実質的に垂直で、50nm以下の粗さRaを有する少なくとも1つの機能的側面を含むものである。
【0009】
本発明はまた、このような時計部品の製造方法に関し、製造方法は、前記時計部品の少なくとも1つの機能性側面を形成するために、噴流内での2つの異なるレーザビームの組み合わせによってまたはフェムト秒レーザ切断によって、600HV以上の硬度を有するセラミックまたはサーメット製の厚肉ストリップをレーザ切断するステップを含み、前記時計部品は、200ミクロン以上の、または350ミクロン以上の、または400ミクロン以上の厚さを有し、方法は終了ステップを含むものである。当該終了ステップは、とりわけ、前記機能的側面の粗さを、50nm以下の粗さへ低下させることを可能にするものである。
【0010】
このため、時計部品は、カム、歯車、ばね等といった、少なくとも1つの機能的側面を含む。
【0011】
本発明は、より具体的には、請求項により定義される。
【0012】
本発明の目的、特徴、及び利点は、添付の図面に関して非限定的実施例として与えられる特定の実施形態に関する以下の説明において、詳細に説明される。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は、本発明の実施形態にかかるカム式時計部品を製造する装置を図示する。
図2図2は、図1の一部の拡大図である。
図3図3は、本発明の実施形態にかかるカム式時計部品の、異なる角度からの斜視図である。
図4図4は、本発明の実施形態にかかるカム式時計部品の、異なる角度からの斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明は、選択された著しい厚さを有し、選択された素材製の、ウエハ5を提供する第1ステップを含む、製造方法に依拠する。変形例として、ウエハは、その他のあらゆる形状により、より一般的には「厚肉ストリップ」と称される形状により、代替可能である。当該厚肉ストリップの素材は、非常に硬質になるよう、とりわけ600HV以上の硬度を有するよう、選択される。
【0015】
時計ムーブメント用カムの製造方法を、より具体的には図3及び4に図示される、本発明の実施形態に沿って、説明する。当該実施形態は、カム式のあらゆる時計部品、または少なくとも1つの機能的側面を有するあらゆる時計部品の製造に拡大適用することが可能である。
【0016】
本発明の当該実施形態によれば、カムは非常に硬質の素材、とりわけ600HV以上の硬度を有する素材で設計され、200ミクロン以上の、または350ミクロン以上の、または400ミクロン以上の、著しい厚さを有する。
【0017】
当該実施形態によれば、この素材は、セラミックまたはサーメットである。例として、当該素材は、銀をベースとする、または銅をベースとするサーメット、またはGO312Wrose及び京セラの名称で既知のサーメットから選択することができる。当該素材はまた、Alアルミナまたはジルコニアであってもよい。これは同様に、とりわけ600HV以上の硬度を有し、非常に硬質である。
【0018】
本実施形態は、以下に説明するように、厚さの全てを切断するために、同じ地点にレーザビームの幾度かの通過を必要とする、マルチパス切断を伴う。
【0019】
本発明の実施形態によれば、製造方法は、厚肉ストリップを切断することからなる、第2ステップを含む。図1は、当該第2ステップの第1変形例を実施する製造装置10を、より具体的に図示する。当該切断ステップは、異なる且つ補完する性質の、2つのレーザビームを使用する。本実施形態の第1変形例によれば、当該方法は、マスターと呼ばれる、即ち50Wに到達してもよい中程度の平均出力であり、パルス幅が80から400nsの間で周波数が6から20kHzの緑色レーザである、第1レーザ源11と、スレーブと呼ばれる、より具体的には20Wに到達してもよい中程度の平均出力であり、パルス幅が7から20nsの間で周波数が80から130kHzの緑色レーザである、第2レーザ源12とを使用する。これら2つのレーザ源11、12は、図1、2に示すように、同時に使用されてもよく、連続して使用されてもよい。加えて、本実施形態によれば、図2に拡大して示すように、これら2つのレーザ源は、それぞれ、噴流20内で案内される、ビーム21、22を生成する。こうした案内は、とりわけ特許文献1に詳細に説明される。上述のように、2つのレーザ源11及び12の同時または連続使用にかかわらず、素材の種類とその厚さに応じて、切断モードは、好ましくは複数の通過で実行される。
【0020】
素材の種類やその厚さに応じ、レーザ源の中程度での平均出力は、例えば、マスターレーザ源では10から12Wの値へ、またはスレーブレーザ源では2から19Wの間の値へ、低下させることができる。より具体的には、200ミクロンの厚さのアルミナ製のストリップの場合、スレーブレーザ源の中程度の平均出力は、18から19Wの間に低下させることができる。変形例として、2つのレーザ源の他の組み合わせを実施してもよい。
【0021】
代替的に、本発明の実施形態の第2変形例によれば、製造方法は、55Wに到達してもよい平均出力で、270fsから10psの間のパルス時間/幅で周波数が1kHzから2000MHzの範囲の、緑色フェムト秒レーザを用いて厚肉ストリップを切断することからなる第2ステップを含む。変形例として、赤外線(1030nm)または紫外線(343nm)で発する源といった、超短パルスの他のレーザ源を使用してもよい。
【0022】
最後に、製造方法は、有利には、
- 粗さを減少させ、最終厚さを保証するための、カムの主表面の研磨、及びまたは
- 粗さを減少させるための、機能的側面または複数の機能的側面のトライボ仕上げ、
の追加ステップの全部または一部を含む、終了ステップを含む。
【0023】
加えて、製造方法は、洗浄ステップを含んでもよい。
【0024】
図3及び4は、本発明の実施形態にかかる、時計ムーブメントのハート型のカム1を示す。カムは、上述の製造方法で得られ、440ミクロンの厚さを有する。カムは、480ミクロンの厚さの厚肉ストリップから得られ、その平坦な主表面2の研磨の仕上げステージを経てその厚さが減った。カム1はまた、その主表面2に垂直な、以下の定義に従った機能的側面3を有する。更に、終了ステップ後、とりわけ研磨またはトライボ仕上げステップ後、終了したカムの機能的側面3は、50nmより低い粗さRaを有する。
【0025】
より一般的には、本発明は、カム式時計部品が、600HV以上の高い硬度と、200ミクロン以上の、または350ミクロン以上の、または400ミクロン以上の、または430ミクロン以上の著しい厚さと、所望の向きに対して最大1度の差の制御された向きの、そして50nm以下の非常に低い粗さRaの機能的側面と、を同時に有するという、新しい最適条件に依拠するように見える。とりわけ、機能的側面は、隣接する主表面の平面に対して89度より大きい角度を有する。機能的側面は、当該平面に対して、89から90度の間の、または89度から91度の間の角度を有する。粗さRaは、40nm以下、または30nm以下であってもよい。これら特徴の組み合わせは最適である。実際、本発明は、一部を優先してその他に不利益を及ぼすことなく、各パラメーターに理想的な結果を達成することを可能とするものであり、これは特筆すべきことである。
【0026】
本発明にかかる時計部品は、少なくとも1つの機能的側面を有するあらゆる部品であってよい。有利には、当該時計部品は、対向する2つの平坦な主表面の間でその輪郭に配置された1以上の機能側面を含む、実質的に2次元形状を有する。このためその厚さは、2つの対向する主表面間の距離として測定される。変形例として、当該コンセプトは、本発明の実施形態に対応する少なくとも一部を含む、より複雑な時計部品にも延長可能である。また変形例として、本発明は、主表面が例えば平坦ではなく、実質的に平坦である、立体形状に近い構造を有する部品にも適応される。この場合、考慮される厚さは、考慮される機能的側面に隣接する、主表面の端部での平均厚さとなる。このように、本発明は、時計部品の実質的に平坦な形状の少なくとも一部に適用され、当該一部は、当該部分において厚さ方向に延長するより細い表面であって、時計部品の側面を形成する表面により連結される、主表面と呼ばれる2つの実質的に平坦且つ平行な表面により定義される。時計部品の当該一部は、有利には、単一素材製であり、一体成形である。
【0027】
例として、時計部品は、ハート型カムといったカム、螺旋または切欠き渦状カム、シャトルまたはコラムホイールであってもよい。時計部品は日付ディスクであってもよい。時計部品は、その外周に配置される1以上の機能的側面を含んでもよい。時計部品は、完全または不完全な回転を実行することで、例えば往復運動を実行することで、作動してもよい。もちろん、本発明は上述の例に限定されない。
【0028】
最後に、本発明は、少なくとも1つの当該機能的側面を有する時計部品を包含する、時計ムーブメントに関する。本発明はまた、少なくとも1つの当該機能的側面を有する時計部品を包含する、時計に関する。
図1
図2
図3
図4