(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-06-11
(45)【発行日】2025-06-19
(54)【発明の名称】相溶化高熱ポリマ組成物
(51)【国際特許分類】
C08L 81/02 20060101AFI20250612BHJP
C08K 3/013 20180101ALI20250612BHJP
C08L 79/08 20060101ALI20250612BHJP
【FI】
C08L81/02
C08K3/013
C08L79/08 B
(21)【出願番号】P 2022526406
(86)(22)【出願日】2020-10-23
(86)【国際出願番号】 IB2020059986
(87)【国際公開番号】W WO2021094858
(87)【国際公開日】2021-05-20
【審査請求日】2023-09-15
(32)【優先日】2019-11-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】521198963
【氏名又は名称】エスエイチピーピー グローバル テクノロジーズ ベスローテン フェンノートシャップ
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】弁理士法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】シャファエイ シャーラム
(72)【発明者】
【氏名】ハーシニー セペアー
(72)【発明者】
【氏名】ラマリンガム ハリハラン
【審査官】西山 義之
(56)【参考文献】
【文献】特開昭59-164360(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/0079459(US,A1)
【文献】特開平08-176439(JP,A)
【文献】特開平09-067439(JP,A)
【文献】特開平05-209054(JP,A)
【文献】特開昭59-051945(JP,A)
【文献】特開昭59-064657(JP,A)
【文献】特表2014-531502(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00-101/14
C08K 3/00- 13/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
相溶化(compatibilized)組成物であって、
前記組成物が、
ポリイミドと、
エポキシノボラック樹脂とポリアリーレンスルフィドとの溶融混合物を含む相溶化ポリアリーレンスルフィド組成物と、
を含み、
前記相溶化組成物がポリフェニレンスルホンを含まないことを特徴とする相溶化組成物。
【請求項2】
請求項1に記載の相溶化組成物であって、10から90質量%の前記ポリイミドと、10から90質量%の前記相溶化ポリアリーレンスルフィド組成物とを含み、このとき、それぞれの質量%が、前記相溶化組成物の総質量に対してであることを特徴とする相溶化組成物。
【請求項3】
請求項1または2に記載の相溶化組成物であって、
前記ポリイミドの存在量が、前記相溶化組成物の総質量に対して、20から80質量%であり、
前記相溶化ポリアリーレンスルフィド組成物が、前記相溶化ポリアリーレンスルフィド組成物の総質量に対して、それぞれ、
80から99質量%の前記ポリアリーレンスルフィドと、
1から20質量%の前記エポキシノボラック樹脂と
の溶融混合物から調製されることを特徴とする相溶化組成物。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1項に記載の相溶化組成物であって、前記ポリイミドが、ポリエーテルイミド、ポリ(スルホンエーテルイミド)、またはこれらの組み合わせであることを特徴とする相溶化組成物。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか1項に記載の相溶化組成物であって、前記エポキシノボラック樹脂が、エポキシフェノールノボラック樹脂、エポキシクレゾールノボラック樹脂、またはこれらの組み合わせであることを特徴とする相溶化組成物。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか1項に記載の相溶化組成物であって、
前記相溶化組成物が、
ISO-527による測定で、3550から5000MPaの引張弾性率(tensile modulus)、
ISO-75による、0.45MPaの圧力での測定で、180以上から220℃の荷重たわみ温度(heat deflection temperature)、
ISO-75による、1.8MPaの圧力での測定で、130から200℃の荷重たわみ温度、
ISO-180による測定で、4.5kJ/m
2以上の衝撃強さ、または、
ISO-527による測定で、40%以上の破断伸び(elongation at break)
の、少なくとも1つを有することを特徴とする相溶化組成物。
【請求項7】
請求項1から6のいずれか1項に記載の相溶化組成物であって、
前記相溶化組成物の荷重たわみ温度および引張弾性率が、比較用組成物の荷重たわみ温度および引張弾性率よりも大きく、
前記比較用組成物が、前記相溶化組成物と同量のポリイミドと、同量のポリアリーレンスルフィドと、同量のエポキシノボラック樹脂とを含み、
前記比較用組成物において、ポリアリーレンスルフィドとエポキシノボラック樹脂とが、相溶化ポリアリーレンスルフィド組成物のように溶融混合されていない
ことを特徴とする相溶化組成物。
【請求項8】
請求項1から7のいずれか1項に記載の相溶化組成物であって、
形態として、前記相溶化組成物のドメインサイズが比較用組成物のドメインサイズよりも小さく、
前記比較用組成物が、前記相溶化組成物と同量のポリイミドと、同量のポリアリーレンスルフィドと、同量のエポキシノボラック樹脂とを含み、
前記比較用組成物において、ポリアリーレンスルフィドとエポキシノボラック樹脂とが、相溶化ポリアリーレンスルフィド組成物のように溶融混合されていない
ことを特徴とする相溶化組成物。
【請求項9】
請求項1から8のいずれか1項に記載の相溶化組成物であって、粒子材料を更に含むことを特徴とする相溶化組成物。
【請求項10】
請求項1から8のいずれか1項に記載の相溶化組成物であって、
前記相溶化組成物が、
35から50質量%のポリエーテルイミドと、
50から65質量%の相溶化ポリアリーレンスルフィド組成物と
を含み、
このとき、それぞれの質量%が前記相溶化組成物の総質量に対してであり、
前記相溶化組成物が粒子材料またはガラス繊維を含まず、
前記相溶化組成物が、
ISO-1133による、360℃/5kgでの測定で、25から35cm
3/10分のメルトボリュームフローレートと、
ISO-527による測定で、55%以上の破断伸びと、
ISO-75による、0.45MPaの圧力での測定で、180℃以上の荷重たわみ温度、または
ISO-75による、1.8MPaの圧力での測定で、130℃以上の荷重たわみ温度
の少なくとも1つと
を有することを特徴とする相溶化組成物。
【請求項11】
請求項1から8のいずれか1項に記載の相溶化組成物であって、
前記相溶化組成物が、
30から55質量%のポリ(スルホンエーテルイミド)と、
45から70質量%の相溶化ポリアリーレンスルフィド組成物と
を含み、
このとき、それぞれの質量%が前記相溶化組成物の総質量に対してであり、
前記相溶化組成物が粒子材料またはガラス繊維を含まず、
前記相溶化組成物が、
ISO-1133による、360℃/5kgでの測定で、25から40cm
3/10分のメルトボリュームフローレートと、
ISO-527による測定で、50%以上の破断伸びと、
ISO-75による、0.45MPaの圧力での測定で、180℃より高い荷重たわみ温度、または、
ISO-75による、1.8MPaの圧力での測定で、135℃以上の荷重たわみ温度
の、少なくとも1つと
を有することを特徴とする相溶化組成物。
【請求項12】
請求項1から9のいずれかに記載の相溶化組成物であって、
前記相溶化組成物が、
30から
50質量%のポリエーテルイミドと、
45から
65質量%の相溶化ポリアリーレンスルフィド組成物と、
1から6質量%の粒子材料と
を含み、
このとき、それぞれの質量%が前記相溶化組成物の総質量に対してであり、
前記相溶化組成物が、
ISO-75による、0.45MPaの圧力での測定で、185℃より高い荷重たわみ温度、または、
ISO-75による、1.8MPaの圧力での測定で、130℃以上の荷重たわみ温度
の、少なくとも1つを有することを特徴とする相溶化組成物。
【請求項13】
請求項1から12のいずれか1項に記載の相溶化組成物を製造する製造法であって、
前記製造法が、
エポキシノボラック樹脂とポリアリーレンスルフィドとを溶融混合して相溶化ポリアリーレンスルフィド組成物を生成する工程と、
前記相溶化ポリアリーレンスルフィド組成物とポリイミドとを溶融混合して前記相溶化組成物を生成する工程と
を含むことを特徴とする製造法。
【請求項14】
請求項13に記載の製造法であって、溶融混合を行って前記相溶化ポリアリーレンスルフィド組成物を生成する前記工程が、押出機を通る第1処理工程(first pass)であり、溶融混合を行って前記相溶化組成物を生成する前記工程が、押出機を通る第2処理工程(second pass)であることを特徴とする製造法。
【請求項15】
請求項1から12のいずれか1項に記載の相溶化組成物を含む物品であることを特徴とする物品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願の相互参照)
本願は、2019年11月11日出願、欧州特許出願第EP19208408.5号に対する優先権およびその利益を主張するものであり、その内容は全て本件に引用して援用する。
【0002】
本開示内容は、相溶化(compatibilized)エポキシ組成物および相溶化エポキシ組成物の製造法に関する。
【背景技術】
【0003】
耐薬品性を示し、高温においても良好な機械的特性を保つ、半結晶性材料と非晶性材料とを含む熱可塑性混合物の開発は、長い間、注目されてきた。多くの半結晶性ポリマ混合物は優れた耐薬品性を示す。しかし、高温特性を保とうと非晶性材料を加えると、そのポリマ混合物は非相溶性となり、ガラス、タルク、雲母などの充填剤または添加剤を加えないと、混和が困難となるため、非晶性材料の添加についてはあまり報じられていない。充填剤を含まない相溶性の樹脂混合物が望ましい場合、2種類のポリマが良く混ざり合うよう、しばしば、少量の別の成分または相溶化剤(compatibilizer)を加える必要がある。追加成分は、異なる材料間での結合形成を促進することができる。あるポリマ混合物で有効な相溶化剤が別のものには効果が無いことがあり、混ぜ合わせる分子の化学的性質や固有の機能、またそれらの相互作用に大きく影響を受けるため、適切な相溶化剤の見極めは困難と考えられる。
【0004】
ポリエーテルイミドは、様々な物品を製造するための、様々な製造工程に使用可能で、射出成形、押出し、熱成形などの手法に適した非晶性ポリイミドである。ポリエーテルイミドは、高い強度、靱性、耐熱性、弾性率を有する。ポリフェニレンスルフィドなどのポリアリーレンスルフィドは、良好な機械的特性、耐薬品性、難燃性を備えた半結晶性の熱可塑性物質である。
【0005】
ポリエーテルイミドとポリフェニレンスルフィドのそれぞれの特性の長所を活かすため、この2種類のポリマを組み入れた組成物を作る試みがなされてきた。しかし、これらの非晶性ポリマと半結晶性ポリマを合わせると、ドメイン(領域:domain)の分かれた非混和性の混合物ができてしまう。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従って、ポリエーテルイミドなどのポリイミドと、ポリフェニレンスルフィドなどのポリアリーレンスルフィドとを含む、相溶化した(compatibilized)組成物が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
提示されているものは、ポリイミドと、エポキシノボラック樹脂とポリアリーレンスルフィドとの溶融混合物を含む相溶化ポリアリーレンスルフィド組成物と、を含む相溶化組成物であって、この相溶化組成物はポリフェニレンスルホン(PPSUとしても知られる)を含まない。
【0008】
提示されているものは、更に、エポキシノボラック樹脂とポリアリーレンスルフィドとを溶融混合して相溶化ポリアリーレンスルフィド組成物を生成する工程と、相溶化ポリアリーレンスルフィド組成物とポリイミドとを溶融混合して相溶化組成物を生成する工程と、を含む、相溶化組成物の製造法であって、望ましくは、溶融混合を行って相溶化組成物を生成する工程の温度は、250から360℃である。
【0009】
提示されているものは、更に、この相溶化組成物を含む物品であって、望ましくは、物品は成形品である。
【0010】
上記およびその他の特徴の例を、以下の図および詳細な記述に示す。
【0011】
以下の図面は、本開示内容の代表的な態様である。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】相溶化剤を含まない、ポリエーテルイミド(PEI)とポリフェニレンスルフィド(PPS)との比較用組成物の走査型電子顕微鏡(SEM)画像を示す図である。
【
図2】PEIとPPSとエポキシクレゾールノボラック(ECN)安定剤との組成物を1段階工程で調製した、比較例5の比較用組成物のSEM画像を示す図である。
【
図3】PEI-ECNとPPSとの組成物を2段階工程で調製した、比較例8のSEM画像を示す図である。
【
図4】PEIとPPS-ECNとの組成物を2段階工程で調製した、実施例7のSEM画像を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の発明者は、ポリアリーレンスルフィドを、先に、エポキシノボラック樹脂と溶融混合して、ポリイミド(ポリエーテルイミド、ポリ(スルホンエーテルイミド)など)とポリアリーレンスルフィド(ポリフェニレンスルフィドなど)との相溶化剤として作用させると、有益なことに、ポリイミドとポリアリーレンスルフィドとを含む相溶化した組成物が調製できることを発見した。この相溶化組成物は、より高い荷重たわみ温度(heat deflection temperature)、引張弾性率(tensile modulus)、破断伸び(elongation at break)を達成でき、メルトボリュームフローレート(melt volume flow rate)を改善することができる。先に、別の工程で相溶化剤を調製せず、代わりに、ポリアリーレンスルフィドとポリイミドとエポキシノボラック樹脂とを一緒に溶融混合すると、これらの改善された特性は得られない。更に、本発明の発明者は、相溶化組成物がポリフェニレンスルホンを含まなくても、これらの改善された特性が得られることを発見した。ポリフェニレンスルホン(「PPSU」としても知られる)は、次の構造式で示される構造単位を、例えば、少なくとも60質量%、少なくとも75質量%、または少なくとも85質量%含むポリ(アリーレンエーテルスルホン)である。
【化1】
【0014】
従って、本開示内容の態様のひとつは、ポリイミドと、エポキシノボラック樹脂とポリアリーレンスルフィドとの溶融混合物を含む相溶化ポリアリーレンスルフィド組成物と、を含む相溶化組成物である。ポリアリーレンスルフィドとエポキシノボラック樹脂とを含む組成物を溶融混合して、相溶化ポリアリーレンスルフィド組成物を別途調製することに留意する。得られた相溶化ポリアリーレンスルフィド組成物を、次に、ポリイミドと混和すると、相溶化組成物を生成することができる。
【0015】
ポリイミドは、1よりも多い、例えば、5から1000、5から500、または10から100の、構造式(1)で示される構造単位を含む。
【化2】
(1)
式中、それぞれのVは同じまたは異なるもので、置換または非置換の4価C
4~40炭化水素基、例えば、置換または非置換C
6~20芳香族炭化水素基、置換または非置換、分枝または直鎖、飽和または不飽和C
2~20脂肪族基、あるいは、置換または非置換C
4~8環式脂肪族(cyloaliphatic)基、特に、置換または非置換C
6~20芳香族炭化水素基である。芳香族炭化水素基の例としては、次の構造式で示されるものが挙げられる。
【化3】
式中、Wは、-O-、-S-、-C(O)-、-SO
2-、-SO-、C
1~18炭化水素基(環式、非環式、芳香族、または非芳香族とすることができる)、-P(R
a)(=O)-(式中、R
aは、C
1~8アルキルまたはC
6~12アリール)、-C
yH
2y-(式中、yは1から5の整数)またはそのハロゲン化誘導体(パーフルオロアルキレン基など)、あるいは、後の、構造式(3)で述べられているような、式-O-Z-O-で示される基である。
【0016】
構造式(1)中のそれぞれのRは同じまたは異なるもので、置換または非置換の二価有機基(C
6~20芳香族炭化水素基またはそのハロゲン化誘導体、分枝または直鎖C
2~20アルキレン基またはそのハロゲン化誘導体、C
3~8シクロアルキレン基またはそのハロゲン化誘導体など)、特に、構造式(2)で示される二価基である。
【化4】
(2)
式中、Q
1は、-O-、-S-、-C(O)-、-SO
2-、-SO-、-P(R
a)(=O)-(式中、R
aは、C
1~8アルキルまたはC
6~12アリール)、-C
yH
2y-(式中、yは1から5の整数)またはそのハロゲン化誘導体(パーフルオロアルキレン基など)、あるいは-(C
6H
10)
z-(式中、zは1から4の整数)である。ある態様において、Rは、m-フェニレン、p-フェニレン、またはジアリールスルホンである。
【0017】
ポリエーテルイミドは、1よりも多い、例えば、10から1000または10から500の、構造式(3)で示される構造単位を含むポリイミド類である。
【化5】
(3)
式中、それぞれのRは同じまたは異なるもので、構造式(1)での記述と同様である。ポリエーテルイミドは、ポリ(スルホンエーテルイミド)であっても良い。本開示内容のポリ(スルホンエーテルイミド)において、構造式(3)中の基Rの少なくとも一部はスルホン基(-SO
2-)である。
【0018】
更に、構造式(3)において、Tは、-O-または、式-O-Z-O-で示される基であって、-O-または-O-Z-O-基の二価結合は、3,3′、3,4′、4,3′、または4,4′位置にある。構造式(3)の-O-Z-O-中の基Zは、置換または非置換の二価有機基であって、芳香族C
6~24単環または多環基(必要に応じて、Zの価数を超えないという条件で、1から6個のC
1~8アルキル基、1から8個のハロゲン原子、またはこれらの組み合わせで置換されている)とすることができる。基Zの例としては、構造式(4)で示されるジヒドロキシ化合物から誘導される基が挙げられる。
【化6】
(4)
式中、R
aおよびR
bは同じまたは異なるものであって良く、例えば、ハロゲン原子、または一価C
1~6アルキル基であり、pおよびqはそれぞれ独立して0から4の整数であり、cは0から4であり、X
aは、ヒドロキシで置換された芳香族基を繋ぐ架橋基であって、それぞれのC
6アリーレン基の架橋基とヒドロキシ置換基は、そのC
6アリーレン基上で互いにオルト、メタ、またはパラ(特に、パラ)位置にある。架橋基X
aは、単結合、-O-、-S-、-SO-、-SO
2-、-C(O)-、またはC
1~18有機架橋基とすることができる。C
1~18有機架橋基は、環式または非環式、芳香族または非芳香族であって良く、更に、ハロゲン、酸素、窒素、硫黄、ケイ素、またはリンなどのヘテロ原子を含んでいても良い。C
1~18有機基は、それに結合しているC
6アリーレン基がそれぞれ、C
1~18有機架橋基の、共通するアルキリデン炭素に、または別々の炭素に結合するように配置することができる。基Zの具体的な例は、構造式(4a)で示される二価基である。
【化7】
(4a)
式中、Qは、-O-、-S-、-C(O)-、-SO
2-、-SO-、または-C
yH
2y-(式中、yは1から5の整数)またはそのハロゲン化誘導体(パーフルオロアルキレン基など)である。具体的な態様において、Zは、ビスフェノールAから誘導され、構造式(4a)のQは、2,2-イソプロピリデンである。
【0019】
ある態様において、構造式(3)のRはm-フェニレンまたはp-フェニレンであり、Tは、-O-Z-O-(式中、Zは、構造式(4a)で示される二価基)である。あるいは、Rはm-フェニレンまたはp-フェニレンであり、Tは、-O-Z-O-(式中、Zは、構造式(4a)で示される二価基であって、Qは、2,2-イソプロピリデン)である。
【0020】
一部の態様において、ポリエーテルイミドは、共重合体、例えば、構造式(1)で示される構造単位を含むポリエーテルイミドスルホン共重合体であっても良く、このとき、R基の少なくとも50モル%は構造式(2)(式中、Q1は、-SO2-)で示されるものであり、残りのR基は、独立して、p-フェニレンまたはm-フェニレン、あるいはこれらの組み合わせであり、Zは、2,2′-(4-フェニレン)イソプロピリデンである。
【0021】
あるいは、ポリエーテルイミド共重合体は、必要に応じて、追加的な構造イミド単位、例えば、構造式(1)で示されるイミド単位を含む。このとき、RおよびVは、構造式(1)で述べたものと同様であって、例えば、Vは次の構造式で示される。
【化8】
式中、Wは、単結合、-O-、-S-、-C(O)-、-SO
2-、-SO-、C
1~18炭化水素基(環式、非環式、芳香族、または非芳香族とすることができる)、-P(R
a)(=O)-(式中、R
aは、C
1~8アルキルまたはC
6~12アリール)、または-C
yH
2y-(式中、yは1から5の整数)またはそのハロゲン化誘導体(パーフルオロアルキレン基など)である。これらの追加的な構造イミド単位の存在量は、望ましくは、単位の総数の20モル%未満、より望ましくは、単位の総数の0から10モル%、単位の総数の0から5モル%、または単位の総数の0から2モル%とすることができる。一部の態様において、ポリエーテルイミド中に追加的なイミド単位は存在しない。
【0022】
ポリイミドとポリエーテルイミドは、当業者に良く知られているどのような方法でも調製可能で、例えば、構造式(5a)または構造式(5b)で示される芳香族ビス(エーテル無水物)
【化9】
(5a)
【化10】
(5b)
またはその化学的同等物と、構造式(6)で示される有機ジアミンとを反応させて調製することができる。
H
2N-R-NH
2
(6)
式中、V、T、およびRは、先に述べたとおりである。ポリエーテルイミドの共重合体は、構造式(5)の芳香族ビス(エーテル無水物)と、それとは異なるビス(無水物)、例えば、Tがエーテル官能基を含まない、例えば、Tがスルホンであるビス(無水物)との組み合わせを用いて製造することができる。
【0023】
ビス(無水物)の具体的な例としては、3,3-ビス[4-(3,4-ジカルボキシフェノキシ)フェニル]プロパン二無水物、4,4′-ビス(3,4-ジカルボキシフェノキシ)ジフェニルエーテル二無水物、4,4′-ビス(3,4-ジカルボキシフェノキシ)ジフェニルスルフィド二無水物、4,4′-ビス(3,4-ジカルボキシフェノキシ)ベンゾフェノン二無水物、4,4′-ビス(3,4-ジカルボキシフェノキシ)ジフェニルスルホン二無水物、2,2-ビス[4-(2,3-ジカルボキシフェノキシ)フェニル]プロパン二無水物、4,4′-ビス(2,3-ジカルボキシフェノキシ)ジフェニルエーテル二無水物、4,4′-ビス(2,3-ジカルボキシフェノキシ)ジフェニルスルフィド二無水物、4,4′-ビス(2,3-ジカルボキシフェノキシ)ベンゾフェノン二無水物、4,4′-ビス(2,3-ジカルボキシフェノキシ)ジフェニルスルホン二無水物、4-(2,3-ジカルボキシフェノキシ)-4′-(3,4-ジカルボキシフェノキシ)ジフェニル-2,2-プロパン二無水物、4-(2,3-ジカルボキシフェノキシ)-4′-(3,4-ジカルボキシフェノキシ)ジフェニルエーテル二無水物、4-(2,3-ジカルボキシフェノキシ)-4′-(3,4-ジカルボキシフェノキシ)ジフェニルスルフィド二無水物、4-(2,3-ジカルボキシフェノキシ)-4′-(3,4-ジカルボキシフェノキシ)ベンゾフェノン二無水物、および4-(2,3-ジカルボキシフェノキシ)-4′-(3,4-ジカルボキシフェノキシ)ジフェニルスルホン二無水物、更にこれらの様々な組み合わせが挙げられる。
【0024】
有機ジアミンの例としては、ヘキサメチレンジアミン、ポリメチル化1,6-n-ヘキサンジアミン、ヘプタメチレンジアミン、オクタメチレンジアミン、ノナメチレンジアミン、デカメチレンジアミン、1,12-ドデカンジアミン、1,18-オクタデカンジアミン、3-メチルヘプタメチレンジアミン、4,4-ジメチルヘプタメチレンジアミン、4-メチルノナメチレンジアミン、5-メチルノナメチレンジアミン、2,5-ジメチルヘキサメチレンジアミン、2,5-ジメチルヘプタメチレンジアミン、2,2-ジメチルプロピレンジアミン、N-メチル-ビス(3-アミノプロピル)アミン、3-メトキシヘキサメチレンジアミン、1,2-ビス(3-アミノプロポキシ)エタン、ビス(3-アミノプロピル)スルフィド、1,4-シクロヘキサンジアミン、ビス(4-アミノシクロヘキシル)メタン、m-フェニレンジアミン、p-フェニレンジアミン、2,4-ジアミノトルエン、2,6-ジアミノトルエン、m-キシリレンジアミン、p-キシリレンジアミン、2-メチル-4,6-ジエチル-1,3-フェニレンジアミン、5-メチル-4,6-ジエチル-1,3-フェニレンジアミン、ベンジジン、3,3′-ジメチルベンジジン、3,3′-ジメトキシベンジジン、1,5-ジアミノナフタレン、ビス(4-アミノフェニル)メタン、ビス(2-クロロ-4-アミノ-3,5-ジエチルフェニル)メタン、ビス(4-アミノフェニル)プロパン、2,4-ビス(p-アミノ-t-ブチル)トルエン、ビス(p-アミノ-t-ブチルフェニル)エーテル、ビス(p-メチル-o-アミノフェニル)ベンゼン、ビス(p-メチル-o-アミノペンチル)ベンゼン、1,3-ジアミノ-4-イソプロピルベンゼン、ビス(4-アミノフェニル)スルフィド、ビス(4-アミノフェニル)スルホン(4,4′-ジアミノジフェニルスルホン(DDS)としても知られる)、およびビス(4-アミノフェニル)エーテルが挙げられる。前述の化合物の位置異性体も使用可能である。更に、これらの化合物の組み合わせも使用できる。一部の態様において、有機ジアミンは、m-フェニレンジアミン、p-フェニレンジアミン、4,4′-ジアミノジフェニルスルホン、またはこれらの組み合わせである。
【0025】
ポリ(エーテルイミド)はまた、構造式(1)で示されるポリエーテルイミド単位と、構造式(7)で示されるシロキサンブロックとを含む共重合体であっても良い。
【化11】
(7)
式中、Eの平均値は、2から100、2から31、5から75、5から60、5から15、または15から40であり、それぞれのR′は、独立して、C
1~13一価ヒドロカルビル基である。例えば、それぞれのR′は、独立して、C
1~13アルキル基、C
1~13アルコキシ基、C
2~13アルケニル基、C
2~13アルケニルオキシ基、C
3~6シクロアルキル基、C
3~6シクロアルコキシ基、C
6~14アリール基、C
6~10アリールオキシ基、C
7~13アリールアルキル基、C
7~13アリールアルコキシ基、C
7~13アルキルアリール基、またはC
7~13アルキルアリールオキシ基とすることができる。前述の基は、フッ素、塩素、臭素、またはヨウ素、あるいはこれらの組み合わせで完全に、または部分的にハロゲン化されていても良い。ある態様では、臭素または塩素は存在せず、また別の態様では、ハロゲンは存在しない。同じ共重合体内で、前述のR基の組み合わせを用いても良い。ある態様において、ポリシロキサンブロックは、炭化水素含量が最も少ないR′基を含む。具体的な態様において、炭化水素含量の最も少ないR′基はメチル基である。
【0026】
ポリ(シロキサン-エーテルイミド)は、構造式(5)の芳香族ビス(エーテル無水物)と、前述の有機ジアミン(6)またはジアミンの組み合わせを含むジアミン成分と、構造式(8)で示されるポリシロキサンジアミンとを重合させて生成することができる。
【化12】
(8)
式中、R′およびEは構造式(7)で述べたものと同様であり、R
4は、それぞれ独立して、C
2~C
20炭化水素、特に、C
2~C
20アリーレン、アルキレン、またはアリーレンアルキレン基である。ある態様において、R
4は、C
2~C
20アルキレン基、特に、C
2~C
10アルキレン基(プロピレンなど)であり、Eの平均値は、5から100、5から75、5から60、5から15、または15から40である。構造式(10)のポリシロキサンジアミンの製造法は、当該技術において良く知られている。
【0027】
一部のポリ(シロキサン-エーテルイミド)において、ジアミン成分は、例えば、米国特許第4,404,350号に記載されているように、10から90モル%、20から50モル%、または25から40モル%のポリシロキサンジアミン(8)と、10から90モル%、50から80モル%、または60から75モル%のジアミン(6)を含むことができる。二無水物と反応させる前に、ジアミン成分を物理的に混合すると、ほぼランダムな共重合体を生成することができる。あるいは、(6)および(8)を芳香族ビス(エーテル無水物)(5)と選択的に反応させてポリイミドブロックを作り、その後これらを共に反応させることで、ブロックまたは交互共重合体を生成することができる。このようにして、ポリ(シロキサン-イミド)共重合体を、ブロック、ランダム、またはグラフト共重合体とすることができる。ある態様において、共重合体はブロック共重合体である。
【0028】
ポリ(シロキサン-エーテルイミド)の具体的な例は、米国特許第4,404,350号、米国特許第4,808,686号、および米国特許第4,690,997号に記載されている。ある態様において、ポリ(シロキサン-エーテルイミド)は、構造式(9)で示される単位を含む。
【化13】
(9)
式中、シロキサンのR′およびEは構造式(7)と同様であり、イミドのRおよびZは構造式(1)と同様であり、R
4は構造式(8)と同様であり、nは5から100の整数である。ポリ(シロキサン-エーテルイミド)の具体的な実施形態において、エーテルイミドのRはフェニレンであり、ZはビスフェノールAの残基であり、R
4はn-プロピレンであり、Eは2から50、5から30、または10から40であり、nは5から100であり、シロキサンのそれぞれのR′はメチルである。
【0029】
ポリ(シロキサン-エーテルイミド)中のポリシロキサン単位とエーテルイミド単位の相対量は、所望する特性によって異なり、本件に提示されているガイドラインを用いて選択する。具体的には、先に述べたように、Eがある平均値となるように、ブロックまたはグラフトポリ(シロキサン-エーテルイミド)共重合体を選択し、組成物中のポリシロキサン単位が所望の質量%となるような量を選択および使用する。ある態様において、ポリ(シロキサン-エーテルイミド)は、ポリ(シロキサン-エーテルイミド)の総質量に対して、10から50質量%、10から40質量%、または20から35質量%のポリシロキサン単位を含む。
【0030】
ポリイミドおよびポリエーテルイミド(ポリ(スルホンエーテルイミド)を含む)は、米国材料試験協会(ASTM)D1238による、340から370℃で、6.7キログラム(kg)の荷重(weight)を使用した測定で、0.1から10グラム/分(g/分)のメルトインデックスを有することができる。一部の態様において、ポリエーテルイミドポリマは、ポリスチレン標準を用いたゲル浸透クロマトグラフィによる測定で、1,000から150,000グラム/モル(g/モル)の質量平均分子量(Mw)を有する。一部の態様において、ポリエーテルイミドは、10,000から80,000g/モルのMwを有する。このようなポリエーテルイミドポリマは、一般に、m-クレゾール中、25℃での測定で、0.2デシリットル/グラム(dl/g)より大きい、より詳細には0.35から0.7dl/gの固有粘度を有する。
【0031】
ポリイミド(ポリエーテルイミドやポリ(スルホンエーテルイミド)など)の存在量は、相溶化組成物の総質量に対して、10から90質量%とすることができる。例えば、ポリイミドの存在量は、相溶化組成物の総質量に対して、20から80質量%、望ましくは30から70質量%とすることができる。
【0032】
ポリイミド(ポリエーテルイミドやポリ(スルホンエーテルイミド)など)に加えて、相溶化組成物は、相溶化したポリアリーレンスルフィド組成物を更に含んでいる。相溶化ポリアリーレンスルフィド組成物は、別途溶融混合した、エポキシノボラック樹脂とポリアリーレンスルフィドとを含む混合物または組成物を含む。
【0033】
ポリアリーレンスルフィド(以後、「PPS」と呼ぶ)は、硫黄原子で隔てられたアリーレン基を含む、既知のポリマから誘導される。望ましいポリ(アリーレンスルフィド)樹脂としては、様々なポリ(フェニレンスルフィド)、例えば、ポリ(p-フェニレンスルフィド)および置換ポリ(フェニレンスルフィド)が挙げられる。PPSポリマは、構造式(10)で示される繰り返し構造単位を、少なくとも70モル%、望ましくは少なくとも90モル%含む。
【化14】
(10)
式中、Z
1は出現毎に、独立して、ハロゲン、非置換または置換C
1~C
12ヒドロカルビル(但し、ヒドロカルビル基は第三級ヒドロカルビルではない)、C
1~C
12ヒドロカルビルチオ、C
1~C
12ヒドロカルビルオキシ、またはC
2~C
12ハロヒドロカルビルオキシ(ハロゲンおよび酸素原子は少なくとも2つの炭素原子で隔てられている)を含み、Z
2は出現毎に、独立して、水素、ハロゲン、非置換または置換C
1~C
12ヒドロカルビル(但し、ヒドロカルビル基は第三級ヒドロカルビルではない)、C
1~C
12ヒドロカルビルチオ、C
1~C
12ヒドロカルビルオキシ、またはC
2~C
12ハロヒドロカルビルオキシ(ハロゲンおよび酸素原子は少なくとも2つの炭素原子で隔てられている)を含む。PPSの繰り返し構造単位のうち、他の30モル%以下、望ましくは10モル%以下は、次の構造式で示されるものであって良い。
【化15】
【0034】
PPSは、線状または分枝状のホモポリマまたは共重合体とすることができる。構造式(7)の繰り返し単位を少なくとも70モル%含む線状PPSは結晶化度が高く、耐熱性、耐薬品性、および機械的強度に優れている。
【0035】
PPSは、当該技術で公知の方法を用いて調製できる。例えば、ポリアリーレンスルフィドの製造工程は、有機アミド溶媒中で、ヒドロスルフィドイオンを生じる物質、例えば、硫化アルカリ金属を、ジハロベンゼンと反応させる工程を含むことができる。PPSは市販されており、例えば、Celaneseより、FORTRONポリフェニレンスルフィドが入手可能である。
【0036】
硫化アルカリ金属は、例えば、硫化リチウム、硫化ナトリウム、硫化カリウム、硫化ルビジウム、硫化セシウム、またはこれらの混合物とすることができる。硫化アルカリ金属が水和物または水性混合物である場合、重合反応の前に、硫化アルカリ金属に脱水操作を行っても良い。硫化アルカリ金属をその場(in situ)で発生させることもできる。更に、多硫化アルカリ金属やチオ硫酸アルカリ金属などの不純物を反応除去するため、この反応に水酸化アルカリ金属を加えても良い。
【0037】
ジハロ芳香族化合物は、o-ジハロベンゼン、m-ジハロベンゼン、p-ジハロベンゼン、メトキシジハロベンゼン、ジハロ安息香酸、またはジハロトルエンであっても良く(これらに限定しない)、このとき、ハロゲン原子は、フッ素、塩素、臭素、またはヨウ素とすることができ、同じジハロ芳香族化合物中の2つのハロゲン原子は同じでも異なっていても良い。具体的なジハロ芳香族化合物としては、p-ジクロロベンゼン、m-ジクロロベンゼン、o-ジクロロベンゼン、2,5-ジクロロトルエン、1,4-ジブロモベンゼン、1-メトキシ-2,5-ジクロロベンゼン、および3,5-ジクロロ安息香酸が挙げられる。
【0038】
あるいは、フェニレン以外の芳香族基を用いてポリアリーレンスルフィドを作っても良い。ポリアリーレンスルフィドを調製するための、対応するジハロ芳香族化合物としては、ジハロビフェニル、ジハロジフェニルエーテル、ジハロジフェニルスルホン、ジハロジフェニルスルホキシド、またはジハロジフェニルケトンが挙げられ、このとき、ハロゲン原子は、フッ素、塩素、臭素、またはヨウ素とすることができ、同じジハロ芳香族化合物中の2つのハロゲン原子は同じでも異なっていても良い。具体的なジハロ芳香族化合物としては、1,4-ジクロロナフタレン、4,4′-ジクロロビフェニル、4,4′-ジクロロジフェニルエーテル、4,4′-ジクロロジフェニルスルホン、4,4′-ジクロロジフェニルスルホキシド、および4,4′-ジクロロジフェニルケトンが挙げられる。
【0039】
必要に応じて、モノハロ化合物(必ずしも芳香族化合物ではない)を、ジハロ芳香族化合物と併用して、ポリアリーレンスルフィドの末端基を生成し、あるいは、ポリアリーレンスルフィドの重合反応および/または分子量を調節することができる。代表的な末端基としては、例えば、ハロゲン、チオール、ヒドロキシが挙げられる。
【0040】
PPSの製造工程は、有機アミド溶媒中で重合反応を行う工程を含むことができる。有機アミド溶媒の例としては、N-メチル-2-ピロリドン、N-エチル-2-ピロリドン、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチルカプロラクタム、テトラメチル尿素、ジメチルイミダゾリジノン、ヘキサメチルリン酸トリアミド、およびこれらの混合物が挙げられる(これらに限定しない)。反応に使用する有機アミド溶媒の量は、硫化アルカリ金属の有効量1モル当たり、例えば、0.2から5キログラム(kg)とすることができる。
【0041】
重合は、段階的重合工程で行うことができる。第1重合ステップは、ジハロ芳香族化合物を反応器に導入する工程と、水の存在下、180から235℃の温度で、ジハロ芳香族化合物を重合させる工程と、ジハロ芳香族化合物の転化率が理論的必要量の少なくとも約50モル%に達するまで重合を続ける工程と、を含むことができる。第2重合ステップでは、反応スラリーに水を加え、反応混合物を250から290℃に加熱して、生成するポリマの溶融粘度が、ポリフェニレンスルフィドまたはポリアリーレンスルフィドの望ましい最終レベルに達するまで、重合を続けることができる。第2重合ステップの継続時間は、例えば、0.5から20時間とすることができる。
【0042】
PPS生成物は更に、この樹脂を脱イオン水に浸漬して、または、酸(一般に、塩酸、硫酸、リン酸、または酢酸)で処理して、好ましくない汚染イオンを除去するための処理を行うことができる。一部の製品用途では、PPS中の不純物濃度が低いことが望ましい。不純物濃度は、PPS試料を燃焼させた後に残る灰の質量%で表すことができる。PPSの灰分は、望ましくは1質量%未満、より望ましくは0.5質量%未満、更に望ましくは0.1質量%未満である。
【0043】
PPSの溶融粘度は特に限定されないが、強靱性の観点からは、少なくとも100ポアズの溶融粘度が望ましく、射出成形性の観点からは10,000ポアズ以下が望ましい。
【0044】
PPSは、ASTM D5296による、ポリスチレン標準を用いたゲル浸透クロマトグラフィ(GPC)による測定で、5,000から100,000g/モルのMwを有することができる。
【0045】
PPSに加えて、相溶化ポリアリーレンスルフィド組成物の溶融混合物は、ポリアリーレンスルフィドとポリイミドとを相溶化させるのに効果的な量の、エポキシノボラック樹脂を更に含んでいる。
【0046】
エポキシノボラック樹脂は、1分子当たり少なくとも2単位の平均エポキシ当量、または、1分子当たり平均で6以上のペンダントエポキシ基、より詳しくは、1分子当たり平均で20以上のペンダントエポキシ基、更に詳しくは、1分子当たり平均で50以上のペンダントエポキシ基を有することができる。具体的な態様において、エポキシノボラック樹脂は、1分子当たり2から8のペンダントエポキシ基、1分子当たり3から7のペンダントエポキシ基、または1分子当たり4から6のペンダントエポキシ基を有することができる。
【0047】
理論によって束縛されるものではないが、エポキシノボラック樹脂はポリアリーレンスルフィドと相互作用すると考えられる。この相互作用は、化学的(例えば、グラフト化)または物理的(例えば、分散相の表面特性に対する影響)なものと考えられる。相互作用が化学的である場合、ポリアリーレンスルフィドとエポキシノボラック樹脂との溶融混合物が反応生成物となるように、エポキシノボラック樹脂のエポキシ基は、ポリアリーレンスルフィドと部分的に、また完全に反応することができる。
【0048】
エポキシノボラック樹脂は、フェノールをホルムアルデヒドと反応させて作ることができる。文中で使用されている用語「フェノール」は、ヒドロキシル基を有する、置換および非置換のフェニル、アリール、および縮合芳香族環を含む。ホルムアルデヒドのフェノールに対するモル比は1未満である。触媒として水酸化ナトリウムの存在下でノボラック樹脂をエピクロロヒドリンと反応させることで、ノボラック樹脂をエポキシ基で官能化することができる。エポキシノボラック樹脂は、GPCによる測定で、500から2,500g/モル、望ましくは540から2,000g/モルのMwを有することができる。また、この範囲内で、エポキシノボラック樹脂は、GPCによる測定で、900g/モル以下のMwを有することができる。
【0049】
エポキシノボラック樹脂は、エポキシノボラック樹脂100g当たり、0.3から0.8、望ましくは0.35から0.6、より望ましくは0.425から0.5のエポキシ当量(epoxy equivalent)を有することができる。
【0050】
エポキシノボラック樹脂は、100から500、望ましくは150から350、より望ましくは200から250、更に望ましくは200から235の質量/エポキシド(weight per epoxide)、またはエポキシド当量(epoxide equivalent weight:EEW)を有することができる。
【0051】
例えば、エポキシノボラック樹脂は、エポキシフェノールノボラック(EPN)樹脂、エポキシクレゾールノボラック(ECN)樹脂、またはこれらの組み合わせとすることができる。例えば、エポキシノボラック樹脂は、構造式(11)で示される単位を含むことができる。
【化16】
(11)
式中、mは0または1である。具体的な態様において、エポキシノボラック樹脂は、望ましくは、エポキシo-クレゾールノボラック樹脂を含む。例えば、エポキシノボラック樹脂は、540から2,000g/モル(GPCによる)のM
wを有し、100gのECN当たりのエポキシ当量が0.425から0.5であり、EEWが200から235であるECNとすることができる。
【0052】
一部の態様において、エポキシノボラック樹脂以外のエポキシ含有材料は、本組成物から除外することができる。例えば、本組成物は、エポキシ官能化アクリル酸スチレンオリゴマーなどの、エポキシ官能化スチレン系ポリマを除外することができる。
【0053】
エポキシノボラック樹脂は、溶融混合物に、または、溶融混合する前のポリアリーレンスルフィドとエポキシノボラック樹脂との前駆物質組成物に、相溶化ポリアリーレンスルフィド組成物の質量または溶融混合物の質量に対して1から20質量%の量で加えることができる。例えば、相溶化ポリアリーレンスルフィド組成物は、相溶化ポリアリーレンスルフィド組成物の総質量に対して、それぞれ、80から99質量%、望ましくは85から98質量%、より望ましくは90から98質量%のポリアリーレンスルフィドと、1から20質量%、望ましくは2から15質量%、より望ましくは2から10質量%のエポキシノボラック樹脂との溶融混合物から調製することができる。
【0054】
相溶化組成物は、相溶化組成物の総質量に対して、10から90質量%のポリイミドと10から90質量%の相溶化ポリアリーレンスルフィド組成物、望ましくは20から80質量%のポリイミドと20から80質量%の相溶化ポリアリーレンスルフィド組成物、より望ましくは30から70質量%のポリイミドと30から70質量%の相溶化ポリアリーレンスルフィド組成物を含むことができる。具体的な態様において、相溶化組成物は、相溶化組成物の総質量に対して、35から50質量%のポリイミドと50から65質量%の相溶化ポリアリーレンスルフィド組成物を含んでいる。別の具体的な態様において、相溶化組成物は、相溶化組成物の総質量に対して、30から55質量%のポリイミドと45から70質量%の相溶化ポリアリーレンスルフィド組成物を含んでいる。
【0055】
相溶化組成物には、相溶化組成物の好ましい特性に添加剤があまり悪影響を及ぼさない限り、必要に応じて、1つ以上の添加剤を更に加えることができる。典型的な添加剤としては、例えば、導電性充填剤、補強充填剤、安定剤、潤滑剤、離型剤、無機顔料、UV吸収剤、酸化防止剤、可塑剤、帯電防止剤、発泡剤、膨張剤、金属不活性化剤、および前述のものの1つ以上を含む組み合わせが挙げられる。導電性充填剤の例としては、導電性カーボンブラック、炭素繊維、金属繊維、金属粉末、カーボンナノチューブなど、また前述の導電性充填剤のいずれかを含む組み合わせが挙げられる。補強充填剤の例としては、ガラスビーズ(中空および/または中実)、ガラスフレーク、粉砕ガラス(milled glass)、ガラス繊維、タルク、珪灰石、シリカ、雲母、カオリンまたはモンモリロナイト粘土、シリカ、石英、重晶石など、また前述の補強充填剤のいずれかを含む組み合わせが挙げられる。酸化防止剤は、ホスファイト、ホスホナイト(phosphonites)、ヒンダードフェノールなどの化合物、またはこれらの混合物とすることができる。亜リン酸トリアリールやホスホン酸アリールなどのリンを含む安定剤が、有用な安定剤として挙げられる。二官能性のリン含有化合物も使用できる。安定剤は、300以上の分子量を有することができる。一部の態様では、分子量が500以上のリン含有安定剤が有用である。リン含有安定剤は通常、配合物の0.05~0.5質量%の量で組成物中に存在する。流動助剤および離型剤も意図されている。
【0056】
一部の態様において、相溶化組成物は粒子材料を含むことができる。粒子材料の例としては、ヒュームドシリカ、溶融シリカ、沈降シリカ、シリカゲル、ポリシルセスキオキサン、石英、珪藻土、粉砕ガラス、ガラス球、またはこれらの組み合わせが挙げられる。粒子材料の粒径は、0.1から200マイクロメートル(μm)、例えば、0.5から150μmまたは1から100μmとすることができる。一部の態様において、粒径は、0.1から20μm、例えば、0.5から15μmとすることができる。別の態様において、粒径は、25から150μm、例えば、50から100μmとすることができる。相溶化組成物は、2つ以上の異なる粒子材料を含んでいても良く、それぞれの粒子材料の粒径は同じまたは異なるものである。例えば、相溶化組成物は、50から100μmの粒径を有する第1の粒子材料と、0.5から12μmの粒径を有する第2の粒子材料を含むことができる。別の態様において、相溶化組成物は、粒子材料、導電性充填剤、または補強充填剤を含まない。例えば、一部の態様において、相溶化組成物は、粒子材料またはガラス繊維を含まない。
【0057】
それぞれの組成物は、その組成物の成分を溶融混合または溶融混練(melt-kneading)して調製することができる。溶融混合または溶融混練は、リボンブレンダ、HENSCHELミキサ、BANBURYミキサ、ドラムタンブラ、単軸押出機、双軸押出機、多軸押出機、コニーダなど、一般的な装置を用いて行うことができる。例えば、相溶化組成物は、a)エポキシノボラック樹脂とポリアリーレンスルフィドとを溶融混合して、相溶化ポリアリーレンスルフィド組成物を生成する工程と、b)相溶化ポリアリーレンスルフィド組成物とポリイミドとを溶融混合して相溶化組成物を生成する工程と、によって調製でき、このとき、ステップa)とステップb)は続けて行う。望ましくは、ステップa)とステップb)は、250から360℃の温度で行うことができる。一部の態様において、ステップa)の、エポキシノボラック樹脂とポリアリーレンスルフィドとを溶融混合して相溶化ポリアリーレンスルフィド組成物を生成する工程は、押出機中での第1処理工程(initial pass)で行い、ステップb)の、相溶化ポリアリーレンスルフィド組成物とポリイミドとを溶融混合して相溶化組成物を生成する工程は、押出機を通る第2処理工程(second pass)で行う。相溶化組成物の製造法については更に、後の実施例で述べる。
【0058】
相溶化組成物は、ISO-527による測定で、3550から5000MPa、望ましくは3650から4500MPaの引張弾性率を有することができる。
【0059】
相溶化組成物は、ISO-75による、0.45MPaの圧力での測定で、180以上から220℃、望ましくは185から210℃の荷重たわみ温度を有することができる。
【0060】
相溶化組成物は、ISO-75による、1.8MPaの圧力での測定で、130から200℃、望ましくは132から190℃の荷重たわみ温度を有することができる。
【0061】
相溶化組成物は、ISO-180による測定で、4.5kJ/m2以上、望ましくは4.6kJ/m2以上の衝撃強さを有することができる。
【0062】
一部の態様において、相溶化組成物の荷重たわみ温度および引張弾性率は、相溶化ポリアリーレンスルフィド組成物を含まない比較用組成物の荷重たわみ温度および引張弾性率よりも大きい。文中で使用されている「比較用組成物」とは、本相溶化組成物と同量のポリイミドとポリアリーレンスルフィドとエポキシノボラック樹脂を含むものであるが、比較用組成物では、ポリアリーレンスルフィドとエポキシノボラック樹脂が、相溶化ポリアリーレンスルフィド組成物のように溶融混合されていない。
【0063】
ある態様では、形態として、相溶化組成物のドメインサイズは比較用組成物のドメインサイズよりも小さい。比較用組成物は文中に定義されているとおりである。ドメインサイズは透過型電子顕微鏡(TEM)で次のようにして求める。組成物の試料を、60ミリメートル(mm)四方、厚さ3.2mmの試料に射出成形する。試料の中央部からブロック(5mm×10mm)を切り出す。次に、このブロックを、室温において、ダイアモンドナイフを用いたウルトラミクロトームで、頂部から底部まで切り分ける。切片の厚さは100ナノメートルである。少なくとも5枚の切片を、TEMにより、100から120キロボルト(kV)で走査し、画像を66,000倍率で記録する。それぞれのドメインの最も長い単一線寸法をドメインサイズとし、ドメインを計数および測定した。次に、5枚の切片のドメインサイズを平均して、平均ドメインサイズを算出した。文中で使用している「ドメインサイズ」とは、平均ドメインサイズを指す。
【0064】
ある態様において、相溶化組成物は、相溶化組成物の総質量に対して、それぞれ、10から90質量%、望ましくは20から80質量%、より望ましくは30から70質量%のポリイミドと、10から90質量%の相溶化ポリアリーレンスルフィド組成物とを含み、このとき、相溶化ポリアリーレンスルフィド組成物は、相溶化ポリアリーレンスルフィド組成物の総質量に対して、それぞれ、80から99質量%、望ましくは85から98質量%、より望ましくは90から98質量%のポリアリーレンスルフィドと、1から20質量%、望ましくは2から15質量%、より望ましくは2から10質量%のエポキシノボラック樹脂との溶融混合物から調製する。この態様において、ポリイミドは、ポリエーテルイミド、ポリ(スルホンエーテルイミド)、またはこれらの組み合わせであり、エポキシノボラック樹脂は、エポキシフェノールノボラック樹脂、エポキシクレゾールノボラック樹脂、またはこれらの組み合わせである。この態様において、相溶化組成物の荷重たわみ温度および引張弾性率は、比較用組成物の荷重たわみ温度および引張弾性率よりも大きく、このとき、比較用組成物は、相溶化組成物と同量のポリイミドと、同量のポリアリーレンスルフィドと、同量のエポキシノボラック樹脂とを含んでいるが、比較用組成物では、ポリアリーレンスルフィドとエポキシノボラック樹脂が、相溶化ポリアリーレンスルフィド組成物のように溶融混合されていない。
【0065】
具体的な態様において、相溶化組成物は、35から50質量%のポリエーテルイミドと、50から65質量%の相溶化ポリアリーレンスルフィド組成物とを含み、粒子材料またはガラス繊維を含まず、相溶化組成物は、ISO-1133による、360℃/5kgでの測定で、25から35cm3/10分のメルトボリュームフローレートと、ISO-527による測定で、55%以上の破断伸びと、ISO-75による、0.45MPaの圧力での測定で、180℃以上の荷重たわみ温度と、ISO-75による、1.8MPaの圧力での測定で、130℃以上の荷重たわみ温度を有する。
【0066】
具体的な態様において、相溶化組成物は、30から55質量%のポリ(スルホンエーテルイミド)と、45から70質量%の相溶化ポリアリーレンスルフィド組成物とを含み、粒子材料またはガラス繊維を含まず、相溶化組成物は、ISO-1133による、360℃/5kgでの測定で、25から40cm3/10分のメルトボリュームフローレートと、ISO-527による測定で、50%以上の破断伸びと、ISO-75による、0.45MPaの圧力での測定で、180℃より高い荷重たわみ温度と、ISO-75による、1.8MPaの圧力での測定で、135℃以上の荷重たわみ温度を有する。
【0067】
具体的な態様において、相溶化組成物は、30から55質量%のポリエーテルイミドと、45から70質量%の相溶化ポリアリーレンスルフィド組成物と、1から6質量%の粒子材料とを含み、相溶化組成物は、ISO-75による、0.45MPaの圧力での測定で、185℃より高い荷重たわみ温度と、ISO-75による、1.8MPaの圧力での測定で、130℃以上の荷重たわみ温度を有する。
【0068】
相溶化組成物は、ISO-527による測定で、40%以上、望ましくは50%以上の、破断伸びを有することができる。
【0069】
本相溶化組成物は、様々な物品の製造においても有用である。このような物品の製造法の例としては、単層および多層シート押出、射出成形、ブロー成形、フィルム押出、異形押出、引き抜き成形、圧縮成形、熱成形、加圧成形、ハイドロフォーミング、真空成形などが挙げられる。前述の物品製造法を組み合わせて使用しても良い。本組成物は、電子部品、例えば、家電機器の構成部品の製造に、特に有用と考えられる。
【実施例】
【0070】
本開示内容を次の実施例で更に詳しく説明するが、これらに限定するものではない。
【0071】
以下の実施例で使用する材料を表1に示す。
【0072】
【0073】
2段階(two-pass)法を用いて、PEIまたはPPSをECNと溶融混合してポリマ混合物を調製し、変性させた(modified)ポリエーテルイミド(PEI-E)またはポリフェニレンスルフィド(PPS-E)マスターバッチを製造した。1)PEI-EとPPS、または、2)PPS-EとPEIのいずれかを溶融混合して、6.4cmの2軸型真空ベント式押出機を用い、20Kg/時間で混和して、組成物を調製した。評価した材料混合物を次の表に示す。押出機温度は、供給口で300から335℃の範囲となるように設定した。スクリュー速度は、真空下、300回転/分(rpm)とした。押出物を冷却し、ペレット化して乾燥させた。供試試料を射出成形する準備として、樹脂を140℃で5時間乾燥させた。バレル温度を320から340℃、金型温度を130から150℃、サイクル時間を32から35秒としてポリマ混合物を射出成形し、ISO供試試料とした。任意の添加剤は、ポリマ混合物を溶融混合する際に加えた。
【0074】
荷重たわみ温度(heat deflection temperature:HDT)は、ISO 75/BfおよびISO 75/Afに従い、0.45または1.8MPaで、80mm×10mm×4mmの射出成形した棒状物上、64mmの間隔で測定した。メルトフローレート(melt flow rate:MFR)は、ISO 1133に従い、337℃または367℃で、6.6kgの荷重を用いて測定した。メルトボリュームフローレート(melt volume flow rate:MVR)は、ISO 1133に従い、360℃/5kg、300秒の滞留時間で測定した。引張特性(引張弾性率、破断引張応力、降伏引張応力)は、ISO 527に従い、50mm/分の速度で測定し、メガパスカル(MPa)で示した。最大引張応力を、UTSにおける応力とする。破断伸びは、ISO 527に従って測定し、パーセント伸び(%)で示した。アイゾットノッチ付きおよびノッチ無し衝撃強さは、ISO 180/1AおよびISO 180/1Uに従い、23℃で、ISO 3167に従った多目的試験片を用いて測定した。衝撃強さは、キロジュール/平方メートル(kJ/m2)で示す。ガラス転移温度(Tg、℃)は、示差走査熱量測定法で求めた。線熱膨張(linear thermal expansion:CTE)の、流れに平行(parallel to flow)(フロー(flow))および流れに対して横方向(transverse to flow)(xフロー)の係数は、ISO 11359-2に従って、0から80℃まで、5℃/分の割合で測定した。
【0075】
[実施例1から8]
実施例1から8の目的は、PEI組成物の相溶化剤としての、PPSおよびECNの効果を示すことであった。前述の手順に従って組成物を調製および試験した。実施例1から8の組成および特性を表2に示す。
【0076】
【0077】
実施例3は、98質量%のPPSと2質量%のECNとの組み合わせであり、追加のポリマを含まないECN変性ポリフェニレンスルフィド(PPS-E)である。実施例4は、98質量%のPEIと2質量%のECNとの組み合わせであり、追加のポリマを含まないECN変性ポリエーテルイミド(PEI-E)である。便宜上、表2では、PPS-EまたはPEI-Eの量を括弧内に100質量%として示す。実施例7および8は、実施例3および4でそれぞれ調製した、PPS-EまたはPEI-Eを用いて調製した。従って、実施例7の相溶化ポリフェニレンスルフィド組成物(PPS-E)は、98質量%のPPSと2質量%のECNとの溶融混合物である。
【0078】
これらの実施例は、PEIと組み合わせたECN変性ポリフェニレンスルフィド(PPS-E)(実施例7)が、31cm3/10分未満のMVRと、0.45MPaにおいて185℃よりも高いHDTと、1.8MPaにおいて132℃よりも高いHDTを達成する組成物となることを示している。更に、実施例7は、低いMVRと共に、より高いHDTおよび引張特性を示し、これは、PEIとPPSとECNとの組成物を1段階法で調製したもの(比較例5)と比べ、PPS-EとPEIを2段階法で調製したものの粘度が改善したことを示している。
【0079】
[実施例9から13]
実施例9から13の目的は、2段階法で調製した場合の、PEIの代わりにポリ(スルホンエーテルイミド)(PSEI)を含む組成物中における、ECN変性(compatibilized)PPS(PPS-E)の効果を示すことであった。前述の手順に従って組成物を調製および試験した。実施例9から13の組成および特性を表3に示す。
【0080】
【0081】
実施例11は、実施例3で調製したPPS-Eを使用している。従って、実施例11の相溶化ポリフェニレンスルフィド組成物(PPS-E)は、98質量%のPPSと2質量%のECNとの溶融混合物である。
【0082】
これらの実施例は、1段階法で調製した場合、PSEI/PPS/ECNを含む組成物(比較例10)が、PEI/PPS/ECNを含む組成物(比較例9)よりも改善されたHDTを有することを示している。これらの実施例はまた、PSEIと組み合わせたECN変性ポリフェニレンスルフィド(PPS-E)(実施例11)が、より高いHDT、引張弾性率、および破断伸びと、よりよいMVRを達成できる組成物となることを示している。更に、45質量%のガラス繊維(比較例12および13)を、PEI/PPS/ECN混合物(比較例9)およびPSEI/PPS/ECN混合物(比較例10)にそれぞれ加えると、HDTおよび引張弾性率が大幅に上昇することも示されている。
【0083】
[実施例14から18]
実施例14から18の目的は、2段階法で調製した場合の、ECN変性(compatibilized)PPS(PPS-E)とPEIとを含む組成物に、ケイ素含有粒子を加える効果を示すことであった。前述の手順に従って組成物を調製および試験した。実施例14から18の組成および特性を表4に示す。
【0084】
【0085】
実施例18は、実施例3で調製したPPS-Eを使用している。従って、実施例18の相溶化ポリフェニレンスルフィド組成物(PPS-E)は、98質量%のPPSと2質量%のECNとの溶融混合物である。
【0086】
これらの実施例は、1段階法で調製した、PEI/PPS/ECNを含む組成物に粒子1または粒子2を加えると(比較例15および16)、HDTが上昇する(比較例14)ことを示している。1段階法で調製した、PEI/PPS/ECNを含む組成物に粒子1と粒子2の両方を加えると(比較例17)、更に、機械的特性をあまり低下させることなくHDTが上昇する。2段階法で調製した、ECN変性ポリフェニレンスルフィド(PPS-E)をPEIと組み合わせて含む組成物(実施例18)では、更にHDTが高くなり、機械的特性が改善される。
【0087】
本開示内容は更に、以下の態様を含む。
【0088】
態様1:ポリイミドと、エポキシノボラック樹脂とポリアリーレンスルフィドとの溶融混合物を含む相溶化ポリアリーレンスルフィド組成物と、を含む相溶化組成物であって、この相溶化組成物はポリフェニレンスルホンを含まない。
【0089】
態様2:態様1の相溶化組成物であって、10から90質量%のポリイミドと、10から90質量%の相溶化ポリアリーレンスルフィド組成物とを含み、このとき、それぞれの質量%は相溶化組成物の総質量に対してである。
【0090】
態様3:態様1または2の相溶化組成物であって、ポリイミドの存在量は、相溶化組成物の総質量に対して、20から80質量%、望ましくは30から70質量%であり、相溶化ポリアリーレンスルフィド組成物は、相溶化ポリアリーレンスルフィド組成物の総質量に対して、それぞれ、80から99質量%、望ましくは85から98質量%、より望ましくは90から98質量%のポリアリーレンスルフィドと、1から20質量%、望ましくは2から15質量%、より望ましくは2から10質量%のエポキシノボラック樹脂との溶融混合物から調製される。
【0091】
態様4:前記態様のいずれかの相溶化組成物であって、ポリイミドは、ポリエーテルイミド、ポリ(スルホンエーテルイミド)、またはこれらの組み合わせである。
【0092】
態様5:前記態様のいずれかの相溶化組成物であって、エポキシノボラック樹脂は、エポキシフェノールノボラック樹脂、エポキシクレゾールノボラック樹脂、またはこれらの組み合わせである。
【0093】
態様6:前記態様のいずれかの相溶化組成物であって、相溶化組成物は、ISO-527による測定で、3550から5000MPa、望ましくは3650から4500MPaの引張弾性率;ISO-75による、0.45MPaの圧力での測定で、180以上から220℃、望ましくは185から210℃の荷重たわみ温度;ISO-75による、1.8MPaの圧力での測定で、130から200℃、望ましくは132から190℃の荷重たわみ温度;ISO-180による測定で、4.5kJ/m2以上、望ましくは4.6kJ/m2以上の衝撃強さ;または、ISO-527による測定で、40%以上、望ましくは50%以上の破断伸び、の少なくとも1つを有する。
【0094】
態様7:前記態様のいずれかの相溶化組成物であって、相溶化組成物の荷重たわみ温度および引張弾性率は、比較用組成物の荷重たわみ温度および引張弾性率よりも大きく、比較用組成物は、相溶化組成物と同量のポリイミドと、同量のポリアリーレンスルフィドと、同量のエポキシノボラック樹脂とを含み、比較用組成物において、ポリアリーレンスルフィドとエポキシノボラック樹脂とは、相溶化ポリアリーレンスルフィド組成物のように溶融混合されていない。
【0095】
態様8:前記態様のいずれかの相溶化組成物であって、形態として、相溶化組成物のドメインサイズは比較用組成物のドメインサイズよりも小さく、比較用組成物は、相溶化組成物と同量のポリイミドと、同量のポリアリーレンスルフィドと、同量のエポキシノボラック樹脂とを含み、比較用組成物において、ポリアリーレンスルフィドとエポキシノボラック樹脂とは、相溶化ポリアリーレンスルフィド組成物のように溶融混合されていない。
【0096】
態様9:前記態様のいずれかの相溶化組成物であって、粒子材料を更に含み、望ましくは、粒子材料は、ヒュームドシリカ、溶融シリカ、沈殿シリカ、シリカゲル、ポリシルセスキオキサン、石英、珪藻土、粉砕ガラス、ガラス球、またはこれらの組み合わせである。
【0097】
態様10:態様1から8のいずれかの相溶化組成物であって、35から50質量%のポリエーテルイミドと、50から65質量%の相溶化ポリアリーレンスルフィド組成物とを含み、このとき、それぞれの質量%は相溶化組成物の総質量に対してであり、相溶化組成物は粒子材料またはガラス繊維を含まず、相溶化組成物は、ISO-1133による、360℃/5kgでの測定で、25から35cm3/10分のメルトボリュームフローレートと、ISO-527による測定で、55%以上の破断伸びと、ISO-75による、0.45MPaの圧力での測定で、180℃以上の荷重たわみ温度、または、ISO-75による、1.8MPaの圧力での測定で、130℃以上の荷重たわみ温度、の少なくとも1つと、を有する。
【0098】
態様11:態様1から8のいずれかの相溶化組成物であって、30から55質量%のポリ(スルホンエーテルイミド)と、45から70質量%の相溶化ポリアリーレンスルフィド組成物とを含み、このとき、それぞれの質量%は相溶化組成物の総質量に対してであり、相溶化組成物は粒子材料またはガラス繊維を含まず、相溶化組成物は、ISO-1133による、360℃/5kgでの測定で、25から40cm3/10分のメルトボリュームフローレートと、ISO-527による測定で、50%以上の破断伸びと、ISO-75による、0.45MPaの圧力での測定で、180℃より高い荷重たわみ温度、または、ISO-75による、1.8MPaの圧力での測定で、135℃以上の荷重たわみ温度、の少なくとも1つと、を有する。
【0099】
態様12:態様1から9のいずれかの相溶化組成物であって、30から55質量%のポリエーテルイミドと、45から70質量%の相溶化ポリアリーレンスルフィド組成物と、1から6質量%の粒子材料と、を含み、このとき、それぞれの質量%は相溶化組成物の総質量に対してであり、相溶化組成物は、ISO-75による、0.45MPaの圧力での測定で、185℃より高い荷重たわみ温度、または、ISO-75による、1.8MPaの圧力での測定で、130℃以上の荷重たわみ温度の、少なくとも1つを有する。
【0100】
態様13:前記態様のいずれかの相溶化組成物を製造する方法であって、この製造法は、エポキシノボラック樹脂とポリアリーレンスルフィドとを溶融混合して相溶化ポリアリーレンスルフィド組成物を生成する工程と、相溶化ポリアリーレンスルフィド組成物とポリイミドとを溶融混合して相溶化組成物を生成する工程とを含み、望ましくは、溶融混合を行って相溶化組成物を生成する工程の温度は、250から360℃である。
【0101】
態様14:態様13の製造法であって、溶融混合を行って相溶化ポリアリーレンスルフィド組成物を生成する工程は、押出機を通る第1処理工程(first pass)であり、溶融混合を行って相溶化組成物を生成する工程は、押出機を通る第2処理工程(second pass)である。
【0102】
態様15:前記態様のいずれかの相溶化組成物を含む物品であって、望ましくは、物品は成形品である。
【0103】
組成物、方法、および物品は、選択的に、文中に開示されている任意の適当な材料、ステップ、または構成要素を含む(comprise)、から成る(consist of)、あるいは、から成る(consist of)ことができる。組成物、方法、および物品は、付加的に、または選択的に、この組成物、方法、および物品の機能または目的の達成に必ずしも必要ではない任意の材料(または種)、ステップ、または構成要素を除いて、または実質的に含まないように構成することができる。
【0104】
文中に開示されている全ての範囲は終点を含んでおり、終点は独立して互いに組み合わせ可能である(例えば、「25質量%以下、または5から20質量%」の範囲は、終点と、「5から25質量%」など、この範囲内にある全ての値を含む)。「組み合わせ(combinations)」は、混合物(blends、mixtures)、合金、反応生成物などを含む。用語「第1(first)」、「第2(second)」などは、順番、数量、または重要度を何ら示すものではなく、ある要素と別の要素とを識別するために使用する。用語「a」、「an」、および「the」は、数量の限定を示すものではなく、別途指示のない限り、または文脈によって明らかに否定されない限り、単数形と複数形の両方を含むと解釈すべきである。「または(or)」は、別に明示されない限り、「および/または(and/or)」を意味する。明細書中における「一部の(some)態様」、「ある(an)態様」などでの言及は、その態様に関連して述べられているある要素が、本件に記載されている少なくとも1つの態様には含まれているが、他の態様中には存在してもしていなくても良いことを意味する。更に、記載されている要素は、様々な態様において、任意の適当な方法で組み合わせ可能であることは当然である。「これらの組み合わせ(combination thereof)」は非限定(open)であって、挙げられている構成要素または特性の少なくとも1つを含み、必要に応じて、挙げられていない類似または同等の構成要素または特性を共に含む、任意の組み合わせを含んでいる。
【0105】
文中にそうでないことが明記されていない限り、全ての試験基準は、本願の出願日、あるいは、優先権が主張されている場合、この試験基準が記載されている最先の優先権出願の出願日時点で有効な、最も新しい基準である。
【0106】
別途定義のない限り、文中で使用する技術および科学用語は、本願の属する技術分野の当業者に一般的に理解されているものと同じ意味を有する。引用されている全ての特許、特許出願、その他の参考文献は、その内容を全て本件に引用して援用する。しかし、本願中の用語が援用する参考文献の用語と矛盾する、または一致しない場合は、本願の用語を、援用する参考文献からの矛盾する用語よりも優先する。
【0107】
化合物は標準命名法を用いて記述する。例えば、指示された何らかの基で置換されていない位置は、指示された結合で、または水素原子で満たされたその価数を有するものとする。2つの文字または記号に挟まれていないダッシュ(「-」)は、置換基の結合に使われる位置を示すために使用する。例えば、-CHOは、カルボニル基の炭素で結合している。
【0108】
文中で使用されている用語「ヒドロカルビル」は、炭素および水素、必要に応じて1つ以上のヘテロ原子(例えば、1、2、3、または4個の、ハロゲン、O、N、S、P、Siなどの原子)を含む基を含む。「アルキル」は、分枝または直鎖、飽和一価炭化水素基、例えば、メチル、エチル、i-プロピル、n-ブチルを意味する。「アルキレン」は、分枝または直鎖、飽和二価炭化水素基(例えば、メチレン(-CH2-)またはプロピレン(-(CH2)3-))を意味する。「アルケニル」および「アルケニレン」は、少なくとも1つの炭素-炭素二重結合を有する、それぞれ、一価または二価の、分枝または直鎖炭化水素基を意味する(例えば、エテニル(-HC=CH2)またはプロペニレン(-HC(CH3)=CH2-))。「アルキニル」は、少なくとも1つの炭素-炭素三重結合を有する、分枝または直鎖、一価炭化水素基を意味する(例えば、エチニル)。「アルコキシ」は、酸素を経て結合しているアルキル基(即ち、アルキル-O-)、例えば、メトキシ、エトキシ、sec-ブチルオキシを意味する。「シクロアルキル」および「シクロアルキレン」は、それぞれ、構造式-CnH2n-xおよび-CnH2n-2x-(式中、xは環化の数)で示される、一価および二価の環式炭化水素基を意味する。「アリール」は、一価の単環または多環式芳香族基(例えば、フェニルまたはナフチル)を意味する。「アリーレン」は、二価の単環または多環式芳香族基(例えば、フェニレンまたはナフチレン)を意味する。「アリーレン」は、二価アリール基を意味する。「アルキルアリール」は、アルキル基で置換されたアリール基を意味する。「アリールアルキル」は、アリール基で置換されたアルキル基(例えば、ベンジル)を意味する。接頭辞「ハロ」は、1つ以上のハロゲン(F、Cl、Br、またはI)置換基(これらは、同じでも異なっていても良い)を含む基または化合物を意味する。接頭辞「複素(ヘテロ:hetero)」は、ヘテロ原子である少なくとも1つの環員(例えば、1、2、または3個のヘテロ原子であって、それぞれのヘテロ原子は、独立して、N、O、SまたはPである)を含む基または化合物を意味する。
【0109】
置換基が特に指示されていない場合、置換によって化合物の合成、安定性、または使用にあまり悪影響のない限り、前述のそれぞれの基は置換されていても置換されていなくても良い。「置換された」は、化合物または基が、置換されている原子の通常の価数を超えないという条件で、水素の代わりに、少なくとも1つ(例えば、1、2、3、または4個)の置換基(それぞれ独立して、C1~9アルコキシ、C1~9ハロアルコキシ、ニトロ(-NO2)、シアノ(-CN)、C1~6アルキルスルホニル(-S(=O)2-アルキル)、C6~12アリールスルホニル(-S(=O)2-アリール)、チオール(-SH)、チオシアノ(-SCN)、トシル(CH3C6H4SO2-)、C3~12シクロアルキル、C2~12アルケニル、C5~12シクロアルケニル、C6~12アリール、C7~13アリールアルキレン、C4~12ヘテロシクロアルキル、およびC3~12ヘテロアリールとすることができる)で置換されていることを意味する。ある化合物が置換されている場合、示されている炭素原子の数は、置換基の炭素原子を含む、化合物または基中の炭素原子の総数である。
【0110】
特定の態様について述べてきたが、現時点で予想されていない、または予想されていないと考えられる代替(alternatives)、変形(modifications)、変化(variations)、改善(improvements)、および実質的同等物が、出願者や他の同業者によって考案されることがある。従って、出願時の、および修正の可能性のある添付請求項は、これらの代替、変形、変化、改善、および実質的同等物を全て包含するものとする。