(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-06-11
(45)【発行日】2025-06-19
(54)【発明の名称】インバータ、インバータの制御方法、インバータの制御プログラム、コンバータ、駆動装置
(51)【国際特許分類】
H02M 1/08 20060101AFI20250612BHJP
H02M 7/48 20070101ALI20250612BHJP
【FI】
H02M1/08 A
H02M7/48 F
(21)【出願番号】P 2022576739
(86)(22)【出願日】2022-01-20
(86)【国際出願番号】 JP2022001972
(87)【国際公開番号】W WO2022158521
(87)【国際公開日】2022-07-28
【審査請求日】2023-06-08
(31)【優先権主張番号】P 2021009124
(32)【優先日】2021-01-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】503405689
【氏名又は名称】ナブテスコ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【氏名又は名称】森下 賢樹
(72)【発明者】
【氏名】大野 泰生
(72)【発明者】
【氏名】ハイダー ミヒャエル
(72)【発明者】
【氏名】ボルティス ドミニク
(72)【発明者】
【氏名】コラー ヨハン ベー
【審査官】藤島 孝太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-242475(JP,A)
【文献】特開2002-135973(JP,A)
【文献】特開平10-108474(JP,A)
【文献】特開2007-014361(JP,A)
【文献】特開2020-036424(JP,A)
【文献】特開2009-131036(JP,A)
【文献】国際公開第2016/136187(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2018/0062510(US,A1)
【文献】特開2012-147671(JP,A)
【文献】特開2013-240162(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02M 1/08- 7/98
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
高電位の高電位入力端子と低電位の低電位入力端子を含み、両入力端子の間で直流電力が入力される入力端子と、
交流電力を出力する出力端子と、
前記高電位入力端子側と前記出力端子側を接続する電流経路を有する高電位トランジスタと、前記低電位入力端子側と前記出力端子側を接続する電流経路を有する低電位トランジスタを備えるトランジスタ対と、
前記高電位トランジスタおよび前記低電位トランジスタのそれぞれに制御信号を入力し、それぞれの電流経路の導通状態を互いに相補的に切り替えることで前記直流電力を前記交流電力に変換するスイッチング制御を行うドライバとを備え、
前記ドライバは、前記各電流経路の電流を調整する電流調整素子および当該各電流経路の電圧を調整する電圧調整素子の少なくともいずれかを含み、
前記電流調整素子は、前記スイッチング制御において、前記各電流経路の電流の時間変化率を略無限大に調整
し、
前記トランジスタ対は、nを2以上の整数として、前記出力端子から前記高電位入力端子に向かって直列に接続された第1~nの高電位トランジスタ、および、前記出力端子から前記低電位入力端子に向かって直列に接続された第1~nの低電位トランジスタによって構成される第1~nのトランジスタ対を含み、
前記ドライバは、前記第1~nのトランジスタ対に対して前記スイッチング制御を行う第1~nのドライバを含み、
隣接するトランジスタ対の高電位側の接続部分と低電位側の接続部分を相互に接続する第1~n-1の接続経路と、
前記各接続経路に設けられ、前記高電位側の接続部分と前記低電位側の接続部分の間の電圧の変動を抑制する第1~n-1の電圧変動抑制素子とを備え、
隣接するトランジスタ対の前記スイッチング制御は所定時間ずれたタイミングで行われ、
前記所定時間は、前記スイッチング制御において、前記トランジスタ対を構成する前記高電位トランジスタおよび前記低電位トランジスタのそれぞれの電流経路の電圧スイッチングの過渡時間である
インバータ。
【請求項2】
前記各トランジスタ対の前記スイッチング制御のタイミングは、前記出力端子から遠い側のトランジスタ対ほど早い
請求項
1に記載のインバータ。
【請求項3】
前記電圧変動抑制素子はキャパシタである
請求項
1または2に記載のインバータ。
【請求項4】
前記キャパシタの目標電圧を提供する目標電圧提供部と、
前記キャパシタの測定電圧の前記目標電圧からの誤差を算出する電圧誤差算出部と、
前記誤差に基づき、前記隣接するトランジスタ対の少なくともいずれかを構成する前記高電位トランジスタおよび前記低電位トランジスタのそれぞれの電流経路の電圧スイッチングの過渡時間を補正するスイッチング時間補正部と
を備える請求項
3に記載のインバータ。
【請求項5】
前記電圧変動抑制素子は、前記低電位側の接続部分から前記高電位側の接続部分に向かう方向に電流を流す直列接続された二つのダイオードであり、
前記二つのダイオードの接続部分は、前記高電位と前記低電位の中間電位に接続される
請求項
1または2に記載のインバータ。
【請求項6】
高電位の高電位出力端子と低電位の低電位出力端子を含み、両出力端子の間で直流電力を出力する出力端子と、
交流電力が入力される入力端子と、
前記高電位出力端子側と前記入力端子側を接続する電流経路を有する高電位トランジスタと、前記低電位出力端子側と前記入力端子側を接続する電流経路を有する低電位トランジスタを備えるトランジスタ対と、
前記高電位トランジスタおよび前記低電位トランジスタのそれぞれに制御信号を入力し、それぞれの電流経路の導通状態を互いに相補的に切り替えることで前記交流電力を前記直流電力に変換するスイッチング制御を行うドライバとを備え、
前記ドライバは、前記各電流経路の電流を調整する電流調整素子および当該各電流経路の電圧を調整する電圧調整素子の少なくともいずれかを含み、
前記電流調整素子は、前記スイッチング制御において、前記各電流経路の電流の時間変化率を略無限大に調整
し、
前記トランジスタ対は、nを2以上の整数として、前記入力端子から前記高電位出力端子に向かって直列に接続された第1~nの高電位トランジスタ、および、前記入力端子から前記低電位出力端子に向かって直列に接続された第1~nの低電位トランジスタによって構成される第1~nのトランジスタ対を含み、
前記ドライバは、前記第1~nのトランジスタ対に対して前記スイッチング制御を行う第1~nのドライバを含み、
隣接するトランジスタ対の高電位側の接続部分と低電位側の接続部分を相互に接続する第1~n-1の接続経路と、
前記各接続経路に設けられ、前記高電位側の接続部分と前記低電位側の接続部分の間の電圧の変動を抑制する第1~n-1の電圧変動抑制素子とを備え、
隣接するトランジスタ対の前記スイッチング制御は所定時間ずれたタイミングで行われ、
前記所定時間は、前記スイッチング制御において、前記トランジスタ対を構成する前記高電位トランジスタおよび前記低電位トランジスタのそれぞれの電流経路の電圧スイッチングの過渡時間である
コンバータ。
【請求項7】
互いに位相が異なる多相の交流電力で駆動されるモータと、
前記各相の交流電力を生成する複数のインバータとを備え、
前記各インバータは、
高電位の高電位入力端子と低電位の低電位入力端子を含み、両入力端子の間で直流電力が入力される入力端子と、
前記交流電力を出力する出力端子と、
前記高電位入力端子側と前記出力端子側を接続する電流経路を有する高電位トランジスタと、前記低電位入力端子側と前記出力端子側を接続する電流経路を有する低電位トランジスタを備えるトランジスタ対と、
前記高電位トランジスタおよび前記低電位トランジスタのそれぞれに制御信号を入力し、それぞれの電流経路の導通状態を互いに相補的に切り替えることで前記直流電力を前記交流電力に変換するスイッチング制御を行うドライバとを備え、
前記ドライバは、前記各電流経路の電流を調整する電流調整素子および当該各電流経路の電圧を調整する電圧調整素子の少なくともいずれかを含み、
前記電流調整素子は、前記スイッチング制御において、前記各電流経路の電流の時間変化率を略無限大に調整
し、
前記トランジスタ対は、nを2以上の整数として、前記出力端子から前記高電位入力端子に向かって直列に接続された第1~nの高電位トランジスタ、および、前記出力端子から前記低電位入力端子に向かって直列に接続された第1~nの低電位トランジスタによって構成される第1~nのトランジスタ対を含み、
前記ドライバは、前記第1~nのトランジスタ対に対して前記スイッチング制御を行う第1~nのドライバを含み、
隣接するトランジスタ対の高電位側の接続部分と低電位側の接続部分を相互に接続する第1~n-1の接続経路と、
前記各接続経路に設けられ、前記高電位側の接続部分と前記低電位側の接続部分の間の電圧の変動を抑制する第1~n-1の電圧変動抑制素子とを備え、
隣接するトランジスタ対の前記スイッチング制御は所定時間ずれたタイミングで行われ、
前記所定時間は、前記スイッチング制御において、前記トランジスタ対を構成する前記高電位トランジスタおよび前記低電位トランジスタのそれぞれの電流経路の電圧スイッチングの過渡時間である
駆動装置。
【請求項8】
高電位の高電位入力端子と低電位の低電位入力端子を含み、両入力端子の間で直流電力が入力される入力端子と、
交流電力を出力する出力端子と、
前記高電位入力端子側と前記出力端子側を接続する電流経路を有する高電位トランジスタと、前記低電位入力端子側と前記出力端子側を接続する電流経路を有する低電位トランジスタを備えるトランジスタ対と
を備えるインバータの制御方法であって、
ドライバによって、前記高電位トランジスタおよび前記低電位トランジスタのそれぞれに制御信号を入力し、それぞれの電流経路の導通状態を互いに相補的に切り替えることで前記直流電力を前記交流電力に変換するスイッチング制御ステップを備え、
前記スイッチング制御ステップにおいて、前記各電流経路の電流の時間変化率を略無限大に調整
し、
前記トランジスタ対は、nを2以上の整数として、前記出力端子から前記高電位入力端子に向かって直列に接続された第1~nの高電位トランジスタ、および、前記出力端子から前記低電位入力端子に向かって直列に接続された第1~nの低電位トランジスタによって構成される第1~nのトランジスタ対を含み、
前記ドライバは、前記第1~nのトランジスタ対に対して前記スイッチング制御ステップを行う第1~nのドライバを含み、
隣接するトランジスタ対の高電位側の接続部分と低電位側の接続部分を相互に接続する第1~n-1の接続経路と、
前記各接続経路に設けられ、前記高電位側の接続部分と前記低電位側の接続部分の間の電圧の変動を抑制する第1~n-1の電圧変動抑制素子とを備え、
隣接するトランジスタ対の前記スイッチング制御ステップは所定時間ずれたタイミングで行われ、
前記所定時間は、前記スイッチング制御ステップにおいて、前記トランジスタ対を構成する前記高電位トランジスタおよび前記低電位トランジスタのそれぞれの電流経路の電圧スイッチングの過渡時間である
インバータの制御方法。
【請求項9】
高電位の高電位入力端子と低電位の低電位入力端子を含み、両入力端子の間で直流電力が入力される入力端子と、
交流電力を出力する出力端子と、
前記高電位入力端子側と前記出力端子側を接続する電流経路を有する高電位トランジスタと、前記低電位入力端子側と前記出力端子側を接続する電流経路を有する低電位トランジスタを備えるトランジスタ対と
を備えるインバータの制御プログラムであって、
ドライバによって、前記高電位トランジスタおよび前記低電位トランジスタのそれぞれに制御信号を入力し、それぞれの電流経路の導通状態を互いに相補的に切り替えることで前記直流電力を前記交流電力に変換するスイッチング制御ステップをコンピュータに実行させ、
前記スイッチング制御ステップにおいて、前記各電流経路の電流の時間変化率を略無限大に調整
し、
前記トランジスタ対は、nを2以上の整数として、前記出力端子から前記高電位入力端子に向かって直列に接続された第1~nの高電位トランジスタ、および、前記出力端子から前記低電位入力端子に向かって直列に接続された第1~nの低電位トランジスタによって構成される第1~nのトランジスタ対を含み、
前記ドライバは、前記第1~nのトランジスタ対に対して前記スイッチング制御ステップを行う第1~nのドライバを含み、
隣接するトランジスタ対の高電位側の接続部分と低電位側の接続部分を相互に接続する第1~n-1の接続経路と、
前記各接続経路に設けられ、前記高電位側の接続部分と前記低電位側の接続部分の間の電圧の変動を抑制する第1~n-1の電圧変動抑制素子とを備え、
隣接するトランジスタ対の前記スイッチング制御ステップは所定時間ずれたタイミングで行われ、
前記所定時間は、前記スイッチング制御ステップにおいて、前記トランジスタ対を構成する前記高電位トランジスタおよび前記低電位トランジスタのそれぞれの電流経路の電圧スイッチングの過渡時間である
インバータの制御プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はインバータやコンバータの制御技術に関する。
【背景技術】
【0002】
モータ等の交流駆動に用いられるインバータは、出力端子の高電位側と低電位側のトランジスタ対を相補的にオンオフ制御することで交流電力を出力する。コンバータは、インバータとは逆の動作によって、交流電力から直流電力を出力する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
各トランジスタのオンオフ制御において、トランジスタがオンのときは電流経路(トランジスタがMOSFET(Metal Oxide Semiconductor Field Effect Transistor)の場合はソース/ドレイン間のチャネル、トランジスタがバイポーラトランジスタの場合はエミッタ/コレクタ間の経路)が導通状態にあるため、電流が流れ、電圧はゼロとみなせる。また、トランジスタがオフのときは電流経路が絶縁状態にあるため、電流はゼロとみなせ、電圧が発生する。オン時は電圧がゼロ、オフ時は電流がゼロであるため、トランジスタは電力を消費しない。しかし、トランジスタのオンオフが切り替わる際は、電圧および電流がゼロにならないため、スイッチング損失として知られる無駄な電力消費が発生する。
【0005】
本発明はこうした状況に鑑みてなされたものであり、その目的は、スイッチング損失を低減できるインバータやコンバータを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明のある態様のインバータは、高電位の高電位入力端子と低電位の低電位入力端子を含み、両入力端子の間で直流電力が入力される入力端子と、交流電力を出力する出力端子と、高電位入力端子側と出力端子側を接続する電流経路を有する高電位トランジスタと、低電位入力端子側と出力端子側を接続する電流経路を有する低電位トランジスタを備えるトランジスタ対と、高電位トランジスタおよび低電位トランジスタのそれぞれに制御信号を入力し、それぞれの電流経路の導通状態を互いに相補的に切り替えることで直流電力を交流電力に変換するスイッチング制御を行うドライバとを備える。ドライバは、各電流経路の電流を調整する電流調整素子および当該各電流経路の電圧を調整する電圧調整素子の少なくともいずれかを含み、電流調整素子および電圧調整素子の少なくともいずれかは、スイッチング制御において、各電流経路の電流の時間変化率が、各電流経路の電圧の時間変化率よりも大きくなるように調整する。
【0007】
従来の一般的なインバータは、制御電極(トランジスタがMOSFETの場合はゲート電極、トランジスタがバイポーラトランジスタの場合はベース電極)に入力する制御信号によって各トランジスタのオンとオフを単純に切り替える構成のため、電流が切り替わる際の時間変化率と、電圧が切り替わる際の時間変化率に違いがない。これに対し本態様のインバータでは、ドライバに設けられる電流調整素子および電圧調整素子の少なくともいずれかによって、電流の時間変化率が電圧の時間変化率よりも大きくなるように調整される。急峻な電流変化によって電流スイッチング時間を短くできるため、電流の切り替わりに伴うスイッチング損失を低減できる。一方、電圧の時間変化率が過大になるとモータ巻線の絶縁破壊等のリスクが高まるため、電流の時間変化率よりも小さくなるのが好ましい。このように、本態様のインバータによれば、電流の切り替わりに伴うスイッチング損失の低減と、モータ巻線の絶縁破壊等のリスクの低減を両立できる。
【0008】
上記における電流および電圧の時間変化率は次のように定義される。電流が時間Tiの間に最小値Iminと最大値Imaxの間で切り替わる場合、電流の時間変化率は(Imax-Imin)/Tiで表され、以下これを微分の記号を用いてdi/dtとも表す。電圧が時間Tvの間に最小値Vminと最大値Vmaxの間で切り替わる場合、電流の時間変化率は(Vmax-Vmin)/Tvで表され、以下これを微分の記号を用いてdv/dtとも表す。なお、電流と電圧が互いに逆方向に変化する場合、時間変化率の符号は正負逆になるが、本明細書では、電流と電圧の時間変化率の大小比較を行う際は、それぞれの絶対値を比較するものとする。
【0009】
本発明の別の態様は、コンバータである。この装置は、高電位の高電位出力端子と低電位の低電位出力端子を含み、両出力端子の間で直流電力を出力する出力端子と、交流電力が入力される入力端子と、高電位出力端子側と入力端子側を接続する電流経路を有する高電位トランジスタと、低電位出力端子側と入力端子側を接続する電流経路を有する低電位トランジスタを備えるトランジスタ対と、高電位トランジスタおよび低電位トランジスタのそれぞれに制御信号を入力し、それぞれの電流経路の導通状態を互いに相補的に切り替えることで交流電力を直流電力に変換するスイッチング制御を行うドライバとを備える。ドライバは、各電流経路の電流を調整する電流調整素子および当該各電流経路の電圧を調整する電圧調整素子の少なくともいずれかを含み、電流調整素子および電圧調整素子の少なくともいずれかは、スイッチング制御において、各電流経路の電流の時間変化率が、各電流経路の電圧の時間変化率よりも大きくなるように調整する。
【0010】
本発明の別の態様は、駆動装置である。この装置は、互いに位相が異なる多相の交流電力で駆動されるモータと、各相の交流電力を生成する複数のインバータとを備える。各インバータは、高電位の高電位入力端子と低電位の低電位入力端子を含み、両入力端子の間で直流電力が入力される入力端子と、交流電力を出力する出力端子と、高電位入力端子側と出力端子側を接続する電流経路を有する高電位トランジスタと、低電位入力端子側と出力端子側を接続する電流経路を有する低電位トランジスタを備えるトランジスタ対と、高電位トランジスタおよび低電位トランジスタのそれぞれに制御信号を入力し、それぞれの電流経路の導通状態を互いに相補的に切り替えることで直流電力を交流電力に変換するスイッチング制御を行うドライバとを備える。ドライバは、各電流経路の電流を調整する電流調整素子および当該各電流経路の電圧を調整する電圧調整素子の少なくともいずれかを含み、電流調整素子および電圧調整素子の少なくともいずれかは、スイッチング制御において、各電流経路の電流の時間変化率が、各電流経路の電圧の時間変化率よりも大きくなるように調整する。
【0011】
本発明のさらに別の態様は、インバータの制御方法である。この方法は、高電位の高電位入力端子と低電位の低電位入力端子を含み、両入力端子の間で直流電力が入力される入力端子と、交流電力を出力する出力端子と、高電位入力端子側と出力端子側を接続する電流経路を有する高電位トランジスタと、低電位入力端子側と出力端子側を接続する電流経路を有する低電位トランジスタを備えるトランジスタ対とを備えるインバータの制御方法であって、高電位トランジスタおよび低電位トランジスタのそれぞれに制御信号を入力し、それぞれの電流経路の導通状態を互いに相補的に切り替えることで直流電力を交流電力に変換するスイッチング制御ステップを備える。スイッチング制御において、各電流経路の電流の時間変化率が、各電流経路の電圧の時間変化率よりも大きくなるように調整する。
【0012】
なお、以上の構成要素の任意の組合せ、本発明の表現を方法、装置、システム、記録媒体、コンピュータプログラムなどの間で変換したものもまた、本発明の態様として有効である。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、インバータやコンバータのスイッチング損失を低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の実施形態を含むモータ装置の構成を概略的に示す図である。
【
図5】出力電流が正の場合の各トランジスタの導通状態と電流経路を示す図である。
【
図6】出力電流が負の場合の各トランジスタの導通状態と電流経路を示す図である。
【
図7】接続経路に設けられるキャパシタの電流と電圧を示す図である。
【
図8】インバータの一回のスイッチング動作を通じてキャパシタの電荷の増減がある例を示す図である。
【
図9】スイッチング時間の不均衡を補正する補正装置の構成例を示す図である。
【
図10】キャパシタの代わりにダイオードを接続経路に設けた構成例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
図1は、本発明の実施形態を含むモータ装置1の構成を概略的に示す。モータ装置1は、直流電力に基づいて交流電力を生成するインバータ10と、その交流電力で駆動されるモータ20を備える。
【0016】
モータ20は、U相、V相、W相の3相のコイル20U、20V、20Wを持つ3相ブラシレスモータである。インバータ10は、モータ20の各相に対応して、U相交流電力を生成するU相インバータ10Uと、V相交流電力を生成するV相インバータ10Vと、W相交流電力を生成するW相インバータ10Wを含む。各相のインバータ10U、10V、10Wは、モータ20のホール素子H1、H2、H3が検知した回転子の回転位置に基づき、互いに位相が異なる交流電力を各相のコイル20U、20V、20Wに印加することで回転磁界を発生させる。この回転磁界によって回転する回転子から所望の回転動力が得られる。なお、モータ20は、交流電圧で駆動される他のタイプのモータでもよい。また、モータ20の相の数は3に限られず、2以上の任意の自然数でよい。
【0017】
各相のインバータ10U、10V、10Wの構成は共通であるため、以下では適宜インバータ10と総称して、その構成、作用、効果について説明する。交流電力を生成するインバータ10は、高い直流電源電位Vddが入力される高電位入力端子11と、低い直流電源電位Vssが入力される低電位入力端子12と、高電位入力端子11と低電位入力端子12の間に設けられてVddとVssの間で変動する交流電圧を出力する出力端子13を備える。VssはVddよりも低い任意の電位でよいが、以下では説明を簡素化するため、Vssをゼロとする。そして、インバータ10の両入力端子11、12の間で入力される直流動作電圧Vdd-Vss=VddをVDCとも表す。
【0018】
図2は、インバータ10(U相インバータ10U)の構成を概略的に示す。インバータ10は、第1のトランジスタ対14と、第2のトランジスタ対15と、第1のドライバ16と、第2のドライバ17と、接続経路18と、コントローラ100を備える。
【0019】
第1のトランジスタ対14は、高電位入力端子11側と出力端子13側を接続する電流経路を有する第1の高電位トランジスタ14Hと、低電位入力端子12側と出力端子13側を接続する電流経路を有する第1の低電位トランジスタ14Lを備える。各トランジスタ14H、14LはNチャネル型のMOSFETであり、第1のドライバ16がゲート電極に入力する制御信号に応じてソース/ドレイン間に形成されるチャネルが電流経路を構成する。なお、これらのトランジスタ14H、14Lや後述する他のトランジスタは、Nチャネル型のMOSFETに限らず、全部または一部をPチャネル型のMOSFETで構成してもよい。また、これらのトランジスタは、MOSFETに限らず、PNP型ないしNPN型のバイポーラトランジスタや、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)で構成してもよい。
【0020】
第2のトランジスタ対15は、高電位入力端子11側と第1の高電位トランジスタ14H側を接続する電流経路を有する第2の高電位トランジスタ15Hと、低電位入力端子12側と第1の低電位トランジスタ14L側を接続する電流経路を有する第2の低電位トランジスタ15Lを備える。すなわち、出力端子13と高電位入力端子11の間には、出力端子13から高電位入力端子11に向かう方向に、第1の高電位トランジスタ14Hと第2の高電位トランジスタ15Hが直列接続され、出力端子13と低電位入力端子12の間には、出力端子13から低電位入力端子12に向かう方向に、第1の低電位トランジスタ14Lと第2の低電位トランジスタ15Lが直列接続される。各トランジスタ15H、15LはMOSFETであり、第2のドライバ17がゲート電極に入力する制御信号に応じてソース/ドレイン間に形成されるチャネルが電流経路を構成する。
【0021】
第1のドライバ16は、コントローラ100の制御の下で第1の高電位トランジスタ14Hのゲート電極に制御信号を入力する第1の高電位ドライバ16Hと、コントローラ100の制御の下で第1の低電位トランジスタ14Lのゲート電極に制御信号を入力する第1の低電位ドライバ16Lを備え、各トランジスタ14H、14Lの電流経路の導通状態を互いに相補的に切り替えることで直流電力を交流電力に変換する第1のスイッチング制御を行う。ここで「相補的に切り替える」とは、各トランジスタ14H、14Lのオンオフ状態が互いに逆となるように制御することを意味する。すなわち、トランジスタ14Hがオンのときはトランジスタ14Lをオフとし、トランジスタ14Hがオフのときはトランジスタ14Lをオンとし、トランジスタ14Hがオンからオフに切り替わるときはトランジスタ14Lをオフからオンに切り替え、トランジスタ14Hがオフからオンに切り替わるときはトランジスタ14Lをオンからオフに切り替える。
【0022】
第2のドライバ17は、コントローラ100の制御の下で第2の高電位トランジスタ15Hのゲート電極に制御信号を入力する第2の高電位ドライバ17Hと、コントローラ100の制御の下で第2の低電位トランジスタ15Lのゲート電極に制御信号を入力する第2の低電位ドライバ17Lを備え、各トランジスタ15H、15Lの電流経路の導通状態を互いに相補的に切り替えることで直流電力を交流電力に変換する第2のスイッチング制御を行う。「相補的に切り替える」の意味は、上記の第1のドライバ16と同様、各トランジスタ15H、15Lのオンオフ状態が互いに逆となるように制御することを意味する。詳細は後述するが、第2のドライバ17による第2のスイッチング制御は、第1のドライバ16による第1のスイッチング制御のタイミングから所定時間ずれたタイミングで行われる。
【0023】
接続経路18は、第1の高電位トランジスタ14Hと第2の高電位トランジスタ15Hの接続部分18Hと、第1の低電位トランジスタ14Lと第2の低電位トランジスタ15Lの接続部分18Lを、相互に接続する。接続経路18には、電圧変動抑制素子の一態様としての容量値Cのキャパシタ181が設けられる。
【0024】
以上の構成のインバータ10の作用を説明する前に、
図3を参照してドライバ16H、16L、17H、17Lの詳細な構成を説明する。各ドライバ16H、16L、17H、17Lの構成は共通であるため、
図3ではこれらをドライバ30と総称して説明する。
図3(A)および
図3(B)にドライバ30の二つの構成例を示す。
【0025】
図3(A)の第1の構成例に係るドライバ30は、駆動対象のトランジスタのゲート/ソース間電圧に対応する電圧v
GSが入力される一対の電圧入力端子31と、ゲート側の電圧入力端子31に接続されるオペアンプ32と、オペアンプ32とゲート電極の間に設けられる抵抗値R
Gのゲート抵抗33と、ゲート抵抗33とゲート電極の間から分岐してトランジスタのドレインと繋がる分岐線に設けられる容量値C
Mのミラーキャパシタ34を備える。なお、入力電圧v
GSは、
図2のコントローラ100が生成する。
【0026】
ゲート抵抗33は、トランジスタのオンオフが切り替わる際のチャネルの電流を調整する電流調整素子として機能する。具体的には、抵抗値RGによって、トランジスタのオンオフが切り替わる際の電流の時間変化率di/dtを調整できる。抵抗値RGを大きくすればdi/dtは小さくなり、抵抗値RGを小さくすればdi/dtは大きくなる。後述するように、本実施形態ではdi/dtを大きくするのが好ましく、抵抗値RGを小さくするのが好ましい。本発明者の行ったシミュレーションによれば、現実的な抵抗値RGの範囲で略無限大のdi/dtを実現できる。この場合、トランジスタのオンオフが切り替わる際、電流は瞬時に最小値と最大値の間で切り替わる。このような急峻な電流変化によって電流スイッチング時間を実質的にゼロにできるため、電流の切り替わりに伴うスイッチング損失を低減できる。なお、ドライバ30の動作中も抵抗値RGを可変として、トランジスタのオンオフが切り替わる際のdi/dtを精緻に制御してもよい。
【0027】
ミラーキャパシタ34は、トランジスタのオンオフが切り替わる際のチャネルの電圧を調整する電圧調整素子として機能する。具体的には、容量値CMによって、トランジスタのオンオフが切り替わる際の電圧の時間変化率dv/dtを調整できる。電圧の切り替わりに伴うスイッチング損失を低減するためには、上記のdi/dtと同様にdv/dtも大きくするのが好ましいが、一方でdv/dtを大きくし過ぎるとモータ20のコイル20U、20V、20Wの絶縁破壊のリスクが高まる。そこで、容量値CMを適当な値に設定して、絶縁破壊のリスクが許容できる範囲で可能な限りdv/dtを大きくする。結果的に、このような制約のあるdv/dtは、制約のないdi/dtに比べて小さくなるように調整される。なお、ドライバ30の動作中も容量値CMを可変として、トランジスタのオンオフが切り替わる際のdv/dtを精緻に制御してもよい。
【0028】
オペアンプ32は、その構成やパラメータを適宜調整することで、電流調整素子としても電圧調整素子としても機能しうる。di/dt, dv/dtそれぞれの調整目標は上述の通りであり、di/dtは可能な限り大きく(実質的に無限大)、dv/dtは絶縁破壊のリスクが許容できる範囲で可能な限り大きくする。
【0029】
図3(B)の第2の構成例に係るドライバ30は、駆動対象のトランジスタのゲート/ソース間電圧に対応する電圧v
GSが入力される一対の電圧入力端子31と、ゲート側の電圧入力端子31に接続されるオペアンプ32と、オペアンプ32とゲート電極の間に設けられる抵抗値R
Gのゲート抵抗33と、ゲート側の電圧入力端子31とオペアンプ32の間から分岐してトランジスタのドレインと繋がる分岐線に設けられる容量値C
Vのキャパシタ35を備える。
図3(A)の第1の構成例とはキャパシタ35のみが異なる。
【0030】
キャパシタ35は、ミラーキャパシタ34と同様に、トランジスタのオンオフが切り替わる際のチャネルの電圧を調整する電圧調整素子として機能する。具体的には、容量値CVによって、トランジスタのオンオフが切り替わる際の電圧の時間変化率dv/dtを調整できる。ミラーキャパシタ34の容量値CMと同様に、ドライバ30の動作中も容量値CVを可変として、トランジスタのオンオフが切り替わる際のdv/dtを精緻に制御してもよい。さらにキャパシタ35によれば、ドライバ30の出力波形だけでなく、インバータ10全体の出力波形も調整できるため、不要な電磁ノイズの放射を抑制できる。
【0031】
以上の構成のインバータ10の作用を
図4に示す。
図4(A)は、
図2に示したインバータ10の構成である。
図4(B)は、出力端子13を流れる電流i
Uが正の場合を示す。
図4(C)は、出力端子13を流れる電流i
Uが負の場合を示す。電流i
Uは、
図4(A)の出力端子13から流出する場合を正とし、出力端子13に流入する場合を負とする。
図4(B1)および(C1)は、出力端子13に現れる電圧と電流を示す。
図4(B2)および(C2)は、四つのトランジスタ15H、14H、14L、15Lのソース/ドレイン間のチャネルの電圧と電流を示す。
図4(B3)および(C3)は、インバータ10のスイッチング損失を示す。
【0032】
まず、電流i
Uが正の場合の
図4(B)について説明する。
図4(B1)は、インバータ10が一回のスイッチング動作を行う際に出力端子13に現れる電圧と電流を示す。詳細は後述するが、電圧は高さV
DC(Vdd-Vss)の台形状のパルスであり、電流i
Uの大きさは一定である。時刻0sから立上り時間t
Rの間は、高電位側のトランジスタ15H、14Hが順次オンし、それと相補的に低電位側のトランジスタ15L、14Lが順次オフすることで、出力端子13の電圧が0VからV
DCまで線形に増加する。立上り時間t
Rの後、スイッチオフ時刻dT
SWまでの間は電圧の大きさはV
DCで一定である。すなわち、スイッチオフ時刻dT
SWは、台形状の電圧パルスの幅を決める。一般的なパルス幅変調(PWM)技術により、各電圧パルスの幅あるいはデューティ比を変化させることで、所望の周波数の交流電圧が生成される。スイッチオフ時刻dT
SWから立下り時間t
Fの間は、高電位側のトランジスタ15H、14Hが順次オフし、それと相補的に低電位側のトランジスタ15L、14Lが順次オンすることで、出力端子13の電圧がV
DCから0Vまで線形に減少する。
【0033】
図4(B2)の四つのトランジスタ15H、14H、14L、15Lの動作を説明するに当たって、
図4(B3)に示される六つの区間i-viに分ける。
図5には、各区間i-viにおける各トランジスタの導通状態と電流経路を示す。
図5の出力端子を流れる電流i
Uは全ての区間で正であり、
図4(B1)に示されるように大きさは一定である。
【0034】
時刻0sより前の区間iでは、トランジスタ15H、14Hがオフ状態、トランジスタ14L、15Lがオン状態である。低電位入力端子12が出力端子13と導通しているため、出力端子13の電圧は0Vである。高電位入力端子11と出力端子13の間の電圧VDCは、トランジスタ15H、14Hで均等に分圧されるため、各トランジスタの電圧はVDC/2である。オン状態のトランジスタ14L、15Lの電圧は0Vであり、電流iUが流れる。
【0035】
時刻0sからt
R/2までの区間iiでは、トランジスタ15H、15Lのオンオフ状態が相補的に切り替わる。すなわち、トランジスタ15Hはオフ状態からオン状態に切り替わり、トランジスタ15Lはオン状態からオフ状態に切り替わる。これが本発明の第2のスイッチング制御に相当する。このとき、
図5に示されるように、トランジスタ15Hがオン状態に切り替わるにつれて、高電位入力端子11からの電流がトランジスタ15Hを流れ、接続経路18のキャパシタ181とオン状態のトランジスタ14Lを経由して出力端子13を流れる。
図4(B2)のトランジスタ15H、15Lの電圧と電流を見ると、電圧の時間変化率dv/dtは(V
DC/2)/(t
R/2)=V
DC/t
Rであり、電流の時間変化率di/dtは無限大である。すなわち、電圧は0s~t
R/2の区間iiに亘って線形に変化する一方、電流は区間iiの開始時刻0sで瞬時に切り替わる。dv/dt, di/dtをこのように調整する構成については
図3で説明した。
【0036】
時刻t
R/2からt
Rまでの区間iiiでは、トランジスタ14H、14Lのオンオフ状態が相補的に切り替わる。すなわち、トランジスタ14Hはオフ状態からオン状態に切り替わり、トランジスタ14Lはオン状態からオフ状態に切り替わる。これが本発明の第1のスイッチング制御に相当する。このとき、
図5に示されるように、トランジスタ14Hがオン状態に切り替わるにつれて、高電位入力端子11からの電流がオン状態のトランジスタ15Hを経由してトランジスタ14Hを流れる。
図4(B2)のトランジスタ14H、14Lの電圧と電流を見ると、電圧の時間変化率dv/dtは(V
DC/2)/(t
R/2)=V
DC/t
Rであり、電流の時間変化率di/dtは無限大である。すなわち、電圧はt
R/2~t
Rの区間iiiに亘って線形に変化する一方、電流は区間iiiの開始時刻t
R/2で瞬時に切り替わる。
【0037】
以上のように、区間iiではトランジスタ15H、15Lのオンオフ状態が相補的に切り替わる第2のスイッチング制御が行われ、それに続く区間iiiではトランジスタ14H、14Lのオンオフ状態が相補的に切り替わる第1のスイッチング制御が行われる。すなわち、第2のスイッチング制御は第1のスイッチング制御より前に行われる。換言すれば、各トランジスタ対のスイッチング制御のタイミングは、出力端子13から遠い側のトランジスタ対(本例では第2のトランジスタ対15)ほど早い。また、第2のスイッチング制御と第1のスイッチング制御のタイミングは、第2のスイッチング制御(区間ii)において、トランジスタ15H、15Lのそれぞれのチャネルの電圧スイッチングの過渡時間t
R/2だけずれている。これにより、区間iiでトランジスタ15H、15Lの電圧が切り替わった後、間を置かずに区間iiiでトランジスタ14H、14Lの電圧が切り替わる。さらに、上記の通り、区間iiとiiiの電圧の時間変化率dv/dtはV
DC/t
Rで互いに等しい。この結果、
図4(B1)のように、時刻t
R/2で滑らかに接続された電圧波形が得られる。仮に第2のスイッチング制御と第1のスイッチング制御のタイミングがt
R/2よりも大きくずれている場合、第2のスイッチング制御の終了時刻t
R/2から第1のスイッチング制御の開始時刻まで出力電圧が中間電圧V
DC/2付近に留まるため、
図4(B1)のような一つの台形状の電圧パルスとはならず、0V、V
DC/2、V
DCの3レベルの階段状の電圧パルスとなる。階段状の電圧パルスでもインバータ10の動作に支障はないが、電圧パルス波形を整えたい事情がある場合は台形状の電圧パルスとするのが好ましい。台形状の電圧パルスは、0V、V
DCの2レベルを取る。本来であれば0V、V
DC/2、V
DCの3レベルとなるところを、擬似的に0V、V
DCの2レベルとしているため、これを「3レベル/疑似2レベル制御」ともいう。
【0038】
時刻tRからdTSWまでの区間ivでは、区間iii終了時の状態がそのまま維持され、パルス幅変調に基づく所望幅の電圧パルスが形成される。区間ivでは、トランジスタ15H、14Hがオン状態、トランジスタ14L、15Lがオフ状態である。高電位入力端子11が出力端子13と導通しているため、出力端子13の電圧はVDCである。低電位入力端子12と出力端子13の間の電圧VDCは、トランジスタ14L、15Lで均等に分圧されるため、各トランジスタの電圧はVDC/2である。オン状態のトランジスタ15H、14Hの電圧は0Vであり、電流iUが流れる。
【0039】
時刻dT
SWからdT
SW+t
F/2までの区間vでは、トランジスタ15H、15Lのオンオフ状態が相補的に切り替わる。すなわち、トランジスタ15Hはオン状態からオフ状態に切り替わり、トランジスタ15Lはオフ状態からオン状態に切り替わる。区間iiと同様に、これも本発明の第2のスイッチング制御に相当する。このとき、
図5に示されるように、区間ivと同様にトランジスタ15H、14Hを電流i
Uが流れる。
図4(B2)のトランジスタ15H、15Lの電圧と電流を見ると、電圧の時間変化率dv/dtは(V
DC/2)/(t
F/2)=V
DC/t
Fであり、電流の時間変化率di/dtは無限大である。すなわち、電圧はdT
SW~dT
SW+t
F/2の区間vに亘って線形に変化する一方、電流は区間vの終了時刻dT
SW+t
F/2で瞬時に切り替わる。
【0040】
時刻dT
SW+t
F/2からdT
SW+t
Fまでの区間viでは、トランジスタ14H、14Lのオンオフ状態が相補的に切り替わる。すなわち、トランジスタ14Hはオン状態からオフ状態に切り替わり、トランジスタ14Lはオフ状態からオン状態に切り替わる。区間iiiと同様に、これも本発明の第1のスイッチング制御に相当する。このとき、
図5に示されるように、低電位入力端子12からの電流がオン状態のトランジスタ15Lを流れ、接続経路18のキャパシタ181とトランジスタ14Hを経由して出力端子13を流れる。
図4(B2)のトランジスタ14H、14Lの電圧と電流を見ると、電圧の時間変化率dv/dtは(V
DC/2)/(t
F/2)=V
DC/t
Fであり、電流の時間変化率di/dtは無限大である。すなわち、電圧はdT
SW+t
F/2~dT
SW+t
Fの区間viに亘って線形に変化する一方、電流は区間viの終了時刻dT
SW+t
Fで瞬時に切り替わる。
【0041】
以上のように、区間vではトランジスタ15H、15Lのオンオフ状態が相補的に切り替わる第2のスイッチング制御が行われ、それに続く区間viではトランジスタ14H、14Lのオンオフ状態が相補的に切り替わる第1のスイッチング制御が行われる。すなわち、上述の区間ii, iiiと同様に、第2のスイッチング制御は第1のスイッチング制御より前に行われる。換言すれば、各トランジスタ対のスイッチング制御のタイミングは、出力端子13から遠い側のトランジスタ対(本例では第2のトランジスタ対15)ほど早い。また、第2のスイッチング制御と第1のスイッチング制御のタイミングは、第2のスイッチング制御(区間v)において、トランジスタ15H、15Lのそれぞれのチャネルの電圧スイッチングの過渡時間t
F/2だけずれている。これにより、区間vでトランジスタ15H、15Lの電圧が切り替わった後、間を置かずに区間viでトランジスタ14H、14Lの電圧が切り替わる。さらに、上記の通り、区間vとviの電圧の時間変化率dv/dtはV
DC/t
Fで互いに等しい。この結果、
図4(B1)のように、時刻dT
SW+t
F/2で滑らかに接続された電圧波形が得られる。つまり、電圧パルスの立上り側だけでなく立下り側でも、前述の「3レベル/疑似2レベル制御」が実現される。
【0042】
図4(B3)は、インバータ10のスイッチング損失を示す。スイッチング損失は、インバータ10の一回のスイッチング動作を通じて、各トランジスタ15H、14H、14L、15Lで消費される電力の総和である。電力が消費されるのは、
図4(B2)に示される各トランジスタ15H、14H、14L、15Lの電圧と電流が共にゼロでない場合である。具体的には、区間iiでトランジスタ15Hが、区間iiiでトランジスタ14Hが、区間vでトランジスタ15Hが、区間viでトランジスタ14Hが電力を消費する。
図4(B3)に示されるように、四つの区間ii, iii, v, viで消費される電力は、それぞれ高さがV
DC×i
U/2の直角三角形の面積で表される。各直角三角形の底辺の長さは、区間ii, iiiでt
R/2であり、区間v, viでt
F/2である。したがって、これらの四つの直角三角形の面積の総和であるスイッチング損失はt
R×V
DC×i
U/4+t
F×V
DC×i
U/4で表される。ここで、各トランジスタ15H、14Hで消費される電力が直角三角形の面積で表されるのは、各区間ii, iii, v, viにおける電流の時間変化率di/dtが無限大であり、電流が時間軸に垂直な方向に瞬時に変化するためである。比較例として、di/dtが無限大でない場合を点線で示す。この場合、上記の各直角三角形の直角部に隣接して追加的なスイッチング損失が生じる。したがって、di/dtを無限大とすることでスイッチング損失を低減できる。
【0043】
以上、
図4(B)および
図5を参照して電流i
Uが正の場合のインバータ10の作用を説明した。
図4(C)および
図6に電流i
Uが負の場合のインバータ10の作用を示すが、基本的な内容は共通するため、説明を適宜省略する。
【0044】
図4(C1)は、インバータ10が一回のスイッチング動作を行う際に出力端子13に現れる電圧と電流を示す。電圧は高さV
DCの台形状のパルスであり、電流i
Uの大きさは一定である(i
Uは負であるため、マイナスを付けて正領域に表示している)。時刻0sから立上り時間t
Rの間は、高電位側のトランジスタ15H、14Hが順次オンし、それと相補的に低電位側のトランジスタ15L、14Lが順次オフすることで、出力端子13の電圧が0VからV
DCまで線形に増加する。立上り時間t
Rの後、スイッチオフ時刻dT
SWまでの間は電圧の大きさはV
DCで一定である。スイッチオフ時刻dT
SWから立下り時間t
Fの間は、高電位側のトランジスタ15H、14Hが順次オフし、それと相補的に低電位側のトランジスタ15L、14Lが順次オンすることで、出力端子13の電圧がV
DCから0Vまで線形に減少する。
【0045】
図4(C2)の四つのトランジスタ15H、14H、14L、15Lの動作を説明するに当たって、
図4(C3)に示される六つの区間i-viに分ける。
図6には、各区間i-viにおける各トランジスタの導通状態と電流経路を示す。
図6の出力端子を流れる電流i
Uは全ての区間で負であり、
図4(C1)に示されるように大きさは一定である。
【0046】
時刻0sより前の区間iでは、トランジスタ15H、14Hがオフ状態、トランジスタ14L、15Lがオン状態である。低電位入力端子12が出力端子13と導通しているため、出力端子13の電圧は0Vである。高電位入力端子11と出力端子13の間の電圧VDCは、トランジスタ15H、14Hで均等に分圧されるため、各トランジスタの電圧はVDC/2である。オン状態のトランジスタ14L、15Lの電圧は0Vであり、電流iUが流れる。
【0047】
時刻0sからt
R/2までの区間iiでは、トランジスタ15H、15Lのオンオフ状態が相補的に切り替わる。すなわち、トランジスタ15Hはオフ状態からオン状態に切り替わり、トランジスタ15Lはオン状態からオフ状態に切り替わる。これが本発明の第2のスイッチング制御に相当する。このとき、
図6に示されるように、区間iと同様にトランジスタ14L、15Lを電流i
Uが流れる。
図4(C2)のトランジスタ15H、15Lの電圧と電流を見ると、電圧の時間変化率dv/dtは(V
DC/2)/(t
R/2)=V
DC/t
Rであり、電流の時間変化率di/dtは無限大である。すなわち、電圧は0s~t
R/2の区間iiに亘って線形に変化する一方、電流は区間iiの終了時刻t
R/2で瞬時に切り替わる。
【0048】
時刻t
R/2からt
Rまでの区間iiiでは、トランジスタ14H、14Lのオンオフ状態が相補的に切り替わる。すなわち、トランジスタ14Hはオフ状態からオン状態に切り替わり、トランジスタ14Lはオン状態からオフ状態に切り替わる。これが本発明の第1のスイッチング制御に相当する。このとき、
図6に示されるように、出力端子13からの電流がトランジスタ14Lを流れ、接続経路18のキャパシタ181とオン状態のトランジスタ15Hを経由して高電位入力端子11を流れる。
図4(C2)のトランジスタ14H、14Lの電圧と電流を見ると、電圧の時間変化率dv/dtは(V
DC/2)/(t
R/2)=V
DC/t
Rであり、電流の時間変化率di/dtは無限大である。すなわち、電圧はt
R/2~t
Rの区間iiiに亘って線形に変化する一方、電流は区間iiiの終了時刻t
Rで瞬時に切り替わる。
【0049】
以上のように、区間iiではトランジスタ15H、15Lのオンオフ状態が相補的に切り替わる第2のスイッチング制御が行われ、それに続く区間iiiではトランジスタ14H、14Lのオンオフ状態が相補的に切り替わる第1のスイッチング制御が行われる。すなわち、第2のスイッチング制御は第1のスイッチング制御より前に行われる。また、第2のスイッチング制御と第1のスイッチング制御のタイミングは、第2のスイッチング制御(区間ii)において、トランジスタ15H、15Lのそれぞれのチャネルの電圧スイッチングの過渡時間t
R/2だけずれている。これにより、区間iiでトランジスタ15H、15Lの電圧が切り替わった後、間を置かずに区間iiiでトランジスタ14H、14Lの電圧が切り替わる。さらに、上記の通り、区間iiとiiiの電圧の時間変化率dv/dtはV
DC/t
Rで互いに等しい。この結果、
図4(C1)のように、時刻t
R/2で滑らかに接続された電圧波形が得られる(3レベル/疑似2レベル制御)。
【0050】
時刻tRからdTSWまでの区間ivでは、区間iii終了時の状態がそのまま維持され、パルス幅変調に基づく所望幅の電圧パルスが形成される。区間ivでは、トランジスタ15H、14Hがオン状態、トランジスタ14L、15Lがオフ状態である。高電位入力端子11が出力端子13と導通しているため、出力端子13の電圧はVDCである。低電位入力端子12と出力端子13の間の電圧VDCは、トランジスタ14L、15Lで均等に分圧されるため、各トランジスタの電圧はVDC/2である。オン状態のトランジスタ15H、14Hの電圧は0Vであり、電流iUが流れる。
【0051】
時刻dT
SWからdT
SW+t
F/2までの区間vでは、トランジスタ15H、15Lのオンオフ状態が相補的に切り替わる。すなわち、トランジスタ15Hはオン状態からオフ状態に切り替わり、トランジスタ15Lはオフ状態からオン状態に切り替わる。区間iiと同様に、これも本発明の第2のスイッチング制御に相当する。このとき、
図6に示されるように、トランジスタ15Lがオン状態に切り替わるにつれて、出力端子13からの電流がオン状態のトランジスタ14Hを流れ、接続経路18のキャパシタ181とトランジスタ15Lを経由して高電位入力端子11を流れる。
図4(C2)のトランジスタ15H、15Lの電圧と電流を見ると、電圧の時間変化率dv/dtは(V
DC/2)/(t
F/2)=V
DC/t
Fであり、電流の時間変化率di/dtは無限大である。すなわち、電圧はdT
SW~dT
SW+t
F/2の区間vに亘って線形に変化する一方、電流は区間vの開始時刻dT
SWで瞬時に切り替わる。
【0052】
時刻dT
SW+t
F/2からdT
SW+t
Fまでの区間viでは、トランジスタ14H、14Lのオンオフ状態が相補的に切り替わる。すなわち、トランジスタ14Hはオン状態からオフ状態に切り替わり、トランジスタ14Lはオフ状態からオン状態に切り替わる。区間iiiと同様に、これも本発明の第1のスイッチング制御に相当する。このとき、
図6に示されるように、トランジスタ14Lがオン状態に切り替わるにつれて、出力端子13からの電流がトランジスタ14Lとオン状態のトランジスタ15Lを経由して低電位入力端子12を流れる。
図4(C2)のトランジスタ14H、14Lの電圧と電流を見ると、電圧の時間変化率dv/dtは(V
DC/2)/(t
F/2)=V
DC/t
Fであり、電流の時間変化率di/dtは無限大である。すなわち、電圧はdT
SW+t
F/2~dT
SW+t
Fの区間viに亘って線形に変化する一方、電流は区間viの開始時刻dT
SW+t
F/2で瞬時に切り替わる。
【0053】
以上のように、区間vではトランジスタ15H、15Lのオンオフ状態が相補的に切り替わる第2のスイッチング制御が行われ、それに続く区間viではトランジスタ14H、14Lのオンオフ状態が相補的に切り替わる第1のスイッチング制御が行われる。すなわち、上述の区間ii, iiiと同様に、第2のスイッチング制御は第1のスイッチング制御より前に行われる。また、第2のスイッチング制御と第1のスイッチング制御のタイミングは、第2のスイッチング制御(区間v)において、トランジスタ15H、15Lのそれぞれのチャネルの電圧スイッチングの過渡時間t
F/2だけずれている。これにより、区間vでトランジスタ15H、15Lの電圧が切り替わった後、間を置かずに区間viでトランジスタ14H、14Lの電圧が切り替わる。さらに、上記の通り、区間vとviの電圧の時間変化率dv/dtはV
DC/t
Fで互いに等しい。この結果、
図4(C1)のように、時刻dT
SW+t
F/2で滑らかに接続された電圧波形が得られる。つまり、電圧パルスの立上り側だけでなく立下り側でも、前述の「3レベル/疑似2レベル制御」が実現される。
【0054】
図4(C3)は、インバータ10のスイッチング損失を示す。スイッチング損失は、インバータ10の一回のスイッチング動作を通じて、各トランジスタ15H、14H、14L、15Lで消費される電力の総和である。電力が消費されるのは、
図4(C2)に示される各トランジスタ15H、14H、14L、15Lの電圧と電流が共にゼロでない場合である。具体的には、区間iiでトランジスタ15Lが、区間iiiでトランジスタ14Lが、区間vでトランジスタ15Lが、区間viでトランジスタ14Lが電力を消費する。
図4(C3)に示されるように、四つの区間ii, iii, v, viで消費される電力は、それぞれ高さがV
DC×(-i
U)/2の直角三角形の面積で表される。各直角三角形の底辺の長さは、区間ii, iiiでt
R/2であり、区間v, viでt
F/2である。したがって、これらの四つの直角三角形の面積の総和であるスイッチング損失はt
R×V
DC×(-i
U)/4+t
F×V
DC×(-i
U)/4で表される。ここで、各トランジスタ15L、14Lで消費される電力が直角三角形の面積で表されるのは、各区間ii, iii, v, viにおける電流の時間変化率di/dtが無限大であり、電流が時間軸に垂直な方向に瞬時に変化するためである。
【0055】
以上で説明したインバータ10において、接続経路18に設けられたキャパシタ181は、高電位側のトランジスタの接続部分18Hと低電位側のトランジスタの接続部分18Lの間の電圧を中間電圧V
DC/2付近に維持することで、動作を安定化する。すなわち、キャパシタ181は、高電位側の接続部分18Hと低電位側の接続部分18Lの間の電圧の変動を抑制する電圧変動抑制素子として機能する。
図7(B4)および(C4)に、キャパシタ181の電流と電圧を示す。本図の(B2)(B3)(C2)(C3)は、
図4と同じものを参考に示す。
【0056】
電流i
Uが正の場合の
図7(B4)において、キャパシタ181には区間iiとviで電流が流れる。
図5に示されるように、区間iiでは高電位側の接続部分18Hから低電位側の接続部分18Lに向かう方向に電流が流れてキャパシタ181は電荷を蓄積し、区間viでは低電位側の接続部分18Lから高電位側の接続部分18Hに向かう方向に電流が流れてキャパシタ181は電荷を放出する。キャパシタ181の電極間電圧は、中間電圧V
DC/2を中心として、電荷蓄積状態と電荷放出状態の間で振動的に微小変化する。理想的な状況では、区間ii, viでキャパシタ181を流れる電流の大きさと、流れる時間t
R/2、t
F/2がそれぞれ等しく、インバータ10の一回のスイッチング動作を通じて、キャパシタ181の電荷は増減しない。
【0057】
電流i
Uが負の場合の
図7(C4)において、キャパシタ181には区間iiiとvで電流が流れる。
図6に示されるように、区間iiiでは低電位側の接続部分18Lから高電位側の接続部分18Hに向かう方向に電流が流れてキャパシタ181は電荷を放出し、区間vでは高電位側の接続部分18Hから低電位側の接続部分18Lに向かう方向に電流が流れてキャパシタ181は電荷を蓄積する。キャパシタ181の電極間電圧は、中間電圧V
DC/2を中心として、電荷蓄積状態と電荷放出状態の間で振動的に微小変化する。理想的な状況では、区間iii, vでキャパシタ181を流れる電流の大きさと、流れる時間t
R/2、t
F/2がそれぞれ等しく、インバータ10の一回のスイッチング動作を通じて、キャパシタ181の電荷は増減しない。
【0058】
図8は、インバータ10の一回のスイッチング動作を通じてキャパシタ181の電荷の増減がある例を示す。本図の(B1)~(B4)および(C1)~(C4)は、
図4および
図7と対応する。
【0059】
電流i
Uが正の場合のインバータ10の出力を表す
図7(B1)、および、電流i
Uが負の場合のインバータ10の出力を表す
図7(C1)において、電圧パルス波形は
図4の台形状から歪んでいる。各トランジスタの電圧と電流を示す
図7(B2)および(C2)に示されるように、第2のスイッチング制御に要する過渡時間t
a=t
aR=t
aFと、第1のスイッチング制御に要する過渡時間t
b=t
bR=t
bFが異なるのが原因である。本図はt
aがt
bより大きい場合を示すが、t
aがt
bより小さい場合も電圧パルス波形は台形状から歪む。
【0060】
電流i
Uが正の場合の
図7(B4)では、キャパシタ181が電荷を蓄積する時間t
aRが、キャパシタ181が電荷を放出する時間t
bFより長いため、インバータ10の一回のスイッチング動作を通じてキャパシタ181は電荷を過剰に蓄積する。電流i
Uが負の場合の
図7(C4)では、キャパシタ181が電荷を蓄積する時間t
aFが、キャパシタ181が電荷を放出する時間t
bRより長いため、インバータ10の一回のスイッチング動作を通じてキャパシタ181は電荷を過剰に蓄積する。いずれの場合も、インバータ10の一回のスイッチング動作を通じて、キャパシタ181の電極間電圧が正方向にシフトしてしまい、インバータ10の安定動作に支障が生じうる。なお、図示はしないが、本図とは逆にt
aがt
bより小さい場合は、インバータ10の一回のスイッチング動作を通じて、キャパシタ181は電荷を過剰に放出するため、キャパシタ181の電極間電圧が負方向にシフトしてしまい、インバータ10の安定動作に支障が生じうる。
【0061】
図9は、以上のようなスイッチング時間の不均衡を補正する補正装置40の二つの構成例を示す。これらの補正装置40は、キャパシタ181の中心電圧が目標電圧である中間電圧V
DC/2になるように、第1の電圧スイッチングの過渡時間t
b=t
bR=t
bFおよび第2の電圧スイッチングの過渡時間t
a=t
aR=t
aFを制御する。
図2のコントローラ100は、これらの過渡時間t
aおよびt
bに応じて、
図3の各ドライバ30への入力電圧v
GSを制御する。
【0062】
図9(A)の第1の構成例に係る補正装置40において、目標電圧提供部41は、キャパシタ181の目標電圧V
DC/2を提供する。電圧誤差算出部42は、キャパシタ181の測定電圧v
cの目標電圧V
DC/2からの誤差を算出する。第1の構成例では、キャパシタ181の電圧v
cを常時測定し、その高周波成分をローパスフィルタ421で除去したものを電圧誤差算出部42に供給する。電圧誤差算出部42が算出した電圧誤差は電圧コントローラ431に供給され、キャパシタ181の電荷補正量に変換される。除算器432は、絶対値演算部433から得られる出力電流i
Uの絶対値で電荷補正量を除算し、時間補正量に変換する。規制部434は、この時間補正量の絶対値が過大にならないように所定の上限値に基づくキャップ処理を行い、最終的な時間補正量δtとする。
【0063】
スイッチング時間補正部44は、電圧誤差算出部42が算出した電圧誤差に基づき、第1の電圧スイッチングの過渡時間tbおよび第2の電圧スイッチングの過渡時間taの少なくともいずれかを補正する。本構成例では、第1の過渡時間tbの補正値を算出する第1の補正部441と、第2の過渡時間taの補正値を算出する第2の補正部442が設けられる。第1の補正部441は、インバータ10の立上り時間/立下り時間tRF(=tR=tF)から時間補正量δtを減算した上で1/2を乗算し、第1の過渡時間tbの補正値とする。すなわちtb=(tRF-δt)/2である。第2の補正部442は、インバータ10の立上り時間/立下り時間tRF(=tR=tF)に時間補正量δtを加算した上で1/2を乗算し、第2の過渡時間taの補正値とする。すなわちta=(tRF+δt)/2である。このとき、第1の過渡時間tbと第2の過渡時間taの和は、インバータ10の立上り時間/立下り時間tRFに等しい。したがって、スイッチング時間補正部44は、tRFを第1の過渡時間tbと第2の過渡時間taに配分する際に、キャパシタ181が目標電圧VDC/2となる最適な配分割合を時間補正量δtによって指定するものといえる。
【0064】
図9(B)の第2の構成例に係る補正装置40では、サンプル/ホールド回路422が、トリガー信号に基づいて取得したキャパシタ181の電圧v
cを電圧誤差算出部42に供給する。電圧誤差算出部42が算出した電圧誤差は、キャパシタ181の容量値Cが乗算され、キャパシタ181の電荷補正量に変換される。その他は、
図9(A)の第1の構成例と同じである。
【0065】
以上、本発明を実施形態に基づいて説明した。実施形態は例示であり、それらの各構成要素や各処理プロセスの組合せにいろいろな変形例が可能なこと、またそうした変形例も本発明の範囲にあることは当業者に理解されるところである。
【0066】
実施形態では、入力された直流電力に基づいて交流電力を出力するインバータ10について説明したが、これとは逆に、入力された交流電力に基づいて直流電力を出力するコンバータにも本発明を適用できる。
図2のインバータ10の構成において、出力端子13だったものを交流電力が入力される入力端子とし、高電位入力端子11および低電位入力端子12だったものを、それぞれ、直流電力を出力する高電位出力端子および低電位出力端子とすることで、コンバータの基本的な構成が実現される。
【0067】
実施形態では、
図2および
図4を参照して、インバータ10の「3レベル/疑似2レベル制御」について説明した。すなわち、0V、V
DC/2、V
DCの3レベルの電圧を出力可能な2個のトランジスタ対14、15を用いて、
図4(B1)および(C1)に示される0V、V
DCの2レベルの電圧パルスが擬似的に形成された。本発明によれば、Nを2以上の任意の自然数とし、Mを2以上かつN-1以下の任意の自然数として、Nレベル/疑似Mレベル制御を実現できる。N=2の2レベル制御は1個のトランジスタ対で実現できる。N=4の4レベル制御は3個のトランジスタ対で実現できる。このように、Nレベル制御はN-1個のトランジスタ対で実現できる。この場合、3レベル制御の例を示す
図4と同様に、出力端子13から遠いトランジスタ対から順にスイッチング制御を行うことでNレベルの電圧を出力できる。このようなNレベルの電圧に基づいて擬似的にMレベルの電圧パルスを形成するためには、
図4に関して説明したように、隣接するトランジスタ対のスイッチング制御を連続的に行い、電圧パルスを滑らかに接続すればよい。
【0068】
より具体的な構成は以下の通りである。n(=N-1)を2以上の整数として、出力端子13から高電位入力端子11に向かって直列に接続された第1~nの高電位トランジスタ、および、出力端子13から低電位入力端子12に向かって直列に接続された第1~nの低電位トランジスタによって第1~nのトランジスタ対を構成する。第1~nのトランジスタ対に対してスイッチング制御を行う第1~nのドライバを設ける。隣接するトランジスタ対の高電位側の接続部分と低電位側の接続部分を相互に接続する第1~n-1の接続経路を設ける。第1~n-1の接続経路において、高電位側の接続部分と低電位側の接続部分の間の電圧の変動を抑制する第1~n-1の電圧変動抑制素子を設ける。隣接するトランジスタ対のスイッチング制御を所定時間ずれたタイミングで行う。具体的には、各トランジスタ対のスイッチング制御のタイミングは、出力端子13から遠い側のトランジスタ対ほど早くする。特に、隣接するトランジスタ対のスイッチング制御のタイミングを、各トランジスタ対を構成する高電位トランジスタおよび低電位トランジスタのそれぞれの電流経路の電圧スイッチングの過渡時間だけずらすのが好ましい。
【0069】
実施形態では、電圧変動抑制素子としてのキャパシタ181を接続経路18に設けることで、その電極間電圧をV
DC/2付近に維持し、インバータ10の動作を安定化したが、キャパシタ181の代わりの電圧変動抑制素子としてダイオードを用いても同様の効果を得られる。
図10にその構成例を示す。このインバータ10の接続経路18には、低電位側のトランジスタの接続部分18Lから高電位側のトランジスタの接続部分18Hに向かう方向に電流を流す二つのダイオード182L、182Hが直列して設けられる。この二つのダイオード182L、182Hの接続部分19は、高電位Vddと低電位Vssの中間電位(Vdd-Vss)/2=V
DC/2に接続される。中間電位が定電位に接続されているため、ダイオード182L、182Hは、高電位側の接続部分18Hと低電位側の接続部分18Lの間の電圧の変動を抑制する電圧変動抑制素子として機能する。
【0070】
実施形態では、各トランジスタ対が一つの高電位トランジスタと一つの低電位トランジスタで構成される例を説明したが、各トランジスタ対を構成する高電位トランジスタと低電位トランジスタはそれぞれ複数でもよい。複数の高電位トランジスタと複数の低電位トランジスタで対を構成する技術の一例として、モジュラーマルチレベルコンバータ(MMC: Modular Multilevel Converter)が知られている。これは、同一構成のセルと呼ばれる回路素子群を高電位側と低電位側で対になるように設けるものである。各セルは直列接続および/または並列接続された複数のトランジスタを含む。これらのトランジスタのスイッチング制御においてdi/dtがdv/dtよりも大きくなるように調整することで、実施形態で説明したものと同等のスイッチング損失の低減等の効果が得られる。
【0071】
なお、実施形態で説明した各装置の機能構成はハードウェア資源またはソフトウェア資源により、あるいはハードウェア資源とソフトウェア資源の協働により実現できる。ハードウェア資源としてプロセッサ、ROM、RAM、その他のLSIを利用できる。ソフトウェア資源としてオペレーティングシステム、アプリケーション等のプログラムを利用できる。
【0072】
本明細書で開示した実施形態のうち、複数の機能が分散して設けられているものは、当該複数の機能の一部又は全部を集約して設けても良く、逆に複数の機能が集約して設けられているものを、当該複数の機能の一部又は全部が分散するように設けることができる。機能が集約されているか分散されているかにかかわらず、発明の目的を達成できるように構成されていればよい。
【産業上の利用可能性】
【0073】
本発明はインバータやコンバータの制御技術に関する。
【符号の説明】
【0074】
1 モータ装置、10 インバータ、11 高電位入力端子、12 低電位入力端子、13 出力端子、14 第1のトランジスタ対、15 第2のトランジスタ対、16 第1のドライバ、17 第2のドライバ、18 接続経路、20 モータ、30 ドライバ、32 オペアンプ、33 ゲート抵抗、34 ミラーキャパシタ、35 キャパシタ、40 補正装置、41 目標電圧提供部、42 電圧誤差算出部、44 スイッチング時間補正部、181 キャパシタ、182 ダイオード。