(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-06-11
(45)【発行日】2025-06-19
(54)【発明の名称】ワークの加工変質層の測定方法、ワークの加工方法、加工変質層測定装置及び工作機械
(51)【国際特許分類】
B23Q 17/20 20060101AFI20250612BHJP
G01N 3/42 20060101ALI20250612BHJP
【FI】
B23Q17/20 Z
G01N3/42 E
(21)【出願番号】P 2023131351
(22)【出願日】2023-08-10
【審査請求日】2023-08-10
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000154990
【氏名又は名称】株式会社牧野フライス製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100160705
【氏名又は名称】伊藤 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】手塚 亮
(72)【発明者】
【氏名】吉村 太志
【審査官】戸塚 優
(56)【参考文献】
【文献】特開2021-085835(JP,A)
【文献】特開2011-145190(JP,A)
【文献】特開平10-206395(JP,A)
【文献】特開2011-106932(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23Q1/00-41/00
G01N1/00-37/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
テーブルに取り付けたワークを主軸に装着した工具で加工する工作機械の機上において、前記ワークの表面の加工変質層を測定する方法であって、
前記工具に換えて、前記ワークに押込むための圧子を前記主軸に装着すること、
前記工作機械の送り装置を用いて前記ワークに前記圧子を押込むこと、
前記圧子を押込むための押込み荷重及び前記圧子の前記ワークへの押込み深さを刻々と測定すること、
前記押込み荷重を
前記押込み深さの二次関数で近似したときの係数となる押込み荷重係数を刻々と算出すること、
前記押込み深さに対する前記押込み荷重係数の変化率が、負から十分0に近づいた値になったときに前記圧子の前記ワークへの押込みを停止すること、並びに、
押込みを停止したときの前記圧子の前記押込み深さに深さ換算定数を乗じて加工変質層深さを算出すること、を含むことを特徴としたワークの加工変質層の測定方法。
【請求項2】
前記圧子は、前記ワークの表面の法線方向に沿って押込まれる、請求項1に記載のワークの加工変質層の測定方法。
【請求項3】
前記圧子を押込んで測定する前記押込み荷重は、刻々の前記押込み荷重の変化量の移動平均値が所定の閾値を超えた時点を前記押込み荷重の負荷開始点とする、請求項1に記載のワークの加工変質層の測定方法。
【請求項4】
工作機械のテーブルに取り付けたワークを主軸に装着した工具で荒加工後に、前記工作機械の機上において前記ワークの表面の加工変質層の測定を行い、前記加工変質層の測定後に仕上げ加工を行うワークの加工方法であって、
前記荒加工後に、前記工具に換えて前記ワークに押込むための圧子を前記主軸に装着すること、
前記工作機械の送り装置を用いて前記ワークに前記圧子を押込むこと、
前記圧子を押込むための押込み荷重及び前記圧子の前記ワークへの押込み深さを刻々と測定すること、
前記押込み荷重を
前記押込み深さの二次関数で近似したときの係数となる押込み荷重係数を刻々と算出すること、
前記押込み深さに対する前記押込み荷重係数の変化率が、負から十分0に近づいた値になったときに前記圧子の前記ワークへの押込みを停止すること、
押込みを停止したときの前記圧子の前記押込み深さに深さ換算係数を乗じて加工変質層深さを算出すること、並びに、
算出した前記加工変質層深さが、前記ワークの仕上げ代よりも小さい場合に仕上げ加工を行うことを特徴したワークの加工方法。
【請求項5】
テーブルに取り付けたワークを主軸に装着した工具で加工する工作機械の機上において、前記ワークの表面の加工変質層の測定を行う工作機械であって、
前記工具に換えて前記主軸に装着可能であり、前記工作機械の送り装置を用いて前記ワークに押込むことによって圧痕を形成する圧子と、
前記圧子の前記ワークに対する刻々の押込み荷重を測定する押込み荷重検出器と、
前記圧子の前記ワークへの刻々の押込み深さを測定する押込み深さ検出器と、
前記押込み荷重を
前記押込み深さの二次関数で近似したときの係数となる押込み荷重係数を刻々と算出し、前記押込み深さに対する前記押込み荷重係数の変化率が、負から十分0に近づいた値になったときに前記圧子の前記ワークへの押込みを停止する圧子押込み停止制御手段と、
前記圧子の押込みを停止したときの前記押込み深さに深さ換算定数を乗じて加工変質層深さを算出する加工変質層深さ演算手段と、
を具備することを特徴とした工作機械。
【請求項6】
テーブルに取り付けたワークを主軸に装着した工具で加工する工作機械に付属し、前記工作機械の機上で前記ワークの表面の加工変質層の測定を行う加工変質層測定装置であって、
前記工具に換えて前記主軸に装着可能であり、前記工作機械の送り装置を用いて前記ワークに押込むことによって圧痕を形成する圧子と、
前記圧子を着脱可能に取り付け、前記圧子の前記ワークに対する押込み荷重を検出するセンサを有する圧子ホルダと、
前記工作機械の制御装置に接続可能な演算装置であって、前記押込み荷重を
押込み深さの二次関数で近似したときの係数となる押込み荷重係数を刻々と算出し、前記押込み深さに対する前記押込み荷重係数の変化率が、負から十分0に近づいた値になったときに前記圧子の前記ワークへの押込みを停止し、前記圧子の押込みを停止したときの前記押込み深さに深さ換算定数を乗じて加工変質層深さを算出する演算装置と、
を具備することを特徴とした加工変質層測定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ワークの加工変質層の測定方法、ワークの加工方法、加工変質層測定装置及び工作機械に関する。
【背景技術】
【0002】
被加工物(ワーク)の素材は、圧延、引抜き、押出し、鍛造、表面処理等のいくつかの工程を経て作られ、表面には加工変質層が生じる。また、そのワーク素材は、所望の形状、寸法にするために機械加工される。この初期段階では荒加工が施されるため、ワークの表面には加工変質層が生じる。このような加工変質層では、残留歪みによって残留応力が発生しやすくなるため、応力腐食割れ、疲労破壊、クリープ破壊などの要因となりうる。このため、製品段階では、仕上げ加工によって、加工変質層を取り除くように管理される。近年、例えば、航空機部品の軽量高剛性化やジェットエンジンの性能と燃費の両立のためにニッケル基超合金など難削材が多く用いられており、このような材料の加工変質層の管理が益々重要になっている。
【0003】
加工変質層を評価する方法としては、例えば、光学顕微鏡や電子顕微鏡による観察、X線回折法(XRD)、電子線後方散乱解析法(EBSD)、マイクロビッカース試験等が従来から知られている。しかしながら、これらの評価方法は、ワークを切断して断面を観察することや、専用の測定装置や取り扱うための管理資格、測定のノウハウが必要になるため、加工現場において常時実施することは困難である。
【0004】
そこで、例えば、特許文献1には、押込み試験法を活用した三次元硬さ分布測定方法及びシステムが開示されている。押込み試験法とは、試料表面に角錐圧子又は球圧子を押込んだときの荷重-変位曲線から、試料深さ方向の残留応力分布を評価する準非破壊検査法である。
図11には、角錐圧子を押込んだ試料表面の縦断面図を模式的に示す。また、
図12には、押込み試験によって荷重の負荷の開始から除荷されるまでの押込み荷重L(縦軸)と押込み深さh(横軸)との関係を示す。押込み荷重Lは、押込み深さhの二次関数で近似し得ることが分かる。例えば、非特許文献1に記載のように、この二次関数として近似した場合の係数である押込み荷重係数(すなわち、L/h
2)は、押込み深さが浅い領域では硬化又は軟化した加工変質層の影響を受けるため、押込み深さhが大きくなるにつれて小さくなる。さらに、角錐圧子を深く押込むと、ある程度の深さからは加工変質層の影響は小さくなり押込み荷重係数がおおよそ一定値になることが知られている。このため、押込み荷重係数の変化から加工変質層の深さを把握することができる。
【0005】
しかしながら、例えば、非特許文献1及び非特許文献2に開示されているインデンテーション法(Instrumented Indentation Technique,IIT)のような、一般的な押込み試験法では、予め設定した押込み深さ又は押込み荷重値に到達するまでワークに負荷をかけるため、ワークの表面に必要以上に深い圧痕を残す場合がある。例えば、
図11に示すように、角錐圧子が加工変質層WLの厚さMを超える圧痕深さDまで押込まれるような場合である。このため、荒加工工程後に押込み試験法によって加工変質層の深さを評価し、深さに応じて仕上げ加工の実施の要否を判断しようとしても、仕上げ加工工程における除去量を超える深さの圧痕が存在すると、仕上げ加工を行うことができなくなりワークは不良品として扱われる可能性がある。また、一般的な押込み試験法(又はIIT)では、押込むための圧子の位置や位相の調整が困難であるため、機械加工部品の加工工程中に押込み試験を実施することは困難である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【非特許文献】
【0007】
【文献】肥川周平、岡野成威、望月正人、橋本匡史、手塚亮、「インデンテーション法による加工変質層深さ評価とその曲面形状への適用性検討」、溶接学会全国大会講演概要、第112集、一般社団法人溶接学会、2023年4月、P.166-167
【文献】岡野成威、望月正人、「無応力下の基準硬さに依存しないインデンテーション法による非等二軸残留応力場の準非破壊計測法の提案」、日本機械学会論文集、Vol.80、No.820、日本機械学会、2014年、P.1-11
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記事情に鑑み、工作機械上においてワークの加工面の加工変質層の状態を簡便に評価できるワークの加工変質層の測定方法、ワークの加工方法、加工変質層測定装置及び工作機械の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一の態様によれば、テーブルに取り付けたワークを主軸に装着した工具で加工する工作機械の機上において、ワークの表面の加工変質層を測定する方法であって、工具に換えて、ワークに押込むための圧子を主軸に装着すること、工作機械の送り装置を用いてワークに圧子を押込むこと、圧子を押込むための押込み荷重及び圧子のワークへの押込み深さを刻々と測定すること、押込み荷重を押込み深さで関数近似したときの係数となる押込み荷重係数を刻々と算出すること、押込み深さに対する押込み荷重係数の変化率が、負から十分0に近づいた値になったときに圧子のワークへの押込みを停止すること、並びに、押込みを停止したときの圧子の押込み深さに深さ換算定数を乗じて加工変質層深さを算出すること、を含むワークの加工変質層の測定方法が提供される。
【0010】
さらに、本発明の一の態様によれば、工作機械のテーブルに取り付けたワークを主軸に装着した工具で荒加工後に、工作機械の機上においてワークの表面の加工変質層の測定を行い、加工変質層の測定後に仕上げ加工を行うワークの加工方法であって、荒加工後に、工具に換えてワークに押込むための圧子を主軸に装着すること、工作機械の送り装置を用いてワークに圧子を押込むこと、圧子を押込むための押込み荷重及び圧子のワークへの押込み深さを刻々と測定すること、押込み荷重を押込み深さで関数近似したときの係数となる押込み荷重係数を刻々と算出すること、押込み深さに対する押込み荷重係数の変化率が、負から十分0に近づいた値になったときに圧子のワークへの押込みを停止すること、押込みを停止したときの圧子の押込み深さに深さ換算係数を乗じて加工変質層深さを算出すること、並びに、算出した加工変質層深さが、ワークの仕上げ代よりも小さい場合に仕上げ加工を行うワークの加工方法が提供される。
【0011】
また、本発明の一の態様によれば、テーブルに取り付けたワークを主軸に装着した工具で加工する工作機械の機上において、ワークの表面の加工変質層の測定を行う工作機械であって、工具に換えて主軸に装着可能であり、工作機械の送り装置を用いてワークに押込むことによって圧痕を形成する圧子と、圧子のワークに対する刻々の押込み荷重を測定する押込み荷重検出器と、圧子のワークへの刻々の押込み深さを測定する押込み深さ検出器と、押込み荷重を押込み深さで関数近似したときの係数となる押込み荷重係数を刻々と算出し、押込み深さに対する押込み荷重係数の変化率が、負から十分0に近づいた値になったときに圧子のワークへの押込みを停止する圧子押込み停止制御手段と、圧子の押込みを停止したときの押込み深さに深さ換算定数を乗じて加工変質層深さを算出する加工変質層深さ演算手段と、を具備する工作機械が提供される。
【0012】
さらに、本発明の一の態様によれば、テーブルに取り付けたワークを主軸に装着した工具で加工する工作機械に付属し、工作機械の機上でワークの表面の加工変質層の測定を行う加工変質層測定装置であって、工具に換えて主軸に装着可能であり、工作機械の送り装置を用いてワークに押込むことによって圧痕を形成する圧子と、圧子を着脱可能に取り付け、圧子のワークに対する押込み荷重を検出するセンサを有する圧子ホルダと、工作機械の制御装置に接続可能な演算装置であって、押込み荷重を押込み深さで関数近似したときの係数となる押込み荷重係数を刻々と算出し、押込み深さに対する押込み荷重係数の変化率が、負から十分0に近づいた値になったときに圧子のワークへの押込みを停止し、圧子の押込みを停止したときの押込み深さに深さ換算定数を乗じて加工変質層深さを算出する演算装置と、を具備する加工変質層測定装置が提供される。
【発明の効果】
【0013】
本発明の一の態様に係るワークの加工変質層の測定方法によると、工具に換えて主軸に装着した圧子を工作機械の送り装置を用いてワークに押込み、圧子を押込むための押込み荷重及び圧子のワークへの押込み深さを刻々と測定することができる。このため、工作機械の機上において、圧子のワークに対する位置及び位相を調整した上でワークの表面の加工変質層の測定を行うことができ、加工変質層の状態を簡便に評価することができる。さらに、測定した押込み荷重を押込み深さで関数近似したときの係数となる押込み荷重係数の変化率が、負から十分0に近づいた値になったとき、すなわち、押込み荷重に対する加工変質層の影響が小さくなったときに圧子のワークへの押込みを停止し、押込みを停止したときの圧子の押込み深さに深さ換算定数を乗じて加工変質層深さを算出することができる。このように、専用のインデンテーション測定装置を用いることなく、また、ワークを工作機械から取外すことなく、工作機械が元々有している機械構成を利用して、容易かつ迅速にワークの加工変質層の測定及び評価を行うことができる。
【0014】
本発明の一の態様に係るワークの加工方法によると、荒加工後に、工具に換えて主軸に装着した圧子を工作機械の送り装置を用いてワークに押込み、圧子を押込むための押込み荷重及び圧子のワークへの押込み深さを刻々と測定することができる。このため、工作機械の機上において、圧子のワークに対する位置及び位相を調整した上でワークの表面の加工変質層の測定を行うことができ、加工変質層の状態を簡便に評価することができる。さらに、測定した押込み荷重を押込み深さで関数近似したときの係数となる押込み荷重係数の変化率が、負から十分0に近づいた値になったとき、すなわち、押込み荷重に対する加工変質層の影響が小さくなったときに圧子のワークへの押込みを停止し、押込みを停止したときの圧子の押込み深さに深さ換算定数を乗じて加工変質層深さを算出することができる。このため、予め設定した押込み深さ又は押込み荷重値に到達するまでワークに負荷をかけることなく加工変質層深さを算出し、算出した加工変質層深さがワークの仕上げ代よりも大きくなることを防止又は抑制することができる。これによって、ワークを不良品とする確率を低減するとともに、算出した加工変質層深さがワークの仕上げ代よりも小さい場合にだけ仕上げ加工を行うため、無駄な仕上げ加工をしなくても済む。
【0015】
本発明の一の態様に係る工作機械によると、工具に換えて主軸に装着した圧子を工作機械の送り装置を用いてワークに押込み、押込み荷重検出器及び押込み深さ検出器を用いて圧子を押込むための押込み荷重及び圧子のワークへの押込み深さを刻々と測定することができる。このため、工作機械の機上において、圧子のワークに対する位置及び位相を調整した上でワークの表面の加工変質層の測定を行うことができ、加工変質層の状態を簡便に評価することができる。また、圧子押込み停止制御手段によって、測定した押込み荷重を押込み深さで関数近似したときの係数となる押込み荷重係数の変化率が、負から十分0に近づいた値になったとき、すなわち、押込み荷重に対する加工変質層の影響が小さくなったときに圧子のワークへの押込みを停止することができる。さらに、加工変質層深さ演算手段によって、押込みを停止したときの圧子の押込み深さに深さ換算定数を乗じて加工変質層深さを算出することができる。このため、予め設定した押込み深さ又は押込み荷重値に到達するまでワークに負荷をかけることなく加工変質層深さを算出することができる。これによって、ワークを不良品とする確率を低減することができる。
【0016】
本発明の一の態様に係る加工変質層測定装置によると、工具に換えて主軸に装着可能であり、工作機械の送り装置を用いてワークに押込むことによって圧痕を形成する圧子と、圧子に着脱可能に取り付けられ、圧子のワークに対する押込み荷重を検出するセンサを有するツールホルダとを備える。このため、工作機械の機上において、圧子のワークに対する位置及び位相を調整した上でワークの表面の加工変質層の測定を行うことができ、加工変質層の状態を簡便に評価することができる。また、工作機械の制御装置に接続可能な演算装置を備えるため、押込み荷重を押込み深さで関数近似したときの係数となる押込み荷重係数を刻々と算出し、押込み深さに対する押込み荷重係数の変化率が、負から十分0に近づいた値になったときに圧子のワークへの押込みを停止し、圧子の押込みを停止したときの押込み深さに深さ換算定数を乗じて加工変質層深さを算出することができる。これによって、本発明のワークの加工変質層の測定方法を実施する上述の工作機械ではない通常の工作機械に、後付けで、工作機械上で簡単にワークの加工変質層の測定が可能な機能を付加することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】
図1は、本実施形態に係る工作機械の側面図を示す。
【
図2】
図2は、圧子をワークに押込む工作機械の側面図を示す。
【
図4】
図4は、圧子を傾斜させてワークに押込む場合の拡大図を示す。
【
図5】
図5は、圧子が押込まれたワーク表面の加工変質層の断面図を示す。
【
図6】
図6は、押込み荷重、押込み荷重係数及び押込み荷重係数の変化率と押込み深さとの関係を表すグラフを示す。
【
図7】
図7は、押込み荷重の時間変化量を表す時系列を示す。
【
図8】
図8は、ビッカース角錐圧子及びヌープ角錐圧子が押込まれた後のワークの表面を示す。
【
図9】
図9は、押込み試験を含むワークの加工工程の説明図を示す。
【
図10】
図10は、押込み試験を含むワークの加工工程のフローチャートを示す。
【
図11】
図11は、従来の押込み試験法における角錐圧子が押込まれた試料表面の断面図を示す。
【
図12】
図12は、押込み試験法おける荷重の負荷の開始から除荷されるまでの押込み荷重と押込み深さとの関係を表すグラフを示す。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、添付図面を参照して、実施形態に係る工作機械を説明する。同様な又は対応する要素には同一の符号を付し、重複する説明は省略する。理解を容易にするために、図の縮尺を変更して説明する場合がある。
【0019】
図1には、本実施形態に係る工作機械10の側面図を示す。工作機械10は、基台となるベッド12と、ベッド12の上面に立設されたコラム14とを備える。ベッド12の上面には、被加工物であるワークWを固定具50(
図9参照)によって固定するためのテーブル30が配置されている。テーブル30は、案内面を介してベッド12上を移動できる。また、工作機械10には、所定の位置を原点とした機械座標が予め設定されており、互いに直交する直動軸として、X軸、Y軸及びZ軸を含む。本実施形態に係る工作機械10は立形であり、Z軸は鉛直方向に沿って延在する。また、X軸及びY軸は、Z軸に垂直な平面上、ここでは、水平面上に設定する。工作機械10では、テーブル30は、Y軸方向(左右方向)に沿って移動するように構成されている。また、コラム14の前面に配置されたサドル16は、X軸方向(紙面に垂直方向)に沿って移動可能に構成されている。
【0020】
サドル16の前面には主軸ヘッド18がZ軸方向(機械上下方向)に沿って上下動可能に配置されている。また、主軸ヘッド18の先端側、ここでは、下方側には、主軸ヘッド18に対してZ軸に平行な軸線周りに回転可能に構成された主軸20が取り付けられている。主軸20には、圧子42、又は、主軸20と共に回転しながらワークWを加工するための工具62、64(
図9参照)が圧子ホルダ40又はツールホルダ60を介して着脱可能に取り付けられる。これによって、工作機械10は、圧子42又は工具62、64を取り付けるための主軸20とワークWを配置するテーブル30とをX軸、Y軸及びZ軸に沿って相対移動可能に構成されている。
【0021】
コラム14の前面側には、サドル16をX軸方向に沿って変位させ、圧子42又は工具62、64とワークWとをX軸方向に沿って相対移動するために、送り装置としてのX軸送り装置22が配置されている。また、コラム14には、主軸20に取り付けた圧子42又は工具62、64のX軸方向の位置を検出するためのX軸位置検出装置24が配置されている。
【0022】
ベッド12には、テーブル30をY軸方向に沿って変位させ、圧子42又は工具62、64とワークWとをY軸方向に沿って相対移動するために、送り装置としてのY軸送り装置32が配置されている。また、ベッド12には、ワークWを配置したテーブル30のY軸方向の位置を検出するためのY軸位置検出装置34が配置されている。
【0023】
サドル16には、主軸ヘッド18をZ軸方向に沿って変位させ、圧子42又は工具62、64とワークWとをZ軸方向に沿って相対移動するために、送り装置としてのZ軸送り装置26が配置されている。また、サドル16には、主軸20に取り付けた圧子42又は工具62、64のZ軸方向の位置を検出するためのZ軸位置検出装置28が配置されている。
【0024】
図2には工作機械10の側面図を模式的に示す。また、
図3には、ワークWとこれに押込む圧子42の拡大図を示す。本図の工作機械10のテーブル30は、ベッド12に対して回転可能に構成されている。このため、ワークW表面の法線方向と圧子42の軸線方向とが一致するようにワークWの傾斜を調節して、圧子42をワークWに対して垂直に押込むことができる。これによって、ワークWの表面が曲面や傾斜面であっても、圧子42をワークWに対して垂直に押込むことができる。
【0025】
なお、ここでは、テーブル30を回転させることによって、圧子42をワークWに対して垂直に押込むとして説明するが、これに限らず、
図4に示すように、主軸がワークWに対して傾斜可能に構成され、圧子42をワークWに対して傾斜させることによって、圧子42がワークWに対して垂直に押込まれてもよい。
【0026】
図1に示すように、工作機械10は、NCプログラム格納部36aに格納されたNCプログラムを実行することによって、各軸送り装置22、32、26、すなわち、X軸送り装置22、Y軸送り装置32及びZ軸送り装置26を作動し、圧子42又はテーブル30を所望の位置へ移動させるための制御装置としてのNC制御部36を備える。このため、主軸20に取り付けられた圧子42をワークWの所定の位置に押込むことができる。また、NC制御部36は、主軸20に取り付けた工具62、64でワークWを加工できるように、主軸20を作動させて、主軸20及び工具62、64を回転するように構成されている。さらに、工作機械10は、圧子42及び工具62、64を格納する工具マガジン44を有しており、主軸20を作動して行う作業の内容、すなわち、加工変質層WLの測定又は機械加工に応じて、主軸20を作動し、工具マガジン44から取り出した圧子42又は工具62、64を主軸20に脱着できるように構成されている。
【0027】
また、工作機械10は、ワークWの加工変質層WLを測定して評価するための加工変質層測定装置としての演算装置38を備える。演算装置38は、X軸位置検出装置24、Y軸位置検出装置34及びZ軸位置検出装置28と電気的に接続され、これらによって検出された位置情報を取得できるように構成されている。X軸及びY軸の位置情報は、ワークWに対して圧子42を押込む座標値を表し、Z軸の位置情報は圧子42の押込み深さhに対応する座標値を表している。
【0028】
主軸ヘッド18には、圧子42をワークWに押込むことによって圧子42に作用する荷重である押込み荷重L(
図6参照)を検出するための押込み荷重検出器としての荷重センサ46が配置されている。荷重センサ46は演算装置38と電気的に接続されており、演算装置38は、荷重センサ46で検出された押込み荷重Lを記録するように構成されている。なお、以下の説明では、荷重センサ46は主軸ヘッド18に配置されているとして説明するが、これに限らず、荷重センサはツールホルダ内に設けられてもよいし、テーブルに設けられてもよい。
【0029】
図5には、圧子42が加工変質層WLに押込まれたワークWの断面図を模式的に示す。また、
図6には、押込み深さhに対する押込み荷重L、押込み荷重係数C及び押込み荷重係数Cの変化率(dC/dh)の変化の一例をグラフで示す。圧子42が加工変質層WLに押込まれると、押込み深さ検出部38a及び荷重センサ46によって押込み深さh及び押込み荷重Lが時々刻々と検出され、これらは演算装置38に記録される。演算装置38は、圧子押込み停止制御手段としての停止制御部38bを有しており、停止制御部38bは、その時点までに計測した押込み荷重Lを押込み深さhの二次関数で近似し、近似した二次関数の係数である押込み荷重係数C(=L/h
2)を刻々と算出する。さらに、押込み荷重係数Cの押込み深さhに対する変化率(dC/dh)を刻々と算出する。
【0030】
押込み荷重係数Cは、圧子42を押込んだ直後は加工変質層WLの影響を受けるため減少し、圧子42がある程度の深さまで押込まれると加工変質層WLの影響が小さくなるため一定値となる。加工変質層WLの影響が小さくなる押込み深さhsまで圧子42が押込まれると、押込み深さhに対する押込み荷重係数Cが一定値CSになるため、すなわち、押込み荷重係数Cの変化率(dC/dh)が負から十分0に近づいた値になる。このとき、停止制御部38bは、NC制御部36を介して主軸20を停止させ、圧子42の押込みを停止させるように構成されている。実際には、押込み荷重係数Cの変化率が厳密に0に収束しないこともあり、十分0に近づいた予め定めた値になったときに、圧子42の押込みを停止させてもよい。
【0031】
演算装置38は、加工変質層深さ演算手段としての深さ演算部38cを有しており、深さ演算部38cは、これに予め収録された深さ換算定数を圧子42の押込みを停止した時点の押込み深さhsに乗じて加工変質層深さZを算出する。押込み荷重Lは、押込み深さhの約7倍までの影響を受けるとされており、押込み荷重係数Cは、押込み深さhの半分の位置での代表値と考えることができる(非特許文献1)。このため、ここでは、停止した時点の押込み深さhsに乗じる深さ換算定数は3.5と設定されている。なお、ここでは、深さ換算定数は3.5として設定されているが、深さ換算定数は主に圧子の形状によって変わるため、異なる値の深さ換算定数が使用されてもよい。
【0032】
工作機械10は、算出した加工変質層深さZを表示するために演算装置38と接続された表示装置52を備える。これによって、ユーザは、算出した加工変質層深さZが、ワークWの仕上げ代よりも小さく、仕上げ加工を行えることを視覚的に確認することができる。また、演算装置38は、工作機械10を作動し、算出した加工変質層深さZが、ワークWの仕上げ代よりも小さい場合は、仕上げ加工へ進み、ワークWの仕上げ代よりも大きい場合は、そのワークWの加工を中止させるように構成されている。
【0033】
図7には、押込み荷重Lの時間変化量dLを表す時系列を示す。先に述べたように、押込み荷重係数C(=L/h
2)は、押込み荷重Lを押込み深さhの二次関数で近似することによって算出する。このため、押込み荷重L及び押込み深さhの測定精度を安定かつ向上させるうえで、圧子42がワークWの表面に押込まれ、現実に押込み深さhが発生した時点を押込み荷重Lの負荷開始点とすることが好適である。そこで、演算装置38は、記録した時々刻々の押込み荷重Lの時間変化量dLの移動平均値を算出し、有意に押込み深さhが発生したと判断し得る所定の閾値TVを超えた時点SPを押込み荷重Lの負荷開始点、かつ、押込み深さh=0の位置とするように構成されている。
【0034】
また、演算装置38を備える工作機械10は、加工変質層WLの測定に加えて、無応力下での基準硬さに依存しないインデンテーション法を用いて非等二軸応力を計測することができる。具体的には、圧子は、所定の頂角を有し、底面が正方形のビッカース角錐圧子VI及び所定の頂角を有し、底面が長軸LA及び短軸SAを有する菱形のヌープ角錐圧子NIを用いて押込み荷重L及び押込み深さhを測定することができる。はじめに、ワークWの加工に先立ち、工作機械10の主軸20に取り付けたビッカース角錐圧子VI及びヌープ角錐圧子NIを、ワークWと同材種で構成された無応力状態の基準テストピース(図示省略)に押込むことによって、押込み荷重L及び押込み深さhをそれぞれ測定する。測定した押込み荷重L及び押込み深さhから、同じ押込み深さhにおけるビッカース圧子VIの押込み荷重Lに対するヌープ圧子NIの押込み荷重Lの押込み荷重比ηを算出する。
【0035】
つぎに、
図8に示すように、工作機械10の軸送り装置22、32、26を用いて、底面の長軸LAを第1の方向であるX軸方向へ向けたヌープ角錐圧子NIをワークWに押込むことによって、ヌープ角錐圧子NIのワークWへの押込み深さh及び第1の押込み荷重L1を測定する。さらに、工作機械10の軸送り装置22、32、26を用いて、底面の長軸LAをX軸方向と直行する第2の方向としてのY軸方向へ向けたヌープ角錐圧子NIをワークWに押込むことによって、ヌープ角錐圧子NIのワークWへの押込み深さh及び第2の押込み荷重L2を測定する。また、工作機械10の軸送り装置22、26、32を用いて、ビッカース角錐圧子VIをワークWに押込むことによって、ビッカース角錐圧子VIのワークWへの押込み深さh及びビッカース角錐圧子VIを押込むための第3の押込み荷重L3を測定する。ここで、ヌープ角錐圧子NIの位相を90度変更する方法は、主軸20の割出し位置決め機能、又は、テーブル30の割出し位置決め機能を用いて行う。
【0036】
演算装置38は、このようにして計測した押込み荷重比η、第1の押込み荷重L1、第2の押込み荷重L2及び第3の押込み荷重L3から、各押込み深さhにおけるX軸方向の第1の残留応力であるX軸応力σx及びY軸方向の第2の残留応力であるY軸応力σYを以下の計算式で算出することができる。
F1=(L2―η×L3)
F2=(L1―η×L3)
F3=(α2―η×α3)
F4=(α1―η×α3)
σx=(F1×F3-F2×F4)/(F4×F4-F3×F3)
σy=(F2×F3-F1×F4)/(F4×F4-F3×F3)
ここで、α1は、ヌープ圧子NIの長軸LA方向と応力方向を平行にして押込んだ際の応力値と荷重変化量の変換係数、α2は、ヌープ圧子NIの長軸LA方向を応力方向と垂直にして押込んだ際の応力値と荷重変化量の変換係数、α3は、ビッカース圧子VIを押込んだ際の応力値と荷重変化量の変換係数をそれぞれ表し、これらはワークWの材料により定まる定数である。このようにして算出した残留応力σx、σYが正の値であれば、測定点には圧縮方向の力が作用しており、ワーク材料が破断する危険性は小さく、このワークWは良品とされる。一方、負の値であれば、測定点には引張り方向の力が作用しており、ワーク材料が何らかの欠陥を起点として破断する危険性をはらんでおり、このワークは不良品とされる。なお、ここでは所定の頂角を有したビッカース角錐圧子VI及びヌープ角錐圧子NIについて説明したが、これに限らず、所定の頂角を有さない底面が正方形の角錐圧子及び底面が菱形の角錐圧子を用いてもよい。その場合には、上記計算式の各種係数が変わることになる。
【0037】
図9及び
図10に示す説明図及びフローチャートに沿った押込み試験を含むワークWの加工工程の説明を通じて、本実施形態に係るワークWの加工変質層WLの測定方法、ワークWの加工方法、演算装置38及び工作機械10の作用効果を以下に説明する。
【0038】
はじめに、ステップS510へ移行し、ツールホルダ60を介して主軸20に取り付けられた荒加工用の工具62を使用してワークWの荒加工を行う。荒加工が終了すると、ステップS520へ移行して、ワークWの加工面に生じた加工変質層WLを測定するために押込み試験を行う。
【0039】
押込み試験を開始すると、ステップS10へ移行し、工具62に換えて工具マガジン44から取り出した圧子ホルダ40に装着された圧子42を主軸20に取り付ける。ここでは、一例として、ヌープ角錐圧子NIを圧子42として使用する。圧子42を主軸20に取り付けるとステップS20へ移行し、軸送り装置22、32、26を作動して、圧子42をワークWに押込む位置まで移動させると共に、圧子42の軸線方向がワークWの表面の法線方向と一致するようにテーブル30の傾斜を調整する。これらの調整が終了すると、ステップS30へ移行して主軸20の位相を割り出して調整する。ヌープ角錐圧子NIを使用して第1の押込み荷重L1を測定する場合には、長軸LAがX軸方向に沿うように、すなわち平行となるように位相を調整する。また、第2の押込み荷重L2を測定する場合には、長軸LAがY軸方向に沿うように位相を調整する。位相の調整が終了すると、ステップS40へ移行して、圧子42が取り付けられた主軸20を所定のアプローチ速度でワークWへ向けて下降させ、ステップS50へ移行する。
【0040】
ステップS50では、荷重センサ46を作動し、押込み荷重Lの測定を開始する。演算装置38は、記録した時々刻々の押込み荷重Lの時間変化量dLの移動平均値を算出し、有意に押込み深さhが発生したと判断し得る所定の閾値TVを超えた時点SPを押込み荷重Lの負荷開始点、かつ、押込み深さhの測定開始点として、ステップS60へ移行する。
【0041】
ステップS60では、圧子42が加工変質層WLに押込まれると、押込み深さ検出部38a及び荷重センサ46によって押込み深さh及び押込み荷重Lが時々刻々と検出される。演算装置38は、これらの検出されたデータを記録し、停止制御部38bは、その時点までに計測した押込み荷重Lを押込み深さhの二次関数で近似して二次関数の係数である押込み荷重係数C(=L/h2)を刻々と算出する。さらに、停止制御部38bは、押込み荷重係数Cの押込み深さhに対する変化率(dC/dh)を刻々と算出する。圧子42が、加工変質層WLの影響が小さくなる押込み深さhsまで押込まれることによって、押込み荷重係数Cが一定値CSになり、押込み荷重係数Cの変化率(dC/dh)が負から十分0に近づいた予め定めた値になると、停止制御部38bは、NC制御部36を介して主軸20の下降を停止させ、圧子42の押込みを停止させる。深さ演算部38cは、これに予め収録された深さ換算定数を圧子42の押込みを停止した時点の押込み深さhsに乗じて加工変質層深さZを算出する。加工変質層深さZを算出すると、ステップS80へ移行し、主軸20を上昇させて圧子42をワークWから引き抜く。
【0042】
圧子42を引き抜くとステップS90へ移行し、ヌープ角錐圧子NIを圧子42として使用する場合であって、第1の押込み荷重L1又は第2の押込み荷重L2の一方の測定が終了していない場合は、ステップS30へ移行し、主軸20の位相を変更して、測定が終了していない第1の押込み荷重L1又は第2の押込み荷重L2を測定する。ヌープ角錐圧子NIを使用した第1の押込み荷重L1及び第2の押込み荷重L2の両方の測定が終了した場合や圧子42としてビッカース角錐圧子VIを使用している場合は、ステップS100へ移行する。
【0043】
ステップS100へ移行し、ヌープ角錐圧子NI又はビッカース角錐圧子VIを用いた計測が終了していない場合は、ステップS10へ移行し、工具マガジン44から計測に使用するヌープ角錐圧子NI又はビッカース角錐圧子VIを取り出して、主軸20に取り付ける圧子42を交換する。圧子42を交換すると、これを用いてステップS20からステップS70までの押込み荷重Lの測定を行う。ヌープ角錐圧子NI及びビッカース角錐圧子VIの両方を用いた計測が終了すると、ステップS110へ移行し、演算装置38は、測定かつ算出した、加工変質層深さZ、押込み荷重比η、第1の押込み荷重L1、第2の押込み荷重L2、第3の押込み荷重L3、各押込み深さhにおけるX軸方向の第1の残留応力であるX軸応力σx及びY軸方向の第2の残留応力であるY軸応力σYを表示装置52に出力する。
【0044】
押込み試験が終了すると、ステップ530へ移行し、演算装置38は、算出した加工変質層深さZが、ワークWの仕上げ代よりも小さい場合は、ステップS550へ移行し、工作機械10を作動して、圧子42を仕上げ加工用の工具64に取り換えて仕上げ加工を行う。一方、算出した加工変質層深さZがワークWの仕上げ代よりも大きい場合は、ステップS540へ移行し、そのワークWの仕上げ加工を中止する。
【0045】
本実施形態に係るワークWの加工変質層WLの測定方法、ワークWの加工方法、演算装置38及び工作機械10によると、工具62、64に換えて主軸20に装着可能であり、工作機械10の軸位置検出装置を備えた軸送り装置22、32、26を用いてワークWに押込むことによって圧痕を形成する圧子42と、圧子42のワークWに対する押込み荷重Lを検出する荷重センサ46とを備える。このため、工作機械10の機上において、圧子42のワークWに対する位置及び位相を調整した上でワークWの表面の加工変質層WLの測定を行うことができ、加工変質層WLの状態を簡便に評価することができる。また、工作機械10のNC制御部36に接続可能な演算装置38を備えるため、押込み荷重Lを押込み深さhで関数近似したときの係数となる押込み荷重係数Cを刻々と算出し、押込み深さhに対する押込み荷重係数Cの変化率(dC/dh)が、負から十分0に近づいた値になったときに圧子42のワークWへの押込みを停止し、圧子42の押込みを停止したときの押込み深さhSに深さ換算定数を乗じて加工変質層深さZを算出することができる。これによって、従来からある押込み試験法とは異なり、予め設定した押込み深さ又は押込み荷重値に到達するまでワークWに負荷をかけることなく加工変質層深さZを算出することができ、ワークWを不良品とする確率を低減して加工変質層WLの測定及び評価を行うことができる
【0046】
また、本実施形態に係るワークWの加工変質層WLの測定方法、ワークWの加工方法、演算装置38及び工作機械10によると、工作機械10のテーブル30は、ベッド12に対して回転可能に構成されている。このため、ワークW表面の法線方向と圧子42の軸線方向とが一致するようにワークWの傾斜を調節して、圧子42をワークWに対して垂直に押込むことができる。これによって、ワークWの表面が曲面や傾斜面であっても、圧子42をワークWに対して垂直に押込むことができ、押込み荷重L及び押込み深さhを精度よく測定することができる。
【0047】
さらに、本実施形態に係るワークWの加工変質層WLの測定方法、ワークWの加工方法、演算装置38及び工作機械10によると、演算装置38は、記録した時々刻々の押込み荷重Lの時間変化量dLの移動平均値を算出し、有意に押込み深さhが発生したと判断し得る所定の閾値TVを超えた時点SPを押込み荷重Lの負荷開始点とするように構成されている。このため、圧子42がワークWの表面に押込まれ、現実に押込み深さhが発生した時点を押込み荷重Lの負荷開始点とすることができ、押込み荷重Lの測定精度、ひいては押込み荷重係数Cの変化率(dC/dh)の精度を安定かつ向上させることができる。
【0048】
また、本実施形態に係るワークWの加工変質層WLの測定方法、ワークWの加工方法、演算装置38及び工作機械10によると、加工変質層WLの測定に加えて、押込み荷重比η、第1の押込み荷重L1、第2の押込み荷重L2、第3の押込み荷重L3、各押込み深さhにおけるX軸方向の第1の残留応力であるX軸応力σx及びY軸方向の第2の残留応力であるY軸応力σYを算出することができる。これによって、加工変質層深さZの算出と合わせて加工変質層WL内の応力の評価を行うことができる。
【0049】
以上により、本実施形態に係るワークWの加工変質層WLの測定方法、ワークWの加工方法、演算装置38及び工作機械10は、工作機械10上においてワークWの加工面の加工変質層WLの状態を簡便に評価できる。
【0050】
荷重センサ46を主軸ヘッド18に内蔵しない、加工変質層の測定を考慮していない通常の工作機械で加工変質層を測定する装置について説明する。この場合は、圧子ホルダ40内に押込み荷重Lを測定する荷重センサを設ければよい。また、演算装置として汎用パソコンを用い、押込み深さ検出部38a、停止制御部38b、深さ演算部38cをアプリケーションソフトウェアとして、このパソコンにインストールし、パソコンをこの工作機械のNC装置のユーザインターフェイスに接続する。この加工変質層測定装置を通常の工作機械に後付けすることによって、上述の加工変質層の測定方法、ワークの加工方法を実施することができ、さらに、
図1の工作機械10と同等の機能を発揮させることができる。つまり、この加工変質層測定装置は、種々の圧子、荷重センサ内蔵の圧子ホルダ、工作機械の制御装置に接続可能なパソコンとアプリケーションソフトウェアをパッキングした加工変質層測定キットと言える。
【0051】
以上、ワークWの加工変質層WLの測定方法、ワークWの加工方法、演算装置38及び工作機械10の実施形態について説明したが、本発明は上記の実施形態に限定されない。例えば、主軸の向きが鉛直な立形工作機械に代えて、主軸の向きが水平な横形工作機械であってもよい。上記のほか、当業者であれば、上記の実施形態の様々な変形が可能であることを理解できると考えられる。
【符号の説明】
【0052】
10 工作機械
20 主軸
22 X軸送り装置(送り装置)
26 Z軸送り装置(送り装置)
32 Y軸送り装置(送り装置)
36 NC制御部(制御装置)
38 演算装置(加工変質層測定装置)
38a 押込み深さ検出部
38b 停止制御部(圧子押込み停止制御手段)
38c 深さ演算部(加工変質層深さ演算手段)
42 圧子
46 荷重センサ(押込み荷重検出器)
L 押込み荷重
L1 第1の押込み荷重
L2 第2の押込み荷重
L3 第3の押込み荷重
h 押込み深さ
NI ヌープ角錐圧子
VI ビッカース角錐圧子
WL 加工変質層