IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社クレハの特許一覧

特許7696061熱収縮性多層フィルム、及びその製造方法
<>
  • 特許-熱収縮性多層フィルム、及びその製造方法 図1
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-06-11
(45)【発行日】2025-06-19
(54)【発明の名称】熱収縮性多層フィルム、及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   B32B 27/32 20060101AFI20250612BHJP
   B32B 27/00 20060101ALI20250612BHJP
   B32B 27/28 20060101ALI20250612BHJP
   B65D 65/40 20060101ALI20250612BHJP
【FI】
B32B27/32 E
B32B27/00 A
B32B27/28 102
B65D65/40 D
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2024517901
(86)(22)【出願日】2023-03-22
(86)【国際出願番号】 JP2023011242
(87)【国際公開番号】W WO2023210213
(87)【国際公開日】2023-11-02
【審査請求日】2024-06-19
(31)【優先権主張番号】P 2022074263
(32)【優先日】2022-04-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001100
【氏名又は名称】株式会社クレハ
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(74)【代理人】
【識別番号】100131705
【弁理士】
【氏名又は名称】新山 雄一
(72)【発明者】
【氏名】猶原 諒
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 忠良
(72)【発明者】
【氏名】持丸 智英
【審査官】佐藤 秀之
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-313389(JP,A)
【文献】特開2007-160573(JP,A)
【文献】特開2007-160574(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 27/00
B65D 65/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリオレフィン系樹脂を含む外表面層(a)、ガスバリア性樹脂を含む中間層(b)、及びポリオレフィン系樹脂を含む内表面層(c)の少なくとも3層からなる多層フィルムであって、
前記外表面層(a)及び/又は前記内表面層(c)中のポリオレフィン系樹脂が、エチレン単独重合体、プロピレン単独重合体、超低密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、プロピレン-エチレン共重合体、プロピレン-エチレン-ブテン-1共重合体、エチレン-酢酸ビニル共重合体、エチレン-アクリル酸共重合体、エチレン-メタクリル酸共重合体、エチレン-アクリル酸メチル共重合体、エチレン-アクリル酸エチル共重合体、及びエチレン-アクリル酸ブチル共重合体からなる群から選択される少なくとも1種と、環状オレフィンコポリマーとを含み、
前記多層フィルムの少なくとも1層に環状オレフィンコポリマーを含み、
前記多層フィルムの全質量を100質量%とした時に、
前記多層フィルムに占める前記ポリオレフィン系樹脂の質量の割合が80質量%以上であり、かつ、
前記多層フィルムに占める前記環状オレフィンコポリマーの質量の割合が15質量%以上である熱収縮性多層フィルム。
【請求項2】
ポリオレフィン系樹脂を含む外表面層(a)、ガスバリア性樹脂を含む中間層(b)、及びポリオレフィン系樹脂を含む内表面層(c)の少なくとも3層からなる多層フィルムであって、
前記外表面層(a)中のポリオレフィン系樹脂が、エチレン単独重合体、プロピレン単独重合体、超低密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、プロピレン-エチレン共重合体、プロピレン-エチレン-ブテン-1共重合体、エチレン-酢酸ビニル共重合体、エチレン-アクリル酸共重合体、エチレン-メタクリル酸共重合体、エチレン-アクリル酸メチル共重合体、エチレン-アクリル酸エチル共重合体、及びエチレン-アクリル酸ブチル共重合体からなる群から選択される少なくとも1種と、環状オレフィンコポリマーとを含み、
前記内表面層(c)中のポリオレフィン系樹脂が、JIS K 7121に準拠してDSC示差走査熱量計により昇温速度10℃/minで得られた融点が、80~150℃である樹脂であり、
前記多層フィルムの少なくとも1層に環状オレフィンコポリマーを含み、
前記多層フィルムの全質量を100質量%とした時に、
前記多層フィルムに占める前記ポリオレフィン系樹脂の質量の割合が80質量%以上であり、かつ、
前記多層フィルムに占める前記環状オレフィンコポリマーの質量の割合が15質量%以上である熱収縮性多層フィルム。
【請求項3】
ポリオレフィン系樹脂を含む外表面層(a)、ガスバリア性樹脂を含む中間層(b)、及びポリオレフィン系樹脂を含む内表面層(c)の少なくとも3層からなる多層フィルムであって、
前記外表面層(a)及び/又は前記内表面層(c)中のポリオレフィン系樹脂が、超低密度ポリエチレン及び直鎖状低密度ポリエチレンからなる群から選択される少なくとも1種と、環状オレフィンコポリマーとを含み、
前記多層フィルムの少なくとも1層に環状オレフィンコポリマーを含み、
前記多層フィルムの全質量を100質量%とした時に、
前記多層フィルムに占める前記ポリオレフィン系樹脂の質量の割合が80質量%以上であり、かつ、
前記多層フィルムに占める前記環状オレフィンコポリマーの質量の割合が15質量%以上である熱収縮性多層フィルム。
【請求項4】
前記環状オレフィンコポリマーが、ガラス転移温度が50~68℃である環状オレフィンコポリマーと、ガラス転移温度が-10~20℃である環状オレフィンコポリマーとの何れか又は両方を含有する請求項に記載の熱収縮性多層フィルム。
【請求項5】
前記中間層(b)のガスバリア性樹脂が、エチレン-酢酸ビニル共重合体部分ケン化物、及び、グリコール酸(共)重合体樹脂からなる群から選択される少なくとも1種を含む請求項1に記載の熱収縮性多層フィルム。
【請求項6】
横方向(TD)の引張弾性率が200~600MPaである請求項1に記載の熱収縮性多層フィルム。
【請求項7】
請求項1~のいずれか1項に記載の熱収縮性多層フィルムの製造方法であって、
TD方向延伸直前部の樹脂の表面温度が75~90℃であり、
インフレ―ションバブルの下部ショルダー形成部における樹脂の表面温度が、前記TD方向延伸直前部における樹脂の表面温度よりも5~30℃の範囲で低下する熱収縮性多層フィルムの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリオレフィン系樹脂を含む熱収縮性多層フィルム、及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ハムやソーセージ、その他食品を包装するための熱収縮性フィルムは、内容物を包装するためのシール性、内容物を保護するための機械特性、鮮度を保つためのガスバリア性、良好な外観を保つための収縮性など、複数の要求特性があり、これらを満たすために複数の樹脂の積層フィルムが広く使用されている(例えば、特許文献1~3を参照)。
【0003】
このような熱収縮性多層フィルムは、特許文献1に記載されているように、多くの場合において、シール性、押出特性に優れたポリオレフィン系樹脂(以下、「PO」と略記することがある)と、機械特性、延伸性に優れたポリアミド系樹脂(以下、「PA」と略記することがある)を主要な層として含んでいる。
【0004】
近年、包装材へのリサイクルの要求が高まっており、例えば、欧州のコンソーシアムであるCEFLEXでは、POが90質量%以上で、かつPAなどのPO以外の樹脂が、それぞれ5質量%以内である包装材料をマテリアルリサイクル可能とするガイドラインを提示している。ここで、マテリアルリサイクルとは、プラスチック類の廃棄物を、破砕、溶解などの処理を行った後に再利用する行為を指す。
【0005】
上記のようなPOとPAを積層した熱収縮性多層フィルムは、多くの場合CEFLEXのガイドラインには当てはまっておらず、各々の層の樹脂が非相溶性のため、使用後に溶融、混合して再成形を行っても、層分離により機械特性や外観を著しく損ない、マテリアルリサイクル品として実用的な性能を得ることができない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】国際公開第2007/094144号
【文献】特表2015-512801号公報
【文献】国際公開第2013/121874号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
したがって、マテリアルリサイクルに適した材料構成とするためには、POの比率を極力高めた構成とすることが望ましい。しかし、POの比率を増やし、PAの使用比率を減らした場合、熱収縮性多層フィルムを製膜するために要求される延伸性や、機械特性が損なわれる。
【0008】
ここで、機械特性とは、主に針での突刺しに対する強さを指し、骨付き肉などの突起を有する内容物を包装する際に発生するピンホールを抑制するために求められる。また、延伸性とは、例えば、特許文献2に記載されているインフレーション(トリプルバブルプロセス)法におけるインフレーションバブル(第2のバブル)の安定製膜性を指す。食肉包装用途の熱収縮性多層フィルムは、多くの場合、100℃以下の温度での収縮が要求され、これを満たすために配向性が高い配向フィルムを低いコストで得ることができるインフレーション(トリプルバブルプロセス)法で製膜される。
【0009】
特許文献2には環状オレフィンコポリマー(以下、COCと略記することがある)を使用した熱収縮性多層フィルムが開示されているが、該文献のフィルムは、φ2.5先端の球状のボールを有するロッドを使用して1mm/分の速度で突刺し試験を行い、2~10J/mm(≒1~150N/mm)の耐破壊性を有するが、骨付き肉などの突起を有する内容物を包装するのに十分な強度を有するとは言い難い。また、該文献のフィルムはPAを含む形態で実施されており、再利用に適したフィルムとは言い難い。さらに、該文献では、COCを含むフィルムのマテリアルリサイクル性、延伸性、弾性率、シーラント層での使用やその際の性能(シール強度・ブロッキング性)については言及されていない。
【0010】
また、インフレーション(トリプルバブルプロセス)法での製膜において、PAを使用せず、POのみを延伸する場合、POは結晶融点近くまで予熱をしないとバブルを形成することができないため、分子鎖の配向が弱く、十分な熱収縮性や機械特性を得ることが難しい。
【0011】
PAを使用しない従来の熱収縮性多層フィルムの製膜技術としては、特許文献3に記載されているように、POへの電子線照射による架橋構造の付与や、アイオノマーの利用が挙げられる。しかし、架橋したPOは溶融時にゲル化するためマテリアルリサイクル性を阻害し、アイオノマーは高価であるためコストが増加する上に、PAを使用した場合と比較し、機械特性に劣り、かつ、フィルムの弾性率が低いため、コシが失われて包装機械への適性が損なわれる。
【0012】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、ポリオレフィン系樹脂が80質量%以上で構成され、かつ、優れた機械特性と熱収縮性を有する多層フィルムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、多層フィルムの少なくとも1層に環状オレフィンコポリマーを含み、多層フィルムに占める環状オレフィンコポリマーの質量の割合が15質量%以上である熱収縮性多層フィルムであると、上記課題を解決することができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0014】
本発明に係る熱収縮性多層フィルムは、ポリオレフィン系樹脂を含む外表面層(a)、ガスバリア性樹脂を含む中間層(b)、及びポリオレフィン系樹脂を含む内表面層(c)の少なくとも3層からなる多層フィルムであって、前記多層フィルムの少なくとも1層に環状オレフィンコポリマーを含み、前記多層フィルムの全質量を100質量%とした時に、前記多層フィルムに占める前記ポリオレフィン系樹脂の質量の割合が80質量%以上であり、かつ、前記多層フィルムに占める前記環状オレフィンコポリマーの質量の割合が15質量%以上である。
【0015】
前記外表面層(a)及び/又は前記内表面層(c)中のポリオレフィン系樹脂は、超低密度ポリエチレン及び直鎖状低密度ポリエチレンからなる群から選択される少なくとも1種と、環状オレフィンコポリマーとを含むことが好ましい。
【0016】
前記環状オレフィンコポリマーは、ガラス転移温度が50~68℃である環状オレフィンコポリマーと、ガラス転移温度が-10~20℃である環状オレフィンコポリマーとの何れか又は両方を含有することが好ましい。
【0017】
前記中間層(b)のガスバリア性樹脂が、エチレン-酢酸ビニル共重合体部分ケン化物、及び、グリコール酸(共)重合体樹脂からなる群から選択される少なくとも1種を含むことが好ましい。
【0018】
前記熱収縮性多層フィルムにおいて、横方向(TD)の引張弾性率は200~600MPaであることが好ましい。
【0019】
本発明に係る熱収縮性多層フィルムの製造方法は、TD方向延伸直前部(図1のαの位置)の樹脂の表面温度が75~90℃であり、インフレ―ションバブルの下部ショルダー形成部(図1のβの位置)における樹脂の表面温度が、前記TD方向延伸直前部における樹脂の表面温度よりも5~30℃の範囲で低下するものである。
【発明の効果】
【0020】
本発明の熱収縮性多層フィルムは、ポリオレフィン系樹脂が80質量%以上で構成され、かつ、優れた機械特性と熱収縮性を有する。このため、環境対応型の包装用フィルムでありながら突起を有するような内容物に対しても耐ピンホール性を有する包装材料としての利用が可能な熱収縮性多層フィルムが得られる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明に係る熱収縮性多層フィルムの製造装置を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明に係る熱収縮性多層フィルムは、ポリオレフィン系樹脂を含む外表面層(a)、ガスバリア性樹脂を含む中間層(b)、及びポリオレフィン系樹脂を含む内表面層(c)の少なくとも3層からなる多層フィルムであって、前記多層フィルムの少なくとも1層に環状オレフィンコポリマーを含み、前記多層フィルムの全質量を100質量%とした時に、前記多層フィルムに占める前記ポリオレフィン系樹脂の質量の割合が80質量%以上であり、かつ、前記多層フィルムに占める前記環状オレフィンコポリマーの質量の割合が15質量%以上である。
【0023】
本発明でいうオレフィンとは、C2nなる式で示される、二重結合をもつ炭化水素を指す。また、環状オレフィンとは、炭素原子で形成される環状構造を有し、かつ当該環構造中に炭素-炭素二重結合を有する炭化水素を指し、当該炭素-炭素二重結合の数は、1つでもよいし、複数個であってもよい(ただし、芳香環は含まない)。そして、本明細書においては、オレフィン及び/又は環状オレフィンから誘導された構成単位を50モル%以上含む単独重合体又は共重合体をポリオレフィン系樹脂と定義する。
【0024】
本発明に係る熱収縮性多層フィルムは、多層フィルムの少なくとも1層に環状オレフィンコポリマーを含む。なかでも、外表面層(a)及び/又は内表面層(c)に環状オレフィンコポリマーを含むことが好ましく、内表面層(c)に環状オレフィンコポリマーを含むことがより好ましい。
【0025】
本発明の熱収縮性多層フィルムは、多層フィルムの全質量を100質量%とした時に、多層フィルムに占めるポリオレフィン系樹脂の質量の割合が、マテリアルリサイクル性の観点から、80質量%以上であり、90質量%以上が好ましく、95質量%以上がより好ましい。ポリオレフィン系樹脂の質量の割合が上記範囲より少ないと、ポリオレフィン系樹脂以外の成分との非相溶性により、マテリアルリサイクル性が損なわれる。PO(ポリオレフィン系樹脂)の質量の割合は、以下の計算式から算出することができる。
ポリオレフィン系樹脂の質量の割合(質量%)=100×(ポリオレフィン系樹脂を含む層の「密度×厚み」の合計)/(すべての層の「密度×厚み」の合計)
後述の表2において、POの質量の割合(質量%)は「PO質量比(wt%)」として記載した。
ただし、2種以上の樹脂がブレンドされた層の「密度」とは、当該樹脂の密度に当該樹脂の混合比を乗じた密度の和とした。
【0026】
本発明の熱収縮性多層フィルムは、多層フィルムの全質量を100質量%とした時に、多層フィルムに占める環状オレフィンコポリマーの質量の割合が、15質量%以上であり、15~80質量%が好ましく、15~50質量%がより好ましく、16~29質量%が最も好ましい。環状オレフィンコポリマーの質量の割合が、15質量%より小さいと、延伸時の抗張力が乏しく、安定して製膜することが難しく、80質量%より大きいと、フィルムの柔軟性が損なわれる傾向にある。COC(環状オレフィンコポリマー)の質量の割合は、以下の計算式から算出することができる。
環状オレフィンコポリマーの質量の割合(%)=100×(COCを含む層の「密度×厚み×COC混合比」の合計)/(すべての層の「密度×厚み」の合計)
後述の表2において、COCの質量の割合(質量%)は「COC質量比(wt%)」として記載した。
ただし、2種以上の樹脂がブレンドされた層の「密度」とは、当該樹脂の密度に当該樹脂の混合比を乗じた密度の和とした。
なお、本発明における「延伸」とは、熱収縮性フィルムの製膜における、二軸延伸の工程を示す。代表的な二軸延伸の方法は、テンター法とインフレーション法が挙げられ、熱収縮性フィルムを製膜する工程は、これらのいずれかの方法に限定はされないが、コストの観点から、特にインフレーション法が好ましい。また、インフレーション法は、管状に押し出された溶融樹脂に直接流体を入れるダイレクト法(ダイレクトインフレーション)と、特許文献2に記載されているような、管状に押し出された溶融樹脂を一度冷却固化して管状体を形成した後、この管状体を適切な温度に加熱し、管状体内部に流体を入れながら縦方向(MD)および横方向(TD)に延伸する工程を含むチューブラー延伸法(チューブラー二軸延伸)に分けられるが、熱収縮性フィルムの製膜方法は、特にチューブラー延伸法が好ましい。熱収縮性フィルムを製膜する工程として、チューブラー延伸法を用いることで、テンター法やダイレクト法と比較して、延伸時の応力が高い傾向にあるため、優れた収縮率の熱収縮性フィルムが製膜できる傾向にある。チューブラー二軸延伸は、製膜工程の中で形成されるバブルの数により、ダブルバブルインフレーション(ダブルバブルプロセス)とトリプルバブルインフレーション(トリプルバブルプロセス)に分けて呼称される場合がある。両者の差は二軸延伸後の熱処理工程の違いであり、どちらの製膜方法も用いることができるが、熱収縮性フィルムの寸法安定性が良好になる傾向があることから、トリプルバブルインフレーションの方がより好ましい。
【0027】
外表面層(a)は、熱可塑性樹脂として、優れた収縮特性、水蒸気に対するバリア性、及びマテリアルリサイクル適正を与えるためにポリオレフィン系樹脂を含む。
【0028】
外表面層(a)中のPO(ポリオレフィン系樹脂)としては、例えば、エチレン単独重合体;プロピレン単独重合体;VLDPE(超低密度ポリエチレン)、LLDPE(直鎖状低密度ポリエチレン)などの炭素数2~8のα-オレフィンの共重合体;プロピレン-エチレン共重合体、プロピレン-エチレン-ブテン-1共重合体、EVA(エチレン-酢酸ビニル共重合体)、EAA(エチレン-アクリル酸共重合体)、EMAA(エチレン-メタクリル酸共重合体)、EMA(エチレン-アクリル酸メチル共重合体)、EEA(エチレン-アクリル酸エチル共重合体)、EBA(エチレン-アクリル酸ブチル共重合体)などのポリオレフィン系共重合体が挙げられ、環状オレフィンコポリマーも含まれる。これらのポリオレフィン系樹脂は1種のものを単独で用いても、2種以上のものを混合して用いてもよい。これらのうち、LLDPE又はVLDPEが特に好ましく、これらは、チーグラー・ナッタ型反応触媒によって製造された樹脂、及びメタロセン又はシングルサイト反応触媒によって製造された樹脂を含む。
【0029】
外表面層(a)中のポリオレフィン系樹脂としては、VLDPEとLLDPEから選ばれる少なくとも1種とCOCの混合物を用いることができる。
【0030】
LLDPE又はVLDPEの密度は、好ましくは0.880~0.920g/cm、より好ましくは0.890~0.915g/cmである。また、LLDPE又はVLDPEのメルトフローインデックス(MI)は、0.5~7.0g/10minが好ましく、1.0~5.0g/10minがより好ましく、3.2~4.0g/10minが更に好ましい。MIが3.2~4.0g/10minであると、フィルムの突き刺し強さを保持しながら、溶融時の流動性も優れ、フィルムの厚みのばらつきを低減することができる傾向にある。その一例は、プライムポリマー社から「Evolue」という名称で販売されている商品であり、該商品においてエチレン以外のα-オレフィンは、1-ヘキセンである。なお、MIは、JIS K 7210に準拠し、190℃で測定した。
【0031】
外表面層(a)中のCOCは、環状オレフィンから誘導される構成単位と、環状オレフィン以外のエチレンなどのオレフィンから誘導される構成単位とを有する樹脂である。
環状オレフィンの例は、ノルボルネン及びその誘導体(例えば、2-ノルボルネン、5-メチル-2-ノルボルネン);シクロペンタジエン及びその誘導体(例えば、ジシクロペンタジエン、2,3-ジヒドロシクロペンタジエン)などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
環状オレフィン以外のオレフィンの例は、エチレン、プロピレン、ブチレンなどのα-オレフィンなどが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0032】
また、外表面層(a)中のCOCとしては、例えば、エチレンから誘導される構成単位を60~90モル%、好ましくは65~85モル%含有し、環状オレフィンから誘導される構成単位を5~45モル%、好ましくは10~40モル%含有しているものが使用できる。
【0033】
また、COCのガラス転移点(Tg)は、動的粘弾性測定(DMA)の引張モードにより、昇温速度5℃/min、周波数62.8rad/sec、ひずみ量0.1%の条件で得られたデータの損失弾性率E”のピーク温度から測定し、その値は50~68℃が好ましい。ガラス転移点が上記範囲内にあると、フィルムの延伸工程において、TD方向延伸直前部(インフレーションバブルの下部ショルダー形成直前部:図1のαの位置)の樹脂の表面温度が75~90℃で、インフレ―ションバブルの下部ショルダー形成部(図1のβの位置)における樹脂の表面温度が、前記TD方向延伸直前部(図1のαの位置)における樹脂の表面温度よりも5~30℃の範囲で低下する条件とすることで、延伸時に管状体内部に吹き込む流体の内圧に対し十分な引張応力(抗張力)が発現し、安定してトリプルバブルインフレーション法で製膜することができる傾向にある。ガラス転移点が50℃より低いと、延伸時の抗張力が乏しく、安定して製膜することが難しい傾向にあり、加えて、フィルムの弾性率が小さくなり、内容物充填時の機械適性に劣る傾向にある。また、ガラス転移点が68℃より高いと、延伸時の樹脂温度を高める必要があり、配向が小さくなるため熱水収縮率が小さくなる傾向にある。加えて、突刺し試験時の破断点伸度が小さくなる傾向にある。
【0034】
また、COCのメルトフローインデックス(MI)は、0.5~5.0g/10minが好ましく、0.8~4.0g/10minがより好ましく、1.0~3.0g/10minが更に好ましい。MIが0.5g/10minより低いと、溶融した際の流動性が悪化して、フィルムの厚みムラや生産性が損なわれる傾向にあり、MIが5.0g/10minより大きいと、フィルムを針状の突起で突き刺した際に破断点伸度が悪化する可能性がある。COCは、例えば、ポリプラスチックス社から、「TOPAS」という名称で販売されている。なお、MIは、JIS K 7210に準拠し、190℃で測定した。
【0035】
外表面層(a)中のポリオレフィン系樹脂は、JIS K 7121に準拠してDSC(示差走査熱量計)により昇温速度10℃/minで得られた融点が、80~170℃であることが好ましく、95~160℃であることがより好ましい。融点が80℃より低いと、多層フィルムの耐熱性が不足し、熱水収縮時の溶融や、ヒートシール時のシール基盤への張り付きといった問題が発生しやすくなる。一方で、170℃より高いと、使用後の熱収縮性多層フィルムをマテリアルリサイクルする際、溶融混錬するときの温度が高くなってしまう傾向にあるため、リサイクル品が熱劣化により黄色味を帯びやすくなる傾向にある。
【0036】
本発明でいうガスバリア性とは、酸素ガスの透過しにくさのことを示し、本発明におけるガスバリア性樹脂とは、23℃、0%RHにおける、樹脂フィルム25μm当たりの酸素透過度が、0.01~300cm/m・day・atm、好ましくは0.05~200cm/m・day・atm、最も好ましくは0.1~100cm/m・day・atmである樹脂を指す。
中間層(b)中のガスバリア性樹脂は、エチレン-ビニルアルコール共重合体(以下EVOHと略記することがある)と称されるエチレン-酢酸ビニル共重合体部分ケン化物、グリコール酸(共)重合体樹脂(以下、PGAと略記することがある)、塩化ビニリデン共重合体(以下、PVDCと略記することがある)、ポリビニルアルコール(PVA)、メタキシレンジアミンとアジピン酸との重縮合反応から得られる結晶性ポリアミド(MXD6)、脂肪族ポリアミド(PA)樹脂(例えば、ナイロン6など)、非晶質芳香族ポリアミド系樹脂(例えば、ナイロン6I-6Tなど)、ポリアクリロニトリル系共重合体(PAN)、ポリエチレンテレフタレート(PET)などから選択できる。中間層(b)は、被包装物の酸化劣化を防ぐため優れた酸素に対するバリア性を与える樹脂が好ましい。
【0037】
中間層(b)として好ましいガスバリア性樹脂は、EVOHであり、特にエチレン含有率が20~60モル%、好ましくは30~50モル%で、かつケン化度が95%以上であるEVOHが好ましい。EVOHのエチレン含有率が上記範囲より低いと、延伸加工性が阻害される傾向にあり、エチレン含有率が60モル%より大きいと、酸素ガスバリア性が悪くなる傾向にある。さらに、EVOHのケン化度が95%より小さいと、酸素ガスバリア性が悪くなる傾向にある。EVOHは、例えば、クラレ社から「EVAL」という名称で販売されている。
【0038】
中間層(b)として好ましいガスバリア性樹脂として、グリコール酸(共)重合体樹脂がある。グリコール酸(共)重合体樹脂としては、例えば、ポリグリコール酸の単独重合体、ポリグリコール酸の共重合体を挙げることができる。また、本発明においては、前記グリコール酸(共)重合体樹脂が、下記一般式による繰り返し単位を60質量%以上の割合で含有するポリグリコール酸から形成されたものであることが好ましく、上記繰り返し単位を70質量%以上の割合で含有するポリグリコール酸から形成されたものであることがより好ましく、上記繰り返し単位を80質量%以上の割合で含有するポリグリコール酸から形成されたものであることが特に好ましい。前記ポリグリコール酸中の下記一般式により表される繰り返し単位が前記下限未満であると、ポリグリコール酸が本来有している結晶性が損なわれ、得られる熱収縮性多層フィルムのガスバリア性や耐熱性が低下する傾向にある。
【化1】
前記グリコール酸(共)重合体樹脂は、EVOHやPVDCといった他のガスバリア性樹脂と比較し、単位厚み当たりの酸素ガス透過度が低いため、より中間層(b)の厚みを薄くしても、実用にたるガスバリア性を発現できる。結果、ポリオレフィン層の体積比を増やすことにつながり、リサイクル性の向上が期待できる。
また、前記グリコール酸(共)重合体樹脂は、加水分解性を有する樹脂であり、加水分解によりランダムに分子鎖が切断され低分子量化していき、強度が保持できないほど低分子量化すると崩壊し、さらに分子量低下が進むと水に溶解することが知られている。中間層(b)が加水分解した後に本発明の熱収縮性多層フィルムのリサイクルを行うことで、より高いポリオレフィン比率でリサイクルすることが可能であり、リサイクル性の向上が期待できる。
【0039】
内表面層(c)は、シール可能な熱可塑性樹脂として、ポリオレフィン系樹脂を含む。内表面層(c)は、熱収縮性多層フィルムに要求される特性のうち、優れたヒートシール性を備えた樹脂であることが好ましいが、それに加えて機械特性、収縮特性、水蒸気に対するバリア性及びマテリアルリサイクル適性を備えていることがより好ましい。
【0040】
内表面層(c)に使用される樹脂は、外表面層(a)で挙げたものと同様のポリオレフィン系樹脂から選択することができるが、特に、JIS K 7121に準拠してDSC示差走査熱量計により昇温速度10℃/minで得られた融点が、80~150℃、好ましくは95~130℃である樹脂がヒートシール性を考慮すると好ましい。フィルムの融点が80℃より低いと、内表面層(c)同士の固着(ブロッキング)を起こしやすくなり、150℃より高いと、シール可能な温度が高くなり、また、トリプルバブルインフレーションにおける延伸性を阻害する傾向にある。また、フィルムの透明性を阻害しない範囲で、滑剤などの添加剤を加えることができる。
【0041】
内表面層(c)中のポリオレフィン系樹脂としては、内表面層(c)同士の固着(ブロッキング)を抑制するために、VLDPEとLLDPEから選ばれる少なくとも1種とCOCの混合物を用いることができる。混合物におけるCOCの質量比率(混合割合)は、1~70質量%が好ましく、20~60質量%がより好ましく、40~50質量%が更に好ましい。COCの質量が1質量%より少ないと、固着抑制効果に乏しい傾向にあり、70質量%より多いと、ヒートシール性が低下する傾向にある。
【0042】
内表面層(c)に使用されるCOCは、外表面層(a)で挙げたものと同様のCOCから選択することができ、例えば、ガラス転移温度が50~68℃であるCOCを使用できる。また、内表面層(c)の低温でのヒートシール性を向上させるため、ガラス転移点が0~10℃のCOCをさらにブレンドすることもできる。すなわち、ガラス転移温度が50~68℃であるCOCと、ガラス転移温度が-10~20℃であるCOCとの何れか又は両方を使用することができる。ガラス転移点が0~10℃のCOCの質量比率(混合割合)は、内表面層(c)を構成する樹脂を100質量%とした時に、5~30質量%が好ましく、10~20質量%がより好ましい。ガラス転移点が0~10℃のCOCが5質量%より少ないと、低温ヒートシール性の改善効果が乏しい傾向にあり、30質量%より多いと、ブロッキングの抑制効果が低下する傾向にある。
【0043】
本発明の熱収縮性多層フィルムは、上記したポリオレフィン系樹脂を含む外表面層(a)、ガスバリア樹脂を含む中間層(b)、及びポリオレフィン系樹脂を含む内表面層(c)を必須の構成層として含むものであるが、その他に多層フィルムの機能性あるいは加工性を改善するなどの目的で、ガスバリア性樹脂を含む中間層(b)以外の中間層に他層(z)を必要に応じて複数含めることができる。このような他層(z)の例としては、前記ポリオレフィン系樹脂を含む層が好ましい。また、各層間の接着力が十分でない場合などには、接着性樹脂層を設けることができる。
【0044】
前記接着性樹脂層は各層間に、必要に応じて設けることができる。接着性樹脂として、EVA、EEA、酸変性ポリオレフィン(オレフィン類の単独又は共重合体などと、マレイン酸やフマル酸などの不飽和カルボン酸や酸無水物やエステルもしくは金属塩などとの反応物など、例えば、酸変性VLDPE、酸変性LLDPE、酸変性EVA)などが使用できる。好適なものとしては、マレイン酸などの酸、又はこれらの無水物などで変性されたオレフィン系樹脂が挙げられる。
【0045】
他層(z)に選択される熱可塑性樹脂の融点は、40~170℃が好ましく、50~160℃がより好ましい。融点が40℃より低いと、多層フィルムの耐熱性が悪化する傾向にあり、170℃より高いと、使用後の熱収縮性多層フィルムをマテリアルリサイクルする際、溶融混錬するときの温度が高くなってしまう傾向にあるため、リサイクル品が熱劣化により黄色味を帯びやすくなる傾向にある。
【0046】
また、上記の層構成において、いずれかの層に有機滑剤、無機滑剤(アンチブロッキング剤)及び/又は帯電防止剤を添加することができる。
【0047】
有機及び/又は無機の滑剤は、フィルム製造時のフィルムの滑り性、二次加工時の製袋性ならびに内容物の充填における包装機械適性などを改善するために、なかでも前記内表面層(c)あるいは前記外表面層(a)に含ませることが好ましい。更に、必要に応じてフィルムの内外表面にコーンスターチなどのパウダリングを行なうことができる。
【0048】
有機滑剤としては、炭化水素系滑剤、脂肪酸系滑剤、脂肪酸アミド系滑剤、エステル系滑剤、金属石鹸類などがあげられる。有機滑剤は、液状であってもよいし、固体状であってもよい。これらの滑剤の中では、脂肪酸アミド系滑剤、金属石鹸類がポリオレフィン樹脂との相溶性が優れるという点から好ましく用いられる。有機滑剤は、所望の層中に、0.1~0.2質量%の割合で用いることが好ましい。
【0049】
無機滑剤(アンチブロッキング剤)としては、フィルム同士の固着を抑制させる目的で樹脂中に添加される公知の無機系の充填剤、例えばタルク、珪藻土、シリカ、ゼオライト、炭酸カルシウム、アルミノシリケートなどを用いることができる。例えばシリカ、アルミノシリケート、ゼオライトなどが屈折率や分散性の観点から好ましく用いられる。
【0050】
また、無機滑剤のコールターカウンター法測定によるメディアン体積平均粒径D50は好ましくは0.5~10μm、更に好ましくは1~7μmである。前記平均粒径を有する無機滑剤について、粒径10μmを超える部分をカットしたものを用いることがより好ましい。無機滑剤の添加量は所望の層中に、例えば0.05~2質量%であり、特に0.1~1質量%が好ましい。
【0051】
有機または無機の滑剤は、いずれも所望の層を構成する樹脂類あるいはこれと親和性の樹脂に滑剤を、例えば1~10質量%程度の濃度で含ませたマスターバッチとして、所望の樹脂層中に添加することが好ましい。
【0052】
帯電防止剤としては、界面活性剤が好ましく用いられる。界面活性剤としては、アニオン活性剤、カチオン活性剤、非イオン活性剤、両性活性剤及びそれらの混合物を使用することができる。帯電防止剤は、必要に応じて添加すべき層の樹脂に対して0.05~2質量%の割合で添加することができる。
【0053】
本発明の熱収縮性多層フィルムは、各層を積層して、延伸することにより、最終的に厚さが10~150μm、特に30~120μmの範囲のフィルムに形成することが望ましい。
【0054】
より詳しくは、前記外表面層(a)は、例えば0.5~50μm、好ましくは0.5~30μm、より好ましくは0.5~20μmである。
また、前記中間層(b)は、0.5~30μm、特に1~10μmであることが好ましい。ガスバリア性樹脂からなる中間層(b)の厚みが0.5μmより薄いと、酸素バリアの改善効果が乏しい傾向にあり、30μmよりも厚いと多層フィルムの延伸加工が難しくなり、かつマテリアルリサイクル性を阻害する傾向にある。
また、前記内表面層(c)は、必要十分なシール強度を多層フィルムに付与するために、0.5~50μmが好ましく、1~30μmがより好ましい。
また、接着性樹脂層は、複数設けることができるが、各層の厚さは0.5~15μmが好ましい。
なお、前記中間層(b)にグリコール酸(共)重合体樹脂を使用する場合は、酸素ガスバリア性に優れることから、中間層(b)は0.1~30μm、好ましくは0.2~10μmの厚みでもよい。
【0055】
本発明に用いる熱収縮性多層フィルムの酸素ガス透過度(OTR)は、JIS K 7126に従って、酸素透過度試験器(MOCON社製、「OX-TRAN 2/20」)を用いて温度23℃、両側の相対湿度80%の条件下で測定した。例えば生肉を包装する場合においては、熱収縮性多層フィルムの酸素ガス透過度が、1~100cm/m・day・atmであることが好ましく、1~80cm/m・day・atmであることがより好ましく、1~60cm/m・day・atmであることが特に好ましい。酸素ガス透過度が100cm/m・day・atmを超えると、酸化劣化により保存性が低下し、生肉を包装した場合に5℃以下の条件で40日間の保存ができなくなる傾向にある。
【0056】
本発明の熱収縮性多層フィルムは、23℃、50%RHの雰囲気下において、曲率半径0.5mmの半球状先端部を有する突刺し用ピンを用いて、50mm/minの速度で固定した試料の内表面層から突刺し、破断に至るまでの最大点の測定値(N)を厚み(μm)で割った値(単位厚さ当たりの突刺し強さ)が、0.20~0.50N/μmであることが好ましく、0.22~0.45N/μmであることがより好ましく、0.30~0.40N/μmであることが最も好ましい。前記突刺し強さが、0.20N/μmより小さい場合、特に骨付き肉などの突起や硬い食品を包装した包装体を流通する場合、落下などの衝撃による破袋やピンホールの発生を抑止するために、より大きな厚みが必要となる傾向にあり、コストや製膜性の観点から好ましくない。前記突刺し強さが、0.50N/μmより大きい場合、前記フィルムの剛性が高くなるために、前記フィルムを用いた二次加工時の製袋性ならびに内容物の充填における包装体の開封性に劣る傾向にあり、このような作業性の観点から好ましくない。
【0057】
本発明の熱収縮性多層フィルムは、温度80℃の熱水に10秒間浸した後のフィルムの熱水収縮率が、MD(縦方向)/TD(横方向)いずれかに40~60%、好ましくは43~55%であることが好ましい。熱水収縮率が40%より低い場合、非包装体の大きさや形状によっては、内容物にタイトフィットできず、美麗な包装をすることができなくなる傾向にある。また、60%より大きい場合、内容物を過度に締め付け、例えば食肉の包装時にはドリップ(血)が出やすくなる傾向にある。
【0058】
本発明の熱収縮性多層フィルムは、TD方向の引張弾性率が、200~600MPaであることが好ましく、300~550MPaであることがより好ましい。弾性率が200MPaより低い場合、内容物充填時の機械適性に劣る傾向にあり、600MPaより大きい場合、硬く内容物への追従性に劣る傾向にある。本明細書において、TD方向の引張弾性率は、後述の実施例に記載の方法により測定される値である。
【0059】
本発明の熱収縮性多層フィルムがポリアミド系樹脂を含む場合、ポリオレフィン系樹脂との非相溶性のため、マテリアルリサイクル性が乏しくなる。上記理由より、ポリアミド系樹脂を含む場合には、全層の総厚みを100%とした時に、全層に占めるポリアミドを含む層の厚みの割合は、10%未満が好ましく、5%未満がより好ましく、2%未満がさらに好ましい。ポリアミドは熱水収縮を阻害するため、10%以上である場合、温度80℃の熱水に10秒間浸した後のフィルムのMD(縦方向)又はTD(横方向)の熱水収縮率を40%以上にすることが困難となる傾向にある。
【0060】
ポリアミド系樹脂としては、脂肪族ポリアミド系樹脂、非晶質芳香族ポリアミド系樹脂が好ましく用いられる。脂肪族ポリアミド系樹脂としては、ポリアミド6(ナイロン6)重合体、ポリアミド6-66(ナイロン6-66)共重合体、ポリアミド6-69(ナイロン6-69)共重合体、ポリアミド6-12(ナイロン6-12)共重合体、ポリアミド6-66-12(ナイロン6-66-12)共重合体が好ましく用いられる。非晶質芳香族ポリアミド系樹脂としては、例えば、イソフタル酸及びテレフタル酸を主たる酸成分とする脂肪族ジアミンとの重縮合物が用いられる。酸成分としては、イソフタル酸成分40モル%以上98モル%以下及びテレフタル酸成分2モル%以上60モル%以下を含む混合物が好ましく用いられる。特に汎用性の観点から脂肪族ジアミンがヘキサメチレン単独からなり、ナイロン6I-6T(Ny6I-6T)と通称される非晶質ナイロン共重合体が好ましく用いられる。
【0061】
本発明の熱収縮性多層フィルムがポリエステル系樹脂を含む場合、ポリオレフィン系樹脂との非相溶性のため、マテリアルリサイクル性が乏しくなる。上記理由より、ポリエステル系樹脂を含む場合には、全層の総厚みを100%とした時に、全層に占めるポリエステルを含む層の厚みの割合は、10%未満が好ましく、5%未満がより好ましく、2%未満がさらに好ましい。ポリエステル系樹脂が10%以上であると、熱収縮性多層フィルムをマテリアルリサイクルのために溶融混錬するとき、ポリオレフィンとの非相溶性のため、リサイクルシートのヘイズ値及び内部ヘイズ値が増加する傾向にある。
【0062】
ポリエステル系樹脂としては、例えば、脂肪族ポリエステル系樹脂と、芳香族ポリエステル系樹脂が用いられ、このポリエステル系樹脂に用いるジカルボン酸成分としては、通常の製造方法でポリエステルが得られるものであれば良く、例えば、テレフタル酸、イソフタル酸、不飽和脂肪酸の二量体からなるダイマー酸、アジピン酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、アゼライン酸、セバシン酸、フタル酸、5-t-ブチルイソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、ジフェニルエーテルジカルボン酸、シクロヘキサンジカルボン酸などがあげられ、2種以上を使用してもよい。また、ポリエステル系樹脂に用いるジオール成分としては、通常の製造方法でポリエステルが得られるものであれば良いが、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、テトラメチレングリコール、ネオペンチルグリコール、ヘキサメチレングリコール、ジエチレングリコール、ポリアルキレングリコール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、2-アルキル-1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオールなどが挙げられ、2種以上を使用しても良い。
【0063】
本発明の熱収縮性多層フィルムは、アイオノマー及び電子線架橋層を含まないことが好ましい。アイオノマーは、コストの観点で好ましくなく、また、厚み当たりの突刺し強さや弾性率が低くなる傾向にあり、電子線架橋層は、溶融時にゲル化するためマテリアルリサイクル性を阻害する傾向にある。
【0064】
本発明の熱収縮性多層フィルムがアイオノマー樹脂を含む場合には、コストと単位厚さ当たりの突刺し強さの観点から、全層の総厚みを100%とした時に、全層に占めるアイオノマーを含む層の厚みの割合は、20%未満が好ましく、10%未満がより好ましく、5%未満が最も好ましい。アイオノマー樹脂が20%以上であると、単位厚さ当たりの突刺し強さが小さくなるため、突起や硬い食品を包装した包装体を流通する場合、落下などの衝撃による破袋やピンホールの発生を抑止するために、より大きな厚みが必要となる傾向にあり、コストと製膜性の観点から好ましくない。
【0065】
アイオノマー樹脂としては、ベースポリマーとして、エチレン-不飽和カルボン酸共重合体又はエチレン-エチレン性不飽和カルボン酸-エチレン性不飽和カルボン酸エステル三元共重合体(好ましくは、エチレン-エチレン性不飽和カルボン酸-エチレン性不飽和カルボン酸エステル三元共重合体)を用い、これら共重合体中のカルボキシル基を陽イオンで中和した樹脂が挙げられる。前記不飽和カルボン酸としては、メタクリル酸、アクリル酸が好ましく、不飽和カルボン酸エステルとしては、メタクリル酸又はアクリル酸の炭素数1~6のアルキルエステルが好ましい。また、前記三元共重合体としては、エチレン-メタクリル酸-アクリル酸イソブチルエステル等のエチレン-メタクリル酸(又はアクリル酸)-メタクリル酸アルキルエステル(又はアクリル酸アルキルエステル)が好ましい。
【0066】
前記陽イオンとしては、Na、K、Li、Cs、Ag、Hg、Cu、Mg2+、Zn2+、Be2+、Ca2+、Ba2+、Cu2+、Cd2+、Hg2+、Sn2+、Pb2+、Fe2+、Co2+、Ni2+、Al3+、Sc3+、Fe3+、Y3+などの金属イオン、有機アミン等が挙げられる。これらの陽イオンのうち、Na、K、Ca2+、Zn2+が好ましい。
【0067】
本発明の熱収縮性多層フィルムは、その回収物を再利用のため溶融成形する際に、樹脂の劣化(分解・ゲル化)や層分離による外観の悪化が抑制され、マテリアルリサイクル性に優れることを特徴とする。
【0068】
本発明の熱収縮性多層フィルムは、フィルムをそのまま溶融混錬機内で混錬後、プレス機を用いて150kgf/cmの圧力で70~120μmの厚みにシート成形したシートの曇り度(ヘイズ値)は、シート厚み100μmあたりの値(HA)として1~85%であることが好ましく、1~80%であることがより好ましい。本発明におけるヘイズ値(HA)は小さい方が好ましく、85%より大きい場合は、マテリアルリサイクル品の外観を損なう。
さらに、本発明の熱収縮性多層フィルムは、フィルムをそのまま溶融混錬機内で混錬後、プレス機を用いて150kgf/cmの圧力で70~120μmの厚みにシート成形したシートの内部ヘイズ値は、シート厚み100μmあたりの値(HI)として1~80%であることが好ましく、1~75%であることがより好ましい。本発明における内部ヘイズ値(HI)が80%より大きい場合、シートに含まれる樹脂の相溶性が著しく悪い可能性があり、機械特性に劣る傾向にある。
さらに、本発明の熱収縮性多層フィルムは、フィルムをそのまま溶融混錬機内で混錬後、プレス機を用いて150kgf/cmの圧力で70~120μmの厚みにシート成形したシートの黄色味(b)値が、シート厚み100μmあたりの値(BY)として1~10、より好ましくは1~8、最も好ましくは1~6であることが望ましい。本発明におけるb値(BY)は小さい方が好ましく、数値が大きいほど樹脂が分解している傾向にあり、10より大きい場合は、マテリアルリサイクル品の外観を損なう。
なお、フィルムをそのまま溶融混錬機内で混錬後、シート成形し、曇り度(ヘイズ値)、内部ヘイズ値、及び黄色味(b)値を測定する方法は、後述の実施例に記載の方法が挙げられる。
なお、シート厚み100μmあたりのヘイズ値(HA)、内部ヘイズ値(HI)、b値(BY)は、以下の計算式から算出できる。
100μmあたりのヘイズ値(HA)=ヘイズ値の測定値×測定したシート厚み(μm)/100
100μmあたりの内部ヘイズ値(HI)=内部ヘイズ値の測定値×測定したシート厚み(μm)/100
100μmあたりのb値(BY)=b値の測定値×測定したシート厚み(μm)/100
【0069】
本発明の熱収縮性多層フィルムの層構成の好ましい態様の例を次に示す。ただし、これらはあくまでも例示であって、本発明はこれらのみに限定されるものではない。なお、COC2はCOCとは別の種類のCOCを意味する。
(1)LLDPE+COC/接着性樹脂/EVOH/接着性樹脂/LLDPE
(2)LLDPE/接着性樹脂/EVOH/接着性樹脂/LLDPE+COC
(3)LLDPE/接着性樹脂/EVOH/接着性樹脂/LLDPE+COC+COC2
(4)LLDPE+COC/接着性樹脂/LLDPE/接着性樹脂/EVOH/接着性樹脂/LLDPE
(5)LLDPE/接着性樹脂/LLDPE+COC/接着性樹脂/EVOH/接着性樹脂/LLDPE
(6)LLDPE/接着性樹脂/LLDPE/接着性樹脂/EVOH/接着性樹脂/LLDPE+COC
(7)LLDPE/接着性樹脂/LLDPE/接着性樹脂/EVOH/接着性樹脂/LLDPE+COC+COC2
(8)LLDPE+COC/接着性樹脂/LLDPE+COC/接着性樹脂/EVOH/接着性樹脂/LLDPE
(9)VLDPE+COC/接着性樹脂/EVOH/接着性樹脂/VLDPE
(10)VLDPE/接着性樹脂/EVOH/接着性樹脂/VLDPE+COC
(11)VLDPE/接着性樹脂/EVOH/接着性樹脂/VLDPE+COC+COC2
(12)VLDPE+COC/接着性樹脂/VLDPE/接着性樹脂/EVOH/接着性樹脂/VLDPE
(13)VLDPE/接着性樹脂/VLDPE+COC/接着性樹脂/EVOH/接着性樹脂/VLDPE
(14)VLDPE/接着性樹脂/VLDPE/接着性樹脂/EVOH/接着性樹脂/VLDPE+COC
(15)VLDPE/接着性樹脂/VLDPE/接着性樹脂/EVOH/接着性樹脂/VLDPE+COC+COC2
(16)VLDPE+COC/接着性樹脂/VLDPE+COC/接着性樹脂/EVOH/接着性樹脂/VLDPE
(17)LLDPE+COC/接着性樹脂/EVA/接着性樹脂/EVOH/接着性樹脂/LLDPE
(18)LLDPE/接着性樹脂/EVA/接着性樹脂/EVOH/接着性樹脂/LLDPE+COC
(19)LLDPE/接着性樹脂/EVA/接着性樹脂/EVOH/接着性樹脂/LLDPE+COC+COC2
(20)VLDPE+COC/接着性樹脂/EVA/接着性樹脂/EVOH/接着性樹脂/VLDPE
(21)VLDPE/接着性樹脂/EVA/接着性樹脂/EVOH/接着性樹脂/VLDPE+COC
(22)VLDPE/接着性樹脂/EVA/接着性樹脂/EVOH/接着性樹脂/VLDPE+COC+COC2
(23)LLDPE/接着性樹脂/LLDPE+COC/接着性樹脂/PGA/接着性樹脂/LLDPE+COC
(24)LLDPE+COC/接着性樹脂/PGA/接着性樹脂/LLDPE
(25)LLDPE/接着性樹脂/PGA/接着性樹脂/LLDPE+COC
(26)LLDPE/接着性樹脂/PGA/接着性樹脂/LLDPE+COC+COC2
(27)LLDPE+COC/接着性樹脂/LLDPE/接着性樹脂/PGA/接着性樹脂/LLDPE
(28)LLDPE/接着性樹脂/LLDPE+COC/接着性樹脂/PGA/接着性樹脂/LLDPE
(29)LLDPE/接着性樹脂/LLDPE/接着性樹脂/PGA/接着性樹脂/LLDPE+COC
(30)LLDPE/接着性樹脂/LLDPE/接着性樹脂/PGA/接着性樹脂/LLDPE+COC+COC2
(31)LLDPE+COC/接着性樹脂/LLDPE+COC/接着性樹脂/PGA/接着性樹脂/LLDPE
(32)VLDPE+COC/接着性樹脂/PGA/接着性樹脂/VLDPE
(33)VLDPE/接着性樹脂/PGA/接着性樹脂/VLDPE+COC
(34)VLDPE/接着性樹脂/PGA/接着性樹脂/VLDPE+COC+COC2
(35)VLDPE+COC/接着性樹脂/VLDPE/接着性樹脂/PGA/接着性樹脂/VLDPE
(36)VLDPE/接着性樹脂/VLDPE+COC/接着性樹脂/PGA/接着性樹脂/VLDPE
(37)VLDPE/接着性樹脂/VLDPE/接着性樹脂/PGA/接着性樹脂/VLDPE+COC
(38)VLDPE/接着性樹脂/VLDPE/接着性樹脂/PGA/接着性樹脂/VLDPE+COC+COC2
(39)VLDPE+COC/接着性樹脂/VLDPE+COC/接着性樹脂/PGA/接着性樹脂/VLDPE
(40)LLDPE+COC/接着性樹脂/EVA/接着性樹脂/PGA/接着性樹脂/LLDPE
(41)LLDPE/接着性樹脂/EVA/接着性樹脂/PGA/接着性樹脂/LLDPE+COC
(42)LLDPE/接着性樹脂/EVA/接着性樹脂/PGA/接着性樹脂/LLDPE+COC+COC2
(43)VLDPE+COC/接着性樹脂/EVA/接着性樹脂/PGA/接着性樹脂/VLDPE
(44)VLDPE/接着性樹脂/EVA/接着性樹脂/PGA/接着性樹脂/VLDPE+COC
(45)VLDPE/接着性樹脂/EVA/接着性樹脂/PGA/接着性樹脂/VLDPE+COC+COC2
【0070】
本発明に係る熱収縮性多層フィルムは、例えば、
溶融された樹脂を管状に共押出し、ポリオレフィン系樹脂を含む外表面層(a)、ガスバリア性樹脂を含む中間層(b)、及びポリオレフィン系樹脂を含む内表面層(c)の少なくとも3層からなる管状体を形成する工程と、
管状体を前記樹脂の融点以下に冷却し、その後管状体を前記樹脂の融点以下の温度に再加熱し、管状体の内部に流体を入れながら管状体を縦方向(MD)に引出しつつ縦方向及び横方向(TD)に延伸して二軸延伸フィルムを形成する工程と、
次いで、二軸延伸フィルムを折り畳み、その後二軸延伸フィルムの内部に流体を入れながら、二軸延伸フィルムの外表面側から熱処理を行い、熱処理と同時に縦方向及び横方向に緩和(収縮)処理する工程を含む方法によって製造することができる。
前記二軸延伸フィルムを形成する工程では、TD方向延伸直前部(図1のαの位置)の管状体の樹脂の表面温度が75~90℃であり、インフレ―ションバブルの下部ショルダー形成部(図1のβの位置)における樹脂の表面温度が、前記TD方向延伸直前部における樹脂の表面温度よりもが5~30℃の範囲で低下することが好ましい。
【0071】
より具体的には、本発明の熱収縮性多層フィルムは、例えば図1に示す装置を用いて製造することができる。図1に示す装置において、例えば、多層フィルムを構成する積層樹脂種数に応じた台数(1台のみ図示)の押出機1より環状ダイ2を経て、必要に応じ大豆油、グリセリンの脂肪酸エステル、プロピレングリコールなどに代表される開封剤を内封しつつ、外表面層、中間層、及び内表面層を有する管状体(パリソン)3を共押出しし、共押出し直後の溶融管状体3を水浴4により各層に占める主たる樹脂の融点以下、好ましくは20℃以下、更に好ましくは15℃以下に冷却しつつピンチローラ5で扁平にして引き取る。
次に、引き取られた扁平体3a(多層フィルム)に、必要に応じ大豆油、グリセリンの脂肪酸エステル、プロピレングリコールなどに代表される開封剤を内封しつつ、扁平体3aを各層に占める主たる樹脂の融点以下の、例えば75~95℃の温水浴6中に導入して、加熱された扁平体3bを上方に引き出す。
そして、一対のピンチローラ7及び8間に導入した流体空気により、扁平体3bからバブル状の管状体3cを形成させ、10~30℃、5~20m/sのエアリング装置から吹き出る冷却媒体で冷却しながら、機械方向(縦方向、MD)及び機械方向に垂直な方向(横方向、TD)に同時二軸延伸する。
この際、TD方向延伸直前部(図1のαの位置)の管状体3cの表面温度は、赤外線サーモグラフィー(Teledyne FLIR LLC 「FLIR E4」)で、放射率を0.83に設定した計測で75~90℃であることが好ましく、80~88℃であることがより好ましい。前記TD方向延伸直前部の表面温度が、75℃より低い場合、管状体3cの降伏点応力が大きいため、内封された流体空気の内圧が高くなるため延伸が難しくなる傾向にあり、90℃より高い場合、TD方向の延伸を止めることが難しくなる傾向にある。
また、管状体3cの下部ショルダー形成部(図1のβの位置)の表面温度は、前記TD方向延伸直前部(図1のαの位置)より5~30℃の範囲で冷却されることが好ましく、10~20℃の範囲で冷却されることがさらに好ましい。5℃より小さい場合、管状体3cが破裂しやすくなる傾向にあり、30℃より大きい場合、管状体3cの幅が小さくなる傾向にある。
延伸倍率は下記の式に基づき算出し、双方向ともに好ましくは2.0~4.0倍、より好ましくは2.5~3.5倍、特に好ましくは2.8~3.5倍とする。
式1:縦方向(MD)延伸倍率=ピンチローラ8の引き取り速度/ピンチローラ7の引き取り速度
式2:横方向(TD)延伸倍率=扁平体3dの幅/扁平体3bの幅
【0072】
次いで、延伸後の扁平体3dを下方に引き出し、一対のピンチローラ10及び11間に導入した流体空気により、扁平体3dから再度バブル状の管状体3eを形成させ、熱処理筒12中に保持する。そして、この熱処理筒12の吹出し口13よりスチームを単独で、あるいは空気とともに吹き付け、熱処理中の管状体3eを好ましくは50℃以上100℃以下、より好ましくは60℃以上95℃以下において、好ましくは1秒以上20秒以下、より好ましくは1.5秒以上10秒以下程度熱処理する。
そして、熱処理中の管状体3eを縦方向(MD)及び横方向(TD)に緩和率が好ましくは2%以上40%以下、より好ましくは5%以上30%以下となるように緩和(収縮)させる。双方向の緩和率は下記の式に基づき算出する。
式3:縦方向(MD)緩和率=(1-(ローラ11の引き取り速度/ローラ10の引き取り速度))×100(%)
式4:横方向(TD)緩和率=(1-(扁平体3fの幅/扁平体3dの幅))×100(%)
【0073】
このような緩和熱処理後の扁平体3fは、本発明の熱収縮性多層フィルムに相当するも
のであり、巻き取りロール14に巻き取られる。
【実施例
【0074】
以下、実施例及び比較例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0075】
実施例及び比較例において使用した樹脂を、その略号とともに下記表1にまとめて示す。なお、備考欄の〇は、本明細書におけるポリオレフィン系樹脂であることを意味する。
【0076】
【表1】
【0077】
(実施例1)
インフレーション装置を用い、層構成が外側から内側へ、LLDPE1/MA-g-PE/EVA1/MA-g-PE/EVOH/MA-g-PE/LLDPE1+COC1(50質量%+50質量%)となるように、各樹脂を複数の押出機でそれぞれ押出し、溶融された樹脂を環状ダイに導入し、ここで上記層構成となるように溶融接合し、共押出した。ダイ出口から流出した溶融管状体を水浴中で、10~25℃に急冷し、扁平巾157mm、厚さ270μmの扁平体とした。次いで、該扁平体を90℃±5℃にコントロールされた温水浴中を通過させた後、バブル形状の管状体フィルムとし、20℃、15m/sのエアリングから吹き出る冷却媒体で冷却しながらインフレーション法により縦方向(MD)に2.4倍、横方向(TD)に2.8倍の延伸倍率で同時二軸延伸した。この際、TD方向延伸直前部(図1のαの位置)の管状体の表面温度は80℃であり、管状体の下部ショルダー(図1のβの位置)の温度は65℃であり、前記TD方向延伸直前部の表面温度よりも15℃低い値であった。次いで、該二軸延伸フィルムを、360℃のIR熱処理ヒーターによって縦方向に3%、横方向に6%緩和(収縮)させながら熱処理し、二軸延伸フィルム(熱収縮性多層フィルム)を製造した。得られた二軸延伸フィルムの層構成、全体及び各層の厚み(μm)、全体に占めるポリオレフィン系樹脂及び環状オレフィンコポリマーの質量の割合、インフレーション法による延伸の可否を、他の実施例及び比較例のそれらとともにまとめて表2に示す。なお、比較例3の「※」は電子線架橋層であることを意味し、「延伸可否」の「〇」及び「×」はそれぞれ延伸可能及び延伸不可能であることを意味する。
ここで、表2に記載の実施例1の「PO質量比(wt%)」と「COC質量比(wt%)」の算術計算方法を例示する。
「PO質量比(wt%)」:95≒(100×(0.903×1.4+0.9×1.0+0.94×20.0+0.9×1.0+0.9×1.0+(0.903×0.5+1.01×0.5)×12.0))/(0.903×1.4+0.9×1.0+0.94×20.0+0.9×1.0+1.12×1.6+0.9×1.0+(0.903×0.5+1.01×0.5)×12.0))
「COC質量比(wt%)」:16≒(100×(0.903×0.5+1.01×0.5)×12.0×0.5))/((0.903×1.4+0.9×1.0+0.94×20.0+0.9×1.0+1.12×1.6+0.9×1.0+(0.903×0.5+1.01×0.5)×12.0))
【0078】
(実施例2~5、比較例1)
層構成を表2に記載の通りに変更する以外は、実施例1と同様にして、各種二軸延伸フィルム(熱収縮性多層フィルム)を得た。なお、比較例1については、インフレーション法により二軸延伸することができずに、二軸延伸フィルム(熱収縮性多層フィルム)を得ることができなかった。
【0079】
(比較例2)
インフレーション装置を用い、層構成が外側から内側へ、Co-PET/MA-g-PE/PA6+A-PA(85質量%+15質量%)/EVOH/MA-g-PE/VLDPEとなるように、各樹脂を複数の押出機でそれぞれ押出し、溶融された樹脂を環状ダイに導入し、ここで上記層構成となるように溶融接合し、共押出した。ダイ出口から流出した溶融管状体を水浴中で、20℃に急冷し、フィルム状の扁平体とした。次いで、該扁平体を87℃の温水浴中を通過させた後、バブル形状の管状体フィルムとし、22℃のエアリングで冷却しながらインフレーション法により縦方向(MD)に3.0倍、横方向(TD)に3.1倍の延伸倍率で同時二軸延伸した。次いで、該二軸延伸フィルムを、約2mの筒長を有する熱処理塔中に導き、バブル形状の管状体フィルムとし、拭き出口より噴出させたスチームにより70℃に加熱し、縦方向に6%、横方向に6%緩和(収縮)させながら熱処理し、二軸延伸フィルム(熱収縮性多層フィルム)を製造した。
【0080】
(比較例3)
インフレーション装置を用い、層構成が外側から内側へ、VLDPE/EVA2/EMA/PVDC/EMA/EVA2/EVA3となるように、各樹脂を複数の押出機でそれぞれ押出し、溶融された樹脂を環状ダイに導入し、ここで上記層構成となるように溶融接合し、共押出した。ダイ出口から流出した溶融管状体を水浴中で、12℃に急冷し、扁平体とした。次いで、該扁平体を加速電圧300KeVの電子線照射装置中で扁平体の外側から電子線照射して80キログレイの照射線量を与えた。次に、82℃の温水浴中を通過させた後、バブル形状の管状体フィルムとし、15℃以上20℃以下のエアリングで冷却しながらインフレーション法により縦方向(MD)に3.1倍、横方向(TD)3.0倍の延伸倍率で同時二軸延伸し、二軸延伸フィルム(熱収縮性多層フィルム)を製造した。
【0081】
<熱収縮性多層フィルムの評価>
以下の方法によって、実施例及び比較例で得られた熱収縮性多層フィルムの突刺し強さ、熱水収縮率、引張弾性率、及びマテリアルリサイクル性を測定した。突刺し強さは、フィルムの内表面層側から測定した。測定により得られた数値を表2に示す。
【0082】
(1)突刺し強さ
JIS Z 1707に準拠し、23℃、50%RHの雰囲気下において、曲率半径0.5mmの半球状先端部を有する突刺し用ピンを取り付けたテンシロン万能材料試験機(オリエンテック社製「RTC-1210型」)を用いて、該突刺しピンを50mm/minの速度で、固定した試料の内表面層から突刺し、破断に至るまでの最大点の測定値(N)を厚み(μm)で割った値を、内表面層側からの突刺し強さとした。
【0083】
(2)熱水収縮率
フィルムの機械方向(縦方向、MD)及び機械方向に垂直な方向(横方向、TD)に10cmの距離で印をつけたフィルム試料を、80℃に調整した熱水に10秒間浸した後、取り出し、直ちに常温(25±5℃)の水で冷却した。その後、印をつけた距離を測定し、10cmからの減少値の元長10cmに対する割合を縦及び横方向についてそれぞれ百分率で表示した。1試料について5回試験を行い、縦方向(MD)及び横方向(TD)のそれぞれについての平均値を求め、熱水収縮率とした。
【0084】
(3)引張弾性率
JIS K 7127に準拠し、23℃、50%RHの雰囲気下において、巾20mm、長さ130mmの短冊状のフィルム試料を、テンシロン万能材料試験機(オリエンテック社製「RTC-1210型」)にチャック間100mmになるように装着し、フィルムの機械方向(縦方向、MD)及び機械方向に垂直な方向(横方向、TD)に引張速度10mm/minで5mm伸長し、その際のひずみと荷重を測定した。得られたひずみと荷重から、JIS K 7161に従い、引張弾性率を計算した。
【0085】
(4)マテリアルリサイクル性
実施例1~5、比較例2及び3の熱収縮性多層フィルムを、混練・押出成形評価試験装置ラボプラストミル(東洋精機製作所社製「4C150型」)に投入し、ミキサー回転速度50rpm、混錬時間3分間で溶融混錬した。混錬終了後、溶融樹脂を竹べらなどで5g回収し、下から順に厚み400μmのSUS板、厚み250μmのPTFE含浸ガラスクロスシート、前記溶融混錬物5g、厚み250μmのPTFE含浸ガラスクロスシート、厚み400μmのSUS板となるように重ねてプレス用試料とした。この試料を圧縮(プレス)成型機(金藤金属工業製「AYSR.5」)にて、予熱時間1分間、加圧時間1分間、圧力150kgf/cmでプレス成型し、シートを製膜し、各シートの厚みを測定したところ、実施例1が97μm、実施例2が110μm、実施例3が104μm、実施例4が100μm、実施例5が83μm、比較例2が84μm、比較例3が115μmとなった。ラボプラストミル及び圧縮成形時の際の温度は、実施例1~4及び比較例3は190℃、実施例5と比較例2は240℃とした。この温度の設定は、多層フィルム中に含まれる、最も融点が高い樹脂の融点を基準として、基準温度+10℃以上60℃以下が好ましく、+15℃以上50℃以下がさらに好ましく、+20℃以上35℃以下が最も好ましい。設定温度が基準温度+10℃より低いと、未溶融の樹脂がシート内に異物として残留する傾向にあり、基準温度+60℃より高いと、樹脂の分解により成形したシートが着色しやすくなる。なお、実施例1~4で最も融点が高い樹脂はEVOH(157℃)、実施例5ではPGA(220℃)、比較例2ではCo-PET(220℃)、比較例3ではPVDC(160℃)である。融点は、JIS K 7121に準拠してDSC(示差走査熱量計)により昇温速度10℃/minの条件で測定した。得られたシートの曇り度(ヘイズ値)を、HazeMeter(日本電色工業社製「NDH7000」)を用いて、光源D65を使用し、JIS K 7136に準じて測定した。また、同HazeMeterを用いて、フィルムの表面にシリコンを塗布して内部ヘイズ値を測定した。さらに、得られたシートのb値を、Spectrophotometer(日本電色工業社製「SE7700」)を用いて、光源D65を使用し、JIS K 7373に準拠しシートに白板を載せて反射法により測定した。b値は、シートの黄色味の指標とした。
【0086】
【表2】
図1