(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-06-11
(45)【発行日】2025-06-19
(54)【発明の名称】トリアゾール誘導体のエナンチオマー(R)体の製造方法
(51)【国際特許分類】
C07D 249/08 20060101AFI20250612BHJP
C07B 57/00 20060101ALI20250612BHJP
【FI】
C07D249/08 521
C07B57/00 350
(21)【出願番号】P 2024533623
(86)(22)【出願日】2023-06-27
(86)【国際出願番号】 JP2023023822
(87)【国際公開番号】W WO2024014282
(87)【国際公開日】2024-01-18
【審査請求日】2024-09-13
(31)【優先権主張番号】P 2022113477
(32)【優先日】2022-07-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001100
【氏名又は名称】株式会社クレハ
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】萩原 隆介
(72)【発明者】
【氏名】梅野 智大
(72)【発明者】
【氏名】唐澤 悟
【審査官】中村 政彦
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/093522(WO,A1)
【文献】国際公開第2021/230382(WO,A1)
【文献】特開平06-080605(JP,A)
【文献】特開平06-192236(JP,A)
【文献】特開平07-010822(JP,A)
【文献】特開平10-245368(JP,A)
【文献】山中 宏 他,光学異性体の分離(季刊 化学総説 No.6),1989年,p. 2-11
【文献】BAGI, P. et al.,The resolution of acyclic P-stereogenic phosphine oxides via the formation of diastereomeric complexes: A case study on ethyl-(2- methylphenyl)-phenylphosphine oxide,Chirality,2018年,Vol. 30,No. 4,pp. 509-522,DOI: 10.1002/chir.22816
【文献】SEEBACH, D. et al.,On the Mechanisms of Enantioselective Reactions Using α,α,α′,α′-Tetraaryl-1,3-dioxolane-4,5-dimethanol(TADDOL)-Derived Titanates: Differences between C2- and C1-symmetrical TADDOLs - facts, implications and generalizations,Helvetica Chimica Acta,1992年,Vol. 75,No. 7,pp. 2171-2209,DOI: 10.1002/hlca.19920750704
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07D 249/00
C07B 57/00
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(I)で表されるトリアゾール誘導体に溶媒中で下記一般式(IIa)または(IIb)で表されるキラル分子を添加して、結晶化を行う工程、および
析出した結晶と残液とを分離する工程を含む、トリアゾール誘導体のエナンチオマー(R)体の製造方法。
【化1】
[式(I)中、
R
1は、-OR
4
であり;
R
4
は、C
1-C
6-アルキル
基であ
り;
R
2はハロゲン基、シアノ基
、C
1-C
4-アルキル基、C
1-C
4-ハロアルキル基、C
1-C
4-アルコキシ基
またはC
1-C
4-ハロアルコキシ
基であり;
R
3は、ハロゲン基、シアノ基
、C
1-C
4-アルキル基、C
1-C
4-ハロアルキル基、C
1-C
4-アルコキシ基またはC
1-C
4-ハロアルコキシ
基であり
;
ここで
、
nは0
または1であり;
mは1
または2であり、
アスタリスク(*)は不斉炭素原子を指す。]
【化2】
[式(IIa)および(IIb)中、
R
8およびR
9は、C
1-C
6-アルキル基であり、R
8およびR
9はこれらが結合する炭素原子とともに環を形成していてもよい。]
【請求項2】
上記キラル分子が、上記一般式(IIa)で表されるキラル分子であり、
分離した上記結晶からトリアゾール誘導体のエナンチオマー(R)体を生成する、請求項1に記載のトリアゾール誘導体のエナンチオマー(R)体の製造方法。
【請求項3】
シリカゲルクロマトグラフィーにより、分離した上記結晶中の上記キラル分子を除去してトリアゾール誘導体のエナンチオマー(R)体を生成する、請求項2に記載のトリアゾール誘導体のエナンチオマー(R)体の製造方法。
【請求項4】
上記一般式(IIa)で表されるキラル分子が、((2R,3R)-1,4-ジオキサスピロ[4.5]デカン-2,3-ジイル)ビス(ジフェニルメタノール)または((4R,5R)-2,2-ジメチル-1,3-ジオキソラン-4,5-ジイル)ビス(ジフェニルメタノール)である、請求項2に記載のトリアゾール誘導体のエナンチオマー(R)体の製造方法。
【請求項5】
上記キラル分子が、上記一般式(IIb)で表されるキラル分子であり、
分離した上記残液からトリアゾール誘導体のエナンチオマー(R)体を生成する、請求項1に記載のトリアゾール誘導体のエナンチオマー(R)体の製造方法。
【請求項6】
上記残液から非晶質固体を生成し、該非晶質固体をトリアゾール誘導体のエナンチオマー(R)体として分離する、請求項5に記載のトリアゾール誘導体のエナンチオマー(R)体の製造方法。
【請求項7】
上記一般式(IIb)で表されるキラル分子が、((2S,3S)-1,4-ジオキサスピロ[4.5]デカン-2,3-ジイル)ビス(ジフェニルメタノール)または((4S,5S)-2,2-ジメチル-1,3-ジオキソラン-4,5-ジイル)ビス(ジフェニルメタノール)である、請求項5に記載のトリアゾール誘導体のエナンチオマー(R)体の製造方法。
【請求項8】
上記キラル分子を添加する前または添加した後に上記溶媒を加温することを含み、上記キラル分子が添加された、加温された上記溶媒を冷却することにより上記結晶化を行う、請求項1に記載のトリアゾール誘導体のエナンチオマー(R)体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はトリアゾール誘導体のエナンチオマー(R)体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、人畜に対する毒性が低く取扱い安全性に優れ、かつ広範な植物病害に対して高い防除効果を示す農園芸用薬剤が求められている。このような状況下、特許文献1において、植物病菌に対する高い抗菌性を有するトリアゾール誘導体、ならびにこれを有効成分として含む農園芸用薬剤および工業用材料保護剤が開示されている。また、特許文献2において、より活性の高いトリアゾール誘導体の(-)-エナンチオマーが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】国際公開WO2019/093522
【文献】国際公開WO2021/230382
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献2では、優位に活性のある(-)-エナンチオマーの調製方法として、トリアゾール誘導体のラセミ体から光学分割用のカラムによって分取分離する方法が開示されている。しかしながら工業的観点から、コスト削減のため、カラム以外による特定のエナンチオマーを取得する方法がこれまで望まれてきている。
【0005】
本発明は上記の問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、トリアゾール誘導体の特定のエナンチオマーを製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、鋭意検討した結果、トリアゾール誘導体のラセミ体に特定のキラル分子を添加することで(-)-エナンチオマーとの共結晶化が可能となることを見出した。また本発明者らは、別の検討結果から、トリアゾール誘導体の(-)-エナンチオマーがトリアゾール誘導体のエナンチオマー(R)体であることを見出し、本発明に想到するに至った。
【0007】
すなわち、上記の課題を解決するために、本発明の一態様に係るトリアゾール誘導体のエナンチオマー(R)体の製造方法は、下記一般式(I)で表されるトリアゾール誘導体に溶媒中で下記一般式(IIa)または(IIb)で表されるキラル分子を添加して、結晶化を行う工程、および析出した結晶と残液とを分離する工程を含む。
【化1】
[式(I)中、
R
1は、-OR
4または-NR
5R
6であり;
R
4、R
5およびR
6は、それぞれ独立に、水素、C
1-C
6-アルキル基、C
2-C
6-アルケニル基、C
2-C
6-アルキニル基、C
3-C
8-シクロアルキル基、C
3-C
8-シクロアルキル-C
1-C
4-アルキル基、フェニル基、フェニル-C
1-C
4-アルキル基、フェニル-C
2-C
4-アルケニル基またはフェニル-C
2-C
4-アルキニル基であり、R
5およびR
6はこれらが結合する窒素原子とともに環を形成していてもよく;
ここで、R
4、R
5、およびR
6における脂肪族基は、1、2、3もしくは可能な最大数の同一のまたは異なる基R
aを有していてもよく、R
aは、ハロゲン基、シアノ基、ニトロ基、C
1-C
4-アルコキシ基およびC
1-C
4-ハロアルコキシ基から互いに独立して選択され;
R
2はハロゲン基、シアノ基、ニトロ基、フェニル基、フェニル-オキシ基、C
1-C
4-アルキル基、C
1-C
4-ハロアルキル基、C
1-C
4-アルコキシ基、C
1-C
4-ハロアルコキシ基、-SOR
7または-SF
5であり;
R
3は、ハロゲン基、シアノ基、ニトロ基、アミノ基、フェニル基、フェニル-オキシ基、C
1-C
4-アルキル基、C
1-C
4-ハロアルキル基、C
1-C
4-アルコキシ基またはC
1-C
4-ハロアルコキシ基、C
1-C
4-アルキルアミノ基、C
1-C
4-ジアルキルアミノ基、C
1-C
4-アルキルアシルアミノ基、-SOR
7または-SF
5であり;
R
4、R
5、およびR
6におけるシクロアルキル基およびフェニル基部分ならびにR
3におけるフェニル基部分は、1、2、3、4、5もしくは可能な最大数の同一のまたは異なる基R
bを有していてもよく、R
bは、ハロゲン基、シアノ基、ニトロ基、C
1-C
4-アルキル基、C
1-C
4-アルコキシ基、C
1-C
4-ハロアルキル基およびC
1-C
4-ハロアルコキシ基から互いに独立して選択され;
ここで、R
7は、C
1-C
4-アルキル基またはC
1-C
4-ハロアルキル基であり;
nは0,1,2,3,または4であり;
mは1,2,3,4または5であり、
アスタリスク(*)は不斉炭素原子を指す。]
【化2】
[式(IIa)および(IIb)中、
R
8およびR
9は、C
1-C
6-アルキル基であり、R
8およびR
9はこれらが結合する炭素原子とともに環を形成していてもよい。]
【発明の効果】
【0008】
本発明の一態様によれば、トリアゾール誘導体のエナンチオマー(R)体を効率的に製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明に係るトリアゾール誘導体のエナンチオマー(R)体の製造方法について詳細に説明する。なお、以下に説明する実施形態は、本発明の代表的な実施形態の一例を示したものであり、これにより本発明の範囲が狭く解釈されることはない。
【0010】
本発明の一実施形態に係るトリアゾール誘導体のエナンチオマー(R)体の製造方法は、トリアゾール誘導体に溶媒中でキラル分子を添加して、共結晶化を行う工程、および析出した結晶と残液とを分離する工程を含む。なお、本明細書における「エナンチオマーの製造」とは、ラセミ体または各エナンチオマーの混合物を出発材料とし、目的のエナンチオマーをより多く含む状態にすることを意図している。したがって、本明細書における「エナンチオマーの製造」は、各エナンチオマーの混合物からの一方のエナンチオマーの分離とも表現することができる。なお、いずれの表現であっても、他のエナンチオマーを完全に含んでいない状態で得ることを必ずしも意図するものではない。目的のエナンチオマーをより多く含む状態とすることで、ラセミ体を用いるよりも活性の高い農園芸用薬剤を調製することができる。
【0011】
ここで、本実施形態に係るトリアゾール誘導体のエナンチオマーは、下記一般式(I)で示されるトリアゾール誘導体(以下、トリアゾール誘導体(I)と称する)における(-)-エナンチオマー(以下、トリアゾール誘導体(-)-エナンチオマーと称する)、または(+)-エナンチオマー(以下、トリアゾール誘導体(+)-エナンチオマーと称する)である。下記一般式(I)におけるアスタリスク(*)が不斉炭素原子を指す。なお、本明細書において、「(-)-エナンチオマー」とは、ナトリウムD線の直線偏光の振動面を左に回転させるエナンチオマーのことを指し、「(+)-エナンチオマー」とは、ナトリウムD線の直線偏光の振動面を右に回転させるエナンチオマーのことを指す。また、後述の実施例で明らかにした通り、トリアゾール誘導体(-)-エナンチオマーは、トリアゾール誘導体(I)のエナンチオマー(R)体であり、トリアゾール誘導体(+)-エナンチオマーは、トリアゾール誘導体(I)のエナンチオマー(S)体である。また、本明細書において単に「一般式(I)で示されるトリアゾール誘導体」または「トリアゾール誘導体(I)」と表現する場合、トリアゾール誘導体(-)-エナンチオマーとトリアゾール誘導体(+)-エナンチオマーとに分離されていない状態を意図している。したがって、本明細書における「一般式(I)で示されるトリアゾール誘導体」および「トリアゾール誘導体(I)」とは、トリアゾール誘導体(-)-エナンチオマーとトリアゾール誘導体(+)-エナンチオマーとの混合物を意図し、典型的には、トリアゾール誘導体(I)のラセミ体である。
【化3】
一般式(I)中、
R
1は、-OR
4または-NR
5R
6であり、好ましくは-OR
4である。
【0012】
R4、R5およびR6は、それぞれ独立に、水素、C1-C6-アルキル基、C2-C6-アルケニル基、C2-C6-アルキニル基、C3-C8-シクロアルキル基、C3-C8-シクロアルキル-C1-C4-アルキル基、フェニル基、フェニル-C1-C4-アルキル基、フェニル-C2-C4-アルケニル基またはフェニル-C2-C4-アルキニル基である。R5とR6とは、R5およびR6が結合している窒素原子とともに環を形成していてもよい。
【0013】
C1-C6-アルキル基は、炭素原子数が1~6個である直鎖または分岐鎖状アルキル基であり、例えば、メチル基、エチル基、1-メチルエチル基、1,1-ジメチルエチル基、プロピル基、1-メチルプロピル基、2-メチルプロピル基、1,1-ジメチルプロピル基、2,2-ジメチルプロピル基、1-エチルプロピル基、ブチル基、1-メチルブチル基、2-メチルブチル基、3-メチルブチル基、3,3-ジメチルブチル基、2,2-ジメチルブチル基、1,1-ジメチルブチル基、1-エチルブチル基、2-エチルブチル基、ペンチル基、1-メチルペンチル基、2-メチルペンチル基、3-メチルペンチル基および4-メチルペンチル基が挙げられる。
【0014】
C2-C6-アルケニル基は、炭素原子数が2~6個である直鎖または分岐鎖状のアルケニル基であり、例えば、エテニル基、2-プロペニル基、1-メチル-2-プロペニル基、2-メチル-2-プロペニル基、1-ブテニル基、2-ブテニル基、3-メチル-2-ブテニル基、1-メチル-2-ブテニル基、3-ブテニル基、1-ペンテニル基、2-ペンテニル基、1-ヘキセニル基および5-ヘキセニル基が挙げられる。
【0015】
C2-C6-アルキニル基は、炭素原子数が2~6個である直鎖または分岐鎖状のアルキニル基であり、例えば、エチニル基、1-プロピニル基、2-プロピニル基、1-ブチニル基、2-ブチニル基、3-ブチニル基、ペンチニル基および1-ヘキシニル基が挙げられる。
【0016】
C3-C8-シクロアルキル基は、炭素原子数3~8個の環状のアルキルであり、例えば、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、およびシクロオクチル基が挙げられる。
【0017】
C3-C8-シクロアルキル-C1-C4-アルキル基は、炭素原子数3~8個の環状のシクロアルキル基が直鎖または分岐鎖状の炭素数1~4個のアルキル基に結合していることを示す。例えば、シクロプロピルメチル基、シクロブチルメチル基、シクロペンチルメチル基、シクロヘキシルメチル基、2-シクロプロピルエチル基、1-シクロプロピルエチル基、2-シクロヘキシルエチル基、3-シクロプロピルプロピル基、2-シクロプロピルプロピル基、4-シクロプロピルブチル基が挙げられる。
【0018】
フェニル-C1-C4-アルキル基は、炭素原子数1~4個の直鎖または分岐鎖状のアルキル基にフェニル基が置換しており、例えば、フェニルメチル基、2-フェニルエチル基、3-フェニルプロピル基、および4-フェニルブチル基が挙げられる。
【0019】
フェニル-C2-C4-アルケニル基は、フェニル基に炭素原子数2~4個の直鎖または分岐鎖状のアルケニル基が結合しており、例えば、フェニルエテニル基、フェニル-1-プロペニル基、フェニルイソプロペニル基、およびフェニルブテニル基が挙げられる。
【0020】
フェニル-C2-C4-アルキニル基は、フェニル基に炭素原子数2~4個のアルキニル基が結合しており、例えば、フェニルエチニル基、フェニル-1-プロピニル基、フェニル-2-プロピニル基、フェニル-1-ブチニル基、フェニル-2-ブチニル基、およびフェニル-3-ブチニル基が挙げられる。
【0021】
R4は、好ましくは、C1-C6-アルキル基である。
【0022】
R1、R4、R5、およびR6における脂肪族基は、1、2、3もしくは可能な最大数の同一のまたは異なる基Raを有していてもよく、Raは、ハロゲン基、シアノ基、ニトロ基、C1-C4-アルコキシ基およびC1-C4-ハロアルコキシ基から互いに独立して選択される。
【0023】
ハロゲン基としては塩素基、臭素基、ヨウ素基またはフッ素基が挙げられる。例えば、クロロメチル基、2-クロロエチル基、2,3-ジクロロプロピル基、ブロモメチル基、クロロジフルオロメチル基、トリフルオロメチル基、および3,3,3-トリフルオロプロピル基が挙げられる。
【0024】
C1-C4-アルコキシ基は、炭素原子数1~4個の直鎖または分岐鎖状のアルコキシ基であり、例えば、メトキシ基、エトキシ基、n-プロポキシ基、イソプロポキシ基、n-ブトキシ基、sec-ブトキシ基、tert-ブトキシ基が挙げられる。
【0025】
C1-C4-ハロアルコキシ基は、上述のC1-C4-アルコキシ基の置換し得る位置に1または2以上のハロゲン原子が置換されており、置換されるハロゲン基が2以上の場合においてハロゲン基は同一または異なっても良い。
【0026】
R2は、ハロゲン基、シアノ基、ニトロ基、フェニル基、フェニル-オキシ基、C1-C4-アルキル基、C1-C4-ハロアルキル基、C1-C4-アルコキシ基、C1-C4-ハロアルコキシ基、-SOR7または-SF5である。
【0027】
ハロゲン基、C1-C4-アルキル基、C1-C4-ハロアルキル基、C1-C4-アルコキシ基、およびC1-C4-ハロアルコキシ基は、Raで表される有機基の例示として挙げた基を挙げることができる。
【0028】
R2は、好ましくは、ハロゲン基、シアノ基、C1-C4-アルキル基、C1-C4-ハロアルキル基、C1-C4-アルコキシ基、-SOR7または-SF5であり、さらに好ましくは、ハロゲン基、シアノ基、C1-C4-アルキル基、C1-C4-ハロアルキル基またはC1-C4-アルコキシ基である。
【0029】
R7は、C1-C4-アルキル基またはC1-C4-ハロアルキル基である。R2の置換位置は2位、3位、5位または6位であり、好ましくは2位である。nは、0、1、2、3または4であり、好ましくは1である。
【0030】
R3は、ハロゲン基、シアノ基、ニトロ基、アミノ基、フェニル基、フェニル-オキシ基、C1-C4-アルキル基、C1-C4-ハロアルキル基、C1-C4-アルコキシ基、C1-C4-ハロアルコキシ基、C1-C4-アルキルアミノ基、C1-C4-ジアルキルアミノ基、C1-C4-アルキルアシルアミノ基、-SOR7または-SF5であり、ハロゲン基、C1-C4-アルキルC1-C4-ハロアルキル基、C1-C4-アルコキシ基またはC1-C4-ハロアルコキシ基、および-SOR7はR2で表される有機基の例示として挙げた基を挙げることができる。
【0031】
R3は、好ましくは、ハロゲン基、ニトロ基、アミノ基、C1-C4-アルキル基、C1-C4-ハロアルキル基、C1-C4-アルコキシ基、C1-C4-ハロアルコキシ基、C1-C4-アルキルアミノ基、C1-C4-ジアルキルアミノ基、C1-C4-アルキルアシルアミノ基、-SOR7または-SF5であり、さらに好ましくは、ハロゲン基、C1-C4-アルキル基、C1-C4-ハロアルキル基、C1-C4-アルコキシ基またはC1-C4-ハロアルコキシ基である。
【0032】
C1-C4-アルキルアミノ基は、アミノ基が有する水素原子の1つが炭素原子数1~4個の直鎖または分岐鎖状のアルキル基に置換されたアミノ基であり、例えば、メチルアミノ基、エチルアミノ基、n-プロピルアミノ基、イソプロピルアミノ基、およびtert-ブチルアミノ基が挙げられる。
【0033】
C1-C4-ジアルキルアミノ基は、アミノ基が有する水素原子2つ共が炭素原子数1~4個の直鎖または分岐鎖状のアルキル基に置換されたアミノ基であり、例えば、N,N-ジメチルアミノ基、N,N-ジエチルアミノ基、N,N-ジ-n-プロピルアミノ基、N,N-ジイソプロピルアミノ基、およびN,N-ジ-tert-ブチルアミノ基が挙げられる。
【0034】
C1-C4-アルキルアシルアミノ基は、アミノ基が有する水素原子の1つまたは2つが炭素原子数1~4個の直鎖または分岐鎖状のアルキルアシル基に置換されたアミノ基であり、例えば、メチルアシルアミノ基、エチルアシルアミノ基、n-プロピルアシルアミノ基、イソプロピルアシルアミノ基、tert-ブチルアシルアミノ基、N,N-ジメチルアシルアミノ基、N,N-ジエチルアシルアミノ基、N,N-ジ-n-プロピルアシルアミノ基、N,N-ジイソプロピルアシルアミノ基、およびN,N-ジ-tert-ブチルアシルアミノ基が挙げられる。
【0035】
R4、R5、R6におけるシクロアルキル基もしくはフェニル基部分、またはR3におけるフェニル基部分は、1、2、3、4、5もしくは可能な最大数の同一のまたは異なる基Rbを有していてもよく、Rbは、ハロゲン基、シアノ基、ニトロ基、C1-C4-アルキル基、C1-C4-アルコキシ基、C1-C4-ハロアルキル基およびC1-C4-ハロアルコキシ基から互いに独立して選択される。ハロゲン基、C1-C4-アルキル基、C1-C4-アルコキシ基、C1-C4-ハロアルキル基およびC1-C4-ハロアルコキシ基は、Raで表される有機基の例示として挙げた基を挙げることができる。
【0036】
以上から、トリアゾール誘導体の好ましい一態様としては、一般式(I)において、R1が、-OR4であり;R2が、ハロゲン基、シアノ基、C1-C4-アルキル基、C1-C4-ハロアルキル基、C1-C4-アルコキシ基、-SOR7または-SF5であり;R3が、ハロゲン基、ニトロ基、シアノ基、アミノ基、C1-C4-アルキル基、C1-C4-ハロアルキル基、C1-C4-アルコキシ基、C1-C4-ハロアルコキシ基、C1-C4-アルキルアミノ基、C1-C4-ジアルキルアミノ基、C1-C4-アルキルアシルアミノ基、-SOR7または-SF5である、トリアゾール誘導体が挙げられる。
【0037】
また、トリアゾール誘導体のより好ましい一態様としては、一般式(I)において、R1が、-OR4であり、かつR4が、C1-C6-アルキル基であり;R2が、ハロゲン基、シアノ基、C1-C4-アルキル基、C1-C4-ハロアルキル基またはC1-C4-アルコキシ基であり;R3が、ハロゲン基、シアノ基、C1-C4-アルキル基、C1-C4-ハロアルキル基、C1-C4-アルコキシ基またはC1-C4-ハロアルコキシ基である、トリアゾール誘導体が挙げられる。
【0038】
〔1.トリアゾール誘導体とキラル分子との共結晶化〕
上述の通り、トリアゾール誘導体(I)は、典型的には、トリアゾール誘導体(I)のラセミ体である。トリアゾール誘導体(I)のラセミ体は、例えば、特許文献1に記載の方法に従い調製することができる。なお、特許文献1に記載の方法に従ってトリアゾール誘導体(I)を製造した場合、得られるトリアゾール誘導体(I)はラセミ体となる。調製されたトリアゾール誘導体(I)のラセミ体を、溶媒中で下記一般式(IIa)または(IIb)で示されるキラル分子と混合することによって結晶化させ、トリアゾール誘導体(I)の一方のエナンチオマーとキラル分子との共結晶を得ることができる。
【化4】
【0039】
ここで一般式(IIa)および(IIb)中、R8およびR9は、C1-C6-アルキル基であり、R8およびR9はこれらが結合する炭素原子とともに環を形成していてもよい。
【0040】
C1-C6-アルキル基は、炭素原子数が1~6個である直鎖または分岐鎖状アルキル基であり、例えば、メチル基、エチル基、1-メチルエチル基、1,1-ジメチルエチル基、プロピル基、1-メチルプロピル基、2-メチルプロピル基、1,1-ジメチルプロピル基、2,2-ジメチルプロピル基、1-エチルプロピル基、ブチル基、1-メチルブチル基、2-メチルブチル基、3-メチルブチル基、3,3-ジメチルブチル基、2,2-ジメチルブチル基、1,1-ジメチルブチル基、1-エチルブチル基、2-エチルブチル基、ペンチル基、1-メチルペンチル基、2-メチルペンチル基、3-メチルペンチル基および4-メチルペンチル基が挙げられる。
【0041】
一般式(IIa)で示されるキラル分子は、好ましくは、下記一般式(IIIa)または(IVa)で表されるキラル分子である。
【化5】
(一般式(IIIa):((2R,3R)-1,4-ジオキサスピロ[4.5]デカン-2,3-ジイル)ビス(ジフェニルメタノール))
【化6】
(一般式(IVa):((4R,5R)-2,2-ジメチル-1,3-ジオキソラン-4,5-ジイル)ビス(ジフェニルメタノール))
【0042】
一般式(IIb)で示されるキラル分子は、好ましくは、下記一般式(IIIb)または(IVb)で表されるキラル分子である。
【化7】
(一般式(IIIb):((2S,3S)-1,4-ジオキサスピロ[4.5]デカン-2,3-ジイル)ビス(ジフェニルメタノール))
【化8】
(一般式(IVb):((4R,5R)-2,2-ジメチル-1,3-ジオキソラン-4,5-ジイル)ビス(ジフェニルメタノール))
【0043】
添加するキラル分子の量は、トリアゾール誘導体(I)1モルに対して、0.01~100モルが好ましく、0.1~10モルがより好ましく、0.5~5モルがさらに好ましい。
【0044】
用いる溶媒については特に限定されないが、メタノール、エタノールなどのアルコール類が好ましく、その他例えばベンゼン、トルエン、キシレンおよびクロロベンゼンなどの芳香族炭化水素類、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチルピロリドンおよびN,N-ジメチルホルムアルデヒドなどのアミド類、ならびにジメチルスルホキシドを挙げることができる。溶媒の種類によりトリアゾール誘導体(I)の可溶範囲が異なり得るため、用いる溶媒の量は、トリアゾール誘導体(I)の可溶範囲に応じて適宜決定すればよい。例えば溶媒としてメタノールを用いる場合、メタノールの量は、トリアゾール誘導体(I)1モルに対して、10~1,000,000モルが好ましく、50~500,000モルがより好ましく、100~10,000モルがさらに好ましい。
【0045】
溶媒は、加温してもよく、または加温しなくてもよい。溶媒を加温しない場合、トリアゾール誘導体エナンチオマーを溶解した後、しばらくの間静置しておくことにより結晶が析出してくる。加温をせずに結晶化を行うことで、一方のエナンチオマーの存在比がより高い結晶を得ることができる。溶媒を加温する場合、トリアゾール誘導体(I)を添加する前に予め加温しておいてもよく、またはトリアゾール誘導体(I)を添加した後に加温してもよい。トリアゾール誘導体(I)を添加した後に加温する場合、トリアゾール誘導体(I)およびキラル分子の両方を添加した後に加温するものであってもよい。その後キラル分子が添加された、加温された溶媒を冷却することにより結晶化が行われる。加温後の溶媒の温度については特に限定されないが、例えば、25~64℃であり得、40~64℃とすることが好ましく、45~60℃とすることがより好ましい。冷却後の溶媒の温度については特に限定されないが、例えば、-50~25℃とすることが好ましく、0~25℃とすることがより好ましい。典型的には、室温(例えば、25℃)であり得る。室温以上とする場合、過度の冷却操作は必要なく、例えば室温で静置しておけばよい。
【0046】
トリアゾール誘導体(I)とキラル分子とを混合した後の結晶化の方法、すなわち共結晶を析出させる方法はこれに限らず、優先晶析法、ジアステレオマー法、不斉晶析法および溶媒を蒸発させる方法等、従来公知の析出方法を採用することができる。例えば、溶媒を蒸発させることにより共結晶を析出する方法では、得られる結晶における一方のエナンチオマーの比率がより大きくなる。
【0047】
トリアゾール誘導体エナンチオマーはいずれも非晶質性の化合物であるが、上述のキラル分子をトリアゾール誘導体(I)に添加することによって、トリアゾール誘導体(I)の一方のエナンチオマーとキラル分子との共結晶として結晶化させることができる。この結果、得られた結晶を残液から分離することで、一方のエナンチオマーをより多く含む状態とすることができる。一方で、結晶を分離して得られた残液にはトリアゾール誘導体(I)の他方のエナンチオマーがより多く含まれるため、結晶形成後の残液を分取することで、他方のエナンチオマーをより多く含む状態とすることができる。
【0048】
また、キラル分子の選択により、共結晶を形成させるトリアゾール誘導体(I)のエナンチオマーを変更することができる。例えば、キラル分子として、一般式(IIa)で表されるキラル分子を用いた場合には、トリアゾール誘導体(I)のエナンチオマー(R)体との共結晶が形成される。一方で、このキラル分子の鏡像異性体である一般式(IIb)で表されるキラル分子を用いた場合には、トリアゾール誘導体(I)のエナンチオマー(S)体との共結晶が形成される。
【0049】
上記により得られたトリアゾール誘導体(I)とキラル分子との共結晶および残液は、例えば濾過によって分離される。
【0050】
〔2.トリアゾール誘導体のエナンチオマー(R)体の生成1〕
上述の通り、用いるキラル分子によって、トリアゾール誘導体(I)のエナンチオマー(R)体およびエナンチオマー(S)体のいずれがキラル分子と共結晶化されるかが異なる。本項では、トリアゾール誘導体(I)のエナンチオマー(R)体が共結晶化される、一般式(IIa)で表されるキラル分子を用いた場合について説明する。当該キラル分子を用いた場合には、析出した結晶と残液とを分離する工程は、析出した結晶と残液とを分離して、該結晶を得る工程ということができる。なお、キラル分子によっては、一般式(IIa)で表されるキラル分子についてもトリアゾール誘導体(I)のエナンチオマー(S)体との共結晶化は可能である。しかしながらラセミ体に対して共結晶化を行った場合には、エナンチオマー(R)体の方が優先的に共結晶化される。
【0051】
分離された結晶には、トリアゾール誘導体(I)のエナンチオマー(R)体のみならず、トリアゾール誘導体のエナンチオマー(S)体も含まれ得るが、(S)体に比して(R)体の含有量が多いものとなっている。典型的には、(R)体の含有量と(S)体の含有量との総量に対する(R)体の含有量の割合が、50%超であり得、70%以上であり得、95%以上であり得、さらには100%であり得る。
【0052】
分離された結晶に含まれる(R)体と(S)体との比率は、得られた結晶を溶媒に溶解させ、キラルクロマトグラフィーにより各エナンチオマーを分取分離する方法によって確認することができる。キラルクロマトグラフィーによる分取分離は、例えば特許文献2に記載の方法を参照して行えばよい。
【0053】
得られた共結晶から、目的とするトリアゾール誘導体(I)のエナンチオマー(R)体の含有比を高めるために、結晶中のキラル分子を除去する工程が追加されてもよい。キラル分子を除去する方法としては、シリカゲルクロマトグラフィー等が挙げられる。これにより、キラル分子が除去されたトリアゾール誘導体(I)のエナンチオマー(R)体を生成することができる。
【0054】
〔3.トリアゾール誘導体のエナンチオマー(R)体の生成2〕
上述の通り、用いるキラル分子によって、トリアゾール誘導体(I)のエナンチオマー(R)体およびエナンチオマー(S)体のいずれがキラル分子と共結晶化されるかが異なる。本項では、トリアゾール誘導体(I)のエナンチオマー(S)体が共結晶化される、一般式(IIb)で表されるキラル分子を用いた場合について説明する。当該キラル分子を用いた場合には、析出した結晶と残液とを分離する工程は、析出した結晶と残液とを分離して、結晶化後の濾液を分取する工程ということができる。
【0055】
一般式(IIb)で表されるキラル分子を用いた場合、エナンチオマー(R)体に比べてより多くのエナンチオマー(S)体が結晶を形成する。この結晶の濾過により、得られた結晶を取り除くことにより、結晶を濾過した後の濾液(すなわち、結晶形成後の残液)には、結果的にエナンチオマー(R)体がより多く含まれることになる。そのため、この濾液から非晶質固体を生成することにより、トリアゾール誘導体のエナンチオマー(R)体をより多く含む固体を得ることができる。非晶質固体を生成する方法としては、溶媒留去およびカラムクロマトグラフィーが挙げられる。
【0056】
得られる非晶質固体には、トリアゾール誘導体(I)のエナンチオマー(R)体のみならず、トリアゾール誘導体のエナンチオマー(S)体も含まれ得るが、(S)体に比して(R)体の含有量が多いものとなっている。典型的には、(R)体の含有量と(S)体の含有量との総量に対する(R)体の含有量の割合が、50%超であり得、70%以上であり得、95%以上であり得、さらには100%であり得る。
【0057】
また、得られる非晶質固体または共結晶を濾過した後の濾液には、共結晶化に用いたキラル分子も含まれ得る。当該キラル分子をシリカゲルクロマトグラフィー等で分離することにより、当該キラル分子を含まないトリアゾール誘導体(I)を得ることができる。
【0058】
<まとめ>
本発明の態様1に係るトリアゾール誘導体のエナンチオマー(R)体の製造方法は、上述の一般式(I)で表されるトリアゾール誘導体に溶媒中で上述の一般式(IIa)または(IIb)で表されるキラル分子を添加して、結晶化を行う工程、および析出した結晶と残液とを分離する工程を含む。
【0059】
本発明の態様2に係るトリアゾール誘導体のエナンチオマー(R)体の製造方法は、本発明の態様1の構成に加え、上記キラル分子が、上記一般式(IIa)で表されるキラル分子であり、分離した上記結晶からトリアゾール誘導体のエナンチオマー(R)体を生成する。
【0060】
本発明の態様3に係るトリアゾール誘導体のエナンチオマー(R)体の製造方法は、本発明の態様2の構成に加え、シリカゲルクロマトグラフィーにより、分離した上記結晶中の上記キラル分子を除去してトリアゾール誘導体のエナンチオマー(R)体を生成する。
【0061】
本発明の態様4に係るトリアゾール誘導体のエナンチオマー(R)体の製造方法は、本発明の態様2の構成に加え、上記一般式(IIa)で表されるキラル分子が、((2R,3R)-1,4-ジオキサスピロ[4.5]デカン-2,3-ジイル)ビス(ジフェニルメタノール)または((4R,5R)-2,2-ジメチル-1,3-ジオキソラン-4,5-ジイル)ビス(ジフェニルメタノール)である。
【0062】
本発明の態様5に係るトリアゾール誘導体のエナンチオマー(R)体の製造方法は、本発明の態様1の構成に加え、上記キラル分子が、上記一般式(IIb)で表されるキラル分子であり、分離した上記残液からトリアゾール誘導体のエナンチオマー(R)体を生成する。
【0063】
本発明の態様6に係るトリアゾール誘導体のエナンチオマー(R)体の製造方法は、本発明の態様5の構成に加え、上記残液から非晶質固体を生成し、該非晶質固体をトリアゾール誘導体のエナンチオマー(R)体として分離する。
【0064】
本発明の態様7に係るトリアゾール誘導体のエナンチオマー(R)体の製造方法は、本発明の態様5の構成に加え、上記一般式(IIb)で表されるキラル分子が、((2S,3S)-1,4-ジオキサスピロ[4.5]デカン-2,3-ジイル)ビス(ジフェニルメタノール)または((4S,5S)-2,2-ジメチル-1,3-ジオキソラン-4,5-ジイル)ビス(ジフェニルメタノール)である。
【0065】
本発明の態様8に係るトリアゾール誘導体のエナンチオマー(R)体の製造方法は、本発明の態様1の構成に加え、キラル分子を添加する前または添加した後に溶媒を加温することを含み、キラル分子が添加された、加温された前記溶媒を冷却することにより前記結晶化を行う。
【0066】
本発明の態様9に係るトリアゾール誘導体のエナンチオマー(R)体の製造方法は、本発明の態様1~8のいずれかの構成に加え、一般式(I)において、
R1が、-OR4であり;
R2が、ハロゲン基、シアノ基、C1-C4-アルキル基、C1-C4-ハロアルキル基、C1-C4-アルコキシ基、-SOR7または-SF5であり;
R3が、ハロゲン基、ニトロ基、シアノ基、アミノ基、C1-C4-アルキル基、C1-C4-ハロアルキル基、C1-C4-アルコキシ基、C1-C4-ハロアルコキシ基、C1-C4-アルキルアミノ基、C1-C4-ジアルキルアミノ基、C1-C4-アルキルアシルアミノ基、-SOR7または-SF5である。
【0067】
本発明の態様10に係るトリアゾール誘導体のエナンチオマー(R)体の製造方法は、本発明の態様9の構成に加え、一般式(I)において、
R4が、C1-C6-アルキル基であり;
R2が、ハロゲン基、シアノ基、C1-C4-アルキル基、C1-C4-ハロアルキル基またはC1-C4-アルコキシ基であり;
R3が、ハロゲン基、シアノ基、C1-C4-アルキル基、C1-C4-ハロアルキル基、C1-C4-アルコキシ基またはC1-C4-ハロアルコキシ基である。
【0068】
以下に実施例を示し、本発明の実施の形態についてさらに詳しく説明する。もちろん、本発明は以下の実施例に限定されるものではなく、細部については様々な態様が可能であることはいうまでもない。さらに、本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、それぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。また、本明細書中に記載された文献の全てが参考として援用される。
【実施例】
【0069】
<参考例1:キラル分子の検討>
2-(2-クロロ-4-(4-クロロフェノキシフェニル)フェニル)-2-ヒドロキシ-3-(1H-1,2,4-トリアゾール-1-イル)プロパン酸メチル(以下、化合物1と称する)の(-)-エナンチオマーと優先的に共結晶を形成する化合物を探索するために、以下のキラル分子1~13を用い、化合物1の(-)-エナンチオマーとの共結晶化および化合物1の(+)-エナンチオマーとの共結晶化を試みた。
【0070】
化合物1は、特許文献1に記載の方法を参照して合成した。また、それぞれのエナンチオマーは、特許文献2に記載の方法に従い、化合物1のラセミ体からキラルクロマトグラフィーにより分取分離した。以下の表1または表2に示される処方に従い、一方のエナンチオマーをメタノールに溶解させた。そこに、キラル分子1~13の一つを表1または表2に示される処方に従い添加し溶解させ、25℃にて静置して結晶の析出を試みた。結果を表1および表2に示す。オイルとなったものは共結晶形成不可と判定した(表中「不可」)。結晶または固体が析出した場合、それらの粉末X線回折(PXRD)測定により、キラル分子由来と異なるピークが検出された場合、共結晶形成可と判定し(表中「可」)、キラル分子由来のピークが検出された場合には、共結晶が形成されなかったものとして、共結晶形成不可と判定した(表中「不可」)。
【0071】
表1に示される通り、キラル分子7および10のみ(-)-エナンチオマーとの共結晶化が可能であることが分かった。また、表2に示される通り、キラル分子7および10のみ(+)-エナンチオマーとの共結晶化が可能であることが分かった。
・キラル分子1:(R)-(+)-1,1-ビ-2-ナフトール
【化9】
・キラル分子2:(R)-3,3-ジブロモ-1,1-ビ-2-ナフトール
【化10】
・キラル分子3:(R)-2,2,3,3-テトラヒドロ-1,1-スピロビ[インデン]-7,7-ジオール
【化11】
・キラル分子4:(R)-(-)-1-フェニルエタン-1,2-ジオール
【化12】
・キラル分子5:(R)-1-[3,5-ビス(トリフルオロメチル)フェニル]エタノール
【化13】
・キラル分子6:(3S,4S)-(フェニルメチル)-3,4-ピロリジンジオール
【化14】
・キラル分子7:((4R,5R)-2,2-ジメチル-1,3-ジオキソラン-4,5-ジイル)ビス(ジフェニルメタノール)
【化15】
・キラル分子8:(1R,2R)-N,N-ビス(3,5-ジ-フェルト-ブチルサリシリデン)
【化16】
・キラル分子9:(11bR)-4-ヒドロキシ-4-オキシド-ジナフト[2,1-d:1,2-f][1,3,2]ジオキサフォスフェピン
【化17】
・キラル分子10:((2R,3R)-1,4-ジオキサスピロ[4.5]デカン-2,3-ジイル)ビス(ジフェニルメタノール)
【化18】
・キラル分子11:(1R,2R)-1,2-ジフェニルエチレンジアミン
【化19】
・キラル分子12:4-フルオロ-L-フェニルアラニン
【化20】
・キラル分子13:(R)-(+)-1,1’-ビナフチル-2,2’-ジアミン
【化21】
【表1】
【表2】
【0072】
<参考例2:(-)-エナンチオマーの絶対配置の構造の決定>
化合物1のエナンチオマーは非晶質性の化合物であるため、これまで結晶化ができず、結晶構造解析により絶対配置の構造を知ることができなかった。参考例1に示すとおり、特定のキラル分子を用いることでキラル分子との共結晶として(-)-エナンチオマーの結晶化が可能となったため、結晶構造解析を実施した。具体的には、化合物1の(-)-エナンチオマー20mgをメタノール3mLに溶解し、そこに24.8mgのキラル分子10を添加し、25℃にて白色結晶が析出するまで静置した。析出した白色針状結晶について単結晶X線結晶構造解析を行った。構造解析の結果、化合物1の(-)-エナンチオマーは、化合物1の(R)体であると決定づけられた。よって、以下の実施例では、(-)-エナンチオマーを(R)体と記載し、(+)-エナンチオマーを(S)体と記載する。
【0073】
<実施例1>
化合物1のラセミ体100mgを60℃のメタノール3mLに溶解させた。そこにキラル分子10を123mg添加し溶解させ、25℃にて静置することにより、析出した白色固体を得た。得られた白色固体をCHIRALPAK IGを用いて(R)体と(S)体とに分取分離して、ピークの面積比に基づき含有比率を分析したところ、(R)体:(S)体=21:8であった。
【0074】
(分析条件)
カラム:CHIRALPAK IG (Daicel製) 4.6×250mm
粒径:5μm
移動相:MeOH
流速:1.0mL/min
カラム温度:40℃
注入量:10μL。
【0075】
<実施例2>
化合物1のラセミ体50mgを25℃のメタノール1mLに溶解させた。そこにキラル分子10を93mg添加し溶解させ、25℃にて静置することにより、析出した白色固体を得た。得られた白色固体を冷メタノールで洗浄し、洗浄後の白色固体を実施例1と同様に、(R)体と(S)体とに分取分離して、ピークの面積比に基づき含有比率を分析したところ、(R)体の比率は99%以上であった。
【0076】
<実施例3>
化合物1のラセミ体50mgを60℃のメタノール0.5mLに溶解させた。そこにキラル分子10の鏡像異性体である((2S,3S)-1,4-ジオキサスピロ[4.5]デカン-2,3-ジイル)ビス(ジフェニルメタノール)を62mg添加し溶解させ、25℃にて静置することにより、析出した白色固体を得た。得られた白色固体を冷メタノールで洗浄し、これをろ過分離して得られた濾液を実施例1と同様に、(R)体と(S)体とに分取分離して、ピークの面積比に基づき含有比率を分析したところ、(R)体:(S)体=4.6:1であった。
【産業上の利用可能性】
【0077】
本発明に係るトリアゾール誘導体のエナンチオマー(R)体の製造方法は、当該エナンチオマーを有効成分として含む、農園芸用の殺菌剤および工業用材料保護剤に利用することができる。