(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-06-12
(45)【発行日】2025-06-20
(54)【発明の名称】ソーワイヤー及び切断装置
(51)【国際特許分類】
B24B 27/06 20060101AFI20250613BHJP
B28D 5/04 20060101ALI20250613BHJP
H01L 21/304 20060101ALI20250613BHJP
【FI】
B24B27/06 E
B24B27/06 R
B28D5/04 C
H01L21/304 611W
(21)【出願番号】P 2022032231
(22)【出願日】2022-03-03
(62)【分割の表示】P 2017094243の分割
【原出願日】2017-05-10
【審査請求日】2022-03-03
【審判番号】
【審判請求日】2024-01-10
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100109210
【氏名又は名称】新居 広守
(74)【代理人】
【識別番号】100137235
【氏名又は名称】寺谷 英作
(74)【代理人】
【識別番号】100131417
【氏名又は名称】道坂 伸一
(72)【発明者】
【氏名】金沢 友博
(72)【発明者】
【氏名】和田 雅人
(72)【発明者】
【氏名】今井 崇之
(72)【発明者】
【氏名】柴田 哲司
(72)【発明者】
【氏名】杉田 和繁
(72)【発明者】
【氏名】神山 直樹
(72)【発明者】
【氏名】合田 博史
(72)【発明者】
【氏名】水口 良孝
【合議体】
【審判長】刈間 宏信
【審判官】堀内 亮吾
【審判官】田々井 正吾
(56)【参考文献】
【文献】特許第4263098(JP,B2)
【文献】国際公開第2003/031668(WO,A1)
【文献】特許第6063076(JP,B1)
【文献】特開2007-203417号公報(JP,A)
【文献】特開2008-36766(JP,A)
【文献】特開2009-77779(JP,A)
【文献】特開2010-115375号公報(JP,A)
【文献】特開2015-155119号公報(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2002/0145373(US,A1)
【文献】米国特許第6416876(US,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B24D 3/00-99/00
B24B 3/00- 3/60
B24B 21/00-39/06
H01L 21/304
B28D 1/00- 7/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
純タングステンからなる金属線を備え、
前記金属線の表面粗さRaは、0.05μmより大きく、0.15μm以下であり、
前記金属線の弾性率は、350GPa以上450GPa以下であり、
前記金属線の引張強度は、4000MPa以上6000MPa以下であり、
前記金属線の線径は、10μm以上60μm以下である
ソーワイヤー。
【請求項2】
請求項1に記載のソーワイヤーを備える切断装置。
【請求項3】
さらに、前記ソーワイヤーにかかる張力を緩和する張力緩和装置を備える
請求項2に記載の切断装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ソーワイヤー及び当該ソーワイヤーを備える切断装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ピアノ線からなるワイヤーを用いてシリコンインゴットをスライスするマルチワイヤーソーが知られている(例えば、特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ワイヤーソーでは、ワイヤーの線径分の削りカスが発生する。上記従来のマルチワイヤーソーでは、ピアノ線からなるワイヤーを利用しているが、ピアノ線の細線化は難しい。具体的には、現状では線径が60μmより小さいピアノ線の製造は難しく、かつ、ピアノ線の弾性率は150GPa~250GPaであるため、仮に細径化できたとしてもスライス時にタワミが発生する。このため、細径化されたピアノ線は、ワイヤーソーのスライスに不向きである。
【0005】
そこで、本発明は、切断対象物のロスを少なくすることができるソーワイヤー及び当該ソーワイヤーを備える切断装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明の一態様に係るソーワイヤーは、純タングステンからなる金属線を備え、前記金属線の表面粗さRaは、0.05μmより大きく、0.15μm以下であり、前記金属線の弾性率は、350GPa以上450GPa以下であり、前記金属線の引張強度は、3500MPa以上6000MPa以下であり、前記金属線の線径は、10μm以上60μm以下である。
【0007】
また、本発明の一態様に係る切断装置は、前記ソーワイヤーを備える。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、切断対象物のロスを少なくすることができるソーワイヤー及び当該ソーワイヤーを備える切断装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図2】実施の形態に係る切断装置によるインゴットのスライスの様子を示す断面図である。
【
図3】実施の形態に係るソーワイヤーの製造方法を示す遷移図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下では、本発明の実施の形態に係るソーワイヤー及び切断装置について、図面を用いて詳細に説明する。なお、以下に説明する実施の形態は、いずれも本発明の一具体例を示すものである。したがって、以下の実施の形態で示される数値、形状、材料、構成要素、構成要素の配置及び接続形態、ステップ、ステップの順序などは、一例であり、本発明を限定する趣旨ではない。よって、以下の実施の形態における構成要素のうち、本発明の最上位概念を示す独立請求項に記載されていない構成要素については、任意の構成要素として説明される。
【0011】
また、各図は、模式図であり、必ずしも厳密に図示されたものではない。したがって、例えば、各図において縮尺などは必ずしも一致しない。また、各図において、実質的に同一の構成については同一の符号を付しており、重複する説明は省略又は簡略化する。
【0012】
また、本明細書において、平行又は等しいなどの要素間の関係性を示す用語、及び、円形などの要素の形状を示す用語、並びに、数値範囲は、厳格な意味のみを表す表現ではなく、実質的に同等な範囲、例えば数%程度の差異をも含むことを意味する表現である。
【0013】
(実施の形態)
[切断装置]
まず、本実施の形態に係るソーワイヤーを備える切断装置の概要について、
図1を用いて説明する。
図1は、本実施の形態に係る切断装置1の斜視図である。
【0014】
図1に示すように、切断装置1は、ソーワイヤー10を備えるマルチワイヤーソーである。切断装置1は、例えば、インゴット20を薄板状に切断することで、ウェハを製造する。インゴット20は、例えば、単結晶シリコンから構成されるシリコンインゴットである。具体的には、切断装置1は、ソーワイヤー10によってインゴット20をスライスすることで、複数のシリコンウェハを同時に製造する。
【0015】
なお、インゴット20は、シリコンインゴットに限らず、シリコンカーバイド又はサファイアなどの他のインゴットでもよい。あるいは、切断装置1による切断対象物は、コンクリート又はガラスなどでもよい。
【0016】
図1に示すように、切断装置1は、さらに、2つのガイドローラー2と、支持部3と、張力緩和装置4とを備える。
【0017】
2つのガイドローラー2には、1本のソーワイヤー10が複数回、巻きつけられている。ここでは、説明の都合上、ソーワイヤー10の1周分を1つのソーワイヤー10とみなして、複数のソーワイヤー10が2つのガイドローラー2に巻きつけられているものとして説明する。つまり、以下の説明において、複数のソーワイヤー10は、1本の連続するソーワイヤー10を形成している。なお、複数のソーワイヤー10は、個々に分離した複数のソーワイヤーであってもよい。
【0018】
2つのガイドローラー2は、複数のソーワイヤー10を所定の張力でまっすぐに張った状態で各々が回転することで、複数のソーワイヤー10を所定の速度で回転させる。複数のソーワイヤー10は、互いに平行で、かつ、等間隔で配置されている。具体的には、2つのガイドローラー2にはそれぞれ、ソーワイヤー10が入れられる溝が所定のピッチで複数設けられている。溝のピッチは、切り出したいウェハの厚みに応じて決定される。溝の幅は、ソーワイヤー10の線径φと略同じである。
【0019】
張力緩和装置4は、ソーワイヤー10にかかる張力を緩和する装置である。例えば、張力緩和装置4は、つるまきバネ又は板バネなどの弾性体である。
図1に示すように、例えばつるまきバネである張力緩和装置4は、一端がガイドローラー2に接続され、他端が所定の壁面に固定されている。張力緩和装置4がガイドローラー2の位置を調整することで、ソーワイヤー10にかかる張力を緩和することができる。
【0020】
なお、切断装置1は、3つ以上のガイドローラー2を備えてもよい。3つ以上のガイドローラー2の周りに複数のソーワイヤー10が巻きつけられていてもよい。
【0021】
支持部3は、切断対象物であるインゴット20を支持する。支持部3は、インゴット20を複数のソーワイヤー10に向けて押し出すことにより、インゴット20が複数のソーワイヤー10によってスライスされる。
【0022】
なお、図示しないが、切断装置1は、遊離砥粒方式の切断装置であって、複数のソーワイヤー10にスラリーを供給する供給装置を備えていてもよい。スラリーは、クーラントなどの切削液に砥粒が分散されたものである。スラリーに含まれる砥粒がソーワイヤー10に付着することで、インゴット20の切断を容易に行うことができる。砥粒は、例えば、ダイヤモンド又はCBN(立方晶窒化ホウ素)などである。
【0023】
図2は、本実施の形態に係る切断装置1によるインゴット20のスライスの様子を示す断面図である。
図2は、
図1に示すII-II線における断面であって、ソーワイヤー10の延在方向に直交する断面の一部を示している。具体的には、複数のソーワイヤー10のうち3本のソーワイヤー10によってインゴット20をスライスする様子を示している。
【0024】
インゴット20を複数のソーワイヤー10に向けて押し出すことにより、インゴット20は、複数のソーワイヤー10によって同時に複数の分割片21に分割される。隣り合う分割片21の間の隙間22は、ソーワイヤー10によってインゴット20が削り取られることによって形成された空間である。つまり、隙間22の大きさは、インゴット20のロスに相当する。
【0025】
隙間22の幅dは、ソーワイヤー10の線径φに依存する。すなわち、ソーワイヤー10の線径φが大きいほど、幅dが大きくなってインゴット20のロスは多くなる。ソーワイヤー10の線径φが小さいほど、幅dが小さくなってインゴット20のロスは少なくなる。
【0026】
具体的には、隙間22の幅dは、線径φより大きくなる。幅dと線径φとの差分は、ソーワイヤー10に付着する砥粒の大きさと、ソーワイヤー10の回転の際の振動の揺れ幅とに依存する大きさである。このとき、ソーワイヤー10の揺れ幅は、ソーワイヤー10を強く張ることにより抑えることができる。ソーワイヤー10の引張強度が高く、弾性率が大きいほど、ソーワイヤー10を強く張ることが可能になる。このため、ソーワイヤー10の揺れ幅が小さくなって、隙間22の幅dを小さくすることができ、インゴット20のロスを更に少なくすることができる。
【0027】
なお、分割片21の厚みDは、複数のソーワイヤー10の配置間隔に依存する。このため、複数のソーワイヤー10は、所望の厚みDと所定のマージンとを加えた間隔で配置される。具体的には、マージンは、幅dと線径φとの差分であり、ソーワイヤー10の揺れ幅及び砥粒の粒径に応じて決まる値である。
【0028】
以上のことから、インゴット20のロスを少なくするためには、ソーワイヤー10の線径φと引張強度と弾性率とが重要なパラメータであることが分かる。具体的には、ソーワイヤー10の線径φを小さくし、又は、ソーワイヤー10の引張強度を高く、若しくは、弾性率を大きくすることで、インゴット20のロスを少なくすることができる。
【0029】
また、ソーワイヤー10の表面粗さRaが小さい程、インゴット20に与える応力が均一化される。このため、インゴット20の切断をスムーズに行うことができる。したがって、表面粗さRaが小さい場合には、ソーワイヤー10の揺れ幅も小さくすることができ、インゴット20のロスを少なくすることができる。
【0030】
以下では、ソーワイヤー10の構成及び製造方法について説明する。
【0031】
[ソーワイヤー]
本実施の形態に係るソーワイヤー10は、レニウム(Re)とタングステン(W)との合金(ReW)からなる金属線を備える。本実施の形態では、ソーワイヤー10は、金属線そのものである。
【0032】
ソーワイヤー10は、タングステンを主成分として含有し、所定の割合でレニウムを含有している。ソーワイヤー10のレニウムの含有率は、0.1wt%以上10wt%以下である。例えば、レニウムの含有率は、0.5wt%以上5wt%以下であってもよく、一例として3wt%であるが、1wt%でもよい。レニウムの含有率を高めることで、ソーワイヤー10の引張強度が大きくなる。一方で、レニウムの含有率が高すぎる場合には、ソーワイヤー10の細線化が難しくなる。
【0033】
ReW合金からなる金属線は、線径が小さくなるほど、断面積当りの強度が高くなる。すなわち、ReW合金からなる金属線を利用することで、線径φが小さく、かつ、引張強度及び弾性率が高いソーワイヤー10を実現することができ、インゴット20のロスを抑制することができる。
【0034】
具体的には、ソーワイヤー10の引張強度は、3500MPa以上である。例えば、ソーワイヤー10の引張強度は、3500MPa以上6000MPa以下であるが、これに限らない。例えば、ソーワイヤー10の引張強度は、4000MPa以上でもよく、5000MPa以下でもよい。
【0035】
また、ソーワイヤー10の弾性率は、350GPa以上450GPa以下である。なお、弾性率は、縦弾性係数である。つまり、ソーワイヤー10は、ピアノ線の約2倍の弾性率を有する。
【0036】
ソーワイヤー10の線径φは、60μm以下である。例えば、ソーワイヤー10の線径φは、40μm以下でもよく、30μm以下でもよい。ソーワイヤー10の線径φは、具体的には20μmであるが、10μmでもよい。ソーワイヤー10は、線径φが均一である。ソーワイヤー10の線径φが60μm以下であるので、ソーワイヤー10は、柔軟性を有し、十分に屈曲させやすい。このため、ソーワイヤー10をガイドローラー2間に容易に巻きつけることができる。
【0037】
なお、ソーワイヤー10は、固定砥粒方式の切断装置に利用することもでき、例えば、ダイヤモンド粒子などの砥粒を表面に固着させてもよい。この場合、ソーワイヤー10の線径φが小さすぎるとき、砥粒が脱離しやすくなる恐れがある。このため、例えば、ソーワイヤー10の線径φは、10μm以上であってもよい。
【0038】
ソーワイヤー10は、例えば、ワイヤーの延在方向に直交する断面形状が円形の金属線であるが、これに限らない。ソーワイヤー10の断面形状は、正方形などの矩形又は楕円形などでもよい。
【0039】
ソーワイヤー10の表面粗さRaは、0.15μm以下である。なお、表面粗さRaは、0.10μm以下でもよい。なお、ソーワイヤー10の表面に砥粒を固着させる場合に、めっき層を形成することで、砥粒の固着力を高めることができる。このとき、表面粗さRaが小さすぎる場合、めっき層の密着性が悪くなるので、ソーワイヤー10の表面粗さRaは、例えば0.05μmより大きくてもよい。
【0040】
[ソーワイヤーの製造方法]
以下では、上記特徴を有するソーワイヤー10の製造方法について、
図3を用いて説明する。
図3は、本実施の形態に係るソーワイヤー10の製造方法を示す遷移図である。
【0041】
まず、
図3の(a)に示すように、タングステン粉末11aとレニウム粉末11bとを所定の割合で準備する。具体的には、タングステン粉末11aとレニウム粉末11bとを合わせた全体重量のうちの0.1%以上10%以下の範囲でレニウム粉末11bを準備し、残りをタングステン粉末11aとする。タングステン粉末11a及びレニウム粉末11bの各々の平均粒径は、例えば5μmであるが、これに限らない。
【0042】
次に、タングステン粉末11a及びレニウム粉末11bの混合物に対してプレス及び焼結(シンター)を行うことで、タングステン及びレニウムの合金からなるReWインゴットを作製する。周囲から鍛造圧縮して伸展するスエージング加工を、ReWインゴットに対して行うことで、
図3の(b)に示すように、ワイヤー状のReW線12を作製する。例えば、焼結体であるReWインゴットは、線径が15mm程度であるのに対して、ワイヤー状のReW線12は、線径が3mm程度である。
【0043】
次に、
図3の(c)に示すように、伸線ダイスを用いた線引き加工を行う。
【0044】
具体的には、まず、
図3の(c1)に示すように、ReW線12をアニールする。具体的には、バーナーで直接的にReW線12を加熱するだけでなく、ReW線12に電流を流しながら加熱する。アニール工程は、スエージング加工又は線引き加工によって生じる加工歪を除去するために行われる。
【0045】
次に、
図3の(c2)に示すように、伸線ダイス30を用いてReW線12の線引き、すなわち、伸線を行う。なお、前段のアニール工程によって、ReW線12が加熱されて柔らかくなっているので、伸線を容易に行うことができる。ReW線12が細線化されることで、その断面積当りの強度が高くなる。つまり、線引き工程によって細線化されたReW線13は、ReW線12よりも断面積当りの引張強度が高い。なお、ReW線13の線径は、例えば0.6mmであるが、これに限らない。
【0046】
次に、
図3の(c3)に示すように、線引き後のReW線13に対して電解研磨を行うことにより、ReW線13の表面を滑らかにする。電解研磨工程は、例えば水酸化ナトリウム水溶液などの電解液40に、ReW線13と、炭素棒などの対向電極41とを浸した状態で、ReW線13と対向電極41との間に通電することで行われる。
【0047】
次に、
図3の(c4)に示すように、ダイス交換を行う。具体的には、次の線引き加工に利用するダイスとして、伸線ダイス30よりも口径が小さい伸線ダイス31を選択する。なお、伸線ダイス30及び31は、例えば、焼結ダイヤモンド又は単結晶ダイヤモンドなどから構成されるダイヤモンドダイスである。
【0048】
ReW線13の線径が所望の線径(具体的には、60μm以下)になるまで、
図3の(c1)~(c4)を繰り返し行う。このとき、
図3の(c2)で示す線引き工程は、対象となるReW線の線径に応じて、伸線ダイス30又は31の形状及び硬さ、使用する潤滑剤、並びに、ReW線の温度などを調整することで行われる。
【0049】
図3の(c1)で示すアニール工程も同様に、対象となるReW線の線径に応じて、アニール条件を調整する。アニール工程によって、ReW線の表面には、酸化物が付着する。アニール条件を調整することで、付着する酸化物量を調整することができる。
【0050】
具体的には、ReW線の線径φが大きい程、高い温度でアニールし、ReW線の線径φが小さい程、低い温度でアニールする。例えば、ReW線の線径φが大きい場合、具体的には、1回目の線引き加工のときのアニール工程では、1400℃~1800℃の温度でアニールする。所望の線径になる最終線引き加工のときの最終アニール工程では、1200℃~1500℃の温度で加熱する。なお、最終アニール工程では、ReW線への通電を行わなくてもよい。
【0051】
また、線引き加工の繰り返しの際に、アニール工程は省略されてもよい。例えば、最終アニール工程は省略されてもよい。具体的には、最終アニール工程を省略し、潤滑剤並びに伸線ダイスの形状及び硬さを調節してもよい。
【0052】
また、最終アニール後の線引き工程(すなわち、最終線引き工程)では、単結晶ダイヤモンドから構成される単結晶ダイヤモンドダイスを伸線ダイス31として利用する。単結晶ダイヤモンドダイスでは、ダイヤモンド粒子の脱離が起きにくいため、線引き後のReW線に線筋が形成されにくい。このため、所望の線径になったReW線の表面粗さRaを小さくすることができる。
【0053】
また、線引き加工の繰り返しの際に、例えば、50MG時点での酸化物量の重量比を0.2%以上0.5%以下として、線引きを孔径200μmの単結晶ダイヤモンドダイスから始める。これにより、
図3の(d)に示すように、表面粗さRaが0.15μm以下になったソーワイヤー10が製造される。
【0054】
なお、
図3は、ソーワイヤー10の製造方法の各工程を模式的に示したものである。各工程を個別に行ってもよく、各工程をインラインで行ってもよい。例えば、複数の伸線ダイスは、生産ライン上で、順次口径が小さくなる順で並べられており、各伸線ダイス間にアニール工程を行う加熱装置及び電解研磨装置などが配置されていてもよい。
【0055】
[効果など]
以上のように、本実施の形態に係るソーワイヤー10は、タングステン合金からなる金属線を備え、金属線の表面粗さRaは、0.15μm以下であり、金属線の弾性率は、350GPa以上450GPa以下であり、金属線の引張強度は、3500MPa以上であり、金属線の線径φは、60μm以下である。また、例えば、金属線の引張強度は、6000MPa以下である。
【0056】
このように、金属線は、タングステンを主成分として含有しているので、細線化する程、引張強度が増加して切れにくくなる。これにより、金属線は、細線化しても切れにくくなるので、ピアノ線より細く、かつ、ピアノ線と同等以上の引張強度で、ピアノ線の約2倍の弾性率を有する金属線を実現することができる。
【0057】
本実施の形態に係るソーワイヤー10の引張強度が高いので、強い張力でガイドローラー2間に張ることができる。このため、インゴット20の切断時のソーワイヤー10の振動を抑制することができる。
【0058】
また、ソーワイヤー10の表面粗さRaが小さいので、インゴット20に与える応力が均一化される。このため、インゴット20の切断をスムーズに行うことができる。したがって、表面粗さRaが小さい場合には、ソーワイヤー10の揺れ幅も小さくすることができ、インゴット20のロスを更に少なくすることができる。
【0059】
このように、ソーワイヤー10の線径φ及び表面粗さRaが小さく、かつ、引張強度及び弾性率が大きいので、インゴット20をスライスした時に生じる削りカス、すなわち、インゴット20のロスを少なくすることができる。したがって、1つのインゴット20から切り出されるウェハの枚数を増やすことができる。
【0060】
また、本実施の形態に係るソーワイヤー10では、例えば、タングステン合金は、レニウムとタングステンとの合金であり、タングステン合金におけるレニウムの含有率は、0.1wt%以上10wt%以下である。
【0061】
これにより、金属線がレニウムを含有していることで、純タングステン線よりも引張強度を高めることができる。また、純タングステンの場合に比べて、線引き加工時に金属線に線筋などの凹凸が発生しにくい。したがって、金属線の表面粗さRaを容易に小さくすることができる。
【0062】
レニウムタングステンの合金線は細線化によって断面積当りの引張強度が増すという特徴を有するので、ソーワイヤー10がレニウムタングステンの合金線で構成されていることは、非常に有用である。
【0063】
また、本実施の形態に係る切断装置1は、例えば、ソーワイヤー10を備える。
【0064】
これにより、ソーワイヤー10の線径φが小さくなるので、1つのインゴット20から切り出されるウェハの枚数を増やすことができる。また、インゴット20をスライスした時に生じる削りカスを少なくすることができる。
【0065】
また、本実施の形態に係る切断装置1は、例えば、さらに、ソーワイヤー10にかかる張力を緩和する張力緩和装置4を備える。
【0066】
これにより、ソーワイヤー10に強い張力がかかることを抑制することができるので、ソーワイヤー10の断線などを抑制することができる。
【0067】
(変形例)
続いて、上記の実施の形態の変形例について説明する。以下では、上記の実施の形態との相違点を中心に説明し、共通点の説明を省略又は簡略化する。
【0068】
本変形例に係るソーワイヤーは、ReW合金の代わりに、カリウム(K)がドープされたタングステンからなる金属線を備える。本変形例に係るソーワイヤーは、金属線そのものである。
【0069】
ソーワイヤーは、タングステンを主成分として含有し、所定の割合でカリウムを含有している。ソーワイヤーのカリウムの含有率は、0.005wt%以上0.010wt%以下である。
【0070】
カリウムがドープされたタングステンからなる金属線(カリウムドープタングステン線)は、線径φが小さくなるほど、断面積当りの引張強度が強くなる。すなわち、カリウムドープタングステン線を利用することで、線径φが小さく、かつ、引張強度が高いソーワイヤーを実現することができ、インゴット20のロスを抑制することができる。
【0071】
本変形例に係るソーワイヤーの引張強度、弾性率、線径φ及び表面粗さRaなどはそれぞれ、実施の形態に係るソーワイヤー10と同じである。
【0072】
以上のように、本変形例に係るソーワイヤーでは、タングステンからなる金属線には、カリウムがドープされており、金属線のカリウムの含有率は、0.005wt%以上0.010wt%以下である。
【0073】
このように、タングステンが微量のカリウムを含有することで、金属線の半径方向の結晶粒成長が抑制される。このため、本変形例に係るソーワイヤーは、純タングステンに比べて、高温での強度が高くなる。
【0074】
また、カリウムドープタングステン線は、線径が小さくなるほど、断面積当りの強度が強くなる。このため、ReW合金の場合と同様に、カリウムドープタングステン線を利用することで、金属線の表面が削れにくくなって、表面を滑らかにしやすくなる。つまり、表面粗さRaが0.15μm以下の金属線を容易に製造することができる。
【0075】
(その他)
以上、本発明に係るソーワイヤー及び切断装置について、上記の実施の形態及びその変形例に基づいて説明したが、本発明は、上記の実施の形態に限定されるものではない。
【0076】
例えば、上記の実施の形態では、タングステン合金としてレニウムとタングステンとの合金を示したが、例えば、ニッケル(Ni)とタングステンとの合金でもよい。
【0077】
また、例えば、上記の実施の形態では、ソーワイヤー10(すなわち、金属線)がタングステン合金からなる例について示したが、これに限らない。ソーワイヤー10は、タングステンから構成されていてもよい。つまり、ソーワイヤーは、純タングステンから構成されていてもよい。タングステンの純度は、例えば、99.9%以上であるが、これに限らない。
【0078】
また、例えば、上記の実施の形態では、ソーワイヤー10が金属線そのものである例について示したが、これに限らない。ソーワイヤー10は、金属線と、金属線の表面に固着された複数の砥粒とを備えてもよい。すなわち、ソーワイヤー10は、実施の形態で示したような遊離砥粒方式の切断装置1に利用されるワイヤーであってもよく、固定砥粒方式の切断装置に利用されるワイヤーであってもよい。砥粒は、例えば、ダイヤモンド又はCBN(立方晶窒化ホウ素)などである。
【0079】
固定砥粒方式の場合、金属線の表面粗さRaが小さいので、金属線に砥粒を固着させた場合に、インゴット20のスライス時に砥粒に加わる応力が均等に分散されやすくなる。このため、金属線からの砥粒の脱離を抑制することができるので、ソーワイヤー10の切れ味の低下を抑制することができる。また、砥粒を介してインゴット20に加わる応力も均等に分散されやすくなる。このため、インゴット20をスムーズにスライスすることができ、ソーワイヤー10の振動が抑えられるので、インゴット20のロスを少なくすることができる。
【0080】
また、例えば、切断装置1は、マルチワイヤーソーでなくてもよく、インゴット20を1つのソーワイヤー10でスライスすることで、1枚ずつウェハを切り出すワイヤーソー装置でもよい。また、
図1で示した切断装置1は一例に過ぎず、例えば張力緩和装置4を備えていなくてもよい。
【0081】
その他、各実施の形態に対して当業者が思いつく各種変形を施して得られる形態や、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で各実施の形態における構成要素及び機能を任意に組み合わせることで実現される形態も本発明に含まれる。
【符号の説明】
【0082】
1 切断装置
10 ソーワイヤー