(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-06-12
(45)【発行日】2025-06-20
(54)【発明の名称】室圧変動抑制扉及び室圧変動抑制方法
(51)【国際特許分類】
E06B 7/18 20060101AFI20250613BHJP
E05F 3/10 20060101ALI20250613BHJP
【FI】
E06B7/18 A
E05F3/10 A
(21)【出願番号】P 2023191047
(22)【出願日】2023-11-08
【審査請求日】2023-11-27
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 刊行物(論文) 刊行物名: 技術開発研究所 技報No.28 2022 第46頁~第49頁 発行日: 令和5年3月31日
(73)【特許権者】
【識別番号】390018474
【氏名又は名称】新日本空調株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】303013811
【氏名又は名称】日軽パネルシステム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079980
【氏名又は名称】飯田 伸行
(74)【代理人】
【識別番号】100167139
【氏名又は名称】飯田 和彦
(72)【発明者】
【氏名】宇田川 洋一
(72)【発明者】
【氏名】木村 崇
(72)【発明者】
【氏名】三ツ木 もも
(72)【発明者】
【氏名】井上 浩行
(72)【発明者】
【氏名】阪本 有佳理
【審査官】野尻 悠平
(56)【参考文献】
【文献】実開昭63-005190(JP,U)
【文献】特開昭61-060985(JP,A)
【文献】特開2001-201584(JP,A)
【文献】特開昭54-071838(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E06B 7/18
E05F 3/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
隣り合う2つの室の間に設けられ、前記2つの室の少なくとも一方の室内の圧力変動を抑制する室圧変動抑制扉であって、
前記室圧変動抑制扉は回動して開閉される扉であり、
前記室圧変動抑制扉は下部に閉塞可能な開口部を有しており、
前記室圧変動抑制扉は、該室圧変動抑制扉が閉扉されたときに閉扉状態に固定するための扉固定手段と、この扉固定手段を作動させて前記室圧変動抑制扉を前記閉扉状態に固定し又は該閉扉状態の固定を解除するための操作手段を有し、
前記室圧変動抑制扉は前記扉固定手段による前記閉扉状態の固定が解除されると自動的に開扉する一方、開扉状態から自動的に閉扉しない開閉構造を有し、
前記操作手段は前記開口部を閉塞する閉塞手段と連結手段により結合され、
前記室圧変動抑制扉の閉扉時に前記操作手段が操作されると、前記扉固定手段が作動して前記室圧変動抑制扉が閉扉した状態に固定されると共に、連動して前記閉塞手段が作動し前記開口部が閉塞され前記少なくとも一方の室内の気密性が保たれ、
前記扉固定手段により前記閉扉状態が固定されている時に前記操作手段がユーザーによって操作されると、前記閉扉状態の固定が解除されると共に、連動して前記閉塞手段による前記開口部の閉塞が解除される
ことを特徴とする室圧変動抑制扉。
【請求項2】
前記開閉構造は、
作動油が充填された密閉空間と、外周に歯部が形成された回転軸と、この回転軸の歯部に噛み合う歯部を長さ方向に備え往復移動可能なピストンと、前記室圧変動抑制扉を開放する方向に前記ピストンを付勢するための付勢手段を有するハウジングが前記室圧変動抑制扉の上部に取り付けられ、
前記回転軸の一端にリンク機構の一端が連結され、該リンク機構の他端は前記室圧変動抑制扉のための扉開口部の上枠側に連結される構成である
請求項1に記載の室圧変動抑制扉。
【請求項3】
前記自動的に開扉する際の前記室圧変動抑制扉の開扉速度が0.3m/秒以下である請求項1又は2に記載の室圧変動抑制扉。
【請求項4】
前記2つの室の少なくとも一方の室又はその給気もしくは排気経路に、目的室圧を保つため対象室圧を計測してその計測値に基づき風量制御が行われるダンパが設けられている場合において、前記室圧変動抑制扉がその開閉を検知するセンサを有し、該センサから出力される扉の開閉状態に基づいて、前記室圧変動抑制扉が開いた時に前記ダンパが風量制御を停止し、前記室圧変動抑制扉が閉じた後に前記ダンパが風量制御を開始する、請求項1又は2に記載の室圧変動抑制扉。
【請求項5】
隣り合う2つの室の少なくとも一方の室内の圧力変動を抑制する室圧変動抑制方法であって、
前記2つの室の間に回動して開閉される室圧変動抑制扉を設け、
前記室圧変動抑制扉が閉扉状態の固定が解除されると自動的に開扉する一方、開扉状態から自動的に閉扉しないように構成し、
前記室圧変動抑制扉は下部に閉塞可能な開口部を有すると共に、該室圧変動抑制扉が閉扉されたときに閉扉状態に固定するための扉固定手段と、この扉固定手段を作動させて前記室圧変動抑制扉を前記閉扉状態に固定し又は該閉扉状態の固定を解除するための操作手段を有し、
前記室圧変動抑制扉の閉扉時に前記操作手段が操作されると、前記扉固定手段が作動して前記室圧変動抑制扉が閉扉した状態に固定されると共に、連動して前記
開口部を閉塞する閉塞手段が作動し前記開口部が閉塞され前記少なくとも一方の室内の気密性を保ち、
前記扉固定手段により前記閉扉状態が固定されている時に前記操作手段が操作されると、前記閉扉状態の固定が解除されると共に、連動して前記閉塞手段による前記開口部の閉塞を解除する
ことを特徴とする室圧変動抑制方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クリーンルーム、陰圧室、陽圧室などにおける室圧の変動を抑制するための扉、及び、上記変動を抑制するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
クリーンルームや陰圧室、陽圧室等の設備においては、室内空間と室外空間との間で圧力差を所定以上に保つことにより外部からの異物等の流入や内部で発生する汚染物質等が外部へ流出することのないようにするための、室圧を制御するシステムが利用されている。
【0003】
上記のような設備においては複数の室が設けられ、上記システムにより隣接する2つの室の少なくとも一方において室圧制御が行われる。そして、これらの室間には通常、両室の往来を可能にするドアが設けられている。ところが、このドアが開かれる際に両室の室圧が逆転し、それに伴い汚染物質が室圧制御の行われている室に混入するといった事態が生じることがある。これは交差汚染等の問題の原因となる。
【0004】
室圧制御については、例えば特許文献1において、ドアの開閉度とそれに対する通気量を予め記録しておき、実際にドアが開いた際の開閉度をドアに設けられた複数のセンサから導き出して、それに基づいた通気量分を多く給気するようにダンパを制御することで室圧逆転を防ぐ方法が提案されている。
【0005】
特許文献2においては、室間差圧を測定し、一定差圧を維持できるように室間に設けられた差圧保持ダンパ内の閉塞部材を動作させて開口率を変更して制御する方法が提案されている。
【0006】
特許文献3においては、異なる室圧に制御された、ドアによって繋がっている2つの部屋間で、室圧差が増加した後で減少した時にドアが開と判定し、ドアが開と判定された後、室圧差が再び増加した時にドアが閉と判定する方法が提案されている。これは、室圧差を測定し、これを基準としてドアが開と判定された後にドアが閉と判定されるまでは2つの部屋の室圧制御を停止し、ドアが閉と判定されると再び2つの空調空間の室圧制御を開始するというものである。
【0007】
これらの発明はいずれも、室圧等の状態変化を測定、検知し、電気的な信号を介して室圧変動の制御を行うことを基本としており、合理的な方法論、技術思想に基づいている。しかしながら、室内の状態変化を基準とする場合、その測定、検知、信号伝達による室圧制御が間に合わず、実際は例えば制御開始よりも早くドアの開閉動作が完了する等の状況がしばしば生じる。そのため、現場において室圧変動を十分に抑制できないことも少なくない。
【0008】
また、室内の状態変化を基礎として室圧変動を抑制する場合、停電等により電力が不十分となった際に測定、検知ができず、ドアの開閉による室圧変動の制御を十分に行えない等のおそれが生じ得る。
【0009】
更に、大気圧より高い状態の室圧で保たれ、排気経路側に目的室圧に制御する機構を有するダンパが設けられている室においては、(1)ドアが開扉状態となると、異なる室圧の部屋が連通することで、室圧が低下し、この室圧を定常状態に上昇させるため、ダンパが閉動作となる(給気過多状態となる)。(2)その後、ドアが閉扉され始めると、ドアの回動速度にダンパ動作が追いつかず、閉扉直後は室内への給気過多状態が維持され、室圧が上昇する。(3)この上昇した室圧を検知しダンパが開動作となることで、閉扉状態での安定開度に戻り、室圧が設定値に戻る、という動作をすることになる。このような一連の流れにより室圧が大きく変動する問題が生じることがあるが、電気的な信号を介して行う制御ではかかる問題に十分に対応することができない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】特開2006-317082
【文献】特開2017-161117
【文献】特開2007-247912
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上記問題点及び現状をふまえ、本発明者は、室内の状態変化を基準とするのではなく、扉の構造自体を変えることにより、室圧変動を抑制することに着目した。
【0012】
そして、実験、研究の結果、クリーンルーム、陰圧室、陽圧室などで用いられるドアは比較的重量がある(重い)ことから、人力で(ドアを押したり引いたりすることにより)開扉すると力をかけ過ぎかえって急激に開いてしまうことが少なくなく、開扉においてはそれにより大きな室圧変動が生じ得ることが判明した。
【0013】
一方、気密性を必要とする室の扉を人が閉める場合、従来の扉では、扉が取り付けられる枠(例えばクリーンルームでは、四方枠か、床面に枠板がない三方枠が主に用いられる)に扉が近づくまでは大きな室圧変動は生じないが、枠内に扉を押し込む、即ち枠部分の空間の空気を対象室に押し込む段階において、対象室との開口が急激に減少することにより扉に圧力がかかり、この圧力に応じた力で扉を枠内に一気に押し込む必要があるため、その過程において室圧が急激に上昇する現象(以下、本明細書において「オーバーシュート」という)が生じる点が、室圧の安定運用における圧力変動の外乱となり、その抑制方法が課題であることが判明した。
【0014】
本発明は上記諸問題に鑑みてなされたものであり、室内の状態変化を基準とすることなく、開扉時・閉扉時の各時点において生じ得る室圧変動を、それぞれタイムラグなく抑制する扉及び上記室圧変動を抑制する方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記課題を解決するため、本発明は、電力に依らずに自動的に開扉でき、かつ開扉速度を一定に保たせる構造の扉を提案する。一方、閉扉においては、閉扉までドアの一部を開口状態にし、閉扉直後にこの開口を閉塞して室を気密状態に保つよう扉を構成することを提案する。
【0016】
すなわち、本発明は、第1の側面として、
隣り合う2つの室の間に設けられ、前記2つの室の少なくとも一方の室内の圧力変動を抑制する室圧変動抑制扉であって、
前記室圧変動抑制扉は回動して開閉される扉であり、
前記室圧変動抑制扉は下部に閉塞可能な開口部を有しており、
前記室圧変動抑制扉は、該室圧変動抑制扉が閉扉されたときに閉扉状態に固定するための扉固定手段と、この扉固定手段を作動させて前記室圧変動抑制扉を前記閉扉状態に固定し又は該閉扉状態の固定を解除するための操作手段を有し、
前記室圧変動抑制扉は前記扉固定手段による前記閉扉状態の固定が解除されると自動的に開扉する一方、開扉状態から自動的に閉扉しない開閉構造を有し、
前記操作手段は前記開口部を閉塞する閉塞手段と連結手段により結合され、
前記室圧変動抑制扉の閉扉時に前記操作手段が操作されると、前記扉固定手段が作動して前記室圧変動抑制扉が閉扉した状態に固定されると共に、連動して前記閉塞手段が作動し前記開口部が閉塞され前記少なくとも一方の室内の気密性が保たれ、
前記扉固定手段により前記閉扉状態が固定されている時に前記操作手段がユーザーによって操作されると、前記閉扉状態の固定が解除されると共に、連動して前記閉塞手段による前記開口部の閉塞が解除される
ことを特徴とする室圧変動抑制扉
を提供する。
【0017】
第2の側面として、
前記開閉構造は、
作動油が充填された密閉空間と、外周に歯部が形成された回転軸と、この回転軸の歯部に噛み合う歯部を長さ方向に備え往復移動可能なピストンと、前記室圧変動抑制扉を開放する方向に前記ピストンを付勢するための付勢手段を有するハウジングが前記室圧変動抑制扉の上部に取り付けられ、
前記回転軸の一端にリンク機構の一端が連結され、該リンク機構の他端は前記室圧変動抑制扉のための扉開口部の上枠側に連結される構成である
上述の室圧変動抑制扉
を提供する。
【0018】
第3の側面として、
前記自動的に開扉する際の前記室圧変動抑制扉の開扉速度が0.3m/秒以下である上述の室圧変動抑制扉
を提供する。
【0019】
第4の側面として、
前記2つの室の少なくとも一方の室又はその給気もしくは排気経路に、目的室圧を保つため対象室圧を計測してその計測値に基づき風量制御が行われるダンパが設けられている場合において、前記室圧変動抑制扉がその開閉を検知するセンサを有し、該センサから出力される扉の開閉状態に基づいて、前記室圧変動抑制扉が開いた時に前記ダンパが風量制御を停止し、前記室圧変動抑制扉が閉じた後に前記ダンパが風量制御を開始する、上述の室圧変動抑制扉
を提供する。
【0020】
第5の側面として、
隣り合う2つの室の少なくとも一方の室内の圧力変動を抑制する室圧変動抑制方法であって、
前記2つの室の間に回動して開閉される室圧変動抑制扉を設け、
前記室圧変動抑制扉が閉扉状態の固定が解除されると自動的に開扉する一方、開扉状態から自動的に閉扉しないように構成し、
前記室圧変動抑制扉は下部に閉塞可能な開口部を有すると共に、該室圧変動抑制扉が閉扉されたときに閉扉状態に固定するための扉固定手段と、この扉固定手段を作動させて前記室圧変動抑制扉を前記閉扉状態に固定し又は該閉扉状態の固定を解除するための操作手段を有し、
前記室圧変動抑制扉の閉扉時に前記操作手段が操作されると、前記扉固定手段が作動して前記室圧変動抑制扉が閉扉した状態に固定されると共に、連動して前記開口部を閉塞する閉塞手段が作動し前記開口部が閉塞され前記少なくとも一方の室内の気密性を保ち、
前記扉固定手段により前記閉扉状態が固定されている時に前記操作手段が操作されると、前記閉扉状態の固定が解除されると共に、連動して前記閉塞手段による前記開口部の閉塞を解除する
ことを特徴とする室圧変動抑制方法
を提供する。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、室内の状態変化を測定、検知することなく、扉の開閉による室圧変動を抑制することができる。また、本発明によれば、開扉時及び閉扉時の両方の時点において生じ得る室圧変動を、それぞれ、タイムラグなく抑制することができる。更に、何らかの事情により電力の供給が十分にされない事態が生じたとしても、ドアの開閉による室圧変動を抑制することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】本発明の一実施形態にかかる図であり、室圧変動抑制扉を正面から表した図である。
【
図2】
図1の室圧変動抑制扉を側面から表した図である。
【
図3】本発明の一実施形態にかかる図であり、自動開扉を行うための構造の一例を示す図である。
【
図4】
図3の構造のものを別の角度から示す図である。
図4(A)は閉扉時における状態を示し、
図4(B)は開扉時における状態を示す。
【
図5】
図1の室圧変動抑制扉において開口部が閉塞した状態を示す図である。
【
図6】
図5の室圧変動抑制扉を側面から表した図である。
【
図7】
図2の上部を部分的に拡大し内部も示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明に係る実施形態を、図面を参照しながら説明する。なお、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0024】
(第1実施形態)
本実施形態につき、複数の室において異なる室圧で空調されるクリーンルーム等の施設において、隣り合う2つの部屋間に設けられるドアに本発明を適用する場合を例にして説明する。
【0025】
図1及び
図2に本発明の室圧変動抑制扉の一例を示す。これらの図は室圧変動抑制扉の一部につき内部構造(連結手段としてのロッド棒ないしシャフトが位置する箇所など)がわかるように示されている。
図2は、
図1の室圧変動抑制扉を側面(
図1に向かって左側)から示すものである。この室圧変動抑制扉(1)は、ヒンジ(13)(
図4参照)により建物(ないし室)に設けられる扉用の枠(14)に開閉可能に取り付けられており、一方の室内に向けて回動して開閉される。また、室圧変動抑制扉(1)は、室内の気密を保持するためのエアタイト構造を有する。エアタイト構造については公知のものを適用することができる。
【0026】
本発明の室圧変動抑制扉(1)は、該室圧変動抑制扉が閉扉されたときに閉扉状態に固定するための扉固定手段(2)を有する。扉固定手段(2)は空錠とすることができる。この室圧変動抑制扉(1)は、ユーザーが、扉固定手段(2)を作動させて室圧変動抑制扉(1)を閉扉状態に固定したり、該閉扉状態の固定を解除したりするための操作手段(扉固定手段を操作するハンドル)(3)を有する。これら手段として、ロッドを上下に突出又は退入させて施錠状態と解錠状態とを切り替える等の公知のグレモンハンドル(グレモン錠)を用いてもよい。
【0027】
本発明の室圧変動抑制扉(1)は、扉固定手段(2)によって固定された閉扉状態の固定をユーザーが操作手段(3)を操作して解除し、操作手段(3)から手を離すと、自動的に開扉するように構成する。自動で開扉する際の開扉速度は一定となるように構成することができる。上述のとおり、クリーンルーム、陰圧室、陽圧室などにおいて用いられるドアは比較的重量がある(重い)ため、人力で(ドアを押したり引いたりすることにより)開扉すると、力をかけ過ぎ、かえって急激に開いてしまうことがあり、それにより大きな室圧変動を生じるおそれがある。室圧変動抑制扉(1)を上記のように構成すると、ユーザーが操作手段(3)を操作し、扉固定手段(2)によって固定された閉扉状態の固定を解除した後、操作手段(3)から手を離せば、室圧変動抑制扉(1)が一定の速度をもって自動的に開くものとなる。そのため、扉を急激に開いて大きな室圧変動を生じるのを回避することができる。
【0028】
扉固定手段(2)によって固定された閉扉状態の固定が解除された後に自動的に開扉するようにするための具体的な構造の一例が、
図3~
図4に示されている。
【0029】
図1において示されるように、室圧変動抑制扉(1)の上部に、所定の内部構造を有するハウジング(4)を取り付ける。このハウジング(4)の内部構造の一例が
図3に示されている。
図3は、
図1のハウジング(4)を上から見た図である。ハウジング(4)は、作動油が充填された密閉空間(5)と、外周に歯部(7)が形成された回転軸(6)と、この回転軸の歯部(7)とこれに噛み合う歯部(12)(ラック・ピニオン機構)を長さ方向に備えた往復移動可能なピストン(8)と、室圧変動抑制扉(1)を開放する方向にピストン(8)を付勢するための付勢手段(9)を有する。なお、
図3の例ではラック・ピニオン機構はピストン(8)の空洞部(15)に配されているが、必ずしもそのような構成に限られるものではなく、この点の構成は適宜変更したものを採用することができる。
【0030】
回転軸(6)はハウジング(4)を上下に貫挿するように連結されている。回転軸(6)の一端にリンク機構(10)の一端を連結し、該リンク機構(10)の他端を建物(ないし室)に設けられる扉用の枠の上枠側(11)に連結する。
【0031】
本発明の室圧変動抑制扉(1)は回動して開閉する構造であるため、これを閉めると、回転動作がリンク機構(10)を介して回転軸(6)に伝達され、また回転軸(6)の歯部とこれにかみ合う長手方向の歯部(12)を介してピストンの直線運動に変換される。これにより、ピストン(8)がハウジング(4)の密閉空間(5)を移動し、付勢手段(9)を圧縮する。この状態(すなわち閉扉した状態)で操作手段(3)を操作すると、閉扉状態が扉固定手段(2)によって固定される。
【0032】
その後、上記の固定された状態において操作手段(3)を操作し、扉固定手段(2)によって固定された閉扉状態の固定を解除し、操作手段(3)から手を離すと、圧縮された付勢手段(9)の反発力によりピストン(8)が付勢され、回転軸(6)が回転して室圧変動抑制扉(1)が自動的に開く。
【0033】
室圧変動抑制扉(1)の開扉時において、このように回転軸(6)が回転すると共にピストン(8)が移動するが、その際、密閉空間(5)の内部に充填されている作動油がピストン(8)の動きに応じて流動する。室圧変動抑制扉(1)の開扉速度は、この作動油の流量を弁(調整弁)で制御することによって調整する。より具体的には、調整弁は密閉空間(5)の高圧室(16)と低圧室(17)との間を繋ぐ流路(図示せず)に配され、この調整弁がピストン(8)の移動に連動して密閉空間(5)を流動する作動油の流量を制御することにより、室圧変動抑制扉(1)の開扉速度を調整する。
【0034】
実験により開扉は低速であるほど室圧変動を抑えることができることが判明した。一方、開扉速度が遅すぎると作業効率に支障をきたすおそれが生じる。調査、実験によると、作業員が扉を通過できる程度に開扉されるまでの時間が3秒程度までであれば作業効率への実質的な影響を抑えられることが判明した。これらの点を元に比較実験を行った結果、室圧変動抑制扉(1)の開扉速度は、0.3m/秒以下とするのが好適であると考えられる。
【0035】
室圧変動抑制扉(1)を上記のように構成した場合、室圧変動抑制扉(1)は、開扉状態からは自動的に閉扉しない。室圧変動抑制の観点においては、自動開扉の場合と異なり、自動的に閉扉させる意義は乏しいのでこのような構成で問題も生じない。
【0036】
本発明の室圧変動抑制扉(1)は、下部に開口部(18)を有する。この開口部(18)は、閉塞手段(19)により塞ぎ得るように(閉塞可能となるように)構成される。
【0037】
閉塞手段(19)は室圧変動抑制扉(1)の下方に設けられる。開口部(18)が閉塞されない状態においては、閉塞手段(19)は室圧変動抑制扉(1)の内部に収納され、開口部(18)を閉塞する場合は室圧変動抑制扉(1)から下方に突出し、床(21)に当接してこれを塞ぐ。
【0038】
より具体的には、開口部(18)を閉塞する閉塞手段(19)と、前述の操作手段(3)を、シャフト、ロッド棒等の連結手段(22)により結合する。また操作手段(3)の上方に位置する連結手段(20)は、操作手段(3)と室圧変動抑制扉(1)の上部と結合されている。
【0039】
室圧変動抑制扉(1)の閉扉時に操作手段(3)がユーザーによって操作されると、前述の扉固定手段(2)が作動して室圧変動抑制扉(1)が閉扉した状態に固定されると共に、連結手段(20)が上方に移動し、連結手段(20)の先端に設けられる突端部(24)がローラー部(23)に当たりローラー部(23)と係止部(25)の間に挿入され、これにより室圧変動抑制扉(1)の上部が扉開口部の上枠側(11)に抑え込まれるものとなる(
図2の上部を部分的に拡大した
図7を参照)。すなわち、室圧変動抑制扉(1)が扉枠(パッキン)を
図7の矢印の方向に抑える形で気密性を保つ。
【0040】
更に、上記作動と連動して連結手段(22)が下方に移動し、閉塞手段(19)が作動して室圧変動抑制扉(1)から下方に突出し、床に当接して開口部(18)の全体を完全に塞ぐ。開口部(18)が完全に閉塞されると、室内の気密性が保たれる状態となる。
【0041】
図5~
図6において、室圧変動抑制扉(1)が閉扉した状態に固定されると共に開口部(18)が閉塞手段(19)によって閉塞された状態の室圧変動抑制扉(1)を示す。
【0042】
本実施形態においては、開口部(18)は室圧変動抑制扉(1)の下部において床(21)との間に位置するよう、かつ、幅方向(
図1に向かい室圧変動抑制扉(1)の左右方向)の全長に亘り設けられている。すなわち、室圧変動抑制扉(1)の下端と床(21)との間に、(
図1に向かって)横長長方形状の開口部(18)が設けられている。閉塞手段(19)は、かかる開口部(18)を閉塞するように構成する。
【0043】
開口部の位置、形状、範囲は上述に限られるものでなく、例えば、室圧変動抑制扉(1)の下部の幅方向全長でなくその一部が開口するように構成してもよい。開口部(18)がどのような位置、形状、範囲で構成されたとしても、閉塞手段(19)はこれを完全に塞ぐように構成する。
【0044】
上述のとおり、室圧変動抑制扉(1)を閉じた時にユーザーが操作手段(3)を操作して閉扉状態を固定すると、同時に、閉塞手段(19)が作動して開口部(18)が閉塞される(
図5~
図6)。換言すれば、扉が閉まる直前までは開口部(18)は閉塞されない状態(開口した状態)が保たれることになる。そのため、閉扉時に、扉が取り付けられる枠に扉が近づいても扉に面圧があまりかかることがなく、扉を枠内まで締め切ることが容易となる。枠部分の空間空気は既に押し込まれており、操作手段(3)により開口部(18)の面積を塞いでゼロにするプロセスとなるので、新たに押し込まれる空気は存しない。すなわち、扉を上記のように構成することにより、閉扉の際に生じるオーバーシュートの問題を回避することが可能となる。
【0045】
閉塞手段(19)と操作手段(3)は連結手段(22)により結合されているので、扉固定手段(2)によって閉扉状態が固定されている時にユーザーが操作手段(3)を操作すると、閉扉状態の固定が解除されると共に、連動して閉塞手段(19)が上方に引き上げられ、閉塞手段(19)による開口部(18)の閉塞が解除される。
【0046】
本発明によれば、室内の状態変化を測定、検知することなく、室圧変動を抑制することができる。また、電力を用いずに扉を一定の速度で自動的に開扉すると共に、閉扉まで扉の一部を開口状態にするので、扉の開時および閉時の両方において生じ得る室圧変動をタイムラグなく抑制することが可能となる。
【0047】
(比較実験1)
図8に示される構成の室において、前室のドアA(通常の扉)を閉の状態とし、主室のドアBを以下(1-1)~(1-3)のパターンでそれぞれ構成し、各場合において10秒毎に開閉し、前室と主室の圧力変動を測定した。
【0048】
[比較実験1におけるドアBのパターン]
(1-1)ドアBを通常用いられる扉(下記(1-2)(1-3)の構成無し)とする場合。
(1-2)ドアBにつき、閉扉されたときに閉扉状態に固定するための扉固定手段と、この扉固定手段を作動させて扉を閉扉状態に固定し又は該閉扉状態の固定を解除するための操作手段を有し、扉固定手段による閉扉状態の固定が解除されると自動的に開扉する一方、開扉状態から自動的に閉扉しない開閉構造を有するものとする場合。
(1-3)ドアBにつき、上記(1-2)の開閉構造に加え、下部に閉塞可能な開口部を設け、閉扉時に前記操作手段がユーザーによって操作されると、前記扉固定手段が作動して前記室圧変動抑制扉が閉扉した状態に固定されると共に、連動して前記閉塞手段が作動し前記開口部が閉塞され前記少なくとも一方の室内の気密性が保たれ、前記扉固定手段により前記閉扉状態が固定されている時に前記操作手段がユーザーによって操作されると、前記閉扉状態の固定が解除されると共に、連動して前記閉塞手段による前記開口部の閉塞が解除されるようにする場合(本発明)。
【0049】
結果を
図9~
図11に示す。グラフにおいて破線が主室の圧力変動を示し、実線が前室の圧力変動を示している。
【0050】
図9に示されるとおり、上記(1-1)の場合、開扉時は圧力変動により前室と主室の圧力が逆転した(グラフの「a」等参照)。更に、閉扉時には、主室の圧力は、設定圧(+30Pa)から倍近く逸脱した値(約+60Pa)となった(グラフの「b」等参照)。これは、大きなオーバーシュートが発生したことを示している。
【0051】
図10に示されるとおり、上記(1-2)の場合は、開扉時において前室と主室の室圧逆転は生じなかった(グラフの「c」等参照)。しかし、閉扉時は、上記(1-1)の場合と同じく主室の圧力が設定圧(+30Pa)から倍近く逸脱した値(+60Paに近い値)となった(グラフの「d」等参照)。すなわち、大きなオーバーシュートが発生したことが示されている。
【0052】
図11に示されるとおり、上記(1-3)の場合(本発明)は、開扉時の圧力逆転は生じなかった(グラフの「e」等参照)。更に、閉扉時においても、主室の圧力は+40Pa程度に抑えられ、設定圧(+30Pa)から大きく逸脱した圧力とならなかった(グラフの「f」等参照)。すなわち、大きなオーバーシュートは発生しなかった。
【0053】
以上のとおり、本発明においては、開扉時及び閉扉時の両方の時点において生じ得る室圧変動を、それぞれ、タイムラグなく抑制することができることが示され、顕著な効果が示された。
【0054】
(第2実施形態)
本発明は、目的室圧を保つため対象室圧を計測してその計測値に基づき風量制御が行われる機構を有するダンパ(公知)が、各室の給気ないし排気経路(ダクト)等に設けられる場合にも、適用することができる。この場合の室圧変動抑制扉の構造、構成その他の詳細は、基本的には第1実施形態において述べた点と同様である。
【0055】
この場合、室圧変動抑制扉において扉開閉を検知するセンサを設けてもよい。すなわち、上記センサから出力される扉の開閉状態に基づき、室圧変動抑制扉が開いた時に前記ダンパが風量制御を停止し、また室圧変動抑制扉が閉じた後に前記ダンパが風量制御を開始するように構成する。このように構成すると、扉構造をもって基本的な制御が行われ、扉の開閉による室圧変動が抑制されるということに加えて、付加的なものとしてダンパによる制御も行い得ることとなるため、扉の開閉による室圧変動の抑制をより一層図ることが可能となる。
【0056】
(比較実験2)
図12に示される構成の室において、前室のドアA(通常の扉)を閉の状態とし、主室のドアBを上記(1-3)の構成を基本としつつ、更に以下(2-1)~(2-2)のパターンでそれぞれ構成し(いずれも本発明)、各場合において10秒毎に開閉し、前室と主室の圧力変動を測定した。主室に通じるダクトには、主室の風量を調整するダンパを設けた。このダンパは、室内外の圧力差をみて所定圧力になるように風量の調整を行うもの(公知)である。
【0057】
[比較実験2におけるドアBのパターン]
(2-1)ドアBにつき、上記(1-3)の構成と同一の構成とし、扉開閉を検知するセンサを設けない(又はこれを設けるが作動させない)場合。
(2-2)ドアBにつき、上記(1-3)の構成に加え、扉開閉を検知するセンサを設け、該センサから出力される扉の開閉状態に基づいて、前記室圧変動抑制扉が開いた時に前記ダンパが風量制御を停止し、前記室圧変動抑制扉が閉じた後に前記ダンパが風量制御を開始するように構成した場合。
【0058】
結果を
図13~
図14に示す。グラフにおいて破線が主室の圧力変動を示し、実線が前室の圧力変動を示している。
【0059】
これらの図に示されるとおり、上記(2-1)の場合も上記(2-2)の場合も、開扉時の圧力逆転は生じなかった(グラフの「g」「i」等参照)。
【0060】
閉扉時においては、上記(2-1)の場合も主室の圧力は+40Pa程度に抑えられ、設定圧(+30Pa)から大きく逸脱した圧力とならなかったが(グラフの「h」等参照)、上記(2-2)の場合は、主室の圧力は+30Paを若干上回る程度に抑えられ、閉扉時の圧力変動がさらに小さくなった(グラフの「j」等参照)。このように、本発明とダンパによる制御を併用すると、極めて大きな効果(扉の開閉による室圧変動の抑制)を行えることが示された。
【産業上の利用可能性】
【0061】
本発明によれば、室内の状態変化を測定、検知せずに扉の開閉による室圧変動を抑制することができる。
【0062】
また、電気的な信号に依拠せずドアの構造自体によって室圧変動を抑制するため、開扉時及び閉扉時の両方の時点において生じ得る室圧変動を、それぞれ、タイムラグなく抑制することができる。
【0063】
更に、何らかの事情により電力の供給が十分にされない事態が生じたとしても、扉の開閉による室圧変動を抑制することが可能となる。
【0064】
のみならず、本発明によれば、例えば既存の制御システムに適用する際においても扉のみを本発明のものに代えればよく、制御システム全体を取り替える必要がない。
【0065】
このように、本発明はクリーンルーム、陰圧室、陽圧室などにおいて室圧変動の抑止の向上に資するものであり、その産業上の利用可能性は極めて大きい。
【符号の説明】
【0066】
1 室圧変動抑制扉
2 扉固定手段
3 操作手段
4 ハウジング
5 密閉空間
6 回転軸
7 歯部
8 ピストン
9 付勢手段
10 リンク機構
11 扉開口部の上枠側
12 歯部
13 ヒンジ
14 枠
15 空洞部
16 高圧室
17 低圧室
18 開口部
19 閉塞手段
20、22 連結手段
21 床
23 ローラー部
24 突端部
25 係止部