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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-06-12
(45)【発行日】2025-06-20
(54)【発明の名称】空間光通信送受信機
(51)【国際特許分類】
   H04B 10/112 20130101AFI20250613BHJP
【FI】
H04B10/112
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2024563199
(86)(22)【出願日】2024-03-15
(86)【国際出願番号】 JP2024010142
(87)【国際公開番号】W WO2025004466
(87)【国際公開日】2025-01-02
【審査請求日】2024-10-25
(31)【優先権主張番号】PCT/JP2023/023687
(32)【優先日】2023-06-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006013
【氏名又は名称】三菱電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003166
【氏名又は名称】弁理士法人山王内外特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】尾野 仁深
(72)【発明者】
【氏名】原口 英介
(72)【発明者】
【氏名】安藤 俊行
(72)【発明者】
【氏名】穴田 貴康
【審査官】対馬 英明
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/026207(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/207756(WO,A1)
【文献】国際公開第2022/038678(WO,A1)
【文献】特開平08-149077(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04B 10/00-10/90
H04J 14/00-14/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザ光を生成する光源と、
前記光源により生成されたレーザ光に通信信号を重畳する光変調器と、
前記光変調器による重畳後のレーザ光を増幅する光増幅器と、
ファイバコネクタおよびコリメータレンズを有し、前記光増幅器による増幅後のレーザ光を空間光に変換して、当該空間光である送信光を放射するコリメータと、
前記コリメータにより放射された送信光のビーム幅を拡大して空間伝送路に放射する光学望遠鏡と、
前記コリメータレンズの焦点距離を調整可能な駆動機構と、
自機と通信相手である空間光通信送受信機との間の距離から算出される自由空間損失と、送信光のビーム拡がり角により決まる送信利得との積が一定となるよう、前記駆動機構の駆動量を決定する駆動制御器と
を備えた空間光通信送受信機。
【請求項2】
前記ファイバコネクタの端部を光軸に沿って移動可能なピエゾ素子を備え、
前記駆動機構は、前記ピエゾ素子を駆動することで、前記コリメータレンズの焦点距離を調整する
ことを特徴とする請求項1記載の空間光通信送受信機。
【請求項3】
前記コリメータレンズは、電圧が印加されることによって焦点距離が変化するレンズであり、
前記駆動機構は、前記コリメータレンズに対して電圧を印加することで、当該コリメータレンズの焦点距離を調整する
ことを特徴とする請求項1記載の空間光通信送受信機。
【請求項4】
前記コリメータにより放射された送信光のビーム拡がり角を検出する波面計測器を備え、
前記駆動制御器は、前記波面計測器により計測された送信光のビーム拡がり角が目標値に対して誤差がある場合、当該誤差を打ち消すように前記駆動機構の駆動量を補正する
ことを特徴とする請求項1記載の空間光通信送受信機。
【請求項5】
前記光学望遠鏡の光軸方向を調整可能なジンバルと、
前記コリメータにより放射された送信光の二軸方向の角度を調整可能なチップチルトミラーと、
前記光学望遠鏡により受信された受信光から通信信号を復調する光復調器と、
前記光学望遠鏡により受信された受信光の到来角度を検出する捕捉追尾センサと、
通信相手である空間光通信送受信機の自機に対する相対的な方向である見込角、および、前記捕捉追尾センサにより検出された到来角度に基づいて、前記ジンバルおよび前記チップチルトミラーを制御することで、前記光学望遠鏡と通信相手である空間光通信送受信機が有する光学望遠鏡との光軸を合わせる捕捉追尾制御器とを備えた
ことを特徴とする請求項1または請求項4記載の空間光通信送受信機。
【請求項6】
前記駆動制御器は、通信相手である空間光通信送受信機との間での空間伝送路の確立を行う際に、自機と通信相手である空間光通信送受信機との間の距離をLとした場合に、送信光のビーム拡がり角が1/Lに比例して変化するよう、前記駆動機構の駆動量を決定し、
前記捕捉追尾制御器は、通信相手である空間光通信送受信機との間での空間伝送路の確立を行う際に、前記チップチルトミラーを制御することで、送信光のスパイラル状のスキャンを行う
ことを特徴とする請求項5記載の空間光通信送受信機。
【請求項7】
前記駆動制御器は、通信相手である空間光通信送受信機との間での空間伝送路の確立を行う際に、自機と通信相手である空間光通信送受信機との間の距離をLとした場合に、送信光のビーム拡がり角が1/L に比例して変化するよう、前記駆動機構の駆動量を決定し、
前記捕捉追尾制御器は、通信相手である空間光通信送受信機との間での空間伝送路の確立を行う際に、前記チップチルトミラーを制御することで、送信光のスパイラル状のスキャンを行う
ことを特徴とする請求項5記載の空間光通信送受信機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、移動体に搭載され、データの伝送を行う空間光通信送受信機に関する。
【背景技術】
【0002】
空間光通信は、搬送波の周波数がテラヘルツ以上と非常に高く、広い帯域を確保できる。また、空間光通信は、空間伝搬の指向性が高い。これらのことから、空間光通信は、長距離の高速通信への活用が期待できる。
【0003】
一方、移動体に搭載された空間光通信送受信機において、近距離から遠距離までの広い距離変動がある場合での通信路の維持を考えた場合、光復調器内の光電変換器または捕捉追尾センサなどの受光器のダイナミックレンジ以上の損失変動が起こる可能性がある。なお、ここでのダイナミックレンジとは、最小受光強度と飽和強度との比を表す。
【0004】
光空間通信の空間伝送路における自由空間損失は伝搬距離の2乗で変動する。よって、例えば、空間伝送路の距離が100km~10000kmと20dB変動する場合には、40dB以上のダイナミックレンジが必要となる。
【0005】
これに対し、例えば特許文献1に開示された装置では、受信側の空間光減衰器を調整することで、受光素子の入射光量を補正するとともに、受光素子の受光感度を補正し、受光後の増幅回路の利得を変えている。これにより、この装置では、広い範囲での入射光量の変化を補正している。
【0006】
しかしながら、この装置では、受信機側の構成要素が増えて複雑化する。
また、この装置では、光量の調整範囲は可変減衰器が実現可能な減衰率に依存している。そのため、この装置では、長距離の光通信においては受信機側の内部光学系の損失が増加し、回線成立性を悪化させる。
【0007】
また、空間伝送路の距離変動に対応する方法として、空間光通信送受信機のOHPA(Optical High Power Amplifier)の利得を電気的に制御する方法も考えられる。すなわち、OHPAの励起光の駆動電流または注入電流をOHPA制御器により変化させ、OHPAの利得を制御する。
しかしながら、高利得のOHPAでは、利得しきい値付近の電気的制御が困難である。また、高利得方向に利得制御をすると、ASE(Amplified Spontaneous Emission)を誘発してNF(Noise Figure)が劣化し、通信路のS/Nが変動してしまう。
【0008】
これに対し、例えば特許文献2または特許文献3に開示された装置では、空間光学系の間隔または集光レンズの位置を光軸方向に制御することで、空間光のファイバに対する結合効率を変化させ、光信号の強度を増減させている。これにより、この装置では、OHPA、特にファイバ増幅器において、電気的な制御が必要なく、OHPAの出力光強度を調整できる。
【0009】
しかしながら、この装置では、空間光を再度ファイバに結合させる構成になっている。そのため、この装置では、出力光強度を調整した際の余剰光がファイバコア外に局所的に照射され、ファイバを損傷する可能性がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】特開2005-195806号
【文献】特開2002-221675号
【文献】特開平06-037719号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上記のように、空間光通信装置の通信可能な距離を拡大するにあたって、受信機側の可変減衰器を用いた場合には、内部光学系損失が増加し、回線成立性が悪化する。また、空間光通信装置の通信可能な距離を拡大するにあたって、送信機の光増幅器の利得を電気的に制御する場合には、利得しきい値付近の電気的制御が困難であり、利得変化をさせた場合の雑音特性が変化することによる通信路のS/N変動が起こる。
【0012】
本開示は、上記のような課題を解決するためになされたもので、電気的な利得可変を行わずに、空間伝送路の距離変動に対応可能となる空間光通信送受信機を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本開示に係る空間光通信送受信機は、レーザ光を生成する光源と、光源により生成されたレーザ光に通信信号を重畳する光変調器と、光変調器による重畳後のレーザ光を増幅する光増幅器と、ファイバコネクタおよびコリメータレンズを有し、光増幅器による増幅後のレーザ光を空間光に変換して、当該空間光である送信光を放射するコリメータと、コリメータにより放射された送信光のビーム幅を拡大して空間伝送路に放射する光学望遠鏡と、コリメータレンズの焦点距離を調整可能な駆動機構と、自機と通信相手である空間光通信送受信機との間の距離から算出される自由空間損失と、送信光のビーム拡がり角により決まる送信利得との積が一定となるよう、駆動機構の駆動量を決定する駆動制御器とを備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本開示によれば、上記のように構成したので、電気的な利得可変を行わずに、空間伝送路の距離変動に対応可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】実施の形態1に係る空間光通信システムの構成例を示す図である。
図2図2A図2Bは、実施の形態1におけるコリメータレンズの焦点距離の調整による送信光のビーム拡がり角の可変の概要を説明するための図であって、図2Aはコリメータレンズの位置調整を行わない場合の一例を示す図であり、図2Bはコリメータレンズの位置調整を行った場合の一例を示す図である。
図3】実施の形態1におけるコリメータの構成例を示す図であって、コリメータレンズを移動させる場合の構成例を示す図である。
図4】実施の形態1におけるコリメータの構成例を示す図であって、ファイバコネクタの端部を移動させる場合の構成例を示す図である。
図5】実施の形態1におけるコリメータの構成例を示す図であって、コリメータレンズ部分に電気光学材料を用いる場合の構成例を示す図である。
図6】実施の形態2に係る空間光通信システムの構成例を示す図である。
図7】実施の形態3に係る空間光通信システムの構成例を示す図である。
図8】空間光通信送受信機間の相対距離に対する角度誤差の一例を示す図である。
図9図9A図9Cは、誤差範囲内を送信光でスパイラル状にスキャンする様子の一例を示す図である。
図10】実施の形態3に係る空間光通信システムにおける一方の空間光通信送受信機による初期捕捉の際の動作例を示すフローチャートである。
図11】実施の形態3に係る空間光通信システムにおける他方の空間光通信送受信機による初期捕捉の際の動作例を示すフローチャートである。
図12図12A図12Bは、実施の形態1-3に係る空間光通信送受信機のハードウェア構成例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、実施の形態について図面を参照しながら詳細に説明する。
実施の形態1.
図1は、実施の形態1に係る空間光通信システムの構成例を示す図である。
空間光通信システムは、図1に示すように、空間光通信装置1-1および空間光通信装置1-2を備えている。この空間光通信システムでは、空間光通信装置1-1と空間光通信装置1-2との間で双方向通信を行う。
なお、ここでは、空間光通信装置1および当該空間光通信装置1が有する構成について、系統を区別する必要がある場合には、符号に接尾符号(-1,-2)を追加して示す。
【0017】
空間光通信装置1-1は、移動体に搭載され、通信相手である空間光通信装置1-2との間で通信を行う。なお、実施の形態1に係る空間光通信装置1-1は、空間伝送路の距離変動があった場合にも、通信相手である空間光通信装置1-2で受光される送信光の光強度を一定にし、安定な空間光通信路を確立することを可能とする機能を有する。
この空間光通信装置1-1は、図1に示すように、空間光通信送受信機11-1および姿勢軌道制御計算機12-1を備えている。
【0018】
空間光通信送受信機11-1は、図1に示すように、光源1101-1、光変調器1102-1、OHPA1103-1、OHPA制御器1104-1、コリメータ1105-1、ダイクロイックミラー1106-1、チップチルトミラー1107-1、光学望遠鏡1108-1、ジンバル1109-1、ビームスプリッタ1110-1、光復調器1111-1、駆動機構1112-1、駆動制御器1113-1、記憶装置1114-1、捕捉追尾センサ1115-1、および、捕捉追尾制御器1116-1を備えている。
【0019】
光源1101-1は、空間伝搬させる搬送波であるレーザ光を生成する。この光源1101-1により生成されたレーザ光は、光変調器1102-1に出力される。
なお、光源1101-1としては、例えばLD(Laser Diode)が挙げられる。
【0020】
光変調器1102-1は、光源1101-1により生成されたレーザ光に送信データ101-1を重畳する。なお、送信データ101-1は、空間光通信送受信機11-1の外部から入力される通信信号である。この光変調器1102-1による重畳後のレーザ光は、OHPA1103-1に出力される。
なお、光変調器1102-1による光変調の方法としては、例えば、光の強度変調によるOOK(On-Off Keying)、または、光の位相変調によるPSK(Phase Shift Keying)などが挙げられ、適宜選択可能である。
【0021】
OHPA1103-1は、ファイバを入出力とした光増幅器である。このOHPA1103-1は、光変調器1102-1による重畳後のレーザ光の光強度を増幅する。このOHPA1103-1による増幅後のレーザ光は、コリメータ1105-1に出力される。
このOHPA1103-1としては、例えば、エルビウムドープトファイバ増幅器(EDFA:Erbium Doped Fiber Amplifier)などのファイバ増幅器、または、半導体光増幅器(SOA:Semiconductor Optical Amplifier)が挙げられる。ファイバ増幅器は、ファイバに励起光が注入されることで信号光が増幅される。また、半導体光増幅器は、電流注入により信号光が増幅される。
【0022】
OHPA制御器1104-1は、OHPA1103-1の利得制御を行う光増幅器制御器である。すなわち、OHPA制御器1104-1は、OHPA1103-1がファイバ増幅器である場合には、当該ファイバ増幅器の励起光を制御することで、当該ファイバ増幅器の利得制御を行う。また、OHPA制御器1104-1は、OHPA1103-1が半導体光増幅器である場合には、当該半導体光増幅器の注入電流を制御することで、当該半導体光増幅器の利得制御を行う。
【0023】
コリメータ1105-1は、OHPA1103-1による増幅後のレーザ光を並行光に近い空間光に変換し、当該空間光である送信光を放射する。このコリメータ1105-1により放射された送信光は、ダイクロイックミラー1106-1およびチップチルトミラー1107-1を介して、光学望遠鏡1108-1に出力される。
このコリメータ1105-1は、通常、ファイバコネクタ11051-1およびコリメータレンズ11052-1により構成される。そして、このコリメータ1105-1は、ファイバコネクタ11051-1の端部とコリメータレンズ11052-1との間の距離をコリメータレンズ11052-1の焦点距離とすることで、コリメータレンズ11052-1からの出力光が平行光、すなわちコリメート光となる。
【0024】
ダイクロイックミラー1106-1は、コリメータ1105-1により放射された送信光と、チップチルトミラー1107-1により反射された受信光とを波長分離する。すなわち、ダイクロイックミラー1106-1は、コリメータ1105-1により放射された送信光を透過させ、チップチルトミラー1107-1により反射された受信光を反射する。このダイクロイックミラー1106-1を透過した送信光はチップチルトミラー1107-1に出力され、ダイクロイックミラー1106-1により反射された受信光はビームスプリッタ1110-1に出力される。
【0025】
チップチルトミラー1107-1は、送信光および受信光における二軸方向の角度を調整可能なミラーである。
そして、チップチルトミラー1107-1は、ダイクロイックミラー1106-1を透過した送信光を反射し、光学望遠鏡1108-1により受光された受信光を反射する。このチップチルトミラー1107-1により反射された送信光は光学望遠鏡1108-1に出力され、光学望遠鏡1108-1により反射された受信光はダイクロイックミラー1106-1に出力される。
【0026】
チップチルトミラー1107-1は、送信光および受信光の両方の角度を同一のミラーで制御している。これに対し、空間光通信送受信機11間の距離が長い場合には、チップチルトミラー1107-1に加え、別途送信光のみの角度制御を独立して行うチップチルトミラーが追加されてもよい。空間伝送路の距離が長い場合、空間伝送路を光が伝搬する間に、移動体に搭載された通信相手である空間光通信装置1-2は移動する。よって、通信相手からの受信光を元に、通信相手の指向方向を特定し、送信光の指向制御をすると、空間伝送路を光が往復する時間に移動体が移動した分の指向誤差を生じる。これを光行差と呼ぶ。この光行差を補正するためには、ダイクロイックミラー1106-1とコリメータ1105-1との間に、光行差補正用のチップチルトミラーが加えられればよい。
【0027】
光学望遠鏡1108-1は、チップチルトミラー1107-1により反射された送信光のビーム幅を拡大して空間伝送路に放射する。また、光学望遠鏡1108-1は、対向する空間光通信送受信機11-2における光学望遠鏡1108-2により放射された送信光を受信光として受光する。
【0028】
ジンバル1109-1は、光学望遠鏡1108-1の光軸方向を調整可能な機器である。
【0029】
ビームスプリッタ1110-1は、ダイクロイックミラー1106-1により反射された受信光を二分岐する。このビームスプリッタ1110-1により得られた一方の受信光は光復調器1111-1に出力され、他方の受信光は捕捉追尾センサ1115-1に出力される。
【0030】
光復調器1111-1は、ビームスプリッタ1110-1により得られた一方の受信光を光電変換して通信信号を復調する。この光復調器1111-1により復調された通信信号は受信データ102-1として外部に出力される。
【0031】
駆動機構1112-1は、コリメータ1105-1が有するコリメータレンズ11052-1を駆動する。そして、駆動機構1112-1は、コリメータレンズ11052-1を駆動することで、コリメータレンズ11052-1の光軸方向の調整およびコリメータレンズ11052-1の焦点距離の調整を行う。
【0032】
駆動制御器1113-1は、姿勢軌道制御計算機12-1により予測された移動体間の距離および記憶装置1114-1に記憶されている情報に基づいて、駆動機構1112-1の駆動制御を行う。この際、駆動制御器1113-1は、姿勢軌道制御計算機12-1により予測された移動体間の距離に基づいて、当該距離から算出される自由空間損失と送信光のビーム拡がり角により決まる送信利得との積が一定となるよう、駆動機構1112-1の駆動量を決定する。
【0033】
記憶装置1114-1は、駆動機構1112-1のレンズ駆動量と光学望遠鏡1108-1から空間伝送路に放射される送信光のビーム拡がり角との関係を示す情報を記憶する設定テーブルである。
【0034】
記憶装置1114-1としては、例えば、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)、フラッシュメモリ、EPROM(Erasable Programmable ROM)、EEPROM(Electrically EPROM)などの不揮発性または揮発性の半導体メモリ、磁気ディスク、フレキシブルディスク、光ディスク、コンパクトディスク、ミニディスク、またはDVD(Digital Versatile Disc)などが該当する。
【0035】
なお、図1では、記憶装置1114-1が空間光通信送受信機11-1の内部に設けられた場合を示した。しかしながら、これに限らず、記憶装置1114-1は空間光通信送受信機11-1の外部に設けられていてもよい。
【0036】
捕捉追尾センサ1115-1は、ビームスプリッタ1110-1により得られた他方の受信光に基づいて、当該受信光の到来角度を検出する。この捕捉追尾センサ1115-1により検出された受信光の到来角度を示す情報は、捕捉追尾制御器1116-1に出力される。
【0037】
捕捉追尾制御器1116-1は、姿勢軌道制御計算機12-1により予測された見込角、および、捕捉追尾センサ1115-1により検出された受信光の到来角度に基づいて、ジンバル1109-1およびチップチルトミラー1107-1を制御する。すなわち、捕捉追尾制御器1116-1は、ジンバル1109-1の角度およびチップチルトミラー1107-1の角度を制御することで、光学望遠鏡1108-1の光軸と、空間光通信送受信機11-1と通信を行う空間光通信送受信機11-2における光学望遠鏡1108-2の光軸とを合わせる。
【0038】
姿勢軌道制御計算機12-1は、空間光通信装置1-1が搭載される移動体の姿勢および位置情報、ならびに、空間光通信装置1-2が搭載される移動体の位置情報に基づいて、見込角を予測するとともに、通信を行う移動体間の距離を予測する。見込角は、空間光通信送受信機11-2の空間光通信送受信機11-1に対する相対的な方向である。また、通信を行う移動体間の距離は、空間光通信送受信機11-1と空間光通信送受信機11-2との間の距離である。この姿勢軌道制御計算機12-1により予測された見込角を示す情報は、捕捉追尾制御器1116-1に出力される。また、姿勢軌道制御計算機12-1により予測された通信を行う移動体間の距離を示す情報は、駆動制御器1113-1に出力される。
【0039】
空間光通信装置1-2は、移動体に搭載され、通信相手である空間光通信装置1-1との間で通信を行う。なお、実施の形態1に係る空間光通信装置1-2は、空間伝送路の距離変動があった場合にも、通信相手である空間光通信装置1-1で受光される送信光の光強度を一定にし、安定な空間光通信路を確立することを可能とする機能を有する。
この空間光通信装置1-2は、図1に示すように、空間光通信送受信機11-2および姿勢軌道制御計算機12-2を備えている。
【0040】
空間光通信送受信機11-2は、図1に示すように、光源1101-2、光変調器1102-2、OHPA1103-2、OHPA制御器1104-2、コリメータ1105-2、ダイクロイックミラー1106-2、チップチルトミラー1107-2、光学望遠鏡1108-2、ジンバル1109-2、ビームスプリッタ1110-2、光復調器1111-2、駆動機構1112-2、駆動制御器1113-2、記憶装置1114-2、捕捉追尾センサ1115-2、および、捕捉追尾制御器1116-2を備えている。
【0041】
光源1101-2は、空間伝搬させる搬送波であるレーザ光を生成する。この光源1101-2により生成されたレーザ光は、光変調器1102-2に出力される。
なお、光源1101-2としては、例えばLDが挙げられる。
【0042】
光変調器1102-2は、光源1101-2により生成されたレーザ光に送信データ101-2を重畳する。なお、送信データ101-2は、空間光通信送受信機11-2の外部から入力される通信信号である。この光変調器1102-2による重畳後のレーザ光は、OHPA1103-2に出力される。
なお、光変調器1102-2による光変調の方法としては、例えば、光の強度変調によるOOK、または、光の位相変調によるPSKなどが挙げられ、適宜選択可能である。
【0043】
OHPA1103-2は、ファイバを入出力とした光増幅器である。このOHPA1103-2は、光変調器1102-1による重畳後のレーザ光の光強度を増幅する。このOHPA1103-2による増幅後のレーザ光は、コリメータ1105-2に出力される。
このOHPA1103-2としては、例えば、エルビウムドープトファイバ増幅器(EDFA)などのファイバ増幅器、または、半導体光増幅器(SOA)が挙げられる。ファイバ増幅器は、ファイバに励起光が注入されることで信号光が増幅される。また、半導体光増幅器は、電流注入により信号光が増幅される。
【0044】
OHPA制御器1104-2は、OHPA1103-2の利得制御を行う光増幅器制御器である。すなわち、OHPA制御器1104-2は、OHPA1103-2がファイバ増幅器である場合には、当該ファイバ増幅器の励起光を制御することで、当該ファイバ増幅器の利得制御を行う。また、OHPA制御器1104-2は、OHPA1103-2が半導体光増幅器である場合には、当該半導体光増幅器の注入電流を制御することで、当該半導体光増幅器の利得制御を行う。
【0045】
コリメータ1105-2は、OHPA1103-2による増幅後のレーザ光を並行光に近い空間光に変換し、当該空間光である送信光を放射する。このコリメータ1105-2により放射された送信光は、ダイクロイックミラー1106-2およびチップチルトミラー1107-2を介して、光学望遠鏡1108-2に出力される。
このコリメータ1105-2は、通常、ファイバコネクタ11051-2およびコリメータレンズ11052-2により構成される。そして、このコリメータ1105-2は、ファイバコネクタ11051-2の端部とコリメータレンズ11052-2との間の距離をコリメータレンズ11052-2の焦点距離とすることで、コリメータレンズ11052-2からの出力光が平行光、すなわちコリメート光となる。
【0046】
ダイクロイックミラー1106-2は、コリメータ1105-2により放射された送信光と、チップチルトミラー1107-2により反射された受信光とを波長分離する。すなわち、ダイクロイックミラー1106-2は、コリメータ1105-2により放射された送信光を透過させ、チップチルトミラー1107-2により反射された受信光を反射する。このダイクロイックミラー1106-2を透過した送信光はチップチルトミラー1107-2に出力され、ダイクロイックミラー1106-2により反射された受信光はビームスプリッタ1110-2に出力される。
【0047】
チップチルトミラー1107-2は、送信光および受信光における二軸方向の角度を調整可能なミラーである。
そして、チップチルトミラー1107-2は、ダイクロイックミラー1106-2を透過した送信光を反射し、光学望遠鏡1108-2により受光された受信光を反射する。このチップチルトミラー1107-2により反射された送信光は光学望遠鏡1108-2に出力され、光学望遠鏡1108-2により反射された受信光はダイクロイックミラー1106-2に出力される。
【0048】
チップチルトミラー1107-2は、送信光および受信光の両方の角度を同一のミラーで制御している。これに対し、空間光通信送受信機11間の距離が長い場合には、チップチルトミラー1107-2に加え、別途送信光のみの角度制御を独立して行うチップチルトミラーが追加されてもよい。空間伝送路の距離が長い場合、空間伝送路を光が伝搬する間に、移動体に搭載された通信相手である空間光通信装置1-1は移動する。よって、通信相手からの受信光を元に、通信相手の指向方向を特定し、送信光の指向制御をすると、空間伝送路を光が往復する時間に移動体が移動した分の指向誤差を生じる。これを光行差と呼ぶ。この光行差を補正するためには、ダイクロイックミラー1106-2とコリメータ1105-2との間に、光行差補正用のチップチルトミラーが加えられればよい。
【0049】
光学望遠鏡1108-2は、チップチルトミラー1107-2により反射された送信光のビーム幅を拡大して空間伝送路に放射する。また、光学望遠鏡1108-2は、対向する空間光通信送受信機11-1における光学望遠鏡1108-1により放射された送信光を受信光として受光する。
【0050】
ジンバル1109-2は、光学望遠鏡1108-2の光軸方向を調整可能な機器である。
【0051】
ビームスプリッタ1110-2は、ダイクロイックミラー1106-2により反射された受信光を二分岐する。このビームスプリッタ1110-2により得られた一方の受信光は光復調器1111-2に出力され、他方の受信光は捕捉追尾センサ1115-2に出力される。
【0052】
光復調器1111-2は、ビームスプリッタ1110-2により得られた一方の受信光を光電変換して通信信号を復調する。この光復調器1111-2により復調された通信信号は受信データ102-2として外部に出力される。
【0053】
駆動機構1112-2は、コリメータ1105-2が有するコリメータレンズ11052-2を駆動する。そして、駆動機構1112-2は、コリメータレンズ11052-2を駆動することで、コリメータレンズ11052-2の光軸方向の調整およびコリメータレンズ11052-2の焦点距離の調整を行う。
【0054】
駆動制御器1113-2は、姿勢軌道制御計算機12-2により予測された移動体間の距離および記憶装置1114-2に記憶されている情報に基づいて、駆動機構1112-2の駆動制御を行う。この際、駆動制御器1113-2は、姿勢軌道制御計算機12-2により予測された移動体間の距離に基づいて、当該距離から算出される自由空間損失と送信光のビーム拡がり角により決まる送信利得との積が一定となるよう、駆動機構1112-2の駆動量を決定する。
【0055】
記憶装置1114-2は、駆動機構1112-2のレンズ駆動量と光学望遠鏡1108-2から空間伝送路に放射される送信光のビーム拡がり角との関係を示す情報を記憶する設定テーブルである。
【0056】
記憶装置1114-2としては、例えば、RAM、ROM、フラッシュメモリ、EPROM、EEPROMなどの不揮発性または揮発性の半導体メモリ、磁気ディスク、フレキシブルディスク、光ディスク、コンパクトディスク、ミニディスク、またはDVDなどが該当する。
【0057】
なお、図1では、記憶装置1114-2が空間光通信送受信機11-2の内部に設けられた場合を示した。しかしながら、これに限らず、記憶装置1114-2は空間光通信送受信機11-2の外部に設けられていてもよい。
【0058】
捕捉追尾センサ1115-2は、ビームスプリッタ1110-2により得られた他方の受信光に基づいて、当該受信光の到来角度を検出する。この捕捉追尾センサ1115-2により検出された受信光の到来角度を示す情報は、捕捉追尾制御器1116-2に出力される。
【0059】
捕捉追尾制御器1116-2は、姿勢軌道制御計算機12-2により予測された見込角、および、捕捉追尾センサ1115-2により検出された受信光の到来角度に基づいて、ジンバル1109-2およびチップチルトミラー1107-2を制御する。すなわち、捕捉追尾制御器1116-2は、ジンバル1109-2の角度およびチップチルトミラー1107-2の角度を制御することで、光学望遠鏡1108-2の光軸と、空間光通信送受信機11-2と通信を行う空間光通信送受信機11-1における光学望遠鏡1108-1の光軸とを合わせる。
【0060】
姿勢軌道制御計算機12-2は、空間光通信装置1-2が搭載される移動体の姿勢および位置情報、ならびに、空間光通信装置1-1が搭載される移動体の位置情報に基づいて、見込角を予測するとともに、通信を行う移動体間の距離を予測する。見込角は、空間光通信送受信機11-1の空間光通信送受信機11-2に対する相対的な方向である。また、通信を行う移動体間の距離は、空間光通信送受信機11-1と空間光通信送受信機11-2との間の距離である。この姿勢軌道制御計算機12-2により予測された見込角を示す情報は、捕捉追尾制御器1116-2に出力される。また、姿勢軌道制御計算機12-2により予測された通信を行う移動体間の距離を示す情報は、駆動制御器1113-2に出力される。
【0061】
なお、空間伝送路は、空間光通信送受信機11-1と空間光通信送受信機11-2との間を満たす媒質であり、地球上の通信の場合には大気、海中通信の場合には海水、衛星間通信の場合には真空と、その媒質は問わない。
図1において、符号103は、通信を行う移動体間の距離、すなわち空間伝送路の距離を示している。
【0062】
次に、図1に示す実施の形態1に係る空間光通信システムの動作例について説明する。
この空間光通信システムでは、空間光通信装置1-1から空間光通信装置1-2にデータを伝送するとともに、空間光通信装置1-2から空間光通信装置1-1にデータを伝送する。ここでは、空間光通信装置1-1から空間光通信装置1-2への送信光の波長をλaとし、空間光通信装置1-2から空間光通信装置1-1への送信光の波長をλbとする。
【0063】
また、空間光通信装置1-1および空間光通信装置1-2は同様の動作をするため、以下では、空間光通信装置1-1から空間光通信装置1-2にデータを送信する場合を例に説明を行う。
【0064】
まず、空間光通信送受信機11-1における光源1101-1の出力光は、光変調器1102-1に入力され、光変調器1102-1によって空間光通信送受信機11-1の外部から入力される通信信号である送信データ101-1が重畳される。
【0065】
この光変調器1102-1の出力光は、OHPA1103-1に入力され、OHPA1103-1によって光強度が増幅される。
なお、OHPA制御器1104-1は、OHPA1103-1の利得制御を行う。
【0066】
このOHPA1103-1の出力光は、コリメータ1105-1により空間光に変換されて送信光として放射される。
【0067】
このコリメータ1105-1の出力光は、ダイクロイックミラー1106-1を透過し、チップチルトミラー1107-1で反射して、光学望遠鏡1108-1に入射する。
なお、ダイクロイックミラー1106-1は、空間光通信送受信機11-1の送信光と空間光通信送受信機11-2からの受信光とを分離するものであり、すなわち、λaの波長を透過し、λbの波長を反射するものとする。これにより、空間光通信送受信機11-2からの送信光は、ダイクロイックミラー1106-1で反射され、コリメータ1105-1側には入射されない。
【0068】
この光学望遠鏡1108-1の出力光は、空間伝送路を伝搬し、空間光通信送受信機11-2の光学望遠鏡1108-2で受信光として受光される。
光学望遠鏡1108-2で受光された受信光は、チップチルトミラー1107-2で反射され、ダイクロイックミラー1106-2で反射された後、ビームスプリッタ1110-2で二分岐され、捕捉追尾センサ1115-2および光復調器1111-2へそれぞれ入力される。
【0069】
その後、光復調器1111-2では、内部の光電変換器で受信光が光電変換されて通信信号が復調される。この光復調器1111-2により復調された通信信号は、受信データ102-2として外部に出力される。
【0070】
また、空間光通信送受信機11-1は、空間光通信送受信機11-2との間での通信路を確保するにあたって、捕捉追尾センサ1115-1で受信光の到来方向を検出し、その情報をもとに捕捉追尾制御器1116-1でチップチルトミラー1107-1およびジンバル1109-1を制御することで実現する。
この際、姿勢軌道制御計算機12-1は、空間光通信送受信機11-1が搭載されている移動体の姿勢および位置、ならびに、空間光通信送受信機11-2が搭載されている移動体の位置に基づいて、空間光通信送受信機11-2の空間光通信送受信機11-1に対する相対的な方向である見込角を予測する。そして、捕捉追尾制御器1116-1は、この情報と上記受信光の到来方向をもとに、ジンバル1109-1の指向角度を決定し、チップチルトミラー1107-1で補正できる範囲に角度誤差を抑える。
【0071】
なお、上記では、空間光通信装置1-1から空間光通信装置1-2へデータ伝送を行う場合の動作例について示した。これに対し、空間光通信装置1-2から空間光通信装置1-1へデータ伝送を行う場合についても上記と同様の動作を行う。
これにより、空間光通信システムでは、光学望遠鏡1108-1の光軸と光学望遠鏡1108-2の光軸とが正対するようになり、捕捉追尾制御器1116-1による角度制御および捕捉追尾制御器1116-2による角度制御を続けることで、相互に移動体の追尾が実現され、光路が維持される。
【0072】
上記では、空間光通信装置1-1および空間光通信装置1-2の基本的な動作を説明した。
一方、近距離から遠距離までの広い距離変動がある場合の通信路の維持を考えた場合に、光復調器1111-1内の光電変換器または捕捉追尾センサ1115-1などの受光器のダイナミックレンジ以上の損失変動が起こる可能性がある。ここでのダイナミックレンジとは、最小受光強度と飽和強度との比を表す。
【0073】
一般に、光の自由空間損失であるGfsは下式(1)で表される。
式(1)において、λは伝搬する光の波長、Lは伝搬距離である。式(1)の通り、自由空間損失は、伝搬距離の2乗で変動する。よって、例えば空間伝送路の距離が100km~10000kmと20dB変動する場合には、40dB以上のダイナミックレンジが必要となる。

【0074】
また、空間伝送路の距離変動に対応する方法として、OHPA1103-1の利得を電気的に制御することが考えられる。すなわち、OHPA1103-1の励起光の駆動電流または注入電流をOHPA制御器1104-1により変化させ、OHPA1103-1の利得を制御することができる。
しかしながら、高利得のOHPA1103-1では、利得を落としていった際の、利得しきい値付近の電気的制御が困難である。また、高利得方向に利得制御をすると、ASEを誘発してNFが劣化し、通信路のS/Nが変動してしまう。
【0075】
そこで、実施の形態1では、OHPA制御器1104-1の電流値の変更など、電気的なOHPA1103-1の利得可変に基づかない、空間伝送路の距離変動に対応可能な空間光通信送受信機11-1を実現する。
【0076】
すなわち、実施の形態1に係る空間光通信送受信機11-1では、コリメータ1105-1から放射される送信光のビーム拡がり角を制御することで、光学望遠鏡1108-1から放射される送信光のビーム拡がり角を制御する。
コリメータ1105-1では、一般的には、出射光が平行光となるよう、ファイバコネクタ11051-1の端部とコリメータレンズ11052-1との距離が固定され、コリメータレンズ11052-1の焦点距離が固定されている。これに対し、実施の形態1に係る空間光通信送受信機11-1では、駆動機構1112-1により、コリメータレンズ11052-1の焦点距離を可変させる。
【0077】
コリメータレンズ11052-1の焦点距離の調整による送信光のビーム拡がり角の可変の概要について、図2を参照しながら説明する。
図2の例では、コリメータ1105-1がコリメータレンズ11052-1を有する屈折型のコリメータであり、光学望遠鏡1108-1がコリメータ側レンズ11081-1および空間伝送路側レンズ11082-1を有する屈折型の光学望遠鏡である場合を示している。
また、コリメータレンズ11052-1の焦点距離はf1-1であり、コリメータ側レンズ11081-1の焦点距離はf2-1であり、空間伝送路側レンズ11082-1の焦点距離はf3-1であるとする。
【0078】
図2Aに示すコリメータレンズ11052-1の調整を行わない場合では、コリメータレンズ11052-1とファイバコネクタ11051-1の端部との間の距離はf1-1であり、コリメータ1105-1の出射光は平行光となる。その光をアフォーカル光学系である光学望遠鏡1108-1で拡大し、送信光として光学望遠鏡1108-1より放射する。よって、送信光はほぼ平行光となり、光学望遠鏡1108-1の空間伝送路側の開口径で決まるビーム幅に応じて、長距離伝搬させると送信光が回折的に広がっていく。
【0079】
これに対し、図2Bに示すように、コリメータレンズ11052-1をファイバコネクタ11051-1の端部に近づけると、コリメータ1105-1の出射光は平行光でなく、拡がりを持つようになる。このため、光学望遠鏡1108-1ではアフォーカル結像系が崩れ、送信光は図2Aの場合に対してより拡がったビームとなる。図2Bでは、コリメータレンズ11052-1とファイバコネクタ11051-1の端部との間の距離をf1’-1とした場合を示している。
【0080】
なお、上記では、コリメータ1105-1が屈折型のコリメータであり、光学望遠鏡1108-1が屈折型の光学望遠鏡である場合を例に示したが、反射鏡を用いた構成についても同様の光学的な効果を得られる。
【0081】
また、コリメータ1105-1の焦点距離を調整する方法としては、例えば以下のような方法が挙げられる。
【0082】
まず、例えば、図3に示すように、コリメータレンズ11052-1を移動させる方法が挙げられる。
この場合、例えば、コリメータ1105-1には、コリメータレンズ11052-1が固定され、コリメータレンズ11052-1を光軸に沿って移動可能な直動アクチュエータ11053-1が設けられる。そして、駆動機構1112-1は、駆動制御信号によって当該直動アクチュエータ11053-1を駆動することで、コリメータ1105-1の焦点距離を調整する。
【0083】
また、例えば、図4に示すように、ファイバコネクタ11051-1の端部を移動させる方法が挙げられる。
この場合、例えば、コリメータ1105-1には、ファイバコネクタ11051-1が固定され、ファイバコネクタ11051-1の端部を光軸方向に沿って移動可能な円筒状のピエゾ素子11054-1が設けられる。そして、駆動機構1112-1は、駆動制御信号によって当該ピエゾ素子11054-1を駆動し、当該ピエゾ素子11054-1の伸縮によりファイバコネクタ11051-1の位置制御を行うことで、コリメータ1105-1の焦点距離を調整する。
この場合、図3の場合に対し、コリメータ1105-1の構成として、機械的な駆動部分を用いない精密な駆動を行うことが可能となる。
【0084】
また、例えば、図5に示すように、コリメータレンズ11052-1として、電圧が印加されることによって焦点距離が変化するレンズを用いる方法が挙げられる。
この場合、例えば、コリメータレンズ11052-1に電気光学(Electro-Optic)材料を用いる。そして、駆動機構1112-1は、駆動制御信号によってコリメータレンズ11052-1の電気光学効果によるレンズパワーを制御することで、コリメータ1105-1の焦点距離を調整する。
この場合、図3の場合に対し、コリメータ1105-1の構成として、機械的な駆動部分を用いない精密な駆動を行うことが可能となる。
【0085】
また、姿勢軌道制御計算機12-1では空間光通信送受信機11-1と空間光通信送受信機11-2との間の距離を予測可能であり、その結果、空間光通信装置1-1は自由空間損失を予測することが可能である。
なお、空間光通信装置1-1が搭載されている移動体の位置および空間光通信装置1-2が搭載されている移動体の位置のそれぞれから、姿勢軌道制御計算機12-1が空間伝送路の距離を計算する方法としては、例えば、移動体が衛星であればTLE(Two-Line Elements)を地上局から別の通信手段で取得し、それに基づいた軌道計算を行う方法が考えられる。あるいは、レーザ測距またはマイクロ波による直接的な測距を用いて、空間伝送路の距離を計算する方法を採用してもよい。
【0086】
ここで、光学望遠鏡1108-1の出力光のビーム拡がり角をθとしたときの、送信利得であるGは下式(2)で表される。よって、ビーム拡がり角の2乗で送信利得が劣化する。

【0087】
そして、駆動制御器1113-1は、姿勢軌道制御計算機12-1で予測された通信を行う移動体間の距離、すなわち空間伝送路の距離と、記憶装置1114-1に記憶されている情報とから、下式(3)の条件が満たされるようにレンズ駆動量を選択し、駆動機構1112-1に対して設定を行う。

【0088】
受信利得は、対向する光学望遠鏡1108-2の開口径で決まる。そのため、上記のような制御を行うことで、送信利得と自由空間損失と受信利得の合計値は一定になる。これにより、空間光通信装置1-2における捕捉追尾センサ1115-2および光復調器1111-2での受光強度は一定に保たれる。
【0089】
また、従来の構成では、OHPA制御器が、空間伝送路の距離変動に応じてOHPAの利得制御を行う必要があった。これに対し、実施の形態1に係る空間光通信送受信機11-1では、OHPA制御器1104-1は、空間伝送路の距離変動に応じてOHPA1103-1の利得制御を行う必要はなく、飽和しない程度の最大出力で動作させ続けることで、信号増幅効果および付与される雑音の両面で、安定的な動作が期待できる。
【0090】
以上の説明では、空間光通信送受信機11-1から空間光通信送受信機11-2に対しての送信光の制御について説明を行った。これに対し、空間光通信送受信機11-2から空間光通信送受信機11-1に対しての送信光の制御についても、上記と同様である。
【0091】
以上のように、この実施の形態1によれば、空間光通信送受信機11は、レーザ光を生成する光源1101と、光源1101により生成されたレーザ光に通信信号を重畳する光変調器1102と、光変調器1102による重畳後のレーザ光を増幅するOHPA1103と、ファイバコネクタ11051およびコリメータレンズ11052を有し、OHPA1103による増幅後のレーザ光を空間光に変換して、当該空間光である送信光を放射するコリメータ1105と、コリメータ1105により放射された送信光のビーム幅を拡大して空間伝送路に放射する光学望遠鏡1108と、コリメータレンズ11052の焦点距離を調整可能な駆動機構1112と、自機と通信相手である空間光通信送受信機11との間の距離から算出される自由空間損失と、送信光のビーム拡がり角により決まる送信利得との積が一定となるよう、駆動機構1112の駆動量を決定する駆動制御器1113とを備えた。これにより、実施の形態1に係る空間光通信送受信機11は、電気的な利得可変を行わずに、空間伝送路の距離変動に対応可能となり、受信側が受ける受光強度を一定にすることができる。その結果、従来に対し、通信可能な距離範囲の拡大が図れる。
また、実施の形態1に係る空間光通信送受信機11は、従来に対し、受信側の内部光学系損失を抑えることができ、長距離での回線成立性を向上させることができる。
また、実施の形態1に係る空間光通信送受信機11は、従来に対し、高強度の光が局所的に集光されることによるファイバの損傷を防ぐことができる。
【0092】
実施の形態2.
図6は実施の形態2に係る空間光通信システムの構成例を示す図である。
この図6に示す実施の形態2に係る空間光通信システムでは、図1に示す実施の形態1に係る空間光通信システムに対し、空間光通信送受信機11-1に波面計測器1117-1が追加され、ダイクロイックミラー1106-1、駆動制御器1113-1および記憶装置1114-1の機能が変更され、空間光通信送受信機11-2に波面計測器1117-2が追加され、ダイクロイックミラー1106-2、駆動制御器1113-2および記憶装置1114-2の機能が変更されている。この図6に示す実施の形態2に係る空間光通信システムにおけるその他の構成例については、図1に示す実施の形態1に係る空間光通信システムにおける構成例と同様であり、同一の符号を付してその説明を省略する。
【0093】
ダイクロイックミラー1106-1は、コリメータ1105-1により放射された送信光と、チップチルトミラー1107-1により反射された受信光とを波長分離する。また、ダイクロイックミラー1106-1は、コリメータ1105-1により放射された送信光の一部を分離する。すなわち、ダイクロイックミラー1106-1は、コリメータ1105-1により放射された送信光のうちの一部をフレネル反射して残りを透過させ、チップチルトミラー1107-1により反射された受信光を反射する。このダイクロイックミラー1106-1によりフレネル反射された送信光は波面計測器1117-1に出力され、ダイクロイックミラー1106-1を透過した送信光はチップチルトミラー1107-1に出力され、ダイクロイックミラー1106-1により反射された受信光はビームスプリッタ1110-1に出力される。
【0094】
波面計測器1117-1は、ダイクロイックミラー1106-1によりフレネル反射された送信光のビーム拡がり角を検出する。この波面計測器1117-1により計測された送信光のビーム拡がり角を示す情報は、駆動制御器1113-1に出力される。
この波面計測器1117-1としては、例えば、シャック・ハルトマン波面センサが挙げられる。シャック・ハルトマン波面センサは、レンズアレイにより波面を分割してイメージャに集光し、そのスポットの変位量を計測することで、各点の波面勾配を測定し、それらの結果を結合することで全体の波面を復元できる。例えば、シャック・ハルトマン波面センサは、この計測波面を例えばツェルニケ多項式で収差成分に分解し、デフォーカス成分を分析することで、ビーム拡がり角を推定できる。
【0095】
駆動制御器1113-1は、姿勢軌道制御計算機12-1により予測された移動体間の距離および記憶装置1114-1に記憶されている情報に基づいて、駆動機構1112-1の駆動制御を行う。この際、駆動制御器1113-1は、姿勢軌道制御計算機12-1により予測された移動体間の距離に基づいて、当該距離から算出される自由空間損失と送信光のビーム拡がり角により決まる送信利得との積が一定となるよう、駆動機構1112-1の駆動量を決定する。また、駆動制御器1113-1は、波面計測器1117-1により検出された送信光のビーム拡がり角に基づいて、目標値に対するビーム拡がり角に誤差がある場合には、当該誤差を打ち消すように上記駆動量に対する補正を行う。
【0096】
記憶装置1114-1は、駆動機構1112-1のレンズ駆動量と光学望遠鏡1108-1から空間伝送路に放射される送信光のビーム拡がり角およびコリメータ1105-1により放射される送信光のビーム拡がり角との関係を示す情報を記憶する設定テーブルである。
【0097】
ダイクロイックミラー1106-2は、コリメータ1105-2により放射された送信光と、チップチルトミラー1107-2により反射された受信光とを波長分離する。また、ダイクロイックミラー1106-2は、コリメータ1105-2により放射された送信光の一部を分離する。すなわち、ダイクロイックミラー1106-2は、コリメータ1105-2により放射された送信光のうちの一部をフレネル反射して残りを透過させ、チップチルトミラー1107-2により反射された受信光を反射する。このダイクロイックミラー1106-2によりフレネル反射された送信光は波面計測器1117-2に出力され、ダイクロイックミラー1106-2を透過した送信光はチップチルトミラー1107-2に出力され、ダイクロイックミラー1106-2により反射された受信光はビームスプリッタ1110-2に出力される。
【0098】
波面計測器1117-2は、ダイクロイックミラー1106-2によりフレネル反射された送信光のビーム拡がり角を検出する。この波面計測器1117-2により計測された送信光のビーム拡がり角を示す情報は、駆動制御器1113-2に出力される。
この波面計測器1117-2としては、例えば、シャック・ハルトマン波面センサが挙げられる。シャック・ハルトマン波面センサは、レンズアレイにより波面を分割してイメージャに集光し、そのスポットの変位量を計測することで、各点の波面勾配を測定し、それらの結果を結合することで全体の波面を復元できる。例えば、シャック・ハルトマン波面センサは、この計測波面を例えばツェルニケ多項式で収差成分に分解し、デフォーカス成分を分析することで、ビーム拡がり角を推定できる。
【0099】
駆動制御器1113-2は、姿勢軌道制御計算機12-2により予測された移動体間の距離および記憶装置1114-2に記憶されている情報に基づいて、駆動機構1112-2の駆動制御を行う。この際、駆動制御器1113-2は、姿勢軌道制御計算機12-2により予測された移動体間の距離に基づいて、当該距離から算出される自由空間損失と送信光のビーム拡がり角により決まる送信利得との積が一定となるよう、駆動機構1112-2の駆動量を決定する。また、駆動制御器1113-2は、波面計測器1117-2により検出された送信光のビーム拡がり角に基づいて、目標値に対するビーム拡がり角に誤差がある場合には、当該誤差を打ち消すように上記駆動量に対する補正を行う。
【0100】
記憶装置1114-2は、駆動機構1112-2のレンズ駆動量と光学望遠鏡1108-2から空間伝送路に放射される送信光のビーム拡がり角およびコリメータ1105-2により放射される送信光のビーム拡がり角との関係を示す情報を記憶する設定テーブルである。
【0101】
ここで、コリメータ1105-1の駆動制御により、光学望遠鏡1108-1からの送信光のビーム拡がり角を制御する場合、コリメータ1105-1からの送信光のビーム拡がり角をより精密に制御する必要がある。
光学望遠鏡1108-1は、一般的に、空間伝送路に対する送信利得および受信利得を増加させるために開口を大きくし、ビーム幅を広げて空間伝送路に対するビーム出力を行う。よって、光学望遠鏡1108-1は、空間光通信送受信機11-1の内部側から、空間伝送路に対して光学的に1以上の横倍率を持つ。すなわち、空間伝送路から、光学望遠鏡1108-1は空間光通信送受信機11-1の内部側に対して、光学的に1以上の角倍率を持つことになる。よって、駆動機構1112-1の駆動に対して、光学望遠鏡1108-1から空間伝送路への送信光のビーム拡がり角は、コリメータ1105-1からの送信光のビーム拡がり角よりも鋭敏に変化する。
【0102】
そこで、実施の形態2に係る空間光通信送受信機11-1では、コリメータ1105-1からの送信光のうち、ダイクロイックミラー1106-1のフレネル反射光を波面計測器1117-1に入射させ、波面計測器1117-1にてコリメータからの送信光のビーム拡がり角を計測する。
【0103】
そして、実施の形態2に係る空間光通信送受信機11-1では、コリメータ1105-1からの送信光のビーム拡がり角を精密に制御するため、波面計測器1117-1で検出された送信光のビーム拡がり角を示す情報を、駆動制御器1113-1に入力する。
そして、駆動制御器1113-1は、式(2)および式(3)に基づき、空間伝送路の距離に応じた送信光のビーム拡がり角になるよう、レンズ駆動量を設定する。その後、駆動制御器1113-1は、波面計測器1117-1により検出された送信光のビーム拡がり角に基づいて、空間伝送路における送信光のビーム拡がり角の目標値と実測値との乖離があれば、この乖離を打ち消すようにレンズ駆動量を補正する。
【0104】
以上の説明では、空間光通信送受信機11-1から空間光通信送受信機11-2に対しての送信光の制御について説明を行った。これに対し、空間光通信送受信機11-2から空間光通信送受信機11-1に対しての送信光の制御についても、上記と同様である。
【0105】
以上のように、この実施の形態2によれば、空間光通信送受信機11は、コリメータ1105により放射された送信光のビーム拡がり角を検出する波面計測器1117を備え、駆動制御器1113は、波面計測器1117により計測された送信光のビーム拡がり角が目標値に対して誤差がある場合、当該誤差を打ち消すように駆動機構1112の駆動量を補正する。これにより、実施の形態2に係る空間光通信送受信機11は、実施の形態1に係る空間光通信送受信機11に対し、空間伝送路における送信光のビーム拡がり角をより精密に制御でき、受信側で受ける受光強度をより安定化させることができる。
【0106】
実施の形態3.
移動体の空間光通信では、通信相手の位置情報に基づいてビームを制御し、相互に光が受信できるようにする必要がある。これを初期捕捉と呼ぶ。
【0107】
初期捕捉の方式としては、ビーム拡がり角および出力パワーが通信光よりも大きいビーコン光を用いるビーコン方式という方式がある。例えば、特許文献4では、距離に応じて光の拡がり角を変えることで、受信機での捕捉を容易とする手法が示されている。
このビーコン方式は、短時間で初期捕捉を完了させることができる一方で、通信用の光源とは別の光源を用意しないといけないこと、および、ビーコンを出力するための別の光アンテナが必要となることなどから、SWaP(Size,Weight and Power)面で不利となる。
【文献】特開2023-143242号公報
【0108】
一方で、別の方式として、上記のような強度の強いビーコン光を広げて照射するのではなく、通信光を直接的に初期捕捉に用いるビーコンレス方式という方式がある。このビーコンレス方式による初期捕捉では、通信相手の位置情報の誤差範囲内をくまなく通信光で掃引することが必要である。また、位置情報の誤差が一定であっても、通信相手との相対距離が短くなると、ビームスキャンを行わなければいけない角度範囲が広がり、ビーム掃引に時間がかかる。
【0109】
そこで、実施の形態3に係る空間光通信システムでは、上記のような空間光通信装置間の初期捕捉における課題を解決するため、ビーム拡がり角の制御を行うことで掃引時間の短縮を図ることが可能な構成について説明する。
【0110】
図7は実施の形態3に係る空間光通信システムの構成例を示す図である。
この図7に示す実施の形態3に係る空間光通信システムでは、図1に示す実施の形態1に係る空間光通信システムに対し、空間光通信送受信機11-1における駆動制御器1113-1、捕捉追尾センサ1115-1および捕捉追尾制御器1116-1がそれぞれ、駆動制御器1113b-1、捕捉追尾センサ1115b-1および捕捉追尾制御器1116b-1に変更され、空間光通信送受信機11-2における駆動制御器1113-2、捕捉追尾センサ1115-2および捕捉追尾制御器1116-2がそれぞれ、駆動制御器1113b-2、捕捉追尾センサ1115b-2および捕捉追尾制御器1116b-2に変更されている。この図7に示す実施の形態3に係る空間光通信システムにおけるその他の構成例については、図1に示す実施の形態1に係る空間光通信システムにおける構成例と同様であり、同一の符号を付してその説明を省略する。
【0111】
駆動制御器1113b-1は、通信相手である空間光通信送受信機11-2との間での空間伝送路の確立を行う際、すなわち初期捕捉を行う際に、姿勢軌道制御計算機12-1により予測された移動体間の距離および記憶装置1114-1に記憶されている情報に基づいて、通信を行う移動体間の距離をLとした場合に、送信光のビーム拡がり角が1/Lまたは1/Lで変化するよう、駆動機構1112-1の駆動量を決定する。
駆動制御器1113b-1は、上記の機能以外は、実施の形態1で示した駆動制御器1113-1と同様の機能を有する。
【0112】
捕捉追尾センサ1115b-1は、図7に示すように、粗捕捉追尾センサ11151b-1および精捕捉追尾センサ11152b-1を有する。
【0113】
粗捕捉追尾センサ11151b-1は、精捕捉追尾センサ11152b-1に対して視野が広い捕捉追尾センサである。この粗捕捉追尾センサ11151b-1は、ビームスプリッタ1110-1により得られた他方の受信光に基づいて、当該受信光の到来角度を検出する。
【0114】
精捕捉追尾センサ11152b-1は、実施の形態1で示した捕捉追尾センサ1115-1の機能と同様の機能を有する。すなわち、精捕捉追尾センサ11152b-1は、ビームスプリッタ1110-1により得られた他方の受信光に基づいて、当該受信光の到来角度を検出する。
【0115】
捕捉追尾制御器1116b-1は、図7に示すように、初期捕捉制御器11161b-1および追尾制御器11162b-1を有する。
【0116】
初期捕捉制御器11161b-1は、初期捕捉の際に動作する。
この初期捕捉制御器11161b-1は、空間光通信装置1-2が搭載される移動体の位置情報に基づいて、ジンバル1109-1の角度を制御することで、当該ジンバル1109-1を通信相手である空間光通信送受信機11-2に向ける。
そして、初期捕捉制御器11161b-1は、チップチルトミラー1107-1を制御し、光学望遠鏡1108-1からの送信光をスパイラル状にスキャンする。
また、初期捕捉制御器11161b-1は、粗捕捉追尾センサ11151b-1により検出された受信光の到来角度に基づいて、ジンバル1109-1の角度を補正する。
【0117】
追尾制御器11162b-1は、初期捕捉が完了した後に動作する。すなわち、追尾制御器11162b-1は、精捕捉追尾センサ11152b-1により受信光の到来角度が検出可能となった後に動作する。
この追尾制御器11162b-1は、実施の形態1で示した捕捉追尾制御器1116-1の機能と同様の機能を有する。すなわち、追尾制御器11162b-1は、姿勢軌道制御計算機12-1により予測された見込角、および、精捕捉追尾センサ11152b-1により検出された受信光の到来角度に基づいて、ジンバル1109-1およびチップチルトミラー1107-1を制御する。すなわち、追尾制御器11162b-1は、ジンバル1109-1の角度およびチップチルトミラー1107-1の角度を制御することで、光学望遠鏡1108-1の光軸と、空間光通信送受信機11-1と通信を行う空間光通信送受信機11-2における光学望遠鏡1108-2の光軸とを合わせる。
【0118】
駆動制御器1113b-2は、通信相手である空間光通信送受信機11-1との間での空間伝送路の確立を行う際、すなわち初期捕捉を行う際に、姿勢軌道制御計算機12-2により予測された移動体間の距離および記憶装置1114-2に記憶されている情報に基づいて、通信を行う移動体間の距離をLとした場合に、送信光のビーム拡がり角が1/Lまたは1/Lで変化するよう、駆動機構1112-2の駆動量を決定する。
駆動制御器1113b-2は、上記の機能以外は、実施の形態1で示した駆動制御器1113-2と同様の機能を有する。
【0119】
捕捉追尾センサ1115b-2は、図7に示すように、粗捕捉追尾センサ11151b-2および精捕捉追尾センサ11152b-2を有する。
【0120】
粗捕捉追尾センサ11151b-2は、精捕捉追尾センサ11152b-2に対して視野が広い捕捉追尾センサである。この粗捕捉追尾センサ11151b-2は、ビームスプリッタ1110-2により得られた他方の受信光に基づいて、当該受信光の到来角度を検出する。
【0121】
精捕捉追尾センサ11152b-2は、実施の形態1で示した捕捉追尾センサ1115-2の機能と同様の機能を有する。すなわち、精捕捉追尾センサ11152b-2は、ビームスプリッタ1110-2により得られた他方の受信光に基づいて、当該受信光の到来角度を検出する。
【0122】
捕捉追尾制御器1116b-2は、図7に示すように、初期捕捉制御器11161b-2および追尾制御器11162b-2を有する。
【0123】
初期捕捉制御器11161b-2は、初期捕捉の際に動作する。
この初期捕捉制御器11161b-2は、空間光通信装置1-1が搭載される移動体の位置情報に基づいて、ジンバル1109-2の角度を制御することで、当該ジンバル1109-2を通信相手である空間光通信送受信機11-1に向ける。
そして、初期捕捉制御器11161b-2は、チップチルトミラー1107-2を制御し、光学望遠鏡1108-2からの送信光をスパイラル状にスキャンする。
また、初期捕捉制御器11161b-2は、粗捕捉追尾センサ11151b-2により検出された受信光の到来角度に基づいて、ジンバル1109-2の角度を補正する。
【0124】
追尾制御器11162b-2は、初期捕捉が完了した後に動作する。すなわち、追尾制御器11162b-2は、精捕捉追尾センサ11152b-2により受信光の到来角度が検出可能となった後に動作する。
この追尾制御器11162b-2は、実施の形態1で示した捕捉追尾制御器1116-2の機能と同様の機能を有する。すなわち、追尾制御器11162b-2は、姿勢軌道制御計算機12-2により予測された見込角、および、精捕捉追尾センサ11152b-2により検出された受信光の到来角度に基づいて、ジンバル1109-2およびチップチルトミラー1107-2を制御する。すなわち、追尾制御器11162b-2は、ジンバル1109-2の角度およびチップチルトミラー1107-2の角度を制御することで、光学望遠鏡1108-2の光軸と、空間光通信送受信機11-2と通信を行う空間光通信送受信機11-1における光学望遠鏡1108-1の光軸とを合わせる。
【0125】
ここで、空間光通信送受信機11-1,11-2間での空間伝送路を確立する初期捕捉において、ビームスキャンが必要な角度誤差範囲(θmax)は、相手側の空間光通信装置1の位置推定誤差が一定であるとすれば、相対距離(L)に対して、図8および下式(4)のような関係がある。図8では、相手側の空間光通信装置1の位置推定誤差が10kmである場合を示している。

【0126】
また、スキャンするビームのビーム拡がり角(θ)を一定としてビームスキャンした場合では、ビームスキャンにかかる時間(τ)は、θmaxの2乗に比例するため、下式(5)のような関係となる。すなわち、相対距離が短ければ短いほどビームスキャンにかかる時間が増大する。

【0127】
また、ビームの掃引速度を一定とし、角度誤差範囲をθmaxとするならば、ビーム拡がり角(θ)に対して、ビームスキャンにかかる時間(τ)は、図9および下式(6)のような関係となる。

【0128】
ここで、ビーム拡がり角(θ)を下式(7)に基づき広げることを考える(第1のケース)。

【0129】
この場合、ビームの掃引速度を一定とすれば、θmaxが相対距離に応じて変動する効果と、ビーム拡がり角(θ)を相対距離に応じて可変する効果とにより、下式(8)のような関係となる。もともとは式(5)で示したように距離変動(L)に応じてビームスキャンにかかる時間(τ)は1/Lで増大していたため、時間の短縮効果が見込めることがわかる。

【0130】
次に、ビーム拡がり角(θ)を下式(9)に基づき広げることを考える(第2のケース)。この場合には、ビームスキャンにかかる時間(τ)を一定とすることができる。

【0131】
図9において、符号51で示すマークは、ビームスキャンを行う送信光を示している。また、符号52は、角度誤差範囲を示している。
図9Aは角度誤差範囲が1mradである場合を示し、図9Bおよび図9Cは角度誤差範囲が1.5mradである場合を示している。
図9Bに示すように、図9Aの場合に対して角度誤差範囲が広がった場合、細い送信光を用いてスキャンを行うと、ビームスキャンに時間がかかる。
これに対し、図9Cに示すように、角度誤差範囲に応じて送信光を拡大してスキャンを行うと、ビームスキャンにかかる時間を短縮することができる。
【0132】
ここまで、ビームスキャンにかかる時間(τ)に関しての説明を行ってきたが、ビーム拡がり角(θ)を可変とすることは、空間光通信システムの回線成立性にも影響を及ぼす。ここでは、空間光通信装置1の内部光学系の損失および受信アンテナ利得については変化がないものとし、距離に応じて変動が起こる自由空間伝搬損失と送信アンテナ利得が変化することについて、考察する。
【0133】
空間光通信装置1-1,1-2の送受信間での自由空間伝搬損失(Lpass)は、波長(λ)と相対距離(L)を用いて、下式(10)で表せる。

【0134】
また、光学望遠鏡1108の送信アンテナ利得(G)およびビーム拡がり角(θ)は、下式(11),(12)のような関係がある。

【0135】
よって、ビーム拡がり角(θ)が一定の場合においては、自由空間伝搬損失と送信アンテナ利得を合わせると、下式(13)のような関係が成り立つ。

【0136】
次に、ビーム拡がり角を可変した場合の2つの場合(第1のケースおよび第2のケース)について考察する。
第1のケースの場合では、ビーム拡がり角を式(7)の関係で変化させることから、式(7)および式(13)から下式(14)が得られ、捕捉追尾センサ1115bで検出する受信光強度を一定とすることができる。

【0137】
また、第2のケースの場合では、ビーム拡がり角を式(9)の関係で変化させることから、式(9)および式(13)から下式(15)が得られ、距離が短い場合において受信光強度が低下する。よって、捕捉追尾センサ1115bにおける受信光強度が、回線を成立させたい範囲において飽和および不足しないようにする必要がある。

【0138】
以上より、第1のケースおよび第2のケースのいずれの場合においても、ビーム拡がり角を可変させない場合に対して、初期捕捉時間を削減できる。第1のケースの場合では、ビームスキャンにかかる時間(τ)は1/Lで変化し、捕捉追尾センサ1115bで検出する受信光強度は一定となる。また、第2のケースの場合では、ビームスキャンにかかる時間(τ)は一定となり、捕捉追尾センサ1115bで検出する受信光強度はLで変化する。
【0139】
なお、ビーム拡がり角は指向誤差損失(L)にも寄与する。指向誤差損失は、ビームの指向誤差(θ)に対して、下式(16)のように表せられる。これはビーム拡がり角(θ)を大きくすることで損失が小さくなる傾向にあることから、回線成立において影響を及ぼさない。

【0140】
次に、実施の形態3に係る空間光通信システムによる初期捕捉の際の動作例について、図10および図11を参照しながら説明する。
まず、実施の形態3に係る空間光通信送受信機11-1による初期捕捉の際の動作例について、図10を参照しながら説明する。なお、空間光通信送受信機11-1は、空間光通信送受信機11-2と同時刻に制御を開始する。
【0141】
この実施の形態3に係る空間光通信送受信機11-1による初期捕捉の際の動作例では、例えば図10に示すように、まず、捕捉追尾制御器1116b-1は、初期捕捉制御器11161b-1を動作させる(ステップST101)。
【0142】
次いで、姿勢軌道制御計算機12-1は、空間光通信装置1-1が搭載される移動体の位置情報、および、空間光通信装置1-2が搭載される移動体の位置情報に基づいて、通信を行う移動体間の距離を予測する(ステップST102)。
【0143】
また、初期捕捉制御器11161b-1は、空間光通信装置1-2が搭載される移動体の位置情報に基づいて、ジンバル1109-1の角度を制御することで、当該ジンバル1109-1を通信相手である空間光通信送受信機11-2に向ける(ステップST103)。この際、相手側の空間光通信送受信機11-2の位置推定誤差に基づく角度誤差が発生する。よって、この状態では、空間光通信送受信機11-1,11-2間での空間伝送路は確立できない。そこで送信光のビームスキャンを行うことで初期捕捉を行う。
【0144】
次いで、駆動制御器1113b-1は、姿勢軌道制御計算機12-1により予測された移動体間の距離および記憶装置1114-1に記憶されている情報に基づいて、通信を行う移動体間の距離をLとした場合に、送信光のビーム拡がり角が1/Lまたは1/Lで変化するよう、駆動機構1112-1の駆動量を決定する(ステップST104)。すなわち、ビームスキャンを行うにあたって、第1のケースまたは第2のケースの条件が満たされるように、光学望遠鏡1108-1からの送信光のビーム拡がり角を制御する。
【0145】
次いで、初期捕捉制御器11161b-1は、チップチルトミラー1107-1を制御し、光学望遠鏡1108-1からの送信光をスパイラル状にスキャンする(ステップST105)。上記のスキャン処理は例えば4,5回程度繰返される。
すなわち、上記のスキャン処理を複数回繰返すことで、通信相手である空間光通信装置1-2が有する粗捕捉追尾センサ11151b-2での受光確率が向上し、確実に受光が行えるようになる。
【0146】
次いで、通信相手である空間光通信装置1-2において送信光がスパイラル状にスキャンされている状態において、粗捕捉追尾センサ11151b-1は、ビームスプリッタ1110-1により得られた他方の受信光に基づいて、当該受信光の到来角度を検出する(ステップST106)。
なお、粗捕捉追尾センサ11151b-1は、初期捕捉において角度誤差が大きくても、通信相手である空間光通信送受信機11-2からの送信光を受信できるように、広い視野を確保することが望ましい。よって、粗捕捉追尾センサ11151b-1としては、例えば、イメージセンサなどの素子数が多く、視野が広く確保できるものが用いられる。
【0147】
次いで、初期捕捉制御器11161b-1は、粗捕捉追尾センサ11151b-1により検出された受信光の到来角度に基づいて、ジンバル1109-1の角度を補正する(ステップST107)。
これにより、光学望遠鏡1108-1の空間光通信送受信機11-2に対する指向誤差が低減される。
【0148】
次いで、精捕捉追尾センサ11152b-1は、ビームスプリッタ1110-1により得られた他方の受信光に基づいて、当該受信光の到来角度の検出を行う(ステップST108)。このステップST108において、精捕捉追尾センサ11152b-1が受信光の到来角度の検出が行えない場合には、シーケンスはステップST105に戻る。
【0149】
一方、ステップST108において、精捕捉追尾センサ11152b-1が受信光の到来角度の検出が行えた場合には、捕捉追尾制御器1116b-1は、追尾制御器11162b-1を動作させる(ステップST109)。
すなわち、精捕捉追尾センサ11152b-1が受信光の到来角度の検出が行えた場合には、初期捕捉が完了したと判定し、空間伝送路が確立する。そして、捕捉追尾制御器1116b-1で動作させる制御器を、初期捕捉制御器11161b-1から追尾制御器11162b-1に切り替える。
【0150】
次いで、追尾制御器11162b-1は、姿勢軌道制御計算機12-1により予測された見込角、および、精捕捉追尾センサ11152b-1により検出された受信光の到来角度に基づいて、ジンバル1109-1およびチップチルトミラー1107-1を制御する(ステップST110)。以降、空間光通信送受信機11-1は空間光通信送受信機11-2を追尾するように制御を継続する。
以上により、空間伝送路が継続して確立される。
【0151】
次に、実施の形態3に係る空間光通信送受信機11-2による初期捕捉の際の動作例について、図11を参照しながら説明する。なお、空間光通信送受信機11-2は、空間光通信送受信機11-1と同時刻に制御を開始する。
【0152】
この実施の形態3に係る空間光通信送受信機11-2による初期捕捉の際の動作例では、例えば図11に示すように、まず、捕捉追尾制御器1116b-2は、初期捕捉制御器11161b-2を動作させる(ステップST201)。
【0153】
次いで、姿勢軌道制御計算機12-2は、空間光通信装置1-1が搭載される移動体の位置情報、および、空間光通信装置1-2が搭載される移動体の位置情報に基づいて、通信を行う移動体間の距離を予測する(ステップST202)。
【0154】
また、初期捕捉制御器11161b-2は、空間光通信装置1-1が搭載される移動体の位置情報に基づいて、ジンバル1109-2の角度を制御することで、当該ジンバル1109-2を通信相手である空間光通信送受信機11-1に向ける(ステップST203)。この際、相手側の空間光通信送受信機11-1の位置推定誤差に基づく角度誤差が発生する。よって、この状態では、空間光通信送受信機11-1,11-2間での空間伝送路は確立できない。そこで送信光のビームスキャンを行うことで初期捕捉を行う。
【0155】
次いで、駆動制御器1113b-2は、姿勢軌道制御計算機12-2により予測された移動体間の距離および記憶装置1114-2に記憶されている情報に基づいて、通信を行う移動体間の距離をLとした場合に、送信光のビーム拡がり角が1/Lまたは1/Lで変化するよう、駆動機構1112-2の駆動量を決定する(ステップST204)。すなわち、ビームスキャンを行うにあたって、第1のケースまたは第2のケースの条件が満たされるように、光学望遠鏡1108-2からの送信光のビーム拡がり角を制御する。
【0156】
次いで、通信相手である空間光通信装置1-1において送信光がスパイラル状にスキャンされている状態において、粗捕捉追尾センサ11151b-2は、ビームスプリッタ1110-2により得られた他方の受信光に基づいて、当該受信光の到来角度を検出する(ステップST205)。
なお、粗捕捉追尾センサ11151b-2は、初期捕捉において角度誤差が大きくても、通信相手である空間光通信送受信機11-1からの送信光を受信できるように、広い視野を確保することが望ましい。よって、粗捕捉追尾センサ11151b-2としては、例えば、イメージセンサなどの素子数が多く、視野が広く確保できるものが用いられる。
【0157】
次いで、初期捕捉制御器11161b-2は、粗捕捉追尾センサ11151b-2により検出された受信光の到来角度に基づいて、ジンバル1109-2の角度を補正する(ステップST206)。
これにより、光学望遠鏡1108-2の空間光通信送受信機11-1に対する指向誤差が低減される。
【0158】
次いで、初期捕捉制御器11161b-2は、チップチルトミラー1107-2を制御し、光学望遠鏡1108-2からの送信光をスパイラル状にスキャンする(ステップST207)。上記のスキャン処理は例えば4,5回程度繰返される。
すなわち、上記のスキャン処理を複数回繰返すことで、通信相手である空間光通信装置1-1が有する粗捕捉追尾センサ11151b-1での受光確率が向上し、確実に受光が行えるようになる。
【0159】
なお、図10に示すステップST105において空間光通信送受信機11-1が先にビームスキャンを行うことで、光学望遠鏡1108-1の光軸と光学望遠鏡1108-2の光軸とがなす角は小さくなっている。そのため、一般に、図11に示すステップST207におけるスキャン範囲は、図10に示すステップST105におけるスキャン範囲よりも小さくすることができる。
【0160】
次いで、精捕捉追尾センサ11152b-2は、ビームスプリッタ1110-2により得られた他方の受信光に基づいて、当該受信光の到来角度の検出を行う(ステップST208)。このステップST208において、精捕捉追尾センサ11152b-2が受信光の到来角度の検出が行えない場合には、シーケンスはステップST205に戻る。
【0161】
一方、ステップST208において、精捕捉追尾センサ11152b-2が受信光の到来角度の検出が行えた場合には、捕捉追尾制御器1116b-2は、追尾制御器11162b-2を動作させる(ステップST209)。
すなわち、精捕捉追尾センサ11152b-2が受信光の到来角度の検出が行えた場合には、初期捕捉が完了したと判定し、空間伝送路が確立する。そして、捕捉追尾制御器1116b-2で動作させる制御器を、初期捕捉制御器11161b-2から追尾制御器11162b-2に切り替える。
【0162】
次いで、追尾制御器11162b-2は、姿勢軌道制御計算機12-2により予測された見込角、および、精捕捉追尾センサ11152b-2により検出された受信光の到来角度に基づいて、ジンバル1109-2およびチップチルトミラー1107-2を制御する(ステップST210)。以降、空間光通信送受信機11-2は空間光通信送受信機11-1を追尾するように制御を継続する。
以上により、空間伝送路が継続して確立される。
【0163】
なお、上記では、空間光通信送受信機11-1が先にビームスキャンを行う場合を示したが、空間光通信送受信機11-2が先にビームスキャンを行ってもよい。
【0164】
また、上記では、図1に示す実施の形態1に係る空間光通信システムに対して、駆動制御器1113、捕捉追尾センサ1115および捕捉追尾制御器1116をそれぞれ、駆動制御器1113b、捕捉追尾センサ1115bおよび捕捉追尾制御器1116bに変更した場合を示した。しかしながら、これに限らず、図6に示す実施の形態2に係る空間光通信システムに対して、駆動制御器1113、捕捉追尾センサ1115および捕捉追尾制御器1116をそれぞれ、駆動制御器1113b、捕捉追尾センサ1115bおよび捕捉追尾制御器1116bに変更してもよく、上記と同様の効果が得られる。
【0165】
以上のように、この実施の形態3によれば、駆動制御器1113bは、通信相手である空間光通信送受信機11との間での空間伝送路の確立を行う際に、自機と通信相手である空間光通信送受信機11との間の距離をLとした場合に、送信光のビーム拡がり角が1/Lで変化するよう、駆動機構1112の駆動量を決定し、捕捉追尾制御器1116bは、通信相手である空間光通信送受信機11との間での空間伝送路の確立を行う際に、チップチルトミラー1107を制御することで、送信光のスパイラル状のスキャンを行う。
また、この実施の形態3によれば、駆動制御器1113bは、通信相手である空間光通信送受信機11との間での空間伝送路の確立を行う際に、自機と通信相手である空間光通信送受信機11との間の距離をLとした場合に、送信光のビーム拡がり角が1/Lで変化するよう、駆動機構1112の駆動量を決定し、捕捉追尾制御器1116bは、通信相手である空間光通信送受信機11との間での空間伝送路の確立を行う際に、チップチルトミラー1107を制御することで、送信光のスパイラル状のスキャンを行う。
これらにより、実施の形態3に係る空間光通信送受信機11は、実施の形態1,2に係る空間光通信送受信機11に対し、ビーム拡がり角の制御によって、通信相手である空間光通信装置1の初期捕捉時間を短縮できる。
すなわち、実施の形態3に係る空間光通信システムでは、初期捕捉の際にOHPA1103の出力光を空間に出力するコリメータ1105のコリメータレンズ11052とファイバコネクタ11051との間の距離を可変させることで、コリメータ1105の出力光の拡がり角を調整する。そして、実施の形態3に係る空間光通信システムでは、この拡がり角を移動体間の距離に応じて変化させ、角度誤差範囲内をくまなく掃引する。これにより、実施の形態3に係る空間光通信システムでは、初期捕捉における掃引時間の短縮が可能となる。
【0166】
最後に、図12を参照して、実施の形態1-3に係る空間光通信送受信機11のハードウェア構成例を説明する。以下では、実施の形態1に係る空間光通信送受信機11のハードウェア構成例について説明するが、実施の形態2,3に係る空間光通信送受信機11のハードウェア構成例についても同様である。
空間光通信送受信機11におけるOHPA制御器1104-1、駆動制御器1113-1および捕捉追尾制御器1116-1の各機能は、処理回路51により実現される。処理回路51は、図12Aに示すように、専用のハードウェアであってもよいし、図12Bに示すように、メモリ53に格納されるプログラムを実行するCPU(Central Processing Unit、中央処理装置、処理装置、演算装置、マイクロプロセッサ、マイクロコンピュータ、プロセッサ、またはDSP(Digital Signal Processor)ともいう)52であってもよい。
【0167】
処理回路51が専用のハードウェアである場合、処理回路51は、例えば、単一回路、複合回路、プログラム化したプロセッサ、並列プログラム化したプロセッサ、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)、FPGA(Field Programmable Gate Array)、またはこれらを組み合わせたものが該当する。OHPA制御器1104-1、駆動制御器1113-1および捕捉追尾制御器1116-1の各部の機能それぞれを処理回路51で実現してもよいし、各部の機能をまとめて処理回路51で実現してもよい。
【0168】
処理回路51がCPU52の場合、OHPA制御器1104-1、駆動制御器1113-1および捕捉追尾制御器1116-1の機能は、ソフトウェア、ファームウェア、またはソフトウェアとファームウェアとの組み合わせにより実現される。ソフトウェアおよびファームウェアはプログラムとして記述され、メモリ53に格納される。処理回路51は、メモリ53に記憶されたプログラムを読み出して実行することにより、各部の機能を実現する。すなわち、空間光通信送受信機11は、処理回路51により実行されるときに、各構成の処理が結果的に実行されることになるプログラムを格納するためのメモリ53を備える。また、これらのプログラムは、OHPA制御器1104-1、駆動制御器1113-1および捕捉追尾制御器1116-1の手順および方法をコンピュータに実行させるものであるともいえる。ここで、メモリ53としては、例えば、RAM、ROM、フラッシュメモリ、EPROM、EEPROMなどの不揮発性または揮発性の半導体メモリ、磁気ディスク、フレキシブルディスク、光ディスク、コンパクトディスク、ミニディスク、またはDVDなどが該当する。
【0169】
なお、OHPA制御器1104-1、駆動制御器1113-1および捕捉追尾制御器1116-1の各機能について、一部を専用のハードウェアで実現し、一部をソフトウェアまたはファームウェアで実現するようにしてもよい。例えば、OHPA制御器1104-1については専用のハードウェアとしての処理回路51でその機能を実現し、駆動制御器1113-1および捕捉追尾制御器1116-1については処理回路51がメモリ53に格納されたプログラムを読み出して実行することによってその機能を実現することが可能である。
【0170】
このように、処理回路51は、ハードウェア、ソフトウェア、ファームウェア、またはこれらの組み合わせによって、上述の各機能を実現することができる。
【0171】
なお、各実施の形態の自由な組合わせ、或いは各実施の形態の任意の構成要素の変形、若しくは各実施の形態において任意の構成要素の省略が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0172】
本開示に係る空間光通信送受信機は、電気的な利得可変を行わずに、空間伝送路の距離変動に対応可能となり、移動体に搭載され、データの伝送を行う空間光通信送受信機などに用いるのに適している。
【符号の説明】
【0173】
1-1,1-2 空間光通信装置、11-1,11-2 空間光通信送受信機、12-1,12-2 姿勢軌道制御計算機、51 処理回路、52 CPU、53 メモリ、1101-1,1101-2 光源、1102-1,1102-2 光変調器、1103-1,1103-2 OHPA、1104-1,1104-2 OHPA制御器、1105-1,1105-2 コリメータ、1106-1,1106-2 ダイクロイックミラー、1107-1,1107-2 チップチルトミラー、1108-1,1108-2 光学望遠鏡、1109-1,1109-2 ジンバル、1110-1,1110-2 ビームスプリッタ、1111-1,1111-2 光復調器、1112-1,1112-2 駆動機構、1113-1,1113b-1,1113-2,1113b-2 駆動制御器、1114-1,1114-2 記憶装置、1115-1,1115b-1,1115-2,1115b-2 捕捉追尾センサ、1116-1,1116b-1,1116-2,1116b-2 捕捉追尾制御器、1117-1,1117-2 波面計測器、11051-1,11051-2 ファイバコネクタ、11052-1,11052-2 コリメータレンズ、11053-1 直動アクチュエータ、11054-1 ピエゾ素子、11081-1 コリメータ側レンズ、11082-1 空間伝送路側レンズ、11151b-1,11151b-2 粗捕捉追尾センサ、11152b-1,11152b-2 精捕捉追尾センサ、11161b-1,11161b-2 初期捕捉制御器、11162b-1,11162b-2 追尾制御器。
図1
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図12