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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-06-12
(45)【発行日】2025-06-20
(54)【発明の名称】発光素子駆動回路およびレーザ発振器
(51)【国際特許分類】
   H01S 5/042 20060101AFI20250613BHJP
【FI】
H01S5/042 630
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2025521536
(86)(22)【出願日】2025-01-16
(86)【国際出願番号】 JP2025001224
【審査請求日】2025-04-15
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006013
【氏名又は名称】三菱電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】関口 将太
(72)【発明者】
【氏名】森本 猛
(72)【発明者】
【氏名】五十嵐 勇一
(72)【発明者】
【氏名】日野 貴文
【審査官】佐藤 美紗子
(56)【参考文献】
【文献】特開2022-161687(JP,A)
【文献】国際公開第2024/070709(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01S 5/00-5/50
H05B 39/00-39/10
H05B 45/00-45/59
H05B 47/00-47/29
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
発光素子を駆動する発光素子駆動回路であって、
第1電圧を保持し、前記発光素子のアノードに前記第1電圧を印加可能に接続される第1直流電源と、
前記発光素子のアノードに前記第1電圧よりも高い第2電圧を印加可能に接続される第2直流電源と、
前記第2電圧が前記第1直流電源へ印加されるのを防止する向きに接続され、前記発光素子のアノードに対する前記第1電圧の印加のオンオフを切り替える第1スイッチ素子と、
前記発光素子のアノードに対する前記第2電圧の印加のオンオフを切り替える第2スイッチ素子と、
前記発光素子に電流が流れたときに、前記発光素子のアノード側およびカソード側の配線インダクタンスに蓄積されるエネルギーが前記第2直流電源に回生される向きに接続されるダイオードと、
前記発光素子に直列に接続される第3スイッチ素子と、前記第3スイッチ素子を駆動する駆動部と、を有し、前記第1直流電源、前記第1スイッチ素子、前記発光素子、および前記第3スイッチ素子と、前記発光素子のアノード側およびカソード側の前記配線インダクタンスとを含む直列回路を構成し、前記発光素子に流れる電流を制御するリニアレギュレータと、
前記第3スイッチ素子のドレイン-ソース間の電圧変動を検出するための第3電圧および第4電圧を検出する電圧モニタ部と、
前記第3電圧および前記第4電圧に基づいて前記第3スイッチ素子のゲートに第1電流の注入制御を行う定電流回路部と、
を備えることを特徴とする発光素子駆動回路。
【請求項2】
前記第3電圧は前記第2直流電源の前記第2電圧であり、前記第4電圧は前記発光素子のアノードの電圧である
ことを特徴とする請求項1に記載の発光素子駆動回路。
【請求項3】
前記第3電圧は前記第2直流電源の前記第2電圧であり、前記第3スイッチ素子のドレイン電圧である
ことを特徴とする請求項1に記載の発光素子駆動回路。
【請求項4】
前記定電流回路部は、
前記第4電圧が前記第3電圧に対し遠ざかる場合、前記第4電圧と前記第3電圧との電圧差が大きいほど前記第1電流を大きくして、前記第3スイッチ素子のゲート電圧の上昇制御を行い、
前記第4電圧が前記第3電圧に対し近づく場合、前記第4電圧と前記第3電圧との電圧差が小さいほど前記第1電流を小さくして、前記第3スイッチ素子のゲート電圧の下降制御を行う
ことを特徴とする請求項2に記載の発光素子駆動回路。
【請求項5】
前記リニアレギュレータは、前記第3スイッチ素子のゲートと前記駆動部との間に接続される抵抗素子を、さらに備え、
前記定電流回路部は、前記第3スイッチ素子のゲートと前記抵抗素子との接続点に前記第1電流を注入する
ことを特徴とする請求項1に記載の発光素子駆動回路。
【請求項6】
前記リニアレギュレータは、前記第3スイッチ素子を流れる電流を検出する電流検出器を、さらに備え、
前記駆動部は、前記第3スイッチ素子の電流指令値と前記電流検出器の検出電流値との差に基づいて前記第3スイッチ素子を駆動制御する
ことを特徴とする請求項1に記載の発光素子駆動回路。
【請求項7】
前記発光素子と、
前記発光素子を駆動する請求項1から6の何れか一つに記載の発光素子駆動回路と、
を備えたことを特徴とするレーザ発振器。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、レーザダイオード(Laser Diode:LD)、発光ダイオード(Light Emitting Diode:LED)などを含む発光素子を駆動する発光素子駆動回路およびレーザ発振器に関する。
【背景技術】
【0002】
LDまたはLEDは流れる電流に応じた輝度で発光する発光素子であり、直流電流で駆動される。これらの発光素子を駆動する駆動回路においては、発光素子、定電圧源、リニアレギュレータが直列に配置され、リニアレギュレータで発光素子の電流を制御する構成が一般的に採用される。また、駆動回路での損失を小さくするため、定電圧源の電圧は、発光素子の順方向電圧に対し、僅かに高い値に設定される。このような構成の駆動回路において、発光素子が定常的に点灯している間は、特段の問題は生じない。一方、発光素子をオフ状態からオン状態に制御する場合、定電圧源と発光素子の順方向電圧との間の僅かな電位差を電位勾配として配線のインダクタンスに電流を流さなければならない。このため、電流の立ち上がりが極めて遅くなるという課題がある。
【0003】
上記の課題を解決するため、特許文献1には、相対的に電圧が高い高電圧源と相対的に電圧が低い低電圧源とをスイッチにより高速に切り替えることで、発光素子の電流立ち上がり時は高速に電流を立ち上げ、電流立ち上がり後は、高電圧源をオフに制御し、低電圧源のみで発光素子に一定電流を流すように制御している。また、特許文献1では、発光素子に電流が流れたときに、発光素子のアノード側およびカソード側の配線インダクタンスに蓄積されるエネルギーが高電圧源に回生される向きに接続されるダイオードを備えることで、電流のオンオフが頻繁に発生するような用途に使用した場合でも、回路損失の増加を抑制できるようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2022-161687号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1では、後述するように、高速に電流を立ち上げる電流立ち上げ期間から発光素子に一定電流を流すよう制御する電流一定制御期間への移行の際における回路応答遅延により、実アプリケーションに影響を与える可能性がある大きな電流のオーバーシュートおよびアンダーシュートが発生する、という課題がある。
【0006】
本開示は、上記に鑑みてなされたものであって、電流のオンオフが頻繁に発生するような用途であっても、回路損失の増加を抑制でき、かつ発光素子に流れる電流のオーバーシュートおよびアンダーシュートを抑制することができる発光素子駆動回路を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本開示にかかる発光素子駆動回路は、発光素子を駆動する。発光素子駆動回路は、第1電圧を保持し、発光素子のアノードに第1電圧を印加可能に接続される第1直流電源と、発光素子のアノードに第1電圧よりも高い第2電圧を印加可能に接続される第2直流電源と、第2電圧が第1直流電源へ印加されるのを防止する向きに接続され、発光素子のアノードに対する第1電圧の印加のオンオフを切り替える第1スイッチ素子と、発光素子のアノードに対する第2電圧の印加のオンオフを切り替える第2スイッチ素子と、発光素子に電流が流れたときに、発光素子のアノード側およびカソード側の配線インダクタンスに蓄積されるエネルギーが第2直流電源に回生される向きに接続されるダイオードと、発光素子に直列に接続される第3スイッチ素子と、第3スイッチ素子を駆動する駆動部と、を有し、第1直流電源、第1スイッチ素子、発光素子、および第3スイッチ素子と、発光素子のアノード側およびカソード側の配線インダクタンスとを含む直列回路を構成し、発光素子に流れる電流を制御するリニアレギュレータと、第3スイッチ素子のドレイン-ソース間の電圧変動を検出するための第3電圧および第4電圧を検出する電圧モニタ部と、第3電圧および第4電圧に基づいて第3スイッチ素子のゲートに第1電流の注入制御を行う定電流回路部と、を備える。
【発明の効果】
【0008】
本開示の発光素子駆動回路によれば、電流のオンオフが頻繁に発生するような用途であっても、回路損失の増加を抑制でき、かつ発光素子に流れる電流のオーバーシュートおよびアンダーシュートを抑制することができる、という効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】実施の形態1にかかる発光素子駆動回路の構成を示す回路図
図2】実施の形態1にかかる発光素子駆動回路の動作を示すタイムチャート
図3】実施の形態2にかかる発光素子駆動回路の構成を示す回路図
図4】特許文献1を説明するための回路図
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に、実施の形態にかかる発光素子駆動回路およびレーザ発振器を図面に基づいて詳細に説明する。
【0011】
実施の形態を説明する前に、図4を用いて特許文献1の課題について説明する。図4は、特許文献1を説明するための回路図である。特許文献1の発光素子駆動回路は、LD1と、MOSFET(Metal-Oxide-Semiconductor Field-Effect Transistor)2と、MOSFET3と、低電圧源4と、ダイオード5と、リニアレギュレータ6と、高電圧源7と、を備える。リニアレギュレータ6は、MOSFET61と、電流検出器62と、MOSFET61を駆動するための駆動部63と、を備える。
【0012】
図4の発光素子駆動回路では、高電圧源7の高電圧と低電圧源4の低電圧とを切り替えてLD1を駆動しながら、リニアレギュレータ6によってLD1に流す電流の制御を行っている。具体的には、LD1を発光するときは、低電圧源4の低電圧から高電圧源7の高電圧へ切り替えて、LD1に電流を流れる電流を目標電流まで立ち上げる。LD1に高電圧源7の高電圧を供給してLD1に電流を流れる電流を目標電流まで立ち上げる期間を電流立ち上げ期間と呼ぶ。LD1に流れる電流が目標電流まで立ち上がると、高電圧源7の高電圧から低電圧源4の低電圧へ切り替え、MOSFET61および駆動部63によって、LD1に流れる電流を一定に維持する。LD1に低電圧源4の低電圧を供給してLD1に電流を流れる電流を一定に制御している期間を電流一定制御期間と呼ぶ。LD1に電流が流れるとき、LD1のアノード側およびカソード側の配線インダクタンスL1,L2にはエネルギーが蓄積される。この後、電流の立ち下げ期間では、ダイオード5を介して配線インダクタンスL1,L2に蓄積されたエネルギーを高電圧源7に回生する。
【0013】
図4の発光素子駆動回路では、理想的には、LD1のアノードの電圧が低電圧から高電圧にまたは高電圧から低電圧に切り替わった瞬間でも、LD1に流れる電流を一定に流すようにリニアレギュレータ6が電流を制御するように動作するが、現実的には、電流立ち上げ期間から電流一定制御期間への移行の際、すなわちLD1のアノードの電圧が低電圧から高電圧にまたは高電圧から低電圧に切り替わるときに、リニアレギュレータ6の制御の応答遅延により、LD1に流れる電流にオーバーシュートおよびアンダーシュートを含む電流の歪が発生してしまう。
【0014】
この電流の歪には、LD1の電流を制御しているリニアレギュレータ6の電流出力素子であるMOSFET61の特性と、MOSFET61のゲート電圧を制御している駆動部63が影響している。一般的に、MOSFETにおいては、電流を一定に制御しようとした場合に、MOSFETのゲート電圧とMOSFETのドレイン-ソース間電圧とが一定であれば一定の電流を流すことができるが、ドレイン-ソース間の電圧が高くなった場合に元の電流を維持しようとした場合は、ゲート電圧を相対的に下げることで電流を一定に保つことができる。また、ドレイン-ソース間の電圧が低くなった場合は、ゲート電圧を相対的に上げることで電流を一定に保つことができる。
【0015】
LD1のアノードの電圧が低電圧源4の低電圧から高電圧源7の高電圧に切り替わる電流立ち上げ期間では、電流を一定に流すように制御しているMOSFET61のドレイン-ソース間の電圧が急峻に高くなる。電流を一定に保つためには、MOSFET61のゲート電圧を下げる必要があるが、MOSFET61のゲート電圧を制御している駆動部63の応答遅延により、ゲート電圧を下げる動作が追従できずに、LD1に流れる電流がオーバーシュートする動作が発生してしまう。
【0016】
また、LD1のアノードの電圧が高電圧源7の高電圧から低電圧源4の低電圧に切り替わる電流一定制御期間の最中には、電流を一定に流すように制御しているMOSFET61のドレイン-ソース間の電圧が急峻に低くなる。電流を一定に保つためには、MOSFET61のゲート電圧を上げる必要があるが、MOSFET61のゲート電圧を制御している駆動部63の応答遅延により、ゲート電圧を上げる動作が追従できずに、LD1に流れる電流がアンダーシュートする動作が発生してしまう。
【0017】
ここで、駆動部63の応答性を向上させることは可能であるが、駆動部63は一般的にオペアンプで構成されており、オペアンプの応答性を向上させる場合、リニアレギュレータ6の動作において出力の発振等の不安定な動作となる起因となってしまい、電流の発振などの動作に繋がる可能性がある。
【0018】
そこで、実施の形態では、駆動部63の応答特性を変化させることなく、LD1に流れる電流のオーバーシュートおよびアンダーシュートを抑制することができるようにする。
【0019】
実施の形態1.
図1は、実施の形態1にかかる発光素子駆動回路100の構成を示す回路図である。図1において、図4に示した発光素子駆動回路と同一機能を達成する構成要素については、同一符号を付している。発光素子駆動回路100は、LD1と、金属酸化膜半導体電界効果型トランジスタ(MOSFET)2と、MOSFET3と、第1直流電源である主電圧源(低電圧源)4と、ダイオード5と、リニアレギュレータ6と、第2直流電源であるブースト電圧源(高電圧源)7と、電圧モニタ部8と、定電流回路部9と、を備える。リニアレギュレータ6は、MOSFET61と、電流検出器62と、駆動部63と、抵抗素子64と、を備える。MOSFET2が第2スイッチ素子に対応し、MOSFET3が第1スイッチ素子に対応し、MOSFET61が第3スイッチ素子に対応する。
【0020】
LD1は、発光素子の一例である。LD1のアノードは、MOSFET2のソースとMOSFET3のドレインとの接続点に接続される。LD1のカソードは、ダイオード5のアノードとMOSFET61のドレインとの接続点に接続される。なお、図1では、LD1を単一の素子として図示しているが、単一の素子には限定されない。LD1は、複数の素子が直列または直並列に接続されるものであっても良い。
【0021】
MOSFET3のソースは、主電圧源4の正極に接続される。MOSFET2のドレインとダイオード5のカソードとは接続され、その接続点はブースト電圧源7の正極に接続される。MOSFET61のソースは、電流検出器62を介して主電圧源4の負極に接続され、その接続点はブースト電圧源7の負極に接続される。
【0022】
LD1の両側には、配線インダクタンスL1,L2が示されている。配線インダクタンスL1は主電圧源4の正極とLD1のアノードとの間の電気配線のインダクタンスであり、配線インダクタンスL2は主電圧源4の負極とLD1のカソードとの間の電気配線のインダクタンスである。LD1に電流が流れるとき、LD1のアノード側およびカソード側の配線インダクタンスL1,L2にはエネルギーが蓄積される。
【0023】
リニアレギュレータ6は、LD1に流れる電流を制御する構成要素であり、MOSFET61と、電流検出器62と、MOSFET61を駆動するための駆動部63と、抵抗素子64と、を備える。抵抗素子64は、MOSFET61のゲートと駆動部63との間に直列接続される。抵抗素子64は、MOSFET61の電流抑制用の抵抗と、定電流回路部9からの電流をMOSFET61のゲート電圧の補正電圧へと変換するための抵抗と、を兼ねる。
【0024】
リニアレギュレータ6は、主電圧源4、MOSFET3、LD1および配線インダクタンスL1,L2と共に直列回路を構成する。従って、MOSFET61には、LD1を駆動する際に、LD1に流れる電流が通流する。電流検出器62は、MOSFET61に流れる電流、ひいてはLD1に流れる電流を検出することができる。駆動部63は、LD1に流す電流指令値と電流検出器62で検出した電流値とを比較し、電流指令値と検出電流値との差がゼロになるようにMOSFET61を駆動する。
【0025】
電圧モニタ部8は、MOSFET61のドレイン-ソース間の電圧変動を検出するための第3電圧および第4電圧を検出する。実施の形態1では、電圧モニタ部8は、第3電圧としてブースト電圧源7の第2電圧をモニタし、第4電圧としてLD1のアノードの電圧をモニタする。
【0026】
電圧モニタ部8の入力は、MOSFET2のドレインとダイオード5のカソードとブースト電圧源7の正極との接続点と、LD1のアノードとMOSFET2のソースとMOSFET3のドレインとの接続点と、ブースト電圧源7の負極と主電圧源4の負極との接続点とに接続されている。電圧モニタ部8の2つの出力は、定電流回路部9へ接続されている。電圧モニタ部8は、ブースト電圧源7の負極と主電圧源4の負極との接続点の電位を基準にしてブースト電圧源7の電圧を検出する。また、電圧モニタ部8は、ブースト電圧源7の負極と主電圧源4の負極との接続点の電位を基準にして、LD1のアノードとMOSFET2のソースとMOSFET3のドレインとの接続点の電圧を検出することで、LD1のアノードの電圧を検出する。電圧モニタ部8でモニタされたブースト電圧源7の電圧およびLD1のアノードの電圧は、定電流回路部9へ入力される。
【0027】
電圧モニタ部8では、ブースト電圧源7の電圧を抵抗素子で分圧して出力しても良いし、分圧することなくそのまま直接、定電流回路部9へ出力しても良い。また、電圧モニタ部8では、LD1のアノードの電圧を抵抗素子で分圧して出力しても良いし、そのまま直接、定電流回路部9へ出力しても良い。また、電圧モニタ部8において、フィルタ機能あるいはその他の手法によるレベル変換などがあっても良い。
【0028】
定電流回路部9は、電圧モニタ部8からのブースト電圧源7の電圧およびLD1のアノードの電圧を含む2つの電圧を入力とする。定電流回路部9の出力は、リニアレギュレータ6のMOSFET61のゲートと抵抗素子64との接続点に接続されている。定電流回路部9においては、リニアレギュレータ6のMOSFET61のゲートと抵抗素子64との接続点への接続の際に、そのまま直接接続しても良いし、MOSFETなどのスイッチ素子を介在させ、スイッチ素子によって定電流回路部9からの電流の流し込みを任意のタイミングで行っても良い。
【0029】
定電流回路部9は、電圧モニタ部8から入力された2つのモニタ電圧であるブースト電圧源7の電圧とLD1のアノードの電圧とに基づいてMOSFET61のゲートに対し電流の注入制御を行うことで、MOSFET61のゲート電圧の上昇、下降制御を行う。定電流回路部9からMOSFET61のゲートに注入される電流が第1電流に対応する。
【0030】
次に、実施の形態1に係る発光素子駆動回路100のLD1の発光動作について説明する。この発光素子駆動回路100では、LD1がオンオフを設定されたデューティ比で繰り返すパルス駆動期間は、LD1がオフされるオフ期間と、前述した電流立ち上げ期間、電流一定制御期間、および電流立ち下げ期間と、を有する。オフ期間は、主電圧源4からの第1電圧が供給され、シマー電流をLD1に流している。電流立ち上げ期間は、ブースト電圧源7からの第2電圧がLD1に供給される。電流一定制御期間および電流立ち下げ期間は、主電圧源4からの第1電圧がLD1に供給される。
【0031】
このため、オフ期間から電流立ち上げ期間への移行の際は、MOSFET3がオフされ、MOSFET2,61がオンに制御される。これにより、ブースト電圧源7からの第2電圧がMOSFET2を介してLD1のアノードに印加され、LD1、MOSFET61、電流検出器62に電流が流れる。このように、電流の立ち上がり時にブースト電圧源7からの第2電圧をLD1に印加することで、電流の立ち上がりを高速化する。
【0032】
LD1に流れる電流が目標電流まで立ち上がると、MOSFET2がオフに制御されるが、MOSFET61のオンは継続され、MOSFET3はオンに制御される。これにより、主電圧源4からの第1電圧がMOSFET3を介してLD1のアノードに印加され、LD1、MOSFET61、電流検出器62に電流が流れる。LD1に電流が流れるとき、LD1のアノード側およびカソード側の配線インダクタンスL1,L2にはエネルギーが蓄積される。MOSFET61および駆動部63によって、LD1に流れる電流が一定に維持される。この期間が電流一定制御期間に対応する。
【0033】
この後、電流の立ち下げ期間では、MOSFET61がオフに制御される。このとき、MOSFET3は、オンを維持する。これにより、電流の立ち下げ期間では、ダイオード5を介して配線インダクタンスL1,L2に蓄積されたエネルギーをブースト電圧源7に回生することができる。
【0034】
次に、上記のように接続された実施の形態1に係る発光素子駆動回路100の機能、および回路構成の特徴について説明する。主電圧源4は、第1電圧を保持し、LD1のアノードに第1電圧を印加可能に接続されている。ブースト電圧源7は、第1電圧よりも高い第2電圧を保持し、LD1のアノードに第2電圧を印加可能に接続されている。MOSFET3は、第2電圧が第1直流電源へ印加されるのを防止する向きに接続されている。すなわち、MOSFET3は、逆流防止素子として動作する。
【0035】
MOSFET2がオンすると、ブースト電圧源7による第2電圧がMOSFET2を介してLD1のアノードに印加される。また、MOSFET2がオフすると、LD1への第2電圧の印加は停止される。すなわち、MOSFET2は、LD1のアノードに対する第2電圧の印加のオンオフを切り替える動作を行う。
【0036】
MOSFET3がオンすると、主電圧源4による第1電圧がMOSFET3を介してLD1のアノードに印加される。また、MOSFET3がオフすると、LD1への第1電圧の印加は停止される。すなわち、MOSFET3は、LD1のアノードに対する第1電圧の印加のオンオフを切り替える動作を行う。
【0037】
MOSFET3は、逆並列接続ダイオードを備えたスイッチ素子の一例である。逆並列とは、ダイオードのアノードがMOSFET3のソースに接続され、ダイオードのカソードがMOSFET3のドレインに接続されることを意味する。逆並列接続ダイオードは、外部接続のダイオードでも良いし、MOSFET3が内部に有する寄生ダイオードでも良い。寄生ダイオードは、ボディダイオードとも呼ばれる。寄生ダイオードを利用すれば、個別のダイオードが不要になるので、部品点数を削減することができ、コスト低減につながる。
【0038】
ダイオード5は、LD1に電流が流れたときに蓄積されるエネルギーがブースト電圧源7に回生される向きに接続されている。この構成により、配線インダクタンスL1,L2に蓄積されるエネルギーは、ダイオード5を介してブースト電圧源7に回生される。また、ダイオード5は、ブースト電圧源7の電圧による電流が、MOSFET61を介して流れるのを防止する。
【0039】
リニアレギュレータ6は、主電圧源4、MOSFET3、LD1および配線インダクタンスL1,L2と共に直列回路を構成する。抵抗素子64は、前述したように、MOSFET61の電流抑制用の抵抗と、定電流回路部9からの電流をMOSFET61のゲート電圧の補正電圧へと変換するための抵抗と、を兼ねる。
【0040】
電圧モニタ部8は、ブースト電圧源7の第2電圧およびLD1のアノードの電圧をモニタする。
【0041】
定電流回路部9は、電圧モニタ部8から入力されたブースト電圧源7の第2電圧とLD1のアノードの電圧とに基づいてMOSFET61のゲートに対し電流の注入制御を行う。定電流回路部9は、電圧モニタ部8から入力された2つのモニタ電圧のうち、ブースト電圧源7の第2電圧を基準とし、LD1のアノードの電圧とブースト電圧源7の第2電圧との電圧差を求める。定電流回路部9は、この電圧差が相対的に少なく、LD1のアノードの電圧がブースト電圧源7の第2電圧と同等の電圧レベルの場合は、MOSFET61のゲートと抵抗素子64との接続点に対して流す電流量を相対的に少なくする。
【0042】
また、定電流回路部9は、LD1のアノードの電圧がブースト電圧源7の第2電圧と同等の電圧に対して近づく場合、両者の電圧差が小さいほどMOSFET61のゲートと抵抗素子64との接続点に対して注入する電流量が小さくなるように動作する。この電流注入によりMOSFET61のゲート電圧が低くなる。すなわち、LD1のアノードの電圧が低い電圧レベルから高い電圧に急峻に遷移する際には、MOSFET61のゲート電圧のレベルが急峻に低くなるように動作する。具体的には、LD1のアノードの電圧が第1電圧から、第1電圧より相対的に高い電圧である第2電圧に切り替わる電流立ち上がり期間において、MOSFET61のドレイン-ソース間の電圧が急峻に高くなる場合は、MOSFET61のドレイン-ソース間の電流を一定に保つために、MOSFET61のゲート電圧を下げる必要がある。この場合、定電流回路部9からMOSFET61のゲートと抵抗素子64との接続点へ流す電流を相対的に減らすことで、MOSFET61のゲート電圧を下げる動作を加速させる。この場合、駆動部63では、MOSFET61のドレイン-ソース間の電流を一定に保つために、MOSFET61のゲート電圧を下げる動作を行っているが、定電流回路部9による電流注入によってゲート電圧を下げる動作を加速させることができる。このように、定電流回路部9は、駆動部63によって実行されているMOSFET61のゲート電圧を下げる動作の補助を行っている。このようにして、駆動部63の応答遅延により発生するLD1に流れる電流のオーバーシュートを抑制することができる。
【0043】
一方、定電流回路部9は、LD1のアノードの電圧がブースト電圧源7の第2電圧に対して遠ざかる場合は、両者の電圧差が大きいほどMOSFET61のゲートと抵抗素子64との接続点に対して注入する電流量が大きくなるように動作する。この電流注入によりMOSFET61のゲート電圧が高くなる。すなわち、LD1のアノードの電圧が高い電圧レベルから低い電圧レベルに急峻に遷移する際には、MOSFET61のゲート電圧が急峻に高くなるように動作する。具体的には、LD1のアノードの電圧が第2電圧から、第2電圧より相対的に低い電圧である第1電圧に切り替わる電流一定制御期間において、MOSFET61のドレイン-ソース間の電圧が急峻に低くなる場合は、MOSFET61のドレイン-ソース間の電流を一定に保つために、MOSFET61のゲート電圧を上げる必要がある。この場合は、定電流回路部9からMOSFET61のゲートと抵抗素子64との接続点へ流す電流を相対的に増やすことで、MOSFET61のゲート電圧を上げる動作を加速させる。この場合、駆動部63では、MOSFET61のドレイン-ソース間の電流を一定に保つために、MOSFET61のゲート電圧を上げる動作を行っているが、定電流回路部9による電流注入によってゲート電圧を上げる動作を加速させることができる。このように、定電流回路部9は、駆動部63によって実行されているMOSFET61のゲート電圧を上げる動作の補助を行っている。このようにして、駆動部63の応答遅延により発生するLD1に流れる電流のアンダーシュートを抑制することができる。
【0044】
このように、定電流回路部9は、LD1のアノードの電圧がブースト電圧源7の第2電圧に対し遠ざかる場合、両者の電圧差が大きいほどMOSFET61のゲートへの注入電流を大きくして、MOSFET61のゲート電圧の上昇制御を行い、LD1のアノードの電圧がブースト電圧源7の第2電圧と同等の電圧に対し近づく場合、両者の電圧差が小さいほどMOSFET61のゲートへの注入電流を小さくして、MOSFET61のゲート電圧の下降制御を行っている。
【0045】
図2は、実施の形態2にかかる発光素子駆動回路の動作を示すタイムチャートである。図2の上図は、LD1のアノードの電圧VLDを示し、図2の中図は、LD1を流れるLD電流ILDを示し、図2の下図は、MOSFET61のゲート電圧VGSを示している。図2の各図の横軸は、時間を示している。図2の上図において、Vmainは主電圧源4の第1電圧に対応する主電源電圧を示し、VBoostは、ブースト電圧源7の第2電圧に対応するブースト電圧を示している。図2の中図および下図において、実線は理想的な動作に対応し、一点鎖線は特許文献1の動作に対応し、太実線は実施の形態1の動作に対応する。
【0046】
主電源電圧Vmainからブースト電圧VBoostへの切り替えの際に、特許文献1では、LD電流ILDに大きなオーバーシュートが発生し、MOSFET61のゲート電圧VGSを下げる動作に大きな遅延が発生している。これに対し、実施の形態1では、主電源電圧Vmainからブースト電圧VBoostへの切り替えの際に、LD電流ILDのオーバーシュートを低減し、MOSFET61のゲート電圧VGSを下げる動作の応答性を速くすることができる。
【0047】
また、ブースト電圧VBoostから主電源電圧Vmainへの切り替えの際に、特許文献1では、LD電流ILDに大きなアンダーシュートが発生し、MOSFET61のゲート電圧VGSを上げる動作に大きな遅延が発生している。これに対し、実施の形態1では、ブースト電圧VBoostから主電源電圧Vmainへの切り替えの際に、LD電流ILDのアンダーシュートを低減し、MOSFET61のゲート電圧VGSを上げる動作の応答性を速くすることができる。
【0048】
このように、実施の形態1によれば、ブースト電圧源7の第2電圧およびLD1のアノードの電圧をモニタする電圧モニタ部8と、ブースト電圧源7の第2電圧およびLD1のアノードの電圧に基づいてMOSFET61のゲートに第1電流の注入制御を行う定電流回路部9とを設け、定電流回路部9からMOSFET61に電流を注入して、MOSFET61のゲート電圧を補正しているので、駆動部63の応答特性を変えることなく、LD1に流れる電流のオーバーシュートおよびアンダーシュートを抑制することができる。また、電流のオンオフが頻繁に発生するような用途であっても、回路損失の増加を抑制することができる。
【0049】
実施の形態2.
図3は、実施の形態2にかかる発光素子駆動回路100Aの構成を示す回路図である。実施の形態2では、電圧モニタ部8の3入力のうちの1入力の接続先を、LD1のアノードからMOSFET61のドレインに変更している。図3における他の構成は、図1の構成と同一または同等であり、同一または同等の構成要素には同一の符号を付し、重複する説明は割愛する。
【0050】
実施の形態2では、電圧モニタ部8は、MOSFET61のドレイン-ソース間の電圧変動を検出するために、第3電圧としてブースト電圧源7の第2電圧をモニタし、第4電圧としてMOSFET61のドレイン電圧をモニタする。
【0051】
定電流回路部9は、電圧モニタ部8から入力されたブースト電圧源7の第2電圧とMOSFET61のドレイン電圧とに基づいてMOSFET61のゲートに対し電流の注入制御を行う。実施の形態2の定電流回路部9の動作は、実施の形態1の定電流回路部9の動作と同様である。すなわち、定電流回路部9では、MOSFET61のドレイン電圧がブースト電圧源7の第2電圧に対し遠ざかる場合、両者の電圧差が大きいほどMOSFET61のゲートへの注入電流を大きくして、MOSFET61のゲート電圧の上昇制御を行い、MOSFET61のドレイン電圧がブースト電圧源7の第2電圧の電圧に対し近づく場合、両者の電圧差が小さいほどMOSFET61のゲートへの注入電流を小さくして、MOSFET61のゲート電圧の下降制御を行っている。
【0052】
このように、実施の形態2によれば、ブースト電圧源7の第2電圧およびMOSFET61のドレイン電圧をモニタする電圧モニタ部8と、ブースト電圧源7の第2電圧およびMOSFET61のドレイン電圧に基づいてMOSFET61のゲートに第1電流の注入制御を行う定電流回路部9とを設け、定電流回路部9からMOSFET61に電流を注入して、MOSFET61のゲート電圧を補正しているので、駆動部63の応答特性を変えることなく、LD1に流れる電流のオーバーシュートおよびアンダーシュートを抑制することができる。また、電流のオンオフが頻繁に発生するような用途であっても、回路損失の増加を抑制することができる。
【0053】
実施の形態1、実施の形態2で説明した発光素子駆動回路100,100Aは、パルス発振を行うレーザ発振器に適用可能である。
【0054】
以上の実施の形態に示した構成は、本開示の内容の一例を示すものであり、別の公知の技術と組み合わせることも可能であるし、実施の形態同士を組み合わせることも可能であるし、本開示の要旨を逸脱しない範囲で、構成の一部を省略、変更することも可能である。
【符号の説明】
【0055】
1 LD、2,3,61 MOSFET、4 主電圧源(低電圧源)、5 ダイオード、6 リニアレギュレータ、7 ブースト電圧源(高電圧源)、8 電圧モニタ部、9 定電流回路部、62 電流検出器、63 駆動部、64 抵抗素子、100,100A 発光素子駆動回路、L1,L2 配線インダクタンス。
【要約】
発光素子駆動回路(100)は、主電圧源(4)と、ブースト電圧源(7)と、MOSFET(3)と、MOSFET(2)と、ダイオード(5)と、LD(1)に直列に接続されるMOSFET(61)と、MOSFET(61)を駆動する駆動部(63)と、を有し、主電圧源(4)、MOSFET(3)、LD(1)、およびMOSFET(61)と、配線インダクタンス(L1,L2)とを含む直列回路を構成し、LD(1)に流れる電流を制御するリニアレギュレータ(6)と、MOSFET(61)のドレイン-ソース間の電圧変動を検出するための第3電圧および第4電圧を検出する電圧モニタ部(8)と、第3電圧および第4電圧に基づいてMOSFET(61)のゲートに第1電流の注入制御を行う定電流回路部(9)と、を備える。
図1
図2
図3
図4