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特許7696581新規化合物又はその塩及びこれらを有効成分とする抗腫瘍活性剤
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-06-13
(45)【発行日】2025-06-23
(54)【発明の名称】新規化合物又はその塩及びこれらを有効成分とする抗腫瘍活性剤
(51)【国際特許分類】
   C07H 19/056 20060101AFI20250616BHJP
   A61K 31/7056 20060101ALI20250616BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20250616BHJP
   A61P 35/02 20060101ALI20250616BHJP
【FI】
C07H19/056 CSP
A61K31/7056
A61P35/00
A61P35/02
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2023505293
(86)(22)【出願日】2022-02-25
(86)【国際出願番号】 JP2022008078
(87)【国際公開番号】W WO2022190915
(87)【国際公開日】2022-09-15
【審査請求日】2025-01-15
(31)【優先権主張番号】P 2021038597
(32)【優先日】2021-03-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】504409543
【氏名又は名称】国立大学法人秋田大学
(73)【特許権者】
【識別番号】504157024
【氏名又は名称】国立大学法人東北大学
(74)【代理人】
【識別番号】100129838
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 典輝
(72)【発明者】
【氏名】柴田 浩行
(72)【発明者】
【氏名】岩渕 好治
【審査官】藤田 雅也
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2007/000998(WO,A1)
【文献】特表2010-506836(JP,A)
【文献】MURAKAMI, Megumi et al.,Synthetic Analogs of Curcumin Modulate the Function of Multidrug Resistance-Linked ATP-Binding Casse,DRUG METABOLISM AND DISPOSITION,2017年11月,Vol. 45,pp. 1166-11177
【文献】CAGNONI, Alejandro J. et al.,Synthesis of Multivalent Glycoclusters from 1-Thio-β-D-galactose and Their Inhibitory Activity agai,The Journal of Organic Chemistry,2011年03月29日,Vol. 76,pp. 3064-3077
【文献】KOHYAMA, Aki et al.,Reversibility of the thia-Michael reaction of cytotoxic C5-curcuminoid and structure-activity relati,Organic & Biomolecular Chemistry,2016年10月24日,Vol. 14,pp. 10683-10687
【文献】European Journal of Medicinal Cheistry,2023年03月21日,Vol.252, No.115297,p.1-15
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07H 19/056
A61K 31/7056
A61P 35/00-35/04
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
次の一般式で表される化合物又はその塩。
【化1】
(R~Rは水素原子、C1-4低級アルキル基、ヒドロキシC1-4低級アルキル基、C1-4低級アルコキシC1-4低級アルキル基、及びC1-4低級アルコキシC1-4低級アルコキシC1-4低級アルキル基から選ばれる置換基であり、R~Rは同一であってもよく、異なっていてもよい。nは1~6である。Sugarは単糖類又は二糖類である。)
【請求項2】
請求項1に記載の化合物又はその塩を有効成分とする抗腫瘍活性剤。
【請求項3】
請求項1に記載の化合物又はその塩を有効成分とする胃癌、大腸癌、膵癌、悪性中皮腫、及び皮膚T細胞性リンパ腫用抗腫瘍活性剤。
【請求項4】
請求項1に記載の化合物又はその塩を有効成分とする膵癌、悪性中皮腫、及び皮膚T細胞性リンパ腫用抗腫瘍活性剤。
【請求項5】
請求項1に記載の化合物又はその塩を有効成分とする膵癌用抗腫瘍活性剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、新規化合物又はその塩及びそれらを有効成分とする抗腫瘍活性剤に関する。
【背景技術】
【0002】
スパイスなどに含まれるクルクミンは、抗腫瘍活性を含む様々な薬理作用が知られている。例えば、クルクミンの薬理作用としては抗腫瘍活性、抗炎症活性、抗心不全活性、抗菌活性、放射線防護作用などが知られている。また、クルクミンは食用されるスパイスであって、低毒性であることも知られている。
【0003】
本発明者らは、以前、低毒性を維持しつつ抗腫瘍活性を増強させたクルクミン誘導体を特許文献1において開示している。具体的には、特許文献1は、新規化合物である所定のビス(アリールメチリデン)アセトン化合物又はその塩、及びこれらを有効成分とするKi-Ras、ErbB2、c-Myc若しくはCyclinD1の発現抑制剤、β-カテニン分解剤、p53の発現増強剤、抗癌剤又は発癌予防剤を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第5050206号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1の通り、本発明者らはクルクミンの抗腫瘍活性を増強させたクルクミン誘導体の開発に成功している。しかしながら、特許文献1のクルクミン誘導体は水溶性が低く、生体内有効性を改善できずにいたため、薬剤用途が限られていた。
【0006】
そこで、本開示の目的は、上記実情を鑑み、クルクミン誘導体の生体内有効性及び抗腫瘍活性を向上した新規化合物又はその塩及びこれらを有効成分とする抗腫瘍活性剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示は、上記課題を解決するための一つの態様として、次の一般式で表される化合物又はその塩を提供する。
【0008】
【化1】
【0009】
ここで、R~Rは水素原子、C1-4低級アルキル基、ヒドロキシC1-4低級アルキル基、C1-4低級アルコキシC1-4低級アルキル基、及びC1-4低級アルコキシC1-4低級アルコキシC1-4低級アルキル基から選ばれる置換基である。R~Rは同一であってもよく、異なっていてもよい。nは1~6である。Sugarは単糖類又は二糖類である。
【0010】
また、本開示は上記化合物又はその塩を有効成分とする抗腫瘍活性剤を提供する。抗腫瘍活性剤は胃癌、大腸癌、膵癌、悪性中皮腫、皮膚T細胞性リンパ腫用抗腫瘍活性剤でもよく、膵癌、悪性中皮腫、皮膚T細胞性リンパ腫用抗腫瘍活性剤でもよく、膵癌抗腫瘍活性剤でもよい。
【発明の効果】
【0011】
本開示の化合物又はその塩は特許文献1のクルクミン誘導体に比べて水溶性が改善されているため、生体内有効性が向上している。従って、幅広い薬剤用途に用いることができる。また、本開示の化合物又はその塩は、特許文献1のクルクミン誘導体に比べて抗腫瘍活性も向上している。さらに、本開示の化合物又はその塩は、マウスを用いた実験において、安全性も確認されている。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】GO-Y190~192の化学構造を示す図である。
図2】GO-Y193~196の化学構造を示す図である。
図3】GO-Y197~200の化学構造を示す図である。
図4】GO-Y022、GO-Y136、GO-Y030、mf797の化学構造を示す図である。
図5】GO-Y206の化学構造を示す図である。
図6】HCT116に対するGO-Y190、GO-Y193、GO-Y196、GO-Y197の細胞増殖抑制活性の実験結果を示す図である。
図7】各種癌細胞株に対するGO-Y199の細胞増殖抑制活性の実験結果を示す図である。
図8】大腸癌細胞株DLD-1、HCT116、胃癌細胞株KATO III、H-111-TCに対する各種化合物の細胞増殖抑制活性の実験結果を示す図である。
図9】膵癌細胞株ASPC-1、Panc-1に対する各種化合物の細胞増殖抑制活性の実験結果を示す図である。
図10】悪性胸膜中皮腫細胞株NCI-H226、MSTO211Hに対する各種化合物の細胞増殖抑制活性(IC50)の実験結果を示す図である。
図11】悪性黒色腫細胞株G361に対する各種化合物の細胞増殖抑制活性の実験結果を示す図である。
図12】皮膚T細胞性リンパ腫細胞株HH、HUT78に対する各種化合物の細胞増殖抑制活性(IC50)の実験結果を示す図である。
図13】HCT116及びKato IIIに対するGO-Y199の殺細胞効果の実験結果を示す図である。
図14】GO-Y199のNF-kBに対する影響に関する実験結果を示す図である。
図15】コントロール群に対するGO-Y199添加群のNF-kB阻害作用の比較結果を示す図である。
図16】GO-Y199のpSTAT3に対する影響に関する実験結果を示す図である。
図17】GO-Y199のβ-カテニンに対する影響に関する実験結果を示す図である。
図18】コントロール群に対するGO-Y199添加群のβ-カテニン阻害作用の比較結果を示す図である。
図19】コントロール群に対するGO-Y199添加群の脂肪酸シンセターゼ阻害作用の比較結果を示す図である。
図20】GO-Y199のカスパーゼ3に対する影響に関する実験結果を示す図である。
図21】コントロール群に対するGO-Y199添加群のアポトーシスに対する影響の比較結果を示す図である。
図22】血管内皮細胞HUVEC-Rに対する各種化合物の血管新生阻害活性の実験結果を示す図である。
図23】GO-Y199の制御性T細胞抑制活性に関する実験結果を示す図である。
図24】GO-Y199の生体内抗腫瘍効果に関する実験結果を示す図である。
図25】動物モデルを用いた悪性中皮腫細胞に対するGO-Y199の抗腫瘍効果に関する実験結果を示す図である。
図26】悪性中皮腫細胞の病理学的解析の結果を示す図である。
図27】静注後における血液のHPLC分析の結果を示す図である。
図28】静注後におけるGO-Y199の血中濃度の経時変化を示す図である。
図29】静注後のマウスの体重変化を示す図である。
図30】静注後のマウスの尾部の写真である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明者らは、特許文献1のクルクミン誘導体(ディアリルペンタノイド誘導体:DPA)の生体内有効性(水溶性)を向上させるために、鋭意検討した結果、DPAにリンカーを介して糖類(Sugar)を付加させたSuDPAを新たに合成した。そして、合成したSuDPAについて種々の実験を行った結果、SuDPAはDPAに比べて顕著に水溶性が改善し、また抗腫瘍活性も向上した。さらに、SuDPAはDPAの持つがん分子標的性も維持されていた。さらに、低毒性であることも認められた。以上の知見に基づいて、本開示の化合物又はその塩は発明されたものである。以下、本開示の化合物又はその塩について説明する。
【0014】
本開示は、次の一般式で表される化合物又はその塩を提供するものである。
【0015】
【化2】
【0016】
ここで、R~Rは水素原子、C1-4低級アルキル基、ヒドロキシC1-4低級アルキル基、C1-4低級アルコキシC1-4低級アルキル基、及びC1-4低級アルコキシC1-4低級アルコキシC1-4低級アルキル基から選ばれる置換基である。R~Rは同一であってもよく、異なっていてもよい。R~Rは、C1-4低級アルコキシC1-4低級アルキル基であってもよく、メトキシメチル基であってもよい。
【0017】
ここで、上述した置換基におけるC1-4炭素鎖は直鎖であってもよく、分岐鎖であってもよい。また、炭素鎖にハロゲン原子等が置換されていてもよい。
【0018】
DPA部位と糖類部位とを接続するリンカー部位(ビニルアルコール部位)の長さを示すnは1~6である。水溶性向上の観点から、nが2~5であってもよく、3~4であってもよく、4であってもよい。
【0019】
Sugarは単糖類又は二糖類であり、これらのデオキシ糖も含まれる。単糖類としては、例えばグルコース、ガラクトース、マンノース、及びデオキシグルコース等が挙げられる。二糖類としては、ラクトース、マルトース等が挙げられる。これらの糖類は光学異性体も含む概念である。例えば、SugarはD、L-グルコース、D-ガラクトース、D-マンノース、D-ラクトース、D-マルトース、及びデオキシグルコースであってもよい。水溶性向上の観点から、SugarはD-ガラクトース、L-グルコース、D-マンノース、D-ラクトース、D-マルトースであってもよい。抗腫瘍活性向上の観点から、SugarはD-マンノース、D-ラクトース、及びD-マルトースであってもよい。合成収率の観点から、SugarはD-ラクトースであってもよい。ここで、隣接するトリアゾール基と結合するSugarの位置は特に限定されないが、合成の容易性の観点から、1位の炭素であってもよい。
【0020】
本開示の化合物の塩は特に限定されないが、例えば本開示の化合物のナトリウム塩やカリウム塩、カルシウム塩、又はマグネシウム塩等が挙げられる。
【0021】
本開示の化合物又はその塩は、DPA部位にリンカーを介して糖類を付加させた構造により、特許文献1のクルクミン誘導体と比較して、水溶性及び抗腫瘍活性が向上している。本開示の化合物又はその塩は、NF-kB、pSTAT3、β-カテニン、及び/又は脂肪酸シンセターゼの阻害作用を有し、これにより、抗腫瘍活性を発揮する。また、本開示の化合物又はその塩は、さらに血管新生阻害作用及び/又は制御性T細胞抑制作用を有し、これにより抗腫瘍活性を発揮する。本開示の化合物又はその塩はアポトーシス誘導能を有する。本開示の化合物又はその塩は静注可能であり、マウスモデルにおいて抗腫瘍活性を発揮する。また、本開示の化合物又はその塩は、マウスモデルにおいて安全性が確認されている。
【0022】
以上のように、本開示の化合物又はその塩は、特許文献1のクルクミン誘導体に比べて水溶性及び抗腫瘍活性が改善され、さらに安全性も確認されている。よって、本開示の化合物又はその塩は、これらを有効成分とする抗腫瘍活性剤に広く用いることができる。本開示の化合物又はその塩を有効成分とする抗腫瘍活性剤は、胃癌用抗腫瘍活性剤としてもよく、大腸癌用抗腫瘍活性剤としてもよく、膵癌用抗腫瘍活性剤としてもよく、悪性中皮腫用抗腫瘍活性剤としてもよく、皮膚T細胞性リンパ腫用抗腫瘍活性剤としてもよい。また、抗腫瘍活性剤は胃癌、大腸癌、膵癌、悪性中皮腫、及び皮膚T細胞性リンパ腫用抗腫瘍活性剤としてもよく、膵癌、悪性中皮腫、及び皮膚T細胞性リンパ腫用抗腫瘍活性剤としてもよい。中でも、抗腫瘍活性剤は膵癌用抗腫瘍活性剤としてよい。また、本開示の化合物又はその塩は、抗炎症剤や免疫療法剤、心不全保護剤などの有効成分として、多様な用途に用いることができる。
【0023】
なお、有効成分の含有量は患者の状態(一般的状態、病状、合併症の有無)や年齢、体重等を考慮して最適量を決定すべきである。薬剤の態様は特に限定されるものではなく、経口剤や注射剤、吸入剤等の公知の態様を用いることができる。
【0024】
次に、本開示の化合物又はその塩の製造方法について説明する。本開示の化合物又はその塩の製造方法は特に限定されないが、次の製造方法(本開示の製造方法)が挙げられる。本開示の製造方法では次の化合物(1)~(3)を用いる。化合物(1)、化合物(3)は公知であり、試薬会社で購入することができる。化合物(2)は特許文献1に記載の方法により得ることができる。
【0025】
【化3】
【0026】
【化4】
【0027】
【化5】
【0028】
本開示の化合物又はその塩の製造方法は、化合物(1)のヒドロキシル基をアセチルチオ化する工程S1と、アセチルチオ化された化合物(1)と化合物(2)とを反応させ、中間体Aを得る工程S2と、中間体Aと化合物3とを反応させ、本開示の化合物を得る工程S3と、を備える。下記に、各工程の反応図を示した。
【0029】
【化6】
【0030】
工程S1は化合物(1)のヒドロキシル基をアセチルチオ化することができれば特に限定されない。例えば、化合物(1)のヒドロキシル基を塩基性条件下でトシル化した後、トシル化された化合物(1)をアセチルチオ化することにより、アセチルチオ化された化合物(1)を得ることができる。
【0031】
トシル化は、塩基性条件下で化合物(1)とp-トルエンスルホン酸のハロゲン化物とを反応させることにより実施される。トシル化に用いられる溶媒は、トシル化を進行させることができれば特に限定されないが、例えばエーテルが挙げられる。塩基性条件を得る方法は特に限定されないが、例えば、水酸化カリウムを溶媒に溶解することにより得ることができる。具体的なトシル化の方法は、後述の実施例において説明されている。
【0032】
アセチルチオ化は、トシル化された化合物(1)とチオ酢酸又はその塩とを反応させることにより実施される。アセチルチオ化に用いられる溶媒は特に限定されないが、例えばDMFが挙げられる。具体的なアセチルチオ化の方法は、後述の実施例において説明されている。
【0033】
工程S2はアセチルチオ化された化合物(1)と化合物(2)とを反応させ、中間体Aを得ることができれば特に限定されない。例えば、アセチルチオ化された化合物(1)をチオール化した後、チオール化された化合物(1)と化合物(2)とを反応させることにより、中間体Aを得ることができる。
【0034】
チオール化は、アセチルチオ化された化合物(1)のアルコール溶液にアルコキシドを添加することにより進行する。具体的なチオール化の方法は、後述の実施例において説明されている。
【0035】
チオール化された化合物(1)と化合物(2)との反応は、塩基性化合物の存在下で進行する。塩基化合物は特に限定されないが、例えばトリエチルアミンが挙げられる。溶媒は特に限定されないが、DMFが挙げられる。チオール化された化合物(1)と化合物(2)との反応の具体的な方法は、後述の実施例において説明されている。
【0036】
工程S3は中間体Aと化合物(3)とを反応させ、本開示の化合物を得ることができれば特に限定されない。例えば、中間体Aの三重結合部位と化合物(3)のアジド部位とを環化反応により結合し、トリアゾール骨格を形成することにより得ることができる。
【0037】
環化反応は、銅触媒存在下で進行する。銅触媒は特に限定されないが、2-チオフェンカルボン酸銅が挙げられる。溶媒は特に限定されないが、含水エーテル溶媒が挙げられる。具体的な環化反応の方法は、後述の実施例において説明されている。
【0038】
本開示の製造方法は、工程S3により得られた化合物を中和反応により塩に変換する工程を備えていてもよい。本開示の化合物を中和反応により塩に変換する方法は特に限定されず、公知の方法を採用し得る。例えば、本開示の化合物を所定の金属イオンを含む塩基性溶液に溶解することにより、目的の塩を得ることができる。
【実施例
【0039】
以下実施例に基づいて、本開示についてさらに説明する。ただし、本開示はこれに限定されるものではない。ここで、実験に用いた化合物を図1図5に示した。
【0040】
[化合物の合成]
下記の合成経路によりGO-Y193、197~200、206を合成した。また、同様の合成経路によりGO-Y196を合成した。
【0041】
【化7】
【0042】
<化合物2の合成>
3,6,9,12-テトラオキサペンタデカ-14-イン-1-オール(化合物1、3.87g、16.7mmol)のジエチルエーテル溶液(25mL)に水酸化カリウム(2.85g、20.0mmol)を0℃で加えた。0℃で10分間撹拌後、塩化パラトルエンスルホニル(3.82g、20.0mmol)を加えてから室温下で50分間撹拌を続けた。半飽和の塩化アンモニウム水溶液(50mL)を加えて反応を停止した後、混合物を酢酸エチル(160mL+80mL)で抽出した。有機層をまとめて飽和食塩水(80mL)で洗浄後、無水硫酸ナトリウムで乾燥した。綿栓ろ過した溶液を減圧下で濃縮し、次工程に使用可能な粗生成物(6.67g)を得た。
【0043】
粗生成物(粗トシル酸エステル)のN,N-ジメチルホルムアミド溶液(20mL)に酢酸S-カリウム(2.30g,20.0mmol)を0℃で加えた。室温下で2.5時間撹拌後、飽和の炭酸水素ナトリウム水溶液(50mL)を加えて反応を停止した。生じた混合物を綿栓ろ過し、濾過液をジエチルエーテル(4×100mL)で抽出した。有機層をまとめて飽和食塩水(100mL)で洗浄後、無水硫酸ナトリウムで乾燥した。綿栓ろ過した溶液を減圧下で濃縮して得られた粗生成物(10.7g)をフラッシュカラムクロマトグラフィー(シリカゲル50g、ノルマルヘキサン/酢酸エチル 3:1→酢酸エチル)で精製し、チオ酢酸S-3,6,9,12-テトラオキサペンタデカ-14-イン-1-イル(化合物2、3.54g,二工程収率73%)を橙色油状化合物として得た。
【0044】
(化合物2の化合物データ)
Rf 0.63 (AcOEt); IR (neat) 3259, 2869, 2113, 1692, 1456, 1353, 1292, 1249, 1105, 1034, 954 cm-1; 1H NMR (400 MHz, CDCl3) δ 2.34 (s, 3H), 2.43 (t, J = 2.3 Hz, 1H), 3.09 (t, J = 6.5 Hz, 2H), 3.60 (t, J = 6.5 Hz, 2H), 3.63-3.72 (m, 12H), 4.21 (d, J = 2.3 Hz, 2H); 13C NMR (100 MHz, CDCl3) δ 28.8, 30.5, 58.4, 69.1, 69.7, 70.3, 70.4, 70.5, 70.6, 74.4, 74.5, 79.6, 195.5; HRMS (FAB) m/z [M + H]+ calcd for C13H23O5S 291.1261; found 291.1238.
【0045】
<化合物3の合成>
化合物2(620mg,2.13mmol)のメタノール溶液(10mL)にナトリウムメトキシド(347mg,6.42mmol)を0℃で加えた。室温下で1.5時間撹拌後、陽イオン交換樹脂(Dowex 50Wx8)を加えて反応液を中和した。セライトろ過した後、濾液を減圧下で濃縮し、次工程に使用可能な粗生成物(734mg)を得た。
【0046】
GO-Y030(1.02g,2.14mmol)とトリエチルアミン(0.35mL,2.52mmol)をN,N-ジメチルホルムアミド(6.0mL)に溶解させた。粗チオールのN,N-ジメチルホルムアミド溶液(12mL+洗浄用2mL)を23℃でゆっくりと加えた。同温度(23℃)下で2時間撹拌後、水(50mL)を加えた。生じた混合物をジエチルエーテル(3×100mL)で抽出した。有機層をまとめて飽和食塩水(150mL)で洗浄後、無水硫酸ナトリウムで乾燥した。綿栓ろ過した溶液を減圧下で濃縮して得られた粗生成物(1.89g)をフラッシュカラムクロマトグラフィー(シリカゲル50g、ノルマルヘキサン/酢酸エチル 1:1)で精製し、GO-Y030-SPEG-alkyne(化合物3、776mg、収率50%)を淡黄色油状化合物として得た。
【0047】
ここで上記の反応に用いたGO-YO30は(1E,4E)-1,5-ビス-[3,5-ビス(メトキシメトキシ)フェニル]ペンタジエン-3-オンである。GO-YO30の合成方法は特許文献1に記載されている。
【0048】
(化合物3の化合物データ)
Rf 0.15 (n-Hexane/AcOEt 1:1); IR (neat) 3279, 2901, 2827, 2114, 1688, 1663, 1592, 1454, 1401, 1332, 1281, 1248, 1215, 1146, 1185, 1033, 965 cm-1; 1H NMR (400 MHz, acetone-d6) δ 2.56 (t, J = 6.5 Hz, 2H), 2.92 (t, J = 2.5 Hz, 1H), 3.22 (dd, J = 7.3, 16.4 Hz, 1H), 3.30 (dd, J = 7.3, 16.4 Hz, 1H), 3.41 (s, 6H), 3.43 (s, 6H), 3.50-3.61 (m, 14H), 4.54 (d, J = 2.5 Hz, 2H), 4.53 (t, J = 7.3 Hz, 1H), 5.16 (s, 4H), 5.22 (s, 4H), 6.59 (t, J = 2.2 Hz, 1H), 6.76 (t, J = 2.3 Hz, 1H), 6.78 (d, J = 2.3 Hz, 2H), 6.82 (d, J = 15.9 Hz, 1H), 7.00 (d, J = 2.3 Hz, 2H), 7.57 (d, J = 15.9 Hz, 1H); 13C NMR (150 MHz, acetone-d6) δ 31.3, 45.6, 47.5, 56.1, 56.2, 58.5, 69.8, 70.9, 71.0, 71.2, 71.6, 75.7, 81.0, 95.1, 95.2, 104.1, 107.7, 110.20, 110.23, 127.8, 137.7, 143.1, 145.7, 159.3, 159.6, 197.0; HRMS (FAB) m/z [M + H]+ calcd for C36H51O13S 723.3045; found 723.3062.
【0049】
<GO-Y193の合成>
化合物3(214 mg,296μmol)とアジド(358mg,1.75mmol)を含水テトラヒドロフラン(8.1mL,テトラヒドロフラン:水=100:1)に溶解させた。2-チオフェンカルボン酸銅(4.1mg,21.5μmol)を加えた後、室温下で2時間撹拌した。反応溶液を減圧下で濃縮して得られた残渣をフラッシュカラムクロマトグラフィー(シリカゲル2.4g,クロロホルム/メタノール19:1→9:1)で精製し、GO-Y193(62.0mg,収率23%)を無色アモルファスとして得た。
【0050】
(GO-Y193の化合物データ)
Rf 0.67 (CHCl3/MeOH 4:1); IR (neat) 3398, 1688, 1660, 1593, 1455, 1401, 1281, 1215, 1146, 1085, 1033, 924 cm-1; 1H NMR (600 MHz, CD3OD) δ 2.55 (t, J = 6.5 Hz, 2H), 3.18 (dd, J = 7.0, 16.1 Hz, 1H), 3.24 (dd, J = 7.9, 16.1 Hz, 1H), 3.41 (s, 6H), 3.44 (s, 6H), 3.50-3.64 (m, 17H), 3.72 (dd, J = 5.5, 12.2 Hz, 1H), 3.88 (dd, J = 2.0, 12.2 Hz, 1H), 3.90 (t, J = 9.0 Hz, 1H), 4.47 (dd, J = 7.0, 7.9 Hz, 1H), 4.62 (s, 2H), 5.12 (d, J = 2.2 Hz, 2H), 5.13 (d, J = 2.2 Hz, 2H), 5.18 (s, 4H), 5.60 (d, J = 9.1 Hz, 1H), 6.59 (t, J = 2.2 Hz, 1H), 6.75 (d, J = 16.1 Hz, 1H), 6.76 (t, J = 2.2 Hz, 1H), 6.76 (d, J = 2.2 Hz, 2H), 6.92 (d, J = 2.2 Hz, 2H), 7.48 (d, J = 16.1 Hz, 1H), 8.15 (s, 1H); 13C NMR (150 MHz, CD3OD) δ 31.6 (CH2), 46.4 (CH), 48.0 (CH2), 56.3 (CH3), 56.4 (CH3), 62.4 (CH2), 64.9 (CH2), 70.8 (CH2), 70.9 (CH), 71.3 (CH2), 71.51 (CH2), 71.53 (CH2), 71.55 (CH2), 72.0 (CH2), 74.0 (CH), 78.5 (CH), 81.1 (CH), 89.5 (CH), 95.5 (CH2), 95.6 (CH2), 104.7 (CH), 108.2 (CH), 110.6 (CH), 110.7 (CH), 124.3 (CH), 127.8 (CH), 137.9 (C), 144.6 (CH), 145.8 (C), 146.1 (C), 159.7 (C), 160.0 (C), 199.5 (C); HRMS (FAB) m/z [M + H]+ calcd for C42H62N3O18S 928.37442; found 928.3762.
【0051】
<GO-Y197の合成>
化合物3(372mg,515μmol)、アジド(164mg,799μmol)、含水テトラヒドロフラン(10mL,テトラヒドロフラン:水=100:1)、2-チオフェンカルボン酸銅(5.2mg,27.3μmol)を使用した。反応溶液を減圧下で濃縮して得られた残渣をフラッシュカラムクロマトグラフィー(シリカゲル10g,酢酸エチル→酢酸エチル/メタノール9:1)で精製し、GO-Y197(307mg,収率64%)を無色アモルファスとして得た。
【0052】
(GO-Y197の化合物データ)
Rf 0.10 (AcOEt/MeOH 9:1); IR (neat) 3399, 2903, 1662, 1593, 1455, 1401, 1281, 1215, 1146, 1085, 1033, 924 cm-1; 1H NMR (600 MHz, CD3OD) δ 2.53 (t, J = 6.2 Hz, 2H), 3.18 (dd, J = 6.9, 16.0 Hz, 1H), 3.23 (dd, J = 7.9, 16.0 Hz, 1H), 3.39 (s, 6H), 3.42 (s, 6H), 3.50-3.62 (m, 17H), 3.71 (dd, J = 5.1, 12.2 Hz, 1H), 3.87 (d, J = 12.2 Hz, 1H), 3.91 (t, J = 9.1 Hz, 1H), 4.46 (dd, J = 6.9, 7.9 Hz, 1H), 4.61 (s, 2H), 5.11 (d, J = 6.8 Hz, 2H), 5.15 (d, J = 6.8 Hz, 2H), 5.16 (s, 4H), 5.61 (d, J = 9.1 Hz, 1H), 6.58 (t, J = 2.0 Hz, 1H), 6.73 (d, J = 16.1 Hz, 1H), 6.75 (t, J = 2.1 Hz, 1H), 6.75 (d, J = 2.0 Hz, 2H), 6.91 (d, J = 2.0 Hz, 2H), 7.46 (d, J = 16.1 Hz, 1H), 8.19 (s, 1H); 13C NMR (150 MHz, CD3OD) δ 31.6 (CH2), 46.3 (CH), 48.0 (CH2), 56.38 (CH3), 56.43 (CH3), 62.4 (CH2), 65.0 (CH2), 70.78 (CH2), 70.82 (CH), 71.2 (CH2), 71.43 (CH2), 71.46 (CH2), 71.49 (CH2), 71.9 (CH2), 74.0 (CH), 78.4 (CH), 81.1 (CH), 89.6 (CH), 95.5 (CH2), 95.6 (CH2), 104.7 (CH), 108.2 (CH), 110.6 (CH), 110.7 (CH), 124.8 (CH), 127.8 (CH), 137.9 (C), 144.5 (CH), 145.8 (C), 159.7 (C), 159.9 (C), 199.4 (C); HRMS (FAB) m/z [M + H]+ calcd for C42H62N3O18S 928.3744; found 928.3742.
【0053】
<GO-Y198の合成>
化合物3(247mg,342μmol)、アジド(127mg,340μmol)、含水テトラヒドロフラン(7.0mL,テトラヒドロフラン:水=100:1)、2-チオフェンカルボン酸銅(5.2mg,27.3μmol)を使用した。反応溶液を減圧下で濃縮して得られた残渣をフラッシュカラムクロマトグラフィー(シリカゲル2.3g,クロロホルム/メタノール19:1→9:1)で精製し、GO-Y198(102mg,収率32%)を無色アモルファスとして得た。
【0054】
(GO-Y198の化合物データ)
Rf 0.13 (AcOEt/MeOH 9:1); IR (neat) 3399, 2903, 1685, 1654, 1593, 1456, 1400, 1332, 1281, 1215, 1146, 1084, 1033, 924 cm-1; 1H NMR (600 MHz, CD3OD) δ 2.53 (t, J = 6.5 Hz, 2H), 3.16 (dd, J = 7.0, 15.8 Hz, 1H), 3.20 (dd, J = 7.9, 15.8 Hz, 1H), 3.39 (s, 6H), 3.43 (s, 6H), 3.49-3.52 (m, 4H), 3.55-3.63 (m, 11H), 3.72-3.82 (m, 3H), 4.07 (dd, J = 3.3, 8.7 Hz, 1H), 4.45 (dd, J = 6.9, 7.9 Hz, 1H), 4.68 (t, J = 3.3 Hz, 1H), 4.80 (s, 2H), 5.11 (d, J = 6.8 Hz, 2H), 5.14 (d, J = 6.8 Hz, 2H), 5.16 (s, 4H), 6.02 (d, J = 2.6 Hz, 1H), 6.57 (t, J = 2.1 Hz, 1H), 6.72 (d, J = 16.1 Hz, 1H), 6.74 (t, J = 2.1 Hz, 1H), 6.74 (d, J = 2.0 Hz, 2H), 6.90 (d, J = 2.0 Hz, 2H), 7.46 (d, J = 16.1 Hz, 1H), 8.12 (s, 1H); 13C NMR (150 MHz, CD3OD) δ 31.6 (CH2), 46.3 (CH), 48.0 (CH2), 56.37 (CH3), 56.42 (CH3), 62.5 (CH2), 64.9 (CH2), 68.5 (CH), 70.1 (CH), 70.8 (CH2), 71.2 (CH2), 71.45 (CH2), 71.48 (CH2), 71.51 (CH2), 71.9 (CH2), 72.5 (CH), 78.5 (CH), 88.3 (CH), 95.5 (CH2), 95.6 (CH2), 104.7 (CH), 108.2 (CH), 110.6 (CH), 110.7 (CH), 125.0 (CH), 127.8 (CH), 137.9 (C), 144.5 (CH), 145.8 (C), 146.3 (C), 159.7 (C), 159.9 (C), 199.3 (C); HRMS (FAB) m/z [M + H]+ calcd for C42H62N3O18S 928.3744; found 928.3752.
【0055】
<GO-Y199の合成>
化合物3(214mg,296μmol)、アジド(109mg,296μmol)、含水テトラヒドロフラン(6.0mL,テトラヒドロフラン:水=100:1)、2-チオフェンカルボン酸銅(6.2mg,32.5μmol)を使用した。反応溶液を減圧下で濃縮して得られた残渣をフラッシュカラムクロマトグラフィー(二度:シリカゲル3g,クロロホルム/メタノール9:1→4:1,シリカゲル2.3g,クロロホルム/メタノール9:1→17:3)で精製し、GO-Y199(199mg,収率62%)を無色アモルファスとして得た。
【0056】
(GO-Y199の化合物データ)
Rf 0.20 (CHCl3/MeOH 4:1); IR (neat) 3389, 1660, 1593, 1455, 1440, 1401, 1333, 1281, 1241, 1215, 1146, 1084, 1034, 924 cm-1; 1H NMR (600 MHz, CD3OD) δ 2.55 (t, J = 6.6 Hz, 2H), 3.18 (dd, J = 7.1, 15.9 Hz, 1H), 3.23 (dd, J = 7.9, 15.9 Hz, 1H), 3.41 (s, 6H), 3.45 (s, 6H), 3.47-3.64 (m, 17H), 3.74-3.83 (m, 6H), 3.89 (m, 2H), 3.97 (t, J = 9.1 Hz, 1H), 4.41 (d, J = 7.8 Hz, 1H), 4.47 (dd J = 6.6, 7.9 Hz, 1H), 4.62 (s, 2H), 5.12 (d, J = 6.9 Hz, 2H), 5.14 (d, J = 6.9 Hz, 2H), 5.18 (s, 4H), 5.63 (d, J = 9.1 Hz, 1H), 6.58 (t, J = 2.2 Hz, 1H), 6.74 (d, J = 16.2 Hz, 1H), 6.76 (t, J = 2.1 Hz, 1H), 6.76 (d, J = 2.2 Hz, 2H), 6.92 (d, J = 2.1 Hz, 2H), 7.48 (d, J = 16.2 Hz, 1H), 8.16 (s, 1H); 13C NMR (150 MHz, CD3OD) δ 31.6 (CH2), 46.4 (CH), 48.1 (CH2), 56.3 (CH3), 56.4 (CH3), 61.6 (CH2), 62.5 (CH2), 65.0 (CH2), 70.3 (CH), 70.8 (CH2), 71.3 (CH2), 71.51 (CH2), 71.56 (CH2), 71.57 (CH2), 71.59 (CH2), 72.0 (CH2), 72.5 (CH), 73.7 (CH), 74.9 (CH), 76.9 (CH), 77.1 (CH), 79.6 (CH), 79.8 (CH), 89.3 (CH), 95.56 (CH2), 95.62 (CH2), 104.8 (CH), 105.1 (CH), 108.2 (CH), 110.65 (CH), 110.72 (CH), 124.3 (CH), 127.8 (CH), 137.9 (C), 144.6 (CH), 145.8 (C), 146.1 (C), 159.8 (C), 160.0 (C), 199.6 (C); HRMS (FAB) m/z [M + H]+ calcd for C48H72N3O23S 1090.4272; found 1090.4265.
【0057】
<GO-Y200の合成>
化合物3(226mg,313μmol)、アジド(160mg,436μmol)、含水テトラヒドロフラン(10mL,テトラヒドロフラン:水=100:1)、2-チオフェンカルボン酸銅(3.3mg,17.3μmol)を使用した。反応溶液を減圧下で濃縮して得られた残渣をフラッシュカラムクロマトグラフィー(シリカゲル5.5g,クロロホルム/メタノール9:1→17:3)で精製し、GO-Y200(133mg,収率35%)を無色アモルファスとして得た。
【0058】
(GO-Y200の化合物データ)
Rf 0.08 (CHCl3/MeOH 8:1); IR (neat) 3386, 2904, 1684, 1661, 1594, 1541, 1506, 1456, 1400, 1334, 1281, 1216, 1146, 1084, 1033, 968 cm-1; 1H NMR (600 MHz, CD3OD) δ 2.56 (t, J = 6.5 Hz, 2H), 3.18 (dd, J = 6.9, 16.0 Hz, 1H), 3.24 (dd, J = 7.9, 16.0 Hz, 1H), 3.42 (s, 6H), 3.46 (s, 6H), 3.48 (m, 1H), 3.53-3.56 (m, 4H), 3.59-3.70 (m, 12H), 3.76 (t, J = 9.2 Hz, 1H), 3.82-3.90 (m, 4H), 3.96 (t, J = 9.2 Hz, 1H), 4.48 (dd J = 6.9, 7.9 Hz, 1H), 4.63 (s, 2H), 5.13 (d, J = 6.8 Hz, 2H), 5.15 (d, J = 6.8 Hz, 2H), 5.19 (s, 4H), 5.24 (d, J = 3.9 Hz, 1H), 5.63 (d, J = 9.2 Hz, 1H), 6.59 (t, J = 2.2 Hz, 1H), 6.75 (d, J = 16.3 Hz, 1H), 6.77 (t, J = 2.2 Hz, 1H), 6.77 (d, J = 2.2 Hz, 2H), 6.94 (d, J = 2.2 Hz, 2H), 7.49 (d, J = 16.3 Hz, 1H), 8.17 (s, 1H); 13C NMR (150 MHz, CD3OD) δ 31.6 (CH2), 46.4 (CH), 48.1 (CH2), 56.3 (CH3), 56.4 (CH3), 61.9 (CH2), 62.8 (CH2), 65.0 (CH2), 70.8 (CH-), 71.3 (CH2), 71.53 (CH), 71.57 (CH2), 71.58 (CH2), 71.60 (CH2), 72.1 (CH2), 73.6 (CH), 74.2 (CH), 74.9 (CH), 75.1 (CH), 78.2 (CH), 79.7 (CH), 80.4 (CH), 89.4 (CH), 95.57 (CH2), 95.63 (CH2), 103.0 (CH), 104.8 (CH), 108.2 (CH), 110.66 (CH), 110.72 (CH), 124.3 (CH), 127.8 (CH), 138.0 (C), 144.6 (CH), 145.8 (C), 146.1 (C), 159.8 (C), 160.0 (C), 199.6 (C); HRMS (FAB) m/z [M + H]+ calcd for C48H72N3O23S 1090.4272; found 1090.4303.
【0059】
<GO-Y206の合成>
化合物3(148mg,205μmol)、アジド(α:β=1:0.7,116mg,613μmol)、含水テトラヒドロフラン(4.0mL,テトラヒドロフラン:水=100:1)、2-チオフェンカルボン酸銅(8.8mg,46.2μmol)を使用した。反応溶液を減圧下で濃縮して得られた残渣をフラッシュカラムクロマトグラフィー(シリカゲル5.0g,クロロホルム/メタノール1:0→100:3→10:1)で精製し、GO-Y206(113mg,収率61%)を無色油状物質として得た。なお、図5ではβ-デオキシグルコースが結合している化合物のみを示しているが、GO-Y206はα-デオキシグルコースが結合している化合物も含む。
【0060】
(GO-Y206の化合物データ)
Rf 0.13 (AcOEt/MeOH 9:1); IR (neat) 3416, 2902, 1687, 1661, 1593, 1454, 1400, 1332, 1281, 1215, 1146, 1084, 1033, 924 cm-1; 1H NMR (600 MHz, CD3OD) δ 2.19 (q, J = 11.8 Hz, 1H), 2.43 (ddd, J = 2.0, 4.8, 11.8 Hz, 1H), 2.52 (t, J = 6.7 Hz, 2H), 3.18 (dd, J = 7.0, 16.0 Hz, 1H), 3.23 (dd, J = 7.4, 16.0 Hz, 1H), 3.39 (t, J = 9.3 Hz, 1H), 3.40 (s, 6H), 3.43 (s, 6H), 3.49-3.63 (m, 15H), 3.72 (dd, J = 5.4, 12.0 Hz, 1H), 3.79 (m, 1H), 3.89 (dd, J = 2.3, 12.0 Hz, 1H), 4.46 (t, J = 7.4 Hz, 1H), 4.60 (s, 2H), 5.11 (d, J = 7.0 Hz, 2H), 5.13 (d, J = 7.0 Hz, 2H), 5.17 (s, 4H), 5.90 (dd, J = 2.0, 11.8 Hz, 1H), 6.58 (t, J = 2.2 Hz, 1H), 6.74 (d, J = 16.1 Hz, 1H), 6.75 (m, 3H), 6.91 (d, J = 2.2 Hz, 2H), 7.48 (d, J = 16.1 Hz, 1H), 8.15 (s, 1H); 13C NMR (150 MHz, CD3OD) δ 31.6 (CH2), 39.4 (CH2), 46.3 (CH), 48.0 (CH2), 56.8 (CH3), 56.43 (CH3), 62.5 (CH2), 64.9 (CH2), 70.8 (CH2), 71.2 (CH2), 71.45 (CH2), 71.49 (CH2), 71.51 (CH2), 71.53 (CH2), 71.9 (CH2), 72.3 (CH), 72.4 (CH), 81.0 (CH), 85.6 (CH), 95.5 (CH2), 95.6 (CH2), 104.7 (CH), 108.2 (CH), 110.6 (CH), 110.7 (CH), 123.8 (CH), 127.8 (CH), 137.9 (C), 144.5 (CH), 145.8 (C), 146.1 (C), 159.7 (C), 159.9 (C), 199.3 (C); HRMS (FAB) m/z [M + H]+ calcd for C42H62N3O17S 912.3794; found 912.3803.
【0061】
[濁度測定]
各種化合物の濁度を測定した。方法は次のようである。化合物をDMSO(ジメチルスルホキシド)に一旦、溶解してから蒸留水、または10%牛胎児血清入りのDMEM培地(ダルベッコ改変イーグル培地)に最終濃度50μMになるように溶解した。クルクミンには濁りがあり、GO-Y199は透明であった。この溶解度を濁度計(REX社、WZB-170 Portable Turbidimeter)で測定した。化合物の濁度を濃度で補正した。結果を表1に示した。
【0062】
【表1】
【0063】
表1より、GO-Y196~200の濁度は0であるか又は非常に小さく、GO-Y030やクルクミンに比べて、水溶性が改善されていることが確認できた。
【0064】
続いて、GO-Y206とクルクミンを最終濃度1.25μMと5.00μMに調整し、それぞれの濁度を測定した。結果を表2に示した。
【0065】
【表2】
【0066】
最終濃度が1.25μMであるGO-Y206の濁度は0.18NTU、最終濃度が5.00μMであるGO-Y206の濁度は1.82NTUであった。一方、最終濃度が1.25μMであるクルクミンの濁度は4.96NTU、最終濃度が5.00μMであるクルクミンの濁度は29.0NTUであった。NTUを濃度で割って、得られた値の平均を求めるとGO-Y206は0.254NTU/μMであるのに対し、クルクミンは4.884NTU/μMであった。従って、GO-Y206の濁度はクルクミンの5%まで改善していた。
【0067】
[細胞増殖抑制活性と濁度]
大腸癌細胞株HCT116に対する細胞増殖抑制活性を測定した。細胞増殖抑制活性の指標として、コントロールと比較して細胞増殖を50%抑制する濃度(IC50)を用いた。方法は次のようである。HCT116を6ウェルプレートに5x10巻き込み、24時間後に各種濃度の化合物を添加し、さらに72時間の培養後に細胞数をカウントした。コントロールは最も高い濃度の化合物の添加濃度に合わせて加えた量と同量のDMSOを使用した。コントロールに対する各濃度の細胞数を百分率で示した。結果を表2に示した。また、表3では、化合物の濁度についても記載した。さらに、図6に代表してGO-Y190、GO-Y193、GO-Y196、GO-Y197の細胞増殖抑制活性の測定結果を示した。
【0068】
【表3】
【0069】
表3より、GO-Y190~194、196~200はGO-Y030やクルクミンに比べて細胞増殖抑制活性が高いものであった。また、その中でGO-Y190、191、198~200は特に細胞増殖抑制活性が高かった。さらに、その中で、GO-Y198~200は水溶性に優れていた。これらの中でGO-Y199が最も収率良く合成可能なものであるため、GO-Y199に着目して以降の実験を行った。
【0070】
[各種癌細胞株に対する細胞増殖抑制活性]
各種癌細胞株(胃癌細胞株:GCIY、Kato III、SH-10-TC、大腸癌細胞株:DLD-1、HT29、HCT-116、乳癌細胞株:HCC38、HCC70、HCC1395)に対するクルクミン、GO-Y030、GO-Y193、GO-Y199の細胞増殖抑制活性の(IC50)を測定した。方法は前述したとおりである。結果を表4に示した。また、表5において、GO-Y199と、クルクミン・GO-Y030とのIC50をそれぞれ比較した。さらに、図7に各種癌細胞株に対するGO-Y199の細胞増殖抑制活性の結果を示した。
【0071】
【表4】
【0072】
【表5】
【0073】
表4より、GO-Y193及びGO-Y199は何れの癌細胞株に対しても、高い細胞増殖抑制活性を有していた。また、表5より、GO-Y199はクルクミンに対して33.3~71.4倍の抗腫瘍活性を有しており、GO-Y030に対して0.8~4.2の抗腫瘍活性を有していた。この結果から、GO-Y199はクルクミン及びGO-Y030よりも高い抗腫瘍活性を有しているといえる。
【0074】
大腸癌細胞株DLD-1、HCT116、胃癌細胞株KATO III、H-111-TCに対するクルクミン、GO-Y199、GO-Y206の細胞増殖抑制活性(IC50)を測定した。方法は前述したとおりである。結果を表6に示した。また、図8に各種癌細胞株に対するこれら化合物の細胞増殖抑制活性の結果を示した。
【0075】
【表6】
【0076】
表6より、GO-Y199及びGO-Y206はクルクミンに比べて何れの大腸癌細胞株に対しても、高い細胞増殖抑制活性を有していた。また、GO-Y206の効果はGO-Y199と同等であった。
【0077】
膵癌細胞株ASPC-1、Panc-1に対するクルクミン、GO-Y022、GO-Y030、GO-Y199、GO-Y200の細胞増殖抑制活性(IC50)を測定した。方法は前述したとおりである。結果を表7に示した。また、図9に各種癌細胞株に対するこれら化合物の細胞増殖抑制活性の結果を示した。
【0078】
【表7】
【0079】
表7より、GO-Y199及びGO-Y200はクルクミンに比べて、何れの膵癌細胞株に対しても、高い細胞増殖抑制活性を有していた。また、GO-Y199及びGO-Y200はGO-Y022と比べても高い効果を有していた。
【0080】
悪性胸膜中皮腫細胞株NCI-H226、MSTO211Hに対するクルクミン、GO-Y193、GO-Y197、GO-Y198、GO-Y199、GO-Y200の細胞増殖抑制活性(IC50)を測定した。方法は前述したとおりである。結果を表8、図10に示した。比較のために殺細胞性抗がん剤シスプラチン(CDDP)のIC50も併記した。
【0081】
【表8】
【0082】
表8より、GO-Y193、GO-Y197、GO-Y198、GO-Y199、GO-Y200はクルクミンに比べて、何れの悪性胸膜中皮腫細胞株に対しても高い細胞増殖抑制活性を有していた。
【0083】
悪性黒色腫細胞株G361に対するクルクミン、GO-Y022、GO-Y030、GO-Y193、GO-Y197、GO-Y199の細胞増殖抑制活性(IC50)を測定した。方法は前述したとおりである。結果を表9に示した。また、図11に代表してGO-Y193、GO-Y197、GO-Y199の悪性黒色腫細胞株に対する細胞増殖抑制活性の結果を示した。
【0084】
【表9】
【0085】
表9より、GO-Y193、GO-Y197、GO-Y199はクルクミンに比べて、悪性黒色腫細胞株に対して高い細胞増殖抑制活性を有していた。また、GO-Y193、GO-Y197、GO-Y199はGO-Y022、GO-Y030よりも高い効果を有していた。
【0086】
皮膚T細胞性リンパ腫細胞株HH、HUT78に対するクルクミン、GO-Y022、GO-Y030、GO-Y193、GO-Y197、GO-Y198、GO-Y199、GO-Y200の細胞増殖抑制活性(IC50)を測定した。方法は前述したとおりである。結果を表10に示した。また、図12に各種癌細胞株に対するこれら化合物の細胞増殖抑制活性の結果を示した。
【0087】
【表10】
【0088】
表10より、GO-Y193、GO-Y197、GO-Y198、GO-Y199、GO-Y200はクルクミンに比べて、何れの皮膚T細胞性リンパ腫細胞株に対しても高い細胞増殖抑制活性を有していた。また、GO-Y193、GO-Y197、GO-Y198、GO-Y199、GO-Y200はGO-Y022よりも高い効果を有していた。
【0089】
[殺細胞効果]
GO-Y199の殺細胞効果について調べた。方法は次のとおりである。各細胞株を6ウェルプレートに5x10巻き込み、24時間後に2μM、5μMのGO-Y199を添加し、48時間後、72時間後に細胞数をカウントした。結果を図13に示した。
【0090】
図13に示した通り、GO-Y199はHCT116及びKato IIIのいずれの癌細胞株に対しても殺細胞効果が認められた。
【0091】
[NF-kBに対する影響]
GO-Y199のNF-kB(p65)に対する影響を調べた。方法は次のとおりである。HCT116細胞株を10センチプレートに3x10個を巻き込み、24時間後に2μMのGO-Y199を添加し、24時間後に細胞を回収し、iPGell(GenoStaff)に包埋し、ホルマリン固定後にパラフィンブロックを作製し、抗NF-kB(p65)抗体で免疫組織化学を行った。また、2μMと5μMのGO-Y199を添加し、24時間後にライゼートを回収し、ELISAプレート(NF-kBp65(pS536) SimpleStep ELISA kit, Abcam)を用いてNF-kB(p65)の発現量を解析した。タンパク質量をA280nmの吸光度で補正した。結果を図14図15に示した。図14上部は、24時間経過後のコントロール群とGO-Y199(2μM)添加群との写真である。図14下部は、24時間経過後におけるこれらの群のt検定の結果である。図15はコントロール群に対する、GO-Y199(2μM、5μM)添加群のNF-kB阻害作用の比較結果である。
【0092】
図14に示したように、コントロール群のNF-kB(p65)発現細胞の割合は96.8±1.1%であるが、GO-Y199添加群は69.4±12.4%であった。また、図15に示したように、コントロール群のNF-kB(p65)の相対的発現量は5.27±0.95であるのに対し、GO-Y199添加群(2μM、5μM)はそれぞれ0、0であった。このことから、GO-Y199はNF-kB阻害作用を有することが確認された。
【0093】
[pSTAT3に対する影響]
GO-Y199のpSTAT3に対する影響を調べた。方法は前述のとおりである。抗pSTAT3抗体で免疫組織化学を行った。結果を図16に示した。図16上部は、24時間経過後のコントロール群とGO-Y199(2μM)添加群との写真である。図16下部は、24時間経過後におけるこれらの群のt検定の結果である。
【0094】
図16の通り、コントロール群のpSTAT3の相対的発現量は10.2±1.6%であるのに対し、GO-Y199(2μM)添加群のpSTAT3の相対的発現量は0.3±0.5%であった。このように、GO-Y199添加によりpSTAT3の発現量は有意に減少していたため、GO-Y199はpSTAT3の発現を阻害していることが確認された。
【0095】
[β-カテニンに対する影響]
GO-Y199のβ-カテニンに対する影響を調べた。方法は前述のとおりである。抗β-カテニン抗体で免疫組織化学を行った。タンパク質の定量はELISAプレート(proteintech)を用いて行った。結果を図17図18に示した。図17は24時間経過後のコントロール群とGO-Y199(2μM)添加群との写真である。図17における数値は、β-カテニン不活性化セルのt検定の結果である。図18はコントロール群に対する、GO-Y199(2μM、5μM)添加群のβ-カテニン阻害作用の比較結果である。
【0096】
図18に示したように、β-カテニンの相対的発現量はコントロール群が11.5±2.3であるのに対し、GO-Y199(2μM)添加群は2.8±0.8、GO-Y199(5μM)添加群は3.9±1.1であり、GO-Y199の添加によりβ-カテニンの発現量が有意に減少していた。従って、GO-Y199はβ-カテニン阻害作用を有していることが確認された。
【0097】
[脂肪酸シンセターゼに対する影響]
GO-Y199の脂肪酸シンセターゼに対する影響を調べた。方法は前述のとおりである。タンパク質の定量はHuman Fatty acid synthase ELISA Kit(MyBioSource)を用いて行った。結果を図19に示した。図19はコントロール群に対する、GO-Y199(4μM)添加群の脂肪酸シンセターゼ阻害作用の比較結果である。
【0098】
図19の通り、GO-Y199は有意な脂肪酸シンセターゼ阻害作用を有していることが確認された。
【0099】
[カスパーゼ3に対する影響]
GO-Y199のCaspase 3に対する影響を調べた。方法は前述のとおりである。抗Caspase 3抗体で免疫組織化学を行った。アポトーシス関連タンパク質の定量はM30 Apotosense ELISA(PEVIVA)を用いて行った。結果を図20図21に示した。図20上部は、24時間経過後のコントロール群とGO-Y199(2μM)添加群との写真である。図20下部は、24時間経過後におけるCaspase 3発現細胞の割合である。図21はコントロール群に対する、GO-Y199(2μM、5μM)添加群のアポトーシス関連タンパク質の誘導を示す。
【0100】
図20の通り、コントロール群のCaspase 3発現細胞の割合は1.0±0.1%であるのに対し、GO-Y199(2μM)添加群では57.4±2.6%と有意に増加していた。また、図21のとおり、コントロール群が360U/Lであるのに対し、GO-Y199(2μM)添加群は1,830U/Lであり、GO-Y199(5μM)添加群は2,050U/Lであり、GO-Y199添加によりアポトーシス関連タンパク質の誘導が示された。従って、GO-Y199はカスパーゼ3を活性化し、アポトーシスを誘導することが確認された。
【0101】
[血管新生阻害活性]
血管新生阻害剤Ki8751に耐性化した血管内皮細胞HUVEC-Rに対するクルクミン、GO-Y022、GO-Y030、GO-Y193、GO-Y197、GO-Y198、GO-Y199、GO-Y200の血管新生阻害活性を調べた。HUVEC-RをEGMTM―2 Bullet Kit(Takara Bio Inc., Otsu, Japan)で各化合物の存在下で培養し、72時間後に細胞数を測定した。また、その結果からIC50を求めた。GO-Y030には血管新生阻害活性が知られており、それと比較検討した。結果を表11、図22に示した。
【0102】
【表11】
【0103】
表11より、GO-Y193、GO-Y197、GO-Y198、GO-Y199、GO-Y200はクルクミンに比べて、高い血管新生阻害活性を有していた。また、GGO-Y193、GO-Y197、GO-Y198、GO-Y199、GO-Y200はGO-Y022よりも高い効果を有していた。
【0104】
[制御性T細胞抑制活性]
CD4CD62Lhi T Cell Isolation Kit(Miltenyi Biotec)を用いて、マウスの脾臓からNaive CD4 T細胞を集めた。penicillin/streptomycin(5,000ユニット/mL)、10%牛胎仔血清、50μMの2-mercaptoethanolを添加したRPMI 1640培地に、採取したT細胞0.5×10cells/mLを添加した。続いて、培地に1μg/mLのanti-CD3抗体(eBioscience)を添加し、さらに1μg/mlのanti-CD28抗体(eBioscience)を添加した。その後、培地を37℃で3日間培養した。次に、培地にTGF-β1(2ng/mL)を添加して24時間培養した。その後、FOXP3 Staining Buffer Kit(eBioscience)を用いて細胞を固定し、細胞膜を処理し、核内のFOXP3を染色した。BD LSRFortessaTM(BD Bioscience)フローサイトメーターを用いて、染色された細胞を測定し、得られたデータをFlowJo(Tree-Star version)で解析した。結果を図23に示した。
【0105】
対照群であるFOXP3陽性の制御性T細胞の誘導割合は12.8%であったが、0.3μMのGO-Y199が添加された制御性T細胞の誘導割合は2.22%にまで抑制された。
【0106】
[生体内抗腫瘍効果]
GO-Y199の生体内抗腫瘍効果について調べた。方法は次のとおりである。HCT116をヌードマウスの皮下に移植した。腫瘍形成後、100mM GO-Y199のDMSO溶液をPBS 100μLに溶解し、マウスの尾静脈より単回注入した(GO-Y199 1mg相当)。コントロール群として、同等濃度のDMSO-PBS溶液を単回尾静注した。投与後4日後に腫瘍の最大径を測定した。結果を図24に示した。
【0107】
図24はコントロール群(左)とGO-Y199静注群(右)の相対的腫瘍増大の程度を示す。コントロール群の腫瘍増大が投与前の113.7±12.4%であるのに対し、GO-Y199静注群では投与前の95.2±20.0%であり、GO-Y199添加により有意に腫瘍増大を抑制していた。従って、GO-Y199は生体内においても抗腫瘍活性を示すことが確認された。
【0108】
動物モデルを用いて、悪性中皮腫細胞に対するGO-Y199の抗腫瘍効果について調べた。方法は次のとおりである。MSTO-211H細胞を各々、2.8×10個ずつを5匹のヌードマウスの腹腔内に移植した。Day5から100mMのGO-Y199のDMSO溶液43μLをPBSで500μLに希釈し、マウスに腹腔内投与した(GO-Y199、5mg相当)。コントロール群として、同様にMSTO-211H細胞を腹腔内に移植した4匹のヌードマウスに同等濃度のDMSO-PBS溶液を腹腔内投与した。投与は5日間隔で計5回施行した。30日後にと殺、剖検して解析した。結果を図25に示した。
【0109】
GO-Y199投与群の1匹で、MSTO-211H細胞を腹腔内投与した穿刺部位に腫瘍形成を認めた。対照群には認めなかった。微小な腹膜播種病変はGO-Y199投与群の4匹(80%)、対照群では3匹(75%)に認められた。一方で、最大径が5mmを超える播種結節はGO-Y199投与群の1匹(20%)に1個認められたが、対照群では4匹(100%)に合計6個が認められた。また、そのサイズ(最大径)はGO-Y199投与群が5mmに対して、対照群では6-13mm(平均:10.2mm)と巨大であった。また、図26に示した通り、病理学的解析で、GO-Y199投与群の播種結節の内部は壊死に陥っていたが、対照群は腫瘍細胞で充満していた。
【0110】
[静注後の血中濃度]
GO-Y199の静注後の血中濃度について調べた。方法は次のとおりである。BALB/cSlc-nu/+マウスに、前述のようにGO-Y199 1mg相当を尾静注し、経時的に眼窩静脈より採血し、血清をHPLCにかけて、GO-Y199の血中濃度を測定した。結果を図27図28に示した。図27は静注後における血液のHPLC分析の結果である。図28は静注後におけるGO-Y199の血中濃度の経時変化の結果である。
【0111】
図27はHPLC分析の生データである。図28の通り、GO-Y199の血中濃度は静注60分後まで急激に低下し、その後緩やかに低下し、静注180分後にはGO-Y199は血中より消失した。このことから、GO-Y199は静脈投与が可能であり、投与後、3時間は血中濃度が維持され、その後、速やかに代謝・排出されることが確認された。
【0112】
[安全性・毒性試験]
GO-Y199の生体内における安全性・毒性について調べた。方法は次のとおりである。前述のようにGO-Y199 1mg相当を尾静注し、7日後に眼窩静脈より採血し、Cell tac MEK-5258(日本光電社製)でヘモグロビン値(Hb)、白血球数(WBC)、血小板数(Plt)を測定した。血清クレアチニン値(Cre)、総ビリルビン値(T-Bil)、AST値は外注(株式会社スカイライト・バイオテックにて測定)した。結果を表12、表13に示した。図29に静注後のマウスの体重変化について示した。図30に静注後のマウスの尾部の写真を示した。
【0113】
【表12】
【0114】
【表13】
【0115】
表12、表13に示す通り、コントロール群とGO-Y199静注群の間で著しい違いは確認できなかった。また図29に示す通り、体重変化も両群で違いは確認できなかった。図30に示す通り、静注したマウスの尾部は全例において、局所の異常所見は観察されなかった。以上の結果から、マウスモデルに対するGO-Y199の安全性が確認された。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
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図15
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図19
図20
図21
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図29
図30