(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-06-13
(45)【発行日】2025-06-23
(54)【発明の名称】炭素固定装置及び炭素固定システム
(51)【国際特許分類】
C01B 32/942 20170101AFI20250616BHJP
B01D 53/62 20060101ALI20250616BHJP
B01D 53/75 20060101ALI20250616BHJP
B01D 53/81 20060101ALI20250616BHJP
C25B 1/18 20060101ALI20250616BHJP
C25B 1/20 20060101ALI20250616BHJP
【FI】
C01B32/942
B01D53/62
B01D53/75
B01D53/81
C25B1/18
C25B1/20
(21)【出願番号】P 2020195971
(22)【出願日】2020-11-26
【審査請求日】2023-11-16
(73)【特許権者】
【識別番号】506213382
【氏名又は名称】アンヴァール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098729
【氏名又は名称】重信 和男
(74)【代理人】
【氏名又は名称】溝渕 良一
(74)【代理人】
【識別番号】100204467
【氏名又は名称】石川 好文
(74)【代理人】
【識別番号】100148161
【氏名又は名称】秋庭 英樹
(74)【代理人】
【氏名又は名称】堅田 多恵子
(74)【代理人】
【識別番号】100195833
【氏名又は名称】林 道広
(74)【代理人】
【識別番号】100206656
【氏名又は名称】林 修身
(72)【発明者】
【氏名】櫻井 重利
【審査官】三村 潤一郎
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2011/0033355(US,A1)
【文献】特開昭57-185938(JP,A)
【文献】特開昭57-088018(JP,A)
【文献】特表2013-542907(JP,A)
【文献】特開平06-114238(JP,A)
【文献】特開昭54-159399(JP,A)
【文献】特開昭54-014400(JP,A)
【文献】特開2012-057230(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 32/942
B01D 53/62
B01D 53/74 - 53/90
C25B 1/18 - 1/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
二酸化炭素をマグネシウムと反応させる第1反応室の反応熱を利用して酸化カルシウムと
前記反応熱によって加熱された状態の前記第1反応室における反応生成物である炭素を反応させる第2反応室を備え
、
前記第2反応室における排熱を利用して炭酸カルシウムを酸化カルシウムと二酸化炭素に熱分解する第3反応室をさらに備え、
前記第3反応室における反応生成物である二酸化炭素を前記第1反応室における反応に利用することを特徴とする炭素固定装置。
【請求項2】
前記反応熱の温度が2000度~3000度であることを特徴とする請求項
1に記載の炭素固定装置。
【請求項3】
前記第3反応室は、前記第2反応室の下流に設けら
れることを特徴とする請求項
1または2に記載の炭素固定装置。
【請求項4】
海水を電解して炭酸カルシウムと水酸化マグネシウムを得る電解装置と、前記水酸化マグネシウムまたは酸化マグネシウムを炭化カルシウムにより還元してマグネシウ
ムを得る還元装置と、前記還元装置で得られ
た前記マグネシウム
に二酸化炭素を反応させる第1反応室の反応熱を利用して酸化カルシウムと前記第1反応室の反応により得られた炭素を反応させる第2反応室を備える炭素固定装置と、を有することを特徴とする炭素固定システム。
【請求項5】
前記炭素固定装置は、前記電解装置で得られた炭酸カルシウムを熱分解して前記第2反応室で反応させる酸化カルシウムを得る第3反応室を備えることを特徴とする請求項
4に記載の炭素固定システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭素固定装置及び炭素固定システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、火力発電、ガスフレアリング等で化石燃料の燃焼に伴って発生した二酸化炭素を低減するために、炭素固定を行う技術が知られている。このような技術には、化学反応を利用して二酸化炭素を捕集し、炭素固定を行うものがある。
【0003】
特許文献1の炭素固定装置は、二酸化炭素とマグネシウムを高温反応器に導入し、燃焼させることにより炭素固定を行い、主に酸化マグネシウムと炭素からなる混合物を生成する。二酸化炭素とマグネシウムを反応させるためには、トリガーとして高いエネルギが必要である。生成された酸化マグネシウムと炭素は、廃棄物として処理せず、分離処理が行われる。分離処理により分離された酸化マグネシウムは、還元により上述した炭素固定の反応に使用するマグネシウムにリサイクルされ、炭素は純度を高めた炭素材料としてリサイクルされる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特表2013-542907号公報(第8頁~第10頁、第1図)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1にあっては、化石燃料の燃焼に伴って発生した排気ガス中の二酸化炭素から炭素を固定化しており、排気ガス中には二酸化炭素以外の不純物が多く、特に炭素を純度の高い炭素材料としてリサイクルするためには、脱イオン水処理、塩酸処理、超音波処理、濾過、乾燥及び加熱処理のサイクルを所望の純度レベルに到達するまで繰り返し行う必要があり、コストと手間がかかるという問題があった。
【0006】
発明者らは、マグネシウムと二酸化炭素を燃焼させる炭素固定により生成される酸化マグネシウムからマグネシウムに還元するために用いる還元剤として炭化カルシウムが好ましく、さらに炭化カルシウムの生成に炭素を用いることが好ましく、加えて炭化カルシウムの生成に必要な約2000度の高温を実現するためのエネルギをマグネシウムと二酸化炭素の燃焼反応により生じる反応熱により得られることを見出した。
【0007】
本発明は、このような問題点に着目してなされたもので、炭素をリサイクルして廃棄物を減らすとともに、少ないエネルギで炭化カルシウムを得ることができる炭素固定装置及び炭素固定システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するために、本発明の炭素固定装置は、
二酸化炭素をマグネシウムと反応させる第1反応室の反応熱を利用して酸化カルシウムと炭素を反応させる第2反応室を備えることを特徴としている。
この特徴によれば、第1反応室における二酸化炭素とマグネシウムの反応で生じる炭素を第2反応室において酸化カルシウムと反応させて炭化カルシウムを生成することにより、炭素をリサイクルして廃棄物を減らすとともに、第1反応室の反応熱を利用して第2反応室における酸化カルシウムと炭素の反応に必要な高い温度を得ることができるため、少ないエネルギで炭化カルシウムを得ることができる。
【0009】
前記炭素は、前記反応熱によって加熱された状態の前記第1反応室における反応生成物であることを特徴としている。
この特徴によれば、第1反応室における反応生成物である炭素が高温状態で第2反応室の酸化カルシウムと混合されることにより、再加熱する必要なく炭化カルシウムをエネルギ効率よく得ることができる。
【0010】
前記反応熱の温度が2000度~3000度であることを特徴としている。
この特徴によれば、第1反応室における反応生成物である炭素が第2反応室における酸化カルシウムとの反応に必要な温度に保たれやすい。
【0011】
炭酸カルシウムを酸化カルシウムと二酸化炭素に熱分解する第3反応室を備えることを特徴としている。
この特徴によれば、第3反応室で得られた二酸化炭素を第1反応室における反応に利用できるとともに、第3反応室で得られた酸化カルシウムを第2反応室における反応に利用できる。また、第3反応室で得られた二酸化炭素は、炭酸カルシウムの熱分解により得られているため、化石燃料を燃焼させた排気ガスよりも不純物が少ない。
【0012】
前記第3反応室は、前記第2反応室の下流に設けられ前記第2反応室における排熱を利用して炭酸カルシウムを酸化カルシウムと二酸化炭素に熱分解することを特徴としている。
この特徴によれば、第2反応室における排熱を利用して第3反応室における炭酸カルシウムの熱分解に必要な温度を得ることができるため、エネルギを有効活用できる。
【0013】
前記第3反応室における反応生成物である二酸化炭素を前記第1反応室における反応に利用することを特徴としている。
この特徴によれば、炭素固定装置における二酸化炭素の生成と炭素固定の循環サイクルにより二酸化炭素の排出を抑えることができる。
【0014】
本発明の炭素固定システムは、
海水を電解して炭酸カルシウムと水酸化マグネシウムを得る電解装置と、
前記水酸化マグネシウムまたは酸化マグネシウムを炭化カルシウムにより還元してマグネシウムと二酸化炭素を得る還元装置と、
前記還元装置で得られた二酸化炭素を前記マグネシウムと反応させる第1反応室の反応熱を利用して酸化カルシウムと前記第1反応室の反応により得られた炭素を反応させる第2反応室を備える炭素固定装置と、
を有することを特徴としている。
この特徴によれば、第1反応室において還元装置で得られた二酸化炭素とマグネシウムの反応で生じる炭素を第2反応室において酸化カルシウムと反応させて炭化カルシウムを生成することにより炭素をリサイクルして廃棄物を減らすとともに、第1反応室の反応熱を利用して第2反応室における酸化カルシウムと炭素の反応に必要な高い温度を得ることができるため、少ないエネルギで炭化カルシウムを得ることができる。
【0015】
前記炭素固定装置は、前記電解装置で得られた炭酸カルシウムを熱分解して前記第2反応室で反応させる酸化カルシウムを得る第3反応室を備えることを特徴としている。
この特徴によれば、資源として豊富な海水を電解して得られた炭酸カルシウムを熱分解して、炭化カルシウムの原料となる酸化カルシウムを安価に得ることができるとともに、炭酸カルシウムの熱分解により生成される二酸化炭素を第1反応室における反応に利用することにより、炭化カルシウムの原料となる炭素を得ることができるため、二酸化炭素の生成と炭素固定の循環サイクルにより二酸化炭素の排出を抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の実施例における炭素固定システムを示す概要図である。
【
図2】実施例における炭素固定装置を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明は、マグネシウム(Mg)と二酸化炭素(CO2)を混在させた状態で燃焼させることによりMgとCO2とを直接反応させて炭素を固定し、当該反応における反応熱の温度を利用して、当該反応により生成される酸化マグネシウム(MgO)を還元するために用いる還元剤としての炭化カルシウム(CaC2)を生成する酸化カルシウム(CaO)と炭素(C)との反応に必要な約2000度の温度を得ることが可能であることを見出し、これを契機として炭素の固定とマグネシウム及び炭素のリサイクルの両立を図ったものである。
【0018】
本発明に係る炭素固定装置及び炭素固定システムを実施するための形態を実施例に基づいて以下に説明する。
【実施例】
【0019】
本実施例の炭素固定システム1は、
図1に示されるように、海水を電解して炭酸カルシウム(CaCO
3)と水酸化マグネシウム(Mg(OH)
2)を得る電解装置2と、電解装置2で得られたMg(OH)
2または後述する炭素固定装置10の第1反応室30で得られた酸化マグネシウム(MgO)を基に炭化カルシウム(CaC
2)を還元剤とする還元反応によりマグネシウム(Mg)と二酸化炭素(CO
2)を得る還元装置3と、主に還元装置3で発生したCO
2を同じく還元装置3で得られたMgと反応させる第1反応室30、第1反応室30の反応熱を利用して酸化カルシウム(CaO)と第1反応室30の反応により得られた炭素(C)を反応させる第2反応室32、電解装置2で得られたCaCO
3を熱分解して第2反応室32で反応させるCaOを得る第3反応室33を備える炭素固定装置10と、を備えている。
【0020】
詳しくは、還元装置3においては、CaC2を還元剤として下記反応式1により表されるMgOの還元反応が行われ、炭素固定装置10の第1反応室30における反応に利用されるMgが生成される。
MgO+CaC2→Mg+CaO+2C・・・(反応式1)
【0021】
MgOの還元反応に必要なエネルギは、例えばパルスパワー波によって与えることができ、不活性ガス及び還元性ガスの雰囲気下でパルスパワー波を照射することにより、MgOの還元効率を高めることができる。不活性ガスとしては、アルゴンガス、ネオンガス、ヘリウムガス、窒素ガス等を挙げることができる。還元性ガスとしては、CaC2との反応性が低い一酸化炭素(CO)が用いられることが好ましく、パルスパワー波の照射によりMgOがプラズマ化して発生する副産物としての酸素(O2)とCOが反応してCO2が発生する。尚、還元性ガスとしてのCOには、後述する炭素固定装置10の第1反応室30における反応(反応式3参照)や第2反応室32における反応(反応式5参照)で生成されたCOを回収したものが利用されてもよい。
【0022】
また、還元装置3においては、電解装置2で得られたMg(OH)2に熱を与えることにより、下記反応式2により表される熱分解が行われ、上記還元反応(反応式1参照)に利用されるMgOが生成される。
Mg(OH)2→MgO+H2O・・・(反応式2)
【0023】
炭素固定装置10の第1反応室30においては、還元装置3で得られるCO2をMgと反応させ、下記反応式により表される炭素の固定が行われる。尚、第1反応室30における反応は、発熱反応である。詳しくは、CO2濃度を大気よりも比較的高くした状態でCO2をMgと反応させると、CO2はMgとは完全に反応せず一酸化炭素(CO)が一部生じ、反応熱の温度が約1500度~約2000度となる(反応式3参照)。また、CO2濃度が高濃度、例えば95%以上である場合には、CO2はMgと略完全に反応し、MgOとCとが生成されCOは生成されず、反応熱の温度が約3000度以上となる(反応式4参照)。CO2とMgの反応の観点からはCO2濃度が100%であることが好ましい。本実施例においては、第1反応室30における反応熱の温度が約2000度~約3000度となるようにCO2濃度が調整されることが好ましい。
Mg+CO2→MgO+CO ・・・(反応式3)
2Mg+CO2→2MgO+C・・・(反応式4)
【0024】
第2反応室32においては、第1反応室30で得られたCを第3反応室33で得られたCaOと反応させ、下記反応式5により表されるようにCaC2が生成され、Cのリサイクルが行われる。尚、第2反応室32における反応は、約2000度の温度を必要とする吸熱反応である。
CaO+3C→CaC2+CO・・・(反応式5)
【0025】
第3反応室33においては、電解装置2で得られたCaCO3に熱を与えることにより、下記反応式6により表される熱分解が行われ、第2反応室32における反応に利用されるCaOが生成される。また、CaOと共に生成されるCO2は、第1反応室30における反応に利用可能である。尚、第3反応室33における反応は、800度~900度程度の温度を必要とする吸熱反応である。
CaCO3→CaO+CO2・・・(反応式6)
【0026】
尚、電解装置2において、電解によりCaCO3とMg(OH)2が回収された海水には、炭酸ガス(重炭酸イオン)が含まれていないため、該海水に還元装置3で発生したCO2や炭素固定装置10の第3反応室33で生成されたCO2の一部を吸収させることにより、炭素を固定してもよい。
【0027】
次いで、炭素固定装置10について
図2を用いて詳しく説明する。
図2に示されるように、本実施例の炭素固定装置10は、還元装置3において還元反応に必要なエネルギをパルスパワー波によって与えることで発生した二酸化炭素(CO
2)リッチな導入気体A1を用いて炭素固定及び発電が可能となっている。
【0028】
炭素固定装置10は、CO2をマグネシウム(Mg)と反応させる第1反応室30と、第1反応室30で得られる炭素(C)を酸化カルシウム(CaO)と反応させる第2反応室32と、炭酸カルシウム(CaCO3)を熱分解させる第3反応室33と、CO2リッチな導入気体A1を圧縮して第1反応室30に供給する供給手段20と、第1反応室30内にパルスパワー波を照射する第2パルスパワー波照射器31と、第1反応室30から供給された気体A4のエネルギを用いて発電する発電手段40と、発電手段40の下流側に配設されCO2と一酸化炭素(CO)を分離可能なセパレータ60と、セパレータ60によりCOが分離されたCO2を含む気体A9を供給手段20に供給する循環手段80と、発電手段40により発電にエネルギが使用された残気体A10を排出する排出手段90と、を備えている。尚、以降の説明において、還元装置3側を上流側、排出手段90の後述する第8連通路91側を下流側として説明する。
【0029】
まず、供給手段20について説明する。供給手段20は、上流側から順に、還元装置3の下流側に連結された第1連通路21と、第1連通路21内にパルスパワー波を照射する第1パルスパワー波照射器22と、第1連通路21の下流側に配設された冷却器23と、冷却器23の下流側に配設された第2連通路24と、第2連通路24の下流側に連結された軸流式の圧縮機25と、圧縮機25の下流側及び第1反応室30の上流側に連結された第3連通路26と、から主に構成されている。
【0030】
第1連通路21は、還元装置3ばかりでなく、後述する循環手段80の逆止弁82とも連結されており、逆止弁82から第1連通路21内に気体A9が流入可能となっている。
【0031】
第1パルスパワー波照射器22は、第1連通路21内かつ後述する逆止弁82との合流箇所よりも上流側に配置されたプラグ22aから第1パルスストリーマ放電を実行可能となっている。本実施例では、第1パルスパワー波照射器22は、半値幅80nsの高電圧を繰り返し動作で発生可能であり、充電電圧を20kV、放電電流を170Aとし、電源を5pps(Pulses Per Second)で運転させることで、第1パルスパワー波を照射し、第1パルスストリーマ放電を生じせしめる。このように、短パルス、高電圧小電流、短サイクルで運転させ、グロー放電やアーク放電とならないようにすることが肝要である。尚、本実施例においては、パルスパワー波によって与えることで発生したCO2リッチかつ不純物が少ない導入気体A1が用いられることから、第1パルスパワー波照射器22は配設されなくてもよい。また、導入気体A1の温度によっては、冷却器23も配設されなくてもよい。
【0032】
第1反応室30は、高耐熱かつ高耐圧に形成されており、図示しない投入口からMg粉末を投入可能となっている。尚、投入するMgは粉末以外の形状例えばフレーク状、バー状であってもよい。また、第1反応室30内には、第2パルスパワー波照射器31のプラグ31aが配置されており、第1反応室30内で第2パルスストリーマ放電を実行可能となっている。また、第1反応室30内の下流側には、ガスタービン発電装置41のタービン42が配置されている。本実施例では、第2パルスパワー波照射器31は、半値幅40nsの高電圧を繰り返し動作で発生可能であり、充電電圧を100kV、放電電流を170Aとし、電源を10ppsで運転させることで、第2パルスパワー波を照射し、第2パルスストリーマ放電を生じせしめる。このように、短パルス、高電圧小電流、短サイクルで運転させ、グロー放電やアーク放電とならないようにすることが肝要である。
【0033】
発電手段40は、第1反応室30内でCO2とMgとが反応することで発生した高温高圧の気体A4を用いて発電可能なガスタービン発電装置41を有している。ガスタービン発電装置41は、高温高圧の気体A4の圧力により回転されるタービン42と、タービン42の回転に応じて発電可能な発電装置43と、から主に構成されている。
【0034】
第2反応室32は、ガスタービン発電装置41のタービン42の下流側に配設され、タービン42を通過して温度と圧力が低下した気体A5が通過するとともに、図示しない投入口から第3反応室33で得られたCaO粉末を投入可能となっている。尚、投入するCaOは粉末以外の形状例えばフレーク状、バー状であってもよい。また、CaO粉末は、第3反応室33で得られたものに限らず、例えば還元装置3におけるCaC2を還元剤としたMgOの還元反応により得られるCaOであってもよい。
【0035】
第3反応室33は、第2反応室32の下流側に配設され、第2反応室32を通過して温度と圧力がさらに低下した気体A6が通過するとともに、図示しない投入口から電解装置2(
図1参照)で得られたCaCO
3粉末を投入可能となっている。
【0036】
セパレータ60は、第3反応室33の下流側に連結された第4連通路50の下流側に配設されている。また、セパレータ60の下流側には、気体A7からCOが回収された気体A8が流入する第5連通路70と、回収したCOによりCO濃度が高い気体A11が流入する第7連通路71がそれぞれ連結されている。また、第7連通路71の下流側には、COの貯蔵タンク72が連結されている。
【0037】
循環手段80は、上述した第5連通路70と、第5連通路70の下流側に連結された三方向弁Vと、三方向弁Vの一方の下流側に連結された第6連通路81と、第6連通路81の下流側に連結された逆止弁82と、から主に構成されている。
【0038】
排出手段90は、上述した第5連通路70と、三方向弁Vと、三方向弁Vの他方の下流側に連結され、炭素固定装置10の外部に連通する第8連通路91と、から主に構成されている。尚、
図2では、三方向弁Vの第8連通路91が連結されている弁が閉弁状態となっている。
【0039】
次に、動作について説明する。還元装置3で得られたCO2リッチな導入気体A1は、第1連通路21に流入される。導入気体A1は、CO2濃度が約70%以上であり、CO2以外にも、窒素(N2)、水素(H2)、酸素(O2)、水蒸気(H2O)等が含まれている。また、導入気体A1の温度は、300度程度であり、単位時間当たりの流量は、0.1×10-4m3/sである。
【0040】
矢印で示されるように、第1連通路21内に導入された導入気体A1は、第1パルスパワー波照射器22のプラグ22aから連続的に照射され続けている第1パルスストリーマ放電により発生している非熱平衡プラズマにより、導入気体A1に含まれるH2、O2、H2O等の反応が促進され不純物がさらに少なくなる。
【0041】
導入気体A1は、矢印で示されるように、冷却器23に導出されて冷却され、約30度程度の気体A2となる。気体A2は、矢印で示されるように、第2連通路24を通過した後、圧縮機25により圧縮される。
【0042】
矢印で示されるように、圧力約2.0MPa、単位時間当たり流量5.0×10-5m3/sの圧縮・加圧された気体A3が第3連通路26を通過してMg粉末が投入されている第1反応室30に流入する。第1反応室30内では第2パルスパワー波照射器31のプラグ31aから短時間の第2パルスストリーマ放電が行われ、第1反応室30内に非熱平衡プラズマが発生する。この非熱平衡プラズマにより、気体A3に含まれるCO2とMgが直接反応し、酸化マグネシウム(MgO)、炭素(C)、一酸化炭素(CO)等が生成されることを確認した。すなわち、CO2の炭素固定がなされ、気体A3のCO2濃度が低減された。
【0043】
この反応により、反応熱が発生し、第1反応室30内の温度が約2000度~約3000度となった。第2パルスパワー波照射を停止した以降にも、第1反応室30内に気体A3が流入することで、CO2とMgとが連続的に反応することが観察された。
【0044】
このように、MgとCO2とがまだ反応していない状態では、第2パルスストリーマ放電をトリガーとしてMgとCO2とを反応させることが可能であり、MgとCO2との反応が開始して以降の反応については、発生する高温の反応熱により連続的に反応させ続けることができる。
【0045】
また、CO2とMgとの反応により、気体A3の温度が急激に上昇することに伴って、気体A3が急激に膨張するため、高温高圧の気体A4となり、下流側に噴出される。
【0046】
気体A4は、矢印で示されるように、第1反応室30の下流側から第2反応室32に流入しようとする。このとき、気体A4は、第1反応室30と第2反応室32との間に配設されているガスタービン発電装置41のタービン42を回転させる。この気体A4の通過に伴いタービン42が回転されることにより、ガスタービン発電装置41の発電装置43による発電が行われる。
【0047】
第2反応室32に流入した約2000度~約3000度の高温の気体A5には、第1反応室30における反応により生成され主にMgOとCからなる混合物の粒子が含まれており、気体A5中のCが第2反応室32に投入されているCaO粉末と反応し、炭化カルシウム(CaC2)、一酸化炭素(CO)等が生成されることを確認した。
【0048】
また、吸熱反応であるMgOとCとの反応により、気体A5の温度が急激に低下することに伴って、気体A5が急激に収縮するため、温度と圧力が低下した気体A6となり、下流側に噴出される。
【0049】
第3反応室33に流入した約1100度の高温の気体A6は、第3反応室33に投入されているCaCO3粉末と反応し、酸化カルシウム(CaO)、二酸化炭素(CO2)等が生成されることを確認した。
【0050】
また、吸熱反応であるCaCO3の熱分解反応により、気体A6の温度が急激に低下することに伴って、気体A6が急激に収縮するため、温度と圧力がさらに低下した気体A7となり、下流側に噴出される。
【0051】
第3反応室33から流出した気体A7は、矢印で示されるように、第4連通路50を通じてセパレータ60に導出される。セパレータ60では、気体A7に含まれるCOが分離されるため、高濃度のCOが含まれる気体A11と、COが分離された残りの気体である気体A8に分離される。高濃度のCOが含まれる気体A11は、矢印で示されるように、第7連通路71を通じて貯蔵タンク72に封入される。
【0052】
一方、COが分離された残りの気体である気体A8は、矢印で示されるように、第5連通路70に導出される。第5連通路70には、気体A8に含まれるCO2濃度を測定可能な図示しない濃度センサが設けられており、CO2濃度が一定(本実施例では、10vol%)以上である気体A9の場合には、三方向弁Vの第8連通路91側が閉弁状態となり、第5連通路70及び第6連通路81側が開弁状態となる。これにより、気体A9は、矢印で示されるように、三方向弁V、第6連通路81及び逆止弁82を通じて、第1連通路21に導出され、導入気体A1と共に上述したサイクルが繰り返し行われることとなる。すなわち、第3反応室33におけるCaCO3の熱分解反応により生成されたCO2の一部は、第1反応室30におけるMgとの反応により炭素固定される。
【0053】
また、CO2濃度が一定(本実施例では、10vol%)未満である残気体A10の場合には、三方向弁Vの第6連通路81側が閉弁状態となり、第5連通路70及び第8連通路91側が開弁状態となる。これにより、残気体A10は、点線矢印で示されるように、三方向弁V及び第8連通路91を通じて外部に排出される。
【0054】
以上説明したように、本実施例の炭素固定装置10では、加圧された二酸化炭素(CO2)リッチな導入気体A3に第2パルスパワー波照射器31からパルスパワー波を照射し、第2パルスストリーマ放電を生じせしめることで、CO2をマグネシウム(Mg)と反応させることができた。これにより、少なくとも酸化マグネシウム(MgO)と炭素(C)とが生成されることで炭素固定がなされるとともに、この反応は約2000度~約3000度の高温となることから、高温高圧の気体A4が発生するため、発電手段40による発電効率が高い。
【0055】
また、炭素固定装置10の第1反応室30におけるMgとCO2の反応で生じるCを第2反応室32において酸化カルシウム(CaO)と反応させて炭化カルシウム(CaC2)を生成することにより、第1反応室30における反応により生成されるCをリサイクルして廃棄物を減らすとともに、第1反応室30の反応熱を利用して第2反応室32におけるCaOとCの反応に必要な高い温度(約2000度)を得ることができるため、少ないエネルギでCaC2を得ることができる。詳しくは、第1反応室30における反応生成物である高温状態(約2000度~約3000度)のCが第2反応室32に投入されているCaOと反応することにより、第2反応室32を再加熱する必要なくエネルギ効率よくCaC2を得ることができる。
【0056】
また、第1反応室30におけるMgとCO2の反応による反応熱の温度が約2000度~約3000度であるため、第1反応室30における反応生成物であるCが第2反応室32におけるCaOとの反応に必要な温度に保たれやすい。
【0057】
また、炭素固定装置10は、炭酸カルシウム(CaCO3)をCaOとCO2に熱分解する第3反応室33を備えることにより、第3反応室33で得られたCO2を第1反応室30におけるMgとの反応により炭素固定できるとともに、第3反応室33で得られたCaOを第2反応室32におけるCaC2の生成の材料として利用できる。また、第3反応室33で得られたCO2は、化石燃料を燃焼させた排気ガスよりも不純物が少ないため、MgとCO2の反応効率を向上させることができる。
【0058】
また、第3反応室33は、第2反応室32の下流に配設され、第2反応室32における排熱を利用して第3反応室33におけるCaCO3の熱分解に必要な温度を得ることができるため、エネルギを有効活用できる。
【0059】
また、第3反応室33における反応生成物であるCO2を第1反応室30におけるMgとの反応により炭素固定することができるため、炭素固定装置10におけるCO2の生成と炭素固定の循環サイクルによりCO2の排出を抑えることができる。
【0060】
また、本実施例の炭素固定システム1は、海水を電解してCaCO3と水酸化マグネシウム(Mg(OH)2)を得る電解装置2と、電解装置2で得られたMg(OH)2または炭素固定装置10の第1反応室30で得られたMgOを基にCaC2により還元してMgとCO2を得る還元装置3と、還元装置3で発生したCO2をMgと反応させる第1反応室30の反応熱を利用してCaOと第1反応室30の反応により得られたCを反応させる第2反応室32と、電解装置2で得られたCaCO3を熱分解して第2反応室32で反応させるCaOを得る第3反応室33を備える炭素固定装置10を有するものであることから、資源として豊富な海水を電解して得られたCaCO3を熱分解して、CaC2の原料となるCaOを安価に得ることができるとともに、CaCO3の熱分解により生成されるCO2を第1反応室30におけるMgとの反応に利用することにより、CaC2の原料となるCを得ることができるため、CO2の生成と炭素固定の循環サイクルによりCO2の排出を抑えることができる。また、CaC2の原料となるCaOに限らず、炭素固定システム1を構成する還元装置3及び炭素固定装置10の各反応室における反応に必要なMg及びCaを安価に得ることができる。
【0061】
以上、本発明の実施例を図面により説明してきたが、具体的な構成はこれら実施例に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲における変更や追加があっても本発明に含まれる。
【0062】
例えば、前記実施例では、炭素固定装置10が還元装置3に適用されている構成として説明したが、これに限らず、所定のCO2濃度となる気体が発生する施設であれば、例えば火力発電所等の他の施設にも適用することが可能である。また、還元装置3で得られたCO2と図示しない化石燃料を燃焼させたCO2を含む排気ガスを混合した気体が炭素固定装置10に導入されてもよい。
【0063】
また、第1パルスパワー波照射器22によるパルスストリーマ放電が第1連通路21内で行われる構成として説明したが、これに限らず、冷却器23による冷却後の第2連通路24内で行われてもよく、圧縮機25による圧縮後の第3連通路26内で行われてもよく、第1反応室30に導入されるまでの範囲であれば限定されるものではない。
【0064】
また、圧縮機25は、ガスタービン発電装置41とは別置である構成として説明したが、これに限らず、気体A4によって回転されるガスタービン発電装置41のタービン42の回転力を利用して気体を圧縮する構成としてもよい。
【0065】
また、MgとCO2とを反応させるためのトリガーとして、短時間の第2パルスストリーマ放電を照射する構成として説明したが、これに限らず、第1反応室30内に温度センサを配置し、温度センサにより測定された温度が2000度以下となった場合に、都度第2パルスストリーマ放電を照射する構成としてもよい。さらに、MgとCO2とを連続的に反応させている期間に亘って、第2パルスストリーマ放電を連続的に照射する構成としてもよい。
【0066】
また、前記実施例では、CO2濃度が約70%以上の導入気体A1を第1反応室30に導入し、Mgとの反応により2000度~3000度の反応熱を得ることにより、これを利用して第1反応室30の下流側に配設される第2反応室32及び第3反応室33における反応に必要な温度を得る態様について説明したが、これに限らず、例えば導入気体A1のCO2濃度を約55%以上とすることにより、第1反応室30における反応熱を約1500度~約2000度の範囲としてもよい。これによれば、第1反応室30における反応熱を前記実施例と比べて相対的に低温とすることにより、炭素固定装置10の第1反応室30や発電手段40を構成する構造体の選択の範囲が広くなり、これらの構造を簡素化することができる。また、この場合、第1反応室30の下流側に配設される第2反応室32及び第3反応室33における反応に必要な温度を得るために、例えば各反応室内の温度をパルスストリーマ放電により高められるようになっていてもよい。
【0067】
また、CO2とMgとの反応による2000度~3000度の反応熱を、第2反応室32にてCとCaOとの反応に利用する例について説明したが、この反応熱を他の反応に利用することも可能である。例えば、この反応熱を利用しメタン等の炭化水素から、水素とアセチレンを得るものや水素と炭素、特にカーボンブラックを得るものが挙げられる。
【0068】
また、第3反応室33が第2反応室32の下流に配設される態様について説明したが、これに限らず、第3反応室を第2反応室の上流に配設し、第3反応室で得られたCaOを第2反応室におけるCaC2の生成の反応に直接利用できるようにしてもよい。
【0069】
また、
図3の変形例に示されるように、第1反応室30の下流側にガスタービン発電装置141のタービン142と第2反応室132が並列に配設され、タービン142の下流側には第3反応室133が配設され、第2反応室132と第3反応室133の下流側で第4連通路150において気体の流れが合流するように構成されていてもよい。また、第1反応室の下流側でタービン、第2反応室、第3反応室が並列に配設されていてもよい。
【0070】
また、ガスタービン発電装置のタービンは、第1反応室の下流側に配設される構成に限らず、気体の温度や圧力等の条件に応じて第2反応室や第3反応室の下流側に選択的に配設されてもよい。
【0071】
また、還元装置3における還元反応で得られるCaOやCを第2反応室32におけるCaC2の生成の反応に利用してもよい。このように、炭素固定システム1における各種反応に用いられる原料は、炭素固定システム1内の他の反応から得ることが好ましいが、炭素固定システム1の外部から得た原料を用いてもよい。
【0072】
また、第3反応室33から導出される気体A7の温度が十分に高温であれば、例えば第3反応室33の下流側に高温の気体A7を冷却する冷却器を配設し、冷却器による気体A7の冷却の際に発生した水蒸気によりタービンを回転させる蒸気タービン発電装置によって発電を行うようにしてもよい。この場合、導入気体A1の熱によって昇温された冷却器23を流れる水または水蒸気を蒸気タービン発電装置による発電に用いてもよい。
【0073】
また、第3反応室におけるCaCO3の熱分解反応は、第1反応室における反応熱または第2反応室における排熱を利用して行われるものであればよく、第3反応室が第1反応室または第2反応室と連続する流路を構成していなくてもよい。この場合、図示しない連通路により第3反応室と第1反応室を連通させ、第3反応室で得られたCO2を第1反応室における反応に直接利用できるようにしてもよい。
【0074】
加えて、第1反応室において反応に用いられるCO2は、還元装置3で得られたCO2や第3反応室で得られたCO2に限られず、他の手段によって得られたCO2であってもよい。
【符号の説明】
【0075】
1 炭素固定システム
2 電解装置
3 還元装置
10 炭素固定装置
30 第1反応室
32 第2反応室
33 第3反応室