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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-06-13
(45)【発行日】2025-06-23
(54)【発明の名称】建築工法及び組積造パネル
(51)【国際特許分類】
   E04G 21/14 20060101AFI20250616BHJP
   E04C 2/40 20060101ALI20250616BHJP
   E04C 2/26 20060101ALI20250616BHJP
【FI】
E04G21/14
E04C2/40 G
E04C2/26 Z
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2024566610
(86)(22)【出願日】2024-08-01
(86)【国際出願番号】 JP2024027535
【審査請求日】2024-11-11
(31)【優先権主張番号】P 2023137848
(32)【優先日】2023-08-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】523000178
【氏名又は名称】株式会社Aster
(74)【代理人】
【識別番号】110004222
【氏名又は名称】弁理士法人創光国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 正臣
(72)【発明者】
【氏名】ラジャセカラン・シャンタヌ
(72)【発明者】
【氏名】山本 憲二郎
【審査官】櫻井 茂樹
(56)【参考文献】
【文献】特開平04-099605(JP,A)
【文献】特開平04-315665(JP,A)
【文献】実開昭51-086641(JP,U)
【文献】特開2018-070693(JP,A)
【文献】特開2015-081300(JP,A)
【文献】特開平10-152803(JP,A)
【文献】特開平09-105231(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04G 21/14-21/22
E04B 2/56
E04B 2/84
E04C 2/40
E04C 2/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
枠体の内部に複数の組積材が配置された組積造パネルであって前記複数の組積材で構成された組積造壁の壁面に補強コーティング層が形成された組積造パネルを、建物内の所定の位置に移動させるステップを有し、
前記組積造パネルを移動させる前記ステップは、
前記枠体を保持する保持装置を前記枠体の一部に配置するステップと、
前記保持装置をワイヤ又は機器によって引き上げるステップと、
を含み、
前記保持装置はクランプであり、
前記クランプは、
前記枠体を両面側から挟み込む一対の当接部材と、
前記一対の当接部材に連結されたリンク機構であって、前記ワイヤ又は前記機器によって前記リンク機構が引き上げられ前記リンク機構の一部に上向きの力が加わった場合に前記一対の当接部材が互いに近づくように構成されているリンク機構と、
を有し、
前記保持装置をワイヤ又は機器によって引き上げる前記ステップは、前記リンク機構の前記一部を引き上げ、前記一対の当接部材で前記枠体を挟んだ状態で前記組積造パネルを持ち上げることを含み、
前記枠体は、前記枠体に予め形成され前記枠体の厚さ方向に突出する突出部又は前記枠体に別部材を取り付けることによって形成され前記枠体の厚さ方向に突出する突出部を有し、
前記保持装置を前記枠体の一部に配置する前記ステップは、前記突出部に、前記当接部材に形成された開口部又は凹部を係合させることを含む、
建築工法。
【請求項2】
前記突出部は、前記枠体に形成された孔に対して取り外し可能に挿入された部材によって形成される、
請求項1に記載の建築工法。
【請求項3】
前記組積造パネルを移動させる前記ステップは、前記組積造パネルの片面又は両面に保護板が配置された状態で、前記組積造パネルを移動させることを含む、
請求項1又は2に記載の建築工法。
【請求項4】
枠体の内部に複数の組積材が配置された組積造パネルであって前記複数の組積材で構成された組積造壁の壁面に補強コーティング層が形成された組積造パネルを、建物内の所定の位置に移動させるステップを有し、
前記組積造パネルを移動させる前記ステップは、
前記枠体を保持する保持装置を前記枠体の一部に配置するステップと、
前記保持装置をワイヤ又は機器によって引き上げるステップと、
を含み、
前記組積造パネルを移動させる前記ステップは、前記組積造パネルの片面又は両面に保護板が配置された状態で、前記組積造パネルを移動させることを含み、
前記組積造パネルを移動させる前記ステップは、
前記組積造壁に塗布された前記補強コーティング層の塗料の乾燥時間が経過する前に、前記保護板を前記組積造パネルに配置した状態で、前記組積造パネルを移動させることを含む、
築工法。
【請求項5】
前記組積造パネルを移動させる前記ステップは、前記保持装置で前記保護板の一部が押さえられた状態で、前記組積造パネルを移動させることを含む
請求項4に記載の建築工法。
【請求項6】
枠体の内部に複数の組積材が配置された組積造パネルであって前記複数の組積材で構成された組積造壁の壁面に補強コーティング層が形成された組積造パネルを、建物内の所定の位置に移動させるステップと、
前記組積造壁の壁面に補強コーティング層を形成するステップと、
を有し、
前記組積造壁の壁面に補強コーティング層を形成する前記ステップは、互いに隣接する前記組積材の間に前記組積材の壁面よりも突出した突出部を形成するように又は前記壁面よりも窪んだ凹陥部を形成するように充填された充填材の前記突出部又は前記凹陥部に前記補強コーティング層が密着するように、前記補強コーティング層を形成することを含む、
建築工法。
【請求項7】
枠体の内部に複数の組積材が配置された組積造パネルであって前記複数の組積材で構成された組積造壁の壁面に補強コーティング層が形成された組積造パネルを、建物内の所定の位置に移動させるステップと、
前記建物の所定の設置位置に前記組積造パネルを設置するステップと、
有し、
前記組積造パネルを設置する前記ステップは、前記枠体の上部に設けられた係止部材を前記建物の構造体の一部に固定することを含む、
建築工法。
【請求項8】
枠体と、
前記枠体の内部に配置された複数の組積材で構成され、前記枠体に固定された組積造壁と、
前記組積造壁の壁面に形成された補強コーティング層と、
を備え、
前記枠体の上部に、前記枠体の厚さ方向に突出した突出部であって、前記枠体を保持する保持装置の一部が係合する突起部が設けられている、
組積造パネル。
【請求項9】
枠体の内部に複数の組積材を配置し、前記複数の組積材で構成される組積造壁と前記枠体とを固定して組積造パネルを製造するステップと、
前記組積造パネルを床構造に配置するステップであって、前記床構造から上方に突出した支柱部材が前記組積造パネルの一部に挿入されるように前記組積造パネルを配置するステップと、
を有する、建築工法。
【請求項10】
前記組積造パネルを床構造に配置する前記ステップは、
第1方向に延在するように第1組積造パネルを配置することと、
第1方向に交差する第2方向に延在するように第2組積造パネルを配置することと、
を含み、
前記第1組積造パネルと前記第2組積造パネルとが隣接する位置において、前記床構造に設置された支持体に対して、前記第1組積造パネルと前記第2組積造パネルとを固定するステップをさらに有する、
請求項に記載の建築工法。
【請求項11】
支持体に対して前記第1組積造パネルと前記第2組積造パネルとを固定する前記ステップは、
記第1組積造パネルから前記支持体の一部に亘る領域と、
記第2組積造パネルから前記支持体の他の一部に亘る領域と
に補強コーティング層を形成することを含む、
請求項10に記載の建築工法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建築工法及び組積造パネルに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、複数のコンクリートブロックが積層された組積造壁を、床面、梁、及び左右一対の柱で囲まれた配置スペースに設ける工法が公知である(例えば、特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2011-220060号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の工法では、組積造壁をその組積造壁が設置される位置で形成する必要がある。しかしながら、従来の工法では組積造壁を製造する際の作業性に改善の余地がある。
【0005】
そこで、本発明は上記の点に鑑みてなされたものであり、組積材壁の製造及び設置を作業性よく行うことができる建築工法及び組積造パネルを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一形態の建築工法は、枠体の内部に複数の組積材が配置された組積造パネルであって前記複数の組積材で構成された組積造壁の壁面に補強コーティング層が形成された組積造パネルを、建物内の所定の位置に移動させるステップを有する。
【0007】
本発明の一形態の建築工法は、前記枠体の内部に前記複数の組積材を配置し、前記複数の組積材で構成される組積造壁と前記枠体とを固定して前記組積造パネルを製造するステップと、前記組積造壁の壁面に補強コーティング層を形成するステップと、をさらに有していてもよい。
【0008】
前記補強コーティング層を形成する前記ステップでは、前記組積造壁の壁面から前記枠体に亘る領域に前記補強コーティング層を形成してもよい。
【0009】
前記組積造パネルを移動させる前記ステップは、前記枠体を保持する保持装置を前記枠体の一部に配置するステップと、前記保持装置をワイヤ又は機器によって引き上げるステップと、を含んでいてもよい。
【0010】
前記保持装置はクランプであり、前記クランプは、前記枠体を両面側から挟み込む一対の当接部材と、前記一対の当接部材に連結されたリンク機構であって、前記ワイヤ又は前記機器によって前記リンク機構が引き上げられ前記リンク機構の一部に上向きの力が加わった場合に前記一対の当接部材が互いに近づくように構成されているリンク機構と、を有し、前記保持装置をワイヤ又は機器によって引き上げる前記ステップは、前記リンク機構の前記一部を引き上げ、前記一対の当接部材で前記枠体を挟んだ状態で前記組積造パネルを持ち上げることを含んでいてもよい。
【0011】
前記枠体は、前記枠体に予め形成され前記枠体の厚さ方向に突出する突出部又は前記枠体に別部材を取り付けることによって形成され前記枠体の厚さ方向に突出する突出部を有し、前記保持装置を前記枠体の一部に配置する前記ステップは、前記突出部に、前記当接部材に形成された開口部又は凹部を係合させることを含んでいてもよい。
【0012】
前記突出部は、前記枠体に形成された孔に対して取り外し可能に挿入された部材によって形成されてもよい。
【0013】
前記組積造パネルを移動させる前記ステップは、前記組積造パネルの片面又は両面に保護板が配置された状態で、前記組積造パネルを移動させることを含んでいてもよい。
【0014】
前記組積造パネルを移動させる前記ステップは、前記組積造壁に塗布された前記補強コーティング層の塗料の乾燥時間が経過する前に、前記保護板を前記組積造パネルに配置した状態で、前記組積造パネルを移動させることを含んでいてもよい。
【0015】
前記組積造パネルを移動させる前記ステップは、前記保持装置で前記保護板の一部が押さえられた状態で、前記組積造パネルを移動させることを含んでいてもよい。
【0016】
前記組積造壁の壁面に補強コーティング層を形成する前記ステップは、互いに隣接する前記組積材の間に前記組積材の壁面よりも突出した突出部を形成するように又は前記壁面よりも窪んだ凹陥部を形成するように充填された充填材の前記突出部又は前記凹陥部に前記補強コーティング層が密着するように、前記補強コーティング層を形成することを含んでいてもよい。
【0017】
前記建物の所定の設置位置に前記組積造パネルを設置するステップをさらに有し、前記組積造パネルを設置する前記ステップは、前記枠体の上部に設けられた係止部材を前記建物の構造体の一部に固定することを含んでいてもよい。
【0018】
本発明の一形態の組積造パネルは、枠体と、前記枠体の内部に配置された複数の組積材で構成され、前記枠体に固定された組積造壁と、前記組積造壁の壁面に形成された補強コーティング層と、を備える。
【0019】
前記枠体の上部に、前記枠体の厚さ方向に突出した突出部であって、前記枠体を保持する保持装置の一部が係合する突起部が設けられていてもよい。
【0020】
本発明の一形態の建築工法は、複数の組積材を配置し、前記複数の組積材で構成される組積造壁を製造するステップと、前記組積造壁の壁面に補強コーティング層を形成するステップと、建物内の所定の位置に前記組積造壁を移動させるステップと、を有する。
【0021】
本発明の一形態の建築工法は、枠体の内部に複数の組積材を配置し、前記複数の組積材で構成される組積造壁と前記枠体とを固定して組積造パネルを製造するステップと、前記組積造パネルを床構造に配置するステップであって、前記床構造から上方に突出した支柱部材が前記組積造パネルの一部に挿入されるように前記組積造パネルを配置するステップと、を有する。
【0022】
前記組積造パネルを床構造に配置する前記ステップは、第1方向に延在するように第1組積造パネルを配置することと、第1方向に交差する第2方向に延在するように第2組積造パネルを配置することと、を含み、本発明の一形態の建築工法は、前記第1組積造パネルと前記第2組積造パネルとが隣接する位置において、前記床構造に設置された支持体に対して、前記第1組積造パネルと前記第2組積造パネルとを固定するステップをさらに有していてもよい。
【0023】
支持体に対して前記第1組積造パネルと前記第2組積造パネルとを固定する前記ステップは、前記前記第1組積造パネルから前記支持体の一部に亘る領域と、前記前記第2組積造パネルから前記支持体の他の一部に亘る領域とに補強コーティング層を形成することを含んでいてもよい。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、組積材壁の製造及び設置を作業性よく行うことができる建築工法及び組積造パネルを提供できるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】第1実施形態の建築工法で製造される組積造パネルの構成を示す分解斜視図である。
図2図1の組積造パネルを正面側から見た図である。
図3】組積造壁と枠体との関係を説明するための模式図である。
図4】補強コーティング層の形状の一例を示す斜視図である。
図5】本発明の建築工法の一例を示すフローチャートである。
図6】第2実施形態の工法で使用される組積造パネル及び保持装置を示す斜視図である。
図7】開いた状態の保持装置を示す図である。
図8】閉じた状態の保持装置を示す図である。
図9】第1変形例を説明するための図である。
図10】第2変形例の工法を説明するための図である。
図11】第3変形例の工法を説明するための図である。
図12】保持装置の変形例を説明するための斜視図である。
図13】枠体の他の構成例を示す図である。
図14図12の保持装置及び図13の枠体の使用例を示す図である。
図15】組積造パネルの製造例を説明するための図であり、枠体に鉄筋が設けられた状態を示している。
図16図15の状態の枠体に組積材が配置された状態を示している。
図17】枠体の上部フレームが配置された状態を示している。
図18】補強コーティング層が設けられた状態を示している。
図19】建物構造の一例を示す図である。
図20】建物構造の他の一例を示す図である。
図21】床構造の斜視図である。
図22】床構造に支持体が取り付けられた状態を示す図である。
図23図22の状態の構造に組積造パネルが取り付けられた状態を示す図である。
図24】建物構造のさらに他の例を示す図である。
図25】床構造及び支持体を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
<第1実施形態>
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら説明する。まず、図1及び図2を参照して、本発明に係る建築工法で使用される組積造パネルについて説明する。図1は、第1実施形態の建築工法で製造される組積造パネルの構成を示す分解斜視図である。図2は、図1の組積造パネルを正面側から見た図である。図1では、補強コーティング層は、一部分が切除された状態で描かれている。図2では、構成が分かり易いように、補強コーティング層を省略した状態で組積造パネルが描かれている。図中の上下方向は鉛直方向に対応する。
【0027】
図1に示すように、本実施形態の組積造パネルS100は、組積造壁10と、枠体20と、補強コーティング層30とを備えている。組積造パネルS100は、建物の内壁又は外壁として使用される。
【0028】
(組積造壁)
組積造壁10は、水平方向及び鉛直方向に配置された複数の組積材11を有している。組積材11は、建築用のレンガ又はブロック材であり、一例として直方体である。組積材11の密度は、例えば1.5g/cm以上である。組積材11は、一例として例えばウレタンフォームのブロック材のような軽量のものではなく、比較的重量のあるブロック材である。組積材11どうしは例えばモルタルなどの充填材によって互いに固定され、1つの組積造壁10を形成する。なお、当然ながら、組積材11どうしは、鉄筋などの補強部材、表面に塗布されるプラスター、及び/又は目地モルタル等によっても互いに固定される。
【0029】
本発明では、密度が0.3g/cm以上の組積材が使用されてもよい。組積材11は、木材又はAAC発泡コンクリート等であってもよい。
【0030】
組積造壁10は、枠体20の内部に配置される。組積造壁10は、枠体20に対して固定される。これにより、組積造壁10と枠体20とが一体化した壁が形成される。組積造壁10を枠体20に固定するためには、組積造壁10と枠体20との間に充填されたモルタルを利用してもよいし、組積造壁10と枠体20とを機械的に連結させる連結具を利用してもよい。図2では、枠体20の内周が平面として描かれているが、枠体20の内周に凹部型の溝が形成され、組積造壁10の外周部がその溝に入り込む構造としてもよい。
【0031】
組積造パネルS100における補強部材(例えば鉄筋)の量は、例えば、組積造壁10の体積1mに対して、0kg超50kg以下である。組積造パネルS100における充填材の量は、例えば、組積造壁10の体積1mに対して、0t超2.5t以下(好ましくは0t超1.7t以下)である。補強部材及び/又は充填材の量をこのような範囲に調整することで、壁の強度の向上を図りつつ、壁の軽量化を実現し得る。
【0032】
(枠体)
枠体20は、組積造壁10を取り囲む四角形型に形成された部材である。枠体20は、上部フレーム21、下部フレーム22、及び一対のサイドフレーム23を有している。上部フレーム21及び下部フレーム22は水平方向に延在している。サイドフレーム23は、鉛直方向に延在している。これらのフレームはネジ等の固定具で互いに連結されていてもよいし、溶接等によって互いに固定されていてもよい。枠体20の材質は任意であり、例えばPC(プレキャスト・コンクリート)、金属、又は木であってもよい。
【0033】
枠体20は、また、複数の組積材を積み上げて最外周の4辺の組積材を高強度樹脂で接着しフレーム化したものであってもよい。
【0034】
図3は、組積造壁10と枠体20との関係を説明するための模式図である。枠体20の厚さ寸法d2は、組積造壁10の厚さ寸法d1(図3では図示を省略しているが補強コーティング層及び/又はプラスターの厚さも含む。壁面にモルタルが塗られる場合にはそのモルタルの厚さも含む。)よりも長い。枠体20の厚さ寸法d2が組積造壁10の厚さ寸法d1よりも長く、組積造壁10が図3のように枠体20の内部に配置される場合、次のような利点が得られる。図3の構成では、組積造壁10は、組積造壁10の前面が枠体20の前面よりも内側に位置するとともに組積造壁10の後面が枠体20の後面よりも内側に位置するように、枠体20の内部に配置されている。このような構成によれば、組積造壁10が枠体20の内側に配置され、組積造壁10の前面が枠体20の前面よりも外側に突出せず、また、組積造壁10の後面も枠体20の後ろ面よりも外側に突出しない。そのため、作業中や搬送中に組積造壁10が損傷しにくいという効果が得られる。なお、図3の構成は飽くまで本発明の一例であり、組積造壁10の壁面と枠体20の面とが同一面であることも、一形態において好ましい。
【0035】
(補強コーティング層)
補強コーティング層30は、組積造壁10の壁面に設けられて組積造壁10を補強するコーティング層である。補強コーティング層30は、組積造壁10の両面に形成されていてもよいし、片面に形成されていてもよい。本実施形態では補強コーティング層30は片面に形成されている。補強コーティング層30は、組積造壁10の壁面のうち一部にのみ形成されていてもよいし、全面に形成されていてもよい。
【0036】
補強コーティング層30を形成する塗料が組積造壁10に塗布され、乾燥することにより、組積造壁10に所定の厚さの補強コーティング層30が形成される。補強コーティング層30は、壁面に密着するように形成されることで、組積造壁10の剛性、強度及び変形能の少なくとも何れかを高める。補強コーティング層30は、例えば繊維強化樹脂の層である。補強コーティング層30は、具体的には、一種又は複数種の繊維材料を含む。補強コーティング層30は、硬化前は流動性を有し、組積造壁10に対して例えばローラ、コテ、刷毛又はスプレーにより塗布される。なお、塗料の硬化は、硬化剤による硬化であってもよいし、乾燥による硬化であってもよいし、乾燥と硬化剤の併用による硬化であってもよい。
【0037】
(補強コーティング層30の具体例)
補強コーティング層30の材質は、具体的には次のようなものであってもよい。補強コーティング層30は、塗料にガラス繊維が混入され、スラリ状を呈する。塗料としては、塗布面が単層のゴム状を呈するいわゆる弾性塗料であってもよい。塗料は、例えば、架橋性アクリルエマルジョンを主成分としたアクリル塗料が好ましい。ガラス繊維の直径は、例えば1μm~20μm(1μm以上20μm以下)である。ガラス繊維の長さは、例えば、1mm~20mmの範囲である。ガラス繊維をアクリル系塗料に混入することにより、ガラス繊維が塗料中に懸濁したスラリを得ることができる。塗料の重量に対するガラス繊維の重量比率は、例えば1%~40%である。
【0038】
補強コーティング層30を塗布する工程においては、一例として、プライマー材が組積造壁10に塗布されてもよい。塗料中にガラス繊維を懸濁させた塗料が、プライマーの乾燥後に塗布される。架橋性アクリルエマルジョンの塗料は、塗布後、組積造壁10の表面形態にかかわらず同壁に強固に付着する単層の層を形成する。このように形成された層は防水性に優れたものとなる。なお、塗料としては、アクリル塗料に代えてウレタン系の塗料が用いられてもよい。
【0039】
補強コーティング層30は、特性の異なる複数の層が積層されるように形成されていてもよい。補強コーティング層30は、組積材11の表面に直接形成されるのではなく、組積材11の表面に形成されたモルタル等の層上に形成されてもよい。
【0040】
補強コーティング層30を構成し得る繊維強化樹脂に含まれる樹脂の一部(好ましくは質量基準で過半量)又は全部は、弾性樹脂であることが好ましく、アクリル樹脂、シリコン樹脂、アクリルシリコン樹脂、ウレタン樹脂又は天然樹脂(ラテックス塗料)が好ましい。
【0041】
補強コーティング層30の全質量に対して、樹脂の含有量は、30~99質量%が好ましく、40~96質量%がより好ましく、55~93質量%がさらに好ましい。
【0042】
補強コーティング層30を構成し得る繊維強化樹脂に含まれる繊維材料は、無機繊維(上述のガラス繊維、炭素繊維、ボロン繊維等)でも、有機繊維(アラミド繊維、植物繊維等)でもよく、無機繊維が好ましい。繊維材料の一部(好ましくは質量基準で過半量)又は全部は、無機繊維が好ましく、ガラス繊維がより好ましい。繊維材料は、樹脂との密着性を調整するために表面処理されていても良い。
【0043】
補強コーティング層30の全質量に対して、繊維材料の含有量は、0.3~6質量%が好ましい。
【0044】
図4は、補強コーティング層の形状の一例を示す斜視図である。補強コーティング層30は、組積造壁10の壁面のみに形成されていてもよいが、組積造壁10の壁面から枠体20に亘る領域に形成されていてもよい。具体的には、図4のように、補強コーティング層30は、組積造壁10の壁面と、上部フレーム21とサイドフレーム23とに亘って形成されてもよい。図4では図示していないが、補強コーティング層30は、枠体20の壁面全周に接するように形成されていてもよい。このように、補強コーティング層30が組積造壁10と枠体20とに接していることで、組積造壁10が枠体20から外れにくくなる。補強コーティング層30は、組積造壁10の壁面と、枠体20の一部(例えば上部フレーム21)とに亘って形成されてもよい。
【0045】
(建築工法)
図5は、本発明の建築工法の一例を示すフローチャートである。以下、上述した組積造パネルS100を作業者が建物内に設置する工程について説明する。
【0046】
まず、ステップS1では、作業者が組積造パネルS100を製造する。このステップは、組積造パネルS100を用意するステップである。作業者は、枠体20の内部に、複数の組積材11を順次配置する。作業者は、組積材11どうしの間に例えばモルタルを充填する。鉛直方向又は水平方向に鉄筋が配置されてもよい。作業者は、また、組積造壁10の外周部に位置する組積材11と枠体20とを固定する。組積材11と枠体20との固定には、前述したようにモルタルが使用されてもよいし、モルタル以外の材料が使用されてもよい。このような工程により、組積造壁10が枠体20に固定された組積造パネルS100が製造される。
【0047】
ステップS1は、組積造パネルS100が設置される建物内又は建物付近で行われてもよいし、工場など建物とは別の場所で行われてもよい。
【0048】
次いで、ステップS2では、作業者は組積造壁10の壁面に補強コーティング層30を形成する。具体的には、作業者は、例えばローラ、コテ又はスプレーにより塗料を組積造壁10の壁面に塗布する。補強コーティング層30が形成されていない組積造パネルS100を複数用意し、各パネルの組積造壁10の壁面に、順次、塗料を塗布していってもよい。
【0049】
図4に示したような組積造パネルS100を製造する場合には、作業者はステップS2において、組積造壁10の壁面から枠体20に亘る領域にも補強コーティング層30を形成してもよい。この工程は、例えば、図4の補強コーティング層30の全領域(組積造壁10の壁面から枠体20に亘る領域)に対して塗料を塗布する手順で行われてもよいし、又は、最初に組積造壁10の壁面に塗料を塗布し、その後、組積造壁10の壁面と枠体20とを接続する領域に塗料を塗布するという手順によって行われてもよい。
【0050】
次いで、ステップS3では、作業者は、補強コーティング層30が形成された組積造パネルS100を、建物内の所定の位置に移動させる。「所定の位置」は、建物内における組積造パネルS100が設置される設置位置であってもよいが、本実施形態では、「所定の位置」は、一例として、組積造パネルS100が設置位置まで運ばれる途中で組積造パネルS100が一時的に載置される部材置き場である。
【0051】
組積造パネルS100を移動させる手段は任意であるが、作業者は、例えばワイヤ又は所定の機器で組積造パネルS100の枠体20を保持した状態で組積造パネルS100を移動させる。組積造壁10ではなく枠体20を保持した状態で組積造パネルS100を移動させることで、組積造壁10に過度の力が加わらず、組積造パネルS100を良好に移動させることができる。また、このような移動工程によれば、モルタルや補強コーティング層30が十分に乾燥しておらず組積造壁10の強度が建材として不十分な状態であっても、組積造パネルS100を移動できる。そのため、作業効率を向上させることができる。
【0052】
次いで、ステップS4では、作業者は、目的の設置位置に組積造パネルS100を設置する。組積造パネルS100の設置は、例えば、枠体20を建物の構造部である梁又は柱に対して固定することによって行われる。
【0053】
(効果)
以上一連の工程により、組積造パネルS100が製造され、製造された組積造パネルS100が建物内の所定の設置位置に設置される。本実施形態の建築工法では、従来の工法のように複数の組積材11を目的の設置位置に直接設けるのではなく、設置位置とは別の場所で製造された組積造パネルS100を移動させる方法である。そのため、組積材壁の製造及び設置を作業性よく行うことができる。
【0054】
組積造パネルS100では、補強コーティング層30が組積造壁10の壁面に設けられており、この補強コーティング層30が組積材11どうしの固定強度を向上させている。このような補強コーティング層30が設けられておらず、組積造壁10内に例えば多数の鉄筋などを配置して組積材11どうしの固定強度を向上させる構造では、組積造パネルS100の重量が増大することとなる。これに対して、補強コーティング層30を利用する本実施形態の構成によれば組積造パネルS100が軽量化する。よって、組積造パネルS100の取扱性が良好になるという効果が得られる。なお、効果に関する当該記載は、本発明において鉄筋を使用することを排斥するものではない。
【0055】
図5のフローチャートは、組積造パネルS100の製造ステップ、補強コーティング層30の形成ステップ、及び組積造パネルS100の設置ステップを含んでいるが、本発明の建築工法においてはこれらのステップは必須ではない。
【0056】
<第2実施形態>
図6は、第2実施形態の工法で使用される組積造パネル及び保持装置を示す斜視図である。図7は、開いた状態の保持装置を示す図である。図8は、閉じた状態の保持装置を示す図である。第1実施形態で説明したように、本発明では組積造パネルS100が移動される。組積造パネルS100は、図6に示すような保持装置50で引き上げられて移動されてもよい。
【0057】
図6の枠体20は、上部フレーム21の中央部分に突出部25を有している。突出部25は、上部フレーム21の側面に設けられている。突出部25は、枠体20の厚さ方向に突出している。突出部25は、一例として棒状の部材である。図6の例では、上部フレーム21の両側面に突出部25がそれぞれ設けられている。
【0058】
なお、図6では一対の突出部25が上部フレーム21の一箇所に設けられているが、複数の突出部25が複数の箇所に設けられていてもよい。突出部25は、枠体20のうちの上部フレーム21以外の位置に設けられていてもよい。
【0059】
(保持装置)
保持装置50は、組積造パネルS100の枠体20を保持するクランプである。保持装置50は、一対の当接部材51と、リンク機構55とを有している。
【0060】
一対の当接部材51は、図7に示すように、枠体20を両面側から挟み込むことができるように、互いに対向して配置されている。各当接部材51の構造は同じであるので、以下、一方の当接部材51についてのみ説明する。当接部材51は、本実施形態ではコ字型に形成されており、当接部52と、側部53とを有している。
【0061】
当接部52は、枠体20の側面に当接する当接面を形成する部分である。当接面は例えば平面である。当接部52には、突出部25が挿入される貫通孔52hが形成されている。
【0062】
側部53は、当接部52と一体的に形成されている。側部53は、図7に示すように、支持ピンP3によって第2リンク部材57(詳細下記)に支持されている。側部53は、具体的には、支持ピンP3周りに回動可能に支持されている。側部53の円弧状の長孔53hと、第2リンク部材57に設けられ、長孔53h内に位置する突起57aとにより、当接部材51の回動範囲が制限されている。具体的には、回動範囲は、当接部52の当接面が枠体20の側面に対向するような向きに制限されている。
【0063】
長孔53hは、図7に示すように、水平面に対する円弧の中心角a1が一例として60°以下に形成されていてもよく、好ましくは、中心角a1が45°以下に形成されている。このような構成の場合、当接部材51の自重により当接部材51が支持ピンP3周りに回転したとしても、当接部52の面は鉛直上方又は鉛直下方に向くことはなく、当接部52の面は水平面に対して例えば45°に傾斜した状態となる。したがって、図7の状態から図8の状態のように一対の当接部材51で枠体20を挟み込む際に、当接部材51を取り付けやすいという利点がある。
【0064】
リンク機構55は、一対の当接部材51を支持している。リンク機構55は、図7及び図8に示すように伸縮可能に構成されている。リンク機構55が縮んだ図7の状態では、当接部材51が互いに離れた状態となる。リンク機構55が伸びた図8の状態では、当接部材51が互いに近づいた状態となる。
【0065】
リンク機構55は、具体的には、第1リンク部材56と、第2リンク部材57とを有している。第1リンク部材56及び第2リンク部材57はそれぞれ一対ずつ設けられている。
【0066】
第1リンク部材56は板状の部材である。第1リンク部材56は直線型の輪郭形状を有している。第1リンク部材56は、支持ピンP1によって、互いに回動可能に連結されている。支持ピンP1には、ワイヤSが固定される。
【0067】
第2リンク部材57も板状の部材である。第2リンク部材57はJ字型の輪郭形状を有している。第2リンク部材57は、支持ピンP2によって、第1リンク部材56に連結されている。また、一方の第2リンク部材57と他方の第2リンク部材57とは、支持ピンP3によって互いに回動可能に連結されている。第2リンク部材57の端部には、当接部材51が取り付けられている。
【0068】
このように構成された保持装置50は次のように動作する。保持装置50の動作について、作業者が保持装置50を使用する手順とともに以下に説明する。
【0069】
まず、作業者は、保持装置50を枠体20の一部に配置する。具体的には、作業者は、枠体20の突出部25が貫通孔52hに挿入されるように、保持装置50を上部フレーム21に取り付ける。
【0070】
次いで、作業者がワイヤSを動かすための不図示の機器を操作して、ワイヤSが引き上げられると、支持ピンP1に上向きの力が加わってリンク機構55も引き上げられる。すると、図8のようにリンク機構55が変形し、一対の当接部材51が互いに近づくように移動する。このように本実施形態のリンク機構55では、リンク機構55の一部に上向きの力が加わった場合に、一対の当接部材51が枠体20を両面側から挟み込むこととなる。本構成によれば、突出部25が貫通孔52hから抜け落ちないようになっていることに加えて、一対の当接部材51が枠体20を挟み込む。このように一対の当接部材51で枠体20を挟んだ状態でパネルを持ち上げる工程によれば、組積造パネルS100が落下しないように組積造パネルS100を良好に移動させることができる。
【0071】
特に、この例の保持装置50は、例えばモータや油圧などの駆動源を利用して一対の当接部材51で枠体20を挟み込むものではなく、組積造パネルS100を引き上げる力を利用して一対の当接部材51を動かす構造である。そのため、簡単な構成で実現でき、モータ等の駆動源も不要である。
【0072】
上記では、保持装置50がワイヤSで引き上げられることを例示したが、ワイヤSではなく、例えば建築現場で使用される機器の一部(例えば機器のアーム部)がリンク機構55の一部に連結され、その機器によって保持装置50が引き上げられてもよい。
【0073】
図7及び図8では、貫通孔52hに突出部25が挿入される(換言すれば、突出部25に貫通孔(開口部)が係合される)ことを例示したが、保持装置は、貫通孔52hではなく例えば当接部材51に形成された凹部に突出部25が挿入され、突出部25が凹部に係合する構成を有していてもよい。
【0074】
<変形例1>
図9は、第1変形例を説明するための図である。図9(a)の組積造パネルS101は、充填材18及び補強コーティング層30を有している。充填材18は、互いに隣接する組積材11どうしの間に充填されており、例えばモルタルである。
【0075】
充填材18は、組積材11の面よりも突出した突出部18aを形成するように充填されている。組積材11の面からの突出部18aの突出長さは、例えば組積材11の厚さの5%以上である。具体例として、組積材11の厚さが150mmの場合、突出部18aの突出長さは7.5mm以上である。突出部18aの突出長さは、また、例えば組積材11の厚さの20%以下である。具体例として、組積材11の厚さが150mmの場合、突出部18aの突出長さは30mm以下である。突出長さが短すぎないため、補強コーティング層30のアンカー効果が十分に得られやすい。また、突出長さが上記長すぎないため、充填材18を配置する工程の作業性が低下しにくい。
【0076】
補強コーティング層30は、突出部18aに密着するように形成されている。このように補強コーティング層30が突出部18aに密着するように形成されている場合、アンカー効果により、補強コーティング層30が組積造壁10から剥離しにくくなる。
【0077】
図9(b)の組積造パネルS102のように、充填材18は、組積造壁10の壁面よりも窪んだ凹陥部18bを形成するように充填されていてもよい。そして、補強コーティング層30は、この凹陥部18bに密着するように形成されていてもよい。このような構成の場合も、補強コーティング層30の一部が凹陥部18bに入り込むように形成されるため、補強コーティング層30が組積造壁10から剥離しにくくなる。
【0078】
<変形例2>
図10は、第2変形例の工法を説明するための図である。本発明の一形態の建築工法では、組積造パネルS100を移動させるステップにおいて、組積造パネルS100の壁面に保護板70が配置された状態で、組積造パネルS100を移動させてもよい。図10の例では、組積造パネルS100の両面にそれぞれ保護板70が配置される。
【0079】
保護板70は、組積造壁10の壁面を覆うサイズに形成されている。保護板70を固定する構造は特定のものに限定されない。保護板70は、例えば、図示しない固定具(例えばネジ)によって枠体20に固定される。保護板70は、上部に凹部70aが形成されており、この凹部70aに突出部25が嵌ることによって、水平方向の保護板70の位置が規定されてもよい。図10では、1枚の保護板70につき、一箇所の突出部25で位置規定がされている例が描かれているが、保護板70は複数の突出部25によって位置が規定されていてもよい。また、複数の位置において固定具が保護板70を固定していてもよい。
【0080】
図8に示したように、保持装置50の一対の当接部材51は枠体20を挟み込むように構成されているので、保護板70は、一対の当接部材51によって枠体20とともに挟み込まれるような形状に形成されていてもよい。このように、保持装置50が保護板70を押さえる部材を兼用する構成によれば、保護板70を押さえる部材を省略する、又は、部材の数を削減することができる。
【0081】
組積造パネルS100は、組積造壁10に塗布された補強コーティング層30の塗料の乾燥時間が経過する前に、すなわち、塗料が乾燥して硬化する前に移動されてもよい。このように移動させる場合であっても、保護板70が設けられていることにより、移動中に例えば何らかの部材が組積造壁10にぶつかって組積造壁10が損傷するといった問題が生じにくい。
【0082】
<変形例3>
図11は、第3変形例の工法を説明するための図である。本発明の一形態の組積造パネルS103は、枠体20の一部に形成された係止部材21aを含んでいてもよい。係止部材21aは、上部フレーム21から上方に突出した突出部である。
【0083】
このような組積造パネルS103を建物の所定の設置位置に設置するステップにおいて、枠体20の係止部材21aを、建物の構造体の一部に固定してもよい。具体的には、係止部材21aを梁又は天井(上階が存在する場合は天井が上階の床であってもよい)の一部に固定してもよい。このような構成によれば、係止部材21aが建物の構造体の一部に固定されるので、地震発生時等であっても、組積造パネルが転倒しにくくなる。
【0084】
<変形例4>
図12は、保持装置の変形例を説明するための斜視図である。図13は、枠体の他の構成例を示す図である。図14図12の保持装置及び図13の枠体の使用例を示す図である。図12では保持装置のうち当接部材51のみが示されているが、他の構成は上述した保持装置と同様である。
【0085】
図12に示すように、当接部材51には、移動規制部材54が設けられていてもよい。移動規制部材54は、当接部52から離れた位置に設けられている。移動規制部材54の形状は任意であるが、この例では、板状である。移動規制部材54は、当接部52と平行に配置された板状部材である。
【0086】
図13に示すように、枠体20は、例えば図10の突出部25が設けられた位置に対応する位置に貫通孔21hを有していてもよい。貫通孔21hは、上部フレーム21の厚さ方向に延在している。貫通孔21hに対しては、枠体20とは別部材である部材27が挿入される。部材27の形状は任意であるが、この例では例えば棒状である。部材27は、貫通孔21hに対して取り外し可能に挿入される。
【0087】
図14に示すように、部材27が上部フレーム21の貫通孔21hに挿入されることにより、上部フレーム21の両面から飛び出した部分が突出部(図10の突出部25参照)として機能する。そして、このように部材27が配置された上部フレーム21に対して保持装置の当接部材51が取り付けられる。図13のような構成の場合、部材27の移動を規制するものが無いと、部材27が抜け落ちる可能性がある。しかしながら、当接部材51では移動規制部材54が設けられており、図14のような保持状態で、移動規制部材54の作用によって部材27の水平方向への移動が規制される。したがって、枠体20を引き上げている最中に誤って部材27が抜け落ちることが防止される。また、図13及び図14のような構成は、組積造パネルの移動後は部材27を外すことができるので、枠体20に対して予め突起部を形成しておく必要がなく、枠体20が嵩張ることもない。
【0088】
<変形例5>
保持装置には一対の当接部材51が設けられているが、例えば保持装置50が引き上げられている途中で、不測要因によって一対の当接部材51が開いてしまうことが想定される。このようなことを防止するために、対向する当接部材51どうしを連結するフック等の連結部材が設けられていてもよい。
【0089】
<組積造パネルの製造の一例>
組積造パネルは、次のような工程で製造されてもよい。図15は、組積造パネルの製造例を説明するための図であり、枠体に鉄筋が設けられた状態を示している。図16は、図15の状態の枠体に組積材が配置された状態を示している。図17は、枠体の上部フレームが配置された状態を示している。図18は、補強コーティング層が設けられた状態を示している。
【0090】
図15では、一例として、上部フレームが無い状態の枠体120’が描かれている。枠体120’は、施工現場で形成されたコンクリートの部材であってもよいし、プレキャスト・コンクリートであってもよい。このような枠体120’に対して、作業者は、まず、鉄筋141を配置する。鉄筋141は、棒状の補強部材である。鉄筋141は、枠体120(図17)の内側の高さ方向の長さよりも長い。この例では、鉄筋141の下端が、枠体の下部フレームに固定される。鉄筋141は鉛直方向に延在している。
【0091】
次いで、作業者は、図16に示すように、枠体120’内に組積材11を配置する。互いに隣接する組積材11の間に、作業者は、一例としてモルタルを充填する。なお、モルタルの充填は必須ではなく、モルタルを充填することなく複数の組積材11が配置されてもよい。鉛直方向に積層された複数の組積材11には、少なくとも1本の鉄筋141が通される。
【0092】
次いで、作業者は、図17に示すように、枠体120’に上部フレーム121を取り付ける。上部フレーム121は、この例では、左右のサイドフレーム123の上部に載せられる。これにより、1つの閉じた枠体120が形成される。
【0093】
上部フレーム121には、複数の鉄筋141が挿入される複数の穴が形成されていてもよい。上部フレーム121が図17のように配置された状態で、複数の鉄筋141の上端が上部フレーム121の穴に入り込む構成によれば、複数の鉄筋141が安定的に固定され、組積造パネルの強度及び剛性が向上するという利点がある。
【0094】
次いで、作業者は、複数の組積材で構成された組積造壁の片面又は両面に図18に示すように、補強コーティング層130を形成する。補強コーティング層130は、組積造壁と枠体120との両方に接するように形成されていること(つまり、組積造壁から枠体120に亘る領域に補強コーティング層130が形成されていること)が、一形態において、好ましい。補強コーティング層130の材質は、上述した実施形態のものと同一である。
【0095】
なお、以上では、鉄筋141を配置する例を説明したが、鉄筋141を使用せずに複数の組積材11が枠体内に積み上げられてもよい。この場合、モルタルが、組積材11どうしの間及び/又は組積材11と枠体120との間に充填されてもよい。もっとも、このようなモルタルは使用されなくてもよい。
【0096】
組積材として、例えば、高さ寸法や幅寸法が予め所定の値に設定された既製品のブロックを利用する場合、枠体の内部に複数のブロックが並べられた状態でブロックと枠体との間に隙間が生じることが想定される。この理由は、例えば幅方向で言えば、枠体の内側の長さがブロックの整数倍の長さではなく、複数のブロックを並べた際にブロックの端と枠体の内側との間にブロック1つ分未満の隙間が生じるためである。このような場合、この隙間を、モルタル又は補強コーティング層の材料で充填してもよいし、又は、隣接するブロックの間に充填するモルタルの量を増やし、目地の寸法を長くすることで、幅を調整してもよい。なお、ブロックとブロックとの間に、繊維材などの詰め物を配置して隙間の調整をしてもよく、この繊維材に対して補強コーティング層の材料が塗布されてもよい。
【0097】
<建物構造の一例>
図19は、建物構造の一例を示す図である。図19の建物構造は、組積造パネルS100と、床構造80とを備えている。
【0098】
組積造パネルS100を設置する際、組積造パネルS100が転倒してしまうおそれがある。そこで、図19の構成では、組積造パネルS100を支える部材が設けられている(詳細下記)。床構造80は、一例として、スラブ床である。床構造80は、可搬の部材であってもよいし、建物の一部であってもよい。床構造80には、複数の支柱部材85が設けられている。
【0099】
支柱部材85は、床材81の上面(床面)から突出するように設けられている。支柱部材85は、一例として棒状の部材である。支柱部材85は、床材81に一体的に設けられている必要はなく、床材81に形成された穴に差し込まれたものであってもよい。
【0100】
組積造パネルS100の下面には、図19に示すように、支柱部材85が入り込む穴101hが形成されている。組積造パネルS100は、それぞれの穴101hに支柱部材85が入り込むように、床構造80の上面に設置される。このような構成によれば、支柱部材85が組積造パネルS100の一部に入り込んで組積造パネルS100を支えるため、組積造パネルS100の転倒が防止される。
【0101】
なお、図19では、組積造パネルS100の側部付近において支柱部材85が穴101hに入り込んだ状態が示されているが、後述するように、床構造80の角部に支持体90が配置される場合には、組積造パネルS100の側部付近において支柱部材85は組積材パネルS100に入り込んでいなくてもよい。
【0102】
上記の建物構造を製造する場合、作業者は、例えば次のステップを行う。作業者は、まず、枠体の内部に複数の組積材を配置し、複数の組積材で構成される組積造壁と枠体とを固定して組積造パネルを製造するステップを行う。次いで、作業者は、その組積造パネルを床構造に配置するステップであって、床構造から上方に突出した支柱部材が組積造パネルの一部に挿入されるように組積造パネルを配置するステップを行う。後工程として、例えば、組積造パネルから床構造に亘る領域に補強コーティング層が形成されてもよく、これにより両部材がより強固に固定される。
【0103】
(角部が支持体によって補強された建物構造)
図20は、建物構造の他の一例を示す図である。図21は、床構造の斜視図である。図22は、床構造に支持体が取り付けられた状態を示す図である。図23は、図22の状態の構造に組積造パネルが取り付けられた状態を示す図である。
【0104】
建物構造S200は、組積造パネルS100と、床構造80と、支持体90とを備えている。組積造パネルは符号S100で示されているが、本発明に係る組積造パネルであれば、組積造パネルは、必ずしも図1及び図2等に示した組積造パネルS100に限定されるものではない。組積造パネルS100の片面に補強コーティング層が形成されていてもよいし、組積造パネルS100の両面に補強コーティング層が形成されていてもよい。
【0105】
床構造80は、床材81を有している(図21)。床材81は、一例として四角形である。床材81の上面には、床材81の辺に沿うように、組積造パネルS100が配置される。
【0106】
支持体90は、床構造80の角部に配置される部材である。それぞれの角部に配置された支持体90は互いに同じ構造であるため、以下、一箇所の角部の構造を説明する。支持体90は、一例として、水平方向の断面形状がL字型の部材である。図20の支持体90-1を見ると理解されるように、支持体90は、第1組積造パネルS100-1と第2組積造パネルS100-2とが隣接する部分において、第1組積造パネルS100-1と第2組積造パネルS100-2とに接して両パネルを支持する。具体的には、第1組積造パネルS100-1から支持体90に亘る領域に補強コーティング層が形成されることにより、第1組積造パネルS100-1と支持体90とが互いに固定されてもよい。例えば、第1組積造パネルS100-1と支持体90との間に充填されたモルタルによって第1組積造パネルS100-1と支持体90とが互いに固定されてもよい。第2組積造パネルS100-2と支持体90についても同様である。
【0107】
このように、互いに隣接する組積造パネルどうしを支持する支持体90が設けられている構成によれば、構造を良好に補強することができる。つまり、パネルどうしが交差する箇所においては、応力集中が生じやすいため、本実施形態のような支持体90が設けられていることで、建物構造S200の角部における損傷が生じにくくなる。
【0108】
支持体90は、予め製造され、施工現場に運搬されたものであってもよく、このような支持体90を用いることで、施工現場の作業者の技術の巧拙によって品質にバラツキが生じることが防止され、均質化を図ることができる。予め形成された支持体90は、下面に支柱部材85が挿入される穴が形成されたものであってもよい。支持体90は、また、施工現場において、例えば、型枠にコンクリートを流し込んで形成されるものであってもよい。
【0109】
(建物構造S200の製造)
建物構造S200は、次のような工程で製造されてもよい。以下では、複数の支柱部材85が使用されることを例示するが、本発明において複数の支柱部材85を使用することは必須ではない。
【0110】
まず、作業者は、床構造80に複数の支柱部材85を取り付ける(図21)。次いで、作業者は、床構造80の角部に支持体90を配置する(図22)。
【0111】
その後、作業者は、組積造パネルS100を床構造80に配置する。作業者は、具体的には、一例として、第1方向(床構造80の長辺方向)に延在するように第1組積造パネルS100-1を配置する。また、作業者は、第2方向(短辺方向)に延在するように第2組積造パネルS100-2を配置する。同様に、残りの2辺においても、組積造パネルS100を配置する。
【0112】
次いで、作業者は、第1組積造パネルS100-1と第2組積造パネルS100-2とが隣接する位置(角部)において、支持体90に対して、第1組積造パネルS100-1と第2組積造パネルS100-2とを固定する。固定は、前述のとおり例えばモルタルによる固定であってもよいし、補強コーティング層による固定であってもよいし、それらの併用による固定であってもよい。
【0113】
補強コーティングによる固定の作業例としては、作業者は、第1組積造パネルS100から支持体90の一部に亘る領域に補強コーティング層を形成するとともに、第2組積造パネルS100-2から支持体90の他の一部に亘る領域に補強コーティング層を形成してもよい。当然ながら、組積造パネルS100の両面において、組積造パネルS100と支持体90とが補強コーティング層によって固定されてもよい。
【0114】
(建物構造の変形例)
図24は、建物構造の他の例を示す図である。図25は、床構造及び支持体を示す図である。建物構造S201は、床構造80と、支持体90’とを備えている。建物構造S201は、建物構造S200と同様、組積造パネルも備えているが、図24では図示は省略されている。
【0115】
支持体90’は、上下に延在する支柱部分93(図25)が支持体90のものよりも細く形成されている。支柱部分93の上部には、第1横方向延長部91aと、第2横方向延長部91bとが設けられている。支柱部分93の下部にも同様に、第1横方向延長部92aと、第2横方向延長部92bとが設けられている。
【0116】
第1横方向延長部91aと第2横方向延長部91bとは、一例として、互いに直交するような向きに延在している。第1横方向延長部92a及び第2横方向延長部92bも同様の構成である。第1横方向延長部91aの支柱部分93からの水平方向の突出長さは、例えば、組積材11の水平方向の長さと同一又は略同一である。第2横方向延長部91bも同様の構成である。支持体90’は、支柱部分93が支持体90のものよりも細く形成されているので、支持体90と比較して部材の軽量化、及び、低コスト化に有利である。
【0117】
図24に示すように、第1横方向延長部91a及び第2横方向延長部91bに沿うように、複数の組積材11が鉛直方向に積層されてもよい。積層された複数の組積材11は、例えばモルタル等によって互いに固定されてもよい。複数の組積材11は、また、例えばモルタル等又は補強コーティング層によって支持体90’にも固定されてもよい。
【0118】
複数の組積材11が配置された一方の支持体90’と他方の支持体90’に挟まれるように、組積造パネルが配置され、組積造パネルと各支持体90’と組積材11とが固定されることで、強度および剛性が向上した建物構造を製造することができる。組積造パネルと支持体90’と組積材11との固定は、モルタル又は補強コーティング層によって実現されてもよい。
【0119】
以上、本発明を実施の形態を用いて説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施の形態に記載の範囲には限定されず、その要旨の範囲内で種々の変形及び変更が可能である。例えば、以上においては組積造壁が枠の内部に製造される例について述べたが、枠の使用は必須ではない。例えば、建築工法は、複数の組積材を配置し、複数の組積材で構成される組積造壁を製造するステップと、組積造壁の壁面に補強コーティング層を形成するステップと、所定の位置に前記組積造壁を移動させるステップと、を有する建築工法であってもよい。
【0120】
枠を使用せずに組積造壁を製造し、その壁面に補強コーティング層を形成した後、組積造壁(補強コーティング層を有する組積造壁)を平置きにした状態で保管または移動させてもよい。複数の組積造壁(組積造パネルとなっていてもよい。)を保管または移動させる際は、直接または保護材(シートや板等)等を挟んで平積みしていてもよい。
【0121】
本明細書においては、例えば、装置の全部又は一部は、任意の単位で機能的又は物理的に分散・統合して構成することができる。また、複数の実施の形態の任意の組み合わせによって生じる新たな実施の形態も、本発明の実施の形態に含まれる。組み合わせによって生じる新たな実施の形態の効果は、もとの実施の形態の効果を併せ持つ。
【符号の説明】
【0122】
10 組積造壁
11 組積材
18 充填材
18a 突出部
18b 凹陥部
20 枠体
21 上部フレーム
21a 係止部材
22 下部フレーム
23 サイドフレーム
25 突出部
30 補強コーティング層
31 突出部
50 保持装置
51 当接部材
52 当接部
52h 貫通孔
53 側部
53h 長孔
54 移動規制部材
55 リンク機構
56 第1リンク部材
57 第2リンク部材
57a 突起
70 保護板
70a 凹部
80 床構造
81 床材
85 支柱部材
85 複数の支柱部材
90 支持体
90’ 支持体
90-1 支持体
91a 第1横方向延長部
91b 第2横方向延長部
92a 第1横方向延長部
92b 第2横方向延長部
93 支柱部分
101h 穴
120 枠体
120’ 枠体
121 上部フレーム
123 サイドフレーム
130 補強コーティング層
141 鉄筋
P1~P3 支持ピン
S ワイヤ
S100、S101、S102、S103 組積造パネル
S200、S201 建物構造
【要約】
この建築工法は、枠体の内部に複数の組積材が配置された組積造パネルであって前記複数の組積材で構成された組積造壁の壁面に補強コーティング層が形成された組積造パネルを、建物内の所定の位置に移動させるステップを有する。


図1
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