(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-06-13
(45)【発行日】2025-06-23
(54)【発明の名称】四塩化チタンの製造方法及びスポンジチタンの製造方法
(51)【国際特許分類】
C01G 23/02 20060101AFI20250616BHJP
C22B 34/12 20060101ALI20250616BHJP
C22B 5/04 20060101ALI20250616BHJP
【FI】
C01G23/02 D
C22B34/12 102
C22B5/04
(21)【出願番号】P 2021159718
(22)【出願日】2021-09-29
【審査請求日】2024-06-12
(73)【特許権者】
【識別番号】390007227
【氏名又は名称】東邦チタニウム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000523
【氏名又は名称】アクシス国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】児玉 康成
(72)【発明者】
【氏名】丸山 雄市
【審査官】佐藤 慶明
(56)【参考文献】
【文献】特開昭50-125996(JP,A)
【文献】特開昭48-079195(JP,A)
【文献】特開2015-140268(JP,A)
【文献】特開2020-139186(JP,A)
【文献】特開昭46-006710(JP,A)
【文献】特公昭47-018529(JP,B1)
【文献】特開2000-109322(JP,A)
【文献】特開平02-026828(JP,A)
【文献】特開2017-014463(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01G 23/02
C01B 32/00 - 32/991
C22B 1/00 - 61/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
塩化炉内で、炭素及び二酸化チタンを含有する原料に、塩素ガスを供給して流動層を形成し、四塩化チタンを生成する生成工程を含み、
前記生成工程では、
前記流動層が二酸化ケイ素を更に含み、
前記流動層中の、前記炭素(a)と前記二酸化チタン(b)とのモル比(a/b)が、2.0以上3.5以下であり、
前記流動層中の前記炭素及び前記二酸化チタンの合計含有量が、65質量%以上85質量%以下であ
り、
前記流動層中の前記炭素、前記二酸化チタン及び前記二酸化ケイ素の合計含有量が、98質量%以上である、四塩化チタンの製造方法。
【請求項2】
前記生成工程では、二酸化炭素及び一酸化炭素が生成され、
前記二酸化炭素(c)と前記一酸化炭素(d)とのモル比(c/d)が2.0以上である、請求項
1に記載の四塩化チタンの製造方法。
【請求項3】
金属製還元反応容器に、請求項1
又は2に記載の四塩化チタンの製造方法で得られた四塩化チタンと溶融マグネシウムとを投入しスポンジチタン塊を製造する還元工程を含む、スポンジチタンの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、四塩化チタンの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
四塩化チタンは、スポンジ状の固体金属チタン(以下、「スポンジチタン」と称する。)の製造原料のみならず、触媒或いは医薬の分野に幅広く利用されている。四塩化チタンは、炭素源であるコークスと、チタン鉱石に含まれる二酸化チタンと、塩素ガスとを高温にて反応させることにより製造されている。
【0003】
四塩化チタンの生成は、耐火物構造の塩化炉内にて、チタン鉱石とコークスを塩素ガスで流動化させて形成される流動層内で行われている。しかしながら、塩化炉を用いた四塩化チタンの製造では、流動不良により四塩化チタンの生成量が減少することがある。このような問題を解消するため、様々な方法が提案されている。
【0004】
特許文献1には、難反応性微細粒子を流動層内に送り込むことで高沸点塩化物を効率的に除去し、これにより流動不良トラブルを回避すると開示されている。なお、難反応性微細粒子は塩化炉内を上昇して四塩化チタンガスとともに塩化炉内から排出される(特許文献1の段落0033参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、流動層を備える塩化炉で二酸化チタンと、炭素と、塩素ガスとを反応させて四塩化チタンが生成される。この四塩化チタンの生成中、下記反応式(1)、(2)に基づき、流動層内で二酸化炭素及び一酸化炭素も生成されうる。
TiO2+2Cl2+C→TiCl4+CO2・・・反応式(1)
TiO2+2Cl2+2C→TiCl4+2CO・・・反応式(2)
【0007】
上記反応式(1)によると、四塩化チタンの生成において二酸化炭素が生成される場合、1molの四塩化チタンを生成するために、1molの炭素が必要である。一方、上記反応式(2)では、四塩化チタンの生成において一酸化炭素が生成される場合、1molの四塩化チタンを生成するために、2molの炭素が必要である。すなわち、上記反応式(1)及び(2)によれば、四塩化チタンを生成する場合、一酸化炭素よりも二酸化炭素が多く生成されている方が、炭素の消費量が少ない傾向にあると推察される。
【0008】
また、塩化炉内の環境の観点からは、該塩化炉内が高温下で操業されるために、Boudouard平衡に基づき一酸化炭素及び二酸化炭素の生成比率が支配されると考えられる。すなわち、Boudouard平衡に従って、下記反応式(3)において塩化炉内を高温、低圧条件とすることで二酸化炭素の生成より一酸化炭素の生成に偏ると考えられる。したがって、四塩化チタンの生成量に関係なく、炭素の消費量が必要以上に多くなると推察される。
C+CO2⇔2CO・・・反応式(3)
しかしながら、本発明者は塩化炉の操業実績を精査して、二酸化炭素と一酸化炭素の生成比率は必ずしもBoudouard平衡に従わない場合があることを見出した。よって、別途の観点に基づく炭素の消費量を低減した四塩化チタンの製造方法が求められていた。
【0009】
そこで、本発明は上記事情に鑑みて創作されたものであり、炭素の消費量を低減し、四塩化チタンを効率良く製造することが可能な四塩化チタンの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、流動層内の炭素と二酸化チタンとのモル比と、流動層中の炭素及び二酸化チタンの合計含有量と、をそれぞれ所定の範囲内に制御すれば、流動層で生成される単位時間あたりの二酸化炭素の生成比率が増大すること等により、炭素の消費量が低減されるという知見が得られた。
【0011】
すなわち、本発明は一側面において、塩化炉内で、炭素及び二酸化チタンを含有する原料に、塩素ガスを供給して流動層を形成し、四塩化チタンを生成する生成工程を含み、前記生成工程では、前記流動層中の、前記炭素(a)と前記二酸化チタン(b)とのモル比(a/b)が、2.0以上3.5以下であり、前記流動層中の前記炭素及び前記二酸化チタンの合計含有量が、65質量%以上85質量%以下である、四塩化チタンの製造方法である。
【0012】
本発明に係る四塩化チタンの製造方法の一実施形態においては、前記流動層が二酸化ケイ素を更に含む。
【0013】
本発明に係る四塩化チタンの製造方法の一実施形態においては、前記流動層中の炭素、二酸化チタン及び二酸化ケイ素の合計含有量が、98質量%以上である。
【0014】
本発明に係る四塩化チタンの製造方法の一実施形態においては、前記生成工程では、二酸化炭素及び一酸化炭素が生成され、前記二酸化炭素(c)と前記一酸化炭素(d)とのモル比(c/d)が2.0以上である。
【0015】
また、本発明は別の側面において、金属製還元反応容器に、上記いずれかの四塩化チタンの製造方法で得られた四塩化チタンと溶融マグネシウムとを投入しスポンジチタン塊を製造する還元工程を含む、スポンジチタンの製造方法である。
【発明の効果】
【0016】
本発明の一実施形態によれば、炭素の消費量を低減し、四塩化チタンを効率良く製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明に係る四塩化チタンの製造方法の一実施形態に用いられる塩化炉の内部構造を示す概略図である。
【
図2】本発明に係る四塩化チタンの製造方法の一実施形態に用いられる回収機構の内部構造を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明は各実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、各実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合わせにより、種々の発明を形成できる。例えば、実施形態に示される全構成要素からいくつかの構成要素を削除して発明を形成してもよい。更に、異なる実施形態の構成要素を適宜組み合わせて発明を形成してもよい。
【0019】
[1.四塩化チタンの製造方法]
本発明に係る四塩化チタンの製造方法の一実施形態においては、塩化炉を用いて四塩化チタンを生成する生成工程を含む。
以下、塩化炉の一例を説明した上で生成工程の好適な態様について説明する。
【0020】
(塩化炉)
図1に示す塩化炉100は、塩化炉本体110と、分散盤120と、ウインドボックス130と、塩素含有ガス配管150と、原料供給管160と、四塩化チタン回収管170と、試料回収管180とを備える。塩化炉本体110、分散盤120、ウインドボックス130、塩素含有ガス配管150、原料供給管160、四塩化チタン回収管170、試料回収管180の形状又は材質は公知のものを適宜採用可能である。なお、流動層140は、四塩化チタンの製造が開始されてから塩化炉本体110内で分散盤120上に形成される。流動層140は、操業時に形成される塩化炉100の構成である。
【0021】
(分散盤)
分散盤120は、塩素含有ガス配管150から供給された塩素含有ガスを分散させて流動層140へ流す。該分散盤120は、例えば底板122と、該底板122上に充填物で形成された断熱層124と、複数のガス流路125とを備えてよい。なお、上記塩素含有ガスは、塩化炉100の操業状態に鑑み塩素濃度を適宜決定すればよく、塩素以外に酸素、窒素等の他のガスが適宜含まれることがある。
【0022】
(底板)
底板122は、塩化炉本体110においてウインドボックス130の上方に位置し、塩素含有ガスが通過するように複数のガス流路125が形成されている。分散盤120にはノズル(不図示)が通常設けられ、このノズルの先端側から流動層140に塩素含有ガスが供給されてよい。
また、底板122の材質は、耐熱性という観点から、例えば、炭素鋼、ステンレス鋼、及びNiよりなる群から選択される1種以上であればよい。なお、底板122の厚さは適宜設計可能であるが、例えば40mm以上100mm以下である。炭素鋼は炭素含有量が2質量%以下の鋼であって、いわゆる極低炭素鋼、低炭素鋼、中炭素鋼、高炭素鋼等を含むものである。炭素鋼の具体例として、SS400等が挙げられる。ステンレス鋼は、耐熱性及び強度という観点から、クロム(Cr)、ニッケル(Ni)等が添加された鋼である。ステンレス鋼の具体例として、フェライト系ステンレス鋼、オーステナイト系ステンレス鋼、マルテンサイト系ステンレス鋼、二相ステンレス鋼等が挙げられる。
【0023】
(断熱層)
断熱層124は、通常、底板122の上面に形成される。断熱層124は、単層構造であってもよいし、多層構造であってもよい。断熱層124は、例えば、耐熱セラミックスの充填層としてよい。断熱層124の厚さは適宜設計可能であるが、例えば300mm以上600mm以下である。
【0024】
(ウインドボックス)
ウインドボックス130は、塩化炉本体110の下側に設けられる。該ウインドボックス130は、その上方の開口を閉塞するように分散盤120が配置されている。なお、ウインドボックス130の形状又はウインドボックス130を区画する周囲壁の材質は公知のものを適宜採用可能である。
【0025】
(流動層)
流動層140は塩化炉100の操業時に分散盤120上に形成される。該流動層140は、酸化チタンを含むチタン鉱石と、炭素源であるコークスと、塩素含有ガスとを含んで形成され、流動状態を維持している。高温条件下でチタン鉱石と、コークスと、塩素含有ガスとが接触して反応することで、四塩化チタンガスを生成する。
【0026】
(原料供給管)
原料供給管160は、流動層140にチタン源であるチタン鉱石及び炭素源であるコークスを供給するため、流動層140よりも高い位置で塩化炉本体110の側壁111に接続され、設けられている。
【0027】
(四塩化チタン回収管)
四塩化チタン回収管170は、塩化炉本体110内で生成された四塩化チタンガスを回収するために、塩化炉本体110の頂部近傍に設けられている。このとき、回収された四塩化チタンガスは四塩化チタン回収管170から四塩化チタン回収設備のコンデンサー(不図示)に送られ、該コンデンサーにおいて該四塩化チタンガスを冷却することで、液体四塩化チタンとして回収すればよい。
【0028】
(試料回収管)
試料回収管180は、流動層140を構成する混合物を回収するため流動層140の下部側の側壁111に接続され、設けられている。該混合物は例えば分析用試料として回収され、また該混合物は流動層140を構成する混合物の構成比率を調整するために回収される。例えば、試料回収管180は、バルブV1を介して回収機構200に接続されている(
図2参照)。回収機構200は、分析用試料を貯留する回収タンク210と、該回収タンク210の頂部に接続された排出ガス管220と、該回収タンク210の底部に接続された試料取り出し管230とを備える。回収機構200によれば、流動層140を形成する混合物が分析用試料として、試料回収管180から回収タンク210に送られる。回収タンク210の外面に設けられた温度調整部(例えば、水等の流体である媒体が流れる冷媒流路を備える)により該回収タンク210内の分析用試料が間接的に冷却され、冷却後の分析用試料を、バルブV2を開けて試料取り出し管230から取り出す。また、塩化炉100の操業が継続されるにつれ、流動層140内には通常、二酸化ケイ素等の、ガス化が困難な不純物が蓄積されていく。よって、回収機構200を利用して流動層の一部、すなわち混合物を抜出して流動層中の不純物含有量を低減できる。
【0029】
<生成工程>
生成工程は、塩化炉100の分散盤120上で、炭素及び二酸化チタンを含有する原料に、塩素ガスを供給して流動層140を形成し、四塩化チタンを生成する。ここで、当該生成工程では、流動層140中の、炭素(a)と二酸化チタン(b)とのモル比(a/b)が、2.0以上3.5以下であり、流動層140中の炭素及び二酸化チタンの合計含有量が、65質量%以上85質量%以下である。これにより、流動層140での単位時間あたりの二酸化炭素の生成量が増える。その結果、比較的少ない炭素消費量で、四塩化チタンを効率良く製造することができる。
したがって、本発明において、炭素(a)と二酸化チタン(b)とのモル比(a/b)と、流動層140中の炭素及び二酸化チタンの合計含有量とが、それぞれ上記範囲内であることが肝要である。
【0030】
一実施形態においては、生成工程(塩化炉100の操業)の開始時に、流動層140中の炭素(a)と二酸化チタン(b)とのモル比(a/b)と、流動層140中の炭素及び二酸化チタンの合計含有量とがそれぞれ上記の範囲内であることが好ましく、生成工程(塩化炉100の操業)の開始時から終了時まで上記の範囲内であることがより好ましい。本発明者は従前の塩化炉の操業記録等を精査したところ、塩化炉100の操業開始時期において単位時間あたりに生成される一酸化炭素の濃度が高くなりやすいという傾向を見出した。このような傾向になる理由としては、次のように考えられる。塩化炉100の操業を継続するとチタン鉱石由来の不純物、特に非反応性物質である二酸化ケイ素が流動層140内に蓄積していく。二酸化チタン及びコークスの間に二酸化ケイ素が介在するので、二酸化チタン及びコークスの焼結が抑制され、二酸化チタンと炭素と塩素との反応が促進したと推測される。このため、操業当初から流動層140に、原料以外の物質(二酸化ケイ素等)がある程度含まれることが好適であるといえる。これに反して、流動層中に滞留できる不純物含有量が不足すると二酸化チタンやコークスの焼結が促進され、一酸化炭素が生成されやすくなると考えられた。また、流動層内の原料の含有量バランスが崩れると、むしろ炭素の使用効率が悪化すると思われた。上述したところから、炭素(a)と二酸化チタン(b)とのモル比(a/b)と、流動層140中の炭素及び二酸化チタンの合計含有量とがそれぞれ上記の範囲内であることが好ましい時期は、操業当初から炭素を有効に利用して四塩化チタンを効率的に生成する観点から、少なくとも生成工程の開始時である。
【0031】
(炭素と二酸化チタンとのモル比)
上記流動層中の、炭素(a)と二酸化チタン(b)とのモル比(a/b)が、2.0以上3.5以下である。
上記モル比が、上記した原料の焼結を抑制しつつ、流動層140の流動性を良好に維持して四塩化チタンを適切に製造する観点から、下限側として好ましくは2.2以上、より好ましくは2.5以上である。また、上記モル比が、流動層140の流動性を良好に維持する観点から、上限側として好ましくは3.3以下、より好ましくは3.0以下である。
【0032】
(炭素及び二酸化チタンの合計含有量)
また、上記流動層140中の炭素及び二酸化チタンの合計含有量が、65質量%以上85質量%以下である。
四塩化チタンの生成中に所定量供給される塩素ガスが未反応で排出されることをより確実に抑制するため、上記合計含有量は、下限側として好ましくは70質量%以上、より好ましくは75質量%以上である。また、二酸化炭素の発生量を増やすため、上記合計含有量は、上限側として85質量%以下、好ましくは83%以下である。
【0033】
(炭素、二酸化チタン及び二酸化ケイ素の合計含有量)
流動層140は二酸化ケイ素(例えば、微粒子状)を更に含むことが好ましい。四塩化チタンを製造する塩化炉内の条件下では二酸化ケイ素は反応しにくい安定した物質であり、かつ、二酸化ケイ素は微粒子形状であるチタン鉱石に含まれる不純物である。よって、流動層内の二酸化ケイ素は通常微粒子状である。塩化炉100の操業を一定期間実施したとき、それに伴って、流動層140内でチタン鉱石由来の不純物の二酸化ケイ素が増加するほど、単位時間あたりに生成される二酸化炭素の濃度が高くなる(よって、相対的に一酸化炭素濃度が低くなる)傾向を本発明者は知見するに至った。このことから、流動層140が二酸化ケイ素を含むと、二酸化炭素の生成量が増大し、炭素が有効に利用されると考えられる。これは、流動層中の二酸化ケイ素によって、高温でも二酸化チタンを含むチタン鉱石の良好な流動を維持できるためと推測される。
流動層140が二酸化ケイ素を含む場合、上記流動層140中の炭素、二酸化チタン及び二酸化ケイ素の合計含有量は、好ましくは98質量%以上である。塩化炉100の流動層140内には、少量ではあるが、二酸化ケイ素以外の不純物、例えばカルシウム含有不純物やジルコニウム含有不純物が滞留することがある。すなわち、流動層内には、炭素、二酸化チタン、および二酸化ケイ素の他にも、チタン鉱石由来の不純物が滞留しうる。よって、炭素、二酸化チタン及び二酸化ケイ素の合計含有量は上記の範囲が好ましいと考えられる。好ましくは生成工程(塩化炉100の操業)の開始時、より好ましくは生成工程(塩化炉100の操業)の開始時から終了時までの間に、流動層140中の炭素、二酸化チタン及び二酸化ケイ素の合計含有量が上記の範囲内である。
【0034】
流動層140中の炭素及び二酸化チタンの合計含有量と、該流動層140中の炭素、二酸化チタン及び二酸化ケイ素の合計含有量とをそれぞれ上記範囲内に維持するため、流動層140の下部側の側壁111に試料回収管180を接続し、該試料回収管180から流動層140を構成する混合物を間欠的に抜き出してもよい。
流動層140内では、四塩化チタンの操業が進むにつれチタン鉱石由来の二酸化ケイ素が増えていく。そこで、流動層140の下部から流動層140を形成する混合物、すなわち二酸化ケイ素を含めた滞留した不純物を含む混合物を抜き出し、該不純物含有量を減らし、原料供給管160から炭素(コークス)とチタン鉱石を所望の比率にて流動層140に供給する。そうすることで、流動層140内の炭素、二酸化チタン、二酸化ケイ素の各含有量を制御(好適範囲内に維持)することができる。なお、流動層140内の成分を制御する方法としては、例えば取り出した混合物の成分分析を行い、その結果に基づき、チタン鉱石やコークスの供給量や流動層140内の炭素、二酸化チタン、二酸化ケイ素の各含有量等を制御することが挙げられる。
【0035】
(炭素)
炭素としては、石炭コークス及び石油コークス等のコークスを用いる。原料として用いる際、コークスを粉砕等により所望の粒径に調整してもよい。
【0036】
(二酸化チタン)
二酸化チタンとしては、ルチル鉱石、チタン鉄鉱、鋭錐鉱、及び板チタン石等のチタン鉱石を用いる。なお、不純物含有量が多いいわゆる低品位チタン鉱石をアップグレード処理したものをチタン鉱石として使用することも可能である。なお、チタン鉱石は原料の処理性の観点からチタン源として有利であり、当該チタン鉱石中の二酸化チタンの含有量が、例えば80質量%以上、また例えば90質量%以上であれば、当該チタン鉱石を用いても効率良く四塩化チタンを生成可能である。
【0037】
(温度及び内部圧力)
流動層140の温度は、適宜調整可能であり、例えば900℃以上1200℃以下とすることができる。また、塩化炉本体110の内部圧力は適宜調整可能であり、該塩化炉本体110の内部圧力が通常、分散盤120下のウインドボックス130の内部圧力と連動するので、例えば該ウインドボックス130の内部圧力をその耐圧上限以下とし、具体的には0.2MPa以下の正圧に制御すればよい。これらにより、効率良く四塩化チタンを製造することができる。
【0038】
流動層140では、四塩化チタンの他、二酸化炭素と一酸化炭素とが生成される。二酸化炭素と一酸化炭素は、四塩化チタンと共に、塩化炉100の頂部の四塩化チタン回収管170から排出される。その後、先述したように、四塩化チタンが液化回収されるが、ガス状の二酸化炭素と一酸化炭素は公知の化学的手段により回収可能である。この回収された二酸化炭素と一酸化炭素との比率を確認すれば、流動層140において少ない炭素量で効率良く四塩化チタンを生成しているかを判断することができる。そこで、一実施形態において、二酸化炭素(c)と一酸化炭素(d)とのモル比(c/d)が好ましくは2.0以上、より好ましくは2.5以上である。
なお、二酸化炭素と一酸化炭素との成分分析の一例を示す。
回収された二酸化炭素と一酸化炭素の比率を、赤外線分光分析法にて測定する。例えば、ガス濃度測定装置(CGT-7100、島津製作所社製)により測定する。
【0039】
回収機構200により、定期的に流動層140を形成する混合物を分析用試料として回収して成分分析し、流動層140内が前述した所定の範囲に該当するかを確認することで、四塩化チタンが効率良く生成されているかを判断することができる。
なお、分析用試料の成分(炭素、二酸化チタン、二酸化ケイ素)分析の一例を示す。
炭素は、燃焼-赤外線吸収法にて測定する。例えば、炭素硫黄分析装置(CS580、ELTRA社製)により測定する。二酸化チタン及び二酸化ケイ素は、蛍光X線分析法にて測定する。例えば、蛍光X線分析装置(Simultix14、リガク社製)により測定する。
【0040】
(用途)
得られた四塩化チタンは公知の方法で精製した後、スポンジチタン製造用の原料や低分子及び高分子化合物製造用の触媒等に使用するものとして特に有用である。
【0041】
[2.スポンジチタンの製造方法]
本発明に係るスポンジチタンの製造方法の一実施形態は、金属製還元反応容器に、先述した四塩化チタンの製造方法で製造された四塩化チタンと、溶融マグネシウムとを投入しスポンジチタン塊を製造する還元工程を含む。通常は、金属製還元反応容器内に溶融マグネシウムを貯留し、四塩化チタンを滴下してスポンジチタン塊を成長させる。また、一実施形態において、還元工程後、公知の手段として真空分離工程と、仕分け・破砕工程とを含んでもよい。
なお、スポンジチタンの製造における金属製還元反応容器等の各構成は、公知のものを使用すればよい。
【実施例】
【0042】
本発明を実施例及び比較例に基づいて具体的に説明する。以下の実施例及び比較例の記載は、あくまで本発明の技術的内容の理解を容易とするための具体例であり、本発明の技術的範囲はこれらの具体例によって制限されるものではない。
【0043】
[実施例1]
図1に示す構成を備える塩化炉100を使用し、塩化炉100の試料回収管180に
図2に示す構成を備える回収機構200を接続した。また、塩化炉100の四塩化チタン回収管170に公知の回収設備を接続した。
次に、二酸化チタン、炭素、二酸化ケイ素が表1に示す割合になるように、チタン鉱石とコークスを原料供給管160から分散盤120上に供給し、二酸化ケイ素を更に供給した。
なお、チタン鉱石中の成分を上記方法で測定した結果、該チタン鉱石中の二酸化チタンは95質量%であり、二酸化ケイ素は1.0質量%であった。
【0044】
(生成工程)
塩化炉100の操業を開始し、塩素ガスを一定量で供給しつつ、塩化炉100内の平均温度1050℃で四塩化チタンの製造を継続した。このとき、原料供給管160から、チタン鉱石及びコークスを連続的に供給していた。なお、ウインドボックス130の内部圧力を0.2MPa以下の正圧に制御することで、塩化炉本体110の内部圧力を調整した。
操業開始時から1ヶ月間、定期的に流動層140の混合物を分析用として試料回収管180から回収タンク210に送り、該回収タンク210で冷却した後、分析用試料を試料取り出し管230から取り出した。取り出した分析用試料を先述した方法で成分分析し、該分析用試料中の、炭素、二酸化チタン、二酸化ケイ素の割合を算出した。その結果、操業開始時から1ヶ月間、炭素(a)と二酸化チタン(b)とのモル比(a/b)は同等に維持できた。また、分析用試料中の炭素及び二酸化チタンの合計含有量は、69質量%~80質量%の範囲内であった。また、操業開始時から1ヶ月間、分析用試料中の炭素、二酸化チタン及び二酸化ケイ素の合計含有量は、98質量%以上に維持できた。なお、操業開始時から1ヶ月経過時の分析用試料中の、炭素と二酸化チタンとのモル比と、操業開始時から1ヶ月経過時の分析用試料中の炭素及び二酸化チタンの合計含有量と、該分析用試料中の炭素、二酸化チタン及び二酸化ケイ素の合計含有量とを表1にそれぞれ示す。
【0045】
(二酸化炭素/一酸化炭素(モル比))
操業開始時から1ヶ月間、定期的に塩化炉100から二酸化炭素、一酸化炭素を回収し、先述した方法で、単位時間あたりの二酸化炭素の排出量と一酸化炭素の排出量とをそれぞれ測定した。測定結果を利用して二酸化炭素(c)と一酸化炭素(d)とのモル比(c/d)を算出した。その結果、操業開始時から1ヶ月間、上記モル比は、2.0~2.4の範囲内であった。なお、操業開始時から1ヶ月経過時の上記モル比を表2に示す。
【0046】
[実施例2及び比較例1~3]
実施例2及び比較例1~3では、塩化炉100の操業開始時に、二酸化チタン、炭素、二酸化ケイ素を表1に示す割合にしたこと以外、実施例1と同様に、原料供給管160から、チタン鉱石及びコークスを連続的に供給しつつ、操業開始時から1ヶ月間実施した。また、実施例1と同様、操業開始時から1ヶ月間、定期的に流動層140の混合物を分析用試料として取り出し、該分析用試料を成分分析した。その結果、実施例2では操業開始時から1ヶ月間、炭素(a)と二酸化チタン(b)とのモル比(a/b)は同等に維持できた。また、実施例2では、分析用試料中の炭素及び二酸化チタンの合計含有量は、79質量%~83質量%の範囲内であった。また、実施例2では、操業開始時から1ヶ月間、分析用試料中の炭素、二酸化チタン及び二酸化ケイ素の合計含有量は、98質量%以上に維持できた。一方、上記モル比(a/b)は、比較例1が3.7~5.1の範囲内、比較例2が3.6~4.1の範囲内、比較例3が1.5~1.7の範囲内であった。また、分析用試料中の炭素及び二酸化チタンの合計含有量は、比較例1が87質量%~100質量%の範囲内、比較例2が80質量%~83質量%の範囲内、比較例3が80質量%~83質量%の範囲内であった。なお、操業開始時から1ヶ月経過時の分析用試料中の、炭素と二酸化チタンとのモル比と、操業開始時から1ヶ月経過時の分析用試料中の炭素及び二酸化チタンの合計含有量と、該分析用試料中の炭素、二酸化チタン及び二酸化ケイ素の合計含有量とを表1にそれぞれ示す。
さらに、実施例1と同様、操業開始時から1ヶ月間、定期的に単位時間あたりの二酸化炭素の排出量と一酸化炭素の排出量とをそれぞれ測定した。二酸化炭素(c)と一酸化炭素(d)とのモル比(c/d)を算出した。その結果、操業開始時から1ヶ月間、上記モル比は、実施例2が2.5~3.5の範囲内、比較例1が0.9~1.8の範囲内、比較例2が0.7~1.6の範囲内、比較例3が1.3~1.8の範囲内であった。なお、操業開始時から1ヶ月経過時の上記モル比を表2に示す。
【0047】
【0048】
【0049】
(実施例による考察)
実施例1~2では、二酸化炭素(c)と一酸化炭素(d)とのモル比(c/d)が2.0以上であった。すなわち、実施例1~2では、比較例1~3と比べ、流動層で生成される単位時間あたりの二酸化炭素の生成比率が増大したことで、炭素の消費量が低減されると推察される。したがって、実施例1~2では、流動層中の、炭素(a)と二酸化チタン(b)とのモル比(a/b)を2.0以上3.5以下、該流動層中の炭素及び二酸化チタンの合計含有量を65質量%以上85質量%以下に制御することが有用であることを確認した。
一方、比較例1は、上記技術変数のいずれも充足していなかったので、二酸化炭素(c)と一酸化炭素(d)とのモル比(c/d)が2.0未満であった。また、比較例2~3は、上記技術変数のうち、流動層中の、炭素(a)と二酸化チタン(b)とのモル比(a/b)が充足していなかったので、二酸化炭素(c)と一酸化炭素(d)とのモル比(c/d)が2.0未満であった。これらの理由としては、塩化炉の操業中、流動層の流動性を良好に維持することができなかったこと等が挙げられる。
【符号の説明】
【0050】
100 塩化炉
110 塩化炉本体
111 側壁
120 分散盤
122 底板
124 断熱層
125 ガス流路
130 ウインドボックス
140 流動層
150 塩素含有ガス配管
160 原料供給管
170 四塩化チタン回収管
180 試料回収管
200 回収機構
210 回収タンク
220 排出ガス管
230 試料取り出し管
V1、V2 バルブ